説明

香気成分の制御方法及び散逸防止方法

【課題】液状食品の真空脱気処理において、液状食品からの香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法により製造された液状食品を提供する。
【解決手段】液状食品の真空脱気処理において、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を制御することにより香気成分の散逸量を制御。これにより、液状食品の溶存酸素濃度を低下させると同時に、香気成分の散逸量を制御することのできる香気成分の制御方法及びその制御方法により製造された液状食品を提供することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状食品の真空脱気処理において、液状食品からの香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法により製造された液状食品に関する。より詳しくは、液状食品の真空脱気処理において、液状食品の気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値を制御して、溶存酸素濃度を低下させると同時に、香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法により製造された液状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
液状食品(飲料など)を真空脱気したり、減圧濃縮したりする場合には従来、その効率を高める目的で液状食品を所定の温度とし、薄膜化したり、微粒化したりしていた。つまり、一般的には処理液の温度が高く、薄膜化の厚さ(液厚)が薄い程あるいは微粒化の大きさ(粒径)が小さい程、処理液を脱気(気体の分離)しやすく、濃縮(液体の分離)しやすくなる。ただし、この様な真空脱気処理や減圧濃縮処理では、液状食品からの香気成分の散逸は避けられなかった。
【0003】
これに対して従来技術では、液状食品の微粒化の大きさ(粒径)や温度を制御したり、真空ラインや気液の境界面に膜分離法を適用(フィルタを設置)したりして、香気成分の散逸を防止しようとしている。
【0004】
しかしながら、これらの従来技術では、処理液の微粒化の大きさ(粒径)、処理液の温度、分離膜の種類等と、実際に散逸が防止(トラップ)される香気成分の種類との関係について実験的に証明されておらず、あくまで概念的な記述だけのものが多かった。つまり、香気成分が散逸しない具体的な条件が不明確であり、香気成分の種類によっては散逸を防止(トラップ)できない可能性があった。科学的な実験結果に裏付けされ、かつ処理効率の高い効果的な液状食品からの香気成分の制御方法や散逸防止方法は従来、存在しなかった。
【0005】
特開2001−009206(特許文献1)には、垂直回転軸を中心にして分散盤を多段に配設して、真空チャンバー内で高速回転させ、遠心力により処理液を分散させて、気泡類を脱泡・脱気する装置が記載されている。ここでは、処理液を遠心力により分散して微粒化し、脱泡・脱気した後に、さらに、この微粒化した処理液を真空チャンバーの内壁面に叩き付けて、気泡を破壊しつつ薄膜化し、脱泡・脱気している。このことにより装置全体を大型化することなく、処理液と真空との接触面積を大きくして脱泡率を高めている。しかし、香気成分の散逸までは言及しておらず、液体中の気体と共に香気成分がチャンバー外に流出する可能性がある。
【0006】
特開2005−304390(特許文献2)には、飲料を加圧噴霧して、平均粒子径が50μm以上、1000μm以下となる様に微粒化し、減圧雰囲気に曝すことにより、飲料中の溶存酸素濃度を低下させる装置および方法が記載されている。ここでは、飲料の温度を凍結点以上、20℃以下にして処理することや、香味成分や風味成分が散逸しない(トラップされる)ことなどの記載がある。ただし、微粒化した飲料の平均粒子径や温度と、実際にトラップされる香味成分や風味成分の種類との関係にまでは言及しておらず、香気成分の種類によってはトラップできない可能性がある。
【0007】
特開平05−103646(特許文献3)には、食品原料中の溶存気体の真空脱気操作において、必要な水分及び有価成分(特に香気成分等の揮発成分)の損失を防止し、不必要な溶存気体のみ除去する方法が記載されている。ここでは、脱気操作により香気成分等が散逸することを前提としており、食品原料の種類に応じて適宜、膜フィルタ(平板状及び中空糸状フィルタ)を選択することとなる。トラップされた有価成分は密閉容器内に残り、食品原料に再混入し次工程に送られるため、確かに香気成分は食品原料中に保持されることとなる。ただし、有価成分のトラップに有効な分離膜の選定基準や、実際にトラップされる食品原料や有価(香気)成分の種類にまでは言及しておらず、分子サイズ(分子量)の小さい香気成分に関してはトラップできない可能性がある。
【0008】
特開平07−080205(特許文献4)には、気体透過膜内に液体、膜外に気体を封入し、分圧差を利用して液体に溶存する特定の気体を減少させる方法が記載されている。ここでは、気体平衡による香気成分の散逸までは言及しておらず、液体中の気体と共に香気成分が膜外に流出する可能性がある。
【0009】
特開平08−000209(特許文献5)には、配管内に多数の小孔を形成した空気吸引パイプを配設することにより、高粘性流体中の気泡を取り除く方法が記載されている。ここでは、脱気による香気成分の散逸までは言及しておらず、気泡と共に香気成分等が流出している可能性がある。
【0010】
前記した通り、従来技術では、真空脱気や減圧濃縮などにおいて、その効率を高めたり、液状食品の溶存酸素濃度を低下させたり、液状食品からの香気成分の散逸を防止したりするために、単に薄膜化すれば良い、単に微粒化すれば良い、単に低温にすれば良い、単に分離膜を用いれば良いなどと考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−009206号公報
【特許文献2】特開2005−304390号公報
【特許文献3】特開平05−103646号公報
【特許文献4】特開平07−080205号公報
【特許文献5】特開平08−000209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術に残されていた課題を鑑みてなされたものであり、液状食品の真空脱気処理において、液状食品からの香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法を用いて製造した液状食品を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、液状食品の真空脱気処理において、液状食品の気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値を制御して液状食品の溶存酸素濃度を低下させると同時に、香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法を用いて製造した液状食品を提供することを目的とする。
【0014】
更に、本発明は、液状食品の真空脱気処理において、膜分離法を組み合わせて用いて溶存酸素濃度を低下させると同時に、香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法を用いて製造した液状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、液状食品の真空脱気処理において、液状食品からの香気成分の散逸量を制御する因子には、真空脱気処理の工程中における液状食品の気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)があるとの知見を見出し、本発明を完成するに至った。また、前記の真空脱気処理に膜分離法を組み合わせることが有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
なお、本明細書において、真空脱気処理の対象となっている液状食品の「気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値」とは、「薄膜化した液状食品の厚さ」、あるいは「微粒化した液状食品の大きさ」とも表現できるものである。
【0017】
真空脱気処理(工程)や減圧濃縮処理(工程)では、このような処理の対象となっている処理液から気体や液体を効率的に分離する目的で処理液を所定の温度とし、薄膜化や微粒化して処理を行うことが多い。
【0018】
つまり、一般的には処理液の温度が高く、薄膜化した液状食品の厚さ(液厚)が薄い程、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)が小さい程、処理液を脱気(気体の分離)しやすく、また、濃縮(液体の分離)しやすくなる。
【0019】
これらの際に、香気成分の散逸も処理液の温度や、処理液の気相と接する表面積で処理液の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、微粒化した液状食品の大きさに依存することが考えられる。
【0020】
ただし、この温度や、薄膜化した液状食品の厚さ、微粒化した液状食品の大きさと、香気成分の散逸量との関係を定量的に検討した事例はなかった。
【0021】
さらに、気体分離膜の種類(孔経など)と香気成分の散逸量との関係を定量的に検討した事例もなかった。
【0022】
本発明の特徴は、液状食品の真空脱気処理において、液状食品の気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を変えることで、香気成分の散逸量をも変えることができるという発明概念を創出し、これを実験事実で確認したことである。
【0023】
そして、この真空脱気処理と膜分離法を組み合せることにより、さらに香気成分の散逸量を様々に変えることができるという発明概念の創出と、その実験事実での確認である。
【0024】
つまり、液状食品の真空脱気処理において、液状食品の気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を様々に変えて、香気成分の散逸量を制御することが本発明の最大の特徴である。
【0025】
真空脱気処理や減圧濃縮処理により香気成分が散逸する要因には、このような処理の対象になっている処理液が気相と接触する表面部分の面積(表面積)と、体積との割合(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)が大きく影響する。
【0026】
例えば、香気成分が必要(有用)なものであれば、処理液の温度を低くし、薄膜化した液状食品の厚さを大きくする、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を大きくすることにより香気成分の散逸を防止することが可能となる。
【0027】
このとき、真空脱気処理や減圧濃縮処理に膜分離法を組み合わせて用い、香気成分の大きさに合わせて、前記膜分離法に使用する分離膜の孔径や材質を選択することにより、より効率的に香気成分の散逸を防止することが可能となる。
【0028】
一方、香気成分が必要でなければ、処理液の温度を高くし、薄膜化した液状食品の厚さを小さくする、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を小さくすることにより香気成分の散逸を促進することが可能となる。
【0029】
これら処理液の温度や、薄膜化した液状食品の厚さ、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を制御しながら、所定量の香気成分だけが散逸する条件で真空脱気処理や減圧濃縮処理することにより、従来とは異なる風味的な優位性を持った液状食品を製造することが可能となる。
【0030】
そして、この温度と、薄膜化した液状食品の厚さ、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を制御した真空脱気処理や減圧濃縮処理に膜分離法を組み合わせることにより、さらに効率的に、必要な香気成分だけを選択的に保持したり、必要でない香気成分だけを選択的に散逸させたりすることが可能となる。
【0031】
従来の真空脱気処理(工程)や減圧濃縮処理(工程)には、溶存酸素濃度が低下したり、熱履歴が減少したりすることにより、加熱臭が少なく保存性が高い液状食品を製造できるという利点(メリット)がある一方で、香気成分が散逸するという欠点(デメリット)があり、これらの処理が敬遠されることもあった。
【0032】
本発明では、適度に香気成分の散逸を防止できるため、従来とは異なる風味的な優位性を持った食品の製造が可能となる。
【0033】
すなわち、本願の請求項1記載の発明は、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値を制御して真空脱気処理することを特徴とする液状食品の香気成分の制御方法、
請求項2記載の発明は、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値を1mm〜120mmとすることを特徴とする請求項1に記載の液状食品の香気成分の制御方法、
請求項3記載の発明は、真空脱気処理後の液状食品の溶存酸素濃度を0.5ppm〜5ppmとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の液状食品の香気成分の制御方法、
請求項4記載の発明は、真空脱気処理に膜分離法を組み合わせて用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状食品の香気成分の制御方法、
請求項5記載の発明は、膜分離法に気体分離膜を用いることを特徴とする請求項4に記載の液状食品の香気成分の制御方法、
請求項6記載の発明は、真空脱気処理を行う液状食品の温度を1℃〜35℃とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の液状食品の香気成分の制御方法、
請求項7記載の発明は、液状食品が乳製品であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液状食品の香気成分の制御方法、そして、
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の液状食品の香気成分の制御方法を用いて製造した液状食品である。
【0034】
本明細書において「液状食品」には、飲料などの最終製品のみだけではなく、中間製品などの加工処理の途中段階において流動性を持った液状を呈する食品あるいは原料素材なども含まれる。
【0035】
本明細書において「乳製品」とは、生乳(原乳)、牛乳、全脂乳、脱脂乳、成分調整牛乳、加工乳、濃縮乳、流動食、栄養食品、クリーム、ヨーグルトミックス、アイスクリームミックス、ホエイなどの乳成分を含む液体のことをいい、これらの「乳製品」は、加熱処理前のものでも、加熱処理後のものでも良い。
【0036】
本明細書において「液状食品の気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値」とは、前記した通り、「薄膜化した液状食品の厚さ」、あるいは「微粒化した液状食品の大きさ」などに相当し、液状食品の表面積と液状食品の体積との割合を意味している。一般的に、この数値が小さい程、処理液を脱気(気体の分離)しやすく、濃縮(液体の分離)しやすくなる。
【0037】
なお、液状食品の真空脱気処理を行う圧力容器が、図1図示のように、所定の小径で所定の高さ有する空洞部の上に、前記の小径より大きな大径で、所定の高さを有する空洞部が連結されて構成され、かかる構成からなる圧力容器の上部に真空装置(真空ポンプなど)や置換気体(窒素ガスボンベなど)へ接続できる配管(パイプ)が設けられている形態の場合、前記の「液状食品の気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値」は、「上側の大径の部分に収容されている液状食品の体積を、当該液状食品の気相と接する表面積で除した数値」となる。
【0038】
液状食品の真空脱気処理を行う圧力容器が、図1図示のような形態の場合、「上側の大径の部分に収容されている液状食品の体積を、当該液状食品の気相と接する表面積で除した数値」を制御して真空脱気処理することで、液状食品の香気成分の制御が可能であると考えられるからである。
【0039】
また、真空脱気処理(工程)や減圧濃縮処理(工程)において真空状態を作る装置(真空装置)としては、一般的に、真空ポンプやアスピレーターなどを例示できる。
【発明の効果】
【0040】
本願の発明者らが、後記した実施例の通り、所定の温度と所定の液量で容器(タンク)へ液状食品(牛乳)を充填し、この液状食品を本発明の方法により真空脱気処理したところ、溶存酸素濃度が十分に低下していたにも拘わらず、液状食品から香気成分が散逸していなかった。具体的には、液状食品の真空脱気処理の前後で、香気成分(におい)を分析した結果、真空脱気処理の前後で、総香気成分量が変わらなかった。この現象を解明するため、液状食品を本発明の方法により真空脱気処理し、溶存酸素濃度が十分に低下した状態について、さらに様々な実験条件で検討したが、真空脱気処理の前後で、総香気成分量が変わらなかった。
【0041】
さらなる実験的な検討を進め、後記した実施例の通り、液状食品を模擬的に薄膜化して本発明の方法により真空脱気処理し、におい分析した結果、真空脱気処理の前後で、総香気成分量が変わっていた。この結果を基にして、詳細な検討を行い、液状食品の真空脱気処理において、液状食品からの香気成分の散逸量を制御する因子には、真空脱気処理の工程中における液状食品の気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値があるとの知見を見出した。そして、この因子を制御することにより、香気成分の散逸量を制御することができるとの知見を見出し、適度に香気成分の散逸を防止した、従来とは異なる風味的な優位性を持った食品を安定して製造することが可能となった。
【0042】
また、前記の真空脱気処理に膜分離法を組み合わせることが有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0043】
本発明によれば、液状食品の真空脱気処理において、液状食品からの香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法を用いて製造した液状食品を提供できる。
【0044】
また、本発明によれば、液状食品の真空脱気処理において、液状食品の気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を制御して液状食品の溶存酸素濃度を低下させると同時に、香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法を用いて製造した液状食品を提供できる。
【0045】
更に、本発明によれば、液状食品の真空脱気処理において、膜分離法を組み合わせて用いて溶存酸素濃度を低下させると同時に、香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法を用いて製造した液状食品を提供することができる。
【0046】
また、本発明によれば、液状食品の真空脱気処理において、香気成分の種類に応じて処理液の温度、液状食品の気相と接する表面積で液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を所定値に制御しつつ、様々な孔径の気体分離膜を用いることにより、選択的に香気成分を分離したり、散逸を防止したりすることを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法により製造された液状食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】真空脱気処理において液状食品を直に入れた場合の圧力容器の概略図である。
【図2】真空脱気処理において液状食品をシャーレに入れて薄膜化した場合の圧力容器の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
本発明の液状食品の香気成分の制御方法は、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を制御して真空脱気処理することを特徴とする。
【0049】
液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)が大きすぎると、真空脱気処理により液状食品から香気成分は散逸しにくくなり、液状食品の溶存酸素濃度は低下しにくくなる。
【0050】
一方、これらが小さすぎると、真空脱気処理により液状食品から香気成分は散逸しやすくなり、液状食品の溶存酸素濃度は低下しやすくなる。
【0051】
つまり、液状食品の香気成分を散逸させずに保持しつつ、溶存酸素濃度を低下させたい場合には、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)が大きくなるように制御することが好ましいが、真空脱気処理の処理時間を長くする必要がある。
【0052】
このとき、後述する実施例に示した通り、真空脱気処理の処理時間を長くし、溶存酸素濃度が十分に低下しても香気成分は殆ど散逸しなかった。
【0053】
一方、液状食品の香気成分を積極的に散逸させて脱臭したり、効率的に溶存酸素濃度を低下させたい場合には、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)が小さくなるように制御することが好ましく、真空脱気処理の処理時間を短くしても溶存酸素濃度を低下させることが可能となる。
【0054】
このとき、後述する実施例に示した通り、真空脱気処理の処理時間を長くし、溶存酸素濃度が十分に低下しても香気成分の一部は散逸せずに保持されていた。
【0055】
本発明の液状食品の香気成分の制御方法は、例えば殺菌工程や濃縮工程などを想定した場合に、処理前、処理中、処理後などのいずれにおいても適用が可能である。
【0056】
本発明の液状食品の香気成分の制御方法は、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)を1mm〜120mmに制御して真空脱気処理することを特徴とする。
【0057】
液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)は制御できる大きさ(範囲)であれば、その下限値や上限値は特に限定されないが、好ましくは1mm〜120mm、より好ましくは1mm〜20mm、さらに好ましくは1mm〜10mmである。
【0058】
120mmよりも大きいと、真空脱気処理により液状食品から香気成分は散逸しにくくなるが、液状食品の溶存酸素濃度は低下しにくくなり、溶存酸素濃度を低下させるための効率は悪くなる。
【0059】
一方、1mmよりも小さいと、真空脱気処理により液状食品の溶存酸素濃度は低下しやすくなるが、香気成分は散逸しやすくなり、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)の安定した制御も困難となる。
【0060】
これらを考慮して、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)の好ましい範囲は1mm〜120mm、より好ましい範囲は1mm〜20mm、さらに好ましい範囲は1mm〜10mmである。
【0061】
本発明の液状食品の香気成分の制御方法は、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を制御して真空脱気処理する、あるいは、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)を1mm〜120mmに制御して真空脱気処理する場合において、真空脱気処理後の液状食品の溶存酸素濃度を0.5ppm〜5ppmとすることを特徴とする。
【0062】
本発明は、溶存酸素濃度を低下させると同時に、液状食品に香気成分を保持したり、液状食品から香気成分を分離したりすることが可能である。そして、液状食品の酸化反応などを十分に防止するために、真空脱気処理後の液状食品の溶存酸素濃度を好ましくは0.5ppm〜5ppm、より好ましくは1ppm〜5ppm、さらに好ましくは1ppm〜3ppmの範囲に制御するものである。
【0063】
本発明が提案する他の液状食品の香気成分の制御方法は、以上に説明した本発明の液状食品の香気成分の制御方法において、真空脱気処理に膜分離法を組み合わせて用いることを特徴とする。
【0064】
前述したように、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)が大きすぎると、真空脱気処理により液状食品から香気成分は散逸しにくくなるが、液状食品の溶存酸素濃度は低下しにくくなる。一方、これらが小さすぎると、真空脱気処理により液状食品の溶存酸素濃度は低下しやすくなるが、液状食品から香気成分が散逸しやすくなる。
【0065】
このとき、真空脱気部分に膜分離法を用いることにより、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を小さくし、溶存酸素濃度を低げやすい状態にして、香気成分を散逸させにくくしたり、保持したりすることが可能となる。
【0066】
そして、分離膜の細孔径や材質を適宜、選択することにより、香気成分の選別も可能となる。
【0067】
また、香気成分を選別する際には、膜分離法に気体分離膜を用いることが望ましく、その細孔径として好ましくは1nm〜100nm、より好ましくは1nm〜50nm、さらに好ましくは1nm〜10nmである。
【0068】
以上に説明した本発明の液状食品の香気成分の制御方法において、真空脱気処理を行う液状食品の温度は所定の範囲であれば、その下限値や上限値は特に限定されないが、真空脱気処理を行う液状食品の温度を1℃〜35℃に制御して適用することが可能である。
【0069】
液状食品を高温にすると、真空脱気処理を行わなくても香気成分が自然に揮発し、散逸しやすくなるため、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)により香気成分の散逸量を制御することが困難となる。
【0070】
一方、液状食品を低温にすると、香気成分が自然に散逸しにくくなるため、真空脱気処理を行う際に、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)により香気成分の散逸量を制御しやすくなる。
【0071】
これらを勘案すると、真空脱気処理を行う液状食品の温度は、好ましくは1℃〜35℃、より好ましくは2℃〜30℃、さらに好ましくは3℃〜25℃である。
【0072】
以上に説明した本発明の液状食品の香気成分の制御方法は、液状食品であれば、その種類や粘度などは特に限定されないが、乳製品などに適用可能である。乳製品は香気成分が風味へ強く影響しやすいため、本発明の方法によって香気成分を意図的に散逸させたり、保持したりすることにより、従来とは異なる風味的な優位性を持った乳製品の製造が可能となる。そして、この乳製品は液状食品に限らず、様々な食品原料として用いることもできる。
【0073】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0074】
(圧力容器へ牛乳を直に入れて真空脱気処理した場合の香気成分の変化)
圧力容器(タンク)へ牛乳を直に入れて真空脱気処理した場合の香気成分を処理前後で比較した。
【0075】
装置の概略は図1に示した通りである。圧力容器の内部は直径 46mm、高さ 140mmの空洞の上に、直径 96mm、高さ 250mmの空洞がある構造となっており、圧力容器の上部に真空装置(真空ポンプなど)や置換気体(窒素ガスボンベなど)へ接続できる配管(パイプ)が設けられている。
【0076】
図1に示した通り、この圧力容器へ牛乳を直に体積 1000mL、温度 10℃で充填した。
【0077】
このとき、牛乳の液厚(真空雰囲気と接する牛乳の表面積で牛乳の体積を除した数値)は最深部で250mm程度、最浅部で110mm程度となる。
【0078】
なお、以下、本明細書において、「真空雰囲気と接する牛乳の表面積で牛乳の体積を除した数値」を単に「液厚」と表すことがある。
【0079】
また、最深部の液厚とは、図1図示の形態の圧力容器において、直径 46mm、高さ 140mmの部分の体積も勘案した際の数値であり、最浅部の液厚とは、図1図示の形態の圧力容器において、直径 96mm、高さ 250mmの部分の体積のみを勘案した際の数値である。
【0080】
初めに、圧力容器を密閉させて真空装置により圧力容器内を−720mmHgとして、その状態を10分間保持し、真空脱気処理した。次に、圧力容器を密閉させた状態で置換気体(窒素)により圧力容器内を常圧とした。溶存酸素濃度について真空脱気処理前は14ppm(温度 10℃)だったのに対して、真空脱気処理後は4ppm(温度 10℃)まで低下していた。
【0081】
溶存酸素濃度はポータブルDO計 DO-21P(東亜ディーケーケー(株)製)を用いて測定した。溶存酸素濃度は測定条件により幾らか測定値が不安定となるため、以下の方法により測定した。すなわち、(1) 測定する流体(原料乳)をスターラーを用いて撹拌し、流速を10 cm/秒以上とした。(2) この撹拌した原料乳へDO計の電極を入れ、約3分後の安定した数値を読み取った。本方法により再現性のある測定値が得られた。
【0082】
液状食品の香気成分は以下に示した、固相マイクロ抽出法(SPME法)を用いて面積値により評価した。(1) 試料(容量:10mL)をバイアルビン(容量:20mL)に採取し、内標準物質としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を添加して密封する。(2) バイアルビンを温度60℃、保持時間40分で加温処理する。(3) バイアルビンのヘッドスペースに存在する「香気(におい)成分」を固相マイクロファイバー(85μm Stable Flex Carboxen/PDMS)により抽出する。(4) GC/MS(カラム:CP-WAX)により分析する。(5) 香気成分を定量するために、標準品を液状食品へ添加し、内標準物質のメチルイソブチルケトン(MIBK)で標準化した検量線を作成する。
【0083】
固相マイクロ抽出法では、揮発性の「香気成分」を高感度で迅速に分析できるが、その定量性が問題視されていた。本方法により迅速な定量分析が可能となった。ただし、固相マイクロ抽出法では、マイクロファイバーや測定装置の状態(条件など)が測定値に大きく影響するため、対照(コントロール)との比較には適しているが、例えば測定日の異なる試料同士の比較は困難である。
【0084】
このため実験では、真空脱気処理前を対照(100%)として、真空脱気処理後と比較することにより、香気成分の散逸量を評価した。
【0085】
真空脱気処理前後における牛乳(液状食品)の香気成分の変化を表1に示した。主要な香気成分は真空脱気処理前を100%とすると処理後は99%となり、処理前後で同等な数値であった。今回の実験条件では、真空脱気処理により主要な香気成分は散逸しなかった。ここで主要な香気成分とは、アルデヒド類やケトン類などの揮発性の高い香気成分である。また、それぞれの表において、DMSはジメチルサルファイド、DMDSはジメチルジサルファイド、DMTSはジメチルトリサルファイドである。
【0086】
総香気成分は真空脱気処理前を100%とすると処理後は94%となり、処理後で幾らか減少していたが、同様な数値であった。今回の実験条件では、真空脱気処理により総香気成分は殆ど散逸しなかった。
【0087】
すなわち、最浅部の液厚を110mm程度とする今回の実験条件では、主要な香気成分や総香気成分などを散逸させずに、溶存酸素濃度を低下させることができた。
【表1】

【実施例2】
【0088】
(圧力容器へ牛乳を薄膜化して入れて真空脱気処理した場合の香気成分の変化)
圧力容器(タンク)へ牛乳を薄膜化して入れて真空脱気処理した場合の香気成分を処理前後で比較した。
【0089】
装置の概略は図2に示した通りである。図1と同様に、圧力容器の内部は直径 46mm、高さ 140mmの空洞の上に、直径 96mm、高さ 250mmの空洞がある構造となっており、圧力容器の上部に真空装置(真空ポンプなど)や置換気体(窒素ガスボンベなど)へ接続できる配管(パイプ)が設けられている。
【0090】
図2に示した通り、この圧力容器へ牛乳を模擬的に薄膜化して温度 10℃で充填した。
【0091】
以下、本明細書において、「牛乳を模擬的に薄膜化する」とは、所定の体積の牛乳をシャーレへ充填し、液厚(真空雰囲気と接する牛乳の表面積で牛乳の体積を除した数値)を調整することをいう。
【0092】
シャーレの内部は直径 86mm、高さ 13mmの空洞である。そして、このシャーレを何枚かで積み重ねた状態で圧力容器へ入れた。
【0093】
今回の実験では、シャーレ 1枚について牛乳を体積 10mL(液厚 2mm程度)として、シャーレ 7枚を積み重ね、それぞれシャーレ 7枚の全てに牛乳を入れた。
【0094】
初めに、圧力容器を密閉させて真空装置により圧力容器内を−720mmHgとして、その状態を30分間保持し、真空脱気処理した。次に、圧力容器を密閉させた状態で置換気体(窒素)により圧力容器内を常圧とした。このとき、シャーレの位置(何枚目か)により、牛乳からの香気成分の散逸量が変化する可能性もあったが、今回の実験では、シャーレ 1枚目(重ねたシャーレの1番下、最下段)の香気成分の散逸量を測定した。
【0095】
真空脱気処理前後における牛乳(液状食品)の香気成分の変化を表2に示した。主要な香気成分は真空脱気処理前を100%とすると処理後は25%となり、処理後で減少していた。実施例1とは異なり、今回の実験条件では、真空脱気処理により主要な香気成分は散逸した。
【0096】
総香気成分は真空脱気処理前を100%とすると処理後は69%となり、処理後で減少していた。実施例1とは異なり、今回の実験条件では、真空脱気処理により総香気成分は散逸した。すなわち、今回の実験条件では、主要な香気成分や総香気成分などを適度に散逸させつつ、真空脱気処理することができた。
【表2】

【実施例3】
【0097】
(圧力容器へ温度 10℃の牛乳を直に、又は薄膜化して入れ、牛乳の液厚を変えて真空脱気処理した場合と、さらに真空脱気部に分離膜を設置した場合の香気成分の変化)
圧力容器(タンク)へ牛乳を直に、又は薄膜化して入れて真空脱気処理した場合の香気成分を処理前後で比較した。装置の概略は図1と図2に示した通りである。
【0098】
このとき、真空脱気部に分離膜を設置した場合の香気成分も処理前後で比較した。
【0099】
実験条件3−1として、図1に示した通り、この圧力容器へ牛乳を直に体積 800mL、温度 10℃で充填した。このとき、牛乳の液厚は最深部で220mm程度、最浅部で80mm程度となる。
【0100】
実験条件3−2として、図2に示した通り、この圧力容器へ牛乳を模擬的に薄膜化して、シャーレ 1枚について体積 40mL(液厚 8mm程度)、温度 10℃で充填した。
【0101】
実験条件3−3として、図2に示した通り、この圧力容器へ牛乳を模擬的に薄膜化して、シャーレ 1枚について体積 10mL(液厚 2mm程度)、温度 10℃で充填した。
【0102】
実験条件3−4として、図2に示した通り、この圧力容器へ牛乳を模擬的に薄膜化して、シャーレ 1枚について体積 10mL(液厚 2mm程度)、温度 10℃で充填し、真空脱気部に分離膜を設置した。この分離膜は、公称細孔径 4nmの気体分離膜(水素分離膜)である。気体分離膜の具体的な材質などとして、分離層は公称細孔径 4nmのγ-アルミナ製、中間層は公称細孔径 60nmのα-アルミナ製、支持層は公称細孔径 0.7μmのα-アルミナ製である。気体分離膜の仕様などとして、膜長は400mm、チャンネル径は35mm、膜面積は1本あたり0.04m2である。今回の実験では、ハウジングに36本の膜を充填して使用した。
【0103】
今回の実験では、シャーレ 1枚のみを圧力容器に入れており、シャーレは積み重ねなかった。圧力容器を密閉させて真空装置により圧力容器内を−720mmHgとして、その状態を30分間保持し、真空脱気処理した。次に、圧力容器を密閉させた状態で窒素により圧力容器内を常圧とした。
【0104】
真空脱気処理前後における温度10℃の牛乳の香気成分の変化を表3に示した。主要な香気成分は真空脱気処理前を100%とすると、牛乳を直に体積 800mL(液厚の最浅部 80mm程度)、温度 10℃で充填した処理後は96%となり、処理前後で同等な数値であった。
【0105】
牛乳の液厚の最浅部 80mm程度、温度 10℃の場合では、真空脱気処理により主要な香気成分は散逸しなかった。
【0106】
牛乳をシャーレで薄膜化して体積 40mL(液厚 8mm程度)、温度 10℃で充填した処理後は、処理前を100%とすると73%となり、処理後で幾らか減少していた。
【0107】
牛乳をシャーレで薄膜化して体積 10mL(液厚 2mm程度)、温度 10℃で充填した処理後は、処理前を100%とすると30%となり、処理後で減少していた。
【0108】
このとき、牛乳の液厚 8mm程度、温度 10℃の処理後を100%とすると、液厚 2mm程度、温度 10℃の処理後は42%となり、牛乳(液状食品)の薄膜化の厚さ(液厚)を調整することにより、香気成分の散逸量を調整することができた。
【0109】
牛乳をシャーレで薄膜化して体積 10mL(液厚 2mm程度)、温度 10℃で充填し、真空脱気部に分離膜を設置した処理後は、処理前を100%とすると42%となり、処理後で減少していた。
【0110】
このとき、牛乳をシャーレで薄膜化して真空脱気部に分離膜を設置しない処理後を100%とすると、真空脱気部に分離膜を設置した処理後は138%となり、真空脱気部に分離膜を設置することにより、香気成分の散逸は抑制された。
【0111】
牛乳(液状食品)の薄膜化の厚さ(液厚)を調整し、真空脱気部に分離膜を設置して真空脱気処理することにより、香気成分の散逸量を調整することができた。
【0112】
すなわち、今回の実験条件では、牛乳(液状食品)の薄膜化の厚さを調整することにより、又は真空脱気部に分離膜を設置することにより、主要な香気成分を適度に散逸させつつ、真空脱気処理することができた。
【0113】
さらに、真空脱気処理の保持時間などを適宜、短縮したり、延長したりすることにより、香気成分の散逸量を調整できると考えられた。
【表3】

【実施例4】
【0114】
(圧力容器へ温度 20℃の牛乳を直に、又は薄膜化して入れ、牛乳の液厚を変えて真空脱気処理した場合と、さらに真空脱気部に分離膜を設置した場合の香気成分の変化)
圧力容器(タンク)へ牛乳を直に、又は薄膜化して入れて真空脱気処理した場合の香気成分を処理前後で比較した。装置の概略は図1と図2に示した通りである。
【0115】
このとき、真空脱気部に分離膜を設置した場合の香気成分も処理前後で比較した。
【0116】
実験条件4−1として、図1に示した通り、この圧力容器へ牛乳を直に体積 800mL、温度 20℃で充填した。このとき、牛乳の液厚(液状食品の体積/真空雰囲気と接触している表面積)は最深部で220mm程度、最浅部で80mm程度となる。
【0117】
実験条件4−2として、図2に示した通り、この圧力容器へ牛乳を模擬的に薄膜化して、シャーレ 1枚について体積 40mL(液厚 8mm程度)、温度 20℃で充填した。
【0118】
実験条件4−3として、図2に示した通り、この圧力容器へ牛乳を模擬的に薄膜化して、シャーレ 1枚について体積 10mL(液厚 2mm程度)、温度 20℃で充填した。
【0119】
実験条件4−4として、図2に示した通り、この圧力容器へ牛乳を模擬的に薄膜化して、シャーレ 1枚について体積 10mL(液厚 2mm程度)、温度 20℃で充填し、真空脱気部に分離膜を設置した。この分離膜は、公称細孔径 4nmの気体分離膜(水素分離膜)である。気体分離膜の具体的な材質や仕様などは、実施例3と同等である。
【0120】
今回の実験では、シャーレ 1枚のみを圧力容器に入れており、シャーレは積み重ねなかった。
【0121】
圧力容器を密閉させて真空装置により圧力容器内を−720mmHgとして、その状態を30分間保持し、真空脱気処理した。次に、圧力容器を密閉させた状態で窒素により圧力容器内を常圧とした。
【0122】
真空脱気処理前後における温度20℃の牛乳の香気成分の変化を表4に示した。主要な香気成分は真空脱気処理前を100%とすると、牛乳を直に体積 800mL(液厚の最浅部 80mm程度)、温度 20℃で充填した処理後は100%となり、処理前後で同等な数値であった。
【0123】
牛乳の液厚の最浅部 80mm程度、温度 20℃の場合では、真空脱気処理により主要な香気成分は散逸しなかった。
【0124】
牛乳をシャーレで薄膜化して体積 40mL(液厚 8mm程度)、温度 20℃で充填した処理後は、処理前を100%とすると64%となり、処理後で幾らか減少していた。
【0125】
このとき、牛乳の液厚 8mm程度、温度 10℃の処理後を100%とすると、液厚 8mm程度、温度 20℃の処理後は88%となり、牛乳(液状食品)の温度を調整することにより、香気成分の散逸量を調整することができた。
【0126】
牛乳をシャーレで薄膜化して体積 10mL(液厚 2mm程度)、温度 20℃で充填した処理後は、処理前を100%とすると27%となり、処理後で減少していた。
【0127】
このとき、牛乳の液厚 2mm程度、温度 10℃の処理後を100%とすると、液厚 2mm程度、温度 20℃の処理後は88%となり、牛乳(液状食品)の温度を調整することにより、香気成分の散逸量を調整することができた。
【0128】
また、このとき、牛乳の液厚 8mm程度、温度 20℃の処理後を100%とすると、液厚 2mm程度、温度 20℃の処理後は42%となり、牛乳(液状食品)の薄膜化の厚さ(液厚)を調整することにより、香気成分の散逸量を調整することができた。
【0129】
牛乳をシャーレで薄膜化して体積 10mL(液厚 2mm程度)、温度 20℃で充填し、真空脱気部に分離膜を設置した処理後は、処理前を100%とすると36%となり、処理後で減少していた。
【0130】
このとき、牛乳の温度 10℃で真空脱気部に分離膜を設置した処理後を100%とすると、温度 20℃で真空脱気部に分離膜を設置した処理後は86%となり、牛乳(液状食品)の温度を調整することにより、香気成分の散逸量を調整することができた。
【0131】
また、このとき、牛乳をシャーレで薄膜化して真空脱気部に分離膜を設置しない処理後を100%とすると、真空脱気部に分離膜を設置した処理後は135%となり、真空脱気部に分離膜を設置することにより、香気成分の散逸は抑制された。牛乳(液状食品)の薄膜化の厚さ(液厚)を調整し、真空脱気部に分離膜を設置して真空脱気処理することにより、香気成分の散逸量を調整することができた。
【0132】
すなわち、今回の実験条件では、牛乳(液状食品)の薄膜化の厚さを調整することにより、又は真空脱気部に分離膜を設置することにより、さらに牛乳(液状食品)の温度を調整することにより、主要な香気成分を適度に散逸させつつ、真空脱気処理することができた。さらに、真空脱気処理の保持時間などを適宜、短縮したり、延長したりすることにより、香気成分の散逸量を調整できると考えられた。
【表4】

【実施例5】
【0133】
(圧力容器へ乳飲料を直に入れて真空脱気処理した場合の香気成分の変化)
圧力容器(タンク)へ乳飲料(牛乳とは異なる乳製品)を直に入れて真空脱気処理した場合の香気成分を処理前後で比較した。
【0134】
図1に示した通り、この圧力容器へ乳飲料を直に体積 1000mL、温度 30℃で充填した。このとき、乳飲料の液厚は最深部で250mm程度、最浅部で110mm程度となる。
【0135】
初めに、圧力容器を密閉させて真空装置により圧力容器内を−720mmHgとして、その状態を10分間保持し、真空脱気処理した。次に、圧力容器を密閉させた状態で置換気体(窒素)により圧力容器内を常圧とした。溶存酸素濃度について真空脱気処理前は8ppm(温度 30℃)だったのに対して、真空脱気処理後は2ppm(温度 30℃)まで低下していた。
【0136】
主要な香気成分は真空脱気処理前を100%とすると処理後は60%となり、処理後で減少していた。総香気成分は真空脱気処理前を100%とすると処理後は69%となり、処理後で減少していた。
【0137】
すなわち、今回の実験条件では、主要な香気成分や総香気成分などを適度に散逸させつつ、溶存酸素濃度を低下させることができた。
【実施例6】
【0138】
(圧力容器へオレンジジュースを直に入れて真空脱気処理した場合の香気成分の変化)
圧力容器(タンク)へオレンジジュース(乳製品とは異なる飲料)を直に入れて真空脱気処理した場合の香気成分を処理前後で比較した。
【0139】
図1に示した通り、この圧力容器へオレンジジュースを直に体積 1000mL、温度 30℃で充填した。このとき、オレンジジュースの液厚は最深部で250mm程度、最浅部で110mm程度となる。
【0140】
初めに、圧力容器を密閉させて真空装置により圧力容器内を−720mmHgとして、その状態を10分間保持し、真空脱気処理した。次に、圧力容器を密閉させた状態で置換気体(窒素)により圧力容器内を常圧とした。溶存酸素濃度について真空脱気処理前は11ppm(温度 30℃)だったのに対して、真空脱気処理後は3ppm(温度 30℃)まで低下していた。
【0141】
総香気成分は真空脱気処理前を100%とすると処理後は80%となり、処理後で減少していた。すなわち、今回の実験条件では、主要な香気成分や総香気成分などを適度に散逸させつつ、溶存酸素濃度を低下させることができた。
【0142】
今回の各種の実験では、主要な香気成分、総香気成分、トップの香気成分などについて検討したが、個別の香気成分についても同様な検討が可能である。そして、これら個別の香気成分について詳細に検討することにより、液状食品の風味や物性を任意に制御できると考えられる。
【0143】
液状食品の薄膜化の厚さを制御し、さらに膜分離法を組合せて真空脱気処理することにより、液状食品の風味や物性を様々に変化させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
液状食品の真空脱気処理において、液状食品からの香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法により製造された液状食品を提供することができる。
【0145】
具体的には、液状食品の真空脱気処理において、液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値(=体積/表面積=薄膜化した液状食品の厚さ)、あるいは微粒化した液状食品の大きさ(粒径)を制御して溶存酸素濃度を低下させると同時に、香気成分の散逸量を制御することを可能とした、香気成分の制御方法及びその制御方法により製造された液状食品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値を制御して真空脱気処理することにより当該液状食品の溶存酸素濃度を低下させつつ当該液状食品からの香気成分の散逸量を制御することを特徴とする液状食品の香気成分の制御方法。
【請求項2】
液状食品の気相と接する表面積で当該液状食品の体積を除した数値を1mm〜120mmとすることを特徴とする請求項1に記載の液状食品の香気成分の制御方法。
【請求項3】
真空脱気処理後の液状食品の溶存酸素濃度を0.5ppm〜5ppmとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の液状食品の香気成分の制御方法。
【請求項4】
真空脱気処理に膜分離法を組み合わせて用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状食品の香気成分の制御方法。
【請求項5】
膜分離法に気体分離膜を用いることを特徴とする請求項4に記載の液状食品の香気成分の制御方法。
【請求項6】
真空脱気処理を行う液状食品の温度を1℃〜35℃とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の液状食品の香気成分の制御方法。
【請求項7】
液状食品が乳製品であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液状食品の香気成分の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−110349(P2012−110349A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−61794(P2012−61794)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【分割の表示】特願2007−102608(P2007−102608)の分割
【原出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】