説明

顔料コーティング剤、被覆顔料、および印刷インキ組成物

【課題】フェノール類やホルムアルデヒドを原料とせず、また酸化による自己発熱が殆ど生じず、更に印刷インキの各種性能を向上させうる被覆顔料を与えることができる、新規な顔料コーティング剤を提供すること。
【解決手段】フェノール−ホルムアルデヒドフリーのロジン系ポリエステル樹脂を含有する顔料コーティング剤、具体的には、前記ロジン系ポリエステル樹脂が、ロジン類(a)、ポリオール類(b)、カルボキシル基または水酸基と共有結合可能な官能基を分子内に1つ以上有する脂肪族化合物(c)(以下、化合物(c)という)、ならびに、必要に応じて芳香族多塩基酸類(d)および/または極性基含有石油樹脂(e)を含む原料を反応させて得られるものである、顔料コーティング剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料コーティング剤、被覆顔料、および印刷インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷インキ(オフセット印刷、新聞印刷インキ等)の各種性能(鮮明性、着色性、色調、分散性等、耐水性等)を向上させるために、顔料をロジン類で表面処理することがよく行われており、顔料コーティング剤としては前記性能の点より、ロジン変性フェノール樹脂が賞用されている。例えば特許文献1には、ロジン変成フェノール樹脂を顔料とともに乾式粉砕してなる被覆顔料が提案されている。
【0003】
しかし、ロジン変性フェノール樹脂は、一般的に大気中で酸化されて劣化しやすいためか、当該被覆顔料は貯蔵時や運搬時に自己発熱するなど、潜在的な危険性を有している。また、酸化・劣化した被覆顔料を用いると、得られる印刷インキの色調が劣るなど、品質面で問題が生ずる。
【0004】
そこで、例えば特許文献2や特許文献3のように、前記乾式粉砕を不活性ガス雰囲気下で行う方法が考えられるが、得られた被覆顔料がその後の流通過程や作業現場において大気に一切触れない保証はないため、かかる方法は長期貯蔵・運搬の観点から、前記問題の本質的解決に至っていない。
【0005】
一方、自己発熱の問題を回避するには、例えば特許文献4の技術のように、顔料を、ロジン変性フェノール樹脂とロジンソープ(ロジンカルシウム塩等)の水分散液で表面処理し、水系の被覆顔料(レーキ顔料)とする方法も考えられる。しかし、当該被覆顔料は、水系であるが故に吸水性が強く、種々の問題が生ずる。例えば、当該被覆顔料をオフセット印刷に使用した場合には、湿し水によってインキが過乳化してしまい、印刷作業時に種々のトラブルが生ずる。
【0006】
加えて、ロジン変性フェノール樹脂は、原料のフェノール−ホルムアルデヒド縮合物として、環境ホルモンの疑いがあるフェノール類や、シックハウス症候群の要因の一つであるホルムアルデヒドを用いているので、環境や人体に対する影響が大きく懸念されている。
【0007】
【特許文献1】特許第3159049号公報
【特許文献2】特許第3159048号公報
【特許文献3】特許第3292046号公報
【特許文献4】特許第3303458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フェノール類やホルムアルデヒドを原料とせず、また酸化による自己発熱が殆ど生じず、更に印刷インキの各種性能を向上させうる被覆顔料を与えることができる、新規な顔料コーティング剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、下記特定の顔料コーティング剤により前記課題を解決できることを見いだした。
【0010】
即ち本発明は、フェノール−ホルムアルデヒドフリーのロジン系ポリエステル樹脂(以下、単にロジン系ポリエステル樹脂という)を含有する顔料コーティング剤;前記ロジン系ポリエステル樹脂が、ロジン類(a)、ポリオール類(b)、カルボキシル基または水酸基と共有結合可能な官能基を分子内に1つ以上有する脂肪族化合物(c)(以下、化合物(c)という)、ならびに、必要に応じて芳香族多塩基酸類(d)および/または極性基含有石油樹脂(e)を含む原料を反応させて得られるものである、顔料コーティング剤;前記ロジン系ポリエステル樹脂の、走査型示差熱量測定装置を用いて空気存在下で測定して得た熱量ピーク面積に対応する発熱量(mJ)と、固形分重量(mg)との比〔mJ/mg〕が、15以下であることを特徴とする、顔料コーティング剤;前記顔料コーティング剤を用いた被覆顔料;前記被覆顔料を含有する印刷インキ組成物、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る顔料コーティング剤は、前記ロジン系ポリエステル樹脂を含有するので、酸化による自己発熱が殆ど生じない。そのため、当該顔料コーティング剤を用いれば、長期に亘り安全に貯蔵・運搬できるなど、品質管理面で優れた被覆顔料が得られる。また、当該顔料コーティング剤は、フェノール類やホルムアルデヒドを原料としないので、環境や人体への影響が殆どない。
【0012】
また、本発明に係る被覆顔料によれば、印刷インキの各種性能(鮮明性、着色性、分散性、耐水性等)を向上させることができる。よって、当該被覆顔料は、新聞印刷インキ組成物、凸版印刷インキ組成物、グラビア印刷インキ組成物、特にオフセット印刷インキ組成物の顔料として、好適に用いることができる。
【0013】
また、本発明に係る印刷インキ組成物は、前記被覆顔料を含有するので、鮮明性や着色性、分散性、被膜の耐水性等の各種性能に優れる。また、当該印刷インキ組成物は、特にオフセット印刷インキ組成物として用いた場合には、湿し水による過乳化が殆ど生じないという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔顔料コーティング剤について〕
本発明の顔料コーティング剤に含有される前記ロジン系ポリエステル樹脂は、大気中で酸化による自己発熱を殆ど生じないという特徴を有する。(なお、前記「フェノール−ホルムアルデヒドフリー」とは、フェノール類やホルムアルデヒド、あるいはフェノール−ホルムアルデヒド縮合物を原料に用いていないことを意味する。)
【0015】
ロジン類(a)としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば天然ロジン〔ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等〕;天然ロジン誘導体〔α,β−不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸等)でディールス・アルダー変性したロジン(例えばアクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン、無水マレイン酸変性ロジン、フマル酸変性ロジン等)、重合ロジン、不均化ロジン、水素化ロジン等〕を例示することができ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
ロジン類(a)の物性は特に制限されないが、酸価が通常130〜350mgKOH/g程度、軟化点が通常60〜200℃程度である。
これらの中でも、ロジン系ポリエステル樹脂の分子量や軟化点を高めやすく、また顔料をコーティングする際にコーティング装置の汚染が生じにくくなるため、前記α,β−不飽和カルボン変性ロジンおよび/または前記重合ロジンが好ましい。
ロジン類(a)の使用量は、ロジン系ポリエステル樹脂の全原料において、通常10〜90重量%程度である。
【0016】
ポリオール類(b)は、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、2価アルコール〔エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等〕;3価アルコール〔グリセリン、トリメチロールプルパン、トリメチロールエタン等〕;4価アルコール〔ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジトリメチロールエタン等〕;6価アルコール〔ジペンタエリスリトール等〕を例示することができ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、ロジン系ポリエステル樹脂の分子量や軟化点を調整しやすくなるため、前記3価アルコールおよび/または4価アルコール、特にグリセリンおよび/またはペンタエリスリトールが好ましい。
ポリオール類(b)の使用量は、ロジン系ポリエステル樹脂の全原料において、通常1〜30重量%程度である。
【0017】
脂肪族化合物(c)は、主にロジン系ポリエステル樹脂のインキ用溶剤への溶解性を高める目的で、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、脂肪族塩基酸類、脂肪族アルコール類、脂肪族モノアミン類、脂肪族モノエポキシ類等の低分子脂肪族化合物;α,β−不飽和カルボン酸と疎水性重合性不飽和化合物とからなるポリマーと、当該ポリマー中のカルボン酸類に対し反応性を有する疎水性化合物とを、部分的に反応させてなる樹脂等の高分子脂肪族化合物、を例示でき、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
脂肪族化合物(c)の使用量は、ロジン系ポリエステル樹脂の全原料において、通常3〜40重量%程度である。
【0018】
前記低分子脂肪族化合物のうち、脂肪族塩基酸類としては、具体的には、例えば、炭素数10〜40程度の直鎖状脂肪酸〔カプリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸等〕;炭素数10〜40程度の分岐状脂肪酸〔イソ酸、ツベルクロステアリン酸等〕;環状脂肪酸〔マルバリン酸、ショールムーグリン酸等〕;炭素数8〜40程度のアルキル(無水)コハク酸〔オクチル(無水)コハク酸、ドデシル(無水)コハク酸、トリアコチル(無水)コハク酸、テトラコンチ(無水)コハク酸等〕;炭素数8〜40程度のアルキル(無水)コハク酸〔オクテニル(無水)コハク酸、ドデセニル(無水)コハク酸、トリアコンテニル(無水)コハク酸、テトラコンテニル(無水)コハク酸等〕;炭素数10〜40程度のα,ω−ジカルボン酸〔セバシン酸、エイコサン二酸、トリアコンタン二酸等〕;α,β−不飽和カルボン酸と(半)乾性油(アマニ油、大豆油、脱水ヒマシ油等)からなる化合物;α,β−不飽和カルボン酸類とオレフィンオリゴマーからなる化合物;ダイマー酸を例示できる。
【0019】
前記脂肪族アルコール類としては、具体的には、例えば、炭素数10〜40程度のモノアルコール〔デシルアルコール、イコサノール、トリアコンタノール、テトラコンタノール等〕;炭素数10〜40程度のジオール〔1,2−オクタデカンジオール、デカンジオール、イコサンジオール、トリアコンタンジオール、テトラコンタンジオール等〕;ダイマー酸を水添したジオールを例示できる。
【0020】
前記脂肪族モノアミン類としては、具体的には、例えば、炭素数10〜40程度のモノアミン〔デシルアミン、イコシルアミン、トリアコンチルアミン、テトラコンチルアミン等〕;炭素数10〜40程度の動植物由来アミン〔牛脂アルキルアミン、大豆アルキルアミン等〕を例示できる。
【0021】
前記脂肪族モノエポキシ類としては、具体的には、例えば、炭素数10〜40程度の脂肪族モノエポキシ類〔例えば1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、エチルヘキシルグリシジルエーテル〕などを例示できる。
【0022】
前記高分子脂肪族化合物としては、例えば特許3446728号公報に記載された樹脂を用いることができる。
【0023】
芳香族多塩基酸類(d)は、主にロジン系ポリエステル樹脂の軟化点を高める目的で、各種公知のものを任意に用いることができる。具体的には、例えば、芳香族多塩基酸類〔(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、(無水)トリメリット酸、ピロメリット酸等〕;該芳香族多塩基酸類に対応するモノアルキルエステル〔モノメチルエステル、モノエチルエステル、ジメチルエステル、ジエチルエステル等〕を例示でき、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。芳香族多塩基酸類(d)の使用量は、ロジン系ポリエステル樹脂の全原料において、通常0〜20重量%程度である。
【0024】
極性基含有石油樹脂(e)は、主にロジン系ポリエステル樹脂の分子量や軟化点を高める目的で、各種公知のものを任意に用いることができる。具体的には、各種公知の石油樹脂に、カルボキシル基や水酸基などの極性基を、各種公知の手段で導入したものを用いることができる(例えば、特許3446728号公報を参照)。
当該石油樹脂としては、例えば、DCPD系石油樹脂〔原料として、例えばシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンを用いる〕;C5系石油樹脂〔原料として、例えばペンテン、シクロペンテン、ペンタジエン、イソプレン用いる〕;C9系石油樹脂〔原料として、例えばメチルブテン、インデン、メチルインデン、ビニルトルエン、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン用いる〕;該DCPD系石油樹脂の原料と、該C5系石油樹脂の原料からなる共重合石油樹脂;該C5系石油樹脂の原料と、該C9系石油樹脂の原料からなる共重合石油樹脂;該DCPD系石油樹脂の原料と、該C9系石油樹脂の原料からなる共重合石油樹脂;該DCPD系石油樹脂の原料と、該C5系石油樹脂の原料と、該C9系石油樹脂の原料からなる共重合石油樹脂、などを例示できる。
なお、石油樹脂に極性基を導入する方法としては、例えばカルボキシル基を導入する場合には、(1)前記α,β−不飽和カルボン酸と、前記石油樹脂を、各種公知のラジカル反応開始剤の存在下でラジカル共重合反応させる方法や、(2)前記α,β−不飽和カルボン酸と、前記石油樹脂を、エン反応させる方法、を例示できる。
また、例えば水酸基を導入する場合には、(3)アリルアルコール等の分子内に二重結合と水酸基を有する化合物を、前記石油樹脂に熱重合させる方法を例示できる。
極性基含有石油樹脂(e)の物性は特に制限されないが、重量平均分子量が通常4,000〜30,000程度である。極性基含有石油樹脂(e)がカルボキシル基を有するものである場合には、その理論酸価は通常5〜102mgKOH/g程度である。
極性基含有石油樹脂(e)の使用量は、ロジン系ポリエステル樹脂の全原料において、通常0〜66重量%程度である。
【0025】
ロジン系ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、各種公知のエステル方法を採用することができる。具体的には、例えば、攪拌機、分水器付き還流冷却管、温度計等を備えた反応容器に、前記原料を所定量ずつ仕込み、100〜300℃程度の温度で、1〜20時間程度エステル反応を進行させればよい。また、反応系は窒素等の不活性ガス雰囲気とするのが好ましい。
【0026】
なお、各原料の使用重量は前記の通りであるが、用いる原料に含まれる水酸基とアミノ基の全当量(X eq)と、用いる原料に含まれるカルボキシル基の全当量(Y eq)の比(X/Y)を、通常0.5〜1.1程度の範囲となるように調整した場合には、本発明に係る印刷インキ組成物の耐過乳化性が、いっそう向上するため好ましい。そのため、当該印刷インキ組成物は、特にオフセット印刷用途に好適に用いることができる。
【0027】
エステル反応時には、各種公知のエステル化触媒を用いることができる。具体的には、例えば、酸触媒〔塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等〕;アルカリ金属水酸化物〔水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等〕;アルカリ土類金属水酸化物〔水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等〕;金属酸化物〔酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等〕;酢酸金属塩〔酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛等〕などを例示できる。
【0028】
また、エステル反応時には、各種公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、例えば、芳香族溶剤〔トルエン、キシレン等〕、脂環族溶剤〔メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、新日本石油製AFソルベント4号、新日本石油製AFソルベント5号、新日本石油製AFソルベント6号、新日本石油製AFソルベント7号等〕、エステル系溶剤〔例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等〕などを例示できる。
【0029】
得られるロジン系ポリエステル樹脂の物性は特に限定されないが、ロジン系ポリエステル樹脂の印刷インキ溶剤への溶解性や、印刷インキ組成物の被膜の乾燥性や、セット性を良好に保つために、軟化点が通常140〜200℃程度、重量平均分子量が通常30,000〜400,000程度(好ましくは50,000〜200,000)であるのがよい。また、ロジン系ポリエステル樹脂の33%アマニ油粘度は、通常2〜15程度である。(ここに、33%アマニ油粘度とは、ポリエステル樹脂とアマニ油の1対2混合物の25℃における粘度を、コーン&プレート型粘度計(日本レオロジー機器(株)製)で測定した粘度をいう(以下、同様)。)
【0030】
本発明に係るロジン系ポリエステル樹脂は、大気中において、酸化による自己発熱が殆ど生じないという特徴を有する。
ここに「自己発熱が殆ど生じない」とは、具体的には、“該ロジン系ポリエステル樹脂の、走査型示差熱量測定装置を用いて空気存在下で測定して得た熱量ピーク面積に対応する発熱量(mJ)”と、“該ロジン系ポリエステル樹脂の固形分重量(mg)”からなる比〔mJ/mg〕が、通常15以下、好ましくは10以下、特に好ましくは5以下、一層好ましくは実質的に0であることをいう。
なお、前記熱量ピーク面積は、各種公知の走査型示差熱量測定装置を用いて、昇温速度が10℃/分程度、測定温度範囲が室温〜200℃程度、測定雰囲気が大気中という条件で得られる面積である。
【0031】
〔被覆顔料について〕
本発明に係る被覆顔料は、前記ロジン系ポリエステル樹脂を用いて、各種公知の印刷インキ用顔料を表面処理(コーティング)することにより、得ることができる。
なお、ロジン系ポリエステル樹脂は、顔料に対して通常1〜200重量%程度の範囲で用いればよい。
【0032】
コーティング手段は特に限定されず、乾式や湿式のいずれかの方法を用いればよい。例えば乾式コーティングの場合には、各種公知の粉砕機〔アトライター、ボールミル、振動ミル等〕において、ロジン系ポリエステル樹脂の存在下で顔料を乾式粉砕すればよい。また粉砕は、酸素が存在しない雰囲気(例えば窒素雰囲気)で行うのがよい。また粉砕温度は、通常80〜170℃程度である。また粉砕時間は、粉砕機の種類や、所望の顔料粒径に応じて、適宜設定すればよい。また、粉砕時には、前記した有機溶剤を適宜用いても良い。
【0033】
顔料としては、各種公知の無機顔料あるいは有機顔料を用いることができる。無機顔料としては、例えば黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉などを例示できる。また、有機顔料としては、可溶性アゾ顔料〔C系(βナフトール系)顔料、2B系顔料、6B系(βオキシナフトエ系)顔料等〕、不溶性アゾ顔料〔βナフトール系顔料、βオキシナフトエ酸アニリド系顔料、モノアゾイエロー系顔料、ジスアゾイエロー系顔料、ピラゾロン系顔料等〕、フタロシアニン系顔料〔銅フタロシアニン(αブルー、βブルー、εブルー)顔料、ハロゲン化銅フタロシアン顔料、金属フリーフタロシアニン顔料〕などを例示できる。
【0034】
〔印刷インキ組成物について〕
本発明に係る印刷インキ組成物は、前記被覆顔料と各種公知の印刷インキ用ワニスを、各種公知の分散・攪拌機器〔ボールミル、アトライター、サンドミル、三本ロールミル等〕で練肉することにより、得ることができる。
【0035】
前記印刷インキ用ワニスの製造方法は特に制限されない。例えば、各種バインダー樹脂と、各種インキ溶剤と、各種ゲル化剤を用い、各種公知の手段により調製することができる。
【0036】
該バインダー樹脂としては、アルキド樹脂、石油樹脂、ロジンエステル等の公知バインダー樹脂の他、本発明に係るロジン系ポリエステル樹脂を用いることもできる。
【0037】
また、該インキ溶剤としては、前記有機溶剤の他、各種公知の植物油や、脂肪酸エステル等を用いることができる。なお、当該植物油としては、アマニ油、桐油、これらの重合油、サフラワー油、脱水ヒマシ油、大豆油等を例示できる。これらの中でも、印刷インキ被膜の乾燥性の点からは、不飽和結合を有する植物油が好ましく、また環境への影響を考慮すると、大豆油が好ましい。
【0038】
また、該ゲル化剤としては、各種公知のものを特に限定なく使用することができる。具体的には、例えばオクチル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムジプロポキシドモノアセチルアセテート等のアルミ系キレート化剤を用いることができる。
【0039】
なお、本発明に係る印刷インキ組成物には、必要に応じて各種公知の界面活性剤、ワックス、添加剤などを用いてもよい。
【0040】
かかる印刷インキ組成物は、該被覆顔料を含有するので、鮮明性や着色性、分散性、被膜の耐水性等の各種性能に優れる。また、当該印刷インキ組成物は、種々のインキ用途、例えば新聞印刷インキ組成物、凸版印刷インキ組成物、グラビア印刷インキ組成物、特にオフセット印刷インキに供することができる。また、特にオフセット印刷インキ組成物として用いた場合には、湿し水による過乳化が殆ど生じないという利点がある。
【実施例】
【0041】
以下、製造例、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明を限定するものではない。なお、以下「部」とは重量部を示す。
【0042】
(ロジン類(a)の製造)
攪拌機、分水器付き還流冷却管および温度計を備えた反応容器に、ガムロジン1,000部を仕込み、窒素雰囲気下で反応系を攪拌しながら180℃まで昇温して、これを溶融した。次いで、同反応容器にフマル酸267部を仕込み、攪拌下に反応系を230℃まで昇温して、1時間保温した。その後、反応容器を冷却して、固形フマル酸変性ロジン(酸価342.0、軟化点148℃)を得た。
【0043】
(極性基含有石油樹脂(e)の製造)
前記同様の反応容器に、DCPD系石油樹脂(商品名
クイントン1325、日本ゼオン(株)製)1,000部を仕込み、窒素雰囲気下で反応系を攪拌しながら180℃まで昇温して、これを溶融した。次いで、同反応容器に無水マレイン酸70部を仕込み、攪拌下に反応系を230℃まで昇温して、3時間保温した。その後、同反応容器を冷却して、固形状のカルボキシル基含有石油樹脂樹脂(理論当量65、重量平均分子量1,500)を得た。該石油樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりTHF溶媒下で測定したポリスチレン換算値をいい、GPC装置としてはHLC−8020(東ソー(株)製)を、カラムとしてはTSK−GELカラム(東ソー(株)製)を用いた。(以下、同様。)
【0044】
(フェノール−ホルムアルデヒド縮合物の製造)
前記同様の反応容器に、ノニルフェノール1,000部、パラホルムアルデヒド270部および水1,000部を仕込み、攪拌下に50℃まで昇温した。次いで、同反応容器に水酸化ナトリウム100部を仕込み、冷却しながら反応系を90℃まで徐々に昇温した後、2.5時間保温し、更に硫酸を滴下してpHを6付近に調整した。その後、キシレン150部を加え、ホルムアルデヒドなどを含んだ水層部を除去し、更に内容物を冷却して、レゾール型ノニルフェノールの70%キシレン溶液を得た。
【0045】
製造例1
(ロジン系ポリエステル樹脂1の製造)
製造例1と同様の反応容器に、重合ロジン(商品名 シルバタック140、シルバケム社製、酸価140)588部、製造例1の固形フマル酸変性ロジン266部、および炭素数18のアルケニル無水コハク酸52部を仕込み、反応系を窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温し、これらを溶融した。次いで、同反応容器にペンタエリスリトール47部、グリセリン47部を添加し、攪拌下に反応系を260℃で保温し、樹脂の酸価が30以下となった時点でパラトルエンスルホン酸1部を仕込み、酸価が20以下となるまでエステル化反応させた。反応終了後、反応系を33重量%アマニ油粘度が8.0Pa・sとなるように調整し、更に0.02MPaで10分間減圧し、次いで冷却して、固形状のロジン系ポリエステル樹脂1を得た。ロジン系ポリエステル樹脂1の酸価は15.8、軟化点は173℃、重量平均分子量は130,000であった。
【0046】
製造例2
(ロジン系ポリエステル樹脂2の製造)
製造例1と同様の反応容器に、重合ロジン(商品名 シルバタック140、シルバケム社製、酸価:140)353部、製造例1で得たフマル酸変性ロジン101部、製造例2で得た極性基含有石油樹脂樹脂426部を仕込み、反応系を窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温し、これらを溶融した。次いで、同反応容器にペンタエリスリトール22部、グリセリン22部および1,2−オクタデカンジオール76部を添加し、攪拌下に反応系を260℃で保温し、樹脂の酸価が30以下となった時点でパラトルエンスルホン酸1部を仕込み、酸価が20以下となるまでエステル化反応させた。反応終了後、反応系を33重量%アマニ油粘度が8.0Pa・sとなるように調整し、更に0.02MPaで10分間減圧し、次いで冷却して、固形状のロジン系ポリエステル樹脂2を得た。該ロジン系ポリエステル樹脂2の酸価は14.2、軟化点は168℃、重量平均分子量は103,000であった。
【0047】
製造例3
(ロジン系ポリエステル樹脂3の製造)
製造例1と同様の反応容器に、重合ロジン(商品名 シルバタック140、シルバケム社製、酸価:140)676部、炭素数18のアルケニル無水コハク酸68部、イソフタル酸135部を仕込み、反応系を窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温し、これらを溶融した。次いで、同反応容器にペンタエリスリトール121部を添加し、攪拌下に反応系を260℃で保温し、樹脂の酸価が50以下となった時点でパラトルエンスルホン酸1部を仕込み、酸価が20以下となるまでエステル化反応させた。反応終了後、反応系の33重量%アマニ油粘度が8.0Pa・sに調整し、0.02MPaで10分間減圧、冷却してロジン系ポリエステル樹脂3を得た。該ロジン系ポリエステル樹脂3の酸価は14.0、軟化点は172℃、重量平均分子量は131,000であった。
【0048】
製造例4
(ロジン系ポリエステル樹脂4の製造)
製造例1と同様の反応容器に、重合ロジン(商品名 シルバタック140、シルバケム社製、酸価:140)311部、製造例1のフマル酸変性ロジン51部、および製造例2の極性基含有樹脂478部を仕込み、反応系を窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温し、これらを溶融した。次いで、同反応容器にペンタエリスリトール31部、グリセリン31部を添加し、攪拌下に反応系を180℃で1時間保温保温し、樹脂の酸価が50以下となった時点でパラトルエンスルホン酸1部を仕込み、酸価が20以下となるまでエステル化反応させた。その後、同反応容器に大豆油脂肪酸(商品名「TOENOL#1125」、当栄ケミカル(株)製、酸価198)85部を添加し、反応系を260℃で1時間保温した。その後、樹脂の酸価が30以下となった時点で、同反応容器にイソフタル酸12部、パラトルエンスルホン酸1部を仕込み、同温度で酸価が20以下となるまでエステル化反応させた。反応終了後、反応系の33重量%アマニ油粘度が8.0Pa・sに調整し、0.02MPaで10分間減圧、冷却してロジン系ポリエステル樹脂4を得た。該ロジン系ポリエステル樹脂4の酸価は13.8、軟化点は178℃、重量平均分子量は158,000であった。
【0049】
比較製造例1
(ロジン変性フェノール樹脂の製造)
製造例1と同様の反応容器に、ガムロジン552部を仕込み、これを窒素雰囲気下に攪拌しながら230℃まで昇温して溶融した。次いで、ペンタエリスリトール52部および酸化亜鉛2部を添加し、攪拌下に260℃まで昇温し、酸価が20以下となるまで反応した。更に230℃まで冷却した後、前記レゾール型ノニルフェノール70%キシレン溶液394部(固形分276部)を230〜260℃の温度範囲内で4時間かけて系内へ滴下した。滴下終了後、33重量%アマニ油粘度が8.0Pa・sとなるよう調整し、0.02MPaで10分間減圧後、内容物を冷却してロジン変性フェノール樹脂(以下、樹脂Aという)を得た。なお、酸価は16.8、軟化点は168℃、重量平均分子量は92,000であった。
【0050】
参照例1
ガムロジンカルシウム塩(商品名 ライムレジンNo.1、荒川化学工業(株)製)をそのまま顔料コーティング剤として用いた。(以下、樹脂Bという。)
【0051】
参照例2
(バインダー樹脂用のロジン系ポリエステル樹脂の製造)
製造例1と同様の反応容器に、炭素数16〜18のα−オレフィン(商品名「ダイアレン168」、三菱化学(株)製)238部を仕込み、反応系を窒素雰囲気下に攪拌しながら155〜160℃まで昇温し、これを溶融した。次いで、同反応容器に、無水マレイン酸98部、ジ−t−ブチルパーオキサイド(商品名「パーブチルD」、日本油脂(株)製)13.5部を、1時間かけて連続的に添加し、攪拌下に反応系を155〜160℃で1時間保温し、更にステアリルアルコール271部を添加して、220℃で4時間反応させ、樹脂(重量平均分子量:4,300)を製造した。次いで、製造例1と同様の反応容器に、当該樹脂を94部、他にも重合ロジン(商品名 シルバタック140、シルバケム社製、酸価:140)を359部、前記フマル酸変性ロジンを57部、前記カルボキシル基含有石油樹脂樹脂433部を仕込み、窒素雰囲気下に攪拌しながら180℃まで昇温してこれらを溶融した。次いで、同反応容器にペンタエリスリトール29部、グリセリン29部を添加し、攪拌下に260℃まで昇温し、酸価が20以下となるまでエステル化反応させた。反応終了後、33重量%アマニ油粘度を8.0Pa・sに調整し、0.02MPaで10分間減圧、冷却して固形バインダー樹脂を得た。当該バインダー樹脂の酸価は15.5、軟化点は165℃、重量平均分子量は150,000であった。
【0052】
実施例・比較例
(自己発熱評価)
ロジン系ポリエステル樹脂1〜4、および樹脂Bの自己発熱量(mJ)を、セイコーインスツルメンツ(株)製走査型示差熱量測定装置(EXSTAR6000 DSC6200)を用いて測定した。具体的には、各樹脂10mgを装置に入れ、昇温速度が10℃/分、温度範囲が室温〜200℃、測定雰囲気が大気の条件下で測定した。結果、ロジン系ポリエステル樹脂1〜4、樹脂Bは、いずれについても発熱の発生を示すピークが認められなかった。(即ち、前記比〔mJ/mg〕はいずれについても実質的に0であった。)
一方、樹脂Aの前記比〔mJ/mg〕は、37であった。
【0053】
(被覆顔料の製造)
アトライターに、ロジン系ポリエステル樹脂1を7重量部、粗製フタロシアニンブルー(藍顔料)を70重量部加え、窒素気流下に160℃で1時間乾式粉砕を行った。得られた顔料を被覆顔料1とする。同様に、ロジン系ポリエステル樹脂2〜4について被覆顔料2〜4を、また、樹脂A、樹脂Bについて被覆顔料A、被覆顔料Bを得た。
【0054】
(印刷インキ組成物の調整)
前記参照例2で得たバインダー樹脂を45.0部、大豆油を10部、AFソルベント7号を45.0部、容器に仕込み、180℃において30分混合・溶解して、ワニスを得た。次いで、該ワニスを60℃まで冷却し、更にアルミキレート(商品名 ALCH、川研ファインケミカル(株)製)を1.0部加えて系を攪拌、混合した。その後、生成物を190℃で1時間保温し、ゲルワニスとした。
【0055】
次いで、該ゲルワニスを用いて、被覆顔料や他の原料を表1に示した配合割合となるように三本ロールミルで練肉し、タック値が6.5±0.5、フロー値が41.0±1.0となるように調整した印刷インキ1を得た。また、被覆顔料2〜4、被覆顔料A、被覆顔料Bについても同様にして、印刷インキ2〜4、印刷インキA、印刷インキBを得た。
【0056】
【表1】

【0057】
(印刷インキの乳化試験)
印刷インキAの3.9mlを、動的乳化試験機(日本レオロジー機器(株)製)上に展開し、次いで純水を5ml/分の速度で供給し(ロール温度30℃、ロール回転速度200rpm)、当該印刷インキ中の水分量を、赤外水分計を用いて測定した。結果、印刷インキ1の乳化率は40%、印刷インキ2は38%、印刷インキ3は37%、印刷インキ4は36%であった。一方、印刷インキAは39%、また印刷インキBは68%(過乳化)であった。





















【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール−ホルムアルデヒドフリーのロジン系ポリエステル樹脂を含有する顔料コーティング剤。
【請求項2】
前記ロジン系ポリエステル樹脂が、ロジン類(a)、ポリオール類(b)、カルボキシル基または水酸基と共有結合可能な官能基を分子内に1つ以上有する脂肪族化合物(c)、ならびに、必要に応じて芳香族多塩基酸類(d)および/または極性基含有石油樹脂(e)を含む原料を反応させて得られるものである、請求項1に記載の顔料コーティング剤。
【請求項3】
前記ロジン系ポリエステル樹脂の、走査型示差熱量測定装置を用いて空気存在下で測定して得た熱量ピーク面積に対応する発熱量(mJ)と、固形分重量(mg)との比〔mJ/mg〕が、15以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の顔料コーティング剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の顔料コーティング剤を用いた被覆顔料。
【請求項5】
請求項4の被覆顔料を含有する印刷インキ組成物。

【公開番号】特開2007−204677(P2007−204677A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27404(P2006−27404)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】