説明

飲食品用ホワイトナー

【課題】LL殺菌法などを用いた超高温短時間殺菌を行うことなく、更に、無菌包装を施さなくとも常温で長期保存が可能な飲食品用ホワイトナーを提供すること。
【解決手段】本発明では、常温で流通可能な飲食品用ホワイトナーであって、油脂と、乳化剤と、pH調整剤と、保存料と、糖類と、を少なくとも含有し、水溶性部の糖濃度が10〜60%である飲食品用ホワイトナーを提供する。本発明に係る飲食品用ホワイトナーは、従来のホワイトナーには含有されていなかった糖質を所定量含有させることで、LL殺菌法などを用いた超高温短時間殺菌を行うことなく、更に、無菌包装を施さなくとも常温で長期保存が可能であり、製造過程、流通過程等におけるコストや時間の軽減に貢献することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品用ホワイトナーに関する。より詳細には、無菌包装を行うことなく常温流通が可能で、常温における長期保存が可能な飲食品用ホワイトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーや紅茶などの飲料、又はゼリーやシチューなどの食品に対し、風味、色、コク等を付与する目的で、飲食品用ホワイトナーが使用されている。この飲食品用ホワイトナーは、通常、油脂、乳化剤、水等を主成分とし、更に、酸化防止剤等の様々な添加剤を用いて製造される。
【0003】
この飲食品用ホワイトナーは、様々な目的に応じて、種々の改良が進められている。例えば、特許文献1には、蛋白質を含まないにも関わらず、安定した液状のコーヒーホワイトナーとして、ショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン平均重合度が2〜4のポリグリセリン脂肪酸エステルを含むコーヒーホワイトナー用乳化剤を使用した液状コーヒーホワイトナーが提案されている。
【0004】
特許文献2には、油脂単独で飲料に白濁性を付与できる最低量より少ない量の油脂と、飲料に加えたときに飲料が白濁するに足る量の、油脂以外の分散性物質とを含有する、油脂の使用量を大幅に減少させながら、飲料の味を損なうことなくまたは引き立てつつ飲料に白濁感を与えることができる飲料用白濁性付与剤が提案されている。
【0005】
特許文献3には、a)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びb)ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びショ糖脂肪酸エステルのうちから選択された1種以上を含有したコーヒーホワイトナー用乳化剤を用いた、低粘度であり、コーヒーに対する分散性及び乳化安定性の優れたコーヒーホワイトナーが提案されている。
【0006】
特許文献4には、ショ糖脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステル及びクエン酸モノグリセリドを必須成分とする常温流通コーヒーホワイトナー用乳化剤組成物を含有する、常温流通した時に起こる離水等を防ぐことができる常温流通可能なコーヒーホワイトナーが提案されている。
【0007】
ところで、従来の飲食品用ホワイトナーは、常温での長期保存を可能とするために、LL殺菌法などを用いて超高温短時間殺菌を行い、更に無菌包装を施した上で、市場を流通させることが一般的に行われている。
【0008】
しかし、LL殺菌法などの超高温短時間殺菌法は、必要な装置も大型であり、行うことができる工場等も限定されてしまうという煩雑さがあり、それに伴いコスト面での負担も増えてしまうという問題点があった。
【0009】
そこで、LL殺菌法などの超高温短時間殺菌法を用いずに殺菌を行う方法としては、抗菌剤等を用いることも考えられるが、日本国の食品衛生法には、通常の組成からなる飲食品用ホワイトナーに使用できる抗菌剤が限られており、超高温短時間殺菌法に変わる十分な解決法にはならないのが現状である。
【0010】
【特許文献1】特開2004−254594号公報
【特許文献2】特開2000−60425号公報
【特許文献3】特開2005−13117号公報
【特許文献4】特開平05−176678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記で述べた通り、常温での長期保存が可能な飲食品用ホワイトナーは、現在では、LL殺菌法などを用いて超高温短時間殺菌を行い、更に無菌包装を施したものしか存在しない。
【0012】
そこで、本発明では、LL殺菌法などを用いた超高温短時間殺菌を行うことなく、更に、無菌包装を施さなくとも常温で長期保存が可能な飲食品用ホワイトナーを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、抗菌剤が使用できる成分構成に着目して鋭意研究を行った結果、従来の飲食品用ホワイトナーを構成する成分には、常識的に用いられることのない成分を新たに追加した新規な飲食品用ホワイトナーを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明では、まず、常温で流通可能な飲食品用ホワイトナーであって、
油脂と、乳化剤と、pH調整剤と、保存料と、糖類と、
を少なくとも含有し、水溶性部の糖濃度が10〜60%である飲食品用ホワイトナーを提供する。
本発明に係る飲食品用ホワイトナーのpHは、飲食品用ホワイトナーとしての機能が損なわなければ特に限定されないが、pH3.0〜4.0であると好ましい。
本発明に係る飲食品用ホワイトナーの粘度は、飲食品用ホワイトナーとしての機能が発揮できれば特に限定されないが、20℃の粘度が300cp未満であると好ましい。
本発明に係る飲食品用ホワイトナーに含有させることができる前記糖類は、飲食品用ホワイトナーとしての機能が損なわなければ特に限定されないが、一例としては、還元麦芽糖を挙げることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る飲食品用ホワイトナーは、LL殺菌法などを用いた超高温短時間殺菌を行うことなく、更に、無菌包装を施さなくとも常温で長期保存が可能であり、製造過程、流通過程等におけるコストや時間の軽減に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0017】
本発明に係る飲食品用ホワイトナーは、大別して、(1)油脂と、(2)乳化剤と、(3)pH調整剤と、(4)保存料と、(5)糖類と、を少なくとも含有する。以下、それぞれの構成成分について、詳細に説明する。
【0018】
(1)油脂
本発明に係る飲食品用ホワイトナーに用いることができる油脂は、食用として適用し得る油脂であれば特に限定されず、公知のあらゆる油脂を選択して用いることができる。例えば、ヤシ油、菜種油、パーム油、パーム核油、大豆油、サフラワー油、コーン油、綿実油等の植物油脂、乳脂、ラード、牛脂、魚油等の動物油脂を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。また、これらの油脂を化学的に処理した精製油、硬化油、エステル交換油、分別油等であってもよい。
【0019】
本発明ではこの中でも特に、油脂特有の油臭さが少なく、酸化劣化し難い油脂が好ましい。また、近年のヘルシー志向を考えると、植物性加工油脂が好ましい。具体的には、無味無臭の油脂としては、精製ヤシ油が好ましく、酸化劣化耐性が高い油脂としては、精製菜種油が好ましい。
【0020】
油脂の飲食品用ホワイトナーにおける含有量は、飲食品用ホワイトナーとしての機能が損なわなければ特に限定されないが、20〜50%が好ましい。10%より低いと、白濁性が少なくクリーミーな食感が低くなる可能性があり、50%を超えると乳化が不安定で、かつ高粘度となる可能性があるからである。
【0021】
(2)乳化剤
本発明に係る飲食品用ホワイトナーに用いることができる乳化剤は、食用として適用し得る乳化剤であれば特に限定されず、公知のあらゆる乳化剤を選択して用いることができる。例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセロール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0022】
本発明ではこの中でも特に、乳化バランス、溶解性が優れていて、飲食品等に風味の影響の少ない乳化剤が好ましい。具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。
【0023】
乳化剤の飲食品用ホワイトナーにおける含有量は、飲食品用ホワイトナーとしての機能が損なわなければ特に限定されないが、0.1〜5.0%が好ましい。0.1%より低いと、乳化が不安定となる可能性があり、5.0%を超えると飲食品への風味の影響が出る可能性があるからである。
【0024】
(3)pH調整剤
本発明に係る飲食品用ホワイトナーに用いることができるpH調整剤は、食用として適用し得るpH調整剤であれば特に限定されず、公知のあらゆるpH調整剤を選択して用いることができる。例えば、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酒石酸、アジピン酸、酢酸、フマル酸等の有機酸等を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明ではこの中でも特に、適度なpH低下作用を有し、飲食品等に酸味等の影響の少ないpH調整剤が好ましい。具体的には、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸が好ましく、リンゴ酸、及びコハク酸を組み合わせて用いると更に好ましい。リンゴ酸、コハク酸は、適度なpH低下作用を有するにも関わらず、飲食品等に刺激的な酸味を与えることが少ないからである。
【0026】
本発明に係る飲食品用ホワイトナーのpHは、特に限定されないが、常温における長期保存性を向上させるため、及び、後述する保存料を好適に用いるために、pH3.0〜4.0であることが好ましい。この好適なpHに保つためのpH調整剤の飲食品用ホワイトナーにおける含有量は、例えば、リンゴ酸、及びコハク酸を組み合わせて用いる場合、リンゴ酸を0.05〜0.2%、コハク酸を0.05〜0.2%とすることが好ましい。合計量が0.1%より低いと、pH3.0〜4.0に保つことが難しくなり、合計量が0.3%を超えると飲食品への酸味の影響が出る可能性があるからである。
【0027】
(4)保存料
本発明に係る飲食品用ホワイトナーに用いることができる保存料は、食用として適用し得る保存料であれば特に限定されず、公知のあらゆる保存料を選択して用いることができる。例えば、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、安息香酸ナトリウム等を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
これらの保存料は、日本国の食品衛生法において、飲食料品用ホワイトナーへの使用は制限されていたため、従来の飲食品用ホワイトナーには用いることができなかった。しかし、本発明では、後述する(5)糖類を所定量含有させているため、これらの保存料を用いることができ、その結果、LL殺菌法などを用いて超高温短時間殺菌を行うことなく、更に、無菌包装を施さなくとも常温で長期保存が可能となった。
【0029】
本発明ではこの中でも特に、安息香酸ナトリウム、及びパラオキシ安息香酸エチルを組み合わせて用いることが好ましい。糖類を含有する飲食料品用ホワイトナーに用いることができ、pH3.0〜4.0で好適な抗菌作用を有するからである。
【0030】
保存料の飲食品用ホワイトナーにおける含有量は、飲食品用ホワイトナーとしての機能が損なわなければ特に限定されないが、例えば、安息香酸ナトリウムの場合、安息香酸として0.05〜0.06%、パラオキシ安息香酸エチルの場合、パラオキシ安息香酸として0.005〜0.01%が好ましい。安息香酸として0.05%、パラオキシ安息香酸として0.005%より低いと、常温における長期保存性が十分でない可能性があり、安息香酸として0.06%、パラオキシ安息香酸として0.01%を超えると食品添加物使用基準の限度外となるからである。
【0031】
(4)糖類
本発明において糖類は、水溶性部の糖濃度が10〜60%、より好ましくは糖濃度20〜30%となるように本発明に係る飲食品用ホワイトナーに含有させる。本発明に係る飲食品用ホワイトナーの水溶性部の糖濃度が、10%より低い場合は、常温における長期保存性が損なわれ、逆に60%より高い場合は、常温における長期保存性は向上するものの、白濁性が低下し、粘度が上昇してしまうからである。
【0032】
本発明に係る飲食品用ホワイトナーに用いることができる糖類は、特に限定されず、公知のあらゆる糖類を選択して用いることができる。例えば、ショ糖、果糖、麦芽糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、澱粉糖、オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、還元澱粉糖、還元澱粉糖液糖、還元麦芽糖、還元麦芽糖液糖、還元乳糖、ソルビトール等を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
本発明ではこの中でも特に、甘味度、高濃度溶解液における粘度、褐変性が低く、溶解度が高く、結晶性が無く、低pHでの加熱による分解が少なく、加熱・凍結による前記乳化剤の乳化破壊の保護製が期待できる糖類が好ましい。具体的には、還元麦芽糖が好ましい。
【0034】
以上説明した本発明に係る飲食品用ホワイトナーの粘度は、飲食品用ホワイトナーとしての機能が損なわなければ特に限定されないが、20℃における粘度が300cp未満であることが好ましい。飲食品に使用する際の分散性を向上させるためである。
【0035】
また、本発明に係る飲食品用ホワイトナーには、本発明の機能を損なわない程度に、必要に応じて、酸化防止剤、香料、着色料、調味料等の食品添加剤を自由に選択して用いることができる。
【実施例】
【0036】
<飲食品用ホワイトナーの調整>
まず、表1に示す各処方に従い、実施例1〜5、及び比較例1〜5に係る飲食品用ホワイトナーの調製を行った。
【0037】
具体的な調製方法としては、水に親水性乳化剤と糖類を投入して、約70℃まで加温し、均一に溶解混合した溶解液に、予め別に準備した親油性乳化剤等(酸化防止剤、香料等)を加温溶解均一混合した約70℃の食用油脂を攪拌しながら徐々に投入した。次に圧力式ホモゲナイザーにて一次圧150kg/cm・二次圧50kg/cmにて均質化を行い、85℃30分殺菌後、75℃にて容器に熱充填し、コーヒーホワイトナーを調整した。
【0038】
【表1】

【0039】
<各品質特性の評価>
前記で調製した実施例1〜5、及び比較例1〜5に係る飲食品用ホワイトナーについて、それぞれ下記の品質特性の評価を行った。
【0040】
(1)色調
飲食品用ホワイトナーに必要な白濁性について、以下の表2に示す評価基準に従い、評価を行った。
【0041】
【表2】

【0042】
(2)粘度
B型粘度計にて250CP迄はローターNo.2を装着して60rpmの速度で、それ以上の粘度はローターNo.3を装着して60〜12rpmの速度で20℃における粘度を測定した。
【0043】
(3)保存性
開封後、常温で60日間保存した場合における衛生検査(一般生菌数、大腸菌群、黴・酵母数)、官能検査、外観検査を元に、以下の表3に示す評価基準に従い、保存性の評価を行った。
【0044】
【表3】

【0045】
(4)甘味
甘味について、飲食品用ホワイトナーをそのままのストレート、10%液にしたもの、及びコーヒー100mLに飲食品用ホワイトナーを5mLに加えたものについて、以下の表4に示す評価基準に従い、評価を行った。
【0046】
【表4】

【0047】
(5)酸味
酸味について、飲食品用ホワイトナーをそのままのストレート、10%液にしたもの、及びコーヒー100mLに飲食品用ホワイトナーを5mLに加えたものについて、以下の表5に示す評価基準に従い、評価を行った。
【0048】
【表5】

【0049】
結果を表6に示す。
【0050】
【表6】

【0051】
表6に示す通り、実施例1〜5に係る飲食品用ホワイトナーは、開封後60日においても保存性が良好であった。また、色調についてもホワイトナーに必要な白濁性を有しており、分散性の指標となる粘度に関しても、全て、300cp未満の結果が得られた。
【0052】
甘味・酸味については、飲食品用ホワイトナーをそのままストレートで評価した場合には、実施例1〜3については、「△」「×」の評価であったが、飲食品用ホワイトナーを10%液にしたもの、コーヒー100mLに飲食品用ホワイトナーを5mLに加えたものについては、全ての実施例において、良好な結果が得られた。即ち、本発明に係る飲食品用ホワイトナーは、飲食品に用いる場合に、飲食品の味にほとんど影響がないことが分かった。
【0053】
<長期保存性の評価>
前記で調製した実施例5に係る飲食品用ホワイトナーを用いて、冷蔵、25℃、35℃にて6ヶ月間保存した場合における、pH変化、一般生菌数、大腸菌群、乳化脂肪球粒径、離水・分離、について調べた。
【0054】
その結果、各温度における長期保存後(6ヶ月)の飲食品用ホワイトナーは、全て、pHに変化は見られず、一般生菌数も増殖が無く(10個/g以下)、大腸菌群も陰性であり、乳化脂肪球粒径も変化無く安定していた(平均径0.545μm)。
【0055】
離水・分離については、4ヶ月目までは、全ての温度で変化が無かったが、25℃、35℃において6ヶ月経過後に、底部に6%程度の離水が見られたが、品質への影響はない程度であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で流通可能な飲食品用ホワイトナーであって、
油脂と、乳化剤と、pH調整剤と、保存料と、糖類と、
を少なくとも含有し、水溶性部の糖濃度が10〜60%である飲食品用ホワイトナー。
【請求項2】
pH3.0〜4.0である請求項1記載の飲食品用ホワイトナー。
【請求項3】
20℃の粘度が300cp未満である請求項1又は2に記載の飲食品用ホワイトナー。
【請求項4】
前記糖類は、還元麦芽糖である請求項1から3のいずれか一項に記載の飲食品用ホワイトナー。

【公開番号】特開2009−291136(P2009−291136A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148790(P2008−148790)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(502084562)関東食研株式会社 (3)
【Fターム(参考)】