説明

香料組成物及びそれが配合された食品

【課題】
強力な剪断力を与える乳化機や高圧ホモジナイザー等を使用しなくとも、油溶性香料を水相に均一分散、可溶化させる組成物または方法を提供すること。
ボリューム感とフレッシュ感等に優れ、嗜好性が高い風味を有し、しかも長期間放置後の経時安定性も良好である飲料、ゼリー等の食品を提供すること。
【解決手段】
油溶性香料およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの均一混合液からなる水溶性香料組成物。
前記の水溶性香料組成物を水相に添加混合することを特徴とする食品の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料商品、香料組成物、食品及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食品の多様化に伴い、特徴的な香気香味の要求は商品の差別化をはかる目的から非常に高まっている。ところで精油は香味豊かな香調を与える素材として周知であるが、油溶性である為飲料等の水性成分に均一分散することができない。従来、精油等の油溶性香料を飲料に添加する際には、溶液中に均一分散させるために乳化香料やエッセンスが用いられてきた。飲料中の乳化香料は加熱殺菌工程での安定性が要求されるので、加熱安定性の高い乳化物が用いられるが、これは香気の発現性が遅く嗜好性が乏しい。また乳化香料は乳化機を使用しての乳化工程も必要である。他方エッセンスは精油を水・エチルアルコール溶液で抽出する工程が必要であり、また全ての香味・風味成分が抽出されないという問題がある。更に、可溶化剤を用いて油溶性香料を水性媒体に確実に可溶化させるためには、可溶化操作の際に、原料組成物に強力な剪断力を与える乳化機や高圧ホモジナイザー等を用いることが必要となる等、可溶化香料製造工程および飲料製造工程にも問題があった。このため簡単な操作で、油溶性香料または油溶性香料製剤(以下、油溶性香料という)を水性媒体に均一分散させることができ、得られた均一分散系は、長期間に亘って安定性を維持し、しかも食品用途の場合には、味覚等に影響を与えない均一分散系の開発が望まれていた。
【0003】
一方、乳化剤であるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いた乳含有飲料のオイリング防止の発明が報告されている(特許文献1)。しかしながら、この発明でも高速攪拌機を用いた予備乳化に続き高圧型均質機を用いている。
また簡単な操作で、油性物質を水性媒体に乳化または可溶化できる技術として、油性物質、多価アルコールおよび特定の乳化剤を含有する乳化製剤が報告されている(特許文献2)。しかしながら、この発明ではこの乳化製剤を製造するために超高圧ホモジナイザーなどを使用しなければならない。
【特許文献1】特開2004−187570
【特許文献2】特開2004−208555
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の背景のもと、本発明は次の課題を解決することを目的とする。
1.強力な剪断力を与える乳化機や高圧ホモジナイザー等を使用しなくとも、油溶性香料を水相に均一分散、可溶化させる組成物または方法を提供すること。
2.飲料その他の水相に、精油そのものからくる香味豊かな香調を付与することができる方法を提供すること。
3.ボリューム感とフレッシュ感等に優れ、嗜好性が高い風味を有し、しかも長期間放置後の経時安定性も良好である飲料、ゼリー等の食品を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下に本発明を記載する。
項1.油溶性香料およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルからなる水溶性香料商品。
【0006】
項2.油溶性香料およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの均一混合液からなる水溶性香料組成物。
【0007】
項3.油溶性香料およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの均一混合液を水相に添加混合することを特徴とする香気または風味を付与する方法。
【0008】
項4.項1記載の水溶性香料商品または項2記載の香料組成物を配合して得られる食品。
【0009】
項5.項1記載の水溶性香料商品または項2記載の香料組成物を水相に添加混合することを特徴とする項4記載の食品の製造法。
【0010】
更に本発明は、以下の発明を含む。
【0011】
項6.油溶性香料およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを内部に有する密閉容器入り水溶性香料商品。
【0012】
項7.油溶性香料およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルからなる、水相に添加混合することにより香気または風味を付与する水溶性香料商品
【0013】
項8.油溶性香料およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの均一混合液からなる、水相に添加混合することにより香気または風味を付与する水溶性香料香料組成物。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水溶性香料商品または水溶性香料組成物は、飲料生地等の水性液(水相)に配合された時、高圧乳化機等を用いずとも、攪拌混合するだけという簡単な製造法で容易に均一分散、可溶化することが出来、また経時安定性も良好である。本発明の水溶性とは、水性液に均一分散および/または可溶化できることであり、香料商品とは売買流通の対象になり得る香料のことをいう。
【0015】
本発明に用いる油溶性香料としては、例えば、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツなどの柑橘類精油;花精油、ペパーミント油、スペアミント油、スパイス油などの植物精油;コーラナッツエキストラクト、コーヒーエキストラクト、ワニラエキストラクト、ココアエキストラクト、紅茶エキストラクト、スパイス類エキストラクトなどの油性のエキストラクト(コーヒーオイル等を含む)及びこれらのオレオレジン類;合成香料化合物、油性調合香料組成物及びこれらの任意の混合物等が挙げられる。
【0016】
本発明のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタン脂肪酸エステルにポリオキシエチレンを付加したもので、ポリオキシエチレンの付加モル数、ソルビタン脂肪酸エステルの構成脂肪酸種及びエステル化度の組み合わせにより各種存在する。
【0017】
本発明においては、好ましくは付加モル数は5〜30、最も好ましくは平均付加モル数が20である。エステルを構成する脂肪酸種の炭素数は、好ましくは12〜18の飽和もしくは不飽和の脂肪酸、さらに好ましくはステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸である。エステル化度は、好ましくはモノエステル及びトリエステルである。好ましい具体例としてはモノエステルタイプは、ポリソルベート80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、20EO)、ポリソルベート60(モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、20EO)、ポリソルベート40(モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、20EO)、ポリソルベート20(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、20EO)、トリエステルタイプは、ポリソルベート65(トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、20EO)などが例示される。
【0018】
油溶性香料(A)およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(B)の配合比は、本発明の効果を生ずる限り特に限定はされないが、例えばA:Bが60:40〜20:80、好ましくは50:50〜30:70、特に好ましくは50:50〜40:60である。Aの比率が大きくなると、AとBとの混合液である水溶性香料商品または水溶性香料組成物を水性液に添加したときの均一分散性、可溶化性、経時安定性が不十分となる傾向があり、またBの比率が大きくなるとAとBとの混合液の水への溶解性が不十分となる傾向がある。
【0019】
本発明の水溶性香料商品または水溶性香料組成物の製造は、特に限定されるものではないが、例えば油溶性香料にポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを添加し、またはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルに油溶性香料を添加し、適宜攪拌混合する。本製造工程では高圧乳化機を使用する必要が無いので、本発明は製造装置や製造コスト面でも優れたものである。 本発明の密閉容器とは、缶、瓶等であり、内容物を密閉できる容器であれば特に限定されない。
【0020】
本発明の水溶性香料商品または水溶性香料組成物には、原則として油溶性香料とポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルしか含まれないが、本発明の効果を生ずる限りその他の物質が含有されてもかまわない。
【0021】
本発明の水溶性香料商品または水溶性香料組成物は、飲料生地等の水性液(水相)に添加混合されることによって、食品に優れた香気または風味を付与することができる。添加混合する方法には特に限定はないが、高圧乳化機等を用いずとも、単に攪拌混合するだけという簡単な方法で可能である。
【0022】
本発明の水溶性香料商品は、あらゆる食品に用いることが出来る。例えば、
乳製品類としては、クリーム類(生クリーム、植物性油脂を含有するホイップクリーム、クリームソース等を含む)、バター類(植物性油脂を含有するデイリースプレッド等を含む)、チーズ類(プロセスチーズ、チーズフード等を含む)、アイスクリーム類(ラクトアイス等を含む)、濃縮乳類(脱脂濃縮乳、全脂濃縮乳、加糖脱脂濃縮乳等を含む)、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー類、調整粉乳類、牛乳、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料及びこれら乳製品等を主要原料とする食品;飲料類として果実飲料類、炭酸飲料類、茶系飲料類(紅茶・ウーロン茶・緑茶など)、コーヒー飲料類、機能性飲料;酒類として洋酒類(ワイン・ウイスキー・ブランデー・ラム、ジン、リキュールなど)、清酒類、発泡酒・ビール類;菓子類として、キャンディー・デザート類、チューインガム類、チョコレート類、焼き菓子・ベーカリー類、冷菓類(アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類);スープ類;食肉加工品類;水産加工品類;調理食品類;冷凍食品類;調味料類;電子レンジ食品類;たばこ等が挙げられる。上記食品の中でも、例えば飲料、ゼリー、デザート、乳製品が好ましい。
本発明の水溶性香料商品または組成物の食品への配合量は、食品の種類や剤形または使用目的によって異なるが、0.0005〜5%の範囲を例示することが出来る。
【発明の効果】
【0023】
本発明の水溶性香料商品または水溶性香料組成物は、乳化香料やエッセンスの製造に較べて、油溶性香料とポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとを攪拌混合するだけという簡単な製造法と装置で得ることが出来、また経時安定性も良好である。
【0024】
本発明の水溶性香料商品または水溶性香料組成物は、飲料生地等の水性液に配合された時、高圧乳化機等を用いずとも、攪拌混合するだけという簡単な製造法と装置で容易に均一分散、可溶化することが出来、また得られた水性液は、風味が強く、ボリューム感とフレッシュ感等に優れた香気または風味が付与される。更に得られた水性液は、長期間放置後も、濁り、油浮き、リング、沈殿物は見られず、また異味、異臭も認められず、経時安定性も良好である。
【0025】
本発明の水溶性香料商品または水溶性香料組成物は、精油の水/アルコール抽出物を用いるエッセンス香料とは異なり、精油の疎水性成分も含めた精油全ての成分が溶解している為、精油そのものからくる香味豊かな香調を水性液に付与することができる。
本発明の水溶性香料商品または水溶性香料組成物中においては、従来の技術に較べて油溶性香料に対する乳化剤の比率が少なく、食品に用いたときの味への影響がより少ない。
【0026】
本発明の水溶性香料商品または水溶性香料組成物を配合して得られる飲料、ゼリー等の食品は、風味が強く、ボリューム感とフレッシュ感等に優れ、嗜好性が高い。また、長期間放置後も濁り、油浮き、リング、沈殿物が無く、また異味、異臭も認められず、その経時安定性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0028】
試験例1 混和性試験
グレープフルーツオイル(塩野香料(株)製)と各種乳化剤とを60:40(重量比)で攪拌棒により攪拌しながら混合し、その混和性を外観により評価した。その結果を表1に示す。表からわかるように、ポリソルベート20のみが優れた混和性を示すことが判明した。
【表1】

【実施例1】
【0029】
オレンジオイル、レモンオイル、グレープフルーツオイル及びライムオイルの各種の柑橘オイル(塩野香料(株)製)と、ポリソルベート20、ポリソルベート60及びポリソルベート80の各種の乳化剤(花王(株)製)とを、それぞれの組み合わせ(12種類)で、50:50(重量比)で攪拌棒により攪拌しながら混合したところ、いずれも均一に溶解し、優れた混和性を示した。得られた本発明の水溶性香料組成物を、攪拌棒により攪拌しながらイオン交換水に0.1%添加してその可溶化性を評価したところ、すべて透明に溶解し可溶化性は優れていた。得られた水溶液は、同種の柑橘エッセンス香料を同量イオン交換水に添加したものに較べて、風味が強く、ボリューム感とフレッシュ感等に優れていた。
【実施例2】
【0030】
オレンジオイル(塩野香料(株)製)とポリソルベート20(花王(株)製)とを40:60(重量比)で混合したところ、均一に溶解し優れた混和性を示した。得られた本発明の水溶性香料組成物を、攪拌棒により攪拌しながらイオン交換水に0.1%添加してその可溶化性を評価したところ、すべて透明に溶解し可溶化性は優れていた。また、得られた水溶液は、同種の柑橘エッセンス香料を同量イオン交換水に添加したものに較べて、風味が強く、ボリューム感とフレッシュ感等に優れていた。更に、得られた水溶液を室温で2週間放置後も、濁り、リング、沈殿は見られず、また異味、異臭は認められず、経時安定性は良好であった。
【実施例3】
【0031】
50リットルのプロペラ攪拌機付きタンクを用いて、オレンジオイル、レモンオイル、グレープフルーツオイル及びライムオイルの各種の柑橘オイル(塩野香料(株)製)と、ポリソルベート20(花王(株)製)とを50:50(重量比)で混合し、本発明の水溶性香料組成物4種を得た。得られた水溶性香料組成物は、1リットルのガラス容器に充填密閉し、それぞれ水溶性香料商品(試作品)とした。
【実施例4】
【0032】
50リットルのプロペラ攪拌機付きタンクを用いて、果糖ブドウ糖液糖53部、上白糖40部、クエン酸2部、クエン酸三ナトリウム1部、及び水904部を用いて飲料用糖酸液1000部を調製した。この糖酸液に実施例3で得た4種の水溶性香料商品をそれぞれ0.0175%攪拌しながら添加し、ガラス瓶充填しBx8.3、pH3.6のモデル飲料を得た。得られた飲料は、同種の柑橘エッセンス香料を同量添加したものに較べて、風味が強く、ボリューム感とフレッシュ感等に優れていた。これは精油の水/アルコール抽出物を用いるエッセンス香料とは異なり、精油の疎水性成分も含めた精油全ての成分が溶解している為、精油そのものからくる香味豊かな香調が生じていると考えられる。
得られた飲料を85℃×15分の殺菌後、5℃、室温、55℃に4週間放置して経時安定性を評価した。その結果、4週間経過後のいずれのサンプルも、濁り、リング、沈殿は見られず、また異味、異臭は認められなかった。
【実施例5】
【0033】
ゲル化剤(NEWGELIN LB―609(中央フーズマテリアル社製))11部、果糖ブドウ糖液糖188部、5倍濃縮レモン果汁60部、クエン酸(結晶)2.22部、実施例3で得たレモンオイルの水溶性香料商品2部及び精製水736.78部から常法によりカップゼリーを調製した。得られたカップゼリーは、同種の柑橘エッセンス香料を同量添加したものに較べて、風味が強く、ボリューム感とフレッシュ感等に優れていた。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
油溶性香料およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルからなる水溶性香料商品。
【請求項2】
油溶性香料およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの均一混合液からなる水溶性香料組成物。
【請求項3】
油溶性香料およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの均一混合液を水相に添加混合することを特徴とする香気または風味を付与する方法。
【請求項4】
請求項1記載の水溶性香料商品または請求項2記載の香料組成物を配合して得られる食品。
【請求項5】
請求項1記載の水溶性香料商品または請求項2記載の香料組成物を水相に添加混合することを特徴とする請求項4記載の食品の製造法。


【公開番号】特開2006−136228(P2006−136228A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327778(P2004−327778)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000121512)塩野香料株式会社 (23)
【Fターム(参考)】