説明

飲料用原料茶葉の製法

【課題】 従来の飲料用原料茶葉は、抽出効率を上げるために通常、荒茶完成後焙煎工程を終えた段階において、茶葉を細かくして表面積を増大させる「粉砕工程」を設けているが、抽出性は向上するものの渋味や苦味が強く旨味を感じにくい飲料となっていた。
【解決手段】 荒茶製造工程中、粗揉工程と同時或いはそれ以後であって中揉工程と同時或いはそれ以前のタイミングに、茶葉を細断する工程が組み込まれており、その後精揉工程を経ずに乾燥工程に移行する。茶葉が柔軟な状態で細断処理され、且つ精揉しないことで茶葉表面が傷つかないので、茶葉細胞膜は元の状態を維持しており、そのため旨味が強く、渋味苦味の抑えられた抽出液の得やすい茶葉となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出された液が最終製品となる緑茶用茶葉(以下、飲料用原料茶葉という)の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
緑茶を抽出し、缶、プラスチックボトル等に詰めた飲料商品が多種多量に存在する。抽出のための器具(急須)が不必要であり、茶殻処理もしなくて良いので、日常さまざまな場面で消費されている。
【0003】
抽出して缶やボトルに詰めた商品自体は比較的最近からのものであり、抽出された液のオリや濁りの軽減、風味劣化の防止、といった品質維持についての改良が加えられている程度であって、抽出方法は基本的には旧来と大きく変わるものではない。加えて本発明が提案するのは新規な製茶方法であって、製茶された茶葉の抽出方法ではないので、詳述はしない。
【0004】
ここで飲料用原料茶葉製茶の従来法を述べる。製茶は、大きく「荒茶製造工程」と「仕上工程」とで構成されており、典型的な従来製法は、荒茶製造工程では、生茶葉→蒸し工程→粗揉工程→揉捻工程→中揉工程→精揉工程→乾燥工程、を経て荒茶が完成する。続く仕上工程は、乾燥工程→平行篩→廻し篩→風力選別→茎選別→焙煎→粉砕→異物除去(CCDカメラ方式)→金属検出除去→脱気梱包、といった工程を経て包装・保管されることになる。
【0005】
そして、従来の茶葉(急須等を用い茶殻の残るもの)と、飲料用原料茶葉との製法面での差異というものは基本的にはなく、従来の茶葉をそのまま使用して抽出させることもある。しかし抽出液を製品とする本業界においては、生産効率は茶葉の抽出力と直結しているので抽出効率を上げるために、従来の茶葉完成後に茶葉を細かくして表面積を増大させる「粉砕工程」を加えている例も多い。或いは、特許文献1に見られるように、製茶工程の初期段階で別成分を投入し細胞壁を組織崩壊させて抽出能力を高めるといった手法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−308901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
確かに、製品煎茶を破砕する方法や特許文献1にみられる方法の場合、抽出性は向上することになる。しかし従来の茶葉を急須で抽出したものと比較すると、渋みや苦みが強くなってしまい旨味がそれらに埋もれる形となり、香味の良い飲料となっていなかった。即ち、理想的な方法とはなっていない。なお、特許文献1では茶葉の細胞壁を組織崩壊させる消化酵素を投入することで抽出性が向上するものの強い苦渋味が出ることは防がれないという認識がある旨の記載が見られるが、苦渋味に対しては、更に別成分(タンナーゼ)水溶液を噴霧しこの苦渋味成分を変質させることで味の改善を図ることが可能である、との提案がなされている。
【0008】
ところで、急須で抽出する旧来の典型的な抽出方法の場合には、抽出温度を調整することで、抽出性は良いとは言えないが、旨味は充分に、苦味や渋味は抑えて、といういわば選択的な抽出が可能であった。ところが飲料用原料茶葉の場合において、茶葉破砕や細胞壁崩壊によって抽出性の向上を図るということは、苦味や渋味といった好ましくない成分を含めた全成分を効率良く水に移動させることとなっている。更には、該好ましからざる成分を別成分投入で変質させるという対応も提案されているが、製茶過程で水(蒸気を含む)以外の成分を投入することは製茶本来の姿ではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者は、飲料用原料茶葉であっても、温度調整のみで上記選択的な抽出(苦味や渋味は抑えながら旨味は充分に引き出す抽出)が可能な製茶のあり方を求め、長年鋭意研究の結果ついに本発明方法を成したものであり、その特徴とするところは、荒茶製造工程中、粗揉工程と同時或いはそれ以後であって中揉工程と同時或いはそれ以前のタイミングに、茶葉を細断する工程が組み込まれており、その後精揉工程を経ずに乾燥工程に移行する点にある。
【0010】
本発明方法によって得られる茶葉は、通常の煎茶の茶葉とは異なり細断されているが、製品煎茶となった段階の茶葉を細断したものではなく、茶葉製造の途中の茶葉含有水分量が適切な状態で細断しその後乾燥工程等を経て製造されたものである。
【0011】
なお茶葉製造の途中の茶葉含有水分量が適切な状態で細断した本発明製法の場合、苦味や渋味は抑えながら旨味は充分に引き出す抽出が可能な茶葉となるが、その理由について本発明者は次のように想像する。即ち、茶葉の細胞壁には半透性があって、抽出温度を最適に設定した環境下では、旨味成分は通過しやすく、苦味成分や渋味成分は細胞内に閉じ込められたままとなっており、本発明製法は揉み工程等において茶葉を加圧してはいるが茶葉表面の細胞膜は傷つきにくくなっていて、その半透性が温存されているためではないか、と思われる。
【0012】
従来の典型的な製法の場合には、仕上工程の末期、茶葉乾燥状態においてこれを粉砕するという方法であるので、粉砕時の茶葉の剛性が高く、加えられる剪断エネルギーによって容易に細胞膜が破壊されてしまう。また特許文献1の製法の場合には酵素によって積極的に細胞膜の崩壊を起こさせている。従って、苦味渋味の強い抽出液となってしまう。
【0013】
これに対し本発明製法の場合茶葉の細断は、荒茶製造工程中、粗揉工程と同時或いはそれ以後であって中揉工程と同時或いはそれ以前、というタイミングで行なわれる。「粗揉工程と同時或いはそれ以後であって中揉工程と同時或いはそれ以前」とは、基本的には粗揉工程と中揉工程の間を指すが、粗揉工程と同時或いは中揉工程と同時であっても良い、という意味である。この中で、粗揉工程や中揉工程と同時に茶葉細断をするとなると、既存機械の大幅な改造若しくは新型機械の開発が要求されることとなるので、現在の技術水準やイニシャルコストを勘案すると、粗揉工程と中揉工程の間にある揉捻工程中に細断するのが最適である。
【0014】
粗揉工程以降中揉工程までにおいては生茶葉の残存水分によって水分が適度にあり、中揉工程以後にあっては工程を経る毎に水分が減少してゆく。この粗揉工程と中揉工程の間の茶葉は柔軟であり、細胞壁をさして破壊することのない細断が容易となる。勿論、切断面には細胞膜は存在しないわけであるので、半透性に由来しない成分溶出もあるが、半透性を保持した表面を残す茶葉であるがゆえに、温度調整が最適でさえあれば、極めて高品質の抽出液を得ることができる。蒸し工程以前であると、加熱されていないため茶葉の柔軟性が小さいし、水分過多である。従ってこの段階で細断してしまうと、緑色を保ったままの乾燥が困難となる。また細断寸法は、大きすぎると抽出性が不十分となるし、小さすぎると苦味渋味が増大してしまう。但し細断寸法の許容幅に関しては、原料生茶葉の特性や、細断までの工程での揉み込みの程度、等々によって様々であるので、数値を挙げて特定することは困難である。例えば本発明者が実験した4月末摘採の茶葉の場合、稼働揉捻機に25〜27分在留した状態で練り切りした時の寸法が最適で、それ以下の時間だと抽出性が不十分、それ以上の時間だと渋味苦味過多、となった。しかし、上述したように茶葉状態等の差に加え、揉捻機の能力差もあるので、これらの数値は参考値でしかない。もっとも、本発明方法は細断工程をどのタイミングに入れるかについては限定しているが、細断の詳細に関しては限定していないので、適宜適切なものとすれば良い。
【0015】
更に本発明製法では、精揉工程が省略される。この工程は、茶葉への加圧工程の一つであり、形状を整えると共に、抽出性を高め水分の減少を図る工程である。それまでの工程で含水率が相当少なくなり茶葉剛性が増しているので、破壊(砕葉や葉切れ)させないよう用心深く行われるわけではあるが、それでも茶葉表面(即ち細胞膜)を傷つける作業となっている。この精揉固定を省略したことにより、茶葉表面のツヤは損なわれず、製茶時間も短縮されることになる。
【0016】
なお、粗揉工程と中揉工程の間には揉捻工程が存在する。そして本発明では、揉捻工程の前後いずれのタイミングに茶葉細断工程を組み込むのか、に関しては特に限定しない。工程が進めば水分量は次第に減少してゆくことになるが、粗揉工程と中揉工程の間であれば、どの段階でも茶葉は柔軟であり細胞膜は破壊されにくい。但し、作業時間の短縮や機械改造の容易性を勘案した場合、揉捻機に細断機能を付加するのが最適である。
【0017】
また本発明製法は、旨味が充分あって苦味渋味が少なく抽出性の高い茶葉を得るため、或いはその他の目的で、荒茶製造工程中に、既述した工程以外の工程を加えることを妨げない。例えば蒸し工程直後に「より込み(練り)工程」を追加しても良い。この工程は、茶葉を加圧しながらゆっくりかき混ぜてやる作業であり、茶葉内部の水分を均一化させるためのものである。
更にまた、仕上工程中の焙煎前における選別工程(篩選別、茎選別)等は、飲料用原料茶葉に関して言えば不可欠の工程とは言えないので省略可能である。但し、異物(金属を含む)の除去工程に関しては、安全面或いは品質維持という観点から言えば省略すべきではないと言える。
【0018】
本発明製法において採用される機械類に関しては、何ら限定するものではない。しかし従来は乾燥状態で細断していたものを本発明においては蒸し工程と中揉工程の間で行なうという特徴がある。そこで例えば揉捻機を改造して、揉捻しながら細断するようにすると好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る飲料用原料茶葉の製法は、以下述べる如き効果を有する極めて高度な発明である。
【0020】
(1) 渋味や苦味といった好ましくない成分に関しては抽出量を抑えつつ、水色が良く旨味成分に関する抽出性の高い茶葉が得られる。
(2) 消化酵素といった、別成分の投入を要しない製法である。
(3) 製造時間が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る飲料用原料茶葉の製法の一例の中、荒茶製造工程部分を概略的に示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る飲料用原料茶葉の製法の一例の中、仕上工程部分を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
図1及び図2は、本発明に係る飲料用原料茶葉の製法の一例を概略的に示すフローチャートであり、図1は荒茶製造工程を、図2は仕上工程を示す。また、以下各工程に要した時間を記載しているがこれは、既存設備活用を心掛けて複数回行なったバッチ式製造実験における所要時間平均値であり、本発明を限定するものではない。
【0024】
荒茶の製造は、生茶葉の蒸し工程から開始される。用いる茶葉は、摘採してから4時間以内が理想であるが、これは従来の製法においても同様である。蒸し工程は約3分で完了しその後約3分の練り工程(より込み工程)に移行する。
【0025】
その後約45分の葉打ち工程・粗揉工程を経て、揉捻細断工程(約40分)へと移る。揉捻細断工程は、従来の製茶法にも存在する揉捻工程中に、細断工程を組み込んだ工程であり、この段階で茶葉を細断することが本発明法最大の特徴となっている。本例では、従来の揉捻機を改造し揉捻しながら細断も行なうような構成としたが、細断専用機を揉捻専用機の前後いずれかに配置するような構成であっても良い。
【0026】
続いて細断後の茶葉は、中揉工程(約40分)を経て直ちに乾燥工程(約20分)に移行し、荒茶製造工程が完了する。従来の典型的な製茶法では、中揉工程と乾燥工程の間に精揉工程が設けられるが本発明製法の場合、精揉工程は省略される。従来法において精揉工程の所要時間は、茶葉の量や温度といったものから予め計算できるものではなく、茶葉の摘採時期や成育度、乾き具合、機器の能力等から茶師が経験に基づいて判断するものであるため、一概には言えないが、それでもこの工程を省略することで、荒茶製造時間をおおよそ40〜50分程度短縮できることになる。
【0027】
次に図2で示した仕上工程に移る。原料である細断荒茶は、焙煎工程(約15分)を終えブレンド工程(約15分)が済んだ状態で一応完成することとなる。但し、異物除去の必要があるので、本発明者の実験においては、CCDカメラ方式の緑茶用異物選別機、金属検出器、を直列させ、茶葉を通過させる。これで仕上工程が完了する。実際には出荷準備として、脱気梱包、パレタイズ、冷蔵、といった手順が残っているが図2ではこれらを省略している。
【0028】
従来の製茶法における仕上工程の場合、篩選別、風力選別、茎の選別、といった工程が存在しているが、本発明製法では荒茶製造段階で茶葉が細断されていることもあって、一切不要となる。結果、製造時間が短縮されるばかりでなく、工程ロスや茎選別がなくなることにより歩留率向上が適う。実験した範囲では、10%以上向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荒茶製造工程中、粗揉工程と同時或いはそれ以後であって中揉工程と同時或いはそれ以前のタイミングに、茶葉を細断する工程が組み込まれており、その後精揉工程を経ずに乾燥工程に移行することを特徴とする飲料用原料茶葉の製法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−25(P2012−25A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136011(P2010−136011)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(505049582)株式会社ひかわ (3)
【Fターム(参考)】