説明

飲食品材料及びその製造方法

【課題】高温の湯で溶解することができる葛粉を含有する飲食品材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】葛粉塊を粉砕して葛粉にする粉砕工程S1と、葛粉とオリゴ糖を混合し練合する練合工程S3と、葛粉とオリゴ糖の練合物を造粒する造粒工程S4と、葛粉とオリゴ糖の造粒物を乾燥させる乾燥工程S5と、葛粉とオリゴ糖の乾燥粒を粉末化する粉末化工程S6とを含む。葛粉とオリゴ糖の混合割合は重量比で3:7〜4:6の範囲であることが望ましい。当該飲食品材料は、高温の湯を直接注いでも葛粉がダマ状とならず速やかに溶解する。従って、葛粉を一旦水で溶いてから加熱するという手間を省くことができ、葛粉の有する健康増進作用を従来より簡便に享受することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葛の根から得られるデンプンを精製した葛粉を含有する飲食品材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
葛の根から得られるデンプンを精製して作られる食用の粉末である葛粉(いわゆる本葛粉)には、整腸作用や身体を温めて血行をよくするなどの健康増進作用があることが知られており、便秘や風邪の症状改善などのために民間治療薬として従来より使用されている。また、葛粉は、舌触りの良いなめらかな食感が得られることから、様々な飲食品材料としても利用されている。
【0003】
その一つに、葛湯がある。葛湯は、葛粉を湯で溶いたものである。しかし、葛粉に直接高温の湯を注ぐと、葛粉が固まってダマ状となってしまう。そのため、葛湯を作る場合、葛粉を一旦少量の水で溶き、練りながら緩やかに加熱するか、水で溶いた葛粉に高温の湯を加えるという作業が必要である。
【0004】
このため、「葛湯」として流通している商品の中には、ジャガイモやトウモロコシ等から採取されたデンプン(片栗粉、コーンスターチ等)が混合されているものがある。ジャガイモ等由来のデンプンは、直接高温の湯を注いでもダマ状になることなく溶解するからである。しかし、ジャガイモ等由来のデンプンは葛粉のような健康増進作用を有しないため、ジャガイモ等由来のデンプンを使用した葛湯を飲用しても、葛粉の有する健康増進作用を充分に享受できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-117904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、高温の湯で溶解することができる葛粉を含有する飲食品材料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明の第一の態様に係る飲食品材料は、葛粉とオリゴ糖を所定の割合で含有することを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明の第二の態様に係る飲食品材料は、第一の態様に係る飲食品材料において、葛粉とオリゴ糖の配合割合が重量比で2:8〜5:5の範囲にあることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明の第三の態様に係る飲食品材料は、第二の態様に係る飲食品材料において、葛粉とオリゴ糖の配合割合が重量比で3:7〜4:6の範囲にあることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の第四の態様に係る飲食品材料製造方法は、
葛粉塊を粉砕して葛粉とする粉砕工程と、
前記葛粉とオリゴ糖を混合し練合する練合工程と、
前記葛粉と前記オリゴ糖の練合物を造粒する造粒工程と、
前記葛粉と前記オリゴ糖の造粒物を乾燥させる乾燥工程と、
前記葛粉と前記オリゴ糖の乾燥粒を粉末化する粉末化工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明者は、葛粉に様々な糖類を混合し、その混合物に熱湯を注いだときの溶け具合を調べる実験を行った結果、葛粉にオリゴ糖を混合することで、熱湯を注いでも該葛粉がダマ状になることなく溶解することを見出した。従って、本発明に係る飲食品材料を用いることにより、例えば葛湯を作る際に、いったん水で溶いてから加熱するという手間を省くことができる。特に、葛粉とオリゴ糖の配合割合が重量比で3:7〜4:6の範囲では、熱湯を注いだときに含有する葛粉がほぼ全て溶解し、しかも、葛粉特有のなめらかな食感が得られるという優れた効果が得られる。
【0012】
本発明で葛粉に混合されているのはオリゴ糖である。オリゴ糖は、一般には単糖類が2〜10個程度結合した糖類の総称だが、本明細書では単糖類が3個以上結合した三糖類以上のものをいい、二糖類であるショ糖(砂糖)は含まない。特に、本発明で用いるオリゴ糖は、腸管内の善玉菌に特異的或いは選択的に利用されて悪玉菌には可及的に資化されにくいオリゴ糖が望ましく、特にラフィノースオリゴ糖や乳果オリゴ糖が最適である。ラフィノースオリゴ糖は天然に存在するオリゴ糖で、主にビートから抽出・精製される。乳果オリゴ糖は牛乳の中に含まれる乳糖とサトウキビに含まれるショ糖を原料とし、酵素反応を利用して作られたオリゴ糖である。いずれのオリゴ糖も、胃や小腸で消化吸収されにくく、大腸に達してビフィズス菌等の腸内善玉菌を増やす効果を有し、優れた整腸作用がある。従って、本発明に係る飲食品材料を用いた飲食品は、優れた整腸作用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】葛粉塊の写真を示す。
【図2A】葛粉とオリゴ糖の配合割合を変化させた混合物(No. 1〜No.5)に熱湯を注いだ実験1の結果を示す写真。
【図2B】葛粉とオリゴ糖の配合割合を変化させた混合物(No. 6〜No.10)に熱湯を注いだ実験1の結果を示す写真。
【図3】葛粉にグラニュー糖(No. 11)、又は和三盆(No. 12)を加えた混合物(対照例)に熱湯を注いだ実験2の結果を示す写真。
【図4】本実施例に係る生姜湯材料の製造工程を示すフローチャート図。
【図5】本実施例に係る生姜湯材料に熱湯を注いだ実験3の結果を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る飲食品材料は葛粉とオリゴ糖を所定の配合比で配合したものである。葛粉とオリゴ糖の配合比は、本発明の飲食品材料を用いて作られる飲食品に応じた適宜の値に調整されるが、高温の湯でもダマ状にならずに溶解すること、高温の湯で溶解して得られる溶解物が十分なとろみを有すること等を考慮すると、葛粉とオリゴ糖の配合比は重量比で3:7〜4:6の範囲にあることが好ましい。
【0015】
本発明の飲食品材料は、葛粉塊を粉砕して葛粉にする粉砕工程、葛粉とオリゴ糖を混合し練合する練合工程、葛粉とオリゴ糖の練合物を造粒して顆粒にする造粒工程、葛粉とオリゴ糖の混合物からなる顆粒を乾燥する乾燥工程、葛粉とオリゴ糖の混合物からなる乾燥粒を粉末化する粉末化工程を経て得られる。
葛粉は僅かの湿気によっても塊化するため、通常は図1に示すような塊状となっている。そこで、葛粉塊を粉砕機などで粉砕した後、オリゴ糖と混合され、練合、造粒される。得られた造粒物は乾燥され、その後、粉末化される。乾燥は、凍結乾燥、熱風乾燥等適宜の方法が用いられる。得られた粉末は、適宜の大きさの目開きを有するスクリーン等で選別、濾過され、最終的に粒の揃った葛粉及びオリゴ糖の粉末からなる飲食品材料が得られる。
【0016】
上記した製造工程によって製造された本発明の飲食品材料について、葛粉とオリゴ糖の配合比を変化させたときの、熱湯に対する溶解状態の違いを調べる実験を行った(実験1)。実験を行った葛粉とオリゴ糖の配合比を表1に示す。実験では株式会社森野吉野葛本舗製の「本葛」及び塩水港精糖株式会社製の乳果オリゴ糖LS−55Pを用い、両者合わせて10gとなるように表1に示す配合比で配合した。そして、熱湯120ccを投入して10秒間撹拌した後、1分間放置し、溶解状態を目視した。そのときの様子を図2A及び図2Bに示す。
【表1】

【0017】
図2Aに示すように、混合物No. 1〜No. 5の溶解物には葛粉の大きな塊が見られ、葛粉が溶解せずにダマ状になっていた。また、図2Bに示すように、混合物No. 6の溶解物でも小さな葛粉顆粒が認められ、若干ダマ状になっていることが観察された。
一方、混合物No. 7及びNo. 8の溶解物では顆粒は認められず、葛粉は全て溶解していた。また、混合物No. 7及びNo. 8の溶解物は葛湯特有のとろみがあった。
なお、混合物No. 9及びNo. 10の溶解物では小さな粒が認められたが、本実験では本葛塊を粗く粉砕したものを用いたため、十分に粉末化されていない葛粉塊があったためだと思われる。また、混合物No. 9及びNo. 10の溶解物はとろみが殆どなく、ほぼ水に近い状態であった。
以上の結果から、葛粉と乳果オリゴ糖の配合比が20:80〜50:50であれば、熱湯で溶かしたときに葛粉がダマ状になりにくく、かつとろみがあり、特に30:70〜40:60の範囲では葛粉が完全に溶解することが分かった。
【0018】
次に、葛粉末とグラニュー糖を40%と60%の割合で混合したもの(混合物No. 11)、及び他社の葛粉含有製品(混合物No. 12:葛粉に和三盆を混合したもの。混合割合は不明)に対しても上記した実験と同様の溶解実験を行った(実験2)。図3は混合物No. 11及びNo. 12の溶解物の写真を示す。混合物No. 11、No. 12のいずれにおいても葛粉の大きな塊が認められた。特に、混合物No. 11の葛粉末に対するグラニュー糖の配合比(40:60)は、実験1で溶解状態の最も良かった混合物の一つ(No. 7)の葛粉末に対するオリゴ糖の配合比と同じだが、No. 7のような結果は得られなかった。従って、同じ糖であっても、グラニュー糖は乳果オリゴ糖のように葛粉の溶解を助けるという効果は得られないことが分かった。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の飲食品材料を生姜湯材料に適用した具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例に係る生姜湯材料であり、高温の湯を注いで溶解することで生姜湯になる。本実施例の飲食品材料に含まれる成分及びその配合割合を表2に示す。
【表2】

【0020】
本実施例の生姜湯材料では、葛粉として吉野葛(株式会社森野吉野葛本舗製)を、オリゴ糖として乳果オリゴ糖LS−55P(塩水港精糖株式会社製)とラフィノースオリゴ糖を使用した。また、金時ショウガの根を粉末化した金時ショウガ粉末を加えている。ショウガは体温上昇作用や発汗作用を有すると言われており、特に金時ショウガは辛み成分であるジンゲロール等を通常のショウガより多く含むことが知られている。さらに、甘味料としててんさい糖を加えているが、これはオリゴ糖の甘みを補うためである。
【0021】
図4は、本実施例の生姜湯材料の製造工程を示すフローチャートである。
まず、葛粉塊を粉砕して粉末化する(ステップS1)。次に、生姜湯材料の原料を計量し、ニーダーで混合する(0.5回転/秒、3分間)。(ステップS2)。
【0022】
得られた混合物にさらにエタノールを添加し、ニーダーで練合する(0.5回転/秒、1分間)(ステップS3)。エタノールは、混合物100%に対し7%添加するが、添加量は気温や湿度等によって適宜調整する。ここで添加するエタノールは、後の乾燥工程(ステップS5)で蒸発し、最終製品には含まれない。次に、得られた練合物を造粒し(ステップS4)、乾燥させる(ステップS5)。乾燥は棚乾燥法により、50℃で約16〜20時間行う。乾燥時間は気温や湿度等によって適宜調整する。最後に、乾燥処理された顆粒をスピードミル(目開きが1.5mmのスクリーン使用)で粉砕(ステップS6)した後、12meshのメッシュフィルターで濾過した(ステップS7)。
【0023】
本実施例に係る生姜湯材料10gに対して熱湯120ccを投入して10秒間撹拌し、1分間放置したときの溶解状態を図5に示す。図5に示すように、本実施例に係る生姜湯材料の葛粉は全て溶解していた。
【0024】
なお、上記した実施例では金時ショウガ粉末を入れて生姜葛湯の材料としたが、抹茶や小豆などを加えた葛湯の材料にすることもできる。また、葛湯以外の飲食品、例えば高温の湯を注ぐだけで簡単に作れる即席のおしるこや即席スープ等の材料にすることができる。さらに、湯を注ぐだけの飲食品の材料に限らず、湯を注いだ後、別の調理を行うような飲食品の材料に用いることも可能である。この場合、飲食品の種類に応じて、葛粉に混ぜるオリゴ糖の種類やオリゴ糖の割合を適宜に調整すると良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
葛粉とオリゴ糖を所定の割合で含有することを特徴とする飲食品材料。
【請求項2】
請求項1に記載の飲食品材料において、葛粉とオリゴ糖の配合割合が重量比で2:8〜5:5の範囲にあることを特徴とする飲食品材料。
【請求項3】
請求項2に記載の飲食品材料において、葛粉とオリゴ糖の配合割合が重量比で3:7〜4:6の範囲にあることを特徴とする飲食品材料。
【請求項4】
葛粉塊を粉砕して葛粉にする粉砕工程と、
前記葛粉とオリゴ糖を混合し練合する練合工程と、
前記葛粉と前記オリゴ糖の練合物を造粒する造粒工程と、
前記葛粉と前記オリゴ糖の造粒物を乾燥させる乾燥工程と、
前記葛粉と前記オリゴ糖の乾燥粒を粉末化する粉末化工程とを含むことを特徴とする飲食品材料の製造方法。

【図4】
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【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−39926(P2012−39926A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183402(P2010−183402)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(510083924)株式会社アタシオン (2)
【Fターム(参考)】