説明

顕微鏡システム及び顕微鏡システムの制御方法

【課題】自動的に球面収差を補正することができる顕微鏡システム等の技術を提供すること。
【解決手段】顕微鏡システム100は、複数の標本1を収納可能な収納装置10と、標本1の画像データを取得する顕微鏡装置20と、標本1(サンプル2)の画像を表示する表示装置61と、上記各装置を統括的に制御する制御装置50とを備えている。顕微鏡装置20は、標本1の高倍率画像を取得する高倍率画像取得部21を有する。高倍率画像取得部21は、集光レンズ27、球面収差補正レンズ28、29及び結像レンズ24を有する高倍率光学系22を含む。球面収差補正レンズ28、29は、レンズ移動機構30により光軸に沿って移動可能に保持されている。メインコントローラ51は、レンズ移動機構30を制御して球面収差補正レンズ28、29を光軸に沿って移動させ、球面収差を補正する。これにより、自動的に球面収差が補正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体サンプルなどのサンプルを高倍率で撮像し、得られた画像データから合成画像を生成して表示部に表示させる顕微鏡システム及びこの顕微鏡システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体サンプル等のサンプルを高倍率で撮像し、得られた画像データから合成画像を生成して表示部に表示させる顕微鏡システムが広く知られるようになった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
下記特許文献1には、生体サンプルがスライドされた試料Sの蛍光観察画像を取得する顕微鏡装置(10)と、顕微鏡装置(10)による画像の取得の制御等を実行する制御装置(60)とを備えた蛍光顕微鏡システムが記載されている。顕微鏡装置(10)は、複数の試料Sを格納可能な試料格納部(11)と、試料Sを搬送する試料搬送部(14)と、試料Sを載置する試料ステージ(15)とを有する。また、顕微鏡装置(10)は、試料Sの低倍率画像を取得するマクロ画像取得部(20)と、試料Sの高倍率画像を取得するミクロ画像取得部(30)とを有する。制御装置(60)は、顕微鏡装置(10)における画像取得動作の制御や、画像取得条件の設定、取得された試料Sの画像データの処理、表示装置(71)による試料Sの画像の表示の制御等の処理を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−51773号公報(段落[0022]〜[0027]図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、生体サンプル等のサンプルは、一般的にスライドガラスやカバーガラス等の透明の保持部材によって保持されて、顕微鏡システムにより画像が取得される。従って、サンプルの撮像に用いられる光学系(レンズ)と、サンプルとの間にカバーガラスが介在されるので、球面収差が生じてしまい、高精細なサンプルの画像を取得することができないといった問題がある。また、生体サンプル等のサンプル自体が半透明である場合もあるので、これが原因で球面収差が生じてしまう場合もある。
【0006】
そこで、例えば、従来周知の補正環機能つき対物レンズを光学系に採用し、球面収差を補正することが考えられる。しかしながら、補正環機能つき対物レンズは、一般的にユーザが手動で補正環を回し、球面収差を補正しなければならないので面倒である。
【0007】
顕微鏡システムでは、1つのサンプルに対して複数枚(例えば、100枚)の高倍率画像を取得し、この高倍率画像を合成して表示部に表示させる。球面収差の原因となるカバーガラス(あるいは、サンプル自体)は、正確に厚さが一定でないので、球面収差を補正するために、ユーザは、例えば100回、補正環の回転角を調整して球面収差を補正しなければならない。従って、特に、顕微鏡システムでは、手動で球面収差を補正するのは面倒である。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、自動的に球面収差を補正することができる顕微鏡システム、及びこの顕微鏡システムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る顕微鏡システムは、収納部と、ステージと、光学系と、撮像部と、移動機構と、制御部と、画像処理部と、表示部とを具備する。
前記収納部は、複数の標本を収納可能である。
前記ステージは、前記収納部からローディングされた前記標本を載置する。
前記光学系は、球面収差補正用のレンズを有する。
前記撮像部は、前記光学系を介して、前記ステージ上に載置された前記標本の部分画像を撮像可能である。
前記移動機構は、前記球面収差補正用のレンズを光軸に沿って移動させる。
前記制御部は、前記移動機構による前記球面収差補正用のレンズの移動を制御し、球面収差を補正する。
前記画像処理部は、前記撮像部により撮像された前記部分画像を合成し、合成画像を生成する。
前記表示部は、前記生成された前記合成画像を表示する。
【0010】
本発明では、制御部により、移動機構による球面収差補正用のレンズの移動が制御されるので、自動的に球面収差を補正することができる。これにより、部分画像の撮像毎に手動で球面収差を補正する煩わしさを解消することができる。
【0011】
上記顕微鏡システムにおいて、前記制御部は、前記標本の上面と、前記光学系のフォーカス位置との第1の距離を算出し、前記第1の距離に応じて、前記球面収差補正用のレンズを移動させるように前記移動機構を制御してもよい。
【0012】
球面収差は、標本の上面からフォーカス位置までの第1の距離と相関関係を有する。従って、球面収差補正用のレンズの、球面収差を補正するための適切な位置は、第1の距離と相関関係を有する。
本発明では、制御部の制御により、第1の距離に応じて球面収差補正用のレンズが移動されるので、球面収差補正用のレンズを適切な位置に移動させ、正確に球面収差を補正することができる。
【0013】
上記顕微鏡システムにおいて、前記制御部は、前記光学系のフォーカス位置と結像位置との距離を一定に保つように、前記球面収差補正用のレンズを移動させてもよい。
これにより、フォーカス合わせの高速化、単純化が実現される。
【0014】
上記顕微鏡システムは、前記撮像部による前記標本の前記部分画像の撮像に先立って、前記標本をプレスキャンするプレスキャン部をさらに具備していてもよい。この場合、前記制御部は、前記プレスキャン部により得られた情報に基づいて前記第1の距離を算出してもよい。
本発明では、プレスキャン部によって得られる情報を有効活用して、第1の距離を算出することができる。これにより、第1の距離を算出するために、顕微鏡システムに新たな部材等を付加する必要がないのでコストを削減することができる。
【0015】
上記顕微鏡システムは、前記標本の厚さを測定する厚さ測定部をさらに具備していてもよい。この場合、前記制御部は、前記標本の厚さの情報に基づいて前記第1の距離を算出してもよい。
このような方法により、第1の距離が算出されても、球面収差を適切に補正することができる。
【0016】
上記顕微鏡システムは、顕微鏡鏡筒と、移動部と、距離測定部とをさらに具備していてもよい。
前記顕微鏡鏡筒は、前記光学系を内包する。
前記移動部は、前記顕微鏡鏡筒及び前記ステージのうち少なくとも一方を前記光軸に沿って移動させる。
前記距離測定部は、前記顕微鏡鏡筒側の所定の位置と、前記カバーガラスの上面との第2の距離を測定する。
この場合、前記制御部は、前記移動部を制御することでフォーカシングを実行し、フォーカスが合ったときの前記距離測定部からの前記第2の距離の情報に基づいて、前記第1の距離を算出してもよい。
【0017】
このような方法により、第1の距離が算出されても、球面収差を適切に補正することができる。
【0018】
上記顕微鏡システムが、前記光学系を内包する顕微鏡鏡筒と、前記顕微鏡鏡筒及び前記ステージのうち少なくとも一方を前記光軸に沿って移動させる移動部とをさらに具備する場合、前記制御部は、前記移動部を制御することでフォーカシングを実行してもよい。
この場合、前記制御部は、TTL(Through the Lens)方式のフォーカシングを実行してもよい。
【0019】
本発明の一形態に係る顕微鏡システムの制御方法は、複数の標本を収納可能な収納部から前記標本をローディングさせて前記標本をステージ上に載置させることを含む。
球面収差補正用のレンズを有する光学系の光軸に沿って前記球面収差補正用のレンズを移動させる移動機構の制御により球面収差が補正される。
前記光学系を介して前記ステージ上に載置された前記標本の部分画像を撮像可能な撮像部から前記部分画像の情報が取得される。
前記部分画像の情報に基づいて合成画像が生成される。
前記生成された合成画像が表示部に表示される。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、自動的に球面収差を補正することができる顕微鏡システム、及びこの顕微鏡システムの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る顕微鏡システムの全体構成を示す図である。
【図2】顕微鏡システムにより観察される標本の一例を示す図である。
【図3】対物レンズを示す拡大図である。
【図4】顕微鏡システムの処理を示すフローチャートである。
【図5】球面収差補正についての基本的な考え方を説明するための図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る顕微鏡システムの動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明のさらに別の実施形態に係る顕微鏡システムが備える高倍率光学系を示す図である。
【図8】図7に示す高倍率光学系のスポットダイアグラムを示す図である。
【図9】球面収差が補正される際に高倍率光学系の物像間距離が変わらないようにするための基本的な考え方を説明するための図である。
【図10】球面収差が補正される際に高倍率光学系の物像間距離が変わらないようにするための基本的な考え方を説明するための図である。
【図11】球面収差が補正される際に高倍率光学系の物像間距離が変わらないようにするための基本的な考え方を説明するための図である。
【図12】カバーガラスの厚さと、各種のパラメータとの関係を示す図である。
【図13】図12に示す表をグラフ化した、カムカーブを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
<第1実施形態>
[顕微鏡システムの全体構成及び各部の構成]
図1は、本発明の第1実施形態に係る顕微鏡システムの全体構成を示す図である。図2は、顕微鏡システムにより観察される標本の一例を示す図である。図2(A)は、標本の側面図であり、図2(B)は、標本の平面図である。なお、本明細書中で説明する、各図では、図面を分かりやすく表示するため、顕微鏡システムが有する各装置や、各装置が有する各部材等の大きさを実際の寸法とは異なって表示する場合がある。
【0023】
図1に示すように、顕微鏡システム100は、複数の標本1を収納可能な収納装置10と、標本1の画像データを取得する顕微鏡装置20と、収納装置10及び顕微鏡装置20の間で、標本1を搬送する搬送装置70とを備えている。また、顕微鏡システム100は、標本1(サンプル2)の画像を表示する表示装置61と、入力装置62と、上記各装置を統括的に制御する制御装置50とを備えている。
【0024】
図2に示すように、標本1は、スライドガラス4と、カバーガラス3と、スライドガラス4及びカバーガラス3に挟み込まれて保持されたサンプル2とを含む。
スライドガラス4及びカバーガラス3の材料としては、例えばBK7(登録商標)などの光学ガラスが用いられるが、これに限定されない。
【0025】
サンプル2としては、例えば、病理サンプルや、人以外の動物、植物などの生体組織サンプルが用いられる。サンプル2の種類は、特に限定されず、医療分野、薬品分野、食品分野、農業分野等から適宜選択されたものが用いられればよい。
【0026】
収納装置10は、収納装置本体11と、複数の標本1を棚状に並べて収納するラック機構12と、ラック機構12に収納された複数の標本1のうち、任意の標本1をローディングするローディング機構13とを有する。
【0027】
収納装置本体11の側部には、ユーザが標本1を出し入れするときに用いられる開閉部14が設けられる。また、収納装置本体11の側部には、ローディング機構13が標本1をローディングするための開口15が設けられる。
【0028】
ラック機構12は、収納装置本体11に対して着脱可能に設けられている。ラック機構12は、複数の標本1が棚状に並べられた状態で、開閉部14を介して収納装置本体11から出し入れされる。
【0029】
ローディング機構13は、例えば、図示しないベルトコンベアや、ベルトコンベアを駆動するモータ等の駆動源等により構成される。モータ等の駆動源は、制御装置50のメインコントローラ51に電気的に接続される。ローディング機構13は、メインコントローラ51の制御に応じて、ラック機構12に収納された複数の標本1のうち、任意の標本1を収納装置本体11から選択的にローディングすることが可能とされている。また、ローディング機構13は、搬送装置70から受け渡された撮像済みの標本をラック機構12の元の位置に収納させることが可能とされている。
【0030】
搬送装置70は、例えば、図示しないベルトコンベアや、ベルトコンベアを駆動させるモータ等の駆動源等とにより構成される。モータ等の駆動源は、メインコントローラ51に電気的に接続される。搬送装置70は、メインコントローラ51の制御に応じて、収納装置本体11からローディングされた標本1を、顕微鏡装置20のステージ41上へと搬送する。また、搬送装置70は、顕微鏡装置20により撮像が終了した標本1を、ステージ41上から搬送し、ローディング機構13へと受け渡す。
【0031】
顕微鏡装置20は、標本1を載置するステージ41と、ステージ41を上下方向(Z軸方向)及び水平方向(X軸−Y軸方向)へ移動させる移動機構42とを有する。また、顕微鏡装置20は、標本1をプレスキャンするプレスキャン部31と、標本1の高倍率画像(部分画像)を取得する高倍率画像取得部21とを有する。
【0032】
ステージ41の中央近傍には、光路用の開口45が設けられる。また、ステージ41には標本1がステージ41上に配置されたときに標本1がステージ41上でずれないように保持する保持部(図示せず)が設けられる。標本1は、搬送装置70により、ステージ41上の光路用の開口45が設けられた位置に搬送され、保持部により保持される。ステージ41は、プレスキャン部31と、高倍率画像取得部21との間で移動可能とされる。
【0033】
移動機構42は、ステージ41を上下方向(Z軸方向)へ移動させる昇降部43と、ステージを水平方向(X−Y軸方向)へ移動させる水平移動部44とを有する。移動機構42は、ボールネジ、ラックアンドピニオン、あるいはベルトアンドプーリ等の機構と、この機構を駆動するステッピングモータ等の駆動源とを含む。ステッピングモータ等の駆動源は、メインコントローラ51に電気的に接続される。移動機構42は、ステージ41の位置情報を標本1の位置情報としてメインコントローラ51にフィードバックする。
【0034】
高倍率画像取得部21は、顕微鏡鏡筒36と、顕微鏡鏡筒36内に配置された高倍率光学系22と、照明光学系75と、第1の撮像部37とを有する。
高倍率光学系22は、対物レンズ23と、結像レンズ24とを含む。
【0035】
図3は、対物レンズを示す拡大図である。
図3に示すように、対物レンズ23は、集光レンズ27と、カバーガラス3(あるいは、カバーガラス3及びサンプル1)により生じる球面収差を補正する球面収差補正レンズ28、29とを有する。すなわち、対物レンズ23は、補正環機能つき対物レンズである。
集光レンズ27の球面は、両側非球面とされており、集光レンズ27自体の球面収差は補正されている。
【0036】
球面収差補正レンズ28、29は、レンズ移動機構30により、光軸に沿って移動可能に保持されている。レンズ移動機構30は、図示しないステッピングモータなどの駆動源を有している。この駆動源は、メインコントローラと電気的に接続されている。球面収差補正レンズ28、29は、メインコントローラの制御に応じて相対的な位置が変位され、球面収差が補正される。
【0037】
図1、図3では、球面収差補正レンズが2枚である場合が示されている。しかし、球面収差補正レンズの枚数は、1枚であってもよく、3枚以上であっても構わない。球面収差補正レンズの枚数は特に限定されない。
【0038】
照明光学系75は、照明用のレンズ25と、照明用の光源26とを含む。
照明用の光源26としては、例えば、キセノンランプやハロゲンランプなどが用いられる。照明光学系75は、透過型照明に限られず、落射型照明により構成されても構わない。後述のプレスキャン部における照明光学系76についても同様である。
【0039】
第1の撮像部37は、高倍率光学系22の結像位置に配置される。第1の撮像部37は、CCD(Charge Coupled Device)センサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどの撮像素子を含む。
【0040】
プレスキャン部31は、プレスキャン光学系32と、照明光学系76と、第2の撮像部38とを含む。プレスキャン部31は、標本1の高倍率画像の取得に先立って、標本1の撮像範囲6(図2(B)点線参照)やフォーカス情報等を取得するために用いられる。
【0041】
プレスキャン光学系32は、撮像レンズ33を含む。また、プレスキャン光学系32は、標本1の構造情報の取得の際に用いられる図示しない一または複数のレンズ群を含む。
照明光学系76は、照明用のレンズ34と、照明用の光源35とを含む。
【0042】
第2の撮像部38は、プレスキャン光学系32の結像位置に配置される。第2の撮像部38は、CCD(Charge Coupled Device)センサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどの撮像素子を含む。
【0043】
制御装置50は、例えば、PC(Personal Computer)であり、CPU(Central Processing Unit)等を含むメインコントローラ51と、記憶部52と、画像処理部53とを備えている。
【0044】
メインコントローラ51は、顕微鏡システム100が有する各部と電気的に接続され、顕微鏡システム100を統括的に制御する。例えば、メインコントローラ51は、標本1のローディングの制御、球面収差補正レンズ28、29移動の制御、ステージ41の移動の制御などの処理を実行する。また、メインコントローラ51は、第1の撮像部37及び第2の撮像部38からの画像情報、移動機構42からのステージの位置情報(標本1の位置情報)などを取得する。
【0045】
記憶部52は、磁気ディスク、光ディスク等のディスク状の記憶媒体が用いられる。あるいは、記憶部は、固体(半導体、誘電体または磁気抵抗)メモリ等の記憶媒体であってもよい。
記憶部52には、顕微鏡システム100の処理に必要な各種のプログラムや、ルックアップテーブル等が記憶されている。また、記憶部52は、メインコントローラ51から出力された画像情報や、撮像範囲の情報、フォーカス情報、ステージの位置情報(標本の位置情報)などを記憶する。
【0046】
画像処理部53は、記憶部52に記憶された、画像情報及び位置情報を抽出し、抽出された情報及び位置情報に基づき、画像処理を実行する。また、画像処理部53は、メインコントローラ51に制御に応じて、画像処理により生成された画像を表示装置61に出力して表示させる。
【0047】
表示装置61は、例えば、液晶ディスプレイ、EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等により構成される。入力装置62は、キーボードやマウス等を含む。
【0048】
[動作説明]
次に、本実施形態に係る顕微鏡システム100の処理について説明する。
【0049】
まず、顕微鏡システム100の処理の前段階として、ユーザにより、複数の標本1が作成される。この場合、ユーザは、サンプル2をスライスし、スライスされたサンプル2をスライドガラス4及びカバーガラス3に挟みこみ、複数の標本1を作成する。
【0050】
ユーザは、収納装置10の開閉部14を開き、収納装置10内からラック機構12を取り出す。そして、ユーザは、収納装置10から取り出されたラック機構12に複数の標本1をセットする。ユーザは、複数の標本1がセットされたラック機構12を開閉部14から収納装置10内に入れ、ラック機構12を収納装置10内に着装する。この場合、ラック機構12は、収納装置10内の所定の位置に着装され、固定される。
【0051】
次に、ユーザが入力装置62を操作して、制御装置50に処理の開始の指令を与えると、顕微鏡システム100の処理が開始される。
【0052】
図4は、顕微鏡システムの処理を示すフローチャートである。
【0053】
メインコントローラ51は、入力装置62からの処理の開始の信号が入力されたか否かを判定する(ステップ101)。
処理の開始の信号が入力されない場合(ステップ101のNO)、メインコントローラ51は、ステップ101へ戻り、再び処理の開始の信号が入力されたか否かを判定する。つまり、メインコントローラ51は、処理の開始の信号の入力待ちの状態で待機している。
【0054】
入力装置62から処理の開始の信号が入力されると(ステップ101のYES)、メインコントローラ51は、次のステップ102へ進む。ステップ102では、メインコントローラ51は、ローディング機構13を駆動させ、ラック機構12に収納された複数の標本1のうちの任意の標本1を選択的に収納装置10からローディングする。収納装置10からローディングされた標本1は、搬送装置70に受け渡される。メインコントローラ51は、搬送装置70を駆動させ、収納装置10からローディングされた標本1をステージ41上へと搬送する。標本1は、ステージ41上の中央近傍に設けられた光路用の開口45に対応する位置に配置され、図示しない保持部により位置がずれないように保持される。
【0055】
標本1がステージ41上に搬送されると、メインコントローラ51は、移動機構42を駆動させ、ステージ41をプレスキャン部31の位置まで移動させる(ステップ103)。
【0056】
次に、メインコントローラ51によりプレスキャンが実行される(ステップ104、ステップ105)。
プレスキャンでは、標本1の撮像範囲6(図2(B)点線参照)の設定(ステップ104)と、フォーカス情報及び標本の構造情報の取得(ステップ105)とが実行される。
【0057】
ステップ104での標本の撮像範囲6の設定においては、まず、メインコントローラ51は、第2の撮像部38により標本1全体を撮像し、標本1の全体画像を取得する。次に、メインコントローラ51は、撮像された標本1全体の画像の輝度情報に基づいて、サンプル2のエッジを検出する。そして、メインコントローラ51は、エッジに囲まれた領域を撮像範囲6として設定し、記憶部52に記憶する。
【0058】
なお、撮像範囲6は、標本のミクロ領域5(図2(B)一点鎖線参照)を単位領域として設定される。ミクロ領域5は、高倍率画像取得部21において撮像される高倍率画像に対応する単位領域である。ミクロ領域5は、例えば、縦横1mm×1mmとされるが、これに限られない。
【0059】
ステップ105でのフォーカス情報の取得においては、例えば、TTL(Through the Lens)方式のオートフォーカスを用いてフォーカス情報が取得される。TTL方式のオートフォーカスとしては、例えば、コントラスト(像鮮鋭度)方式のオートフォーカス、位相差方式のオートフォーカス等が挙げられるが、これらに限られない。
【0060】
コントラスト方式のオートフォーカスが実行される場合、メインコントローラ51は、第2の撮像部38から画像情報を取得し、この画像データから像鮮鋭度を検知する。像鮮鋭度の評価には、画像情報の信号がBPF(バンドパスフィルタ)を通過することにより得られる高周波成分の強度、あるいは微分により抽出される画像情報の信号のボケ幅等の鮮鋭度を示す信号が用いられる。
【0061】
メインコントローラ51は、鮮鋭度が増加するように、ステージ41をz軸方向に移動させる。そして、メインコントローラは、像鮮鋭度が増加から減少へと切り替わる地点で、ステージ41の移動の向きを反転させ、像鮮鋭度が最大となる地点でステージ41を停止させる。
【0062】
メインコントローラ51は、フォーカスが合ったときの、ステージ41のz軸方向の位置をフォーカス情報として記憶する。
【0063】
位相差方式のオートフォーカスが用いられる場合、プレスキャン光学系32には、例えば、一対のCCDラインセンサや、瞳分割部、ハーフミラー等(いずれも図示せず)が付加される。ハーフミラーは、例えば、光軸上の所定の位置に設けられ、光束の一部をCCDラインセンサ側に導く。
【0064】
一対のCCDラインセンサは、瞳分割部で2分割された光の束をそれぞれ受光し、受光量に応じた信号をメインコントローラ51に出力する。メインコントローラ51は、受光量に応じて出力される信号のズレ量、すなわち、光束の分割方向の相対的位置のズレ量を検出し、デフォーカス量を算出する。
【0065】
メインコントローラ51は、デフォーカス量に基づき、フォーカス位置を算出する。そして、メインコントローラ51は、算出されたフォーカス位置をフォーカス情報として記憶部に記憶する。
【0066】
フォーカス情報は、典型的には、標本1の撮像範囲6に含まれるミクロ領域5の全てについて取得される。メインコントローラ51は、撮像範囲6をすでに認識しているので、フォーカス情報は、撮像範囲6に含まれるミクロ領域5について、フォーカス情報を取得すればよい。
【0067】
あるいは、フォーカス情報は、撮像範囲6に含まれるミクロ領域5のうち、代表的に選択されたミクロ領域5について取得されても構わない。代表的に選択されるミクロ領域5の数は、例えば、4つとされるが、これに限られない。代表的に選択されるミクロ領域5の数は、撮像範囲6の大きさに応じて可変とされていてもよい。
【0068】
全てのミクロ領域5のフォーカス情報が取得される場合、画質の点で有利であり、代表点についてフォーカス情報が取得される場合、時間効率の点で有利である。
【0069】
全てのミクロ領域5についてフォーカス情報が取得される場合と、代表点についてフォーカス情報が取得される場合とで、切り替え可能であっても構わない。
【0070】
ステップ105では、フォーカス情報の取得の他に標本1の構造情報の取得が実行される。標本1の構造情報とは、カバーガラス3の厚さ、サンプル2の厚さ、スライドガラス4の厚さなどである。標本1の構造情報の取得は、プレスキャン光学系32に含まれる図示しない一または複数のレンズ群により実現される。
【0071】
標本1の構造情報は、典型的には、標本1の撮像範囲6に含まれるミクロ領域5の全てについて取得される。しかし、これに限られず、標本1の構造情報は、撮像範囲6に含まれるミクロ領域5のうち、代表的に選択されたミクロ領域5について取得されても構わない。全てのミクロ領域5について標本1の構造情報が取得される場合と、代表的なミクロ領域5について標本1の構造情報が取得される場合とで、切り替え可能であっても構わない。
【0072】
プレスキャン部31での処理が終了すると、メインコントローラ51は、移動機構42を駆動させ、ステージ41を高倍率画像取得部21に移動させる(ステップ106)。そして、メインコントローラ51は、ステップ107へ進み、ステップ107以降で標本1の高倍率画像を取得する。
【0073】
この場合、まず、メインコントローラ51は、水平移動部44の駆動により水平面内でステージ41を移動させ、ステージ上に載置された標本1を初期位置に移動させる(ステップ107)。
【0074】
ここで、初期位置とは、標本1の撮像範囲6に含まれる複数のミクロ領域5のうち、最初に高倍率画像が撮像されるミクロ領域5に対応する位置である。標本1が初期位置に移動されると、最初に高倍率画像が撮像されるミクロ領域5が高倍率光学系の光軸上に配置される。
【0075】
最初に撮像されるミクロ領域5は、例えば、撮像範囲6に含まれる複数のミクロ領域5のうち、左上に位置するミクロ領域5aとされるが、これに限られない。最初に撮像されるミクロ領域5は、左下、右上、あるいは右下のミクロ領域5であってもよく、最初に撮像されるミクロ領域5については特に限定されない。
【0076】
次に、メインコントローラ51は、移動機構42の昇降部43の駆動によりステージを上下方向に移動させて、標本を高倍率光学系22の光軸に沿って移動させ、撮像されるミクロ領域5のフォーカシングを実行する(ステップ108)。この場合、メインコントローラ51は、上述のステップ105で取得されたフォーカス情報に基づいて、ステージ41を上下方向に移動させ、撮像されるミクロ領域5のフォーカスシングを実行する。
【0077】
次に、メインコントローラは、レンズ移動機構30を駆動させることで球面収差補正レンズ28、29を適切な位置に移動させ、球面収差を補正する(ステップ109)。
【0078】
この場合、メインコントローラ51は、プレスキャン部31で取得された情報に基づき、レンズ移動機構30を駆動させて球面収差補正レンズ28、29を光軸に沿って移動させ、球面収差を補正する。
【0079】
球面収差補正についてさらに詳しく説明する。
図5は、球面収差補正についての基本的な考え方を説明するための図である。
図5では、カバーガラス3の底面から少しずれた位置にフォーカス位置(×印参照)がある場合示されている。
【0080】
球面収差は、カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離D4(第1の距離)と相関関係を有する。従って、球面収差補正時の球面収差補正レンズ28、29の位置は、カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離D4と相関関係を有する。従って、カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離D4をメインコントローラ51が認識することができれば、メインコントローラ51は、球面収差補正レンズ28、29を適切な位置に移動させて球面収差を補正することができる。
【0081】
上述のようにメインコントローラ51は、プレスキャン時(ステップ105)においてフォーカス情報を取得しているので、集光レンズ27の前面側の先端部と、スライドガラス4の底面との距離D1は既知である。また、メインコントローラ51は、プレスキャン時(ステップ105)において標本1の構造情報を取得しているので、カバーガラス3の上面と、スライドガラス4の底面との距離D2(標本1の総厚)も既知である。
【0082】
さらに、集光レンズ27の焦点距離から、集光レンズ27の前面側の先端部からフォーカス位置までの距離D3は既知である。
【0083】
従って、下記の式(1)により、カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離D4を算出することができる。
D4=D2+D3−D1・・・(1)
【0084】
メインコントローラ51は、このようにして算出された距離D4に基づき、球面収差補正レンズの移動量を求め、球面収差補正レンズ28、29を適切な位置に移動させる。
【0085】
典型的には、メインコントローラ51は、距離D4と球面収差補正レンズ28、29の位置との関係が示されたルックアップテーブルを参照して球面収差補正レンズ28、29の移動量を求め、球面収差補正レンズ28、29を適切な移動させる。あるいは、メインコントローラ51は、記憶部52に記憶されたプログラムに従い、距離D4に基づいて、球面収差補正レンズ28、29の移動量を求めてもよい。
【0086】
図5の説明において、距離D1、距離D3は、集光レンズ27の前面側の先端部を基準とした場合について説明したが、距離D1、距離D3基準とされる位置は、集光レンズ27の前面側の先端部でなくてもよい。距離D1、距離D3の基準とされる位置は、顕微鏡鏡筒36側の固定された位置であればどこであっても構わない。
【0087】
再び図4を参照して、球面収差が補正されると、メインコントローラ51は、第1の撮像部37により標本1(サンプル2)のミクロ領域5を撮像し、高倍率画像を取得する(ステップ110)。高倍率画像は、ステージ41の位置情報(標本1の位置情報)と共に記憶部52に記憶される。
【0088】
ステップ110において、メインコントローラ51は、移動機構42の駆動によりz軸方向でステージ41の位置を変え、複数枚の高倍率画像を取得してもよい。すなわち、メインコントローラ51は、z軸方向でスキャンしながら複数枚の高倍率画像を取得してもよい。この場合、メインコントローラ51は、上記ステップ105において取得された標本1の構造情報(カバーガラス3、サンプル2、及びスライドガラス4の厚さ)を基にz軸方向でスキャンしながら複数枚の高倍率画像を取得する。高倍率画像が取得される毎のステージ41のz軸方向での移動量は、例えば、10μmとされるが、これに限られない。
【0089】
標本1のミクロ領域の撮像が終了すると、メインコントローラ51は、撮像範囲6内の未撮像のミクロ領域5があるかを判定する(ステップ111)。
【0090】
未撮像のミクロ領域5がある場合(ステップ111のYES)、メインコントローラ51は、水平移動部44の駆動によりステージ41を水平方向へ移動させ、標本1を次の位置へ移動させる(ステップ112)。標本1が次の位置へ移動されると、次に撮像されるミクロ領域5が高倍率光学系22の光軸上に配置される。なお、標本1の撮像範囲6内に含まれるミクロ領域5が撮像される順番については、特に限定されない。
【0091】
標本1が次の位置に移動されると、メインコントローラ51は、再びステップ108〜110に示す処理を実行し、標本1(サンプル2)の高倍率画像を取得する。
【0092】
ステップ111において、未撮像のミクロ領域5がない場合(ステップ111のNO)、つまり、撮像範囲6に含まれる全てのミクロ領域5の撮像が終了した場合、メインコントローラ51は、次のステップ113へ進む。
【0093】
ステップ113では、メインコントローラ51は、撮像済みの標本1を収納装置10へ戻す処理を実行する。この場合、まず、メインコントローラ51は、移動機構42の水平移動部44を駆動してステージ41を搬送装置70側に移動させて、撮像済みの標本1を搬送装置70へ受け渡す。メインコントローラ51は、搬送装置70及びローディング機構13を制御し、撮像済みの標本1を収納装置10の元の位置へ戻す。
【0094】
撮像済みの標本1が元の位置へ戻されると、メインコントローラ51は、未撮像の標本1が収納装置10内にあるかを判定する(ステップ114)。未撮像の標本1がある場合(ステップ114のYES)、メインコントローラ51は、ステップ102へ戻り、ステップ102〜ステップ113に示す処理を実行する。そして、メインコントローラ51は、その未撮像の標本1の高倍率画像を取得する。
【0095】
ステップ114において、未撮像の標本がない場合(ステップ114のNO)、つまり収納装置10に収納された全ての標本1の撮像が終了した場合、メインコントローラ51による画像取得の処理が終了される。
【0096】
画像処理部53は、撮像された高倍率画像(部分画像)と、その高倍率画像が取得された位置を示す位置情報とに基づいて、合成画像を生成する。合成画像が生成されると、画像処理部53は、メインコントローラ51に制御に応じて、生成された合成画像を表示装置61に出力して表示させる。このようにして、標本1(サンプル2)の画像が表示装置61上に表示される。
【0097】
[作用等]
以上説明したように、本実施形態では、メインコントローラ51の制御により、球面収差補正レンズ28、29が移動されて、球面収差が補正されるので、自動的に球面収差を補正することができる。これにより、手動で球面収差を補正する場合に比べて、処理効率が向上し、また、手動で球面収差を補正する場合の煩わしさを解消することができる。
【0098】
また、本実施形態では、メインコントローラ51は、カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離D4を算出し、この距離D4に基づいて、球面収差を補正するので、正確に球面収差を補正することができる。
【0099】
さらに本実施形態では、プレスキャン部31において取得された情報(高倍率画像取得部21でのフォーカシングのためのフォーカス情報、z軸方向スキャンのための標本1の構造情報)を有効に活用して、上記距離D4を算出することができる。これにより、顕微鏡システムに距離D4を算出するための新たな部材等を付加する必要がないので、コストを削減することができる。
【0100】
[第1実施形態変形例]
第1実施形態の説明では、カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離D4は、上記式(1)により算出されるとして説明した。しかし、距離D4は、上記式(1)以外の方法によっても算出することができる。
【0101】
図5を参照して、例えば、カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離D4は、以下の式(2)により求めてもよい。
D4=D3−D5・・・(2)
【0102】
つまり、カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離D4は、集光レンズ27の前面側の先端部からフォーカス位置までの距離D3と、集光レンズ27の前面側の先端部からカバーガラス3の上面までの距離D5(第2の距離)との差分により求めても構わない。
【0103】
上記式(2)により、距離D4が算出される場合、顕微鏡システム100には、集光レンズ27の前面からカバーガラス3上面までの距離D5を検出する、図示しない距離センサ(距離測定部)が追加される。
【0104】
メインコントローラ51は、例えば、ステップ108におけるフォーカスシングが実行されてフォーカスが合ったときに、距離センサから距離D5の情報を取得し、この距離の情報に基づいて距離D4を算出すればよい。
【0105】
このような方法によって距離D4が算出された場合にも、球面収差を正確に補正することができる。
【0106】
なお、図5では、距離D5は、集光レンズ27の前面側の先端部を基準とした場合が示されているが、距離D5の基準とされる位置は、集光レンズ27の前面側の先端部でなくてもよい。距離D5の基準とされる位置は、顕微鏡鏡筒36側の固定された位置であればどこであっても構わない。
【0107】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態においては、顕微鏡システム100の構成及び顕微鏡システム100の各部の構成は、典型的に第1実施形態と同様である。従って、顕微鏡システム100の動作を中心に説明する。なお、第2実施形態以降の説明では、第1実施形態において説明した顕微鏡システム100及び顕微鏡システム100の各部については、同一符号を付して説明する。
【0108】
図6は、第2実施形態に係る顕微鏡システムの動作を示すフローチャートである。
上述の第1実施形態に係る顕微鏡システム100の処理の説明では、プレスキャン部31によるプレスキャン時にフォーカス情報が取得されるとして説明した(図5ステップ105参照)。一方、第2実施形態に係る顕微鏡システム100の処理では、高倍率画像取得部21における高倍率画像の取得の際にフォーカス位置が検出される点において、上述の第1実施形態に係る顕微鏡システム100の処理と異なっている(図6ステップ208参照)。
【0109】
メインコントローラ51は、入力装置62からの処理の開始の信号が入力されたか否かを判定し(ステップ201)、信号が入力された場合、標本1を収納装置10からローディングしてステージ41上に搬送する(ステップ202)。
【0110】
次に、メインコントローラ51は、ステージ41をプレスキャン部31へ移動させて(ステップ203)、標本1のプレスキャンを実行する。メインコントローラ51は、標本1の全体画像を取得し、この全体画像のエッジ検出により、標本1の撮像範囲6を設定する(ステップ204)。
【0111】
次に、メインコントローラ51は、標本1の構造情報(カバーガラス3、サンプル2、及びスライドガラス4の厚さ)を取得する(ステップ205)。なお、プレスキャン時には、フォーカス情報は取得されない。
【0112】
プレスキャンが終了すると、メインコントローラ51は、ステージ41を高倍率画像取得部21へ移動させて(ステップ206)、標本1の高倍率画像を取得する。
【0113】
メインコントローラ51は、ステージ41を水平方向へ移動させて、標本1を初期位置へ移動させる(ステップ207)。
【0114】
次に、TTL方式のオートフォーカスを用いてフォーカスシングが実行される。TTL方式のオートフォーカスとしては、例えば、コントラスト(像鮮鋭度)方式のオートフォーカス、位相差方式のオートフォーカス等が用いられる。
【0115】
コントラスト方式のオートフォーカスが実行される場合、メインコントローラ51は、第1の撮像部37から取得される画像データから像鮮鋭度を検知し、像鮮鋭度が最大となる地点でz軸方向のステージ41の移動を停止させればよい。
【0116】
位相差方式のオートフォーカスが用いられる場合、高倍率光学系22には、例えば、一対のCCDラインセンサや、瞳分割部、ハーフミラー等(いずれも図示せず)が付加される。ハーフミラーは、例えば、対物レンズ23と結像レンズ24の間の光軸上に設けられ、光束の一部をCCDラインセンサ側に導く。一対のCCDラインセンサは、瞳分割部で2分割された光の束をそれぞれ受光し、受光量に応じた信号をメインコントローラ51に出力する。メインコントローラ51は、受光量に応じて出力される信号のズレ量を検出し、デフォーカス量を算出する。メインコントローラ51は、算出されたデフォーカス量に基づき、ステージ41をz軸方向に移動させる。
【0117】
TTL方式のフォーカシングが終了すると、メインコントローラ51は、カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離D4に基づいて、球面収差補正レンズ28、29の移動量を算出する。そして、メインコントローラ51は、算出された移動量に応じて球面収差補正レンズ28、29をz軸方向での適切な位置に移動させて球面収差を補正する。
【0118】
カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離D4の算出には、上記式(1)、(2)のうち、どちらの式が用いられてもよい。なお、上記式(2)が用いられる場合、顕微鏡システム100には、集光レンズ27の前面側の先端部からカバーガラス3の上面までの距離D5を検出する距離センサが追加される。
【0119】
球面収差が補正されると、メインコントローラ51は、第1の撮像部により標本1のミクロ領域5を撮像し、標本1(サンプル2)の高倍率画像を取得する(ステップ210)。ステップ210において、z軸方向でスキャンしながら複数枚の高倍率画像が取得されてもよい。この場合、メインコントローラ51は、プレスキャン時に取得された標本の構造情報を基にz軸方向でスキャンしながら複数枚の高倍率画像を取得する。
【0120】
次に、メインコントローラ51は、未撮像のミクロ領域5があるかを判定し(ステップ211)、未撮像のミクロ領域5がある場合、ステージ41を水平方向へ移動させ、標本1を次の位置へ移動させる(ステップ212)。そして、メインコントローラ51は、再びステップ208〜210に示す処理を実行し、標本1(サンプル2)の高倍率画像を取得する。なお、第2実施形態では、撮像範囲6に含まれるミクロ領域の全てについて、TTL方式でフォーカス位置が検出されることになるので、代表点についてフォーカス位置の検出がされる場合に比べて画質の点で有利である。
【0121】
撮像範囲6に含まれる全てのミクロ領域5の撮像が終了した場合(ステップ211のNO)、メインコントローラ51は、撮像済みの標本1を収納装置10内の元の位置へ戻す(ステップ213)。
【0122】
次に、メインコントローラ51は、未撮像の標本1が収納装置10内にあるかを判定し(ステップ114)、未撮像の標本1がある場合、メインコントローラ51は、ステップ102へ戻り、ステップ102〜ステップ113に示す処理を実行する。一方で、収納装置10内に収納された全ての標本1の撮像が終了した場合、メインコントローラ51による画像取得の処理が終了される。
【0123】
以上のような処理によっても、上述の第1実施形態と同様の作用効果を奏する。すなわち、メインコントローラ51の制御により、球面収差補正レンズ28、29が移動されて、球面収差が補正されるので、自動的に球面収差を補正することができる。これにより、手動で球面収差を補正する場合に比べて、処理効率が向上し、また、手動で球面収差を補正する場合の煩わしさを解消することができる。
【0124】
[第2実施形態変形例]
第2実施形態において、プレスキャン部31を省略するとも可能である。すなわち、第2実施形態では、フォーカス位置が高倍率画像取得部21において検出されるので、プレスキャン部31は、必ずしも設けられていなくてもよい。
【0125】
ここで、プレスキャン部31が省略される場合、ステップ205において標本1の構造情報が取得されない。この場合、上記(1)の右辺に示される距離D2(カバーガラスの上面及びスライドガラスの底面の距離)の情報が取得されないことになる。
【0126】
従って、プレスキャン部31が省略される場合、上記式(2)を用いて、球面収差の補正に用いられる距離D4(カバーガラス3の上面からフォーカス位置までの距離)が算出される。
【0127】
あるいは、プレスキャン部31が省略される場合、カバーガラス3の上面からスライドガラス4の底面の距離D2(標本1の総厚)を測定する厚さ測定部(図示せず)が顕微鏡システムに追加され、上記式(1)を用いて距離D4が算出されてもよい。厚さ測定部は、顕微鏡システム100のどこの位置に設けられても構わないが、例えば、収納装置10内や、搬送装置70に設けられる。メインコントローラ51は、測定部により測定された距離D2に基づいて、上記式(1)により距離D4を求め、球面収差を補正すればよい。
【0128】
<第3実施形態>
次に、本実施形態の第3実施形態について説明する。
第3実施形態では、上記各実施形態と高倍率光学系の構成が異なっている。第3実施形態では、高倍率光学系に含まれるレンズが移動され、球面収差が補正された場合でも、高倍率光学系のフォーカス位置と、結像位置との距離(以下、物像間距離)を一定に保つことができるように構成されている。従って、その点を中心に説明する。
【0129】
図7は、第3実施形態に係る顕微鏡システムが備える高倍率光学系を示す図である。
【0130】
図7に示すように、高倍率光学系81は、対物レンズ82と、結像レンズ83とを含む。
対物レンズ82と、結像レンズ83とは、それぞれレンズ移動機構84、85により光軸に沿って移動可能に保持されている。対物レンズ82及び結像レンズ83は、レンズ移動機構84、85により相対的な距離が変位されることで、球面収差を補正することが可能とされている。
【0131】
すなわち、第3実施形態の対物レンズ82及び結像レンズ83は、球面収差補正レンズとしての機能も兼用する。
【0132】
対物レンズ82は、両側非球面レンズであり、対物レンズ82自体の球面収差は補正されている。対物レンズ82の焦点距離は、例えば、200mmとされ、対物レンズ82の前面側の先端部からフォーカス位置までの距離は、例えば195.8mmとされる。対物レンズ82の後面側の曲率半径は、例えば813.645mmとされ、後面側の円錐定数は、例えば−51.05とされる。また、対物レンズ82の前面側の曲率半径は、例えば−116.359mmとされ、前面側の円錐定数は、例えば−2.5907とされる。
【0133】
対物レンズ82の物体側NA(numerical aperture)は、例えば、0.707とされ、対物レンズ82の厚さは、例えば、50mmとされる。
【0134】
なお、対物レンズ82の焦点距離、曲率半径、円錐定数、NA、厚さなどの値は、上記した値に限れられず、もちろん他の値も取り得る。
【0135】
結像レンズ83としては、薄肉理想レンズが想定されている。結像レンズ83の焦点距離は、例えば、100mmとされるが、これに限られない。
【0136】
上述のように、対物レンズ82及び結像レンズ83は、移動可能であるが、基準状態では、第1の撮像部37の結像面と結像レンズ83との距離は、100mmとされる。また、基準状態では、結像レンズ83と対物レンズ82の後面側の最後部との距離は、100mmとされる。
【0137】
図8は、図7に示す高倍率光学系のスポットダイアグラムを示す図である。
図8に示すように、スポットダイアグラムのRMS(root mean square)半径は、0.568μmであり、ほぼ回折限界である。
【0138】
次に、高倍率光学系81に含まれるレンズ82、83が移動され、球面収差が補正される際に高倍率光学系81の物像間距離が変わらないようにするための基本的な考え方について説明する。
【0139】
図9、図10、図11は、この基本的な考え方を説明するための図である。
【0140】
図9(A)に示すように、高倍率光学系81に厚さ10mmのカバーガラス3が挿入され、カバーガラス3の底面に合わせてフォーカスが調整されたとする。
【0141】
この場合のフォーカス位置及び結像位置の距離(物像間距離)は、100mm+100mm+50mm+189.38mm+10mm=449.38mmである。
【0142】
一方で、上記図7に示す場合、つまり、カバーガラスが挿入されていない場合の物像間距離は、100mm+100mm+50mm+195.8mm=445.8mmである。
【0143】
従って、高倍率光学系81に10mmのカバーガラス3が挿入された場合、カバーガラス3が挿入されていない場合に比べて、3.58mm分、物像間距離が伸びる。これは、カバーガラス3の屈折率(例えば、屈折率1.5)により、フォーカス位置がずれるためである。
【0144】
このままだと、物像間距離が変化したしままである。そこで、物像間距離をカバーガラス3が挿入されていない場合の物像間距離と一致させるために、図10(A)に示すように、対物レンズ82及び結像レンズ83の距離が調整されたとする。つまり、対物レンズ82が上方に3.58mm、カバーガラス3が上方に3.58mm移動されたとする。
【0145】
この場合、物像間距離は、100mm+96.42mm+50mm+189.38mm+10mm=445.8mmとなり、カバーガラス3が挿入されていない場合の物像間距離と一致する。
【0146】
図10(B)には、図10(A)に示す場合のスポットダイアグラムが示されている。
図10(B)に示すように、スポットダイアグラムのRMS半径は、球面収差の影響で大幅に悪化し、41μmとなる。すなわち、物像間距離が一致したとしても、球面収差の影響によりRMS半径が大幅に悪化する。
【0147】
この球面収差は、カバーガラス3(物体)と、結像レンズ83との距離を変化させることで補正することができる。
【0148】
図11(A)には、物像間距離が、カバーガラス3が挿入されていない場合の物像間距離と一致する場合であって、かつ、RMSが最小となる場合の各部材の位置関係が示されている。
【0149】
図11に示すように、厚さ10mmのカバーガラス3が高倍率光学系81に挿入された場合、結像面及び結像レンズ83の距離は、100.064mmとされる(カバーガラス3の上面及び結像レンズ83の距離は345.709mm)。また、結像レンズ83及び対物レンズ82の後面の距離は、96.743mmとされ、対物レンズ82の前面及びカバーガラス3の上面の距離は、188.966mmとされる。
【0150】
結像レンズ83、対物レンズ82等を上記位置関係とすることで、物像間距離を一定に保ったまま球面収差を適切に補正することができる。
【0151】
図11(B)には、図11(A)に示す場合のスポットダイアグラムが示されている。
図11(B)に示すように、球面収差は適切に補正されており、この場合のRMS半径は、5.79μmとなる。
【0152】
図12は、カバーガラス3の厚さと、各種のパラメータとの関係を示す図である。図12では、各種のパラメータとして、カバーガラス3(物体)及び結像レンズ83の距離と、結像レンズ83及び対物レンズ82の後面の距離と、対物レンズ82の前面及びカバーガラス3の上面の距離と、RMS半径とが示されている。
【0153】
図13は、図12に示す表をグラフ化した、カムカーブを示す図である。
なお、図12、図13では、カバーガラス3の厚さがゼロの場合(図7参照)を基準として変化分が示されている。
【0154】
図12、図13では、カバーガラス3の厚さと、各種パラメータとの関係が示されているが、カバーガラス3の上面及びフォーカス位置の距離D4(図5参照)と、上記各種パラメータとの関係についても図12、図13に示す関係は成立する。
【0155】
典型的には、メインコントローラ51は、上記式(1)、あるいは上記式(2)により算出された距離D4に基づいて、結像レンズ、対物レンズ、ステージを移動させ、各種のパラメータが図12、図13に示す関係を満たすようにすればよい。これにより、物像間距離を一定に保ったまま球面収差を適切に補正することができる。
【0156】
このように、第3実施形態では、物像間距離を一定に保ったまま球面収差を適切に補正することができるので、フォーカス合わせの高速化、単純化が実現される。
【0157】
[第3実施形態変形例]
第3実施形態の説明では、対物レンズ82及び結像レンズ83の両方が、レンズ移動機構84、85により光軸に沿って移動される場合について説明した。しかし、レンズ移動機構によって移動されるのは、対物レンズ82及び結像レンズ83のうち、いずれか一方であっても構わない。また、第3実施形態では、高倍率光学系81は、2枚のレンズ82、83により構成される場合について説明したが、高倍率光学系81に含まれるレンズの枚数は、3枚以上であっても構わない。この場合、レンズ移動機構によって光軸に沿って移動されるレンズ(球面収差補正レンズ)の枚数も特に限定されない。
【0158】
<各種変形例>
上記各実施形態では、フォーカシングの際に、ステージ41側が上下方向(z軸方向)に移動するとして説明した。しかし、これに限られず、顕微鏡鏡筒36側が上下方向に移動されても構わない。あるいは、ステージ41側及び顕微鏡鏡筒36側の両方が上下方向に相対的に移動可能であっても構わない。
【符号の説明】
【0159】
1…標本
2…サンプル
3…カバーガラス
4…スライドガラス
10…収納装置
13…ローディング機構
20…顕微鏡装置
21…高倍率画像取得部
22、81…高倍率光学系
23、82…対物レンズ
24、83…結像レンズ
27…集光レンズ
28.29…球面収差補正レンズ
30、84、85…レンズ移動機構
31…プレスキャン部
32…プレスキャン光学系
36…顕微鏡鏡筒
37…第1の撮像部
38…第2の撮像部
41…ステージ
42…移動機構
43…昇降部
44…水平移動部
50…制御装置
51…メインコントローラ
53…画像処理部
61…表示装置
70…搬送装置
100…顕微鏡システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の標本を収納可能な収納部と、
前記収納部からローディングされた前記標本を載置するステージと、
球面収差補正用のレンズを有する光学系と、
前記光学系を介して、前記ステージ上に載置された前記標本の部分画像を撮像可能な撮像部と、
前記球面収差補正用のレンズを光軸に沿って移動させる移動機構と、
前記移動機構による前記球面収差補正用のレンズの移動を制御し、球面収差を補正する制御部と、
前記撮像部により撮像された前記部分画像を合成し、合成画像を生成する画像処理部と、
前記生成された前記合成画像を表示する表示部と
を具備する顕微鏡システム。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微鏡システムであって、
前記制御部は、前記標本の上面と、前記光学系のフォーカス位置との第1の距離を算出し、前記第1の距離に応じて、前記球面収差補正用のレンズを移動させるように前記移動機構を制御する
顕微鏡システム。
【請求項3】
請求項2に記載の顕微鏡システムであって、
前記制御部は、前記光学系のフォーカス位置と結像位置との距離を一定に保つように、前記球面収差補正用のレンズを移動させる
顕微鏡システム。
【請求項4】
請求項2に記載の顕微鏡システムであって、
前記撮像部による前記標本の前記部分画像の撮像に先立って、前記標本をプレスキャンするプレスキャン部をさらに具備し、
前記制御部は、前記プレスキャン部により得られた情報に基づいて前記第1の距離を算出する
顕微鏡システム。
【請求項5】
請求項2に記載の顕微鏡システムであって、
前記標本の厚さを測定する厚さ測定部をさらに具備し、
前記制御部は、前記標本の厚さの情報に基づいて前記第1の距離を算出する
顕微鏡システム。
【請求項6】
請求項2に記載の顕微鏡システムであって、
前記光学系を内包する顕微鏡鏡筒と、
前記顕微鏡鏡筒及び前記ステージのうち少なくとも一方を前記光軸に沿って移動させる移動部と、
前記顕微鏡鏡筒側の所定の位置と、前記カバーガラスの上面との第2の距離を測定する距離測定部とをさらに具備し、
前記制御部は、前記移動部を制御することでフォーカシングを実行し、フォーカスが合ったときの前記距離測定部からの前記第2の距離の情報に基づいて、前記第1の距離を算出する
顕微鏡システム。
【請求項7】
請求項1に記載の顕微鏡システムであって、
前記光学系を内包する顕微鏡鏡筒と、
前記顕微鏡鏡筒及び前記ステージのうち少なくとも一方を前記光軸に沿って移動させる移動部とをさらに具備し、
前記制御部は、前記移動部を制御することでフォーカシングを実行する
顕微鏡システム。
【請求項8】
請求項7に記載の顕微鏡システムであって、
前記制御部は、TTL(Through the Lens)方式のフォーカシングを実行する
顕微鏡システム。
【請求項9】
複数の標本を収納可能な収納部から前記標本をローディングさせて前記標本をステージ上に載置させ、
球面収差補正用のレンズを有する光学系の光軸に沿って前記球面収差補正用のレンズを移動させる移動機構の制御により球面収差を補正し、
前記光学系を介して前記ステージ上に載置された前記標本の部分画像を撮像可能な撮像部から前記部分画像の情報を取得し、
前記部分画像の情報に基づいて合成画像を生成し、
前記生成された合成画像を表示部に表示させる
顕微鏡システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−95685(P2011−95685A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252378(P2009−252378)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】