説明

頭部伝達関数生成装置、頭部伝達関数生成方法及び音声信号処理装置

【課題】高精度な頭部伝達関数を生成し得るようにする。
【解決手段】無響室2において直接波についての頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tを測定し、当該頭部伝達関数Hを当該素の状態の伝達特性Tで正規化することによりゼロレベルが明確な相対値とし、周波数軸のデータにおける動径γn(m)の平方根を算出することにより、電力の次元で測定された頭部伝達関数Hから電圧の次元の正規化頭部伝達関数HNに正しく変換することができる。テレビジョン装置50は、この正規化頭部伝達関数HNを音声信号に畳み込むことにより、リスナに対し、強調されすぎておらず自然で高品質な音声を聴取させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は頭部伝達関数生成装置、頭部伝達関数生成方法及び音声信号処理装置に関し、例えば搭載するスピーカにより再生する音声の音像位置を調整するテレビジョン装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テレビジョン装置や当該テレビジョン装置に接続するアンプ装置等においては、仮想音像定位と呼ばれる技術を利用して、再生する音声の音源を所望の位置に仮想的に定位させるものが提案されている。
【0003】
この仮想音像定位は、例えばテレビジョン装置に配置される左右のスピーカ等で音声を再生したときに、予め想定された位置に音像を仮想的に定位させるものであり、具体的には次のような手法により実現される。
【0004】
例えば左右2チャンネルのステレオ信号を、テレビジョン装置に配置される左右のスピーカで再生する場合を想定する。
【0005】
図1に示すように、まず所定の測定環境において頭部伝達関数を測定する。具体的には、視聴者(リスナ)の両耳の近傍の位置(測定点位置)に、マイクロホンMLおよびMRを設置する。また、仮想音像定位させたい位置にスピーカSPLおよびSPRを配置する。ここで、スピーカは、電気音響変換部の一例であり、マイクロホンは、音響電気変換部の一例である。
【0006】
そして、ダミーヘッドDH(または人間つまりリスナ自体でも良い)が存在する状態で、まず、一方のチャンネル、例えば左チャンネルのスピーカSPLで、例えばインパルスを音響再生する。そして、その音響再生により発せられたインパルスを上記マイクロホンML及びMRのそれぞれで収音して、左チャンネル用の頭部伝達関数を測定する。この例の場合、頭部伝達関数は、インパルスレスポンスとして測定する。
【0007】
このとき左チャンネル用の頭部伝達関数としてのインパルスレスポンスには、図1に示すように、スピーカSPLからの音波をマイクロホンMLで収音したインパルスレスポンス(以下、左主成分のインパルスレスポンスという)HLdと、スピーカSPLからの音波をマイクロホンMRで収音したインパルスレスポンス(以下、左クロストーク成分のインパルスレスポンスという)HLcとを含む。
【0008】
次に、右チャネルのスピーカSPRで同様にインパルスを音響再生し、その音響再生により発せられたインパルスを上記マイクロホンMLおよびMRのそれぞれで収音する。そして、右チャンネル用の頭部伝達関数、つまり、右チャンネル用のインパルスレスポンスを測定する。
【0009】
このとき、右チャンネル用の頭部伝達関数としてのインパルスレスポンスには、スピーカSPRからの音波をマイクロホンMRで収音したインパルスレスポンス(以下、右主成分のインパルスレスポンスという)HRdと、スピーカSPRからの音波をマイクロホンMLで収音したインパルスレスポンス(以下、右クロストーク成分のインパルスレスポンスという)HRcとを含む。
【0010】
そしてテレビジョン装置は、左右のスピーカのそれぞれに供給する音声信号に音声信号処理を施すことにより、左チャンネル用の頭部伝達関数及び右チャネル用の頭部伝達関数それぞれのインパルスレスポンスをそのまま畳み込む。
【0011】
すなわちテレビジョン装置は、左チャンネルの音声信号に対し、測定により得た左チャンネル用の頭部伝達関数、すなわち左主成分のインパルスレスポンスHLd及び左クロストーク成分のインパルスレスポンスHLcをそのまま畳み込む。
【0012】
またテレビジョン装置は、右チャンネルの音声信号に対し、測定により得た右チャンネル用の頭部伝達関数、すなわち右主成分のインパルスレスポンスHRd及び右クロストーク成分のインパルスレスポンスHRcをそのまま畳み込む。
【0013】
これによりテレビジョン装置は、左右のスピーカで音響再生するにもかかわらず、例えば左右2チャンネルステレオ音声の場合であれば、あたかもリスナの前方の所望の位置に設置された左右のスピーカで音響再生されているように音像定位(仮想音像定位)させることができる。
【0014】
このように仮想音像定位においては、所定の位置のスピーカから出力された音波を所定の位置のマイクロホンで収音する場合の頭部伝達関数を予め測定しておき、当該頭部伝達関数を音声信号に畳み込むようになされている。
【0015】
ところで頭部伝達関数を測定する場合には、スピーカやマイクロホン自体の音響特性が当該頭部伝達関数に影響を与えてしまう。このためテレビジョン装置は、このような頭部伝達関数を用いて音声信号に対し音声信号処理を施したとしても、必ずしも所望の位置に音像定位させ得ない可能性があった。
【0016】
そこで、頭部伝達関数測定方法として、ダミーヘッドDH等が存在する状態で得られた頭部伝達関数を、当該ダミーヘッドDH等が存在しない状態で得られた素の状態の伝達特性によって正規化するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0017】
この頭部伝達関数測定方法によれば、スピーカやマイクロホン自体の音響特性を排除することができ、高精度な音像定位を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2009−194682号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、このように測定した頭部伝達関数を音声信号に畳み込んだ場合、これをスピーカから出力してその音声を聴取すると、当該スピーカが所望の位置に設置されている場合よりも強調されたような、すなわち広がりすぎたような音声になりやすいことが知られていた。
【0020】
ここで、例えばテレビジョン装置においてイコライザ等を用い音声信号を補正することにより、音声における強調されたような感覚を低減できるとも考えられる。しかしながらこの場合、畳み込む頭部伝達関数を変化させることにもなるため、リスナが所望する音像を適切に定位できないおそれがある、という問題があった。
【0021】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、高精度な頭部伝達関数を生成し得る頭部伝達関数生成装置及び頭部伝達関数生成方法並びに高精度な頭部伝達関数により所望の仮想音像定位感を得られる音声信号処理装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
かかる課題を解決するため本発明の頭部伝達関数生成装置及び頭部伝達関数生成方法においては、第1の測定環境において生成された第1の頭部伝達関数及び第2の測定環境において生成された第2の頭部伝達関数を入力し、第1の頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第1の利得を、第2の頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第2の利得で正規化すると共にその平方根を算出するようにした。
【0023】
本発明は、頭部伝達関数を正規化することにより基準となるゼロレベルを定めることができるため、平方根の算出といった簡単な演算により電力の次元から電圧の次元に変換された正規化頭部伝達関数を生成することができる。
【0024】
また本発明の音声信号処理装置においては、第1の測定環境において生成された第1の頭部伝達関数を入力する第1入力部と、第2の測定環境において生成された第2の頭部伝達関数を入力する第2入力部と、第1の頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第1の利得を、第2の頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第2の利得で正規化すると共にその平方根を算出することにより変換正規化利得を生成する変換正規化処理部と、変換正規化利得を基に時間軸データでなる正規化頭部伝達関数を生成する頭部伝達関数生成部と、正規化頭部伝達関数を音声信号に畳み込む畳込処理部とを設けるようにした。
【0025】
本発明の音声信号処理装置は、頭部伝達関数を正規化することにより基準となるゼロレベルを定めることができるため、平方根の算出といった簡単な演算により電力の次元から電圧の次元に変換された正規化頭部伝達関数を音声信号に畳み込むことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、頭部伝達関数を正規化することにより基準となるゼロレベルを定めることができるため、平方根の算出といった簡単な演算により電力の次元から電圧の次元に変換された正規化頭部伝達関数を生成することができる。かくして本発明は、高精度な頭部伝達関数を生成し得る頭部伝達関数生成装置及び頭部伝達関数生成方法を実現できる。
【0027】
また本発明によれば、頭部伝達関数を正規化することにより基準となるゼロレベルを定めることができるため、平方根の算出といった簡単な演算により電力の次元から電圧の次元に変換された正規化頭部伝達関数を音声信号に畳み込むことができる。かくして本発明は、高精度な頭部伝達関数により所望の仮想音像定位感を得られる音声信号処理装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来の頭部伝達関数の測定環境を示す略線図である。
【図2】頭部伝達関数の測定の説明に供する略線図である。
【図3】頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性を示す略線図である。
【図4】正規化処理回路の構成を示す略線的ブロック図である。
【図5】測定正規化処理の前後における頭部伝達関数の周波数特性を示す略線図である。
【図6】次元変換正規化処理回路の構成を示す略線的ブロック図である。
【図7】インパルスレスポンスの周波数特性を示す略線図である。
【図8】インパルスレスポンスの波形を示す略線図である。
【図9】現実音源方向位置及び想定音源方向位置の説明に供する略線図である。
【図10】第1の実施の形態による音声信号処理部の構成を示す略線的ブロック図である。
【図11】2重正規化処理の概要を示す略線的ブロック図である。
【図12】定位正規化処理の前後における頭部伝達関数の周波数特性を示す略線図である。
【図13】7.1チャンネルマルチサラウンドにおけるスピーカ配置例(1)を示す略線図である。
【図14】7.1チャンネルマルチサラウンドにおけるスピーカ配置例(2)を示す略線図である。
【図15】第2の実施の形態における音声信号処理部の構成を示す略線的ブロック図である。
【図16】2重正規化処理部の構成を示す略線的ブロック図である。
【図17】フロント処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図18】センター処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図19】サイド処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図20】バック処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図21】低域効果処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図22】他の実施の形態による2重正規化処理部の構成を示す略線的ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.本発明の基本原理
2.第1の実施の形態(正規化処理を1段階のみ行う例)
3.第2の実施の形態(正規化処理を2段階行う例)
4.他の実施の形態
【0030】
<1.本発明の基本原理>
実施の形態に先立ち、ここでは本発明の基本原理について説明する。
【0031】
[1−1.頭部伝達関数の測定]
本発明では、図2(A)及び(B)に示す頭部伝達関数測定システム1により、特定の音源からの反射波成分を除く直接波のみについて、頭部伝達関数を予め測定しておくようになされている。
【0032】
頭部伝達関数測定システム1は、無響室2内にダミーヘッドDH、スピーカSP並びにマイクロホンML及びMRがそれぞれ所定の位置に設置されている。
【0033】
無響室2は、壁面、天井面及び床面において音波を反射させず吸音するようになされている。このため無響室2では、マイクロホンML及びMRによりスピーカSPからの直接波のみを収音することができる。
【0034】
ダミーヘッドDHは、リスナ(すなわち人体)を模した形状に構成されており、当該リスナの聴取位置に設置される。測定用音波を収音する収音部としてのマイクロホンML及びMRは、リスナの耳の耳殻内に相当する測定点位置にそれぞれ設置される。
【0035】
測定用音波を発生する音源としてのスピーカSPは、聴取位置又は測定点位置を基点として、頭部伝達関数を測定しようとする方向の、所定の距離だけ離隔した位置(例えば位置P1)に設置される。以下では、このようにスピーカSPが設置された位置を想定音源方向位置と呼ぶ。
【0036】
音声信号処理部3は、任意の音声信号を生成してスピーカSPへ供給すると共に、マイクロホンML及びMRにおいて収音された音声に基づく音声信号をそれぞれ取得し、所定の信号処理を施し得るようになされている。
【0037】
因みに音声信号処理部3は、例えばサンプリング周波数が96[kHz]でなる8192サンプルのディジタルデータを生成するようになされている。
【0038】
頭部伝達関数測定システム1は、まず図2(A)に示したようにダミーヘッドDHが存在する状態で、頭部伝達関数の測定用音波としてインパルスを音声信号処理部3からスピーカSPへ供給して当該インパルスを再生する。
【0039】
また頭部伝達関数測定システム1は、マイクロホンML及びMRによりそのインパルスレスポンスをそれぞれ収音し、生成した音声信号を音声信号処理部3へ供給する。
【0040】
ここでマイクロホンML及びMRから得られたインパルスレスポンスは、このときのスピーカSPの想定音源方向位置における頭部伝達関数Hを表すものとなり、例えば図3(A)に示すような特性となる。因みに図3(A)は、時間軸データであるインパルスレスポンスを周波数軸データに変換したときの特性を表している。
【0041】
ところで無響室2では、スピーカSPがダミーヘッドDHの右側に設置されている(図2(A))。このため、ダミーヘッドDHの右側に設置されているマイクロホンMRにより得られたインパルスレスポンスは、右主成分のインパルスレスポンスHRd(図1)に相当し、マイクロホンMLにより得られたインパルスレスポンスは、右クロストーク成分のインパルスレスポンスHRc(図1)に相当する。
【0042】
このように頭部伝達関数測定システム1は、まず無響室2にダミーヘッドDHがある測定環境で、想定音源方向位置における直接波のみの頭部伝達関数Hを測定するようになされている。
【0043】
次に頭部伝達関数測定システム1は、図2(B)に示すように、ダミーヘッドDHを除去した状態で、同様にインパルスを音声信号処理部3からスピーカSPへ供給して当該インパルスを再生する。
【0044】
また頭部伝達関数測定システム1は、同様にマイクロホンML及びMRによりそのインパルスレスポンスをそれぞれ収音し、生成した音声信号を音声信号処理部3へ供給する。
【0045】
ここでマイクロホンML及びMRから得られたインパルスレスポンスは、このときのスピーカSPの想定音源方向位置における、ダミーヘッドDHや障害物等が存在しない素の状態の伝達関数Tを表すものとなり、例えば図3(A)と対応する図3(B)に示すような特性となる。
【0046】
この素の状態の伝達特性Tは、ダミーヘッドDHの影響を排除した、スピーカSP並びにマイクロホンML及びMRによる測定系の特性を表すものとなる。
【0047】
このように頭部伝達関数測定システム1は、無響室2にダミーヘッドDHが存在しない測定環境で、想定音源方向位置における直接波のみの素の状態の伝達関数Tを測定するようになされている。
【0048】
さらに頭部伝達関数測定システム1は、聴取位置を基点として水平方向に10度ごとの角度をなす位置P2、P3、…に測定点位置を設定して、ダミーヘッドDHがある状態の頭部伝達関数及び当該ダミーヘッドDHが存在しない素の状態の伝達特性をそれぞれ測定するようになされている。
【0049】
因みに頭部伝達関数測定システム1では、図1の場合と同様、直接波について、2個のマイクロホンML及びMRそれぞれから、主成分の頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性と、左右のクロストーク成分の頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性とを得ることができる。
【0050】
[1−2.マイクロホン及びスピーカの影響の排除(測定正規化処理)]
次に、頭部伝達関数に含まれるマイクロホン及びスピーカの影響の排除について説明する。
【0051】
マイクロホンML及びMR並びにスピーカSPを用いて頭部伝達関数H及び素の状態の伝達関数Tを測定した場合、当該頭部伝達関数H及び素の状態の伝達関数Tには、上述したように、当該マイクロホンML及びMR並びにスピーカSPの影響がそれぞれに含まれてしまう。
【0052】
そこで本発明では、特許文献1に記載されている手法と同様、頭部伝達関数Hを素の状態の伝達特性Tで正規化することにより(以下これを測定正規化とも呼ぶ)、マイクロホン及びスピーカの影響を排除した正規化頭部伝達関数HNを生成するようになされている。
【0053】
因みにここでは、簡略化のため、主成分についてのみ正規化処理の説明をし、クロストーク成分については説明を省略する。
【0054】
図4は、頭部伝達関数の正規化処理を行う正規化処理回路10の構成を示すブロック図である。
【0055】
遅延除去頭詰め部11は、頭部伝達関数測定システム1(図2(A)及び(B))の音声信号処理部3から、想定音源方向位置における直接波のみの素の状態の伝達特性Tを表すデータを取得する。以下では、この素の状態の伝達特性Tを示すデータをXref(m)(ただしm=0,1,2,…,M−1(M=8192))と表記する。
【0056】
また遅延除去頭詰め部12は、頭部伝達関数測定システム1の音声信号処理部3から、想定音源方向位置における直接波のみの頭部伝達関数Hを表すデータを取得する。以下では、この頭部伝達関数Hを示すデータをX(m)と表記する。
【0057】
遅延除去頭詰め部11及び12は、想定音源方向位置に設置されたスピーカSPからの音波がマイクロホンMRへ到達するまでの時間に相当する遅延時間分だけ、当該スピーカSPにおいてインパルスが再生開始された時点からの頭の部分のデータをそれぞれ除去する。
【0058】
これにより最終的に生成される正規化頭部伝達関数は、インパルスを発生するスピーカSPの位置(すなわち想定音源方向位置)と、インパルスを収音するマイクロホンの位置(すなわち測定点位置)との距離に無関係となる。これを換言すれば、生成される正規化頭部伝達関数は、インパルスを収音する測定点位置から見て、想定音源方向位置の方向のみに応じた頭部伝達関数となる。
【0059】
また遅延除去頭詰め部11及び12は、素の状態の伝達特性TのデータXref(m)及び頭部伝達関数HのデータX(m)それぞれについて、次段における時間軸データから周波数軸データへの直交変換を踏まえてデータ数を2のべき乗となるよう削減し、FFT(Fast Fourier Transform)部13及び14にそれぞれ供給する。因みにこのときのデータ数はM/2となる。
【0060】
FFT部13及び14は、位相を考慮した複素高速フーリエ変換(複素FFT)処理を行うことにより、素の状態の伝達特性TのデータXref(m)及び頭部伝達関数HのデータX(m)を時間軸データから周波数軸データにそれぞれ変換する。
【0061】
具体的にFFT部13は、複素FFT処理により、素の状態の伝達特性TのデータXref(m)を実部Rref(m)及び虚部jIref(m)からなるFFTデータ、すなわちRref(m)+jIref(m)に変換し、これを極座標変換部15へ供給する。
【0062】
またFFT部14は、複素FFT処理により、頭部伝達関数のデータX(m)を実部R(m)及び虚部jI(m)からなるFFTデータ、すなわちR(m)+jI(m)に変換し、これを極座標変換部16へ供給する。
【0063】
FFT部13及び14で得られるFFTデータは、周波数特性を表すX−Y座標データとなる。ここで素の状態の伝達特性T及び頭部伝達関数H双方のFFTデータを重ね合わせると、図5(A)に示すように、全般的な傾向としては近似しており相関性が高いものの、相違する部分が散見され、また頭部伝達関数Hのみに特異なピークが現れていることが分かる。
【0064】
因みに両特性の相関が比較的高いのは、頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tそれぞれを測定した状態(すなわち室内の音響特性)が、ダミーヘッドDHの有無のみを相違点とし全体として類似しているからであると考えられる。また、このときのデータ数はM/4となる。
【0065】
極座標変換部15及び16は、これらのFFTデータをX−Y座標データ(直交座標データ)から極座標データにそれぞれ変換する。
【0066】
具体的に極座標変換部15は、素の状態の伝達特性TのFFTデータRref(m)+jIref(m)を大きさ成分である動径γref(m)と、角度成分である偏角θref(m)とに変換する。そして極座標変換部15は、この動径γref(m)及び偏角θref(m)、すなわち極座標データを正規化処理部20へ供給する。
【0067】
また極座標変換部16は、頭部伝達関数HのFFTデータR(m)+jI(m)を動径γ(m)及び偏角θ(m)に変換する。そして極座標変換部16は、この動径γ(m)及び偏角θ(m)、すなわち極座標データを正規化処理部20へ供給する。
【0068】
正規化処理部20は、ダミーヘッドDHが存在する状態で測定された頭部伝達関数Hを、ダミーヘッドDH等の障害物が存在しない素の状態の伝達特性Tにより正規化する。
【0069】
具体的に正規化および正規化処理部20は、次の(1)式及び(2)式に従って正規化処理を行うことにより、正規化処理後の動径γn(m)及び偏角θn(m)をそれぞれ算出し、これらをX−Y座標変換部21へ供給する。
【0070】
【数1】

【0071】
【数2】

【0072】
すなわち正規化処理部20では、大きさ成分について動径γ(m)を動径γref(m)で除算すると共に、角度成分について偏角θ(m)から偏角θref(m)を減算することにより、極座標系のデータについての正規化処理を行うようになされている。
【0073】
X−Y座標変換部21は、正規化処理後における極座標系のデータをX−Y座標系(直交座標系)のデータに変換する。
【0074】
具体的にX−Y座標変換部21は、極座標系の動径γn(m)及び偏角θn(m)を、X−Y座標系の実部Rn(m)及び虚部jIn(m)(ただしm=0,1,…,M/4−1)からなる周波数軸データに変換し、逆FFT部22へ供給する。
【0075】
因みに変換後の周波数軸データは、例えば図5(B)に示すような周波数特性となっており、正規化頭部伝達関数HNを表すものとなる。
【0076】
図5(B)からわかるように、正規化頭部伝達関数HNは、正規化前の頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tの双方においてゲインが低かった低域及び高域の部分が持ち上げられたような周波数特性となっている。
【0077】
また他の観点から見れば、正規化頭部伝達関数HNは、おおむね頭部伝達関数Hと素の状態の伝達特性Tとの差分に相当しており、0[dB]を中心として周波数の変化に連れてゲインが正負に変動するような特性となっている。
【0078】
逆FFT(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)部22は、複素逆高速フーリエ変換(複素逆FFT)処理により、X−Y座標系の周波数軸データである正規化頭部伝達関数データを、時間軸の正規化頭部伝達関数データであるインパルスレスポンスXn(m)に変換する。
【0079】
具体的に逆FFT部22は、次の(3)式に従った演算処理を行うことにより、時間軸の正規化頭部伝達関数データであるインパルスレスポンスXn(m)を生成し、これをIR(インパルスレスポンス)簡略化部23へ供給する。
【0080】
【数3】

【0081】
IR簡略化部23は、インパルスレスポンスXn(m)を処理可能な、すなわち後述する畳込処理が可能なインパルス特性のタップ長に簡略化することにより正規化頭部伝達関数HNとする。
【0082】
具体的にIR簡略化部23は、インパルスレスポンスXn(m)を80タップに、すなわちデータ列の先頭から80個のデータでなるインパルスレスポンスXn(m)(m=0,1,…,79)に簡略化し、これを所定の記憶部に記憶させる。
【0083】
この結果、正規化処理回路10は、リスナの聴取位置又は測定点位置を基点としてスピーカSPを所定の想定音源方向位置に設置したとき(図2(A)及び(B))における、当該想定音源方向位置に対する主成分の正規化頭部伝達関数HNを生成することができる。
【0084】
このようにして生成された正規化頭部伝達関数HNは、測定に用いたマイクロホンML及びMR並びにスピーカSPの特性による影響が除去されたものとなる。
【0085】
このため正規化処理回路10は、例えば頭部伝達関数測定システム1において周波数特性が平坦な、特性の良い高価なマイクロホンやスピーカ等をわざわざ用いることなく、測定に用いたマイクロホンML及びMR並びにスピーカSPの特性の影響を除去することができる。
【0086】
因みに正規化処理回路10は、クロストーク成分についても同様の演算処理を行うことにより、想定音源方向位置に対するクロストーク成分の正規化頭部伝達関数HNを生成し、これを所定の記憶部に記憶させるようになされている。
【0087】
なお正規化処理回路10における各信号処理は、全てDSP(Digital Signal Processor)で行うことができる。この場合において、遅延除去頭詰め部11及び12、FFT部13及び14、極座標変換部15及び16、正規化処理部20、X−Y座標変換部21、逆FFT部22並びにIR簡略部23については、それぞれをDSPで構成しても良く、或いは全体をまとめて1個若しくは複数個のDSPで構成するようにしても良い。
【0088】
このように正規化処理回路10は、頭部伝達関数Hを素の状態の伝達特性Tで正規化することにより(以下これを測定正規化処理と呼ぶ)、マイクロホンML及びMR並びに及びスピーカSPといった測定用の機器による影響を排除した正規化頭部伝達関数HNを生成するようになされている。
【0089】
[1−3.電力電圧変換処理]
ところで頭部伝達関数測定システム1(図2)では、頭部伝達関数H等を測定する際、上述したように、TSP(Time Stretched Pulse)等のインパルスでなる音声信号(以下これを供給音声信号と呼ぶ)をスピーカSPに供給し、音声として出力させる。
【0090】
これと共に頭部伝達関数測定システム1では、例えばマイクロホンMLによりその音声を集音し、音声信号(以下これを測定音声信号と呼ぶ)を生成する。この測定音声信号がインパルスレスポンスを表すものとなる。
【0091】
ここで測定音声信号は、スピーカSPの音圧特性を測定した際の測定結果と同等であり、例えば当該スピーカSPからマイクロホンMLまでの距離を2倍にすると、その音圧レベルが6[dB]低下することになる。
【0092】
一般に音圧特性はエネルギー表示であるため、音圧レベルにおける6[dB]の低下は、その音圧が1/4倍(1/2倍)になったことを意味する。このことは、実測により得られたインパルスレスポンスが、音圧の次元、すなわちエネルギーまたは電力の次元で表現されていることを意味している。
【0093】
このように頭部伝達関数測定システム1では、スピーカSPに供給した供給音声信号が電圧の次元であるのに対し、マイクロホンMLにより得られた測定音声信号が電力の次元となっている。
【0094】
ここで、供給音声信号と測定音声信号との関係を数式により表すことを検討する。例えばスピーカSP及びマイクロホンMLの周波数特性が完全にフラットであると仮定し、供給音声信号の電圧をXi[V]とし、測定音声信号の電圧をXo[V]とする。
【0095】
頭部伝達関数の測定時におけるスピーカSPからの出力音圧Piは、当該スピーカSPの能率をGsとし、インピーダンスをZ[Ω]とすると、次の(4)式のように表すことができる。
【0096】
【数4】

【0097】
また測定音声信号の電圧Xoは、マイクロホンMLの感度をGmとすると、(4)式の関係を利用して、次の(5)式のように表すことができる。
【0098】
【数5】

【0099】
この(5)式から、測定音声信号の電圧Xoが供給音声信号の電圧Xiの2乗に比例した関係となっていることがわかる。
【0100】
このため、例えば測定音声信号として得られた電力の次元のインパルスレスポンスを基に頭部伝達関数を生成して音声信号に畳み込んだ場合、正しい(電圧の次元の)インパルスレスポンスに基づいた頭部伝達関数を畳み込む場合よりも、強調されたような音声信号となってしまう。
【0101】
そこで、電力の次元で表現されている測定音声信号を電圧の次元に変換することについて検討する。一般に、測定音声信号を電力の次元から電圧の次元に変換する場合、基本的には平方根を算出すれば良いことになるが、実際には以下の二点が大きな問題となる。
【0102】
一番目の問題は、マイクロホンMLにより収音したインパルスレスポンスに反射音や残響音等が含まれていると、数式上、供給音声信号の電圧Xiについての2次の多項式となるため、当該供給音声信号の電圧Xiについて解くことが困難な点である。
【0103】
例えば、直接波、1次反射波、2次反射波、…、n次反射波をそれぞれX0、X1(a)、X2(b)、…、Xn(m)とし、1次以降の反射係数をそれぞれε(a)、ε(b)、…、ε(n)とする。また、スピーカSPから出力された音声信号のエネルギーに対する1次以降の相対空間減衰係数をそれぞれδ(a)、δ(b)、…、δ(n)とする。
【0104】
直接波X0については次の(6)式のように表すことができ、1次反射波X1(a)、2次反射波X2(b)、…、n次反射波Xn(m)についてはそれぞれ次の(7)式のように表すことができる。
【0105】
【数6】

【0106】
【数7】

【0107】
また測定音声信号の電圧Xoは、次の(8)式のように表すことができる。
【0108】
【数8】

【0109】
すなわち(6)〜(8)式からわかるように、測定音声信号の電圧Xoについて平方根を算出するだけでは、供給音声信号の電圧Xiについての一次関数にはならず、2次方程式を解くといった複雑な演算処理を行う必要がある。
【0110】
二番目の問題は、仮に直接波の信号成分のみを分離できたとしても、測定音声信号はあくまで相対値に過ぎず、反射波や残響音等の影響により、入出力のユニティゲインとなる信号レベル、すなわち平方根が1となる基準点を明確に規定できない点である。
【0111】
従って、測定音声信号の電圧Xoについて単純に平方根を算出するだけでは、供給音声信号の電圧Xiとの関係を明らかにすることはできない。
【0112】
一方、本願発明では、これらの問題点について、次のように解決することができる。
【0113】
第1の問題点について、本願発明の頭部伝達関数測定システム1では、上述したように無響室2内で壁等による反射波(いわゆる残響音)を発生させずに直接波のみを収音する。すなわち頭部伝達関数測定システム1では、(7)式の各項を全て排除した、(6)式の直接波X0のみを独立して得ることができる。
【0114】
これにより頭部伝達関数測定システム1では、(8)式の右辺が第1項のみとなるため、その両辺の平方根を算出するだけで、供給音声信号の電圧Xiについての数式として表すことができる。
【0115】
また第2の問題点について、本願発明の正規化処理回路10(図4)では、上述したように、正規化処理において、(1)式に従い頭部伝達関数Hの動径γ(m)を素の状態の伝達特性Tの動径γref(m)により除算する。
【0116】
この除算は、頭部伝達関数におけるゲインを相対化することでもある。このため正規化処理後の動径γn(m)は、図5(B)に示したように、0[dB]となる信号レベルが定まり、これに伴い平方根が1となる基準点も明確となる。
【0117】
これらを踏まえて本願発明では、正規化処理後の動径γn(m)について平方根を算出するようになされている。このことは、(6)式の両辺についてそれぞれの平方根を算出し供給音声信号の電圧Xiについて整理した場合に相当し、インパルスレスポンスを電力の次元から電圧の次元に変換することになる。以下では、このように正規化処理後の動径γn(m)について平方根を算出する処理を次元変換処理と呼ぶ。
【0118】
具体的に本発明では、頭部伝達関数を生成する際、正規化処理回路10に代えて、図6に示す次元変換正規化処理回路30により正規化処理及び次元変換処理を行う。
【0119】
この次元変換正規化処理回路30は、全体的に正規化処理回路10と類似した構成を有しているものの、正規化処理部20とX−Y座標変換部21との間に次元変換処理部31を設けた点が相違している。
【0120】
次元変換処理部31は、正規化処理部20により算出された正規化処理後の動径γn(m)について平方根を算出するようになされている。具体的に次元変換処理部31は、次の(9)式に従って動径γ’n(m)に変換する。
【0121】
【数9】

【0122】
その後次元変換処理部31は、算出した動径γ’n(m)及び供給されたままの偏角θn(m)をX−Y座標変換部21へ供給する。
【0123】
X−Y座標変換部21は、正規化処理回路10において正規化処理後の動径γn(m)及び偏角θn(m)が供給された場合と同様に、動径γ’n(m)及び偏角θn(m)をX−Y座標系(直交座標系)のデータに変換するようになされている。
【0124】
ここで次元変換処理の前後におけるインパルスレスポンスの周波数特性は、それぞれ図7(A)及び(B)に示すような波形となる。
【0125】
図7(B)では、図7(A)と同様に多数のピークを有する特性となっているものの、それぞれのピークレベルが低減されている、すなわち各ピークが0[dB]に近づいていることがわかる。
【0126】
また次元変換処理の前後におけるインパルスレスポンスを時間軸データとして表すと、それぞれ図8(A)及び(B)に示すような波形となる。
【0127】
図8(B)では、図8(A)と同様に多数のピークを有し徐々に減衰していくものの、それぞれの振幅が縮小されていることがわかる。
【0128】
このように本願発明では、無響室2で直接波のみを測定して得られた頭部伝達関数について正規化処理及び次元変換処理を施すことにより、電力の次元から電圧の次元に変換された適切な正規化頭部伝達関数を生成するようになされている。
【0129】
<2.第1の実施の形態>
次に、上述した基本原理に基づく第1の実施の形態として、テレビジョン装置50について説明する。
【0130】
[2−1.テレビジョン装置の構成]
テレビジョン装置50は、図9(A)に示すように、表示パネル50Dの下方の位置に左右のスピーカSPL及びSPRが搭載されており、当該スピーカSPL及びSPRから音声を出力するようになされている。またテレビジョン装置50は、リスナの前方に所定の間隔だけ離れて設置されている。
【0131】
テレビジョン装置50は、上述した正規化処理及び次元変換処理を施した頭部伝達関数を、出力すべき音声信号に畳み込んだ上でスピーカSPL及びSPRから出力するようになされている。
【0132】
このときテレビジョン装置50は、図10に示す音声信号処理部60により、左右2チャンネルの音声信号に頭部伝達関数の畳込処理を施し、これらを所定のアンプ(図示せず)経由でスピーカSPL及びSPRへ供給するようになされている。
【0133】
音声信号処理部60は、頭部伝達関数を記憶する不揮発性の記憶部62、頭部伝達関数を音声信号へ畳み込む畳込処理部63及び音声信号に所定の後処理を施す後処理部65を有している。
【0134】
記憶部62は、頭部伝達関数測定システム1(図2)によりテレビジョン装置50における右側のスピーカSPRについて測定した頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tを基に、次元変換正規化処理回路30(図6)により生成された正規化頭部伝達関数HNを記憶している。
【0135】
因みに左側のスピーカSPLについては、設置されている位置がスピーカSPLと左右対称であるため、右側のスピーカSPRについての正規化頭部伝達関数HNを利用するようになされている。
【0136】
畳込処理部63は、記憶部62に記憶されている正規化頭部伝達関数HNを読み出し、
左右の音声信号S1L及びS1Rそれぞれに畳み込む畳込処理を行い、その結果生成された音声信号S3L及びS3Rを後処理部65へ供給する。
【0137】
このとき畳込処理部63は、頭部伝達関数の測定時におけるスピーカ及びマイクロホンの影響を排除すると共に、電力の次元から電圧の次元に変換された適切な正規化頭部伝達関数を各音声信号S1L及びS1Rに適用することができる。
【0138】
後処理部65は、音声信号のレベル調整を行うレベル調整部66L及び66R、音声信号の振幅を制限する振幅制限部67L及び67R、並びに音声信号のノイズ成分を軽減するノイズ軽減部68L及び68Rにより構成されている。
【0139】
まず後処理部65は、畳込処理部63から供給される音声信号S3L及びL3Rをそれぞれレベル調整部66L及び66Rへ供給する。
【0140】
レベル調整部66L及び66Rは、音声信号S3L及びS3Rについて、それぞれスピーカSPL及びSPRからの出力に適したレベルに調整することにより音声信号S4L及びS4Rを生成し、それぞれ振幅制限部67L及び67Rへ供給する。
【0141】
振幅制限部67L及び67Rは、音声信号S4L及びS4Rについて振幅を制限する処理を行うことにより音声信号S5L及びS5Rを生成し、それぞれノイズ軽減部68L及び68Rへ供給する。
【0142】
ノイズ軽減部68L及び68Rは、音声信号S5L及びS5Rについてノイズを軽減する処理を行うことにより音声信号S6L及びS6Rを生成し、図示しないアンプを介してこれらをスピーカSPL及びSPR(図9(A))へ供給する。
【0143】
これに応じてテレビジョン装置50は、左右のスピーカSPL及びSPRから、音声信号S6L及びS6Rに基づいた音声を出力する。この結果テレビジョン装置50は、リスナに対し、スピーカSPL及びSPR自体の特性による影響が低減された良好な音質の音声を聴取させることができる。
【0144】
[2−2.動作及び効果]
以上の構成において、第1の実施の形態では、まず頭部伝達関数測定システム1(図2)によりテレビジョン装置50のスピーカSPLについて無響室2における直接波のインパルスレスポンスを基に頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tを生成する。
【0145】
次に、次元変換正規化処理回路30(図6)により、正規化頭部伝達関数HNを生成し、これをテレビジョン装置50における音声信号処理部60の記憶部62に予め記憶させる。
【0146】
このとき次元変換正規化処理回路30は、次元変換処理部31によって動径γn(m)の平方根を算出して動径γ’n(m)を生成し後段へ供給するといった極めて単純な演算処理により、電力の次元から電圧の次元に正しく変換された正規化頭部伝達関数HNを生成することができる。
【0147】
そしてテレビジョン装置50は、記憶部62から正規化頭部伝達関数HNを読み出し、畳込処理部63によって音声信号S1L及びS1Rに当該正規化頭部伝達関数HNそれぞれ畳み込むことにより音声信号S3L及びS3Rを生成し、これらに基づいた音声をスピーカSPL及びSPRから出力する。
【0148】
この結果テレビジョン装置50は、電圧の次元に変換された適切な正規化頭部伝達関数HNを音声信号S1L及びS1Rにそれぞれ畳み込むことができるので、リスナに対し、強調されすぎておらず自然で高品質な音声を聴取させることができる。
【0149】
このときテレビジョン装置50は、測定正規化処理を行っているため、頭部伝達関数の測定用のスピーカ及びマイクロホンによる影響を適切に排除することができる。
【0150】
以上の構成によれば、第1の実施の形態によるテレビジョン装置50は、直接波についての頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tを基に測定正規化処理及び次元変換処理を経て生成された正規化頭部伝達関数HNを各音声信号にそれぞれ畳み込み、その音声を各スピーカから出力する。これによりテレビジョン装置50は、電力の次元で測定され電圧の次元に正しく変換された正規化頭部伝達関数HNを各音声信号にそれぞれ畳み込むことができ、リスナに対し、強調されすぎておらず自然で高品質な音声を聴取させることができる。
【0151】
<3.第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態によるテレビジョン装置70について説明する。
【0152】
[3−1.音像定位及び2重正規化処理の原理]
テレビジョン装置70は、テレビジョン装置50(図9(A))と同様、表示パネル70Dの下方の位置に左右のスピーカSPL及びSPRが搭載されている。
【0153】
ここで右側のスピーカSPRに着目すると、当該スピーカSPRは、図9(B)及び(C)に示すように、リスナを基点に表示パネル70Dのほぼ中央の位置(以下これを表示中心70Cと呼ぶ)に対して右方向に15度、下方向に10度の位置に搭載されている。以下、このように現実に音源(スピーカSPL及びSPR等)が配置されている位置を現実音源方向位置PRと呼ぶ。
【0154】
このためテレビジョン装置70では、スピーカSPL及びSPRからそれぞれの音声をそのまま再生した場合、表示パネル70Dの中央の位置よりも下側から全チャンネルの音声が出力されているような音像を形成することになる。
【0155】
そこでテレビジョン装置70では、頭部伝達関数を用いた正規化処理により、各チャンネルの音像を所望の箇所に定位させるようになされている。ここでは、頭部伝達関数を用いた仮想音像定位の原理について説明する。
【0156】
ここでは、テレビジョン装置70における右側のスピーカSPRから出力される音声の音像を定位させたい所望の位置(以下これを想定音源方向位置PAと呼ぶ)を、リスナを基点に表示中心70Cに対して右方向に30度傾き、上下方向に関しては同等の高さとなる位置とする。
【0157】
一般に頭部伝達関数は、リスナの位置を基準としたときの音源の方向及び位置に応じて相違することが知られている。
【0158】
すなわち、音像を定位させたい所望の位置(想定音源方向位置PA)についての頭部伝達関数H(以下これを想定方向頭部伝達関数HAと呼ぶ)を音声信号に畳み込むことにより、当該音声信号に基づいた音声を聴取したリスナに対し、その音像を当該想定音源方向位置PAに定位させることが可能となる。
【0159】
ところで、リスナが音源から出力された音声を実際に聴取するときには、当該リスナの位置を基準とした現実の音源の方向及び位置に応じた音声、すなわち現実音源方向位置PRについての頭部伝達関数H(以下これを現実方向頭部伝達関数HRと呼ぶ)が畳み込まれたような音声を聴取することになる。
【0160】
このため、音声信号に対し想定方向頭部伝達関数HAを単純に畳み込むだけでは、音源が設置されている位置に関する現実方向頭部伝達関数HRの影響が残っているため、所望の位置に適切に音像定位させ得ず、また音質の劣化を招くおそれがある。
【0161】
そこで第2の実施の形態では、想定方向頭部伝達関数HAを現実方向頭部伝達関数HRによって正規化することにより(以下これを定位正規化と呼ぶ)、現実音源方向位置PRの影響を排除した正規化頭部伝達関数HNを生成するようになされている。
【0162】
具体的な演算処理としては、マイクロホン及びスピーカ等の測定用の機器による影響を排除する測定正規化の場合と同様、正規化処理回路10(図4)により正規化処理を行うことができる。
【0163】
この場合、正規化処理回路10の遅延除去頭詰め部11は、頭部伝達関数測定システム1(図2(A)及び(B))の音声信号処理部3から、現実音源方向位置PRにおける直接波のみの現実方向頭部伝達関数HRを表すデータを取得する。
【0164】
また遅延除去頭詰め部11は、頭部伝達関数測定システム1の音声信号処理部3から、想定音源方向位置PAにおける直接波のみの想定方向頭部伝達関数HAを表すデータを取得する。
【0165】
その後正規化処理回路10は、第1の正規化処理を行う場合と同様の演算処理を行うことにより、想定方向頭部伝達関数HAを現実音源方向位置PRにより正規化した正規化頭部伝達関数HNを生成し、これを正規化頭部伝達関数記憶部23に記憶させる。
【0166】
このように正規化処理回路10は、想定方向頭部伝達関数HAを現実方向頭部伝達関数HRで正規化した場合には(以下これを定位正規化処理と呼ぶ)、現実音源方向位置PRの影響を排除した正規化頭部伝達関数HNを生成することができる。
【0167】
さらに正規化処理回路10では、予め想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRをそれぞれ正規化しておくことにより、測定正規化処理及び定位正規化処理による2重正規化処理を施した2重正規化頭部伝達関数HN2を生成することもできる。
【0168】
第2の実施の形態では、このような原理に基づいた2重正規化処理として、図11に概要を示すように、正規化処理回路10と同様の構成でなる正規化処理回路10R及び10Aによる1段目の正規化処理に続いて、次元変換正規化処理回路30による2段目の正規化処理を行うようになされている。
【0169】
正規化処理回路10Rは、現実音源方向位置PRについて、頭部伝達関数HRを素の状態の伝達関数TRにより測定正規化して現実方向正規化頭部伝達関数HNRを生成する。因みに現実方向正規化頭部伝達関数HNRは、例えば図12(A)に破線で示すような周波数特性となる。
【0170】
正規化処理回路10Aは、想定音源方向位置PAについて、頭部伝達関数HAを素の状態の伝達関数TAにより測定正規化して想定方向正規化頭部伝達関数HNAを生成する。因みに想定方向正規化頭部伝達関数HNAは、例えば図12(A)に実線で示すような周波数特性となる。
【0171】
次元変換正規化処理回路30は、2段目の正規化処理として想定方向正規化頭部伝達関数HNAを現実方向正規化頭部伝達関数HNRにより定位正規化し、さらに次元変換処理を施すことにより、2重正規化頭部伝達関数HN2を生成する。因みに、定位正規化処理を施した直後の(すなわち次元変換処理を施す前の)2重正規化頭部伝達関数HN2は、例えば図12(B)に示すような周波数特性となる。
【0172】
このような原理に従い、テレビジョン装置70では、測定正規化処理及び定位正規化処理による2重正規化処理を行うと共に次元変換処理を行うことにより2重正規化頭部伝達関数HN2を生成した上で、音像定位処理を行うようになされている。
【0173】
[3−2.マルチサラウンド音声の再生]
ところでテレビジョン装置70により映像を表示すると共に音声を出力するコンテンツについては、その音声が2チャンネルのもの以外にも、5.1チャンネルや7.1チャンネル等のマルチサラウンドとして供給されるものがある。
【0174】
例えば図13(A)は、ITU−R(International Telecommunication Union-Radiocommunication Sector)による7.1チャンネルマルチサラウンドの場合のスピーカ配置例を示したものである。
【0175】
ITU−Rの7.1チャンネルマルチサラウンドのスピーカ配置例では、リスナの位置P0を中心とした円周上に、各チャンネルのスピーカを位置し、各スピーカから各チャンネルの音声信号に基づいた音声を出力するように定められている。
【0176】
図13(A)において、センターチャンネルのスピーカ位置PCは、リスナの正面位置となっている。また左前方チャンネルのスピーカ位置PLF及び右前方チャンネルのスピーカ位置PRFは、センターチャンネルのスピーカ位置PCを中心として、その両側にそれぞれ30度の角範囲だけ離れた位置となっている。
【0177】
左側方チャンネルのスピーカ位置PLS及び左後方チャンネルのスピーカ位置PLBは、リスナの正面位置から左へ120度ないし150度の範囲にそれぞれ配置される。また右側方チャンネルのスピーカ位置PRS及び右後方チャンネルのスピーカ位置PRBは、リスナの正面位置から右へ120度ないし150度の範囲にそれぞれ配置される。因みにこれらのスピーカ位置PLS及びPLB並びにPRS及びPRBは、リスナに対して左右対称の位置に設定される。
【0178】
図14(A)は、図13(A)のスピーカ配置例において、リスナの位置からテレビジョン装置50の方向を見た状態を示している。また図14(B)は、図14(A)のスピーカ配置例を横方向から見た状態を示している。
【0179】
すなわちこの配置例では、テレビジョン装置70の表示中心70Cとほぼ同一の高さにスピーカ位置PC、PLF、PRF、PLS、PRS、PLB及びPRBが配置されている。
【0180】
因みに低域効果チャンネル(以下LFE(Low Frequency Effect)チャンネルと呼ぶ)用のスピーカについては、低域成分の音声における指向性が低いことから、任意の位置に配置することができる。
【0181】
[3−3.テレビジョン装置の回路構成]
テレビジョン装置70は、図10と対応する図15に示す音声信号処理部80により各チャンネルの音声信号に各種演算処理等を施した上で、左右のスピーカSPL及びSPRに供給するようになされている。
【0182】
音声信号処理部80は、第1の実施の形態による音声信号処理部60(図10)と同様の後処理部65を有しているほか、記憶部62及び畳込処理部63とそれぞれ対応する記憶部82及び畳込処理部83を有している。
【0183】
さらに音声信号処理部80は、2重正規化頭部伝達関数を生成する2重正規化処理部81及び7.1チャンネルの音声信号から2チャンネルの音声信号を生成する加算処理部84を有している。
【0184】
記憶部82は、頭部伝達関数測定システム1(図2)により種々の想定音源方向位置について測定した頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tをそれぞれ記憶している。
【0185】
また記憶部82は、頭部伝達関数測定システム1により同様に測定した、現実音源方向位置(すなわちテレビジョン装置70における左右のスピーカSPL及びSPRの位置)についての頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tもそれぞれ記憶している。
【0186】
実際に7.1チャンネルの音声信号を基に2チャンネルの音声信号を生成する際、音声信号処理部80は、まず2重正規化処理部81により、頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tを基に測定正規化処理、定位正規化処理及び次元変換処理を施した2重化頭部伝達関数を生成する。
【0187】
その後音声信号処理部80は、7.1チャンネルの音声信号が供給されると、畳込処理部83により2重化頭部伝達関数を畳み込み、加算処理部84により7.1チャンネルから2チャンネルに変換し、後処理部65を介して2チャンネルの音声信号を左右のスピーカSPL及びSPRへ供給するようになされている。
【0188】
[3−3−1.2重正規化処理部の構成]
2重正規化処理部81は、想定音源方向位置及び現実音源方向位置それぞれの頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性を基に、2重正規化頭部伝達関数HN2を生成するようになされている
【0189】
2重正規化処理部81は、図11に示した2重正規化処理の概要と対応する図16に示すように、2つの正規化処理回路10R及び10Aに相当する正規化処理回路91及び92と、次元変換正規化処理回路30に相当する次元変換正規化処理回路93とを組み合わせたような構成となっている。
【0190】
正規化処理回路91は、現実音源方向位置について測定正規化処理を行うようになされている。この正規化処理回路91は、正規化処理回路10(図4)と比較して、同様の遅延除去頭詰め部11及び12、FFT部13及び14、極座標変換部15及び16、並びに正規化処理部20を有しているものの、X−Y座標変換部21、逆FFT部22及びIR簡略化部23が省略されている。
【0191】
このため正規化処理回路91は、正規化処理回路10と同様の演算処理により、現実正規化頭部伝達関数HNRを表す極座標系のデータ(以下これらを動径γ0n(m)及び偏角θ0n(m)とする)を生成し、これらをそのまま次元変換正規化処理回路93へ供給する。
【0192】
また正規化処理回路92は、想定音源方向位置について測定正規化処理を行うようになされている。この正規化処理回路92は、正規化処理回路91と同様の回路構成を有している。
【0193】
このため正規化処理回路92は、正規化処理回路10と同様の演算処理により、想定正規化頭部伝達関数HNAを表す極座標系のデータ(以下これらを動径γ1n(m)及び偏角θ1n(m)とする)を生成し、これらをそのまま次元変換正規化処理回路93へ供給する。
【0194】
すなわち正規化処理回路91及び92は、後述する次元変換正規化処理回路93において極座標系のデータを用いた正規化処理を行うことを考慮し、敢えて後半の処理を省略することになる。
【0195】
次元変換正規化処理回路93は、想定正規化頭部伝達関数HNAを現実正規化頭部伝達関数HNR測定で正規化する処理、すなわち定位正規化処理を行うと共に、次元変換処理を行うようになされている。
【0196】
この次元変換正規化処理回路93は、次元変換正規化処理回路30(図6)と比較して、同様の正規化処理部20、次元変換処理部31、X−Y座標変換部21、逆FFT部22及びIR簡略化部23を有しているものの、遅延除去頭詰め部11及び12、FFT部13及び14並びに極座標変換部15及び16が省略されている。
【0197】
このため次元変換正規化処理回路93は、まず現実正規化頭部伝達関数HNR及び想定正規化頭部伝達関数HNAそれぞれの極座標系のデータ、すなわち動径γ0n(m)及び偏角θ0n(m)並びに動径γ1n(m)及び偏角θ1n(m)を正規化処理部20へ供給する。
【0198】
すなわち次元変換正規化処理回路93は、正規化処理回路91及び92からそれぞれ供給されるデータが既に極座標系の形式であるため、次元変換正規化処理回路30における前半の処理を省略することになる。
【0199】
因みにこの段階の現実正規化頭部伝達関数HNR及び想定正規化頭部伝達関数HNAは、いずれも電力の次元のままとなっている。
【0200】
正規化処理部20は、2段階目の正規化処理として、(1)式及び(2)式にそれぞれ対応する次の(10)式及び(11)式に従って正規化処理を行うことにより、正規化処理後の動径γn(m)及び正規化処理後の偏角θn(m)をそれぞれ算出し、これらを次元変換処理部31へ供給する。
【0201】
【数10】

【0202】
【数11】

【0203】
次元変換処理部31は、次元変換正規化処理回路30の場合と同様に、正規化処理部20により算出された正規化処理後の動径γn(m)について、上述した(9)式に従って平方根を算出することにより動径γ’n(m)に変換する。すなわち動径γ’n(m)は、電力の次元から電圧の次元に変換されたことになる。
【0204】
続いて次元変換処理部31は、算出した動径γ’n(m)及び供給されたままの偏角θn(m)をX−Y座標変換部21へ供給する。
【0205】
その後X−Y座標変換部21、逆FFT部22及びIR簡略化部23は、それぞれ次元変換正規化処理回路30の場合と同様の処理を行うことにより、2重正規化頭部伝達関数HN2を生成する。
【0206】
このように第2の実施の形態による2重正規化処理部81は、1段目の正規化処理から2段目の正規化処理までの間、各正規化頭部伝達関数を表すデータを極座標系のまま受け渡すことにより、座標系の変換処理やFFT処理の無駄を省くようになされている。
【0207】
[3−3−2.畳込処理部の構成]
畳込処理部83(図15)は、7.1チャンネルの音声信号それぞれに対し、2重正規化処理により生成された2重正規化頭部伝達関数を畳み込む畳込処理を行う。
【0208】
畳込処理部83は、この2重正規化頭部伝達関数を音声信号に畳み込むことにより、各頭部伝達関数の測定時におけるスピーカ及びマイクロホンの影響を排除すると共に、想定音源方向位置に音像を定位させるようになされている。
【0209】
このとき畳込処理部83では、各チャンネルについて、所定時間に相当する遅延処理を行うと共に、主成分の正規化頭部伝達関数の畳込処理と、クロストーク成分の正規化頭部伝達関数の畳込処理と、クロストークキャンセル処理とを行うようになされている。
【0210】
因みにクロストークキャンセル処理とは、左チャンネル用のスピーカSPL及び右チャンネル用のスピーカSPRで音声信号を再生したときに、リスナの位置において生じる物理的なクロストーク成分を相殺するための処理である。また畳込処理部83では、処理の簡略化のため、直接波についてのみの畳込処理を行い、反射波に関する畳込処理を行わないものとしている。
【0211】
ところで図13(A)では、センターチャンネルのスピーカ位置PC及びリスナの位置P0を通る仮想的な中心線に関して、左右の前方チャンネル、側方チャンネル及び後方チャンネルの各スピーカ位置は、それぞれ左右対称となっている。またテレビジョン装置50における左右のスピーカSPL及びSPRの位置についても、左右対称となっている。
【0212】
このためテレビジョン装置50は、正規化頭部伝達関数の畳込処理において、前方チャンネル、側方チャンネル及び後方チャンネルのそれぞれについて、左右で互いに同等の正規化頭部伝達関数を利用することができる。
【0213】
そこで以下の説明では、便宜上、想定音源方向位置に応じた正規化頭部伝達関数(以下これを想定正規化頭部伝達関数と呼ぶ)のうち主成分の前方チャンネル、側方チャンネル及び後方チャンネルについては、左右を問わずにそれぞれF、S及びBと表記する。また想定音源方向位置に応じた正規化頭部伝達関数(以下これを想定正規化頭部伝達関数と呼ぶ)のうちセンターチャンネル及び低域効果チャンネルについては、それぞれC及びLFEと表記する。
【0214】
さらに想定正規化頭部伝達関数のうちクロストーク成分の前方チャンネル、側方チャンネル及び後方チャンネルについては、左右を問わずにそれぞれxF、xS及びxBと表記し、低域効果チャンネルについては、xLFEと表記する。
【0215】
また現実正規化頭部伝達関数については、左右を問わずに主成分をFrefと表記し、クロストーク成分をxFrefと表記する。
【0216】
これらの表記を用いると、例えば2重正規化処理により任意の正規化頭部伝達関数を現実音源方向位置に応じた主成分の正規化頭部伝達関数でさらに正規化することは、当該任意の正規化頭部伝達関数に対する1/Frefの乗算として表すことができる。
【0217】
さらに畳込処理部83は、1チャンネルごと又は互いに対応する左右の2チャンネルごとに、音声信号の畳込処理を行うようになされている。具体的に畳込処理部83は、フロント処理部83F、センター処理部83C、サイド処理部83S、バック処理部83B並びに低域効果処理部83LFEを有している。
【0218】
[3−3−2−1.フロント処理部の構成]
フロント処理部83Fは、図17に示すように、左前方チャンネルの音声信号SLF及び右前方チャンネルの音声信号SRF対し、主成分及びクロストーク成分についてそれぞれ正規化頭部伝達関数の畳み込みを行うようになされている。
【0219】
またフロント処理部83Fは、機能的に前段の頭部伝達関数畳込処理部83FA及び後段のクロストークキャンセル処理部83FBに大きく分けられており、それぞれ複数の遅延回路、畳込回路及び加算器の組み合わせにより構成されている。
【0220】
頭部伝達関数畳込処理部83FAは、音声信号を所定時間遅延させた上で、左右の主成分及びクロストーク成分それぞれについて、想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化(すなわち定位正規化)すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数を畳み込むようになされている。
【0221】
具体的に頭部伝達関数畳込処理部83FAは、遅延回路101、102、103及び104と、例えば80タップのIIRフィルタでなる畳込回路105、106、107及び108とにより構成されている。
【0222】
遅延回路101及び畳込回路105は、左前方チャンネルの直接波における主成分の音声信号SLFについて遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0223】
遅延回路101は、左前方チャンネルの主成分について、仮想音像定位位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ音声信号を遅延させる。かかる遅延処理は、正規化処理回路10(図4)等において頭部伝達関数を生成した際、遅延除去頭詰め部11及び12により当該経路長に応じた遅延時間を除去したことに対応しており、いわば「仮想音像定位位置からリスナの位置までの距離感」を再現する効果を与えるものである。
【0224】
畳込回路105は、遅延回路101から供給される音声信号に対し、左前方チャンネルの主成分に関して想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数Fを現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数Frefで正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数F/Frefを畳み込む。
【0225】
このとき畳込回路105は、2重正規化処理部81において予め生成され記憶部82に記憶されている2重正規化頭部伝達関数F/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理、すなわち畳込処理を行う。その後畳込処理部105は、畳込処理を施した音声信号をクロストークキャンセル処理部83FBへ供給する。
【0226】
遅延回路102及び畳込回路106は、左前方チャンネルから右チャンネルへのクロストーク(以下これを左前方クロストークと呼ぶ)による音声信号xLFについての遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0227】
遅延回路102は、左前方クロストークについて、想定音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ遅延させる。
【0228】
畳込回路106は、遅延回路102から供給される音声信号に対し、左前方クロストークに関して想定正規化頭部伝達関数xFを現実正規化頭部伝達関数Frefで正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数xF/Frefを畳み込む。
【0229】
このとき畳込回路106は、2重正規化処理部81において予め生成され記憶部82に記憶されている2重正規化頭部伝達関数xF/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理を行う。その後畳込処理部106は、畳込処理を施した音声信号をクロストークキャンセル処理部83FBへ供給する。
【0230】
遅延回路103及び畳込回路107は、右前方チャンネルから左チャンネルへのクロストーク(以下これを右前方クロストークと呼ぶ)による音声信号xRFについての遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0231】
この遅延回路103及び畳込回路107は、図13(A)について上述した左右対称性から、遅延回路102及び畳込回路106とそれぞれ同様に構成されている。このため遅延回路103及び畳込回路107は、右前方クロストークの音声信号に対し、遅延回路102と同様の遅延処理及び畳込回路106と同様の畳込処理を行うようになされている。
【0232】
遅延回路104及び畳込回路108は、右前方チャンネルの直接波における主成分の音声信号SRFについて遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0233】
この遅延回路104及び畳込回路108は、図13(A)について上述した左右の対称性から、遅延回路101及び畳込回路105とそれぞれ同様に構成されている。このため遅延回路104及び畳込回路108は、音声信号SRFに対し、遅延回路101と同様の遅延処理及び畳込回路105と同様の畳込処理を行うようになされている。
【0234】
クロストークキャンセル処理部83FBは、4系統の音声信号それぞれについて、所定時間遅延させた上で、クロストーク成分について想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化した2重正規化頭部伝達関数を畳み込む処理を2段階繰り返す。すなわちクロストークキャンセル処理部83FBは、4系統の音声信号それぞれについて2次のキャンセル処理を行うようになされている。
【0235】
遅延回路111、112、113、114、121、122、123及び124は、現実音源方向位置からのクロストーク(xFref)に関し、当該現実音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ、それぞれに供給される音声信号を遅延させる。
【0236】
畳込回路115、116、117、118、125、126、127及び128は、現実音源方向位置に関してクロストーク成分の正規化頭部伝達関数xFrefを主成分の正規化頭部伝達関数Frefで正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数xFref/Frefを、それぞれに供給される音声信号に畳み込む。
【0237】
加算回路131、132、133、134、135及び136は、それぞれ供給された音声信号を加算する。
【0238】
ここでフロント処理部83Fから出力される音声信号S2LF及びS2RFは、それぞれ次の(12)式及び(13)式のように表すことができる。
【0239】
【数12】

【0240】
【数13】

【0241】
但し(12)式及び(13)式では、遅延処理をD()とし、畳込処理をF()としており、またクロストークキャンセル用の遅延処理及び畳込処理を次の(14)式に示す定数Kにより表している。
【0242】
【数14】

【0243】
かくしてフロント処理部83Fは、左チャンネル用の音声信号S2LF及び右チャンネル用の音声信号S2RFを生成し、これらを後段の加算処理部84(図15)へ供給する。
【0244】
[3−3−2−2.センター処理部の構成]
センター処理部83Cは、図17と対応する図18に示すように、センターチャンネルの音声信号SCに対し、主成分について正規化頭部伝達関数の畳込処理を行うようになされている。
【0245】
またセンター処理部83Cは、フロント処理部83Fと同様、機能的に前段の頭部伝達関数畳込処理部83CA及び後段のクロストークキャンセル処理部83CBに大きく分けられており、それぞれ複数の遅延回路、畳込回路及び加算器の組み合わせにより構成されている。
【0246】
頭部伝達関数畳込処理部83CAは、頭部伝達関数畳込処理部83FAと同様、音声信号を所定時間遅延させた上で、主成分について想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数を現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数によりさらに正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数を畳み込むようになされている。
【0247】
頭部伝達関数畳込処理部83CAは、遅延回路141と、例えば80タップのIIRフィルタでなる畳込回路142とにより構成され、センターチャンネルにおける主成分の音声信号SCについて遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0248】
遅延回路141は、センターチャンネルの主成分について、仮想音像定位位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ音声信号を遅延させる。
【0249】
畳込回路142は、遅延回路141から供給される音声信号に対し、センターチャンネルの主成分に関する想定正規化頭部伝達関数Cを現実正規化頭部伝達関数Frefで正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数C/Frefを畳み込む。
【0250】
このとき畳込回路142は、2重正規化処理部81において予め生成され記憶部82に記憶されている2重正規化頭部伝達関数C/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理、すなわち畳込処理を行う。その後畳込処理部142は、畳込処理を施した音声信号をクロストークキャンセル処理部83CBへ供給する。
【0251】
クロストークキャンセル処理部83CBは、音声信号を所定時間遅延させた上で、クロストーク成分について想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数を畳み込む処理を2段階繰り返すようになされている。
【0252】
遅延回路143及び145は、現実音源方向位置からのクロストーク(xFref)に関し、当該現実音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ、それぞれに供給される音声信号を遅延させる。
【0253】
畳込回路144及び146は、現実音源方向位置に関してクロストーク成分の正規化頭部伝達関数xFrefを主成分の正規化頭部伝達関数Frefで正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数xFref/Frefを、それぞれに供給される音声信号に畳み込む。
【0254】
加算回路147、148、149及び150は、それぞれ供給された音声信号を加算する。
【0255】
かくしてセンター処理部83Cは、左チャンネル用の音声信号S2LC及び右チャンネル用の音声信号S2RCを生成し、これらを後段の加算処理部84(図15)へ供給する。
【0256】
因みにセンター処理部83Cは、センターチャンネルの音声信号SCを左チャンネル及び右チャンネルの両方に加算することになる。これによりにより音声信号処理部80は、センターチャンネル方向の音声の定位感をより良くすることができる。
【0257】
[3−3−2−3.サイド処理部の構成]
サイド処理部83Sは、図17と対応する図19に示すように、左側方チャンネルの音声信号SLS及び右側方チャンネルの音声信号SRS対し、主成分及びクロストーク成分についてそれぞれ正規化頭部伝達関数の畳み込みを行うようになされている。
【0258】
またサイド処理部83Sは、機能的に前段の頭部伝達関数畳込処理部83SA及び後段のクロストークキャンセル処理部83SBに大きく分けられており、それぞれ複数の遅延回路、畳込回路及び加算器の組み合わせにより構成されている。
【0259】
頭部伝達関数畳込処理部83SAは、頭部伝達関数畳込処理部83FAと同様、音声信号を所定時間遅延させた上で、左右の主成分及びクロストーク成分それぞれについて想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数を畳み込むようになされている。
【0260】
具体的に頭部伝達関数畳込処理部83SAは、遅延回路161、162、183及び184と、例えば80タップのIIRフィルタでなる畳込回路165、166、167及び168とにより構成されている。
【0261】
遅延回路161〜184及び畳込回路165〜168は、遅延回路101〜104及び畳込回路105〜108における主成分及びクロストーク成分に関する想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数に関し、前方チャンネルの正規化頭部伝達関数F及びxFを、側方チャンネルの正規化頭部伝達関数S及びxSにそれぞれ置き換えた演算処理を行う。
【0262】
このとき畳込回路165〜168は、2重正規化処理部81において予め生成され記憶部82に記憶されている2重正規化頭部伝達関数S/Fref又はxS/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理、すなわち畳込処理を行う。
【0263】
クロストークキャンセル処理部83SBは、クロストークキャンセル処理部83FBと同様、音声信号を所定時間遅延させた上で、クロストーク成分について想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数を畳み込む処理を行うようになされている。
【0264】
ただしクロストークキャンセル処理部83SBは、クロストークキャンセル処理部83FBと異なり、主成分である2系統の音声信号のみについて、4次のキャンセル処理、すなわち4段階の遅延処理及び畳込処理を繰り返すようになされている。
【0265】
遅延回路171、172、173、174、175、176、177及び178は、現実音源方向位置からのクロストーク(xFref)に関し、当該現実音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ、それぞれに供給される音声信号を遅延させる。
【0266】
畳込回路181、182、183、184、185、186、187及び188は、現実音源方向位置に関してクロストーク成分の正規化頭部伝達関数xFrefを主成分の正規化頭部伝達関数Frefで正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数xFref/Frefを、それぞれに供給される音声信号に畳み込む。
【0267】
加算回路191、192、193、194、195、196、197、198、199及び200は、それぞれ供給された音声信号を加算する。
【0268】
かくしてフロント処理部83Sは、左チャンネル用の音声信号S2LS及び右チャンネル用の音声信号S2RSを生成し、これらを後段の加算処理部84(図15)へ供給する。
【0269】
[3−3−2−4.バック処理部の構成]
バック処理部83Bは、図19と対応する図20に示すように、左後方チャンネルの音声信号SLB及び右後方チャンネルの音声信号SRB対し、主成分及びクロストーク成分についてそれぞれ正規化頭部伝達関数の畳み込みを行うようになされている。
【0270】
またバック処理部83Bは、機能的に前段の頭部伝達関数畳込処理部83BA及び後段のクロストークキャンセル処理部83BBに大きく分けられており、それぞれ複数の遅延回路、畳込回路及び加算器の組み合わせにより構成されている。
【0271】
頭部伝達関数畳込処理部83BAは、頭部伝達関数畳込処理部83SAと対応した構成となっており、遅延回路201、202、203及び204と、例えば80タップのIIRフィルタでなる畳込回路205、206、207及び208とにより構成されている。
【0272】
遅延回路201〜204及び畳込回路205〜208は、遅延回路161〜184及び畳込回路165〜168における主成分及びクロストーク成分に関する想定正規化頭部伝達関数に関し、側方チャンネルの正規化頭部伝達関数S及びxSを、後方チャンネルの正規化頭部伝達関数B及びxBにそれぞれ置き換えた演算処理を行う。
【0273】
このとき畳込回路205〜208は、2重正規化処理部81において予め生成され記憶部82に記憶されている2重正規化頭部伝達関数B/Fref又はxB/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理、すなわち畳込処理を行う。
【0274】
クロストークキャンセル処理部83BBは、クロストークキャンセル処理部83SBと同様に構成されており、同様の遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0275】
すなわち遅延回路211、212、213、214、215、216、217及び218は、現実音源方向位置からのクロストーク(xFref)に関し、当該現実音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ、それぞれに供給される音声信号を遅延させる。
【0276】
また畳込回路221、222、223、224、225、226、227及び228は、現実音源方向位置に関してクロストーク成分の正規化頭部伝達関数xFrefを主成分の正規化頭部伝達関数Frefで正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数xFref/Frefを、それぞれに供給される音声信号に畳み込む。
【0277】
加算回路231、232、233、234、235、236、237、238、239及び240は、それぞれ供給された音声信号を加算する。
【0278】
かくしてフロント処理部83Bは、左チャンネル用の音声信号S2LB及び右チャンネル用の音声信号S2RBを生成し、これらを後段の加算処理部84(図15)へ供給する。
【0279】
[3−3−2−5.低域効果処理部の構成]
低域効果処理部83LFEは、図17と対応する図21に示すように、低域効果チャンネルの音声信号SLFEに対し、主成分及びクロストーク成分についてそれぞれ正規化頭部伝達関数の畳込処理を行うようになされている。
【0280】
また低域効果処理部83LFEは、フロント処理部83Fと同様、機能的に前段の頭部伝達関数畳込処理部83LFEA及び後段のクロストークキャンセル処理部83LFEBに大きく分けられており、それぞれ複数の遅延回路、畳込回路及び加算器の組み合わせにより構成されている。
【0281】
頭部伝達関数畳込処理部83LFEAは、頭部伝達関数畳込処理部83FAと同様、音声信号を所定時間遅延させた上で、主成分及びクロストーク成分それぞれについて想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数を畳み込むようになされている。
【0282】
頭部伝達関数畳込処理部83LFEAは、遅延回路251及び252と、例えば80タップのIIRフィルタでなる畳込回路253及び254とにより構成され、低域効果チャンネルの直接波における主成分の音声信号SFEについて畳込処理を行うようになされている。
【0283】
遅延回路251及び畳込回路253は、低域効果チャンネルにおける主成分の音声信号SLFEについて遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0284】
遅延回路251は、低域効果チャンネルの主成分について、仮想音像定位位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ音声信号を遅延させる。
【0285】
畳込回路253は、遅延回路141から供給される音声信号に対し、低域効果チャンネルの主成分に関して想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数LFEを現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数Frefで正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数LFE/Frefを畳み込む。
【0286】
このとき畳込回路253は、2重正規化処理部81において予め生成され記憶部82に記憶されている2重正規化頭部伝達関数LFE/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理、すなわち畳込処理を行う。その後畳込処理部253は、畳込処理を施した音声信号をクロストークキャンセル処理部83LFEBへ供給する。
【0287】
遅延回路252及び畳込回路254は、低域効果チャンネルの直接波におけるクロストーク分の音声信号xLFEについて遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0288】
遅延回路252は、低域効果チャンネルのクロストーク成分について、仮想音像定位位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ音声信号を遅延させる。
【0289】
畳込回路254は、遅延回路252から供給される音声信号に対し、低域効果チャンネルのクロストーク成分に関して想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数xLFEを現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数Frefで正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数xLFE/Frefを畳み込む。
【0290】
このとき畳込回路254は、2重正規化処理部81において予め生成され記憶部82に記憶されている2重正規化頭部伝達関数xLFE/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理を行う。その後畳込処理部254は、畳込処理を施した音声信号をクロストークキャンセル処理部83LFEBへ供給する。
【0291】
クロストークキャンセル処理部83LFEBは、音声信号を所定時間遅延させた上で、クロストーク成分について想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数を現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数によりさらに正規化した2重正規化頭部伝達関数を畳み込む処理を2段階繰り返すようになされている。
【0292】
遅延回路255及び257は、現実音源方向位置からのクロストーク(xFref)に関し、当該現実音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ、それぞれに供給される音声信号を遅延させる。
【0293】
畳込回路256及び258は、現実音源方向位置に関してクロストーク成分の正規化頭部伝達関数xFrefを主成分の正規化頭部伝達関数Frefで正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数xFref/Frefを、それぞれに供給される音声信号に畳み込む。
【0294】
加算回路261、262及び283は、それぞれ供給された音声信号を加算する。
【0295】
かくして低域効果処理部83LFEは、音声信号S2LFEを生成し、これを左右それぞれのチャンネルに分配して後段の加算処理部84(図15)へ供給する。
【0296】
因みに低域効果処理部83LFEは、低域効果チャンネルの音声信号SLFEを、クロストークも考慮して左チャンネル及び右チャンネルの両方に加算することになる。これによりにより音声信号処理部80は、低域効果チャンネルの音声信号LFEによる低域音声成分を、より広がり良く再生することができる。
【0297】
[3−3−3.加算処理部の構成]
加算処理部84(図15)は、左チャンネル加算部84L及び右チャンネル加算部84Rにより構成されている。
【0298】
左チャンネル加算部84Lは、畳込処理部83から供給される左チャンネル用の音声信号S2FL、S2CL、S2SL、S2BL及びS2LFELを全て加算することにより音声信号S3Lを生成し、これを後処理部65へ供給する。
【0299】
これにより左チャンネル加算部84Lは、本来左チャンネル用である音声信号SLF、SLS及びSLBと、右チャンネル用である音声信号SRF、SRF及びSRBのクロストーク成分と、センターチャンネル及び低域効果チャンネルの音声信号SC及びSLFEとを加算することになる。
【0300】
右チャンネル加算部84Rは、畳込処理部83から供給される右チャンネル用の音声信号S2FR、S2CR、S2SR、S2BR及びS2LFERを全て加算することにより音声信号S3Rを生成し、これを後処理部65へ供給する。
【0301】
これにより右チャンネル加算部84Rは、本来右チャンネル用である音声信号SRF、SRF及びSRBと、左チャンネル用である音声信号SLF、SLS及びSLBのクロストーク成分と、センターチャンネル及び低域効果チャンネルの音声信号SC及びSLFEとを加算することになる。
【0302】
[3−3−4.後処理部の構成]
後処理部65は、第1の実施の形態と同様、音声信号S3L及びS3Rに対しレベル調整処理、振幅の制限処理、及びノイズ成分の軽減処理をそれぞれ施すことにより音声信号S6L及びS6Rを生成し、図示しないアンプを介してこれらをスピーカSPL及びSPR(図14(A))へ供給する。
【0303】
これに応じてテレビジョン装置70は、左右のスピーカSPL及びSPRから、音声信号S6L及びS6Rに基づいた音声を出力する。この結果テレビジョン装置70は、スピーカSPL及びSPRからの当該音声を聴取したリスナに対し、7.1チャンネルの各想定音源方向位置に音像が定位しているかのような聴感を与えることができる。
【0304】
[3−4.動作及び効果]
以上の構成において、第2の実施の形態では、まず頭部伝達関数測定システム1(図2)により、現実音源方向位置及び各想定音源方向位置について、無響室2における直接波についてのインパルスレスポンスを基に頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tを生成する。また音声信号処理部80の記憶部82には、これらの頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tが記憶される。
【0305】
テレビジョン装置70は、7.1チャンネルの音声信号を再生すべき操作指示等を受けると、音声信号処理部80(図15)の2重正規化処理部81により、各チャンネルについて想定音源方向位置及び現実音源方向位置に応じた2重正規化処理を行う。
【0306】
すなわち2重正規化処理部81(図16)の正規化処理回路91及び92は、1段目の正規化処理(測定正規化処理)として、想定音源方向位置及び現実音源方向位置それぞれについて、頭部伝達関数HA及びHRを素の状態の伝達特性TA及びTRで正規化する。
【0307】
このとき正規化処理回路91及び92は、正規化処理回路10(図4)における前半の処理のみを行い、正規化頭部伝達関数HNA及びHNRを周波数軸で表される極座標データの状態で次元変換正規化処理回路へ供給する。
【0308】
続いて2重正規化処理部81の次元変換正規化処理回路93は、2段目の正規化処理(定位正規化処理)として想定正規化頭部伝達関数HNAを現実正規化頭部伝達関数HNRで正規化すると共に次元変換処理を行うことにより、2重正規化頭部伝達関数HN2を生成する。生成された2重正規化頭部伝達関数HN2は、記憶部82(図15)に記憶される。
【0309】
そして音声信号処理部80は、7.1チャンネルの音声信号が供給されると、記憶部82から各チャンネルの2重正規化頭部伝達関数HN2を読み出し、畳込処理部83によってチャンネルごとに畳込処理を行い、加算処理部84によって7.1チャンネルの各音声信号から2チャンネルの音声信号S3L及びS3Rを生成する。
【0310】
その後音声信号処理部80は、後処理部65によって音声信号S3L及びS3Rに各種信号処理を施し、生成された音声信号S6L及びS6RをスピーカSPL及びSPRへ供給することによりその音声を出力させる。
【0311】
従ってテレビジョン装置70は、電圧の次元に変換された適切な2重正規化頭部伝達関数HN2を7.1チャンネルの音声信号にそれぞれ畳み込むことができるので、リスナに対し、強調されすぎておらず自然で高品質な音声を聴取させることができる。
【0312】
このとき2重正規化処理部81の次元変換処理部31は、正規化処理後の動径γn(m)が供給されるため、(9)式に従って平方根を算出するだけで、電力の次元から電圧の次元に正しく変換した動径γ’n(m)を生成することができる。
【0313】
またテレビジョン装置70は、1段目の正規化処理として測定正規化処理を行うため、頭部伝達関数の測定用のスピーカ及びマイクロホンによる影響を適切に排除することができる。
【0314】
さらにテレビジョン装置70は、定位正規化処理を行うため、現実音源方向位置にあるスピーカSPL及びSPRのみから出力する音声によって、各スピーカ位置PC、PLF、PRF、PLS、PRS、PLB及びPRB(図13)をそれぞれ想定音源方向位置とする音像定位をリスナに与えることができる。
【0315】
また2重正規化処理部81(図16)では、1段目の正規化処理から2段目の正規化処理までの間、正規化頭部伝達関数を表すデータを周波数軸で表され極座標系の状態で受け渡す。
【0316】
このため2重正規化処理部81は、正規化処理回路10及び次元変換正規化処理回路30を単純に組み合わせた場合に生じ得る、一度X−Y座標系に変換してから再度極座標系に変換し、また一度逆FFT処理を行ってから再度FFT処理を行うといった無駄な変換処理を省略し、演算処理の効率化を図ることができる。
【0317】
さらに2重正規化処理部81は、この極座標データの状態で平方根を算出することができるので、当該平方根の演算のみのためにX−Y座標系と極座標データとの間の相互変換を行う必要がない。
【0318】
以上の構成によれば、第2の実施の形態によるテレビジョン装置70は、直接波についての頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tを基に測定正規化処理、定位正規化処理及び次元変換処理を経て生成された2重正規化頭部伝達関数HN2を7.1チャンネルの音声信号にそれぞれ畳み込み、その音声を加算処理して2チャンネルのスピーカから出力する。これによりテレビジョン装置70は、第1の実施の形態と同様、電力の次元で測定され電圧の次元に変換された2重正規化頭部伝達関数HN2を各音声信号にそれぞれ畳み込むことができ、リスナに対し、強調されすぎておらず高品質な音声を聴取させ、その音像を適切に定位させることができる。
【0319】
<4.他の実施の形態>
なお上述した第1の実施の形態においては、無響室2において直接波について測定した頭部伝達関数H及び素の状態の伝達関数Tを基に、測定正規化処理及び次元変換処理を行って正規化頭部伝達関数を生成するようにした場合について述べた。
【0320】
本発明はこれに限らず、例えば反射音や残響音の成分が平方根演算において無視できる程度に小さい場合に、当該反射音や残響音が生じ得る測定環境において測定した頭部伝達関数H及び素の状態の伝達関数Tを基に、測定正規化処理及び次元変換処理を行って正規化頭部伝達関数を生成するようにしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0321】
また上述した第1の実施の形態においては、周波数軸で表された極座標データが測定正規化処理により正規化された後の動径γn(m)の平方根を演算することにより次元変換処理を行うようにした場合について述べた。
【0322】
ところで(1)式の両辺それぞれについて平方根を算出して変形すると、次の(15)式を導き出すことができる。
【0323】
【数15】

【0324】
この(15)式から、次元変換処理としては、正規化処理前の動径γ(m)及びγref(m)それぞれについて平方根を算出するようにし、その後正規化処理として除算を行うようにしても良い。この場合も、第1の実施の形態のように正規化処理後の動径γn(m)について平方根を算出する場合と同等の演算結果を得ることができる。
【0325】
具体的には、次元変換正規化処理回路30において次元変換処理部31を正規化処理部20の直後ではなく直前に設け、当該次元変換処理部31により動径γ(m)及びγref(m)それぞれについて平方根を算出し、これらを正規化処理部20に供給して除算するようにすれば良い。
【0326】
また上述した第2の実施の形態においては、2段目の正規化処理、すなわち定位正規化処理を行う際に次元変換処理を行うようにした場合について述べた。
【0327】
本発明はこれに限らず、例えば1段目の正規化処理、すなわち測定正規化処理をそれぞれ行う際に次元変換処理も行うようにしても良い。例えば図16と対応する図22に示すように、2重正規化処理部381において、測定正規化処理及び次元変換処理を行う前段として次元変換正規化処理回路391及び392を設け、測定正規化処理を行う後段として正規化処理回路393を設けることが考えられる。
【0328】
この場合、次元変換正規化処理回路391及び392それぞれの次元変換処理部31により動径γ0n(m)及びγ1n(m)それぞれの平方根を算出することにより動径γ’0n(m)及びγ’1n(m)を生成して正規化処理回路393の正規化処理部20へ供給する。これにより2重正規化処理部381は、第2の実施の形態と同様の動径γ’n(m)を生成して最終的に2重正規化頭部伝達関数HN2を生成することができる。
【0329】
さらに第2の実施の形態においては、前段の正規化処理回路91及び92からそれぞれ極座標データを後段の次元変換正規化処理回路93へ供給するようにした場合について述べた。
【0330】
本発明はこれに限らず、例えばデータの容量やデータバスの速度等に応じて、前段の正規化処理回路91及び92において極座標データから直交座標データに変換し、或いはさらに逆FFT処理により時間軸のデータに変換して、後段の次元変換正規化処理回路93へ供給するようにしても良い。
【0331】
さらに上述した第2の実施の形態においては、現実音源方向位置及び想定音源方向位置それぞれについて、頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tを記憶部82に記憶させておき、2重正規化頭部伝達関数HN2を生成する段階でこれらを読み出すようにした場合について述べた。
【0332】
本発明はこれに限らず、これらの頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tについて、例えば頭の部分のデータ除去処理、FFT処理及び極座標変換処理の一部又は全部を施した状態で記憶部82に記憶させておき、2重正規化頭部伝達関数HN2を生成する際にこれらを読み出して1段目の測定正規化処理を行うようにしても良い。
【0333】
また、例えば予め1段目の測定正規化処理を行い、現実音源方向位置及び想定音源方向位置それぞれについての正規化頭部伝達関数を生成して記憶部82に記憶させておくようにしても良い。この場合、2重正規化頭部伝達関数を生成する際に2重正規化処理部81によりこれらの正規化頭部伝達関数を読み出して後段の次元変換正規化処理回路30へ直接供給すれば良い。また生成した正規化頭部伝達関数については、極座標系のデータ、直交座標系のデータ或いは時間軸のデータのいずれの状態で記憶部82に記憶させておくようにしても良い。
【0334】
さらに上述した第2の実施の形態においては、テレビジョン装置70により7.1チャンネルの音声信号についての再生処理を行う際に、2重正規化頭部伝達関数を生成してから畳込処理を行うようにした場合について述べた。
【0335】
本発明はこれに限らず、例えばテレビジョン装置70の初期設定操作等において、ユーザが7.1チャンネルの音声信号に対する音声信号処理の設定を行ったとき等に、2重正規化頭部伝達関数を生成して記憶部82等に記憶させておくようにしても良い。この場合テレビジョン装置70は、実際に7.1チャンネルの音声信号が供給された際に、記憶部82から生成済みの2重正規化頭部伝達関数を読み出して畳込処理を行うようにすれば良い。
【0336】
さらに上述した第2の実施の形態においては、ITU−Rにより規定されたスピーカの配置(図13(A))を想定音源方向位置として、7.1チャンネルマルチサラウンド(すなわち合計8チャンネル)の音声信号を基に2チャンネルの音声信号を生成して再生する場合について述べた。
【0337】
本発明はこれに限らず、例えば図13(B)に示すようにTHX社の推奨するスピーカの配置を想定音源方向位置とし、また5.1チャンネルや9.1チャンネル等といった任意のチャンネル数及びスピーカ配置を想定した音声信号を基に2チャンネルの音声信号を生成して再生するようにしても良い。
【0338】
またスピーカにより実際に音声を再生する位置(現実音源方向位置)の数、すなわち最終的に生成する音声信号のチャンネル数としても、2チャンネルに限らず、例えば4チャンネルや5.1チャンネル等のような任意のチャンネル数としても良い。
【0339】
これらの場合、畳込処理において、各想定音源方向位置を各現実音源方向位置でそれぞれ正規化すると共に次元変換した2重正規化頭部伝達関数を各音声信号にそれぞれ畳み込むようにすれば良い。
【0340】
さらに上述した第2の実施の形態においては、想定音源方向位置及び現実音源方向位置が、リスナが正面を向いたときに左右対称であることを利用して左右の対応するチャンネルについては同一の2重正規化頭部伝達関数を用いて畳込処理を行う場合について述べた。
【0341】
本発明はこれに限らず、例えば想定音源方向位置及び現実音源方向位置が左右非対称である場合に、各想定音源方向位置及び各現実音源方向位置に対応する適切な2重正規化頭部伝達関数をそれぞれ生成し、それぞれを用いて畳込処理を行うようにしても良い。
【0342】
さらに上述した第1の実施の形態においては、正規化処理回路10及び次元変換正規化処理回路30のIR簡略化部23において、インパルスレスポンスXn(m)を80タップに簡略化するようにした場合について述べた。
【0343】
本発明はこれに限らず、例えば160タップや320タップ等、任意のタップ数に簡略化するようにしても良い。この場合、信号処理部60の畳込処理部63を構成するDSP等の演算処理能力に応じて適宜定めるようにすれば良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0344】
さらに上述した第1の実施の形態においては、頭部伝達関数測定システム1の音声信号処理部3において、サンプリング周波数が96[kHz]でなる8192サンプルのディジタルデータを生成するようにした場合について述べた。
【0345】
本発明はこれに限らず、例えば48[kHz]や192[kHz]といった任意のサンプリング周波数でなり、4096サンプルや16384サンプルといった任意のサンプル数でなるディジタルデータを生成するようにしても良い。特にこの場合、最終的に生成する頭部伝達関数のタップ数等に応じて定めるようにすると良い。
【0346】
さらに上述した第2の実施の形態においては、畳込処理部83の各クロストークキャンセル処理部83FB等において、遅延処理と2重化正規頭部伝達関数の畳込処理との組み合わせでなるクロストークキャンセル処理を2回行う、すなわち2次のキャンセル処理を行うようにした場合について述べた。
【0347】
本発明はこれに限らず、各クロストークキャンセル処理部83FB等において、スピーカSPの位置や部屋の物理的な制約等に応じて、任意の次数でなるキャンセル処理を行うようにしても良い。
【0348】
さらに上述した第2の実施の形態においては、テレビジョン装置70の音声信号処理部80において、畳込処理部83により直接波のみを畳み込むようにした場合について述べた。
【0349】
本発明はこれに限らず、音声信号処理部80において、壁面、天井面及び床面等における反射波についても畳込処理を行うようにしても良い。
【0350】
すなわち想定音源方向位置方向からの反射波については、図1に破線で示すように、仮想音像定位させたい位置から壁等の反射箇所で反射された後にマイクロホンへ入射する方向を、反射波についての想定音源方向位置の方向と考える。そして畳込処理としては、想定音源方向位置方向からマイクロホン位置に入射するまでの、反射波についての音波の経路長に応じた遅延を音声信号に施して正規化頭部伝達関数を畳み込むようにすれば良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0351】
さらに上述した第1の実施の形態においては、次元変換処理を施した正規化頭部伝達関数を生成して音声信号に畳み込む音声信号処理装置としてのテレビジョン装置50に本発明を適用するようにした場合について述べた。
【0352】
本発明はこれに限らず、例えば各種頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tを基に次元変換処理を施した正規化頭部伝達関数の生成を行う頭部伝達関数生成装置に対して、本発明を適用するようにしても良い。この場合、例えば生成した正規化頭部伝達関数をテレビジョン装置やマルチチャンネルアンプ装置等に記憶させておき、当該正規化頭部伝達関数を読み出して音声信号への畳込処理を行うようにすれば良い。第2の実施の形態における2重正規化頭部伝達関数についても同様である。
【0353】
さらに上述した実施の形態においては、第1入力部としての遅延除去頭詰め部11と、第2入力部としての遅延除去頭詰め部12と、変換正規化処理部としての正規化処理部20及び次元変換処理部31とによって頭部伝達関数生成装置としてのテレビジョン装置50を構成する場合について述べた。
【0354】
本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる第1入力部と、第2入力部と、変換正規化処理部とによって頭部伝達関数生成装置を構成するようにしても良い。
【0355】
さらに上述した実施の形態においては、第1入力部としての遅延除去頭詰め部11と、第2入力部としての遅延除去頭詰め部12と、変換正規化処理部としての正規化処理部20及び次元変換処理部31と、頭部伝達関数生成部としてのX−Y座標変換部21、逆FFT部22及びIR簡略化部23と、畳込処理部としての畳込処理部63とによって音声信号処理装置としてのテレビジョン装置50を構成する場合について述べた。
【0356】
本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる第1入力部と、第2入力部と、変換正規化処理部と、頭部伝達関数生成部と、畳込処理部とによって音声信号処理装置を構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0357】
本発明は、テレビジョン装置の他、マルチチャンネルアンプ装置やBlu−ray Disc(登録商標)プレーヤ等のように、マルチチャンネルの音声信号を有するコンテンツを再生し、又はその音声をスピーカへ供給する種々の電子機器でも利用することができる。
【符号の説明】
【0358】
1……頭部伝達関数測定システム、SP、SPL、SPR……スピーカ、ML、MR……マイクロホン、DH……ダミーヘッド、10……正規化処理回路、10R……現実正規化処理回路、10A……想定正規化処理回路、11、12……遅延除去頭詰め部、13、14……FFT部、15、16……極座標変換部、20……正規化処理部、21……X−Y座標変換部、22……逆FFT部、23……IR簡略化部、30……次元変換正規化処理回路、31……次元変換処理部、50、70……テレビジョン装置、60、80……音声信号処理部、81……2重正規化処理部、62、82……記憶部、63、83……畳込処理部、84……加算処理部、65……後処理部、H……頭部伝達関数、T……素の状態の伝達特性、HN……正規化頭部伝達関数、HN2……2重正規化頭部伝達関数、γ(m)、γref(m)、γ’(m)、γ’ref(m)、γn(m)……動径、θ(m)、θref(m)、θn(m)……偏角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の測定環境において生成された第1の頭部伝達関数を入力する第1入力部と、
第2の測定環境において生成された第2の頭部伝達関数を入力する第2入力部と、
上記第1の頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第1の利得を、上記第2の頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第2の利得で正規化すると共にその平方根を算出する変換正規化処理部と
を有する頭部伝達関数生成装置。
【請求項2】
上記第1及び第2の頭部伝達関数は、上記第1及び第2の測定環境において直接波のみについて生成された
請求項1に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項3】
上記第1及び第2の利得は、
上記第1及び第2の頭部伝達関数をそれぞれ極座標に変換したときの動径でなり、
上記変換正規化処理部は、
上記第1の頭部伝達関数の動径を上記第2の頭部伝達関数の動径で除算すると共にその平方根を算出し、また上記第1の頭部伝達関数の偏角から上記第2の頭部伝達関数の偏角を減算する
請求項1に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項4】
上記変換正規化処理部は、
上記第1の頭部伝達関数の動径を上記第2の頭部伝達関数の動径で除算した後、その平方根を算出する
請求項3に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項5】
上記変換正規化処理部は、
上記第1の頭部伝達関数の動径及び上記第2の頭部伝達関数の動径それぞれの平方根を算出した後、当該第1の頭部伝達関数の動径の平方根を当該第2の頭部伝達関数の動径の平方根で除算する
請求項3に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項6】
上記第1の頭部伝達関数は、
所定の音源方向位置に設置した音源からリスナの耳の位置に設置した収音部への直接波の方向に関し、上記リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数であり、
上記第2の頭部伝達関数は、
上記音源から上記収音部への上記直接波の方向に関し、上記リスナまたは上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性である
請求項1に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項7】
上記第1の頭部伝達関数は、
第1の音源方向位置に設置した音源からリスナの耳の位置に設置した収音部への直接波の方向に関する頭部伝達関数であり、
上記第2の頭部伝達関数は、
上記第1の音源方向位置と異なる第2の音源方向位置に設置した上記音源から上記収音部への直接波の方向に関する頭部伝達関数である
請求項1に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項8】
上記第1の頭部伝達関数は、上記第1の音源方位置に設置した音源から上記収音部への上記直接波の方向に関し、上記リスナまたは上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性で正規化されており、
上記第2の頭部伝達関数は、上記第2の音源方位置に設置した音源から上記収音部への上記直接波の方向に関し、上記リスナまたは上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性で正規化されている
請求項7に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項9】
第1の測定環境において生成された第1の頭部伝達関数及び第2の測定環境において生成された第2の頭部伝達関数を入力する入力ステップと、
上記第1の頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第1の利得を、上記第2の頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第2の利得で正規化すると共にその平方根を算出する変換正規化処理ステップと
を有する頭部伝達関数生成方法。
【請求項10】
第1の測定環境において生成された第1の頭部伝達関数を入力する第1入力部と、
第2の測定環境において生成された第2の頭部伝達関数を入力する第2入力部と、
上記第1の頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第1の利得を、上記第2の頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第2の利得で正規化すると共にその平方根を算出することにより変換正規化利得を生成する変換正規化処理部と、
上記変換正規化利得を基に時間軸データでなる正規化頭部伝達関数を生成する頭部伝達関数生成部と、
上記正規化頭部伝達関数を音声信号に畳み込む畳込処理部と
を有する音声信号処理装置。
【請求項11】
上記第1及び第2の頭部伝達関数は、上記第1及び第2の測定環境において直接波のみについて生成された
請求項10に記載の音声信号処理装置。
【請求項12】
上記第1の測定環境において反射波について生成された第1の反射頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第1の反射利得を、上記第2の測定環境において反射波について生成された第2の反射頭部伝達関数を周波数軸データで表したときの第2の反射利得で正規化すると共にその平方根を算出することにより変換正規化反射利得を生成する第2の変換正規化処理部と、
上記変換正規化反射利得を基に時間軸データでなる正規化反射頭部伝達関数を生成する第2の頭部伝達関数生成部と
をさらに有し、
上記畳込処理部は、
上記正規化頭部伝達関数及び上記正規化反射頭部伝達関数を上記音声信号に畳み込む
請求項11に記載の音声信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−4668(P2012−4668A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135291(P2010−135291)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】