説明

音響再生装置

【課題】 スピーカの音響振動の影響をアンプ側が受けないようにした状態でアンプユニットとスピーカユニットとを一体化させることができるにもかかわらず、優れた可搬性も実現することができる音響再生装置を提供する。
【解決手段】 音響再生装置11において、スピーカボックス13には、アンプボックス33の上下方向に穿設されている貫通孔37に遊挿されて水平支持面Fに当接支持される複数の長寸支脚19が垂設されており、アンプボックス33には、スピーカボックス13が長寸支脚19を介して支持された際に、当該アンプボックス33の上面34とスピーカボックス13の下面15との間に空隙Sが確保される長さが付与されて水平支持面Fに当接支持される複数の短寸支脚39が垂設されており、少なくとも2本以上の長寸支脚19には、貫通孔37の下方に位置する部位に抜脱阻止片20が付設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各別に形成されたスピーカとアンプとを、フィールドコイル型のスピーカユニット側の振動がアンプユニット側に伝達されることがないように一体化させた音響再生装置に関する。なお、本明細書において、フィールドコイル型とは、永久磁石にコイルを巻回したものも含む概念である。
【背景技術】
【0002】
音響再生装置としては、スピーカとアンプとを一体型のボディ内部に収容して形成されたものがある(例えば、特許文献1等参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−258529号公報
【0004】
具体的には、この特許文献1には、特定の行き先に向かって自動走行させ、その行き先にてカラオケの使用を可能とすることにより、利用者の利便を高めた自動走行型カラオケ装置が開示されている。
【0005】
また、他の音響再生装置としては、スピーカユニットとアンプユニットとを含む必要機器を全て同じ筐体内に収容して位置移動させることができるようにした可搬型カラオケ装置も提案されている(例えば、特許文献2等参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−78780号公報
【0007】
一方、音響再生装置としては、スピーカが備えるスピーカユニットが永久磁石型のものではなく、フィールドコイル型(電磁石型)のものを用いたものも提案されている。この場合、音響再生装置においては、通常、フィールドコイルのための駆動電源として、励磁用電源(エキサイタ電源)がアンプ電源とは別個に必要となる。
【0008】
また、従来からあるフィールドコイル型(電磁石型)のスピーカユニットを用いた音響再生装置の中には、電源の平滑回路のチョークコイルをフィールドコイルに使用するものもあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した特許文献1に開示されている自動走行型カラオケ装置においては、スピーカとアンプとが一体型のボディ内部に収容されていることから、スピーカの音響振動がアンプ側に伝達し、当該アンプに望ましくない影響を与えるという問題があった。
【0010】
また、上述した特許文献2に開示されている可搬型カラオケ装置は、外観が美しく、可搬性にも優れているものの、特許文献1に開示されている技術と同様に、スピーカの音響振動アンプ側に伝達し、当該アンプに望ましくない影響を与えるという問題を依然として解消できず、オーディオ装置のように音質が特に重要となる音響再生装置には適用することができないという問題があった。
【0011】
一方、フィールドコイル型のスピーカユニットを備えた音響再生装置においては、スピーカ、アンプ及び励磁用電源の3つの独立した部材に分割される結果、ケーブルの引き回しを含めた装置構成の複雑化を招来するという問題があった。
【0012】
また、フィールドコイル型のスピーカユニットを備えた音響再生装置においては、そのほとんどがアンプユニットとしてA級アンプ回路を用いているが、この場合には、出力トランジスタに常時電流が流された状態となることから、無駄な電力消費が多いという問題もあった。
【0013】
さらに、従来の真空管方式を採用した音響再生装置においては、専用電源に代えて平滑チョークコイル側の電源によってフィールドコイルを励磁させるようにしたものも存在するが、せいぜい10μF程度の容量を有するコンデンサを使用していることから、ハム音が増大するという問題があった。
【0014】
さらにまた、従来の真空管方式を採用したフィールドコイル型のスピーカユニットを備えた音響再生装置においては、動作電流が少なくフィールドコイルには細い銅線を多量に巻回することによって巻線のインピーダンスが高くなるため、磁力が弱く、高音質を得ることができないという問題もあった。従来から存在するかかる真空管方式を採用したフィールドコイル型のスピーカユニットは、強力な永久磁石が高価であることに起因した次善の策としていたものであり、高音質を望むものではなかった。
【0015】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、「従来の永久磁石型スピーカに劣るフィールドコイル型スピーカ」という認識を払拭した「永久磁石型スピーカを超えるフィールドコイル型スピーカ」を実現し、スピーカの音響振動の影響をアンプ側が受けないようにした状態でアンプユニットとスピーカユニットとを一体化させることができるにもかかわらず、優れた可搬性も実現することができ、さらには、無駄な電力消費を抑制するとともに、ハム音を減少させた高音質の再生を実現することができる音響再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成する本発明にかかる音響再生装置は、スピーカボックスの内部に所要のスピーカユニットを収容してなるフィールドコイル型のスピーカと、アンプボックスの内部に所要のアンプユニットを収容して前記スピーカの下方に配設されるアンプとを備え、前記スピーカボックスには、前記アンプボックスの上下方向に各別に穿設されている貫通孔に遊挿されて水平支持面に当接支持される少なくとも3本の長寸支脚が垂設されており、前記アンプボックスには、前記スピーカボックスが前記長寸支脚を介して支持された際に、当該アンプボックスの上面と前記スピーカボックスの下面との間に空隙が確保される長さが付与されて前記水平支持面に当接支持される少なくとも3本の短寸支脚が垂設されており、前記スピーカボックスに設けられる少なくとも2本以上の前記長寸支脚には、前記貫通孔の下方に位置する部位に抜脱阻止片が付設されていることを特徴としている。
【0017】
このような本発明にかかる音響再生装置においては、その設置時に、アンプボックスの上面とスピーカボックスの下面との間に形成される空隙を介して、スピーカとアンプとが相互に離間されることになる。このように、本発明にかかる音響再生装置においては、スピーカユニットの音響振動がアンプユニット側に伝達しない配置関係を確保することにより、当該スピーカユニットによって生成される音響振動がアンプボックスとアンプユニットとに直接的に伝達しなくなり、振動に起因する悪影響を低減した状態での使用が可能となる。また、本発明にかかる音響再生装置においては、スピーカを持ち上げた場合には、その長寸支脚に付設されている抜脱阻止片がアンプボックスの貫通孔に当接し、当該アンプボックスを下支えすることになる。そのため、本発明にかかる音響再生装置においては、スピーカとアンプとをともに1つの装置として同時に持ち運ぶことが可能となる。
【0018】
ここで、本発明にかかる音響再生装置において、前記スピーカボックスに設けられる前記長寸支脚のうちの1本は、前記スピーカの重心位置を含む近傍領域の直下に垂設されているのが望ましい。これにより、本発明にかかる音響再生装置においては、音響的に望ましい状態を確保しながらも、より安定的に水平支持面に支持させることができる。
【0019】
また、本発明にかかる音響再生装置において、前記アンプユニット側から前記スピーカユニット側へと引き出される所要本数からなるケーブルのうちの一部は、前記スピーカボックスに設けられる前記長寸支脚の内部に挿通されて前記スピーカへと引き込まれているのが望ましい。これにより、本発明にかかる音響再生装置においては、人目に晒さないようにケーブルを引き回すことが可能となり、当該音響再生装置の外観についての美感を損なうことなく適所に設置することが可能となる。
【0020】
さらに、本発明にかかる音響再生装置において、前記スピーカには、前記アンプとともに傾倒させてその位置を移動する際に用いる車輪が、その設置時には前記水平支持面から浮いた状態となるように前記スピーカボックス側から延設された支腕部に当該支腕部の長さ方向と直交する周方向と位置移動方向とへ向けての回転を自在に軸支されているのが望ましい。このように、本発明にかかる音響再生装置においては、その設置時には水平支持面から浮いた状態となり、アンプユニットとともにスピーカを傾倒させた際に水平支持面と接触する車輪を設けることにより、当該車輪を介して位置移動を容易に行うことができる。
【0021】
さらにまた、本発明にかかる音響再生装置において、前記貫通孔の内周面には、振動絶縁層が形成されているのが望ましい。これにより、本発明にかかる音響再生装置においては、スピーカボックスに設けられた長寸支脚を介して伝達されるスピーカユニットからの音響振動を、より確実に吸収・緩和させることができることから、アンプユニットが受けるスピーカユニットの音響振動に由来する悪影響をそれだけ低減することができる。
【0022】
また、本発明にかかる音響再生装置において、前記スピーカが備える前記スピーカユニットは、フィールドコイルによるボイスコイルの磁気ギャップへの磁束供給が可能に形成されており、前記アンプが備える前記アンプユニットは、少なくとも、電源回路と、当該電源回路から給電される定常的動作電流で動作しているアンプ回路とを有し、前記電源回路から給電される前記アンプ回路の動作電流は、励磁用電流に代わる前記フィールドコイルを励磁させるための電流としても供給されるのが望ましい。
【0023】
このような本発明にかかる音響再生装置においては、スピーカユニットが有するフィールドコイルに対しては、電源回路から給電される定常的動作電流で動作しているアンプ回路側のためのバイアス電流を励磁用電流の代わりに用いることができるため、スピーカ及びアンプとは別個に励磁用電源も用意することなくフィールドコイルを励磁することができる。したがって、本発明にかかる音響再生装置においては、無駄な電力消費を抑制することができ、ケーブルの引き回しを含めた装置構成の簡素化を図ることができる。
【0024】
さらに、本発明にかかる音響再生装置においては、前記電源回路が有する平滑回路としての大容量電解コンデンサ、具体的にはπ型リップルフィルタに、少なくとも10Ω以下の抵抗を接続することにより、ハム音の効果的な減少を図ったり、音の吐き出し効果を改善したりすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、スピーカの音響振動の影響をアンプ側が受けないようにした状態でアンプユニットとスピーカユニットとを一体化させることができるにもかかわらず、優れた可搬性も実現することができる。また、本発明によれば、アンプユニットの回路構成を工夫することにより、無駄な電力消費を抑制するとともに、ハム音を減少させた高音質の再生を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
この実施の形態は、各別に形成されたスピーカとアンプとを、フィールドコイル型のスピーカユニット側の振動がアンプユニット側に伝達することがないように一体化させた音響再生装置である。特に、この音響再生装置は、動作電流が真空管に比べて1桁大きいというトランジスタの特徴を巧みにとらえることにより、「従来の永久磁石型スピーカに劣るフィールドコイル型スピーカ」という認識を払拭した「永久磁石型スピーカを超えるフィールドコイル型スピーカ」を実現したことによって考案されたものであり、スピーカの音響振動の影響をアンプ側が受けないようにした状態でアンプユニットとスピーカユニットとを一体化させることができるにもかかわらず、優れた可搬性も実現することができるものである。また、この音響再生装置は、無駄な電力消費を抑制するとともに、トランジスタアンプ及び大容量電解コンデンサを搭載することによってハム音も減少させ、高音質の再生を実現することができるものである。
【0028】
図1に、音響再生装置を床面等の水平支持面に載置した際における一部を切り欠いた状態での正面図を示し、図2に、運搬時等の当該音響再生装置を持ち上げた状態での正面図を示し、図3に、図1に対応させた当該音響再生装置の底面図を示す。
【0029】
音響再生装置11は、スピーカボックス13の内部に所要のスピーカユニット17を収容してなるフィールドコイル型のスピーカ12と、アンプボックス33の内部に所要のアンプユニット40を収容してスピーカ12の下方に配設されるアンプ32とを備える。
【0030】
スピーカ12は、少なくとも、所要容積の内部空間を有して木材等を含む各種素材を用いて形成された形成されたスピーカボックス13と、このスピーカボックス13の内部に収容された所要のスピーカユニット17とを有する。
【0031】
スピーカユニット17は、永久磁石型やフィールドコイル型(電磁石型)等からなり、その振動板18の側をスピーカボックス13の前面14から外部へ臨むように当該スピーカボックス13の内部に収容されている。
【0032】
また、スピーカボックス13の下面15には、その設置時に水平支持面Fに安定的に当接支持される同一長の少なくとも3本の長寸支脚19が垂設されている。なお、図1乃至図3においては、3本の長寸支脚19が設けられている様子を示している。これら長寸支脚19は、それぞれ、アンプボックス33の対応部位の上下方向に各別に穿設されている貫通孔37であってその内周面に後述する振動絶縁層38が形成されている貫通孔37に遊挿させた状態で水平支持面Fに当接支持されている。また、長寸支脚19には、それぞれ、対応する貫通孔37のそれぞれの下方に位置する同一部位に、例えば鍔状といった当該貫通孔37と当接する所要の形状及びサイズが付与された抜脱阻止片20が付設されている。なお、スピーカボックス13の上面には、図2に示すような運搬時等に把持するための取っ手Hが設けられている。
【0033】
一方、アンプ32は、少なくとも、スピーカボックス13における下面15側の平面サイズと略同一の平面サイズを有して金属材等を用いて形成された所要容積の内部空間を有するアンプボックス33と、このアンプボックス33の内部に収容された例えばA級アンプ回路等からなる所要の性能が付与されたアンプユニット40とを有する。
【0034】
また、貫通孔37のそれぞれの近傍に位置するアンプボックス33の下面35には、その設置時に水平支持面Fに安定的に当接支持される同一長の少なくとも3本の短寸支脚39が垂設されている。なお、図1乃至図3においては、3本の短寸支脚39が設けられている様子を示している。
【0035】
ここで、スピーカボックス13の各長寸支脚19とアンプボックス33の各短寸支脚39との間の相互の長さ関係は、スピーカボックス13が当該長寸支脚19を介して水平支持面Fに支持されるとともに、アンプボックス33が当該短寸支脚39を介して水平支持面Fに支持された際に、アンプボックス33の上面34とスピーカボックス13の下面15との問に所要の空隙Sを確保することができる関係にあるものとされる。すなわち、スピーカボックス13に設けられる長寸支脚19は、それぞれ、図1に明示するように、アンプボックス33に設けられる短寸支脚39のそれぞれの長さに当該アンプボックス33の高さ寸法を加えた長さを少なくとも若干上回る程度の長さが付与されて形成されたものとされる。
【0036】
また、スピーカボックス13の各長寸支脚19とアンプボックス33の各短寸支脚39との間の相互の位置関係は、例えば図3に示すように、スピーカボックス13に設けられる長寸支脚19のうちの1本が、スピーカ12の重心位置を含む近傍領域の直下、すなわち、スピーカユニット17の略直下に位置する下面15に垂設されたものとなっている。また、残余の2本の長寸支脚19は、スピーカボックス13の下面15における後側に位置する左右の各隅部15a,15bの近傍位置に音質を考慮して垂設されている。すなわち、音響再生装置11においては、計3点にてスピーカ12を安定的に支持することができるように長寸支脚19が配設されている。
【0037】
一方、アンプボックス33の各短寸支脚39は、例えば図1乃至図3に示すように、スピーカ12の重心位置を含む近傍領域の直下に垂設されているスピーカボックス13の長寸支脚19の前側若しくは後側に1本垂設され、スピーカボックス13の下面15における後側に位置する左右の各隅部15a,15bの近傍に位置する2本の長寸支脚19の外側に位置するように、アンプボックス33の下面35における各隅部35a,35bのそれぞれに残余の2本を1本ずつ垂設される。なお、これら短寸支脚39の配置は、一例であり、短寸支脚39は、アンプボックス33の下面35における所望の位置に各別に垂設されればよい。これにより、音響再生装置11において、アンプ32は、スピーカ12と同様に、計3点にて安定的に支持されることになる。
【0038】
なお、アンプボックス33に設けられている貫通孔37は、それぞれ、その内周面37aに、振動を減衰する振動絶縁の防振ゴム等の防振材や制振材からなる振動絶縁層38が形成されている。このため、スピーカボックス13に設けられる長寸支脚19は、それぞれ、振動絶縁層38に接触する状態のもとで、対応する貫通孔37のそれぞれに遊挿されることになる。
【0039】
さらに、アンプボックス33内部のアンプユニット40側からスピーカボックス13内部のスピーカユニット17側へと引き出される所要本数からなるケーブルのうち、例えば2本の信号用のケーブルは、スピーカボックス13に設けられる長寸支脚19のいずれか1本の内部に設けられた図示しないガイド孔に挿通させることにより、スピーカ12へと引き込むことができるようになっている。また、他方の長寸支脚19の内部には、図示しないフィールドコイルに供給する2本の電流用のケーブルを挿通させることができるようになっている。
【0040】
また、スピーカ12には、図4及び図5に示すように、アンプ32とともに傾倒させてその位置を移動する際に用いる車輪24を、その設置時には水平支持面Fから浮いた状態となるようにスピーカボックス13側から対となって延設された各支腕部23に、当該支腕部23の長さ方向と直交する周方向と位置移動方向とへ向けての回転を自在に軸支させておくこともできる。
【0041】
なお、図4に示す例においては、スピーカボックス13の背面16側における左右両側からアンプボックス33よりもやや下方にまで到達する長さを有する支腕部23が各別に対となって延設されており、これら各支腕部23の先端部には、キャスターからなる車輪24が回転自在に軸支されている。また、図5に示す例においては、スピーカボックス13の前面14側における左右両側からアンプボックス33よりもやや下方にまで到達する長さを有する支腕部23が各別に対となって延設されており、これら各支腕部23の先端部には、キャスターからなる車輪24が回転自在に軸支されている。なお、音響再生装置11においては、これら図4及び図5に示すように、その位置を移動する際に把持するための把持用ハンドル25を付設しておくこともできる。
【0042】
このような構成からなる音響再生装置11においては、その設置時には、アンプ32の上にスピーカ12が位置する配置関係のもとで、スピーカ12に設けられた各長寸支脚19とアンプ32に設けられた各短寸支脚39とを介して、これらスピーカ12及びアンプ32のそれぞれが水平支持面Fに同時に支持されることになる。
【0043】
ここで、スピーカボックス13の長寸支脚19は、それぞれ、上述したように、アンプボックス33に設けられる短寸支脚39のそれぞれの長さに当該アンプボックス33の高さ寸法を加えた長さを少なくとも若干上回る程度の長さが付与されて形成されたものとされる。そのため、音響再生装置11においては、その設置時には、アンプボックス33の上面34とスピーカボックス13の下面15との間に形成される空隙Sを介して、スピーカ12とアンプ32とが相互に離間されることになる。
【0044】
したがって、音響再生装置11においては、当該音響再生装置11を駆動させて再生音を楽しむ際に、スピーカ12のスピーカユニット17によって生成される音響振動がアンプボックス33とアンプユニット40とに直接的に伝達しないようにすることができる。特に、音響再生装置11においては、貫通孔37の内周面37aに振動絶縁層38が高度に形成されている場合には、スピーカボックス13に設けられた長寸支脚19を介して伝達されるスピーカユニット17からの音響振動を、より確実に吸収・緩和させることができることから、アンプユニット40が受けるスピーカユニット17の音響振動に由来する悪影響をそれだけ低減することができる。
【0045】
また、音響再生装置11においては、スピーカボックス13に設けられた長寸支脚19のうちの1本が、スピーカ12の重心位置を含む近傍領域の直下に垂設されていることから、音響的に望ましい状態を確保しながらも、より安定的に水平支持面Fに支持させることができる。
【0046】
さらに、音響再生装置11においては、先に図2に示したように、取っ手Hを把持してスピーカ12側を持ち上げた場合には、その長寸支脚19に付設されている抜脱阻止片20がアンプボックス33の貫通孔37に当接し、当該アンプボックス33を下支えすることになる。そのため、音響再生装置11においては、スピーカ12とアンプ32とをともに1つの装置として同時に持ち運ぶことが可能となる。
【0047】
さらにまた、音響再生装置11においては、アンプボックス33の内部のアンプユニット40側からスピーカボックス13の内部のスピーカユニット17側へと引き出されるケーブルのうち、例えば2本の信号用のケーブルをスピーカボックス13に設けられる長寸支脚19のいずれか1本の内部に挿通させてスピーカ12へと引き込むことができ、且つ、他方の長寸支脚19の内部にフィールドコイルに供給する2本の電流用のケーブルを挿通させることができるため、人目に晒さないようにケーブルを引き回すことが可能となり、当該音響再生装置11の外観についての美感を損なうことなく適所に設置することができる。
【0048】
また、音響再生装置11においては、スピーカ12をアンプ32とともに傾倒させてその位置を移動する際に用いる車輪24が、スピーカボックス13側に付設されていることから、先に図4に示したように、スピーカ12を後方に傾倒させたり、先に図5に示したように、スピーカ12を前方に傾倒させたりしながら、把持用ハンドル25を把持した状態で車輪24を水平支持面Fに接触させて回転させることにより、当該音響再生装置11の全体を所望の位置へと容易に移動させることができる。
【0049】
特に、音響再生装置11においては、スピーカ12に設けられた長寸支脚19が先に図3に示した配置関係で垂設されている場合には、図5に示した状態で車輪24を配置しておくことにより、仮に地震等があったとしても、スピーカボックス13の前面14側に位置する1本の長寸支脚19に対する補助輪(補助脚)として当該車輪24を機能させることができるため、確実に転倒を防止することができる。
【0050】
さて、このような構成からなる音響再生装置11において、スピーカ12が有するスピーカユニット17がフィールドコイル型(電磁石型)のものである場合には、アンプ32が有するアンプユニット40として、例えば図6に示すような回路構成のものを備える。なお、同図中破線で示す部分が、アンプ32がアンプボックス33の内部に収容されたアンプユニット40を示している。
【0051】
すなわち、アンプユニット40は、同図に示すように、駆動電源を供給する電源回路41と、この電源回路41からの給電を受けて音声信号を増幅してスピーカユニット17のボイスコイル26側に供給するA級アンプ回路等の定常的動作電流で動作しているアンプ回路51とを有する。
【0052】
電源回路41は、所定の交流電源42と、この交流電源42から供給される交流電力の電圧を変圧する変圧器43と、この変圧器43を介して供給される変圧後の交流電流を直流電流に整流するブリッジ形全波整流回路44と、このブリッジ形全波整流回路44を経て整流された直流電流から交流成分を除去するπ型リップルフィルタ45からなる平滑回路とを有する。この電源回路41は、A級アンプ回路等の定常的動作電流で動作しているアンプ回路51側に駆動電流を供給することができるように当該アンプ回路51と接続されている。
【0053】
ここで、大容量コンデンサであるπ型リップルフィルタ45には、抵抗Rを接続する、若しくは、同図に例示するように抵抗RとインダクタンスLとを接続することもできる。アンプユニット40は、π型リップルフィルタ45に抵抗Rのみを接続した場合には、ハム音を減少させることができ、π型リップルフィルタ45に抵抗RとインダクタンスLとを接続した場合には、望ましい音の吐き出しを得ることができる。なお、この場合、π型リップルフィルタ45としては、1000〜10000μF程度といった1000μF以上の大容量コンデンサが用いられ、抵抗Rとしては、0.01〜10Ω程度といった10Ω以下のものが用いられる。また、インダクタンスLとしては、得たい音質に応じて0.1〜10Hの範囲で適宜選択することができる。
【0054】
一方、A級アンプ回路等の定常的動作電流で動作しているアンプ回路51は、音声信号を入力する入力端子52と、この入力端子52を介して入力された入力信号を増幅するプリアンプ部53と、このプリアンプ部53からの出力信号をさらに増幅する出カトランジスタ54とを有する。アンプユニット40においては、このようなアンプ回路51からの出力信号をスピーカユニット17のボイスコイル26に供給し、このボイスコイル26に直接連結されている振動板18を振動させることにより、音響を再生することができるように構成される。
【0055】
なお、スピーカユニット17が有するフィールドコイル27は、音声出力がないときにおいても出カトランジスタ54に流れているバイアス電流を主として含む電流であってアンプ32に定常的に流れている電流を励磁用電流の代わりに受け、ボイスコイル26の磁気ギャップに磁束を供給することができるように形成されている。
【0056】
また、アンプ32が有するアンプユニット40としては、アンプ回路51からの出力信号をそのままスピーカユニット17のボイスコイル26に供給するのではなく、例えば図7に示すように、変圧器56を介してスピーカユニット17のボイスコイル26に給電するような回路構成のものであってもよい。
【0057】
音響再生装置11においては、このようなアンプユニット40を備えることにより、スピーカ12及びアンプ32とは別個に励磁用電源も用意することなくフィールドコイル27を励磁することができる。したがって、音響再生装置11においては、無駄な電力消費を抑制することができ、ケーブルの引き回しを含めた装置構成の簡素化を図ることができる。
【0058】
また、音響再生装置11においては、π型リップルフィルタ45に少なくとも10Ω以下の抵抗Rを接続することにより、ハム音の効果的な減少を図ったり、音の吐き出し効果を改善したりすることができる。
【0059】
このことは、真空管型アンプを用いた場合のフィールドコイルの目的とは基本的に異なるものであり、音響再生装置11においては、トランジスタ、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor;FET)、静電誘導形トランジスタ(Static Induction Transistor;SIT)アンプの動作電流が真空管に比べて1桁大きいこと、及び、平滑回路として大容量電解コンデンサを用いていることにより、ハム音を減少させた良好な音響を得ることが可能となる。
【0060】
以上説明したように、本発明の実施の形態として示す音響再生装置11においては、スピーカ12の音響振動の影響をアンプ32側が受けないようにした状態でアンプユニット40とスピーカユニット17とを一体化させることができるにもかかわらず、優れた可搬性も実現することができる。また、この音響再生装置11においては、無駄な電力消費を抑制することができるとともに、ハム音も効果的に減少させることができ、高音質の再生を実現することができる。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施の形態では、長寸支脚19及び短寸支脚39のそれぞれの本数が3本の場合について説明したが、本発明においては、少なくとも3本以上であれば4本若しくはそれ以上の本数設けてもよく、また、長寸支脚19と短寸支脚39との本数を異ならせてもよい。
【0062】
また、スピーカ12の重心位置を含む近傍領域の直下に垂設される長寸支脚19は、あくまでもスピーカユニット17の位置との関係でその垂設位置が決まるものである。したがって、音響再生装置11においては、仮にスピーカボックス13の前面14側ではなく側面側に、振動板18が位置するように収容される場合には、これに対応する重心位置側に長寸支脚19が垂設されることになる。
【0063】
さらに、上述した実施の形態では、全ての長寸支脚19に抜脱阻止片20が付設されるものとして説明したが、音響再生装置11においては、いずれか2本の長寸支脚19に抜脱阻止片20を付設しておけばよい。すなわち、本発明においては、長寸支脚19のうち少なくとも2本以上に抜脱阻止片を付設しておけば、アンプ32側からの抜脱を阻止することができる。また、本発明においては、各貫通孔37の内周面37aに必ずしも振動吸収層38を設けなくてもよく、必要に応じて、振動吸収層38を一切設けなかったり、一部の貫通孔37にのみ設けておいたりしてもよい。
【0064】
さらにまた、アンプユニット40としては、整流回路が1つの場合でも、+−電源の場合には、ステレオのLチャンネルとRチャンネルとのそれぞれのフィールドコイル双方を同時に駆動可能なものとすることができる。この具体例を図8に示す。すなわち、音響再生装置11においては、従来のA級動作のSEPP(Single
Ended Push Pu11)アンプにおける正負の供給電源用回路に用いられている+電源側と−電源側のそれぞれの電源リップル平滑用のπ型フィルタに接続する抵抗R1,R2の代わりに、同図に示すように、Lチャンネルスピーカ101のフィールドコイル102とRチャンネルスピーカ103のフィールドコイル104とをそれぞれ接続し、これらフィールドコイル102,104への電流供給を可能とすることができる。なお、同図における抵抗R1,R2は、フィールドコイル102,104が接続された場合には、除去せずに抵抗値を高くして音質の調整に用いる。
【0065】
また、アンプユニット40としては、+−電源の整流回路をLチャンネルとRチャンネルとのそれぞれに独立に用意した回路構成の場合には、2ウェイのフィールドコイル型スピーカを駆動可能なものとすることができる。この具体例を図9に示す。なお、各チャンネルの回路は全く同一であることから、同図には、Lチャンネルのみを示している。すなわち、音響再生装置11においては、+−電源の電源リップル平滑用のπ型フィルタに接続する抵抗R1,R2の代わりに、同図に示すように、ウーファー111用のフィールドコイル112とツイーター113用のフィールドコイル114とをそれぞれ接続し、これらフィールドコイル112,114への電流供給を可能とすることができる。なお、同図における抵抗R1,R2も、フィールドコイル112,114が接続された場合には、除去せずに抵抗値を高くして音質の調整に用いることになる。なお、音響再生装置11においては、ウーファー111とツイーター113とについて、スピーカの動作によってフィールドコイル112,114に流れる電流に若干違いが生じるが、正負電源は、電圧のみならず、例えばインピーダンスや過渡特性といった他の特性をも意図的に完全同一とはせずに異ならせることによって少量の偶数次高調波を発生させることにより、よりクリアな音質にすることも可能となる。
【0066】
さらに、音響再生装置11においては、例えば、各チャンネルにアンプを1台ずつ追加してマルチチャンネル方式とすることにより、アンプとウーファー及びツイーターとの間のネットワークを除去して高音質化を図ることができる。
【0067】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態として示す音響再生装置を水平支持面に載置した際における一部を切り欠いた状態での正面図である。
【図2】本発明の実施の形態として示す音響再生装置を持ち上げた状態での正面図である。
【図3】図1に対応させた本発明の実施の形態として示す音響再生装置の底面図である。
【図4】本発明の実施の形態として示す音響再生装置の使用状況を説明するための図であり、(a)は、スピーカボックスの背面側における左右両側から支腕部が各別に対となって延設された音響再生装置の斜視図であり、(b)は、スピーカを後方に傾倒させた状態でその位置を移動する様子を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態として示す音響再生装置の使用状況を説明するための図であり、(a)は、スピーカボックスの前面側における左右両側から支腕部が各別に対となって延設された音響再生装置の斜視図であり、(b)は、スピーカを前方に傾倒させた状態でその位置を移動する様子を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態として示す音響再生装置におけるアンプユニットの回路構成の具体例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態として示す音響再生装置におけるアンプユニットの回路構成の具体例を示す図であり、図6とは異なる回路構成について説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態として示す音響再生装置におけるアンプユニットの回路構成の具体例を示す図であり、整流回路をLチャンネルとRチャンネルとの双方に共通使用した回路構成について説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態として示す音響再生装置におけるアンプユニットの回路構成の具体例を示す図であり、正負電源のそれぞれのフィールドコイルをウーファー用とツイーター用とに適用した場合の回路構成について説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
11 音響再生装置
12 スピーカ
13 スピーカボックス
14 前面
15,35 下面
15a,15b,35a,35b 隅部
16 背面
17 スピーカユニット
18 振動板
19 長寸支脚
20 抜脱阻止片
23 支腕部
24 車輪
25 把持用ハンドル
26 ボイスコイル
27,102,104,112,114 フィールドコイル
32 アンプ
33 アンプボックス
34 上面
37 貫通孔
37a 内周面
38 振動絶縁層
39 短寸支脚
40 アンプユニット
41 電源回路
42 交流電源
43,56 変圧器
44 ブリッジ形全波整流回路
45 π型リップルフィルタ
51 アンプ回路
52 入力端子
53 プリアンプ部
54 出カトランジスタ
101 Lチャンネルスピーカ
103 Rチャンネルスピーカ
111 ウーファー
113 ツイーター
F 水平支持面
H 取っ手
L インダクタンス
R,R1,R2 抵抗
S 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカボックスの内部に所要のスピーカユニットを収容してなるフィールドコイル型のスピーカと、
アンプボックスの内部に所要のアンプユニットを収容して前記スピーカの下方に配設されるアンプとを備え、
前記スピーカボックスには、前記アンプボックスの上下方向に各別に穿設されている貫通孔に遊挿されて水平支持面に当接支持される少なくとも3本の長寸支脚が垂設されており、
前記アンプボックスには、前記スピーカボックスが前記長寸支脚を介して支持された際に、当該アンプボックスの上面と前記スピーカボックスの下面との間に空隙が確保される長さが付与されて前記水平支持面に当接支持される少なくとも3本の短寸支脚が垂設されており、
前記スピーカボックスに設けられる少なくとも2本以上の前記長寸支脚には、前記貫通孔の下方に位置する部位に抜脱阻止片が付設されていること
を特徴とする音響再生装置。
【請求項2】
前記スピーカボックスに設けられる前記長寸支脚のうちの1本は、前記スピーカの重心位置を含む近傍領域の直下に垂設されていること
を特徴とする請求項1記載の音響再生装置。
【請求項3】
前記アンプユニット側から前記スピーカユニット側へと引き出される所要本数からなるケーブルのうちの一部は、前記スピーカボックスに設けられる前記長寸支脚の内部に挿通されて前記スピーカへと引き込まれていること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載の音響再生装置。
【請求項4】
前記スピーカには、前記アンプとともに傾倒させてその位置を移動する際に用いる車輪が、その設置時には前記水平支持面から浮いた状態となるように前記スピーカボックス側から延設された支腕部に当該支腕部の長さ方向と直交する周方向と位置移動方向とへ向けての回転を自在に軸支されていること
を特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項記載の音響再生装置。
【請求項5】
前記貫通孔の内周面には、振動絶縁層が形成されていること
を特徴とする請求項1乃至請求項4のうちいずれか1項記載の音響再生装置。
【請求項6】
前記スピーカが備える前記スピーカユニットは、フィールドコイルによるボイスコイルの磁気ギャップへの磁束供給が可能に形成されており、
前記アンプが備える前記アンプユニットは、少なくとも、電源回路と、当該電源回路から給電される定常的動作電流で動作しているアンプ回路とを有し、
前記電源回路から給電される前記アンプ回路の動作電流は、励磁用電流に代わる前記フィールドコイルを励磁させるための電流としても供給されること
を特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項記載の音響再生装置。
【請求項7】
前記電源回路は、直流電流から交流成分を除去する大容量電解コンデンサからなる平滑回路を有し、
前記大容量電解コンデンサには、少なくとも10Ω以下の抵抗が接続されていること
を特徴とする請求項6記載の音響再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−259152(P2007−259152A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81708(P2006−81708)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【特許番号】特許第3932367号(P3932367)
【特許公報発行日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】