風味改良の酵素的方法
例えば、リパーゼおよびラクターゼを用いて、食品を製造し、食品の風味を改良する酵素的方法、ならびに、関連する酵素組成物および食品を記載する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
例えば、リパーゼおよびラクターゼを用いて、食品を製造し、食品の風味を改良する酵素的方法、ならびに、関連する酵素組成物および食品を記載する。
【背景技術】
【0002】
飲食物の風味、質感、香りを改良するために、酵素を使用することができる。食品産業で酵素を用いる一例は、チーズ製造でみられる。チーズ製造業者は、チーズを製造し、風味を高めるために酵素を使用する。例えば、レンネットという酵素(プロテアーゼ)は、乳をカードやホエイに変える。他の酵素は、風味が乏しいチーズカードを、異なる風味をもつチーズに変える。ほとんどのナチュラルチーズの風味は、チーズに天然で存在する微生物叢によって作られる酵素によるものであるが、酵素によって改良されたチーズ(EMC)の風味は、製造プロセス中に添加された酵素によるものである。
【0003】
EMCは、望ましい風味を付与するために、酵素(例えば、リパーゼおよび/またはプロテアーゼ)を未成熟チーズに添加することによって作られたプロセスチーズの一種である。EMCは、典型的には、若い(未成熟)チーズ(例えば、マイルドなチーズカード)に、望ましいチーズ風味がつくように、酵素を短時間(例えば、約24時間)加えて作られる。EMCの風味は、ナチュラルチーズの10倍も強いことがあり、主に、EMCを製造するのに使用される酵素反応に依存する。商業的には、EMCは、プロセスチーズ製品として使用されるか、または、他の食品(例えば、スナック菓子、スープなど)にチーズ風味をつけることができる粉末として使用される。
【0004】
EMCは、一般的に、リパーゼを用いて製造される。リパーゼは、チーズに存在する脂質を分解し、脂肪酸を放出し、これが風味を付与する。例えば、高濃度の酪酸が放出されると、「ブルーチーズ」様の風味がチーズにつく。異なるリパーゼは、異なる風味をもたらす異なる脂肪酸プロフィールを有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、望ましい風味をもつEMCを製造するための酵素的方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一部の実施形態によれば、脂質およびラクトースを含む食品組成物と、1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼとを接触させることを含み、この1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つが、ガラクトース転移活性を示す、食品を調製する方法が提供される。一部の実施形態では、1種以上のリパーゼのうち、少なくとも1つは、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、短鎖脂肪酸を優先的に加水分解する。一部の実施形態では、この方法は、ラクトースを食品組成物に加えることをさらに含む。一部の実施形態では、この方法は、酵素不活性化工程をさらに含む。
【0007】
一部の実施形態では、リパーゼは、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ペニシリウム・カメンベルチ(Penicillium camemberti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、および/またはペニシリン・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3を含む。
【0008】
一部の実施形態では、ラクターゼは、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む。
【0009】
一部の実施形態では、本食品は、1つ以上のラクターゼでは処理されずに1つ以上のリパーゼで処理された比較品よりも、遊離長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率が高い。一部の実施形態では、本食品は、1つ以上のラクターゼでは処理されずに1つ以上のリパーゼで処理された比較品よりもチーズ風味が強い。一部の実施形態では、本食品は、1つ以上のラクターゼでは処理されずに1つ以上のリパーゼで処理された比較品よりも石鹸臭が少ない。
【0010】
一部の実施形態では、本食品は、酵素によって改良されたチーズおよびナチュラルチーズから選択されるチーズ製品である。一部の実施形態では、本食品は、末端食用品(food final product)である。一部の実施形態では、本食品は、食品添加剤である。
【0011】
他の実施形態によれば、脂質およびラクトースを含む食品組成物と、1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼとを接触させることを含む方法によって調製される食品が提供され、ここで、1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つは、ガラクトース転移活性を示す。一部の実施形態では、本食品は、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも、遊離長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率が高い。一部の実施形態では、本食品は、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりもチーズ風味が強い。一部の実施形態では、本食品は、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも石鹸臭が少ない。
【0012】
一部の実施形態では、本食品は、酵素によって改良されたチーズおよびナチュラルチーズから選択されるチーズ製品である。一部の実施形態では、本食品は、末端食用品である。一部の実施形態では、本食品は、食品添加剤である。
【0013】
他の実施形態によれば、1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼを含む酵素組成物が提供され、この1種以上のリパーゼのうち、少なくとも1つが、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、短鎖脂肪酸を優先的に加水分解し、この1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つが、ガラクトース転移活性を示す。一部の実施形態では、酵素組成物は、バッファーをさらに含む。一部の実施形態では、酵素組成物は、ラクトースをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、リパーゼCHEESEMAX(登録商標)(CM)による、脂質からの遊離脂肪酸の除去を示す。
【図2】図2は、リパーゼCHEESEMAX(登録商標)(CM)による、脂質からの遊離脂肪酸の除去と、BIOLACTA(商標)による、グリセロール部分での脂質へのガラクトース転移を示す。
【図3】図3は、CHEESEMAX(登録商標)のみによって、またはCHEESEMAX(登録商標)およびBIOLACTA(商標)によって処理した後の、サンプルの遊離脂肪酸組成を示す。
【図4】図4は、異なる温度条件での、CHEESEMAX(登録商標)の相対的リパーゼ活性を示すグラフである。反応はpH6.0で行った。
【図5】図5は、異なるpH条件で、CHEESEMAX(登録商標)の相対的リパーゼ活性を示すグラフである。反応は37℃で行った。
【図6】図6は、CHEESEMAX(登録商標)の熱安定性を示すグラフである。酵素溶液を、示した温度で、pH6.0で30分間インキュベートした。
【図7】図7は、CHEESEMAX(登録商標)のpH安定性を示すグラフである。酵素溶液を、示したpHで、25℃で60分間インキュベートした。
【図8】図8A〜8Dは、リパーゼMの種々の特性を示すグラフである。図8Aは、種々のpH条件でのリパーゼMの相対的リパーゼ活性を示す。図8Bは、種々の温度でのリパーゼMの相対的リパーゼ活性を示す。図8Cは、リパーゼMのpH安定性を示す。酵素溶液を、示したpHで、37℃で60分間インキュベートした。図8Dは、リパーゼMの熱安定性を示す。酵素溶液を、示した温度で、60分間インキュベートした。
【図9】図9A〜9Dは、リパーゼA12の種々の特性を示すグラフである。図9Aは、種々のpH条件でのリパーゼA12の相対的リパーゼ活性を示す。図9Bは、種々の温度でのリパーゼA12の相対的活性を示す。図9Cは、リパーゼA12のpH安定性を示す。酵素溶液を、示したpHで、60分間インキュベートした。図9Dは、リパーゼA12の熱安定性を示す。酵素溶液を、示した温度で、60分間インキュベートした。
【図10】図10A〜10Dは、リパーゼDF15の種々の特性を示すグラフである。図10Aは、種々のpH条件でのリパーゼDF15の相対的リパーゼ活性を示す。図10Bは、リパーゼDF15のpH安定性を示す。酵素溶液を、示したpHで、37℃で2時間インキュベートした。図10Cは、種々の温度でのリパーゼDF15の相対的リパーゼ活性を示す。図10Dは、リパーゼDF15の熱安定性を示す。酵素溶液を、示した温度で、pH7で、30分間インキュベートした。
【図11】図11A〜11Dは、リパーゼRの種々の特性を示すグラフである。図11Aは、2種類の異なるバッファー(McIlvaine(クエン酸/リン酸)バッファー、下側の線、菱形;リン酸バッファー、上側の線、四角形)中、種々のpH条件でのリパーゼRの相対的活性を示す。図11Bは、種々の温度でのリパーゼRの相対的リパーゼ活性を示す。図11Cは、2種類の異なるバッファー(McIlvaineバッファー、下側の線、菱形;リン酸バッファー、上側の線、三角形)中でのリパーゼRのpH安定性を示す。1%酵素溶液を、示したpHで、30℃で15分間インキュベートした。図11Dは、リパーゼRの熱安定性を示す。1%酵素溶液を、示した温度で、pH7.0で15分間インキュベートした。
【図12】図12A〜12Dは、リパーゼG50の種々の特性を示すグラフである。図12Aは、種々のpH条件でのリパーゼG50の相対的リパーゼ活性を示す。図12Bは、種々の温度でのリパーゼG50の相対的リパーゼ活性を示す。図12Cは、リパーゼG50のpH安定性を示す。図12Dは、リパーゼG50の熱安定性を示す。
【図13−1】図13A〜13Dは、BIOLACTA(商標)の種々のの特性を示すグラフである。図13Aは、種々の温度、pH6.0、反応時間10分で、0.1M酢酸バッファー中のラクトース基質に対するBIOLACTA(商標)の相対的ラクターゼ活性を示す。図13Bは、種々のpH条件、40℃、反応時間10分で、Britton Robinsonバッファー中のラクトース基質に対するBIOLACTA(商標)の相対的ラクターゼ活性を示す。
【図13−2】図13A〜13Dは、BIOLACTA(商標)の種々の特性を示すグラフである。図13Cは、pH6.0、以下の温度(上から下に):50℃、55℃、60℃、65℃で、0.1M酢酸バッファー中のBIOLACTA(商標)の温度安定性を示す。図13Dは、BIOLACTA(商標)のpH安定性を示す。反応物を、Britton Robinsonバッファー中、30℃で60分間インキュベートした。
【図14−1】図14A〜14Cは、ラクトース溶液中、BIOLACTA(商標)の種々の特性を示すグラフである。図14Aは、5%(点線)および50%(実線)のラクトース溶液中での、BIOLACTA(商標)の温度安定性を示す。pH6.0で60分間反応を行った。図14Bは、5%ラクトース溶液中、種々のBIOLACTA(商標)調製物によって放出されるグルコースの割合を示す。BIOLACTA(商標)調製物は、以下の活性を有している(上から下に):15LU/gラクトース、10LU/gラクトース、5LU/gラクトース、2.5LU/gラクトース、および1.25LU/gラクトース。pH6.0で60分間反応を行った。
【図14−2】図14A〜14Cは、ラクトース溶液中、BIOLACTA(商標)の種々の特性を示すグラフである。図14Cは、55%ラクトース基質に対する、BIOLACTA(商標)によるガラクトオリゴ糖の合成を示す。pH6.0で60分間反応を行った。
【発明を実施するための形態】
【0015】
例えば、リパーゼおよびラクターゼを用いて、食品を製造し、食品の風味を改良する酵素的方法、ならびに、関連する酵素組成物および食品を記載する。
【0016】
本明細書で使用される場合、他の意味であると述べられていない限り、単数形である「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」は、複数のものも含む。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「短鎖脂肪酸」は、4〜6個の炭素を含む脂肪酸を意味する。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「長鎖脂肪酸」は、14〜18個またはそれ以上の炭素を含む脂肪酸を意味する。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「中鎖脂肪酸」は、8〜12個の脂肪酸を含む脂肪酸を意味する。
【0020】
用語「食物」および「食品」は、本明細書で使用される場合、任意の食物または食品(飲料および飲料品を含む)を包含し、末端食用品(例えば、消費に適しているか、または消費のために販売されているもの)、1つ以上のさらなる食品成分を含む半加工品および完全に加工した製品、他の食品の添加剤として使用される製品を指す。特定の実施形態によれば、本明細書で記載する食物および食品は、EMCのような乳製品を含む。
【0021】
本明細書で記載する酵素的方法は、例えば、リパーゼおよびラクターゼを用いて、食品を製造する方法、および食物の風味(例えば、EMCの風味)を改良する方法を提供する。例えば、リパーゼおよびラクターゼを含む、関連する酵素組成物、および、ここに記載する方法によって製造される食品も提供する。
【0022】
I.方法
上述のように、EMCは、一般的に、リパーゼを用いて製造され、リパーゼは、チーズに存在する脂質(トリグリセリドを含む)を分解し、脂肪酸を放出し、これが風味を付与する。チーズの遊離脂肪酸プロフィール(遊離脂肪酸の量および種類)は、チーズの風味に影響を与え、使用される特定の酵素によって変わる。酪酸(4個の炭素原子を有する短鎖脂肪酸、C4)は、典型的には、強いチーズ風味を与えるため、チーズ製品にとって望ましい脂肪酸である。動物のリパーゼ(例えば、ウシまたは子ウシに由来する前胃酵素(PGE))は、優先的に酪酸を放出し、チーズを製造する際に使用されてきた。しかし、ヒト(または他の動物)が消費するための食物の製造において、動物に由来する酵素を使用することに関わる健康上の懸念(例えば、動物のウイルスまたはプリオンによって汚染されるリスク)があり、PGEをあまり使用しないことが望ましい。リパーゼの供給源となる微生物が存在するが、今日までに同定されている典型的な微生物のリパーゼは、パルミチン酸(16個の炭素原子を有する、C16)、ステアリン酸(18個の炭素原子を有する、C18)のような長鎖脂肪酸を放出する。このような長鎖脂肪酸は、石鹸臭を付与してしまうので、典型的には望ましくない。
【0023】
本明細書に記載する酵素的方法は、食品(例えば、EMC)に望ましい風味を付与するリパーゼおよびラクターゼを使用する。典型的なリパーゼが、チーズに存在する典型的なトリグリセリド(脂質)に作用する場合、トリグリセリドの末端短鎖(C4)脂肪酸が最初に放出され、次いで、末端長鎖脂肪酸が放出され、中央にある脂肪酸は、多くは放出されない。この反応を図1に示す。ラクターゼをリパーゼと組み合わせて用いることによって、長鎖脂肪酸の放出を減らすか、または完全になくしつつ、短鎖(C4)脂肪酸を放出させることができることを発見した。
【0024】
ラクターゼは、ラクトースをその成分である糖(グルコースおよびガラクトース)に加水分解する。また、ほとんどのラクターゼは、ガラクトース部分を別のラクトース分子に転移させ、オリゴ糖を構築する第2の活性も有する。任意の理論によって束縛されることを望まないが、本明細書に記載されるようなラクターゼを用いると、食品に存在する(または、食品に加えられてもよい)ラクトースから、ガラクトース部分が、トリグリセリドの短鎖脂肪酸が放出された部位に転移すると考えられる。また、任意の理論によって束縛されることを望まないが、得られた分子は、リパーゼによって認識されず、そのため、それ以外の方法では長鎖脂肪酸を放出すると思われるさらなる加水分解に、耐性を示すと考えられる。この反応スキームを図2に示す。
【0025】
任意の理論によって束縛されることを望まないが、本明細書に記載される酵素的方法は、以下のとおりに進むと考えられる。
【0026】
リパーゼを、脂質およびラクトースを含む食品組成物(例えば、若いチーズ、チーズカード、またはEMCベース)に加え、リパーゼは、脂質から短鎖(例えば、C4)脂肪酸を優先的に放出し、望ましいチーズ風味を作り出し、脂肪酸が放出した脂質上に遊離ヒドロキシル基が残る。
【0027】
ラクターゼを食品組成物に加え、ラクターゼは、ガラクトース部分(組成物中に存在するラクトースおよび/または組成物に加えられるラクトースに由来する)が、脂質の遊離ヒドロキシル位置に転移し、リパーゼによるさらなる加水分解に耐性を示す分子が得られる。
【0028】
一部の実施形態では、ガラクトース転移反応を促進するために、ラクトースを食品組成物に加える。例えば、ラクトースは、反応バッファー中に存在していてもよい。
【0029】
上述のように、この反応を図2に示す。また、上述のように、本発明は、いかなる様式でも、この機構に限定されない。
【0030】
実際に、酵素(および、場合によりラクトース)を、食品組成物に同時または逐次加えてもよい。一部の実施形態では、酵素を実質的に同時に加える。他の実施形態では、酵素を、食品組成物に加えられる1つの組成物で提供する。
【0031】
酵素(および、場合によりラクトース)を、任意の手段によって、例えば、酵素と食品組成物を混合またはブレンドすることによって、または、酵素を食品組成物に噴霧することによって食品組成物に加えてもよい。
【0032】
一部の実施形態では、1つ以上のリパーゼおよび/または1つ以上のラクターゼを使用する。2種類以上のリパーゼおよび/または2種類以上のラクターゼを使用すると、風味をさらに制御することができるか、または製造プロセス(例えば、反応条件または反応時間)をさらに制御することができる。したがって、望ましい酵素活性プロフィール(例えば、望ましいリパーゼ活性(遊離脂肪酸プロフィールを含む)、望ましいラクターゼ活性、および/または望ましいラクターゼの第2の活性)を達成するために、例えば、異なるリパーゼおよび/または異なるラクターゼを組み合わせて用いることができる。
【0033】
一部の実施形態では、1つ以上の酵素の量は、風味をさらに制御するか、または製造プロセスをさらに制御することが可能なように選択される。例えば、リパーゼの量および/または2種類以上のリパーゼの比率を、望ましい風味を達成するように選択してもよい。これに加えて、またはこの代わりに、ラクターゼの量および/または2種類以上のラクターゼの比率を、望ましい風味を達成するように選択してもよい。実際に、リパーゼおよびラクターゼの種類および量の選択は、遊離脂肪酸プロフィールに影響を与える場合があり、したがって、風味に影響を与える場合がある。
【0034】
使用する酵素の量は、任意の既知の手段、例えば、モル数またはモル比(例えば、酵素のナノモル数またはマイクロモル数)、重量または重量比(酵素のマイクログラム数またはナノグラム数)、または活性の量または活性比(例えば、酵素の「ユニット」数、または酵素活性/酵素の重量またはモル数)によってあらわすことができる。リパーゼ活性およびラクターゼ活性を決定する標準的な方法は、当該技術分野で知られている。
【0035】
一部の実施形態では、本方法は、ラクターゼでは処理されずにリパーゼで処理された同じ食品の比較サンプルよりも、食品中の長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率を増やすのに十分な量の酵素を使用する。
【0036】
一部の実施形態では、本方法は、食品の風味を高めるのに十分な量の酵素を使用する。上述のように、使用すべき実際の酵素量は、食品の性質、望ましい風味、酵素の濃度または活性によって変わるであろう。風味とは、限定されないが、製品に特徴的な味および香りを含むと理解されるべきである。高められた風味は、従来の手段によって、例えば、専門的な味を検査する人、または専門的ではない味を検査する人によって評価することができる。上述のように、一部の実施形態では、本方法は、チーズ風味が高められ、および/または石鹸臭が少ない食品を提供する。
【0037】
一部の実施形態では、本方法は、酵素を不活性化する不活性化工程も含む。例えば、本方法は、酵素で処理した食品組成物を、組成物中に存在する酵素(または酵素活性)の1つ以上を不活性化するのに十分な時間と温度で加熱することを含む熱不活性化工程を含んでいてもよい。不活性化に適した温度および時間は、当業者なら簡単に決定することができる。例示的な温度は、約70℃〜約90℃の範囲である。例示的な時間は、約5〜約60分の範囲であり、約5〜約30分を含む。一部の実施形態では、不活性化工程は、EMC製品に関する技術分野で従来からある技術のような低温殺菌プロセスを含む。一部の実施形態では、不活性化工程は、食品の品質を悪化させることなく、酵素活性を下げるか、または失わせるように選択される。しかし、本明細書に記載する方法の1つの有益な態様は、他の方法では、望ましくない石鹸臭が発生し、長鎖脂肪酸を放出してしまうことを防ぐための酵素不活性化工程を必要としないことである。したがって、一部の実施形態では、本方法は、酵素不活性化工程を含まない。
【0038】
II.酵素
本明細書に記載する酵素的方法は、食品製造に使用するのに安全な任意の酵素を使用することができる。酵素は、任意の供給源から得ることができ、任意の供給源(動物または微生物を含む)から誘導することができる。例えば、酵素は、天然で酵素を産生する微生物、または当該技術分野でよく知られている方法を用いて、1つ以上の酵素を産生するように遺伝子改変された微生物から得ることができる。また、酵素は、当該技術分野でよく知られている方法を用いて、例えば、形質転換した細胞またはトランスフェクトした細胞からの組み換え方法によって得ることができる。例えば、望ましい酵素をコードする核酸配列を、発現ベクターに挿入し、酵素を産生するように宿主細胞を形質転換するか、またはトランスフェクトするために使用することができる。多くの適切な酵素が、以下に記載するように市販されている。
【0039】
A.リパーゼ
リパーゼ(EC3.1.1.3)は、脂質基質(例えば、トリグリセリド)のエステル結合を加水分解するように作用する加水分解酵素の一種である。トリグリセリドは、3個の脂肪酸でエステル化されたグリセロール分子を含む(例えば、図1および図2を参照)。トリグリセリドの脂肪酸は、短鎖(例えば、4〜6個の炭素を含む)であってもよく、中鎖または長鎖(例えば、8〜12個、またはそれ以上の炭素を含む)であってもよい。天然に存在するトリクリセリドでは、脂肪酸の鎖長が炭素16個、18個、20個のものが最も一般的である。1個のトリグリセリドに存在する脂肪酸は、同じであっても異なっていてもよい。例えば、乳製品中に存在するトリグリセリドは、典型的には、1個の短鎖脂肪酸(例えば、酪酸(C4))と、2個のこれより長い鎖の脂肪酸(例えば、パルミチン酸(C16)およびステアリン酸(C18))を含む。
【0040】
多くの動物および微生物のリパーゼが知られており、EMC製造を含む食品製造で使用され、これらの任意のリパーゼ、または望ましい活性を有する他のリパーゼを、本明細書に記載する方法で使用することができる。一部の実施形態によれば、リパーゼは、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、最初に短鎖脂肪酸を優先的に加水分解する。「最初に短鎖脂肪酸を優先的に加水分解する」とは、そのリパーゼが、長鎖脂肪酸を放出する前に、脂質から短鎖脂肪酸を優先的に放出することを意味し、その結果、リパーゼは、最初に短鎖脂肪酸を放出すると考えられる。図1は、トリグリセリドの短鎖脂肪酸(図の位置3)を加水分解し、その後、それより長い鎖の脂肪酸(図の位置1)を加水分解する体系的なリパーゼを示す。この望ましい優先的な活性は、長鎖脂肪酸および短鎖脂肪酸を含むトリグリセリドを含む組成物にリパーゼを加え、脂質が完全に加水分解する前に、プロセスの初期にこのリパーゼ反応を停止させ、遊離脂肪酸プロフィール(または、残った部分的に加水分解したトリグリセリド)を分析し、短鎖脂肪酸が優先的に放出されていることを確認する(例えば、反応を停止させた時点で、長鎖脂肪酸よりも多くの短鎖脂肪酸が放出されていることを確認する)ことによって、確認することができる。このような分析は、当該技術分野で既知の方法によって行うことができる。
【0041】
1.CHEESEMAX(登録商標)
本明細書で記載する方法で使用可能なリパーゼの一例は、CHEESEMAX(登録商標)の名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。CHEESEMAX(登録商標)は、Food Chemical Codex IV法によって評価した場合、7,500U/gを下回らないリパーゼ活性を有する調製物として販売されており、1ユニットは、pH7.0で1分間に酪酸1μmolを放出する酵素の量である。CHEESEMAX(登録商標)は、Good Manufacturing Practicesに従って、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作り出される、食品グレードのリパーゼ調製物である。
【0042】
CHEESEMAX(登録商標)は、38,000の分子量を有し、等電点は6.8である。CHEESEMAX(登録商標)は、80℃で約15分間加熱することによって不活性化することができる。CHEESEMAX(登録商標)の特徴のいくつか(温度と活性、pHと活性、熱安定性およびpH安定性)を図4〜図7に示す。CHEESEMAX(登録商標)は、トリグリセリドの短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸を加水分解するが、トリアシルグリセリドの1位および3位にある短鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸が優先する。CHEESEMAX(登録商標)の市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られる他のリパーゼを、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0043】
2.リパーゼM
本明細書で記載する方法で使用可能な別のリパーゼの例は、リパーゼM「Amano」10(以下、「リパーゼM」)という名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。リパーゼMは、Good Manufacturing Practicesに従って、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作り出される、食品グレードの脂肪分解酵素調製物である。
【0044】
リパーゼMは、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドの1位、2位、3位にある短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸を加水分解することができる。リパーゼMは、10,000ユニット/グラムを下回らないリパーゼ活性で販売されている。リパーゼMの市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リパーゼMの特徴のいくつか(温度と活性、pHと活性、熱安定性およびpH安定性)を図8A〜8Dに示す。ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られる他のリパーゼも、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0045】
3.リパーゼA12
本明細書で記載する方法で使用可能な別のリパーゼの例は、リパーゼA「Amano」12(以下、「リパーゼA12」)という名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。リパーゼA12は、Good Manufacturing Practicesに従って、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作り出される、食品グレードのトリアシルグリセロールリパーゼ調製物である。リパーゼA12は、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドの1位、2位、3位にある短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸を加水分解することができる。リパーゼA12は、35,000の分子量を有し、等電点は4.10である。リパーゼA12は、120,000ユニット/グラムを下回らないリパーゼ活性で販売されている。リパーゼA12の市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リパーゼA12のさらなる特徴を図9A〜9Dに示す。アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作られる他のリパーゼも、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0046】
4.リパーゼDF15
本明細書で記載する方法で使用可能な別のリパーゼの例は、リパーゼDF「Amano」15−K(以下、「リパーゼDF15」)という名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。リパーゼDF15は、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作り出される。この食品グレードのリパーゼ製品は、グリセリドの1位および3位に対する位置特異性を有し、トリグリセリドの1(α)位および3(γ)位のエステル結合を加水分解する。リパーゼDF15は、長鎖および中鎖を有する脂肪酸に比較的特異的である。リパーゼ活性(pH7で、Food Chemical Codex V法による)は、150,000ユニット/グラムを下回らない。リパーゼDF15の市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リパーゼDF15のさらなる特徴を図10A〜10Dに示す。リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られる他のリパーゼも、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0047】
5.リパーゼR
本明細書で記載する方法で使用可能な別のリパーゼの例は、リパーゼR「Amano」(以下、「リパーゼR」)という名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。リパーゼRは、Good Manufacturing Practicesに従って、ペニシリウム・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作り出される、食品グレードのトリアシルグリセロールリパーゼである。リパーゼRは、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドの1位および3位から、長鎖脂肪酸に優先して短鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸を加水分解する。リパーゼRは、25,000の分子量を有し、等電点は4.50であり、不活性化条件(0.1%酵素溶液)は、60℃で2分間または70℃で1分間である。リパーゼRは、900ユニット/グラムを下回らないリパーゼ活性で販売されている。リパーゼRの市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リパーゼRのさらなる特徴を図11A〜11Dに示す。ペニシリウム・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作られる他のリパーゼも、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0048】
6.リパーゼG50
本明細書で記載する方法で使用可能な別のリパーゼの例は、リパーゼG「Amano」50(以下、「リパーゼG50」)という名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。リパーゼG50は、Good Manufacturing Practicesに従って、ペニシリウム・カムンベルチ(Penicillium camembertii)の発酵によって作り出される、食品グレードの酵素調製物である。リパーゼG50は、高いエステル化活性を有しており、グリセリドを加水分解し、トリグリセリドよりも部分グリセリドを迅速に加水分解し、グリセロールおよび脂肪酸を産生する。リパーゼG50Rは、50,000ユニット/グラムを上回らないリパーゼ活性で販売されている。リパーゼG50の市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リパーゼG50のさらなる特徴を図12A〜12Dに示す。ペニシリウム・カムンベルチ(Penicillium camembertii)の発酵によって作られる他のリパーゼも、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0049】
B.ラクターゼ
ラクターゼは、二糖類のラクトースを、その成分であるモノマー(グルコース、ガラクトース)に加水分解する、別の種類の加水分解酵素である。上述のように、ほとんどのラクターゼは、ガラクトース部分を別のラクトース分子に転移させ、これを繰り返し行い、オリゴ糖を構築する第2の活性も有する。
【0050】
多くの動物および微生物のラクターゼが知られており、食品製造で使用される。例えば、ラクターゼを乳製品に加え、ラクトース含有量を減らし、ラクトース不耐症を患う人々にもっと受け入れられる製品を作る。例えば、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)、クルイベロミセス・フラジリス(Kluyveromyces fragilis)、クルイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)に由来するラクターゼが市販されている。これらの任意のラクターゼ、または望ましい第2の活性を有する他のラクターゼを、本明細書に記載する方法で使用することができる。この望ましい第2の活性は、ラクトースを含む組成物にラクターゼを加え、得られたオリゴ糖の含有量を分析し、ラクターゼが、ラクトース分子にガラクトース部分を転移させ、オリゴ糖を構築していることを確認することによって、確認することができる。
【0051】
一部の実施形態では、酵素は、高レベルの第2の(ガラクトース転移)活性を有するように選択されるか、または操作される。例えば、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryza)から単離したラクターゼは、この活性を高レベルで示すように操作されており、BIOLACTA(商標)の名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。BIOLACTA(商標)は、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵を制御して作られる、天然のラクターゼ(β−ガラクトシダーゼ、Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology(NC−IUBMB)番号:EC3.2.1.23)である。
【0052】
BIOLACTA(商標)は、約6.0の最適pHを有し(図13B)、pH約5.0〜約9.5で安定であり(図13D)、至適温度は約65℃であり(図13A)、約55℃で少なくとも1時間は安定である(図13C)。BIOLACTA(商標)の作用温度は、実際には、50%ラクトース存在下では、60℃でも十分に適用可能である(図14A)。BIOLACTA(商標)の加水分解速度(例えば、新鮮な乳中のラクトースの加水分解)は、添加されたBIOLACTA(商標)の量に正比例する(図14B)。55%ラクトース存在下、BIOLACTA(商標)は、二糖類、三糖類、四糖類、五糖類を含む約58%のオリゴ糖を産生する(図14C)。1ラクトースユニット(LU)は、40℃、pH6.0で反応初期段階に、1分あたりグルコース1μmolを遊離させる酵素の量であると定義される。BIOLACTA(商標)は、本明細書に記載する方法で使用するのに適している。BIOLACTA(商標)は、5,500LU/gのラクターゼ活性を持つ市販調製物で販売されている。
【0053】
一部の実施形態では、使用するリパーゼは、CHEESEMAX(登録商標)であり、使用するラクターゼは、BIOLACTA(商標)である。例えば、約0.1〜0.2%のCHEESEMAX(登録商標)と、約0.1〜0.2%のBIOLACTA(商標)とを使用してもよい。これらの量は、単なる例であり、当業者は、酵素活性および望ましい効果によっては、異なる量の異なる酵素を使用してもよいことを理解するであろう。
【0054】
一部の実施形態では、リパーゼは、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼ、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られるリパーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作られるリパーゼ、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼ、ペニシリウム・カムンベルチ(Penicillium camemberti)の発酵によって作られるリパーゼ、および/またはペニシリウム・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作られるリパーゼを含み、ラクターゼは、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む。例えば、一部の実施形態では、リパーゼは、CHEESEMAX(登録商標)、リパーゼM、リパーゼA12、リパーゼD15、リパーゼG50および/またはリパーゼRを含み、ラクターゼは、BIOLACTA(商標)を含む。別の特定の実施形態では、リパーゼは、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られるリパーゼを含み、ラクターゼは、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含み、例えば、リパーゼがリパーゼMを含み、ラクターゼがBIOLACTA(商標)を含む。上述のように、記載した任意のリパーゼ/ラクターゼの組み合わせで、BIOLACTA(商標)に加えて、またはBIOLACTA(商標)に代えて、ガラクトース転移活性を有する他のラクターゼを、本明細書に記載される方法で使用してもよい。
【0055】
以下の実施例に示したように、EMCの望ましい効果について、リパーゼおよびラクターゼの他の組み合わせをスクリーニングしてもよい。例えば、ある組み合わせが、1つ以上の遊離脂肪酸の含有量、チーズらしさ、はっきりした風味、石鹸らしさがないこと、香りに対し、望ましい効果を有する場合がある。
【0056】
C.ラクトース
一部の実施形態では、ラクトース分子から、部分的に加水分解した脂質へのガラクトース部分の転移を促進するために、ラクトースを使用する。ラクトースは、Sigma Chemical Co.を含め、多くの供給業者から市販されている。
【0057】
D.他の成分
酵素は、典型的には、EMC製造目的で使用される組成物で提供されてもよく、この組成物は、例えば、pHを調整するために1種以上のバッファーを含んでいてもよい。例えば、1種以上の酵素が、特定のpHまたはpH範囲で望ましい活性を示す場合、pHをこの範囲に調整するために、1種以上のバッファーを使用してもよい。バッファーの例としては、限定されないが、酢酸バッファー、リン酸バッファーが挙げられる。
【0058】
したがって、本明細書で、1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼを含み、この1種以上のリパーゼのうち、少なくとも1つが、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、短鎖脂肪酸を優先的に加水分解し、この1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つが、ガラクトース転移活性を示す酵素組成物が提供される。一部の実施形態では、この組成物は、バッファーをさらに含む。
【0059】
III.食品
また、本明細書に記載される酵素的方法を用いて調製した食品を、本明細書に記載する。上述のように、「食品」は、製造のすべての段階での食品および飲料品を含む。
【0060】
以下の特定の実施形態および実施例では、本発明の態様を示すために特定の食品を使用するが、本発明は、これらの特定の実施形態に限定されず、リパーゼおよびラクターゼを使用し、例えば、長鎖脂肪酸の放出を防ぎつつ、短鎖脂肪酸の放出を可能にすることによって、食品に望ましい風味を付与するであろう場合なら、どの適用例でも見つかることが理解されるべきである。
【0061】
一部の実施形態では、本食品は、乳製品である。乳製品としては、限定されないが、乳、クリーム、アイスクリーム、チーズ、チーズカード、バター、バターミルク、ヨーグルト、サワークリーム、クリームチーズ、カッテージチーズなどが挙げられる。乳製品は、末端製品である飲食物、および/または、末端製品の成分として使用される飲食物を含む。特定の実施形態によれば、本食品は、本明細書に記載される酵素的方法を用いて調製されたEMCを含む。他の実施形態によれば、本食品は、本明細書に記載される酵素的方法を用いて調製された伝統的なチーズ(例えば、ハードチーズ)を含む。
【0062】
一部の実施形態では、本食品は、他の生成物に乳製品の風味を付与するために使用される(例えば、食品添加剤)。例えば、本明細書に記載される方法によって調製されたEMCを用い、スナック食品、スープ、パンなどにチーズ風味を付与することができる。
【0063】
一部の実施形態では、本明細書に記載される食品(例えば、本明細書に記載される酵素的方法によって調製されるもの)は、本明細書に記載される酵素的方法によって調製されたのではない比較食品(例えば、リパーゼのみを用いて調製されたもの、第2の(ガラクトース転移)活性を有するラクターゼを用いずに調製されたもの)とは異なる遊離脂肪酸含有量を示す。遊離脂肪酸含有量は、当該技術分野で既知の方法によって評価することができる。典型的な方法は、以下の実施例に示すように、食品からの脂肪酸の抽出、メチルエステルへの変換、ガスクロマトグラフィーによる分析を含む。
【0064】
したがって、一部の実施形態では、本食品は、ガラクトース転移活性を有する1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも、遊離長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率が高い。一部の実施形態では、本食品は、ガラクトース転移活性を有する1つ以上のラクターゼでは処理されずに1つ以上のリパーゼで処理された比較品の長鎖脂肪酸含有量よりも、長鎖脂肪酸含有量(例えば、C18脂肪酸の含有量)が、約2/3以下(例えば、66%以下、63%を含む)である。一部の実施形態では、本食品は、ガラクトース転移活性を有する1つ以上のラクターゼでは処理されずに1つ以上のリパーゼで処理された比較品の短鎖脂肪酸含有量に対し、短鎖脂肪酸含有量(例えば、C4脂肪酸の含有量)が、約90%以上(91%を含む)である。
【0065】
一部の実施形態では、本食品は、ガラクトース転移活性を有する1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりもチーズ風味が強い。一部の実施形態では、本食品は、ガラクトース転移活性を有する1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも石鹸臭が少ない。
【実施例】
【0066】
IV.実施例
以下の実施例は、本発明を説明するために与えられている。しかし、本発明は、これらの実施例に記載されている特定の条件または詳細に限定されるべきではないことが理解されるべきである。
【0067】
実施例1〜4は、本発明に記載される方法によって、EMCのチーズの風味が改良され、石鹸臭が少なくなることを示す。伝統的なチーズの風味を改良するために、同様の方法を使用することが可能であるが、固形チーズ組成物(例えば、チェダーチーズ)では、以下で使用する液状のチーズ組成物と比較すると、風味を増すには長い時間が必要であろう。
【0068】
CHEESEMAX(登録商標)(LMERE0552501K)、BIOLACTA(商標)FN5(P5HA201)のサンプルを、Amano Enzyme USAから直接入手した。すべての酵素を100mg/ml溶液として使用した。Weyauwega Star Dairy Cheddarチーズカードを、地域の食品店で購入した。吉草酸、すなわちC5の内部標準をAldrichから購入し(カタログ番号240370)、ヘプタデカン酸、すなわちC17をSigmaから購入した(H3500)。
【0069】
実施例1:リパーゼのみを用いたEMCの調製、またはリパーゼおよびラクターゼを用いたEMCの調製
この実験は、リパーゼのみを用いて調製したEMC、または高いレベルの第2の(ガラクトース転移)活性を有するラクターゼ(BIOLACTA(商標))をリパーゼと組み合わせて用いて調製したEMCを比較する。
【0070】
Weyauwega Star Dairyチェダーチーズカードを、地域の食品店で購入した。このチェダーチーズカード約75グラム(g)を秤量してCusinartに入れた。ラクトースを含むバッファー(0.5%w/vのラクトース、1.0%w/vのNaCl、1.5%w/vのクエン酸ナトリウム)75ミリリットル(ml)を、カードがスラリーになるように、徐々に加えた。スラリーを50グラムずつ2つ秤量し、滅菌ポリカーボネートフラスコに入れ、次いで、サンプルを熱水で30分間かけて低温殺菌した。サンプルを50℃で1時間冷却した。両方のサンプルにCHEESEMAX(登録商標)(Amano Enzyme USA)2ml(0.2グラム)を加え、片方のサンプルには、BIOLACTA(商標)(Amano Enzyme USA)溶液2ml(0.2g)も加えた。両サンプルを50℃でインキュベートし、200RPMで21.3時間遠心分離処理した。インキュベートした後、両サンプルを熱水浴に30分入れ、酵素を不活性化させた。遊離脂肪酸(「FFA」)分析のために少量のサンプル(1.05g)を取り出した。残ったサンプルを冷蔵庫に保存し、味覚試験まで冷却しておいた。
【0071】
実施例2:味覚試験
それぞれのサンプルの味を2回ずつ試験した。1回目の味覚試験では、サンプルの固体部分2.0gを秤量皿に秤量し、EASY CHEESE(登録商標)(低温殺菌した米国のチーズスナック)と合わせて重量を10.0gにした。サンプルをスプーンで十分に混ぜた後、1人の味覚検査者がサンプルを試験した。各サンプルを対照(EASY CHEESE(登録商標)のみ)と比較し、チーズらしさ、石鹸のような風味について点数を付けた。このように、第1の味覚試験は、定性的な違いに注目したものであった。結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0072】
第2の味覚試験の前に、固体と水っぽい層を混ぜ合わせるために、サンプルを2分間ホモジナイズした。次いで、各サンプル5.0gを50ml遠沈管に秤量した。低温殺菌したチーズスナック(EASY CHEESE(登録商標))20gをそれぞれの管に加え、もう一度サンプル全体を2分間ホモジナイズした。1人の味覚検査者がサンプルを試験し、テイスティングの前に、それぞれのにおいを嗅いで、香りを評価した。各サンプルについて、チーズらしさ、石鹸のような風味、香りについて1〜10のスケールで点数を付けた。10が、可能な最高評価である。チーズらしさについて、10は、最も風味がよいことをあらわし、石鹸のような風味については、10が、最も石鹸臭が少ないことをあらわす。対照(EASY CHEESE(登録商標)のみ)も点数を付けた。結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0073】
これらの結果は、本明細書に記載される方法にしたがって、リパーゼおよびラクターゼで処理したEMCは、風味および香りが改良されていることを示している。
【0074】
実施例3:遊離脂肪酸の抽出およびメチルエステルへの変換
上述のように調製したそれぞれのEMC約1.05gを50ml遠沈管に秤量した。各管に以下の試薬を加えた:2.5M H2SO4を1ml、水を3ml、内部標準(C5(吉草酸、Aldrichから購入、カタログ番号240370)およびC17(ヘプタデカン酸、Sigmaから購入、カタログ番号H3500)、1:1 エーテル:ヘキサン中、各脂肪酸を1mg/ml)を5ml。EMCは、手動でかき混ぜると粘性が大きすぎて乳化できないため、各サンプルを、手持ち式ホモジナイザーPolytron PT 1200Eを用い、最大RPMで1分間ホモジナイズした。サンプルを、Beckman Coulter Allegra(商標)25R Centrifuge(System ID 433500)を用いて3000RPMで10分間遠心分離処理し、次いで、3500RPMで20分間、再び遠心分離処理し、十分に分離した層を得た。油層をピペットで抜き取り、10mlのヘプタンで平衡化したSEPカラムに通した。カラムをクロロホルム:プロパノール2:1 10mlで洗浄し、遊離脂肪酸(FFA)を、2%ギ酸エーテル溶液5mlで溶出させた。各溶出液1mlを栓のついたガラス管に移し、2,2−ジメトキシプロパン(Sigma、試薬グレード98%、D136808)0.2ml、1.5M HCl MeOH溶液0.2ml、無水メタノール0.6mlと混合した。サンプルを室温で一晩放置してから、ガスクロマトグラフで分析した。
【0075】
実施例4:遊離脂肪酸のガスクロマトグラフィー
サンプルを、Aglient Technologiesが製造した、スプリット/スプリットレス注入口、スプリットライナー、パルスドスプリット注入口型のガスクロマトグラフシステムModel 6890で試験した。スプリット比は、50:1であり、スプリット流速は109ml/分であった。注入口の温度は250℃であり、ヘッド圧は230kPaであった。使用したカラムは、IDが60m×0.25mmの0.15um DB−23であった。ガスの合計流速は113ml/分であり、キャリアガスはヘリウムであった。ヘリウムの流速は2.2ml/分であり、メイクアップ用ヘリウムの流速は30ml/分であり、水素の流速は40ml/分であり、空気は800ml/分であった。平均速度は34cm/秒であった。オーブンは、以下の表3に示すようにプログラミングされ、検出器の温度は、280℃に設定した。
【表3】
【0076】
使用したサンプルの容積は1μlであった。1つのサンプルが、他のサンプルと比べて長い時間処理されずに放置されてしまうことによって結果が偏らないように、3種類すべてのサンプルを順繰りに(すなわち、A、A、Aではなく、A、B、C)、各サンプルを5回注入した。各サンプルを試験した後、それぞれのFAMEピーク(保持時間をあらかじめ決定しておいた)の面積をExcelのスプレッドシートに入力した。変換ファクターについて内部標準を用い、それぞれの遊離脂肪酸の濃度をmmol/kgで算出した。ガスクロマトグラフィー分析の結果を以下の表4および図3に示す。各脂肪酸の平均濃度を、mmol/kgであらわしている。
【表4】
【0077】
これらの結果は、本明細書に記載される方法に従って、EMCをリパーゼおよびラクターゼで処理すると、C4脂肪酸濃度は、リパーゼのみで処理したEMCで実測した濃度の91%に維持しつつ、C18脂肪酸濃度が、リパーゼのみで処理したEMCで実測した濃度の63%まで低下していることを示している。
【0078】
チーズの遊離脂肪酸含有量を分析する際の問題点の1つは、チーズ風味を与える物質である短鎖脂肪酸が揮発性であり、抽出およびメチルエステル化の手順中に簡単に失われてしまうことである。本発明者らの公開されていない以前の研究は、EMCを保存するために秤量した酪酸を加えた場合、平均で、加えた酪酸の40%が失われることを示している。したがって、上記で概説した抽出およびメチルエステル化の手順中に、EMCに本来含まれているのとほぼ同じ割合の酪酸が失われていると考えるのは理屈に合わないことではない。この実験では、CHEESEMAX(登録商標)で処理したEMCは、C4濃度の測定値が8.19mmolであり、CHEESEMAX(登録商標)+BIOLACTA(商標)で処理したEMCは、C4濃度の測定値が7.43mmol C4/kgであった。これらのサンプルの正しいC4濃度は、この現象の以前の研究に基づいて、それぞれ、11.47mmol/kgおよび10.40mmol/kgであろう。
【0079】
実施例5:BIOLACTA(商標)を用いた、5種類の異なるリパーゼの評価
異なるリパーゼを用いたBIOLACTA(商標)の効果を試験するために、EMCを、リパーゼA12、リパーゼDF15、リパーゼG50、リパーゼM、およびリパーゼRの5種類のリパーゼを用いて製造した。それぞれの実験において、リパーゼ自体を用いたものと、BIOLACTA(商標)と組み合わせて用いたものの両方で、EMCを製造した。EMCを製造した後、遊離脂肪酸を抽出し、メチルエステルに変換し、ガスクロマトグラフィーで分析した。また、EMCサンプルの味を検査し、チーズらしさ、はっきりした風味、石鹸のような風味について点数を付けた。
【0080】
A.EMCの製造
BIOLACTA(商標)、リパーゼA12、リパーゼDF15、リパーゼG50、リパーゼM、およびリパーゼRのサンプルをAmano Enzyme USAから直接得た。すべての酵素を100mg/ml溶液として使用した。
【0081】
種々の販売日の数バッチのWeyauwega Star Dairyチェダーチーズカードを、地域の食品店で購入した。内部標準である吉草酸(C5)をAldrichから購入し(カタログ番号240370)、ヘプタデカン酸(C17)をSigmaから購入した(H3500)。
【0082】
それぞれのリパーゼを、異なるバッチのEMCで使用した。それぞれのバッチについて、このチェダーチーズカード約175グラムを秤量してCusinartに入れた。同じ容積のバッファー(0.5%w/vのラクトース、1.0%w/vのNaCl、1.5%w/vのクエン酸ナトリウム)を、カードがスラリーになるように、徐々に加えた。このスラリーを50gずつ6個秤量し、滅菌ポリカーボネートフラスコに入れ、次いで、サンプルを熱水で30分間かけて低温殺菌した。サンプルを、使用するリパーゼの至適作用温度で少なくとも1時間冷却した。それぞれのリパーゼについて用いた温度を以下の表5に示す。
【表5】
【0083】
すべてのサンプルに、リパーゼ2ml(0.2g)を入れた。これらのサンプルのうち3サンプルには、BIOLACTA(商標)溶液1.0ml(0.1g)も加え、残りの3サンプルは、対照としてそのままにしておいた。すべてのサンプルを、リパーゼの作用温度で、200RPMで一晩(17〜22時間)インキュベートした。インキュベート時間が終了したら、サンプルを熱水浴に30分入れ、酵素を不活性化させた。EMCをわずかに冷却した後、手持ち式ホモジナイザーPolytron PT 1200Eを用い、最大RPMで1分間ホモジナイズした。遊離脂肪酸を抽出し、分析する(以下に記載)ために少量のサンプル(1.05g)を取り出した。次いで、EMCを冷蔵庫に保存し、味覚試験まで冷却しておいた。
【0084】
B.味覚試験
すべてのリパーゼについて、リパーゼのみで処理したEMCサンプル1つと、リパーゼおよびBIOLACTA(商標)の両方で処理したEMCサンプル1つとをそれぞれ2g、低温殺菌したチーズスプレッド8gと混合した。また、この低温殺菌したチーズスプレッド自体も味を調べ、風味の基本レベルを確立した。それぞれのサンプルについて、1人の味覚検査者が、チーズらしさ、はっきりした風味、石鹸らしさがないことについて、0〜10の点数を付けた(10は、可能な最高スコアである)。
【0085】
以下の表6に、味覚試験の結果を示す。すべての味覚試験において、対照チーズは、チーズらしさ、はっきりした風味については1点(最低点)が付けられており、石鹸らしさがないことについては10点(最高点)が付けられている。
【表6】
【0086】
上に示した味覚特性に加え、リパーゼMを用いて製造されたEMCサンプルでは苦みも検出された。リパーゼMのみを用いて調製されたサンプルは、苦みのレベルが4(または、苦みのなさならば6)であり、一方、リパーゼMおよびBIOLACTA(商標)の両方を用いて調製されたサンプルは、苦みのレベルが2(または、苦みのなさならば8)であった。すべての他のEMCは、苦みのレベルが0(または、苦みのなさならば10)であろう。
【0087】
上記の結果は、BIOLACTA(商標)を異なるリパーゼとともに用いると、チーズらしさ、はっきりした風味、石鹸らしさがないことについて異なる効果を発揮し得ることが示されている。したがって、望ましい効果を達成するリパーゼ/ラクターゼの組み合わせを選択することによって、望ましい風味プロフィールを有するEMCを得ることができる。
【0088】
C.遊離脂肪酸の抽出およびメチルエステルへの変換
それぞれのEMC約1.05gを50ml遠沈管に秤量した。各管に以下の試薬を加えた:2.5M H2SO4を1ml、水を3ml、内部標準(C5およびC17、1:1 エーテル:ヘキサン中、各脂肪酸を1mg/ml)を5ml。サンプルを激しくボルテックスし、エマルションを作製した。サンプルを、Beckman Coulter Allegra(商標)25R Centrifuge(System ID 433500)を用いて3000RPMで15〜30分間遠心分離処理した。油層をピペットで抜き取り、10mlのヘプタンで平衡化したSEPカラムに通した。カラムをクロロホルム:プロパノール2:1 10mlで洗浄し、遊離脂肪酸(FFA)を、2%ギ酸エーテル溶液5mlで溶出させた。各溶出液1mlを栓のついたガラス管に移し、2,2−ジメトキシプロパン(Sigma、試薬グレード98%、D136808)0.2ml、1.5M HCl MeOH溶液(Fluka、17935)0.2ml、無水メタノール(Sigma、322415)0.6mlと混合した。サンプルを室温で一晩放置してから、ガスクロマトグラフで分析した。
【0089】
D.ガスクロマトグラフィー分析
サンプルを、Aglient Technologiesが製造した、スプリット/スプリットレス注入口、スプリットライナー、パルスドスプリット注入口型のガスクロマトグラフシステムModel 6890で試験した。スプリット比は、50:1であり、スプリット流速は109ml/分であった。注入口の温度は250℃であり、ヘッド圧は230kPaであった。使用したカラムは、IDが60m×0.25mmの0.15um DB−23であった。ガスの合計流速は113ml/分であり、キャリアガスはヘリウムであった。ヘリウムの流速は2.2ml/分であり、メイクアップ用ヘリウムの流速は30ml/分であり、水素の流速は40ml/分であり、空気は800ml/分であった。平均速度は34cm/秒であった。オーブンは、以下の表7に示すようにプログラミングされ、検出器の温度は、280℃に設定した。
【表7】
【0090】
使用したサンプルの容積は1μlであった。1つのサンプルが、他のサンプルと比べて長い時間処理されずに放置されてしまうことによって結果が偏らないように、6種類すべてのサンプルを順繰りに(すなわち、A、A、Aではなく、A、B、C)、各サンプルを3回注入した。変換ファクターとして内部標準を用い、それぞれの遊離脂肪酸の濃度をmmol/kgで算出した。
【0091】
表8にガスクロマトグラフィー分析の結果を示す。種々のリパーゼを用いて製造したEMCにおける、チーズ風味に関与する遊離脂肪酸(C4)または石鹸臭に関与する遊離脂肪酸(C14、C16、C18)の濃度を示している。
【表8】
【0092】
この実験で使用した5種類のリパーゼのうち、3種は、EMCサンプル中で、いくらか産生したとしても、それほど多くの遊離脂肪酸を産生しなかった。リパーゼのうち3種(リパーゼA12、リパーゼG50、およびリパーゼR)について、C4の濃度は、CHEESEMAX(登録商標)を用いて製造したEMCで以前に実測した結果よりもかなり低かった(CHEESEMAX(登録商標)自体を使用した場合には8.19mmol/kg、CHEESEMAX(登録商標)およびBIOLACTA(商標)を両方とも使用した場合には7.43mmol/kg;上掲の表4を参照)。また、これらのリパーゼによって産生されたC14、C16、およびC18のような長鎖脂肪酸の濃度は、CHEESEMAX(登録商標)のEMCで産生された量(30.4mmol/kg)またはCHEESEMAX(登録商標)/BIOLACTA(商標)のEMCで産生された量(19.12mmol/kg)よりもかなり少なかった(表4を参照)。
【0093】
上述の実験で、リパーゼA12は、対照と比較して、EMCの味覚を改良しなかった。しかし、リパーゼG50およびリパーゼRは、両方とも、チーズらしさおよびはっきりした風味において改良がみられた。このように、決定した遊離脂肪酸濃度は、味覚試験の結果と完全に一致するものではない。副反応が、決定した遊離脂肪酸濃度または味覚試験の結果、またはこの両方に影響を与えている可能性がある。さらに、上記で報告した味覚試験の結果は、1人の味覚検査者による1回の味覚試験によるものであり、他の人によるさらなる味覚試験をすれば、遊離脂肪酸濃度ともっと一致する結果が得られるかもしれない。
【0094】
上述のリパーゼのうち2種(リパーゼDF15およびリパーゼM)は、CHEESEMAX(登録商標)のEMCで実測した値よりも高い濃度のC4を産生した。しかし、味覚試験では、これらのEMC(リパーゼEMCおよびリパーゼ/BIOLACTA(商標)EMCの両方)は、チーズらしさおよびはっきりした風味で非常に低い点数であり、対照チーズスプレッドと同等の値であるか、または対照よりも低かった。リパーゼDF15を用いて製造したEMCは両方とも、石鹸らしさがないことで最も低い点数であり(石鹸臭が高い)、サンプルにチーズ風味がいくらか存在しても、この石鹸臭で隠されてしまう可能性がある。また、リパーゼMのEMCは、石鹸らしさがないことで低い点数であるが、リパーゼDF15のEMCほど低くはなかった。したがって、これらの酵素も、同様に、決定した遊離脂肪酸濃度が、味覚試験の結果と完全に一致するものではない。
【0095】
表9は、リパーゼ+BIOLACTA(商標)のEMC中の長鎖脂肪酸の、対応するリパーゼEMC中の長鎖脂肪酸濃度を基準とした比率を示す。比較のために、CHEESEMAX(登録商標)の場合の比率も示している。1未満の比率は、リパーゼ/ラクターゼの組み合わせを使用すると、リパーゼのみを用いた場合と比較して、長鎖脂肪酸の含有量が減っていることを示す。
【表9】
【0096】
CHEESEMAX(登録商標)を含め、すべてのリパーゼについて、上述の比率は、それぞれの遊離脂肪酸(C14、C16、C18)についてほぼ同じであった。しかし、CHEESEMAX(登録商標)によって産生されるもの(平均比率0.66)よりも小さな比率で産生するリパーゼは存在しなかった。リパーゼA12の場合、リパーゼA12/BIOLACTA(商標)のEMCは、リパーゼA12のEMCよりも石鹸臭が少ないが、EMCにBIOLACTA(商標)を加えると、2倍より多い長鎖脂肪酸が産生した(比率2.14)。BIOLACTA(商標)をリパーゼDF15と混合すると、長鎖脂肪酸の産生量が少なくなった(平均比率0.84)が、味覚試験中の石鹸臭がわずかに強くなった。リパーゼG50/BIOLACTA(商標)を用いて製造されたEMCは、長鎖脂肪酸濃度がわずかに大きく(平均比率1.17)、石鹸臭がわずかに強くなった。リパーゼMの場合、EMCにBIOLACTA(商標)を加えると、すべての遊離脂肪酸の濃度がわずかに減った(平均比率0.95)が、C4は、長鎖脂肪酸よりも強く影響を受けていた。上述のように、リパーゼM/BIOLACTA(商標)のEMCは、リパーゼMのEMCよりもわずかに石鹸臭が少なかった。リパーゼRの場合、C4濃度は、リパーゼR/BIOLACTA(商標)のEMCでわずかに高くなったが、長鎖脂肪酸の濃度は、かなり増えた(平均比率1.79)。リパーゼR/BIOLACTA(商標)のEMCは、味覚試験中、すべての項目でリパーゼRのEMCよりも良好な点数であった。したがって、これらの3種類のリパーゼでは、味覚試験の結果は、ガスクロマトグラフィーの結果と一致しなかった。
【0097】
この実験で試験した5種類のリパーゼのうち、3種(リパーゼA12、リパーゼG50、リパーゼR)は、EMC製造中にBIOLACTA(商標)と混合すると、もっと多くの長鎖脂肪酸を産生した。2種類のリパーゼ(リパーゼDF15およびリパーゼM)は、BIOLACTA(商標)と混合すると、産生される長鎖脂肪酸濃度が低くなった。
【0098】
上記の内容は、リパーゼおよびラクターゼの異なる組み合わせを、EMCに対する望ましい効果(例えば、遊離脂肪酸含有量、チーズらしさ、はっきりした風味、石鹸らしさがないこと、香りのうち、1つ以上に対する望ましい効果)についていかにスクリーニングすることができるかを示している。
【技術分野】
【0001】
例えば、リパーゼおよびラクターゼを用いて、食品を製造し、食品の風味を改良する酵素的方法、ならびに、関連する酵素組成物および食品を記載する。
【背景技術】
【0002】
飲食物の風味、質感、香りを改良するために、酵素を使用することができる。食品産業で酵素を用いる一例は、チーズ製造でみられる。チーズ製造業者は、チーズを製造し、風味を高めるために酵素を使用する。例えば、レンネットという酵素(プロテアーゼ)は、乳をカードやホエイに変える。他の酵素は、風味が乏しいチーズカードを、異なる風味をもつチーズに変える。ほとんどのナチュラルチーズの風味は、チーズに天然で存在する微生物叢によって作られる酵素によるものであるが、酵素によって改良されたチーズ(EMC)の風味は、製造プロセス中に添加された酵素によるものである。
【0003】
EMCは、望ましい風味を付与するために、酵素(例えば、リパーゼおよび/またはプロテアーゼ)を未成熟チーズに添加することによって作られたプロセスチーズの一種である。EMCは、典型的には、若い(未成熟)チーズ(例えば、マイルドなチーズカード)に、望ましいチーズ風味がつくように、酵素を短時間(例えば、約24時間)加えて作られる。EMCの風味は、ナチュラルチーズの10倍も強いことがあり、主に、EMCを製造するのに使用される酵素反応に依存する。商業的には、EMCは、プロセスチーズ製品として使用されるか、または、他の食品(例えば、スナック菓子、スープなど)にチーズ風味をつけることができる粉末として使用される。
【0004】
EMCは、一般的に、リパーゼを用いて製造される。リパーゼは、チーズに存在する脂質を分解し、脂肪酸を放出し、これが風味を付与する。例えば、高濃度の酪酸が放出されると、「ブルーチーズ」様の風味がチーズにつく。異なるリパーゼは、異なる風味をもたらす異なる脂肪酸プロフィールを有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、望ましい風味をもつEMCを製造するための酵素的方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一部の実施形態によれば、脂質およびラクトースを含む食品組成物と、1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼとを接触させることを含み、この1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つが、ガラクトース転移活性を示す、食品を調製する方法が提供される。一部の実施形態では、1種以上のリパーゼのうち、少なくとも1つは、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、短鎖脂肪酸を優先的に加水分解する。一部の実施形態では、この方法は、ラクトースを食品組成物に加えることをさらに含む。一部の実施形態では、この方法は、酵素不活性化工程をさらに含む。
【0007】
一部の実施形態では、リパーゼは、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ペニシリウム・カメンベルチ(Penicillium camemberti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、および/またはペニシリン・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3を含む。
【0008】
一部の実施形態では、ラクターゼは、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む。
【0009】
一部の実施形態では、本食品は、1つ以上のラクターゼでは処理されずに1つ以上のリパーゼで処理された比較品よりも、遊離長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率が高い。一部の実施形態では、本食品は、1つ以上のラクターゼでは処理されずに1つ以上のリパーゼで処理された比較品よりもチーズ風味が強い。一部の実施形態では、本食品は、1つ以上のラクターゼでは処理されずに1つ以上のリパーゼで処理された比較品よりも石鹸臭が少ない。
【0010】
一部の実施形態では、本食品は、酵素によって改良されたチーズおよびナチュラルチーズから選択されるチーズ製品である。一部の実施形態では、本食品は、末端食用品(food final product)である。一部の実施形態では、本食品は、食品添加剤である。
【0011】
他の実施形態によれば、脂質およびラクトースを含む食品組成物と、1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼとを接触させることを含む方法によって調製される食品が提供され、ここで、1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つは、ガラクトース転移活性を示す。一部の実施形態では、本食品は、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも、遊離長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率が高い。一部の実施形態では、本食品は、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりもチーズ風味が強い。一部の実施形態では、本食品は、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも石鹸臭が少ない。
【0012】
一部の実施形態では、本食品は、酵素によって改良されたチーズおよびナチュラルチーズから選択されるチーズ製品である。一部の実施形態では、本食品は、末端食用品である。一部の実施形態では、本食品は、食品添加剤である。
【0013】
他の実施形態によれば、1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼを含む酵素組成物が提供され、この1種以上のリパーゼのうち、少なくとも1つが、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、短鎖脂肪酸を優先的に加水分解し、この1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つが、ガラクトース転移活性を示す。一部の実施形態では、酵素組成物は、バッファーをさらに含む。一部の実施形態では、酵素組成物は、ラクトースをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、リパーゼCHEESEMAX(登録商標)(CM)による、脂質からの遊離脂肪酸の除去を示す。
【図2】図2は、リパーゼCHEESEMAX(登録商標)(CM)による、脂質からの遊離脂肪酸の除去と、BIOLACTA(商標)による、グリセロール部分での脂質へのガラクトース転移を示す。
【図3】図3は、CHEESEMAX(登録商標)のみによって、またはCHEESEMAX(登録商標)およびBIOLACTA(商標)によって処理した後の、サンプルの遊離脂肪酸組成を示す。
【図4】図4は、異なる温度条件での、CHEESEMAX(登録商標)の相対的リパーゼ活性を示すグラフである。反応はpH6.0で行った。
【図5】図5は、異なるpH条件で、CHEESEMAX(登録商標)の相対的リパーゼ活性を示すグラフである。反応は37℃で行った。
【図6】図6は、CHEESEMAX(登録商標)の熱安定性を示すグラフである。酵素溶液を、示した温度で、pH6.0で30分間インキュベートした。
【図7】図7は、CHEESEMAX(登録商標)のpH安定性を示すグラフである。酵素溶液を、示したpHで、25℃で60分間インキュベートした。
【図8】図8A〜8Dは、リパーゼMの種々の特性を示すグラフである。図8Aは、種々のpH条件でのリパーゼMの相対的リパーゼ活性を示す。図8Bは、種々の温度でのリパーゼMの相対的リパーゼ活性を示す。図8Cは、リパーゼMのpH安定性を示す。酵素溶液を、示したpHで、37℃で60分間インキュベートした。図8Dは、リパーゼMの熱安定性を示す。酵素溶液を、示した温度で、60分間インキュベートした。
【図9】図9A〜9Dは、リパーゼA12の種々の特性を示すグラフである。図9Aは、種々のpH条件でのリパーゼA12の相対的リパーゼ活性を示す。図9Bは、種々の温度でのリパーゼA12の相対的活性を示す。図9Cは、リパーゼA12のpH安定性を示す。酵素溶液を、示したpHで、60分間インキュベートした。図9Dは、リパーゼA12の熱安定性を示す。酵素溶液を、示した温度で、60分間インキュベートした。
【図10】図10A〜10Dは、リパーゼDF15の種々の特性を示すグラフである。図10Aは、種々のpH条件でのリパーゼDF15の相対的リパーゼ活性を示す。図10Bは、リパーゼDF15のpH安定性を示す。酵素溶液を、示したpHで、37℃で2時間インキュベートした。図10Cは、種々の温度でのリパーゼDF15の相対的リパーゼ活性を示す。図10Dは、リパーゼDF15の熱安定性を示す。酵素溶液を、示した温度で、pH7で、30分間インキュベートした。
【図11】図11A〜11Dは、リパーゼRの種々の特性を示すグラフである。図11Aは、2種類の異なるバッファー(McIlvaine(クエン酸/リン酸)バッファー、下側の線、菱形;リン酸バッファー、上側の線、四角形)中、種々のpH条件でのリパーゼRの相対的活性を示す。図11Bは、種々の温度でのリパーゼRの相対的リパーゼ活性を示す。図11Cは、2種類の異なるバッファー(McIlvaineバッファー、下側の線、菱形;リン酸バッファー、上側の線、三角形)中でのリパーゼRのpH安定性を示す。1%酵素溶液を、示したpHで、30℃で15分間インキュベートした。図11Dは、リパーゼRの熱安定性を示す。1%酵素溶液を、示した温度で、pH7.0で15分間インキュベートした。
【図12】図12A〜12Dは、リパーゼG50の種々の特性を示すグラフである。図12Aは、種々のpH条件でのリパーゼG50の相対的リパーゼ活性を示す。図12Bは、種々の温度でのリパーゼG50の相対的リパーゼ活性を示す。図12Cは、リパーゼG50のpH安定性を示す。図12Dは、リパーゼG50の熱安定性を示す。
【図13−1】図13A〜13Dは、BIOLACTA(商標)の種々のの特性を示すグラフである。図13Aは、種々の温度、pH6.0、反応時間10分で、0.1M酢酸バッファー中のラクトース基質に対するBIOLACTA(商標)の相対的ラクターゼ活性を示す。図13Bは、種々のpH条件、40℃、反応時間10分で、Britton Robinsonバッファー中のラクトース基質に対するBIOLACTA(商標)の相対的ラクターゼ活性を示す。
【図13−2】図13A〜13Dは、BIOLACTA(商標)の種々の特性を示すグラフである。図13Cは、pH6.0、以下の温度(上から下に):50℃、55℃、60℃、65℃で、0.1M酢酸バッファー中のBIOLACTA(商標)の温度安定性を示す。図13Dは、BIOLACTA(商標)のpH安定性を示す。反応物を、Britton Robinsonバッファー中、30℃で60分間インキュベートした。
【図14−1】図14A〜14Cは、ラクトース溶液中、BIOLACTA(商標)の種々の特性を示すグラフである。図14Aは、5%(点線)および50%(実線)のラクトース溶液中での、BIOLACTA(商標)の温度安定性を示す。pH6.0で60分間反応を行った。図14Bは、5%ラクトース溶液中、種々のBIOLACTA(商標)調製物によって放出されるグルコースの割合を示す。BIOLACTA(商標)調製物は、以下の活性を有している(上から下に):15LU/gラクトース、10LU/gラクトース、5LU/gラクトース、2.5LU/gラクトース、および1.25LU/gラクトース。pH6.0で60分間反応を行った。
【図14−2】図14A〜14Cは、ラクトース溶液中、BIOLACTA(商標)の種々の特性を示すグラフである。図14Cは、55%ラクトース基質に対する、BIOLACTA(商標)によるガラクトオリゴ糖の合成を示す。pH6.0で60分間反応を行った。
【発明を実施するための形態】
【0015】
例えば、リパーゼおよびラクターゼを用いて、食品を製造し、食品の風味を改良する酵素的方法、ならびに、関連する酵素組成物および食品を記載する。
【0016】
本明細書で使用される場合、他の意味であると述べられていない限り、単数形である「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」は、複数のものも含む。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「短鎖脂肪酸」は、4〜6個の炭素を含む脂肪酸を意味する。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「長鎖脂肪酸」は、14〜18個またはそれ以上の炭素を含む脂肪酸を意味する。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「中鎖脂肪酸」は、8〜12個の脂肪酸を含む脂肪酸を意味する。
【0020】
用語「食物」および「食品」は、本明細書で使用される場合、任意の食物または食品(飲料および飲料品を含む)を包含し、末端食用品(例えば、消費に適しているか、または消費のために販売されているもの)、1つ以上のさらなる食品成分を含む半加工品および完全に加工した製品、他の食品の添加剤として使用される製品を指す。特定の実施形態によれば、本明細書で記載する食物および食品は、EMCのような乳製品を含む。
【0021】
本明細書で記載する酵素的方法は、例えば、リパーゼおよびラクターゼを用いて、食品を製造する方法、および食物の風味(例えば、EMCの風味)を改良する方法を提供する。例えば、リパーゼおよびラクターゼを含む、関連する酵素組成物、および、ここに記載する方法によって製造される食品も提供する。
【0022】
I.方法
上述のように、EMCは、一般的に、リパーゼを用いて製造され、リパーゼは、チーズに存在する脂質(トリグリセリドを含む)を分解し、脂肪酸を放出し、これが風味を付与する。チーズの遊離脂肪酸プロフィール(遊離脂肪酸の量および種類)は、チーズの風味に影響を与え、使用される特定の酵素によって変わる。酪酸(4個の炭素原子を有する短鎖脂肪酸、C4)は、典型的には、強いチーズ風味を与えるため、チーズ製品にとって望ましい脂肪酸である。動物のリパーゼ(例えば、ウシまたは子ウシに由来する前胃酵素(PGE))は、優先的に酪酸を放出し、チーズを製造する際に使用されてきた。しかし、ヒト(または他の動物)が消費するための食物の製造において、動物に由来する酵素を使用することに関わる健康上の懸念(例えば、動物のウイルスまたはプリオンによって汚染されるリスク)があり、PGEをあまり使用しないことが望ましい。リパーゼの供給源となる微生物が存在するが、今日までに同定されている典型的な微生物のリパーゼは、パルミチン酸(16個の炭素原子を有する、C16)、ステアリン酸(18個の炭素原子を有する、C18)のような長鎖脂肪酸を放出する。このような長鎖脂肪酸は、石鹸臭を付与してしまうので、典型的には望ましくない。
【0023】
本明細書に記載する酵素的方法は、食品(例えば、EMC)に望ましい風味を付与するリパーゼおよびラクターゼを使用する。典型的なリパーゼが、チーズに存在する典型的なトリグリセリド(脂質)に作用する場合、トリグリセリドの末端短鎖(C4)脂肪酸が最初に放出され、次いで、末端長鎖脂肪酸が放出され、中央にある脂肪酸は、多くは放出されない。この反応を図1に示す。ラクターゼをリパーゼと組み合わせて用いることによって、長鎖脂肪酸の放出を減らすか、または完全になくしつつ、短鎖(C4)脂肪酸を放出させることができることを発見した。
【0024】
ラクターゼは、ラクトースをその成分である糖(グルコースおよびガラクトース)に加水分解する。また、ほとんどのラクターゼは、ガラクトース部分を別のラクトース分子に転移させ、オリゴ糖を構築する第2の活性も有する。任意の理論によって束縛されることを望まないが、本明細書に記載されるようなラクターゼを用いると、食品に存在する(または、食品に加えられてもよい)ラクトースから、ガラクトース部分が、トリグリセリドの短鎖脂肪酸が放出された部位に転移すると考えられる。また、任意の理論によって束縛されることを望まないが、得られた分子は、リパーゼによって認識されず、そのため、それ以外の方法では長鎖脂肪酸を放出すると思われるさらなる加水分解に、耐性を示すと考えられる。この反応スキームを図2に示す。
【0025】
任意の理論によって束縛されることを望まないが、本明細書に記載される酵素的方法は、以下のとおりに進むと考えられる。
【0026】
リパーゼを、脂質およびラクトースを含む食品組成物(例えば、若いチーズ、チーズカード、またはEMCベース)に加え、リパーゼは、脂質から短鎖(例えば、C4)脂肪酸を優先的に放出し、望ましいチーズ風味を作り出し、脂肪酸が放出した脂質上に遊離ヒドロキシル基が残る。
【0027】
ラクターゼを食品組成物に加え、ラクターゼは、ガラクトース部分(組成物中に存在するラクトースおよび/または組成物に加えられるラクトースに由来する)が、脂質の遊離ヒドロキシル位置に転移し、リパーゼによるさらなる加水分解に耐性を示す分子が得られる。
【0028】
一部の実施形態では、ガラクトース転移反応を促進するために、ラクトースを食品組成物に加える。例えば、ラクトースは、反応バッファー中に存在していてもよい。
【0029】
上述のように、この反応を図2に示す。また、上述のように、本発明は、いかなる様式でも、この機構に限定されない。
【0030】
実際に、酵素(および、場合によりラクトース)を、食品組成物に同時または逐次加えてもよい。一部の実施形態では、酵素を実質的に同時に加える。他の実施形態では、酵素を、食品組成物に加えられる1つの組成物で提供する。
【0031】
酵素(および、場合によりラクトース)を、任意の手段によって、例えば、酵素と食品組成物を混合またはブレンドすることによって、または、酵素を食品組成物に噴霧することによって食品組成物に加えてもよい。
【0032】
一部の実施形態では、1つ以上のリパーゼおよび/または1つ以上のラクターゼを使用する。2種類以上のリパーゼおよび/または2種類以上のラクターゼを使用すると、風味をさらに制御することができるか、または製造プロセス(例えば、反応条件または反応時間)をさらに制御することができる。したがって、望ましい酵素活性プロフィール(例えば、望ましいリパーゼ活性(遊離脂肪酸プロフィールを含む)、望ましいラクターゼ活性、および/または望ましいラクターゼの第2の活性)を達成するために、例えば、異なるリパーゼおよび/または異なるラクターゼを組み合わせて用いることができる。
【0033】
一部の実施形態では、1つ以上の酵素の量は、風味をさらに制御するか、または製造プロセスをさらに制御することが可能なように選択される。例えば、リパーゼの量および/または2種類以上のリパーゼの比率を、望ましい風味を達成するように選択してもよい。これに加えて、またはこの代わりに、ラクターゼの量および/または2種類以上のラクターゼの比率を、望ましい風味を達成するように選択してもよい。実際に、リパーゼおよびラクターゼの種類および量の選択は、遊離脂肪酸プロフィールに影響を与える場合があり、したがって、風味に影響を与える場合がある。
【0034】
使用する酵素の量は、任意の既知の手段、例えば、モル数またはモル比(例えば、酵素のナノモル数またはマイクロモル数)、重量または重量比(酵素のマイクログラム数またはナノグラム数)、または活性の量または活性比(例えば、酵素の「ユニット」数、または酵素活性/酵素の重量またはモル数)によってあらわすことができる。リパーゼ活性およびラクターゼ活性を決定する標準的な方法は、当該技術分野で知られている。
【0035】
一部の実施形態では、本方法は、ラクターゼでは処理されずにリパーゼで処理された同じ食品の比較サンプルよりも、食品中の長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率を増やすのに十分な量の酵素を使用する。
【0036】
一部の実施形態では、本方法は、食品の風味を高めるのに十分な量の酵素を使用する。上述のように、使用すべき実際の酵素量は、食品の性質、望ましい風味、酵素の濃度または活性によって変わるであろう。風味とは、限定されないが、製品に特徴的な味および香りを含むと理解されるべきである。高められた風味は、従来の手段によって、例えば、専門的な味を検査する人、または専門的ではない味を検査する人によって評価することができる。上述のように、一部の実施形態では、本方法は、チーズ風味が高められ、および/または石鹸臭が少ない食品を提供する。
【0037】
一部の実施形態では、本方法は、酵素を不活性化する不活性化工程も含む。例えば、本方法は、酵素で処理した食品組成物を、組成物中に存在する酵素(または酵素活性)の1つ以上を不活性化するのに十分な時間と温度で加熱することを含む熱不活性化工程を含んでいてもよい。不活性化に適した温度および時間は、当業者なら簡単に決定することができる。例示的な温度は、約70℃〜約90℃の範囲である。例示的な時間は、約5〜約60分の範囲であり、約5〜約30分を含む。一部の実施形態では、不活性化工程は、EMC製品に関する技術分野で従来からある技術のような低温殺菌プロセスを含む。一部の実施形態では、不活性化工程は、食品の品質を悪化させることなく、酵素活性を下げるか、または失わせるように選択される。しかし、本明細書に記載する方法の1つの有益な態様は、他の方法では、望ましくない石鹸臭が発生し、長鎖脂肪酸を放出してしまうことを防ぐための酵素不活性化工程を必要としないことである。したがって、一部の実施形態では、本方法は、酵素不活性化工程を含まない。
【0038】
II.酵素
本明細書に記載する酵素的方法は、食品製造に使用するのに安全な任意の酵素を使用することができる。酵素は、任意の供給源から得ることができ、任意の供給源(動物または微生物を含む)から誘導することができる。例えば、酵素は、天然で酵素を産生する微生物、または当該技術分野でよく知られている方法を用いて、1つ以上の酵素を産生するように遺伝子改変された微生物から得ることができる。また、酵素は、当該技術分野でよく知られている方法を用いて、例えば、形質転換した細胞またはトランスフェクトした細胞からの組み換え方法によって得ることができる。例えば、望ましい酵素をコードする核酸配列を、発現ベクターに挿入し、酵素を産生するように宿主細胞を形質転換するか、またはトランスフェクトするために使用することができる。多くの適切な酵素が、以下に記載するように市販されている。
【0039】
A.リパーゼ
リパーゼ(EC3.1.1.3)は、脂質基質(例えば、トリグリセリド)のエステル結合を加水分解するように作用する加水分解酵素の一種である。トリグリセリドは、3個の脂肪酸でエステル化されたグリセロール分子を含む(例えば、図1および図2を参照)。トリグリセリドの脂肪酸は、短鎖(例えば、4〜6個の炭素を含む)であってもよく、中鎖または長鎖(例えば、8〜12個、またはそれ以上の炭素を含む)であってもよい。天然に存在するトリクリセリドでは、脂肪酸の鎖長が炭素16個、18個、20個のものが最も一般的である。1個のトリグリセリドに存在する脂肪酸は、同じであっても異なっていてもよい。例えば、乳製品中に存在するトリグリセリドは、典型的には、1個の短鎖脂肪酸(例えば、酪酸(C4))と、2個のこれより長い鎖の脂肪酸(例えば、パルミチン酸(C16)およびステアリン酸(C18))を含む。
【0040】
多くの動物および微生物のリパーゼが知られており、EMC製造を含む食品製造で使用され、これらの任意のリパーゼ、または望ましい活性を有する他のリパーゼを、本明細書に記載する方法で使用することができる。一部の実施形態によれば、リパーゼは、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、最初に短鎖脂肪酸を優先的に加水分解する。「最初に短鎖脂肪酸を優先的に加水分解する」とは、そのリパーゼが、長鎖脂肪酸を放出する前に、脂質から短鎖脂肪酸を優先的に放出することを意味し、その結果、リパーゼは、最初に短鎖脂肪酸を放出すると考えられる。図1は、トリグリセリドの短鎖脂肪酸(図の位置3)を加水分解し、その後、それより長い鎖の脂肪酸(図の位置1)を加水分解する体系的なリパーゼを示す。この望ましい優先的な活性は、長鎖脂肪酸および短鎖脂肪酸を含むトリグリセリドを含む組成物にリパーゼを加え、脂質が完全に加水分解する前に、プロセスの初期にこのリパーゼ反応を停止させ、遊離脂肪酸プロフィール(または、残った部分的に加水分解したトリグリセリド)を分析し、短鎖脂肪酸が優先的に放出されていることを確認する(例えば、反応を停止させた時点で、長鎖脂肪酸よりも多くの短鎖脂肪酸が放出されていることを確認する)ことによって、確認することができる。このような分析は、当該技術分野で既知の方法によって行うことができる。
【0041】
1.CHEESEMAX(登録商標)
本明細書で記載する方法で使用可能なリパーゼの一例は、CHEESEMAX(登録商標)の名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。CHEESEMAX(登録商標)は、Food Chemical Codex IV法によって評価した場合、7,500U/gを下回らないリパーゼ活性を有する調製物として販売されており、1ユニットは、pH7.0で1分間に酪酸1μmolを放出する酵素の量である。CHEESEMAX(登録商標)は、Good Manufacturing Practicesに従って、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作り出される、食品グレードのリパーゼ調製物である。
【0042】
CHEESEMAX(登録商標)は、38,000の分子量を有し、等電点は6.8である。CHEESEMAX(登録商標)は、80℃で約15分間加熱することによって不活性化することができる。CHEESEMAX(登録商標)の特徴のいくつか(温度と活性、pHと活性、熱安定性およびpH安定性)を図4〜図7に示す。CHEESEMAX(登録商標)は、トリグリセリドの短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸を加水分解するが、トリアシルグリセリドの1位および3位にある短鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸が優先する。CHEESEMAX(登録商標)の市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られる他のリパーゼを、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0043】
2.リパーゼM
本明細書で記載する方法で使用可能な別のリパーゼの例は、リパーゼM「Amano」10(以下、「リパーゼM」)という名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。リパーゼMは、Good Manufacturing Practicesに従って、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作り出される、食品グレードの脂肪分解酵素調製物である。
【0044】
リパーゼMは、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドの1位、2位、3位にある短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸を加水分解することができる。リパーゼMは、10,000ユニット/グラムを下回らないリパーゼ活性で販売されている。リパーゼMの市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リパーゼMの特徴のいくつか(温度と活性、pHと活性、熱安定性およびpH安定性)を図8A〜8Dに示す。ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られる他のリパーゼも、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0045】
3.リパーゼA12
本明細書で記載する方法で使用可能な別のリパーゼの例は、リパーゼA「Amano」12(以下、「リパーゼA12」)という名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。リパーゼA12は、Good Manufacturing Practicesに従って、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作り出される、食品グレードのトリアシルグリセロールリパーゼ調製物である。リパーゼA12は、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドの1位、2位、3位にある短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸を加水分解することができる。リパーゼA12は、35,000の分子量を有し、等電点は4.10である。リパーゼA12は、120,000ユニット/グラムを下回らないリパーゼ活性で販売されている。リパーゼA12の市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リパーゼA12のさらなる特徴を図9A〜9Dに示す。アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作られる他のリパーゼも、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0046】
4.リパーゼDF15
本明細書で記載する方法で使用可能な別のリパーゼの例は、リパーゼDF「Amano」15−K(以下、「リパーゼDF15」)という名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。リパーゼDF15は、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作り出される。この食品グレードのリパーゼ製品は、グリセリドの1位および3位に対する位置特異性を有し、トリグリセリドの1(α)位および3(γ)位のエステル結合を加水分解する。リパーゼDF15は、長鎖および中鎖を有する脂肪酸に比較的特異的である。リパーゼ活性(pH7で、Food Chemical Codex V法による)は、150,000ユニット/グラムを下回らない。リパーゼDF15の市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リパーゼDF15のさらなる特徴を図10A〜10Dに示す。リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られる他のリパーゼも、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0047】
5.リパーゼR
本明細書で記載する方法で使用可能な別のリパーゼの例は、リパーゼR「Amano」(以下、「リパーゼR」)という名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。リパーゼRは、Good Manufacturing Practicesに従って、ペニシリウム・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作り出される、食品グレードのトリアシルグリセロールリパーゼである。リパーゼRは、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドの1位および3位から、長鎖脂肪酸に優先して短鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸を加水分解する。リパーゼRは、25,000の分子量を有し、等電点は4.50であり、不活性化条件(0.1%酵素溶液)は、60℃で2分間または70℃で1分間である。リパーゼRは、900ユニット/グラムを下回らないリパーゼ活性で販売されている。リパーゼRの市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リパーゼRのさらなる特徴を図11A〜11Dに示す。ペニシリウム・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作られる他のリパーゼも、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0048】
6.リパーゼG50
本明細書で記載する方法で使用可能な別のリパーゼの例は、リパーゼG「Amano」50(以下、「リパーゼG50」)という名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。リパーゼG50は、Good Manufacturing Practicesに従って、ペニシリウム・カムンベルチ(Penicillium camembertii)の発酵によって作り出される、食品グレードの酵素調製物である。リパーゼG50は、高いエステル化活性を有しており、グリセリドを加水分解し、トリグリセリドよりも部分グリセリドを迅速に加水分解し、グリセロールおよび脂肪酸を産生する。リパーゼG50Rは、50,000ユニット/グラムを上回らないリパーゼ活性で販売されている。リパーゼG50の市販調製物は、提供された濃度で使用してもよく、または使用のために希釈してもよく、さらに濃縮してもよい。リパーゼG50のさらなる特徴を図12A〜12Dに示す。ペニシリウム・カムンベルチ(Penicillium camembertii)の発酵によって作られる他のリパーゼも、本明細書に記載されるように使用してもよい。
【0049】
B.ラクターゼ
ラクターゼは、二糖類のラクトースを、その成分であるモノマー(グルコース、ガラクトース)に加水分解する、別の種類の加水分解酵素である。上述のように、ほとんどのラクターゼは、ガラクトース部分を別のラクトース分子に転移させ、これを繰り返し行い、オリゴ糖を構築する第2の活性も有する。
【0050】
多くの動物および微生物のラクターゼが知られており、食品製造で使用される。例えば、ラクターゼを乳製品に加え、ラクトース含有量を減らし、ラクトース不耐症を患う人々にもっと受け入れられる製品を作る。例えば、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)、クルイベロミセス・フラジリス(Kluyveromyces fragilis)、クルイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)に由来するラクターゼが市販されている。これらの任意のラクターゼ、または望ましい第2の活性を有する他のラクターゼを、本明細書に記載する方法で使用することができる。この望ましい第2の活性は、ラクトースを含む組成物にラクターゼを加え、得られたオリゴ糖の含有量を分析し、ラクターゼが、ラクトース分子にガラクトース部分を転移させ、オリゴ糖を構築していることを確認することによって、確認することができる。
【0051】
一部の実施形態では、酵素は、高レベルの第2の(ガラクトース転移)活性を有するように選択されるか、または操作される。例えば、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryza)から単離したラクターゼは、この活性を高レベルで示すように操作されており、BIOLACTA(商標)の名称で販売されている(Amano Enzyme,U.S.,Elgin,IL)。BIOLACTA(商標)は、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵を制御して作られる、天然のラクターゼ(β−ガラクトシダーゼ、Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology(NC−IUBMB)番号:EC3.2.1.23)である。
【0052】
BIOLACTA(商標)は、約6.0の最適pHを有し(図13B)、pH約5.0〜約9.5で安定であり(図13D)、至適温度は約65℃であり(図13A)、約55℃で少なくとも1時間は安定である(図13C)。BIOLACTA(商標)の作用温度は、実際には、50%ラクトース存在下では、60℃でも十分に適用可能である(図14A)。BIOLACTA(商標)の加水分解速度(例えば、新鮮な乳中のラクトースの加水分解)は、添加されたBIOLACTA(商標)の量に正比例する(図14B)。55%ラクトース存在下、BIOLACTA(商標)は、二糖類、三糖類、四糖類、五糖類を含む約58%のオリゴ糖を産生する(図14C)。1ラクトースユニット(LU)は、40℃、pH6.0で反応初期段階に、1分あたりグルコース1μmolを遊離させる酵素の量であると定義される。BIOLACTA(商標)は、本明細書に記載する方法で使用するのに適している。BIOLACTA(商標)は、5,500LU/gのラクターゼ活性を持つ市販調製物で販売されている。
【0053】
一部の実施形態では、使用するリパーゼは、CHEESEMAX(登録商標)であり、使用するラクターゼは、BIOLACTA(商標)である。例えば、約0.1〜0.2%のCHEESEMAX(登録商標)と、約0.1〜0.2%のBIOLACTA(商標)とを使用してもよい。これらの量は、単なる例であり、当業者は、酵素活性および望ましい効果によっては、異なる量の異なる酵素を使用してもよいことを理解するであろう。
【0054】
一部の実施形態では、リパーゼは、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼ、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られるリパーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作られるリパーゼ、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼ、ペニシリウム・カムンベルチ(Penicillium camemberti)の発酵によって作られるリパーゼ、および/またはペニシリウム・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作られるリパーゼを含み、ラクターゼは、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む。例えば、一部の実施形態では、リパーゼは、CHEESEMAX(登録商標)、リパーゼM、リパーゼA12、リパーゼD15、リパーゼG50および/またはリパーゼRを含み、ラクターゼは、BIOLACTA(商標)を含む。別の特定の実施形態では、リパーゼは、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られるリパーゼを含み、ラクターゼは、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含み、例えば、リパーゼがリパーゼMを含み、ラクターゼがBIOLACTA(商標)を含む。上述のように、記載した任意のリパーゼ/ラクターゼの組み合わせで、BIOLACTA(商標)に加えて、またはBIOLACTA(商標)に代えて、ガラクトース転移活性を有する他のラクターゼを、本明細書に記載される方法で使用してもよい。
【0055】
以下の実施例に示したように、EMCの望ましい効果について、リパーゼおよびラクターゼの他の組み合わせをスクリーニングしてもよい。例えば、ある組み合わせが、1つ以上の遊離脂肪酸の含有量、チーズらしさ、はっきりした風味、石鹸らしさがないこと、香りに対し、望ましい効果を有する場合がある。
【0056】
C.ラクトース
一部の実施形態では、ラクトース分子から、部分的に加水分解した脂質へのガラクトース部分の転移を促進するために、ラクトースを使用する。ラクトースは、Sigma Chemical Co.を含め、多くの供給業者から市販されている。
【0057】
D.他の成分
酵素は、典型的には、EMC製造目的で使用される組成物で提供されてもよく、この組成物は、例えば、pHを調整するために1種以上のバッファーを含んでいてもよい。例えば、1種以上の酵素が、特定のpHまたはpH範囲で望ましい活性を示す場合、pHをこの範囲に調整するために、1種以上のバッファーを使用してもよい。バッファーの例としては、限定されないが、酢酸バッファー、リン酸バッファーが挙げられる。
【0058】
したがって、本明細書で、1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼを含み、この1種以上のリパーゼのうち、少なくとも1つが、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、短鎖脂肪酸を優先的に加水分解し、この1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つが、ガラクトース転移活性を示す酵素組成物が提供される。一部の実施形態では、この組成物は、バッファーをさらに含む。
【0059】
III.食品
また、本明細書に記載される酵素的方法を用いて調製した食品を、本明細書に記載する。上述のように、「食品」は、製造のすべての段階での食品および飲料品を含む。
【0060】
以下の特定の実施形態および実施例では、本発明の態様を示すために特定の食品を使用するが、本発明は、これらの特定の実施形態に限定されず、リパーゼおよびラクターゼを使用し、例えば、長鎖脂肪酸の放出を防ぎつつ、短鎖脂肪酸の放出を可能にすることによって、食品に望ましい風味を付与するであろう場合なら、どの適用例でも見つかることが理解されるべきである。
【0061】
一部の実施形態では、本食品は、乳製品である。乳製品としては、限定されないが、乳、クリーム、アイスクリーム、チーズ、チーズカード、バター、バターミルク、ヨーグルト、サワークリーム、クリームチーズ、カッテージチーズなどが挙げられる。乳製品は、末端製品である飲食物、および/または、末端製品の成分として使用される飲食物を含む。特定の実施形態によれば、本食品は、本明細書に記載される酵素的方法を用いて調製されたEMCを含む。他の実施形態によれば、本食品は、本明細書に記載される酵素的方法を用いて調製された伝統的なチーズ(例えば、ハードチーズ)を含む。
【0062】
一部の実施形態では、本食品は、他の生成物に乳製品の風味を付与するために使用される(例えば、食品添加剤)。例えば、本明細書に記載される方法によって調製されたEMCを用い、スナック食品、スープ、パンなどにチーズ風味を付与することができる。
【0063】
一部の実施形態では、本明細書に記載される食品(例えば、本明細書に記載される酵素的方法によって調製されるもの)は、本明細書に記載される酵素的方法によって調製されたのではない比較食品(例えば、リパーゼのみを用いて調製されたもの、第2の(ガラクトース転移)活性を有するラクターゼを用いずに調製されたもの)とは異なる遊離脂肪酸含有量を示す。遊離脂肪酸含有量は、当該技術分野で既知の方法によって評価することができる。典型的な方法は、以下の実施例に示すように、食品からの脂肪酸の抽出、メチルエステルへの変換、ガスクロマトグラフィーによる分析を含む。
【0064】
したがって、一部の実施形態では、本食品は、ガラクトース転移活性を有する1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも、遊離長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率が高い。一部の実施形態では、本食品は、ガラクトース転移活性を有する1つ以上のラクターゼでは処理されずに1つ以上のリパーゼで処理された比較品の長鎖脂肪酸含有量よりも、長鎖脂肪酸含有量(例えば、C18脂肪酸の含有量)が、約2/3以下(例えば、66%以下、63%を含む)である。一部の実施形態では、本食品は、ガラクトース転移活性を有する1つ以上のラクターゼでは処理されずに1つ以上のリパーゼで処理された比較品の短鎖脂肪酸含有量に対し、短鎖脂肪酸含有量(例えば、C4脂肪酸の含有量)が、約90%以上(91%を含む)である。
【0065】
一部の実施形態では、本食品は、ガラクトース転移活性を有する1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりもチーズ風味が強い。一部の実施形態では、本食品は、ガラクトース転移活性を有する1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも石鹸臭が少ない。
【実施例】
【0066】
IV.実施例
以下の実施例は、本発明を説明するために与えられている。しかし、本発明は、これらの実施例に記載されている特定の条件または詳細に限定されるべきではないことが理解されるべきである。
【0067】
実施例1〜4は、本発明に記載される方法によって、EMCのチーズの風味が改良され、石鹸臭が少なくなることを示す。伝統的なチーズの風味を改良するために、同様の方法を使用することが可能であるが、固形チーズ組成物(例えば、チェダーチーズ)では、以下で使用する液状のチーズ組成物と比較すると、風味を増すには長い時間が必要であろう。
【0068】
CHEESEMAX(登録商標)(LMERE0552501K)、BIOLACTA(商標)FN5(P5HA201)のサンプルを、Amano Enzyme USAから直接入手した。すべての酵素を100mg/ml溶液として使用した。Weyauwega Star Dairy Cheddarチーズカードを、地域の食品店で購入した。吉草酸、すなわちC5の内部標準をAldrichから購入し(カタログ番号240370)、ヘプタデカン酸、すなわちC17をSigmaから購入した(H3500)。
【0069】
実施例1:リパーゼのみを用いたEMCの調製、またはリパーゼおよびラクターゼを用いたEMCの調製
この実験は、リパーゼのみを用いて調製したEMC、または高いレベルの第2の(ガラクトース転移)活性を有するラクターゼ(BIOLACTA(商標))をリパーゼと組み合わせて用いて調製したEMCを比較する。
【0070】
Weyauwega Star Dairyチェダーチーズカードを、地域の食品店で購入した。このチェダーチーズカード約75グラム(g)を秤量してCusinartに入れた。ラクトースを含むバッファー(0.5%w/vのラクトース、1.0%w/vのNaCl、1.5%w/vのクエン酸ナトリウム)75ミリリットル(ml)を、カードがスラリーになるように、徐々に加えた。スラリーを50グラムずつ2つ秤量し、滅菌ポリカーボネートフラスコに入れ、次いで、サンプルを熱水で30分間かけて低温殺菌した。サンプルを50℃で1時間冷却した。両方のサンプルにCHEESEMAX(登録商標)(Amano Enzyme USA)2ml(0.2グラム)を加え、片方のサンプルには、BIOLACTA(商標)(Amano Enzyme USA)溶液2ml(0.2g)も加えた。両サンプルを50℃でインキュベートし、200RPMで21.3時間遠心分離処理した。インキュベートした後、両サンプルを熱水浴に30分入れ、酵素を不活性化させた。遊離脂肪酸(「FFA」)分析のために少量のサンプル(1.05g)を取り出した。残ったサンプルを冷蔵庫に保存し、味覚試験まで冷却しておいた。
【0071】
実施例2:味覚試験
それぞれのサンプルの味を2回ずつ試験した。1回目の味覚試験では、サンプルの固体部分2.0gを秤量皿に秤量し、EASY CHEESE(登録商標)(低温殺菌した米国のチーズスナック)と合わせて重量を10.0gにした。サンプルをスプーンで十分に混ぜた後、1人の味覚検査者がサンプルを試験した。各サンプルを対照(EASY CHEESE(登録商標)のみ)と比較し、チーズらしさ、石鹸のような風味について点数を付けた。このように、第1の味覚試験は、定性的な違いに注目したものであった。結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0072】
第2の味覚試験の前に、固体と水っぽい層を混ぜ合わせるために、サンプルを2分間ホモジナイズした。次いで、各サンプル5.0gを50ml遠沈管に秤量した。低温殺菌したチーズスナック(EASY CHEESE(登録商標))20gをそれぞれの管に加え、もう一度サンプル全体を2分間ホモジナイズした。1人の味覚検査者がサンプルを試験し、テイスティングの前に、それぞれのにおいを嗅いで、香りを評価した。各サンプルについて、チーズらしさ、石鹸のような風味、香りについて1〜10のスケールで点数を付けた。10が、可能な最高評価である。チーズらしさについて、10は、最も風味がよいことをあらわし、石鹸のような風味については、10が、最も石鹸臭が少ないことをあらわす。対照(EASY CHEESE(登録商標)のみ)も点数を付けた。結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0073】
これらの結果は、本明細書に記載される方法にしたがって、リパーゼおよびラクターゼで処理したEMCは、風味および香りが改良されていることを示している。
【0074】
実施例3:遊離脂肪酸の抽出およびメチルエステルへの変換
上述のように調製したそれぞれのEMC約1.05gを50ml遠沈管に秤量した。各管に以下の試薬を加えた:2.5M H2SO4を1ml、水を3ml、内部標準(C5(吉草酸、Aldrichから購入、カタログ番号240370)およびC17(ヘプタデカン酸、Sigmaから購入、カタログ番号H3500)、1:1 エーテル:ヘキサン中、各脂肪酸を1mg/ml)を5ml。EMCは、手動でかき混ぜると粘性が大きすぎて乳化できないため、各サンプルを、手持ち式ホモジナイザーPolytron PT 1200Eを用い、最大RPMで1分間ホモジナイズした。サンプルを、Beckman Coulter Allegra(商標)25R Centrifuge(System ID 433500)を用いて3000RPMで10分間遠心分離処理し、次いで、3500RPMで20分間、再び遠心分離処理し、十分に分離した層を得た。油層をピペットで抜き取り、10mlのヘプタンで平衡化したSEPカラムに通した。カラムをクロロホルム:プロパノール2:1 10mlで洗浄し、遊離脂肪酸(FFA)を、2%ギ酸エーテル溶液5mlで溶出させた。各溶出液1mlを栓のついたガラス管に移し、2,2−ジメトキシプロパン(Sigma、試薬グレード98%、D136808)0.2ml、1.5M HCl MeOH溶液0.2ml、無水メタノール0.6mlと混合した。サンプルを室温で一晩放置してから、ガスクロマトグラフで分析した。
【0075】
実施例4:遊離脂肪酸のガスクロマトグラフィー
サンプルを、Aglient Technologiesが製造した、スプリット/スプリットレス注入口、スプリットライナー、パルスドスプリット注入口型のガスクロマトグラフシステムModel 6890で試験した。スプリット比は、50:1であり、スプリット流速は109ml/分であった。注入口の温度は250℃であり、ヘッド圧は230kPaであった。使用したカラムは、IDが60m×0.25mmの0.15um DB−23であった。ガスの合計流速は113ml/分であり、キャリアガスはヘリウムであった。ヘリウムの流速は2.2ml/分であり、メイクアップ用ヘリウムの流速は30ml/分であり、水素の流速は40ml/分であり、空気は800ml/分であった。平均速度は34cm/秒であった。オーブンは、以下の表3に示すようにプログラミングされ、検出器の温度は、280℃に設定した。
【表3】
【0076】
使用したサンプルの容積は1μlであった。1つのサンプルが、他のサンプルと比べて長い時間処理されずに放置されてしまうことによって結果が偏らないように、3種類すべてのサンプルを順繰りに(すなわち、A、A、Aではなく、A、B、C)、各サンプルを5回注入した。各サンプルを試験した後、それぞれのFAMEピーク(保持時間をあらかじめ決定しておいた)の面積をExcelのスプレッドシートに入力した。変換ファクターについて内部標準を用い、それぞれの遊離脂肪酸の濃度をmmol/kgで算出した。ガスクロマトグラフィー分析の結果を以下の表4および図3に示す。各脂肪酸の平均濃度を、mmol/kgであらわしている。
【表4】
【0077】
これらの結果は、本明細書に記載される方法に従って、EMCをリパーゼおよびラクターゼで処理すると、C4脂肪酸濃度は、リパーゼのみで処理したEMCで実測した濃度の91%に維持しつつ、C18脂肪酸濃度が、リパーゼのみで処理したEMCで実測した濃度の63%まで低下していることを示している。
【0078】
チーズの遊離脂肪酸含有量を分析する際の問題点の1つは、チーズ風味を与える物質である短鎖脂肪酸が揮発性であり、抽出およびメチルエステル化の手順中に簡単に失われてしまうことである。本発明者らの公開されていない以前の研究は、EMCを保存するために秤量した酪酸を加えた場合、平均で、加えた酪酸の40%が失われることを示している。したがって、上記で概説した抽出およびメチルエステル化の手順中に、EMCに本来含まれているのとほぼ同じ割合の酪酸が失われていると考えるのは理屈に合わないことではない。この実験では、CHEESEMAX(登録商標)で処理したEMCは、C4濃度の測定値が8.19mmolであり、CHEESEMAX(登録商標)+BIOLACTA(商標)で処理したEMCは、C4濃度の測定値が7.43mmol C4/kgであった。これらのサンプルの正しいC4濃度は、この現象の以前の研究に基づいて、それぞれ、11.47mmol/kgおよび10.40mmol/kgであろう。
【0079】
実施例5:BIOLACTA(商標)を用いた、5種類の異なるリパーゼの評価
異なるリパーゼを用いたBIOLACTA(商標)の効果を試験するために、EMCを、リパーゼA12、リパーゼDF15、リパーゼG50、リパーゼM、およびリパーゼRの5種類のリパーゼを用いて製造した。それぞれの実験において、リパーゼ自体を用いたものと、BIOLACTA(商標)と組み合わせて用いたものの両方で、EMCを製造した。EMCを製造した後、遊離脂肪酸を抽出し、メチルエステルに変換し、ガスクロマトグラフィーで分析した。また、EMCサンプルの味を検査し、チーズらしさ、はっきりした風味、石鹸のような風味について点数を付けた。
【0080】
A.EMCの製造
BIOLACTA(商標)、リパーゼA12、リパーゼDF15、リパーゼG50、リパーゼM、およびリパーゼRのサンプルをAmano Enzyme USAから直接得た。すべての酵素を100mg/ml溶液として使用した。
【0081】
種々の販売日の数バッチのWeyauwega Star Dairyチェダーチーズカードを、地域の食品店で購入した。内部標準である吉草酸(C5)をAldrichから購入し(カタログ番号240370)、ヘプタデカン酸(C17)をSigmaから購入した(H3500)。
【0082】
それぞれのリパーゼを、異なるバッチのEMCで使用した。それぞれのバッチについて、このチェダーチーズカード約175グラムを秤量してCusinartに入れた。同じ容積のバッファー(0.5%w/vのラクトース、1.0%w/vのNaCl、1.5%w/vのクエン酸ナトリウム)を、カードがスラリーになるように、徐々に加えた。このスラリーを50gずつ6個秤量し、滅菌ポリカーボネートフラスコに入れ、次いで、サンプルを熱水で30分間かけて低温殺菌した。サンプルを、使用するリパーゼの至適作用温度で少なくとも1時間冷却した。それぞれのリパーゼについて用いた温度を以下の表5に示す。
【表5】
【0083】
すべてのサンプルに、リパーゼ2ml(0.2g)を入れた。これらのサンプルのうち3サンプルには、BIOLACTA(商標)溶液1.0ml(0.1g)も加え、残りの3サンプルは、対照としてそのままにしておいた。すべてのサンプルを、リパーゼの作用温度で、200RPMで一晩(17〜22時間)インキュベートした。インキュベート時間が終了したら、サンプルを熱水浴に30分入れ、酵素を不活性化させた。EMCをわずかに冷却した後、手持ち式ホモジナイザーPolytron PT 1200Eを用い、最大RPMで1分間ホモジナイズした。遊離脂肪酸を抽出し、分析する(以下に記載)ために少量のサンプル(1.05g)を取り出した。次いで、EMCを冷蔵庫に保存し、味覚試験まで冷却しておいた。
【0084】
B.味覚試験
すべてのリパーゼについて、リパーゼのみで処理したEMCサンプル1つと、リパーゼおよびBIOLACTA(商標)の両方で処理したEMCサンプル1つとをそれぞれ2g、低温殺菌したチーズスプレッド8gと混合した。また、この低温殺菌したチーズスプレッド自体も味を調べ、風味の基本レベルを確立した。それぞれのサンプルについて、1人の味覚検査者が、チーズらしさ、はっきりした風味、石鹸らしさがないことについて、0〜10の点数を付けた(10は、可能な最高スコアである)。
【0085】
以下の表6に、味覚試験の結果を示す。すべての味覚試験において、対照チーズは、チーズらしさ、はっきりした風味については1点(最低点)が付けられており、石鹸らしさがないことについては10点(最高点)が付けられている。
【表6】
【0086】
上に示した味覚特性に加え、リパーゼMを用いて製造されたEMCサンプルでは苦みも検出された。リパーゼMのみを用いて調製されたサンプルは、苦みのレベルが4(または、苦みのなさならば6)であり、一方、リパーゼMおよびBIOLACTA(商標)の両方を用いて調製されたサンプルは、苦みのレベルが2(または、苦みのなさならば8)であった。すべての他のEMCは、苦みのレベルが0(または、苦みのなさならば10)であろう。
【0087】
上記の結果は、BIOLACTA(商標)を異なるリパーゼとともに用いると、チーズらしさ、はっきりした風味、石鹸らしさがないことについて異なる効果を発揮し得ることが示されている。したがって、望ましい効果を達成するリパーゼ/ラクターゼの組み合わせを選択することによって、望ましい風味プロフィールを有するEMCを得ることができる。
【0088】
C.遊離脂肪酸の抽出およびメチルエステルへの変換
それぞれのEMC約1.05gを50ml遠沈管に秤量した。各管に以下の試薬を加えた:2.5M H2SO4を1ml、水を3ml、内部標準(C5およびC17、1:1 エーテル:ヘキサン中、各脂肪酸を1mg/ml)を5ml。サンプルを激しくボルテックスし、エマルションを作製した。サンプルを、Beckman Coulter Allegra(商標)25R Centrifuge(System ID 433500)を用いて3000RPMで15〜30分間遠心分離処理した。油層をピペットで抜き取り、10mlのヘプタンで平衡化したSEPカラムに通した。カラムをクロロホルム:プロパノール2:1 10mlで洗浄し、遊離脂肪酸(FFA)を、2%ギ酸エーテル溶液5mlで溶出させた。各溶出液1mlを栓のついたガラス管に移し、2,2−ジメトキシプロパン(Sigma、試薬グレード98%、D136808)0.2ml、1.5M HCl MeOH溶液(Fluka、17935)0.2ml、無水メタノール(Sigma、322415)0.6mlと混合した。サンプルを室温で一晩放置してから、ガスクロマトグラフで分析した。
【0089】
D.ガスクロマトグラフィー分析
サンプルを、Aglient Technologiesが製造した、スプリット/スプリットレス注入口、スプリットライナー、パルスドスプリット注入口型のガスクロマトグラフシステムModel 6890で試験した。スプリット比は、50:1であり、スプリット流速は109ml/分であった。注入口の温度は250℃であり、ヘッド圧は230kPaであった。使用したカラムは、IDが60m×0.25mmの0.15um DB−23であった。ガスの合計流速は113ml/分であり、キャリアガスはヘリウムであった。ヘリウムの流速は2.2ml/分であり、メイクアップ用ヘリウムの流速は30ml/分であり、水素の流速は40ml/分であり、空気は800ml/分であった。平均速度は34cm/秒であった。オーブンは、以下の表7に示すようにプログラミングされ、検出器の温度は、280℃に設定した。
【表7】
【0090】
使用したサンプルの容積は1μlであった。1つのサンプルが、他のサンプルと比べて長い時間処理されずに放置されてしまうことによって結果が偏らないように、6種類すべてのサンプルを順繰りに(すなわち、A、A、Aではなく、A、B、C)、各サンプルを3回注入した。変換ファクターとして内部標準を用い、それぞれの遊離脂肪酸の濃度をmmol/kgで算出した。
【0091】
表8にガスクロマトグラフィー分析の結果を示す。種々のリパーゼを用いて製造したEMCにおける、チーズ風味に関与する遊離脂肪酸(C4)または石鹸臭に関与する遊離脂肪酸(C14、C16、C18)の濃度を示している。
【表8】
【0092】
この実験で使用した5種類のリパーゼのうち、3種は、EMCサンプル中で、いくらか産生したとしても、それほど多くの遊離脂肪酸を産生しなかった。リパーゼのうち3種(リパーゼA12、リパーゼG50、およびリパーゼR)について、C4の濃度は、CHEESEMAX(登録商標)を用いて製造したEMCで以前に実測した結果よりもかなり低かった(CHEESEMAX(登録商標)自体を使用した場合には8.19mmol/kg、CHEESEMAX(登録商標)およびBIOLACTA(商標)を両方とも使用した場合には7.43mmol/kg;上掲の表4を参照)。また、これらのリパーゼによって産生されたC14、C16、およびC18のような長鎖脂肪酸の濃度は、CHEESEMAX(登録商標)のEMCで産生された量(30.4mmol/kg)またはCHEESEMAX(登録商標)/BIOLACTA(商標)のEMCで産生された量(19.12mmol/kg)よりもかなり少なかった(表4を参照)。
【0093】
上述の実験で、リパーゼA12は、対照と比較して、EMCの味覚を改良しなかった。しかし、リパーゼG50およびリパーゼRは、両方とも、チーズらしさおよびはっきりした風味において改良がみられた。このように、決定した遊離脂肪酸濃度は、味覚試験の結果と完全に一致するものではない。副反応が、決定した遊離脂肪酸濃度または味覚試験の結果、またはこの両方に影響を与えている可能性がある。さらに、上記で報告した味覚試験の結果は、1人の味覚検査者による1回の味覚試験によるものであり、他の人によるさらなる味覚試験をすれば、遊離脂肪酸濃度ともっと一致する結果が得られるかもしれない。
【0094】
上述のリパーゼのうち2種(リパーゼDF15およびリパーゼM)は、CHEESEMAX(登録商標)のEMCで実測した値よりも高い濃度のC4を産生した。しかし、味覚試験では、これらのEMC(リパーゼEMCおよびリパーゼ/BIOLACTA(商標)EMCの両方)は、チーズらしさおよびはっきりした風味で非常に低い点数であり、対照チーズスプレッドと同等の値であるか、または対照よりも低かった。リパーゼDF15を用いて製造したEMCは両方とも、石鹸らしさがないことで最も低い点数であり(石鹸臭が高い)、サンプルにチーズ風味がいくらか存在しても、この石鹸臭で隠されてしまう可能性がある。また、リパーゼMのEMCは、石鹸らしさがないことで低い点数であるが、リパーゼDF15のEMCほど低くはなかった。したがって、これらの酵素も、同様に、決定した遊離脂肪酸濃度が、味覚試験の結果と完全に一致するものではない。
【0095】
表9は、リパーゼ+BIOLACTA(商標)のEMC中の長鎖脂肪酸の、対応するリパーゼEMC中の長鎖脂肪酸濃度を基準とした比率を示す。比較のために、CHEESEMAX(登録商標)の場合の比率も示している。1未満の比率は、リパーゼ/ラクターゼの組み合わせを使用すると、リパーゼのみを用いた場合と比較して、長鎖脂肪酸の含有量が減っていることを示す。
【表9】
【0096】
CHEESEMAX(登録商標)を含め、すべてのリパーゼについて、上述の比率は、それぞれの遊離脂肪酸(C14、C16、C18)についてほぼ同じであった。しかし、CHEESEMAX(登録商標)によって産生されるもの(平均比率0.66)よりも小さな比率で産生するリパーゼは存在しなかった。リパーゼA12の場合、リパーゼA12/BIOLACTA(商標)のEMCは、リパーゼA12のEMCよりも石鹸臭が少ないが、EMCにBIOLACTA(商標)を加えると、2倍より多い長鎖脂肪酸が産生した(比率2.14)。BIOLACTA(商標)をリパーゼDF15と混合すると、長鎖脂肪酸の産生量が少なくなった(平均比率0.84)が、味覚試験中の石鹸臭がわずかに強くなった。リパーゼG50/BIOLACTA(商標)を用いて製造されたEMCは、長鎖脂肪酸濃度がわずかに大きく(平均比率1.17)、石鹸臭がわずかに強くなった。リパーゼMの場合、EMCにBIOLACTA(商標)を加えると、すべての遊離脂肪酸の濃度がわずかに減った(平均比率0.95)が、C4は、長鎖脂肪酸よりも強く影響を受けていた。上述のように、リパーゼM/BIOLACTA(商標)のEMCは、リパーゼMのEMCよりもわずかに石鹸臭が少なかった。リパーゼRの場合、C4濃度は、リパーゼR/BIOLACTA(商標)のEMCでわずかに高くなったが、長鎖脂肪酸の濃度は、かなり増えた(平均比率1.79)。リパーゼR/BIOLACTA(商標)のEMCは、味覚試験中、すべての項目でリパーゼRのEMCよりも良好な点数であった。したがって、これらの3種類のリパーゼでは、味覚試験の結果は、ガスクロマトグラフィーの結果と一致しなかった。
【0097】
この実験で試験した5種類のリパーゼのうち、3種(リパーゼA12、リパーゼG50、リパーゼR)は、EMC製造中にBIOLACTA(商標)と混合すると、もっと多くの長鎖脂肪酸を産生した。2種類のリパーゼ(リパーゼDF15およびリパーゼM)は、BIOLACTA(商標)と混合すると、産生される長鎖脂肪酸濃度が低くなった。
【0098】
上記の内容は、リパーゼおよびラクターゼの異なる組み合わせを、EMCに対する望ましい効果(例えば、遊離脂肪酸含有量、チーズらしさ、はっきりした風味、石鹸らしさがないこと、香りのうち、1つ以上に対する望ましい効果)についていかにスクリーニングすることができるかを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質およびラクトースを含む食品組成物と、1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼとを接触させることを含み、この1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つが、ガラクトース転移活性を示す、食品を調製する方法。
【請求項2】
前記1種以上のリパーゼのうち、少なくとも1つが、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、短鎖脂肪酸を優先的に加水分解する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ラクトースを食品組成物に加えることをさらに含む、請求項1および2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
酵素不活性化工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも、遊離長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率が高い、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりもチーズ風味が強い、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも石鹸臭が少ない、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記食品が、酵素によって改良されたチーズおよびナチュラルチーズから選択されるチーズ製品である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記食品が末端食用品である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記食品が食品添加剤である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記リパーゼが、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記リパーゼが、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ラクターゼが、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記リパーゼが、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3を含み、前記ラクターゼが、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記リパーゼが、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3を含み、前記ラクターゼが、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記リパーゼが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ペニシリウム・カメンベルチ(Penicillium camemberti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ペニシリウム・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3からなる群より選択されるリパーゼを含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記リパーゼが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ペニシリウム・カメンベルチ(Penicillium camemberti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ペニシリウム・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3からなる群より選択されるリパーゼを含み、前記ラクターゼが、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法によって調製される食品。
【請求項19】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも、遊離長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率が高い、請求項18に記載の食品。
【請求項20】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりもチーズ風味が強い、請求項18〜19のいずれか1項に記載の食品。
【請求項21】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも石鹸臭が少ない、請求項18〜20のいずれか1項に記載の食品。
【請求項22】
前記食品が、酵素によって改良されたチーズおよびナチュラルチーズから選択されるチーズ製品である、請求項18〜21のいずれか1項に記載の食品。
【請求項23】
前記食品が末端食用品である、請求項18〜22のいずれか1項に記載の食品。
【請求項24】
前記食品が食品添加剤である、請求項18〜22のいずれか1項に記載の食品。
【請求項25】
1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼを含む酵素組成物であって、この1種以上のリパーゼのうち、少なくとも1つが、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、短鎖脂肪酸を優先的に加水分解し、この1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つが、ガラクトース転移活性を示す、酵素組成物。
【請求項26】
バッファーをさらに含む、請求項25に記載の酵素組成物。
【請求項27】
ラクトースをさらに含む、請求項25〜26のいずれか1項に記載の酵素組成物。
【請求項1】
脂質およびラクトースを含む食品組成物と、1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼとを接触させることを含み、この1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つが、ガラクトース転移活性を示す、食品を調製する方法。
【請求項2】
前記1種以上のリパーゼのうち、少なくとも1つが、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、短鎖脂肪酸を優先的に加水分解する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ラクトースを食品組成物に加えることをさらに含む、請求項1および2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
酵素不活性化工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも、遊離長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率が高い、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりもチーズ風味が強い、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも石鹸臭が少ない、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記食品が、酵素によって改良されたチーズおよびナチュラルチーズから選択されるチーズ製品である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記食品が末端食用品である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記食品が食品添加剤である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記リパーゼが、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記リパーゼが、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ラクターゼが、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記リパーゼが、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3を含み、前記ラクターゼが、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記リパーゼが、ムコール・ジャバニクス(Mucor javanicus)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3を含み、前記ラクターゼが、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記リパーゼが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ペニシリウム・カメンベルチ(Penicillium camemberti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ペニシリウム・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3からなる群より選択されるリパーゼを含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記リパーゼが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ペニシリウム・カメンベルチ(Penicillium camemberti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3、ペニシリウム・ロクエフォルチ(Penicillium roqueforti)の発酵によって作られるリパーゼEC3.1.1.3からなる群より選択されるリパーゼを含み、前記ラクターゼが、バチルス・シルクランス(Bacillus circulans)の発酵によって作られるβ−ガラクトシダーゼEC3.2.1.23を含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法によって調製される食品。
【請求項19】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも、遊離長鎖脂肪酸に対する遊離短鎖脂肪酸の比率が高い、請求項18に記載の食品。
【請求項20】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりもチーズ風味が強い、請求項18〜19のいずれか1項に記載の食品。
【請求項21】
前記食品が、1種以上のラクターゼでは処理されずに1種以上のリパーゼで処理された比較品よりも石鹸臭が少ない、請求項18〜20のいずれか1項に記載の食品。
【請求項22】
前記食品が、酵素によって改良されたチーズおよびナチュラルチーズから選択されるチーズ製品である、請求項18〜21のいずれか1項に記載の食品。
【請求項23】
前記食品が末端食用品である、請求項18〜22のいずれか1項に記載の食品。
【請求項24】
前記食品が食品添加剤である、請求項18〜22のいずれか1項に記載の食品。
【請求項25】
1種以上のリパーゼおよび1種以上のラクターゼを含む酵素組成物であって、この1種以上のリパーゼのうち、少なくとも1つが、長鎖脂肪酸を加水分解する前に、短鎖脂肪酸を優先的に加水分解し、この1種以上のラクターゼのうち、少なくとも1つが、ガラクトース転移活性を示す、酵素組成物。
【請求項26】
バッファーをさらに含む、請求項25に記載の酵素組成物。
【請求項27】
ラクトースをさらに含む、請求項25〜26のいずれか1項に記載の酵素組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−1】
【図13−2】
【図14−1】
【図14−2】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13−1】
【図13−2】
【図14−1】
【図14−2】
【公表番号】特表2011−525356(P2011−525356A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514880(P2011−514880)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/048104
【国際公開番号】WO2010/008786
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(510334491)アマノ エンザイム ユーエスエー,リミテッド (2)
【出願人】(000216162)天野エンザイム株式会社 (26)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/048104
【国際公開番号】WO2010/008786
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(510334491)アマノ エンザイム ユーエスエー,リミテッド (2)
【出願人】(000216162)天野エンザイム株式会社 (26)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]