説明

駆動ローラおよび定着装置

【課題】 高い耐久性が得られる駆動ローラおよびそれを使用した定着装置を提供する。
【解決手段】 定着ローラ24と加圧ローラ26の転接部に記録媒体を通過させる方式をとる定着装置10の加圧ローラ26と定着ローラ24において、ローラの周囲に配設される弾性体として、エマルジョン組成物より調製された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマーの多孔質体を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複写機、プリンター、ファクシミリ装置等に使用する駆動ローラおよび定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター、ファクシミリ装置等の電子写真装置では、記録媒体(シート)に載った未定着トナーを定着装置で溶融圧着してシート上に定着させている。このとき、シート上のトナーを所定温度(例えば、100〜200℃)近くまで加熱ローラで加圧する必要がある。このような定着装置には、加熱・定着ローラからなる2ローラ方式の装置構成がよく知られている。
【0003】
近年、高速印刷用を目的として、このようなプリンター等に使用されるベルト式定着装置(例えば、特許文献1を参照)は、2ローラ式の加熱・定着ローラから熱源を外部に取り出し、熱源を内蔵した加熱ローラを別途設けた構成を有しており、この加熱ローラからの熱を、定着ベルトを介して定着ローラと加圧ローラとの転接部(ニップ部)に伝達することで、その転接部を通過する記録媒体(未定着シート)上のトナーを加圧および加熱している。
【0004】
また、上記ベルト式定着装置では、転接部のニップ幅を広く取るため、定着ローラ、加圧ローラともにその弾性層を厚肉で弾性変形量が大きい材料で構成している。そのため、弾性層材料をスポンジとしたり、あるいは硬度の低いゴム材料を使用することが考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開平6−318001号(特許登録第2813297号)公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、定着ローラ等の弾性層材料として高硬度スポンジやゴム材料を使用した場合、弾性層の熱容量が大きくなって、待機状態からの立ち上がり時間(ウォーミングアップ時間)の短縮化ができない。また、高硬度スポンジを使用してニップ幅を広く取ろうとしても、ローラ間に高荷重、高負荷が必要となって装置が大型化するという問題がある。
【0007】
そこで、ウォーミングアップ時間の短縮化のため、定着ローラ等の弾性材料として低硬度スポンジ等を使用してローラの熱容量を小さくする方法もあるが、低硬度材(例えば、アスカー(ASKER)C硬度で25度以下)では、その機械的な強度上の理由から耐久性の問題が生じる。例えば、定着ローラ等の弾性層にシリコーンゴムを発泡させたスポンジ(以下、シリコーンスポンジという)や、吸水性ポリマーと水とシリコーンゴムとからなるスポンジ(以下、水発泡スポンジという)等の低硬度スポンジを使用した場合、ウォーミングアップ時間の短縮化はできても、これらのスポンジ層にかかる外力によって短期間にスポンジが破壊されてしまい耐久性に劣る。
【0008】
従って、このような低硬度スポンジを使用して長寿命を得るには、ローラの圧力解除機構を設ける等、低加圧、低負荷といった制約が必要となるため、その使用可能範囲が狭くなるという欠点がある。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、耐久性に優れた駆動ローラおよびかかる駆動ローラを使用した定着装置を提供することである。
【0010】
また、本発明の他の目的は、小径でも広いニップ幅を得ることができ、ウォーミングアップ時間の短縮化を図ることのできる駆動ローラおよび定着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として、例えば、以下の構成を備える。すなわち、本発明は、定着ベルトを回転させるための駆動ローラであって、回転自在に軸支され駆動源からの駆動力を受けて回転駆動される芯金と、前記芯金の外周を取り巻くように配設された弾性体からなる層とを備え、前記弾性体はエマルジョン組成物より調製された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマー製の多孔質体からなることを特徴とする。
【0012】
例えば、定着ローラと、テンションローラと、これら定着ローラとテンションローラとに張架された定着ベルトと、その定着ベルトの外側にあって前記定着ローラとともに前記定着ベルトを矜持しながら前記定着ローラに所定の圧力で転接する加圧ローラとを備えた定着装置における前記定着ローラまたは加圧ローラが、前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであることを特徴とする。
【0013】
例えば、前記定着ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであることを特徴とする。また、例えば、前記加圧ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであることを特徴とする。
【0014】
例えば、前記多孔質体は50μm以下の径を有するセルが全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有するシリコーンエラストマーからなることを特徴とする。
【0015】
例えば、セルの長径mとセルの短径nが、0≦(m−n)/m≦0.5で示される関係を満たすセルが全セル数の50%以上を占めることを特徴とする。また、例えば、セルの長径mとセルの短径nが、0≦(m−n)/n≦0.5で示される関係を満たすセルが全セル数の50%以上を占めることを特徴とする。
【0016】
例えば、前記シリコーンエラストマーは30μm以下の平均セル径を有することを特徴とする。例えば、前記セルの径が0.1μm乃至70μmの範囲にあることを特徴とする。また、例えば、前記シリコーンエラストマーは80%以上の単泡率を有することを特徴とする。
【0017】
例えば、前記多孔質体は、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材と、界面活性作用を有するシリコーンオイル材と、水を含有する油中水型エマルジョン組成物とから調製されることを特徴とする。
【0018】
上述した課題を解決する他の手段として、本発明は、定着ローラと、テンションローラと、これら定着ローラとテンションローラとに張架された定着ベルトと、その定着ベルトの外側にあって前記定着ローラとともに前記定着ベルトを矜持しながら前記定着ローラに所定の圧力で転接する加圧ローラとを備えた定着装置において、前記定着ローラまたは加圧ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであり、これら定着ローラまたは加圧ローラは、回転自在に軸支され駆動源からの駆動力を受けて回転駆動される芯金と、前記芯金の外周を取り巻くように配設された弾性体からなる層とを備え、前記弾性体はエマルジョン組成物より調製された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマー製の多孔質体からなることを特徴とする。
【0019】
また、上述した課題を解決する他の手段として、本発明は、定着ローラと、テンションローラと、これら定着ローラとテンションローラとに張架された定着ベルトと、その定着ベルトの外側にあって前記定着ローラとともに前記定着ベルトを矜持しながら前記定着ローラに所定の圧力で転接する加圧ローラとを備えた定着装置において、前記定着ローラまたは加圧ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであり、これら定着ローラと加圧ローラは、回転自在に軸支され駆動源からの駆動力を受けて回転駆動される芯金と、前記芯金の外周を取り巻くように配設された弾性体からなる層とを備え、前記弾性体はエマルジョン組成物より調製された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマー製の多孔質体からなることを特徴とする。
【0020】
例えば、前記定着ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであることを特徴とする。また、例えば、前記加圧ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、弾性体材料として使用する多孔質体のセルが微細かつ均一であり、その平均セル径が真球に近い独立気泡型であることから外力を分散しやすい。そのため、高い耐久性を備えた駆動ローラおよびそれを使用した定着装置を提供することができる。また、本発明によれば、弾性体材料としての多孔質体が低熱容量であるため、ウォーミングアップ時間の短縮化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る一実施の形態例について詳細に説明する。図1は、本実施の形態例に係る定着装置の内部構造を示す側面図である。図中右方が、定着装置10の正面側であり、図中左方が裏面側である。また、この定着装置では、上面に未定着のトナーが担持された未定着シート(記録媒体)が、図中の右方から左方に向けて搬送される。
【0023】
定着装置10は、図示しない電子式画像形成装置(例えば、電子プリンター)のフレームに固定されるハウジング(筐体)12を備えており、このハウジング12は、装置フレームに直接固定される底板14と、この底板14の左右両側縁から各々起立した側板16とを備えて構成されている。また、両側板16の上部には、後述する加熱ローラ28が回転自在に軸支される摺動ブラケット18が、図中の上下方向に沿って摺動自在に取り付けられている。一方、両側板16の下部には、後述する加圧ローラ26が回転自在に軸支される揺動ブラケット20が、支軸22回りに揺動自在に支持されている。
【0024】
定着装置10は、ローラ構成として、定着ローラ24、加圧ローラ26、および加熱ローラ28を備える。定着ローラ24は、側板16に固定軸線回りに回転自在に軸支され、加圧ローラ26は、定着ローラ24の略下方において、定着ローラ24に転接する状態で、かつ、定着ローラ24の固定軸線と平行に設定された固定軸線回りに、揺動ブラケット20に回転白在に支持されている。また、加熱ローラ28は、定着ローラ24の略上方に位置し、摺動ブラケット18に回動自在に支持されている。
【0025】
加熱ローラ28の内部には、例えば、ハロゲンランプ等の第1の加熱源30が配設され、加熱ローラ28と定着ローラ24とに渡って、定着ベルト(熱伝達ベルト)32がエンドレスに巻回されている。なお、図1に示す構成では、加圧ローラ26の内部には、例えば、ハロゲンランプ等の第2の加熱源33が配設されているが、これに限定されるものではなく、加熱源33のない構成としてもよい。
【0026】
定着ローラ24と加圧ローラ26の弾性層に使用する具体的な材料については後述するが、ここでは、定着ローラ24は弾性ローラとして構成され、加圧ローラ26は、弾性ローラよりも硬いローラ上硬度を有するローラとして構成されている。また、定着ローラ24と加圧ローラ26の外径がそれぞれ異なる構成であってもよいし、定着ローラ24と加圧ローラ26各々の外周面に取り付けた耐熱弾性体は、同じ肉厚を有する構成でもよいし、定着ローラ24の耐熱弾性体の肉厚が、加圧ローラ26の耐熱弾性体の肉厚よりも厚くなるように設定してもよい。
【0027】
揺動ブラケット20は、第1のコイルスプリング34によって、加圧ローラ26が定着ローラ24に圧接する方向に、支軸22回りに回動付勢されている。その結果、定着ローラ24と加圧ローラ26との互いの転接部(ニップ部)において、互いに所定の圧接力で転接し、定着ローラ24と加圧ローラ26の外周面が転接部で凹んだ状態になる。これにより、ニップ幅が十分に確保される。
【0028】
また、定着装置10はさらに、左右各端部において、前後1対づつの第2のコイルスプリング36を備えている。すなわち、第2のコイルスプリング36は、摺動ブラケット18の各端部と対応する側板16との間に介設され、加熱ローラ28を定着ローラ24から離間する方向に付勢して、定着ベルト32に所定のテンションを付与している。
【0029】
上述したハウジング12には、未定着シートを転接部に向けて導くための取り込みガイド板38が取り付けられており、また、転接部を通過して定着動作が終了した定着済みシートを排紙口に向けて搬送するための排紙ガイド板40が取り付けられている。さらに、ハウジング12には、定着ローラ24の外周面の定着ベルト32が巻回されていない部分であって、転接部よりも定着ローラ24の回転方向に関して直上流側に位置する部分の表面温度を検出するために第1のサーミスタ42が、また、加圧ローラ26の外周面の非通紙部分の表面温度を検出するために第2のサーミスタ43が取り付けられている。
【0030】
なお、これら第1および第2のサーミスタ42,43は、ここでは、各々接触式の構造が採用されている。第1のサーミスタ42の温度検出位置は、定着ローラ24の外周面であって、定着ベルト32が巻回されていない部分に限定されることなく、定着ローラ24の外周面に巻回されている定着ベルト32の外周面であって、転接部よりも定着ローラ24の回転方向に関して直上流側に位置する部分の表面温度を検出できる位置に取り付けてもよい。この場合、第1のサーミスタ42は、非接触式であることが好ましい。また、上述のように加圧ローラ26の内部に加熱源33のない構成とした場合、本定着装置より第2のサーミスタ43を省略できる。
【0031】
図示しない搬送機構を介して定着装置10に向けて搬送されてきた未定着シートの先端は、まず、取り込みガイド板38の上面に触れ、これに案内された状態で、斜め上向きに搬送されるように設定されている。取り込みガイド板38により案内された未定着シートは、その先端が加圧ローラ26の外周面に先ず接触した後、加圧ローラ26の外周面に沿って移動して、定着ローラ24と加圧ローラ26の転接部(ニップ部)に導かれる。
【0032】
すなわち、上述した構成をとる定着装置10において、取り込みガイド板38上に搬送されてきた未定着シートは、未定着トナーが付着していない下面が取り込みガイド板38に接触、支持されるとともに、定着ベルト32が巻かれた定着ローラ24と加圧ローラ26との転接部に向けて案内され、両ローラ24,26の間を圧接された状態で挿通される。これにより、未定着トナーが熱圧着されてシート上に定着される。
【0033】
次に、上述した定着装置の各構成要素について説明する。図2は、図1に示す定着装置10の各ローラ端部における支持状態を表す断面図である。図1および図2に示すように、定着ローラ24は、芯金部24Aと、その芯金部24Aの外周に同軸に配設され、定着ベルト32が巻回されるローラ本体24Bを備えており、ローラ全体が側板16にベアリング44を介して、回転自在に軸支されている。
【0034】
なお、図2に示すように、芯金部24Aの一端に位置する軸部には、第1の従動ギヤ46が、これと同軸にワンウェイクラッチ48を介して取り付けられており、この第1の従動ギヤ46には、加圧ローラ26の芯金部26Aの一端部に同軸に取り付けられた第2の従動ギヤ50が噛合している。
【0035】
一方、第2の従動ギヤ50には、詳細は省略するが駆動機構の一部を構成する駆動ギヤが噛合している。このようにして、この駆動ギヤを介して駆動機構からの駆動力が、第2の従動ギヤ50に対して、図中反時計方向の回転力として伝達され、引き続き、第1の従動ギヤ46に図中時計方向の回転力として伝達される。その結果、この回転力がワンウェイクラッチ48を介して定着ローラ24に伝達される構成となっている。
【0036】
芯金部26Aの一端に配設された軸部については、上述したように、第2の従動ギヤ50が同軸に固定されており、この第2の従動ギヤ50には、上述した第1の従動ギヤ46が噛合している。そして、図示しない駆動ギヤを介して、これからの駆動力が第2の従動ギヤ50に直接伝達されて、加圧ローラ26が定着ローラ24とは反対の反時計方向に回転駆動されるように構成されている。
【0037】
図1に示すように、加圧ローラ26は、定着ローラ24の直下方に位置しているのではなく、定着ローラ24の直下方位置よりも、未定着シートが搬送される方向に沿って、下流側に偏倚した位置に配設されている。すなわち、加熱ローラ28と定着ローラ24の両中心点を通る線分を基線とした場合に、この基線と、定着ローラ24と加圧ローラ26の両中心点を通る線分とのなす角度が、所定の鋭角となるような位置に加圧ローラ26が配設されている。なお、定着ローラ24と加圧ローラ26の両中心点を通る線分は、未定着シートの搬送方向と略直交するように設定されている。
【0038】
ワンウェイクラッチ48は、定着ローラ24の第1の従動ギヤ46に対する、図中時計方向の相対的な回転を許容するが、図中反時計方向の相対的な回転を係止するように、換言すれば、両者が一体的に回転するように構成されている。すなわち、定着ローラ24が定着ベルト32と摩擦係合し、また、定着ベルト32が加圧ローラ26と摩擦係合して、加圧ローラ26によって、定着ローラ24および定着ベルト32が従動(連れ回り)することになる。
【0039】
上述した第1の加熱源30を内蔵する加熱ローラ28は、本実施の形態例においては、その直径が例えば、20.1mmで、肉厚0.1〜0.7mmの鉄パイプ製芯金の外周面に、厚さ20μmのPTFEの被覆層をコーティングしたもので構成されている。すなわち、加熱ローラ28は、後述するようにウォーミングアップ時間の短縮化の目的で、薄肉芯金を有するように構成されている。
【0040】
図3は、本実施の形態例における加熱ローラ28の支持部の構造等を示す部分的な断面図である。なお、図3では、構造を分かりやすくするため、加熱ローラ28の左右の支持部分を90°回転させて示している。図2および図3に示すように、加熱ローラ28の両端は、ベアリング56を介して回転自在に軸支されており、ベアリング56の内側には、耐熱樹脂であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製の寄り止め部材58が挿入されている。
【0041】
加熱ローラ28の両端部分には、図3に示すように係合用スリット101が配されており、この係合用スリット101に、寄り止め部材58に設けた凸部103を係合させて、寄り止め部材58を加熱ローラ28に固定している。これにより、従来の定着装置のように、ローラの端部において芯金の肉厚の段差を設け、その段差を利用して寄り止め部材のスラスト方向への移動防止等を図る必要はなく、加熱ローラ28に薄肉(例えば、0.1〜0.7mm)の鉄パイプ製芯金を使用できる。
【0042】
よって、係合用スリット101を設けたことで、加熱ローラ28に薄肉の鉄パイプ製芯金を使用しても、寄り止め部材58を加熱ローラ28に確実に固定でき、定着ベルト32の蛇行や片寄りを防止できるだけでなく、加熱ローラ28のスラスト方向の移動を規制できる。また、ローラ芯金が薄肉であることから、加熱時のウォーミングアップ時間の短縮化を図ることができる。
【0043】
発熱手段として、加熱ローラ28に内蔵されている第1の加熱源30は、最大出力(発熱量)が800Wのハロゲンランプにより構成されている。また、加圧ローラ26に内蔵された第2の加熱源33は、最大出力(発熱量)が400Wのハロゲンランプで構成されている。本実施の形態例において、定着装置10の加熱源に許容された最大出力は、800Wに設定されている。すなわち、第1の加熱源30は、定着装置10に許容される最大出力そのものを出力することができるように設定されている。なお、発熱手段については、ローラに内蔵する方式に限らず、例えば、ローラや定着ベルトの外部からハロゲンランプ等で直接加熱したり、あるいは誘導加熱(IH)手段を設ける誘導加熱方式(IH方式)としてもよい。
【0044】
また、加圧ローラ26に第2の加熱源33を内蔵した構成とした場合、後述する定着可能温度までは、第2の加熱源33と加熱ローラ28に内蔵された第1の加熱源30とを同時に発熱動作(点灯動作)させ、定着可能温度以上に上昇した場合には、加圧ローラ26に内蔵した第2の加熱源33の動作を停止させるようにしてもよい。また、定着可能温度以上に上昇した場合、加熱ローラ28に内蔵された第1の加熱源30がオフ状態の場合にのみ、加圧ローラ26に内蔵した第2の加熱源33を発熱動作させるように構成してもよい。
【0045】
上述した定着可能温度までは、加熱ローラ28の第1の加熱源30は、ここで使用できる電力の最大出力とするが、定着可能温度よりも上昇した場合には、第1の加熱源30は、ここで使用できる電力の最大出力以下に設定されていてもよい。
【0046】
定着ベルト32は、未定着シート上の未定着トナーを定着温度まで、過剰な熱量を与えることなく定着できるようにする。そのため、定着ベルト32の1平方センチメートル当たりの熱容量が、0.008J/℃〜0.105J/℃の範囲内のものが好ましい。本実施の形態例における定着ベルト32は、図4に示すように、内径が50mm、厚さが90μmのポリイミド樹脂製の無端状のベルト基体32aと、このベルト基体32aの外周面(表層)に厚さ30μmで被覆されたPFAの耐熱離型層32bで構成されている。
【0047】
本発明において、ベルト基体32aとしてポリイミド樹脂を用いることに限定されることなく、ステンレスやニッケル電鋳製の金属ベルトを用いてもよいことは言うまでもない。また、ステンレスやニッケル電鋳製の金属ベルトをベルト基体32aとして用いる場合には、ベルト基体32aの厚さを、例えば、30μmとし、そのベルト基体32aの表面に厚さ300μmで耐熱シリコーンゴムを被覆し、さらに、この耐熱シリコーンゴム層の外周に、ポリイミド樹脂の場合と同様に厚さ30μmで被覆されたPFAの耐熱離型層32bを被覆する構成を採用する。
【0048】
次に、定着ベルト32ヘテンションを付与するための機構について説明する。上述した第2のコイルスプリング36は、加熱ローラ28を定着ローラ24から離間する方向に付勢して、定着ベルト32に所定のテンションを付与している。すなわち、第2のコイルバネ36の付勢力により、加熱ローラ28は、摺動ブラケット18を介して定着ローラ24から離間する方向に偏倚される。これにより、加熱ローラ28と定着ローラ24とにエンドレスに掛け渡された定着ベルト32は、所定のテンションに緊張された状態で張られることになる。
【0049】
このように、第2のコイルバネ36の作用により、定着ベルト32は、加圧ローラ26と摩擦係合して連れ回り、かつ、定着ベルト32の連れ回りに応じて、定着ローラ24が定着ベルト32に対してスリップや緩みのない、安定した状態で従動される。
【0050】
なお、定着装置のローラ駆動構成は、上述した図1等に示す構成例に限定されるものではなく、例えば、後述する弾性層材料(シリコーンエラストマー多孔質体)を形成した定着ローラの軸をモータ等の駆動源により直接あるいは間接に駆動して、それに転接する他のローラに回転駆動力を与える駆動ローラとする構成としてもよい。
【0051】
次に、本実施の形態例に係る定着装置における制御システムについて説明する。図5は、定着装置10に係る制御システム全体の構成を示すブロック図である。同図に示すように、定着装置10は、上述した駆動機構52の駆動制御を行う他、加熱ローラ28に内蔵された第1の加熱源30、および加圧ローラ26に内蔵された第2の加熱源33の発熱制御等を行うための制御部60を備えている。
【0052】
制御部60には、上述した発熱制御のため、第1のサーミスタ42と第2のサーミスタ43、および第1のヒータドライバ62と第2のヒータドライバ63が接続されている。そこで、待機時制御において、第2のサーミスタ43からの検出結果のみに基づき、第2のヒータドライバ63を介して、第2の加熱源33を発熱制御する。また、通紙時制御においては、第1のサーミスタ42からの検出結果のみに基づき、第1のヒータドライバ62を介して、第1の加熱源30を発熱制御する。
【0053】
すなわち、制御部60は、これら第1および第2のヒータドライバ62,63を介して、第1の加熱源30および第2の加熱源33としての各々のハロゲンランプを制御する。また、制御部60には、外部(例えば、電子プリンター)より通紙指令(プリント動作開始信号)を受ける入力端子71と、定着装置全体への電源の供給をオン/オフするための電源スイッチ64と、特に発熱制御に係わる部分への電源供給をオン/オフするためのメインスイッチ66とが接続されている。
【0054】
なお、定着装置10の加圧ローラ26に加熱源としてハロゲンランプ(第2の加熱源33)を内蔵しない構成としてもよい。すなわち、制御部60が、加熱ローラ28に内蔵した第1の加熱源30のみによる発熱制御を行うようにしてもよい。
【0055】
次に、本実施の形態例に係る定着装置の制御部における制御手順について詳細に説明する。図6は、定着装置10の制御部60における制御(発熱制御)手順を示すフローチャートである。なお、定着装置10は、装置全体の制御を司るためのマイクロプロセッサ(CPU)、プログラムや閾値や設定値をあらかじめ記憶した読み出し専用メモリ(ROM)、定着装置10が装着される電子プリンター等の電子式画像形成装置の制御部との間で情報を送受信するためのインターフェース回路、各種のI/Oポート等を備えるが、ここでは、それらの図示および説明を省略する。
【0056】
本実施の形態例では、以下に詳述するように、電源スイッチの投入に伴い、ウォーミングアップ状態を規定して、所定のウォーミングアップ時制御手順を実行し、電子プリンターからプリント信号が出力されない状態では、待機状態を規定して所定の待機時制御手順を実行する。また、電子プリンターからプリント信号が入力された場合には、このプリント信号が終了しない限り通紙状態を規定し、所定の定着時制御手順を実行するように構成されている。
【0057】
図6に示すように、定着装置10の制御部60は、最初に、電源スイッチ64がオン状態にあって、メインスイッチ66がオンされたかどうかを判断する(ステップS10)。メインスイッチ66がオンされていれば、続くステップS12で、所定の初期化動作を実行し、ステップS14でウォーミングアップ時制御を実行する。
【0058】
ステップS16では、電子プリンターより定着装置10へプリント信号(通紙指令)が送られてきたか否かが判定される。プリント信号がなければ、ステップS20において、待機状態制御が実行される。すなわち、ステップS20における待機状態制御は、電子プリンターから定着装置10へプリント信号が送信されるまで実行される。
【0059】
一方、制御部60は、電子プリンターからのプリント信号を受信すると、ステップS22において、上述した駆動機構52における各駆動部を起動し、所定の駆動制御手順に従って駆動制御するとともに、第1の加熱源30および第2の加熱源33を発熱制御するための通紙状態制御を実行する。そして、ステップS24で、プリント終了信号の有無を判断する。
【0060】
ステップS24で、プリント終了信号がないと判断されれば、制御部60は、処理をステップS22に戻して、再び駆動制御および通紙状態制御を実行し、電子プリンターからプリント終了信号が送信されるまで、これらの通紙状態制御等を実行する。しかし、制御部60は、ステップS24でプリント終了信号を検出すると、ステップS26で、駆動機構52における各駆動部を停止させた後、ステップS20に戻って、待機状態制御を実行する。
【0061】
なお、上述したステップS20における待機状態制御は、例えば、第1のサーミスタ42で、定着ローラ24の所定位置の表面温度を検出し、この検出温度Tbが第1の設定温度T1以下であれば、定着ベルト32の温度が目標となる第1の設定温度T1に至っていないとして、第1のヒータドライバ62を介して、加熱ローラ28に内蔵された第1の加熱源30のみに通電し、これを発熱させる。
【0062】
一方、検出温度Tbが第1の設定温度T1よりも高いと判断された場合には、定着ベルトの温度が既に目標となる第1の設定温度T1を越えたとして、加熱ローラ28に内蔵された第1の加熱源30への通電を停止させる。
【0063】
次に、本実施の形態例に係る定着装置の定着ローラと加圧ローラについて詳細に説明する。本実施の形態例に係る定着装置では、定着ローラと加圧ローラの弾性層を、耐久性があり、厚肉で弾性変形量の大きい材料で構成する。例えば、定着ローラ24のローラ外径を35.0mmに設定し、芯金部24Aを鉄製シャフトで形成し、ローラ本体24Bは、芯金部24Aの外周に弾性体として、例えば厚さ7.5mmで取り付けられたシリコーンエラストマー多孔質体(アスカー(ASKER)C硬度で20度)より形成されている。
【0064】
加圧ローラ26は、上述したように、側板16にベアリング54を介して回転自在に軸支される芯金部26Aと、この芯金部26Aの外周に同軸に配設されたローラ本体26Bとを備え、そのローラ外径は、例えば、35.0mmである。なお、芯金部26Aは、例えば、肉厚2mmの鉄製パイプで形成され、ローラ本体26Bは、芯金部26Aの外周に厚さ4.0〜6.0mmで取り付けられたシリコーンエラストマー多孔質体(定着ローラ24よりも硬めである、ASKER C硬度で48度のもの)で形成されている。
【0065】
本実施の形態例に係る定着装置のローラで使用するシリコーンエラストマー多孔質体は独立気泡型のもので、シリコーンエラストマーを母体(マトリックス)とし、その母体中に分散・分布した多数の閉じたセル(独立気泡)を含んでなる。独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体は、具体的には、50μm以下の径を有するセルが、全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有する。なお、独立気泡数の割合の指標となる単泡率が60%未満であると、多孔質体の強度が弱くなる。
【0066】
ここで、従来のシリコーンエラストマー多孔質体について簡単に説明する。発泡剤を用いて製造されたシリコーンエラストマー多孔質体は、そのセルサイズが大きく、不均一である。そのため、加熱時の形状が安定せず、トルクがかかったときにその力を均一に分散できないため破断しやすいという問題がある。また、シリコーンスポンジを加圧ローラに使用したとき、セル目が印刷画像に現れるという問題がある。そこで、本実施の形態例に係る定着装置の定着ローラと加圧ローラには、セルサイズが小さく、均一な独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体を使用する。
【0067】
本実施の形態例に係るローラで使用するシリコーンエラストマー多孔質体は、セルの径が0.1μm〜70μmの範囲にあり、さらにセルの径は、0.1μm〜60μmの範囲内にあり得る。また、このシリコーンエラストマー多孔質体は、50μm以下の径を有するセルが、全セル数の80%以上を占める。このシリコーンエラストマー多孔質体については、セルの長径mと短径nが、
0≦(m−n)/m≦0.5 …(1)
で示される関係を満たすセルが、全セル数の50%以上を占める。式(1)は、セルがどの程度真球に近いか(真球度)を表す尺度である。
【0068】
また、このシリコーンエラストマー多孔質体において、以下の式(2)によって与えられる条件をも満足するセルが、全セル数の50%以上を占める。
0≦(m−n)/n≦0.5 …(2)
【0069】
ここで、セルの長径mとは、シリコーンエラストマー多孔質体の断面に現れる各セルについて、そのほぼ中心を通る、セルの輪郭上の最大2点間直線距離を意味し、短径nとは、各セルについて、そのほぼ中心を通る、セルの輪郭上の最小2点間距離を意味する。具体的には、シリコーン多孔質体の任意の断面をSEMで撮影し、100〜250個程度のセルが存在する領域で各セルの長径mと短径nを計測することで得られる。
【0070】
各セルの径は、各セルの長径mと短径nの和を2で除した値に相当する。いうまでもなく、セルが真球の場合には、m=nとなる。本実施の形態例に係るローラで使用するシリコーンエラストマー多孔質体は、30μm以下、さらには10μm以下の平均セル径を有することができる。
【0071】
上述したように、使用するシリコーンエラストマー多孔質体は、実質的に独立気泡型のものであり、多孔質体の全セル数のうち、閉じたセル(独立気泡)がどの程度の割合で存在するかは、「単泡率」で表わすことができる。ここで使用するシリコーンエラストマー多孔質体は、60%以上の単泡率を有することができ、さらには80%以上の単泡率を有することができる。
【0072】
独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体は、基本的には、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、および水を含有する油中水型エマルジョンから製造することができる。その際、液状シリコーンゴム材が低い粘度を有する場合には、液状シリコーンゴム材と水を十分に攪拌し、エマルジョンを生成させ、その後すぐに加熱して水を蒸発させ、硬化させることができる。なお、エマルジョンとは、乳濁液ともいわれ、液中に混じりあわない他の液体が微細粒子となって、分散、浮遊している混合物のことをいう。
【0073】
しかしながら、シリコーンエラストマー多孔質体は、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材および水とともに、界面活性作用を有するシリコーンオイル材を含有する油中水型エマルジョンから好適に製造することができる。
【0074】
液状シリコーンゴム材は、加熱により硬化してシリコーンエラストマーを生成するものであれば、特に制限はないが、いわゆる付加反応硬化型液状シリコーンゴムを使用することが好ましい。付加反応硬化型液状シリコーンゴムは、主剤となる不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと架橋剤となる活性水素含有ポリシロキサンを含む。不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンにおいて、不飽和脂肪族基は、両末端に導入され、側鎖としても導入され得る。
【0075】
また、活性水素含有ポリシロキサン(ハイドロジェンポリシロキサン)は、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンに対し架橋剤として作用するものであり、主鎖のケイ素原子に結合した水素原子(活性水素)を有する。水素原子は、活性水素含有ポリシロキサン1分子当たり3個以上存在することが好ましい。
【0076】
市販されている液状シリコーンゴム材は、付加反応硬化型液状シリコーンゴムを構成する不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとは別々のパッケージで提供され、両者の硬化に必要な硬化触媒は、活性水素含有ポリシロキサンに添加されている。なお、液状シリコーンゴム材は、2種類以上を併用して用いることができる。
【0077】
界面活性作用を有するシリコーンオイル材は、エマルジョン中に水を安定に分散させるための分散安定剤として作用する。界面活性作用を有するシリコーンオイル材は、水に対し親和性を示すとともに、液状シリコーンゴム材に対しても親和性を示す。このシリコーンオイル材は、エーテル基等の親水性基を有することが好ましい。また、このシリコーンオイル材は、通常3〜13、好ましくは4〜11のHLB値を示す。より好ましくは、HLB値が3以上異なる2種類のエーテル変性シリコーンオイルを併用する。
【0078】
その場合、さらに好ましくは、7〜11のHLB値を有する第1のエーテル変性シリコーンオイルと、4〜7のHLB値を有する第2のエーテル変性シリコーンオイルとを組み合わせて使用する。いずれのエーテル変性シリコーンオイルも、ポリシロキサンの側鎖にポリエーテル基を導入したものを用いることができ。
【0079】
水は、上記の油中水型エマルジョン中において、粒子(水滴)の形態で不連続相として分散して存在する。この水粒子の粒径が、本実施の形態例に係るローラで使用するシリコーンエラストマー多孔質体のセル(気泡)の径を実質的に決定する。この油中水型エマルジョンは、液状シリコーンゴム材を硬化させるために、硬化触媒を含有することができる。硬化触媒としては、既知の白金触媒を用いることができる。白金触媒の量は、白金原子として、1〜100重量ppm程度で十分である。また、硬化触媒は、シリコーンエラストマー多孔質体を製造する際に、油中水型エマルジョンに添加してもよいが、油中水型エマルジョンを製造する際に配合することもできる。
【0080】
油中水型エマルジョンにおいて、液状シリコーンゴム材100重量部に対し、界面活性作用を有するシリコーンオイル材を0.2〜5.5重量部、水を10〜250重量部の割合で使用することが、水分散安定性に特に優れたエマルジョンを得る上で好ましい。このような水分散安定性に優れたエマルジョンを使用することにより、良好な多孔質体をより一層安定に製造できる。
【0081】
界面活性作用を有するシリコーンオイル材が、上述した第1のエーテル変性シリコーンオイルと第2のエーテル変性シリコーンオイルとの組合せからなる場合、液状シリコーンゴム材100重量部に対して、第1の工一テル変性シリコーンオイルを0.15〜3.5重量部、第2のエーテル変性シリコーンオイルを0.05〜2重量部(合計0.2〜5.5重量部)とすることが好ましい。また、液状シリコーンゴム材が不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとの組合せからなる場合、前者と後者の重量比は、6:4〜4:6が好ましい。
【0082】
シリコーンエラストマー多孔質体は、その用途に応じて、種々の添加剤を含有させることができる。そのような添加剤としては、着色料(顔料、染料)、導電性付与材(カーボンブラック、金属粉末等)、充填材(シリカ等)がある。これらの添加剤は、上記の油中水型エマルジョンに配合することができる。
【0083】
さらに、上記の油中水型エマルジョンは、例えば、脱泡を容易にすること等を目的としてエマルジョンの粘度を調整するために、分子量の低い、非反応性のシリコーンオイルを含有することができる。また、油中水型エマルジョンは、1cSt〜20万cStの粘度を有すると、脱泡が容易に行え、取扱い上、都合がよい。
【0084】
油中水型エマルジョンは、種々の方法により製造することができる。一般的には、液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水を、必要に応じてさらなる添加剤とともに混合し、それを十分に攪拌することによって製造できる。液状シリコーンゴム材が、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとの組合せにより提供される場合には、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと界面活性作用を有するシリコーンオイル材の一部を混合・攪拌して第1の混合物を得、他方、活性水素含有ポリシロキサンと界面活性作用を有するシリコーンオイル材の残りを混合・攪拌して第2の混合物を得ることができる。次いで、第1の混合物と第2の混合物を混合・攪拌しながら、徐々に水を添加し、攪拌することにより所望のエマルジョンを得ることができる。
【0085】
なお、油中水型エマルジョンの製造方法は、上記に限定されるものではない。例えば、液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水、並びに必要に応じて添加される添加剤の添加順序は、どのようなものでもよい。また、好適な油中水型エマルジョンを形成させるための攪拌は、例えば、300rpm〜1000rpmの攪拌器回転速度で行うことができる。
【0086】
一方、エマルジョン形成後、油中水型エマルジョンを加熱することなく、例えば、真空減圧機で脱泡処理を行って、エマルジョン中に存在する空気を除去することもできる。
【0087】
油中水型エマルジョンを用いてシリコーンエラストマー多孔質体を製造するためには、硬化触媒の存在下、油中水型エマルジョンを液状シリコーンゴム材の加熱硬化(一次加熱)条件に供することができる。一次加熱では、エマルジョン中の水を揮発させることなく、液状シリコーンゴム材を加熱硬化させるために、130℃以下の加熱温度を用いることが好ましい。
【0088】
一次加熱の際の加熱温度は、通常、80℃以上であり、加熱時問は、通常、5分〜60分程度である。この一次加熱により、液状シリコーンゴム材が硬化し、エマルジョン中の水粒子をエマルジョン中の状態のまま閉じ込める。硬化したシリコーンゴムは、後述する二次加熱による水分の蒸発の際の膨張力に耐える程度までに硬化する。
【0089】
次に、水粒子を閉じ込めた硬化シリコーンゴムから水分を除去するために、二次加熱を行う。この二次加熱は、70℃〜300℃の温度で行うことが好ましい。加熱温度が70℃未満では水の除去に長時間を要し、加熱温度が300℃を超えると、硬化したシリコーンゴムが劣化し得る。また、70℃〜300℃の加熱では、1時間〜24時間で水分は揮発除去される。二次加熱により水分が揮発除去されるとともに、シリコーンゴム材の最終的な硬化も達成される。揮発除去された水分は、硬化したシリコーンゴム材(シリコーンエラストマー)中に、水粒子の粒径にほぼ等しい径を有するセルを残す。
【0090】
上述したシリコーンエラストマー多孔質体は、発泡現象を伴うことなく上記油中水型エマルジョンより製造することができる。油中水型エマルジョン中の水粒子は、一次加熱により硬化したシリコーンゴムに閉じ込められ、二次加熱の際には、単に揮発するだけである。
【0091】
次に、本実施の形態例に係る定着装置のローラに弾性体として使用したシリコーンエラストマー多孔質体の耐久性について、他のスポンジ材料(弾性材料)との比較において説明する。表1に、シリコーンスポンジ、水発泡スポンジ、およびシリコーンエラストマー多孔質体それぞれの物性を比較して示す。表1より、シリコーンエラストマー多孔質体の機械的強度の高さが分る。なお、表1において、いずれの材料もその硬度は20度である。
【0092】
【表1】

【0093】
以下、定着装置の定着ローラと加圧ローラに異なる弾性体を形成して、加圧ローラを駆動することで耐久運転したときの比較結果を実施例1および実施例2として示す。ここでの耐久運転の条件は、実施例1および実施例2ともに、そのベルト表面を160〜170℃に加熱して8時間/日の連続運転を行うとともに、加熱源(ヒータ)をOFFにした16時間/日の連続運転である。
【0094】
[実施例1]
実施例1では、厚い弾性層を持つ加圧ローラを駆動させる構成を有する定着装置について耐久運転をした。ここでは、表2に示すように定着ローラ、加圧ローラともにローラ外径を35.0mmに設定し、定着ローラには、その芯金部の外周に弾性体として、厚さ7.5mm、アスカー(ASKER)C硬度で20度の(1)シリコーンスポンジ、(2)水発泡スポンジ、(3)シリコーンエラストマー多孔質体それぞれを形成した。また、加圧ローラは、ローラ本体の芯金部の外周に、厚さ5.5mm、硬度が48度の(1)シリコーンスポンジに厚さ30μmのPFAチューブ、(2)上記水発泡スポンジに厚さ30μmのPFAチューブ、(3)シリコーンエラストマー多孔質体に厚さ30μmのPFAチューブをそれぞれ被覆した。
【0095】
なお、このようなローラ構成とすることで、ニップ向きを略平行にして封筒通紙が可能となり、軽荷重で大きなニップ幅を得る、すなわち、小さいローラ径で広いニップ幅を得ることができる。
【0096】
【表2】

【0097】
表2に示すように、異なる弾性材料を使用したローラを配した定着装置で、ローラの耐久運転を実施した結果、表2(1)の例のように弾性体として定着ローラにシリコーンスポンジ、加圧ローラには、シリコーンスポンジに厚さ30μmのPFAチューブを被覆したものを使用した場合、加圧ローラは、300時間程度の運転で破壊に至った。また、表2の(2)の例のように定着ローラに水発泡スポンジ、加圧ローラには、水発泡スポンジに厚さ30μmのPFAチューブを被覆したものを弾性体として使用した場合、加圧ローラは、800時間程度の運転で破壊に至った。
【0098】
これらの材料に対して、定着ローラと加圧ローラの弾性体としてシリコーンエラストマー多孔質体を使用した場合、ローラの耐久性が格段に向上することが判明した。すなわち、定着ローラにシリコーンエラストマー多孔質体を形成し、加圧ローラには、シリコーンエラストマー多孔質体に厚さ30μmのPFAチューブを被覆したものを使用した場合、表2の(3)に示すように、ウォーミングアップ時間の短縮化のみならず、低硬度、低熱容量を維持しながら高い耐久性を示し、2000時間の耐久運転でも破壊に至らない程の耐久性が得られた。
【0099】
[実施例2]
実施例2に係る定着装置では、表3に示すように定着ローラ、加圧ローラともにローラ外径を35.0mmに設定し、加圧ローラの弾性層の厚さを上記実施例1に比べて薄い構成とした。また、定着ローラは、芯金部外周の弾性体の材料、その厚さ、硬度とも、上記実施例1と同じ設定とした。すなわち、定着ローラの弾性体には、(1)シリコーンスポンジ、(2)水発泡スポンジ、(3)シリコーンエラストマー多孔質体それぞれを使用した。一方、加圧ローラには、表3の(1)〜(3)いずれの場合においても、そのローラ本体の芯金部の外周に、厚さが2.5mm、硬度が68度の、シリコーンゴムに厚さ30μmのPFAチューブを被覆したものを使用した。なお、このようなローラ構成の定着装置では、ニップ下向きが得られ、また、加圧駆動で速度の変化を抑えることができる。
【0100】
【表3】

【0101】
表3に示す弾性材料を使用したローラで構成される定着装置において、定着ローラの弾性体に表3(1)のようにシリコーンスポンジを、加圧ローラには、シリコーンゴムに厚さ30μmのPFAチューブを被覆したものを使用した組合せでは、50時間程度の運転で定着ローラが破壊に至った。また、表3の(2)のように、定着ローラに水発泡スポンジを、加圧ローラには、シリコーンゴムに厚さ30μmのPFAチューブを被覆したものを弾性体として使用した場合、定着ローラは、上記と同様、50時間程度の運転で破壊に至った。これは、水発泡スポンジが、負荷(加圧力)によって、その寿命が極端に短くなるからである。
【0102】
これに対して表3(3)のように、定着ローラの弾性体としてシリコーンエラストマー多孔質体を使用し、加圧ローラの弾性体としてシリコーンゴムに厚さ30μmのPFAチューブを被覆したものを使用した場合、ローラの耐久性が向上した。すなわち、シリコーンエラストマー多孔質体を使用することにより、表3の(3)に示すように、ウォーミングアップ時間の短縮化とともに、定着ローラが破壊に至る時間が400時間前後にまで延びることが判明した。
【0103】
以上説明したように、本実施の形態例によれば、定着ローラと加圧ローラの転接部に記録媒体を通過させる方式をとる定着装置の加圧ローラと定着ローラにおいて、これらローラの弾性体としてセルが微細かつ均一であり、その平均セル径が真球に近い独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体を使用することで外力を分散しやすくなるため、従来の低硬度スポンジや水発泡スポンジを使用した場合に比べて、格段に高い耐久性を得ることができる。
【0104】
また、ローラの弾性体としてシリコーンエラストマー多孔質体を使用することで、弾性体材料として低硬度、低熱容量を維持することができるため、加圧力の制約を受けることなく、ウォーミングアップ時間を短縮することができるとともに、軽負荷で広いニップ幅を確保できる。同時に、これらの駆動ローラを小径の構成としても、広いニップ幅を得ることができる。
【0105】
本発明は、上述した実施の形態例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。例えば、上述した実施の形態例では、定着ローラと加圧ローラの双方において、それらの外周に弾性体としてシリコーンエラストマー多孔質体を形成しているが、これに限定されるものではない。例えば、定着ローラと加圧ローラのいずれか一方の外周にのみシリコーンエラストマー多孔質体を形成する構成としてもよい。具体的には、変形例1として、定着ローラの外周にのみ弾性体としてのシリコーンエラストマー多孔質体を形成し、その定着ローラが定着ベルトを回転させる駆動ローラとして機能する構成としてもよい。あるいは、変形例2として、加圧ローラの外周にのみシリコーンエラストマー多孔質体を形成し、その加圧ローラを駆動ローラとして定着ベルトを回転させる構成としてもよい。このような構成としても、ウォーミングアップ時間の短縮および広いニップ幅の確保が可能となる。
【0106】
また、上記シリコーンエラストマー多孔質体は、複写機やレーザビームプリンター等の作像部品、現像ローラ、トナー供給ローラ、転写ローラ、ドラムクリーニングローラ以外にも、複写機、各種プリンター、プロッタの用紙搬送ローラにも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施の形態例に係る定着装置の内部構造を示す側面図である。
【図2】図1に示す定着装置の各ローラ端部における支持状態を表す断面図である。
【図3】加熱ローラの支持部の構造等を示す部分的な断面図である。
【図4】定着ベルトの構造を示す図である。
【図5】定着装置に係る制御システム全体の構成を示すブロック図である。
【図6】定着装置の制御部における制御手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0108】
10 定着装置
12 ハウジング(筐体)
14 底板
16 側板
18,20 摺動ブラケット
22 支軸
24 定着ローラ
26 加圧ローラ
28 加熱ローラ
30 第1の加熱源
33 第2の加熱源
32 定着ベルト
34 第1のコイルスプリング
36 第2のコイルスプリング
38 取り込みガイド板
42 第1のサーミスタ
43 第2のサーミスタ
46 第1の従動ギヤ
48 ワンウェイクラッチ
50 第2の従動ギヤ
54 ベアリング
58 寄り止め部材
60 制御部
62 第1のヒータドライバ
63 第2のヒータドライバ
64 電源スイッチ
66 メインスイッチ
71 入力端子
101 係合用スリット
103 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着ベルトを回転させるための駆動ローラであって、
回転自在に軸支され駆動源からの駆動力を受けて回転駆動される芯金と、
前記芯金の外周を取り巻くように配設された弾性体からなる層とを備え、
前記弾性体はエマルジョン組成物より調製された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマー製の多孔質体からなることを特徴とする駆動ローラ。
【請求項2】
定着ローラと、テンションローラと、これら定着ローラとテンションローラとに張架された定着ベルトと、その定着ベルトの外側にあって前記定着ローラとともに前記定着ベルトを矜持しながら前記定着ローラに所定の圧力で転接する加圧ローラとを備えた定着装置における前記定着ローラまたは加圧ローラが、前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであることを特徴とする請求項1記載の駆動ローラ。
【請求項3】
前記定着ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであることを特徴とする請求項2記載の駆動ローラ。
【請求項4】
前記加圧ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであることを特徴とする請求項2記載の駆動ローラ。
【請求項5】
前記多孔質体は50μm以下の径を有するセルが全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有するシリコーンエラストマーからなることを特徴とする請求項1記載の駆動ローラ。
【請求項6】
セルの長径mとセルの短径nが、
0≦(m−n)/m≦0.5
で示される関係を満たすセルが全セル数の50%以上を占めることを特徴とする請求項5記載の駆動ローラ。
【請求項7】
セルの長径mとセルの短径nが、
0≦(m−n)/n≦0.5
で示される関係を満たすセルが全セル数の50%以上を占めることを特徴とする請求項5記載の駆動ローラ。
【請求項8】
前記シリコーンエラストマーは30μm以下の平均セル径を有することを特徴とする請求項6または7に記載の駆動ローラ。
【請求項9】
前記セルの径が0.1μm乃至70μmの範囲にあることを特徴とする請求項8記載の駆動ローラ。
【請求項10】
前記シリコーンエラストマーは80%以上の単泡率を有することを特徴とする請求項1記載の駆動ローラ。
【請求項11】
前記多孔質体は硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材と、界面活性作用を有するシリコーンオイル材と、水を含有する油中水型エマルジョン組成物とから調製されることを特徴とする請求項1記載の駆動ローラ。
【請求項12】
定着ローラと、テンションローラと、これら定着ローラとテンションローラとに張架された定着ベルトと、その定着ベルトの外側にあって前記定着ローラとともに前記定着ベルトを矜持しながら前記定着ローラに所定の圧力で転接する加圧ローラとを備えた定着装置において、
前記定着ローラまたは加圧ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであり、これら定着ローラまたは加圧ローラは、
回転自在に軸支され駆動源からの駆動力を受けて回転駆動される芯金と、
前記芯金の外周を取り巻くように配設された弾性体からなる層とを備え、
前記弾性体はエマルジョン組成物より調製された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマー製の多孔質体からなることを特徴とする定着装置。
【請求項13】
定着ローラと、テンションローラと、これら定着ローラとテンションローラとに張架された定着ベルトと、その定着ベルトの外側にあって前記定着ローラとともに前記定着ベルトを矜持しながら前記定着ローラに所定の圧力で転接する加圧ローラとを備えた定着装置において、
前記定着ローラまたは加圧ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであり、これら定着ローラと加圧ローラは、
回転自在に軸支され駆動源からの駆動力を受けて回転駆動される芯金と、
前記芯金の外周を取り巻くように配設された弾性体からなる層とを備え、
前記弾性体はエマルジョン組成物より調製された少なくとも独立気泡型のシリコーンエラストマー製の多孔質体からなることを特徴とする定着装置。
【請求項14】
前記定着ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであることを特徴とする請求項12または13に記載の定着装置。
【請求項15】
前記加圧ローラが前記定着ベルトを回転させるための駆動ローラであることを特徴とする請求項12または13に記載の定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−308857(P2006−308857A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131197(P2005−131197)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000227412)日東工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】