説明

駅の免震構造、その構築方法、及び、駅での免震装置の交換方法

【課題】ホーム上の柱の高さや線路上空建物の階高を抑えたうえで、線路上空の建築限界に対応するように、隣設のホーム上の柱の間に梁を架設できる、免震化された駅の構造を提供する。
【解決手段】積層ゴム支承7が、線路2の両側に建てられた柱5と該柱5に支持された線路上空建物4との間に設けられることにより免震化された駅1の構造であって、線路2の両側に建てられた柱5の間に架設された梁10を備え、該梁10は、柱5から横方向に直線的に延びてから上側に曲がり、線路上方において横方向に直線的に延びるように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震化された駅の構造、その構築方法、及び駅での免震装置の交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物を免震化する技術として、建物の中間階の柱を上下に分割してその間に積層ゴム支承等の免震装置を設置する中間免震工法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1、2に記載の建物では、隣設の柱の間に直線梁が架設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003―27765号公報
【特許文献2】特開2006−9477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、駅を中間免震構造にする場合、ホーム上の柱とコンコース等の線路上空建物の柱との間に上記の免震装置を設置することになり、この場合、ホーム上の柱の鉛直方向及び水平方向の耐力を確保するために、隣設のホーム上の柱の間に梁を架設することになる。ここで、梁は線路上空を通るが、線路上空には架線が設置されていることから線路上空の建築限界は高く設定される。このため、隣設のホーム上の柱の間に直線梁を架設する場合、その直線梁を建築限界より上側に通すためには、ホーム上の柱を高くして線路上建物の階高を上げることを要する。柱を高くする場合には、強度を確保するために断面積を大きくする等しなければならず施工コストが増大する。また、線路上空建物の階高に制限があり、柱を高くできない場合がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、線路の両側の柱の高さや線路上空建物の階高を抑えたうえで、線路上空の建築限界に対応するように、線路の両側の柱の間に梁を架設できる、免震化された駅の構造、及びその構築方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る駅の構造は、免震装置が、線路の両側に建てられた柱と該柱に支持された線路上空建物との間に設けられることにより免震化された駅の構造であって、前記柱の間に架設された梁を備え、前記梁は、各柱から横方向に直線的に延びてから上側に曲がり、線路上方において横方向に直線的に延びるように構成されていることを特徴とする。
【0007】
上記駅の構造において、前記梁は、各柱の上部から横方向に直線的に延びてから上側に直角に曲がるように構成されてもよい。
【0008】
上記駅の構造は、前記免震装置と前記梁と前記線路上空建物とに囲まれた空間に配され、前記柱と前記線路上空建物との間で生じる水平振動を減衰するダンパーを備えてもよい。
【0009】
上記駅の構造において、前記梁は、線路上空の建築限界より上側において横方向に直線的に延びるように構成されてもよい。
【0010】
また、本発明に係る駅の構築方法は、免震装置が、線路の両側に建てられた柱と該柱に支持された線路上空建物との間に設けられることにより免震化された駅の構築方法であって、前記柱の間に、各柱から横方向に直線的に延びてから上側に曲がり、線路上方において横方向に直線的に延びるように構成された梁を、架設することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る駅での免震装置の交換方法は、免震装置が、線路の両側に建てられた柱と該柱に支持された線路上空建物との間に設けられることにより免震化された駅において前記免震装置を交換する方法であって、前記柱の間に、各柱から横方向に直線的に延びてから上側に曲がり、線路上方において横方向に直線的に延びるように構成された梁を架設し、前記梁の各柱から横方向に直線的に延びる部位にジャッキを設置し、該ジャッキにより前記線路上空建物を持ち上げた状態で、前記免震装置を交換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る免震化された駅の構造、及びその構築方法によれば、線路の両側の柱の高さや線路上空建物の階高を抑えたうえで、線路上空の建築限界に対応するように、線路の両側の柱の間に梁を架設できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態に係る駅の構成を示す立面図である。
【図2】中間免震層の周囲を拡大して示す立面図である。
【図3】梁の他の実施例を示す立面図である。
【図4】梁の他の実施例を示す立面図である。
【図5】積層ゴム支承を交換する方法を説明するための立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る駅1の構成を示す立面図である。この図に示すように、駅1は、線路2に沿って設けられた複数のホーム3と、複数のホーム3及び複数の線路2に跨るようにこれらの上空に建てられたコンコース等の線路上空建物4とを備える。線路上空建物4は、ホーム3や線路沿いの地面に建てられたH鋼である柱5により支持されている。柱5と線路上空建物4のH鋼である柱6との間には積層ゴム支承7が設けられており、ホーム3が設けられた階と線路上空建物4が設けられた階との間に中間免震層8が形成されている。また、線路2の上空では線路2に沿って架線9が張架されている。ここで、架線9の設置高さは、柱5の高さと同程度であり、柱5の高さは、建築限界の高さと同程度である。
【0015】
複数の柱5、6は、線路2に沿った方向及び線路2と直交する方向に配列されており、線路2に沿って配列された複数の柱5の間には、線路2に沿って延びるH鋼である梁11が架設され、線路2と直交する方向に配列された複数の柱5の間には、線路2と直交する方向に延びるH鋼である梁10が架設されている。梁10、11は、柱5の上端に接合されており、梁11は、ホーム3や線路沿いの地面の上空に配され、梁10は、線路2を跨ぐようにホーム3や線路沿いの地面、及び線路2の上空に配されている。この梁10、11は、柱5に作用する鉛直荷重及び水平荷重を支えており、これにより、柱5の鉛直方向及び水平方向の耐力が確保されている。
【0016】
ここで、梁10は、柱5の上端から横方向に直線的に延びてからホーム3の幅端の上空で直角に上側に屈曲し、そして、建築限界の上側で横方向に直線的に延びている。即ち、梁10は、その両端に下側に凹の段差が設けられた段差梁である。
【0017】
図2は、中間免震層8の周囲を拡大して示す立面図である。この図に示すように、柱5の上端部には仕口部12が設けられている。仕口部12は、上下のダイヤフラム14、15と、その間に設けられたコラム16とが溶接された構成になっており、上側のダイヤフラム14の上に積層ゴム支承7が固定されている。
【0018】
また、梁10の端部と積層ゴム支承7と線路上空建物4のスラブ16とにより囲まれた矩形状の空間17には、オイルダンパーや摩擦ダンパー等のダンパー20が配されている。梁10の側面10Sとスラブ16とにはそれぞれブラケット18、19が固定されており、ダンパー20の両端はブラケット18、19に回動自在に取り付けられている。このダンパー20は、水平方向にストロークすることにより、中間免震層8で生じる水平方向の振動を減衰させる。
【0019】
梁10は、線路上空の建築限界の上側で横方向に直線的に延びる第1の梁部10Aと、第1の梁部10Aの両端の下部に一端を接合され柱5の上端に他端を接合された第2の梁部10Bとを備えている。第1の梁部10Aの下フランジ10Aflと第2の梁部10Bの上フランジ10Bfuとが溶接されることにより、第1の梁部10Aの両端の下部と第1の梁部10Bの一端の上部とが接合されている。また、第2の梁部10Bの上フランジ10Bfuと上側のダイヤフラム14とが溶接され、第2の梁部10Bの下フランジ10Bflと下側のダイヤフラム15とが溶接されることにより、第2の梁部10Bの他端と柱5の上端とが接合されている。
【0020】
図3は、梁10の他の実施例である梁110を示す立面図である。この図に示すように、梁110は、線路上空の建築限界の上側で横方向に直線的に延びる第1の梁部110Aと、第1の梁部110Aの両端の下部に上端を接合されて上下方向に直線的に延びる第2の梁部110Bと、第2の梁部110Bの下端に一端を接合され柱5の上端に他端を接合された第3の梁部110Cとを備えている。
【0021】
第1の梁部110Aの下フランジ110Aflと第2の梁部110Bの上下のフランジ110Bfu、110Bflとが溶接されることにより、第1の梁部110Aの両端の下部と第2の梁部110Bの上端とが接合されている。また、第2の梁部110Bの上下のフランジ110Bfu、110Bflと第3の梁部110Cの上フランジ110Cfuとが溶接されることにより、第2の梁部110Bの下端と第3の梁部110Cの一端とが接合されている。さらに、第3の梁部110Cの上フランジ110Cfuと上側のダイヤフラム14とが溶接され、第3の梁部110Cの下フランジ110Cflと下側のダイヤフラム15とが溶接されることにより、第3の梁部110Cの他端と柱5の上端とが接合されている。
【0022】
図4は、梁10の他の実施例である梁210を示す立面図である。この図に示すように、梁210は、線路上空の建築限界の上側へ横方向に直線的に延びる第1の梁部210Aと、第1の梁部210Aの両端に一端を接合され柱5の上端に他端を接合されて横方向に直線的に延びる第2の梁部210Bとを備えている。
【0023】
第1の梁部210Aのウェブ210Awの両端下部は、三角形状に切り欠かれ、第1の梁部210Aの下フランジ210Aflの両端には、スリットが形成されている。また、第2の梁部210Bのウェブ210Bwの一端上部は、三角形状に切り欠かれ、第2の梁部210Bの上フランジ210Bfuの一端には、スリットが形成されている。
【0024】
ここで、第2の梁部210Bのウェブ210Bwが第1の梁部210Aの下フランジ210Aflのスリットに嵌り込み、第1の梁部210Aのウェブ210Awが第2の梁部210Bの上フランジ210Bfuのスリットに嵌り込んでいる。また、第1の梁部210Aのウェブ210Awの斜辺と第2の梁部210Bのウェブ210Bwの斜辺とが突き合わされている。そして、第2の梁部210Bのウェブ210Bwと第1の梁部210Aの下フランジ210Aflとが溶接され、第1の梁部210Aのウェブ210Awと第2の梁部210Bの上フランジ210Bfuとが溶接され、第1の梁部210Aのウェブ210Awの斜辺と第2の梁部210Bのウェブ210Bwの斜辺とが溶接されることにより、第1の梁部210Aと第2の梁部210Bとが接合されている。
【0025】
また、第3の梁部210Cの上フランジ210Cfuと上側のダイヤフラム14とが溶接され、第3の梁部210Cの下フランジ210Cflと下側のダイヤフラム15とが溶接されることにより、第3の梁部210Cの他端と柱5の上端とが接合されている。
【0026】
図5は、積層ゴム支承7を交換する方法を説明するための立面図である。この図に示すように、積層ゴム支承7の交換は、梁10の端部と積層ゴム支承7と線路上空建物4のスラブ16とにより囲まれた矩形状の空間17に油圧ジャッキ22を設置し、この油圧ジャッキ22により線路上空建物4を持ち上げた状態で実施する。
【0027】
以上、本実施形態では、梁10を、その両端に下側に凹の段差が設けられた段差梁とし、柱5の上端から横方向に直線的に延びてからホーム3の幅端の上空で上側に屈曲し、そして、建築限界の上側で横方向に直線的に延びるように構成している。これにより、ホーム3や線路沿いの地面に建てられた柱5の高さや線路上空建物4の階高を抑えたうえで、線路2の両側の柱5の間に梁10を、線路上空の建築限界より上側を通るように架設することができる。従って、施工コストを低減でき、また、線路上空建物4を隣設の建物と同じ高さにしなければならず階高を上げることができない場合等、設計制約に対応することができる。
【0028】
また、梁10の端部と積層ゴム支承7と線路上空建物4のスラブ16とにより囲まれた、ダンパー20等の制震装置を設置するのに十分な広さの空間17が形成される。これにより、制震装置を設置するために線路上空建物4のスラブ16と梁10との間隔を広げることを不要にでき、以って、線路上空建物4の階高を抑えることができる。
【0029】
また、梁10の第2の梁部10Bにより空間17に水平面が形成される。これにより、油圧ジャッキ22を設置することが可能となり、積層ゴム支承7の交換作業を容易化できる。
【0030】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、梁10をその両端の直線的に延びる第2の梁部10B(10C)から上側に直角に屈曲させた例を挙げて本発明を説明したが、梁10の曲げ角度は直角には限られず、鈍角であってもよい。
【0031】
また、上述の実施形態では、鉄骨梁を例に挙げて本発明を説明したが、鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリートの梁の場合でも本発明を適用できる。また、免震装置として積層ゴム支承7を例に挙げたが、弾性すべり支承や弾塑性ダンパー等の他の免震装置を用いてもよい。さらに、水平振動を減衰するダンパーを空間17に設置することは必須ではない。
【符号の説明】
【0032】
1 駅、2 線路、3 ホーム、4 線路上空建物、5、6 柱、7 積層ゴム支承(免震装置)、8 中間免震層、9 架線、10 梁、10A 第1の梁部、10B 第2の梁部、11 梁、12 仕口部、14、15 ダイヤフラム、16 コラム、17 空間、18、19 フランジ、20 ダンパー、22 油圧ジャッキ、110 梁、110A 第1の梁部、110B 第2の梁部、110C 第3の梁部、210 梁、210A 第1の梁部、210B 第2の梁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置が、線路の両側に建てられた柱と該柱に支持された線路上空建物との間に設けられることにより免震化された駅の構造であって、
前記柱の間に架設された梁を備え、
前記梁は、各柱から横方向に直線的に延びてから上側に曲がり、線路上方において横方向に直線的に延びるように構成されていることを特徴とする駅の構造。
【請求項2】
前記梁は、各柱の上部から横方向に直線的に延びてから上側に直角に曲がるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の駅の構造。
【請求項3】
前記免震装置と前記梁と前記線路上空建物とに囲まれた空間に配され、前記柱と前記線路上空建物との間で生じる水平振動を減衰するダンパーを備える請求項1又は請求項2に記載の駅の構造。
【請求項4】
前記梁は、線路上空の建築限界より上側において横方向に直線的に延びるように構成されている請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の駅の構造。
【請求項5】
免震装置が、線路の両側に建てられた柱と該柱に支持された線路上空建物との間に設けられることにより免震化された駅の構築方法であって、
前記柱の間に、各柱から横方向に直線的に延びてから上側に曲がり、線路上方において横方向に直線的に延びるように構成された梁を、架設することを特徴とする駅の構築方法。
【請求項6】
免震装置が、線路の両側に建てられた柱と該柱に支持された線路上空建物との間に設けられることにより免震化された駅において前記免震装置を交換する方法であって、
前記柱の間に、各柱から横方向に直線的に延びてから上側に曲がり、線路上方において横方向に直線的に延びるように構成された梁を架設し、
前記梁の各柱から横方向に直線的に延びる部位にジャッキを設置し、該ジャッキにより前記線路上空建物を持ち上げた状態で、前記免震装置を交換することを特徴とする駅での免震装置の交換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127140(P2012−127140A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280756(P2010−280756)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】