説明

顔料組成物、顔料分散物、着色組成物、インク、インクジェット記録用インク、インクジェット記録用カートリッジ、インクジェット記録方法及び記録物

【課題】分散性及び分散安定性に優れる顔料組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と、特定の構造を有する化合物の少なくとも1つを含有する顔料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料組成物、顔料分散物、着色組成物、インク、インクジェット記録用インク、インクジェット記録用カートリッジ、インクジェット記録方法及び記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像記録材料としては、特にカラー画像を形成するための材料が主流であり、具体的には、インクジェット方式の記録材料、感熱転写方式の記録材料、電子写真方式の記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インキ、記録ペン等が盛んに利用されている。また、撮影機器ではCCDなどの撮像素子において、ディスプレーではLCDやPDPにおいてカラー画像を記録・再現するためにカラーフィルターが使用されている。これらのカラー画像記録材料やカラーフィルターでは、フルカラー画像を表示あるいは記録する為に、いわゆる加法混色法や減法混色法の3原色の色素(染料や顔料)が使用されているが、好ましい色再現域を実現できる吸収特性を有し、且つさまざまな使用条件、環境条件に耐えうる堅牢な色素がないのが実情であり、改善が強く望まれている。
【0003】
上記の各用途で使用する色素のうち染料や顔料には、共通して次のような性質を具備している必要がある。即ち、色再現性上好ましい吸収特性を有すること、使用される環境条件下における堅牢性、例えば耐光性、耐熱性、オゾンなどの酸化性ガスに対する耐性が良好であること、等が挙げられる。加えて、色素が顔料の場合にはさらに、水や有機溶剤に実質的に不溶であり耐薬品堅牢性が良好であること、および、粒子として使用しても分子分散状態における好ましい吸収特性を損なわないこと、等の性質をも具備している必要がある。上記要求特性は分子間相互作用の強弱でコントロールすることができるが、両者はトレードオフの関係となるため両立させるのが困難である。
また、顔料を使用するにあたっては、他にも、所望の透明性を発現させるために必要な粒子径および粒子形を有すること、使用される環境条件下における堅牢性、例えば耐光性、耐熱性、オゾンなどの酸化性ガスに対する耐性、その他有機溶剤や亜硫酸ガスなどへの耐薬品堅牢性が良好であること、使用される媒体中において微小粒子まで分散し、かつ、その分散状態が安定であること、等の性質も必要となる。
【0004】
すなわち、顔料に対する要求性能は色素分子としての性能を要求される染料に比べて、多岐にわたり、色素分子としての性能だけでなく、色素分子の集合体としての固体(微粒子分散物)としての上記要求性能を全て満足する必要がある。結果として、顔料として使用できる化合物群は染料に比べて極めて限定されたものとなっており、高性能な染料を顔料に誘導したとしても微粒子分散物としての要求性能を満足できるものは数少なく、容易に開発できるものではない。これは、カラーインデックスに登録されている顔料の数が染料の数の1/10にも満たないことからも確認される。
【0005】
特にアゾ顔料は、明度が高く、耐光性、耐熱性にも優れているため、印刷インキ、インクジェット用インク、電子写真材料、カラーフィルター用顔料として広く使用されている。そして用途の拡大に伴い、顔料も印刷インキ、グラビアインキ、着色剤で通常使用されているレベルよりさらに優れた使用媒体における分散性や分散安定性が求められるようになってなっており、より優れた性質を有する新規顔料の出現が期待されている。
【0006】
各種インク組成物中において用いられている顔料の着色力、鮮明性は顔料粒子の性状と密接な関係にある。通常、顔料粒子は一次粒子の凝集体を形成しており、一次粒子が微細であるほど顔料の着色力は高くなり、かつ鮮明性も高くなることが知られている。従って、顔料の着色力、鮮明性を向上させるには一次粒子の凝集状態をより微細な粒子状態にする必要がある。一方、顔料粒子は微細化するに従い粒子間での凝集が起こり易くなる。この為、顔料粒子を微細化した状態でビヒクル中に安定に分散させる必要がある。各種印刷インクは、固体である顔料粉末を液体であるビヒクル中に微細かつ安定に懸濁させたものである。その分散プロセスは本質的に、濡れ、微細化、安定化という三段階の過程を含むものである。しかしながら、実際の分散系では各過程が並行して起こっており、これらの過程を厳密に分けることは困難である場合が多い。
【0007】
顔料粒子と分散過程に関しては上記のことが知られているが、顔料の微細な粒子を非水性ビヒクル中に懸濁させて安定な分散体を調製することは困難であることが多い。従って、顔料の非水性ビヒクルへの分散安定性の良否は、オフセットインキ、グラビアインキなどの印刷インキや塗料などの製造過程及び製品の品質に対して重大な影響を及ぼし、場合により種々の問題を引き起こすことが知られている。
【0008】
顔料の微細粒子を含む分散物は往々にして結晶化により顔料の凝集を示し、その結果、ヘイズ値が大きくなり顔料本来の鮮やかさを失ってしまう。また、異なった化学構造の顔料を混合状態で使用する場合には、顔料粒子の凝集に起因する色分かれと呼ばれる現象や沈降を生じ、展色塗膜の表面における光沢低下やレベリング不良等の状態不良を引き起こすことがある。更に、インク及び塗料における顔料の分散安定性が低い場合には、顔料粒子の非水性ビヒクル中におけるエネルギー的不安定性により、顔料結晶の状態変化が起こることがある。すなわち、顔料結晶がその集合状態を変化させてより安定な状態へ移行することにより、色相の変化、着色力及び鮮明性の低下、凝集粒子の生成等の現象が引き起こされる為に製品の質が変化し、商品価値を著しく損なうことがある。
【0009】
以上のように、顔料を分散状態で使用する分野では分散に伴う種々の問題の発生が想定され、この為に様々な種類の添加剤が開発されている。このような添加剤としては、分散させる顔料の骨格あるいはそれに類似の化学構造を有する誘導体の使用が効果的であることが知られている。これまでに、顔料構造と類似な骨格を持つ極性部位を持たない誘導体、酸性基あるいは塩基性基等の特定の官能基を顔料骨格に導入した顔料誘導体、これらの官能基をアクリル樹脂、ポリエステル樹脂等に導入した樹脂型顔料分散剤、樹脂の一部に顔料骨格を導入した樹脂型顔料誘導体などが開発されている。これらの分散剤及び添加剤は単独あるいは併用として用いられており、何れの使用法によっても効果が発現する。
【0010】
顔料としての骨格に酸性基を導入した誘導体としては、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、アゾ顔料、アントラキノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、イソインドリノン顔料等に酸性基であるスルホン酸基、カルボキシル基を導入した構造の誘導体が開示されている。これらの顔料誘導体は、分散剤、結晶成長抑制剤あるいは防止剤として広く用いられている。更に、このような技術は近年においては、カラーフィルター用のインクとしても広範囲に展開されている。
【0011】
特許文献1には、インクジェットインク及びフィルター用着色剤として、C.I.Pigment Yellow74と特定のモノアゾイエロー顔料とを含む顔料組成物が用いられることが記載されているが、使用される環境条件下における堅牢性、例えばオゾンなどの酸化性ガスに対する耐性、その他有機溶剤や亜硫酸ガスなどへの耐薬品堅牢性に対する更なる改良が求められている。
また、特許文献2には、2種の特定構造のジケトピロロピロール構造の顔料組成物が自動車の塗料やポリオレフィンの着色に用いられることの記載があるがインクジェットインク及びフィルター用着色剤に使用することの記載はない。
【特許文献1】特表2007−527458号公報
【特許文献2】特開平9−025428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、色相及び色濃度に優れ、かつ、分散性および分散安定性に優れたアゾ顔料組成物、着色組成物及びインクジェット記録用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記の手段によって解決された。
〔1〕
下記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と、A群から選ばれる化合物の少なくとも1つを含有する顔料組成物。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
(A群における一般式(a)〜(f)中、R1、R3、R7、及びR10はそれぞれ独立に、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボキシル基、又はシアノ基、水素原子を表し、
2、R4はそれぞれ独立にアミノ基、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、水素原子、水酸基、‐N=N-OCH3、‐N=N‐CH=C(OH)‐CH3、を表し、
5,R6、R8、R9、R11、R12、R13、及びR14はそれぞれ独立に、アミノ基、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、又は水酸基を表す。
15、R16はそれぞれ独立に、下記の基(g)又は(h)を表し、*は結合位置を表す。
【0017】
【化3】

【0018】
17、R18はそれぞれ独立に、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボキシル基、シアノ基、水素原子を表す。)
〔2〕
前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を30質量%未満含有する〔1〕に記載の顔料組成物。
〔3〕
前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を20質量%未満含有する〔1〕又は〔2〕に記載の顔料組成物。
〔4〕
前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を10質量%未満含有する〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の顔料組成物。
〔5〕
前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を0.2質量%以上5質量%未満含有する〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の顔料組成物。
〔6〕
前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を0.5質量%以上2質量%未満含有する〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の顔料組成物。
〔7〕
〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の顔料組成物を含有する顔料分散物。
〔8〕
〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の顔料組成物を含有する着色組成物。
〔9〕
〔7〕に記載の顔料分散物又は〔8〕に記載の着色組成物を含有するインク。
〔10〕
請求項7に記載の顔料分散物、〔8〕に記載の着色組成物又は〔9〕に記載のインクを含有するインクジェット記録用インク。
〔11〕
〔10〕に記載のインクジェット記録用インクを含有するインクジェット記録用カートリッジ。
〔12〕
10〕に記載のインクジェット記録用インクを用いるインクジェット記録方法。
〔13〕
10〕に記載のインクジェット記録用インクを用いることで得られる記録物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、式(1)で表される特定の構造のアゾ顔料について、色相及び色濃度に優れ、かつ、水系分散した際の分散性および得られた分散液の分散安定性に優れる顔料組成物、顔料分散物、着色組成物、インク、インクジェット記録用インク、インクジェット記録用カートリッジ、インクジェット記録方法及び記録物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の顔料組成物は下記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と、A群から選ばれる化合物の少なくとも1つ(以下「A群の化合物」を称する場合がある)を含有する。
【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
(A群における一般式(a)〜(f)中、R1、R3、R7、及びR10はそれぞれ独立に、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボキシル基、又はシアノ基、水素原子を表し、
2、R4はそれぞれ独立にアミノ基、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、水素原子、水酸基、‐N=N-OCH3、‐N=N‐CH=C(OH)‐CH3、を表し、
5,R6、R8、R9、R11、R12、R13、及びR14はそれぞれ独立に、アミノ基、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、又は水酸基を表す。
15、R16はそれぞれ独立に、下記の基(g)又は(h)を表し、*は結合位置を表す。
【0024】
【化6】

【0025】
(R17、R18はそれぞれ独立に、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボキシル基、シアノ基、又は水素原子を表す。)
【0026】
1、R3、R7、及びR10はそれぞれ独立に、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボキシル基、シアノ基、又は水素原子を表す。
1として好ましくは、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルボキシル基であり、特に好ましくはメチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基である。
3として好ましくは、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルボキシル基であり、特に好ましくはメチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基である。
7として好ましくは、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルボキシル基であり、特に好ましくはメチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基である。
10として好ましくは、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルボキシル基であり、特に好ましくはメチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基である。
【0027】
2、R4はそれぞれ独立にアミノ基、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、水素原子、水酸基、‐N=N-OCH3、又は‐N=N‐CH=C(OH)‐CH3、を表す。
2として好ましくは、アミノ基、アセチルアミノ基、‐N=N‐CH=C(OH)‐CH3であり、特に好ましくはアミノ基である。
4として好ましくは、アミノ基、アセチルアミノ基、‐N=N‐CH=C(OH)‐CH3であり、特に好ましくはアミノ基である。
【0028】
5、R6、R8、R9、R11、R12、R13、及びR14はそれぞれ独立に、アミノ基、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、又は水酸基を表す。
5、及びR6として好ましくは、それぞれ独立にアミノ基、アセチルアミノ基、水酸基であり、より好ましくはアミノ基、アセチルアミノ基であり、特に好ましくはR5、及びR6がいずれもアミノ基の場合である。R5、及びR6がアミノ基、アセチルアミノ基の場合は分散安定性の点で好ましく、R5、及びR6がいずれもアミノ基の場合は分散安定性の点及び製造特性の点で好ましい。
8、及びR9として好ましくは、それぞれ独立にアミノ基、アセチルアミノ基、水酸基であり、より好ましくは
アミノ基、アセチルアミノ基、であり、特に好ましくはR8、及びR9がいずれもアミノ基の場合である。R8、及びR9がアミノ基、アセチルアミノ基の場合は分散安定性及び濃度の点で好ましく、R8、及びR9がいずれもアミノ基の場合は分散安定性、濃度の点及び製造特性の点で好ましい。
11、及びR12として好ましくは、それぞれ独立にアミノ基、アセチルアミノ基、水酸基であり、より好ましくはアミノ基、アセチルアミノ基、であり、特に好ましくはR11、及びR12がいずれもアミノ基の場合である。R11、及びR12がアミノ基、アセチルアミノ基の場合は分散安定性及び濃度の点で好ましく、R11、及びR12がいずれもアミノ基の場合は分散安定性、濃度の点及び製造特性の点で好ましい。
13、及びR14として好ましくは、それぞれ独立にアミノ基、アセチルアミノ基、水酸基であり、より好ましくはアミノ基、アセチルアミノ基であり、特に好ましくはR13、及びR14がいずれもアミノ基の場合である。R13、及びR14がアミノ基、アセチルアミノ基の場合は色相、濃度、分散安定性の点で好ましく、がいずれもアミノ基の場合は色相、濃度、分散安定性の点及び製造特性の点で好ましい。
【0029】
17、R18はそれぞれ独立に、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボキシル基、シアノ基、又は水素原子を表す。
17、及びR18として好ましくは、それぞれ独立にメチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルボキシル基であり、より好ましくはメチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基である。R15、及びR16がそれぞれ独立にメチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基の場合は色相、濃度、分散安定性の点で好ましい。
ただし、R13、R14がアミノ基、かつR15、R16が(g)であり、かつR17がメチルオキシカルボニル基である場合は除く。
【0030】
本発明における顔料組成物により、色相及び色濃度等の色彩的特性、分散性および分散安定性に優れる分散組成物、顔料分散物、着色組成物、インク、インクジェット記録用インク、インクジェット記録用カートリッジ、インクジェット記録方法及び記録物が得られる。
【0031】
本発明の顔料組成物は式(1)で表される化合物と構造が類似した構造又は部分構造を含む一般式(a)〜(f)で表される化合物の少なくとも1つが共存することに特徴がある。
本発明で得られる分散性および分散安定性が優れる効果が発現する理由は定かではないが、式(1)で表される化合物と一般式(a)〜(f)で表される化合物の少なくとも1つが共存することによって、分子が配列する際に影響を与え、望ましい特定の結晶構造の形成を促進したり、望ましくない特定の結晶構造の形成を阻害したりすることに寄与していると考えられる。これが得られた顔料組成物の分散性および分散安定性の違いとして現れたものと考えられる。
【0032】
この場合、構造が全く異なる化合物の組み合わせでは、独立して互いに影響を及ぼさないことも考えられるので、構造が類似した化合物を組み合わせることが好ましいと考えられる。また、官能基を変えることで分子間および分子間相互作用の寄与および寄与率が変わることから、特定の官能基が異なる化合物を組み合わせることも好ましいと考えられる。
【0033】
また、と一般式(a)〜(f)で表される化合物の少なくとも1つが粒子の表面に存在し、分散剤や分散媒体と相互作用がより大きな官能基を有する場合には、式(1)で表される化合物が粒子表面に存在する場合よりもこれらとの相互作用が強くなることが考えられる。これが顔料組成物の分散性および分散安定性の違いとして現れたものと考えられる。
この場合、構造が全く異なる化合物を用いると、式(1)で表される化合物と一般式(a)〜(f)で表される化合物の分子間相互作用が低くなり粒子表面から剥がれてしまって効果を発揮しないことも考えられるので、構造が類似した化合物を組み合わせることが好ましいと考えられる。
【0034】
さらに、一般式(a)〜(f)で表される化合物は分散剤や分散媒体と強く相互作用する官能基を有することが好ましいと考えられ、特定の官能基の違いによって静電的効果や立体効果に基づく影響を調節することが好ましいと考えられる。
一方で、一般式(a)〜(f)で表される化合物が分散中に溶解または式(1)で表される化合物から分離してしまうことで、目的とする効果が得られない問題が生じることもある。この場合、分散媒体への溶解を抑制するために分子量を大きくすることや分散媒体との親和性を下げること(例えば、分散媒体が水系の場合には疎水性を向上させるなど)や、式(1)で表される化合物と類似の構造とすることで分子間相互作用を向上させる手段によってこの問題を解決できると考えられる。
これらの理由から、式(1)で表される化合物と一般式(a)〜(f)で表される化合物は構造が類似していることが望ましく、式(1)で表される化合物における部分構造であることが望ましい。
【0035】
上記の観点より、一般式(a)〜(f)で表される化合物を顔料組成物中に1〜10つ含有されることが好ましく、1〜7つ含有することがより好ましい。
【0036】
一般式(a)〜(f)で表される化合物として、式(1)で表される化合物と構造が類似した化合物、式(1)で表される化合物の部分構造と類似した化合物又は式(1)で表される化合物の部分構造を含む化合物を含有することが好ましい。式(1)で表される化合物と構造が類似した化合物、及び式(1)で表される化合物の部分構造を含む化合物を含有することがさらに好ましい。
【0037】
本発明における顔料組成物は、前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を30質量%未満含有することが好ましく、20質量%未満含有することがより好ましく、10質量%未満含有することがさらに好ましい。また、0.2質量%以上含有することが好ましく、0.5質量%以上含有することがより好まし。この範囲であれば、分散安定性により優れた顔料組成物とすることができる。
そして、0.5質量%以上5質量%未満含有することがよりさらに好ましく、顔料組成物の色相、色濃度、分散性、及び分散安定性の全てにおいて特に優れた顔料組成物とすることができる。さらに、0.5質量%以上2質量%未満含有することが特に好ましい。
【0038】
一般式(a)〜(f)で表される化合物は、別途合成したものを添加してもよいし、式(1)で表される化合物の製造中に生じたものを残存させてもよい。製造中に生じたものを残存させる方法では、精製条件によってはぶれが生じるため、分散前に添加することが好ましい。この場合、反応および精製条件の工夫によって一般式(a)〜(f)で表される化合物の存在比率を任意の範囲に調整することができる。
【0039】
例えば、式(1)で表される化合物と下記に示す例示化合物(32)の混合物の比率は、それぞれの化合物の溶媒に対する溶解度の差を利用した精製をおこなうことで調節できる。すなわち、後に詳述する反応で得られた粗生成物をアセトンを用いて精製する際に、アセトンの使用量が多いほど、また精製工程の温度が高いほど、例示化合物(32)の存在比率を低下させることができる。また溶媒の種類によっても溶解度の差が異なるために、N,N−ジメチルアセトアミド−水1:1混合液を用いた場合には、同体積のアセトンを用いた場合よりも例示化合物(32)の存在比率を高くすることができる。また、例示化合物(32)を原料として式(1)で表される化合物を合成する場合に、例示化合物(32)の使用量を過剰にすることで粗生成物中の例示化合物(32)の存在比率を高くすることができる。
【0040】
本発明において、式(1)で表される化合物と一般式(a)〜(h)で表される化合物は、均一に混合して均質な効果を発現できる観点から一般式(a)〜(f)で表される化合物の使用量は合成条件あるいは精製条件で制御することが好ましい。また、一般式(a)〜(f)で表される化合物の使用量の制御が容易な点から一般式(a)〜(f)で表される化合物は分散前に添加することがより好ましい。
【0041】
以下にA群の一般式(a)〜(f)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。なお、具体例中のAcはアセチル基を表す。
【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
【化13】

【0049】
【化14】

【0050】
【化15】

【0051】
式(1)、一般式(a)〜(f)で表される化合物は、構造とその置かれた環境によって互変異性体を取り得る。本明細書においては代表的な形の一つで記述しているが、本明細書の記述と異なる互変異性体も前記化合物に含まれる。
式(1)、一般式(a)〜(f)で表される化合物は、構造とその置かれた環境によって、適切な対イオンを伴ってカチオンあるいはアニオンになり得る。本明細書においては代表的な対イオンとして対カチオンに水素イオンあるいは対アニオンに水酸化物イオンを用いて記述しているが、これら以外の対イオンを有する場合も前記化合物に含まれる。対イオンは1種類であってもよいし任意の比率からなる複数の種類からなってもよい。
また、式(1)、一般式(a)〜(f)で表される化合物は、二重結合に関する幾何異性体が存在する。本明細書において1種の幾何異性体のみが記載されている場合であっても、その他の幾何異性体についても前記化合物に含まれる。また、幾何異性体混合物となっている場合でも、その代表的な構造のみが本明細書に記載されている。幾何異性体混合物である場合には、その存在比率は0:1〜1:0の間の任意の比率であってよい。
式(1)、一般式(A)、及び一般式(B)で表される化合物は、同位元素(例えば、2H、3H、13C、15N、17O、18Oなど)を含有していてもよい。
【0052】
以下に、式(1)で表される化合物の合成に関して説明する。
【0053】
式(1)で表される化合物は、下記の製造方法により合成することができる。製造方法は例示化合物(57)のヘテロ環アミンから誘導したジアゾニウム塩と、例示化合物(32)とをアゾカップリング反応させる工程を含む。
ジアゾニウム塩の調製及びジアゾニウム塩と例示化合物(32)とのカップリング反応は、慣用法によって実施できる。
【0054】
【化16】

【0055】
例示化合物(32)のヘテロ環アミンのジアゾニウム塩調製は、例えば酸(例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等)含有反応媒質中で、ニトロソニウムイオン源、例えば亜硝酸、亜硝酸塩又はニトロシル硫酸を用いる慣用のジアゾニウム塩調製方法が適用できる。
【0056】
より好ましい酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、メタンスルホン酸、リン酸、硫酸を単独又は併用して用いる場合が挙げられ、その中でリン酸、又は酢酸と硫酸の併用系、酢酸とプロピオン酸の併用系、酢酸とプロピオン酸と硫酸の併用系がさらに好ましく、酢酸とプロピオン酸の併用系、酢酸とプロピオン酸と硫酸の併用系が特に好ましい。
【0057】
反応媒質(溶媒)の好ましい例としては、有機酸、無機酸を用いることが好ましく、特にリン酸、硫酸、酢酸、プロピオン酸、メタンスルホン酸が好ましく、その中でも酢酸及び又はプロピオン酸が好ましい。
【0058】
好ましいニトロソニウムイオン源の例としては、上記の好ましい酸含有含有反応媒質中でニトロシル硫酸を用いることが安定に且つ効率的にジアゾニウム塩を調製できる。
【0059】
例示化合物(57)のジアゾ成分に対する溶媒の使用量は、0.5〜50質量倍が好ましく、より好ましくは1〜20質量倍であり、特に3〜15質量倍が好ましい。
【0060】
本発明において、例示化合物(32)のジアゾ成分は溶媒に分散している状態であっても、ジアゾ成分の種類によっては溶解液の状態になっていてもどちらでも良い。
【0061】
ニトロソニウムイオン源の使用量はジアゾ成分に対して0.95〜5.0当量が好ましく、より好ましくは1.00〜3.00当量であり、特に1.00〜1.10当量であることが好ましい。
【0062】
反応温度は、−15℃〜30℃が好ましく、より好ましくは−10℃〜10℃であり、更に好ましくは−5℃〜5℃である。−10℃未満では反応速度が顕著に遅くなり合成に要する時間が著しく長くなるため経済的でなく、また30℃を超える高温で合成する場合には、副生成物の生成量が増加するため好ましくない。
【0063】
反応時間は、30分から300分が好ましく、より好ましくは30分から200分であり、更に好ましくは30分から150分である。
【0064】
〔カップリング反応工程〕
カップリング反応する工程は、酸性反応媒質中〜塩基性反応媒質中で実施することができるが、アゾ顔料合成時のカップリング反応は酸性〜中性反応媒質中で実施することが好ましく、特に酸性反応媒質中で実施することがジアゾニウム塩の分解を抑制し効率良くアゾ顔料に誘導することができる。
【0065】
反応媒質(溶媒)の好ましい例としては、有機酸、無機酸、有機溶媒を用いることができるが、特に有機溶媒が好ましく、反応時に液体分離現象を起こさず、溶媒と均一な溶液を呈する溶媒が好ましい。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブチルアルコール、アミルアルコール等のアルコール性有機溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系有機溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール等のジオール系有機溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系有機溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル等が挙げられる、これらの溶媒は2種類以上の混合液であってもよい。
【0066】
好ましくは、極性パラメータ(ET)の値が40以上の有機溶媒である。なかでも溶媒分子中に水酸基を2個以上有するグリコール系の溶媒、あるいは炭素原子数が3個以下のアルコール系溶媒、好ましくは炭素原子数が2以下のアルコール溶媒(例えば、メタノール、エチレングリコール)が好ましい。またこれらの混合溶媒も含まれる。
【0067】
溶媒の使用量は例示化合物(32)で表されるカップリング成分の1〜100質量倍が好ましく、より好ましくは1〜50質量倍であり、更に好ましくは2〜30質量倍である。
【0068】
本発明において、例示化合物(32)のカップリング成分は溶媒に分散している状態であっても、カップリング成分の種類によっては溶解液の状態になっていてもどちらでも良い。
【0069】
カップリング成分の使用量は、アゾカップリング部位あたり、ジアゾ成分が0.95〜5.0当量が好ましく、より好ましくは1.00〜3.00当量であり、特に1.00〜1.50当量であることが好ましい。
【0070】
反応温度は、−30℃〜30℃が好ましく、より好ましくは−15℃〜10℃であり、更に好ましくは−10℃〜5℃である。−30℃未満では反応速度が顕著に遅くなり合成に要する時間が著しく長くなるため経済的でなく、また30℃を超える高温で合成する場合には、副生成物の生成量が増加するため好ましくない。
【0071】
反応時間は、30分から300分が好ましく、より好ましくは30分から200分であり、更に好ましくは30分から150分である。
【0072】
前記化合物(アゾ顔料)の合成方法においては、これらの反応によって得られる生成物(粗アゾ顔料)は通常の有機合成反応の後処理方法に従って処理した後、精製してあるいは精製せずに供することができる。
【0073】
すなわち、例えば、反応系から遊離したものを精製せずに、あるいは再結晶、造塩等にて精製する操作を単独、あるいは組み合わせて行ない、供することができる。
【0074】
また、反応終了後、反応溶媒を留去して、あるいは留去せずに水、又は氷にあけ、中和してあるいは中和せずに、遊離したものをあるいは有機溶媒/水溶液にて抽出したものを、精製せずにあるいは再結晶、晶析、造塩等にて精製する操作を単独に又は組み合わせて行なった後、供することもできる。
【0075】
更に詳細に前記化合物(アゾ顔料)の合成方法について説明する。
【0076】
上記例示化合物(57)で表されるヘテロ環アミンのジアゾニウム化反応は例えば、硫酸、リン酸、酢酸などの酸性溶媒中、亜硝酸ナトリウム、ニトロシル硫酸等の試薬と15℃以下の温度で10分〜6時間程度反応させることで行うことができる。カップリング反応は、上述の方法で得られたジアゾニウム塩と上記例示化合物(32)で表される化合物とを40℃以下、好ましくは15℃以下で10分〜12時間程度反応させることで行うことが好ましい。
【0077】
上述した互変異性の制御は、カップリング反応の際の製造条件で制御することができる。より好ましい形態である前記化合物を製造する方法としては、例えば、上記例示化合物(32)で表される化合物を有機溶媒に一度溶解させた後カップリング反応を行う本発明の方法を用いるのが好ましい。このとき使用できる有機溶媒としては、例えば、アルコール溶媒が挙げられる。アルコール溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が好ましく、その中でもメタノールが特に好ましい。
【0078】
別のアゾ顔料の製造方法は、前記例示化合物(57)で表されるヘテロ環アミンをジアゾニウム化したジアゾニウム化合物と、前記例示化合物(32)で表される化合物とのカップリング反応において、極性非プロトン性溶媒の存在下カップリング反応を行うことを特徴とする。
【0079】
極性非プロトン性溶媒の存在下カップリング反応を行う方法によっても、前記化合物を効率よく製造することができる。極性非プロトン性溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、およびこれらの混合溶媒等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、アセトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリルが特に好ましい。これらの溶媒を用いる場合、上記例示化合物(32)の化合物は溶媒に完溶していても完溶していなくてもよい。
【0080】
上記の製造方法によって、上記式(1)で表される化合物は粗アゾ顔料(クルード)として得られる。
【0081】
〔後処理工程〕
製造方法においては、後処理を行う工程を含むことが好ましい。この後処理工程の方法としては、例えば、ソルベントソルトミリング、ソルトミリング、ドライミリング、ソルベントミリング、アシッドペースティング等の磨砕処理、溶媒加熱処理などによる顔料粒子制御工程、樹脂、界面活性剤および分散剤等による表面処理工程が挙げられる。
【0082】
式(1)で表される化合物は後処理工程として溶媒加熱処理および/又はソルベントソルトミリングを行うことが好ましい。
溶媒加熱処理に使用される溶媒としては、例えば、水、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル等の極性非プロトン性有機溶媒、氷酢酸、ピリジン、又はこれらの混合物等が挙げられる。上記で挙げた溶媒に、さらに無機又は有機の酸又は塩基を加えても良い。溶媒加熱処理の温度は所望する顔料の一次粒子径の大きさによって異なるが、40〜150℃が好ましく、60〜100℃がさらに好ましい。また、処理時間は、30分〜24時間が好ましい。
ソルベントソルトミリングとしては、例えば、粗アゾ顔料と、無機塩と、それを溶解しない有機溶剤とを混練機に仕込み、その中で混練磨砕を行うことが挙げられる。上記無機塩としては、水溶性無機塩が好適に使用でき、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を用いることが好ましい。また、平均粒子径0.5〜50μmの無機塩を用いることがより好ましい。当該無機塩の使用量は、粗アゾ顔料に対して3〜20質量倍とするのが好ましく、5〜15質量倍とするのがより好ましい。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好適に使用でき、混練時の温度上昇により溶剤が蒸発し易い状態になるため、安全性の点から高沸点溶剤が好ましい。このような有機溶剤としては、例えばジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングルコール、液体ポリプロピレングリコール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2ー(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール又はこれらの混合物が挙げられる。当該水溶性有機溶剤の使用量は、粗アゾ顔料に対して0.1〜5質量倍が好ましい。混練温度は、20〜130℃が好ましく、40〜110℃が特に好ましい。混練機としては、例えばニーダーやミックスマーラー等が使用できる。
【0083】
一般式(a)で表される化合物は、慣用方によって合成でき、例えば米国特許第3336285号記載の方法によって得ることができる。
【0084】
以下の合成方法において、式中のR〜R16は前記A群におけるR〜R16と同義である。
一般式(b)で表される化合物の合成方法について説明する。
一般式(b)で表される化合物は、例えば以下の方法で合成できる。
【0085】
【化17】

【0086】
式中R23、R24、R25は脱離基を表し、例えば、メチルオキシ基が挙げられる。
【0087】
一般式(b)−1と一般式(b)−2の縮合は酸性〜塩基性の条件下で行うことができる。用いることのできる酸としては、無機酸(例えば塩酸、硫酸、硝酸等)、ルイス酸(例えば塩化亜鉛、四塩化チタン、等)、有機酸(例えば酢酸、プロピオン酸等)。
用いることのできる塩基としては、無機塩基(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等)、有機塩基(例えばトリエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、DBU、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等)が挙げられる。
【0088】
一般式(b’)は、一般式(b)−3とメチルヒドラジンとの縮合により得ることができる。また、一般式(b)−3とヒドラジンとの縮合の後、一般式(b’)メチル化剤(例えばヨウ化メチル、p−トルエンスルホン酸メチルエステル、ジメチル硫酸、ジアゾメタン等)と反応させることで、一般式(b)を得ることができる。
【0089】
一般式(c)で表される化合物の合成方法について説明する。
一般式(c)で表される化合物は、例えば以下の方法で合成できる。
【0090】
【化18】

【0091】
一般式(c)−2は(c)−1とヒドラジンの反応により得ることができる。
一般式(c)−1とヒドラジンの反応は、無溶媒であっても、溶媒があっても良い。溶媒を用いる場合、メタノールやエタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、水を用いることができる。さらに、塩基を用いても良い。用いることのできる塩基としては、無機塩基(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等)、有機塩基(例えばトリエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、DBU、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等)が挙げられる。
【0092】
一般式(c)は、一般式(c)−2とピバロイルアセトニトリルまたは4,4−ジメチルー3−オキソペンタン酸メチルとを縮合させることにより合成できる。縮合反応は、中性〜酸性条件下で行うことができる。用いることのできる酸としては、無機酸(例えば塩酸、硫酸、硝酸等)、ルイス酸(例えば塩化亜鉛、四塩化チタン、等)、有機酸(例えば酢酸、プロピオン酸等)を用いることができる。
例えば、化合物(32)をさらに、酸無水物(例えば無水酢酸、無水プロピオン酸等)や、酸塩化物(例えば、塩化アセチル等)、強酸(例えば硫酸、塩酸等)中で有機酸(例えば酢酸、プロピオン酸等)と反応させることで、例えば、化合物(24)、(25)、(27)、(29)等を合成できる。
【0093】
一般式(d)で表される化合物の合成方法について説明する。
一般式(d)で表される化合物は、例えば以下の方法で合成できる。
【0094】
【化19】

【0095】
一般式(c)中のR5、R6はそれぞれ一般式(d)中のR8、R9に対応する。
【0096】
一般式(a’)中のR1は一般式(d)中のR7と同義であり、好ましい組み合わせも同じである。
【0097】
一般式(d)で表される化合物は、一般式(a’)で表されるヘテロ環アミンから誘導したジアゾニウム塩と、一般式(c)で表される化合物とをアゾカップリング反応させることにより合成できる。
ジアゾニウム塩の調製及びジアゾニウム塩と一般式(c)で表される化合物とのカップリング反応は、慣用法によって実施できる。
【0098】
一般式(e)で表される化合物の合成方法について説明する。
【0099】
【化20】

【0100】
一般式(c)中のR5、R6はそれぞれ一般式(e)中のR11、R12に対応する。一般式(b‘)中のR3は一般式(d)中のR10に対応する。
【0101】
一般式(1)で表される化合物は式(b’)で表されるヘテロ環アミンから誘導したジアゾニウム塩と、一般式(c)で表される化合物とをアゾカップリング反応させることにより合成できる。
ジアゾニウム塩の調製及びジアゾニウム塩と一般式(c)で表される化合物とのカップリング反応は、慣用法によって実施できる。
【0102】
一般式(f)で表される化合物の合成方法について説明する。
一般式(f)中、R15とR16が同じ場合、例えば以下の方法により合成できる。
【0103】
【化21】

【0104】
一般式(c)中、R5、R6はそれぞれ一般式(f)中のR11、R12に対応する。
【0105】
一般式(f)で表される化合物はは式(a’)または一般式(b’)で表されるヘテロ環アミンから誘導したジアゾニウム塩と、一般式(c)で表される化合物とをアゾカップリング反応させることにより合成できる。
【0106】
15とR16が異なる場合、例えば以下の方法によって合成しても良いし、上記の方法によって合成しても良い。
【0107】
【化22】

【0108】
一般式(f)−1で表される化合物は一般式(a’)または一般式(b’)で表されるヘテロ環アミンから誘導したジアゾニウム塩と、式(c)で表される化合物とをアゾカップリング反応させることにより合成できる。
【0109】
一般式(f)で表される化合物は一般式(a’)または一般式(b’)で表されるヘテロ環アミンから誘導したジアゾニウム塩と、一般式(f)−1で表される化合物とをアゾカップリング反応させることにより合成できる。
【0110】
〔顔料組成物〕
本発明の顔料組成物は前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と、前期A群から選ばれる化合物の少なくとも1つを含有する。これにより、色彩的特性、分散性および分散安定性に優れた顔料組成物とすることができる。
【0111】
本発明の顔料組成物(分散物)は、水系であっても非水系であってもよいが、水系の顔料組成物であることが好ましい。本発明の水系顔料組成物において顔料を分散する水性の液体は、水を主成分とし、所望により親水性有機溶剤を添加した混合物を用いることができる。前記親水性有機溶剤としては,例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートトリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等の多価アルコール誘導体、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン等のアミン類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のヘテロ環類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン等のケトン類などが挙げられる。好ましくは多価アルコール類、または多価アルコール誘導体であり、顔料組成物全質量の1〜30%、好ましくは2〜20%を含む。
【0112】
さらに、本発明の水系顔料組成物には水性樹脂を含んでいてもよい。水性樹脂としては、水に溶解する水溶解性の樹脂、水に分散する水分散性の樹脂、コロイダルディスパーション樹脂、又はそれらの混合物が挙げられる。水性樹脂として具体的には、アクリル系、スチレン−アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、フッ素系等の樹脂が挙げられる。
【0113】
さらに、顔料の分散および画像の品質を向上させるため、界面活性剤および分散剤を用いてもよい。界面活性剤としては、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両イオン性の界面活性剤が挙げられ、いずれの界面活性剤を用いてもよいが、アニオン性、又は非イオン性の界面活性剤を用いるのが好ましい。アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸フォルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0114】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。
【0115】
非水系顔料組成物は、前記式(1)で表される化合物及びA群から選ばれる少なくとも1つの化合物を非水系ビヒクルに分散してなるものである。非水系ビヒクルに使用される樹脂は、例えば、石油樹脂、カゼイン、セラック、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、環化ゴム、塩化ゴム、酸化ゴム、塩酸ゴム、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、乾性油、合成乾性油、スチレン/マレイン酸樹脂、スチレン/アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂塩素化ポリプロピレン、ブチラール樹脂、塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。非水系ビヒクルとして、光硬化性樹脂を用いてもよい。
【0116】
また、非水系ビヒクルに使用される溶剤としては、例えば、トルエンやキシレン、メトキシベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチルや酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル系溶剤、エトキシエチルプロピオネート等のプロピオネート系溶剤、メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクタム、N−メチル−2−ピロリドン、アニリン、ピリジン等の窒素化合物系溶剤、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶剤、カルバミン酸メチルとカルバミン酸エチルの48:52の混合物のようなカルバミン酸エステル等が挙げられる。
【0117】
本発明の顔料組成物は、前記式(1)で表される化合物及びA群の化合物の少なくとも1つ及び水系又は非水系の媒体とを、分散装置を用いて分散することで得られる。分散装置としては、簡単なスターラーやインペラー攪拌方式、インライン攪拌方式、ミル方式(例えば、コロイドミル、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ペイントシェイカー、アジテーターミル等)、超音波方式、高圧乳化分散方式(高圧ホモジナイザー;具体的な市販装置としてはゴーリンホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、DeBEE2000等)を使用することができる。
【0118】
本発明において、顔料の体積平均粒子径は10nm以上250nm以下であることが好ましい。なお、顔料粒子の体積平均粒子径とは、顔料そのものの粒子径、又は色材に分散剤等の添加物が付着している場合には、添加物が付着した粒子径をいう。本発明において、顔料の体積平均粒子径の測定装置には、ナノトラックUPA粒度分析計(UPA−EX150;日機装社製)を用いた。その測定は、顔料分散体3mlを測定セルに入れ、所定の測定方法に従って行った。尚、即提示に入力するパラメーターとしては、粘度にはインク粘度を、分散粒子の密度には顔料の密度を用いた。
【0119】
より好ましい体積平均粒子径は、20nm以上250nm以下であり、更に好ましくは30nm以上230nm以下であり、その中でも特に30nm以上150nm以下が最も好ましい。顔料組成物中の粒子の体積平均粒子径が20nm未満である場合には、保存安定性が確保できない場合が存在し、一方、250nmを超える場合には、光学濃度が低くなる場合が存在する。
【0120】
本発明の顔料組成物に含まれる顔料の濃度は、1〜35質量%の範囲であることが好ましく、2〜25質量%の範囲であることがより好ましく、2〜10質量%の範囲であることがより好ましい。濃度が1質量%に満たないと、インクとして顔料組成物を単独で用いるときに十分な画像濃度が得られない場合がある。濃度が35質量%を超えると、分散安定性が低下する場合がある。
【0121】
本発明のアゾ顔料組成物の用途としては、画像、特にカラー画像を形成するための画像記録材料が挙げられ、具体的には、以下に詳述するインクジェット方式記録材料を始めとして、感熱記録材料、感圧記録材料、電子写真方式を用いる記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インク、記録ペン等があり、好ましくはインクジェット方式記録材料、感熱記録材料、電子写真方式を用いる記録材料であり、更に好ましくはインクジェット方式記録材料である。
【0122】
また、CCDなどの固体撮像素子やLCD、PDP等のディスプレーで用いられるカラー画像を記録・再現するためのカラーフィルター、各種繊維の染色の為の染色液にも適用できる。
【0123】
本発明のアゾ顔料組成物は、その用途に適した耐溶溶剤性、分散性、熱移動性などの物性を、置換基で調整して使用する。また、本発明のアゾ顔料組成物は、用いられる系に応じて乳化分散状態、さらには固体分散状態でも使用する事が出来る。
【0124】
〔着色組成物〕
本発明の着色組成物は前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と、前期A群から選ばれる化合物の少なくとも1つを含有する。本発明の着色組成物は、媒体を含有させることができるが、媒体として溶媒を用いた場合は特にインクジェット記録用インクとして好適である。本発明の着色組成物は、媒体として、親油性媒体や水性媒体を用いて、それらの中に、本発明のアゾ顔料組成物を分散させることによって作製することができる。好ましくは、水性媒体を用いる場合である。本発明の着色組成物には、媒体を除いたインク用組成物も含まれる。本発明の着色組成物は、必要に応じてその他の添加剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有しうる。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤(特開2003−306623号公報に記載)が挙げられる。これらの各種添加剤は、水溶性インクの場合にはインク液に直接添加する。油溶性インクの場合には、アゾ顔料組成物の調製後組成物に添加するのが一般的であるが、調製時に油相又は水相に添加してもよい。
【0125】
〔インクジェット記録用インク〕
次に、インクジェット記録用インクについて説明する。
【0126】
インクジェット記録用インク(以下、「インク」という場合がある)は、上記で説明した顔料組成物を用いる。好ましくは、水溶性溶媒、水等を混合して調製される。ただし、特に問題がない場合は、前記本発明の顔料組成物をそのまま用いてもよい。
【0127】
インク中の顔料組成物の含有割合は、記録媒体上に形成した画像の色相、色濃度、彩度、透明性等を考慮すると、1〜100質量%の範囲が好ましく、3〜20質量%の範囲が特に好ましく、その中でも3〜10質量%の範囲がもっとも好ましい。
【0128】
インク100質量部中に、本発明の顔料(合計)を0.1質量部以上20質量部以下含有するのが好ましく、0.2質量部以上10質量部以下含有するのがより好ましく、1〜10質量部含有するのがさらに好ましい。また、本発明のインクには、式(1)で表される化合物及びA群の化合物の少なくとも1つからなる化合物とともに、他の顔料を併用してもよい。2種類以上の顔料を併用する場合は、顔料の含有量の合計が前記範囲となっているのが好ましい。
【0129】
インクは、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。
【0130】
さらに、本発明におけるインクは、上記本発明における前記アゾ顔料の他に別の顔料を同時に用いることが出来る。適用できるイエロー顔料としては、例えば、C.I.P.Y.−74、C.I.P.Y.−128、C.I.P.Y.−155、C.I.P.Y.−213が挙げられ、適用できるマゼンタ顔料としては、C.I.P.V.−19、C.I.P.R.−122が挙げられ、適用できるシアン顔料としては、C.I.P.B.−15:3、C.I.P.B.−15:4が挙げられ、これらとは別に、各々任意のものを使用する事が出来る。適用できる黒色材としては、ジスアゾ、トリスアゾ、テトラアゾ顔料のほか、カーボンブラックの分散体を挙げることができる。
【0131】
インクに用いられる水溶性溶媒としては、多価アルコール類、多価アルコール類誘導体、含窒素溶媒、アルコール類、含硫黄溶媒等が使用される。
【0132】
具体例としては、多価アルコール類では、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1、5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン等が挙げられる。
【0133】
前記多価アルコール誘導体としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジグリセリンのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0134】
また、前記含窒素溶媒としては、ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、トリエタノールアミン等が、アルコール類としてはエタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類が、含硫黄溶媒としては、チオジエタノール、チオジグリセロール、スルフォラン、ジメチルスルホキシド等が各々挙げられる。その他、炭酸プロピレン、炭酸エチレン等を用いることもできる。
【0135】
本発明に使用される水溶性溶媒は、単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても構わない。水溶性溶媒の含有量としては、インク全体の1質量%以上60質量%以下、好ましくは、5質量%以上40質量%以下で使用される。インク中の水溶性溶媒量が1質量%よりも少ない場合には、十分な光学濃度が得られない場合が存在し、逆に、60質量%よりも多い場合には、液体の粘度が大きくなり、インク液体の噴射特性が不安定になる場合が存在する。
【0136】
本発明におけるインクの好ましい物性は以下の通りである。インクの表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上35mN/m以下である。表面張力が20mN/m未満となると記録ヘッドのノズル面に液体が溢れ出し、正常に印字できない場合がある。一方、60mN/mを超えると、印字後の記録媒体への浸透性が遅くなり、乾燥時間が遅くなる場合がある。なお、上記表面張力は、前記同様ウイルヘルミー型表面張力計を用いて、23℃、55%RHの環境下で測定した。
【0137】
インクの粘度は、1.2mPa・s以上8.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは1.5mPa・s以上6.0mPa・s未満、更に好ましくは1.8mPa・s以上4.5mPa・s未満である。粘度が8.0mPa・sより大きい場合には、吐出性が低下する場合がある。一方、1.2mPa・sより小さい場合には、長期噴射性が悪化する場合がある。
【0138】
なお、上記粘度(後述するものを含む)の測定は、回転粘度計レオマット115(Contraves社製)を用い、23℃でせん断速度を1400s-1として行った。
【0139】
インクには、前記各成分に加えて、上記の好ましい表面張力及び粘度となる範囲で、水が添加される。水の添加量は特に制限は無いが、好ましくは、インク全体に対して、10質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは、30質量%以上80質量%以下である。
【0140】
さらに必要に応じて、吐出性改善等の特性制御を目的とし、ポリエチレンイミン、ポリアミン類、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、多糖類及びその誘導体、その他水溶性ポリマー、アクリル系ポリマーエマルション、ポリウレタン系エマルション、親水性ラテックス等のポリマーエマルション、親水性ポリマーゲル、シクロデキストリン、大環状アミン類、デンドリマー、クラウンエーテル類、尿素及びその誘導体、アセトアミド、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を用いることができる。
【0141】
また、導電率、pHを調整するため、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属類の化合物、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等の含窒素化合物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属類の化合物、硫酸、塩酸、硝酸等の酸、硫酸アンモニウム等の強酸と弱アルカリの塩等を使用することができる。
その他必要に応じ、pH緩衝剤、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線吸収剤、等も添加することができる。
【0142】
〔インクジェット記録方法、インクジェット記録装置及びインクジェット記録用カートリッジ〕
インクジェット記録方法は、インクジェット記録用インクを用い、記録信号に応じて記録ヘッドから記録媒体表面にインクを吐出して、記録媒体表面に画像を形成する方法である。
また、インクジェット記録装置は、インクジェット記録用インクを用い、インク(必要により処理液)を記録媒体表面に吐出する記録ヘッドを備え、記録媒体表面に前記インクを記録ヘッドから吐出することにより、画像を形成する装置である。なお、インクジェット記録装置は、記録ヘッドに、インクを供給することができ、かつ、インクジェット記録装置本体に対して脱着可能なインクジェット記録用インクタンク(以下、「インクタンク」と称す場合がある)を備えていてもよい。この場合、このインクジェット記録用インクタンクには、インクが収納される。
【0143】
インクジェット記録装置としては、インクジェット記録用インクを用いることが可能な印字方式を備えた通常のインクジェット記録装置が利用でき、この他にも、必要に応じてインクのドライングを制御するためのヒーター等を搭載していたり、中間体転写機構を搭載し、中間体にインク及び処理液を吐出(印字)した後、紙等の記録媒体に転写する機構を備えたものであってもよい。
また、インクジェット記録用インクタンクは、記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に対して脱着可能であり、インクジェット記録装置に装着した状態で、記録ヘッドにインクを供給できる構成を有するものであれば、従来公知のインクタンクが利用できる。
【0144】
インクジェット記録方法(装置)は、滲み及び色間滲みの改善効果という観点から熱インクジェット記録方式、又は、ピエゾインクジェット記録方式を採用することが好ましい。熱インクジェット記録方式の場合、吐出時にインクが加熱され、低粘度となっているが、記録媒体上でインクの温度が低下するため、粘度が急激に大きくなる。このため、滲み及び色間滲みに改善効果がある。一方、ピエゾインクジェット方式の場合、高粘度の液体を吐出することが可能であり、高粘度の液体は記録媒体上での紙表面方向への広がりを抑制することが可能となるため、滲み、及び、色間滲みに改善効果がある。
【0145】
インクジェット記録用カートリッジはインクジェット記録用インクを含有する。インクジェット記録方法(装置)において、インクの記録ヘッドへの補給(供給)は、インク液体が満たされたインクタンク(必要により処理液タンクを含む)から行われることがよい。このインクタンクは、装置本体に脱着可能なカートリッジ方式であることがよく、このカートリッジ方式のインクタンクを交換することで、インクの補給が簡易に行われる。
【0146】
〔記録物〕
記録物はインクジェット記録用インクを用いることで得られる。
本発明の記録物は、好ましくは、インクジェット記録用インクを記録媒体に付着させて印刷を行う記録方法によって印刷された記録物である。特に前記式(1)で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の少なくとも1つを含む顔料組成物を含有するインクを用いて画像を形成されてなる記録物は、色再現性に優れた画像が実現でき、画像堅牢性(特に光堅牢性)に優れる点から好適である。
【実施例】
【0147】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中、「部」とは質量部を表す。
【0148】
〔化合物(57)の合成〕
【0149】
【化23】

【0150】
化合物(a)−3−1の合成
シアノ酢酸メチル29.7g(0.3モル)にオルトギ酸トリメチル42.4g(0.4モル)、無水酢酸20.4g(0.2モル)、p−トルエンスルホン酸0.5gを加えて110℃(外温)に加熱し、反応系から生じる低沸点成分を留去しながら20時間攪拌した。この反応液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム精製を行い化合物(a)−3−1を14.1g(黄色粉末、収率30%)で得た。得られた化合物(a)−3−1のNMR測定結果は以下の通りである。
1H-NMR(300MHz、CDCl3)7.96(s,1H), 4.15(s,3H), 3.81(s,3H)
【0151】
化合物(57)の合成
メチルヒドラジン7.4mL(141ミリモル)にイソプロパノール150mLを加えて15℃(内温)に冷却し、この混合液に化合物(a)−3−1、7.0g(49.6ミリモル)を徐々に添加した後、50℃に加熱して1時間40分攪拌した。この反応液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム精製を行い化合物(57)を10.5g(白色粉末、収率50%)で得た。得られた中間体(57)のNMR測定結果は以下の通りである。
1H-NMR(300MHz、CDCl3)7.60(s,1H), 4.95(brs,2H), 3.80(s,3H), 3.60(s,3H)
【0152】
〔化合物(49)の合成〕
【0153】
【化24】

【0154】
化合物(49)の合成
化合物(57)1.6g(10.3ミリモル)をピリジン5mLに溶解し、無水酢酸5mLを加え、室温で4時間静置した。反応終了後、メタノールを加え、減圧下溶媒を留去した。酢酸エチル10mL、水10mLを加えて分液操作を行い、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、減圧下溶媒を留去し、化合物(49)を1.9g(収率 95%)を得た。得られた化合物(49)はMS測定により同定した。
【0155】
〔化合物(61)の合成〕
【0156】
【化25】

【0157】
メチルヒドラジン7.4mL(141ミリモル)にイソプロパノール150mLを加えて15℃(内温)に冷却し、この混合液に化合物(a)−4、8.6g(49.6ミリモル)を徐々に添加した後、50℃に加熱して1時間40分攪拌した。この反応液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム精製を行い化合物(61)を9.8g(収率47%)で得た。得られた化合物(61)はMS測定により同定した。
【0158】
〔化合物(60)の合成〕
【0159】
【化26】

【0160】
酢酸55mLとプロピオン酸37mLの混合液に室温にて化合物(57)9.2gを溶解させた。氷冷して内温を−3℃まで冷却し、内温が−3℃〜4℃でニトロシル硫酸の40質量%硫酸溶液を10分かけて滴下した。内温4℃にて1時間攪拌した後、尿素0.2gを加え、その後、内温を−3℃に冷却し、さらに10分攪拌し、ジアゾニウム塩溶液を得た。この溶液にアセトンを150mL加え、氷浴をはずし室温まで昇温し1時間攪拌した。水酸化カリウムを加え中和した後、水200mLと酢酸エチル200mLを加え、分液操作を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を留去し、シリカゲルカラム精製を行い、化合物(60)を2.0g得た(収率15%)。得られた化合物(60)はMS測定により同定した。
【0161】
〔化合物(50)の合成〕
【0162】
【化27】

【0163】
化合物(b)−3−1の合成
シアノ酢酸メチル29.7g(0.3モル)にオルトギ酸トリメチル42.4g(0.4モル)、無水酢酸20.4g(0.2モル)、p−トルエンスルホン酸0.5gを加えて110℃(外温)に加熱し、反応系から生じる低沸点成分を留去しながら20時間攪拌した。この反応液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラム精製を行い化合物(b)−3−1を14.1g(黄色粉末、収率30%)で得た。得られた化合物(b)−3−1のNMR測定結果は以下の通りである。
1H-NMR(300MHz、CDCl3)7.96(s,1H), 4.15(s,3H), 3.81(s,3H)
【0164】
化合物(50)の合成
ヒドラジン7.2mL(149ミリモル)にイソプロパノール150mLを加えて15℃(内温)に冷却し、この混合液に化合物(b)−3−1、7.0g(49.6ミリモル)を徐々に添加した後、50℃に加熱して1時間40分攪拌した。この反応液を減圧濃縮した後、ジメチルホルムアミド150mLを加えて、炭酸カリウム、ヨウ化メチルを加えた。室温にて3時間攪拌した後、酢酸エチル200mL、水300mLを加えて、分液操作を行った。有機層を分離した後、硫酸マグネシウムを用いて溶媒を乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。シリカゲルカラム精製を行い前記中間体(b)を6.3g(白色粉末、収率30%)で得た。得られた中間体(b)のNMR測定結果は以下の通りである。
1H-NMR(300MHz、CDCl3)7.54(s,1H), 4.69(brs,2H), 3.78(s,3H), 3.69(s,3H)
【0165】
〔化合物(32)の合成〕
【0166】
【化28】

【0167】
化合物(c)−2の合成
ヒドラジン1水和物387mL(7.98モル)にメタノール298mLを加えて10℃(内温)に冷却し、この混合液に4,6−ジクロロピリミジン149g(1.00モル)を徐々に添加(内温20℃以下)した後、氷浴をはずし、室温まで昇温し、同温度にて30分攪拌した。その後さらに加熱して内温60℃まで昇温し、同温度にて5時間攪拌した。反応終了後、水750mLを加えた後、氷冷して内温が8℃になるまで冷却し、析出した結晶をろ取、水でかけ洗いし、イソプロパノールでかけ洗いした。室温にて36時間乾燥を行い化合物(c)−2を119g(白色粉末、収率84.5%)で得た。得られた化合物(c)−2のNMR測定結果は以下の通りである。
1H-NMR(300MHz、d-DMSO)7.80(s,1H), 7.52(s,2H), 5.98(s,1H), 4.13(s,4H)
【0168】
化合物(32)の合成
化合物(c)−2、50g(357ミリモル)に、水128mLを加えて室温で攪拌した。この懸濁液にピバロイルアセトニトリル98.2g(785ミリモル)を加え、同温度にて12M塩酸水をpH3になるように滴加した後、内温が50℃になるまで加熱し、同温度にて6時間攪拌した。反応終了後、8Nの水酸化カリウム水溶液を加えて中和し、pH6.4にした。氷冷し内温が10℃になるまで冷却し、析出した結晶をろ取、水でかけ洗いした。得られた結晶を減圧下60℃にて乾燥し、得られた粗精製物にトルエン30mLを加え、60℃に加熱して溶解させた。得られた溶液を室温にて12時間静置し、析出した結晶をろ取、冷却したトルエンでかけ洗いし、減圧下60℃にて乾燥し、化合物(32)を87.7g(白色粉末、収率69.3%)で得た。得られた化合物(32)のNMR測定結果は以下の通りである。
1H-NMR(300MHz、d-DMSO)8.74(s,1H), 7.99(s,1H), 6.87(s,4H), 5.35(s,2H), 1.24(s,18H)
【0169】
〔化合物(44)の合成〕
【0170】
【化29】

【0171】
化合物(44)の合成
酢酸49mLと硫酸11mLの混合液に室温にて化合物(57)4.6gを溶解させた。氷冷して内温を−3℃まで冷却し、内温が−3℃〜4℃でニトロシル硫酸の40質量%硫酸溶液を10分かけて滴下した。内温4℃にて3時間攪拌した後、尿素0.2gを加え、更に10分間攪拌しジアゾニウム塩を得た。別に化合物(32)10gにメタノール350mLを加え、60℃に昇温し30分間攪拌し完溶させた。その後、内温を−3℃に冷却し、内温が3℃以下になるようにジアゾニウム塩溶液を25分かけて添加した。添加完了後、3℃で1時間攪拌した後、氷浴をはずし、30分かけて室温まで昇温させた。室温にて30分攪拌した後、得られた結晶を濾別し、水100mLでかけ洗いした。得られた結晶を乾燥せずに水400mLに懸濁させ、8規定の水酸化カリウム水溶液を添加して、pHを5.7にした。室温にて25分間攪拌した後、得られた結晶を濾別し、水で十分にかけ洗いした。得られた結晶をシリカカラム精製を行い、化合物(44)を2.79g得た(黄色固体、収率48.5%)。得られた化合物(44)のNMR測定結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz、CDCl3)9.94(brs, 1H), 9.18(brs,1H), 8.63(s,1H), 8.31(s, 1H), 7.86(s,1H), 5.83(brs,2H), 5.41(s,1H), 4.11(s, 3H), 3.88(s,3H), 4.54(s, 9H), 1.31(s, 9H)
【0172】
〔化合物(33)の合成〕
【0173】
【化30】

【0174】
化合物(33)の合成
酢酸49mLと硫酸11mLの混合液に室温にて化合物(50)4.6gを溶解させた。氷冷して内温を−3℃まで冷却し、内温が−3℃〜4℃でニトロシル硫酸の40質量%硫酸溶液を10分かけて滴下した。内温4℃にて3時間攪拌した後、尿素0.2gを加え、更に10分間攪拌しジアゾニウム塩を得た。別に化合物(32)10gにメタノール350mLを加え、60℃に昇温し30分間攪拌し完溶させた。その後、内温を−3℃に冷却し、内温が3℃以下になるようにジアゾニウム塩溶液を25分かけて添加した。添加完了後、3℃で1時間攪拌した後、氷浴をはずし、30分かけて室温まで昇温させた。室温にて30分攪拌した後、得られた結晶を濾別し、水100mLでかけ洗いした。得られた結晶を乾燥せずに水400mLに懸濁させ、8規定の水酸化カリウム水溶液を添加して、pHを5.7にした。室温にて25分間攪拌した後、得られた結晶を濾別し、水で十分にかけ洗いした。得られた結晶をシリカカラム精製を行い、化合物(33)を2.46g得た(黄色固体、収率42.8%)。得られた化合物(33)はMS測定により同定した。
【0175】
〔化合物(8)の合成〕
【0176】
【化31】

【0177】
化合物(8)の合成
リン酸15mLに室温にて化合物(46)1.5gを溶解させた。氷冷して内温を−3℃まで冷却し、内温が−3℃〜4℃で亜硝酸ナトリウムを粉体で分割添加した。内温4℃にて30分攪拌し、ジアゾニウム塩溶液を得た。この中に、内温が4℃以下を保ち化合物(32)1.8gを粉体で分割添加し、更に3時間攪拌した。水を20mL加え、3時間攪拌した後、析出した固体を濾取し、水100mLでかけ洗いした。得られた固体を水100mLに懸濁させ、炭酸水素ナトリウムを加え中和し、析出している固体を濾取した。得られた固体をジメチルアセトアミド200mLに懸濁させ、120℃に加熱し完溶させた。溶媒が20mLになるまで減圧下溶媒を留去した後、室温まで冷却し、析出した結晶を濾取し、水100mLでかけ洗いした。得られた結晶を室温にて40時間乾燥させ、化合物(8)を1.8g(黄色固体、収率54.5%)得られた化合物(8)のNMR測定結果は以下の通りである。
1H-NMR(400MHz、d-6 DMSO)9.40(br, 4H), 8.92(s,1H), 8.11(s,1H), 7.94(s, 2H), 7.74(brs, 2H), 7.18(brs,2H), 4.01(s,6H), 1.48(s,18H)
【0178】
〔化合物(13)の合成〕
【0179】
【化32】

【0180】
化合物(13)の合成
酢酸12mLとプロピオン酸8mLの混合液に室温にて化合物(45)2gを溶解させた。氷冷して内温を−3℃まで冷却し、内温が−3℃〜4℃でニトロシル硫酸の40質量%硫酸溶液を10分かけて滴下した。内温4℃にて3時間攪拌した後、尿素0.08gを加え、更に10分間攪拌した後、内温を−3℃に冷却しジアゾニウム塩溶液を得た。別に化合物(44)4.9gにアセトン76Lを加え、上記のジアゾニウム塩溶液に内温が3℃以下になるように5分かけて添加した。添加完了後、3℃で1時間攪拌した後、氷浴をはずし、30分かけて室温まで昇温させた。室温にて30分攪拌した後、得られた結晶を濾別し、水100mLでかけ洗いした。得られた結晶を乾燥せずに水100mLに懸濁させ、8規定の水酸化カリウム水溶液を添加して、pHを5.7にした。室温にて25分間攪拌した後、得られた結晶を濾別し、水で十分にかけ洗いした。得られた結晶をシリカカラム精製を行い、化合物(13)を5.4g得た(黄色固体、収率81%)。得られた化合物(13)はMS測定により同定した。
【0181】
〔化合物(1)、(13)及び(7)の混合物の合成〕
【0182】
【化33】

【0183】
化合物(1)、(13)、(7)の混合物の合成
酢酸60mLとプロピオン酸40mLの混合液に室温にて化合物(57)9.98g、化合物(45)0.2gを溶解させた。氷冷して内温を−3℃まで冷却し、内温が−3℃〜4℃でニトロシル硫酸の40質量%硫酸溶液を10分かけて滴下した。内温4℃にて3時間攪拌した後、尿素0.7gを加え、更に10分間攪拌した後、内温を−3℃に冷却しジアゾニウム塩溶液を得た。別に化合物(32)9.1gにアセトン137mLを加え、上記のジアゾニウム塩溶液に内温が3℃以下になるように25分かけて添加した。添加完了後、3℃で1時間攪拌した後、氷浴をはずし、30分かけて室温まで昇温させた。室温にて30分攪拌した後、得られた結晶を濾別し、水100mLでかけ洗いした。得られた結晶を乾燥せずに水300mLに懸濁させ、8規定の水酸化カリウム水溶液を添加して、pHを5.8にした。室温にて25分間攪拌した後、得られた結晶を濾別し、水で十分にかけ洗いした。得られた結晶をアセトン500mLに懸濁し、内温50℃まで昇温し同温度にて2時間攪拌した。析出している結晶を同温度にて濾別し、室温にて12時間乾燥し、化合物(1)、化合物(13)、化合物(7)の混合物(混合比率95.3:4.6:0.1)を16.0g得た(黄色固体、収率91%)。得られた化合物(1)、化合物(13)、化合物(7)はMS測定により同定した。
【0184】
〔実施例1〕
<本発明の顔料組成物1>
式(1)で表される化合物と別途調製したA群の化合物(57)、(32)、(44)及び(13)の表1の組成比の顔料組成物(合計)を2.5部、オレイン酸ナトリウム0.5部、グリセリン5部、水42部を混合し、直径0.1mmのジルコニアビーズ100部とともに遊星型ボールミルを用いて毎分300回転、2時間分散を行った。分散終了後、ジルコニアビーズを分離し、黄色の本発明の顔料分散物1を得た。
【0185】
〔実施例2〜39〕
<本発明の顔料組成物2〜40>
表Aに示した組成比の顔料組成のみを変更し、他は本発明の顔料組成物1におけると同様にして、本発明の顔料分散物2〜40を得た。なお、顔料組成物7および8は、純品の式(1)で表される化合物とそれぞれ例示化合物(44)または(23)、(37)、(60)とを混合して調製したものであり、顔料組成物1〜6および9〜40は、式(1)で表される化合物の合成の際に、カップリング反応に用いる化合物にあらかじめ添加する、あるいは精製工程の条件を適宜変更することで調製した。
【0186】
<比較顔料組成物1及び2>
実施例1で使用した顔料の代わりに、表1に記載の顔料及びA群の化合物を表1に記載の量で用いたこと以外は実施例1と同様にして黄色の比較顔料組成物1及び2を得た。表1中、括弧内の数字は例示化合物の番号を表す。また、P.Y.155はピグメントイエロー155を表す。
【0187】
<色相>
得られた顔料分散物をNo.3のバーコーターを用いてエプソン社製フォトマット紙に塗布した。得られた塗布物を目視にて観察し、緑味および赤味が少なく、鮮明であるものはA、緑味あるいは赤味があり、鮮明であるものはB、赤味が強いものをC、緑味あるいは赤味があり、鮮明でないものをDとした。結果を表1に示す。
【0188】
<分散性>
顔料組成物(合計)を2.5部、オレイン酸ナトリウム0.5部、グリセリン5部、水42部を混合し、直径0.1mmのジルコニアビーズ100部とともに遊星型ボールミル(フリッチュ製P−7)を用いて毎分300回転で分散を行った。その際に平均体積粒子径が50nmに達する時間が、0〜2.5時間未満をA、2.5〜3.5時間未満をB、3.5時間以上をCとした。結果を表1に示す。
【0189】
<濃度>
得られた顔料分散物をNo.3のバーコーターを用いてエプソン社製フォトマット紙に塗布した。得られた塗布物の画像濃度を反射濃度計(X−Rite社製X−Rite938)を用いて測定し、「着色力(OD:Optical Density)」を以下の基準で評価した。ODが1.4以上の場合をA、1.3以上で1.4未満の場合をB、1.2以上で1.3未満の場合をC、1.2未満の場合をDとした。結果を表1に示す。
【0190】
<分散安定性>
得られた顔料分散物(平均体積粒径50nm)を、50℃で2週間静置した際に、沈殿物が目視で確認できるものをC、沈殿物は確認されないが、200nm以上の粗大粒子が10%以上確認されるものをB、200nm以上の粗大粒子が10%以下のものをAとした。結果を表1に示す。
【0191】
【表1】

【0192】
【表2】

【0193】
表1からわかるように、本発明の顔料組成物を使用した顔料分散物は色相、分散性、濃度に優れ、特に優れた分散安定性を示すことがわかった。
【0194】
<実施例41>
本発明の前記顔料組成物1を固形分で5質量%、グリセリン10質量%、2−ピロリドン5質量%、1,2―ヘキサンジオール2質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル2質量%、プロピレングリコール0.5質量%、イオン交換水75.5質量%になる様に各成分を加えて、得られた混合液をポアサイズ1μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:25mm、富士フイルム(株)社製)を取り付けた容量20mlのシリンジで濾過し、粗大粒子を除去することにより顔料インク液を得た。
上記インク液をEPSON社製インクジェットプリンターPM−G800のカートリッジに装填し、受像シートEPSON 写真用紙<光沢>と写真用紙クリスピア<高光沢>に印字し、階段状に濃度が変化したイエロー単色画像を得た。得られた画像は吐出性が優れ、耐オゾン性も優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と、A群から選ばれる化合物の少なくとも1つを含有する顔料組成物。
【化1】

【化2】

(A群における一般式(a)〜(f)中、R1、R3、R7、及びR10はそれぞれ独立に、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボキシル基、又はシアノ基、水素原子を表し、
2、R4はそれぞれ独立にアミノ基、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、水素原子、水酸基、‐N=N-OCH3、‐N=N‐CH=C(OH)‐CH3、を表し、
5,R6、R8、R9、R11、R12、R13、及びR14はそれぞれ独立に、アミノ基、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、又は水酸基を表す。
15、R16はそれぞれ独立に、下記の基(g)又は(h)を表し、*は結合位置を表す。
【化3】

17、R18はそれぞれ独立に、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボキシル基、シアノ基、水素原子を表す。)
【請求項2】
前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を30質量%未満含有する請求項1に記載の顔料組成物。
【請求項3】
前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を20質量%未満含有する請求項1又は2に記載の顔料組成物。
【請求項4】
前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を10質量%未満含有する請求項1〜3のいずれかに記載の顔料組成物。
【請求項5】
前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を0.2質量%以上5質量%未満含有する請求項1〜4のいずれかに記載の顔料組成物。
【請求項6】
前記式(1)またはその互変異性体で表される化合物と前記A群から選ばれる化合物の総量に対して、A群から選ばれる化合物を0.5質量%以上2質量%未満含有する請求項1〜5のいずれかに記載の顔料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の顔料組成物を含有する顔料分散物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の顔料組成物を含有する着色組成物。
【請求項9】
請求項7に記載の顔料分散物又は請求項8に記載の着色組成物を含有するインク。
【請求項10】
請求項7に記載の顔料分散物、請求項8に記載の着色組成物又は請求項9に記載のインクを含有するインクジェット記録用インク。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェット記録用インクを含有するインクジェット記録用カートリッジ。
【請求項12】
請求項10に記載のインクジェット記録用インクを用いるインクジェット記録方法。
【請求項13】
請求項10に記載のインクジェット記録用インクを用いることで得られる記録物。

【公開番号】特開2010−100796(P2010−100796A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335173(P2008−335173)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】