説明

顕微鏡観察用培養器

【課題】コストを抑えることができ、コンパクト且つ軽量で、コンデンサの短い焦点距離に対応できるようにステージの上面から突出する寸法を小さくできて、しかも重量制限があるような微細な動作をする電動ステージにも設置が可能で、また内部に結露が生じ難い顕微鏡観察用培養器を提供する。
【解決手段】水槽16内の水の加温と、ディッシュD内の細胞Cの加温を1つのヒータ25によって兼用している。従って、従来の顕微鏡観察用培養器に比べてヒータを一つ減らすことができ、コストを抑えることができる。また、顕微鏡観察用培養器1をコンパクト且つ軽量なものとすることができる。特に、ステージの上面から突出する寸法T2を小さくできるので、コンデンサの短い焦点距離に対応が可能となる。更に、顕微鏡観察用培養器1を大幅に軽量化できる結果、重量制限があるような微細な動作をする電動ステージにも設置が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕微鏡観察用培養器に係り、特に小型且つ軽量化を実現できる顕微鏡観察用培養器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の顕微鏡観察用培養器には、本出願人による特許出願である特許文献1に記載されたものなどがある。図6は従来の顕微鏡観察用培養器100の縦断面図である。顕微鏡観察用培養器100は、水槽103と水槽103を加温するヒータ111とが設けられた水槽ユニット105、水槽ユニット105の上面開口を塞ぐ蓋107、ディッシュDを加温するヒータ109を有する加温プレート110を備え、更に水槽ユニット105と加温プレート110と蓋107とで画成される培養空間101に所定のガスを供給するためのガス供給手段(図示せず)を備えている。蓋107は透明発熱ガラス113を有している。また、ヒータ109は枠112に保持され、その中心には穴117が形成されている。
【0003】
顕微鏡観察用培養器100は、顕微鏡のステージ119に設置され、細胞Cを入れたディッシュDを培養空間101に収容し、ディッシュDをヒータ109によって加温し、これとは別のヒータ111によって水槽103内の水を加温し、更にヒータ109、ヒータ111及び透明発熱ガラス113によって培養空間101を加温する。またガス供給手段によって例えばCO2を培養空間101に供給する。これによりディッシュD内の細胞Cを温度、湿度及びCO2濃度が管理された所定の環境に置く、そして対物レンズ121を細胞Cに対し穴117を介して対向させ、コンデンサ123から照射される光の焦点を細胞Cに合わせて、細胞Cの顕微鏡観察を行う。
【0004】
【特許文献1】特開2004−141143
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の顕微鏡観察用培養器100は、ディッシュDを加温するヒータ109と水槽103を加温するヒータ111の両方を別々に備えているので、コストが高くなるだけでなく、大型且つ重量の重いものとなる。
特に顕微鏡観察用培養器100のステージ119の上面から突出する寸法Tが大きいと、コンデンサ123から細胞Cまでの距離がコンデンサ123から照射される光の焦点距離より長くなり、細胞Cに対する集光を適正に行うことができなくなってしまう。
【0006】
また、近年では、顕微鏡観察用培養器を設置してアクチュエータにより駆動する電動ステージが多用されている。この電動ステージには、対物レンズ121の光軸に直交する方向(X−Y方向)だけでなく、対物レンズ121の光軸方向(Z方向)にも駆動するものもある。
顕微鏡観察用培養器の重量が重い場合には、出力の大きなアクチュエータを用いる必要があるが、出力の大きなアクチュエータによって微細な動作を行うのは技術的に難しいという問題がある。特に、電動ステージをZ方向に動かして、細胞Cに対物レンズの焦点を自動調節する場合には、極めて微細は動作が要求され、これに用いられるアクチュエータとしては出力の小さなものを用いざるを得ない。このため電動ステージに設置する顕微鏡観察用培養器には重量制限が課せられることになる。従って従来の顕微鏡観察用培養器100を使用できない場合もある。
【0007】
更に、加温プレート110の枠112の内側の縁部125には段差があるため、この縁部125に結露が生じて、この水が顕微鏡観察用培養器1の外部へ漏れ出すおそれがある。特に細胞の培養を1週間以上行うこともあり、この間に結露が発生してしまうことになる。
【0008】
本発明は上記従来の問題点に鑑みて為されたものであり、コストを抑えることができ、コンパクト且つ軽量で、コンデンサの短い焦点距離に対応できるようにステージの上面から突出する寸法を小さくできて、しかも重量制限があるような微細な動作をする電動ステージにも設置が可能で、また内部に結露が生じ難い顕微鏡観察用培養器を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための、請求項1記載の発明は、水槽ユニットと、前記水槽ユニットに設けられた水槽と、前記本体の上面側開口を閉鎖する蓋とを有し、顕微鏡のステージに設置し観察対象を前記水槽ユニットに収容して所定の温度、湿度等に保った環境で前記観察対象の顕微鏡観察を行う顕微鏡観察用培養器において、前記水槽ユニットに収容される観察対象と前記水槽内の水を加温するヒータを1つのもので兼用し、且つ前記ヒータを水槽ユニットの下面側に固定したことを特徴とする顕微鏡観察用培養器である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載した顕微鏡観察用培養器において、ヒータは水槽の底部の下面に密着して備えられていることを特徴とする顕微鏡観察用培養器である。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1に記載した顕微鏡観察用培養器において、水槽の底面の少なくとも一部が欠落して開口が形成され、前記開口はヒータによって閉鎖されており、水槽内の水がヒータに直に接触することを特徴とする顕微鏡観察用培養器である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した顕微鏡観察用培養器において、ヒータは少なくとも観察対象に対応する部分が透明体によって構成されており、本体の下面側が完全に閉鎖されていることを特徴とする顕微鏡観察用培養器である。
【0013】
請求項5の発明は、請求項4に記載した顕微鏡観察用培養器において、ヒータは全面に透明発熱体を備えていることを特徴とする顕微鏡観察用培養器である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の顕微鏡観察用培養器によれば、コストを抑えることができ、コンパクト且つ軽量なものとすることができる。
従って、ステージの上面から突出する寸法を小さくでき、短い焦点距離のコンデンサに対応でも、観察対象に対する集光を適正に行うことが可能となる。
また、重量制限があるような微細な動作をする電動ステージにも設置が可能となる。
更に、内部に結露を発生し難くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第1の実施の形態に係る顕微鏡観察用培養器1を図1から図4にしたがって説明する。顕微鏡観察用培養器1は、水槽ユニット3、アダプター5及び蓋7等によって構成されている。
水槽ユニット3の構造について説明する。
符号11はほぼ長方形の枠状に形成された本体部を示し、この本体部11には上面側開口13と下面側開口15とが形成されている。また本体部11には水槽16が設けられている。この水槽16は外壁17、内壁19及び底部21によって構成され、図2に示すように底部21の一部が欠落して形成された6つの開口23が形成されている。
また、内壁19の内側面の基部には内側へ突出する支持部24が形成されている。
【0016】
符号25はヒータを示し、このヒータ25は金属板27にニクロム線29が埋設状に備えられて構成されている。またヒータ25には長方形の孔31が形成されている。ヒータ25は水槽16の底部21の下面に密着した状態に貼り付けられおり、底部21の開口23はヒータ25によって閉鎖されている。即ちヒータ25は水槽ユニット3の下面側に固定されており、水槽ユニット3の下面側開口15を覆っている。
【0017】
また、本体部11にはガス供給用ホース33、水供給用ホース35及び電気コード37が取り付けられている。ガス供給用ホース33は本体部11内に連通し、水供給用ホース35は水槽16内に連通している。電気コード37はヒータ25のニクロム線29に電気的に接続されている。
【0018】
アダプター5の構造について説明する。
符号39は長方形の板状のベースを示し、このベース39は縁が本体部11の支持部24に載る寸法に形成されている。またベース39には孔41が形成され、孔41の周辺には円形に長方形が重なる形状の凹部43が形成されている。また、ベース39には一対の押えバネ40が回動自在に設けられている。
【0019】
蓋7の構造について説明する。
符号45は枠を示し、この枠45には透明発熱ガラス47が保持されている。この透明発熱ガラス47には透明導電膜が形成され、この透明導電膜は電気コード48を介して通電することにより発熱する。
【0020】
この顕微鏡観察用培養器1の使用方法について説明する。
水槽ユニット3を顕微鏡のステージ119に設置する。この際、水槽ユニット3の下面側の縁がステージ119の孔120の上面側の縁に掛かるようにする。そして、アダプター5を水槽ユニット3に収容し、ベース39の縁を水槽ユニット3の本体部11の支持部24に載せる。
【0021】
次いで、観察対象としての細胞Cを培養液と共に入れたディッシュDをアダプター5の円形の凹部43に嵌めて設置して、押えバネ40によってディッシュDを押えて固定する。このようにディッシュDを水槽ユニット3に収容してから、蓋7を水槽ユニット3に載せて、上面側開口13を閉鎖する。
【0022】
次に、ガス供給用ホース33を介してCO2を水槽ユニット3、アダプター5及び蓋7によって画定される培養空間2に供給する。また水供給用ホース35を介して水槽16へ水が供給する。
ヒータ25のニクロム線29に電気コード37を介して通電し発熱させて、水槽16内の水を加温し蒸発させ、更にヒータ25はディッシュD内の細胞Cを加温する。水槽16の底部21には開口23が形成されているので、水槽16内の水はヒータ25に直に接触する。従って、ヒータ25は水を迅速に、しかも効率よく加温することができる。
【0023】
また電気コード48を介して透明発熱ガラス47の透明導電膜に通電し発熱させる。
なお、ニクロム線29と透明発熱ガラス47の透明導電膜に対する通電は温度センサによって検知される温度に対応して制御される。
上記のように培養空間2内のディッシュDに入れられた細胞が所定の湿度、温度等の環境に保たれる。そして、対物レンズ121を細胞Cに対しヒータ25の孔31、アダプター5の孔41を介して対向させ、コンデンサ123から照射される光の焦点を細胞Cに合わせて、細胞Cの顕微鏡観察を行う。
【0024】
上記のように、水槽16内の水の加温と、ディッシュD内の細胞Cの加温を1つのヒータ25によって兼用している。従って、従来の顕微鏡観察用培養器に比べてヒータを一つ減らすことができ、コストを抑えることができる。また、顕微鏡観察用培養器1をコンパクト且つ軽量なものとすることができる。特に、顕微鏡観察用培養器1のステージ119の上面から突出する寸法T2を小さくできるので、コンデンサ123の短い焦点距離に対応することが可能となる。
更に、顕微鏡観察用培養器1を大幅に軽量化できる結果、重量制限があるような微細な動作をする電動ステージにも対応することが可能となる。
また、従来の顕微鏡観察用培養器100のように加温プレート110を備えないので、枠112の内側の縁部125にある段差が存在せず、顕微鏡観察用培養器1の内部に結露が発生するのを防止することができる。
【0025】
本発明の第2の実施の形態に係る顕微鏡観察用培養器51を図5にしたがって説明する。顕微鏡観察用培養器51は、第1の実施の形態に係る顕微鏡観察用培養器1とヒータ55を除き同様の構造部分を有しているので、同様の構造部分については第1の実施の形態と同じ符号を付して、その説明を省略し、ヒータ55についてのみ説明する。
ヒータ55の構成について説明する。
符号57は基板を示し、この基板57はガラス板または合成樹脂製板であり、透明かつ電気的絶縁性をもつ板状物が使用される。
【0026】
基板57の下面の全体には透明発熱体としての透明導電膜59が直接形成されている。透明導電膜59は導電性金属薄膜によって構成されており、通電により発熱する性質を有するものが使用される。
透明導電膜59の表面には図示しない一対の電極が固定されており、電極は透明導電膜59に電気的に接続している。一対の電極には電気コード37が電気的に接続されている。
基板57の下面側にはカバー61が接着剤63によって貼り付けられて固定されている。カバー61はガラス板または合成樹脂製板であり、透明かつ電気的絶縁性をもつ板状物が使用される。接着剤63は絶縁性および透明性を有しており、シリコーン等が用いられる。
【0027】
この顕微鏡観察用培養器51によれば、ヒータ55によって本体部11の下面側開口15が完全に閉鎖されるので、水槽ユニット3内の環境を所定の状態に確実に保つことができる。またヒータ55の基板57の下面全体に透明導電膜59が形成されているので、ディッシュDはその直下から加温されることなり、細胞Cをより確実に所定の温度に保つことが可能となる。
【0028】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、上記実施の形態では底部21に開口を設けたが、底部21に開口を形成しない構成としてもよい。
第2の実施の形態に係る顕微鏡観察用培養器51のヒータ55は、全体を透明体としたが、少なくとも細胞Cに対応する部分(対物レンズ121に対向する部分)を透明体で構成すればよい。また基板57の下面全体に透明導電膜59を形成したが、一部分に透明導電膜59を設ける構成としてもよい。
なお、観察対象は、細胞に限らず、細菌等その他のものでよいのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る顕微鏡観察用培養器の斜視図である。
【図2】図1の顕微鏡観察用培養器の平面図である。
【図3】図1の顕微鏡観察用培養器の水槽ユニットの底面図である。
【図4】図1の顕微鏡観察用培養器の縦断面である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る顕微鏡観察用培養器の縦断面である。
【図6】従来例に係る顕微鏡観察用培養器の縦断面である。
【符号の説明】
【0030】
1、51 顕微鏡観察用培養器 3 水槽ユニット
7 蓋 11 本体部 13 上面側開口
15 下面側開口 16 水槽 21 底部
23 開口 25、55 ヒータ 59 透明導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽ユニットと、前記水槽ユニットに設けられた水槽と、前記本体の上面側開口を閉鎖する蓋とを有し、顕微鏡のステージに設置し観察対象を前記水槽ユニットに収容して所定の温度、湿度等に保った環境で前記観察対象の顕微鏡観察を行う顕微鏡観察用培養器において、前記水槽ユニットに収容される観察対象と前記水槽内の水を加温するヒータを1つのもので兼用し、且つ前記ヒータを水槽ユニットの下面側に固定したことを特徴とする顕微鏡観察用培養器。
【請求項2】
請求項1に記載した顕微鏡観察用培養器において、ヒータは水槽の底部の下面に密着して備えられていることを特徴とする顕微鏡観察用培養器。
【請求項3】
請求項1に記載した顕微鏡観察用培養器において、水槽の底面の少なくとも一部が欠落して開口が形成され、前記開口はヒータによって閉鎖されており、水槽内の水がヒータに直に接触することを特徴とする顕微鏡観察用培養器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した顕微鏡観察用培養器において、ヒータは少なくとも観察対象に対応する部分が透明体によって構成されており、本体の下面側が完全に閉鎖されていることを特徴とする顕微鏡観察用培養器。
【請求項5】
請求項4に記載した顕微鏡観察用培養器において、ヒータは全面に透明発熱体を備えていることを特徴とする顕微鏡観察用培養器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−259430(P2008−259430A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102735(P2007−102735)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(595040205)株式会社東海ヒット (10)
【Fターム(参考)】