説明

音響発生装置および信号処理方法

【課題】スピーカに定位しにくく、奥行き感のあるスピーカ再生ができる音響発生装置を提供すること。
【解決手段】音響発生装置1を動作させると、フィルタ4−1,4−2、・・・、4−9は、それぞれ設定された遅延時間と増幅率に応じて、10種の遅延効果をオーディオ信号Saに対して与えるように信号処理して、信号Sb1、Sb2、・・・、Sb9を生成し、アンプ3−1、3−2、・・・、3−9に出力する。そして、9台の異なるスピーカから、それぞれ10種の遅延効果がランダムな遅延時間で放音されることによって、スピーカへの定位感が無くなり、奥行き感を生じさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカに定位しにくく、奥行き感のあるスピーカ再生を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
音場支援システム(室内の残響付加装置)において残響を付加する方法としては、オーディオ信号に対してFIR(Finite Impulse Response)フィルタやIIR(Infinite Impulse Response)フィルタを用いて信号処理を行う方法がある。また、特許文献1に記載されているように、部屋の各所においてスピーカを配置、または仮想スピーカを生成して、オーディオ信号に対して適宜遅延などを行って放音することにより、空間感のある所望の音場を作り出す方法などがある。
【特許文献1】特開2001−016698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1のように、部屋の各所にスピーカを配置した場合、音場合成の効果により空間感のある再生音が得られるポイントは、限られたエリアとなってしまう。また、特にスピーカの近くでは、音像はそのスピーカに定位することになってしまい、自然な残響付加ができなかった。
【0004】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、スピーカに定位しにくく、奥行き感のあるスピーカ再生を行うことにより自然な残響付加ができる音響発生装置および信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明は、入力される信号に対して設定された遅延時間の遅延を行う複数の遅延手段、前記各遅延手段の出力信号に対して設定された増幅率の増幅を各々行う複数の増幅手段、および前記各増幅手段の出力信号を加算する加算手段を有する信号処理手段と、前記信号処理手段の出力信号を放音する放音手段とを有する遅延放音系を複数具備し、前記各遅延放音系の一の遅延手段に設定される遅延時間と、当該遅延手段の出力信号に対して増幅を行う増幅手段に設定される増幅率との組は、所定の伝達特性を時間軸方向に分割して切り出すことにより生成した遅延時間と増幅率との組であって、前記各遅延放音系に設定される各組の態様は、他の遅延放音系に対して異なるように設定されていることを特徴とする音響発生装置を提供する。
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明は、入力される信号に対して設定された遅延時間の遅延を行う複数の遅延手段、前記各遅延手段の出力信号に対して設定された増幅率の増幅を各々行う複数の増幅手段、および前記各増幅手段の出力信号を加算する加算手段を有する信号処理手段と、前記信号処理手段の出力信号を放音する放音手段とを有する遅延放音系を複数具備する音響発生装置において、所定の伝達特性を時間軸方向に分割して切り出すことにより、複数の遅延時間と増幅率とを組にして生成する生成過程と、前記各遅延放音系の一の遅延手段に設定される遅延時間と、当該遅延手段の出力信号に対して増幅を行う増幅手段に設定される増幅率との組に、前記各遅延放音系に設定される各組の態様が他の遅延放音系に対して異なるように、前記生成過程によって生成した遅延時間と増幅率との組を設定する設定過程とを備えることを特徴とする信号処理方法を提供する。
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明は、複数の放音手段と、入力される信号を設定された重み付け係数に基づいて前記入力される信号の振幅を重み付けして時間軸方向に分割し、順次切り出すことにより、複数の信号を生成する信号切り出し手段と、前記信号切り出し手段によって順次切り出された各信号を前記切り出された信号ごとに前記複数の放音手段から選択した放音手段に出力する選択手段とを具備し、前記信号切り出し手段に設定された重み付け係数は、前記切り出された複数の信号を加算することにより元の信号と同等になるように設定され、前記各放音手段は、前記選択手段から出力された信号を放音することを特徴とする音響発生装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スピーカに定位しにくく、奥行き感のあるスピーカ再生を行うことにより自然な残響付加ができる音響発生装置および信号処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る音響発生装置1の構成を示したブロック図であり、図2は、音響発生装置1の外観を示す斜視図である。音響発生装置1は、9台のスピーカ(放音手段)2−1、2−2、・・・、2−9を具備し、図2に示すように、縦横3台ずつ配置されている。スピーカ2−1、2−2、・・・、2−9は、それぞれ接続されているアンプ3−1、3−2、・・・、3−9において増幅された信号に基づき放音する。
【0011】
フィルタ(信号処理手段)4−1、4−2、・・・、4−9は、入力されたオーディオ信号Saに複数の遅延を付与し、遅延を付与された各オーディオ信号を加算するフィルタであって、信号入力部5から入力されたオーディオ信号Saに複数種の遅延効果を付与する信号処理を行って信号Sb1、Sb2、・・・、Sb9を生成し、それぞれ接続されたアンプ3−1、3−2、・・・、3−9に出力する。
【0012】
次に、フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9の構成について、フィルタ4−1を例として説明する。図3は、フィルタ4−1の構成を示すブロック図である。フィルタ4−1は、遅延部(遅延手段)41−1、41−2・・・、41−10と乗算器(増幅手段)42−1、42−2・・・、42−10と加算器(加算手段)43−1、43−2・・・、43−10とを有している。入力されたオーディオ信号Saに対して、遅延部41−1、41−2・・・、41−10は設定された遅延時間に基づいて遅延処理を行い、乗算器42−1、42−2・・・、42−10は遅延処理された信号の振幅を設定された増幅率に基づいて変化させ、加算器43−1、43−2・・・、43−10において遅延、増幅処理された信号を加算することにより、遅延効果を与えた信号Sb1を生成する。この場合、遅延部41−1と乗算器42−1と加算器43−1とによりタップ40−1が構成され、1個のタップによって1種の遅延効果が与えられる。これにより、タップの数によって、遅延の回数が決められる。本実施形態においては、フィルタ4−1は、10個のタップ40−1、40−2・・・、40−10を有し、10種の遅延効果を与えるようになっている。他のフィルタ4−2、4−3、・・・、4−9も同様に10個ずつタップを有している。なお、タップの数は、各フィルタによって異なっていても良い。また、加算器43−1は、図3の態様の場合には、乗算器42−1からの信号入力だけなので、加算処理を行わないが、オーディオ信号Saを加算器43−1に対しても入力するようにしてもよい。
【0013】
次に、フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9への遅延時間と増幅率の設定方法について説明する。本実施形態では、遅延部に設定される遅延時間は、800msまでの間でランダムに設定され、乗算器に設定される増幅率については、遅延時間に対して指数関数的に減少するように設定されている。ここで、これらの設定については、事前に設定されていてもよいし、音響発生装置1の電源を入れたときに、各フィルタが、遅延時間および増幅率を生成して、遅延部と乗算器に設定するようにしてもよい。
【0014】
図4は、フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9に設定された遅延時間と増幅率の関係を示し、横軸は時間軸、すなわち遅延時間、縦軸は増幅率を示している。すなわち、フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9にインパルス信号が入力されると、図4に示すように、インパルス応答が出力され、例えば、フィルタ4−1の場合は、25ms後に入力されたインパルス信号の0.88倍の大きさのインパルス応答、順に29ms後に0.86倍、209ms後に0.39倍、・・・、774ms後に0.02倍の大きさのインパルス応答が得られ、合計10回のインパルス応答を出力するようになっている。図5は、本実施形態の伝達特性を示すものであり、図4に示すフィルタ4−1、4−2、・・・、4−9に設定された時間軸方向で分割された伝達特性の効果を全て合わせて表記したものである。このようにオーディオ信号に合計90種の遅延効果を与えることにより、全体としてリバーブ効果が得られる。
【0015】
このように、フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9は、タップをそれぞれ10個ずつ有することにより、ランダムに設定された遅延時間、遅延時間に対して指数関数的に減少する増幅率で、800msまでの間に10種の遅延効果をオーディオ信号Saに付与するように信号処理して、信号Sb1、Sb2、・・・、Sb9を生成することができる。
【0016】
そして、このような音響発生装置1を動作させると、フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9は、それぞれフィルタにおいて設定された遅延時間と増幅率に応じて、10種の遅延効果をオーディオ信号Saに付与するように信号処理して、信号Sb1、Sb2、・・・、Sb9を生成し、アンプ3−1、3−2、・・・、3−9に出力する。そして、9台の異なるスピーカから、それぞれ10種の遅延効果がランダムな遅延時間で放音されることによって、スピーカへの定位感が無くなり、奥行き感を生じさせることができる。
【0017】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る音響発生装置1の構成は、第1実施形態におけるフィルタ4−1、4−2・・・、4−9をFIRフィルタとしたものである。以下、第2実施形態においては、フィルタ4−1、4−2・・・、4−9は、FIRフィルタ4−1、4−2・・・、4−9と表記する。
【0018】
FIRフィルタ4−1、4−2・・・、4−9は、所定の音響効果を持つ部屋のインパルス応答を入力されたオーディオ信号Saに対して畳み込むフィルタである。ここで、各FIRフィルタに設定する係数は、図7に示すようなcos(αt+β)(α、βは所定の係数、tは時刻を示す)の割合で部屋のインパルス応答に重み付けをして切り出した部分としている。この重み付けは、分割部分によるノイズの発生を防止するために行う。例えば、FIRフィルタ4−1に設定される係数は、図7における重み付け係数aによって部屋のインパルス応答から切り出された係数であり、FIRフィルタ4−2には重み付け係数b、FIRフィルタ4−3には重み付け係数c、・・・として、各FIRフィルタにそれぞれ異なる係数が設定されている。なお、各FIRフィルタに設定される係数は、一の重み付け係数で切り出された係数だけでなく、複数の重み付け係数で切り出された係数であってもよい。また、重み付け係数は、図7のような形状に限らず、どのような形状であってもよく、それぞれの重み付け係数によって切り出された係数を加算すると、もとのインパルス応答になるような重み付け係数が好ましい。
【0019】
このようにしてFIRフィルタ4−1、4−2・・・、4−9に係数が設定されることにより、FIRフィルタ全体としては、入力されたオーディオ信号Saに対して、当該インパルス応答を畳み込むフィルタとなっている。一方、各FIRフィルタの係数は、インパルス応答から切り出された係数が設定されている。そのため、9台の異なるスピーカから、それぞれ異なったインパルス応答の部分が畳み込まれたオーディオ信号が放音されるため、スピーカへの定位感が無くなり、奥行き感を生じさせることができる。
【0020】
<第3実施形態>
図6は、本発明の第3実施形態に係る音響発生装置11の構成を示したブロック図である。音響発生装置11は、第1実施形態に係る音響発生装置1と同様に、9台のスピーカ(放音手段)2−1、2−2、・・・、2−9を具備し、図2に示すように、縦横3台ずつ配置されている。スピーカ2−1、2−2、・・・、2−9は、それぞれ接続されているアンプ3−1、3−2、・・・、3−9において増幅された信号に基づき放音する。
【0021】
フィルタ14は、FIRフィルタであって、信号入力部5から入力されたオーディオ信号Saに対して、ディレイ効果やリバーブ効果を与える信号を畳み込むように信号処理を行った信号Scを生成し、信号分配部6に出力する。なお、フィルタ14は、FIRフィルタに限らず、ディレイ効果やリバーブ効果を与えることができる信号処理ならどのようなものでもよいし、フィルタ14を用いなくてもよい。
【0022】
信号分配部6は、フィルタ14から出力された信号Scから一定時間ごとに切り出した信号Sc−1、Sc−2、・・・Sc−nを生成(信号切り出し手段)し、アンプ3−1、3−2、・・・、3−9のいずれかをランダムに選択(選択手段)して出力する。ここで、図中の信号Sd1、Sd2、・・・、Sd9は、それぞれアンプ3−1、3−2、・・・、3−9に出力されている信号を示す。そして、信号分配部6が信号を切り出す際には、分割部分によるノイズの発生が起きないように、図7に示すように、cos(αt+β)(α、βは所定の係数、tは時刻を示す)の割合で信号の振幅に重み付けをして切り出す。なお、本実施形態においては、信号分配部6は、信号Scから一定時間ごとに信号Sc−1、Sc−2、・・・Sc−nを切り出していたが、一定時間ごとでは無く、切り出す度に時間を変更してもよい。また、図7のような重み付け係数に限らず、切り出された信号を加算すると元の信号になるような重み付け係数であれば、どのような重み付け係数であってもよい。
【0023】
本実施形態における信号分配部6について、具体的に、図8を用いて説明する。図8は、信号分配部6が信号Scから切り出して信号Sc−1、Sc−2、・・・Sc−nを生成して、アンプ3−1、3−2、・・・、3−9に出力する波形の様子を示す説明図である。信号分配部6は、フィルタ14から出力された信号Scを8msごとに16msの時間幅で、上述した図7に示すような重み付けを行って切り出し、信号Sc−1、Sc−2、・・・、Sc−nを生成する。すなわち、信号Sc−1、Sc−2、・・・、Sc−nは、それぞれ16msの時間幅であり、信号Sc−mの始点とSc−m+1の始点は、8msずれている。そして、信号分配部6は、信号Sc−1、Sc−2、・・・、Sc−nを切り出された信号ごとに、各アンプ3−1、3−2、・・・、3−9からランダムに選択して順次出力する。ここでは、信号Sc−1はアンプ3−1に信号Sd1として、信号Sc−2はアンプ3−3に信号Sd3として、信号Sc−3はアンプ3−9に信号Sd9として順次出力される。
【0024】
信号Sc−1、Sc−2、・・・、Sc−nは、重み付けされている結果、それぞれの始点から8ms経過するまでの前半は振幅が大きくなり、その後終点までの後半は振幅が小さくなるため、この信号Sc−1、Sc−2、・・・、Sc−nに基づいて放音すると、振幅に応じて音量が増減してしまう。しかし、信号Sc−2を例にとると、信号Sc−2の前半に振幅が大きくなっても、その直前の信号である信号Sc−1の後半の振幅が小さくなっているから、両者が放音されることにより、お互いの音量の増減が補填され、全体としては、音量変化がない。また、信号Sc−2の後半については、信号Sc−3の前半によって音量が補填されるため、音量変化がない。これは、信号分配部6によって切り出された信号Sc−1、Sc−2、・・・、Sc−nをすべて加算すると、もとの信号Scに戻るように重み付けが設定されていることによる。
【0025】
信号分配部6は、このようにして、8msごとに16msの時間幅で信号Scを切り出した信号Sc−1、Sc−2、・・・、Sc−nを切り出された信号ごとに、各アンプ3−1、3−2、・・・、3−9からランダムに選択して順次出力することにより、ランダムに選択されたスピーカから順次放音されることになる。切り出す際には、上述のように振幅に重み付けがされているためにノイズが少なく、また、信号Sc−1、Sc−2、・・・、Sc−nに基づく放音の音量の増減は、当該放音の前後の放音によって補填されるため、全体として一定の音量を保つようになっている。
【0026】
このようにすると、ディレイ効果やリバーブ効果を与えられたオーディオ信号が、一定時間ごとにランダムに選択されたスピーカから順次放音されることにより、第1実施形態の場合と同様に、スピーカへの定位感が無くなり、奥行き感を生じさせることができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
【0028】
<変形例1>
第1実施形態においては、フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9の信号処理のパラメータである遅延時間はランダムに設定したが、遅延時間を予め一定の法則に基づいて作成してもよい。また、増幅率については、遅延時間に対して指数関数的に減少するような伝達特性としたが、一定の増幅率にして、時間に対して減少するようにしなくてもよい。また、遅延の種類の数、遅延時間および増幅率については、部屋の伝達特性として、音響シミュレーションを用いて計算した結果から決定してもよいし、所定の空間におけるインパルス応答を測定して決定したものを用いてもよい。この場合は、図9に示すように、遅延時間と増幅率の関係を示す情報を記憶する記憶手段を有する制御部7が、遅延時間と増幅率の関係に基づいて決定した値を任意に振り分けて各フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9に設定すればよい。このようにすれば、より精度の高いリバーブ効果を得ることができる。
【0029】
<変形例2>
第1実施形態においては、各フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9の信号処理のパラメータである遅延効果の遅延時間はランダムに設定したが、一定時間ごとに各フィルタの各遅延部に設定すべき遅延時間を新たにランダムな値として生成し、当該遅延部に設定されている遅延時間を更新することにより、遅延効果を時間変化させるようにしてもよい。そして、増幅率についても遅延時間に応じて変更すればよい。この場合、図9に示すように各フィルタに制御部7を接続し、遅延時間と増幅率を一定時間ごとに更新するように制御させるようにした音響発生装置21とすればよい。このようにすれば、本発明の効果を高めることができる。なお、遅延効果に時間変化をもたせることができれば、本変形例の効果を得られるため、遅延時間と増幅率の更新は一定時間ごとでなくてもよい。例えば、制御部7に最小時間と最大時間を設定しておき、制御部7は、更新を行った後、その設定された時間の範囲内において、ランダムに時間を選択し、その時間経過後に遅延時間と増幅率の更新を行うようにすればよい。また、制御部7は、設定されたパラメータを変更するだけでなく、音響発生装置1の電源を入れた後、各フィルタのパラメータを設定するようにしてもよい。
【0030】
<変形例3>
第1、2実施形態においては、図2に示すように9台のスピーカ2−1、2−2、・・・、2−9を配置し、それぞれ別のフィルタによって信号処理されたオーディオ信号に基づいて放音していたが、1つのフィルタによって信号処理されたオーディオ信号に基づいて放音するスピーカを複数台設けてもよい。例えば、図10に示すように、縦横に9台として81台のスピーカ2−1、2−2、・・・、2−81を用い、1つのフィルタによって信号処理されたオーディオ信号に基づいて放音するスピーカを9台として、ランダムに配置すればよい。この場合は、アンプ3−1、3−2、・・・、3−9に対して、それぞれスピーカを9台ずつ接続するようにすればよい。例えば、アンプ3−1は、スピーカ2−1、2−12、2−25、2−36、2−38、2−46、2−59、2−67、2−75の9台に接続される。このようにすると、さらに広範囲から放音され、本発明の効果を高めるとともに、音量を大きくすることもできる。なお、アンプ3−1、3−2、・・・、3−9にそれぞれ接続されている9台のスピーカを一定時間ごとに他のスピーカと変更するようにしてもよい。この場合は、図11に示すように接続スイッチ8をアンプ3−1、3−2、・・・、3−9とスピーカ2−1、2−2、・・・、2−81の間に設けるようにして、一定時間ごとに各アンプに接続される9台のスピーカが切り替わるようにした音響発生装置31とすればよい。また、81台のスピーカを平面状に配置したが、直線状に配置してもよいし、自在に位置を変更できるようになっていてもよい。
【0031】
<変形例4>
各実施形態においては、オーディオ信号はモノラルの信号を用いていたが、ステレオ、その他マルチチャンネルの信号に対応させてもよい。その場合は、それぞれのチャンネルごとに、第1、第2実施形態のような処理をするようにすればよい。また、第1実施形態の場合は、フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9の遅延時間などのパラメータを互いに相関が小さくなるように設定してディレイ効果やリバーブ効果を与えることで、より空間感を大きくすることができる。
【0032】
<変形例5>
第1実施形態においては、各フィルタに設定された10種の遅延効果の遅延時間はランダムに決められていたが、所定の時間(例えば初期の50ms程度)までに含まれる初期の数種の遅延効果の遅延時間については、ランダムに決定するのではなく、全てのスピーカから同時に放音されるように全てのフィルタに同じ遅延時間を設定しておき、以降の遅延効果の遅延時間についてはランダムに決めるようにしてもよい。このようにすると、音量を確保し、明瞭な音として放音することができる。なお、全てのスピーカでなく、複数のスピーカが同時に放音されるようになっていればよい。また、初期の数種の遅延効果でなく、全体の遅延効果のうち数種の遅延効果が同時に放音されるようにしてもよい。
【0033】
<変形例6>
第1実施形態においては、フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9それぞれに対して、遅延時間などのパラメータを設定していたが、所定のアルゴリズムで遅延時間、増幅率を示すパラメータの組を生成して伝達特性を決定してから、伝達特性を時間軸方向に分割してフィルタ4−1、4−2、・・・、4−9に分配し、各フィルタの遅延部と乗算器に設定するようにしてもよい。この場合、図12のように、パラメータ生成部9を設けた音響発生装置41とし、音響発生装置41の電源を入れたときに、パラメータ生成部9は、それぞれのパラメータをランダムに生成し、フィルタ4−1、4−2、・・・、4−9に対してランダムに分配して、各フィルタの遅延部と乗算器にパラメータを設定すればよい。このようにすると、使用の度に異なった放音状況とすることができる。
【0034】
<変形例7>
第3実施形態においては、信号入力部5から入力されたオーディオ信号に対して、フィルタ14においてディレイ効果やリバーブ効果を与えたが、一般のリバーブ等を用いた音源等を用いてもよい。この場合は、当該音源等の出力信号を信号分配部6に供給するようにすればよい。
【0035】
<変形例8>
第2実施形態においては、FIRフィルタ4−1、4−2・・・、4−9は、所定の音響効果を持つ部屋のインパルス応答を入力されたオーディオ信号Saに対して畳み込むフィルタであったが、必ずしもサンプリング周期ごとに処理を行うFIRフィルタある必要は無い。この場合には、サンプリング周期ごとのデータであるインパルス応答のかわりに、離散時間のデータである伝達特性を用いれば、同様に切り出して処理を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施形態に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る音響発生装置の外観を示す斜視図である。
【図3】フィルタの構成を示すブロック図である。
【図4】各フィルタに設定された遅延の遅延時間と増幅率を示す説明図である。
【図5】各フィルタに設定された遅延の遅延時間と増幅率を全てまとめた状態を示す説明図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【図7】信号を切り出すときの重み付けを示す説明図である。
【図8】信号分配部が信号を切り出した波形の概要を示す説明図である。
【図9】変形例2に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【図10】変形例3に係る音響発生装置の外観を示す斜視図である。
【図11】変形例3に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【図12】変形例6に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
1,11,21,31,41…音響発生装置、2−1,2−2,・・・,2−81…スピーカ、3−1,3−2,・・・,3−9…アンプ、4−1,4−2,・・・,4−9,14…フィルタ、5…信号入力部、6…信号分配部、7…制御部、8…接続スイッチ、9…パラメータ生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される信号に対して設定された遅延時間の遅延を行う複数の遅延手段、前記各遅延手段の出力信号に対して設定された増幅率の増幅を各々行う複数の増幅手段、および前記各増幅手段の出力信号を加算する加算手段を有する信号処理手段と、
前記信号処理手段の出力信号を放音する放音手段と
を有する遅延放音系を複数具備し、
前記各遅延放音系の一の遅延手段に設定される遅延時間と、当該遅延手段の出力信号に対して増幅を行う増幅手段に設定される増幅率との組は、所定の伝達特性を時間軸方向に分割して切り出すことにより生成した遅延時間と増幅率との組であって、前記各遅延放音系に設定される各組の態様は、他の遅延放音系に対して異なるように設定されていることを特徴とする音響発生装置。
【請求項2】
入力される信号に対して設定された遅延時間の遅延を行う複数の遅延手段、前記各遅延手段の出力信号に対して設定された増幅率の増幅を各々行う複数の増幅手段、および前記各増幅手段の出力信号を加算する加算手段を有する信号処理手段と、前記信号処理手段の出力信号を放音する放音手段とを有する遅延放音系を複数具備する音響発生装置において、
所定の伝達特性を時間軸方向に分割して切り出すことにより、複数の遅延時間と増幅率とを組にして生成する生成過程と、
前記各遅延放音系の一の遅延手段に設定される遅延時間と、当該遅延手段の出力信号に対して増幅を行う増幅手段に設定される増幅率との組に、前記各遅延放音系に設定される各組の態様が他の遅延放音系に対して異なるように、前記生成過程によって生成した遅延時間と増幅率との組を設定する設定過程と
を備えることを特徴とする信号処理方法。
【請求項3】
複数の放音手段と、
入力される信号を設定された重み付け係数に基づいて前記入力される信号の振幅を重み付けして時間軸方向に分割し、順次切り出すことにより、複数の信号を生成する信号切り出し手段と、
前記信号切り出し手段によって順次切り出された各信号を前記切り出された信号ごとに前記複数の放音手段から選択した放音手段に出力する選択手段と
を具備し、
前記信号切り出し手段に設定された重み付け係数は、前記切り出された複数の信号を加算することにより元の信号と同等になるように設定され、
前記各放音手段は、前記選択手段から出力された信号を放音することを特徴とする音響発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−177999(P2008−177999A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11444(P2007−11444)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】