説明

食用動物エキスを原料とする微粉末状調味料の製造方法

【課題】短縮された加工時間でかつ低コストで、有効な呈味成分のアミノ酸を豊富に含む食用動物肉エキスを原料とする微粉末状調味料の製造方法の提供。
【解決手段】1.原料の食用動物肉を煮熟し、固形分と煮汁とに分離する工程、2.煮汁を更に煮熟し、浮遊物を除去して食用動物肉エキス(Brix70以上のもの)を得る工程、3.水を加えて希釈する(Brix5〜60に希釈する)工程、4.フスマ、セルロース等の摂食可能な非水溶性細片状担体に混合・吸着して食用動物肉エキス担持体を得る工程、5.前記エキス担持体を加熱して殺菌する工程、6.前記殺菌されたエキス担持体100重量部に対して麹菌0.05〜0.10重量部を撒布し、30〜45℃で2〜7日間培養する工程、7.前記培養物を、50〜90℃で、6〜7時間乾燥する工程、及び8.粉砕して粉末にする工程を経て微粉末状調味料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は調味料の製造方法に関し、特に短縮された加工時間でかつ低コストで、有効な呈味成分のアミノ酸を豊富に含む食用動物肉エキスを原料とする微粉末状調味料を製造する方法に関する。
【背景技術及び発明が解決しようとする課題】
【0002】
従来、魚肉等を原料とする粉末状調味料として、例えば、魚介類に食塩を大量に加え、魚介類の自己消化酵素や環境及び原料由来の微生物によって原料を分解して製造する魚醤などの水産調味料が多く作られている。
しかし、これらの方法では製造に1年以上を要し、その間に魚介類由来の脂肪が酸化して油焼け臭が発生したり、原料の鮮度低下によるアミン臭が発生したりして、魚臭さなどのクセを有し、汎用性の低い製品になっていた。
【0003】
そこで、これら魚醤油の持つ魚臭さなどのクセを除く技術が開発されてきた。
試みが多数行われてきた。
【特許文献1】特開2003−047433公報、
【特許文献2】特開2000−041619公報、 しかし、これらの手法では、臭みが除かれるものの製造方法が煩雑であり、実用性に乏しかった。
【0004】
また、魚臭さを抑える成分として酵母エキスを加える方法も提案されてきたが、それらの手法では、製品の製造コストがかさむとともに、添加物により魚醤油本来の風味のバランスを損なう恐れがあった。
【特許文献3】特開2001−025373公報、
【特許文献4】特開平10−27975公報、
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上述の状況に鑑みて種々研究を重ねた結果、旨味成分を多量に含有する食用動物肉エキスを原料とする微粉末状調味料を短時間で、かつ低コストで製造する方法を開発した。
すなわち本発明は下記構成の粉末状調味料の製造方法である。
(1)食用動物肉エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法において、
1.原料の食用動物肉を煮熟し、固形分と煮汁とに分離する工程、
2.煮汁を更に煮熟し、浮遊物を除去して食用動物肉エキス(Brix70以上のもの)を得る工程、
3.前記で得られた食用動物肉エキスに水を加えて希釈する(Brix5〜60に希釈する)工程、
4.前記希釈された食用動物肉エキス液を、フスマ、セルロース、だし取りしたけずり節、粉節、屑節等等の摂食可能な非水溶性細片状担体に混合・吸着して食用動物肉エキス担持体を得る工程、
5.前記食用動物肉エキス担持体を加熱(例えばオートクレーブ処理で、121℃で20分間加熱)して殺菌する工程、
6.前記殺菌された食用動物肉エキス担持体100重量部に対して麹菌0.05〜0.10重量部を撒布し、30〜45℃で2〜7日間培養する工程、
7.前記培養を終えたエキス担持体を、50〜90℃、好ましくは60〜80℃で、6〜7時間乾燥する工程、及び
8.前記乾燥されたエキス担持体を粉砕して粉末にする工程、
を採用することを特徴とする食用動物肉を原料とする粉末状調味料の製造方法。
【0006】
(2)食用動物肉エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法において、前記乾燥されたエキス担持体を粉砕して得られた、エキス担持体の粉末をティーバッグに充填する工程、
を採用することを特徴とする前記(1)項記載の食用動物肉を原料とする微粉末状調味料の製造方法。
(3)食用動物肉エキスが、鰹エキス、鮪エキス、鯖エキス等の魚類エキス、シジミエキス、ホタテエキス等の貝類エキス、カニ、エビ等の甲殻類エキス、及び牛、豚、鶏等の動物肉エキスから選択される1又は2以上の食用動物エキスであることを特徴とする前記(1)項又は(2)項に記載の粉末状調味料の製造方法。
(4)殺菌された食用動物肉エキス担持体に撒布される麹菌が、Aspergillus oryzae IFO 4176、Aspergillus sojae IFO 4200、Aspergillus awamori IFO 4033、及びAspergillus kawachii IFO 4308から選択されるいずれか1つ又は2以上を含むものであることを特徴とする前記(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の食用動物エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法。
(5)食用動物肉エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法において、
1.原料の食用動物肉を煮熟し、固形分と煮汁とに分離する工程、
2.煮汁を更に煮熟し、浮遊物を除去して食用動物肉エキス(Brix70以上のもの)を得る工程、
3.前記で得られた食用動物肉エキスに水を加えて希釈する(Brix5〜60に希釈する)工程、
4.前記希釈された食用動物肉エキス液を、フスマ、セルロース等の摂食可能な非水溶性細片状担体に混合・吸着して食用動物肉エキス担持体を得る工程、
5.前記食用動物肉エキス担持体を加熱(例えばオートクレーブ処理で、121℃で20分間加熱)して殺菌する工程、
6.前記殺菌された食用動物肉エキス担持体100重量部に対して麹菌0.05〜0.10重量部を撒布し、30〜45℃で2〜7日間培養する工程、
7.前記2〜7日間培養して得られた食用動物肉エキス担持体を、熱水に浸漬して、可溶性培養物エキスを抽出する工程と、
8.抽出された可溶性培養物エキス液を減圧蒸留等により濃縮する工程と、
9.前記濃縮された可溶性培養物エキス液をスプレードライ等により乾燥・微粉末化する工程、
を採用して行うことを特徴とする食用動物エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法。
(6)前記培養した食用動物肉エキス担持体を熱水に浸漬して、可溶性培養物エキスを抽出する工程(第7工程)で分離された、フスマ、セルロース、だし取りしたけずり節、粉節、屑節等の摂食可能な非水溶性細片状担体を、希釈された食用動物肉エキス液の担体(第4工程)として再利用することを特徴とする前記(5)項記載の食用動物エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
以上により製造された粉末状調味料は、従来製品よりもグルタミン酸含有量が多く、旨味があって優良な新規な調味料である。
また、その製造は短時間(例えば4〜5日間程度)でできる点で有利であり、かつ連続式な自動生産が可能であり、大量生産でき、したがって生産コストも大幅に低減できる。従来の魚醤や魚醤油のような魚介類由来の臭みが無く、しかも香ばしくかつ甘い香気を有し、さらに旨味成分に富んだ発酵調味料が製造可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態の一例を示すフローチャート図であり、
図面上方から下方へ、矢印にしたがって作業工程が進行し、途中で分岐して上方へ還元される場合(再利用)も示されている。
すなわち、以下のごとく行われる。
(1)[原料(カツオエキス、マグロエキス、カニエキス、エビエキス等濃厚液)]→(2)[希釈(Brix5〜60にする)]→(3)[セルロース、フスマ、だし取りしたけずり節、粉節、屑節等(摂食可能な非水溶性細片状担持)に吸着・混合]→(4)[殺菌(オートクレーブ処理)]→(5)[麹菌の撒布(麹菌の胞子を撒布(0.05〜0.10%))]→(6)[麹菌培養(30〜45℃、2〜7日間)]→(7)[焙乾(含水率10%以下とする)]→(8)[(粉砕)]→(9)[粉末製品]。
また、前記(8)→(10)[ティーバッグ充填]→(11)[ティーバッグ充填製品]となすこともある。
さらに、前記(6)→(12)[熱水抽出]→(13)[エキスの濃縮]→(14)[粉末化(スプレードライ等による)]→(15)[粉末製品](粉末状調味料)のルートもある。
そしてまた、セルロース等の摂食可能な非水溶性細片状担体を再利用するルートとして、(12)→(16)[セルロース(分離)]→(17)[乾燥]→(3)[摂食可能な非水溶性細片状担体に吸着・混合]のルートを経る場合も採用できる。
【0009】
まず、本願発明で使用される食用動物肉エキスを製造するための食用動物肉としては、海洋、河川、湖沼等に生息する各種魚類、例えばカツオ、マグロ、サバ、ヒメマス、マス、コイ、フナ、ナマズ等のほか、ホタテ貝、バイ貝等の貝類やカニ、エビ等の甲殻類及び牛、豚、鶏等の動物肉も使用することができる。
【0010】
それら原料は、通常、まず切りおろしされ、切断した片身は充分に煮熟される。
次いで、固形分と煮汁とに分離され、煮汁は更に煮熟された後、浮遊物の油分が除去されて、食用動物肉エキスが取得される。その後、該エキス(Brix70以上)に同量〜2倍量の水を加えて希釈(Brix5〜60)する。
次に、前記希釈物をフスマ、セルロース等の摂食可能な非水溶性細片状担体と混合し、希釈物を同細片状担体に吸着して食用動物肉エキス担持体を得る。
その後、前記食用動物肉エキス担持体を加熱(例えばオートクレーブ処理で、121℃で20分間加熱)して殺菌する。
次いで、前記殺菌された食用動物肉エキス担持体100重量部に対して麹菌0.05〜0.10重量部を撒布し、30〜45℃で2〜7日間培養する。
撒布する麹菌としては、Aspergillus oryzae IFO 4176、Aspergillus sojae IFO 4200、Aspergillus awamori IFO 4033、及びAspergillus kawachii IFO 4308から選択されるいずれか1つ又は2以上を含むものが好ましい。
Aspergillus oryzae IFO 4176やAspergillus sojae IFO 4200は、呈味性のあるアミノ酸、特にグルタミン酸量を増大させることと魚臭を低減させるため、好ましいものである。
前記により培養処理されたエキス担持体を、70〜80℃で5〜6時間乾燥し、粉砕して、粒径50〜2000μmの粉末にし、製品の粉末状調味料とする。
なお、得られたその粉末状調味料をティーバッグに入れ、ティーバッグ入り粉末状調味料となすことも好ましい。
【実施例】
【0011】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1:(魚肉を原料とする粉末状調味料の製造例)
1.切断したカツオの片身を充分に煮熟して得られたカツオエキス(Brix70)10gに水15gを加えて希釈した。
2.前記希釈物にコットンセルロース((摂食可能な非水溶性細片状担体)粒子サイズ=2000μm×100μm×100μm)10gに加えよく攪拌し、300mlに三角フラスコに綿栓し、オートクレーブ殺菌(121℃で20分間加熱)した。
3.これに、Aspergillus sojae IFO 4200の胞子30mgを撒布し、35〜43℃で、72時間培養した。
4.それを70℃で10時間乾燥し、粉砕して、粒径50〜2000μmの粉末にした。
5.その粉末をティーバッグに入れ、ティーバッグ入り粉末状調味料とした。
【0012】
実施例2:(カニエキスを原料とする粉末状調味料の製造例)
カニエキス(Brix70)10gと水15gとブドウ糖2gとの混合液に、コットンセルロース10gに加えよく攪拌し、300mlに三角フラスコに綿栓し、オートクレーブ殺菌した。
これに、Aspergillus sojae IFO 4200の胞子30mgを撒布し、35〜43℃で、72時間培養した。これを70〜80℃で10時間乾燥し、微粉末にした。これをティーバッグに入れ、ティーバッグ入り微粉末調味料とした。
【0013】
実施例4:(カツオエキスを原料とする粉末状調味料の製造例)
カツオエキス(Brix70)10gと水20gの混合液に、コットンセルロース10gを加えよく攪拌し、300mlに三角フラスコに綿栓し、オートクレーブ殺菌した。
これに、Aspergillus oryzae IFO 4176の胞子40mgを撒布し、30〜43℃で、65時間培養した。この培養されたものに水30mlを加えて抽出を行い、3回抽出した。次いで、その抽出液を減圧濃縮した後、凍結乾燥した。
これを、ティーバッグに入れ、ティーバッグ入り粉末状調味料とした。
【0014】
実施例5:(マグロエキスを原料とする粉末状調味料の製造例)
マグロエキス(Brix72)10gと水20とブドウ糖5gとの混合液に、コットンセルロース10gを加えよく攪拌し、300mlに三角フラスコに綿栓し、オートクレーブ殺菌した。
これに、Aspergillus sojae IFO 4200の胞子45gを撒布し、30〜45℃で、72時間培養した。得られた培養物に水30mlを加えて抽出を行い、3回抽出を繰り返した。 得られた抽出液を減圧濃縮した後、凍結乾燥した。これをティーバッグに入れ、ティーバッグ入り粉末状調味料となした。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すフローチャート図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用動物肉エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法において、
1.原料の食用動物肉を煮熟し、固形分と煮汁とに分離する工程、
2.煮汁を更に煮熟し、浮遊物を除去して食用動物肉エキスを得る工程、
3.前記で得られた食用動物肉エキスに水を加えて希釈する工程、
4.前記希釈された食用動物肉エキス液を、フスマ、セルロース等の摂食可能な非水溶性細片状担体に混合・吸着して食用動物肉エキス担持体を得る工程、
5.前記食用動物肉エキス担持体を加熱して殺菌する工程、
6.前記殺菌された食用動物肉エキス担持体100重量部に対して麹菌0.05〜0.10重量部を撒布し、30〜45℃で2〜7日間培養する工程、
7.前記培養を終えたエキス担持体を、50〜90℃、好ましくは60〜80℃で、6〜7時間乾燥する工程、及び
8.前記乾燥されたエキス担持体を粉砕して粉末にする工程、
を採用することを特徴とする食用動物肉を原料とする粉末状調味料の製造方法。
【請求項2】
食用動物肉エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法において、前記乾燥されたエキス担持体を粉砕して得られた、エキス担持体の粉末をティーバッグに充填する工程、
を採用することを特徴とする請求項1記載の食用動物肉を原料とする微粉末状調味料の製造方法。
【請求項3】
食用動物肉エキスが、鰹エキス、鮪エキス、鯖エキス等の魚類エキス、シジミエキス、ホタテエキス等の貝類エキス、カニ、エビ等の甲殻類エキス、及び牛、豚、鶏等の動物肉エキスから選択される1又は2以上の食用動物エキスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の粉末状調味料の製造方法。
【請求項4】
殺菌された食用動物肉エキス担持体に撒布される麹菌が、Aspergillus oryzae IFO 4176、Aspergillus sojae IFO 4200、Aspergillus awamori IFO 4033、及びAspergillus kawachii IFO 4308から選択されるいずれか1つ又は2以上を含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の食用動物エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法。
【請求項5】
食用動物肉エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法において、
1.原料の食用動物肉を煮熟し、固形分と煮汁とに分離する工程、
2.煮汁を更に煮熟し、浮遊物を除去して食用動物肉エキスを得る工程、
3.前記で得られた食用動物肉エキスに水を加えて希釈する工程、
4.前記希釈された食用動物肉エキス液を、フスマ、セルロース等の摂食可能な非水溶性細片状担体に混合・吸着して食用動物肉エキス担持体を得る工程、
5.前記食用動物肉エキス担持体を加熱して殺菌する工程、
6.前記殺菌された食用動物肉エキス担持体100重量部に対して麹菌0.05〜0.10重量部を撒布し、30〜45℃で2〜7日間培養する工程、
7.前記2〜7日間培養して得られた食用動物肉エキス担持体を、熱水に浸漬して、可溶性培養物エキスを抽出する工程と、
8.抽出された可溶性培養物エキス液を減圧蒸留等により濃縮する工程と、
9.前記濃縮された可溶性培養物エキス液をスプレードライ等により乾燥・微粉末化する工程、
を採用して行うことを特徴とする食用動物エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法。
【請求項6】
前記培養した食用動物肉エキス担持体を熱水に浸漬して、水溶性培養物エキスを抽出する工程(第7工程)で分離された、フスマ、セルロース、だし取りしたけずり節、粉節、屑節等の摂食可能な非水溶性細片状担体を、希釈された食用動物肉エキス液の担体(第4工程)として再利用することを特徴とする請求項5記載の食用動物エキスを原料とする粉末状調味料の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−141303(P2006−141303A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336738(P2004−336738)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(504428636)株式会社RIVERSON (11)
【Fターム(参考)】