飛行時間型質量分析装置
【課題】簡単な構成で、従来のらせん型飛行時間型質量分析装置の総飛行距離を伸ばし、質量分解能を大幅に向上させた飛行時間型質量分析装置を提供する。
【解決手段】試料をイオン化するイオン源と、イオンをパルス的に加速するための手段と、複数のセクター電場で構成され、イオンをらせん軌道で飛行させるらせん軌道型飛行時間型分光部と、らせん軌道型飛行時間型分光部にイオンを入出射させる機構と、らせん軌道型飛行時間型分光部の出射部近傍でイオン軌道を折り返す反射電場と、イオンを検出する検出器とを備えた飛行時間型質量分析装置であって、らせん軌道型飛行時間型分光部を出射したイオンを前記反射電場で反射させて再びらせん軌道型飛行時間型分光部内に戻し、該らせん軌道型飛行時間型分光部内を往復飛行させることによって飛行時間を計測するようにした。
【解決手段】試料をイオン化するイオン源と、イオンをパルス的に加速するための手段と、複数のセクター電場で構成され、イオンをらせん軌道で飛行させるらせん軌道型飛行時間型分光部と、らせん軌道型飛行時間型分光部にイオンを入出射させる機構と、らせん軌道型飛行時間型分光部の出射部近傍でイオン軌道を折り返す反射電場と、イオンを検出する検出器とを備えた飛行時間型質量分析装置であって、らせん軌道型飛行時間型分光部を出射したイオンを前記反射電場で反射させて再びらせん軌道型飛行時間型分光部内に戻し、該らせん軌道型飛行時間型分光部内を往復飛行させることによって飛行時間を計測するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間型質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型質量分析装置(TOFMS)は、一定の加速エネルギーで加速した試料イオンが質量に応じた飛行速度を持つことに基づき、一定距離を飛行するのに要する飛行時間を計測して質量を求めるものである。図10にTOFMSの測定原理を示す。図において、5はパルスイオン源であり、イオン生成部6とパルス電圧発生器7とで構成されている。
【0003】
加速電圧発生器7により電界中に存在するイオンiを加速する。ここで、加速する電圧は、パルス状電圧である。この加速電圧による加速と、イオン検出器9による時間測定とが同期している。イオン検出器9は、加速電圧発生器7による加速と同時に時間のカウントを開始する。そして、当該イオンがイオン検出器9に到達すると、イオン検出器9はイオンiの飛行時間を測定する。一般に、この飛行時間は、質量が大きいほど長くなる。質量の小さいイオンは早くイオン検出器9に到達するので、飛行時間は短くなる。
【0004】
この飛行時間型質量分析装置(TOFMS)の質量分解能は、総飛行時間をT、ピーク幅をΔTとすると、
質量分解能=T/2ΔT
で表される。即ち、ピーク幅ΔTを一定にして、総飛行時間Tを延ばすことができれば、質量分解能を向上させることができる。しかしながら、従来の直線型、反射型の飛行時間型質量分析装置では、総飛行時間Tを延ばすこと、即ち総飛行距離を延ばすことは装置の大型化に直結する。装置の大型化を避け、かつ高質量分解能を実現するために開発された装置が、多重周回型飛行時間型質量分析装置である(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
この装置は、円筒電場にプレートを組み合わせたトロイダル電場を4個用い、8の字型の周回軌道を多重周回させることにより、総飛行時間Tを延ばすことができる。この装置では、初期位置、初期速度、初期運動エネルギーによる検出面での空間的な広がりと時間的な広がりを1次の項まで収束させることに成功している。
【0006】
図11は従来の多重周回型質量分析装置の概念図である。図において、10はパルスイオン源、12は電極である。図では、電極が4個設けられている。そして、これら電極12で形成されるセクター電場をセクター電場1〜セクター電場4とする。このように構成された装置において、パルスイオン源10から出射されたイオンは、セクター電場1に入射し、次に、セクター電場2に入り、次にセクター電場3に入り、次にセクター電場4に入る。セクター電場4を通過したイオンは、次にセクター電場1に入る。このようにして、同一閉平面内を8の字状に必要なだけ周回する。しかしながら、この閉軌道を多重周回する飛行時間型質量分析装置では、いわゆる「追い越し」の問題が発生する。ここで、「追い越し」とは、閉軌道をイオンが多重周回するため、速度の大きい軽いイオンが速度の小さい重いイオンを追い越してしまうことをいう。このため、検出面に軽いイオンから順に到着するという飛行時間型質量分析装置の基本概念が通用しなくなる。
【0007】
このような問題を解決するために考案されたのが、らせん軌道型飛行時間型質量分析装置である。このらせん軌道型飛行時間型質量分析装置は、閉軌道の始点と終点を閉軌道面に対して垂直方向にずらすことを特徴としている。これを実現するために、イオンをはじめから斜めに入射する方法(例えば特許文献1参照)や、デフレクタを用いて閉軌道の始
点と終点を垂直方向にずらす方法(例えば特許文献2参照)がある。
【0008】
【非特許文献1】Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan Vol. 51、 No. 2、 (2003)pp. 349−353
【特許文献1】特開2000−243345号公報(第2頁、第3頁、図1)
【特許文献2】特開2003−86129号公報(第2頁、第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のらせん型飛行時間型質量分析装置には、非特許文献1に開示された多重周回型飛行時間型質量分析装置に起きる「追い越し」問題を解決した長所が存在するものの、イオンの総飛行距離については、大幅な制約を受け、多重周回型飛行時間型質量分析装置の場合よりも短くならざるを得なかった。
【0010】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、簡単な構成で、従来のらせん型飛行時間型質量分析装置の総飛行距離を伸ばし、質量分解能を大幅に向上させた飛行時間型質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するため、本発明にかかる飛行時間型質量分析装置は、
試料をイオン化するイオン源と、
イオンをパルス的に加速するための手段と、
複数のセクター電場で構成され、イオンをらせん軌道で飛行させるらせん軌道型飛行時間型分光部と、
らせん軌道型飛行時間型分光部にイオンを入出射させる機構と、
らせん軌道型飛行時間型分光部の出射部近傍でイオン軌道を折り返す反射電場と、
イオンを検出する検出器とを備えた飛行時間型質量分析装置であって、
らせん軌道型飛行時間型分光部を出射したイオンを前記反射電場で反射させて再びらせん軌道型飛行時間型分光部内に戻し、該らせん軌道型飛行時間型分光部内を往復飛行させることによって飛行時間を計測するようにしたことを特徴としている。
【0012】
また、前記イオンを入出射させる機構が、前記セクター電場の電圧をON/OFFさせることにより実現されることを特徴としている。
【0013】
また、前記イオンを入出射させる機構が、前記セクター電場の入出射口部分のみを分割して、電圧をON/OFFさせることにより実現されることを特徴としている。
【0014】
また、前記イオン源は、導電性のサンプルプレート上の試料をレーザー照射してイオン化するタイプのイオン源であることを特徴としている。
【0015】
また、前記イオン源は、MALDIイオン源であることを特徴としている。
【0016】
また、イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることを特徴としている。
【0017】
また、試料をイオン化するイオン源と、イオンをパルス的に加速する手段が、試料を連続的にイオン化するイオン源と、そのイオンを輸送する手段と、イオンを輸送方向に対して交差する方向にパルス的に加速する手段とを組み合わせた垂直加速型イオン源であることを特徴としている。
【0018】
また、イオンのらせん軌道型飛行時間型分光部への入射角度を調整するために、イオンをパルス的に加速するための手段と、らせん軌道型飛行時間型分光部との間にイオンを偏向させる偏向手段を設けたことを特徴としている。
【0019】
また、前記セクター電場は、積層トロイダル電場であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる飛行時間型質量分析装置によれば、
試料をイオン化するイオン源と、
イオンをパルス的に加速するための手段と、
複数のセクター電場で構成され、イオンをらせん軌道で飛行させるらせん軌道型飛行時間型分光部と、
らせん軌道型飛行時間型分光部にイオンを入出射させる機構と、
らせん軌道型飛行時間型分光部の出射部近傍でイオン軌道を折り返す反射電場と、
イオンを検出する検出器とを備えた飛行時間型質量分析装置であって、
らせん軌道型飛行時間型分光部を出射したイオンを前記反射電場で反射させて再びらせん軌道型飛行時間型分光部内に戻し、該らせん軌道型飛行時間型分光部内を往復飛行させることによって飛行時間を計測するようにしたので、
簡単な構成で、従来のらせん型飛行時間型質量分析装置の総飛行距離を伸ばし、質量分解能を大幅に向上させた飛行時間型質量分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。図1は本発明の構成概念図で、イオンの飛行軌道を構成するセクター電場をZ方向から見た図である。Z方向から見た図は、図10のそれとあまり変わらない。以下、図10と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、10はパルスイオン源、16は該パルスイオン源10からのイオン軌道を調整するためのデフレクタ、17は図に示すように対称に配置された電極である。該電極17で形成される電場をそれぞれセクター電場1〜4とする。
【0022】
尚、パルスイオン源10が、垂直加速型イオン源のように、イオンの飛行方向がもともと斜め方向に傾斜しているような場合には、デフレクタ16を省略することもできる。
【0023】
図2は電極17の一変形例を示す図である。17A、17Bは対として動作する第1の電極である。18は電極17A、17Bで構成される空間に設けられた第2の電極である。該第2の電極18は、電極17A、17Bに対してこれと垂直方向に傾けられて取り付けられている。15は最終周回されたイオンを検出する検出器である。図1のA部は、周回開始点であり、周回終点でもある。本発明には、普通のセクター電場の代わりに、セクター電場の一変形例である積層トロイダル電場が用いられていても良い。
【0024】
図3はY方向から装置を見た図である。図1、図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、17は第1の電極、19は該第1の電極17と分離して電場をon/off可能に構成された第2の電極(分割電極)である。尚、分割電極19は、図4に示すように、第1の電極17の中段に設けられていても良い。また、第1の電極17のイオン出射口20の先、イオンの飛行軌道の延長線上には、反射電場21が置かれている。反射電場21で反射されたイオンは、飛行してきた軌道上を折り返し、同じ軌道を逆方向に遡及して飛行する。そして、セクター電場をらせん状に逆飛行した後に、検出器15によって検出される。点線で示す矢印はイオンの折り返し前の飛行軌道、鎖線で示す矢印はイオンの折り返し後の飛行軌道を示す。
【0025】
尚、本実施例では、イオンが同じ軌道を折り返して飛行する例を上げたが、これは、往路と復路でZ方向に平行にずれた軌道をイオンが飛行するように構成しても良い。
【0026】
さて、このように構成された装置において、パルスイオン源10にてイオンを生成し、パルス電圧発生器で加速する。加速されたイオンは、デフレクタ16で軌道が調整される。この時のイオンの傾き角は、分割電極19の傾き角に合わせる。ここで、イオンがセクター電場1に入る直前にパルス状の加速電圧で加速される。この加速電圧で加速された時間をt0とする。セクター電場1に引き込まれたイオンは、加速電圧により加速され、図に示すように、各セクター電場1〜4を8の字型に周回しながら、らせん状に下の方に下っていく。そして、最終のセクター電場1の出射口20から反射電場21に到達する。ここでイオンは反射されて、来た道を逆方向に遡及し、戻り飛行する。戻り飛行を終えた場所に検出器15が置かれていて、ここでイオンが検出される。検出器15に到達した時間をt1とすると、該当イオンの飛行時間はt1−t0となり、経過時間が測定され、質量分析が行なわれる。
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、イオンを垂直方向にらせん軌道を描きながら下降させ、反射電場で反射させ、来た道を逆方向に遡及飛行させて、イオンの飛行距離を片道飛行の場合よりも約2倍長くすることで、質量分解能を高め、正確な質量分析を行なうことができる。
【0028】
尚、普通のセクター電場の代わりに、セクター電場の一変形例である積層トロイダル電場を用いれば、らせん軌道を飛行するイオンのZ方向の収束性をより向上させることができる。そこで、積層トロイダル電場を用いた実施の形態についても説明しておく。
(第1の実施の形態例)
第1の実施の形態例は、円筒電場内側表面に実現したいトロイダル電場形状に合わせた曲率を層状に付けるようにしたものである。図5は本発明の積層トロイダルを電場端面から見た図で、第1の実施の形態例を示している。(a)が積層トロイダルを電場端面から見た図、(b)は積層トロイダルを横から見た図である。(b)において、破線はイオンの軌跡である。積層トロイダル電場のX方向の配置は図1に示すものと同じである。
【0029】
(a)に示すように、第1層から第N層までのそれぞれに対して、電極面に図に示すような曲率Rをつける。このように、電極面に曲率Rをつけることにより、形成される電場がこの曲率に合わせて曲率をもつものになり、この結果、電界を通過するイオンの収束性を向上させることができる。
【0030】
ここで、曲率Rをもつ波状の層はY方向に対して傾ける。積層トロイダル電場1と2の空間的な配置は、積層トロイダル電場1から出射したイオンが自由空間(電場1から電場2までの空間)を経て、積層トロイダル電場2の同じ階層に入射できるようにY方向にずらす。以下、積層トロイダル電場3、積層トロイダル電場4も同様にずらす。そして、積層トロイダル電場4を出射したイオンが積層トロイダル電場1の次の階層に入射するように配置する(積層トロイダル電場1〜4の配置は図1に示すそれと同じである)。
【0031】
そして、パルスイオン源10でイオンを生成し、パルス電圧で加速する。加速されたイオンをデフレクタ16で積層トロイダル電場の傾きと同じになるように調整し、各積層トロイダル電場1の最上層に入射させるために調整する。最終周回終了後、積層トロイダル電場の出射部近傍に設けられた反射電場21でイオンを反射させて、来た道を逆方向に遡及飛行させ、検出器15でイオンを検出する。
【0032】
この実施の形態例によれば、円筒電場表面に曲率をつけることができるので、周回するイオンの垂直方向の収束性を向上させることができる。
(第2の実施の形態例)
図6は積層トロイダル電場の説明図で、第2の実施の形態例を示している。積層トロイダル電場1〜4の配置は、図1に示すものと同じである。(a)は積層トロイダルで電場端面から見た図、(b)は積層トロイダルで横から見た図である。図において、22は円筒電場内に設けられた多重極プレートである。図中、太い実線は多重極プレート、破線はイオン軌道である。図7は本実施の形態例で用いる多重極プレートの構成例を示す図である。図中、23は同心円状電極、24はその端部に設けられた絶縁体プレートである。
【0033】
この実施の形態例では、積層トロイダル電場1〜4は、積層多重極電場により実現する。積層多重極電場は、円筒電場内に絶縁体プレート24上に同心円状の電極(多重極プレート)を複数枚組み込み実現する。この実施の形態例では、必要なトロイダル電場形状を作り出せるように、多重極電場に電圧を印加する。多重極プレート22は、Y方向に対して傾けて構成する。
【0034】
このように構成された装置において、パルスイオン源10でイオンを生成し、パルス電圧で加速させる。次に、イオンの軌道がデフレクタ16で積層トロイダル電場の傾きと同じになるように調整し、積層トロイダル電場1の最上部に入射させるように偏向する。そして、各層を8の字状に周回し、最終の層から出射したイオンを積層トロイダル電場の出射部近傍に設けられた反射電場21で反射させて、来た道を逆方向に遡及飛行させ、検出器15でイオンを検出する。
【0035】
この実施の形態例によれば、円筒電場表面に曲率をつけることができるので、周回するイオンの垂直方向の収束性を向上させることができる。
(第3の実施の形態例)
図8は本発明の別の実施例を示す図である。図において、40は連続してイオンを生成する連続イオン源である。この実施の形態例は、連続イオン源40と本発明を組み合わせたものである。41は電極30、31に加速電圧を印加するパルス電圧発生器である。32はイオン溜である。Aは積層トロイダル電場1で、第1層だけを拡大したものである。33は積層トロイダル層の端面、破線の矢印はイオンビームの軌道を示す。積層トロイダル電場としては、前述した実施の形態例1〜3までの何れかを採用するものとする。
【0036】
このように構成された装置において、連続イオン源40でイオンを生成する。生成したイオンをイオン溜32に輸送する。イオン溜32に貯まったイオンを電極30、31に印加されるパルス電圧でパルス的に加速する。この時、連続したイオン源40からの輸送運動エネルギーとパルス電圧による加速エネルギーによりイオンは必然的に斜め方向に打ち出される。この傾きを積層トロイダル電場の傾きと一致させる。この実施の形態例では、あとは、実施の形態例1の場合と同様に、らせん軌道を飛行させ、積層トロイダル電場の出射部近傍に設けられた反射電場で反射させた後、来た道を逆飛行させ、検出器15でイオンを検出する。
【0037】
この実施の形態例によれば、積層トロイダル電場で構成される垂直加速型らせん軌道飛行時間型質量分析計を実現することにより、感度向上を実現することができる。
(第4の実施の形態例)
図9は本発明の別の実施例を示す図である。図8と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施の形態例は、図8に示す構成に加えて、イオン溜32から入射されるイオンを更に偏向して角度調整ができるようにしたものである。図において、50は入射されるイオンの角度を調整するために設けられたデフレクタである。該デフレクタは、積層トロイダル電極の傾き角と打ち出されたイオンの傾きが異なる場合に、イオンの傾き角を積層トロイダル電極の傾き角に合わせるように動作する。
【0038】
このように構成された装置において、連続イオン源40でイオンを生成する。生成したイオンをイオン溜32に輸送する。イオン溜32に貯まったイオンを電極30、31に印加されるパルス電圧でパルス的に加速する。この時、パルス電圧より得た速度と連続イオン源40からの輸送速度により、イオンは必然的に軌道面に対して図に示すように斜めに飛行する。この傾きを角度調整用のデフレクタ50で更に調整する。この結果、イオンは積層トロイダル電場1の傾きに合わせた角度で入射される。あとは、実施の形態例1の場合と同様に、らせん軌道を飛行させ、積層トロイダル電場の出射部近傍に設けられた反射電場で反射させた後、来た道を逆飛行させ、イオンを検出する。
【0039】
この実施の形態例によれば、デフレクタにより積層トロイダル電場に入射するイオンビームを調整することができる。
【0040】
尚、パルスイオン源としては、前述の垂直加速型イオン源の代わりに、導電性のサンプルプレート上の試料をレーザー照射してイオン化するタイプのイオン源、例えば、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)イオン源や、特開昭61−195554号公報に開示されているような、イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いた改良型のMALDIイオン源を採用しても良い。
【0041】
また、らせん軌道は、必ずしも8の字型らせん軌道に限定されるものではなく、例えば、特許文献1、2のような丸型らせん軌道であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、試料をイオン化し、イオンを検出する質量分析の分野に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の飛行時間型質量分析装置をZ方向から見た図である。
【図2】本発明の電極の構成例を示す図である。
【図3】本発明の飛行時間型質量分析装置をY方向から見た図である。
【図4】本発明の飛行時間型質量分析装置の変形例を示す図である。
【図5】本発明の積層トロイダルを示す図である。
【図6】トロイダル電場の説明図である。
【図7】本実施の形態例で用いられる多重電極プレートを示す図である。
【図8】本発明の別の実施例を示す図である。
【図9】本発明の別の実施例を示す図である。
【図10】TOFMSの動作原理を示す図である。
【図11】従来の多重周回型質量分析装置の概念図である。
【符号の説明】
【0044】
1:電極、2:電極、3:電極、4:電極、5:パルスイオン源、6:イオン生成部、7:パルス電圧発生器、9:イオン検出器、10:パルスイオン源、12:電極、15:検出器、16:デフレクタ、17:電極、17A:第1の電極、17B:第1の電極、18:第2の電極、19:分割電極、20:出射口、21:反射電場、22:多重極プレート、23:同心円状電極、24:絶縁体プレート、30:電極、31:電極、32:イオン溜、33:端面、40:連続イオン源、41:パルス電圧発生器、50:デフレクタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間型質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型質量分析装置(TOFMS)は、一定の加速エネルギーで加速した試料イオンが質量に応じた飛行速度を持つことに基づき、一定距離を飛行するのに要する飛行時間を計測して質量を求めるものである。図10にTOFMSの測定原理を示す。図において、5はパルスイオン源であり、イオン生成部6とパルス電圧発生器7とで構成されている。
【0003】
加速電圧発生器7により電界中に存在するイオンiを加速する。ここで、加速する電圧は、パルス状電圧である。この加速電圧による加速と、イオン検出器9による時間測定とが同期している。イオン検出器9は、加速電圧発生器7による加速と同時に時間のカウントを開始する。そして、当該イオンがイオン検出器9に到達すると、イオン検出器9はイオンiの飛行時間を測定する。一般に、この飛行時間は、質量が大きいほど長くなる。質量の小さいイオンは早くイオン検出器9に到達するので、飛行時間は短くなる。
【0004】
この飛行時間型質量分析装置(TOFMS)の質量分解能は、総飛行時間をT、ピーク幅をΔTとすると、
質量分解能=T/2ΔT
で表される。即ち、ピーク幅ΔTを一定にして、総飛行時間Tを延ばすことができれば、質量分解能を向上させることができる。しかしながら、従来の直線型、反射型の飛行時間型質量分析装置では、総飛行時間Tを延ばすこと、即ち総飛行距離を延ばすことは装置の大型化に直結する。装置の大型化を避け、かつ高質量分解能を実現するために開発された装置が、多重周回型飛行時間型質量分析装置である(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
この装置は、円筒電場にプレートを組み合わせたトロイダル電場を4個用い、8の字型の周回軌道を多重周回させることにより、総飛行時間Tを延ばすことができる。この装置では、初期位置、初期速度、初期運動エネルギーによる検出面での空間的な広がりと時間的な広がりを1次の項まで収束させることに成功している。
【0006】
図11は従来の多重周回型質量分析装置の概念図である。図において、10はパルスイオン源、12は電極である。図では、電極が4個設けられている。そして、これら電極12で形成されるセクター電場をセクター電場1〜セクター電場4とする。このように構成された装置において、パルスイオン源10から出射されたイオンは、セクター電場1に入射し、次に、セクター電場2に入り、次にセクター電場3に入り、次にセクター電場4に入る。セクター電場4を通過したイオンは、次にセクター電場1に入る。このようにして、同一閉平面内を8の字状に必要なだけ周回する。しかしながら、この閉軌道を多重周回する飛行時間型質量分析装置では、いわゆる「追い越し」の問題が発生する。ここで、「追い越し」とは、閉軌道をイオンが多重周回するため、速度の大きい軽いイオンが速度の小さい重いイオンを追い越してしまうことをいう。このため、検出面に軽いイオンから順に到着するという飛行時間型質量分析装置の基本概念が通用しなくなる。
【0007】
このような問題を解決するために考案されたのが、らせん軌道型飛行時間型質量分析装置である。このらせん軌道型飛行時間型質量分析装置は、閉軌道の始点と終点を閉軌道面に対して垂直方向にずらすことを特徴としている。これを実現するために、イオンをはじめから斜めに入射する方法(例えば特許文献1参照)や、デフレクタを用いて閉軌道の始
点と終点を垂直方向にずらす方法(例えば特許文献2参照)がある。
【0008】
【非特許文献1】Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan Vol. 51、 No. 2、 (2003)pp. 349−353
【特許文献1】特開2000−243345号公報(第2頁、第3頁、図1)
【特許文献2】特開2003−86129号公報(第2頁、第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のらせん型飛行時間型質量分析装置には、非特許文献1に開示された多重周回型飛行時間型質量分析装置に起きる「追い越し」問題を解決した長所が存在するものの、イオンの総飛行距離については、大幅な制約を受け、多重周回型飛行時間型質量分析装置の場合よりも短くならざるを得なかった。
【0010】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、簡単な構成で、従来のらせん型飛行時間型質量分析装置の総飛行距離を伸ばし、質量分解能を大幅に向上させた飛行時間型質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するため、本発明にかかる飛行時間型質量分析装置は、
試料をイオン化するイオン源と、
イオンをパルス的に加速するための手段と、
複数のセクター電場で構成され、イオンをらせん軌道で飛行させるらせん軌道型飛行時間型分光部と、
らせん軌道型飛行時間型分光部にイオンを入出射させる機構と、
らせん軌道型飛行時間型分光部の出射部近傍でイオン軌道を折り返す反射電場と、
イオンを検出する検出器とを備えた飛行時間型質量分析装置であって、
らせん軌道型飛行時間型分光部を出射したイオンを前記反射電場で反射させて再びらせん軌道型飛行時間型分光部内に戻し、該らせん軌道型飛行時間型分光部内を往復飛行させることによって飛行時間を計測するようにしたことを特徴としている。
【0012】
また、前記イオンを入出射させる機構が、前記セクター電場の電圧をON/OFFさせることにより実現されることを特徴としている。
【0013】
また、前記イオンを入出射させる機構が、前記セクター電場の入出射口部分のみを分割して、電圧をON/OFFさせることにより実現されることを特徴としている。
【0014】
また、前記イオン源は、導電性のサンプルプレート上の試料をレーザー照射してイオン化するタイプのイオン源であることを特徴としている。
【0015】
また、前記イオン源は、MALDIイオン源であることを特徴としている。
【0016】
また、イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることを特徴としている。
【0017】
また、試料をイオン化するイオン源と、イオンをパルス的に加速する手段が、試料を連続的にイオン化するイオン源と、そのイオンを輸送する手段と、イオンを輸送方向に対して交差する方向にパルス的に加速する手段とを組み合わせた垂直加速型イオン源であることを特徴としている。
【0018】
また、イオンのらせん軌道型飛行時間型分光部への入射角度を調整するために、イオンをパルス的に加速するための手段と、らせん軌道型飛行時間型分光部との間にイオンを偏向させる偏向手段を設けたことを特徴としている。
【0019】
また、前記セクター電場は、積層トロイダル電場であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる飛行時間型質量分析装置によれば、
試料をイオン化するイオン源と、
イオンをパルス的に加速するための手段と、
複数のセクター電場で構成され、イオンをらせん軌道で飛行させるらせん軌道型飛行時間型分光部と、
らせん軌道型飛行時間型分光部にイオンを入出射させる機構と、
らせん軌道型飛行時間型分光部の出射部近傍でイオン軌道を折り返す反射電場と、
イオンを検出する検出器とを備えた飛行時間型質量分析装置であって、
らせん軌道型飛行時間型分光部を出射したイオンを前記反射電場で反射させて再びらせん軌道型飛行時間型分光部内に戻し、該らせん軌道型飛行時間型分光部内を往復飛行させることによって飛行時間を計測するようにしたので、
簡単な構成で、従来のらせん型飛行時間型質量分析装置の総飛行距離を伸ばし、質量分解能を大幅に向上させた飛行時間型質量分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。図1は本発明の構成概念図で、イオンの飛行軌道を構成するセクター電場をZ方向から見た図である。Z方向から見た図は、図10のそれとあまり変わらない。以下、図10と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、10はパルスイオン源、16は該パルスイオン源10からのイオン軌道を調整するためのデフレクタ、17は図に示すように対称に配置された電極である。該電極17で形成される電場をそれぞれセクター電場1〜4とする。
【0022】
尚、パルスイオン源10が、垂直加速型イオン源のように、イオンの飛行方向がもともと斜め方向に傾斜しているような場合には、デフレクタ16を省略することもできる。
【0023】
図2は電極17の一変形例を示す図である。17A、17Bは対として動作する第1の電極である。18は電極17A、17Bで構成される空間に設けられた第2の電極である。該第2の電極18は、電極17A、17Bに対してこれと垂直方向に傾けられて取り付けられている。15は最終周回されたイオンを検出する検出器である。図1のA部は、周回開始点であり、周回終点でもある。本発明には、普通のセクター電場の代わりに、セクター電場の一変形例である積層トロイダル電場が用いられていても良い。
【0024】
図3はY方向から装置を見た図である。図1、図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、17は第1の電極、19は該第1の電極17と分離して電場をon/off可能に構成された第2の電極(分割電極)である。尚、分割電極19は、図4に示すように、第1の電極17の中段に設けられていても良い。また、第1の電極17のイオン出射口20の先、イオンの飛行軌道の延長線上には、反射電場21が置かれている。反射電場21で反射されたイオンは、飛行してきた軌道上を折り返し、同じ軌道を逆方向に遡及して飛行する。そして、セクター電場をらせん状に逆飛行した後に、検出器15によって検出される。点線で示す矢印はイオンの折り返し前の飛行軌道、鎖線で示す矢印はイオンの折り返し後の飛行軌道を示す。
【0025】
尚、本実施例では、イオンが同じ軌道を折り返して飛行する例を上げたが、これは、往路と復路でZ方向に平行にずれた軌道をイオンが飛行するように構成しても良い。
【0026】
さて、このように構成された装置において、パルスイオン源10にてイオンを生成し、パルス電圧発生器で加速する。加速されたイオンは、デフレクタ16で軌道が調整される。この時のイオンの傾き角は、分割電極19の傾き角に合わせる。ここで、イオンがセクター電場1に入る直前にパルス状の加速電圧で加速される。この加速電圧で加速された時間をt0とする。セクター電場1に引き込まれたイオンは、加速電圧により加速され、図に示すように、各セクター電場1〜4を8の字型に周回しながら、らせん状に下の方に下っていく。そして、最終のセクター電場1の出射口20から反射電場21に到達する。ここでイオンは反射されて、来た道を逆方向に遡及し、戻り飛行する。戻り飛行を終えた場所に検出器15が置かれていて、ここでイオンが検出される。検出器15に到達した時間をt1とすると、該当イオンの飛行時間はt1−t0となり、経過時間が測定され、質量分析が行なわれる。
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、イオンを垂直方向にらせん軌道を描きながら下降させ、反射電場で反射させ、来た道を逆方向に遡及飛行させて、イオンの飛行距離を片道飛行の場合よりも約2倍長くすることで、質量分解能を高め、正確な質量分析を行なうことができる。
【0028】
尚、普通のセクター電場の代わりに、セクター電場の一変形例である積層トロイダル電場を用いれば、らせん軌道を飛行するイオンのZ方向の収束性をより向上させることができる。そこで、積層トロイダル電場を用いた実施の形態についても説明しておく。
(第1の実施の形態例)
第1の実施の形態例は、円筒電場内側表面に実現したいトロイダル電場形状に合わせた曲率を層状に付けるようにしたものである。図5は本発明の積層トロイダルを電場端面から見た図で、第1の実施の形態例を示している。(a)が積層トロイダルを電場端面から見た図、(b)は積層トロイダルを横から見た図である。(b)において、破線はイオンの軌跡である。積層トロイダル電場のX方向の配置は図1に示すものと同じである。
【0029】
(a)に示すように、第1層から第N層までのそれぞれに対して、電極面に図に示すような曲率Rをつける。このように、電極面に曲率Rをつけることにより、形成される電場がこの曲率に合わせて曲率をもつものになり、この結果、電界を通過するイオンの収束性を向上させることができる。
【0030】
ここで、曲率Rをもつ波状の層はY方向に対して傾ける。積層トロイダル電場1と2の空間的な配置は、積層トロイダル電場1から出射したイオンが自由空間(電場1から電場2までの空間)を経て、積層トロイダル電場2の同じ階層に入射できるようにY方向にずらす。以下、積層トロイダル電場3、積層トロイダル電場4も同様にずらす。そして、積層トロイダル電場4を出射したイオンが積層トロイダル電場1の次の階層に入射するように配置する(積層トロイダル電場1〜4の配置は図1に示すそれと同じである)。
【0031】
そして、パルスイオン源10でイオンを生成し、パルス電圧で加速する。加速されたイオンをデフレクタ16で積層トロイダル電場の傾きと同じになるように調整し、各積層トロイダル電場1の最上層に入射させるために調整する。最終周回終了後、積層トロイダル電場の出射部近傍に設けられた反射電場21でイオンを反射させて、来た道を逆方向に遡及飛行させ、検出器15でイオンを検出する。
【0032】
この実施の形態例によれば、円筒電場表面に曲率をつけることができるので、周回するイオンの垂直方向の収束性を向上させることができる。
(第2の実施の形態例)
図6は積層トロイダル電場の説明図で、第2の実施の形態例を示している。積層トロイダル電場1〜4の配置は、図1に示すものと同じである。(a)は積層トロイダルで電場端面から見た図、(b)は積層トロイダルで横から見た図である。図において、22は円筒電場内に設けられた多重極プレートである。図中、太い実線は多重極プレート、破線はイオン軌道である。図7は本実施の形態例で用いる多重極プレートの構成例を示す図である。図中、23は同心円状電極、24はその端部に設けられた絶縁体プレートである。
【0033】
この実施の形態例では、積層トロイダル電場1〜4は、積層多重極電場により実現する。積層多重極電場は、円筒電場内に絶縁体プレート24上に同心円状の電極(多重極プレート)を複数枚組み込み実現する。この実施の形態例では、必要なトロイダル電場形状を作り出せるように、多重極電場に電圧を印加する。多重極プレート22は、Y方向に対して傾けて構成する。
【0034】
このように構成された装置において、パルスイオン源10でイオンを生成し、パルス電圧で加速させる。次に、イオンの軌道がデフレクタ16で積層トロイダル電場の傾きと同じになるように調整し、積層トロイダル電場1の最上部に入射させるように偏向する。そして、各層を8の字状に周回し、最終の層から出射したイオンを積層トロイダル電場の出射部近傍に設けられた反射電場21で反射させて、来た道を逆方向に遡及飛行させ、検出器15でイオンを検出する。
【0035】
この実施の形態例によれば、円筒電場表面に曲率をつけることができるので、周回するイオンの垂直方向の収束性を向上させることができる。
(第3の実施の形態例)
図8は本発明の別の実施例を示す図である。図において、40は連続してイオンを生成する連続イオン源である。この実施の形態例は、連続イオン源40と本発明を組み合わせたものである。41は電極30、31に加速電圧を印加するパルス電圧発生器である。32はイオン溜である。Aは積層トロイダル電場1で、第1層だけを拡大したものである。33は積層トロイダル層の端面、破線の矢印はイオンビームの軌道を示す。積層トロイダル電場としては、前述した実施の形態例1〜3までの何れかを採用するものとする。
【0036】
このように構成された装置において、連続イオン源40でイオンを生成する。生成したイオンをイオン溜32に輸送する。イオン溜32に貯まったイオンを電極30、31に印加されるパルス電圧でパルス的に加速する。この時、連続したイオン源40からの輸送運動エネルギーとパルス電圧による加速エネルギーによりイオンは必然的に斜め方向に打ち出される。この傾きを積層トロイダル電場の傾きと一致させる。この実施の形態例では、あとは、実施の形態例1の場合と同様に、らせん軌道を飛行させ、積層トロイダル電場の出射部近傍に設けられた反射電場で反射させた後、来た道を逆飛行させ、検出器15でイオンを検出する。
【0037】
この実施の形態例によれば、積層トロイダル電場で構成される垂直加速型らせん軌道飛行時間型質量分析計を実現することにより、感度向上を実現することができる。
(第4の実施の形態例)
図9は本発明の別の実施例を示す図である。図8と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施の形態例は、図8に示す構成に加えて、イオン溜32から入射されるイオンを更に偏向して角度調整ができるようにしたものである。図において、50は入射されるイオンの角度を調整するために設けられたデフレクタである。該デフレクタは、積層トロイダル電極の傾き角と打ち出されたイオンの傾きが異なる場合に、イオンの傾き角を積層トロイダル電極の傾き角に合わせるように動作する。
【0038】
このように構成された装置において、連続イオン源40でイオンを生成する。生成したイオンをイオン溜32に輸送する。イオン溜32に貯まったイオンを電極30、31に印加されるパルス電圧でパルス的に加速する。この時、パルス電圧より得た速度と連続イオン源40からの輸送速度により、イオンは必然的に軌道面に対して図に示すように斜めに飛行する。この傾きを角度調整用のデフレクタ50で更に調整する。この結果、イオンは積層トロイダル電場1の傾きに合わせた角度で入射される。あとは、実施の形態例1の場合と同様に、らせん軌道を飛行させ、積層トロイダル電場の出射部近傍に設けられた反射電場で反射させた後、来た道を逆飛行させ、イオンを検出する。
【0039】
この実施の形態例によれば、デフレクタにより積層トロイダル電場に入射するイオンビームを調整することができる。
【0040】
尚、パルスイオン源としては、前述の垂直加速型イオン源の代わりに、導電性のサンプルプレート上の試料をレーザー照射してイオン化するタイプのイオン源、例えば、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)イオン源や、特開昭61−195554号公報に開示されているような、イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いた改良型のMALDIイオン源を採用しても良い。
【0041】
また、らせん軌道は、必ずしも8の字型らせん軌道に限定されるものではなく、例えば、特許文献1、2のような丸型らせん軌道であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、試料をイオン化し、イオンを検出する質量分析の分野に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の飛行時間型質量分析装置をZ方向から見た図である。
【図2】本発明の電極の構成例を示す図である。
【図3】本発明の飛行時間型質量分析装置をY方向から見た図である。
【図4】本発明の飛行時間型質量分析装置の変形例を示す図である。
【図5】本発明の積層トロイダルを示す図である。
【図6】トロイダル電場の説明図である。
【図7】本実施の形態例で用いられる多重電極プレートを示す図である。
【図8】本発明の別の実施例を示す図である。
【図9】本発明の別の実施例を示す図である。
【図10】TOFMSの動作原理を示す図である。
【図11】従来の多重周回型質量分析装置の概念図である。
【符号の説明】
【0044】
1:電極、2:電極、3:電極、4:電極、5:パルスイオン源、6:イオン生成部、7:パルス電圧発生器、9:イオン検出器、10:パルスイオン源、12:電極、15:検出器、16:デフレクタ、17:電極、17A:第1の電極、17B:第1の電極、18:第2の電極、19:分割電極、20:出射口、21:反射電場、22:多重極プレート、23:同心円状電極、24:絶縁体プレート、30:電極、31:電極、32:イオン溜、33:端面、40:連続イオン源、41:パルス電圧発生器、50:デフレクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をイオン化するイオン源と、
イオンをパルス的に加速するための手段と、
複数のセクター電場で構成され、イオンをらせん軌道で飛行させるらせん軌道型飛行時間型分光部と、
らせん軌道型飛行時間型分光部にイオンを入出射させる機構と、
らせん軌道型飛行時間型分光部の出射部近傍でイオン軌道を折り返す反射電場と、
イオンを検出する検出器とを備えた飛行時間型質量分析装置であって、
らせん軌道型飛行時間型分光部を出射したイオンを前記反射電場で反射させて再びらせん軌道型飛行時間型分光部内に戻し、該らせん軌道型飛行時間型分光部内を往復飛行させることによって飛行時間を計測するようにしたことを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
前記イオンを入出射させる機構が、前記セクター電場の電圧をON/OFFさせることにより実現されることを特徴とする請求項1記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項3】
前記イオンを入出射させる機構が、前記セクター電場の入出射口部分のみを分割して、電圧をON/OFFさせることにより実現されることを特徴とする請求項2記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項4】
前記イオン源は、導電性のサンプルプレート上の試料をレーザー照射してイオン化するタイプのイオン源であることを特徴とする請求項1、2、または3に記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項5】
前記イオン源は、MALDIイオン源であることを特徴とする請求項4記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項6】
イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることを特徴とする請求項4または5記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項7】
試料をイオン化するイオン源と、イオンをパルス的に加速する手段が、試料を連続的にイオン化するイオン源と、そのイオンを輸送する手段と、イオンを輸送方向に対して交差する方向にパルス的に加速する手段とを組み合わせた垂直加速型イオン源であることを特徴とする請求項1、2、または3に記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項8】
イオンのらせん軌道型飛行時間型分光部への入射角度を調整するために、イオンをパルス的に加速するための手段と、らせん軌道型飛行時間型分光部との間にイオンを偏向させる偏向手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項9】
前記セクター電場は、積層トロイダル電場であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項1】
試料をイオン化するイオン源と、
イオンをパルス的に加速するための手段と、
複数のセクター電場で構成され、イオンをらせん軌道で飛行させるらせん軌道型飛行時間型分光部と、
らせん軌道型飛行時間型分光部にイオンを入出射させる機構と、
らせん軌道型飛行時間型分光部の出射部近傍でイオン軌道を折り返す反射電場と、
イオンを検出する検出器とを備えた飛行時間型質量分析装置であって、
らせん軌道型飛行時間型分光部を出射したイオンを前記反射電場で反射させて再びらせん軌道型飛行時間型分光部内に戻し、該らせん軌道型飛行時間型分光部内を往復飛行させることによって飛行時間を計測するようにしたことを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
前記イオンを入出射させる機構が、前記セクター電場の電圧をON/OFFさせることにより実現されることを特徴とする請求項1記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項3】
前記イオンを入出射させる機構が、前記セクター電場の入出射口部分のみを分割して、電圧をON/OFFさせることにより実現されることを特徴とする請求項2記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項4】
前記イオン源は、導電性のサンプルプレート上の試料をレーザー照射してイオン化するタイプのイオン源であることを特徴とする請求項1、2、または3に記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項5】
前記イオン源は、MALDIイオン源であることを特徴とする請求項4記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項6】
イオンを加速する手段に遅延引き出し法を用いることを特徴とする請求項4または5記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項7】
試料をイオン化するイオン源と、イオンをパルス的に加速する手段が、試料を連続的にイオン化するイオン源と、そのイオンを輸送する手段と、イオンを輸送方向に対して交差する方向にパルス的に加速する手段とを組み合わせた垂直加速型イオン源であることを特徴とする請求項1、2、または3に記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項8】
イオンのらせん軌道型飛行時間型分光部への入射角度を調整するために、イオンをパルス的に加速するための手段と、らせん軌道型飛行時間型分光部との間にイオンを偏向させる偏向手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の飛行時間型質量分析装置。
【請求項9】
前記セクター電場は、積層トロイダル電場であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の飛行時間型質量分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−294428(P2006−294428A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114084(P2005−114084)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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