説明

馬鈴薯飲料の製造方法

【課題】馬鈴薯を主原料とする飲料の製造において、固体成分と液体成分の分離を行う際に問題となるファウリングをなくし、その後も沈殿物が生じることによる品質の低下を防止し、風味や栄養にも優れた馬鈴薯飲料の製造技術を提供する。
【解決手段】馬鈴薯を主原料とする馬鈴薯飲料の製造方法であって、前記馬鈴薯中のデンプンを糊化する糊化工程と、糊化したデンプンに水を添加して糖化原液を調製する工程と、前記糖化原液の全量に対して、アミラーゼ90〜270ユニット/gとペクチナーゼ0.6〜3.6ユニット/gを添加して前記デンプンを糖化処理する糖化工程と、糖化処理した溶液を濾過する濾過工程と、を有する馬鈴薯飲料の製造方法により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、馬鈴薯を主原料とする飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、野菜類を原料とした飲料(ソフトドリンク)が数多く製品化されている。その多くは果実類と野菜類を混合し、ビタミン類を容易に摂取できる健康飲料として消費者に好まれている。一般に野菜ジュースは風味や色調の観点から果物が混合される場合が多いが、トマトジュースなど、野菜類を主原料とするものも存在する。トマト以外の原料としては、例えば、馬鈴薯(ジャガイモ)が挙げられる。
【0003】
馬鈴薯を主原料とする飲料としては、例えば、馬鈴薯を加熱、圧潰し、米麹、アルコールを加え、熟成後、圧搾して得られる甘味飲料(特許文献1)、馬鈴薯を加熱処理し、裏ごし器、ミキサーなどにかけて粉砕後、これを予め粉砕しておいた馬鈴薯以外の野菜類、調味成分、香辛料、加熱処理された酸発酵乳などと共に水に入れ、混合分散させた後、加熱処理して得られるポテト含有飲料(特許文献2)、または、ジャガイモを圧搾し、マイクロフィルターで濾過することによって繊維または澱粉残渣を分離して得られるジャガイモジュース製品(特許文献3)などが提案されている。
【特許文献1】特開2001−17153号公報
【特許文献2】特開平11−206346号公報
【特許文献3】特表2005−526829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
馬鈴薯を主原料とする従来の飲料の製造方法は、圧搾、濾過等の物理的な方法を用いて固体成分と液体成分の分離が行われていた。しかしながら、濾過時においては沈殿生成物が多いため、溶液の粘度が高い。そのため、固体成分と液体成分の分離を行う際にファウリング(目詰まり)を起こし、フィルター等の交換を頻繁に行わなければならなかった。また、濾過液の中に分離されなかった微小固体成分がその後の工程中や保存液中で凝集し、沈殿物となって飲料の品質を低下させる場合があった。
【0005】
さらに近年、消費者の健康志向が高まり、野菜を主原料とする飲料に野菜以外の栄養成分が含まれていることが求められている。同時に、製造コストを抑えるために、より簡便な方法で上記のような問題を解決しなければならない。
【0006】
そこで、本発明は、馬鈴薯を主原料とする飲料の製造において、固体成分と液体成分の分離を行う際に問題となるファウリングをなくし、その後も沈殿物が生じることによる品質の低下を防止し、風味や栄養にも優れた馬鈴薯飲料の製造技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは馬鈴薯を主原料とする飲料の製造方法について種々の検討を行った結果、馬鈴薯デンプンを糖化処理すること、および酵素を適宜選択し、その添加量を一定の割合とすることで、上記問題を解決するとの知見を得た。
【0008】
本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、馬鈴薯を主原料とする馬鈴薯飲料の製造方法であって、前記馬鈴薯中のデンプンを糊化する糊化工程と、糊化したデンプンに水を添加して糖化原液を調製する工程と、前記糖化原液に、アミラーゼ90〜270ユニット/gとペクチナーゼ0.6〜3.6ユニット/gを添加して前記デンプンを糖化処理する糖化工程と、糖化処理した溶液を濾過する濾過工程と、を有する馬鈴薯飲料の製造方法を提供するものである。このような構成により、液体の粘度が低下して固体成分と液体成分の分離が容易となり、濾過後の沈殿の発生も防止することができる。また、アミラーゼとペクチナーゼを添加する割合を所定の割合にすることで、馬鈴薯デンプンから直接還元糖とオリゴ糖が得られる。
【0009】
上記発明の好ましい態様は次の通りである。前記馬鈴薯として、アントシアニン色素を含有する有色馬鈴薯を用いることが好ましい。これにより、アントシアニン色素の色調を有する馬鈴薯飲料を製造することができる。
【0010】
また、本発明の好ましい形態として、さらに、ルチンを添加する工程を有することが好ましい。これにより、アントシアニン色素の色調を長期間保持することができる。
【0011】
また、本発明の好ましい形態として、前記ルチンは前記濾過工程の後に得られた溶液に対して添加することが好ましい。これにより、加熱による影響が少なくなり、アントシアニン色素の色調保持効果をより高めることができる。
【0012】
また、本発明の好ましい形態として、前記ルチンは、前記濾過工程の後に得られた溶液に対して0.1〜0.5ppm添加することが好ましい。これにより、馬鈴薯飲料の風味に影響を及ぼすことなく、アントシアニン色素の色調を保持することができる。
【0013】
また、本発明の好ましい形態として、さらに、前記糖化原液のpHを4.5〜5.5に調整する工程を有することが好ましい。これにより、アントシアニン色素の色調をより鮮明に発生させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の馬鈴薯飲料の製造方法によれば、所定量のアミラーゼとペクチナーゼを用いて馬鈴薯デンプンを糖化処理するため、馬鈴薯デンプンから直接還元糖とオリゴ糖を生成することができる。直接還元糖は甘みに寄与し、オリゴ糖は腸内細菌の増殖等に寄与するため、馬鈴薯飲料に甘味と栄養成分を付与することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の馬鈴薯飲料の製造方法の実施形態について、更に具体的に説明する。既述の通り、本発明は、前記馬鈴薯中のデンプンを糊化する糊化工程と、糊化したデンプンに水を添加して糖化原液を調製する工程と、前記糖化原液に、アミラーゼ90〜270ユニット/gとペクチナーゼ0.6〜3.6ユニット/gを添加して前記デンプンを糖化処理する糖化工程と、糖化処理した溶液を濾過する濾過工程と、を有する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る馬鈴薯飲料の製造方法の概要を説明するための図である。以下、本実施形態について図1を参照しつつ説明する。
【0017】
原料馬鈴薯10としては、例えば、男爵薯(だんしゃくいも)、農林一号、ワセシロ(早生白)、トヨシロ(豊白)、メークイン、キタアカリ、とうや、インカのめざめ、デジマ、ラセット・バーバンク等を用いることができる。
【0018】
また、前記馬鈴薯として、アントシアニン色素を含有する有色馬鈴薯を用いることが好ましい。これにより、アントシアニン色素の色調を有する馬鈴薯飲料を製造することができる。これら有色馬鈴薯は、デンプン価が20%前後で、通常の男爵薯より疫病にかかりにくく、アントシアニン色素のペタニンを生イモ1gあたり1.79mg含有しているという特徴を有している。そして、有色馬鈴薯由来のアントシアニンは、高い抗酸化性及び活性酸素消去能を示すと共に、ブルーベリー由来のアントシアニンには認められない抗インフルエンザ活性、アポトーシス誘導効果を有している。食味は普通の男爵薯とほぼ同様であるが、アントシアニン色素、カロチノイド色素を含む有色馬鈴薯は天然の色調を有し、着色料に頼ることのない色鮮やかな食品を作ることができる可能性を秘めており、また、これらの色素は健康面への効果も期待できる。
【0019】
アントシアニン色素を含有する有色馬鈴薯としては、例えば、インカパープル、インカレッド、シャドークイーン、キタムラサキ、紅丸等を挙げることができる。
【0020】
原料馬鈴薯10は、馬鈴薯10中のデンプンを糊化する糊化工程に付される(S1)。このとき、原料馬鈴薯10は皮付きでも皮を剥いたものでもよい。デンプンの糊化を行うには、煮る(ボイル)、蒸す、焼く等、原料馬鈴薯10に含まれる生デンプンを糊化させることできれば如何なる方法も用いることができるが、前記有色馬鈴薯を用いる場合には、有色馬鈴薯に含まれるアントシアニン色素を回収することを考慮して、ボイルにより加熱処理することが好ましい。
【0021】
次に、加熱処理された原料馬鈴薯10は、摩砕機等により摩砕される(S2)。そして、摩砕された原料馬鈴薯10の3〜5倍量の水12を添加し、糖化原液14を調製する。
【0022】
ここで、有色馬鈴薯を原料馬鈴薯10として用いた場合は、糖化原液をpH4.5〜5.5に調整することが有色馬鈴薯中のアントシアニン色素を安定化する観点から好ましい(S3)。pHの調整は、クエン酸、乳酸、コハク酸等の有機酸を用いて行うことができる。なお、pHの調整は後述する工程で行ってもよい。
【0023】
次に、前記糖化原液に、アミラーゼ90〜270ユニット/gとペクチナーゼ0.6〜3.6ユニット/gを添加して前記デンプンを糖化処理する(S4)。
【0024】
アミラーゼはデンプンを分解して糖を生成する酵素であり、デンプンからより多くの糖を生成するにはできるだけ糖度が上昇する条件を設定することが一般的には好ましいが、多量のアミラーゼを添加し、長時間反応させても、バランスよく直接還元糖とオリゴ糖を生成することができない。一方、ペクチナーゼは細胞壁を分解して糖化液の粘度を低下させることを主目的とするが、アミラーゼ90〜270ユニット/gとペクチナーゼ0.6〜3.6ユニット/gを添加することにより、直接還元糖とともにオリゴ糖を生成することができる。なお、後述する濾過工程において濾過が可能な程度まで粘度が落ちればペクチナーゼはそれ以上添加する必要はない。
【0025】
糖化処理(S4)では、直接還元糖としてはグルコース及びマルトースが生成され、オリゴ糖としては、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトヘキサオースが生成される。直接還元糖とオリゴ糖は馬鈴薯飲料の口当たりを良好にし、腸内細菌の増殖にも寄与する。即ち、馬鈴薯飲料に甘味と栄養成分を付与することになる。
【0026】
糖化処理(S4)は、直接還元糖とオリゴ糖をバランスよく生成させる観点から、50〜55℃で、1.5〜2.0時間行うことが好ましい。
【0027】
次に、糖化処理された溶液を濾過工程に付する(S5)。糖化処理された溶液はアミラーゼとペクチナーゼの併用により、B型回転粘度計で測定したときの粘度が糖化処理前の粘度と比較して1/2から1/3に低減しているため、濾過の方法は特に限定されず、種々の手段を用いることができる。
【0028】
次に、濾過工程(S5)を経て得られた濾液に、必要に応じて添加物20を調合する(S6)。添加物20としては、例えば、糖類、香料、色素、色素保持剤、有機酸、ビタミンなどを挙げることができる。
【0029】
前記糖類としては、例えば、還元糖、非還元糖を問わず、三炭糖(トリオース)、四炭糖(テトラオース)、五炭糖(ペントース)、六炭糖(ヘキソース)、七炭糖(ヘプトース)などの単糖類;マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)、スクロース(蔗糖(ショ糖))、セロビオース、ニゲロース、ソホロース(ソフォロース)、トレハロースなどの二糖類;マルトトリオース、シクロデキストリン、ラフィノース、パノース、メレジトース、ゲンチアノースなどの三糖類;フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖などのオリゴ糖類;1,5−D−アンヒドロフルクトースなどのアンヒドロ糖類;デオキシリボース、フコース、ラムノースなどのデオキシ糖類;グルクロン酸、ガラクツロン酸などのウロン酸類;グルコサミン、ガラクトサミンなどのアミノ糖類;グリセリン、キシリトール、ソルビトールなどの糖アルコール類;グルクロノラクトン、グルコノラクトンなどのラクトン類等を挙げることができる。
【0030】
前記香料としては、その種類、形状の如何を問わず、例えば精油、エクストラクト、オレオレジン、回収フレーバー、単離香料などの天然香料素材やアルコール、エステル、アルデヒド、アセタール、ラクトン類などの合成香料素材の一種以上を混合したものが挙げられる。食品香料の代表的な分類法に基づいて、本発明に係る香料としては、ハイビスカス、ジャスミン、バラなどの花系香料、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツなどのシトラス系香料、アップル、メロン、グレープ、パイナップル、バナナ、ピーチ、ストロベリーなどのフルーツ系香料、紅茶、緑茶、ウーロン茶などの茶系香料、ミルク、チーズなどのデイリー系香料、ペパーミント、スペアミントなどのミント系香料、ペパー、シナモン、ナツメグ、クローブなどのスパイス系香料、ヘーゼルナッツ、コーヒー、ココアなどのナッツ系香料、バニラ系香料などを挙げることができる。香料の形状としては粉末、乳化、ペースト、溶液などの形態のいずれであってもよい。
【0031】
前記色素としては、食品の着色を目的とするものであり、水溶性色素、脂溶性色素のいずれも用いることができる。具体的には、例えば、アントシアニン系色素(ムラサキイモ色素等)、カロチノイド系色素(β−カロチン等)、フラボノイド系色素(ベニバナ色素等)、アントラキノン系色素(コチニール色素等)、アザフィロン系色素(ベニコウジ色素)、ベタシアニン系色素(パセライン色素等)、ジケトン系色素(ウコン色素等)、ポルフィリン系色素(クロロフィル等)などの天然系色素が好適に挙げられ、これらの1種を単独、または2種以上を含むことができる。
【0032】
前記色素保持剤としては、例えば、ルチン、フィチン酸等を挙げることができる。ルチンの添加量は、色素保持効果と馬鈴薯飲料の風味とのバランスを考慮すれば、前記濾過工程の後に得られた溶液に対して0.1〜0.5ppmであることが好ましい。
【0033】
前記有機酸は、前記色素の安定化を図る観点から添加される。有機酸としては、馬鈴薯飲料の味に与える影響を考慮すれば、リンゴ酸、乳酸、コハク酸を用いることが好ましい。また、有機酸を添加する場合のpHは、pH4.5〜5.5となるように添加することが好ましい。
【0034】
前記ビタミンとしては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7、ビタミンB9、ビタミンB12、ビタミンCまたはそれら塩などが挙げられる。
【0035】
必要に応じて添加物20が調合された溶液は、衛生上の観点から、殺菌処理が行われる(S7)。殺菌処理は、その方法に特に限定はないが、加熱殺菌が最も容易でコストもかからないため好ましい。加熱殺菌は、例えば、80〜85℃、10〜15分の条件で行うことが好ましい。
【0036】
殺菌処理された溶液は、容器に充填し密封された後(S8)、所定温度まで冷却され(S9)、所望の馬鈴薯飲料22が得られる。
【実施例】
【0037】
1.馬鈴薯飲料の製造
図2は、馬鈴薯飲料の製造方法の概要を説明するための図である。以下、図2を参照しつつ説明する。
【0038】
原料馬鈴薯としては、有色馬鈴薯の一種であるシャドークイーン100を用いた。このシャドークイーン100を皮付きのまま二重釜に投入し、100℃で35分間蒸煮した(S10)。
【0039】
次に、摩砕機を用いてデンプン質固形分を摩砕し、デンプン質固形分重量の4倍量の水120を添加して糖化原液140を調製した(S20)。
【0040】
次に、糖化原液を撹拌しつつクエン酸を添加し、糖化原液をpH5に調整した(S30)。
【0041】
次に、糖化原液140にアミラーゼ160及びペクチナーゼ180を添加して前記デンプンを糖化処理した(S40)。アミラーゼとしてはビオザイムA(天野エンザイム社製、アミラーゼ30%、デキストリン70%、9000ユニット/g)を用い、ペクチナーゼとしてはペクチナーゼG(天野エンザイム社製、ペクチナーゼ90%、ケイソウ土10%、1200ユニット/g)を用いた。糖化処理(S40)は、アミラーゼとペクチナーゼを添加してから、50〜55℃で、1.5〜2.0時間行った。
【0042】
次に、糖化処理された溶液を遠心分離後、濾布により濾過した(S50)。
【0043】
次に、濾過工程(S50)を経て得られた濾液に、添加物200として、グラニュー糖 を全体の糖度が8.0重量%となるように加え、クエン酸0.42重量%、ハイビスカスエッセンス0.3重量%、そして色調保持剤としてルチン(東洋精糖社製α−Gルチン)0.5ppmを添加し、撹拌・混合して調合し、糖度8、糖酸比19の溶液を調製した(S60)。なお、添加物200の添加割合はシャドークイーン100の重量を基準とした。
【0044】
次に、添加物200が調合された溶液を80℃まで加温し80℃に達した時点で加熱を終了し、静置して徐々に冷却する方法で殺菌処理を行った(S70)。
【0045】
殺菌処理された溶液を無菌環境下で容器に充填・密封し(S80)、冷却することにより(S90)、アントシアニン色素の色調が鮮やかに表れた馬鈴薯飲料220を得た。
【0046】
2.評価試験
(1)糖類の分析
酵素の添加量と糖類の生成量との関係を検討するため、糖化処理工程において、アミラーゼ160とペクチナーゼ180を表1に示す割合(重量%)で添加し、その他の製造条件は上記1で説明した条件で馬鈴薯飲料220を製造した。なお、ビオザイムAが0.01%、0.05%、0.1%、0.3の場合、アミラーゼはそれぞれ9ユニット/g、45ユニット/g、90ユニット/g、270ユニット/gである。また、ペクチナーゼGが0.01%、0.05%、0.1%の場合、ペクチナーゼはそれぞれ0.12ユニット/g、0.6ユニット/g、1.2ユニット/gである。
【0047】
【表1】

【0048】
酵素は過剰投与しても効果に大きな差異は認められず、また、コストを考慮する必要があることから、ビオザイムAの上限は0.3%とし、ペクチナーゼGの上限は0.1%とした。
【0049】
得られた馬鈴薯飲料の各々について、全糖量、直接還元糖量を測定し、さらにグルコース、マルトース及びオリゴ糖の糖組成を求めた。なお、全糖量の測定はフェノール硫酸法により行い、直接還元糖量の測定はソモギ・ネルソン法により行った。また、グルコース、マルトース、オリゴ糖の測定は、HPLC(Intersil NH2 カラム)により行った。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
一般に有色馬鈴薯は澱粉にリン酸基を多く含み(高度リン酸化澱粉)、このような澱粉はアミラーゼによる酵素分解が困難であるという性質を有している。そのためこの酵素分解物はグルコースやマルトースまで分解されず、ある程度の糖分子の結合したオリゴ糖(リン酸化オリゴ糖)が生成されると推察された。
【0052】
馬鈴薯はデンプンを多く含むことから、糖化処理により馬鈴薯デンプンから糖類を生成することは別途、糖類を添加する量が少なく済み原料コストの面からも好ましい。また、糖組成の大半はグルコースであるが、マルトース含有量が高くなれば上品で温和な風味をもたらす。さらに、オリゴ糖含有量が高くなれば整腸作用等の機能も期待できる。これらに鑑みれば、実施例1〜5の馬鈴薯飲料、特に実施例2(アミラーゼ90ユニット/g、ペクチナーゼ1.2ユニット/g)がグルコース、マルトース及びオリゴ糖のバランスが良好であり、馬鈴薯飲料として好適であることが判明した。なお、測定の結果、オリゴ糖は、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトヘキサオースであることがわかった。
【0053】
(2)粘度の分析
酵素の添加量と粘度との関係を検討するため、糖化処理工程において、アミラーゼ160とペクチナーゼ180を表3に示す割合(重量%)で添加し、その他の製造条件は上記1で説明した条件で馬鈴薯飲料220を製造した。
【0054】
なお、酵素は過剰投与しても効果に大きな差異は認められず、また、コストを考慮する必要があることから、ビオザイムAの上限を0.1%(アミラーゼ90ユニット/g)とし、ペクチナーゼGの上限を0.3%(ペクチナーゼ3.6ユニット/g)とした。
【0055】
粘度はB型粘度計(トキメック社製)を用い、温度:25℃±0.5℃、回転数:30rpmの条件下で測定した値とした。
【0056】
【表3】

【0057】
測定の結果、糖化処理された溶液はペクチナーゼの添加量に応じてB型粘度計で測定したときの粘度が糖化処理前の粘度と比較して約25%から43%低減することが判明した。これにより、濾過工程(S50)においてフィルターの目詰まり(ファウリング)が低減され、製造された馬鈴薯飲料220に沈殿物が生じることもなかった。
【0058】
(3)色調の分析
ルチンの添加量と色調との関係を検討するため、調合工程(S60)において、ルチンを表1に示す添加量で添加し、その他の製造条件は上記1で説明した条件で馬鈴薯飲料220を製造した。なお、前記ルチンとして、α‐Gルチン(東洋精糖株式会社製)を使用した。
【0059】
試験は、馬鈴薯飲料220の製造後、4〜5℃の条件下、蛍光灯の点灯下で保存した場合と蛍光灯の無灯下で保存した場合の馬鈴薯飲料220のアントシアニン色素の色調の変化を径時的に観察することにより行った。色調の測定は、分光側色計(ミノルタ社製CM−3500d)を用い、JIS Z 8729に規定されているL表色系で表した。なお、ルチンの添加割合はシャドークイーン100の重量を基準とした。
【0060】
【表4】

【0061】
アントシアニン色素の赤紫色がより強く表れているものは、a値が高く、b値が低い。表4に示すように、ルチンを添加することにより、赤紫色の色調が鮮明になることが判明した。冷暗所に置いた場合はルチンを加えなくても特に色調変化は少なかったが、蛍光灯点灯下ではやや退色が見られた。従って、アントシアニン色素を有する馬鈴薯飲料の品質保持ということを考慮すると、ルチンを0.1〜0.5ppm添加することがアントシアニン色素を有する馬鈴薯飲料の色調保持に有効であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態に係る馬鈴薯飲料の製造方法の概要を説明するための図である。
【図2】実施例の馬鈴薯飲料の製造方法の概要を説明するための図である。
【符号の説明】
【0063】
10…原料馬鈴薯、12…水、16…アミラーゼ、18…ペクチナーゼ、20…添加物、22…馬鈴薯飲料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
馬鈴薯を主原料とする馬鈴薯飲料の製造方法であって、
前記馬鈴薯中のデンプンを糊化する糊化工程と、
糊化したデンプンに水を添加して糖化原液を調製する工程と、
前記糖化原液に、アミラーゼ90〜270ユニット/gとペクチナーゼ0.6〜3.6ユニット/gを添加して前記デンプンを糖化処理する糖化工程と、
糖化処理した溶液を濾過する濾過工程と、
を有する馬鈴薯飲料の製造方法。
【請求項2】
前記馬鈴薯として、アントシアニン色素を含有する有色馬鈴薯を用いる、請求項1に記載の馬鈴薯飲料の製造方法。
【請求項3】
さらに、ルチンを添加する工程を有する、請求項1又は2に記載の馬鈴薯飲料の製造方法。
【請求項4】
前記ルチンは前記濾過工程の後に得られた溶液に対して添加する、請求項3に記載の馬鈴薯飲料の製造方法。
【請求項5】
前記ルチンは、前記濾過工程の後に得られた溶液に対して0.1〜0.5ppm添加する、請求項3又は4に記載の馬鈴薯飲料の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記糖化原液のpHを4.5〜5.5に調整する工程を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の馬鈴薯飲料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−153457(P2009−153457A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336074(P2007−336074)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(598096991)学校法人東京農業大学 (85)
【出願人】(505434733)十勝ビール株式会社 (4)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】