説明

香料組成物

【課題】天然マンゴーの持つ、トロピカルで瑞々しくジューシーなナチュラル感を有するマンゴー様香料組成物の提供。
【解決手段】成分(A)及び(B)を含有する香料組成物。
(A):4-メチル-5-チアゾールエタノール及びp-メンタン-8-チオール-3-オンから選ばれる1種以上
(B):7-デセン-1,4-ラクトン、γ-デカラクトン及びγ-ウンデカラクトンから選ばれる1種以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナチュラル感に優れたマンゴー様香気を有する香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マンゴーの香気成分は、現在約370の化合物が同定、報告されており(非特許文献1)、品種、産地により差はあるが、テルペン系炭化水素が主成分であり、エステル類なども多く含有されている。また、他のフルーツと比較して、酪酸、ヘキサン酸等の遊離脂肪酸が多いという特徴が知られており、トロピカルフルーツ的特徴を有する香気成分として、ジメチルスルフィド、ジイソプロピルスルフィド等の含硫黄化合物が知られている(非特許文献2、3)。また、非特許文献4には、マンゴーフレーバーの処方例が開示されている。
【0003】
しかしながら、天然マンゴーの検出成分から有用成分を組み合わせてマンゴー様香料組成物を調製した場合、天然マンゴーのもつフルーティな香りは再現できるものの、トロピカル感や瑞々しい甘さは天然のマンゴーに比べて不足するという問題がある。トロピカルフルーツを想起させる含硫黄化合物については、天然のマンゴーから検出される含硫黄化合物だけではマンゴーのトロピカル感を表現するのに十分でない。
【0004】
【非特許文献1】Journal of Agriculture & Food Chemistry, No.53, p2213-2223 (2005年)
【非特許文献2】香料, No.209, p.167-168(2001年)
【非特許文献3】香料, No.228, p.153-164(2005年)
【非特許文献4】特許庁公報周知・慣用技術集(香料)第II部, 食品用香料, p247(2000年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、天然マンゴーの持つ、トロピカルで瑞々しくジューシーなナチュラル感のあるマンゴー様香気を有する香料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、成分(A):特定の含硫黄化合物から選ばれる1種以上と、成分(B):特定のラクトン類から選ばれる1種以上とを組み合わせることで、フレグランス用香料、フレーバー用香料において、ナチュラル感に優れたマンゴー様の香りが得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、成分(A)及び(B)を含有するマンゴー様香料組成物を提供するものである。
(A):4-メチル-5-チアゾールエタノール及びp-メンタン-8-チオール-3-オンから選ばれる1種以上
(B):7-デセン-1,4-ラクトン、γ-デカラクトン及びγ-ウンデカラクトンから選ばれる1種以上
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トロピカルで瑞々しくジューシーなナチュラル感を有するマンゴー様香料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
〔成分(A)〕
成分(A)の4-メチル-5-チアゾールエタノール及びp-メンタン-8-チオール-3-オンは、マンゴーのトロピカル感を醸し出すのに非常に効果的である。これらは単独でも効果的であるが、両者を併用することにより、より好ましいナチュラル感を醸し出すことができる。
【0010】
成分(A)の香料組成物中の含有量は、0.0001〜20質量%、更には0.001〜2質量%、特に0.001〜1重量%が好ましい。
【0011】
4-メチル-5-チアゾールエタノール(スルフロール)は、ココア、ローストビーフなどに存在し、希釈するとナッツ様香気を有することが知られている。香料組成物中の含有量は、0.001〜20質量%、更には0.01〜2質量%、特に0.1〜1質量%が好ましい。
【0012】
p-メンタン-8-チオール-3-オンは、ブッチュリーフ油の重要成分として見出されている。香料組成物中の含有量は、0.0001〜2質量%、更には0.001〜1質量%、特に0.01〜0.5質量%が好ましい。
【0013】
4-メチル-5-チアゾールエタノールとp-メンタン-8-チオール-3-オンを併用する場合の両者の比率は、1000:1〜1:1、特に100:1〜10:1が好ましい。
【0014】
〔成分(B)〕
成分(B)の7-デセン-1,4-ラクトン(γ-ジャスモラクトン)、γ-デカラクトン及びγ-ウンデカラクトンは、リッチで、ボリューム感のあるフルーティな甘さを有する香気成分であり、これらのうち1種以上を使用することにより、ナチュラルなマンゴー様香気を得ることができる。
【0015】
成分(A)として4-メチル-5-チアゾールエタノールを使用するときは、成分(B)として7-デセン-1,4-ラクトンを組み合わせるのが特に好適であり、成分(A)としてp-メンタン-8-チオール-3-オンを使用するときは、成分(B)としてγ-デカラクトンを組み合わせるのが特に好適である。更に、7-デセン-1,4-ラクトンとγ-デカラクトンとを併用すると、より好ましい効果が得られる。
【0016】
成分(B)の香料組成物中の含有量は、0.001〜10質量%、特に0.01〜5質量%が好ましい。
【0017】
成分(A)と成分(B)の重量比(A)/(B)は、0.00001〜10、特に0.0001〜10が好ましい。
【0018】
成分(A)が4-メチル-5-チアゾールエタノールである場合、成分(A)と成分(B)の重量比(A)/(B)は、0.001〜10、特に0.01〜10が好ましい。
【0019】
成分(A)がp-メンタン-8-チオール-3-オンである場合、成分(A)と成分(B)の重量比(A)/(B)は、0.00001〜0.5、特に0.0001〜0.05が好ましい。
【0020】
〔成分(C)〕
更に、成分(C)として、シス-3-ヘキセノール、シス-3-ヘキセニルメチルカーボネート(IFF社商品名:リファローム)、ジメチル-3-シクロヘキセニル-1-カルボキシアルデヒド(Quest社商品名:リグストラール、花王社商品名:シクロベルタール)及び2,4,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-カルボキシアルデヒド(IFF社商品名:イソシクロシトラール)から選ばれる1種以上を組み合わせることにより、マンゴーのフレッシュ感を増強させ、よりナチュラルなマンゴーらしい香りを醸し出すのに特に効果がある。
【0021】
成分(C)は、青葉様グリーン感を有する化合物であり、シス-3-ヘキセノールは、マンゴー香気から検出されているが、シス-3-ヘキセニルメチルカーボネート、ジメチル-3-シクロヘキセニル-1-カルボキシアルデヒド、及び2,4,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-カルボキシアルデヒドは、マンゴー香気からは検出されていない化合物である。
【0022】
成分(A)と成分(C)の重量比(A)/(C)は、0.00001〜1が好ましく、更には0.0001〜1が好ましい。
【0023】
〔成分(D),成分(E)〕
更に、成分(B)より軽く、爽やかな甘さを有する、成分(D)として、ダマセノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、δ-ダマスコン、イソダマスコンから選ばれる1種以上、又は成分(E)として、エチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-2-カルボキシレート(花王社商品名:フルーテート)のいずれかを組み合わせることにより、更にナチュラルで、爽やかで瑞々しいマンゴーの香りを再現することができる。
【0024】
成分(A)と成分(D)の重量比(A)/(D)は、0.001〜10が好ましく、特に0.01〜10が好ましい。
【0025】
成分(A)が4-メチル-5-チアゾールエタノールである場合、4-メチル-5-チアゾールエタノールと成分(D)の重量比(A)/(D)は、0.01〜10、特に0.1〜10が好ましい。また、成分(A)がp-メンタン-8-チオール-3-オンである場合、p-メンタン-8-チオール-3-オンと成分(D)の重量比(A)/(D)は、0.001〜1、特に0.01〜1が好ましい。
【0026】
成分(A)として4-メチル-5-チアゾールエタノールを用いる場合、成分(E)のエチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-2-カルボキシレートとの組合せが特に好適である。また、香料組成物を配合する製品の基剤がアルカリ性である場合は、成分(E)を用いることが好ましい。
【0027】
成分(A)と成分(E)エチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-2-カルボキシレートの重量比(A)/(E)は、0.0001〜1、特に0.001〜0.5が好ましい。
【0028】
成分(A)が4-メチル-5-チアゾールエタノールである場合、4-メチル-5-チアゾールエタノールと成分(E)との重量比(A)/(E)は、0.001〜0.5、特に0.01〜0.1が好ましい。成分(A)がp-メンタン-8-チオール-3-オンである場合、p-メンタン-8-チオール-3-オンと成分(E)との重量比(A)/(E)は、0.0001〜0.01、特に0.001〜0.01が好ましい。
【0029】
〔その他の香料成分〕
本発明のマンゴー様香料組成物は、基剤との相性や用途に応じて、マンゴー様香気の特徴を維持する限り、その他の香料成分を含有することができ、ナチュラル感、爽やかさ、ソフト感、ボリューム感、持続性等を付与することができる。またマンゴーの成分として検出されているジメチルジスルフィドやジイソプロピルジスルフィド等を併用してもよい。その他、本発明のマンゴー様香料組成物において更に含有することができる香料成分としては、以下に示す化合物が挙げられる。
【0030】
成分(A)〜成分(E)で構成された組成物をバランスよくソフトにまとめ、かつ持続性を与える保留的効果をもつ成分として、フェノキシエチルイソブチレート、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルフェニルアセテート、リナロール、メチルジヒドロジャスモネート、ヒドロキシシトロネロール等が挙げられる。
【0031】
トロピカル感を付与する含硫黄化合物、含窒素化合物として、2-メチル-4-プロピル-1.3-オキサチアン、2,4,4,7-テトラメチル-6,8-ノナジエン-3-オン-オキシム(Givaudan社商品名:ラビエノキシム)、ビシクロ[3.2.1]オクテン-8-オン-1,5-ジメチル-オキシム(Symrise社商品名:ブッコキシム)が挙げられる。
【0032】
フレッシュなグリーン素材として、ヘキシルアセテート、cis-3ヘキセニルアセテート、n-ヘキサナール、n-ヘキサノール、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド(IFF社商品名:ヘリオナール)、7-メチル-3,5-ジヒドロ-2H-ベンゾジオキセピン-3-オン(Danisco社商品名:キャロン)、p-エチルジメチルヒドロシンナミックアルデヒド(IFF社商品名:フロラロゾン)が挙げられる。
【0033】
軽やかな甘さのある香料素材として、o-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、エチルカプロエート、エチル 2-メチルブチレート等が、リッチな甘さのある香料素材として、γ-オクタラクトン、γ-ノナラクトン、δ-デカラクトン、5-メチル-5-プロピル-2-(1-メチルブチル)-1,3ジオキサン(花王社商品名:トロエナン)、マルトール、エチルマルトール、クマリン、ラブダナム、サンダル、ムスク類が、フローラルなソフトさを与える香料素材として、ヘキシルシンナミックアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒド、エチルリナロール、ゲラニオール、ベンジルアセテート等が、芳醇さを付与する香料素材として、酢酸、酪酸、ヘキサン酸等の脂肪酸が挙げられる。
【0034】
〔溶剤〕
本発明の香料組成物には、溶剤を使用することもでき、例えばジプロピレングリコール、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、エチルジグリコール等が挙げられる。
【0035】
〔用途〕
本発明のマンゴー様香料組成物は、香水類、化粧品、香粧品、ハウスホールド製品、環境衛生製品、芳香消臭剤等に用いられる香料であるフレグランス用香料や、食品、飲料等に用いられる香料であるフレーバー用香料として使用できる。
【0036】
本発明の香料組成物は、単独で、又は他の香料組成物に配合して使用することができる。香料組成物に添加して使用する場合には、マンゴー様香気の特徴を維持し、その製品カテゴリーの香りとして受け入れられる範囲内で、0.01〜90質量%使用することができる。
【0037】
フレグランス用香料に配合して使用する場合には、フェニルエチルアルコール、シトロネロール、エチルリナロール、テトラヒドロリナロール、リナリルアセテート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヨノン、メチルヨノン、p-t-ブチル-α-メチルヒドロシンアミックアルデヒド(Givaudan社商品名:リリアール)、4-(4-ヒドロキシ-4-メチル-ペンチル)-3-シクロヘキセン-1-カルボキシアルデヒド(IFF社商品名:リラール)、4-メチル-2-(2-メチル-プロピル)テトラヒドロ-2H-4-ピラノール(Quest社商品名:フロローザ)、7-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7テトラメチルナフタレン(IFF社商品名:イソ・イー・スーパー)、p-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、4,6,6,7,8,8-ヘキサメチル-1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロシクロペンタベンゾピラン(IFF社商品名:ガラクソライド)、オキサシクロヘキサデセン-2-オン(Firmenich社商品名:ハバノライド)、シクロペンタデカノリド、3α,6,6,9α-テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1-b]フラン(花王社商品名:アンブロキサン)、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール(花王社商品名:サンダルマイソールコア)、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール(IFF社商品名:バクダノール)、アセチルセドレン等と組み合わせて使用することができる。
【0038】
フレーバー用香料に配合して使用する場合には、フルーティなエステル、ラクトンや芳醇さを付与する脂肪酸等の配合量を多くし、コスメティックな印象を与えるフローラル等の素材を少なめに配合して、各素材の配合比を調整して使用することができる。
【実施例】
【0039】
実施例1〜7
表1に示すマンゴー様香料組成物を調製し、その香気を評価した。香りの評価は下記の基準で行い、その結果を表1に示す。
【0040】
◎:優れたマンゴー様香気を有する
○:マンゴー様香気を有する
△:やや、マンゴー様香気を有する
×:マンゴー様香気を有しない
【0041】
【表1】

【0042】
比較例1
表2に示す、従来知られているマンゴータイプの香料組成物(特許文献4)についても、前記と同様の基準に従って香気を評価した。この香料組成物は、ややマンゴー様香気を有しているが、ナチュラル感が不足していた。
【0043】
比較例に比べて、実施例1〜7では、マンゴー様香気を有することが確認できた。また、成分(A)と成分(B)に加え、更に成分(C)を併用することで、若々しいナチュラル感に優れたマンゴー様香気を有することが確認できた(実施例3,4)。更に、成分(D)又は成分(E)を併用することで、完熟したナチュラル感に優れたマンゴー様香気を有することが確認できた(実施例5〜7)。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例8
表3に示すシャンプー用香料組成物900質量部に、実施例6のマンゴー様香料組成物100質量部を配合した。この香料をシャンプー用基剤に0.8質量%添加した結果、洗髪中、洗髪後においてナチュラル感に優れたマンゴー様の香りを有していた。
【0046】
【表3】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)及び(B)を含有するマンゴー様香料組成物。
(A):4-メチル-5-チアゾールエタノール及びp-メンタン-8-チオール-3-オンから選ばれる1種以上
(B):7-デセン-1,4-ラクトン、γ-デカラクトン及びγ-ウンデカラクトンから選ばれる1種以上
【請求項2】
更に、成分(C)を含有する請求項1記載のマンゴー様香料組成物。
(C):シス-3-ヘキセノール、シス-3-ヘキセニルメチルカーボネート、ジメチル-3-シクロヘキセニル-1-カルボキシアルデヒド及び2,4,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-カルボキシアルデヒドから選ばれる1種以上
【請求項3】
更に、成分(D)又は成分(E)を含有する請求項1又は2記載のマンゴー様香料組成物。
(D):ダマセノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、δ-ダマスコン及びイソダマスコンから選ばれる1種以上
(E):エチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-2-カルボキシレート


【公開番号】特開2008−50464(P2008−50464A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227968(P2006−227968)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】