説明

食品の保存方法

【課題】 脱酸素剤包装された食品にて、食中毒の原因となる偏性嫌気性菌の増殖を防止した長期の保存を可能とする。
【解決手段】 脱酸素剤包装を適用した食品において、包装内の水素ガス濃度を1%未満に保持することを特徴とする食品の保存方法であり、特に、水分活性0.94以上でかつpH4.6以上の常温流通されるでんぷん系食品の保存方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱酸素剤包装を適用した食品の保存方法であり、嫌気性菌の増殖を大幅に抑制し、常温で長期にわたって安全に保存する方法である。
【背景技術】
【0002】
現在わが国では、食品の保存方法として脱酸素剤を利用した包装技術が広く適用されている。脱酸素剤包装技術は、保存すべき食品を被包した包装容器内を脱酸素剤を使用して、又は脱酸素機能を有する包装材料を用いて包装し、内部を嫌気状態に保つことにより、酸素の存在に起因する食品の品質劣化及び微生物による危害を防止する技術である。この技術によれば、食品の品質を良好に保持しながら、カビや好気性菌などの微生物増殖防止を図ることができ、長期に食品を保存することが可能である。
【0003】
近年食品の製造技術や包装技術は飛躍的に向上し、原料段階での菌低減や、製造工程中の加熱時の殺菌、無菌に近い環境下での包装を組み合わせることで菌汚染の少ない食品の製造が可能となっている。また、これまで微生物増殖の問題から常温での長期保存が困難であった高水分の低酸性食品でも、衛生的な製造及び脱酸素剤包装により、品質を良好に保持しながら常温での長期保存が可能な食品が増加している。
【0004】
しかしながら、これら食品は無菌とは言えず、原料が高い耐熱性を有する芽胞菌に汚染されていた場合には製造条件によっては製品中にこれが生き残る。また、食品包装時に菌汚染が発生する可能性も完全に除去できるとも言えない。
一般に知られているように、酸素の有無による育成状態との観点で微生物類を分類すれば、酸素のない状態では生育できないカビおよび好気性菌、酸素のあるほうが良く生育するが低酸素濃度でも生育できる一般の酵母、酸素のあるほうが良く生育するが無酸素状態でも生育できる通性嫌気性菌、低酸素濃度で最も良好に育成する微好気性菌、および無酸素状態で育成する偏性嫌気性菌に分類される。
【0005】
脱酸素剤包装では、仮に好気性の芽胞菌やカビによる汚染があった場合でもこれら菌は増殖できないため、これら微生物による問題発生は防止できる。しかし、上記から明らかなように、通性嫌気性菌、微好気性菌および偏性嫌気性菌は単なる脱酸素剤では抑制できないため、これら微生物による食品への汚染があった場合、常温での保存中に腐敗が生じる可能性がある。また、これら微生物の中でも食品衛生上最も重要な嫌気性菌であるボツリヌス菌による食中毒の可能性を排除できないものであった。
ところが、嫌気性菌の発育環境に酸素の有無は大きく関与しているが、より詳細には、水素イオン濃度(pH)、水分活性(Aw)、酸化還元電位、温度および食品添加物種などにより決定される(非特許文献1)。ゆえに、脱酸素包装においても、食品において上記のいずれかの条件を嫌気性菌の発育条件外とすることができれば、より安全な保存が可能となることを示している。
【0006】
【非特許文献1】最新食品微生物制御システムデータ集 (株)サイエンスフォーラム p94-96 昭和58年5月25日。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、脱酸素剤包装において、仮に嫌気性菌による汚染があった場合にも、これら菌の増殖を抑制して、常温での長期保存を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決する方法を検討した結果、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、脱酸素剤包装を適用した食品において、包装内の水素ガス濃度を1%未満に保持することを特徴とする食品の保存方法であり、食品が水分活性0.94以上でかつpH4.6以上の常温流通されるでんぷん系食品である食品の保存方法である。
本発明は、脱酸素剤包装において、食品が水分活性0.94以上でかつpH4.6以上で常温において偏性嫌気性菌の増殖を防止できる。その理由として、食品に脱酸素剤包装を適用しても、包装内の水素ガス濃度を1.0%未満に保持することにより、でんぷん系食品においては、食品の酸化還元電位が菌の増殖可能な領域まで下がらないことによるものと推定される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、脱酸素剤包装を適用した食品において、品質を良好に保持しながら、偏性嫌気性菌の増殖をも抑えることができるので安全性の高い常温での長期保存が可能とする脱酸素剤包装が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において保存する食品は、通常は、常温で保存され、水分活性が0.94以上、pHが4.6以上で嫌気性菌(ボツリヌス菌を初めとした偏性嫌気性菌)の増殖が可能とされる食品である。これらに該当する食品はパン、生パン粉、そば、うどん、餅、炊飯米などの澱粉系の食品が主に例示される。
【0011】
本発明の脱酸素剤包装は、上記食品を被包した包装容器(袋)内を脱酸素剤を用いて、または脱酸素機能有するフィルムなどを使用して製造した包装容器(袋)にて、包装容器内を嫌気状態に保ってなるものである。
【0012】
本発明における脱酸素剤とは、酸素吸収剤を通気性包材で包装してなる小袋やラベル或いは被覆してなるフィルム或いはシートである。酸素吸収剤成分は、酸素を吸収する能力を有する組成物である。酸素吸収成分には鉄を主剤としたもの及び有機化合物を主剤としたものがある。脱酸素剤は三菱ガス化学(株)製の商品名「エージレス」をはじめとして、各社から鉄系脱酸素剤及び有機化合物系の脱酸素剤が市販されている。
【0013】
本発明における脱酸素剤包装は、包装内の水素濃度を1%未満、好ましくは0.5%以下、特に0.1%以下に保って食品を保存する。
この方法は、水素の発生が少ないか、実質的にない脱酸素剤を用いることであり、付随的に、水素が容易に外部に逃げる包装材料を選択することによって達成する。
ここで、水素を包装外に逃がす場合、通常の酸素ガスバリアー材料は水素の選択透過性がないことから、水素の透過量に比例して他の気体など(酸素、水蒸気、その他香味成分など)が微量透過することを意味する。このことから、脱酸素剤として、微量の水素の発生があるものを使用する場合、水素を蓄積しない包装材料を選択することは実用的には容易で、水素濃度の低減に有効であるが、保存期間中における他の気体などの透過による負の効果(風味などの劣化)を考慮して、これが許容できることを確認して選択する。
【0014】
上記であり、使用する脱酸素剤は、使用時に脱酸素剤そのものから水素生成が少ないもの程好ましく、特に、全く水素を生成しないものが好ましい。これは、脱酸素剤の主剤の種類(酸素と反応する物質の種類)によらず必要なことである。
【0015】
本発明において、食品は脱酸素剤とともに非通気性の容器に密封されるが、脱酸素剤から水素生成が全くない場合には、非通気性の容器としては、ガスバリアー性の高いものであれば特に限定されるものではない。たとえば、酸素透過度が100ml/(m2・day・atm)(20℃)以下のものが好ましく、50ml/(m2・day・atm)(20℃)以下のものがより好ましい。
【0016】
酸素吸収剤から水素が生成する場合にも、酸素透過度が100ml/(m2・day・atm)(20℃)以下のものが好ましく、50ml/(m2・day・atm)(20℃)以下のものがより好ましく用いられる。ただし、鉄系酸素吸収剤の場合、脱酸素剤製造メーカー及び製品によっても異なるが、市販脱酸素剤の中から水素発生が少ない製品を当然に選択するものであるが、微量な水素生成があるために、ガスバリアー性の高い包装材料、たとえばアルミ箔等の金属箔、またはシリカ、アルミナもしくはアルミニウムを蒸着した蒸着フィルムを使用した場合、ガスバリアー性が高く、酸素吸収剤から発生した水素が容器外へ透過せず、包装内の空間容積にもよるが長期間の保存で容器内に水素が蓄積して、水素濃度が1%以上となる可能性がある。このような点から、実際の保存にて確認し、その場合には、非通気性容器にガスバリアー性の適当な材質を選択することで、容器内の水素ガス濃度が1%未満となるようにすることで対応できる。鉄系以外の酸素級吸収剤でも、水素生成がある場合には、その量などを考慮して、脱酸素剤の選択から非通気性容器のガスバリアー性の選択することで、容器内の水素ガス濃度が1%未満となるようにすることで対応できる。
【実施例】
【0017】
実施例1
無菌化米飯(内容量約200g)から30gを無菌的に滅菌プラスチックシャーレ(φ90×15mm)にとり、このプラスチックシャーレを、三菱ガス化学株式会社製のエージレスSA−50(鉄粉を主剤とする脱酸素剤)とともにPVDCコートONY/PEフィルム(ポリ塩化ビニリデンコート延伸ナイロン/ポリエチレンフィルム)に密封した。
密封した袋を25℃下に保管し、1ヶ月毎に6ヶ月間袋内の水素ガス濃度をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、6ヶ月間水素ガス濃度は0.1%未満であり、嫌気性菌のない状態において、低水素濃度であることが確認された。
【0018】
次に、前記と同じ無菌化米飯から30gを無菌的に滅菌プラスチックシャーレ(φ90×15mm)にとり、滅菌蒸留水中に混濁したClostridium sporogenes ATCC19404 芽胞液(10cfu/ml)を無菌化米飯に30μl接種した。このプラスチックシャーレを、エージレスSA−50とともにPVDCコートONY/PEフィルムに密封した。密封した袋を30℃下に保管し、1ヶ月目、2ヶ月目、3ヶ月目及び6ヶ月間目にガスクロマトグラフィーにて袋内の水素ガス、酸素ガス濃度測定を、また開封して米飯の嫌気生菌数及び一般生菌数測定、及び米飯の香り評価を行った。結果を表1に示した。
【0019】
実施例2
実施例1において、エージレスSA−50にかえて、エージレスGL−50(三菱ガス化学株式会社製のグリセリンを主剤とする脱酸素剤)を、PVDCコートONY/PEフィルムのかわりにPET/アルミ箔/PEフィルム(ポリエチレンテレフタレート/アルミ箔/ポリエチレンフィルム)に密封した以外は同様とした結果、6ヶ月間水素ガス濃度は0.1%未満であり、嫌気性菌のない状態において、低水素濃度であることが確認された。
次に、実施例1において、前記の脱酸素剤とフィルムとを用いた以外は同様にして、Clostridium sporogenes ATCC19404 芽胞接種試験をした。結果を表1に示した。
【0020】
比較例1
実施例1において、エージレスSA−50のかわりに水素発生抑制処理を施していない鉄粉を用いて試作した脱酸素剤A−50を用いた以外は、同様の水素ガス濃度確認試験を実施した結果、1ヶ月目の袋内水素ガス濃度は1.0%であった。
次に、実施例1において、エージレスSA−50のかわりに上記A−50を用いた以外は、同様のClostridium sporogenes ATCC19404 芽胞接種試験を実施した。結果を表1に示した。
【0021】
[表1]
保存日数 試験項目 実施例1 実施例2 比較例1
1ヶ月 水素濃度(%) 0.03 0.01 1.21
酸素濃度(%) 0.01以下 0.01以下 0.1以下
米飯の香り 良好 良好 良好
嫌気生菌数(cfu/g) 300以下 300以下 2.1×10
一般生菌数(cfu/g) 300以下 300以下 300以下
2ヶ月 水素濃度(%) 0.04 0.01 1.42
酸素濃度(%) 0.01以下 0.01以下 0.1以下
米飯の香り 良好 良好 異臭有り
嫌気生菌数(cfu/g) 300以下 300以下 5.2×10
一般生菌数(cfu/g) 300以下 300以下 300以下
3ヶ月 水素濃度(%) 0.05 0.01 2.03
酸素濃度(%) 0.01以下 0.01以下 0.1以下
米飯の香り 良好 良好 異臭有り
嫌気生菌数(cfu/g) 300以下 300以下 1.3×10
一般生菌数(cfu/g) 300以下 300以下 300以下
6ヶ月 水素濃度(%) 0.05 0.01 −
酸素濃度(%) 0.01以下 0.01以下 −
米飯の香り 良好 良好 −
嫌気生菌数(cfu/g) 300以下 300以下 −
一般生菌数(cfu/g) 300以下 300以下 −
【0022】
実施例3
無菌化米飯(内容量約200g)を開封し、200gを無菌的に、厚さ500μmのバリアシート{材質白色顔料入りPP(ポリプロピレン)230μm/接着剤(無水マレイン酸変性物)15μm/EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)20μm/接着剤15μm/白色顔料入りPP220μm}を成型したトレイ(120×160×30mm)にとり、このトレイを鉄系酸素吸収剤30wt%を直鎖状低密度ポリエチレンに混練したものを酸素吸収樹脂層として積層した酸素吸収フィルム(保護層(ナイロン)印刷25μm/バリア層(クラレ製;エバールXL)15μm/酸素吸収樹脂層30μm/直鎖状低密度ポリエチレン50μm)を蓋材として容器内に窒素ガスを充填後ヒートシールし密封した。
密封直後の容器内の酸素濃度は約0.5%であった。
密封した容器を30℃下に保管し、1ヶ月毎に6ヶ月間容器内の水素ガス濃度をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、6ヶ月間水素ガス濃度は0.1%未満であった。
【0023】
次に、前記と同じ無菌化米飯を開封し、200gを無菌的に、前記バリアシートを成型したトレイ(120×160×30mm)にとり、滅菌蒸留水中に混濁したClostridium sporogenes ATCC7955 芽胞液(10cfu/ml)を無菌化米飯に2ml接種した。このトレイを、前記酸素吸収フィルムを蓋材として容器内に窒素ガスを充填後ヒートシールし密封した。
密封した容器を30℃下に保管し、1ヶ月目、2ヶ月目、3ヶ月目及び6ヶ月間目にガスクロマトグラフィーにて容器内の水素ガス、酸素ガス濃度測定を、また開封して米飯の嫌気生菌数及び一般生菌数測定、及び米飯の香り評価を行った。結果を表2に示した。
【0024】
[表2]
保存日数 試験項目 実施例3
1ヶ月 水素濃度(%) 0.02
酸素濃度(%) 0.01以下
米飯の香り 良好
嫌気生菌数(cfu/g) 300以下
一般生菌数(cfu/g) 300以下
2ヶ月 水素濃度(%) 0.02
酸素濃度(%) 0.01以下
米飯の香り 良好
嫌気生菌数(cfu/g) 300以下
一般生菌数(cfu/g) 300以下
3ヶ月 水素濃度(%) 0.03
酸素濃度(%) 0.01以下
米飯の香り 良好
嫌気生菌数(cfu/g) 300以下
一般生菌数(cfu/g) 300以下
6ヶ月 水素濃度(%) 0.02
酸素濃度(%) 0.01以下
米飯の香り 良好
嫌気生菌数(cfu/g) 300以下
一般生菌数(cfu/g) 300以下

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱酸素剤包装を適用した食品において、包装内の水素ガス濃度を1%未満に保持することを特徴とする食品の保存方法。
【請求項2】
食品が水分活性0.94以上でかつpH4.6以上の常温流通されるでんぷん系食品である請求項1記載の食品の保存方法。

【公開番号】特開2007−68478(P2007−68478A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260140(P2005−260140)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】