説明

顕微鏡装置

【課題】照明光の標本への集光性能を変化させることなく照明光を2次元的に走査する。
【解決手段】光源2からの照明光の波面を変調する空間光変調素子4と、非平行な軸線S1,S2回りにそれぞれ揺動する2枚のミラー5a,5bを有し照明光を2次元的に走査するスキャナ5と、スキャナ5における像を対物光学系7の瞳位置にリレーするリレー光学系6と、ミラー5a,5bの揺動に応じて、空間光変調素子4から対物光学系7までの間において、照明光の光線Lを光軸と交差する方向に移動させる光線シフト機構6a,8とを備え、該光線シフト機構6a,8は、光線Lを固定してミラー5a,5bを揺動させたと仮定した場合のリレー光学系6により対物光学系7の瞳位置にリレーされる像の移動方向とは逆方向に、ミラー5a,5bを停止させた状態を仮定した場合の対物光学系7の瞳位置の像が移動するように光線Lを移動させる顕微鏡装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デフォーマブルミラーによって波面を変形させたレーザ光をガルバノミラーユニットを経由して対物レンズに入射させる走査型共焦点顕微鏡装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この装置は、デフォーマブルミラーの反射面を変化させることにより、レーザ光の集光点が深さ方向に変化するように構成されている。
また、ガルバノミラーが揺動されることにより、レーザ光が対物レンズの瞳中心からずれて、レンズ枠等によって蹴られ、光量不足による表示ムラが発生することを防止するために、ガルバノミラーの揺動に同期してガルバノミラーを光軸方向に平行移動させるスキャナ装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
そして、ガルバノミラーに入射される光が平面波である場合には、特許文献2に開示されているスキャナ装置により、対物レンズの瞳中心にレーザ光を入射させ続けることができ、そのときの集光性能を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−165212号公報
【特許文献2】特開平10−68901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、対物レンズの入射瞳位置に入射される光が平面波ではなく、特許文献1に開示されているように波面変調された光である場合には、特許文献2に開示されている方法では、ガルバノミラーを平行移動させることによってレーザ光の光路長が変動するため、対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置が変動し、レーザ光の集光性能が変化してしまうという問題がある。この問題は、対物レンズの入射瞳位置に入射される光が平面波である場合にも厳密には生じ得るが、波面変調された光の場合には集光性能を劣化させる影響が比較的大きい。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、光源から導かれてきた照明光の標本への集光性能を変化させることなく、標本上において照明光を2次元的に走査することができる顕微鏡装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、光源からの照明光の波面を変調する空間光変調素子と、非平行な2つの軸線回りにそれぞれ揺動する2枚のミラーを有し、前記空間光変調素子により波面が変調された照明光を2次元的に走査するスキャナと、前記スキャナにおける像を対物光学系の瞳位置にリレーするリレー光学系と、前記ミラーの揺動に応じて、前記空間光変調素子から前記対物光学系までの間において、前記照明光の光線を光軸と交差する方向に移動させる光線シフト機構とを備え、該光線シフト機構は、前記光線を固定して前記ミラーを揺動させたと仮定した場合における前記リレー光学系により前記対物光学系の瞳位置にリレーされる像の移動方向とは逆方向に、前記ミラーを停止させた状態を仮定した場合における前記対物光学系の瞳位置の像が移動するように前記光線を移動させる顕微鏡装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、空間光変調素子によって波面が変調された照明光がスキャナに導かれ、スキャナから出射された照明光がリレー光学系を介して対物光学系に導かれ、対物光学系によって標本上に集光される。このとき、スキャナを構成する2枚のミラーは、平行でない2つの軸線回りにそれぞれ揺動させられるので、照明光は標本上において2次元的に走査される。
【0009】
この場合において、スキャナに形成された像が固定されていると、スキャナを構成する2枚のミラーの内、対物光学系の瞳位置と光学的に共役な位置に配置されていないミラーが揺動させられることにより、対物光学系の瞳位置にリレーされる像が光軸に交差する方向に移動させられる。本発明によれば、対物光学系の瞳位置にリレーされる像の移動を相殺する方向に、光線シフト機構が対物光学系に入射される光線を移動させることにより、対物光学系の瞳位置において像の位置を静止させることができる。
【0010】
この場合に、光路長の変動を伴わないので、スキャナから対物光学系の瞳位置までのリレー関係が変化しない。したがって、リレーする照明光の波面が平面波とは限らない場合においても、空間光変調素子で変調することによりスキャナの位置において実現された波面を対物光学系の瞳位置に正確にリレーし、集光性能の低下を防止することができる。
【0011】
上記発明においては、前記光線シフト機構が、前記リレー光学系を構成する光学素子の内少なくとも1つを、前記光軸と交差する方向に移動させてもよい。
このようにすることで、光学素子を移動させるだけでよいので、光線シフト機構の構成を簡便にすることができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記リレー光学系が、前記2枚のミラーの間における像を前記瞳位置にリレーしてもよい。
このようにすることで、光線シフト機構による光線の移動量を小さく抑えることができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記光線シフト機構が、前記リレー光学系を構成する光学素子の内少なくとも1つを、前記光軸に交差する揺動軸線回りに揺動させてもよい。
このようにすることで、光学素子を揺動させるだけで、光線の光軸に対する光学素子の傾斜角度に応じて光線を光軸に交差する方向に移動させることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記リレー光学系が、一方の前記ミラーの揺動軸線上の像を前記瞳位置にリレーしてもよい。
このようにすることで、ミラーの揺動方向に合わせて1軸方向に光線を移動させるだけでよいので、光線シフト機構の構成を簡便にすることができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記リレー光学系が、前記2枚のミラーの内、より高速に揺動させられるミラーの揺動軸線上の像を前記瞳位置にリレーしてもよい。
このようにすることで、光線シフト機構による光線の移動を低速側のミラーの揺動速度に合わせて行うことができ、より容易に、対物光学系の瞳位置に形成される像を静止させることができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記空間光変調素子上の像を前記スキャナにリレーするもう1つのリレー光学系を備えていてもよい。この場合には、前記光線シフト機構が、前記もう1つのリレー光学系を構成する光学素子の内少なくとも1つを、前記光軸に交差する方向に移動させ、または、前記光軸に交差する揺動軸線回りに揺動させてもよい。
このようにすることで、平行光を形成している部分で光線を移動させて、光線の移動に伴って照明光に収差が発生することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光源から導かれてきた照明光の標本への集光性能を変化させることなく、標本上において照明光を2次元的に走査することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る顕微鏡装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の顕微鏡装置のスキャナを示し、対物光学系の瞳位置と光学的に共役な位置が高速側のミラーと低速側のミラーとの中間位置に配置されている例を示す斜視図である。
【図3】リレー光学系を構成するレンズの動作を説明する図である。
【図4】図2の場合において、図1の顕微鏡装置の対物光学系の入射瞳位置における像の移動を説明する図である。
【図5】図2の変形例であって、図1の顕微鏡装置のスキャナを示し、対物光学系の瞳位置と光学的に共役な位置が高速側のミラーの揺動軸線上に配置されている例を示す斜視図である。
【図6】図5の場合において、図1の顕微鏡装置の対物光学系の入射瞳位置における像の移動を説明する図である。
【図7】図3の変形例であって、リレー光学系を構成するレンズを揺動させる場合のレンズの動作を説明する図である。
【図8】光線シフト機構の変形例であって、平行平板によってレーザ光を移動させる場合の平行平板の動作を説明する図である。
【図9】光線シフト機構のもう1つの変形例であって、ミラーによってレーザ光を移動させる場合のミラーの動作を説明する図である。
【図10】図1の顕微鏡装置の変形例であって、空間光変調素子とスキャナとの間にもう1つのリレー光学系を備え、空間光変調素子として反射型を用いた場合の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る顕微鏡装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置1は、図1に示されるように、レーザ光(照明光)Lを発生する光源2と、光源2から発せられたレーザ光Lの波面を略平面波に変換するコリメータレンズ3と、略平面波に変換されたレーザ光Lの波面を変調する空間光変調素子4と、該空間光変調素子4によって波面が変調されたレーザ光Lを2次元的に走査するスキャナ5と、該スキャナ5により走査されたレーザ光Lをリレーするリレー光学系6と、該リレー光学系6によってリレーされたレーザ光Lを集光する対物光学系7と、空間光変調素子4、スキャナ5およびリレー光学系6を構成する少なくとも1つのレンズ6a(光線シフト機構)を制御する制御部(光線シフト機構)8と、対物光学系7により集光された標本Aからの蛍光を検出する光検出器9とを備えている。図中、符号10は、スライドガラス上に載置された標本Aを搭載するステージである。
【0020】
空間光変調素子4は、例えば、液晶のセルが平面状に配列された液晶素子を用いた透過型であり、各セルに印加される電圧に従って各セルの屈折率が変化するようになっている。空間光変調素子4は、コリメータレンズ3によって略平面波に変換されたレーザ光Lを透過させる際に、各セルの屈折率に従ってレーザ光の波面の各位置における位相をずらすことにより、レーザ光Lの波面を変調する。空間光変調素子4を透過したレーザ光Lはスキャナ5に入射される。
【0021】
ここで、空間光変調素子4は、スキャナ5が備える一対のミラー5a,5b(後述)の中間位置においてレーザ光Lが所望の波面形状を有するように、レーザ光Lに波面を付与する。すなわち、空間光変調素子4は、所望の波面形状に、空間光変調素子4からミラー5a,5bの中間位置までの光路で生じる波面形状の変化分を相殺する波面形状を加算した波面形状をレーザ光Lに付与する。
【0022】
スキャナ5は、図2に示されるように、捻れの位置に配置される2つの揺動軸線S1,S2回りにそれぞれ揺動可能に設けられた2つのミラー5a,5bを備えている。一方の揺動軸線S1は、他方の揺動軸線S2に直交する平面内に配置されている。これにより、上記平面に沿う一方向から見ると、図1に示されるように、2つの揺動軸線S1,S2は相互に直交して配置されている。ここで、ミラー5a,5bの中間位置は、対物光学系7の入射瞳位置とは光学的に共役な位置関係に配置されている。図2におけるハッチングは、ミラー5a,5bの中間位置が対物光学系7の入射瞳位置と光学的に共役な位置に配置されていることを示している。
【0023】
一方のミラー5aの揺動速度は、他方のミラー5bの揺動速度に対して十分に速く設定されている。高速側のミラー5aはレーザ光Lの標本A上における走査のために使用され、低速側のミラー5bはレーザ光Lの標本A上における走査位置を送るために使用される。図中、符号5c,5dは各ミラー5a,5bを揺動動作させるためのモータ、符号11はミラーである。
【0024】
リレー光学系6は、複数(図示する例では2つ)のレンズ6a,6bにより構成されている。リレー光学系6は、ミラー5a,5bの中間位置に形成された像を対物光学系7の入射瞳位置(瞳位置)にリレーするように構成されている。図3に示されるように、複数のレンズ6a,6bの内少なくとも1つのレンズ(図示する例では光源2側に配置された6a)は、レーザ光Lの光軸に直交する平面内において、互いに直交する2軸方向に平行移動可能に設けられている。レンズ6aの移動によって、レーザ光(光線)Lは光軸に交差する方向に移動させられる。
【0025】
図1において、符号12はレーザ光Lを反射し蛍光を透過するダイクロイックミラー、符号13は集光レンズである。ダイクロイックミラー12を透過した蛍光は集光レンズ13によって集光され、光検出器9によって検出されるようになっている。光検出器9によって検出された蛍光の強度と、その検出時のスキャナ5によるレーザ光Lの走査位置情報とを対応づけて記憶しておくことにより、2次元的な蛍光画像を取得することができるようになっている。
【0026】
制御部8は、空間光変調素子4の各セルの屈折率が予め設定された屈折率となるように、空間光変調素子4に対して各セルに電圧を印加させる電圧印加指令信号を出力するようになっている。空間光変調素子4の各セルの屈折率は、入射された平面波の波面を変調して対物光学系7の焦点位置において1点に集光させることができるような屈折率であり、各種光学系の収差や標本Aにおける屈折率分布等を考慮して、予め算出あるいは測定しておくことができる。
【0027】
また、制御部8は、スキャナ5の各ミラー5a,5bを揺動させるモータ5c,5dに対して、揺動角度を指令する角度指令信号を出力する。そして、制御部8は、この角度指令信号に同期して、リレー光学系6を構成するレンズ6aを、光軸に垂直な2軸方向に平行移動させる移動指令信号を出力するようになっている。
【0028】
具体的には、図4に示されるように、高速側のミラー5aを固定した状態で低速側のミラー5bを揺動させたと仮定したときの、対物光学系7の入射瞳位置におけるレーザ光Lの像Bの移動方向とは逆方向に、低速側のミラー5bを固定したと仮定した状態でレーザ光Lの像Bを移動させるように、低速側のミラー5bの揺動に応じてレンズ6aを矢印Cの方向に平行移動させる。また、高速側のミラー5aの揺動についても、低速側のミラー5bの揺動と同様にして、高速側のミラー5aの揺動に応じた像Bの移動方向とは逆方向に、矢印Cの方向と直交する矢印Dの方向にレンズ6aを平行移動させる。
【0029】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡装置1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置1を用いて標本Aの蛍光観察を行うには、制御部8から空間光変調素子4に対して各セルへの電圧の印加を指令する電圧印加指令信号を出力した状態で、光源2において発生させたレーザ光Lをコリメータレンズ3を介して略平面波として、空間光変調素子4に入射させる。
【0030】
空間光変調素子4を透過したレーザ光Lは直進してスキャナ5に入射される。スキャナ5においては、高速側のミラー5aが揺動させられることにより、入射されたレーザ光Lが走査方向に揺動させられ、低速側のミラー5bが揺動させられることにより、入射されたレーザ光Lが送り方向に揺動させられる。これにより、レーザ光Lが2次元的に走査される。
【0031】
スキャナ5により走査されたレーザ光Lは、リレー光学系6に入射される。リレー光学系6は、2つのミラー5a,5bの中間位置に形成されたレーザ光Lの像を、これと光学的に共役な位置に配置されている対物光学系7の入射瞳位置にリレーする。
【0032】
この場合において、仮に、レンズ6aを固定したままの状態でスキャナ5を作動させると、各ミラー5a,5bの揺動に従って、対物光学系7の入射瞳位置にリレーされたレーザ光Lの像が光軸に交差する2軸方向に直線的に移動する。このスキャナ5の揺動による移動方向をP方向、移動量をΔPとする。一方、各ミラー5a,5bを停止させた状態でレンズ6aを移動させることとしても、対物光学系7の入射瞳位置にリレーされるレーザ光の像が光軸に交差する方向に移動する。この移動方向をQ方向、移動量をΔQとする。
【0033】
本実施形態においては、制御部8が、P方向とQ方向とが逆方向となり、かつ、ΔP=ΔQとなるように、レンズ6aを移動させてレーザ光Lの位置をシフトさせる。したがって、ミラー5a,5bの揺動に拘わらず、対物光学系7の入射瞳位置にリレーされるレーザ光Lの像を静止させた状態に維持することができる。入射瞳位置に入射するレーザ光Lは光軸に交差する方向に変動しないので、入射瞳全体にわたるようにレーザ光Lを入射させることができ、最大限に明るい照明を行うことができる。
【0034】
また、この場合において、スキャナ5のミラー5a,5bの揺動によっても、対物光学系7の入射瞳位置における像が移動しないようにするために、リレー光学系6を構成するレンズ6aをレーザ光Lの光軸に交差する方向に移動させるので、ミラー5a,5bの中間位置から対物光学系7の入射瞳位置までの光路長が変化せず、ミラー5a,5bの中間位置から対物光学系7の入射瞳位置までのリレー関係を変化させずに済むという利点がある。したがって、リレーするレーザ光Lの波面が平面波とは限らない場合においても、空間光変調素子4によってレーザ光Lに付与した所望の形状の波面を対物光学系7の入射瞳位置に正確にリレーし、集光性能の低下を防止することができる。
【0035】
これにより、各種光学系の収差や、標本A内の屈折率分布等によって発生する収差が補償され、対物光学系7によって標本A内の所望の1点にレーザ光Lを精度良く集光させることができるという利点がある。光源2から発生されるレーザ光Lを極短パルスレーザ光Lとすれば、対物光学系7の焦点位置のみにおいて多光子励起効果によって蛍光を発生させ、鮮明な蛍光画像を取得することが可能となる。
【0036】
さらに、対物光学系7の入射瞳位置と光学的に共役な位置を2つのミラー5a,5bの中間位置に配置することで、各ミラー5a,5bの揺動に起因する入射瞳位置における像の各移動量ΔP,ΔQは、対物光学系7の入射瞳位置と光学的に共役な位置が2つのミラー5a,5bの一方に配置された場合に比べて半分となり、最小化される。これにより、ミラー5a,5bの揺動に対してレンズ6aの移動を十分に追従させ、入射瞳位置において像の位置を十分に静止させることができる。
【0037】
なお、本実施形態においては、対物光学系7の入射瞳位置と光学的に共役な位置を、一対のミラー5a,5bの中間位置に配置することとしたが、これに代えて、一方のミラー5a,5bの揺動軸線S1,S2上に配置してもよい。この場合、図5に示されるように、高速側のミラー5aの揺動軸線S1上に、対物光学系7の入射瞳位置と光学的に共役な位置を配置することが好ましい。図5におけるハッチングは、高速側のミラー5aが対物光学系7の入射瞳位置と光学的に共役な位置に配置されていることを示している。
【0038】
このように、スキャナ5を構成する高速側のミラー5aの揺動軸線S1上を、空間光変調素子4の表面および対物光学系7の入射瞳位置と光学的に共役な位置に設定したので、図6に示されるように、対物光学系7の入射瞳位置において、レーザ光Lの像は低速側のミラー5bの揺動に従って矢印Cの方向の1軸方向にのみ移動する。すなわち、高速側のミラー5aの揺動に応じたレンズ6aの移動を行わずに済む。
【0039】
したがって、レンズ6aは、高速側のミラー5aと比較して十分に速度の遅い低速側のミラー5bの揺動に応じて平行移動させれば足り、応答性は低くてよい。すなわち、ミラー5a,5bの揺動による対物光学系7の入射瞳位置に入射されるレーザ光Lの像の変位をより確実に防止することができる。
【0040】
また、本実施形態においては、光線シフト機構として、リレー光学系6を構成するレンズ6aを移動させる構成を採用したが、光線シフト機構の構成はこれに限定されるものではなく、対物光学系7の入射瞳位置に入射するレーザ光Lを光軸に交差する方向に移動できる方法であれば他の構成を採用してもよい。光軸シフト機構の他の構成の例を図7から図9に示す。
【0041】
図7は、レンズ6aを、レーザ光Lの光軸に垂直に交差し、互いに直交する2つの揺動軸線S3,S4回りに揺動させてレーザ光Lの光軸に対して傾斜させることにより、レーザ光Lを移動させる構成の一例である。
図8は、空間光変調素子4から対物光学系7までの光路上に配置した平行平板14を、レーザ光Lの光軸に垂直に交差し、互いに直交する揺動軸線S3,S4回りに揺動させてレーザ光Lの光軸に対して傾斜させることにより、レーザ光Lを移動させる構成の一例である。平行平板14は、入射されたレーザ光Lを屈折させる屈折率を有するものであればよい。
【0042】
図9は、空間光変調素子4から対物光学系7まで光路上に配置したミラー15を平行移動させることによりレーザ光Lを移動させる構成の一例である。
平行平板14およびミラー15が配置される位置は、空間光変調素子4から対物光学系7までの光路上であれば特に制限はされない。
【0043】
このように、空間光変調素子4から対物光学系7までの光路上において光学素子を光軸に対して傾斜させたりレンズ6a以外の光学素子を移動させたりすることによっても、対物光学系7の入射瞳位置において像の位置が静止するように、レーザ光Lを移動させることができる。
【0044】
また、本実施形態においては、空間光変調素子4が、ミラー5a,5bの中間位置において所望の波面形状が実現されるように、レーザ光Lの波面を変調することとしたが、これに代えて、図10に示されるように、空間光変調素子4とスキャナ5との間にもう1つのリレー光学系17を配置し、空間光変調素子4の表面において所望の波面形状をレーザ光Lに付与してもよい。もう1つのリレー光学系17は、複数のレンズ(図示する例では2つのレンズ17a,17b)からなり、空間光変調素子4の表面に形成された像をミラー5a,5bの中間位置にリレーするように構成されている。すなわち、空間光変調素子4の表面と対物光学系7の入射瞳位置とが光学的に共役な位置に配置される。
【0045】
なお、図10には、空間光変調素子4として、透過型に代えて反射型を用いた構成の一例を示している。反射型の空間光変調素子4としては、例えば、その表面形状を変化させるセグメントタイプのMEMSミラーを用いることができる。プリズム16により反射されたレーザ光Lは、空間光変調素子4の表面において反射される際に、その表面形状に従う形態に波面が変調されてプリズム16に戻される。
【0046】
この構成においては、光線シフト機構は、もう1つのリレー光学系17を構成するレンズ17a,17bのうち少なくとも1つ(図示する例では17aのみ)を移動させることが好ましい。もう1つのリレー光学系17においてはレーザ光Lが平行光に形成されているので、レーザ光Lを光軸に交差する方向に移動させることによって像に各種の収差が発生することを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0047】
1 顕微鏡装置
2 光源
3 コリメータレンズ
4 空間光変調素子
5 スキャナ
5a,5b ミラー
5c,5d モータ
6,17 リレー光学系
6a,17a レンズ(光線シフト機構)
6b,17b レンズ
7 対物光学系
8 制御部(光軸シフト機構)
9 光検出器
10 ステージ
11 ミラー
12 ダイクロイックミラー
13 集光レンズ
14 平行平板(光線シフト機構)
15 ミラー(光線シフト機構)
16 プリズム
A 標本
B 像
L レーザ光(光線)
S1,S2 揺動軸線(軸線)
S3,S4 揺動軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの照明光の波面を変調する空間光変調素子と、
非平行な2つの軸線回りにそれぞれ揺動する2枚のミラーを有し、前記空間光変調素子により波面が変調された照明光を2次元的に走査するスキャナと、
前記スキャナにおける像を対物光学系の瞳位置にリレーするリレー光学系と、
前記ミラーの揺動に応じて、前記空間光変調素子から前記対物光学系までの間において、前記照明光の光線を光軸と交差する方向に移動させる光線シフト機構とを備え、
該光線シフト機構は、前記光線を固定して前記ミラーを揺動させたと仮定した場合における前記リレー光学系により前記対物光学系の瞳位置にリレーされる像の移動方向とは逆方向に、前記ミラーを停止させた状態を仮定した場合における前記対物光学系の瞳位置の像が移動するように前記光線を移動させる顕微鏡装置。
【請求項2】
前記光線シフト機構が、前記リレー光学系を構成する光学素子の内少なくとも1つを、前記光軸と交差する方向に移動させる請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記リレー光学系が、前記2枚のミラーの間における像を前記瞳位置にリレーする請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記光線シフト機構が、前記リレー光学系を構成する光学素子の内少なくとも1つを、前記光軸に交差する揺動軸線回りに揺動させる請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記リレー光学系が、一方の前記ミラーの揺動軸線上の像を前記瞳位置にリレーする請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項6】
前記リレー光学系が、前記2枚のミラーの内、より高速に揺動させられるミラーの揺動軸線上の像を前記瞳位置にリレーする請求項5に記載の顕微鏡装置。
【請求項7】
前記空間光変調素子上の像を前記スキャナにリレーするもう1つのリレー光学系を備える請求項1から請求項6のいずれかに記載の顕微鏡装置。
【請求項8】
前記空間光変調素子上の像を前記スキャナにリレーするもう1つのリレー光学系を備え、
前記光線シフト機構が、前記もう1つのリレー光学系を構成する光学素子の内少なくとも1つを、前記光軸に交差する方向に移動させる請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項9】
前記空間光変調素子上の像を前記スキャナにリレーするもう1つのリレー光学系を備え、
前記光線シフト機構が、前記もう1つのリレー光学系を構成する光学素子の内少なくとも1つを、前記光軸に交差する揺動軸線回りに揺動させる請求項1に記載の顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−108372(P2012−108372A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258035(P2010−258035)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】