説明

駆動力伝達機構

【課題】駆動部の回転方向を切り換えることで第1被駆動部または第2被駆動部に駆動力を選択的に伝達する駆動力伝達機構においてその機構の専有スペースを小さくすること。
【解決手段】歯車7(駆動部)が第1の方向に回転駆動されたとき、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合が解除されると共に雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとが螺合して、歯車7は歯車5(第1被駆動部)に近接する方向に軸3に沿って摺動する。そして、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合がある程度進行すると、その螺合によって歯車7と歯車5とが一体に回転する。逆に、歯車7が前記第1の方向とは逆方向に回転駆動されたとき、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合が解除されると共に雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとが螺合して、その螺合がある程度進行すると歯車7と歯車9(第2被駆動部)とが一体に回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動部から被駆動部へ駆動力を伝達する駆動力伝達機構に関し、詳しくは、1つの軸を中心に回転駆動される駆動部から、第1被駆動部または第2被駆動部に駆動力を選択的に伝達する駆動力伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等の駆動源から伝達された駆動力によって複数の機構のいずれかを選択的に駆動する場合、前記駆動源から伝達された駆動力によって回転駆動される駆動部から、第1被駆動部または第2被駆動部に駆動力を選択的に伝達する機構が必要となる。ソレノイドを使用したクラッチ等を使用せずに簡便にこのような駆動力の伝達切換が可能な機構として、いわゆる振り子歯車機構が考えられている。
【0003】
例えば、モータの回転方向に応じて正逆回転するメインギヤと、そのメインギヤと噛み合うように配置されて前記回転方向に応じて第1の位置と第2の位置との間で揺動する揺動ギヤと、その揺動ギヤが前記第1の位置に揺動したときに当該揺動ギヤが噛み合う第1のギヤ列と、前記揺動ギヤが前記第2の位置に揺動したときに当該揺動ギヤが噛み合う第2のギヤ列と、を備えた機構が提案されている。この場合、モータの回転方向を切り換えることにより揺動ギヤを第1の位置または第2の位置へ揺動させ、第1のギヤ列または第2のギヤ列に選択的に駆動力を伝達することができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−72021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このように揺動ギヤを揺動させる振り子歯車機構では、揺動ギヤが揺動する範囲には他の機構を配置することができず、装置の小型化の支障となっていた。そこで、本発明は、駆動部の回転方向を切り換えることにより第1被駆動部または第2被駆動部に駆動力を選択的に伝達する駆動力伝達機構において、その機構の専有スペースを小さくすることを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達するためになされた本発明の駆動力伝達機構は、1つの軸を中心に回転駆動され、前記軸に対して軸方向に摺動可能に設けられた駆動部と、前記駆動部の前記軸方向の一方の側に、前記軸を中心にして回転可能に設けられた第1被駆動部と、前記駆動部の前記軸方向の他方の側に、前記軸を中心にして回転可能に設けられた第2被駆動部と、前記駆動部及び前記第1被駆動部の、互いの対向面にそれぞれ形成され、前記駆動部が第1の方向に回転駆動されたときに互いに螺合し、前記駆動部が前記第1の方向とは逆の第2の方向に回転駆動されたときに前記螺合が解除される第1ネジ部と、前記駆動部及び前記第2被駆動部の、互いの対向面にそれぞれ形成され、前記駆動部が前記第2の方向に回転駆動されたときに互いに螺合し、前記駆動部が前記第1の方向に回転駆動されたときに前記螺合が解除される第2ネジ部と、前記第1被駆動部と前記第2被駆動部との間隔を、少なくとも、前記駆動部が前記第1の方向に回転駆動されて前記第2ネジ部の螺合が完全に解除されるまでに前記第1ネジ部の螺合が開始され、かつ、前記駆動部が前記第2の方向に回転駆動されて前記第1ネジ部の螺合が完全に解除されるまでに前記第2ネジ部の螺合が開始される間隔に規制する規制部材と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明の駆動力伝達機構では、駆動部を挟んで第1被駆動部と第2被駆動部とが、1つの軸に回転可能に設けられている。そして、駆動部が第1の方向に回転駆動されたとき、駆動部と第1被駆動部との対向面にそれぞれ形成された第1ネジ部が螺合する。このため、この螺合がある程度進行すると、その螺合によって駆動部と第1被駆動部とが一体に回転するようになる。一方、駆動部と第2被駆動部との対向面にそれぞれ形成された第2ネジ部は、駆動部が第1の方向に回転駆動されたときに螺合が解除される。このため、駆動部が第1の方向に回転駆動されたとき、駆動部に加わった駆動力を第1被駆動部にのみ伝達することができる。
【0008】
逆に、駆動部が第2の方向に回転駆動されたとき、駆動部と第2被駆動部との対向面にそれぞれ形成された第2ネジ部が螺合する。このため、この螺合がある程度進行すると、その螺合によって駆動部と第2被駆動部とが一体に回転するようになる。一方、駆動部と第1被駆動部との対向面にそれぞれ形成された第1ネジ部は、駆動部が第2の方向に回転駆動されたときに螺合が解除される。このため、駆動部が第2の方向に回転駆動されたとき、駆動部に加わった駆動力を第2被駆動部にのみ伝達することができる。
【0009】
このように、本発明では、駆動部を挟んで第1被駆動部と第2被駆動部とを1つの軸に回転可能に設けたコンパクトな構成によって、その駆動部の回転方向を切り換えることで第1被駆動部または第2被駆動部に選択的に駆動力を伝達することができる。従って、本発明の駆動力伝達機構は、その機構の専有スペースを良好に小さくすることができ、その駆動力伝達機構を備えた装置の小型化も良好に推進することができる。
【0010】
また、第1被駆動部と第2被駆動部との間隔は、規制部材によって次のように規制されている。すなわち、少なくとも、駆動部が第1の方向に回転駆動されて第2ネジ部の螺合が完全に解除されるまでに第1ネジ部の螺合が開始され、かつ、駆動部が第2の方向に回転駆動されて第1ネジ部の螺合が完全に解除されるまでに第2ネジ部の螺合が開始される間隔に規制されている。このため、前述のように駆動部の回転方向を切り換えることで第1被駆動部または第2被駆動部に選択的に駆動力を伝達する動作を、極めて安定して実行することができる。
【0011】
なお、前記駆動部、前記第1被駆動部、及び、前記第2被駆動部は、少なくとも外周部が前記軸を中心にした歯車状に構成されていてもよい。この場合、歯車を介して駆動部を良好に回転駆動することができ、第1被駆動部,第2被駆動部の回転を歯車を介して他の機構に良好に伝達することができる。
【0012】
また、前記第1ネジ部及び前記第2ネジ部は、前記駆動部側が雄ネジで、当該雄ネジの中心に前記軸が挿通されていてもよい。その場合、駆動部の両側から突出した雄ネジの中心に軸が挿通されることにより、駆動部は安定して前記軸を摺動することができる。
【0013】
また、前記第1被駆動部及び前記第2被駆動部にはそれぞれ前記軸回りの回転に対する負荷が加わっており、前記第1被駆動部に加わる前記負荷は、前記第1ネジ部の螺合解除時に前記第1被駆動部に加わる回転力よりも大きく、前記第2被駆動部に加わる前記負荷は、前記第2ネジ部の螺合解除時に前記第2被駆動部に加わる回転力よりも大きくてもよい。この場合、第1ネジ部の螺合解除時に第1被駆動部と駆動部とが一体に回転して当該第1ネジ部の螺合が解除できなかったり、第2ネジ部の螺合解除時に第2被駆動部と駆動部とが一体に回転して当該第2ネジ部の螺合が解除できなかったりする事態を回避することができる。従って、前述の動作を一層安定して実行することができる。
【0014】
また、前記第1被駆動部または前記第2被駆動部の少なくともいずれか一方と前記駆動部とに、互いの対向面にそれぞれ形成され、当該被駆動部に係る前記ネジ部が所定量以上螺合したときに互いに係合して当該被駆動部と前記駆動部とを一体に回転させる係合部を、更に備えてもよい。この場合、前記ネジ部が所定量以上螺合したときには、係合部の係合により、前記駆動部と前記被駆動部とを良好に一体に回転させることができる。従って、前述の動作を一層安定して実行することができる。また、係合部が係合するとそれ以上ネジ部の螺合が進行しないので、前述のようにその螺合が解除できない事態を極めて良好に回避することができる。
【0015】
また、前記駆動部が前記第1の方向に回転駆動されることにより、前記第2ネジ部の螺合が解除されて当該第2ネジ部に前記駆動部の駆動力が伝達されなくなってから、前記第1ネジ部の螺合により前記駆動部の駆動力が前記第1ネジ部に伝達されるまでの前記駆動部の回転量、若しくは、前記駆動部が前記第2の方向に回転駆動されることにより、前記第1ネジ部の螺合が解除されて当該第1ネジ部に前記駆動部の駆動力が伝達されなくなってから、前記第2ネジ部の螺合により前記駆動部の駆動力が前記第2ネジ部に伝達されるまでの前記駆動部の回転量の、少なくともいずれか一方が、所望の遅れ時間対応した回転量であってもよい。
【0016】
本発明の駆動力伝達機構では、駆動部が第2または第1の方向に回転して第1または第2ネジ部の螺合が解除され始めると、第1または第2被駆動部に駆動力が伝達されなくなる。一方、続いて第2または第1被駆動部が駆動され始めるまでには、第2または第1ネジ部の螺合がある程度進行する必要がある。このため、駆動部の回転方向を切り換えても、即座に第1被駆動部の駆動と第2被駆動部の駆動とが切り替わるのではなく、駆動部がある程度回転するまでは両被駆動部に駆動力が伝達されない状態が維持される。
【0017】
そこで、そのような状態が維持される期間が、所望の遅れ時間となるように、前記駆動部等を設計するのである。その場合、第1被駆動部によって駆動される機構の動作と第2被駆動部によって駆動される機構の動作との間に所望のタイムラグ(遅れ時間)を設定して、装置の動作を一層円滑化することができる。特に、そのタイムラグ(遅れ時間)を利用して、第1及び第2の被駆動部の駆動が切り替わる間に、第3の被駆動部が所定の動作をするように仕組まれた装置であっても、タイムラグ(遅れ時間)を十分に確保することにより、それら被駆動部の一連の動作を容易かつ的確に実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用した駆動力伝達機構の構成を表す正面図及び右側面図である。
【図2】その駆動力伝達機構の構成を表すE−E線断面図である。
【図3】前記駆動力伝達機構の変形例の構成を表す正面図、斜視図、及びF部拡大図である。
【図4】その駆動力伝達機構の構成を表すG−G線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[駆動力伝達機構の構成]
次に、本発明の実施形態を、図面と共に説明する。図1(A)は、本発明が適用された駆動力伝達機構1の構成を表す正面図であり、図1(B)は、その駆動力伝達機構1の構成を表す右側面図である。また、図2は、図1(B)におけるE−E線断面図である。
【0020】
図1(A)に示すように、本実施形態の駆動力伝達機構1は、円柱状の軸3に、その軸3を中心にした平歯車状に外周部が構成された3つの歯車5,7,9を順次挿入して構成されている。すなわち、歯車5(駆動部の一例)を挟んで、歯車7(第1被駆動部の一例)と歯車9(第2被駆動部の一例)とが、1つの軸3に回転可能に設けられている。
【0021】
図1(A),図2に示すように、歯車7の歯車5側側面には、軸3の外周に沿って円筒状の突起7Aが突出し、歯車5の歯車7側側面には、その突起7Aを収容可能な円筒部5Aが突出している。円筒部5Aの内周面には雌ネジ5Bが形成され、突起7Aの外周面には、その雌ネジ5Bと螺合可能な雄ネジ7Bが形成されている。同様に、歯車7の歯車9側側面には、軸3の外周に沿って円筒状の突起7Cが突出し、歯車9の歯車7側側面には、その突起7Cを収容可能な円筒部9Aが突出している。円筒部9Aの内周面には雌ネジ9Bが形成され、突起7Cの外周面には、その雌ネジ9Bと螺合可能な雄ネジ7Dが形成されている。
【0022】
なお、雄ネジ7B,7Dと雌ネジ5B,9Bとはいずれも右ネジで、歯車7が図1(B)に示す矢印A方向(第1の方向の一例)に回転すると、雄ネジ7Bが雌ネジ5Bに螺合し、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合が解除される。逆に、歯車7が図1(B)に示す矢印B方向(第2の方向の一例)に回転すると、雄ネジ7Dが雌ネジ9Bに螺合し、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合が解除される。すなわち、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとは第1ネジ部の一例に、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとは第2にネジ部の一例に、それぞれ相当する。
【0023】
また、軸3には、図1(B),図2に示すように、C形の止め輪15,19(共に規制部の一例)が嵌着されている。止め輪15は、歯車5の歯車7とは反対側の側面に当接することによって、その歯車5が歯車7から離れる方向に移動するのを規制しており、止め輪19は、歯車9の歯車7とは反対側の側面に当接することによって、その歯車9が歯車7から離れる方向に移動するのを規制している。そして、これらの止め輪15,19によって、歯車5,9の間隔は、歯車7が矢印A方向に回転して雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合が完全に解除されるまでに雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合が開始され、かつ、歯車7が矢印B方向に回転して雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合が完全に解除されるまでに雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合が開始される間隔に規制されている。
【0024】
また、歯車7は歯車97と噛み合っており、図示省略したモータ等の駆動源から歯車97を介して伝達された駆動力によって、前記矢印A,Bの両方向に回転駆動される。歯車5,9は、歯車95,99にそれぞれ噛み合っており、その歯車95,99を介して図示省略した動作機構に駆動力を伝達可能である。
【0025】
[駆動力伝達機構の動作]
このように構成された本実施形態の駆動力伝達機構1では、歯車7が矢印A方向に回転駆動されたとき、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合が解除されると共に雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとが螺合して、歯車7は歯車5に近接する方向に軸3に沿って摺動する。そして、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合がある程度進行すると、その螺合によって歯車7と歯車5とが一体に回転するようになる。一方、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合は、歯車7が矢印A方向に回転駆動されることによって完全に解除される。このため、歯車7が矢印A方向に回転駆動されたとき、歯車7に加わった駆動力を歯車9には伝達せず歯車5にのみ伝達することができる。
【0026】
逆に、歯車7が矢印B方向に回転駆動されたとき、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合が解除されると共に雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとが螺合して、歯車7は歯車9に近接する方向に軸3に沿って摺動する。そして、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合がある程度進行すると、その螺合によって歯車7と歯車9とが一体に回転するようになる。一方、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合は、歯車7が矢印B方向に回転駆動されることによって完全に解除される。このため、歯車7が矢印B方向に回転駆動されたとき、歯車7に加わった駆動力を歯車5には伝達せず歯車9にのみ伝達することができる。
【0027】
このように、本実施形態では、歯車7を挟んで歯車5と歯車9とを1つの軸に回転可能に設けたコンパクトな構成によって、その歯車7の回転方向を切り換えることで歯車5または歯車9に選択的に駆動力を伝達することができる。従って、本実施形態の駆動力伝達機構1は、その機構の専有スペースを良好に小さくすることができ、その駆動力伝達機構1を備えた装置の小型化も良好に推進することができる。
【0028】
また、歯車5と歯車9との間隔は、止め輪15,19によって前述のように規制されている。すなわち、歯車7が矢印A方向に回転して雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合が完全に解除されるまでに雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合が開始され、かつ、歯車7が矢印B方向に回転して雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合が完全に解除されるまでに雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合が開始される。このため、前述のように歯車7の回転方向を切り換えることで歯車5または歯車9に選択的に駆動力を伝達する動作を、極めて安定して実行することができる。
【0029】
また、歯車5には歯車95を介して軸3回りの回転に対する負荷が加わっており、歯車9には歯車99を介して軸3回りの回転に対する負荷が加わっている。ここで、本実施形態では、歯車5に加わる前記負荷は、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合解除時に歯車5に加わる回転力よりも大きく、歯車9に加わる前記負荷は、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合解除時に歯車9に加わる回転力よりも大きくなるように設計されている。このため、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合解除時に歯車5と歯車7とが一体に回転したり、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合解除時に歯車9と歯車7とが一体に回転したりする事態を回避することができる。従って、前述の螺合解除に係る動作を一層安定して実行することができる。また、歯車5,7,9の外周は平歯車状に構成されているので、駆動力伝達機構1では、歯車を介して前記負荷に対して駆動力を極めて良好に伝達することができる。
【0030】
また、歯車7の矢印A方向への回転時に、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合が解除されて歯車7の駆動力が歯車9に伝達されなくなってから、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合により歯車7の駆動力が歯車5に伝達されるまでには、歯車7が一定量回転する必要がある。同様に、歯車7の矢印B方向への回転時に、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合が解除されて歯車7の駆動力が歯車5に伝達されなくなってから、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合により歯車7の駆動力が歯車9に伝達されるまでにも、歯車7が一定量(前記一定量と異なってもよい)回転する必要がある。なお、前記一定量を歯車7が回転する間は、いずれの歯車5,9にも駆動力が伝達されない。
【0031】
そこで、少なくともいずれか一方の前記一定量を歯車7が回転するのに要するタイムラグ(遅れ時間)を、駆動力伝達機構1が設けられた装置に応じた所望の遅れ時間に対応するよう雄ネジ7B,7Dと雌ネジ5B,9Bとを設計してもよい。その場合、駆動源としてのモータの出力トルクが小さくても装置を円滑に駆動することができるなどの効果も生じる。なお、前記一定量が1回転以上であると、例えば、上記のタイムラグ(遅れ時間)の間に、所定の動作を実行するように仕組まれた第3の被駆動部を備えた装置においては、第3の被駆動部に必要なタイムラグ(遅れ時間)を十分に確保することができるので、第3の被駆動部を含む各機構の一連の動作を容易かつ的確に実行させることができる。
【0032】
[本発明の他の実施形態]
なお、本発明は前記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、雄ネジ7B,7D、雌ネジ5B,9Bとしては、一条ネジの他、二条ネジ,三条ネジといった多条ネジを使用してもよく、鋸歯ネジや角ネジを使用してもよい。また、歯車7の回転方向が変化したときに、歯車5,9を一瞬だけロックしてその回転を抑制する機構を設けてもよい。その場合、雄ネジ7B,7D、雌ネジ5B,9Bの螺合または螺合解除を一層円滑に行うことができる。
【0033】
更に、雄ネジ7Bまたは7Dと雌ネジ5Bまたは9Bとが完全に螺合する前に歯車5または9が歯車7と一体に回転するように、各歯車5,7,9に次のような係合部を設けてもよい。図3(A)は、各歯車5,7,9に係合部を設けた駆動力伝達機構101の構成を表す正面図であり、図3(B)は、その駆動力伝達機構101の構成を表す斜視図であり、図3(C)はそのF部拡大図である。また、図4は、図3(B)におけるG−G線断面図である。なお、この駆動力伝達機構101は、次のような係合部5C,7E,7F,9Cを設けた点において駆動力伝達機構1と異なり、他の部分は駆動力伝達機構1と同様に構成されている。そこで、図3,図4では、駆動力伝達機構1と同様に構成された部分には図1,図2で用いた符号を付して、構成の詳細な説明を省略する。
【0034】
図3,図4に示すように、この駆動力伝達機構101では、円筒部5A,9Aの歯車7側端縁に、直方体状の係合部5C,9Cがそれぞれ突出されている。また、歯車7には、係合部5Cとの対向部にその係合部5Cと係合可能な直方体状の係合部7Eが、係合部9Cとの対向部にその係合部9Cと係合可能な直方体状の係合部7Fが、それぞれ突出されている。
【0035】
本実施形態では、歯車7の矢印A方向への回転時に、雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとが所定量以上螺合したときには、係合部7Eと係合部5Cとが係合することにより、歯車7と歯車5とを良好に一体に回転させることができる。同様に、歯車7の矢印B方向への回転時には、雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとが所定量(前記所定量と異なってもよい)以上螺合したとき、係合部7Fと係合部9Cとが係合することにより、歯車7と歯車9とを良好に一体に回転させることができる。従って、前述の動作を一層安定して実行することができる。また、係合部7Eと係合部5Cが係合すると雄ネジ7Bと雌ネジ5Bとの螺合がそれ以上進行せず、係合部7Fと係合部9Cが係合すると雄ネジ7Dと雌ネジ9Bとの螺合がそれ以上進行しない。このため、本実施形態では、当該螺合が解除できない事態を極めて良好に回避することができる。
【0036】
また、前記各実施形態では、駆動部(歯車7),第1被駆動部(歯車5),第2被駆動部(歯車9)の外周を平歯車状に構成しているが、駆動部及び各被駆動部の外周は他の形状に構成されてもよい。例えば、駆動部の外周はハス歯歯車状に構成してもよい。その場合、歯車の噛み合いによって駆動部を軸に沿って摺動させる力が生じるので、その力を補助的に使用して前記螺合を解除することもできる。また、駆動部、第1被駆動部、第2被駆動部の少なくともいずれか1つの外周はベルトのプーリであってもよい。特に、駆動部の外周がプーリである場合、そのプーリに架設されたベルトからは駆動部を一対の被駆動部の中心位置に向けて摺動させる力が加わるので、その力を補助的に使用して前記螺合を解除することもできる。
【0037】
また、前記各実施形態では、歯車7側に雄ネジ7B,7Dを形成し、歯車5,9側に雌ネジ5B,9Bを形成しているが、歯車7の少なくとも一方の側に雌ネジを形成し、これに相対する歯車5.9に雄ネジを形成してもよい。但し、駆動力伝達機構1,101では、歯車7の側面に軸3の外周に沿った突起7A,7Cを突出させ、その外周面に雄ネジ7B,7Dを形成しているので、次のように歯車7を安定して摺動させることができる。すなわち、突起7A,7Cの中心に軸3が挿通されることにより、歯車7が軸3に対して捩れ方向に変位するのが抑制され、歯車7は安定して軸3を摺動することができる。
【0038】
更に、図1〜図4では、歯車95,99を同軸状に図示しているが、駆動力伝達機構1,101において歯車95,99は同軸状でなくてもよい。また更に、歯車95,99から歯車5,9に加わる負荷が十分に大きく、その負荷によって歯車5,9の軸3に沿った摺動を抑制できる場合、止め輪15,19は省略してもよい。その場合、歯車95,99が規制部材に相当する。
【符号の説明】
【0039】
1,101…駆動力伝達機構 3…軸
5,7,9,95,97,99…歯車 5A,9A…円筒部
5B,9B…雌ネジ 5C,7E,7F,9C…係合部
7A,7C…突起 7B,7D…雄ネジ
15,19…止め輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの軸を中心に回転駆動され、前記軸に対して軸方向に摺動可能に設けられた駆動部と、
前記駆動部の前記軸方向の一方の側に、前記軸を中心にして回転可能に設けられた第1被駆動部と、
前記駆動部の前記軸方向の他方の側に、前記軸を中心にして回転可能に設けられた第2被駆動部と、
前記駆動部及び前記第1被駆動部の、互いの対向面にそれぞれ形成され、前記駆動部が第1の方向に回転駆動されたときに互いに螺合し、前記駆動部が前記第1の方向とは逆の第2の方向に回転駆動されたときに前記螺合が解除される第1ネジ部と、
前記駆動部及び前記第2被駆動部の、互いの対向面にそれぞれ形成され、前記駆動部が前記第2の方向に回転駆動されたときに互いに螺合し、前記駆動部が前記第1の方向に回転駆動されたときに前記螺合が解除される第2ネジ部と、
前記第1被駆動部と前記第2被駆動部との間隔を、少なくとも、前記駆動部が前記第1の方向に回転駆動されて前記第2ネジ部の螺合が完全に解除されるまでに前記第1ネジ部の螺合が開始され、かつ、前記駆動部が前記第2の方向に回転駆動されて前記第1ネジ部の螺合が完全に解除されるまでに前記第2ネジ部の螺合が開始される間隔に規制する規制部材と、
を備えたことを特徴とする駆動力伝達機構。
【請求項2】
前記駆動部、前記第1被駆動部、及び、前記第2被駆動部は、少なくとも外周部が前記軸を中心にした歯車状に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の駆動力伝達機構。
【請求項3】
前記第1ネジ部及び前記第2ネジ部は、前記駆動部側が雄ネジで、当該雄ネジの中心に前記軸が挿通されていることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動力伝達機構。
【請求項4】
前記第1被駆動部及び前記第2被駆動部にはそれぞれ前記軸回りの回転に対する負荷が加わっており、前記第1被駆動部に加わる前記負荷は、前記第1ネジ部の螺合解除時に前記第1被駆動部に加わる回転力よりも大きく、前記第2被駆動部に加わる前記負荷は、前記第2ネジ部の螺合解除時に前記第2被駆動部に加わる回転力よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の駆動力伝達機構。
【請求項5】
前記第1被駆動部または前記第2被駆動部の少なくともいずれか一方と前記駆動部とに、互いの対向面にそれぞれ形成され、当該被駆動部に係る前記ネジ部が所定量以上螺合したときに互いに係合して当該被駆動部と前記駆動部とを一体に回転させる係合部を、
更に備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の駆動力伝達機構。
【請求項6】
前記駆動部が前記第1の方向に回転駆動されることにより、前記第2ネジ部の螺合が解除されて当該第2ネジ部に前記駆動部の駆動力が伝達されなくなってから、前記第1ネジ部の螺合により前記駆動部の駆動力が前記第1ネジ部に伝達されるまでの前記駆動部の回転量、若しくは、前記駆動部が前記第2の方向に回転駆動されることにより、前記第1ネジ部の螺合が解除されて当該第1ネジ部に前記駆動部の駆動力が伝達されなくなってから、前記第2ネジ部の螺合により前記駆動部の駆動力が前記第2ネジ部に伝達されるまでの前記駆動部の回転量の、少なくともいずれか一方が、所望の遅れ時間対応した回転量であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の駆動力伝達機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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