説明

音響再生装置

【課題】 後方スピーカをメインのスピーカとして使用しても、前方定位を実現可能な車載用音響装置を提供する。
【解決手段】 聴取者Xの後方に配置される複数の後方スピーカ20Rと、聴取者Xの前方に配置され、少なくとも高音域を再生可能な前方スピーカ20Fと、後方スピーカ20R及び前方スピーカ20Fに、音響ソースに対応する複数チャンネルの音響信号を各々供給するものであって、前方スピーカ20Fには、音響ソースの少なくとも高音域を含む音響信号を供給するステレオ音源再生部11とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の後方スピーカから音声を出力する音響再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の各座席にスピーカ(後方スピーカ)を配置し、このスピーカを介して座席に座る聴取者に音響ソースを報音する車載用音響再生装置が知られている(例えば、特許文献1)。この種の車載用音響再生装置は、各乗員の耳の近くにスピーカを配置できるので、小出力のアンプを採用でき、また、乗員毎に異なる音響空間を提供することも可能になる等のメリットがある。
【特許文献1】特開平9−171387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の構成は、聴取者の後方にのみスピーカを配置するので、聴取者の前方に音響を定位させることが難しかった。一方、聴取者の前方に、音声再生の主となるスピーカ(いわゆるメインスピーカ)を配置し、このメインスピーカにメイン音声の信号を供給すれば前方定位を実現することはできるが、特に車室内ではメインスピーカと聴取者との間に比較的距離が空いてしまい、大出力のアンプが必要となる。また、メインスピーカから比較的大音量の音声が出力されるので、乗員毎に異なる音響空間を提供することも困難になる。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、後方スピーカをメインのスピーカとして使用しても前方定位を実現可能な車載用音響装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述課題を解決するため、本発明は、音響再生装置において、聴取位置の後方に配置される複数の後方スピーカと、前記聴取位置の前方に配置され、少なくとも高音域を再生可能な前方スピーカと、前記後方スピーカ及び前方スピーカに、音響ソースに対応する複数チャンネルの音響信号を各々供給する音源装置であって、前記前方スピーカには、前記音響ソースの少なくとも高音域を含む音響信号を供給する音源装置とを備えることを特徴とする。
この構成によれば、複数の後方スピーカから音響ソースの音声を出力すると共に、前方スピーカから音響ソースの高音域音声を出力するので、後方スピーカをメインのスピーカとして使用しても前方定位を実現することができる。
【0006】
上記構成において、前記後方スピーカを聴取者用の座席の背もたれ部に取り付けてもよく、また、上記座席を車両内に配置される座席としてもよい。また、前記音源装置は、前記音響ソースの少なくとも低音域又は中音域を含む音響信号を前記後方スピーカに供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、複数の後方スピーカと、少なくとも高音域を再生可能な前方スピーカとを備え、後方スピーカから音響ソースの音声を出力すると共に、前方スピーカから音響ソースの高音域音声を出力するので、後方スピーカをメインのスピーカとして使用しても前方定位を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳述する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る音響再生装置10のスピーカ配置構成を示す図である。この音響再生装置10は、車両1に搭載される車載用音響装置として構成され、以下の説明において、左右といった方向は、車両1の座席2(2A、2B、2C、2D)に座る乗員から見た方向に対応している。
車両1は、運転席2A、助手席2B、後席2C及び2Dからなる複数の座席2を有し、座席毎に、後方スピーカ20Rと前方スピーカ20Fとが設けられている。より具体的には、後方スピーカ20Rは、一つの座席当たり、左右2チャンネル用の2台のフルレンジスピーカ20RL、20RRと、ウーハ(低音域再生用スピーカ)20RWとの3台のスピーカからなり、図2に例示するように、フルレンジスピーカ20RL、20RRは、ヘッドレスト2Hの左右に車両前方(乗員側)に向けて取り付けられ、ウーハ20RWは、背もたれ部(シートバック)2Sに車両前方(乗員側)に向けて内蔵されている。なお、フルレンジスピーカ20RL、20RRには、例えば、直径50〜100mm程度のものが使用される。
【0009】
上記車両1には、前方スピーカ20Fとして、運転席2A及び助手席2Bの乗員用の1台のツィータ(高音域再生用スピーカ)20F1と、各後席2C、2Dの乗員毎に1台のツィータ20F2、20F3とが設けられている。なお、このツィータ20F1〜F3は、上記フルレンジスピーカ20RL、20RRよりもその高音域再生能力が優れるものを使用することが好ましい。
より具体的には、ツィータ20F1は、図1に示すように、フロントダッシュボード1Dの中央に車両後方に向けて取り付けられ、これによって、運転席2A及び助手席2Bの前方であって、かつ、運転席2A及び助手席2Bから等距離の位置に配置される。
また、ツィータ20F2、20F3は、運転席2Aの背面と、助手席2Bの背面とに各々取り付けられ、後席2C及び2Dに座る乗員の前方に比較的近接して配置される。
【0010】
上記スピーカ配置構成を取ることにより、図3に示すように、各座席2の乗員には、後方に近接して配置される2台のフルレンジスピーカ20RR、20RL及びウーハ20RWからの音声と、前方に比較的近接して配置される一台の前方スピーカ(ツィータ)20Fからの音声とが届くように構成されている。なお、図1では、運転席2A及び助手席2Bの乗員が一台の前方スピーカ20Fを共用する場合を例示したが、これに限らず、運転席2A及び助手席2Bの乗員毎に前方スピーカ20Fを配置してもよい。また、後席2C、2Dの乗員用の前方スピーカ20Fを一台とし、この前方スピーカ20Fを各後席2C、2Dの乗員で共用する配置構成にしてもよい。
【0011】
次に音響再生装置10について説明する。この音響再生装置10は、スピーカケーブルを介して車両1内のスピーカ20F、20Rと接続され、車両1のバッテリーからの電力で駆動して各スピーカ20F、20Rから音声を出力させる装置である。なお、以下の説明においては、重複する説明を回避すべく、1つの座席2の乗員用の後方スピーカ20R及び前方スピーカ20Fと、音響再生装置10とについて詳述する。
音響再生装置10は、図4に示すように、2チャンネルの音響ソースを再生するステレオ音源再生部(音源装置)11を備え、このステレオ音源再生部11は、CDDA(Compact Disc Digital Audio:音楽CD)を再生するCD再生部、及び、ラジオ放送を受信するラジオ受信部を有し、聴取者(乗員)Xの選択に応じていずれかの音響ソース(CDDA又はラジオ)のステレオ信号、つまり、Lチャンネルの音声信号SLと、Rチャンネルの音声信号SRとを出力する。
【0012】
また、この音響再生装置10は、複数のアンプ12A、12B、12C、12Dを備え、これらアンプ12A〜12Dが、スピーカケーブルを介して各スピーカ20R、20Fと接続されている。図2に示すように、これらアンプ12A〜12Dのうち、フルレンジスピーカ20RLに対応するアンプ12Aには、Lチャンネルの音声信号SLが供給され、フルレンジスピーカ20RRに対応するアンプ12Bには、Rチャンネルの音声信号SRが供給される。
このため、上記アンプ12A、12Bが各々入力された音声信号SL、SRに応じてスピーカ20RL、20RRを駆動することにより、聴取者Xの左後方に配置されたフルレンジスピーカ20RLから左チャンネルの音声が出力され、聴取者Xの右後方に配置されたフルレンジスピーカ20RRから右チャンネルの音声が出力される。これによって、聴取者Xが音響ソースの左右空間(ステレオ空間)を認識可能にステレオ音声が出力される。
【0013】
また、この音響再生装置10は、上記音声信号SR、SLを合成(ミキシング)する2つの合成部13A、13Bを備え、一方の合成部13Aの出力音声信号SLR1は、ローパスフィルタ(LPF)14を経由して、ウーハ20RWに対応するアンプ12Cに供給される。
従って、このアンプ12Cが入力音声信号(低音域の音声信号)に応じてウーハ20RWを駆動することにより、音響ソースの低音域が聴取者Xに向けて出力される。これによって、上記フルレンジスピーカ20RL、20RRの低音域再生能力が比較的低い場合でも、このウーハ20RWによって低音を補うことができる。
ここで、低音は、その到来方向が人には知覚されにくいため、本構成のように低音を聴取者Xの後方から報音しても、低音を聴取者Xの前方から報音するのとほぼ同じ音響空間を提供することができる。
【0014】
さらに、他方の合成部13Bの出力音声信号SLR2は、ハイパスフィルタ(HPF)15を経由して、前方スピーカ(ツィータ)20Fに対応するアンプ12Dに供給される。
従って、このアンプ12Dが入力音声信号(高音域の音声信号)に応じて前方スピーカ(ツィータ)20Fを駆動することにより、音響ソースの高音が聴取者Xの正面に向けて出力される。
ここで、高音は、低音と異なり、その到来方向が人に知覚されやすいため、この前方スピーカ(ツィータ)20Fから出力される高音によって、聴取者Xには、音響ソースの到来方向が前方と知覚される。これによって、後方スピーカ20Rからステレオ音声を出力する聴取環境でも、前方スピーカ20Fからの高音によって前方定位が実現される。
【0015】
以上説明したように、本構成では、聴取者Xの後方に配置した複数の後方スピーカ20Rから音響ソースのステレオ音声を出力させると共に、聴取者Xの前方に配置した前方スピーカ20Fから、音響ソースの高音域音声を出力させるので、後方スピーカ20Rをメインのスピーカとして使用しつつ、前方定位の音響空間を容易に実現することができる。
また、後方スピーカ20Rを座席2の背もたれ部2Sに配置するので、後方スピーカ20Rを聴取者Xに近接配置でき、比較的小音量で各聴取者Xが満足する音響空間を提供することが可能となる。このため、各座席2の乗員毎に前方定位の音響空間を提供することができ、また、後方スピーカ20Rを駆動するためのアンプ12A〜12Cに小出力のアンプを採用できると共に、ツィータ20Fを駆動するアンプ12Dも比較的小出力のアンプで良いため、消費電力の低減、音響再生装置10の小型化及びコスト削減を図ることができる。
【0016】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態に係る音響再生装置10Aの構成を示す図である。なお、この図において、第1実施形態に係る音響再生装置10と同一の構成は同一の符号を付して示し、詳細な説明を省略する。
この音響再生装置10Aは、多チャンネルの音響信号を出力する音源装置11Aを有し、この音源装置11Aは、具体的には、DVD(Digital Versatile Disk)等の多チャンネル(本例では5.1チャンネル)の音響ソースを記録する記録媒体を再生する多チャンネル音源再生部11A1と、この再生部11A1により再生された5.1チャンネルの音声信号に基づき4チャンネルの音声信号を生成する音響処理部11A2とを備えて構成されている。
【0017】
詳述すると、上記再生部11Aからは、フロント左右、センター、リア左右、ウーハ用の5.1チャンネルの音声信号が出力され、上記音響処理部11A2は、ウーハ用の音声信号SWについては、ウーハ20RWに対応するアンプ12Cにそのまま供給し、センター用の音声信号SCについては、ハイパスフィルタ(HPF)15を経由して、前方スピーカ(ツィータ)20Fに対応するアンプ12Dに供給する。
【0018】
また、音響処理部11A2は、上記多チャンネルの音声信号から疑似的に2チャンネルの音声信号SRA、SRBを生成する。具体的には、例えば、音響処理部11A2は、フロント左、センター、リア左の各音声信号に対し、所定の音響処理(ダウンミックス処理)を施すことにより、疑似Lチャンネルの音声信号SRAを生成すると共に、フロント右、センター、リア右の音声信号に対し、所定の音響処理(ダウンミックス処理)を施すことにより、疑似Rチャンネルの音声信号SRBを生成する。なお、上記音響処理(ダウンミックス処理)は、DSP(Digital Signal Processor)によるデジタル処理で行う方法、又は、アナログ音声信号を合成して行う方法のいずれを適用してもよい。
【0019】
そして、音響処理部11A2は、疑似Lチャンネルの音声信号SRAを、フルレンジスピーカ20RLに対応するアンプ12Aに供給し、疑似Rチャンネルの音声信号SRBを、フルレンジスピーカ20RRに対応するアンプ12Bに供給する。これによって、擬似ステレオ音声が、聴取者Xの左右後方に配置されたフルレンジスピーカ20RL、20RRから出力され、疑似音響音声が聴取者の耳に向けて出力される。
この場合、ウーハ20RWからは音響ソースの低音域音声が出力されるので、音響ソース本来の低音を聴取者に聴取させることができ、また、前方スピーカ(ツィータ)20Fからは音響ソースの高音域音声が出力されるので、前方定位の音響空間を提供することができる。
【0020】
このように、本構成では、多チャンネルの音響ソースから擬似音響信号を生成し、この疑似音響信号を後方スピーカ20Rから出力させると共に、この音響ソースの高音域音声を前方スピーカ20Fから出力させるので、後方スピーカ20Rをメインのスピーカとして使用しつつ、前方定位の音響空間を容易に実現することができる。
また、第1実施形態と同じく、後方スピーカ20Rを聴取者Xに近接して配置するので、比較的小音量で各聴取者Xが満足する音響空間が提供され、これによって、各座席2の乗員毎に前方定位の音響空間を提供できると共に、アンプ12A〜12Dに小出力のアンプを採用でき、消費電力の低減、音響再生装置10の小型化及びコスト削減を図ることができる。
【0021】
上述した実施形態は、あくまで本発明の一態様に過ぎず、本発明の範囲内で任意に変形が可能である。例えば、上述の各実施形態において、フルレンジスピーカ20RL、20RRからは、音響ソースの中音域又は中低音域の音声を出力させ、前方スピーカ20Fからのみ音響ソースの高音域音声を出力させるようにしてもよい。また、フルレンジスピーカ20RL、20RRが十分な低音再生能力を持つ場合等は、ウーハ20RWを省略してもよい。
また、上述の第2実施形態では、前方スピーカ20Fからセンター用の音声の高音域を出力させる場合を述べたが、疑似Lチャンネルの音声信号SRAと疑似Rチャンネルの音声信号SRBとの合成信号の高音域音声を出力させてもよい。
また、上述した実施形態では、車両用の音響再生装置に本発明を適用する場合を例示したが、車両用以外の音響再生装置に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る音響再生装置のスピーカ配置構成を示す図である。
【図2】後方スピーカの配置例を示す図である。
【図3】後方スピーカと前方スピーカの説明に供する図である。
【図4】音響再生装置の構成を示す図である。
【図5】第2実施形態に係る音響再生装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 車両
2 座席
10、10A 音響再生装置
11 ステレオ音源再生部(音源装置)
11A 音源装置
11A1 多チャンネル音源再生部
11A2 音響処理部
12A〜12D アンプ
13A、13B 合成部
14 ローパスフィルタ
15 ハイパスフィルタ
20F 前方スピーカ
20F1〜20F3 ツィータ
20R 後方スピーカ
20RL、20RR フルレンジスピーカ
20RW ウーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
聴取位置の後方に配置される複数の後方スピーカと、
前記聴取位置の前方に配置され、少なくとも高音域を再生可能な前方スピーカと、
前記後方スピーカ及び前方スピーカに、音響ソースに対応する複数チャンネルの音響信号を各々供給する音源装置であって、前記前方スピーカには、前記音響ソースの少なくとも高音域を含む音響信号を供給する音源装置と
を備えることを特徴とする音響再生装置。
【請求項2】
前記後方スピーカは、聴取者用の座席の背もたれ部に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の音響再生装置。
【請求項3】
前記座席は、車両内に設置される座席であることを特徴とする請求項2に記載の音響再生装置。
【請求項4】
前記音源装置は、前記音響ソースの少なくとも低音域又は中音域を含む音響信号を前記後方スピーカに供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の音響再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−270302(P2006−270302A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83140(P2005−83140)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】