説明

音響警報システム、並びに、音響警報の制御方法およびプログラム

【課題】音響による警報を予め定めた範囲内に適切な音量で確実に出力できる音響警報システムを提供する。
【解決手段】複数の警報局のうちの隣り合う警報局について、一方の警報局内の可聴音出力装置15Dから警報としての可聴音を出力すると共に、一方の警報局内の非可聴音出力装置17Dから他方の警報局に向けて非可聴音を出力し、他方の警報局に到達する非可聴音の音圧レベルを、他方の警報局内の非可聴音用集音装置18Uで検出し、該検出結果を基に非可聴音の音達特性に関する情報を取得し、該取得情報に応じて、上記可聴音出力装置から出力される可聴音の音量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響による警報を予め定めた範囲内に出力する音響警報システム、並びに、音響警報の制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
音響による警報は、例えば、ダムでの放流警報システム、港湾施設における侵入監視システム、水門や防潮扉の警報システムなどの多様なシステムで利用されている。具体的に、ダムの管理においては、ダムからの放流に先立ち、河川流域住民に対して、この後河川が増水する旨を知らせる放流警報をサイレンの吹鳴や放送等により発する必要がある。
【0003】
図1は、一般的なダム放流警報システムの全体構成の一例を示す図である。このダム放流警報システムでは、ダムDより下流側の河川Rに沿って複数の警報局1〜1が配置されている。各警報局1〜1は、ダムDに隣接するダム管理所に設置された制御局3からの指示に従って動作する。制御局3は、ダムDの水位を監視し、ダムDによって貯水された水の放流を行う際に、各警報局1〜1に対して放流警報の送出を指示する。
【0004】
各警報局1〜1から河川流域に出力される放流警報は、その警報音が到達する範囲(以下、音達範囲と呼ぶ)が地形等を考慮して事前に設定されている。ここでは図中の点線で囲んだ各領域A〜Aが各警報局1〜1の音達範囲に対応する。警報音の大きさ(音量)は、音達試験を行うなどして上記音達範囲をカバー可能な基準値が設定される。また、音量の基準値を予め2段階準備しておき、ダム管理所の操作員が昼間用の音量(大音量)と夜間用の音量(小音量)とを選択して指示する場合もある。
【0005】
上記のようなダム放流警報システムでは、河川流域住民の安全のために放流警報が聞こえない状況があってはならないが、その反面、放流警報の音量が大きすぎるのは騒音問題となる。このため、放流警報には最適な音量が求められる。この音量の最適化は、ダム放流警報システムだけに限らず、音響による警報を利用する各種システムに共通して要求される事項である。
【0006】
音響出力の音量の最適化に関する従来技術としては、例えば、特許文献1に開示されている動的音響最適化方法および装置がある。この開示技術では、信号源からの音響出力が、収音器にて、音響出力成分と音響雑音成分とを含む環境内の音響として検出され、該検出された観測信号が抽出器に与えられて雑音成分が抽出される。そして、当該抽出雑音信号と上記観測信号とから得られる付加信号を基に制御信号が生成され、該制御信号に応じて音量調整が行われる。これにより、ある環境内に放射された音響出力を雑音に依存して調整することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−531548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の従来技術を応用して前述したようなダム放流警報システム等における音響による警報の音量調整を行った場合、収音器で観測される雑音に依存して警報音の大きさが調整されるようになるが、河川流域等の所要環境内に実際に出力された警報音そのもの確認は行われない。収音器の観測信号を利用して雑音だけでなく警報音(音響出力)の大きさ確認することは可能であるが、その確認は収音器が設置される観測点に限定される。このため、事前に定められた音達範囲の全体に本当に警報音が届いているか否かを確認することが困難という課題がある。
【0009】
また、音響による警報の音達範囲は、風向き等の気象条件の変化に応じて変動することが知られているが、収音器で観測される雑音に応じた音量調整では、雑音の大きさが気象条件の変化に直接関係しない場合があるため、気象条件の変化に応じて警報の音量調整を行うことが難しいという課題もある。
【0010】
さらに、事前に定められた音達範囲の最遠箇所に収音器をそれぞれ設置し、該各収音器を利用して音達範囲の全体に警報音が届いているかどうかを確認できるようにした場合を考えると、複数の収音器を設置するための用地および電源の確保、警報局と各収音器を接続するケーブルの敷設などが必要になるため、システム構築に要するコスト上昇が問題になる。
【0011】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、音響による警報を予め定めた範囲内に適切な音量で確実に出力できる音響警報システム、並びに、音響警報の制御方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、第1の発明は、音響による警報を予め定めた範囲内に出力する複数の警報局を備えた音響警報システムを提供する。この音響警報システムの一態様において、前記複数の警報局は、それぞれ、前記警報としての可聴音を出力する可聴音出力装置と、隣り合う警報局に向けて非可聴音を出力する非可聴音出力装置と、自局に到達する非可聴音の音圧レベルを検出する非可聴音用集音装置と、自局内の前記非可聴音出力装置から非可聴音を出力させ、隣り合う警報局内の前記非可聴音用集音装置で検出される音圧レベルを基に前記非可聴音の音達特性に関する情報を取得し、該取得情報に応じて、自局内の前記可聴音出力装置から出力される可聴音の音量を制御する制御装置と、を含む。
【0013】
また、第2の発明は、音響による警報を予め定めた範囲内に出力する複数の警報局を備えた音響警報システムについて、前記各警報局から出力される警報の音量を制御する方法を提供する。この制御方法の一態様は、(A)前記複数の警報局のうちの隣り合う警報局について、一方の警報局に備えられた可聴音出力装置から前記警報としての可聴音を出力すると共に、前記一方の警報局に備えられた非可聴音出力装置から他方の警報局に向けて非可聴音を出力し、(B)前記一方の警報局から出力され前記他方の警報局に到達する非可聴音の音圧レベルを、前記他方の警報局に備えられた非可聴音用集音装置で検出し、該検出結果を基に前記非可聴音の音達特性に関する情報を取得し、(C)前記取得した情報に応じて、前記可聴音出力装置から出力される可聴音の音量を制御する。
【0014】
さらに、第3の発明は、音響による警報を予め定めた範囲内に出力する複数の警報局を備えた音響警報システムについて、前記各警報局から出力される警報の音量を制御するプログラムを提供する。このプログラムの一態様は、前記複数の警報局のうちの隣り合う警報局に備えられたコンピュータに、(a)一方の警報局に備えられた可聴音出力装置から前記警報としての可聴音を出力すると共に、前記一方の警報局に備えられた非可聴音出力装置から他方の警報局に向けて非可聴音を出力する第1の警報制御手順と、(b)前記一方の警報局から出力され前記他方の警報局に到達する非可聴音の音圧レベルを、前記他方の警報局に備えられた非可聴音用集音装置で検出し、該検出結果を基に前記非可聴音の音達特性に関する情報を取得する非可聴音受信レベル判定手順と、(c)前記取得した情報に応じて、前記可聴音出力装置から出力される可聴音の音量を制御する第2の警報制御手順と、を実行させる。
【発明の効果】
【0015】
上記のような音響警報システム、並びに、音響警報の制御方法およびプログラムによれば、隣り合う警報局のうちの一方の警報局から可聴音および非可聴音を出力し、他方の警報局に到達する非可聴音の音圧レベルの検出結果を基に取得される非可聴音の音達特性に応じて可聴音の音量を制御するようにしたことで、警報出力中に風向き等の気象条件が変化しても、騒音問題を考慮する必要なく、現地での非可聴音の実測結果を基にして警報の音量を自動的に最適化することができ、所要の範囲内に確実に警報を到達させることが可能になる。また、警報の音量調整を行うための非可聴音出力装置および非可聴音用集音装置はいずれも警報局内に設置され、警報局の間に測定器等を設ける必要がないため、用地および電源の確保、警報局と測定器等を接続するケーブルの敷設などの問題が生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一般的なダム放流警報システムの全体構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態のダム放流警報システムにおける警報局の構成例を示す図である。
【図3】上記実施形態における制御局の構成例を示す図である。
【図4】上記実施形態で実施される事前準備の動作を説明するための図である。
【図5】上記実施形態で作成される可聴音対応表および非可聴音対応表を示す図である。
【図6】図5の可聴音対応表および非可聴音対応表の具体的な一例を示す図である。
【図7】上記実施形態における運用開始後の動作の流れを示すフローチャートである。
【図8】上記実施形態における運用開始後の動作を説明する概念図である。
【図9】上記実施形態に用いられる出力調整記録の具体的な一例を示す図である。
【図10】上記実施形態に関連した応用例を説明する図である。
【図11】上記実施形態に関連した他の応用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図2は、本発明による音響警報システムの一実施形態としてのダム放流警報システムにおける警報局の構成例を示す図である。また、図3は、上記ダム放流警報システムにおける制御局の構成例を示す図である。なお、上記ダム放流警報システムの全体構成は、前述の図1に示した場合と同様である。したがって、図2の警報局1は、図1のダムDより下流側の河川Rに沿って配置されるN番目(N=1,2,…)の警報局に該当し、図3の制御局3は、図1のダムDに隣接するダム管理所に設置された制御局に該当する。
【0018】
図2において、警報局1は、例えば、データやプログラムを制御するCPU11と、制御局3との間で通信を行う無線装置12およびアンテナ13と、可聴音用のスピーカ15U,15Dおよび集音装置16U,16D、並びに、非可聴音用のスピーカ17U,17Dおよび集音装置18U,18Dを含む入出力機器を制御する入出力制御回路14と、制御局3からの指示に従って警報制御を行うために必要なデータを記憶する記憶装置19と、CPU11により実行される警報制御プログラム100と、を備える。
【0019】
無線装置12は、制御局3からの指示を示す無線信号をアンテナ13を介して受信すると共に、制御局3への伝達情報を示す無線信号をアンテナ13を介して送信する。なお、ここでは警報局1と制御局3の間を無線で接続して通信を行う一例を示したが、警報局1と制御局3の間を有線で接続して通信を行うようにしてもよい。
【0020】
可聴音用のスピーカ15U,15Dは、入出力制御回路14からの制御信号に従って、ダムDからの放流に先立ち、河川流域住民に対して、この後河川が増水する旨を知らせるための可聴音を用いた放流警報を出力する。この可聴音を用いた放流警報は、一般的なダム放流警報音と同様にして、サイレンの吹鳴または放送等により行われる。各スピーカ15U,15Dの警報局1内での配置と向きは、スピーカ15Uが警報局1より上流側の河川流域に向けて放流警報を出力し、スピーカ15Dが警報局1より下流側の河川流域に向けて放流警報を出力するように予め設定されている。
【0021】
可聴音用の集音装置16U,16Dは、可聴音用のスピーカ15U,15Dから出力される警報音を集音し、該警報音の音圧レベルに応じて変化する電気信号を入出力制御回路14に出力する。集音装置16Uはスピーカ15Uの前に設置され、集音装置16Dはスピーカ15Dの前に設置されている。各集音装置16U,16Dとしては、可聴音を電気信号に変換する一般的なマイクロフォン等を使用することが可能である。
【0022】
非可聴音用のスピーカ17U,17Dは、入出力制御回路14からの制御信号に従って、可聴音用のスピーカ15U,15Dから出力される放流警報の音量調整に用いるための非可聴音を発生する。各スピーカ17U,17Dの警報局1内での配置と向きは、スピーカ17Uが警報局1に隣り合う上流側の警報局1N−1に向けて非可聴音を出力し、スピーカ17Dが警報局1に隣り合う下流側の警報局1N+1に向けて非可聴音を出力するように予め設定されている。
【0023】
上記非可聴音の周波数は、例えば、超音波となる下限の周波数帯(例えば、20kHz帯)とすることができ、各スピーカ17U,17Dから出力される非可聴音の周波数が互いに異なるようにしておくのが好ましい。具体的には、スピーカ17Uから上流側の警報局1N−1に向けて出力される非可聴音の周波数を20000Hzとし、スピーカ17Dから下流側の警報局1N+1に向けて出力される非可聴音の周波数を20100Hzとすることが可能である。ただし、本発明における非可聴音は上記の一例に限定されるものではない。上流側および下流側で非可聴音の周波数を相違させておくことにより、自局と隣り合う警報局で非可聴音の測定を行う際に、反対方向から到来する非可聴音を容易に区別することができる。
【0024】
非可聴音用の集音装置18Uは、上流側の警報局1N−1に設けられた非可聴音用のスピーカ17Dから出力される非可聴音を検出し、該非可聴音の音圧レベルに応じて変化する電気信号を入出力制御回路14に出力する。この集音装置18Uは、自局内の非可聴音用のスピーカ17Dから離れた位置で、かつ、上流側の警報局1N−1からの非可聴音を検出し易い位置に配置されている。また、非可聴音用の集音装置18Dは、下流側の警報局1N+1に設けられた非可聴音用のスピーカ17Uから出力される非可聴音を検出し、該非可聴音の音圧レベルに応じて変化する電気信号を出力する。この集音装置18Dは、自局内の非可聴音用のスピーカ17Uから離れた位置で、かつ、下流側の警報局1N+1からの非可聴音を検出し易い位置に配置されている。各集音装置18U,18Dとしては、非可聴音の周波数帯に対応した一般的な超音波センサ等を使用することが可能である。
【0025】
記憶装置19は、その記憶データとして、可聴音対応表19A、非可聴音対応表19Bおよび出力調整記録19Cを含む。また、記憶装置19は、警報制御プログラム100を格納および展開することが可能である。可聴音対応表19Aは、自局に事前設定された音達範囲Aの最遠箇所における可聴音(放流警報)の音圧レベルに対する、自局の可聴音用スピーカ15U,15Dからの可聴音の出力強度の関係を纏めたものである。非可聴音対応表19Bは、上流側の警報局1N−1に設けられた非可聴音用集音装置18Dで検出される非可聴音の音圧レベルまたは下流側の警報局1N+1に設けられた非可聴音用集音装置18Uで検出される非可聴音の音圧レベルに対する、自局の非可聴音用スピーカ17U,17Dからの非可聴音の出力強度の関係を纏めたものである。出力調整記録19Cは、警報制御プログラム100により音量調整された過去の放流警報の出力倍率を所定の回数分記録したものである。なお、上記可聴音対応表19A、非可聴音対応表19Bおよび出力調整記録19Cの詳細については後述する。
【0026】
警報制御プログラム100は、信号受信部110、警報制御部120、可聴音出力レベル判定部130、非可聴音受信レベル判定部140および信号送信部150を含む。以下に各プログラムの概要を説明する。
【0027】
信号受信部110は、制御局3から自局宛に送信された指示を受信し、該指示の内容を判定して、その結果に応じて警報制御部120または非可聴音受信レベル判定部140に該当する処理の指示を行う。
【0028】
警報制御部120は、制御局3からの指示内容に従って、可聴音(放流警報)および非可聴音の出力の開始および終了を制御する。また、警報制御部120は、制御局3からの指示内容に従い、記憶装置19の可聴音対応表19A、非可聴音対応表19Bおよび出力調整記録19Cを参照して、可聴音および非可聴音の出力強度の調整(増加または減少)を行う。警報制御部120による可聴音および非可聴音の出力強度の調整結果は、記憶装置19の出力調整記録19Cに記録され、次回以降の出力強度の調整において過去の実績を加味した調整が可能となるようにしている。
【0029】
可聴音出力レベル判定部130は、自局の可聴音用集音装置16U,16Dからの出力信号を用いて、自局の可聴音用スピーカ15U,15Dから基準値に対応した強度の放流警報が出力されているか否かを判定し、その判定結果を信号送信部150に伝える。
【0030】
非可聴音受信レベル判定部140は、自局の非可聴音用集音装置18U,18Dからの出力信号を用いて、隣り合う警報局1N−1,1N+1から出力され自局に到達した非可聴音の受信レベルを測定し、該受信レベルと予め定めた基準値の差分を求め、該差分の値を信号送信部150に伝える。
【0031】
信号送信部150は、可聴音出力レベル判定部130および非可聴音受信レベル判定部140から伝えられる情報を、無線装置12およびアンテナ13を用いて制御局3へ送信する。
【0032】
図3において、制御局3は、例えば、データやプログラムを制御するCPU31と、河川流域に配置された各警報局1〜1との間で通信を行う無線装置32およびアンテナ33と、ダムDの管理者が操作する操作卓34と、計時動作するタイマー35と、CPU31により実行される警報制御プログラム300と、を備える。
【0033】
無線装置32は、各警報局1〜1から送られてくる無線信号をアンテナ33を介して受信すると共に、各警報局1〜1に対する指示を示す無線信号をアンテナ33を介して送信する。
【0034】
操作卓34は、管理者からの警報制御要求を受けると共に、各警報局1〜1における警報制御の結果を表示して管理者等に伝えることが可能である。
タイマー35は、各警報局1〜1が放流警報の出力を開始した後、該出力を終了するタイミングを決めるために利用される。
【0035】
警報制御プログラム300は、信号受信部310、警報指示部320、警報動作監視部330および信号送信部140を含む。以下に各プログラムの概要を説明する。
信号受信部310は、各警報局1〜1から制御局3に宛てて送信された情報を受信し、該受信情報を警報指示部320に伝える。
【0036】
警報指示部320は、操作卓34で受けた管理者からの警報制御要求、信号受信部310からの受信情報、および、後述する警報動作監視部330での監視結果のいずれかが通知されると、該通知の内容に従って、各警報局1〜1への警報制御に関する指示を決め、該指示を信号送信部340に伝える。
【0037】
警報出力監視部330は、各警報局1〜1において放流警報の出力を開始した後、該出力を終了するまでの時間をタイマー35を用いて監視し、放流警報終了のタイミングを警報指示部320に通知する。
【0038】
信号送信部340は、警報指示部320から伝えられた指示を、無線装置12およびアンテナ13を用いて各警報局1〜1へ送信する。
【0039】
次に、本実施形態のダム放流警報システムにおける動作について説明する。
最初に、ダム放流警報システムの運用を開始する前に実施される事前準備について説明する。この事前準備では、各警報局1〜1の記憶装置19に記憶させる可聴音対応表19Aおよび非可聴音対応表19Bを作成するための測定が行われる。
【0040】
図4は、警報局1に対応した可聴音対応表19Aおよび非可聴音対応表19Bを作成する際の動作を説明するための図である。まず、警報局1について、河川流域の地形等を考慮して事前設定された放流警報の音達範囲Aの最遠箇所として、上流側の地点Pおよび下流側の地点Pが定められる。そして、警報局1と各地点P,Pとの間において、警報局1の可聴音用スピーカ15U,15Dから試験的に可聴音(放流警報)を出力し、各地点P,Pに到達する可聴音の音圧レベルの測定を行い、各地点P,Pの測定レベルが、ダム管理における所要の規格等で定められた基準値となるように、可聴音用スピーカ15U,15Dの出力強度を調整する。
【0041】
上記可聴音の音圧レベル測定および出力強度の調整は、一般的なダム放流警報システムにおいて事前準備として実施される通常の音達試験と同様の処理であり、例えば、測定器を所持する作業員等が各地点P,Pに出向いて可聴音の音圧レベルを測定し、警報局1若しくは制御局3で機器を操作する作業員等と連絡を取り合いながら、可聴音用スピーカ15U,15Dの出力強度調整を行う。このような音達試験は、河川流域の天候等の環境条件が比較的安定している時に実施するのが望ましい。また、各地点P,Pにおける可聴音の音圧レベルの基準値に関しては、例えば、周辺騒音に対して、可聴音がサイレン若しくは擬似音の場合に+6dB、可聴音が放送文の場合に+10dBとなるような基準値を定めることが可能である。
【0042】
上記のような可聴音についての処理と並行して、若しくは、該処理の後に、警報局1と上流側の警報局1N−1および下流側の警報局1N+1との間において、警報局1の非可聴音用スピーカ17U,17Dから試験的に非可聴音を出力し、上流側の警報局1N−1に設けられた非可聴音用集音装置18Dおよび下流側の警報局1N+1に設けられた非可聴音用集音装置18Uをそれぞれ用いて非可聴音の音圧レベルの測定を行う。そして、上流側および下流側の各警報局1N−1,1N+1における非可聴音の測定レベルが、前述した可聴音の場合と同様にして定めた基準値となるように、警報局1の非可聴音用スピーカ15U,15Dの出力強度を調整する。
【0043】
可聴音と非可聴音を比較すると、スピーカからの出力強度が同じ条件に設定されている場合、可聴音よりも非可聴音の方がより遠くまで到達する。また、自局から隣り合う警報局まで非可聴音が到達しない場合に、スピーカからの非可聴音の出力強度を大きくして音達距離を伸ばしたとしても、その非可聴音が騒音問題になることはない。したがって、上記のように隣り合う警報局の間で非可聴音を送受信することに関して、事前準備の段階だけでなく、システムの運用中においても問題が生じるようなことはない。
【0044】
上記のような可聴音および非可聴音についての処理により、各地点P,Pに到達する可聴音の音圧レベルが基準値となる、警報局1における可聴音の出力強度と、各警報局1N−1,1N+1に到達する非可聴音の音圧レベルが基準値となる、警報局1における非可聴音の出力強度とが取得される。以降の説明では、可聴音および非可聴音の音圧レベルの基準値について、周辺騒音に対して+10dBになる場合を具体的に想定し、該基準値(+10dB)に対応する、可聴音の出力強度をX10(W)で表し、非可聴音の出力強度をY10(W)で表すことにする。
【0045】
続いて、警報局1からの可聴音の出力強度X10(W)を増減させながら、各地点P,Pに到達する可聴音の音圧レベルの測定を行い、該測定レベルと出力強度の関係を求める。ここでは、例えば、各地点P,Pでの可聴音の測定レベルが、基準値(+10dB)を中心に0.1dB刻みで増減した値となる時の、警報局1からの可聴音の出力強度を記録して行く。これにより、図5の左側に示すような可聴音対応表19Aが作成される。この可聴音対応表19Aでは、例えば、測定レベルが基準値の0.5倍、すなわち、測定レベルが周辺騒音に対して+5dBとなる時の、警報局1からの可聴音の出力強度がX(W)で表されている。また例えば、測定レベルが基準値の1.5倍(周辺騒音に対して+15dB)となる時の、警報局1からの可聴音の出力強度がX15(W)で表されている。
【0046】
上記のような可聴音対応表19Aの作成処理と並行して、若しくは、該作成処理の後に、
警報局1からの非可聴音の出力強度Y10(W)を増減させながら、上流側の警報局1N−1に設けられた非可聴音用集音装置18Dおよび下流側の警報局1N+1に設けられた非可聴音用集音装置18Uをそれぞれ用いて非可聴音の音圧レベルの測定を行い、該測定レベルと出力強度の関係を求める。このとき、前述した可聴音対応表19Aに対応させて、非可聴音用集音装置18D,18Uでの非可聴音の測定レベルが、基準値(+10dB)を中心に0.1dB刻みで増減した値となる時の、警報局1からの非可聴音の出力強度を記録して行く。これにより、図5の右側に示すような非可聴音対応表19Bが作成される。この非可聴音対応表19Bでは、例えば、測定レベルが基準値の0.5倍(周辺騒音に対して+5dB)となる時の、警報局1からの非可聴音の出力強度がY(W)で表され、また、測定レベルが基準値の1.5倍(周辺騒音に対して+15dB)となる時の、警報局1からの非可聴音の出力強度がY15(W)で表されている。
【0047】
上記のようにして作成された可聴音対応表19Aおよび非可聴音対応表19Bは、警報局1の記憶装置19に記憶される。図6は、警報局1の記憶装置19に実際に記憶される、可聴音対応表19Aおよび非可聴音対応表19Bの具体的な一例を示したものである。図6の具体例では、上流側の警報局1N−1に向けて出力される可聴音および非可聴音に対応した各対応表19A,19Bと、下流側の警報局1N+1に向けて出力される可聴音および非可聴音に対応した各対応表19A,19Bとが個別に作成されている。このような可聴音対応表19Aおよび非可聴音対応表19Bが、河川流域に配置された全ての警報局1〜1について作成され、各々の記憶装置19に記憶されることにより、ダム放流警報システムの運用開始前の事前準備が完了する。
【0048】
次に、ダム放流警報システムの運用開始後の動作を図7のフローチャートを参照しながら説明する。ここでは、図8の概念図に示すように、警報局1および該警報局1と隣り合う下流側の警報局1N+1と、制御局3との間における放流警報の制御動作を中心に説明を行うことにする。なお、警報局1、上流側の警報局1N−1および制御局3の間における放流警報の制御動作も同様である。
【0049】
ダム放流警報システムの運用が開始されると、ダム管理所においてダムDの水位の監視が行われ、ダムDによって貯水された水の放流を行うか否かが判断される(図7のS10)。ダムDからの放流が判断されると、放流に先立ち、管理者が操作卓34を用いて制御局3に警報制御要求を与える(S20)。警報制御要求を受けた制御局3では、CPU31が警報制御プログラム300を実行する。警報制御プログラム300では、まず、警報指示部320が警報局1N+1への非可聴音監視指示を信号送信部340に通知する。信号送信部340は、非可聴音監視指示を示す信号を、無線装置32およびアンテナ33を用いて警報局1N+1に送信する(S30)。
【0050】
警報局1N+1では、制御局3からの非可聴音監視指示を示す無線信号がアンテナ13を介して無線装置12で受信されると、CPU11が警報制御プログラム100を実行する。警報制御プログラム100では、信号受信部110が、無線装置12で受信された制御局3からの指示内容が「非可聴音監視指示」であることを判定し、非可聴音受信レベル判定部140に対して非可聴音の監視を開始する指示を出す。非可聴音受信レベル判定部140は、信号受信部110からの非可聴音の監視開始の指示に従い、入出力制御回路14を介して非可聴音用集音装置18Uを起動し、集音装置18Uを用いた非可聴音の音圧レベル測定を所定の周期で実施する(S40)。
【0051】
なお、上記非可聴音の音圧レベル測定は、監視開始指示を受けた後、予め設定した待機時間が経過してから開始するのが好ましい。待機時間は、後述する警報局1での非可聴音の出力が実際に開始されるまでに要する時間に応じて設定する。このような待機時間αを設定しておくことにより、非可聴音の出力前に集音装置18Uで検出される周辺騒音の音圧レベルに基づいて放流警報の音量調整が行われてしまう誤動作を回避することができる。
【0052】
続いて、制御局3では、警報指示部320が、警報局1に対して可聴音(放流警報)および非可聴音を基準値の強度で出力させる警報出力指示を信号送信部340に通知する。信号送信部340は、警報出力指示を示す信号を、無線装置32およびアンテナ33を用いて警報局1に送信する(S50)。また、警報出力指示の送信に合わせて、警報動作監視部330が、タイマー35を起動して警報出力中の経過時間を計測する(S60)。
【0053】
警報局1では、制御局3からの警報出力指示を示す無線信号がアンテナ13を介して無線装置12で受信されると、CPU11が警報制御プログラム100を実行する。警報制御プログラム100では、信号受信部110が、無線装置12で受信された制御局3からの指示内容が「警報出力指示」であることを判定し、警報制御部120に対して可聴音(放流警報)および非可聴音の出力を基準値の強度で開始する指示を出す。警報制御部120は、信号受信部110からの出力指示に従い、記憶装置10に記憶された可聴音対応表19Aおよび非可聴音対応表19Aを参照して、可聴音の出力強度の基準値X10(W)および非可聴音の出力強度の基準値Y10(W)を確認した後、入出力制御回路14を介して、可聴音用スピーカ15Dおよび非可聴音用スピーカ17Dを起動する。これにより、警報局1から下流の警報局1N+1に向けて、出力強度が初期値としての基準値に設定された可聴音および非可聴音が出力されるようになる(S70)。
【0054】
また、上記可聴音用スピーカ15Dの起動に合わせて、可聴音出力レベル判定部130が、入出力制御回路14を介して可聴音用集音装置16Dを起動し、集音装置16Dを用いた可聴音の音圧レベル測定を行う。そして、可聴音出力レベル判定部130は、可聴音用スピーカ15Dから基準値に対応した強度の可聴音が実際に出力されているか否かを判定し、その判定結果を信号送信部150に伝える。信号送信部150は、可聴音出力レベルの判定結果を示す信号を、無線装置12およびアンテナ13を用いて制御局3に送信する(S80)。
【0055】
下流の警報局1N+1では、非可聴音受信レベル判定部140が、記憶装置19に記憶された非可聴音対応表19Bを参照して、非可聴音用集音装置18Uを用いた非可聴音の音圧レベルの測定値が基準値(+10dB)近傍にあるか否かを判定する。非可聴音の音圧レベルの測定値が基準値(+10dB)近傍にあることが判定された場合、その判定結果が非可聴音受信レベル判定部140から信号送信部150に伝えられる。一方、非可聴音の音圧レベルの測定値が基準値(+10dB)近傍にないことが判定された場合、基準値(+10dB)に対する測定値の差分Dが求められ、該差分Dの値が判定結果として非可聴音受信レベル判定部140から信号送信部150に伝えられる。信号送信部150は、非可聴音受信レベル判定部140の判定結果を示す信号を、無線装置12およびアンテナ13を用いて制御局3に送信する。(S90)
【0056】
続いて、制御局3では、警報局1からの可聴音出力レベルの判定結果を示す信号を信号受信部310が受信すると、その受信情報が警報指示部320に伝えられ、警報指示部320は、警報局1における可聴音の出力強度の制御結果を操作卓34等に表示して管理者に伝える。(S100)
【0057】
また、制御局3では、警報局1N+1からの非可聴音受信レベルの判定結果を示す信号を信号受信部310が受信すると、その受信情報が警報指示部320に伝えられ、警報指示部320は、警報局1N+1での非可聴音の音圧レベルの測定値が基準値(+10dB)近傍にあったことを受信情報が示しているか否かを判定する(S110)。基準値(+10dB)近傍が判定された場合、警報指示部320は、警報局1における現在の可聴音の出力強度(放流警報の音量)が最適な状態にあることを操作卓34等に表示して管理者に伝える(S140)。一方、警報局1N+1での非可聴音の音圧レベルの測定値が基準値(+10dB)近傍にはなく、基準値(+10dB)に対する測定値の差分Dを受信情報が示している場合には、警報局1に対して上記差分Dを基に可聴音および非可聴音の出力強度の調整を実施させる出力調整指示を信号送信部340に通知する。これにより、上記出力調整指示を示す無線信号が制御局3から警報局1に送信される(S120)。
【0058】
警報局1では、制御局3からの出力調整指示を示す無線信号がアンテナ13を介して無線装置12で受信されると、信号受信部110が、無線装置12で受信された制御局3からの指示内容が「出力調整指示」であることを判定し、警報制御部120に対して、該出力調整指示に従い可聴音および非可聴音の出力強度を調整する指示を出す。警報制御部120は、記憶装置10に記憶された可聴音対応表19Aおよび非可聴音対応表19Aを参照して、出力調整指示が示す差分Dを補うことが可能な、可聴音の出力強度および非可聴音の出力強度を確認した後、入出力制御回路14を介して、可聴音用スピーカ15Dおよび非可聴音用スピーカ17Dの駆動状態を制御する(S130)。
【0059】
具体例として、出力調整指示が示す差分Dが−0.2dBであった場合を想定すると、可聴音用スピーカ15Dから出力される可聴音は、基準値+0.2dBに対応する出力強度、すなわち、基準値の1.2倍(+12dB)に対応する出力強度X12(W)に調整される。図6左下に示した可聴音対応表19Aのデータでは、可聴音の出力強度が、基準値の53.0(W)から、倍率1.2に対応する63.1(W)に増大されることになる。また、非可聴音用スピーカ17Dから出力される非可聴音は、基準値の1.2倍(+12dB)に対応する出力強度Y12(W)に調整される。図6右下に示した非可聴音対応表19Bのデータでは、非可聴音の出力強度が、基準値の66.0(W)から、倍率1.2に対応する78.8(W)に増大されることになる。
【0060】
別の具体例として、出力調整指示が示す差分Dが+0.3dBであった場合を想定すると、可聴音用スピーカ15Dから出力される可聴音は、基準値−0.3dBに対応する出力強度、すなわち、基準値の0.7倍(+7dB)に対応する出力強度X(W)に調整される。図6左下に示した可聴音対応表19Aのデータでは、可聴音の出力強度が、基準値の53.0(W)から、倍率0.7に対応する38.8(W)に減少されることになる。また、非可聴音用スピーカ17Dから出力される非可聴音は、基準値の0.7倍(+7dB)に対応する出力強度Y(W)に調整される。図6右下に示した非可聴音対応表19Bのデータでは、非可聴音の出力強度が、基準値の66.0(W)から、倍率0.7に対応する47.8(W)に減少されることになる。
【0061】
上記のようにして警報局1での可聴音および非可聴音の出力強度の調整が完了すると、図7のS80に戻り、警報局1では、可聴音出力レベル判定部130が、可聴音用集音装置16Dを用いた可聴音の音圧レベル測定を行い、可聴音用スピーカ15Dから可聴音が調整後の強度で実際に出力されているか否かを判定する。この可聴音出力レベル判定部130の判定結果は、信号送信部150に伝えられて警報局1から制御局3に送信される。また、下流の警報局1N+1では、非可聴音受信レベル判定部140が、記憶装置19に記憶された非可聴音対応表19Bを参照して、非可聴音用集音装置18Uを用いた非可聴音の音圧レベルの測定値が基準値(+10dB)近傍にあるか否かを判定する。この非可聴音受信レベル判定部140の判定結果は、信号送信部150に伝えられて警報局1N+1から制御局3に送信される(S90)。
【0062】
制御局3では、警報局1からの可聴音出力レベルの判定結果を受信することにより、警報局1における可聴音の出力強度の調整結果が操作卓34等に表示される(S100)。このとき、警報局1からの可聴音出力レベルの判定結果を基に、可聴音出力の異常(例えば、可聴音用スピーカ15Dの故障など)が判断された場合、制御局3は異常を知らせるアラームを発生する。
【0063】
また、制御局3では、警報局1N+1からの非可聴音受信レベルの判定結果を受信することにより、警報局1N+1での非可聴音の音圧レベルの測定値が基準値(+10dB)近傍になったどうかの判定が行われる(S110)。基準値(+10dB)近傍になっていない場合には、前述した可聴音および非可聴音の出力強度の調整と同様の処理(S80〜S130)が繰り返し実行される。これにより、システムの運用中に風向き等の気象条件が変化したとしても、警報局1から下流の警報局1N+1に向けて出力される放流警報の音量が自動的に最適化されるようになる(S140)。
【0064】
続いて、制御局3では、警報動作監視部330が、タイマー35を用いて計測している放流警報の出力開始からの経過時間を基に、放流警報の出力を終了するタイミングを判断して、警報局1における警報出力を終了させる指示を警報指示部320に通知する(S150)。警報指示部320は、警報動作監視部330からの警報出力終了指示を受けると、まず、警報局1N+1に対して非可聴音の監視を終了させる監視終了指示を信号送信部340に通知する。これにより、上記監視終了指示を示す無線信号が制御局3から警報局1N+1に送信される(S160)。次に、警報指示部320は、警報局1に対して可聴音および非可聴音の出力を終了させる警報終了指示を信号送信部340に通知する。これにより、警報局1N+1への監視終了指示の送信後から僅かに遅れたタイミングで、上記出力終了指示を示す無線信号が制御局3から警報局1に送信される(S170)。
【0065】
警報局1N+1では、制御局3からの監視終了指示を受信した信号受信部110が、非可聴音受信レベル判定部140に対して非可聴音の監視を終了する指示を出すことにより、非可聴音用集音装置18Uを用いた非可聴音の音圧レベル測定が終了する(S180)。
【0066】
また、警報局1では、制御局3からの出力終了指示を受信した信号受信部110が、警報制御部120に対して可聴音および非可聴音の出力を終了する指示を出すことにより、可聴音用スピーカ15Dからの放流警報の出力が停止されると共に、非可聴音用スピーカ17Dからの非可聴音の出力が停止される(S190)。このとき、警報局1の警報制御部120は、記憶装置19の出力調整記録19Cに、放流警報の出力を停止する直前における出力強度の基準値に対する倍率を記録する(S200)。例えば、放流警報の出力を停止する直前の可聴音の出力強度がX12(W)であった場合、出力調整記録19Cには、終了時の出力倍率として1.2倍が記録される。
【0067】
図9は、上記出力調整記録19Cの具体的な一例を示したものである。この出力調整記録19Cの例では、過去10回の放流警報の出力についての終了時の出力倍率が記録されている。このような出力調整記録19Cを参照することにより、例えば、最近の調整傾向を導き出すことが可能である。具体的には、過去の出力倍率のデータについて、所要の重み付けを行い、重み付け後の各出力倍率の平均値を算出することにより、前回までの調整の傾向を加味した出力倍率を求めることができる。図9の具体例では、過去10回分の調整の傾向を加味した出力倍率として、(10×1.2)+(9×1.1)+(8×1.3)+(7×0.9)+(6×0.8)+(5×0.8)+(4×1.2)+(3×1.3)+(2×1.1)+(1×0.9)/55≒1.1倍が得られることになる。
【0068】
このような最近の調整傾向を加味した出力倍率は、例えば、次回の放流警報の出力開始時において、可聴音および非可聴音の出力強度の初期値を決めるのに利用することが可能である。すなわち、可聴音および非可聴音の出力強度の初期値として、事前準備で実測により決定した出力強度の基準値X10(W),Y10(W)を用いる代わりに、出力調整記録19Cのデータを用いて算出した出力倍率に対応する出力強度(図9の具体例の場合、1.1倍に対応するX11(W),Y11(W)となる)を用いるようにする。このようにして可聴音および非可聴音の出力強度の初期値を決めることで、放流警報の音量をより短い時間で精度良く最適化することが可能になる。
【0069】
上述したような警報局1、下流側の警報局1N+1および制御局3の間における一連の警報制御動作を、警報局1、上流側の警報局1N−1および制御局3の間、並びに、他の隣り合う警報局および制御局3の間においても同様にして実施することにより、河川流域に配置される全ての警報局から出力される放流警報の音量が自動的に最適化されるようになる。
【0070】
以上のように本実施形態のダム放流警報システムによれば、可聴音を放流警報として各警報局から出力するのと同時に隣り合う警報局の間で非可聴音を送受信し、該非可聴音の受信レベル測定値に応じて可聴音の出力強度を調整するようにしたことで、警報出力中に風向き等の気象条件が変化した場合であっても、河川流域住民への騒音問題を考慮する必要なく、現地での実測結果を基にして放流警報の音量を自動的に最適化することができる。また、放流警報の音量調整を行うための非可聴音用スピーカおよび集音装置はいずれも警報局内に設置され、警報局の間の河川流域に測定器等を設ける必要がないため、用地および電源の確保、警報局と測定器等を接続するケーブルの敷設などの問題が生じることもない。さらに、出力調整記録を利用して最近の調整傾向を加味した初期値設定を行うようにすれば、放流警報の音量をより短い時間で精度良く最適化することも可能になる。
【0071】
なお、上述した実施形態ではダム放流警報システムについて説明したが、本発明の音響警報システムがダム放流警報システムに限定されることを意味するものではない。例えば、図10に示す港湾監視システムや、図11に示す防潮警報システムなどのように、音響による警報を予め定めた範囲内に出力する各種システムに本発明を応用することが可能である。
【0072】
図10の港湾監視システムでは、港湾施設エリアの周縁に沿って建設されている防護フェンス等に、不法侵入を防止するための複数の侵入監視センサ(図中の黒丸印)が所定間隔で設置されている。各侵入監視センサは、不法侵入者を検知した場合に、警報音等を出力して不法侵入者に退去を促す。図中の点線で囲んだ各領域が各侵入監視センサの監視/警報エリアを表している。このような港湾監視システムについて、上述したダム放流警報システムの場合と同様に、隣り合う侵入監視センサ(警報局)の間で非可聴音の送受信を行い、該非可聴音の受信レベル測定値に応じて各侵入監視センサが出力する警報音の音量調整を行うことにより、各侵入監視センサからの警報音を不法侵入者へ確実に到達させることが可能になる。
【0073】
また、図11の防潮警報システムでは、海岸線(堤防)に沿って設置されている水門や防潮扉に付帯して警報装置(図中の黒丸印)が設けられており、該各警報装置から警報音等を出力することで、海岸線や河口付近に居る人々への高潮等の危険周知、水門や防潮扉の操作時の危険周知が図られる。図中の点線で囲んだ各領域が各警報装置の音達範囲を表している。このような防潮警報システムについても、隣り合う警報装置の間で非可聴音の送受信を行い、該非可聴音の受信レベル測定値に応じて各警報装置が出力する警報音の音量調整を行うことにより、各警報装置からの警報音を海岸線や河口付近に居る人々へ確実に到達させることが可能になる。
【0074】
以上の実施形態および応用例に関して、さらに以下の付記を開示する。
(付記1) 音響による警報を予め定めた範囲内に出力する複数の警報局を備えた音響警報システムであって、
前記複数の警報局は、それぞれ、
前記警報としての可聴音を出力する可聴音出力装置と、
隣り合う警報局に向けて非可聴音を出力する非可聴音出力装置と、
自局に到達する非可聴音の音圧レベルを検出する非可聴音用集音装置と、
自局内の前記非可聴音出力装置から非可聴音を出力させ、隣り合う警報局内の前記非可聴音用集音装置で検出される音圧レベルを基に前記非可聴音の音達特性に関する情報を取得し、該取得情報に応じて、自局内の前記可聴音出力装置から出力される可聴音の音量を制御する制御装置と、
を含むことを特徴とする音響警報システム。
【0075】
(付記2) 付記1に記載の音響警報システムであって、
前記複数の警報局は、それぞれ、自局に設定された音達範囲の最遠箇所における可聴音の音圧レベルに対する、自局内の前記可聴音出力装置からの可聴音の出力強度の関係を示す可聴音対応表、および、隣り合う警報局内の前記非可聴音用集音装置で検出される非可聴音の音圧レベルに対する、自局内の前記非可聴音出力装置からの非可聴音の出力強度の関係を示す非可聴音対応表を記憶する記憶装置を含み、
前記制御装置は、前記記憶装置に記憶された非可聴音対応表を参照して、隣り合う警報局内の前記非可聴音用集音装置で検出される音圧レベルに対応する、自局内の前記非可聴音出力装置からの非可聴音の出力強度を判定し、前記非可聴音の実際の出力強度に対する前記判定された出力強度の差分を求め、前記記憶装置に記憶された可聴音対応表を参照して、前記求められた差分に応じた可聴音の音量調整を行うことを特徴とする音響警報システム。
【0076】
(付記3) 付記1または2に記載の音響警報システムであって、
前記非可聴音出力装置は、隣り合う警報局が2つ以上あるとき、該各警報局に向けて互いに周波数の異なる非可聴音を出力することを特徴とする音響警報システム。
【0077】
(付記4) 付記1〜3のいずれか1つに記載の音響警報システムであって、
前記複数の警報局における警報出力の開始および終了を制御する制御局を備え、
前記複数の警報局は、それぞれ、前記制御局との間で通信を行う通信装置を含み、
前記制御装置は、前記通信装置で受信される、前記制御局からの警報出力の開始指示に従って、自局内の前記可聴音出力装置および前記非可聴音出力装置から、予め定めた基準値の出力強度を有する可聴音および非可聴音を出力させると共に、前記通信装置で受信される、前記制御局からの警報出力の終了指示に従って、自局内の前記可聴音出力装置および前記非可聴音出力装置からの可聴音および非可聴音の出力を停止することを特徴とする音響警報システム。
【0078】
(付記5) 付記4に記載の音響警報システムであって、
前記制御装置は、警報出力の終了直前における可聴音の音量の調整量を記録および蓄積し、該蓄積された過去の調整量に基づいて最近の調整量の傾向を求め、次回の警報出力の開始時における可聴音および非可聴音の出力強度の基準値を、前記求められた最近の調整量の傾向に応じて変更することを特徴とする音響警報システム。
【0079】
(付記6) 付記4または5に記載の音響警報システムであって、
前記複数の警報局は、ダムによって貯水された水が放流される河川流域に沿って配置され、
前記制御局は、前記ダムの管理所に設置され、前記ダムからの放流に先立ち、前記複数の警報局に対して放流警報の出力を指示することを特徴とする音響警報システム。
【0080】
(付記7) 付記1〜6のいずれか1つに記載の音響警報システムであって、
前記複数の警報局は、それぞれ、前記可聴音出力装置から出力される可聴音の音圧レベルを検出する可聴音用集音装置を含み、
前記制御装置は、自局内の前記可聴音出力装置から音量を調整した後に出力される可聴音の音圧レベルを自局内の前記可聴音用集音装置により検出し、該検出結果を基に前記可聴音出力装置から調整された音量で可聴音が実際に出力されているか否かを判定することを特徴とする音響警報システム。
【0081】
(付記8) 音響による警報を予め定めた範囲内に出力する複数の警報局を備えた音響警報システムについて、前記各警報局から出力される警報の音量を制御する方法であって、
前記複数の警報局のうちの隣り合う警報局について、一方の警報局に備えられた可聴音出力装置から前記警報としての可聴音を出力すると共に、前記一方の警報局に備えられた非可聴音出力装置から他方の警報局に向けて非可聴音を出力し、
前記一方の警報局から出力され前記他方の警報局に到達する非可聴音の音圧レベルを、前記他方の警報局に備えられた非可聴音用集音装置で検出し、該検出結果を基に前記非可聴音の音達特性に関する情報を取得し、
前記取得した情報に応じて、前記可聴音出力装置から出力される可聴音の音量を制御することを特徴とする音響警報の制御方法。
【0082】
(付記9) 音響による警報を予め定めた範囲内に出力する複数の警報局を備えた音響警報システムについて、前記各警報局から出力される警報の音量を制御するプログラムであって、
前記複数の警報局のうちの隣り合う警報局に備えられたコンピュータに、
一方の警報局に備えられた可聴音出力装置から前記警報としての可聴音を出力すると共に、前記一方の警報局に備えられた非可聴音出力装置から他方の警報局に向けて非可聴音を出力する第1の警報制御手順と、
前記一方の警報局から出力され前記他方の警報局に到達する非可聴音の音圧レベルを、前記他方の警報局に備えられた非可聴音用集音装置で検出し、該検出結果を基に前記非可聴音の音達特性に関する情報を取得する非可聴音受信レベル判定手順と、
前記取得した情報に応じて、前記可聴音出力装置から出力される可聴音の音量を制御する第2の警報制御手順と、
を実行させることを特徴とする音響警報の制御プログラム。
【符号の説明】
【0083】
〜1…警報局
3…制御局
11,31…CPU
12,32…無線装置
13,33…アンテナ
14…入出力回路
15U,15D…可聴音用スピーカ
16U,16D…可聴音用集音装置
17U,17D…非可聴音用スピーカ
18U,18D…非可聴音用集音装置
19…記憶装置
19A…可聴音対応表
19B…非可聴音対応表
19C…出力調整記録
34…操作卓
35…タイマー
100,300…警報制御プログラム
110,310…信号受信部
120…警報制御部
130…可聴音出力レベル判定部
140…非可聴音受信レベル判定部
150,340…信号送信部
320…警報指示部
330…警報動作監視部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響による警報を予め定めた範囲内に出力する複数の警報局を備えた音響警報システムであって、
前記複数の警報局は、それぞれ、
前記警報としての可聴音を出力する可聴音出力装置と、
隣り合う警報局に向けて非可聴音を出力する非可聴音出力装置と、
自局に到達する非可聴音の音圧レベルを検出する非可聴音用集音装置と、
自局内の前記非可聴音出力装置から非可聴音を出力させ、隣り合う警報局内の前記非可聴音用集音装置で検出される音圧レベルを基に前記非可聴音の音達特性に関する情報を取得し、該取得情報に応じて、自局内の前記可聴音出力装置から出力される可聴音の音量を制御する制御装置と、
を含むことを特徴とする音響警報システム。
【請求項2】
請求項1に記載の音響警報システムであって、
前記複数の警報局は、それぞれ、自局に設定された音達範囲の最遠箇所における可聴音の音圧レベルに対する、自局内の前記可聴音出力装置からの可聴音の出力強度の関係を示す可聴音対応表、および、隣り合う警報局内の前記非可聴音用集音装置で検出される非可聴音の音圧レベルに対する、自局内の前記非可聴音出力装置からの非可聴音の出力強度の関係を示す非可聴音対応表を記憶する記憶装置を含み、
前記制御装置は、前記記憶装置に記憶された非可聴音対応表を参照して、隣り合う警報局内の前記非可聴音用集音装置で検出される音圧レベルに対応する、自局内の前記非可聴音出力装置からの非可聴音の出力強度を判定し、前記非可聴音の実際の出力強度に対する前記判定された出力強度の差分を求め、前記記憶装置に記憶された可聴音対応表を参照して、前記求められた差分に応じた可聴音の音量調整を行うことを特徴とする音響警報システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の音響警報システムであって、
前記非可聴音出力装置は、隣り合う警報局が2つ以上あるとき、該各警報局に向けて互いに周波数の異なる非可聴音を出力することを特徴とする音響警報システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の音響警報システムであって、
前記複数の警報局における警報出力の開始および終了を制御する制御局を備え、
前記複数の警報局は、それぞれ、前記制御局との間で通信を行う通信装置を含み、
前記制御装置は、前記通信装置で受信される、前記制御局からの警報出力の開始指示に従って、自局内の前記可聴音出力装置および前記非可聴音出力装置から、予め定めた基準値の出力強度を有する可聴音および非可聴音を出力させると共に、前記通信装置で受信される、前記制御局からの警報出力の終了指示に従って、自局内の前記可聴音出力装置および前記非可聴音出力装置からの可聴音および非可聴音の出力を停止することを特徴とする音響警報システム。
【請求項5】
請求項4に記載の音響警報システムであって、
前記制御装置は、警報出力の終了直前における可聴音の音量の調整量を記録および蓄積し、該蓄積された過去の調整量に基づいて最近の調整量の傾向を求め、次回の警報出力の開始時における可聴音および非可聴音の出力強度の基準値を、前記求められた最近の調整量の傾向に応じて変更することを特徴とする音響警報システム。
【請求項6】
音響による警報を予め定めた範囲内に出力する複数の警報局を備えた音響警報システムについて、前記各警報局から出力される警報の音量を制御する方法であって、
前記複数の警報局のうちの隣り合う警報局について、一方の警報局に備えられた可聴音出力装置から前記警報としての可聴音を出力すると共に、前記一方の警報局に備えられた非可聴音出力装置から他方の警報局に向けて非可聴音を出力し、
前記一方の警報局から出力され前記他方の警報局に到達する非可聴音の音圧レベルを、前記他方の警報局に備えられた非可聴音用集音装置で検出し、該検出結果を基に前記非可聴音の音達特性に関する情報を取得し、
前記取得した情報に応じて、前記可聴音出力装置から出力される可聴音の音量を制御することを特徴とする音響警報の制御方法。
【請求項7】
音響による警報を予め定めた範囲内に出力する複数の警報局を備えた音響警報システムについて、前記各警報局から出力される警報の音量を制御するプログラムであって、
前記複数の警報局のうちの隣り合う警報局に備えられたコンピュータに、
一方の警報局に備えられた可聴音出力装置から前記警報としての可聴音を出力すると共に、前記一方の警報局に備えられた非可聴音出力装置から他方の警報局に向けて非可聴音を出力する第1の警報制御手順と、
前記一方の警報局から出力され前記他方の警報局に到達する非可聴音の音圧レベルを、前記他方の警報局に備えられた非可聴音用集音装置で検出し、該検出結果を基に前記非可聴音の音達特性に関する情報を取得する非可聴音受信レベル判定手順と、
前記取得した情報に応じて、前記可聴音出力装置から出力される可聴音の音量を制御する第2の警報制御手順と、
を実行させることを特徴とする音響警報の制御プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−194818(P2012−194818A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58679(P2011−58679)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】