説明

駆動伝達機構

【課題】 回転体相互が非接触で磁力により駆動伝達するものでありながら、伝達時の遅れ発生を減少させ、所望の伝達トルク、回転数及び回転精度が得られ、回転速度を減速するなどのバリエーションに富んだ組合せや連装態様を行い得る駆動伝達機構を提供する。
【解決手段】 多極に着磁されたマグネット回転体20と20a(20b)を、互いの外周面同士が磁力伝達可能な間隙を存して対向連設し、一のマグネット回転体の回動に追随して、他の隣設マグネット回転体が、当該異極対向を吸着磁力により各極毎に順送りさせて回動伝達するよう相互に連動連繋せしめ、隣設するマグネット回転体20と20a(20b)を、互いに異なる回転伝達比の磁極数をもって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに非接触の回転体を磁力伝達により回転駆動させる駆動伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磁力により駆動伝達を行うものとしては、特開2000−125541号公報に開示されたものの如く、同軸線上に配設される円周多極構造のインナー磁石を有するインナー部材と、前記インナー磁石とラジアル(放射状)方向に対向配置された円周多極構造のアウター磁石を有するアウター部材とを具備するラジアル型のマグネットカップリング構造や、特開2001−251844号公報に開示されたものの如く、並設された回転軸に軸支して円周対向させた円盤のうち、一方を永久磁石よりなる駆動円盤とし、他方を強磁性体からなる従動円盤として、駆動円盤の磁力伝達により従動円盤を従動回転させるようにした構造のものなどが知られている。
【0003】
つまり、前者のものにあっては、多極構造のアウター磁石とインナー磁石を凹凸嵌挿し、それぞれの内・外周面に形成された異極同士をすべて対向させることで、周面全体のS−N(N−S)対極による強固な吸着磁力をもって、回転時に極ズレさせないようにしたものであり、非接触でも殆どスベリが生じることなく強力にトルクを伝達することができる利点があるが、歯車やプーリーによる動力伝達機構の代替えとして採用するには不向きである。
一方、後者のものにあっては、小径の駆動円盤の周面に一般的な永久磁石を数個取付け、その磁力により強磁性体としての大径従動円盤を磁化させ、駆動円盤の回転力を従動円盤に伝達し、スベリ(遅れ)を前提とした従動により従動円盤の回転を徐々に上げて行き、大小歯車の歯数の違いによって回転数の変換を行っている従来の伝動機構において、モータ駆動時の急始動により大小歯車の間に過大な力が作用して、伝動装置が破壊されてしまうのを防止するようにしたものであり、所望の伝達トルク、回転数及び回転精度が得られず、前者のものと同様に歯車やプーリーと同等の動力伝達機能を達成することができないものであった。そこで、このスベリを低減すべく、双方または何れか一方の円盤の周面に摩擦抵抗手段を形成させ、接触させた状態で駆動伝達を行うようにし、伝達力及び回転ムラを向上するようにしたものも散見されるが、伝達負荷抵抗が大きくなり、やはり同様に歯車やプーリーと同等の動力伝達機能を達成できるものではなかった。
【0004】
しかも、両者共に、その回転運動を外部の作動手段に伝達させるための従動側の出力軸は1つであり、このため、例えば、医療分野における各種反応検査において、血液などの検体を50個、100個といった多数の単体容器(小容器)に小分けし、これらの撹拌、混合等をロット処理して行う作業工程などでは、容器数と一対の関係で配設された撹拌羽根や撹拌子などの外部の作動手段に対し、これらを一斉回動させるような多数の回転軸を必要とする機構に採用することができないものであった。
【特許文献1】特開2000−125541号公報
【特許文献2】特開2001−251844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の如き問題点を一掃すべく創案されたものであって、回転体相互が非接触で磁力により駆動伝達するものでありながら、所望の伝達トルク、回転数及び回転精度が得られ、しかも、多数の外部作動手段への回転出力が要求される構造のものについても対応することができる駆動伝達機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明が採用した技術手段は、外周面にS極とN極とが交互に連続形成する多極に着磁されたマグネット回転体であって、該マグネット回転体を、互いの外周面同士が異極対向による磁力伝達可能な間隙を存して回転可能に連設せしめ、一のマグネット回転体の回動に追随して、他の隣設マグネット回転体が、当該異極対向を吸着磁力により各極毎に順送りさせて回動伝達するよう相互に連動連繋せしめて構成すると共に、隣設するマグネット回転体は、互いに異なる回転伝達比の磁極数をもって構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明における駆動伝達機構は、回転体相互が非接触で磁力により駆動伝達するものでありながら、多極構造におけるN極及びS極配列された各極を歯車の凹凸部の如く作用させ、異極対向するマグネット回転体のN極とS極同士が吸引磁力をもって恰も歯合送りと同様に各極順送りすることができ、軸間における確実なトルク伝達が行えるばかりか、初動、正逆回動切り替え時等の回転負荷変動に強く、遅れのない伝達駆動が行え、所望の伝達トルク、回転数及び回転精度が得られる同期回動を実現することができる。しかも、マグネット回転体相互の伝達負荷が無く、磁極数、外径、形状等も任意に変更でき、回転速度を減速するなどのバリエーションに富んだ組合せや連装態様を行い得て、多数の外部作動手段への回転出力が要求される構造のものについても対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、好適な実施の形態として例示する駆動伝達機構を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
本実施例は、マグネット回転体の外径を同径とし、磁極数を同数に設定したものであって、図1は駆動伝達機構の断面図、図2は駆動伝達機構の配置構成図である。図に示すように、1は駆動伝達機構であって、該駆動伝達機構1は、所定間隔を存して上下に設けられたベースフレーム11、11と、支軸としての回転軸21が設けられた複数のマグネット回転体2、2……とからなり、各マグネット回転体2、2……は、ベースフレーム11、11に設けられたベアリングを介して回転軸21を上下で軸支させ、マグネット回転体同士が僅かに離間する所定の間隙を存して面方向に配設されている。なお、回転軸21は下側または上側の何れか一方の如く1箇所で軸支させても良く、支軸を固定軸として回転体を回動可能に装着させたものでも良い。
【0010】
前記マグネット回転体2は、回転軸21に装着された樹脂製またはアルミ製の円柱(円筒)型の胴部22と、該胴部22の円周面にS極とN極の磁石を交互に形成させることで、その外周面が多極に着磁されて構成される。その極数は、90度の正分割をもってN極とS極が10極づつの同極数に設定せしめ、マグネット回転体2の最小組合せ数2組を基準とし、マグネット回転体2,2を、互いの外周面同士が磁力伝達可能な間隙を存して、その磁極同士を互いに異極による吸引磁力をもって対向せしめ、一のマグネット回転体2の回動に追随して、他の隣設マグネット回転体2を、前記吸引磁力により当該異極対向を各極毎に順送りさせて回動伝達せしめ、相互に連動連繋すべく構成してある。これにより何れかの回転軸21をモータ軸に連動連結することで互いに異方向に同期回動するようになっている。
【0011】
本実施例では、モータ軸に連動連結されるマグネット回転体2aを基準とし、その周りに縦(Y軸)方向と横(X軸)方向の4極を介して他のマグネット回転体2bを都合4つ異極対向させ、さらに、4つのマグネット回転体2b……の周りには、各々3つの磁極にそれぞれマグネット回転体2cが都合7つ配設され、同様に各マグネット回転体2c……の周りにマグネット回転体2d……を配設するといった具合に、面方向への増列連設が可能な構成となっている。これにより、マグネット回転体2aの回動に連動して他のマグネット回転体2b…、2c…、2d…に連鎖状に順次駆動伝達されるようになっている。
つまり、マグネット回転体2aを中心として、その外周を八方から取り囲んで他の八組のものが互いに連鎖状に連動連繋して配設され、かつ、これら八組のもののうち、上下左右となる一つ置きに配設された四組(2b…)のものが、前記マグネット回転体2aの磁極と異極対面して直接的に従動される構成、および、対角線状に配された他の四組(2c…)のものが前記四組(2b…)のものと連動連繋され二次的に従動される構成をもって隣接配置されている。要するに、駆動元となるマグネット回転体2aが回動すると、その中心周りに配設された他の八組(2b…、2c…)は、先ず上下左右に配設された四組(2b…)が直接的に伝達駆動されて回動し、その回動が対角線状に配された他の四組(2c…)のものへ駆動伝達され、全てのものが同期して一斉回動される構成となっている。
また、前記各マグネット回転体2、2……は、その回転運動をそれぞれの軸方向(回転軸21…上または回転体2…上)へ配設される作動手段に伝達することができ、例えば、マグネット回転体2aと2b……を出力軸として選択した場合には、他のマグネット回転体2c……は不要となるが、装着した状態としておくことで、マグネット回転体2b……との異極対向極数を確保して、脱調防止用の補助マグネット回転体として機能させることが可能となっている。
【実施例2】
【0012】
次に、マグネット回転体の磁極数を異数に設定したものの実施例について説明する。図3は外径を異径とし、磁極の円弧長さを同長に設定して回転速度の伝達比を異ならしめた組合せ構成図である。図中、20は90度の正分割をもってN極とS極が6極づつの同極数に設定せしめたマグネット回転体であって、該マグネット回転体20は、その磁極数が分割角度(θ)30度をもって、12極の偶数極に設定されており、この時の円弧長さ(L)は、半径(r)との関係で、公式:L=πrθ/180゜で表すことができる。つまり、この公式に基づいて、いまマグネット回転体20の半径r=10mmとし、円弧長さL≒5.2mmとした場合において、減速比が1:2の関係に設定される小径のマグネット回転体20aを得るには、分割角度(θ)を60度、半径(r)を5mmとすればよく、これにより、N極とS極が3極づつの都合6極の磁極数を持つマグネット回転体20aを得ることができる。
このマグネット回転体20aは、駆動伝達だけでなくマグネット回転体20を実施例1の如く配列させた際に、隣設マグネット回転体20、20の双方に連動連繋させて配設すれば、脱調防止用の補助マグネット回転体として機能させることも可能である。
【0013】
一方、図4は外径を同径とし、磁極の円弧長さを異長に設定して回転速度の伝達比を異ならしめた組合せ構成図である。前記磁極数が12極に分割されたマグネット回転体20に対して、減速比が2:3の関係に設定される小径のマグネット回転体20bを得るには、分割角度(θ)を45度とし、前記公式により円弧長さL≒7.85mmとすればよく、これにより、N極とS極が4極づつの都合8極の磁極数を持つマグネット回転体20bを得ることができる。その際、両者間において対向する磁極の関係が、異極対向と同極対向とが複合して行われるが、少なくとも異極対向する関係があれば吸着磁力による各極毎の順送りがなされて回動が伝達される。
このマグネット回転体20bは、マグネット回転体20を実施例1の如く配列させた際に、任意の列(例えば側端列)をマグネット回転体20b、20b…に置き換えて、他の列との回転速度を異なしめて構成することもできる。
【0014】
マグネット回転体20とマグネット回転体20a(20b)は、相互に連動連繋された構成であり、何れか一方を駆動側とし、他方を従動側とすることで、当該異極対向を各極毎に順送りさせ、極数の少ないマグネット回転体20a(20b)の回転速度が早くなる関係で伝達比を異ならしめた任意の組合せにより回動伝達することができる。
【実施例3】
【0015】
次に、実施例1の駆動伝達機構1を撹拌装置3に応用した場合の実施例について説明する。図5は撹拌装置の全体斜視図、図6は撹拌装置の内部構成斜視図、図7は撹拌装置の要部断面図である。図に示すように、撹拌装置3は、外装ケース31の外部に、撹拌テーブル(仕切り板)32に設けられた試験管等の細筒径の容器(小容器)4を縦12列、横8列状に都合96本セットすることのできる容器ホルダ33を備え、外装ケース31の内部に、容器ホルダ33にセットされた各容器4……の外部直下面域にそれぞれ一対一の関係で組として配設された96個の永久磁石5……と、各永久磁石5……を作動手段として前記各マグネット回転体2……の回転軸21に軸着し、モータ(ステッピングモータなど)34の駆動に連動して同期回動すべく設けられた駆動伝達機構1とを備え、前記永久磁石5によって、血液等の検体に対して所定の試液等を吐出するなどの分注作業を終え、混合すべき液体の入った各容器4内にセットされた撹拌子6……を、永久磁石5の磁力伝達により従動せしめて一斉回転可能に構成されている。
【0016】
前記容器ホルダ33は、アルミニウム製(非磁性の板体で有ればよい)の撹拌テーブルを構成する仕切板32上に設けられており、この容器ホルダ33には、外径9mmの細筒形の容器4を基準に、隣接する容器同士が略接触状にセットできる配列ピッチをもって、円筒孔を連続して重合形成させたセット孔331……が設けられている。つまり、本実施例における容器ホルダ33は、現状最も使用頻度の多い外径9mmの容器4を基準として、縦横等しいピッチの近接配列で設定し、使用する容器の筒径にあったホルダパットをセット孔331に挿入するなどにより外径9mm〜6mm(以下)の容器4がセットできるようになっている。なお、図5に示す容器は、例えば筒径5mm(9mm以下)のものを用い、容器4……同士が密接していない状態を示したものであり、間隔は少なくとも横列を前記基準として配列し、縦列は分注装置等のノズルチップ(ニードル)の前後動作の設定に適合した配列とするなど、縦横それぞれ異なるピッチであっても良い。
なお、35はON/OFFスイッチ、36はモータ回転速度の調節摘みである。
【0017】
前記永久磁石5は、磁着することのできる強磁性ステンレス材にて成形された円形の基盤51と、該基盤51上に対向配設された一対の永久磁石52(52a、52b)とからなり、基盤51、および永久磁石52aと32bの間隔は、それぞれ容器4の外観寸法幅(筒径)を基準に、略同幅内の8mm(容器4を接触配置しても相互に接触しない幅)に設定されている。永久磁石52は、略外径3mm×高さ5mmの円筒形のものを用い、永久磁石52aの磁極は上側をS極、下側をN極とし、永久磁石52bの磁極は上側をN極、下側をS極として対設させて、磁力線が上下方向に背反して働くようになっている。つまり、図7に示されるように、一方の永久磁石52bのN極が上面に、他方の永久磁石52aのN極が下面に形成され、各々のN極からの磁力線が、永久磁石52bからは上方の撹拌子6に向けて出され、永久磁石52aからは下方の基盤51に向けて出されて、矢視の如く永久磁石52b−撹拌子6−永久磁石52a−基盤51へと磁力伝達がなされることで磁界が形成されるようになっている。
【0018】
また、近接配置された各永久磁石5……は、隣設する永久磁石52の磁極同士が互いに回転位置で対向しないよう異なる磁軸向きをもって配置されている。例えば、3×3列の場合において、永久磁石52aと52bとで形成される磁軸が、隣設する相互間でマグネット同士の磁力干渉を防ぐために90度または45度づつ角度を変えて、一列目を水平−垂直−水平、二列目を垂直−傾斜−垂直、参列目を水平−傾斜−水平となるよう順次角度ズレさせて配置する。なお、この配設角度は磁極同士を対面させない態様において任意であり、各永久磁石5……の回動時に互いに直線上に配列されてしまわないようにすることが好適である。
【0019】
前記駆動伝達機構1は、本撹拌装置3に応用するにあたり、各マグネット回転体2……の外径を略9mmに設定し、上記の極数をもって構成され、各回転軸21……を前記基盤51……に軸着し、下側のベースフレーム11をブラケット341に装着し、任意の1つ(ここでは中央のもの)の回転軸21aをブラケット341内に配設される歯車342(タイミングベルト等であっても良い)による駆動伝達手段を介在することでモータ駆動するよう構成されている。
【0020】
前記撹拌子6は、液体と共に容器4内に投入され、撹拌作業後に容器4に同伴して処理されることから、ワイヤ状の磁性棒体として太さ約1.5mmのステンレス製ワイヤを長さ約5mmにカッティングした永久磁石52の幅(S−N磁極両端幅)よりも短い寸法のものを用い、その端部が永久磁石52の中心位置となるよう永久磁石52aと52bの間に配置される長さに設定されている。
なお、撹拌子6は、磁力を有しない強磁性体を用いたが、マグネットを用いても良く、また、その材質は検体等との反応を起こさないのものであれば任意のものを用いることができる。さらに、鉄など液体と反応するものであってもフッ素樹脂等の被膜材で被覆することで用いることができる。また、撹拌子6の両端部を切断時に潰すなどして扁平状に形成させ、或いは、スパイラル溝形成されたねじり棒体などを用いても良い。
【0021】
叙述の如く構成された本発明の実施例の形態において、複数のマグネット回転体2、2……を、互いの外周面同士が磁力伝達可能な間隙を存して対向連設して、一の回転体の回動を隣設する他の回転体に伝達して従動回転させるのであるが、本発明における駆動伝達機構1は、マグネット回転体2の外周面に、S極とN極とが交互に連続形成される多極磁石で構成させ、かつ、隣設するマグネット回転体の磁極同士を互いに異極による吸引磁力をもって対向させて、一のマグネット回転体2の回動に追随して、他の隣設マグネット回転体2、2……を、前記吸引磁力により当該異極対向を各極毎に順送りさせることで回動伝達せしめ、相互に連動連繋すべく構成してある。つまり、マグネット回転体2、2のN極とS極同士が異極対向する状態から何れか一方を回転すると、両者間に働く吸引磁力により他方に回転が伝達され、異極対向が次のS極とN極に、さらに次のN極とS極にといった具合に各極のNS対極とSN対極が順送りされて回動伝達が行われる。
【0022】
したがって、回転体相互が非接触で磁力により駆動伝達するものでありながら、多極構造におけるN−S−N−S……極配列された各極を歯車の凹凸部の如く作用させ、異極対向するマグネット回転体2、2のN極とS極同士が吸引磁力をもって恰も歯合送りと同様に各極順送りすることができ、軸間における確実なトルク伝達が行えるばかりか、初動、正逆回動切り替え時等の回転負荷変動に強く、脱調が生じても回復可能な伝達駆動が行え、マグネット回転体相互の伝達負荷の無い、所望の伝達トルク、回転数及び回転精度が得られる同期回動を実現することができるばかりか、歯車やベルト駆動による伝達と異なり、負荷がかかっても脱調等によりモータを傷めることがない。
【0023】
しかも、マグネット回転体2の外周面に形成される多極構造の極数を、マグネット回転体2の外径との関係で最も磁力を伝達することのできる最適な配分に設定して、磁極数、外径、形状等も任意に変更できるため、実施例2において例示する如く、隣設するマグネット回転体20と20a(20b)を、互いに異なる回転伝達比の磁極数をもって構成することにより、回転速度を減速するなどの伝達速度を異ならしめ、何れか一方を駆動側とし、他方を従動側とする相互に連動連繋された組合せを行うことができる。
【0024】
例えば、図3に示す如く、隣設するマグネット回転体を、一のマグネット回転体と他のマグネット回転体の外径をそれぞれ異ならしめ、磁極を同じ円弧長さに設定することにより、マグネット回転体20と20aの磁極が、回動に伴って常にN極とS極同士の吸引磁力をもって異極対向する減(加)速駆動伝達が行われ、実施例1における駆動元となるマグネット回転体2(2a)を外径の大きなマグネット回転体20を適用し、従動されるマグネット回転体2(2b、2c、2d…)を小径のマグネット回転体20aとする組合せが可能となる。その際、マグネット回転体20に周設されるマグネット回転体20aの数が多くなることは言うまでもない。
【0025】
また、実施例1における前記各マグネット回転体2、2は、その回転運動をそれぞれの軸方向へ配設される作動手段に伝達すべく構成されており、従動側となるマグネット回転体2(2b)の作動手段への回転駆動力が、前記撹拌子6を容器4内の液体に抗して回転させるなど、一つのNS対極だけでは従動抵抗が大きい場合に、急激な駆動・停止、回転速度との関係において振動、脱調の発生を生じる器具がある。その様な脱調回避構造として、全てをマグネット回転体20…により構成し、マグネット回転体20aを、その磁極数を4極以上の偶数に設定し、該極数設定の組合せにより任意の数をもって配列可能に構成しておけば、マグネット回転体20…の空き極に対して、単独連繋または双方連繋により補助マグネット回転体として複数隣設させ、従動されるマグネット回転体20…に対して、吸引磁力による当該NS(SN)異極対向の極数を多く設定することで、脱調の発生を防止することができ、その対極数によってはマグネットカップリングに匹敵する程の回転出力をもって作動手段を回動させることができる。
【0026】
また例えば、図4に示す如く、隣設するマグネット回転体を、一のマグネット回転体と他のマグネット回転体を同じ外径とし、磁極の円弧長さを異なしめて設定することによっても、異極対向する磁極が、マグネット回転体20bの長円弧のS(N)極に、対向するマグネット回転体20の短円弧S−N−S(N−S−N)極の3つの磁極が異極対向のみによらず同極対向をも含む場合であっても、実験の結果、マグネット回転体20よりもマグネット回転体20bの回転が速く回動伝達することが確認できた。これは、同円弧長さ設定によらなくとも、長円弧の磁極S(N)に対して短円弧の異極対向する磁極N(S)の次同極の反発磁力による送り作用と、常に異極対向を維持しようとする吸着磁力による送り作用により、短円弧と長円弧の回転送りピッチが1:1の関係で推移するためと思われる。
したがって、マグネット回転体20aとの異なる外径同士の組合せを含め、従来の歯合伝達では不可能な回動伝達が実現できるばかりか、実施例1において従動されるマグネット回転体2(2b、2c、2d…)をマグネット回転体20とし、任意の列を同径のマグネット回転体20bとするなどバリエーションに富んだ組合せが可能となり、多連同期回転するものでありながら、極数設定の組合せにより任意列のみに対して、或いは任意ヶ所のものに対して回転速度を早くすることができる。
【0027】
さらに、本発明におけるマグネット回転体は、カサ歯車、ウオーム歯車の如き形状として出力軸方向を変えるなど、歯車伝達機構と略同様の磁気歯車伝達機構としてバリエーションに富んだ組合せや連装態様とすることができ、例えば、前記撹拌装置3への応用例の如く、多数の外部作動手段(永久磁石5)への回転出力が要求される多軸回転構造のものについても対応することができる。なお、ウオーム歯車の如きに駆動伝達させる際、ウォームとなるマグネット回転体は、形成される磁極を一体としたスパイラル状にすれば良い。
【0028】
また、実施例3における前記撹拌装置3への応用例では、前記脱調回避構造として、マグネット回転体2を全て同径、同極数に設定し、隣設マグネット回転体が外周を除き4つのNS(SN)異極対向をもって縦横複数列に連設し、それぞれの回転軸21上(または回転体2上)に作動手段として永久磁石5、5…を設けて多軸同期回転構造を構成するものであり、該永久磁石5、5…は、撹拌装置3を構成する撹拌テーブル32に複数セットされた容器4、4…の下部側に対向配設され、各容器4、4…内にセットされた撹拌子6、6…を、それぞれ前記永久磁石5、5…の磁力伝達により従動せしめて一斉回転可能に構成し、容器内の液体を撹拌するようになっている。
【0029】
このため、マグネット回転体2、2…の面方向への増列連設が可能となり、96連装としたものであっても、連鎖状に駆動伝達されて回動するマグネット回転体2(2b、2c、2d…)に対して、メカニカルギヤ歯車やベルトプーリーによる駆動伝達手段の如くにギヤ同士の噛み合い騒音もなく、伝達負荷が増大する等の問題を生じること無く確実な駆動伝達が図られて同期回動することができ、血液などの検体を複数の容器に小分けし、各々数種類の試薬を混入するなどの分注作業と共に、各容器4内にセットされた撹拌子6……を、モータ駆動に連動してそれぞれの永久磁石5を同期回動させ、その磁力伝達により従動させて一斉回転により撹拌し、反応解析するなどのロット処理を適正に行うことができる。しかも、それぞれの永久磁石5……が、各容器4……に組として構成され、それぞれの撹拌子6……に対して一対一の関係で磁力伝達が行われるようになっており、該組となる永久磁石5と容器4を、それぞれ試験管等(例えば9mm)筒径の容器を基準に設定せしめた等ピッチ間隔の近接配列をもって縦横複数列に配設したものであっても、本発明における駆動伝達機構1は、その様な配列や一斉駆動の要求にも応じることができる。なお、前記永久磁石5を別途回転軸21に設けずに、前記マグネット回転体の多極のうち対向するS極とN極を組として任意数だけ延設させて構成しても良い。また、前記作動手段としての永久磁石5、5…に替えて、それぞれの回転軸21、21…を延設した先端に撹拌棒を取付け、前記撹拌テーブル32にセットされた容器4、4の上部側に対向配設させ、各容器4内の液体を直接的に撹拌するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】駆動伝達機構の断面図。
【図2】駆動伝達機構の配置構成図。
【図3】回転伝達比の異なる組合せ実施例を示す構成図。
【図4】回転伝達比の異なる他の組合せ実施例を示す構成図。
【図5】撹拌装置の全体斜視図。
【図6】撹拌装置の内部構成斜視図。
【図7】撹拌装置の要部断面図。
【符号の説明】
【0031】
1 駆動伝達機構
11 ベースフレーム
2 マグネット回転体
2a マグネット回転体
2b マグネット回転体
2c マグネット回転体
2d マグネット回転体
20 マグネット回転体
20a マグネット回転体
20b マグネット回転体
21 回転軸(支軸)
21a 回転軸
22 胴部
3 撹拌装置
31 外装ケース
32 撹拌テーブル(仕切板)
33 容器ホルダ
331 セット孔
34 モータ
341 ブラケット
342 歯車
4 容器
5 永久磁石
51 基盤
52 永久磁石
52a 永久磁石
52b 永久磁石
6 撹拌子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にS極とN極とが交互に連続形成する多極に着磁されたマグネット回転体であって、該マグネット回転体を、互いの外周面同士が異極対向による磁力伝達可能な間隙を存して回転可能に連設せしめ、一のマグネット回転体の回動に追随して、他の隣設マグネット回転体が、当該異極対向を吸着磁力により各極毎に順送りさせて回動伝達するよう相互に連動連繋せしめて構成すると共に、隣設するマグネット回転体は、互いに異なる回転伝達比の磁極数をもって構成されていることを特徴とする駆動伝達機構。
【請求項2】
請求項1において、前記隣設するマグネット回転体は、一のマグネット回転体と他のマグネット回転体の外径をそれぞれ異ならしめ、磁極を同じ円弧長さに設定してあることを特徴とする駆動伝達機構。
【請求項3】
請求項1において、前記隣設するマグネット回転体は、一のマグネット回転体と他のマグネット回転体を同じ外径とし、磁極の円弧長さを異なしめて設定してあることを特徴とする駆動伝達機構。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、前記駆動伝達すべく配設されたマグネット回転体には、脱調防止用の補助マグネット回転体が隣設されていることを特徴とする駆動伝達機構。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかにおいて、前記各マグネット回転体は、その磁極数が4極以上の偶数極に設定され、該極数設定の組合せにより任意の数をもって配列可能に構成されていることを特徴とする駆動伝達機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−132614(P2006−132614A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320469(P2004−320469)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000229645)日本パルスモーター株式会社 (46)
【Fターム(参考)】