説明

顔料分散型水性塗料組成物

【課題】顔料の分散安定性に優れ、かつ優れた発色性を有する塗膜を形成することができる顔料分散型水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】バインダー樹脂成分及び顔料分散樹脂からなる水性塗料組成物であって、上記顔料分散樹脂は、水和鎖及び顔料吸着鎖からなり、上記バインダー樹脂成分と上記水和鎖の溶解性パラメータ値の差が0.2以下である顔料分散型水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散型水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、揮発性有機物含有量(VOC)を含まない水性塗料の開発が活発に行われている。それに伴い着色塗料において重要な役割を果たす顔料分散樹脂の水性化も進められている。
【0003】
顔料分散樹脂は、一般に、顔料に吸着する部位と媒体に相溶化する部位より構成される顔料分散樹脂からなる。顔料表面に吸着した顔料分散樹脂は樹脂吸着層を形成し、それが顔料分散安定化に大きく寄与する。水性塗料用顔料分散樹脂において、前者の部位には主として顔料と疎水性相互作用や一部には酸塩基相互作用を示す官能基などが用いられ、後者の部位には水溶性の高分子鎖が用いられている(特許文献1〜3)。
【0004】
しかし、顔料分散樹脂において、水性塗料中に配合される顔料分散樹脂が水性塗料中のバインダー成分との相溶が不充分であったり、水性塗料中の顔料分散樹脂が焼付けによって、親水性から疎水性の状態に変化することにより、顔料が均一に分散されなくなり、凝集等を起こしたりして、塗膜性能や外観、発色性等が劣化する等の問題があった。
【0005】
特許文献4では、分散された顔料と、水性キャリアーと、分枝状の顔料分散樹脂とを含み、上記分枝状の顔料分散樹脂は親水性主鎖とマクロモノマー側鎖を含む、水性塗料用の水性顔料分散液が開示されている。
【0006】
特許文献5では、(A)触媒的連鎖移動剤である金属錯体又は付加開裂型連鎖移動剤、及び必要に応じてラジカル重合性開始剤の存在下に、メタクリル酸と、メタクリル酸エステル及びスチレンから選ばれる少なくとも1種の共重合性モノマーとを共重合して特定酸価を有するマクロモノマーを得る工程、及び(B)ラジカル重合開始剤の存在下に、上記マクロモノマーとエチレン性不飽和モノマーとを共重合する工程を有する顔料分散樹脂の製造方法が開示されている。
【0007】
しかし、これらの顔料分散樹脂は、水性塗料組成物のバインダー樹脂成分との相溶性が不充分であり、得られる塗膜の外観や発色性が充分には改善されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平6−100642号公報
【特許文献2】特開平7−90218号公報
【特許文献3】特開2002−336672号公報
【特許文献4】国際公開WO98/18839号公報
【特許文献5】特開2002−12811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状を鑑みて、顔料の分散安定性に優れ、優れた発色性を有する塗膜を形成することができる顔料分散型水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、バインダー樹脂成分及び顔料分散樹脂からなる水性塗料組成物であって、上記顔料分散樹脂は、水和鎖及び顔料吸着鎖からなり、上記バインダー樹脂成分と上記水和鎖との溶解性パラメータ値の差が0.2以下であることを特徴とする顔料分散型水性塗料組成物である。
上記バインダー樹脂成分を構成するモノマー組成と、上記水和鎖を構成するモノマー組成とが同一又は実質的に同一であることが好ましい。
上記顔料分散樹脂は、水和鎖が主鎖、顔料分散鎖が側鎖である櫛形構造を有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の顔料分散型水性塗料組成物は、顔料の分散安定性及び塗膜の発色性において優れるものである。このため、本発明の顔料分散型水性塗料組成物は、自動車等の車体や部品、建材等の着色塗料として好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、バインダー樹脂成分及び顔料分散樹脂からなる水性塗料組成物であって、上記顔料分散樹脂は、水和鎖及び顔料吸着鎖からなり、上記バインダー樹脂成分と上記水和鎖との溶解性パラメータ値の差が0.2以下であることを特徴とする顔料分散型水性塗料組成物である。
【0013】
焼付け硬化型水性塗料においては、通常、基材への塗布後、水や塩基の揮散が始まるとともに架橋剤との熱硬化反応により塗膜が形成される。つまり、塗料や塗膜中の環境は、焼付けにより親水性から疎水性へ著しく変化する。したがって、樹脂の親疎水性が刻々と変化する過程において、バインダー樹脂と顔料分散樹脂の樹脂吸着層とが常に良好な相溶性を保つことができれば、塗布段階から硬化反応が終了するまでの間、顔料が塗膜中に均一に分散することができ、最終的には優れた発色性を示す塗膜を得ることができる。しかし、このような視点に立って顔料分散樹脂の構造を設計することはこれまでに開示されていない。
【0014】
本発明の水性塗料組成物は、バインダー樹脂と相溶性が高い成分により構成される顔料分散樹脂を使用することにより、塗料の環境変化における、顔料の分散安定性や塗料の流動性に優れたものであるため、発色性に優れた塗膜を形成することができる。
【0015】
本発明の顔料分散型水性塗料組成物は、上記観点に基づいてバインダー樹脂成分及び顔料分散樹脂の樹脂設計を行ったものであり、顔料吸着鎖及び水和鎖からなる顔料分散樹脂の水和鎖と上記バインダー樹脂成分との溶解性パラメータ値の差が0.2以下であることを特徴とするものである。すなわち、上記バインダー樹脂成分と顔料分散樹脂の水和鎖との相溶性が高いものであるため、塗料組成物中から塗装時、硬化反応時のすべての段階において分散安定性に優れ、これによって発色性に優れた塗膜を形成することができるものである。
【0016】
上記溶解性パラメータ値の差が0.2を超えると、バインダー樹脂と顔料分散樹脂の水和鎖との親和性が低下することによって、発色性が充分に改善されない。上記溶解性パラメータ値の差を0.2以下とするためには、バインダー樹脂と顔料分散樹脂の水和鎖の化学構造を近似したものとすることが好ましく、もっとも好ましくは実質的に同一の化学構造を有するものとすればよい。すなわち、同一又は近似したモノマーから得られたバインダー樹脂と顔料分散樹脂の水和鎖は、塗料組成物中、塗装時、硬化反応時における化学的挙動が極めて類似するものとなるから、すべての段階において良好な相溶性を示し、これによって塗膜中に顔料が均一に分散することとなる。結果として、塗膜の発色性が良好になるものである。
【0017】
本明細書において、「溶解性パラメータ」とは、Hildebrandにより提唱されたパラメータをいい、凝集エネルギー密度の平方根で定義される。代表的な溶媒や樹脂の溶解性パラメータは、例えばポリマーハンドブックに記載されている。本明細書においては、樹脂の溶解性パラメータは、例えば以下の手順で決定される。
樹脂0.5gを秤量してビーカーにとり、良溶媒(例えば、アセトン、ジオキサン、ブチセロ、THF)10mLをホールピペットで加えて樹脂を溶解し、樹脂溶液を調製する。この樹脂溶液を20℃に保持し、水またはヘキサンを滴下し、白濁した点を滴定値とする。この滴定値から、以下の式を用いて樹脂の溶解性パラメータδresinを算出する。
【0018】
【数1】

【0019】
ここで、Vmlはヘキサンによる滴定終了時の混合溶媒の分子容であり、Vmhは水による滴定終了時の混合溶媒の分子容である。δmlおよびδmhは、それぞれヘキサンまたは水により滴定終了時の混合溶媒の溶解性パラメータであり、以下の式で表される。
【0020】
【数2】

【0021】
ここで、δwaterおよびδhexaneは、それぞれ水およびヘキサンの溶解性パラメータであり、δは良溶媒の溶解性パラメータである。φmlは水の混合溶媒中のヘキサンの体積分率であり、φmhは水の混合溶媒中の水の体積分率である。
【0022】
また、本発明における溶解性パラメータ値は樹脂を塩基によって中和する前の状態で測定した値である。すなわち、水性塗料とするためには、バインダー樹脂も顔料分散樹脂もカルボキシル基の一部を塩基で中和することが行われるが、上記溶解性パラメータ値はこのような塩基による中和を行わない状態の樹脂で測定した値である。
【0023】
本発明において、上記水和鎖の溶解性パラメータ値とは、水和鎖を構成するモノマーのみで重合して得られた重合体の溶解性パラメータ値を意味する。例えば、顔料分散樹脂が、主鎖及び側鎖部からなる櫛形構造のポリマーであり、主鎖部が水和鎖である場合は、主鎖を構成するポリマーの溶解性パラメータ値を指すものである。この際、グラフト構造を得るために導入された構造由来は考慮せずに、主鎖を構成するポリマーを調製し、当該ポリマーの溶解性パラメータ値を測定する。顔料分散樹脂が主鎖及び側鎖部からなる櫛形構造のポリマーであり、側鎖が水和鎖である場合は、側鎖を構成するポリマーの溶解性パラメータ値を指すものである。
【0024】
上記顔料分散樹脂は、水性塗料中のバインダー成分との溶解性パラメータ値の差が0.2以下である水和鎖と、顔料と相互作用する顔料吸着鎖より構成されていればよく、その化学構造や調製方法は特に限定されない。化学構造としては、例えば、水和鎖が主鎖、顔料吸着鎖が側鎖である櫛形構造;水和鎖が側鎖、顔料吸着鎖が主鎖である櫛形構造;水和鎖と顔料吸着鎖とがブロックポリマーを形成しているブロック構造等を挙げることができる。
【0025】
上記顔料分散樹脂の調製方法としては、例えば、1)顔料吸着部位及び末端ラジカル重合性官能基を有するマクロモノマーと、水和鎖を構成するモノマーをラジカル重合する方法、2)水和鎖を構成し、末端ラジカル重合性官能基を有するマクロモノマーと、顔料吸着部位を有するモノマーをラジカル重合する方法、3)顔料吸着部位及び片末端に反応性官能基を有する高分子と、水和鎖を構成する高分子を反応させる方法、4)顔料吸着部位を有する高分子と、バインダーと同じ成分で構成される高分子鎖がブロック状に結合するように反応させる方法等を挙げることができる。
【0026】
上記方法1)は、顔料吸着部位及び末端ラジカル重合性官能基を有するマクロモノマーと、ラジカル共重合性不飽和モノマー(バインダー樹脂成分と同じ組成のモノマー)とをラジカル重合する方法である。
【0027】
上記マクロモノマーの製造方法は特に限定されず、例えば、カルボキシル基を有する開始剤及び/又は連鎖移動剤の存在下で、カルボキシル基を含有しないラジカル重合性不飽和モノマー組成物をラジカル重合することにより末端にカルボキシル基を有する疎水性高分子を得る工程(1−1)、並びに、上記工程(1−1)で得られた疎水性高分子と、炭素−炭素二重結合基及びグリシジル基を有する化合物とを反応させる工程(1−2)からなるマクロモノマーの調製方法を挙げることができる。
【0028】
上記工程(1−1)において、上記カルボキシル基を含有しないラジカル重合性不飽和モノマーとしては、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−(3−)ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、FA−1(ダイセル化学製)等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−(3−)ヒドロキシプロピル、FM−1、FM−2(以上、ダイセル化学製)等のメタクリル酸エステル類;及び、スチレン、p−メチルスチレン等のスチレン誘導体等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記マクロモノマーは、顔料分散樹脂において、疎水性相互作用を主とする相互作用により顔料表面と吸着する役割を担うため、少なくともバインダー樹脂との溶解性パラメータ値の差が0.2を超える疎水性であることが好ましい。より好ましくは、上記溶解性パラメータ値の差が1.0を超える疎水性である。
【0030】
上記疎水性を得るためには、上記カルボキシル基を含有しないラジカル重合性不飽和モノマー組成物において、炭素数6以上の炭化水素基の(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、上記ラジカル重合性不飽和モノマー合計100質量%中、50質量%以上であることが好ましい。50質量%未満であると、充分な顔料吸着能が得られず、顔料分散が不充分となるおそれがある。
【0031】
また、上記工程(1−1)で使用する上記ラジカル重合性不飽和モノマー組成物は、その他に親水性基含有不飽和モノマーを含んでいてもよいが、その含有量は5質量%以下であることが好ましい。5質量%を超えると、充分な顔料吸着能が得られず、顔料分散が不充分となるおそれがある。
【0032】
上記工程(1−1)で使用する上記親水性基含有不飽和モノマーとしては、メタクリル酸等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー、又は水酸基等の親水性基を含む不飽和モノマーを挙げることができる。
【0033】
上記工程(1−1)で使用する開始剤としては、カルボキシル基を有する開始剤が好ましく、例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)を挙げることができる。上記開始剤の含有量としては、上記ラジカル重合性不飽和モノマー組成物100質量部に対して、1〜5質量部であることが好ましい。
【0034】
上記工程(1−1)で使用する連鎖反応剤としては、カルボキシル基を有する連鎖反応剤が好ましく、例えば、メルカプト酢酸及びメルカプトこはく酸等を挙げることができる。カルボキシル基を有する連鎖反応剤を併用することにより、末端にカルボキシル基を有する顔料吸着鎖をより効率よく生成することができる。上記連鎖反応剤の含有量としては、上記ラジカル重合性不飽和モノマー組成物100質量部に対して、1〜15質量部であることが好ましい。
【0035】
上記重合方法としては、有機溶媒中での溶液重合法や水中でのエマルション重合等の公知の方法が挙げられるが、なかでも溶液重合法であることが好ましい。上記溶液重合法としては、具体的には、全量仕込み法、開始剤滴下法又はモノマー滴下法等を挙げることができる。上記重合は、上記開始剤、上記連鎖反応剤、及び上記ラジカル重合性不飽和モノマー組成物を、有機溶媒中に溶解又は分散させて、開始剤の分解温度以上で、通常は70〜170℃の反応温度で、1〜8時間攪拌しながら共重合させることにより行うことができる。
【0036】
上記有機溶媒としては、例えば、ヘプタン、トルエン、キシレン、オクタン、ミネラルスピリット等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、 sec−ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤;n−ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル系;コスモ石油社製のスワゾール310、スワゾール1000、スワゾール1500等の芳香族石油系溶剤等の一般的な有機溶媒を挙げることができる。これらの有機溶剤は1種で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0037】
上記マクロモノマーは、上記工程(1−1)で得られた末端にカルボキシル基を有する疎水性高分子と、炭素−炭素二重結合基及びグリシジル基を有する化合物とを反応させることによって生成することができる(工程(1−2))。
【0038】
上記炭素−炭素二重結合基及びグリシジル基を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0039】
上記末端にカルボキシル基を有する疎水性高分子と、上記炭素炭素−炭素二重結合基及びグリシジル基を有する化合物とを反応させる方法としては、上記疎水性高分子に、必要に応じて有機溶媒を添加して、通常、反応温度100〜150℃で、上記炭素炭素−炭素二重結合基及びグリシジル基を有する化合物と反応させる方法が挙げられる。上記反応は、アミンや4級アンモニウム塩等の一般的な酸−エポキシ反応触媒の存在下で行うことが好ましい。
【0040】
上記の方法により得られるマクロモノマーの数平均分子量は、1000〜50000であることが好ましく、1000〜10000の範囲にあることがより好ましい。なお、本明細書中における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算により得られた値である。
【0041】
上記顔料吸着部位及び末端ラジカル重合性官能基を有するマクロモノマーの製造方法としては、上述した方法の他に、種々の公知の方法によって行うことができ、例えば、a)リビングアニオン重合で調製したリビングポリマーに炭素―炭素二重結合基とハロゲン基を持つ化合物を反応させる方法(R.Milkovich, ACS Symp.Ser.,166,41(1981))、b)付加開裂連鎖移動剤の存在下で(メタ)アクリル酸エステル類をラジカル重合する方法(E.Rizzardo,et.al.,Macromol.Symp.,111,1(1996)、c)コバルトポルフィリン錯体など触媒的連鎖移動剤を用いてメタクリル酸エステル類をラジカル重合する方法(T.P. Davis,et.al.,Trend Polym.Sci.,3,365(1995))、d)200℃を超える高温下で(メタ)アクリル酸エステル類をラジカル重合させるとともに、高分子の主鎖切断を起こさせることにより末端に炭素―炭素二重結合基を導入する方法(河合道弘、東亜合成研究年報、5,2(2002))等を挙げることができる。
【0042】
本発明の顔料分散型水性塗料組成物に使用される顔料分散樹脂は、上述したマクロモノマーと、ラジカル共重合性モノマーとを混合してラジカル重合することにより得ることができる。
【0043】
上記方法1)においては、ラジカル共重合性モノマーによって形成される部分は、上記顔料分散樹脂の水和鎖に該当する重合鎖部分である。従って、上記ラジカル共重合性モノマーのみで共重合体を得た場合のその溶解性パラメータ値が、バインダー樹脂のものと0.2以下の差であることが必要である。上記ラジカル共重合性モノマーは、バインダー樹脂と同一又は実質的に同一のモノマー種及び組成比を有するものであることが好ましい。
【0044】
上記ラジカル共重合性モノマーとしては、上述したラジカル重合性不飽和モノマーに加え、アクリルモノマー、メタクリル酸、アクリル酸等のカルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸酸無水物基含有ラジカル重合性不飽和モノマー等も使用することができる。
【0045】
上記マクロモノマーと上記ラジカル共重合性モノマーとの配合比は、マクロモノマーの分子量をMa、上記ラジカル共重合性モノマーの分子量をMb、それぞれの質量部をWa、Wbとすると、0.1<(Wb/Mb)/(Wa/Ma)<2であることが好ましい。マクロモノマーの量が多いと未反応のマクロモノマーが生成し、得られた樹脂の水溶化が低下するばかりか、分散安定化効果が著しく悪くなるおそれがある。上記配合比は、0.5<(Wb/Mb)/(Wa/Ma)<1.0であることがより好ましい。
【0046】
上記ラジカル重合としては、特に限定されず、上述した溶液重合法等の公知の方法により行うことができる。上記ラジカル重合の際に使用する開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤、又は、t−ブチルパーオキシオクトエートやt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート等の過酸化物系開始剤を用いることができる。また上記重合の際に使用する有機溶媒としては、特に限定されず、上述したものを挙げることができる。
【0047】
上述の方法より得られる樹脂の酸価は、10〜80mgKOH/gであることが好ましい。10mgKOH/g未満であると、水との親和性が充分に得られないおそれがある。80mgKOH/gを超えると、得られる顔料分散樹脂を含む水性塗料組成物により形成される塗膜の耐水性が著しく低下する結果となるおそれがある。
【0048】
上述の方法により得られる樹脂は、常法によって脱溶剤し、塩基性中和剤及び水を添加することにより、中和されて水性化し、顔料分散樹脂溶液とすることができる。上記塩基性中和剤としては、ジメチルエタノールアミン及びトリエチルアミン等の3級アミンを挙げることができる。
【0049】
本発明において使用する上記顔料分散樹脂の別の調製方法としては、上記方法3)顔料吸着部位及び片末端に反応性官能基を有する高分子と、バインダーと同じ成分で構成される高分子を反応させる方法も挙げられる。この方法は、水和鎖となる幹高分子及び顔料吸着鎖となる枝高分子をそれぞれ合成し、上記幹高分子に上記枝高分子をグラフト反応により付加する方法である。
【0050】
上記幹高分子は、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の重合性不飽和結合含有酸無水物を必須成分とするラジカル重合性不飽和モノマーのモノマー組成物の重合により得ることができる。上記ラジカル重合性不飽和モノマーとしては、上述したものと同様のものを挙げることができる。これらは2種以上を使用してもよい。なお、この方法によって顔料分散樹脂を得る場合は、上記幹高分子の溶解性パラメータ値が水和鎖の溶解性パラメータ値となる。
【0051】
上記幹高分子を得るための重合方法としては、特に限定されず、溶液重合等の上述した公知の方法により行うことができる。上記重合に使用する開始剤としては、特に限定されず、上述したものを挙げることができる。また、上記重合に使用する有機溶媒としては、ヘプタン、トルエン、キシレン、オクタン、ミネラルスピリット等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のポリエーテル系溶媒を挙げることができる。
【0052】
上記幹高分子の数平均分子量は、3000〜100000であることが好ましく、5000〜20000であることがより好ましい。
【0053】
上記幹高分子は、塗膜形成時における硬化反応の硬化官能基として水酸基を有するものとすることが好ましい。しかし、上記幹高分子の重合反応時には水酸基含有モノマーを使用することはできない。よって、上記ラジカル重合によって得られた樹脂に2以上の水酸基を有するポリオール、水酸基含有アミン化合物等を反応させることによって、上記幹高分子に水酸基を導入することができる。上記水酸基の導入は、1,6−ヘキサンジオールや1,9−ノナンジオール等の両末端に水酸基を有する化合物でも可能であるが、エタノールアミン等の水酸基含有アミンによって行うことが好ましい。この場合、50〜80℃の比較的低温で選択的にアミノ基と酸無水物基を反応させた後、130℃以上の高温で反応を行い、イミド化反応を行うことが好ましい。
【0054】
上記方法によって得られた幹高分子に上記枝高分子を反応させることにより顔料分散樹脂を得ることができる。上記枝高分子は上記幹高分子と比較して疎水性が高く、従って上記幹高分子が水和鎖となり、上記枝高分子が顔料吸着鎖となる。
【0055】
上記枝高分子は、炭素数10以上で酸無水物に対して反応性の官能基末端を有する疎水性高分子を使用することができ、例えば、ステアリルアミン、牛脂アミンなどの長鎖脂肪族アミン、ステアリルアルコール、牛脂アルコールなどの長鎖脂肪族アルコール、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリ(プロピレングリコール−co−エチレングリコール)モノアルキルエーテルなど片末端に水酸基やアミノ基を持つポリエーテル類等を挙げることができる。
【0056】
上記幹高分子に上記枝高分子を付加する方法としては、上記幹高分子、上記枝高分子、反応触媒等を混合して50〜160℃の範囲で反応させるとよい。特にアミノ基を有する疎水性高分子を付加する場合は、130℃以上の高温でイミド化反応させることにより、耐加水分解性を向上させることができる。上記開始剤としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0057】
上記付加反応において、幹高分子と枝高分子との混合比は、幹高分子の分子量および疎水鎖の分子量をそれぞれMx、Myとし、それぞれの質量部をWx、Wyとするとき、0.5<(Wy/My)/(Wx/Mx)<7であることが好ましく、1<(Wy/My)/(Wx/Mx)<2であることがより好ましい。
【0058】
上述の方法より得られる樹脂の幹高分子部分の酸価は、10〜80mgKOH/gであることが好ましい。10mgKOH/g未満であると、充分な硬化性が得られず、塗膜性能が低下するおそれがある。80mgKOH/gを超えると、その幹高分子部分と相溶性のあるバインダー樹脂成分を含む塗料組成物から得られる塗膜は耐水性が著しく低下する結果となるおそれがある。
【0059】
上述の方法により得られる樹脂は、脱溶剤し、塩基性中和剤及び水を添加することにより、中和されて水性化し、顔料分散樹脂液を得ることができる。上記塩基性中和剤としては、ジメチルエタノールアミン及びトリエチルアミン等の3級アミンを挙げることができる。
【0060】
上述した種々の方法により得られる上記顔料分散樹脂の分子量としては、数平均分子量で3000〜100000であることが好ましい。3000未満であると、十分な顔料分散安定効果が得られないおそれがあり、100000を超えると、顔料分散ペーストの粘度が高くなりすぎ、顔料の微分散化が難しくなる、塗料の不揮発分が低下するなどの不具合が生じるおそれがある。上記顔料分散樹脂の分子量は、5000〜20000であることがより好ましい。
【0061】
また、上記顔料分散樹脂の幹高分子部分の水酸基価は、20〜200mgKOH/gであることが好ましい。20mgKOH/g未満であると、充分な硬化性が得られず、塗膜性能が低下するおそれがある。200mgKOH/gを超えると、その幹高分子部分と相溶性のあるバインダー樹脂成分を含む塗料組成物から得られる塗膜は耐水性が著しく低下する結果となる。上記水酸基価は、30〜150mgKOH/gであることがより好ましい。
【0062】
本発明の顔料分散型水性塗料組成物は、更にバインダー樹脂成分を含有するものである。上記バインダー樹脂成分は、上記顔料分散樹脂の水和鎖の溶解性パラメータ値との差が0.2以下である。本発明の塗料組成物は、特定値の上記溶解性パラメータ値の差を有する樹脂成分からなるものであるため、上記顔料分散樹脂とバインダー樹脂成分との相溶性が高く、従来の塗料組成物と比較して塗料の分散安定性や塗膜の発色性に優れる。
【0063】
上記バインダー樹脂成分としては、水溶性又は水分散性塗料用に使用できるもので、上記の溶解性パラメータ値を有するものであれば、特に限定されず、例えば、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、エポキシ基共重合体樹脂、カルボキシル基含有樹脂、アミノ樹脂等の公知のものを使用することができる。なかでも、水酸基含有アクリル樹脂であることが好ましい。
【0064】
上記バインダー樹脂成分は、実質的には上記水和鎖を形成するモノマー組成物と同一又は実質的に同一であるモノマー組成物から得られる樹脂であることが好ましい。このような樹脂とすることによって、所望の溶解性パラメータのものとすることができる。
【0065】
また、上記バインダー樹脂成分の酸価は、10〜80mgKOH/gであることが好ましく、水酸基価は30〜150mgKOH/gであることが好ましい。
【0066】
本発明の顔料分散型水性塗料組成物は、更に顔料を含有することが好ましい。上記顔料としては、一般に塗料組成物に使用されるものであれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。上記顔料としては、例えば、干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料等の光輝性顔料;アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料等の有機着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等の無機着色顔料;沈降性硫酸バリウム等の体質顔料等を挙げることができる。なかでも、有機着色顔料及び無機着色顔料を好適に分散させ、発色性を向上させることができる。
【0067】
本発明の顔料分散型水性塗料組成物は、更に硬化剤を含むことが好ましい。上記硬化剤としては、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。上記硬化剤として使用できるメラミン樹脂の市販品としては、例えば、サイメル327(日本サイテック社製、不揮発分80%)等を挙げることができる。
【0068】
上記ポリイソシアネート化合物としては、2以上のイソシアネート基を有する化合物であれば、特に限定されず、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネート等の脂肪族環式イソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチル等の脂環族イソシアネート、これらのビューレット体、ヌレート体等の多量体及び混合物等を挙げることができる。
【0069】
上記ブロックポリイソシアネートとしては、上記ポリイソシアネート化合物に活性水素を有するブロック剤を付加させることによって得られ、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、上記バインダー樹脂成分や顔料分散樹脂中の官能基等と反応し硬化するものが挙げられる。塗料の貯蔵安定性がより良好である点から、上記ポリイソシアネート化合物よりもブロックポリイソシアネートを使用することが好ましい。
【0070】
上記ブロック剤としては、例えば、ハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、フルフリルアルコール、アルキル基置換フルフリルアルコール、ベンジルアルコールなどの脂肪族、芳香族または複素環式アルコール、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、アセトンオキシム、シクロヘキサンオトキシムなどのオキシム類、その他にカプロラクタム等を挙げることができる。
【0071】
本発明の顔料分散型水性塗料組成物は、必要に応じて、上述した成分以外に、塗料組成物に通常添加される添加剤等の他の成分を含有していてもよい。上記添加剤としては、例えば、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤、粘性制御剤等を挙げることができる。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0072】
上記顔料分散型水性塗料組成物の製造方法は、特に限定されず、上記バインダー樹脂成分、顔料分散樹脂及び顔料等のその他の成分の配合物をニーダー又はロール等を用いて混練、分散する等の当業者に周知の全ての方法を用いることができる。
【0073】
本発明の顔料分散型水性塗料組成物は、例えば、自動車塗装用上塗り塗料や建築用着色塗料等として好適に適用することができる。
【0074】
本発明の顔料分散型水性塗料組成物を用いて塗膜を形成する方法としては、公知の方法により行えばよく、例えば、上記顔料分散型水性塗料組成物を被塗装物に塗装する工程、及び、塗装された塗装物を加熱硬化して塗膜を形成する工程からなる方法を挙げることができる。
【0075】
上記被塗装物としては、特に限定されず、例えば、鋼板、アルミニウム等の金属基材や、モルタル、セメント、プラスチックス、ガラス等のその他の基材を挙げることができる。
上記塗装方法としては、ローラ、ハケ、エアー静電スプレー塗装やメタリックベルと言われる回転霧化式の静電塗装機等の、公知の方法を挙げることができる。上記水性塗料組成物による塗装時の塗膜の膜厚は、所望の用途に応じて適宜設定するとよい。このようにして得られた塗膜は、発色性に優れたものである。
【0076】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また、実施例中「部」、「%」は特に断りのない限り、「質量部」、「質量%」を意味する。
【実施例】
【0077】
アクリル樹脂1の製造
反応容器にジプロピレングリコールメチルエーテル24部及びプロピレングリコールメチルエーテル16部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸エチル23部、メタクリル酸ブチル11部、メタクリル酸2−エトキシエチル41部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル16.5部、メタクリル酸8.5部と、ジプロピレングリコールメチルエーテル10部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。さらに、ジプロピレングリコールメチルエーテル5部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。そのときの溶解性パラメータ値(SP)は11.7であった。脱溶剤装置により、減圧下(70Torr)110℃で溶剤を16部留去した後、脱イオン水204部及びジメチルアミノエタノール8.8部を加えてアクリル樹脂1溶液を得た。その不揮発分は29.6%、固形分酸価55mgKOH/g、水酸基価71mgKOH/gであった。
【0078】
アクリル樹脂2の製造
反応容器にジプロピレングリコールメチルエーテル24部及びプロピレングリコールメチルエーテル16部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸2−エチルヘキシル6部、メタクリル酸ブチル48部、メタクリル酸2−エトキシエチル25部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル16.5部、メタクリル酸8.5部と、ジプロピレングリコールメチルエーテル10部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。さらに、ジプロピレングリコールメチルエーテル5部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。そのときの溶解性パラメータ値(SP)は11.0であった。脱溶剤装置により、減圧下(70Torr)110℃で溶剤を16部留去した後、脱イオン水204部及びジメチルアミノエタノール8.8部を加えてアクリル樹脂2溶液を得た。その不揮発分は29.8%、固形分酸価55mgKOH/g、水酸基価71mgKOH/gであった。
【0079】
アクリル樹脂3の製造
反応容器にジプロピレングリコールメチルエーテル24部及びプロピレングリコールメチルエーテル16部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル11.6部、メタクリル酸6.9部と、ジプロピレングリコールメチルエーテル10部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。さらに、ジプロピレングリコールメチルエーテル5部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。そのときの溶解性パラメータ値(SP)は11.7であった。脱溶剤装置により、減圧下(70Torr)110℃で溶剤を16部留去した後、脱イオン水204部及びジメチルアミノエタノール8.8部を加えてアクリル樹脂3溶液を得た。その不揮発分は30.2%、固形分酸価45mgKOH/g、水酸基価71mgKOH/gであった。
【0080】
アクリル樹脂4の製造
反応容器にジプロピレングリコールメチルエーテル24部及びプロピレングリコールメチルエーテル16部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、アクリル酸エチル35.0部、アクリル酸ブチル10.0部、アクリル酸2−エチルヘキシル6.0部、メタクリル酸エチル17.4部、メタクリル酸ブチル13.1部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル11.6部、メタクリル酸6.9部と、ジプロピレングリコールメチルエーテル10部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。さらに、ジプロピレングリコールメチルエーテル5部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。そのときの溶解性パラメータ値(SP)は11.1であった。脱溶剤装置により、減圧下(70Torr)110℃で溶剤を16部留去した後、脱イオン水204部及びジメチルアミノエタノール8.8部を加えてアクリル樹脂4溶液を得た。その不揮発分は30.1%、固形分酸価45mgKOH/g、水酸基価71mgKOH/gであった。
【0081】
マクロモノマーAの製造
反応容器にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート38部を加え、窒素気流中で撹拌しながら120℃に昇温した。次いで、メタクリル酸ブチル40部、メタクリル酸2−エチルヘキシル60部とチオグリコール酸10部の混合溶液と、ジオキサン5.7部及び4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)3部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。さらに、ジオキサン0.5部及び4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。つぎに、反応溶液にトリエチルアミン0.5部を加えた後、100℃でメタクリル酸グリシジル6部とプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート6部の混合溶液を1時間わたり反応容器に滴下した。4時間その反応温度を保持した後、反応溶液を多量のメタノール/水=9/1の混合溶液へ注ぎ、樹脂分を回収した。収率は85%で、GPCにより求めたポリスチレン換算の数平均分子量は4800であった。
【0082】
顔料分散樹脂A−1の製造
反応容器にメトキシプロパノール50部及びマクロモノマーAを10部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら110℃に昇温した。次いで、メタクリル酸エチル23部、メタクリル酸ブチル11部、メタクリル酸2−エトキシエチル41部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル16.5部、メタクリル酸8.5部と、メトキシプロパノール16部及びアゾビスシアノブチロニトリル1部からなる開始剤溶液とを4時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。さらに、メトキシプロパノール4部及びアゾビスシアノブチロニトリル0.5部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、1.5時間同温度で熟成を行った。脱溶剤装置により、減圧下(70Torr)110℃で溶剤を13部留去した後、脱イオン水200部及びジメチルアミノエタノール8.8部を加えて顔料分散樹脂A溶液を得た。顔料分散樹脂A溶液の不揮発分は30.0%であった。マクロモノマーAとジメチルアミノエタノールを用いない以外は上記と同じ方法で得た樹脂の溶解性パラメータ値(SP)は11.6であった。
【0083】
顔料分散樹脂A−2の製造
反応容器にメトキシプロパノール50部及びマクロモノマーAを10部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら110℃に昇温した。次いで、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸メチル13.1部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル11.6部、メタクリル酸6.9部と、メトキシプロパノール16部及びアゾビスシアノブチロニトリル1部からなる開始剤溶液とを4時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。さらに、メトキシプロパノール4部及びアゾビスシアノブチロニトリル0.5部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、1.5時間同温度で熟成を行った。脱溶剤装置により、減圧下(70Torr)110℃で溶剤を13部留去した後、脱イオン水200部及びジメチルアミノエタノール8.8部を加えて顔料分散樹脂A溶液を得た。顔料分散樹脂A溶液の不揮発分は30.0%であった。マクロモノマーAとジメチルアミノエタノールを用いない以外は上記と同じ方法で得た樹脂の溶解性パラメータ値(SP)は11.7であった。
【0084】
幹高分子1の製造
反応容器にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート82部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら120℃に昇温した。次いで、スチレン7.5部、メタクリル酸エチル23部、メタクリル酸ブチル12.3部、メタクリル酸2−エトキシエチル41部、アクリル酸9.1部、無水マレイン酸7.1部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート20部の混合溶液と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート15部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート2部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。さらに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート5部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.2部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。得られた幹高分子溶液の不揮発分は45.0%、固形分酸価152mgKOH/g、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量は11000であった。また、得られた樹脂溶液100部にエタノールアミンを2部加え、70℃で1時間、140℃で1時間反応させた。得られた樹脂の溶解性パラメータ値(SP)は11.6であった。
【0085】
顔料分散樹脂B−1の製造
反応容器に上述の幹高分子1の溶液を100部(不揮発分45.0%)、ステアリルアミン1.0部とエタノールアミン1.7部を加えて、70℃で1時間、140℃で1時間反応させた。脱溶剤装置により、減圧下(70Torr)で溶剤を35部留去した後、さらに脱イオン水200部を加え、溶剤と水の混合溶液を115部留去した。また、得られた樹脂溶液100部にジメチルアミノエタノール11.2部を加えて顔料分散樹脂B−1溶液を得た。その不揮発分は30.5%であった。
【0086】
幹高分子2の製造
反応容器にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート82部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら120℃に昇温した。次いで、スチレン7.5部、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル65.2部、アクリル酸7.1部、無水マレイン酸7.1部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート20部の混合溶液と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート15部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート2部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。さらに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート5部及びt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.2部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。得られた幹高分子溶液の不揮発分は44.8%、固形分酸価137mgKOH/g、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量は10400であった。また、得られた樹脂溶液100部にエタノールアミンを2部加え、70℃で1時間、140℃で1時間反応させた。得られた樹脂の溶解性パラメータ値(SP)は11.9であった。
【0087】
顔料分散樹脂B−2の製造
反応容器に幹高分子2の溶液を100部(不揮発分45.0%)、ステアリルアルコール1.1部とエタノールアミン1.8部を加えて、70℃で1時間、140℃で1時間反応させた。脱溶剤装置により、減圧下(70Torr)で溶剤を35部留去した後、さらに脱イオン水200部を加え、溶剤と水の混合溶液を115部留去した。及びジメチルアミノエタノール8.8部を加えて顔料分散樹脂B−2溶液を得た。その不揮発分は30.7%であった。
【0088】
実施例1〜4及び比較例1〜4
表1にしたがって配合を行い、ガラスビーズ分散機で7時間分散させ、分散ペースト1〜8を得た。なお、表1に示される塗料の成分組成を示す数値の単位は「質量部」である。ペースト中の顔料の平均粒子径は動的光散乱法(マイクロトラックUPA)により測定した。さらに、アクリル樹脂1ないし4とメラミン(サイメル327)を固形分質量比が7対3となるように調製した塗料に分散ペースト1〜8を加えてそれぞれ顔料分散型水性塗料組成物1〜8を得た。これらの調製した塗料組成物を250mm用のアプリケータでガラス板に塗布し、80℃で5分間加熱した後、さらに140℃で20分間焼付けた後に分光光度計(XriteMA68)にて測色した。
これらの配合および測定結果をまとめて表1に示した。
【0089】
【表1】

【0090】
表1より、実施例の顔料分散型水性塗料組成物により形成された塗膜は、比較例の水性塗料組成物により形成された塗膜と比較して、発色性が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の顔料分散型水性塗料組成物は、着色塗料として好適に適用することができ、発色性に優れた塗膜を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂成分及び顔料分散樹脂からなる水性塗料組成物であって、
前記顔料分散樹脂は、水和鎖及び顔料吸着鎖からなり、
前記バインダー樹脂成分と前記水和鎖の溶解性パラメータ値の差が0.2以下である
ことを特徴とする顔料分散型水性塗料組成物。
【請求項2】
バインダー樹脂成分を構成するモノマー組成と、水和鎖を構成するモノマー組成とが同一又は実質的に同一である請求項1記載の顔料分散型水性塗料組成物。
【請求項3】
顔料分散樹脂は、水和鎖が主鎖、顔料分散鎖が側鎖である櫛形構造を有するものである請求項1又は2記載の顔料分散型水性塗料組成物。

【公開番号】特開2007−270045(P2007−270045A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99869(P2006−99869)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発 革新的水性塗料の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】