説明

香味付与液

【課題】乳化分散安定性が高く、食品表面への付着性が良好で、フレーバー特有の香りと味を濃厚に有する食品を得ることが可能な香味付与液を得る。
【解決手段】水難溶性フレーバー素材を糖と蛋白質を主体とする混合溶液に可溶化状に分散させて香味ベースを得、これを糖濃度として30重量%以上を維持する範囲で、増粘剤水溶液または糖含有増粘剤水溶液で希釈して香味付与液を得る。またこの香味付与液を乾燥食品の表面に付着させ、乾燥することにより水難溶性フレーバーの香りと味を濃厚に付与された乾燥食品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化安定性が高く、食品表面への付着性が良好で、フレーバー特有の香りと味を濃厚に有する食品を容易に得ることができる香味付与液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糖と蛋白質を主体とする混合溶液に水難溶性フレーバー素材を可溶化状に分散したもの(以下、香味ベースという)(特許文献1参照)が知られている。
しかし、この香味ベースは、高粘稠性を有しているためこれを香味付与液として利用する場合は、水性溶液にて希釈し、粘度を低下させなければならない。しかし、香味ベースは、水性溶液で希釈すると乳化するが、その乳化は安定性が悪く、速やかに壊れ、油性成分と共にフレーバー素材が外に出て香味の安定性を欠く原因となっている。
従って、可溶化を保持するため、みりんや、みりん風発酵調味料などの糖濃度が30重量%以上の液体調味料で希釈し、使用しなければならない。
しかし、香味ベースを甘みの強い糖濃度の高い水性溶液を使用すると、フレーバー素材の風味と辛味が損なわれる欠点を有する。
また、乳化液は乳化安定性が悪いため、香味ベースは使用の都度、調味料を含むか又は含まない糖溶液で希釈し乳化しなければならず、乳化液は作り置きできない欠点を有していた。
【0003】
【特許文献1】特開平1−218569
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、乳化分散安定性が高く、食品表面への付着性が良好で、フレーバー特有の香りと味を濃厚に有する食品を得ることができる香味付与液を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、水難溶性フレーバー素材を糖と蛋白質を主体とする混合溶液に混和して可溶化状に分散させて香味ベースを調製し、これを糖濃度として30%(%は重量%を意味する。以下同じ)以上を維持する範囲で調味料を含むか、又は含まない糖溶液と混和し乾燥食品用香味付与剤を得る方法において、該「糖溶液」として「増粘剤水溶液」又は「糖含有増粘剤水溶液」を用いるときは、以下のことを知った。
すなわち、香味ベースを「増粘剤水溶液」または「糖含有増粘剤水溶液」を用いて希釈し、乳化するときは、該乳化液の乳化分散安定性が非常に良好になることを知った。また、前記「糖含有増粘剤水溶液」の該糖として、デキストリン例えばサイクロデキストリンなどの甘みの少ない糖類を用いるときは、フレーバー素材の香りと味(例えば辛味)が非常に濃厚な香味付与液を得ることを知った。そして、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、(1)水難溶性フレーバー素材を糖と蛋白質を主体とする混合溶液に可溶化状に分散させて香味ベースを得、これを糖濃度として30重量%以上を維持する範囲で、増粘剤水溶液または糖含有増粘剤水溶液で希釈してなる香味付与液である。また本発明は、増粘剤水溶液または糖含有増粘剤水溶液の該増粘剤濃度が、0.15〜0.5重量%である前記(1)に記載の香味付与液である。また本発明は、糖含有増粘剤水溶液の該糖として、サイクロデキストリンを使用することを特徴とする前記(1)に記載の香味付与液である。また本発明は、フレーバー素材が、わさびフレーバーオイルまたはアリルイソチオシアネートである前記(1)に記載の香味付与液である。また本発明は水難溶性フレーバー素材を糖と蛋白質を主体とする混合溶液に可溶化状に分散させて香味ベースを得、これを糖濃度として30重量%以上を維持する範囲で、増粘剤水溶液または糖含有増粘剤水溶液で希釈してなる香味付与液を得、次いでこれを食品の表面に付着させ、乾燥することを特徴とする水難溶性フレーバーの付与された乾燥食品の製造法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、乳化安定性が高く、食品への付着性が良好で、フレーバー特有の香りと味を濃厚に有する乾燥食品を得ることができる香味付与液を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明は、水難溶性フレーバー素材を糖と蛋白質を主体とする混合溶液に混和して可溶化状に分散させて香味ベースを調製し、これを糖濃度として30%以上を維持する範囲で調味料を含むか、又は含まない糖溶液と混和し乾燥食品用香味付与剤を得る方法において、該「糖溶液」として「増粘剤水溶液」または「糖含有増粘剤水溶液」を用いる以外は、特開平1−218569に記載された方法と同様にして実施することができる。
【0010】
蛋白質としては、各種の蛋白質原料を水抽出するか、または軽度に加水分解して、異臭味の発生をなるべく押さえて得られる界面活性を有する水溶性蛋白質区分が用いられる。その具体例として、例えば各種の動物肉を加熱下で熱水抽出して得られる界面活性を有する含窒素成分またはミルクカゼイン、ホエー蛋白質、グルテン、大豆タンパク質等の蛋白質原料を酵素的もしくは化学的に軽度に分解、抽出して得られる界面活性を有する水溶性蛋白質がある。
そして異臭味が発生する場合には、分解、抽出した後、適宜精製して異臭味を除去して用いられる。
【0011】
このような糖と蛋白質の混合溶液は糖濃度として30%以上、好ましくは50〜70%、蛋白質濃度として5%以上、好ましくは7〜9%に調整したもので、水難溶性フレーバー素材の分散基剤とする。
【0012】
次に本発明に適用できるフレーバー素材としては、天然もしくは合成の水難溶性フレーバー素材であって、例えばオレンジ油、ライム油、レモン油、ペパー油、クローブ油等の精油、または溶剤抽出で得られる各種スパイスの抽出香料やわさびフレーバーオイル、オレオレジン類、更にオイゲノール、シンナミックアルデハイド、リナロール、アリルイソチオシアネート(マスタードオイル)、ラクトン等の合成フレーバー類を挙げることができる。そして、これらは単独もしくは液状食用油脂との混合物として用いられる。なお、例えばストロベリー・エッセンス、アップル・エッセンス等の比較的水溶性に近いフレーバー素材についても本発明方法を適用することができる。
【0013】
水難溶性フレーバー素材は、そのままではフレーバー強度が高いので最終製品に着香度を勘案してあらかじめ液状油を用いて濃度調整するが、中鎖脂肪酸トリグリセリドが酸化安定性、香気保留性の面で好ましく、好適に利用できる。
こうして濃度調整した水難溶性フレーバー素材を、糖、蛋白質混合溶液に可溶化状に分散させる。すなわち、非乳濁性の含油粘稠物とする。
【0014】
糖、蛋白質混合溶液に分散させる油相の量は、本混合溶液と等量前後が好ましく、可溶化状の分散を完全ならしめるうえで、分散系当たり30%以上含有させる。
【0015】
こうして得られた水難溶性フレーバー素材を可溶化状に分散したものは、非乳濁性で透明に近い状態を示しており、油滴の生成を示さず、溶解状態に近い。
また、用いた糖類と蛋白質の混合溶液の濃度が比較的低い場合、または添加フレーバー素材の使用量が少ない場合には、低粘性の流動性液体であるが、混合溶液の濃度が高く、またフレーバー素材の使用量が多いときにはペースト状をなし、たとえば20%の水難溶性フレーバー素材を含有する場合では7000〜10000c.p.の粘度を示す。それゆえこの物質は、調味料のフレーバー素材として使用する場合には、流動性、展着性を付与しなければ利用できない。
しかし、この物質を水に溶かして利用する場合には、水難溶性フレーバー素材は速やかに微滴状に分散し、乳濁状を呈するが、該微滴状に分散し乳濁状を呈した水難溶性フレーバー物質を長時間にわたって安定に保持することは難しい問題を有する。しかも、この物質は、フレーバー素材の分散性を損なわないことが重要である。
そこで、本発明においてはこれらの要求を満たすため、出来上がりの糖濃度が30%以上の範囲となるように、予め香味ベースに糖溶液を添加した後増粘剤水溶液を加えるか、または予め香味ベースに糖溶液を加えることなく、該香味ベースに糖含有増粘剤水溶液を添加し、該香味ベースを希釈する。
【0016】
ここに用いられる増粘剤としては、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナンなどの増粘剤が挙げられる。また、増粘剤水溶液の増粘剤濃度としては、0.08%以上が好ましく、0.15%〜0.5%がより好ましい。すなわち、濃度が0.08%未満においては、乳化安定性が悪く本発明の目的を達成できない。
反対に0.5%を超えると香味ベースと増粘剤水溶液の混和が円滑に行えなくなる危険性を有するので好ましくない。本発明において増粘剤を使用することは極めて重要であって、この増粘剤の使用によって、微滴状に分散し乳濁状を呈した水難溶性フレーバー物質を長時間にわたって安定に保持することが可能となる。
【0017】
なお、増粘剤水溶液または糖含有増粘剤水溶液は、調味料を添加含有させることが可能である。そして調味料としては、醤油、みりん、清酒、食酢、ワイン、食塩、動植物蛋白加水分解物、獣鳥蓄肉魚介類エキス、鰹節、化学調味料(グルタミン酸ソーダ、核酸ソーダなど)などの一種または二種以上が挙げられる。
【0018】
また、糖含有増粘剤水溶液の該糖の種類としては、ミセル形成能(糖分子が高濃度下で会合して疎水性の領域を形成する能力)を維持できる水溶性糖類であればいずれでも使用することができ、たとえばブドウ糖、果糖、ガラクトース、麦芽糖、蔗糖などの単糖類、二糖類、三糖類などの他、種々のDEを有する水溶性の澱粉加水分解物、たとえば水あめ、デキストリン、及びこれらを含有するシラップ類があげられ、これらの糖類は適宜一種または二種以上を選択して使用することができる。
【0019】
これらのうち甘みの少ないデキストリン特に、サイクロデキストリンは最終製品の呈味が損なわれないばかりでなく、フレーバー素材の香り及び味(例えば辛味)の逸散を防止できるので特に好ましい。
【0020】
こうして、水難溶性フレーバー物質が微滴状に分散し、乳濁状を呈し、その長時間にわたって安定に保持することが可能で、食品への付着性が良好で、フレーバー特有の香りと味を濃厚に有する食品を得ることができる香味付与液を得る。
【0021】
この香味付与液は、煎餅、あられ、かき餅などの米菓、味付け海苔、調味干し(醤油、砂糖などの調味液にいったん漬けてから乾燥したもので、いわし、さんまのみりん干し、小魚の儀助煮などがある)、裂きイカ、燻製食品などの乾燥食品の表面と接触(塗布、浸漬または散布など)することにより、該食品の表面に容易に付着し、これを乾燥することによりフレーバー特有の香りと味を濃厚に有する皮膜を有する乾燥食品を得ることができる。
【実施例1】
【0022】
糖濃度60%の糖液(DE40)93部と豚肉の熱水抽出蛋白濃縮物(水溶性蛋白質濃度約45%)7部の混合溶液100部と、わさびフレーバーオイル20部と中鎖脂肪酸トリグリセリド(パナセート、日本油脂製)80部の混合液とを1:1で混合攪拌し、非乳濁性の香味ベース(ペースト状)を得た。
次いで、各種増粘剤を表1の各種濃度で含有する増粘剤水溶液に、上記で得られた香味ベースを30重量%溶解し、各種香味付与液を得た。
次に、この香味付与液を、37℃の恒温室に入れ、1週間静置保存し、乳化分散の安定性を観察した。すなわち液層の分離を肉眼で観察し、下記の評価に従い、評価した。評価基準◎:安定に分散、○:やや安定に分散、×:分離。
結果を表1に示した。
【0023】


粘度の測定法:品温25℃に調整後、B型粘度計を用いロータNo.2、60rpmで測定。
なお、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナンの増粘剤水溶液において、該増粘剤濃度がそれぞれ0.5重量%を超えると、香味ベースと増粘剤水溶液の混和が円滑に行えなくなるので好ましくないことが判明した。
【0024】
上記実施例1の結果から、増粘剤としては、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナンが好ましいことが判る。またそれらの濃度は、0.08%以上、特に0.15〜0.5%がより好ましいことが判る。
また、上記濃度範囲の増粘剤を含有する水溶液を使用すれば、30%の香味ベースを含有し1週間保存しても乳化安定性の高い香味付与液を調製することが可能であることが判る。
【実施例2】
【0025】
表2の記載の糖を20%含有し且つ0.25%キサンタンガムを含有する水溶液に香味ベース(実施例1で調製したもの)を40%添加し、本発明の香味付与液を得た。
煎餅の生地をステンレス製網籠に入れ、この籠を上記香味付与液に埋没した後取り出し、振切りした後、80℃乾燥機にて乾燥し、わさび風味の有する煎餅を得た。なお、香味液は煎餅の表面にいずれも約32%付着することが確認された。
この煎餅につき、香味を評価した。
結果を表2に示す。
【0026】

※1:デキストリン(松谷化学社製、パインデックス#2使用)3重量部に対し水4重量部を添加して糖溶液(糖濃度約40%)を調製した。
2:マルトデキストリン(松谷化学社製、グリスター使用)1重量部に対し水1重量部を添加して糖溶液(糖濃度約40%)を調製した。
3:サイクロデキストリン(昭和産業社販売、イソエリート40L)(糖濃度約40%)をそのまま用いた。
4:キッコーマン社製本みりん(糖濃度約45%)をそのまま用いた。
【0027】
表2の結果から、本発明で得られた香味付与液を乾燥食品の表面に付着させ、乾燥するとわさび風味の強い乾燥食品が得られることが判る。
そして、香味ベースを、サイクロデキストリン含有増粘剤水溶液で希釈して得られる香味付与液は、他の糖含有増粘剤水溶液で希釈して得られるそれに比べて、わさびの香りが非常に強く、またわさびの辛味を非常に強く有する乾燥食品が得られることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は食品の表面に塗布し、乾燥した場合に該食品の表面に非常に高濃度のフレーバー被膜を形成し、該フレーバーの香りと味を強く有する食品を得ることができるので、煎餅、あられ、かき餅などの米菓産業、味付け海苔などの海苔産業、調味干し、裂きイカ、燻製食品などの水産加工産業などにおいて、香味付与液として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水難溶性フレーバー素材を糖と蛋白質を主体とする混合溶液に可溶化状に分散させて香味ベースを得、これを糖濃度として30重量%以上を維持する範囲で、増粘剤水溶液または糖含有増粘剤水溶液で希釈してなる香味付与液。
【請求項2】
増粘剤水溶液または糖含有増粘剤水溶液の該増粘剤濃度が、0.15〜0.5重量%である請求項1に記載の香味付与液。
【請求項3】
糖含有増粘剤水溶液の該糖として、サイクロデキストリンを使用することを特徴とする請求項1に記載の香味付与液。
【請求項4】
フレーバー素材が、わさびフレーバーオイルまたはアリルイソチオシアネートである請求項1に記載の香味付与液。
【請求項5】
水難溶性フレーバー素材を糖と蛋白質を主体とする混合溶液に可溶化状に分散させて香味ベースを得、これを糖濃度として30重量%以上を維持する範囲で、増粘剤水溶液または糖含有増粘剤水溶液で希釈してなる香味付与液を得、次いでこれを乾燥食品の表面に付着させ、乾燥することを特徴とする水難溶性フレーバーの付与された乾燥食品の製造法。

【公開番号】特開2006−55115(P2006−55115A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242319(P2004−242319)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】