説明

音響部品及びその製造方法

【課題】接着層1を貼付した防水フィルターを電子機器の筐体に装着する際に、接着層1が段差部13に乗り上げにくい構造を提供することを目的とする。
【解決手段】通音孔12を有する筐体11と、枠状に形成された接着層1と、接着層1を介して通音孔12を覆うように装着された防水フィルターとを有し、筐体11には、防水フィルターを係合させる段差部13、又は、防水フィルターの装着部位を示す目印となる段差部13が形成され、枠状接着層1の外周部は防水フィルターの外周部よりも内側となるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水性や防塵性が必要な電子機器、特に音響機能を有する電子機器に用いられる防水フィルターを備えた音響部品、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スピーカー、マイクロフォン、レシーバー等の電気音響変換装置を装備する携帯電話、小型ラジオ、トランシーバー、携帯音楽再生機、ノートパソコン、ヘッドホン、イヤホン、屋外マイク、デジタルカメラ等の電子機器の筐体には、音を筐体内部から外部へ、外部から内部へ通過させるための通音孔が設けられている。この通音孔には、電子機器内部への水の侵入防止を主目的とした防水フィルター(防水膜)が取り付けられている。
【0003】
防水膜の構成例として、特許文献1には、筐体の音響用の小孔を包囲するように形成した内部環状突部に受話器,送話器,ブザー等の電気音響変換装置を装着した移動通信用端末機に於いて、小孔と音響部品との間に防水紙を配置し、その防水紙の周辺部のみを、内部環状突部と環状介在物との間に固着し、この環状介在物に電気音響変換装置を装着して、電気音響変換装置の内部に第1の前気室、音響部品と防水紙との間に第2の前気室、防水紙と筐体との間に第3の前気室を形成した構成が記載されている。
【0004】
防水膜の他の構成例として、特許文献2には、マイクロフォン本体を収納するマイクロフォン収納体の端面に、凹部を設けた構成が記載されている。ケースのマイクロフォン取付け部に開口部が設けられている。開口部の周囲に位置して、マイクロフォン収納体を挿入固定する保持枠が突設されている。保持枠の内側で、かつ、開口部の周囲に位置して、マイクロフォン収納体の凹部に嵌合する環状の突部が突設されている。
【0005】
上記のような音響用途に用いられる防水膜は、音を高い効率で通過させる必要があるため、振動可能な状態を保ちながら固定されていなければならない。すなわち、防水膜の固定は、できるだけ防水膜の周辺部に限定されることが望まれる。その例として、特許文献3には、開口部を有する2枚の接着支持システム(両面粘着テープ等)によって、保護メンブラン(防水膜)を挟持した構造が記載されている。このような構造により、上流側の音圧波が保護メンブランを振動させ、この振動による保護メンブランの固体伝播エネルギー(機械的な振動)を、下流側の音圧波に変換させ、その結果、音響損失/減衰を低くしている。
【0006】
防水膜は、携帯電話等の電子機器の筐体の通音孔に取り付けられるが、携帯電話等の電子機器は、ますます小型化・薄型化されており、これに伴い、防水膜の小型化・取り付け位置の高精度化が要求されている。
【0007】
防水膜や、電気音響変換装置の位置決め精度を上げるためには、電子機器の筐体に、防水膜や電気音響変換装置を案内(ガイド)するような段差部を形成することが考えられる(例えば特許文献4)。なお、このような段差部は、防水膜に必ずしも完全に勘合するものではなく、特許文献4の図4のように、有る程度の遊びをもって形成される場合もある。そのような場合には、段差部は防水膜の位置決めに必ずしも直接的な寄与をしないこともあるが、防水膜の装着部位を示す目印としても有用である。
【特許文献1】特開平7−131375号公報(図1,図2)
【特許文献2】特開平5−219163号公報(図1)
【特許文献3】特表2003−503991号公報(段落0025,図4,図8)
【特許文献4】特開平8−79865号公報(段落0018、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、筐体に上記段差部を設けても、小型化された防水膜の取り付け作業は、実際上は簡単ではない。図10及び図11は、特許文献3の図4に記載されたような防水フィルター(構成要素として少なくとも防水膜を含むもの)を例にとって、筐体に貼付された状態の防水フィルターの断面を示すものである。
【0009】
図10及び図11において、符号1及び3は接着層、符号2は防水膜、11は筐体、12は通音孔、13は段差部を示す。図10は、防水膜2がうまく装着された場合を示すものである。図11は、接着層1,3が形成された状態の防水フィルター(防水膜2)を筐体11に装着する際に、若干位置ずれがあったために、接着層1の一部が段差部13に乗り上げてしまった例を示すものである。
【0010】
接着層1が段差部13に乗り上げてしまうと、これを取り外して再度取り付け直す作業は非常に困難である。何故ならば、一旦段差部13に粘着してしまった接着層1は簡単には剥がれないし、強く剥がそうとすると薄い防水膜2を破損してしまう畏れがあるからである。もし、接着層1が段差部13に乗り上げたことに気付かずに携帯電話をそのまま完成させてしまった場合には、上記の乗り上げ部分から漏水を起こしてしまう可能性もある。
【0011】
上記のような課題は、防水フィルターの取り付け工程が手作業であっても、自動化されていても基本的に同じであるが、携帯電話のように頻繁に品種が変わる電子機器では手作業で行う場合も多く、作業者の負担は大きい。接着層1が作業者側からは視認できないことも一因している。
【0012】
上述の事情に鑑み、本発明は、接着層を備えた防水フィルターを係合等させる段差部を有する音響部品において、防水フィルターの装着時に、接着層が段差部に乗り上げにくい構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成し得た本発明の音響部品は、
通音孔を有する筐体と、枠状に形成された接着層と、該接着層を介して通音孔を覆うように装着された防水フィルターとを有し、筐体には、防水フィルターを係合させる段差部、又は、防水フィルターの装着部位を示す目印となる段差部が形成され、枠状接着層の外周部は防水フィルターの外周部よりも内側となるように構成されたものである。
【0014】
上記防水フィルターは、フッ素樹脂膜で構成される防水膜を含む態様とすることが好ましい。
【0015】
上記フッ素樹脂膜が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜で構成されている態様とすることが推奨される。
【0016】
上記防水フィルターは、防水膜に枠体を取り付けて構成してもよい。
【0017】
上記防水膜の外周部は、接着層側を谷として折り曲げられている態様が好ましい。
【0018】
上記防水膜の表面に撥液剤を添加する態様とすることが好ましい。
【0019】
上記接着層が両面粘着テープである構成とすることができる。
【0020】
上記目的を達成し得た本発明の音響部品の製造方法は、
剥離シート上に接着層を枠状に形成し、該接着層を防水フィルターで覆い、枠状接着層の外周部よりも外側で防水フィルターを裁断し、剥離シートを接着層から取り外し、防水フィルターの接着層側を、通音孔を有する筐体に装着するものである。
【0021】
上記目的を達成し得た本発明の他の音響部品の製造方法は、
剥離シート上に接着層を枠状に形成し、該枠状の接着層よりも大きく形成した防水フィルターにより、枠状接着層を覆い、剥離シートを接着層から取り外し、防水フィルターの接着層側を、通音孔を有する筐体に装着するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の音響部品及びその製造方法によれば、接着層を備えた防水フィルターを係合等させる段差部を有する音響部品において、防水フィルターの装着時に接着層が段差部に乗り上げにくい構造を提供することができる。これにより、防水フィルターの装着工程の効率が高まるとともに、音響部品の漏水等の不良率を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態における音響部品及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態における音響部品の断面図であって、防水フィルターを筐体に装着する直前の状態を示している。図1において、図面に向かって左側に表したものは、電子機器等の外装ケースである筐体11である。筐体11には、音を通過させるための孔、すなわち、通音孔12が複数形成されている。通音孔12は、一つに限らず、複数であってもよい。また、筐体11には、後述の防水フィルターを係合させ、或いは、防水フィルターの装着部位を示す目印とする段差部13が形成されている。
【0025】
図1において、図面に向かって右側に表したものは、接着層を介して通音孔12を覆うように装着される防水フィルターである。より詳しく説明すると、筐体11に面する側から順に、接着層1、防水膜2、接着層3、枠体4、接着層5がこの順に積層されている。なお、本発明で「防水フィルター」とは、防水機能を有する部材を意味し、本実施の形態では防水膜2に相当するが、後に説明する枠体4等、防水膜2に付随して粘着される部品が存在する場合には、この部品を含めて防水フィルターという。なお、図1では接着層5を説明するために接着層5が存在する例を示したが、接着層5は、防水フィルターと後掲のスピーカーの筐体21とを一体的に貼り合せた状態で筐体11に装着する場合等、必要に応じて使用されるものであり、後掲の図8にも示すように、接着層5は使用されない場合もある。
【0026】
接着層1、3、接着層5は、枠状に形成され、各々の開口は音を通過する役割を果たす。また、防水膜2が接着層1或いは接着層3により固定される部分の面積が小さい程、防水膜2の振動可能な面積が広く、音の通過効率が良い。
【0027】
枠体4は、スピーカーやマイクロフォン等の電気音響変換装置(後掲)と防水膜2との間にスペーサーとして介在させるものである。枠体4(スペーサー)は、防水膜2が電気音響変換装置と接触することによるビリつき音を防止する作用、或いは、防水膜2が電気音響変換装置と間に空間を形成することにより音響特性が向上する作用がある。したがって、枠体4は使用することが好ましい部品である。
【0028】
また、枠体4は、接着層3を介して防水膜2に接着されることにより、比較的柔軟な防水膜2を支持する役割も果たす。なお、図1に示すように、防水膜2、接着層3、枠体4の端部が揃っていると、接着層3が段差部13に付着しにくい。なお、後掲の図4(a)に示すように、接着層3の外周部が防水膜2の外周部、又は枠体4の外周部よりも内側となるように構成すれば、さらに接着層3は段差部13に付着しにくい。
【0029】
図1に示すように、防水フィルターを筐体11に装着する際に、多少の位置ずれがあっても、防水フィルターの外周部が段差部13に係合するため、防水フィルターは通音孔12を覆うように筐体11の所定の位置に着地し、接着層1の働きにより接着される。
【0030】
防水フィルターは、段差部13に係合している。すなわち、防水フィルターは段差部13に必ずしも完全に勘合していなくてもよく、有る程度の遊びをもって形成される場合もある。さらに、段差部13は防水フィルターを案内する役割を果たしていないこともあるが、その場合でも、段差部13は防水フィルターの装着部位を示す目印として有用である。
【0031】
また、枠体4を用いる場合であって防水膜2の外径が枠体4の外径よりも小さい場合、防水膜2は段差部13に勘合しないが、枠体4が段差部13に勘合する場合もあり得る。
【0032】
本発明の最大の特徴として、枠状の接着層1の外周部は防水フィルターの外周部よりも内側となるように構成されているため、防水フィルターの装着時に多少の位置ずれがあっても、接着層1が段差部13に付着する確率が従来よりも低い。そのため、作業者が誤って段差部13に接着層1を乗り上げた状態で粘着してしまうことが少なく、防水フィルターの装着効率が格段に向上する。また、防水信頼性の高い音響部品を提供することができる。なお、防水膜2と枠体4の大きさが異なる等して、防水膜2の外周部と枠体4の外周部の位置が異なる場合は、最外周部が防水フィルターの外周部である。
【0033】
防水フィルターの外周部と接着層1の外周部との間隔は、0.1mm以上あることが好ましい。下限を0.1mmとしたのは、当該間隔が0.1mm未満であると、段差部13への乗り上げ防止効果が実質的に発揮されないからである。より好ましくは0.2mm以上、更に好ましくは0.3mm以上である。防水フィルターの装着作業が手作業により行われる場合は、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.7mm以上、更に好ましくは1.0mm以上である。
【0034】
一方、防水フィルターの外周部と接着層1の外周部との間隔の上限については特に制限はないが、防水フィルターの小型化が求められる中では実質的な上限はある。防水フィルターが仮に円形であり、その直径が10mm〜20mm程度であるという前提を置けば、上記間隔の上限は、例えば1mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。防水フィルターの外周部と接着層1の外周部との間隔が大きすぎる場合、すなわち、接着層1の外径があまりに小さ過ぎる場合は、筐体11と防水フィルターの接着面積が小さくなり防水信頼性が低下する懸念があるからである。なお、上記の接着面積が小さくなるのは、接着層1の内径は、筐体11の通音孔12の大きさや位置に実質的に制約を受けるためである。
【0035】
図2は、本実施の形態に係る音響部品の使用例を示すものであり、音響部品に電気音響変換装置の一例である携帯電話用のスピーカー(着信音等の通知音を発する音波発生装置)を貼付した状態を示す断面図である。図2において、スピーカーの筐体21内には、支持体22に支持された振動体23が設けられている。振動体23から発せられる音波は、筐体21から放出され、防水膜2、通音孔12を経由して携帯電話の外部へと伝搬していく。
【0036】
本実施の形態においては、筐体11に防水フィルターを貼付した後に、防水フィルターに電気音響変換装置を貼付する順序で説明したが、この順序に限定されるものではなく、電気音響変換装置に先に防水フィルターを貼付し、後に筐体11に貼付する順序も、同様に実施可能である。
【0037】
図3は、図2に示した音響部品において、段差部13の形状に変更を加えた例を示すものである。図2に示した音響部品では、段差部13は、防水フィルターの周囲を囲う突起物(凸状物)により形成されているが、この様な形態に限られず、図3に示すように、単に1段のステップが存在しているだけでも同様に実施可能である。
【0038】
図4から図6はそれぞれ、枠体4を使用する場合の防水フィルターのバリエーションを示したものである。図4(a)に示すように、接着層3の外周部は防水膜2の外周部よりも内側となるように構成されていてもよい。防水膜2及び枠体4の端部は、段差部13により案内(ガイド)されるが、その際に接着層3の側面が段差部13の壁面に付着してしまうことを防止できるからである。
【0039】
また、図4(b)に示すように、接着層1と防水膜2が同じ大きさになる場合もある。防水フィルターの製造効率を高めるために、接着層1と防水膜2を同時に打ち抜くような場合にはこの形状となる。
【0040】
なお、図4(b)の構成をとる場合には、接着層3の下面が防水膜2に覆われない部分が存在することになる。そうすると、防水フィルターを筐体11に装着する際、接着層3の下面が段差部13に誤って接触することにより、接着層1の場合と同様に、防水フィルターの位置ずれの懸念、装着効率の低下の懸念があるが、接着層3の接着強度を接着層1の接着強度よりも低くしておくことにより解消できる。接着層3の接着強度が低くてもよいのは、接着層1には外部からの水分の侵入を妨げる程度の強力で確実な接着力が必要とされるが、接着層3は、枠体4が防水膜2から剥がれない程度の接着強度を有していれば十分であるからである。
【0041】
図5では、防水膜2の端部のみ突出した形態である。防水膜2の強度が低い場合であっても、防水膜2の片面または両面に熱可塑性樹脂製ネットのような補強材を設けることにより、本形態を実施可能であり、接着層1,3,5の影響なく防水フィルターを筐体11に接着させることができる。
【0042】
図6は、図5における防水フィルターに更に改良を加えたものであり、防水膜2の外周部は、接着層1側を谷として折り曲げられている。この形態では、接着層1の側面が防水膜2によりカバーされているため、接着層1が段差部13の壁面に付着してしまうことを、より確実に防止することができる。また、防水膜2が多孔質ポリテトラフルオロエチレンのように収縮し易い材料で構成されている場合は、図6に示すような構成を採用することにより、防水膜2の曲げ部分が引っ掛かりとなり、防水膜2の収縮の予防にもなるし、接着層1の露出を防止することもできる。
【0043】
次に、本実施の形態に係る音響部品の製造方法について説明する。
【0044】
図7は、本発明の実施の形態における防水フィルターの製造工程断面図である。まず、図7(a)に示すように、PET製の剥離シート31を準備し、この剥離シート31の上に、開口部1aを有する接着層1を形成する。
【0045】
次に、図7(b)に示すように、接着層1の上から多孔質ポリテトラフルオロエチレン(以下、「多孔質PTFE」と記載する)製の防水膜2を貼り合わせる。
【0046】
次に、図7(c)に示すように、この防水膜2にダイカットロール(刃物)32により、防水膜2の所定の箇所を裁断し、防水膜2を例えば円形形状に成形する。もちろん、防水膜2の形状は、防水膜2等が貼付される電気音響変換装置の形状に応じて決められるものであるので、円形の形状には限定されない。
【0047】
そして、図7(d)に示すように、防水膜2の外側に位置する防水膜2の不要部2xを取り除くことにより、接着層1の外周部が防水膜2の外周部よりも内側となる構成とすることができる。
【0048】
なお、上記した方法の他、接着層1よりも大きく形成した防水膜2を予め準備し、この防水膜2で接着層1を覆う方法でも同じ目的を達成することができる。
【0049】
以上のように作製される防水フィルターを筐体11に貼付することにより、本発明の実施の形態に係る音響部品が完成する。
【0050】
次に、上述した本発明の実施の形態における音響部品の基本的構成要素である接着層1及び防水膜2、音響部品の製造工程において用いる剥離シート31、好ましくは用いられる枠体4について、より詳しく説明する。
【0051】
接着層1は、枠状に形成されるものであるが、枠の形状は特に限定されず、円状、楕円状、矩形状、多角形状のものであってもよい。枠状パターンを持った接着層1を形成する方法としては、例えば、スクリーン印刷による方法や、接着剤の融液をグラビアパターンロールで剥離シート31に転写する方法、或いは、予め枠状に裁断した両面粘着テープを接着層1として使用する方法等がある。両面粘着テープには、不織布芯材両面粘着テープ、PET芯材両面粘着テープ、発泡体芯材両面粘着テープ、基材レス両面粘着テープなど様々なタイプのものを用いることができる。なお、ここでは、「基材レスタイプの両面粘着テープ」は、補強などを目的とした基材(芯材)を含まない両面粘着テープを意味するものとして用いている。
【0052】
なお、本発明において接着剤とは、物と物を貼り合わせるのに用いる物質一般を指すものであり、粘着剤と呼ばれるものを含むものとする。
【0053】
防水膜2の微視的形状としては、ネット状、メッシュ状、多孔質のものを用いることができる。防水膜2の構成材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド等を使用することができるが、好ましくは防水性に優れたフッ素樹脂、更に好ましくは多孔質ポリテトラフルオロエチレン(多孔質PTFE)のフィルムを用いることが推奨される。多孔質PTFEフィルムは、防水性に優れる他、多孔質構造で質量が小さいため、音声を通過させる用途に適している。
【0054】
多孔質PTFEフィルムは、PTFEのファインパウダーを成形助剤と混合することにより得られるペーストの成形体から、成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸、さらに必要に応じて焼成することにより得られるものである。一軸延伸の場合、ノード(折り畳み結晶)が延伸方向に直角に細い島状となっていて、このノード間を繋ぐようにすだれ状にフィブリル(折り畳み結晶が延伸により解けて引出された直鎖状の分子束)が延伸方向に配向している。そして、フィブリル間、又はフィブリルとノードとで画される空間が空孔となった繊維質構造となっている。また、二軸延伸の場合には、フィブリルが放射状に広がり、フィブリルを繋ぐノードが島状に点在して、フィブリルとノードとで画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている。
【0055】
防水膜2は、1軸延伸多孔質PTFEフィルムであってもよいし、2軸延伸多孔質PTFEフィルムであってもよいが、好ましくは2軸延伸多孔質PTFEフィルムである。
【0056】
剥離シート31に用いる材料としてPET以外に選択し得るものは、例えば、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート等の樹脂フィルム、グラシン紙、上質紙、コート紙、含浸紙、合成紙などの紙、アルミニウム、ステンレススチール等の金属箔などが挙げられる。
【0057】
剥離シート31の厚さは、例えば、10〜100μm、好ましくは25〜50μmとすることが望ましい。粘着剤との剥離性を向上させるため、剥離シート31の基材の表面に離型剤を形成するか、或いは、基材表面にコロナ放電処理、プラズマ処理、フレームプラズマ処理などを施してもよく、プライマー層などを設けてもよい。プライマー層としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン系共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、これらの変性物などの高分子材料(所謂アンカーコート剤)を使用することが出来る。
【0058】
防水膜2は、その細孔内表面に撥液性ポリマーを被覆させて用いるのが好ましい。なお、特許請求の範囲及び本明細書において「撥液剤」とは、液体をはじく性質乃至は機能を有する物質を指すものであるとし、「撥液剤」には、「撥水剤」、「撥油剤」、「撥水撥油剤」等を含むものとする。以下、撥水撥油性ポリマーを例に挙げて説明する。
【0059】
防水膜2の細孔内表面を撥水撥油性ポリマーで被覆しておくことによって、体脂や機械油、飲料、洗濯洗剤などの様々な汚染物が、防水膜の細孔内に浸透若しくは保持されるのを抑制できる。これらの汚染物質は、多孔質PTFEの疎水性を低下させて、防水性を損なわせる原因となるからである。
【0060】
撥水撥油性ポリマーとしては、含フッ素側鎖を有するポリマーを用いることができる。撥水撥油性ポリマーおよびそれを多孔質PTFEフィルムに複合化する方法の詳細についてはWO94/22928号公報などに開示されており、その一例を下記に示す。
撥水撥油性ポリマーとしては、下記一般式(1)
【0061】
【化1】

【0062】
(式中、nは3〜13の整数、Rは水素またはメチル基である)
で表されるフルオロアルキルアクリレートおよび/またはフルオロアルキルメタクリレートを重合して得られる含フッ素側鎖を有するポリマー(フッ素化アルキル部分は4〜16の炭素原子を有することが好ましい)を好ましく用いることができる。このポリマーを用いて上記多孔質PTFEフィルムの細孔内を被覆するには、このポリマーの水性マイクロエマルジョン(平均粒径0.01〜0.5μm)を含フッ素界面活性剤(例、アンモニウムパーフルオロオクタネート)を用いて作製し、これを多孔質PTFEフィルムの細孔内に含浸させた後、加熱する。この加熱によって、水と含フッ素界面活性剤が除去されるとともに、含フッ素側鎖を有するポリマーが溶融して多孔質PTFEフィルムの細孔内表面を連続気孔が維持された状態で被覆し、撥水性・撥油性の優れた防水膜2が得られる。
【0063】
また、その他の撥水撥油性ポリマーとして、「AFポリマー」(デュポン社の商品名)や、「サイトップ」(旭硝子社の商品名)なども使用できる。これらのポリマーを防水膜2の細孔内表面に被覆するには、例えば「フロリナート」(住友スリーエム社の商品名)などの不活性溶剤に前記ポリマーを溶解させ、多孔質PTFEフィルムに含浸させた後、溶剤を蒸発除去すればよい。
【0064】
枠体4を構成する材料としては、ウレタンフォーム、シリコーンフォーム、アクリルフォーム、ポリエチレンフォーム等の発泡体基材、その他、PET基材、シリコーン基材、ナイロン基材のものを使用することができる。枠体4の片面又は両面に粘着剤を設けたものが好ましく使用され、これらは市販品(例えば、株式会社ロジャースイノアック社製、商品名:Poron)として入手することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
(試作例1)
[防水膜の作製]
乳化重合により得られたポリテトラフルオロエチレンの粉末(ファインパウダー)100重量部に、ソルベントナフサ22重量部を混合してなるペースト樹脂をフィルム状にし、このフィルム状のペースト成形体をソルベントナフサの沸点以上に加熱してソルベントナフサを蒸発除去した後、ポリテトラフルオロエチレンの融点以下の温度で毎秒10%以上の速度で二軸延伸して、厚さ30μm、大きさ内径10mm×外径18mm、空孔率85%の多孔質PTFEフィルムを作製し、これを防水膜2とした。
【0067】
[防水フィルターの構成]
図8に示すように、接着層1、防水膜2、接着層3、及び、枠体4をこの順で積層した。接着層1には、PETフィルム基材の両面にアクリル系粘着剤を塗布した両面粘着テープ(住友スリーエム社製、品番:4393、以降「両面粘着テープα」と記載する)で、厚さ:0.2mmのもの、接着層2Bには、同じくPETフィルム基材の両面にアクリル系粘着剤を塗布した両面粘着テープ(住友スリーエム社製、品番:ST−416P、以降「両面粘着テープβ」と記載する)で、厚さ:0.125mmのもの、そして、枠体4として、厚さ250μmのPETフィルムを用いた。枠体4は、電気音響変換装置との間のスペーサーとして使用するものである。
【0068】
(試作例2)
図9に示すように、接着層1、防水膜2、接着層3、及び、セパレータ7をこの順で積層した。防水膜2には、試作例1と同じ多孔質PTFEフィルムを用いた。接着層1には、両面粘着テープαで、厚さ:0.20mmのもの、接着層3には、両面粘着テープβで、厚さ:0.125mmのもの、そして、セパレータ7として、厚さ0.075mmのPETフィルムを用いた。セパレータ7は、電気音響変換装置を防水膜2に装着する際に剥がすものである。また、セパレータ7が接着層3よりも大きくなるように形成しているので、セパレータ7の端部を掴んで剥がし易い構造となっている。
【0069】
(試作例3)
図8に示すように、接着層1、防水膜2、接着層3、及び、枠体4をこの順で積層した。防水膜2には、試作例1と同じ多孔質PTFEフィルムを用いた。接着層1には、アクリルフォーム基材の両面にアクリル系粘着剤を塗布した両面粘着テープ(住友スリーエム社製、品番:VHB−Y4914、以降「両面粘着テープγ」と記載する)で、厚さ:0.25mmのもの、接着層3には、両面粘着テープβで、厚さ:0.125mmのものを用いた、そして、枠体4(株式会社ロジャースイノアック社製、商品名:Poron、品番:SR−S48P、厚さ0.30mm)は、電気音響変換装置との間のスペーサーとして使用される。
【0070】
(試作例4)
図9に示すように、接着層1、防水膜2、接着層3、及び、セパレータ7をこの順で積層した。防水膜2には、試作例1と同じ多孔質PTFEフィルムを用いた。接着層1には、両面粘着テープγで、厚さ:0.25mmのもの、接着層3には、両面粘着テープβで、厚さ0.125mmのものを用いた、そして、セパレータ7として、厚さ0.075mmのPETフィルムを用いた。セパレータ7は、試作例2と同じく、電気音響変換装置を接着する際に剥がすものであり、また、接着層3よりも大きくなるように形成しているので、セパレータ7の端部を掴んで剥がし易い構造となっている。
【0071】
試作例1〜4に記載した他、接着層1又は接着層3には、厚さ0.006mmのPETフィルム基材の両面にアクリル系粘着剤を塗布した両面粘着テープ(大日本インキ化学工業株式会社(現DIC株式会社)製、品番:#8606TN)で、総厚さが0.03mmのもの、或いは、厚さ0.05mmのPETフィルム基材の両面にアクリル系粘着剤を塗布した両面粘着テープ(大日本インキ化学工業社製、品番:#8650S)で、総厚さが0.1mmのものを使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる音響部品の断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態にかかる音響部品の断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態にかかる音響部品の断面図である。
【図4】図4(a)及び(b)は、本発明の実施の形態にかかる音響部品の断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態にかかる音響部品の断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態にかかる音響部品の断面図である。
【図7】図7(a)〜(d)は、本発明の実施例にかかる音響部品の製造工程断面図である。
【図8】図8は、本発明の実施例にかかる音響部品の断面図である。
【図9】図9は、本発明の実施例にかかる音響部品の断面図である。
【図10】図10は、従来の音響部品の断面図である。
【図11】図11は、従来の音響部品の断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 接着層
1a 開口部
2 防水膜
2x 不要部
3 接着層
4 枠体
5 接着層
7 セパレータ
11 筐体
12 通音孔
13 段差部
21 筐体
22 支持体
23 振動体
31 剥離シート
32 ダイカットロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通音孔を有する筐体と、枠状に形成された接着層と、該接着層を介して前記通音孔を覆うように装着された防水フィルターとを有し、前記筐体には、前記防水フィルターを係合させる段差部、又は、前記防水フィルターの装着部位を示す目印となる段差部が形成され、前記枠状接着層の外周部は前記防水フィルターの外周部よりも内側となるように構成されていることを特徴とする音響部品。
【請求項2】
前記防水フィルターは、フッ素樹脂で構成される防水膜を含むものである請求項1に記載の音響部品。
【請求項3】
前記フッ素樹脂が多孔質ポリテトラフルオロエチレンである請求項2に記載の音響部品。
【請求項4】
前記防水フィルターは、前記防水膜に枠体が取り付けられて構成されるものである請求項2または3に記載の音響部品。
【請求項5】
前記防水膜の外周部は、前記枠体の外周部よりも内側となるように構成されている請求項4に記載の音響部品。
【請求項6】
前記防水膜の外周部は、前記接着層側を谷として折り曲げられている請求項2〜5のいずれかに記載の音響部品。
【請求項7】
前記防水膜の表面に撥液剤を添加した請求項2〜6のいずれかに記載の音響部品。
【請求項8】
前記接着層が両面粘着テープである請求項1〜7のいずれかに記載の音響部品。
【請求項9】
剥離シート上に接着層を枠状に形成し、該接着層を防水フィルターで覆い、前記枠状接着層の外周部よりも外側で前記防水フィルターを裁断し、前記剥離シートを前記接着層から取り外し、前記防水フィルターの前記接着層側を、通音孔を有する筐体に装着することを特徴とする音響部品の製造方法。
【請求項10】
剥離シート上に接着層を枠状に形成し、該枠状の接着層よりも大きく形成した防水フィルターにより、枠状接着層を覆い、前記剥離シートを前記接着層から取り外し、前記防水フィルターの前記接着層側を、通音孔を有する筐体に装着することを特徴とする音響部品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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