説明

音響による構造物監視装置

【課題】本発明は、建造物においてマイクロホンにより採取された音響を周波数解析することにより、音響による建造物の監視を的確に行えるようにした装置を提供することを課題とする。
【解決手段】建物1の扉2a付き出入り口2における侵入や、その内部における異常事態に伴い発生する音響がマイクロホン3で採取されて、その音響から出入り口2や内部における定常的な雑音を除去することにより時間tの関数である目的音響信号x(t)のパワースペクトル|X(ω)|2を得て、その時間変動状況を検証するための演算手段5が設けられ、上記目的音響信号x(t)のパワースペクトル|X(ω)|2を過去に採取されたものと比較して、同目的音響信号が新規且つ未知である場合に警報が発信される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶や陸上のビルのごとき建造物における監視装置に関し、特に未知音や異常音が発生した際に警報を発信できるようにした音響解析による建造物監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建造物の内部や出入り口付近の監視および警備のためには、防犯監視ビデオカメラが設けられていて、その映像を監視する監視員の判断により不審者を見分けることが行われているが、多数の場所や出入り口、開口部にそれぞれ防犯監視ビデオカメラを設置すると大幅なコスト上昇を招くという不具合がある。
そこで、音響センサを用いて異常音を検出感知することにより、防犯対策をたてられるようしたものも開発されているが、異常音の判断を根拠をもって的確に行うことは難しいとされている。
【特許文献1】特開2005−217678号公報
【特許文献2】特開2002−373386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、建造物の内部または外部においてマイクロホンにより観測された音響情報を実時間で適切に分析することにより、音響による建造物の内外の状況監視を的確に行えるようにした装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前述の課題を解決するため、本発明の音響による建造物監視装置は、建造物において観測される環境音を常時採取するとともに、不法な侵入者や異常事象の発生に伴い生ずる音響を採取すべく、建造物にマイクロホンが設けられるとともに、同マイクロホンを介して採取された上記音響から上記環境音を雑音として除去することにより時間tの関数としての目的音響信号x(t)のパワースペクトル|X(ω)|2を得るための演算手段が設けられており、上記環境音が定常であり上記目的音響信号x(t)とは独立した関係にあるとして、上記目的音響信号x(t)のパワースペクトル|X(ω)|2を[数1]式および[数2]式により求め、[数3]式により類似性を求めるように上記演算手段が構成され、上記目的音響信号x(t)のパワースペクトル|X(ω)|2を過去に採取された音響信号のパワースペクトルと相関演算して、相関値が低く且つ既知の音響信号とも相関がない、すなわち上記音響が未知の異常音であると判定された場合に警報を発信する警報手段が設けられている。
【数1】

ここで、Y(ω):観測信号のスペクトル
y(t):観測信号
-jωt:複素指数関数
【数2】

ここで、|X(ω)|2:目的信号x(t)のパワースペクトル
|Y(ω)|2:観測信号のパワースペクトル
|N(ω)|2:雑音のパワースペクトル
α:サブトラクション係数(1≦α)
【数3】

【発明の効果】
【0005】
上述の本発明の音響による建造物監視装置によれば、建造物に設けられたマイクロホンを介し、同建造物における定常的な雑音である環境音が採取されるほか、通常発生するものでない音響が採取され、同音響から上記雑音を除去することにより時間tの関数である目的音響信号x(t)のパワースペクトルを求める演算手段が設けられているので、同目的音響信号x(t)のパワースペクトルを過去の信号や既知の信号と比較することにより異常音か否かの判定が容易に行われ、このようにして上記目的音響信号が未知の異常音と判定された場合には警報手段により警報が発信されて、その対策が迅速に講じられるようになる。
【実施例】
【0006】
本実施例の音響による建造物監視装置は、図1に示す建造物としての陸上の建物1の要部1Aや、図2に示す建造物としての海上の船舶Sの要部1B、1Cに装備されるものである。
図1および図2に示すように、扉2a付き出入り口2を有する建造物としての建物1や船舶Sにおいて、同建造物の要部1A,1B,1Cで観測される雑音を常時採取するとともに、出入り口2などへの侵入や船舶Sの船倉内での荷崩れなどに伴い発生する音響を採取できるように、上記建造物の内部または外部にはマイクロホン3が装備されている。
【0007】
そして、図3に示すように、マイクロホン3を介し採取された音響から常時採取された雑音を除去することにより時間tの関数である目的音響信号x(t)のパワースペクトルが得られるように、音響処理装置4を含む演算手段5が設けられている。
すなわち、演算手段5は、上記雑音が定常であり、目的音響信号x(t)とは独立した関係にあるとして、非類似性を[数1]式,[数2]式および[数3]式により求めるように構成されている。
【数1】

ここで、Y(ω):観測信号のスペクトル
y(t):観測信号
-jωt:複素指数関数
【数2】

ここで、|X(ω)|2:目的信号x(t)のパワースペクトル
|Y(ω)|2:観測信号のパワースペクトル
|N(ω)|2:雑音のパワースペクトル
α:サブトラクション係数(1≦α)
【数3】

【0008】
また、演算手段5には、図3に示すように、目的音響信号x(t)のパワースペクトル|X(ω)|2を音響サンプルのスペクトルのデータベース5aが持つ過去の採取済み音響サンプルのスペクトルと比較するための比較手段5bが設けられ、目的音響信号x(t)のパワースペクトル|X(ω)|2が過去の採取済み音響サンプルのスペクトルと比較して異なる音響特性を具えた未知のものである場合に、警報を発信するための警報手段5cが付設されている。
【0009】
上述の本実施例の音響による建造物監視装置によれば、建造物の内部または外部に設けられたマイクロホン3を介し、常時出入り口2の近傍や建造物の要部1A(1B、1C)において目的音に対し雑音となる環境音が採取されるほか、出入り口2や建造物要部1A(1B、1C)において発生する目的音である音響が採取され、同音響から同出入り口2や建造物要部1A(1B、1C)における雑音を除去することにより時間tの関数である目的音響信号x(t)のパワースペクトル|X(ω)|2を求める演算手段5が設けられているので、同目的音響信号のパワースペクトルを過去に採取された既知の音響サンプルのスペクトルと比較手段5bにおいて比較することにより異常音か否かの判定が容易に行われ、このようにして上記目的音響信号が未知の異常音と判定された場合には警報手段5cにより警報が発信されて、その対策が迅速に講じられるようになる。
【0010】
上述の本実施例の音響による建造物監視装置の概要について整理すると、次の通りである。
(1)動作環境は、コンピュータ装置1台とマイクロホン1本とから構成される。
(2)コンピュータ装置に搭載されたプログラムは一定の時間間隔で連続動作を続ける。 その動作は、マイクロホンによる音の観測および音響解析ならびに警報の発信である。
(3)解析は、第一にスペクトル解析の実施による観測音が持つ周波数特性の把握、第二 に前の時間間隔において観測された音のスペクトルや既知の音(スペクトル)サンプル との相関計算として行われる。
(4)異常発生の判断は、相関値の変動の大きさや未知の音であるか否かによって周囲の 状況変化を認知することにより行われる。
(5)本装置の特徴とする動作は、異常の認知による通報(メールの自動発信)やコンピ ュータの外部出力(RS232Cポートなど)へのコード出力の実行として行われる。
【0011】
本実施例の音響による建造物監視装置の特徴は、周囲音の変化を音の大小ではなく、周波数の特異的変化によって判断する点、その音が既知の音でなく未知の音であることを認知することによって判断する点にある。すなわち、このシステムでは、監視する範囲において侵入や異常が発生した場合に、大きな音が発生することによってシステムが反応するのではなく、音の質が変化したことの判断、未知の音であることの判断によって上記の侵入や異常の発生の認知が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例としての音響による建造物監視装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明の装置を用いる他の例を示す斜視図である。
【図3】本発明の装置における作用の流れを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0013】
1 建物
1A,1B、1C 建造物要部
2 出入り口
2a 扉
3マイクロホン
4 音響処理装置
5 演算手段
5a データベース
5b 比較手段
5c 警報手段
S 船舶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物において感知される音響を異音発生検知のために観測して即時解析すべく、上記構造物にマイクロホンが設けられるとともに、同マイクロホンを介して観測された上記音響から上記構造物における定常的雑音を除去することにより時間tの関数としての目的音響信号xn(t)を分析するための演算手段が設けられており、上記雑音が連続したひとつの時間間隔において定常であり上記目的音響信号xn(t)とは無関係であるとして、同目的音響信号xn(t)のパワースペクトル|X(ω)|2を[数1]式および[数2]式により求め、連続した所要の時間間隔で観測される次の目的音響信号xn+1(t)のパワースペクトルおよび既知音のパワースペクトルとの相関係数を[数3]式により求めるように上記演算手段が構成されていて、上記相関関数が低い場合に異音発生の警報を発信する警報手段が設けられていることを特徴とする、音響による構造物監視装置。
【数1】

ここで、Y(ω):観測信号のスペクトル
y(t):観測信号
-jωt:複素指数関数
【数2】

ここで、|X(ω)|2:目的信号x(t)のパワースペクトル
|Y(ω)|2:観測信号のパワースペクトル
|N(ω)|2:雑音のパワースペクトル
α:サブトラクション係数(1≦α)
【数3】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−282172(P2008−282172A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124957(P2007−124957)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】