説明

音響トランスデューサ、および該音響トランスデューサを利用したマイクロフォン

【課題】音波を複数の電気信号に変換できると共に、音響特性のバラツキを抑えることのできる音響トランスデューサを提供する。
【解決手段】音響センサ11は、半導体基板21の上面に振動膜22および固定膜23が形成され、振動膜22における振動電極220と固定膜23における固定電極230との間の静電容量の変化により、音波を電気信号に変換し出力するものである。音響センサ11は、振動電極220および固定電極230の少なくとも一方が分割されており、分割された複数の電極から複数の電気信号をそれぞれ出力している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音波を電気信号に変換する音響トランスデューサ(acoustic transducer)、該音響トランスデューサを利用したマイクロフォンとに関するものである。特に、本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いて制作される微小サイズの音響トランスデューサなどに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機などに搭載される小型のマイクロフォンとしてECM(Electret Condenser Microphone)が広く使用されていた。しかしながら、ECMは熱に弱く、また、デジタル化への対応、小型化、高機能・多機能化、省電力といった点で、MEMSマイクロフォンの方が優れていることから、現在では、MEMSマイクロフォンが普及しつつある。
【0003】
MEMSマイクロフォンは、音波を検出して電気信号(検出信号)に変換するコンデンサ型の音響センサ(音響トランスデューサ)と、該音響センサに電圧を印加する駆動回路と、上記音響センサからの検出信号に対し、増幅などの信号処理を行って外部に出力する信号処理回路とを備えている。上記音響センサは、MEMS技術を利用して製造される。また、上記駆動回路および上記信号処理回路は、半導体製造技術を利用して、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)として一体に製造される。
【0004】
近時、マイクロフォンは、大きな音を高品質で検出して出力することが求められている。一般に、最大入力音圧(ダイナミックレンジ)は、高調波ひずみ率(Total Harmonic Distortion、以下「THD」と称する。)によって制限される。これは、大きな音をマイクロフォンで検出しようとすると、出力信号に高調波ひずみが発生し、音質を損ねてしまうからである。よって、THDを小さくすることができれば、最大入力音圧を大きくすることができる。
【0005】
しかしながら、一般的なマイクロフォンは、音波の検出感度とTHDとがトレードオフの関係にある。このため、高感度のマイクロフォンはTHDが大きくなり最大入力音圧が小さくなってしまう。これは、高感度のマイクロフォンは出力信号が大きくなりTHDが発生し易いからである。一方、低感度のマイクロフォンはTHDが小さくなり最大入力音圧が大きくなる。しかしながら、低感度のマイクロフォンは、小さな音を高品質で検出することが困難である。
【0006】
このような問題点に対し、検出感度の異なる複数の音響センサを利用したマイクロフォンが検討されている(例えば、特許文献1〜4を参照)。
【0007】
特許文献1・2には、複数の音響センサを設け、該複数の音響センサからの複数の信号を、音圧に応じて切り替える、或いは融合させるマイクロフォンが開示されている。特に、特許文献1には、検出可能な音圧レベル(SPL)が20dB〜110dBである高感度の音響センサと、検出可能な音圧レベルが50dB〜140dBである低感度の音響センサとを切り替えて利用することにより、検出可能な音圧レベルが20dB〜140dBであるマイクロフォンが開示されている。また、特許文献3・4には、1つのチップに、独立した複数の音響センサを形成した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0316916号明細書(2009年12月24日公開)
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0183167号明細書(2010年07月22日公開)
【特許文献3】特開2008−245267号公報(2008年10月09日公開)
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0047746号明細書(2007年03月01日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3・4に記載の上記構成の場合、各音響センサは、それぞれ独立して形成されるため、音響特性にバラツキおよびミスマッチングが発生することになる。ここで、音響特性のバラツキとは、チップ間における音響センサどうしの音響特性のズレをいう。また、音響特性のミスマッチングとは、同一チップ内における複数の音響センサどうしの音響特性のズレをいう。
【0010】
具体的には、各音響センサは、形成される薄膜の反りのバラツキなどのため、検出感度に関するチップ間のバラツキが独立して発生する。その結果、音響センサ間の検出感度の差に関するチップ間のバラツキが大きくなる。また、各音響センサは、バックチャンバおよびベントホールが個別に形成されることになるので、該バックチャンバおよびベントホールによって影響を受ける周波数特性、位相などの音響特性にチップ内のミスマッチングが発生することになる。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、音波を複数の電気信号に変換できると共に、音響特性に関するチップ間のバラツキおよびチップ内のミスマッチングを抑えることのできる音響トランスデューサなどを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る音響トランスデューサは、基板の上面に振動膜および固定膜が形成され、該振動膜における振動電極と上記固定膜における固定電極との間の静電容量の変化により、音波を検出して電気信号に変換し出力する音響トランスデューサにおいて、上記課題を解決するために、上記振動電極および上記固定電極の少なくとも一方が分割されており、分割された複数の電極から複数の上記電気信号をそれぞれ出力することを特徴としている。
【0013】
上記の構成によると、振動電極および固定電極の少なくとも一方が分割されることにより、上記振動電極および上記固定電極の間に複数の可変コンデンサが形成されることになる。従って、分割された複数の電極から複数の電気信号をそれぞれ出力することにより、音波を複数の電気信号に変換できる音響トランスデューサを実現することができる。
【0014】
また、上記複数の可変コンデンサは、同じ振動膜および固定膜内に形成されることになる。従って、複数の振動膜および固定膜を独立して形成する従来技術に比べて、各可変コンデンサは、検出感度に関するチップ間のバラツキが類似することになり、その結果、上記可変コンデンサ間の検出感度の差に関するチップ間のバラツキを抑えることができる。また、各可変コンデンサは、上記振動膜および上記固定膜を共用しており、その結果、周波数特性、位相などの音響特性に関するチップ内のミスマッチングを抑えることができる。
【0015】
なお、各可変コンデンサは、検出可能な音圧レベルが異なることが好ましい。これにより、上記複数の可変コンデンサを含む音響センサは、1つの可変コンデンサのみを含む従来の音響センサに比べて、検出可能な音圧レベルを拡大することができる。
【0016】
各可変コンデンサの検出可能な音圧レベルが異なるようにするには、例えば、上記分割された複数の電極の少なくとも2つは、上記音波を検出する感度が異なるようにすればよい。
【0017】
或いは、上記分割された複数の電極の少なくとも2つは、面積が異なるようにすればよい。さらに、上記面積が異なる電極のうち、広い方の電極に対応する上記振動膜の領域は、狭い方の電極に対応する上記振動膜の領域よりも、上記音波による振動の振幅の平均値が大きくなるようにすればよい。この場合、検出可能な音圧レベルをさらに相違させることができ、検出可能な音圧レベルをさらに拡大させることができる。
【0018】
また、上記分割された電極の数が増えると、該電極からの信号を伝達するための配線、該信号を処理するための電気回路などを増やす必要があり、音響トランスデューサおよびマイクロフォンのサイズが増大することになる。従って、上記分割された複数の電極は、少数に分割された少数の電極、例えば2つに分割された2つの電極であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る音響トランスデューサでは、上記振動電極および上記固定電極の間隔は一定であることが好ましい。この場合、各可変コンデンサは、上記振動電極および上記固定電極の間隔が共通であるので、上記音響特性に関するチップ内のミスマッチングをさらに抑えることができる。また、上記音響トランスデューサの製造工程における上記振動電極および上記固定電極の形成を簡素化することができる。
【0020】
本発明に係る音響トランスデューサでは、上記振動電極および上記固定電極は、一方が分割されていることが好ましい。この場合、両方が分割されている場合に比べて、外部の回路との接続数が少なくなるので、生産性が向上する。また、外部との接続端子の数が少なくなるので、該接続端子に起因する寄生容量を小さくして特性を向上させることができる。また、外部のチャージポンプから印加される電圧が1つで済むので、該チャージポンプを含む外部の回路のサイズを小さくできたり、製作コストを下げたり、外部のチャージポンプの作成のバラツキによる検出感度の差のバラツキを抑えたりすることができる。
【0021】
なお、上記振動電極および上記固定電極の両方が分割されていても、上記振動電極および上記固定電極の一方における分割された電極が電気的に短絡していれば、上述と同様の効果を奏する。
【0022】
本発明に係る音響トランスデューサでは、上記振動電極および上記固定電極のそれぞれは、均一の厚さであることが好ましい。この場合、製作のバラツキによる上記各可変コンデンサの検出感度に関するチップ間のバラツキをさらに類似させることができ、上記可変コンデンサ間の検出感度の差に関するチップ間のバラツキをさらに抑えることができる。
【0023】
本発明に係る音響トランスデューサでは、上記振動膜は、基部が矩形であってもよい。一般にチップは矩形であるので、上記の構成の場合、チップ上の領域を有効に利用することができる。また、基部が円形である振動膜に比べて、振動膜と基板との固定部分を種々に変更できるので、検出感度を種々に変更することができる。また、基部が円形である振動膜に比べて、音波が到達した時の振動膜の変形が平行平板状に近く、音圧に対する容量変化の線形性が良好となる。
【0024】
本発明に係る音響トランスデューサでは、上記振動膜は、基部が円形であってもよい。この場合、基部が矩形である振動膜に比べて、振動膜に発生する応力集中を軽減できるので、外部応力および内部応力に対する耐久性が高くなる。
【0025】
本発明に係る音響トランスデューサでは、上記振動膜は、上記基部から外側に延在した延在部を備えており、該延在部にて上記基板または上記固定膜に固定されることが好ましい。この場合、振動膜の変位量を大きくすることができる。
【0026】
本発明に係る音響トランスデューサでは、上記振動膜は、分割された振動電極の境界領域、或いは、分割された固定電極の境界領域に対向する領域にスリットが形成されてもよい。上記スリットにより、上記複数の可変コンデンサについて、上記振動膜の変位量の差が大きくなるので、検出感度の差を大きくすることができる。また、上記スリットを介して空気が出入りするので、上記振動膜の振動による気圧の変動を抑えることができ、該気圧の変動による特性の変動を抑えることができる。
【0027】
なお、上記スリットの幅は10μm以下であることが好ましい。この場合、低周波特性の著しい悪化を抑えることができる。
【0028】
本発明に係る音響トランスデューサでは、上記振動膜および上記基板の間には空隙が存在することが好ましい。この場合、上記空隙が存在しない構成に比べて、振動膜の変位を大きくすることができ、検出感度を向上することができる。また、上記基板が外力などで歪んでも、上記振動膜が歪み難いので、音響特性が変動し難い。また、外気圧の変動による影響を緩和することができる。
【0029】
本発明に係る音響トランスデューサでは、上記振動膜に関して、上記分割された複数の電極に対応する複数の領域の少なくとも2つは、上記基板または上記固定膜に固定される固定部分の当該領域に対する面積比が異なっていてもよい。
【0030】
一般に、振動膜における音圧に対する変位は、上記固定部分の形状によって変化する。例えば、上記固定部分が多いほど、上記音圧に対する変位が小さくなり、検出感度が小さくなる。従って、上記の構成の場合、上記複数の可変コンデンサは、上記面積比が異なることにより、検出感度を異なるようにすることができる。
【0031】
本発明に係る音響トランスデューサでは、上記基板には、上記振動膜の中央部に対向する領域に開口部が設けられており、該開口部から音波が入射するようになっていてもよい。この場合、各可変コンデンサは、上記開口部を共用しているので、周波数特性、位相などの音響特性に関するチップ内のミスマッチングをさらに抑えることができる。また、上記開口部から音波が入射するので、上記固定膜から音波が入射する場合に比べて、上記開口部の体積効果による感度および周波数特性の特性悪化を抑えることができる。
【0032】
なお、上記構成の音響トランスデューサと、該音響トランスデューサに電力を供給すると共に、上記音響トランスデューサからの電気信号を増幅して外部に出力するICとを備えるマイクロフォンであれば、上述と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明に係る音響トランスデューサは、振動電極および固定電極の少なくとも一方が分割されることにより、上記振動電極および上記固定電極の間に複数の可変コンデンサが形成されることになるので、分割された複数の電極から複数の電気信号をそれぞれ出力することにより、音波を複数の電気信号に変換できる音響トランスデューサを実現できるという効果を奏する。また、上記複数の可変コンデンサが同じ振動膜および固定膜内に形成されるので、各可変コンデンサ間の検出感度の差に関するチップ間のバラツキを抑えると共に、周波数特性、位相などの音響特性に関するチップ内の可変コンデンサのミスマッチングを抑えるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態であるMEMSマイクロフォンにおける音響センサの概略構成を示す平面図および断面図である。
【図2】上記MEMSマイクロフォンの概略構成を示す平面図および断面図である。
【図3】上記MEMSマイクロフォンの回路図である。
【図4】本発明の別の実施形態であるMEMSマイクロフォンにおける音響センサの概略構成を示す平面図および断面図である。
【図5】本発明のさらに別の実施形態であるMEMSマイクロフォンにおける音響センサの概略構成を示す平面図である。
【図6】上記音響センサの振動膜の振動量を示す平面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施形態であるMEMSマイクロフォンにおける音響センサの概略構成を示す平面図である。
【図8】上記音響センサの断面図である。
【図9】上記音響センサにおける振動膜の概略構成を示す平面図である。
【図10】上記音響センサの分解組立図である。
【図11】上記音響センサにおける振動膜に印加される音圧に対する該振動膜の平均変位量の変化を示すグラフである。
【図12】MEMSマイクロフォンにおける典型的な周波数特性を示すグラフである。
【図13】本発明の他の実施形態であるMEMSマイクロフォンの音響センサにおける振動膜の概略構成を示す平面図である。
【図14】上記音響センサの分解組立図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について図1〜図3を参照して説明する。図2は、本実施形態のMEMSマイクロフォンの概略構成を示しており、同図の(a)は、上部を切り欠いて示す平面図であり、同図の(b)・(c)は、前部を切り欠いて示す正面図である。なお、同図の(c)は、同図の(b)の変形例である。
【0036】
図2に示すように、MEMSマイクロフォン10は、音響センサ(音響トランスデューサ)11、ASIC12、配線基板13、およびカバー14を備える構成である。
【0037】
音響センサ11は、音波を検出して電気信号(検出信号)に変換するものであり、MEMS技術を利用して製造されるMEMSチップである。ASIC12は、音響センサ11に電力を供給する電源機能と、音響センサ11からの電気信号を適当に処理して外部に出力する信号処理機能とを有するICである。ASIC12は、半導体製造技術を利用して製造される半導体チップである。音響センサ11およびASIC12は、配線基板13に配置され、カバー14によって覆われている。
【0038】
配線基板13と音響センサ11およびASIC12との電気的接続は、典型的には金ワイヤ15で行われるが、金バンプ接合などによって行われることもできる。また、配線基板13には、外部と電気的に接続するための接続端子16が設けられている。接続端子16は、外部からの電源供給、外部への信号出力などに利用される。配線基板13は、典型的には表面リフロー実装によって、種々の機器に取り付けられ、接続端子16により電気的に接続される。
【0039】
カバー14は、音響センサ11およびASIC12を、外部からのノイズ、物理的接触などから保護する機能を有する。このため、カバー14は、表層または内部に電磁シールド層が設けられている。また、カバー14には、外部からの音波を音響センサ11に到達させるために、貫通孔17が形成されている。なお、図2の(b)では、貫通孔17はカバー14の上面に形成されているが、カバー14の側面に形成されてもよいし、同図の(c)に示すように、配線基板13において、音響センサ11の設けられている領域に形成されてもよい。
【0040】
図1は、本実施形態における音響センサ11の概略構成を示しており、同図の(a)は、平面図であり、同図の(b)は、同図の(a)のA−A線で断面し、矢印方向に見た図である。
【0041】
図1に示すように、音響センサ11では、半導体基板21の上面にて、振動膜22が設けられ、さらに、振動膜22を覆うように固定膜23が設けられている。振動膜22は、導電体であり、振動電極220として機能する。一方、固定膜23は、導電体である固定電極230と、固定電極230を保護するための絶縁体である保護膜231とからなる。振動電極220および固定電極230は、空隙を介して対向し、コンデンサとして機能する。
【0042】
振動膜22の縁部は、絶縁層30を介して半導体基板21に取り付けられている。絶縁層30は、振動膜22の縁部と半導体基板21との間に離散的かつ均等に配置されている。これにより、振動膜22の縁部と半導体基板21との間には、空隙(ベントホール)が存在することになる。
【0043】
また、半導体基板21は、振動膜22の中央部に対向する領域が開口した開口部(バックチャンバ)31を有している。また、固定膜23は、音孔の形成された音孔部32を多数有している。通常、音孔部32は、等間隔で規則正しく配列されており、各音孔部32の音孔のサイズはほぼ等しい。
【0044】
なお、図2の(b)の場合、音波は、貫通孔17と固定膜23の音孔部32とを通過して振動膜22に到達することになる。また、同図の(c)の場合、典型的には、貫通孔17と音響センサ11の開口部31とが接続されており、音波は、貫通孔17と開口部31とを通過して振動膜22へ到達することになる。この場合、同図の(b)の場合に比べて、開口部31の体積効果による感度および周波数特性の特性悪化を抑えることができる。
【0045】
上記構成の音響センサ11において、外部からの音波は、固定膜23の音孔部32または開口部31を介して振動膜22に到達する。このとき、振動膜22は、到達した音波の音圧が印加されて振動するので、振動電極220および固定電極230の間隔(エアギャップ)が変化して、振動電極220および固定電極230の間の静電容量が変化する。この静電容量の変化を電圧または電流の変化に変換することにより、音響センサ11は、外部からの音波を検出して電気信号(検出信号)に変換することができる。
【0046】
上記構成の音響センサ11では、固定膜23に多数の音孔部32を有しているが、この音孔部32は、上述のように、外部からの音波を通過させて振動膜22に到達させる以外にも、下記のように機能する。
(1)固定膜23に到達した音波が音孔部32を通過していくので、固定膜23に印加される音圧が軽減される。
(2)振動膜22および固定膜23の間の空気が、音孔部32を介して出入りするので、熱雑音(空気の揺らぎ)が軽減される。また、上記空気による振動膜22のダンピングが軽減されるので、該ダンピングによる高周波特性の劣化が軽減される。
(3)表面マイクロマシニング技術を利用して振動電極220および固定電極230の間に空隙を形成する場合に、エッチングホールとして利用することができる。
【0047】
なお、実施例では、半導体基板21は、厚さが約400μmであり、単結晶シリコンなどから生成される半導体である。振動膜22は、厚さが約0.7μmであり、多結晶シリコンなどから生成される導電体であり、振動電極220として機能する。固定膜23は、固定電極230と保護膜231とからなる。固定電極230は、厚さが約0.5μmであり、多結晶シリコンなどから生成される導電体である。一方、保護膜231は、厚さが約2μmであり、窒化シリコンなどから生成される絶縁体である。また、振動電極220と固定電極230との空隙は約4μmである。
【0048】
本実施形態では、図1に示すように、固定電極230は、固定膜23の中央部に設けられた中央電極230aと、固定膜23の周辺部に設けられた周辺電極230bとに分割され、電気的に分離されている。中央電極230aは、コンタクト部27aおよび配線28aを介して、接続端子29aに接続される。一方、周辺電極230bは、コンタクト部27bおよび配線28bを介して、接続端子29bに接続される。なお、振動電極220は、配線25を介して接続端子26に接続されている。
【0049】
これにより、上記コンデンサは、中央電極230aおよび振動電極220の中央部によって機能する中央コンデンサと、周辺電極230bおよび振動電極220の周辺部によって機能する周辺コンデンサとに分割される。従って、本実施形態の音響センサ11は、外部からの音波を、上記中央コンデンサからの電気信号と、上記周辺コンデンサからの電気信号とに変換することができる。
【0050】
また、振動膜22は、縁部にて固定されているので、中央部の振動変位が大きく、周辺部の振動変位が小さくなる。これにより、上記中央コンデンサは、検出感度の高い高感度コンデンサとなり、上記周辺コンデンサは、検出感度の低い低感度コンデンサとなる。従って、本実施形態の音響センサ11は、外部からの音波を、検出感度の異なる2つの電気信号に変換することができる。これにより、1つの可変コンデンサのみを含む従来の音響センサに比べて、検出可能な音圧レベルを拡大することができる。さらに、中央電極230aは、周辺電極230bに比べて、面積が広くなっている。これにより、上記検出可能な音圧レベルをさらに拡大することができる。
【0051】
また、本実施形態では、固定電極230は分割されているが、振動膜22および保護膜231は共通である。従って、本実施形態の音響センサ11は、振動膜および保護膜が別々である従来の音響センサに比べて、上記中央コンデンサおよび上記周辺コンデンサの検出感度に関するチップ間のバラツキが類似することになる。その結果、上記中央コンデンサおよび上記周辺コンデンサ間の検出感度の差に関するチップ間のバラツキを抑えることができる。
【0052】
また、上記中央コンデンサおよび上記周辺コンデンサは、振動膜22および保護膜231を共用しており、その結果、周波数特性、位相などの音響特性に関するチップ内のミスマッチングを抑えることができる。さらに、上記中央コンデンサおよび上記周辺コンデンサは、上記バックチャンバ、上記エアギャップ、および上記ベントホールを共用しているので、上記音響特性に関するチップ内のミスマッチングをさらに抑えることができる。
【0053】
ところで、特許文献3・4に記載の上記構成の場合、1つのチップに、独立した複数の音響センサを形成する分、チップサイズが大きくなる。また、各音響センサからASICまでの配線の数および長さが増えるため、寄生容量・寄生抵抗が大きくなり特性(例えば検出感度、SNR(信号対ノイズ比)など)が悪化することになる。
【0054】
これに対し、本実施形態では、上記中央コンデンサおよび上記周辺コンデンサが振動膜22および固定膜23内に形成されるので、従来技術に比べて、チップサイズの大型化を抑えることができる。また、配線の長さを抑えることができるので、各種特性の悪化を抑えることができる。
【0055】
また、本実施形態では、振動膜22が静止しているときの上記エアギャップが一定となっている。これにより、上記中央コンデンサおよび上記周辺コンデンサは、振動電極220および固定電極230の間隔が共通であるので、上記音響特性に関するチップ内のミスマッチングをさらに抑えることができる。また、音響センサ11の製造工程における振動電極220および固定電極230の形成を簡素化することができる。
【0056】
また、本実施形態では、振動電極220および固定電極230のそれぞれが、均一の厚さで形成されている。これにより、製作のバラツキによる上記中央コンデンサおよび上記周辺コンデンサの検出感度に関するチップ間のバラツキをさらに類似させることができ、上記中央コンデンサおよび上記周辺コンデンサ間の検出感度の差に関するチップ間のバラツキをさらに抑えることができる。
【0057】
また、本実施形態では、振動膜22の基部が円形であるので、振動膜の基部が矩形である場合に比べて、振動膜22に発生する応力集中を軽減することができる。その結果、外部応力および内部応力に対する耐久性が高くなる。
【0058】
また、本実施形態では、上記ベントホールが存在しているので、上記ベントホールが存在しない構成に比べて、振動膜22の変位を大きくすることができ、検出感度を向上することができる。また、半導体基板21が外力などで歪んでも、振動膜22が歪み難いので、音響特性が変動し難くなる。また、外気圧の変動による影響を緩和することができる。
【0059】
なお、本実施形態の音響センサ11の製造方法は、従来の音響センサの製造方法に比べて、固定電極230における中央電極230aおよび周辺電極230bを分離形成するためのマスクの形状が変更されるのみであり、その他は同様である。
【0060】
すなわち、まず、半導体基板21となる単結晶シリコン基板の上面に、犠牲層(SiO2)を形成する。次に、該犠牲層の上に、多結晶シリコン層を形成してエッチングを行うことにより、振動膜22が形成される。次に、振動膜22を覆うように、犠牲層を再び形成する。
【0061】
次に、該犠牲層を覆うように、多結晶シリコン層および窒化シリコン層を形成してエッチングを行うことにより、固定電極230と保護膜231とからなる固定膜23が形成される。ここで、多結晶シリコン層を、マスクパターンなどにより、中央部および周辺部で分離して形成することにより、固定電極230が中央電極230aおよび周辺電極230bに分離形成される。
【0062】
次に、上記単結晶シリコン基板のエッチングを行うことにより、開口部31が形成される。そして、音孔部32を介して上記犠牲層のエッチングを行うことにより、振動膜22および固定膜23間のエアギャップが形成され、絶縁層30が形成されて、音響センサ11が完成する。
【0063】
図3は、図2に示すMEMSマイクロフォン10の回路図である。図3に示すように、音響センサ11は、音波によって容量が変化する低感度可変コンデンサ110および高感度可変コンデンサ111を備える構成である。低感度可変コンデンサ110が上記周辺コンデンサに対応し、高感度可変コンデンサ111が上記中央コンデンサに対応する。
【0064】
また、ASIC12は、チャージポンプ120、低感度用アンプ121、高感度用アンプ122、ΣΔ(ΔΣ)型ADC(Analog-to-Digital Converter)123・124、およびバッファ125を備える構成である。
【0065】
チャージポンプ120からの高電圧HVが、音響センサ11の可変コンデンサ110・111に印加されることにより、可変コンデンサ110・111にて音波が電気信号に変換される。低感度可変コンデンサ110にて変換された電気信号は、低感度用アンプ121にて増幅され、ΣΔ型ADC123にてデジタル信号に変換される。同様に、高感度可変コンデンサ111にて変換された電気信号は、高感度用アンプ122にて増幅され、ΣΔ型ADC124にてデジタル信号に変換される。ΣΔ型ADC123・124にて変換されたデジタル信号は、バッファ125を介してPDM(パルス密度変調)信号として外部に出力される。
【0066】
なお、図3の例では、ΣΔ型ADC123・124にて変換された2つのデジタル信号を混載して、1つのデータ線上に出力しているが、上記2つのデジタル信号を別々のデータ線上に出力してもよい。
【0067】
本実施形態では、固定電極230は分割され、振動電極220は分割されていない。この場合、固定電極230および振動電極220の両方が分割されている場合に比べて、ASIC12との接続数が少なくなるので、生産性が向上する。また、ASIC12との接続端子の数が少なくなるので、該接続端子に起因する寄生容量を小さくして特性を向上させることができる。また、チャージポンプ120から印加される電圧が1つで済むので、チャージポンプ120を含むASIC12のサイズを小さくできたり、製作コストを下げたり、チャージポンプ120の作成のバラツキによる検出感度の差のバラツキを抑えたりすることができる。
【0068】
〔実施の形態2〕
次に、本発明の別の実施形態について図4を参照して説明する。図4は、本実施形態に係る音響センサ11の概略構成を示しており、同図の(a)は、平面図であり、同図の(b)は、同図の(a)のB−B線で断面し、矢印方向に見た図である。
【0069】
図4に示す音響センサ11は、図1に示す音響センサ11に比べて、絶縁層30が存在せず、振動膜22の縁が半導体基板21に固定されていない点と、固定膜23の保護膜231から振動膜22にまで突出した突起部232が、周辺電極230bに沿って離散的に設けられている点とが異なり、その他の構成は同様である。なお、上記実施形態にて説明した構成と同様の機能を有する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0070】
振動膜22は半導体基板21に固定されていないが、振動膜22(振動電極220)と固定電極230との間に電圧が印加されると、静電気力により、振動膜22は突起部232に保持される。これにより、振動膜22へ印加される外部応力や内部応力の影響を軽減させることができる。また、突起部232により、振動膜22の周辺部における振動が規制されるので、周辺電極230bおよび振動電極220の周辺部によって機能する周辺コンデンサの検出感度をさらに低くすることができる。その結果、中央コンデンサの検出感度と周辺コンデンサの検出感度との感度差をさらに大きくすることができる。
【0071】
〔実施の形態3〕
次に、本発明のさらに別の実施形態について図5および図6を参照して説明する。図5は、本実施形態に係る音響センサ11の概略構成を示す平面図である。なお、同図では、固定膜23の保護膜231を省略している。
【0072】
図5に示す音響センサ11は、図1に示す音響センサ11に比べて、振動膜22の形状が異なっており、このため、固定膜の形状も異なっている。なお、その他の構成は同様である。
【0073】
図1に示す音響センサ11の振動膜22は、円形であり、その縁部にて半導体基板21に固定されている。これに対し、本実施形態の音響センサ11の振動膜22は、図5に示すように、略正方形の基部を有し、その隅部50が、それぞれ中心から外向きに延在しており、該延在部51にて半導体基板21に固定されている。
【0074】
図6は、上記構成の振動膜22に所定の音波が到達した場合の振動膜22の振動量を示している。同図では、振動量が多くなるにつれて明るく示されている。図示のように、振動膜22は、隅部50および延在部51にて振動が少ない。そこで、本実施形態の固定電極230は、図5に示すように、固定電極230は、略正方形であり、中央部が中央電極230aとなり、隅部と該隅部どうしを連結する連結部とが周辺電極230bとなる。このように、振動膜22(振動電極220)がどのような形状であっても、中央電極230aは、振動膜22の中央領域に対向するように形成し、周辺電極230bは、振動膜22が半導体基板21に固定される場所付近の領域に対向するように形成すればよい。
【0075】
本実施形態では、振動膜22の基部が正方形であるため、矩形のチップ上の領域を有効に利用することができる。また、基部が円形である振動膜22に比べて、振動膜22と半導体基板21との固定部分を種々に変更できるので、検出感度を種々に変更することができる。また、基部が円形である振動膜22に比べて、音波が到達した時の振動膜22の変形が平行平板状に近く、音圧に対する容量変化の線形性が良好となる。
【0076】
〔実施の形態4〕
次に、本発明のさらに別の実施形態について図7〜図12を参照して説明する。図7は、本実施形態に係る音響センサ11の概略構成を示す平面図であり、図8は、図7のC−C線で断面し、矢印方向に見た図である。また、図9は、本実施形態の音響センサ11における振動膜22の概略構成を示す平面図である。また、図10は、本実施形態に係る音響センサ11の分解組立図である。なお、図7では、固定膜23の保護膜231は、半導体基板21と設置される輪郭のみ図示されている。
【0077】
図7〜図10に示す音響センサ11は、図5に示す音響センサ11に比べて、振動膜22および固定膜23が、上記基部から側方にさらに延在している点と、固定膜23の固定電極230の分離形状とが異なり、その他の構成は同様である。
【0078】
固定膜23の固定電極230は、周辺電極230bに代えて、上記側方に延在した側方延在部に延在電極230cが設けられている。すなわち、固定電極230は、中央電極230aと延在電極230cとに分割されている。同様に、コンタクト部27b、配線28b、および接続端子29bに代えて、コンタクト部27c、配線28c、および接続端子29cが設けられている。なお、振動電極220は、コンタクト部24および配線25を介して接続端子26に接続されている。
【0079】
振動膜22は、上記基部が上記側方延在部よりも広い。また、振動膜22は、上記基部が、延在部51の先端部における固定部51aにて固定される一方、上記側方延在部が、前後方向の端部52における固定部52aにて固定される。振動膜22の縁で固定されていない箇所は空隙(ベントホール)になっている。すなわち、振動膜22は、上記基部の領域に対する該基部の固定部51aの面積比が、上記側方延在部の領域に対する該側方延在部の固定部52aの面積比よりも小さくなっている。これにより、上記基部は、上記側方延在部よりも大きく変位することになる。なお、図9の例では、前方右側の固定部51aと前方の固定部52aとは接続している。
【0080】
図11は、振動膜22に印加される音圧に対する振動膜22の領域ごとの平均変位量の変化をグラフで示している。なお、音圧の単位はPaであり、平均変位量の単位はμmである。同図を参照すると、上記基部の方が上記側方延在部よりも平均変位量が大きいことが理解できる。従って、振動膜22の上記基部と、固定膜23の中央電極230aとによって形成される可変コンデンサは、小さな音を良好に検出できる高感度可変コンデンサとして機能する。
【0081】
また、図11を参照すると、上記基部のグラフでは、音圧に対する平均変位量の傾きは、音圧が120Paに達するまでは一定であるが、音圧が120Paを超えると徐々に小さくなっていることが理解できる。一方、上記側方延在部のグラフでは、音圧に対する平均変位量の傾きは、音圧が200Paに達しても一定であることが理解できる。従って、振動膜22の上記側方延在部と、固定膜23の延在電極230cとによって形成される可変コンデンサは、大きな音を良好に検出できる低感度可変コンデンサとして機能する。
【0082】
また、振動膜22は、固定膜23における中央電極230aおよび延在電極230cの境界領域に対向して、スリット221が形成されている。なお、スリット221は、上記境界領域に対向する領域の一部に形成されているのみであるので、上記基部および上記側方延在部は、物理的および電気的に繋がっている。
【0083】
ところで、スリット221が形成されていない場合、上記基部と上記側方延在部とは連続しているので、上記基部の変位と上記側方延在部の変位とは互いに影響されることになる。これに対し、本実施形態では、スリット221が形成されているので、上記基部と上記側方延在部とが大部分において分断され、上記基部の変位と上記側方延在部の変位との差がより顕著となる。
【0084】
また、開口部31および上記エアギャップの気圧が異なる場合、開口部31および上記エアギャップの一方から他方に、スリット221を介して空気が流れることにより、両者の気圧の差を低減することができる。従って、気圧の変化による音響センサ11の特性の変化を低減することができるとともに、風による雑音など、外部の流体の変化による特性の変化およびノイズなどを低減することができる。
【0085】
なお、スリット221の幅が広過ぎると、ベンチレーションの効果が強くなり、スリット221を介しての空気の抜けが大きくなり過ぎて、ロールオフ周波数の低下が発生し、低周波特性が悪化する虞がある。この点について以下に詳述する。
【0086】
図12は、MEMSマイクロフォンにおける典型的な周波数特性を示している。同図の縦軸は音波の周波数(単位:Hz)であり、横軸は相対感度(単位:dBr)である。同図おいて、グラフが水平である範囲は、上記相対感度が上記音波の周波数に依存しないので、音波を良好に検出できる範囲となる。この範囲の下限の周波数がロールオフ周波数froll−offとなる。
【0087】
一般に、ロールオフ周波数froll−offは、ベンチレーションホールの音響抵抗Rventhollと、バックチャンバ(開口部31)内の空気のコンプライアンス(空気バネ定数)Cbackchamberとに依存し、次式で表される。
roll−off∝1/(Rventholl×Cbackchamber) ・・・(1)。
【0088】
音響抵抗Rventhollは、スリット221の長さによっても影響されるが、スリット221の幅が広いと低くなる。従って、上記式(1)より、ロールオフ周波数froll−offが上昇してしまい、その結果、低周波特性が悪化することになる。例えば、スリット221幅が1μmであればロールオフ周波数froll−offは50Hz以下であるが、10μmであれば500Hzにもなる。このため、スリット221幅が10μmを超えると、低周波特性が著しく悪化し、音質が損なわれてしまうことになる。従って、スリット221の幅は10μm以下であることが望ましい。
【0089】
〔実施の形態5〕
次に、本発明の他の実施形態について図13および図14を参照して説明する。図13は、本実施形態に係る音響センサ11における振動膜22の概略構成を示す平面図であり、図14は、本実施形態に係る音響センサ11の分解組立図である。
【0090】
本実施形態の音響センサ11は、図7〜図10に示す音響センサ11に比べて、固定電極230の中央電極230aおよび延在電極230cが接続されている一方、振動電極220が、上記基部および上記側方延在部にて中央電極220aおよび延在電極220cにそれぞれ分離している点が異なり、その他の構成は同様である。このように、振動電極220を分離することもできる。この場合、中央電極220aおよび延在電極220cが、ASIC12のアンプ121・122に接続されることになる。
【0091】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0092】
例えば、上記実施形態では、音孔部32は、断面が円形であるが、三角形、四角形など、任意の形状にしてもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、振動電極220および固定電極230の何れか一方を2つに分割しているが、3つ以上に分割してもよい。しかしながら、分割された電極の数が増えると、該電極からの信号を伝達するための配線、ASIC12において上記信号を処理するための電気回路などを増やす必要があり、音響センサ11およびMEMSマイクロフォン10のサイズが増大することになる。従って、上記分割された電極の数は、例えば2など、少ない方が望ましい。
【0094】
また、振動電極220および固定電極230の両方を分割してもよい。この場合、ASIC12のアンプ121・122の特性に応じて、振動電極220および固定電極230の何れか一方の分割された電極をアンプ121・122に接続し、他方の分割された電極を短絡すればよい。もしくは、ASIC12のチャージポンプ120を複数個設け、何れか一方の分割されたそれぞれ電極に接続し、他方の分割された電極にアンプ121・122を接続してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上のように、本発明に係る音響トランスデューサは、同じ振動膜および固定膜内に、音波を複数の電気信号に変換できる音響トランスデューサを実現することにより、音響特性のバラツキを抑えることができるので、任意のMEMS型音響センサに適用することができる。
【符号の説明】
【0096】
10 MEMSマイクロフォン
11 音響センサ
12 ASIC
13 配線基板
14 カバー
15 金ワイヤ
16 接続端子
17 貫通孔
21 半導体基板
22 振動膜
23 固定膜
24 コンタクト部
25 配線
26 接続端子
27 コンタクト部
28 配線
29 接続端子
30 絶縁層
31 開口部
32 音孔部
50 隅部
51 延在部
51a 固定部
52 端部
52a 固定部
110 低感度可変コンデンサ
111 高感度可変コンデンサ
120 チャージポンプ
121 低感度用アンプ
122 高感度用アンプ
123・124 ADC
125 バッファ
220 振動電極
220a 中央電極
220c 延在電極
221 スリット
230 固定電極
230a 中央電極
230b 周辺電極
230c 延在電極
231 保護膜
232 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上面に振動膜および固定膜が形成され、該振動膜における振動電極と上記固定膜における固定電極との間の静電容量の変化により、音波を検出して電気信号に変換し出力する音響トランスデューサにおいて、
上記振動電極および上記固定電極の少なくとも一方が分割されており、
分割された複数の電極から複数の上記電気信号をそれぞれ出力することを特徴とする音響トランスデューサ。
【請求項2】
上記分割された複数の電極の少なくとも2つは、上記音波を検出する感度が異なることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項3】
上記分割された複数の電極の少なくとも2つは、面積が異なることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項4】
上記面積が異なる電極のうち、広い方の電極に対応する上記振動膜の領域は、狭い方の電極に対応する上記振動膜の領域よりも、上記音波による振動の振幅の平均値が大きいことを特徴とする請求項3に記載の音響トランスデューサ。
【請求項5】
上記分割された複数の電極は、2つに分割された2つの電極であることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項6】
上記振動電極および上記固定電極の間隔は一定であることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項7】
上記振動電極および上記固定電極は一方が分割されていることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項8】
上記振動電極および上記固定電極は両方が分割されており、上記振動電極および上記固定電極の一方は、分割された電極が電気的に短絡していることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項9】
上記振動電極および上記固定電極のそれぞれは、均一の厚さであることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項10】
上記振動膜は、基部が矩形であることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項11】
上記振動膜は、基部が円形であることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項12】
上記振動膜は、上記基部から外側に延在した延在部を備えており、該延在部にて上記基板または上記固定膜に固定されることを特徴とする請求項10に記載の音響トランスデューサ。
【請求項13】
上記振動膜は、分割された振動電極の境界領域、或いは、分割された固定電極の境界領域に対向する領域にスリットが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項14】
上記スリットの幅は10μm以下であることを特徴とする請求項13に記載の音響トランスデューサ。
【請求項15】
上記振動膜および上記基板の間には空隙が存在することを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項16】
上記振動膜に関して、上記分割された複数の電極に対応する複数の領域の少なくとも2つは、上記基板または上記固定膜に固定される固定部分の当該領域に対する面積比が異なることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項17】
上記基板には、上記振動膜の中央部に対向する領域に開口部が設けられており、
該開口部から音波が入射するようになっていることを特徴とする請求項1に記載の音響トランスデューサ。
【請求項18】
基板の上面に振動膜および固定膜が形成され、該振動膜における振動電極と上記固定膜における固定電極との間の静電容量の変化により、音波を検出して電気信号に変換し出力する音響トランスデューサと、該音響トランスデューサに電力を供給すると共に、上記音響トランスデューサからの電気信号を増幅して外部に出力するICとを備えるマイクロフォンにおいて、
上記音響トランスデューサは、
上記振動電極および上記固定電極の少なくとも一方が分割されており、
分割された複数の電極から複数の上記電気信号をそれぞれ上記ICに出力することを特徴とするマイクロフォン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−147115(P2012−147115A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2313(P2011−2313)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【出願人】(591002692)エスティーマイクロエレクトロニクス エス.アール.エル. (31)
【氏名又は名称原語表記】STMicroelectronics S.r.l.
【Fターム(参考)】