説明

食品原料の乾燥品の製造方法

【課題】 製造適性が良く、風味の良い果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品を提供する。
【解決手段】 食品原料に、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉を混合し、当該混合物をドラムドライヤー乾燥機で乾燥して、粉末化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実、野菜、ミルポアに代表される単独もしくは複数の野菜を炒めるなどの調理をして得られる野菜加工品、および畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品及びその製造方法に関し、更に好ましくはドラムドライヤー乾燥機を用いる、製造適性の良い、風味の良い果実や野菜類、野菜加工品、および畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスを粉末化するために様々な試みが行われている。例えば、果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスの粉末化の方法としてスプレードライが知られている。しかしながらスプレードライは、その製法上の特性から酸化や過加熱を起こしやすく、そのため風味の劣化や褐変が起こりやすいという課題がある。一方、果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスの粉末化の方法としてドラムドライヤーも知られている。ドラムドライヤー乾燥品は、一般にスプレードライ法に比べて、酸化耐性が強く、水中への分散性も優れている為、品質が優れている粉末を得やすいといった利点がある。しかし、固形分の少ない果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスをドラムドライヤーでそのまま乾燥させるとシート性が悪く、良好な乾燥物が得られないため、澱粉やガム質などの賦形剤を果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスと混合させてから乾燥することが行われている。賦形剤としては澱粉、化工澱粉、天然ガムなどが知られているが、固形分の少ない原料のドラムドライヤー乾燥において乾燥粉末の風味や乾燥後の粉末の分散性などにおいて汎用的に十分に満足できる決定的なものはいまだ見出されていないのが現状である。
【0003】
例えば、タピオカ澱粉を液体状トマト中の固形分に対し35〜100%の比率で混合し、ドラム乾燥機を使用して粉末化することを特徴とするトマトパウダーの製造法が知られている(特許文献1)。当該文献の方法で得られるトマト乾燥粉末は、長期の保存にも各種要因による酸化を受けにくく、且つ風味、色調ともに良好な品質を有し、製品へも広く応用可能である。しかしながら、当該文献の内容を参考に、りんご、バナナ、マンゴ、かぼちゃ、人参、ミルポアやビーフエキスなどの、他の果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスに応用した場合は、乾燥物は、タピオカ澱粉の特徴であるフィルム性を有し、シートの形状は良好であるものの、糊化時に強粘度である為に、ドラムドライヤーからのシートの剥離性に改善が必要であり、他品種への応用性に課題があった。また澱粉としてタピオカ澱粉を用いる必要があるという制限があった。
【0004】
また果実・野菜のピューレに水溶性食物繊維を含有させた後、ドラム乾燥機で乾燥することを特徴とする果実・野菜の製造方法が知られている(特許文献2)。当該発明では水溶性食物繊維の例として、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガムの各分解物の記載があり、当該発明品は、味、香り、色が損なわれておらず、また吸湿性が低く長期保存に対し品質の安定な、さらには噴霧乾燥法により得られた粉末より、溶解性に優れたフレーク状あるいは粉末状の乾燥品を得ることができるとされている。しかしながら当該発明の方法で用いられるグアーガム加水分解物などの各分解物を用いて製造された果実・野菜の乾燥品は、水などと混合した際に膨潤が発生するため、粉末スープ類などへ使用すると乾燥品の分散性が悪いという課題があった。また当該発明では、各分解物を得るために酵素処理などの別途処理が必要であるという課題もあった。また当該発明では、澱粉、デキストリン、乳糖などの使用は少ないほうが良いとされ、10重量%以下が好ましいとされている。
【0005】
またアミロース豊富な澱粉及び水を含む懸濁液を用いて調製する、アルファ化したアミロース豊富な澱粉の調整方法が知られている(特許文献3)。当該発明の澱粉はトウモロコシ澱粉であることも記載されている。しかしながら当該発明は、澱粉を一旦蒸気噴射調理でアルファ化する必要があり、さらにそこで得られたアルファ化澱粉ペーストを加圧下でドラム乾燥するという非常に手間のかかる方法であり、かつ澱粉粉末自体を得ることが目的である。また当該発明で得られる澱粉はフィルム形成に優れた性能を有し、湿分及び水分に対するバリアの形成を要する多数の別の応用に有利であるとされるため、カプセルなどに好適に用いられるものである。そのため野菜・果実類の粉末を得る手法としては、不適であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−252864号公報
【特許文献2】特開平09−154480号公報
【特許文献3】特表2004−519546等公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の背景下において本発明の目的は、ドラムドライヤー乾燥機を用いて製造される果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品及びその製造方法において、製造適性が良く、風味の良い果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、本発明を完成した。本発明は以下の各発明を包含する。
(1)食品原料に、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉を混合し、当該混合物をドラムドライヤー乾燥機で乾燥して、粉末化することを特徴とする食品原料の乾燥品の製造方法。
(2)食品原料の固形分1重量部に対して、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉を0.025重量部以上、2重量部未満の割合で混合し、当該混合物をドラムドライヤー乾燥機で乾燥して、粉末化することを特徴とする食品原料の乾燥品の製造方法。
(3)示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉が、ハイアミローススターチ、リン酸架橋タピオカスターチ及びリン酸架橋コーンスターチのいずれか1種以上である発明(1)または発明(2)に記載の食品原料の乾燥品の製造方法。
(4)ハイアミローススターチがハイアミロースコーンスターチである、発明(3)に記載の食品原料の乾燥品の製造方法。
(5)ハイアミローススターチが湿熱処理したものである、発明(3)又は発明(4)に記載の食品原料の乾燥品の製造方法。
(6)ハイアミローススターチがリン酸架橋処理したものである、発明(3)又は発明(4)に記載の食品原料の乾燥品の製造方法。
(7)食品原料が果実、野菜類、野菜加工品、畜肉エキスのいずれか1種類以上を含むことを特徴とする、発明(1)〜(6)のいずれかに記載の食品原料の乾燥品の製造方法。
(8)発明(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法で得られる食品原料の乾燥品を配合することを特徴とする粉末スープ。
【0009】
尚、本発明はこれからの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で置き換えたものを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ドラムドライヤー乾燥機を用いて製造される果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品及びその製造方法において、製造適性が良く、風味の良い果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において製造される果実、野菜類、野菜加工品、畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品の原料となる、果実、野菜類、野菜加工品、畜肉エキスなどの食品原料は、一般的に水分含量が70%以上と高く、かつ、成分中の澱粉含量が低く、単体で乾燥および粉末化を行った時に、良好な品質の粉末を得ることができない原料である。
例えば果実としてはリンゴ・バナナ・マンゴ・洋ナシ・モモが、野菜類としては、トマト、パンプキン、ホウレンソウ、ニンジンが、野菜加工品としては、タマネギをバターで炒めるバターソテーオニオンや、人参、タマネギ、セロリなどの香味野菜を炒めるミルポアが、畜肉エキスとしては、ビーフエキス、チキンエキス、ポークエキスなどが挙げられる。特に固形分の少ない果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスにおいて本願発明の効果が顕著に得られるため好ましい。その中でも、リンゴ、バナナ、トマト、パンプキン、ビーフエキスが特に好ましい例として挙げられる。尚、原料はアミラーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ、プルラナーゼなどの酵素処理を行っても構わない。
【0012】
本発明では果実、野菜類、野菜加工品、畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品を得るために、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が高い澱粉を用いることが重要である。
従来からドラムドライヤーで用いる賦形剤として澱粉や化工澱粉や水溶性食物繊維が知られていたが、乾燥物が良好な風味と分散性を示し、かつ、良好な乾燥適性を示すものはなかった。本発明では賦形剤として、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が高い澱粉を用いることにより、良好な乾燥適性を示し、かつ、良好な風味と分散性を示す乾燥物を得ることができる。示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が高い澱粉を用いてドラムドライヤー乾燥を行った場合、乾燥後に澱粉が完全に糊化せずに一部未糊化の澱粉が残り、このことがシートの剥離性等の良好な製造適性に寄与しているものと考えられる。
示差走査熱量測定法では、吸熱開始温度(Ts)、ピーク温度(Tp)、吸熱終了温度(Tc)が測定されるが、本発明において良好な乾燥適性を示し、かつ、良好な風味と分散性を示す乾燥物を得るためには、ドラムドライヤー乾燥工程において澱粉が完全に糊化しないという観点から、吸熱終了温度が高い澱粉を用いる点が重要である。使用する澱粉の差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度は95℃以上、より好ましくは100℃以上である。
【0013】
本発明における示差走査熱量測定法による吸熱終了温度の測定は、通常の方法で行うことができる。本発明では特に断りのない限り、示差走査型熱量計測定計(「DSC6100」セイコーインスツル(株)社製)を用い、澱粉の乾物質量10mgに対し40mgの蒸留水を銀製70μlパンに入れ測定試料とし、25℃から170℃まで毎分5℃ずつ昇温させて測定した値を用いる。
本発明で用いられる澱粉は、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉であれば、由来や化工方法を問わないが、例えば、ハイアミローススターチ、リン酸架橋タピオカスターチ、リン酸架橋コーンスターチなどが挙げられる。
【0014】
本発明においてハイアミローススターチとは、アミロース含量が50%以上のスターチを言う。本発明で比較例として用いるコーンスターチ、タピオカスターチ、ポテトスターチなどの穀物由来のスターチのアミロース含量は0〜30%である。
またハイアミローススターチの中でも、ハイアミロースコーンスターチが高フィルム性、低粘度の点で好ましい。ハイアミローススターチ原料がポテトやタピオカでは、粘性・フィルム性の点で劣っており、一般的に入手しにくいと考えられるため好ましくない。
またハイアミローススターチの中でも、湿熱処理したハイアミローススターチ、更には湿熱処理したハイアミロースコーンスターチが詳細な機構は不明であるが、ハイアミロースコーンスターチがもつ高フィルム性、低粘度がより顕著になっている点で好ましい。アルファ化したハイアミロースコーンスターチは、フィルム性や低粘性の特徴が弱くなり、シートがラバー化し、乾燥適正が劣る点で好ましくない。
またハイアミローススターチの中でも、リン酸架橋処理したハイアミローススターチ、更にはリン酸架橋処理したハイアミロースコーンスターチが、シート性およびドラムからの剥離性の観点から好ましい。
【0015】
本発明において、食品原料の固形分1重量部に対する示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉の混合割合は、使用する食品原料の種類に応じて適宜設定することができる。混合する示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉の割合は、通常、食品原料の固形分1重量部に対して、0.025重量部以上、2重量部未満である。示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉の混合割合が0.025重量部より少ないと良好なシート状態の乾燥物が得られないため好ましくなく、2重量部以上であると食品原料本来の風味がマスキングされるため好ましくない。
【0016】
示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉の好ましい混合割合は、使用する食品原料自体のもつ繊維量や澱粉量により異なる。例えば、食品原料としてリンゴペーストを用いる場合には、リンゴペーストの固形分1重量部に対して、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉を0.25重量部以上、2重量部未満の割合で混合することが好ましく、更に好ましくは0.25重量部以上、1.5重量部以下、より好ましくは0.4重量部以上、1重量部以下である。また、食品原料としてトマトペーストを用いる場合には、トマトペーストの固形分1重量部に対して、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉を0.025重量部以上、0.15重量部以下の割合で混合することが好ましく、更に好ましくは0.1重量部以上、0.15重量部以下である。
【0017】
また本発明ではハイアミローススターチとともに他の賦形剤を使用することができる。他の賦形剤としてはポテトスターチやコーンスターチなどの澱粉や化工澱粉や水溶性食物繊維などがあり、特に限定はないが、ポテトスターチ、コーンスターチなどが乾燥物の賦形性を向上させる点で好適に用いられる。
本発明では食品原料の固形分に対する他の賦形剤の含量は、ポテトスターチ、コーンスターチなどが果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスなどの食品原料の固形分1重量部に対して、0.5重量部以下で配合することが乾燥品の風味をマスキングしにくい傾向にある点で好ましい。また、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉と他の賦形剤を合計した賦形剤全体の混合割合は、食品原料の固形分1重量部に対して、0.1重量部以上、2重量部以下が好ましい。賦形剤全体の混合割合が0.1重量部より少ないと、良好なシート状態の乾燥物が得られないため好ましくなく、2重量部より多いと食品原料本来の風味がマスキングされるため好ましくない。
【0018】
本発明では果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品を得るためにドラムドライヤー乾燥機を用いることも重要である。本願発明に用いられるドラムドライヤー乾燥機に特に限定はなく、シングルドラム乾燥機、ダブルドラム乾燥機、真空ドラムドライヤー乾燥機などを適宜用いることができる。その中でもダブルドラム乾燥機は、より簡便に乾燥できる点で特に好適に用いることができる。ダブルドラム乾燥機を用いたときの乾燥時のドラム表面温度は100℃から150℃、ドラムクリアランスは0.1mmから1.00mm、ドラムドラム回転数は0.2rpmから10rpm程度が好ましいが、機種や目標品質により条件を設定する必要がある。またドラムドライヤー乾燥機で混合物を乾燥した後は、そのままもしくは粉砕機、整粒機で粉末化することができる。
【0019】
本発明で得られる果実、野菜類、野菜加工品や畜肉エキスなどの食品原料の乾燥品は、風味が良く、色調も原料由来の粉末であり、保存性に優れるため加工食品に広く用いることができる。また水やお湯などの溶媒への分散性も高いことから特に粉末スープ、粉末ソース、粉末ジュースなどに好適に用いることができる。
【0020】
以下、本発明について実施例でさらに説明するが、本発明の技術範囲はこれら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0021】
(実施例1 各種賦形剤、およびその割合がドラムドライヤー乾燥機に与える製造適性の検討)
煮たリンゴを微粉砕して製造されたリンゴペースト(果香(株)社製)の固形分1重量部に対して、各賦形剤を0.5重量部、1重量部それぞれ加え、ミキサーで均一に混合したサンプルをダブルドラムドライヤー(ジョンソンボイラー社製、型式「JM-T」)で、乾燥温度:145℃、ドラムのクリアランス:0.25mm、ドラム回転数:3rpmの条件で乾燥した。各賦形剤の名称と配合割合を表1に示す。
ダブルドラムドライヤーで行った乾燥物の乾燥状態から、乾燥適性を判断した。乾燥適性は、
4:非常に良好なシート性を示し好ましい
3:良好なシート性を示し好ましい
2:シートがラバー状となり好ましくない
1:シートが得られない
の4点評価で行った。乾燥適性の結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1の結果から、リンゴペーストの固形分1重量部に対して、ハイアミローススターチを0.5重量部以上の割合で混合したものの製造適性が良いことが判明した。またハイアミローススターチを1重量部以下の割合で混合したものの製造適性が良いことが判明した。またハイアミロースコーンスターチの中でも特に湿熱処理ハイアミロースコーンスターチが好ましく、賦形剤量を減らしても製造適性が好ましいことが判明した。また製造適性という点では、グアガム加水分解物も好ましいことが判明した。
【0024】
(実施例2 各種賦形剤を用いてドラムドライヤー乾燥したサンプルの官能評価)
実施例1のうち、リンゴペースト(果香(株)社製)の固形分1重量部に対して、各賦形剤を1重量部それぞれ加えて製造した乾燥サンプルの一部について官能評価を行った。
官能評価は、各乾燥サンプルを粉砕して粉末化したものを作成し、粉末1重量部に対して10℃の冷水30重量部中で攪拌し、風味・香り・見た目の評価を行った。官能評価は食品業務に平均して3年以上従事している充分に訓練された3名の専門パネルを用いて実施した。官能評価の結果は、
4:非常に良好
3:良好
2:やや劣る
1:許容不可
の4点評価で行い、あわせてフリーコメントも採取した。サンプルで用いた賦形剤の名称と官能評価の結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2の結果から、ハイアミロースコーンスターチが好ましく、特に湿熱処理ハイアミロースコーンスターチが、賦形剤によって果実本来の風味がマスキングされず、特に好ましいことが判明した。製造適性という点では好ましかったグアガム加水分解物は、マスキングが少なく、風味が良好である点から官能評価結果は良好であったが、冷水中で膨潤し、分散性が悪く、好ましくないことが判明した。
【0027】
(実施例3 ハイアミロースコーンスターチの割合がドラムドライヤー乾燥機に与える製造適性の検討)
実施例1のリンゴペースト(果香(株)社製)の固形分1重量部に対して、ハイアミロースコーンスターチ(「HF-200」、敷島スターチ社製)および湿熱処理ハイアミロースコーンスターチ(「HB−450」、三和澱粉社製)の割合を0.15重量部、0.25重量部、0.4重量部、0.5重量部、1重量部、1.5重量部、2重量部と振ったものをそれぞれ加え、ミキサーで均一に混合したサンプルを実施例1と同じダブルドラムドライヤーで、実施例1と同じ条件で乾燥した。ハイアミロースコーンスターチ、湿熱処理ハイアミロースコーンスターチの割合と乾燥適性の結果を表3に示す。乾燥適性は実施例1と同じ評価で行った。また、官能評価の結果を表4に示す。官能評価は、実施例2と同じ評価で行った。
【0028】
【表3】

【表4】

【0029】
表3の結果から、リンゴペーストの固形分1重量部に対して、ハイアミローススターチおよび湿熱処理ハイアミロースコーンスターチを0.25重量部以上、特に好ましくは0.4重量部以上の割合で混合したものの製造適性が良いことが判明した。また、表4の結果よりハイアミローススターチおよび湿熱処理ハイアミロースコーンスターチを2重量部未満、好ましくは1.5重量部以下、更に好ましくは1重量部以下の割合で混合したものの風味が良いことが判明した。
【0030】
(実施例4 ハイアミロースコーンスターチと他の澱粉類を混合した時の割合がドラムドライヤー乾燥機に与える製造適性の検討)
牛肉を煮込み、これをろ過して得られるビーフエキス(水分85重量%)、およびタマネギ、人参、セロリなどの野菜を炒めて粉砕して得られるミルポア(水分70重量%)の固形分1重量部に対して、ポテトスターチ(「特士幌」、士幌農協製)と湿熱処理ハイアミロースコーンスターチ(「HB−450」、三和澱粉社製)を100:0〜0:100の重量割合で配合した混合物を0.5重量部加え、ミキサーで均一に混合したサンプルを実施例1と同じダブルドラムドライヤーで、実施例1と同じ条件で乾燥した。ポテトスターチと湿熱処理ハイアミロースコーンスターチの割合と乾燥適性の結果を表5に示す。乾燥適性は実施例1と同じ評価で行った。また、官能評価の結果を表6に示す。官能評価は、実施例2と同じ評価で行った。
【0031】
【表5】

【表6】

【0032】
表5および表6の結果から、ビーフエキスおよびミルポアの固形分1重量部に対して、湿熱処理ハイアミロースコーンスターチを混合物中の0.25重量部以上含む混合物の製造適性かつ官能評価が良いことが判明した。
【0033】
(実施例5 ハイアミロースコーンスターチの添加量がドラムドライヤー乾燥機に与える製造適性の検討)
トマトペースト(「トマトペースト」Merko Gida Sanayi ve Ticaret A.S.社製)に、賦形剤としてポテトスターチ(「特士幌」、士幌農協製)と湿熱処理ハイアミロースコーンスターチ(「アミロジェルHB−450」、三和澱粉社製)を100:0〜0:100の重量割合で配合した混合物を加え、ミキサーで均一に混合したサンプルをダブルドラムドライヤー(ジョンソンボイラー社製、型式「JM−T」)で、蒸気圧0.35Mpa、乾燥温度:143℃、ドラムのクリアランス:0.35mm、ドラム回転数:2rpmの条件で乾燥し、乾燥物を製造した。トマトペーストの固形分1重量部に対する賦形剤の混合量を0.053〜0.176重量部と変化させそれぞれ乾燥物を製造し、実施例1と同様に乾燥適性を評価した。乾燥適性の評価結果を表7に示す。
【表7】

【0034】
表7に示す通り、賦形剤の混合量が0.111重量部または0.176重量部であり賦形剤中のポテトスターチ:湿熱処理ハイアミロースコーンスターチの重量割合が75:25〜25:75の場合に、乾燥適性が良好であった。
【0035】
(実施例6 各種澱粉がドラムドライヤー乾燥機に与える製造適性の検討)
アップルピューレ(「アップルピューレ」、(株)果香)の固形分1重量部に対して、賦形剤全体として1重量部となるよう0.5重量部のポテトスターチ(「特士幌」、士幌農協製)および表7に記載の各種澱粉0.5重量部をそれぞれ加え、ミキサーで均一に混合したサンプルを、ダブルドラムドライヤー(ジョンソンボイラー(株)製、型式「JM−T」)を用い、蒸気圧0.35Mpa(ドラム表面温度約140℃)、ドラムのクリアランス0.4mm、ドラム回転数2rpmの条件で乾燥し、乾燥物を製造した。
各種澱粉のドラムドライヤー乾燥における乾燥適性を表8に示す。乾燥適性は実施例1と同じ評価方法にて評価した。
【0036】
【表8】

【0037】
表8より、賦形剤としてポテトスターチのみを用いた場合より、リン酸架橋コーンスターチ、リン酸架橋タピオカスターチ、リン酸架橋ハイアミロースコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、または、湿熱処理ハイアミロースコーンスターチを、ポテトスターチと併用した場合に、乾燥能力適性が良好であることが示された。
【0038】
(実施例7 示差走査熱量測定法による各種澱粉の吸熱終了温度の測定)
示差走査型熱量計測定計(「DSC6100」セイコーインスツル(株)社製)を用い、各澱粉の乾物質量10mgに対し40mgの蒸留水を銀製70μlパンに入れ測定試料とし、25℃から170℃まで毎分5℃ずつ昇温させて測定した。測定は、各澱粉につき3回ずつ行った。表9に示差走査熱量測定法による各澱粉の吸熱開始温度(Ts)、ピーク温度(Tp)、吸熱終了温度(Tc)(それぞれ平均値)を示す。
【0039】
【表9】

【0040】
表9の通り、実施例1〜6においてドラムドライヤーの賦形剤として用いた際に製造適性、官能評価結果の良好であったハイアミローススターチ類、リン酸架橋コーンスターチ、リン酸架橋タピオカスターチの示差走査熱量測定法による吸熱終了温度は95℃以上であった。製造適性、官能評価結果の劣った澱粉種の示差走査熱量測定法による吸熱終了温度は95℃未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、製造適性の良い、風味の良い果実や野菜類、野菜加工品や畜肉エキスの乾燥品の製造方法に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品原料に、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉を混合し、当該混合物をドラムドライヤー乾燥機で乾燥して、粉末化することを特徴とする食品原料の乾燥品の製造方法。
【請求項2】
食品原料の固形分1重量部に対して、示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉を0.025重量部以上、2重量部未満の割合で混合し、当該混合物をドラムドライヤー乾燥機で乾燥して、粉末化することを特徴とする食品原料の乾燥品の製造方法。
【請求項3】
示差走査熱量測定法により測定された吸熱終了温度が95℃以上である澱粉が、ハイアミローススターチ、リン酸架橋タピオカスターチ及びリン酸架橋コーンスターチのいずれか1種以上である請求項1または請求項2に記載の食品原料の乾燥品の製造方法。
【請求項4】
ハイアミローススターチがハイアミロースコーンスターチである、請求項3に記載の食品原料の乾燥品の製造方法。
【請求項5】
ハイアミローススターチが湿熱処理したものである、請求項3又は請求項4に記載の食品原料の乾燥品の製造方法。
【請求項6】
ハイアミローススターチがリン酸架橋処理したものである、請求項3又は請求項4に記載の食品原料の乾燥品の製造方法。
【請求項7】
食品原料が果実、野菜類、野菜加工品、畜肉エキスのいずれか1種類以上を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の食品原料の乾燥品の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法で得られる食品原料の乾燥品を配合することを特徴とする粉末スープ。

【公開番号】特開2012−19783(P2012−19783A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129861(P2011−129861)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】