風圧力係数推定プログラム、風圧力係数推定装置および構造体の動作制御方法
【課題】 構造体の風圧力係数について、信頼性の高い風圧力係数を迅速に推定することができる一般的な推定方法を提供する。
【解決手段】 入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む読込ステップS10、読み込まれた前記種類と前記代表値とに基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する入力変数推定ステップS20、前記代表値と推定された前記入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する風圧力係数導出ステップS30、導出された前記風圧力係数の推定結果を外部出力手段に出力する出力ステップS40をコンピュータに実行させる。
【解決手段】 入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む読込ステップS10、読み込まれた前記種類と前記代表値とに基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する入力変数推定ステップS20、前記代表値と推定された前記入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する風圧力係数導出ステップS30、導出された前記風圧力係数の推定結果を外部出力手段に出力する出力ステップS40をコンピュータに実行させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に入手することができる情報に基づいて風圧力係数を推定することにより、風により構造体に及ぼされる力やモーメントなどを見かけの風向角の関数として推定する風圧力係数推定プログラム、風圧力係数推定装置および構造体の動作制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物、船舶、船舶以外の浮体、自動車、鉄道などのような構造体について、従来、種々の方法を用いて、構造計算や外乱による影響の評価などに関する計算がなされている。例えば、既築建築の構造計算方法としては、ユニットの大きさなどを含む各設計条件に基づいて構造部材にかかる応力を演算して得られた一次設計データと、構造部材についての断面設計データを用いて地震力や風圧力によって構造部材にかかる応力を演算して得られた二次設計データとに基づいて、構造計算をする方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、建築物以外の構造体として船舶があるが、船舶の安全な航行のためには、風、波、潮流といった外乱による操縦性能への影響を正確に評価することが重要である。しかし、船舶は、水面上の船体が水面下の船体に比べてはるかに多様で複雑な形状を持っている。このため、水面上の船体に働く風の力を純粋な物理的理論に基づいて一般的に推定する推定方法はこれまでに報告されていない。
これまでに提案されている一般的な推定方法は、風洞実験データの分析に基づく方法(手法)である。これらの方法では、船舶の長さや幅、前後投影面積、左右投影面積などの外形的特徴を変数とした推定式を用いて風圧力係数を表現している。現在最も推定精度が高いと考えられる推定式では、船舶の外形的特徴に対応した8種類の変数が必要とされる(例えば、非特許文献1参照)。具体的には、図7に示した船舶の全長LOA、船舶の幅B、前後投影面積AF、左右投影面積AL、上部構造物の左右投影面積AOD、左右投影面積中心の船体中央からの距離C、左右投影面積中心の喫水からの高さHC、および主要構造物の喫水からの高さHBRの8変数が必要とされる。また、外形的特徴に対応した9種類の変数を用いた推定式により風圧力係数を表現する方法も提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、従来の推定式に必要とされる変数のうち、船舶の長さや幅などの情報は比較的容易に入手できるものの、投影面積やその面積中心の位置などは容易に入手することができない。これら入手困難な情報については、一般に、対象とする船舶の図面からの情報の読み取りおよび情報を解析する作業が必要となるが、古い船舶や海外で建造された船舶の場合、その図面の入手が困難あるいは不可能なことが少なくない。
このため、海難事故の解析や原因究明などのように迅速に風圧力係数を推定することが必要な場合は、何らかの仮定に基づいた推定がなされる。具体的には、類似する船の風圧力係数と同じと仮定するか、類似船の投影面積等を参考にして何らかの仮定に基づく方法で必要な変数を推定したうえで、事故に遭った船の風圧力係数を推定することになる。しかし、これらの方法はいずれも個別具体的な対処方法であって一般的な推定方法とは言えない。したがって、船の長さと幅程度の情報から風圧力係数がある程度の精度で推定できれば有用な推定手段の一つとなると考えられる。しかし、上述のように多様で複雑な水面上形状を有する船について、比較的容易に入手することができる長さと幅程度の情報に基づいて、ある程度高い精度で風圧力係数を推定する方法はこれまでに提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−150665号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】藤原敏文、上野道雄、池田良穂「成分分離型モデルを利用した新しい風圧力推定法」社団法人日本船舶海洋工学会、平成17年12月発行、日本船舶海洋工学会論文集 第2号 p.243〜255
【非特許文献2】藤原敏文、上野道雄、二村正「船体に働く風圧力の推定」社団法人日本造船学会、平成10年6月発行、日本造船学会論文集 第183号 p.77〜90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、構造体の風圧力係数について、容易に入手することができる情報に基づいて信頼するに足るある程度高い精度で推定する方法は未だ提案されていない。このため、迅速に風圧力係数を推定することが必要な場合において、推定が個別具体的な方法によりなされていることから、推定された風圧力係数の信頼性が不明であり、また推定の迅速性にも欠けるという問題があった。
【0008】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、容易に入手することができる情報に基づいて、構造体の風圧力係数を信頼に足る高い精度で推定することができる風圧力係数推定プログラム、風圧力係数推定装置および構造体の動作制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の風圧力係数推定プログラムは、コンピュータに、入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む読込ステップ、読み込まれた前記構造体の前記種類と前記代表値とに基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する入力変数推定ステップ、前記代表値と推定された前記入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する風圧力係数導出ステップ、導出された前記風圧力係数の推定結果を外部出力手段に出力する出力ステップを実行させるためのものである。
請求項1記載の本発明によれば、構造体の種類と代表値とに基づいて、入力変数推定ステップにおいて入力変数を精度良く推定することができるから、当該推定された入力変数を風圧力係数推定式に適用することにより、信頼性の高い風圧力係数を推定することが可能となる。また、容易に入手することができる情報として構造体の種類と代表値を用いることにより、風圧力係数を迅速に推定することができる。また、入力された代表値を風圧力係数推定式にも適用することにより、全て推定された入力変数を用いる場合と比較して風圧力係数の信頼性を向上できる。なお、一般的には、風圧力係数推定式として回帰式型風圧力係数推定式が用いられる。
【0010】
請求項2記載の風圧力係数推定プログラムは、前記入力変数推定ステップおよび前記風圧力係数導出ステップにおいて、前記風圧力係数推定式として成分分離型風圧力係数推定式を用いることを特徴としている。
請求項2記載の本発明によれば、風圧力係数推定式として理論が確立していて推定精度が高い成分分離型風圧力係数推定式を用いることにより、風圧力係数導出ステップにおいて信頼性の高い風圧力係数を推定することができる。
【0011】
請求項3記載の風圧力係数推定プログラムは、前記入力変数推定ステップにおいて、前記入力変数として前記構造体の部分面積および部分長さを推定することを特徴としている。
請求項3記載の本発明によれば、推定された部分面積および部分長さを用いて、風圧力係数導出ステップにおいて風圧力係数を推定することができるから、得られる風圧力係数を信頼性の高いものとすることができる。また、部分面積および部分長さを用いて構造体の実態を推定することも可能となる。
【0012】
請求項4記載の風圧力係数推定プログラムは、前記入力変数推定ステップにおいて、前記統計的方法として前記構造体の種類と前記構造体の代表値に基づく回帰分析により入力変数を推定することを特徴としている。
請求項4記載の本発明によれば、構造体の種類と構造体の代表値に基づく回帰分析をおこなうことによって得られた入力変数を用いて、風圧力係数導出ステップにおいて風圧力係数を推定することができるから、得られる風圧力係数を信頼性の高いものとすることができる。
また、構造体の種類と構造体の代表値のデータを予め積み上げて回帰分析を行うことにより、入力変数の推定精度をさらに向上することも可能となる。
【0013】
請求項5記載の風圧力係数推定プログラムは、前記読込ステップにおいて、前記構造体の前記種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込むことを特徴としている。
請求項5記載の本発明によれば、船舶を対象として風圧力係数推定を行う場合、例えばタンカーまたは客船のいずれであるかといった船舶の種類を読み込むことにより、入力変数推定ステップで統計的になされる入力変数の推定精度を高くすることができる。また、代表値として読み込まれる船舶の全長は比較的容易に入手できる情報であるから、風圧力係数の推定を迅速に行う必要がある場合に好適である。なお、「少なくとも前記船舶の全長を読み込む」には、船舶の全長と併せて他の代表値を読み込むことも含まれ、例えば、比較的入手の容易な船舶の幅を船舶の長さと併せて読み込むこととしてもよい。
【0014】
請求項6記載の風圧力係数推定プログラムは、前記読込ステップにおいて、前記入力手段から入力された前記構造体の重量関連条件をさらに読み込み、前記入力変数推定ステップにおいて、読み込まれた前記構造体の前記種類、前記代表値、および前記重量関連条件に基づいて前記入力変数を推定することを特徴とする。
請求項6記載の本発明によれば、「重量関連条件」を読み込むことにより、多量の貨物を積載する構造体の現実の状態に対応させて、高い精度で入力変数を推定することができる。上記「重量関連条件」とは、構造体の重量に関する条件をいい、例えば、荷物の積載を目的とする構造体の場合、荷物が積載されているか否かといった条件が該当する。より具体的には、船舶の場合、積荷を積載中のものであるのか、積荷を積載していないものであるか、積荷の積載重量を反映した喫水のレベルはどのくらいかといった重量に関連した条件(情報)が構造体の重量関連条件に該当する。
【0015】
請求項7記載の風圧力係数推定プログラムは、前記コンピュータに、前記入力手段から入力された風速条件と空気の密度条件を読み込む条件読込ステップ、読み込まれた前記風速条件および前記空気の密度条件、推定された前記入力変数、並びに推定された風圧力係数に基づいて風圧力を推定する風圧力推定ステップをさらに実行させることを特徴としている。
請求項7記載の本発明によれば、条件読込ステップにおいて風速条件と空気の密度条件を読み込むことにより、風圧力推定ステップにおいて構造体に及ぶ風圧力を推定することが可能となる。
【0016】
請求項8記載の風圧力係数推定装置は、入力手段とコンピュータと出力手段を備えている風圧力係数推定装置であって、前記コンピュータが、前記入力手段からの入力を読み込み、請求項1乃至請求項7のうちの1項に記載されている風圧力係数推定プログラムを実行して、実行結果を前記出力手段に出力することを特徴としている。
請求項8記載の本発明によれば、構造体の種類と代表値とに基づいて、入力変数推定ステップにおいて入力変数を精度良く推定することができるから、当該推定された入力変数を風圧力係数推定式に適用することにより、信頼性の高い風圧力係数を推定することが可能となる。また、容易に入手することができる情報として構造体の種類と代表値を用いることにより、風圧力係数を迅速に推定することができる。
【0017】
請求項9記載の構造体の動作制御方法は、プログラムされたコンピュータによって構造体の動作を制御する方法であって、入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む読込ステップ、読み込まれた前記種類と前記代表値に基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する入力変数推定ステップ、前記代表値と推定された前記入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する風圧力係数導出ステップ、導出された前記風圧力係数の推定結果に基づいて構造体の動作を制御する制御ステップを含むことを特徴としている。
請求項9記載の本発明によれば、風圧力係数導出ステップにおいて推定された信頼性の高い風圧力係数に基づいて構造体の動作制御を行うことができる。したがって、構造体の挙動に対する操作制御や操作シミュレーションなどのような動作制御を、構造体の種類と構造体の代表値という少ない情報に基づいて精度良く行うことができる。
【0018】
請求項10記載の構造体の動作制御方法は、前記読込ステップにおいて、前記種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込むことを特徴としている。
請求項10記載の本発明によれば、読込ステップにおいて読み込まれた船舶の種類および代表値を用いて船舶の風圧力係数を推定することができる。したがって、少ない情報に基づいて、操船シミュレーションや操船制御などを精度良く行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の風圧力係数推定プログラムは、構造体の種類と代表値に基づいて入力変数を推定し、代表値と推定された入力変数を風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数を導出することができるものである。このため、本発明によれば、構造体の風圧力係数推定式に用いられる変数を入手できない場合においても、容易に入手できる情報として構造体の種類と代表値を用いて、信頼性の高い風圧力係数を迅速に推定することが可能となるという効果を奏する。
なお、風圧力係数推定式として成分分離型風圧力係数推定式を用いる場合、入力変数推定ステップにおいて前記入力変数として前記構造体の部分面積および部分長さを推定する場合、入力変数推定ステップにおいて回帰分析を用いる場合、および読込ステップにおいて構造体の重力関連条件をさらに読み込む場合には、より高い精度で構造体の風圧力係数を推定することができる。
また、前記構造体の前記種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込む場合、船舶の風圧力係数の信頼性を高くすることができ、風圧力係数を迅速に推定することができる。さらに、前記構造体の重量関係条件を読み込む場合、船舶の風圧力係数をさらに信頼性高く推定することができる。
また、入力手段から入力された風速条件と空気の密度条件を読み込む条件読込ステップと、推定された風圧力係数に基づいて風圧力を推定する風圧力推定ステップを備えた場合は、構造体に及ぶ風圧力を精度高く迅速に推定することが可能となる。
【0020】
本発明の風圧力係数推定装置は、構造体の風圧力係数推定式に用いられる変数を入手できない場合においても、容易に入手できる情報を代表値として用いて、信頼性の高い風圧力係数を迅速に推定することが可能となるという効果を奏する。
【0021】
本発明の構造体の動作制御方法は、信頼性の高い風圧力係数に基づいて構造体の動作制御を行うことができるから、構造体の挙動に対する操作制御や操作シミュレーションなどのような動作制御を、少ない情報に基づいて精度良く行うことができる。
なお、読込ステップにおいて船舶の種類および代表値を読み込む場合、これらを用いて船舶の風圧力係数を推定することができるから、操船シミュレーションや操船制御を少ない情報に基づいて精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す風圧力係数推定プログラムのフローチャート
【図2】本発明の第2の実施形態を示す風圧力係数推定プログラムのフローチャート
【図3】本発明の第2の実施形態における風速条件相互間の関係を説明する模式図
【図4】本発明の第2において船舶を対象として風圧力係数推定プログラムを実行する場合の風速条件相互間の関係を説明する模式図
【図5】本発明の第3の実施形態を示す風圧力係数推定装置のブロック図
【図6】本発明の第4の実施形態を示す構造体の動作制御方法のフローチャート
【図7】本発明の実施例が用いた風圧力係数推定式における8種類の入力変数を説明する模式図
【図8】実施例の風圧力係数推定プログラムのフローチャート
【図9】実施例の風圧力係数推定係数の意義を説明する模式図
【図10】実施例の風圧力係数推定装置のブロック図
【図11】実施例の風圧力係数推定装置のテーブル記憶手段に記憶されているテーブルを説明する模式図
【図12】油槽船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図13】油槽船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図14】ばら積船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図15】ばら積船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図16】LNG船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図17】LNG船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図18】コンテナ船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図19】客船について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図20】その他の船について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図21】全ての種類の船について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図22】油槽船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図23】油槽船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図24】ばら積船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図25】ばら積船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図26】LNG船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図27】LNG船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図28】コンテナ船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図29】客船について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図30】その他の船について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図31】実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の平均残差を全船について平均し、風向角ごとに表したグラフ
【図32】実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の平均残差を全船について平均し、全風向角の平均で表したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態を示す風圧力係数推定プログラムのフローチャートである。同図に示すように、本発明は、読込ステップS10、入力変数推定ステップS20、風圧力係数導出ステップS30、出力ステップS40をコンピュータに実行させるための風圧力係数推定プログラムとして実施することができる。以下に、各ステップについて順に説明する。
【0024】
読込ステップS10は、コンピュータが入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む工程である。構造体の種類と構造体の代表値の入力に用いられる入力手段としては、キーボード等の公知の手段を用いることができる。
読込ステップS10においてその種類および代表値が入力される「構造体」としては、例えば、船舶、船舶以外の浮体、自動車、鉄道、建築物などが挙げられる。そして、「構造体の種類」とは、構造体の性質・形態などが共通するものを分類してそれぞれのまとまりとしたものをいい、例えば船舶と自動車のように相対的に大きな性質・形態の違いを基準として分類した種類、例えば船舶のうちのタンカーと客船のように相対的に小さな性質・形態の違いを基準として分類した種類、構造体の重量に関する重量関連条件を基準として分類した種類のいずれも含まれる。読込ステップS10において入力される「代表値」とは、例えば、構造体の長さや幅のような寸法、全体容積といった風圧力係数を推定する構造体の全体を良く表すことができる値をいう。
構造体が船舶である場合、入力変数を推定する際に用いられる船舶の種類としては、例えば、油槽船(タンカー)、ばら積み船、LNG船、コンテナ船、客船、その他の船舶という分類を用いることができる。また、船舶が満載であるか軽荷であるかという情報(重量関連条件)をも読込ステップS10において読み込むこととしてもよい。これにより、船舶の種類をより実際の状況に応じたものとすることができるから、後の入力変数推定ステップS20における入力変数の推定をより精度の高いものとすることが可能となる。
【0025】
また、構造体として船舶を対象とする場合、代表値としては船舶の全長が好適である。なぜなら、事故発生時などの迅速な風圧力係数の推定が必要である場合であっても、船舶の全長に関する情報は比較的容易に入手することができるからである。船舶の代表値としては、船舶の全長が好ましく用いられる。読込ステップS10において、構造体の種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込んでおけば、後の入力変数推定ステップの推定精度を向上させることができる。なお、比較的容易に入手することができる情報としては全長の他に船舶の総トン数もあるが、船舶の総トン数は船舶の種類または重量関連条件として読み込まれる。
読込ステップS10においてなされる、構造体の種類、代表値、重量関連条件の読み込みは、入力変数推定ステップの前になされれば良く、読み込みの順序は特に限定されるものではなく、同時に読み込むこととされても良い。
【0026】
入力変数推定ステップS20は、読込ステップS10において読み込まれた構造体の種類と代表値とに基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する工程である。
入力変数推定ステップS20において用いられる「風圧力係数推定式」としては、従来公知の式を用いることができるが、成分分離型風圧力係数推定式が好ましく用いられる。なぜならば、成分分離型風圧力係数推定式は、理論として確立され、現在最も推定精度が高いと考えられる推定式であるからである。また、入力変数推定ステップS20において推定される入力変数は、用いられる風圧力係数推定式に対応して決まるものであるが、具体的には、構造体の部分面積や部分長さなどが挙げられる。また、通常、入力変数のうちの一つが代表値とされるから、入力変数推定ステップS20において代表値以外の入力変数が推定されることとなるが、入力変数以外のパラメータが代表値として用いられた場合、入力変数の全てが入力変数推定ステップS20において求められることとなる。入力変数の推定に用いられる「統計的方法」としては、例えば構造体の種類と構造体の代表値に基づく回帰分析や重回帰分析を用いることができる。
この回帰分析は統計的方法であるため、構造体の種類と構造体の代表値のデータ数を増やすことにより、推定精度をさらに向上することも可能となる。
読込ステップS10において構造体の重量関連情報を読みこんでいる場合、読み込まれた構造体の種類、代表値に加えて、重量関連条件を入力変数の推定に用いることができるから、入力変数推定ステップS20の推定精度を向上させることができる。
また目的によっては、入力変数推定ステップ20で得られた部分面積および部分長さを用いて、構造体の各部の面積や各部の寸法を推定することも可能であり、構造体の実態を推定することも可能となる。
【0027】
風圧力係数導出ステップS30は、読み込まれた代表値と推定された入力変数を風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する工程である。通常、風圧力係数推定式に入力される入力変数の一つが構造体の代表値として用いられる。代表値として入力変数のうちの一つが既に読み込まれている場合、風圧力係数導出ステップS30は、読み込まれた代表寸法と推定された入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出することとなる。
【0028】
出力ステップS40は、導出された風圧力係数の推定結果を外部出力手段に出力する工程である。外部出力手段としては、出力先の装置に応じた公知の手段を用いることができる。出力先の装置としては、例えば、推定結果を紙媒体へ印刷するプリンター、推定結果を表示するブラウン管や液晶ディスプレイのような電子的表示装置、推定結果を外部記録媒体に電子的に記録する記録装置、推定結果に基づいて構造体の制御を行う制御装置、シミュレーション装置などが挙げられる。
【0029】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態を示す風圧力係数推定プログラムのフローチャートである。同図に示すように、本発明は、読込ステップS10、入力変数推定ステップS20、風圧力係数導出ステップS30、出力ステップS40に加えて、条件読込ステップS15、および風圧力推定ステップS35をさらに実行させるための風圧力係数推定プログラムとして実施することができる。共通するステップの内容は、第1の実施形態と同様であるから、以下では条件読込ステップS15および風圧力推定ステップS35について順に説明する。
【0030】
条件読込ステップS15は、コンピュータが入力手段から入力された風速条件と空気の密度条件を読み込む工程である。本ステップにおいて、風速条件と空気の密度条件を読み込んでおくことにより、後の風圧力推定ステップS35において、風圧力を推定することが可能となる。このため、本ステップは、風圧力推定ステップS35よりも前に行われることが必要であるが、他のステップとの前後関係は何ら限定されるものではなく、図2において本ステップを読込ステップS10と入力変数推定ステップS20との間に行っていることは一例に過ぎない。例えば、本実施形態の風圧力係数推定プログラムを操船シミュレータに利用する場合、条件読込ステップS15は独立して、風圧力係数導出ステップS30と風圧力推定ステップS35との間に時々刻々割り込むこととなる。
【0031】
風圧力推定ステップS35において読み込まれる「風速条件」とは、見かけの風速、見かけの風向角、あるいは、これらを算出することができる条件(情報)をいう。この風速条件について図3を用いて説明する。図3は、構造体の運動が横滑りをしない場合における風速条件相互間の関係を説明する模式図であり、具体的には、絶対風速Vt、絶対風向角ψA、構造体100の対地速度Vf、進行方向ψ、構造体100を基準とした見かけの風速Va、見かけの風向角ψRとの関係を説明するものである。
ある時刻における風の状況は、風向と風速で定義される。このとき、風速は、絶対風速Vt(真風速、対地風速)で、風向は東西南北などの方向を基準とした絶対風向角ψA(真風向、対地風向)で定義される。図3では、北を基準として絶対風向を表している。なお、図3において、ψA、ψおよびψRのいずれにもマイナスが付されているのは、構造体100の正面向風を0度として左側を正としているから、同図に示した右側からの風の角度はマイナスとなるためである。
【0032】
構造体100が船舶や自動車のように移動するものである場合、測定対象となる構造体100の状態は、その速度Vfと進行方向ψとで定義される。ここでは、風との関係を議論するので、地面との関係で構造体100の速度Vfを定義する。これら4つの関係から見かけの風速Vaと見かけの風向角ψRを算出することができる。ここで、見かけの風速Vaとは、構造体100に乗っている人が感じる風速であり、見かけの風向角ψRとは、構造体100に乗っている人が感じる風上の方向を、構造体100の進行する方位を基準として表した風向である。
なお、構造体100が建築物のような移動しないものである場合、構造体100の速度Vfが0となるから、見かけの風速Vaは絶対風速Vtと一致し、見かけの風向角ψRは絶対風向角ψAと一致する。
【0033】
風圧力推定ステップS35において読み込まれる「空気の密度条件」とは、空気の密度そのものに関する条件(情報)のみに限られるものではなく、例えば、空気の温度、湿度、気圧のように空気密度の推定に用いられる条件をも含むものである。
【0034】
風圧力推定ステップS35は、読み込まれた風速および空気の密度条件、推定された入力変数、並びに推定された風圧力係数に基づいて風圧力を推定する工程である。本実施の形態の風圧力係数測定プログラムは、構造体100が左右対称であると仮定したときの見かけの風向角ψRについて、10度ごとに風圧力係数を推定し出力する。見かけの風向角ψRが0度のときの風が構造体100の正面向風(進行方向からの風)で、90度のときの風が左側からの風である。推定された風向角の間の任意の見かけの風向角に応じた風圧力の値は、補間によって求めることができる。
【0035】
時々刻々の絶対風速Vt(対地風速)、絶対風向角ψA(対地風向)と、構造体100の対地速度Vf、進行方向ψが与えられれば、その構造体100に対する見かけの風速Vaと見かけの風向角ψRが求められる。したがって、この見かけの風向角ψRに応じた風圧力係数を補間によって求め、見かけの風速Vaを用いた動圧を乗じることによって、構造体100に及ぶ風圧力を求めることができる。構造体100に及ぶ風圧力を式で表せば次のようになる。
〔力(F)の場合〕
F=Cf(1/2)ρ×A×Va2
〔モーメント(M)の場合〕
M=Cm×(1/2)×ρ×A×h×Va2
(Fは風圧力、Mは風圧モーメント、Cfは風圧力係数、Cmは風圧モーメント係数、ρは空気密度、Aは構造体100の代表面積、hは構造体100の代表長さ、Vaは見かけの風速をそれぞれ表している。なお、風圧力係数Cfおよび風圧モーメント係数Cmは見かけの風向角ψRによって変化する。)
【0036】
上述した風速に関する量の関係について、構造体100の具体例である船舶について、より詳しく述べる。以下の説明においては、見かけの風速はVa、見かけの風向角(相対)はψaRで表している。なお、「絶対」は、対地(または北)が基準であることを表し、「相対」は船首方向が基準であることを表している。
【0037】
図4は、船舶を対象として風圧力係数推定プログラムを実行する場合の風速条件相互間の関係を説明する模式図である。同図に示すように、船舶110の風向風速計位置での対地船速をVf(成分:uf、vf)、真風速(絶対風速)をVt、対地斜航角をβf、見かけの風速をVa、真風向角(絶対)をψtA、真風向角(相対)をψtR、見かけの風向角(絶対)をψaA、見かけの風向角(相対)をψaR、船首方位角をψBとする。u0、v0は座標原点での対地船速成分、rは船首揺れ角速度、(xf、yf)は風向計測計の座標を表す。風向計測計により計測されるのは、見かけの風速Vaと見かけの風向角(相対)ψaRである。
【0038】
次式に基づいて、真風速Vt、真風向角(絶対)ψtA、真風向角(相対)ψtR、見かけの風向角(絶対)ψaAと見かけの風速Vaと見かけの風向角(相対)ψaRとを関連づけることができる。(船首揺れ角速度rの影響は無視する。)見かけの風速と見かけの風向角を直接観測できない場合、たとえば別の観測点で計測された真風速・真風向の情報が与えられる場合はこの関係式によって見かけの風速と見かけの風向を算出することができる。具体的には、本実施の形態の風圧力係数推定プログラムを操船シミュレータに用いる場合、天気予報で与えられるような真風速と真風向が与えられ、これらと船の運動から見かけの風速と風向が時々刻々算出されることとなる。このように、風圧力推定ステップS35においては、風速条件の情報の種類に応じて、次式に基づいて風圧力の算出に必要な見かけの風速と見かけの風向角を換算して出力し風圧力の算出に供する。
【数1】
【0039】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態を示す風圧力係数推定装置40の構成を示すブロック図である。同図に示すように、本発明は、コンピュータ10、入力手段20、出力手段30を備えた風圧力係数推定装置40として実施することができる。以下に、風圧力係数推定装置40の構成について、順に説明する。
【0040】
コンピュータ10は、CPU(中央演算処理装置)11、メモリ(主記憶手段)12、記憶手段(補助記憶手段)13および入出力部14を備えている。CPU11はプログラムを解読して実行する装置である。メモリ12は、本発明の風圧力係数推定プログラムを実行する過程で生じてくる中間結果などを記憶するものであり、DRAM等のような半導体記憶装置により構成される。記憶手段13は、CPU11による風圧力係数推定プログラムの実行において、入力変数推定ステップの統計的手法に用いられるテーブルや、風圧力係数導出ステップで用いられる風圧力係数推定式などを記憶するものであり、例えば、磁気ディスク装置(Hard Disk)、光磁気ディスク装置、USBメモリなどのフラッシュメモリ装置、DVD、CDなどの光ディスク装置等公知の記憶装置を用いることができる。また、記憶手段13は必ずしもコンピュータ10の内部に備えられていることは必要でなく、外部装置として電気的にまたは回線を通じてコンピュータ10と接続されるものとして構成されていてもよい。入出力部14は、CPU11、メモリ12と、入力手段20、出力手段30との間の情報の受け渡しに用いられるものであり、通常CPU11によって制御される。
【0041】
入力手段20は、読み込みステップにおける構造体の種類および構造体の代表値の入力、条件読込ステップにおける風速条件および空気の密度条件を、コンピュータ10に入力するために用いられるものである。入力手段20としては、例えば、キーボード等の公知の入力手段を用いることができる。
【0042】
出力手段30は、コンピュータ10が本発明の風圧力係数推定プログラムを実行した結果として得られた推定結果を、出力ステップにおいて出力するために用いられるものである。出力手段30としては、例えば、プリンターや液晶ディスプレイなど公知のものを用いることができる。
【0043】
(第4の実施形態)
図6は、本発明の第4の実施形態を示す構造体の動作制御方法のフローチャートである。同図に示すように、本発明は、読込ステップS10、入力変数推定ステップS20、風圧力係数導出ステップS30、および制御ステップS50を含む構造体の動作制御方法として実施することができる。読込ステップS10、入力変数推定ステップS20および風圧力係数導出ステップS30は、実施の形態1において説明した内容と同様であるから、本実施の形態においては説明を省略し、制御ステップS50について以下に説明する。
【0044】
制御ステップS50は、風圧力係数導出ステップS30において導出された前記風圧力係数の推定結果に基づいて構造体の動作を制御する工程である。構造体の動作制御としては、構造体の動作自体を制御することや、構造体の動作をシミュレーションすることなどがあげられる。具体的なシミュレーションとしては、構造体に事故が生じた場合の事故状況を再現することなどがあげられる。
【0045】
本実施の形態の構造体の動作制御方法を船舶の操船シミュレータへ応用する場合、すなわち本発明の風圧力係数推定プログラムを船舶の動作シミュレーションに利用する場合について、以下に説明する。本発明の風圧力係数推定プログラムを応用することにより、多様な船の各個船の特徴を捉えたシミュレーション、事故状況の操船シミュレータによる再現、事故再発防止への活用が可能となる。以下では、図6に示した読込ステップS10、入力変数推定ステップS20、風圧力係数導出ステップS30に加えて、更に、実施の形態2として説明した条件読込ステップS15および風圧力推定ステップS35(図2参照)をも行った結果として得られた推定結果に基づいて制御ステップS50を行う場合につき説明する。
【0046】
本発明の風圧力係数推定プログラムを船舶の動作シミュレーションに利用する場合における風圧力係数推定プログラムの出力は、入力変数推定ステップS20において推定された入力変数と、風圧力推定ステップS35において推定された見かけの風向角ψが0度から180度までの10度ごとの見かけの風向角に対応した風圧力係数である。
10度ごとの見かけの風向角に対応した風圧力(風圧力F、風圧力モーメントM)は、シミュレーション対象となる船舶の前後の投影面積および横の投影面積(これらは出力された入力変数に含まれる)、見かけの風速並びに空気密度から計算によって求めることができる。このようにして風圧力が求められた10度ごとの見かけの風向角の間の任意の見かけの風向角に対応する風圧力係数は、求める風圧力係数の種類に応じて、対称または反対称を仮定して補間によって求める。
【0047】
操船シミュレータでは、自船と複数の他船の動きを時々刻々計算してスクリーン上に再現する。これらの船の種類や大きさは一般にあらかじめ決められており、気象・海象条件も時間の関数として与えられる。すなわち、本発明の風圧力係数推定プログラムを操船シミュレータに利用する場合、時々刻々の風圧力を計算するために必要な入力情報は、そろっていることになる。
【0048】
操船シミュレータによる船舶の運動計算では、プロペラと舵、船体に働く平水中(波も風もない状態)の流体力に波の力と風の力を加えたものが船舶に作用する力となる。風があればあるいは風が無くても船舶が動けば見かけの風速が発生するから、船舶は力を受ける。この力によって、船速と船速方向、船首方位角が変化する。この変化は、見かけの風速と見かけの風向角をも変化させる。このように、風から受ける力と船舶の運動とは相互に関連している。
【0049】
操船シミュレータでは、自船の操船者は他船の様子や気象・海象といった外的要因を時々刻々判断しながら操船をおこなう。自動操舵の場合もあるが、これも外的要因に応じて時々刻々操船されることに変わりはない。風によって船首方位角や航路が目標から外れれば、これを修正する操船行動(操舵)が一般にとられる。また、風によって船速が低下し船舶の制御に支障が出るようなら、プロペラ回転数を増加(機関出力の増加)させる操船行動がとられることも考えられる。これらの操船行動は、直接見かけの風速と見かけの風向角を変化させることになるから、船舶が受ける風圧力を変化させることにつながる。
【0050】
すなわち、上述したとおり、船舶が風から受ける力は操船行動とも相互に関連していると言える。また、他船についても、自船の動きや気象・海象を反映したある一定のアルゴリズムで計算・制御されているとすれば、そのアルゴリズムを通じて外的要因が影響をおよぼしていることになる。以上のように説明した時々刻々の風圧力を計算するために本発明の風圧力係数推定プログラムの出力を利用することができる。
【0051】
本発明の風圧力係数推定プログラムの出力の一例は、表1に示したとおりである。
表1では「ψ: Attack angle」が見かけの風向角を表しており、10度ごとに係数(Cx:前後力係数、Cy:左右力係数、Cn:回転モーメント係数、Ck:傾斜モーメント係数)が出力されている。任意の見かけの風向角ψに対する風圧力係数については、Cxについては左右対称、その他については左右反対称を仮定したうえで、補間によって求めることになる。したがって、本発明の風圧力係数推定プログラムの出力は、より細かいものとして出力することあるいは任意の見かけの風向角に対する風圧力係数として出力する構成とすることも可能である。
【表1】
【実施例】
【0052】
本発明の風圧力係数推定プログラムの実施例について、以下に記載する。
以下の実施例の風圧力係数推定プログラムは、読込ステップにおいて、「構造体の種類」として船舶の種類および載貨状態を、必須の「代表値」として船舶の長さを、可能であれば読み込む「代表値」として船舶の幅を読み込み、風圧力係数導出ステップにおいて、船舶に作用する前後力と左右力、回頭モーメント、傾斜モーメントの4成分の風圧力係数を信頼できる精度で見かけの風向角の関数として推定するものである。
【0053】
本実施例においては、現在最も推定精度が高いと考えられる推定式である成分分離型風圧力係数推定式(背景技術の非特許文献1参照)を風圧力係数推定式として用いた(以下、適宜、成分分離型風圧力係数推定式を単に風圧力係数推定式と記す。)。
【0054】
(風圧力係数推定式の入力変数の定義)
図7は風圧力係数推定式における8種類の入力変数を説明する模式図である。同図のForeが船首を、Aftが船尾を示している。風圧力係数推定式に用いられる入力変数(パラメータ)は、
LOA:船舶の全長
B:船舶の幅
AF:前後投影面積(水面上船体の正面投影面積)
AL:左右投影面積(水面上船体の側面投影面積)
AOD:上部構造物(船上の構造物)の左右投影面積
C:左右投影面積中心の船体中央からの距離(船体中心から左右投影面積中心CGまでの前後方向座標(船首方向を正))
HC:左右投影面積中心の喫水からの高さ
HBR:主要構造物の喫水からの高さ(ブリッジなど主要構造物の最高位)である。
【0055】
図8は、本実施例の風圧力係数推定プログラムのフローチャートである。同図に示すように、本実施例では、船舶の幅Bの情報が得られるか否かに応じて、読込ステップS10において、船舶の種類、船舶の全長LOAおよび船舶の幅B、または船舶の種類および船舶の全長LOAを入力した。船舶の種類として、載貨状態(満載または軽荷の何れであるか)についても入力した。そして、入力に基づいて、他の入力変数を推定する(S20)。この入力変数の推定には回帰式を用いた。入力変数の推定に続いて、既に提案されている手法(藤原ほか「成分分離型モデルを利用した新しい風圧力推定法」、非特許文献1)を用いて、推定された入力変数を風圧力係数推定式に入力して、船舶に作用する前後力XAと左右力YA、回頭モーメントNA、傾斜モーメントの4成分の風圧力係数(CX、CY、CN、CK)の推定を行った(S30)。本実施例では、船舶の代表値として入力変数に含まれる全長LOAまたは全長LOAおよび幅Bが入力されているから、風圧力係数の推定においては、読込ステップS10において読み込まれた全長LOAまたは全長LOAおよび幅Bを、風圧力係数を推定するために用いた。最後に推定結果を出力した(S40)。
【0056】
(風圧力係数の定義)
図9は実施例の風圧力係数推定係数の意義を説明する模式図である。同図に示す座標系で風による前後力:XA、左右力(横力):YA、回頭モーメント:NA、傾斜モーメント:KAを定義する。このとき、前後、左右方向の座標原点を船体中央とし、高さ方向は喫水位置を原点として上向き正の座標系とする。風速VA、風向角ψAでの前後力係数CX、左右力係数CY、回頭モーメント係数CN、傾斜モーメントCKは、次式のように定義される。
CX=XA/(qA×AF)
CY=YA/(qA×AL)
CN=NA/(qA×AL×LOA)
CK=KA/(qA×AL×HL)
ここで、
qA=(1/2)×ρA×VA2
HL=AL/LOA
上記の式中、ρAは空気の密度である。
【0057】
(風圧力係数推定式の概要)
本実施例では、上述したとおり風圧力係数推定式として、成分分離型風圧力係数推定式を用いた。成分分離型風圧力係数推定式の内容については、非特許文献1に詳しく記載されているが、前後力係数CXを例として、その概略について以下に説明する。
風向角ψAにおける前後力係数CAXは、次式で表すことができる
CAX=CLFcosψA
+CXLI(sinψA−(1/2)sinψAcos2ψA)・sinψAcosψA
+CALFsinψAcos3ψA ………(1)
ここでψAが0度以上90度以下の場合、上記の式中のCLF、CXLI、CALFは、
CLF=β10+β11(AL/LOAB)+β12(C/LOA) ………(2)
CXLI=δ10+δ11(AL/LOAHBR)+δ12(AF/BHBR)…(3)
CALF=ε10+ε11(AOD/AL)+ε12(B/LOA) ………(4)
と表される。
ここで上記β10、β11、β12、δ10、δ11、δ12、ε10、ε11およびε12はいずれも、別表に具体的な数値として与えられているものである。
したがって、風圧力係数推定式を用いた風圧力係数の推定は、各式中にALやLOAなどの入力変数(パラメータ)を式(2)〜(4)に入力してCLF、CXLI、CALFを求め、求められたCLF、CXLI、CALFを式(1)に入力してなされる。
【0058】
(解析対象の船)
本実施例において解析対象とした船舶の種類と数について表2に記す。
【表2】
【0059】
(入力変数の推定方法の概要)
本実施例においては、読込ステップにおける構造体の種類として、船種(船舶の種類)と載貨状態(重量関連情報)を読み込んだ。具体的には、油槽船(満載/軽荷)、ばら積み船(満載/軽荷)、LNG船(満載/軽荷)、コンテナ船(満載)、客船、その他の9種類から選択して入力し、コンピュータに読み込ませた。
【0060】
(LOAについて)
LOAは、入力変数推定ステップS20において、代表値として他の入力変数を推定するために用いられた。このため、読込ステップS10において、必須の代表値としてコンピュータに入力された。また、後の風圧力係数導出ステップS30において、推定された入力変数とあわせて風圧力係数推定式に適用された。
【0061】
(Bについて)
Bは、読込ステップにおいて読み込まれた場合、LOA同様、代表値として他の入力変数を推定するために用いられた。読込ステップにおいてBが読み込まれなかった場合、入力変数推定ステップにおいて、LOAに基づいて回帰式で推定された。回帰式による推定においては、(1)そのままの値(長さの次元)、(2)LOAで除した値(無次元)、(3)Bで除した値(無次元)のうちのいずれかをbLOA+cの回帰式で表し、不自然な挙動が無く誤差が最小の回帰式を、船種と載貨状態のそれぞれについて選択して求めた。
【0062】
(AF、ALおよびAODについて)
AF、ALおよびAODは、入力変数推定ステップにおいて、LOA(入力されたもの)とB(入力または推定されたもの)に基づいて回帰式で推定された。回帰式による推定においては、(1)そのままの値(面積の次元)、(2)LOAで除した値(長さの次元)、(3)Bで除した値(長さの次元)、(4)LOA2で除した値(無次元)、(5)LOABで除した値(無次元)、(6)B2で除した値(無次元)のうちのいずれかをaB+bLOA+c、aB+c、bLOA+cの回帰式で表し、不自然な挙動が無く誤差が最小の回帰式を、船種と載貨状態のそれぞれについて選択して求めた。この推定は、代表値としてLOAのみが入力された場合、代表値としてLOAおよびBが入力された場合のそれぞれについて行った。
【0063】
(C、HCおよびHBRについて)
C、HCおよびHBRは、入力変数推定ステップにおいて、LOA(入力されたもの)とB(入力または推定されたもの)に基づいて回帰式で推定された。回帰式による推定においては、(1)そのままの値(長さの次元)、(2)LOAで除した値(無次元)、(3)Bで除した値(無次元)のうちのいずれかをbB+c、bLOA+cの回帰式で表し、不自然な挙動が無く誤差が最小の回帰式を、船種と載貨状態のそれぞれについて選択して求めた。この推定は、代表値としてLOAのみが入力された場合、代表値としてLOAおよびBが入力された場合のそれぞれについて行った。
【0064】
回帰式による船舶の風圧力係数の推定は、一般に無次元の値のみを対象としてなされるが、本実施例においては、B、AF、AL、AOD、C、HCおよびHBRの推定において無次元の値のみではなく、有次元の値をも回帰式による推定の対象とした。このことが入力変数推定ステップにおける入力変数推定の精度を向上させた一因であると考える。
【0065】
読込ステップにおいて入力されたLOAのみに基づいて、入力変数推定ステップにおいてBが推定される際に用いられた値(式形式)および回帰式の係数について、油槽船(軽荷)を対象として行ったものを表3に示す。なお、表3に示す値は、表2に示した9隻の油槽船(軽荷)について回帰分析を行った結果として予め得られているものであり、このことは、後述する表4〜表8についても同様である。
【表3】
【0066】
読込ステップにおいて入力されたLOAと推定されたBとに基づいて、入力変数推定ステップにおいて他の6つの入力係数が推定される際に用いられた値および回帰式の係数について、油槽船(軽荷)を対象として行ったものを表4に示す。
【表4】
【0067】
読込ステップにおいて読み込まれたLOAおよびBにもとづいて、入力変数推定ステップにおいて他の6つの入力変数が推定される際に用いられた値および回帰式の係数について、油槽船(軽荷)を対象として行ったものを表5に示す。
【表5】
【0068】
図10は本実施例の風圧力係数推定プログラムを実施するコンピュータの概略を示すブロック図である。同図に示すように、本実施例のコンピュータは、入力データ記憶手段50、入力変数推定処理判別手段51、適用テーブル判別手段52、第2の入力変数推定手段53、適用テーブル読出手段54、入力データ読出手段55、入力変数演算手段56、テーブル記憶手段57および回帰式記憶手段58を備えている。
【0069】
入力データ記憶手段50は、入力された船種と載貨状態のデータ、必須の第1の代表値として入力される第1の入力変数LOAのデータ、および入力されることがある第2の入力変数Bのデータを、入力データとして記憶するものである。
入力変数推定処理判別手段51は、入力データ記憶手段50に記憶されている入力データを読み取り、その後に行う入力変数推定処理を、船種と載貨状態のデータと第1の入力変数LOAに基づいて行うのか、あるいは、船種と載貨状態のデータ、第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bに基づいて行うのかを判別し、判別結果を適用テーブル判別手段52に出力する。
図11はテーブル記憶手段57に記憶されているテーブルを説明する模式図である。同図に示すように、テーブル記憶手段57には船種と載貨状態に対応して、それぞれ、第2の入力値推定用テーブル、第1の入力変数LOAのみが入力された場合に用いられる第1のテーブル、並びに第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bが入力された場合に用いられる第2のテーブルが記憶されている。
適用テーブル判別手段52は、入力変数推定処理判別手段51の判別結果にもとづいて、入力変数の推定を行う船種と載貨状態を特定する。そして、第1の入力変数LOAのみが入力されている場合、第2の入力変数推定手段53に対して第2の入力変数推定テーブルを用いることを出力し、適用テーブル読出手段54に対して第2のテーブルを用いることを出力する。第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bが入力されている場合、第2の入力変数Bを推定することは不要であるから、第2の入力変数推定手段53に対しては何らの出力も行わないか第2の入力変数Bの推定が不要であることを出力し、適用テーブル読出手段54に対して第2のテーブルを用いることを出力する。
【0070】
第2の入力変数推定手段53は、適用テーブル判別手段52から第2の入力変数推定テーブルを用いるという出力を受けた場合に、テーブル記憶手段57から第2の入力変数推定テーブルを読み取り、回帰式記憶手段58から第2の入力変数推定回帰式を読み取る。そして、第2の入力変数推定テーブルから、回帰分析の対象とする値および回帰式に適用する係数を読み取り、入力データ記憶手段50から読み出した第1の入力変数LOAを回帰式に入力して第2の入力変数Bを推定する。なお、回帰分析の対象とする値および回帰式は、推定される入力変数に応じて、入力変数推定方法の概要において説明したものを用いる。そして、推定した第2の入力変数Bを入力データ読出手段55に出力する。なお、船種と積載状態データとして油槽船(軽荷)が入力された場合、表3に示したテーブルが第2の入力変数推定テーブルとして用いられる。
適用テーブル読出手段54は、適用テーブル判別手段52からの出力にもとづいて、テーブル記憶手段57に記憶されている第1のテーブルと第2のテーブルのうちのいずれかを読み出す。具体的には、第1の入力変数LOAのみが入力されている場合、第1のテーブルを読み出し、第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bが入力されている場合、第2のテーブルを読み出す。なお、船種と積載状態データとして油槽船(軽荷)が入力された場合、表4に示したテーブルが第1のテーブルとして用いられ、表5に示したテーブルが第2のテーブルとして用いられる。
船種と積載状態データとして油槽船(軽荷)が入力された場合以外の例として、その他の船舶の入力変数の推定に用いられたテーブルである第2の入力変数推定テーブル、第1のテーブルおよび第2のテーブルをこの順に、表6、表7および表8として以下に示す。
【表6】
【表7】
【表8】
【0071】
入力データ読出手段55は、入力データ記憶手段50に記憶されている入力変数を読み出し、第2の入力変数推定手段53により推定された第2の入力変数Bがある場合には、第2の入力変数推定手段より出力された入力変数Bを入力変数演算手段56に出力する。
入力変数演算手段56は、適用テーブル読出手段54により読み出された第1のテーブルまたは第2のテーブルから、回帰分析の対象とする値および回帰式に適用する係数を読み取り、入力データ読出手段55から入力された第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bを、回帰式記憶手段58から読み取った回帰式に入力して、入力データとして入力されていない他の入力変数を推定する。
【0072】
以上のように、本実施例の風圧力係数推定プログラムは、読み込みステップにおいて、船種と積載状態データ以外の入力データとして、コンピュータが第1の入力変数LOAのみを読み込んだ場合と、第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bを読み込んだ場合で、入力変数推定ステップにおいて異なるテーブルを用いて他の入力変数を推定するものである。これにより、入力変数の推定精度を良好なものとすることができるから、入力変数推定ステップに続いて行われる、風圧係数導出ステップにおいて推定される風圧力係数の導出精度をも良好なものとすることができる。なお、本実施例においては、第1の入力変数としてLOA、第2の入力変数Bを読み込んでいるが、これら以外の入力変数を読み込むこととしてもよい。また、他の入力変数の推定に用いられる第1の入力変数、第2の入力変数は、それぞれ1つに限られるものではなく、一方または双方が複数であってもよい。
【0073】
(風圧力係数推定式の入力変数の推定精度)
上述の方法により推定された入力変数の推定精度を平均残差率によって評価した結果について以下に記す。入力変数の推定精度は平均残差率の値が低いほど良好であると評価される。例えばALの場合、平均残差率は次式により表される。
【数2】
B、AF、AOD、C、HC、HBRについてもALと同様にして平均残差率を求めた。図12〜20は、船種(船舶の種類)と載貨状態ごとに入力変数の平均残差率を示したグラフであり、図21は求められた全船についての入力変数の平均残差率を示したグラフである。これらのグラフはいずれも、縦軸が平均残差率を示し、横軸に示したrrB、rrAL、rrAod、rrAF、rrC、rrHCおよびrrHbはこの順に、B、AL、AOD、AF、C、HC、HBRの平均残差率を意味している。また、濃く塗りつぶされた棒グラフは、代表値としてLOAおよびBが入力された場合の結果を示しており、薄く塗りつぶされた棒グラフは、代表値としてLOAのみが入力された場合の結果を示している。
【0074】
図12〜21に示されるように、本発明の風圧力係数推定プログラムによれば、LOAのみまたはLOAとBといった少ない情報に基づいて、他の入力変数を精度良く推定できることが分かる。また、代表値としてLOAのみが入力された場合でも、代表値としてLOAおよびBが入力された場合と同程度の良好な推定精度が得られた。
【0075】
(風圧力係数の推定結果)
上述の方法により推定された入力変数を用いて風圧力係数を推定した。図22〜30は、推定された風圧力係数を船種(船舶の種類)と載貨状態ごとに平均値で示したグラフである。図22〜30はいずれも、横軸(ψ)が風向角、縦軸が推定された風圧力係数の平均値を示している。図中のCxm、Cym、Cnm、Ckmはこの順に、前後力係数CX、左右力係数CY、回頭モーメント係数CN、傾斜モーメントCKの平均値を表している。そして、図中のCxm、Cym、Cnm、Ckmに付された(exp.)は実測値の平均を表しており、(est.)は本実施例において推定された風圧力係数の平均値を表している。なお、10Cnmは回頭モーメント係数CNの値を10倍したことを示している。
【0076】
図22〜30に示されるように、本実施例により本発明の風圧力係数推定プログラムによれば、LOAのみまたはLOAとBといった少ない情報に基づいて推定された他の入力変数と代表値として入力された値に基づいて推定された風圧力係数は、実測値を良好に再現するものであった。
【0077】
(風圧力係数の推定精度)
図31は風圧力係数の推定精度について、全船の平均残差の平均をとり、風向角ごとに表したグラフである。Cxについては、次式により平均残差を求めた。Cy、Cn、Ckについても、同様にして平均残差を求めた。
【数3】
図中のrCx、rCy、rCn、rCkはこの順に、LOAとBとを代表値として入力して得られたCx、Cy、Cn、Ckの平均残差の全船平均を示しており、rCxo、rCyo、rCno、rCkoはこの順に、LOAのみを代表値として入力して得られたCx、Cy、Cn、Ckの平均残差の全船平均を示している。
【0078】
図31により、本発明の風圧力係数推定プログラムによれば、少ない情報に基づいて風圧力係数を精度良く推定できること、および代表値としてLOAのみが入力された場合でも、代表値としてLOAおよびBが入力された場合と同程度の良好な精度で風圧力係数を推定できることが分かる。
【0079】
図32は風圧力係数の推定精度について、全船の平均残差の平均をとり、全風向角の平均として表したグラフである。Cxについては、次式により平均残差を求めた。Cy、Cn、Ckについても、同様にして平均残差を求めた。
【数4】
図中のraCx、raCy、raCn、raCkはこの順に、Cx、Cy、Cn、Ckの平均残差の全船・全風向角平均を示している。また、風圧力係数推定に用いられる入力変数の全てを入力した場合の結果を斜線で示した棒グラフで示し、入力変数のうちLOAおよびBを入力し他の入力変数は推定されたものを入力した場合の結果を黒く塗りつぶした棒グラフで示し、入力変数のうちLOAのみを入力し他の入力変数は推定されたものを入力した場合の結果を白抜きの棒グラフで示している。
【0080】
図32により、本発明の風圧力係数推定プログラムによれば、少ない情報に基づいて風圧力係数を精度良く推定できることが分かる。また、風圧力係数の推定において、LOAのみが入力され他の入力変数はLOAから推定されたものが入力された場合、LOAおよびBが入力され他の入力変数はLOAおよびBから推定されたものが入力された場合のいずれも、全ての入力変数が入力された場合と同程度の良好な推定精度となることも分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、船舶、船舶以外の浮体、自動車、鉄道、建築物などのような構造体の風圧力係数を、容易に入手可能な情報に基づいて信頼できる精度で推定する方法や、推定結果に基づいて構造体の動作を制御する方法として用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
10 コンピュータ
20 入力手段
30 出力手段
40 風圧力係数推定装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に入手することができる情報に基づいて風圧力係数を推定することにより、風により構造体に及ぼされる力やモーメントなどを見かけの風向角の関数として推定する風圧力係数推定プログラム、風圧力係数推定装置および構造体の動作制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物、船舶、船舶以外の浮体、自動車、鉄道などのような構造体について、従来、種々の方法を用いて、構造計算や外乱による影響の評価などに関する計算がなされている。例えば、既築建築の構造計算方法としては、ユニットの大きさなどを含む各設計条件に基づいて構造部材にかかる応力を演算して得られた一次設計データと、構造部材についての断面設計データを用いて地震力や風圧力によって構造部材にかかる応力を演算して得られた二次設計データとに基づいて、構造計算をする方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、建築物以外の構造体として船舶があるが、船舶の安全な航行のためには、風、波、潮流といった外乱による操縦性能への影響を正確に評価することが重要である。しかし、船舶は、水面上の船体が水面下の船体に比べてはるかに多様で複雑な形状を持っている。このため、水面上の船体に働く風の力を純粋な物理的理論に基づいて一般的に推定する推定方法はこれまでに報告されていない。
これまでに提案されている一般的な推定方法は、風洞実験データの分析に基づく方法(手法)である。これらの方法では、船舶の長さや幅、前後投影面積、左右投影面積などの外形的特徴を変数とした推定式を用いて風圧力係数を表現している。現在最も推定精度が高いと考えられる推定式では、船舶の外形的特徴に対応した8種類の変数が必要とされる(例えば、非特許文献1参照)。具体的には、図7に示した船舶の全長LOA、船舶の幅B、前後投影面積AF、左右投影面積AL、上部構造物の左右投影面積AOD、左右投影面積中心の船体中央からの距離C、左右投影面積中心の喫水からの高さHC、および主要構造物の喫水からの高さHBRの8変数が必要とされる。また、外形的特徴に対応した9種類の変数を用いた推定式により風圧力係数を表現する方法も提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、従来の推定式に必要とされる変数のうち、船舶の長さや幅などの情報は比較的容易に入手できるものの、投影面積やその面積中心の位置などは容易に入手することができない。これら入手困難な情報については、一般に、対象とする船舶の図面からの情報の読み取りおよび情報を解析する作業が必要となるが、古い船舶や海外で建造された船舶の場合、その図面の入手が困難あるいは不可能なことが少なくない。
このため、海難事故の解析や原因究明などのように迅速に風圧力係数を推定することが必要な場合は、何らかの仮定に基づいた推定がなされる。具体的には、類似する船の風圧力係数と同じと仮定するか、類似船の投影面積等を参考にして何らかの仮定に基づく方法で必要な変数を推定したうえで、事故に遭った船の風圧力係数を推定することになる。しかし、これらの方法はいずれも個別具体的な対処方法であって一般的な推定方法とは言えない。したがって、船の長さと幅程度の情報から風圧力係数がある程度の精度で推定できれば有用な推定手段の一つとなると考えられる。しかし、上述のように多様で複雑な水面上形状を有する船について、比較的容易に入手することができる長さと幅程度の情報に基づいて、ある程度高い精度で風圧力係数を推定する方法はこれまでに提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−150665号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】藤原敏文、上野道雄、池田良穂「成分分離型モデルを利用した新しい風圧力推定法」社団法人日本船舶海洋工学会、平成17年12月発行、日本船舶海洋工学会論文集 第2号 p.243〜255
【非特許文献2】藤原敏文、上野道雄、二村正「船体に働く風圧力の推定」社団法人日本造船学会、平成10年6月発行、日本造船学会論文集 第183号 p.77〜90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、構造体の風圧力係数について、容易に入手することができる情報に基づいて信頼するに足るある程度高い精度で推定する方法は未だ提案されていない。このため、迅速に風圧力係数を推定することが必要な場合において、推定が個別具体的な方法によりなされていることから、推定された風圧力係数の信頼性が不明であり、また推定の迅速性にも欠けるという問題があった。
【0008】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、容易に入手することができる情報に基づいて、構造体の風圧力係数を信頼に足る高い精度で推定することができる風圧力係数推定プログラム、風圧力係数推定装置および構造体の動作制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の風圧力係数推定プログラムは、コンピュータに、入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む読込ステップ、読み込まれた前記構造体の前記種類と前記代表値とに基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する入力変数推定ステップ、前記代表値と推定された前記入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する風圧力係数導出ステップ、導出された前記風圧力係数の推定結果を外部出力手段に出力する出力ステップを実行させるためのものである。
請求項1記載の本発明によれば、構造体の種類と代表値とに基づいて、入力変数推定ステップにおいて入力変数を精度良く推定することができるから、当該推定された入力変数を風圧力係数推定式に適用することにより、信頼性の高い風圧力係数を推定することが可能となる。また、容易に入手することができる情報として構造体の種類と代表値を用いることにより、風圧力係数を迅速に推定することができる。また、入力された代表値を風圧力係数推定式にも適用することにより、全て推定された入力変数を用いる場合と比較して風圧力係数の信頼性を向上できる。なお、一般的には、風圧力係数推定式として回帰式型風圧力係数推定式が用いられる。
【0010】
請求項2記載の風圧力係数推定プログラムは、前記入力変数推定ステップおよび前記風圧力係数導出ステップにおいて、前記風圧力係数推定式として成分分離型風圧力係数推定式を用いることを特徴としている。
請求項2記載の本発明によれば、風圧力係数推定式として理論が確立していて推定精度が高い成分分離型風圧力係数推定式を用いることにより、風圧力係数導出ステップにおいて信頼性の高い風圧力係数を推定することができる。
【0011】
請求項3記載の風圧力係数推定プログラムは、前記入力変数推定ステップにおいて、前記入力変数として前記構造体の部分面積および部分長さを推定することを特徴としている。
請求項3記載の本発明によれば、推定された部分面積および部分長さを用いて、風圧力係数導出ステップにおいて風圧力係数を推定することができるから、得られる風圧力係数を信頼性の高いものとすることができる。また、部分面積および部分長さを用いて構造体の実態を推定することも可能となる。
【0012】
請求項4記載の風圧力係数推定プログラムは、前記入力変数推定ステップにおいて、前記統計的方法として前記構造体の種類と前記構造体の代表値に基づく回帰分析により入力変数を推定することを特徴としている。
請求項4記載の本発明によれば、構造体の種類と構造体の代表値に基づく回帰分析をおこなうことによって得られた入力変数を用いて、風圧力係数導出ステップにおいて風圧力係数を推定することができるから、得られる風圧力係数を信頼性の高いものとすることができる。
また、構造体の種類と構造体の代表値のデータを予め積み上げて回帰分析を行うことにより、入力変数の推定精度をさらに向上することも可能となる。
【0013】
請求項5記載の風圧力係数推定プログラムは、前記読込ステップにおいて、前記構造体の前記種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込むことを特徴としている。
請求項5記載の本発明によれば、船舶を対象として風圧力係数推定を行う場合、例えばタンカーまたは客船のいずれであるかといった船舶の種類を読み込むことにより、入力変数推定ステップで統計的になされる入力変数の推定精度を高くすることができる。また、代表値として読み込まれる船舶の全長は比較的容易に入手できる情報であるから、風圧力係数の推定を迅速に行う必要がある場合に好適である。なお、「少なくとも前記船舶の全長を読み込む」には、船舶の全長と併せて他の代表値を読み込むことも含まれ、例えば、比較的入手の容易な船舶の幅を船舶の長さと併せて読み込むこととしてもよい。
【0014】
請求項6記載の風圧力係数推定プログラムは、前記読込ステップにおいて、前記入力手段から入力された前記構造体の重量関連条件をさらに読み込み、前記入力変数推定ステップにおいて、読み込まれた前記構造体の前記種類、前記代表値、および前記重量関連条件に基づいて前記入力変数を推定することを特徴とする。
請求項6記載の本発明によれば、「重量関連条件」を読み込むことにより、多量の貨物を積載する構造体の現実の状態に対応させて、高い精度で入力変数を推定することができる。上記「重量関連条件」とは、構造体の重量に関する条件をいい、例えば、荷物の積載を目的とする構造体の場合、荷物が積載されているか否かといった条件が該当する。より具体的には、船舶の場合、積荷を積載中のものであるのか、積荷を積載していないものであるか、積荷の積載重量を反映した喫水のレベルはどのくらいかといった重量に関連した条件(情報)が構造体の重量関連条件に該当する。
【0015】
請求項7記載の風圧力係数推定プログラムは、前記コンピュータに、前記入力手段から入力された風速条件と空気の密度条件を読み込む条件読込ステップ、読み込まれた前記風速条件および前記空気の密度条件、推定された前記入力変数、並びに推定された風圧力係数に基づいて風圧力を推定する風圧力推定ステップをさらに実行させることを特徴としている。
請求項7記載の本発明によれば、条件読込ステップにおいて風速条件と空気の密度条件を読み込むことにより、風圧力推定ステップにおいて構造体に及ぶ風圧力を推定することが可能となる。
【0016】
請求項8記載の風圧力係数推定装置は、入力手段とコンピュータと出力手段を備えている風圧力係数推定装置であって、前記コンピュータが、前記入力手段からの入力を読み込み、請求項1乃至請求項7のうちの1項に記載されている風圧力係数推定プログラムを実行して、実行結果を前記出力手段に出力することを特徴としている。
請求項8記載の本発明によれば、構造体の種類と代表値とに基づいて、入力変数推定ステップにおいて入力変数を精度良く推定することができるから、当該推定された入力変数を風圧力係数推定式に適用することにより、信頼性の高い風圧力係数を推定することが可能となる。また、容易に入手することができる情報として構造体の種類と代表値を用いることにより、風圧力係数を迅速に推定することができる。
【0017】
請求項9記載の構造体の動作制御方法は、プログラムされたコンピュータによって構造体の動作を制御する方法であって、入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む読込ステップ、読み込まれた前記種類と前記代表値に基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する入力変数推定ステップ、前記代表値と推定された前記入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する風圧力係数導出ステップ、導出された前記風圧力係数の推定結果に基づいて構造体の動作を制御する制御ステップを含むことを特徴としている。
請求項9記載の本発明によれば、風圧力係数導出ステップにおいて推定された信頼性の高い風圧力係数に基づいて構造体の動作制御を行うことができる。したがって、構造体の挙動に対する操作制御や操作シミュレーションなどのような動作制御を、構造体の種類と構造体の代表値という少ない情報に基づいて精度良く行うことができる。
【0018】
請求項10記載の構造体の動作制御方法は、前記読込ステップにおいて、前記種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込むことを特徴としている。
請求項10記載の本発明によれば、読込ステップにおいて読み込まれた船舶の種類および代表値を用いて船舶の風圧力係数を推定することができる。したがって、少ない情報に基づいて、操船シミュレーションや操船制御などを精度良く行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の風圧力係数推定プログラムは、構造体の種類と代表値に基づいて入力変数を推定し、代表値と推定された入力変数を風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数を導出することができるものである。このため、本発明によれば、構造体の風圧力係数推定式に用いられる変数を入手できない場合においても、容易に入手できる情報として構造体の種類と代表値を用いて、信頼性の高い風圧力係数を迅速に推定することが可能となるという効果を奏する。
なお、風圧力係数推定式として成分分離型風圧力係数推定式を用いる場合、入力変数推定ステップにおいて前記入力変数として前記構造体の部分面積および部分長さを推定する場合、入力変数推定ステップにおいて回帰分析を用いる場合、および読込ステップにおいて構造体の重力関連条件をさらに読み込む場合には、より高い精度で構造体の風圧力係数を推定することができる。
また、前記構造体の前記種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込む場合、船舶の風圧力係数の信頼性を高くすることができ、風圧力係数を迅速に推定することができる。さらに、前記構造体の重量関係条件を読み込む場合、船舶の風圧力係数をさらに信頼性高く推定することができる。
また、入力手段から入力された風速条件と空気の密度条件を読み込む条件読込ステップと、推定された風圧力係数に基づいて風圧力を推定する風圧力推定ステップを備えた場合は、構造体に及ぶ風圧力を精度高く迅速に推定することが可能となる。
【0020】
本発明の風圧力係数推定装置は、構造体の風圧力係数推定式に用いられる変数を入手できない場合においても、容易に入手できる情報を代表値として用いて、信頼性の高い風圧力係数を迅速に推定することが可能となるという効果を奏する。
【0021】
本発明の構造体の動作制御方法は、信頼性の高い風圧力係数に基づいて構造体の動作制御を行うことができるから、構造体の挙動に対する操作制御や操作シミュレーションなどのような動作制御を、少ない情報に基づいて精度良く行うことができる。
なお、読込ステップにおいて船舶の種類および代表値を読み込む場合、これらを用いて船舶の風圧力係数を推定することができるから、操船シミュレーションや操船制御を少ない情報に基づいて精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す風圧力係数推定プログラムのフローチャート
【図2】本発明の第2の実施形態を示す風圧力係数推定プログラムのフローチャート
【図3】本発明の第2の実施形態における風速条件相互間の関係を説明する模式図
【図4】本発明の第2において船舶を対象として風圧力係数推定プログラムを実行する場合の風速条件相互間の関係を説明する模式図
【図5】本発明の第3の実施形態を示す風圧力係数推定装置のブロック図
【図6】本発明の第4の実施形態を示す構造体の動作制御方法のフローチャート
【図7】本発明の実施例が用いた風圧力係数推定式における8種類の入力変数を説明する模式図
【図8】実施例の風圧力係数推定プログラムのフローチャート
【図9】実施例の風圧力係数推定係数の意義を説明する模式図
【図10】実施例の風圧力係数推定装置のブロック図
【図11】実施例の風圧力係数推定装置のテーブル記憶手段に記憶されているテーブルを説明する模式図
【図12】油槽船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図13】油槽船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図14】ばら積船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図15】ばら積船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図16】LNG船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図17】LNG船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図18】コンテナ船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図19】客船について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図20】その他の船について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図21】全ての種類の船について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された入力変数の平均残差率を示すグラフ
【図22】油槽船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図23】油槽船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図24】ばら積船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図25】ばら積船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図26】LNG船(軽荷)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図27】LNG船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図28】コンテナ船(満載)について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図29】客船について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図30】その他の船について実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の推定結果を示すグラフ
【図31】実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の平均残差を全船について平均し、風向角ごとに表したグラフ
【図32】実施例の風圧力係数推定プログラムにより推定された風圧力係数の平均残差を全船について平均し、全風向角の平均で表したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態を示す風圧力係数推定プログラムのフローチャートである。同図に示すように、本発明は、読込ステップS10、入力変数推定ステップS20、風圧力係数導出ステップS30、出力ステップS40をコンピュータに実行させるための風圧力係数推定プログラムとして実施することができる。以下に、各ステップについて順に説明する。
【0024】
読込ステップS10は、コンピュータが入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む工程である。構造体の種類と構造体の代表値の入力に用いられる入力手段としては、キーボード等の公知の手段を用いることができる。
読込ステップS10においてその種類および代表値が入力される「構造体」としては、例えば、船舶、船舶以外の浮体、自動車、鉄道、建築物などが挙げられる。そして、「構造体の種類」とは、構造体の性質・形態などが共通するものを分類してそれぞれのまとまりとしたものをいい、例えば船舶と自動車のように相対的に大きな性質・形態の違いを基準として分類した種類、例えば船舶のうちのタンカーと客船のように相対的に小さな性質・形態の違いを基準として分類した種類、構造体の重量に関する重量関連条件を基準として分類した種類のいずれも含まれる。読込ステップS10において入力される「代表値」とは、例えば、構造体の長さや幅のような寸法、全体容積といった風圧力係数を推定する構造体の全体を良く表すことができる値をいう。
構造体が船舶である場合、入力変数を推定する際に用いられる船舶の種類としては、例えば、油槽船(タンカー)、ばら積み船、LNG船、コンテナ船、客船、その他の船舶という分類を用いることができる。また、船舶が満載であるか軽荷であるかという情報(重量関連条件)をも読込ステップS10において読み込むこととしてもよい。これにより、船舶の種類をより実際の状況に応じたものとすることができるから、後の入力変数推定ステップS20における入力変数の推定をより精度の高いものとすることが可能となる。
【0025】
また、構造体として船舶を対象とする場合、代表値としては船舶の全長が好適である。なぜなら、事故発生時などの迅速な風圧力係数の推定が必要である場合であっても、船舶の全長に関する情報は比較的容易に入手することができるからである。船舶の代表値としては、船舶の全長が好ましく用いられる。読込ステップS10において、構造体の種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込んでおけば、後の入力変数推定ステップの推定精度を向上させることができる。なお、比較的容易に入手することができる情報としては全長の他に船舶の総トン数もあるが、船舶の総トン数は船舶の種類または重量関連条件として読み込まれる。
読込ステップS10においてなされる、構造体の種類、代表値、重量関連条件の読み込みは、入力変数推定ステップの前になされれば良く、読み込みの順序は特に限定されるものではなく、同時に読み込むこととされても良い。
【0026】
入力変数推定ステップS20は、読込ステップS10において読み込まれた構造体の種類と代表値とに基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する工程である。
入力変数推定ステップS20において用いられる「風圧力係数推定式」としては、従来公知の式を用いることができるが、成分分離型風圧力係数推定式が好ましく用いられる。なぜならば、成分分離型風圧力係数推定式は、理論として確立され、現在最も推定精度が高いと考えられる推定式であるからである。また、入力変数推定ステップS20において推定される入力変数は、用いられる風圧力係数推定式に対応して決まるものであるが、具体的には、構造体の部分面積や部分長さなどが挙げられる。また、通常、入力変数のうちの一つが代表値とされるから、入力変数推定ステップS20において代表値以外の入力変数が推定されることとなるが、入力変数以外のパラメータが代表値として用いられた場合、入力変数の全てが入力変数推定ステップS20において求められることとなる。入力変数の推定に用いられる「統計的方法」としては、例えば構造体の種類と構造体の代表値に基づく回帰分析や重回帰分析を用いることができる。
この回帰分析は統計的方法であるため、構造体の種類と構造体の代表値のデータ数を増やすことにより、推定精度をさらに向上することも可能となる。
読込ステップS10において構造体の重量関連情報を読みこんでいる場合、読み込まれた構造体の種類、代表値に加えて、重量関連条件を入力変数の推定に用いることができるから、入力変数推定ステップS20の推定精度を向上させることができる。
また目的によっては、入力変数推定ステップ20で得られた部分面積および部分長さを用いて、構造体の各部の面積や各部の寸法を推定することも可能であり、構造体の実態を推定することも可能となる。
【0027】
風圧力係数導出ステップS30は、読み込まれた代表値と推定された入力変数を風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する工程である。通常、風圧力係数推定式に入力される入力変数の一つが構造体の代表値として用いられる。代表値として入力変数のうちの一つが既に読み込まれている場合、風圧力係数導出ステップS30は、読み込まれた代表寸法と推定された入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出することとなる。
【0028】
出力ステップS40は、導出された風圧力係数の推定結果を外部出力手段に出力する工程である。外部出力手段としては、出力先の装置に応じた公知の手段を用いることができる。出力先の装置としては、例えば、推定結果を紙媒体へ印刷するプリンター、推定結果を表示するブラウン管や液晶ディスプレイのような電子的表示装置、推定結果を外部記録媒体に電子的に記録する記録装置、推定結果に基づいて構造体の制御を行う制御装置、シミュレーション装置などが挙げられる。
【0029】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態を示す風圧力係数推定プログラムのフローチャートである。同図に示すように、本発明は、読込ステップS10、入力変数推定ステップS20、風圧力係数導出ステップS30、出力ステップS40に加えて、条件読込ステップS15、および風圧力推定ステップS35をさらに実行させるための風圧力係数推定プログラムとして実施することができる。共通するステップの内容は、第1の実施形態と同様であるから、以下では条件読込ステップS15および風圧力推定ステップS35について順に説明する。
【0030】
条件読込ステップS15は、コンピュータが入力手段から入力された風速条件と空気の密度条件を読み込む工程である。本ステップにおいて、風速条件と空気の密度条件を読み込んでおくことにより、後の風圧力推定ステップS35において、風圧力を推定することが可能となる。このため、本ステップは、風圧力推定ステップS35よりも前に行われることが必要であるが、他のステップとの前後関係は何ら限定されるものではなく、図2において本ステップを読込ステップS10と入力変数推定ステップS20との間に行っていることは一例に過ぎない。例えば、本実施形態の風圧力係数推定プログラムを操船シミュレータに利用する場合、条件読込ステップS15は独立して、風圧力係数導出ステップS30と風圧力推定ステップS35との間に時々刻々割り込むこととなる。
【0031】
風圧力推定ステップS35において読み込まれる「風速条件」とは、見かけの風速、見かけの風向角、あるいは、これらを算出することができる条件(情報)をいう。この風速条件について図3を用いて説明する。図3は、構造体の運動が横滑りをしない場合における風速条件相互間の関係を説明する模式図であり、具体的には、絶対風速Vt、絶対風向角ψA、構造体100の対地速度Vf、進行方向ψ、構造体100を基準とした見かけの風速Va、見かけの風向角ψRとの関係を説明するものである。
ある時刻における風の状況は、風向と風速で定義される。このとき、風速は、絶対風速Vt(真風速、対地風速)で、風向は東西南北などの方向を基準とした絶対風向角ψA(真風向、対地風向)で定義される。図3では、北を基準として絶対風向を表している。なお、図3において、ψA、ψおよびψRのいずれにもマイナスが付されているのは、構造体100の正面向風を0度として左側を正としているから、同図に示した右側からの風の角度はマイナスとなるためである。
【0032】
構造体100が船舶や自動車のように移動するものである場合、測定対象となる構造体100の状態は、その速度Vfと進行方向ψとで定義される。ここでは、風との関係を議論するので、地面との関係で構造体100の速度Vfを定義する。これら4つの関係から見かけの風速Vaと見かけの風向角ψRを算出することができる。ここで、見かけの風速Vaとは、構造体100に乗っている人が感じる風速であり、見かけの風向角ψRとは、構造体100に乗っている人が感じる風上の方向を、構造体100の進行する方位を基準として表した風向である。
なお、構造体100が建築物のような移動しないものである場合、構造体100の速度Vfが0となるから、見かけの風速Vaは絶対風速Vtと一致し、見かけの風向角ψRは絶対風向角ψAと一致する。
【0033】
風圧力推定ステップS35において読み込まれる「空気の密度条件」とは、空気の密度そのものに関する条件(情報)のみに限られるものではなく、例えば、空気の温度、湿度、気圧のように空気密度の推定に用いられる条件をも含むものである。
【0034】
風圧力推定ステップS35は、読み込まれた風速および空気の密度条件、推定された入力変数、並びに推定された風圧力係数に基づいて風圧力を推定する工程である。本実施の形態の風圧力係数測定プログラムは、構造体100が左右対称であると仮定したときの見かけの風向角ψRについて、10度ごとに風圧力係数を推定し出力する。見かけの風向角ψRが0度のときの風が構造体100の正面向風(進行方向からの風)で、90度のときの風が左側からの風である。推定された風向角の間の任意の見かけの風向角に応じた風圧力の値は、補間によって求めることができる。
【0035】
時々刻々の絶対風速Vt(対地風速)、絶対風向角ψA(対地風向)と、構造体100の対地速度Vf、進行方向ψが与えられれば、その構造体100に対する見かけの風速Vaと見かけの風向角ψRが求められる。したがって、この見かけの風向角ψRに応じた風圧力係数を補間によって求め、見かけの風速Vaを用いた動圧を乗じることによって、構造体100に及ぶ風圧力を求めることができる。構造体100に及ぶ風圧力を式で表せば次のようになる。
〔力(F)の場合〕
F=Cf(1/2)ρ×A×Va2
〔モーメント(M)の場合〕
M=Cm×(1/2)×ρ×A×h×Va2
(Fは風圧力、Mは風圧モーメント、Cfは風圧力係数、Cmは風圧モーメント係数、ρは空気密度、Aは構造体100の代表面積、hは構造体100の代表長さ、Vaは見かけの風速をそれぞれ表している。なお、風圧力係数Cfおよび風圧モーメント係数Cmは見かけの風向角ψRによって変化する。)
【0036】
上述した風速に関する量の関係について、構造体100の具体例である船舶について、より詳しく述べる。以下の説明においては、見かけの風速はVa、見かけの風向角(相対)はψaRで表している。なお、「絶対」は、対地(または北)が基準であることを表し、「相対」は船首方向が基準であることを表している。
【0037】
図4は、船舶を対象として風圧力係数推定プログラムを実行する場合の風速条件相互間の関係を説明する模式図である。同図に示すように、船舶110の風向風速計位置での対地船速をVf(成分:uf、vf)、真風速(絶対風速)をVt、対地斜航角をβf、見かけの風速をVa、真風向角(絶対)をψtA、真風向角(相対)をψtR、見かけの風向角(絶対)をψaA、見かけの風向角(相対)をψaR、船首方位角をψBとする。u0、v0は座標原点での対地船速成分、rは船首揺れ角速度、(xf、yf)は風向計測計の座標を表す。風向計測計により計測されるのは、見かけの風速Vaと見かけの風向角(相対)ψaRである。
【0038】
次式に基づいて、真風速Vt、真風向角(絶対)ψtA、真風向角(相対)ψtR、見かけの風向角(絶対)ψaAと見かけの風速Vaと見かけの風向角(相対)ψaRとを関連づけることができる。(船首揺れ角速度rの影響は無視する。)見かけの風速と見かけの風向角を直接観測できない場合、たとえば別の観測点で計測された真風速・真風向の情報が与えられる場合はこの関係式によって見かけの風速と見かけの風向を算出することができる。具体的には、本実施の形態の風圧力係数推定プログラムを操船シミュレータに用いる場合、天気予報で与えられるような真風速と真風向が与えられ、これらと船の運動から見かけの風速と風向が時々刻々算出されることとなる。このように、風圧力推定ステップS35においては、風速条件の情報の種類に応じて、次式に基づいて風圧力の算出に必要な見かけの風速と見かけの風向角を換算して出力し風圧力の算出に供する。
【数1】
【0039】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態を示す風圧力係数推定装置40の構成を示すブロック図である。同図に示すように、本発明は、コンピュータ10、入力手段20、出力手段30を備えた風圧力係数推定装置40として実施することができる。以下に、風圧力係数推定装置40の構成について、順に説明する。
【0040】
コンピュータ10は、CPU(中央演算処理装置)11、メモリ(主記憶手段)12、記憶手段(補助記憶手段)13および入出力部14を備えている。CPU11はプログラムを解読して実行する装置である。メモリ12は、本発明の風圧力係数推定プログラムを実行する過程で生じてくる中間結果などを記憶するものであり、DRAM等のような半導体記憶装置により構成される。記憶手段13は、CPU11による風圧力係数推定プログラムの実行において、入力変数推定ステップの統計的手法に用いられるテーブルや、風圧力係数導出ステップで用いられる風圧力係数推定式などを記憶するものであり、例えば、磁気ディスク装置(Hard Disk)、光磁気ディスク装置、USBメモリなどのフラッシュメモリ装置、DVD、CDなどの光ディスク装置等公知の記憶装置を用いることができる。また、記憶手段13は必ずしもコンピュータ10の内部に備えられていることは必要でなく、外部装置として電気的にまたは回線を通じてコンピュータ10と接続されるものとして構成されていてもよい。入出力部14は、CPU11、メモリ12と、入力手段20、出力手段30との間の情報の受け渡しに用いられるものであり、通常CPU11によって制御される。
【0041】
入力手段20は、読み込みステップにおける構造体の種類および構造体の代表値の入力、条件読込ステップにおける風速条件および空気の密度条件を、コンピュータ10に入力するために用いられるものである。入力手段20としては、例えば、キーボード等の公知の入力手段を用いることができる。
【0042】
出力手段30は、コンピュータ10が本発明の風圧力係数推定プログラムを実行した結果として得られた推定結果を、出力ステップにおいて出力するために用いられるものである。出力手段30としては、例えば、プリンターや液晶ディスプレイなど公知のものを用いることができる。
【0043】
(第4の実施形態)
図6は、本発明の第4の実施形態を示す構造体の動作制御方法のフローチャートである。同図に示すように、本発明は、読込ステップS10、入力変数推定ステップS20、風圧力係数導出ステップS30、および制御ステップS50を含む構造体の動作制御方法として実施することができる。読込ステップS10、入力変数推定ステップS20および風圧力係数導出ステップS30は、実施の形態1において説明した内容と同様であるから、本実施の形態においては説明を省略し、制御ステップS50について以下に説明する。
【0044】
制御ステップS50は、風圧力係数導出ステップS30において導出された前記風圧力係数の推定結果に基づいて構造体の動作を制御する工程である。構造体の動作制御としては、構造体の動作自体を制御することや、構造体の動作をシミュレーションすることなどがあげられる。具体的なシミュレーションとしては、構造体に事故が生じた場合の事故状況を再現することなどがあげられる。
【0045】
本実施の形態の構造体の動作制御方法を船舶の操船シミュレータへ応用する場合、すなわち本発明の風圧力係数推定プログラムを船舶の動作シミュレーションに利用する場合について、以下に説明する。本発明の風圧力係数推定プログラムを応用することにより、多様な船の各個船の特徴を捉えたシミュレーション、事故状況の操船シミュレータによる再現、事故再発防止への活用が可能となる。以下では、図6に示した読込ステップS10、入力変数推定ステップS20、風圧力係数導出ステップS30に加えて、更に、実施の形態2として説明した条件読込ステップS15および風圧力推定ステップS35(図2参照)をも行った結果として得られた推定結果に基づいて制御ステップS50を行う場合につき説明する。
【0046】
本発明の風圧力係数推定プログラムを船舶の動作シミュレーションに利用する場合における風圧力係数推定プログラムの出力は、入力変数推定ステップS20において推定された入力変数と、風圧力推定ステップS35において推定された見かけの風向角ψが0度から180度までの10度ごとの見かけの風向角に対応した風圧力係数である。
10度ごとの見かけの風向角に対応した風圧力(風圧力F、風圧力モーメントM)は、シミュレーション対象となる船舶の前後の投影面積および横の投影面積(これらは出力された入力変数に含まれる)、見かけの風速並びに空気密度から計算によって求めることができる。このようにして風圧力が求められた10度ごとの見かけの風向角の間の任意の見かけの風向角に対応する風圧力係数は、求める風圧力係数の種類に応じて、対称または反対称を仮定して補間によって求める。
【0047】
操船シミュレータでは、自船と複数の他船の動きを時々刻々計算してスクリーン上に再現する。これらの船の種類や大きさは一般にあらかじめ決められており、気象・海象条件も時間の関数として与えられる。すなわち、本発明の風圧力係数推定プログラムを操船シミュレータに利用する場合、時々刻々の風圧力を計算するために必要な入力情報は、そろっていることになる。
【0048】
操船シミュレータによる船舶の運動計算では、プロペラと舵、船体に働く平水中(波も風もない状態)の流体力に波の力と風の力を加えたものが船舶に作用する力となる。風があればあるいは風が無くても船舶が動けば見かけの風速が発生するから、船舶は力を受ける。この力によって、船速と船速方向、船首方位角が変化する。この変化は、見かけの風速と見かけの風向角をも変化させる。このように、風から受ける力と船舶の運動とは相互に関連している。
【0049】
操船シミュレータでは、自船の操船者は他船の様子や気象・海象といった外的要因を時々刻々判断しながら操船をおこなう。自動操舵の場合もあるが、これも外的要因に応じて時々刻々操船されることに変わりはない。風によって船首方位角や航路が目標から外れれば、これを修正する操船行動(操舵)が一般にとられる。また、風によって船速が低下し船舶の制御に支障が出るようなら、プロペラ回転数を増加(機関出力の増加)させる操船行動がとられることも考えられる。これらの操船行動は、直接見かけの風速と見かけの風向角を変化させることになるから、船舶が受ける風圧力を変化させることにつながる。
【0050】
すなわち、上述したとおり、船舶が風から受ける力は操船行動とも相互に関連していると言える。また、他船についても、自船の動きや気象・海象を反映したある一定のアルゴリズムで計算・制御されているとすれば、そのアルゴリズムを通じて外的要因が影響をおよぼしていることになる。以上のように説明した時々刻々の風圧力を計算するために本発明の風圧力係数推定プログラムの出力を利用することができる。
【0051】
本発明の風圧力係数推定プログラムの出力の一例は、表1に示したとおりである。
表1では「ψ: Attack angle」が見かけの風向角を表しており、10度ごとに係数(Cx:前後力係数、Cy:左右力係数、Cn:回転モーメント係数、Ck:傾斜モーメント係数)が出力されている。任意の見かけの風向角ψに対する風圧力係数については、Cxについては左右対称、その他については左右反対称を仮定したうえで、補間によって求めることになる。したがって、本発明の風圧力係数推定プログラムの出力は、より細かいものとして出力することあるいは任意の見かけの風向角に対する風圧力係数として出力する構成とすることも可能である。
【表1】
【実施例】
【0052】
本発明の風圧力係数推定プログラムの実施例について、以下に記載する。
以下の実施例の風圧力係数推定プログラムは、読込ステップにおいて、「構造体の種類」として船舶の種類および載貨状態を、必須の「代表値」として船舶の長さを、可能であれば読み込む「代表値」として船舶の幅を読み込み、風圧力係数導出ステップにおいて、船舶に作用する前後力と左右力、回頭モーメント、傾斜モーメントの4成分の風圧力係数を信頼できる精度で見かけの風向角の関数として推定するものである。
【0053】
本実施例においては、現在最も推定精度が高いと考えられる推定式である成分分離型風圧力係数推定式(背景技術の非特許文献1参照)を風圧力係数推定式として用いた(以下、適宜、成分分離型風圧力係数推定式を単に風圧力係数推定式と記す。)。
【0054】
(風圧力係数推定式の入力変数の定義)
図7は風圧力係数推定式における8種類の入力変数を説明する模式図である。同図のForeが船首を、Aftが船尾を示している。風圧力係数推定式に用いられる入力変数(パラメータ)は、
LOA:船舶の全長
B:船舶の幅
AF:前後投影面積(水面上船体の正面投影面積)
AL:左右投影面積(水面上船体の側面投影面積)
AOD:上部構造物(船上の構造物)の左右投影面積
C:左右投影面積中心の船体中央からの距離(船体中心から左右投影面積中心CGまでの前後方向座標(船首方向を正))
HC:左右投影面積中心の喫水からの高さ
HBR:主要構造物の喫水からの高さ(ブリッジなど主要構造物の最高位)である。
【0055】
図8は、本実施例の風圧力係数推定プログラムのフローチャートである。同図に示すように、本実施例では、船舶の幅Bの情報が得られるか否かに応じて、読込ステップS10において、船舶の種類、船舶の全長LOAおよび船舶の幅B、または船舶の種類および船舶の全長LOAを入力した。船舶の種類として、載貨状態(満載または軽荷の何れであるか)についても入力した。そして、入力に基づいて、他の入力変数を推定する(S20)。この入力変数の推定には回帰式を用いた。入力変数の推定に続いて、既に提案されている手法(藤原ほか「成分分離型モデルを利用した新しい風圧力推定法」、非特許文献1)を用いて、推定された入力変数を風圧力係数推定式に入力して、船舶に作用する前後力XAと左右力YA、回頭モーメントNA、傾斜モーメントの4成分の風圧力係数(CX、CY、CN、CK)の推定を行った(S30)。本実施例では、船舶の代表値として入力変数に含まれる全長LOAまたは全長LOAおよび幅Bが入力されているから、風圧力係数の推定においては、読込ステップS10において読み込まれた全長LOAまたは全長LOAおよび幅Bを、風圧力係数を推定するために用いた。最後に推定結果を出力した(S40)。
【0056】
(風圧力係数の定義)
図9は実施例の風圧力係数推定係数の意義を説明する模式図である。同図に示す座標系で風による前後力:XA、左右力(横力):YA、回頭モーメント:NA、傾斜モーメント:KAを定義する。このとき、前後、左右方向の座標原点を船体中央とし、高さ方向は喫水位置を原点として上向き正の座標系とする。風速VA、風向角ψAでの前後力係数CX、左右力係数CY、回頭モーメント係数CN、傾斜モーメントCKは、次式のように定義される。
CX=XA/(qA×AF)
CY=YA/(qA×AL)
CN=NA/(qA×AL×LOA)
CK=KA/(qA×AL×HL)
ここで、
qA=(1/2)×ρA×VA2
HL=AL/LOA
上記の式中、ρAは空気の密度である。
【0057】
(風圧力係数推定式の概要)
本実施例では、上述したとおり風圧力係数推定式として、成分分離型風圧力係数推定式を用いた。成分分離型風圧力係数推定式の内容については、非特許文献1に詳しく記載されているが、前後力係数CXを例として、その概略について以下に説明する。
風向角ψAにおける前後力係数CAXは、次式で表すことができる
CAX=CLFcosψA
+CXLI(sinψA−(1/2)sinψAcos2ψA)・sinψAcosψA
+CALFsinψAcos3ψA ………(1)
ここでψAが0度以上90度以下の場合、上記の式中のCLF、CXLI、CALFは、
CLF=β10+β11(AL/LOAB)+β12(C/LOA) ………(2)
CXLI=δ10+δ11(AL/LOAHBR)+δ12(AF/BHBR)…(3)
CALF=ε10+ε11(AOD/AL)+ε12(B/LOA) ………(4)
と表される。
ここで上記β10、β11、β12、δ10、δ11、δ12、ε10、ε11およびε12はいずれも、別表に具体的な数値として与えられているものである。
したがって、風圧力係数推定式を用いた風圧力係数の推定は、各式中にALやLOAなどの入力変数(パラメータ)を式(2)〜(4)に入力してCLF、CXLI、CALFを求め、求められたCLF、CXLI、CALFを式(1)に入力してなされる。
【0058】
(解析対象の船)
本実施例において解析対象とした船舶の種類と数について表2に記す。
【表2】
【0059】
(入力変数の推定方法の概要)
本実施例においては、読込ステップにおける構造体の種類として、船種(船舶の種類)と載貨状態(重量関連情報)を読み込んだ。具体的には、油槽船(満載/軽荷)、ばら積み船(満載/軽荷)、LNG船(満載/軽荷)、コンテナ船(満載)、客船、その他の9種類から選択して入力し、コンピュータに読み込ませた。
【0060】
(LOAについて)
LOAは、入力変数推定ステップS20において、代表値として他の入力変数を推定するために用いられた。このため、読込ステップS10において、必須の代表値としてコンピュータに入力された。また、後の風圧力係数導出ステップS30において、推定された入力変数とあわせて風圧力係数推定式に適用された。
【0061】
(Bについて)
Bは、読込ステップにおいて読み込まれた場合、LOA同様、代表値として他の入力変数を推定するために用いられた。読込ステップにおいてBが読み込まれなかった場合、入力変数推定ステップにおいて、LOAに基づいて回帰式で推定された。回帰式による推定においては、(1)そのままの値(長さの次元)、(2)LOAで除した値(無次元)、(3)Bで除した値(無次元)のうちのいずれかをbLOA+cの回帰式で表し、不自然な挙動が無く誤差が最小の回帰式を、船種と載貨状態のそれぞれについて選択して求めた。
【0062】
(AF、ALおよびAODについて)
AF、ALおよびAODは、入力変数推定ステップにおいて、LOA(入力されたもの)とB(入力または推定されたもの)に基づいて回帰式で推定された。回帰式による推定においては、(1)そのままの値(面積の次元)、(2)LOAで除した値(長さの次元)、(3)Bで除した値(長さの次元)、(4)LOA2で除した値(無次元)、(5)LOABで除した値(無次元)、(6)B2で除した値(無次元)のうちのいずれかをaB+bLOA+c、aB+c、bLOA+cの回帰式で表し、不自然な挙動が無く誤差が最小の回帰式を、船種と載貨状態のそれぞれについて選択して求めた。この推定は、代表値としてLOAのみが入力された場合、代表値としてLOAおよびBが入力された場合のそれぞれについて行った。
【0063】
(C、HCおよびHBRについて)
C、HCおよびHBRは、入力変数推定ステップにおいて、LOA(入力されたもの)とB(入力または推定されたもの)に基づいて回帰式で推定された。回帰式による推定においては、(1)そのままの値(長さの次元)、(2)LOAで除した値(無次元)、(3)Bで除した値(無次元)のうちのいずれかをbB+c、bLOA+cの回帰式で表し、不自然な挙動が無く誤差が最小の回帰式を、船種と載貨状態のそれぞれについて選択して求めた。この推定は、代表値としてLOAのみが入力された場合、代表値としてLOAおよびBが入力された場合のそれぞれについて行った。
【0064】
回帰式による船舶の風圧力係数の推定は、一般に無次元の値のみを対象としてなされるが、本実施例においては、B、AF、AL、AOD、C、HCおよびHBRの推定において無次元の値のみではなく、有次元の値をも回帰式による推定の対象とした。このことが入力変数推定ステップにおける入力変数推定の精度を向上させた一因であると考える。
【0065】
読込ステップにおいて入力されたLOAのみに基づいて、入力変数推定ステップにおいてBが推定される際に用いられた値(式形式)および回帰式の係数について、油槽船(軽荷)を対象として行ったものを表3に示す。なお、表3に示す値は、表2に示した9隻の油槽船(軽荷)について回帰分析を行った結果として予め得られているものであり、このことは、後述する表4〜表8についても同様である。
【表3】
【0066】
読込ステップにおいて入力されたLOAと推定されたBとに基づいて、入力変数推定ステップにおいて他の6つの入力係数が推定される際に用いられた値および回帰式の係数について、油槽船(軽荷)を対象として行ったものを表4に示す。
【表4】
【0067】
読込ステップにおいて読み込まれたLOAおよびBにもとづいて、入力変数推定ステップにおいて他の6つの入力変数が推定される際に用いられた値および回帰式の係数について、油槽船(軽荷)を対象として行ったものを表5に示す。
【表5】
【0068】
図10は本実施例の風圧力係数推定プログラムを実施するコンピュータの概略を示すブロック図である。同図に示すように、本実施例のコンピュータは、入力データ記憶手段50、入力変数推定処理判別手段51、適用テーブル判別手段52、第2の入力変数推定手段53、適用テーブル読出手段54、入力データ読出手段55、入力変数演算手段56、テーブル記憶手段57および回帰式記憶手段58を備えている。
【0069】
入力データ記憶手段50は、入力された船種と載貨状態のデータ、必須の第1の代表値として入力される第1の入力変数LOAのデータ、および入力されることがある第2の入力変数Bのデータを、入力データとして記憶するものである。
入力変数推定処理判別手段51は、入力データ記憶手段50に記憶されている入力データを読み取り、その後に行う入力変数推定処理を、船種と載貨状態のデータと第1の入力変数LOAに基づいて行うのか、あるいは、船種と載貨状態のデータ、第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bに基づいて行うのかを判別し、判別結果を適用テーブル判別手段52に出力する。
図11はテーブル記憶手段57に記憶されているテーブルを説明する模式図である。同図に示すように、テーブル記憶手段57には船種と載貨状態に対応して、それぞれ、第2の入力値推定用テーブル、第1の入力変数LOAのみが入力された場合に用いられる第1のテーブル、並びに第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bが入力された場合に用いられる第2のテーブルが記憶されている。
適用テーブル判別手段52は、入力変数推定処理判別手段51の判別結果にもとづいて、入力変数の推定を行う船種と載貨状態を特定する。そして、第1の入力変数LOAのみが入力されている場合、第2の入力変数推定手段53に対して第2の入力変数推定テーブルを用いることを出力し、適用テーブル読出手段54に対して第2のテーブルを用いることを出力する。第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bが入力されている場合、第2の入力変数Bを推定することは不要であるから、第2の入力変数推定手段53に対しては何らの出力も行わないか第2の入力変数Bの推定が不要であることを出力し、適用テーブル読出手段54に対して第2のテーブルを用いることを出力する。
【0070】
第2の入力変数推定手段53は、適用テーブル判別手段52から第2の入力変数推定テーブルを用いるという出力を受けた場合に、テーブル記憶手段57から第2の入力変数推定テーブルを読み取り、回帰式記憶手段58から第2の入力変数推定回帰式を読み取る。そして、第2の入力変数推定テーブルから、回帰分析の対象とする値および回帰式に適用する係数を読み取り、入力データ記憶手段50から読み出した第1の入力変数LOAを回帰式に入力して第2の入力変数Bを推定する。なお、回帰分析の対象とする値および回帰式は、推定される入力変数に応じて、入力変数推定方法の概要において説明したものを用いる。そして、推定した第2の入力変数Bを入力データ読出手段55に出力する。なお、船種と積載状態データとして油槽船(軽荷)が入力された場合、表3に示したテーブルが第2の入力変数推定テーブルとして用いられる。
適用テーブル読出手段54は、適用テーブル判別手段52からの出力にもとづいて、テーブル記憶手段57に記憶されている第1のテーブルと第2のテーブルのうちのいずれかを読み出す。具体的には、第1の入力変数LOAのみが入力されている場合、第1のテーブルを読み出し、第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bが入力されている場合、第2のテーブルを読み出す。なお、船種と積載状態データとして油槽船(軽荷)が入力された場合、表4に示したテーブルが第1のテーブルとして用いられ、表5に示したテーブルが第2のテーブルとして用いられる。
船種と積載状態データとして油槽船(軽荷)が入力された場合以外の例として、その他の船舶の入力変数の推定に用いられたテーブルである第2の入力変数推定テーブル、第1のテーブルおよび第2のテーブルをこの順に、表6、表7および表8として以下に示す。
【表6】
【表7】
【表8】
【0071】
入力データ読出手段55は、入力データ記憶手段50に記憶されている入力変数を読み出し、第2の入力変数推定手段53により推定された第2の入力変数Bがある場合には、第2の入力変数推定手段より出力された入力変数Bを入力変数演算手段56に出力する。
入力変数演算手段56は、適用テーブル読出手段54により読み出された第1のテーブルまたは第2のテーブルから、回帰分析の対象とする値および回帰式に適用する係数を読み取り、入力データ読出手段55から入力された第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bを、回帰式記憶手段58から読み取った回帰式に入力して、入力データとして入力されていない他の入力変数を推定する。
【0072】
以上のように、本実施例の風圧力係数推定プログラムは、読み込みステップにおいて、船種と積載状態データ以外の入力データとして、コンピュータが第1の入力変数LOAのみを読み込んだ場合と、第1の入力変数LOAおよび第2の入力変数Bを読み込んだ場合で、入力変数推定ステップにおいて異なるテーブルを用いて他の入力変数を推定するものである。これにより、入力変数の推定精度を良好なものとすることができるから、入力変数推定ステップに続いて行われる、風圧係数導出ステップにおいて推定される風圧力係数の導出精度をも良好なものとすることができる。なお、本実施例においては、第1の入力変数としてLOA、第2の入力変数Bを読み込んでいるが、これら以外の入力変数を読み込むこととしてもよい。また、他の入力変数の推定に用いられる第1の入力変数、第2の入力変数は、それぞれ1つに限られるものではなく、一方または双方が複数であってもよい。
【0073】
(風圧力係数推定式の入力変数の推定精度)
上述の方法により推定された入力変数の推定精度を平均残差率によって評価した結果について以下に記す。入力変数の推定精度は平均残差率の値が低いほど良好であると評価される。例えばALの場合、平均残差率は次式により表される。
【数2】
B、AF、AOD、C、HC、HBRについてもALと同様にして平均残差率を求めた。図12〜20は、船種(船舶の種類)と載貨状態ごとに入力変数の平均残差率を示したグラフであり、図21は求められた全船についての入力変数の平均残差率を示したグラフである。これらのグラフはいずれも、縦軸が平均残差率を示し、横軸に示したrrB、rrAL、rrAod、rrAF、rrC、rrHCおよびrrHbはこの順に、B、AL、AOD、AF、C、HC、HBRの平均残差率を意味している。また、濃く塗りつぶされた棒グラフは、代表値としてLOAおよびBが入力された場合の結果を示しており、薄く塗りつぶされた棒グラフは、代表値としてLOAのみが入力された場合の結果を示している。
【0074】
図12〜21に示されるように、本発明の風圧力係数推定プログラムによれば、LOAのみまたはLOAとBといった少ない情報に基づいて、他の入力変数を精度良く推定できることが分かる。また、代表値としてLOAのみが入力された場合でも、代表値としてLOAおよびBが入力された場合と同程度の良好な推定精度が得られた。
【0075】
(風圧力係数の推定結果)
上述の方法により推定された入力変数を用いて風圧力係数を推定した。図22〜30は、推定された風圧力係数を船種(船舶の種類)と載貨状態ごとに平均値で示したグラフである。図22〜30はいずれも、横軸(ψ)が風向角、縦軸が推定された風圧力係数の平均値を示している。図中のCxm、Cym、Cnm、Ckmはこの順に、前後力係数CX、左右力係数CY、回頭モーメント係数CN、傾斜モーメントCKの平均値を表している。そして、図中のCxm、Cym、Cnm、Ckmに付された(exp.)は実測値の平均を表しており、(est.)は本実施例において推定された風圧力係数の平均値を表している。なお、10Cnmは回頭モーメント係数CNの値を10倍したことを示している。
【0076】
図22〜30に示されるように、本実施例により本発明の風圧力係数推定プログラムによれば、LOAのみまたはLOAとBといった少ない情報に基づいて推定された他の入力変数と代表値として入力された値に基づいて推定された風圧力係数は、実測値を良好に再現するものであった。
【0077】
(風圧力係数の推定精度)
図31は風圧力係数の推定精度について、全船の平均残差の平均をとり、風向角ごとに表したグラフである。Cxについては、次式により平均残差を求めた。Cy、Cn、Ckについても、同様にして平均残差を求めた。
【数3】
図中のrCx、rCy、rCn、rCkはこの順に、LOAとBとを代表値として入力して得られたCx、Cy、Cn、Ckの平均残差の全船平均を示しており、rCxo、rCyo、rCno、rCkoはこの順に、LOAのみを代表値として入力して得られたCx、Cy、Cn、Ckの平均残差の全船平均を示している。
【0078】
図31により、本発明の風圧力係数推定プログラムによれば、少ない情報に基づいて風圧力係数を精度良く推定できること、および代表値としてLOAのみが入力された場合でも、代表値としてLOAおよびBが入力された場合と同程度の良好な精度で風圧力係数を推定できることが分かる。
【0079】
図32は風圧力係数の推定精度について、全船の平均残差の平均をとり、全風向角の平均として表したグラフである。Cxについては、次式により平均残差を求めた。Cy、Cn、Ckについても、同様にして平均残差を求めた。
【数4】
図中のraCx、raCy、raCn、raCkはこの順に、Cx、Cy、Cn、Ckの平均残差の全船・全風向角平均を示している。また、風圧力係数推定に用いられる入力変数の全てを入力した場合の結果を斜線で示した棒グラフで示し、入力変数のうちLOAおよびBを入力し他の入力変数は推定されたものを入力した場合の結果を黒く塗りつぶした棒グラフで示し、入力変数のうちLOAのみを入力し他の入力変数は推定されたものを入力した場合の結果を白抜きの棒グラフで示している。
【0080】
図32により、本発明の風圧力係数推定プログラムによれば、少ない情報に基づいて風圧力係数を精度良く推定できることが分かる。また、風圧力係数の推定において、LOAのみが入力され他の入力変数はLOAから推定されたものが入力された場合、LOAおよびBが入力され他の入力変数はLOAおよびBから推定されたものが入力された場合のいずれも、全ての入力変数が入力された場合と同程度の良好な推定精度となることも分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、船舶、船舶以外の浮体、自動車、鉄道、建築物などのような構造体の風圧力係数を、容易に入手可能な情報に基づいて信頼できる精度で推定する方法や、推定結果に基づいて構造体の動作を制御する方法として用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
10 コンピュータ
20 入力手段
30 出力手段
40 風圧力係数推定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む読込ステップ、
読み込まれた前記種類と前記代表値とに基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する入力変数推定ステップ、
前記代表値と推定された前記入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する風圧力係数導出ステップ、
導出された前記風圧力係数の推定結果を外部出力手段に出力する出力ステップを実行させるための風圧力係数推定プログラム。
【請求項2】
前記入力変数推定ステップおよび前記風圧力係数導出ステップにおいて、前記風圧力係数推定式として成分分離型風圧力係数推定式を用いることを特徴とする請求項1記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項3】
前記入力変数推定ステップにおいて、前記入力変数として前記構造体の部分面積および部分長さを推定することを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項4】
前記入力変数推定ステップにおいて、前記統計的方法として前記構造体の種類と前記構造体の代表値に基づく回帰分析により入力変数を推定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの1項に記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項5】
前記読込ステップにおいて、前記構造体の前記種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの1項に記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項6】
前記読込ステップにおいて、前記入力手段から入力された前記構造体の重量関連条件をさらに読み込み、
前記入力変数推定ステップにおいて、読み込まれた前記構造体の前記種類、前記代表値、および前記重量関連条件に基づいて前記入力変数を推定することを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの1項に記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項7】
前記コンピュータに、
前記入力手段から入力された風速条件と空気の密度条件を読み込む条件読込ステップ、
読み込まれた前記風速条件および前記空気の密度条件、推定された前記入力変数、並びに推定された風圧力係数に基づいて風圧力を推定する風圧力推定ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちの1項に記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項8】
入力手段と演算手段とコンピュータと出力手段を備えている風圧力係数推定装置であって、
前記コンピュータが、前記入力手段からの入力を読み込み、請求項1乃至請求項7のうちの1項に記載されている風圧力係数推定プログラムを実行して、実行結果を前記出力手段に出力することを特徴とする風圧力係数推定装置。
【請求項9】
プログラムされたコンピュータによって構造体の動作を制御する方法であって、
入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む読込ステップ、
読み込まれた前記種類と前記代表値に基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する入力変数推定ステップ、
前記代表値と推定された前記入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する風圧力係数導出ステップ、
導出された前記風圧力係数の推定結果に基づいて構造体の動作を制御する制御ステップを含むことを特徴とする構造体の動作制御方法。
【請求項10】
前記読込ステップにおいて、前記種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込むことを特徴とする請求項9記載の構造体の動作制御方法。
【請求項1】
コンピュータに、
入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む読込ステップ、
読み込まれた前記種類と前記代表値とに基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する入力変数推定ステップ、
前記代表値と推定された前記入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する風圧力係数導出ステップ、
導出された前記風圧力係数の推定結果を外部出力手段に出力する出力ステップを実行させるための風圧力係数推定プログラム。
【請求項2】
前記入力変数推定ステップおよび前記風圧力係数導出ステップにおいて、前記風圧力係数推定式として成分分離型風圧力係数推定式を用いることを特徴とする請求項1記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項3】
前記入力変数推定ステップにおいて、前記入力変数として前記構造体の部分面積および部分長さを推定することを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項4】
前記入力変数推定ステップにおいて、前記統計的方法として前記構造体の種類と前記構造体の代表値に基づく回帰分析により入力変数を推定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの1項に記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項5】
前記読込ステップにおいて、前記構造体の前記種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの1項に記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項6】
前記読込ステップにおいて、前記入力手段から入力された前記構造体の重量関連条件をさらに読み込み、
前記入力変数推定ステップにおいて、読み込まれた前記構造体の前記種類、前記代表値、および前記重量関連条件に基づいて前記入力変数を推定することを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの1項に記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項7】
前記コンピュータに、
前記入力手段から入力された風速条件と空気の密度条件を読み込む条件読込ステップ、
読み込まれた前記風速条件および前記空気の密度条件、推定された前記入力変数、並びに推定された風圧力係数に基づいて風圧力を推定する風圧力推定ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちの1項に記載の風圧力係数推定プログラム。
【請求項8】
入力手段と演算手段とコンピュータと出力手段を備えている風圧力係数推定装置であって、
前記コンピュータが、前記入力手段からの入力を読み込み、請求項1乃至請求項7のうちの1項に記載されている風圧力係数推定プログラムを実行して、実行結果を前記出力手段に出力することを特徴とする風圧力係数推定装置。
【請求項9】
プログラムされたコンピュータによって構造体の動作を制御する方法であって、
入力手段から入力された構造体の種類と構造体の代表値とを読み込む読込ステップ、
読み込まれた前記種類と前記代表値に基づいて、風圧力係数推定式に入力する入力変数を統計的方法により推定する入力変数推定ステップ、
前記代表値と推定された前記入力変数を前記風圧力係数推定式に適用して、風圧力係数の推定結果を導出する風圧力係数導出ステップ、
導出された前記風圧力係数の推定結果に基づいて構造体の動作を制御する制御ステップを含むことを特徴とする構造体の動作制御方法。
【請求項10】
前記読込ステップにおいて、前記種類として船舶の種類を読み込み、前記代表値として少なくとも前記船舶の全長を読み込むことを特徴とする請求項9記載の構造体の動作制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2011−105106(P2011−105106A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261233(P2009−261233)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本船舶海洋工学会の主催の「平成21年秋季講演会」において、平成21年11月5日、平成21年11月6日および平成21年11月11日に文書をもって発表
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本船舶海洋工学会の主催の「平成21年秋季講演会」において、平成21年11月5日、平成21年11月6日および平成21年11月11日に文書をもって発表
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【Fターム(参考)】
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