説明

飲料に混入した異物の判定方法

【課題】本発明の目的は、より簡便で迅速に飲料に混入した異物を判定することができる、飲料に混入した異物の判定方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、飲料に混入した異物の判定方法であって、異物のステロール成分を分析することによって飲料に混入した異物を同定することを特徴とする前記異物の判定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料に混入した異物を、そのステロール成分を分析することによって、同定する法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製品の開栓後に発生する異物の混入が原因となった製品の苦情は、ビール生産量に伴い増加の一途をたどっている。このため、異物混入苦情品の解析には、相当の手間と時間が費やされているのが実状である。これらの混入した異物の解析には、従来から用いられる形態観察を中心としたものだけでなく、より簡便で確実な試験法を用いた分析が求められている。このような状況下、混入した異物が本来のビール成分とは異なるものであるかどうか等を解析し、製造工程中の混入か、製品開栓後の混入かを判定する方法が注目されている。
これに関連する技術として、ビール等の食品中で発見された昆虫の死亡時期、つまり昆虫の食品への混入時期を正確に判断するのに好適なアセチルコリンエステラーゼの残存活性を測定し、それによって昆虫のビールへの混入時期を判定する方法が開示されている(特許文献1)。
しかしながら、出願人が実施した苦情解析事例および異物混入に関するアンケート調査の結果をみると、異物混入の最多原因物質は、昆虫ではなくツマミ類等の食品系物質であることが明らかである。
混入した異物が植物の場合には、顕微鏡を用いた組織観察によりかなりの精度で識別できるし、石などの無機物の場合には蛍光X線分析を行うことにより、構成元素を調査して判別することが出来るが、混入した異物が食品系の有機物質の場合は、その物質を特定することは難しい。また、DNA解析による方法も提案されている(非特許文献1及び非特許文献2)が、より簡便で迅速な方法が求められている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−253611号公報
【非特許文献1】日本食品衛生学会、第76回学術講宴会 要旨集A−26
【非特許文献2】日本食品化学工学会誌,vol 45,No.12,719−723(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、より簡便で迅速に飲料に混入した異物を判定することができる、飲料に混入した異物の判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、飲料に混入した異物のステロール成分を分析することによって前記異物を同定することが、飲料に混入した異物の判定において非常に有用であることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、飲料に混入した異物の判定方法であって、異物のステロール成分を分析することによって飲料に混入した異物を同定することを特徴とする前記異物の判定方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の異物の判定方法は、ビールなどのアルコール飲料のほか、清涼飲料、果汁などの脂質を含まない非アルコール飲料に対して適用できる。なかでも、ビール、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ワインなどのアルコール飲料に対して有効である。
本発明の異物の判定方法により判定できる異物としては、動物由来、植物由来、あるいは菌類由来の異物が挙げられる。中でも魚介類(イカやエビ等)に対して特に有効である。
本発明の異物の判定方法は、飲料に混入した異物のステロール成分を分析することによって飲料に混入した異物を同定することを含む。
ステロール成分の分析方法としては、ガスクロマトグラフィー質量分析を用いる方法、酵素法、高速液体クロマトグラフィー法などが挙げられる。測定精度などの観点から、好ましくはガスクロマトグラフィー質量分析を用いる方法である。ガスクロマトフラフィー質量分析を用いる場合、熱抽出により異物からステロールを抽出するのが好ましい。熱抽出温度は、好ましくは100〜300℃である。
【0007】
本発明の飲料に混入した異物を同定する方法は、具体的には、例えば以下のようにして行う。
パイロライザー(例えば、フロンティア・ラボ社製ダブルショット・パイロライザーPY-2020iDなど)のオートサンプラーアルミカップに飲料に混入した異物0.1〜5mgを採取する。パイロライザーのターンテーブルにアルミカップをセッティングし、パイロライザーの熱抽出を開始する。パイロライザーの加熱炉は自動制御により100〜300℃を毎分20℃で昇温し、300℃で1分間保持する。熱抽出後にガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)(例えば、アジレント社製GC6890N、MSD5973Nなど)へ自動注入する。カラムには、例えばF-LAB UltraALLOY UA5-30M-1.0F Capillary30m×250μmI.D.×1.0μmを使用する。ガスクロマトグラフィーのオーブンを50℃で2分間保持し、320℃まで毎分20℃で昇温し、320℃で5分間保持する。分析の走査範囲はm/z=50〜550とする。なお、各ステロールの特徴とするイオンは、コレステロールについてm/z=386、カンペステロールについてm/z=400、スチグマステロールについてm/z=412、シトステロールについてm/z=414である。
【実施例】
【0008】
(試料)
ビール(商品名「スーパードライ」)、ウイスキー(商品名「ブラックニッカ」)、ブランデー(商品名「レミーマルタン」)、焼酎(商品名「一番札」)、ワイン(商品名「無添加有機ワイン赤」)、低アルコール飲料(商品名「DEWレモン」及び「カクテルパートナースクリュードライバー」)を用いた。
【0009】
(試薬)
コレステロール、β-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール(以上、和光純薬株式会社製)を用いた。
【0010】
(装置)
熱分解装置としてフロンティア・ラボ社製ダブルショット・パイロライザーPY-2020iD、質量分析器付きガスクロマトグラフはアジレント社製GC6890N、MSD5973Nを使用した。また、カラムはF-LAB UltraALLOY UA5-30M-1.0F Capillary30m×250μmI.D.×1.0μmを使用した。
【0011】
(熱抽出温度の検討)
アルミカップに各ステロール100ppmを含むヘキサン溶液80μlを入れて放置し、ヘキサンが揮発後に熱抽出を開始した。加熱炉を100〜600℃に昇温し、ガスクロマトグラフには2.5mの液相のない短いカラムを取り付け、ガスクロマトグラフオーブン温度300℃の一定条件でガスクロマトグラフィー質量分析を行った。その結果、コレステロール、β-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロールが200℃付近の温度領域で検出していることが判明し、熱抽出条件としては100〜300℃が妥当であると判断した。
【0012】
(測定法の精度及び感度)
各ステロール100ppmを含む標準溶液(ヘキサン)50μl(=5μg)を用いて、ガスクロマトグラフィー質量分析を繰り返した(n=6)。各ステロールのピーク面積の変動係数(C.V.)を算出して繰り返し再現性を調べた。また、各ステロール100ppmの標準溶液50μl(=5μg)を用いて、ガスクロマトグラフィー質量分析を行った。得られたパイログラムからS/N(シグナル/ノイズ)=3となる濃度を計算により求め、検出限界とした。各ステロール試験の結果、変動係数(C.V.)は9.4〜10.2%であり、検出限界は0.2〜0.3μgであった。クロマトグラムの一例を図1に示す。
【0013】
(試験方法の適用性の確認)
(各種食品及び各種種類のステロール分析)
各種食品及び各種酒類を分析した。動物性食品として肉類、魚介類、卵類、乳類の13点、植物性食品として穀類、豆類、種実類、野菜類、果実類、キノコ類、藻類の18点、調理加工品として4点(乾燥後)を0.4〜3mgサンプリングしてガスクロマトグラフィー質量分析を行った。各種酒類の7点は、約150μl(異物に対して約150倍量に相当)をアルミカップに入れ、乾燥後にガスクロマトグラフィー質量分析を行った。結果を表1にまとめる。また、エビ及び大豆のクロマトグラムを図2及び3に示す。結果より、飲料に混入した異物の判定方法として適用が広いことが分かった。
【0014】
【表1】

【0015】
(調理方法の異なる牛肉中のコレステロール分析)
加熱調理方法の異なる食品について分析した。牛肉を4種類の調理(生、煮る、焼く、揚げる)して、ガスクロマトグラフィー質量分析を行った。その結果、いずれの牛肉からもほぼ同等量のコレステロールが検出された。この結果より、加熱料理品にも適用が可能であることが分かった。
【0016】
(ビール中のイカの検出)
試料ビール約100mlに生イカを1片(数g)添加し、3日間放置した。ビールからイカを取り出し、一晩乾燥させたものを試料とし、約1.9mgの試料をガスクロマトグラフィー質量分析した。その結果、ビールに浸せきしたイカより、コレステロールが検出できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】標準物質5μgを分析したときのクロマトグラムである。
【図2】エビを分析したときのクロマトグラムである。
【図3】大豆を分析したときのクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料に混入した異物の判定方法であって、異物のステロール成分を分析することによって飲料に混入した異物を同定することを特徴とする前記異物の判定方法。
【請求項2】
飲料に混入した異物を熱分解し、そのガスクロマトグラフィー質量分析を行うことによりステロール成分を分析する請求項1に記載の異物の判定方法。
【請求項3】
飲料がアルコール飲料である、請求項1又は請求項2に記載の異物の判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−183163(P2007−183163A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1408(P2006−1408)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】