説明

騒音低減装置

【課題】騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができるようにする。
【解決手段】騒音源から放射された騒音は、センサーマイクで集音されて音響信号が生成され、マイクアンプで増幅されて、逆フィルタDSPによって、騒音を低減させるための低減信号が生成される。そして、低減信号は、各遅延回路に入力され、対応するスピーカ12の配列順序に応じて各々設定された遅延時間だけ遅延させ、遅延した信号は、D/A変換器及びパワーアンプを介して、スピーカユニットに出力される。そして、騒音の逆相波である音波が、制御音としてスピーカユニットの各スピーカ12から制御点に向けて放音され、制御点を含む広い範囲で、騒音源からの騒音が打ち消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、騒音低減装置に係り、特に、能動制御により騒音を低減する能動制御型の騒音低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路交通騒音、鉄道騒音について環境基準が定められており、基準を満たさない道路建設や、基準を満たさない高速車両の運行は認められない。
【0003】
このような背景から防音壁開発が盛んに行われると共に、防音壁からの回折音を能動制御により低減するアクティブ・ノイズ・コントロール(ANC:Active Noise Control)の技術開発が行われている。
【0004】
ANC技術として、点音源を直線状に複数配置して有限長の制御音源を構成し、この制御音源から正面及び斜め方向に制御音を放射して、制御音源の長さ方向の幅の範囲において騒音を低減する騒音低減装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−138130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の技術では、騒音を低減できる範囲が制御音源の長さ方向の幅の範囲に限られてしまうため、騒音源から球面状に拡散する騒音を広い範囲で低減することができない、という問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる騒音低減装置を提示することを目的とする。さらに、アクティブ・ノイズ・コントロールANCが効果的に使用出来るとされる低周波数の騒音低減を効果的に実施するための制御音源スピーカ(2次音源)を提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために第1の発明に係る騒音低減装置は、低減対象となる騒音に対して制御音を放出すると共に、低減対象となる騒音の周波数帯域に対応する波長の1/2に相当する長さ以下の間隔で配列された複数のスピーカを備えたスピーカユニットと、騒音源からの騒音を集音し、集音した騒音に対応する音響信号を出力するマイクロホンと、前記音響信号に基づいて、前記スピーカユニットから前記騒音源と反対側における騒音を低減するための低減信号を生成する生成手段と、前記スピーカから放音された制御音の波面の包絡面が前記騒音の波面に相当するように、前記低減信号を、前記騒音源と遅延させた低減信号に基づいた制御音を放音する前記複数のスピーカとの距離の各々に応じて算出された遅延時間だけ各々遅延させる処理を行うと共に、前記スピーカの各々について前記遅延時間が大きいほど前記スピーカから放音される前記制御音の大きさが小さくなるように補正する処理手段と、前記処理手段で処理された信号を前記複数のスピーカの各々に入力する入力手段とを含んで構成されている。
【0009】
第1の発明に係る騒音低減装置によれば、マイクロホンによって、騒音源からの騒音を集音し、集音した騒音に対応する音響信号を出力し、生成手段によって、音響信号に基づいて、スピーカユニットから騒音源と反対側における騒音を低減するための低減信号を生成する。
【0010】
そして、処理手段によって、スピーカから放音された制御音の波面の包絡面が騒音の波面に相当するように、低減信号を、騒音源と遅延させた低減信号に基づいた制御音を放音する複数のスピーカとの距離の各々に応じて算出された遅延時間だけ各々遅延させる処理を行うと共に、スピーカの各々について遅延時間が大きいほどスピーカから放音される制御音の大きさが小さくなるように補正する。
【0011】
そして、入力手段によって、処理手段で処理された信号を複数のスピーカの各々に入力し、スピーカユニットの複数のスピーカによって、制御音を放音する。このとき、放音された各制御音が合成された音波の波面の包絡面が、騒音の波面に相当するため、制御音によって騒音が低減される。
【0012】
このように、低減信号に基づいて複数のスピーカから放音された制御音の波面の包絡面が騒音の波面に相当するように、各スピーカに入力する低減信号を遅延させて、制御音を各スピーカから放音させることにより、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。
【0013】
第2の発明に係る騒音低減装置は、低減対象となる騒音に対して制御音を放出すると共に、低減対象となる騒音の周波数帯域に対応する波長の1/2に相当する長さ以下の間隔で配列された複数のスピーカを備えたスピーカユニットと、騒音源の振動を検出し、検出した振動に対応する振動信号を出力する振動検出手段と、前記振動信号に基づいて、前記スピーカユニットから前記騒音源と反対側における騒音を低減するための低減信号を生成する生成手段と、前記スピーカから放音された制御音の波面の包絡面が前記騒音の波面に相当するように、前記低減信号を、前記騒音源と遅延させた低減信号に基づいた制御音を放音する前記複数のスピーカとの距離の各々に応じて算出された遅延時間だけ各々遅延させる処理を行うと共に、前記スピーカの各々について前記遅延時間が大きいほど前記スピーカから放音される前記制御音の大きさが小さくなるように補正する処理手段と、前記処理手段で処理された信号を前記複数のスピーカの各々に入力する入力手段とを含んで構成されている。
【0014】
第2の発明に係る騒音低減装置によれば、振動検出手段によって、騒音源の振動を検出し、検出した振動に対応する振動信号を出力し、生成手段によって、振動信号に基づいて、スピーカユニットから騒音源と反対側における騒音を低減するための低減信号を生成する。
【0015】
そして、処理手段によって、スピーカから放音された制御音の波面の包絡面が騒音の波面に相当するように、低減信号を、騒音源と遅延させた低減信号に基づいた制御音を放音する複数のスピーカとの距離の各々に応じて算出された遅延時間だけ各々遅延させる処理を行うと共に、スピーカの各々について遅延時間が大きいほどスピーカから放音される制御音の大きさが小さくなるように補正する。
【0016】
そして、入力手段によって、処理手段で処理された信号を複数のスピーカの各々に入力し、スピーカユニットの複数のスピーカによって、制御音を放音する。このとき、放音された各制御音が合成された音波の波面の包絡面が、騒音の波面に相当するため、制御音によって騒音が低減される。
【0017】
このように、低減信号に基づいて複数のスピーカから放音された制御音の波面の包絡面が騒音の波面に相当するように、各スピーカに入力する低減信号を遅延させて、制御音を各スピーカから放音させることにより、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。
【0018】
また、上記のスピーカユニットの複数のスピーカを、壁上に設けることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の騒音低減装置によれば、低減信号に基づいて放音された制御音の波面の包絡面が騒音の波面に相当するように、複数のスピーカから制御音を放音させることにより、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る騒音低減システムの構成を示す概略図である。
【図2】中心のスピーカを決定する場合を示すイメージ図である。
【図3】遅延時間を決定する場合を示すイメージ図である。
【図4】複数のスピーカの各々から放音される制御音の周波数帯域の中心周波数を示す図である。
【図5】中心周波数及び周波数帯域を示す表である。
【図6】フレネル輪帯を説明するための図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る騒音低減システムの構成を示す概略図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る騒音低減システムの構成を示す概略図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係る騒音低減システムの構成を示す概略図である。
【図10】本発明の第6の実施の形態に係る騒音低減システムの防音壁及びスピーカを示す概略図である。
【図11】本発明の第7の実施の形態に係る騒音低減システムの防音壁及びスピーカを示す概略図である。
【図12】本発明の第8の実施の形態に係る騒音低減システムの防音壁及びスピーカを示す概略図である。
【図13】本発明の第9の実施の形態に係る騒音低減システムのスピーカユニットの配置を示す概略図である。
【図14】スピーカを等間隔に配置したスピーカユニットの配置を示す概略図である。
【図15】本発明の第9の実施の形態に係る騒音低減システムのスピーカユニットと等間隔スピーカによるスピーカユニットとの周波数特性を示すグラフである。
【図16】2つの点音源による指向性を説明するためのイメージ図である。
【図17】本発明の第10の実施の形態に係る騒音低減システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、本実施の形態では、防音壁がない自由音場における騒音低減システムに本発明を適用した場合について説明する。
【0022】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る騒音低減システム10は、複数のスピーカ12が1列に配列されたスピーカユニット14と、スピーカ12から放音される制御音を制御するための制御ブロック16と、制御ブロック16から出力された信号を増幅して各スピーカ12に入力する複数のパワーアンプ36と、騒音源の近傍に設置され、かつ、騒音源からの騒音を集音し、集音した騒音に対応する音響信号を出力するセンサーマイク18と、音響信号を増幅するマイクアンプ20と、マイクアンプ20から出力される信号に対して、逆フィルタリングをかけて低減信号を生成して制御ブロック16に出力する生成手段としての逆フィルタDSP22と、制御点に設置され、かつ、逆フィルタDSP22にフィードバックするためのエラーマイク24と、所定の信号処理を行う信号処理部40とを備えている。陽解法制御の場合、エラーマイク24は逆フィルタを決定するために、インパルス応答を計測する時に必要となるが、制御時は不要であることを明記しておく。なお、制御点については、騒音源からの音波が球面波伝播しているため、スピーカユニット14から騒音源と反対側であれば、どこでもよい。また、パワーアンプ36は、本発明の入力手段に相当する。
【0023】
スピーカユニット14では、複数のスピーカ12が直線状に配列されており、スピーカ12は、制御ブロック16によって低減対象となる騒音の周波数帯域の最大周波数以下の周波数帯域の音を放音するように制御される。
【0024】
また、複数のスピーカ12は等間隔で配置され、間隔dは、以下の式で示されるように低減対象となる騒音の周波数帯域の最大中心周波数Fmaxの音の波長λの1/2以下とする。
d≦λ/2
例えば、Fmax=500kHzの場合、音速cを340m/sとすると、間隔dは0.34mとなる。
【0025】
なお、スピーカ12の間隔dは、λ/2以下であればよく、また、低減対象となる騒音の周波数帯域の最大中心周波数Fmaxがより高い周波数Fmaxhに変化し、間隔dがλmaxh/2(λmaxh=c/Fmaxh)よりも大きくなった場合には、スピーカ12の配列位置に沿ってレール(図示省略)等を敷設することによってスピーカ移動手段を設けてスピーカの各々を移動可能にし、手動もしくは機械的方法(例えば、電動モータなどによる個々のスピーカ移動)によって、周波数Fmaxhに対する間隔dがλmaxh/2以下となるように各スピーカ12を移動させればよい。
【0026】
逆フィルタDSP22は、マイクアンプ20から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器26と、フィルタ係数が予め設定された時不変の逆フィルタ28とを備えている。逆フィルタ28のフィルタ係数は、陽解法及びLMS法の何れかによって決定され、A/D変換器26から出力された信号に対して、同振幅かつ逆相の信号を出力する。
【0027】
また、制御ブロック16には、所定の周波数帯域の信号を通過させるようにフィルタリングを行うバンドパスフィルタ32をn個のスピーカ12毎に備えたフィルタ群33が設けられており、また、n個のスピーカ12の各々に対して、スピーカ12の配列順序に応じて信号を遅延させる遅延回路30、及びデジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器34が複数設けられている。
【0028】
遅延回路30は、スピーカ12の仮想音源が騒音源を中心とした円弧状に配列されるように、スピーカ12に入力する信号を遅延させる。スピーカ12の各々に入力される信号の遅延時間は、信号処理部40によって以下のように決定される。
【0029】
まず、図2に示すように、目視と図面による確認とで、騒音源の位置を特定して、円弧状配列スピーカの半径Rを決定すると共に、騒音源から円弧状配列スピーカ群の中心スピーカまでの距離である半径Rを決定する。
【0030】
そして、図3に示すように、中心スピーカを基準としたときの遅延時間Δを以下の式により算出する。
Δ={(R+D±i1/2−R}/c ・・・(1)
上記の式に基づいて、各スピーカ12について遅延時間Δを算出し、各スピーカ12に対応する遅延回路30に遅延時間Δを設定する。これにより、遅延回路30の各々は、算出された遅延時間Δだけ信号を遅延させる。
【0031】
また、信号処理部40では、以下のように、スピーカ12から放音される制御音の振幅を補正するための振幅補正係数Kiを算出し、遅延回路30に設定する。スピーカ12が直線配置の場合、仮想配置の円弧に対して実際のスピーカ12は遅延時間Δに相当する距離だけ前方に存在するため、仮想配置の場所にスピーカ12が存在する場合よりも大きな音を制御点に放出する。そこで、制御音の大きさを小さく補正するための補正係数Kiを以下の式により算出する。
Ki=R/(Δi×c+R) (i=1、2、・・・) ・・・(2)
また、各バンドパスフィルタ32は、入力される信号から全周波数の信号を通過させるフィルタと、信号の周波数帯域の複数の中心周波数を大きい順に1つずつ個数を増加させて中心周波数の周波数帯域を組み合わせた複数のグループの各々に含まれる周波数帯域の信号を各々通過させるフィルタとの何れかで構成されている。例えば、入力される信号から全周波数の信号を通過させるフィルタ、入力される信号から、最大の中心周波数2n−1f(例えば、4f=250Hz)の周波数帯域のみが含まれる第1グループの周波数帯域の信号を通過させるフィルタ、最大の中心周波数2n−1f(250Hz)の周波数帯域及び2番目に大きい中心周波数2n−2f(例えば、2f=125Hz)の周波数帯域が含まれる第2グループの周波数帯域の信号を通過させるフィルタ、及び最大の中心周波数2n−1f(250Hz)の周波数帯域、2番目に大きい中心周波数2n−2f(125Hz)の周波数帯域、及び3番目に大きい中心周波数2n−3f(例えば、f=63Hz)の周波数帯域が含まれる第3グループの周波数帯域の信号を通過させる第3のフィルタの何れかで構成されている。
【0032】
また、フィルタ群33には、図4に示すように、中心のスピーカ12から全周波数帯域の制御音を放音するように、対応するバンドパスフィルタ32として、全周波数の信号を通過させるフィルタが配置される。
【0033】
また、その他のスピーカ12について、第1グループ〜第3グループの何れかの周波数帯域に含まれる最小中心周波数に対応する波長の1/2に相当する長さ以下の間隔となる位置に存在するスピーカ12から、第1グループ〜第3グループの何れかの周波数帯域の制御音が放音されるように、対応するバンドパスフィルタ32として、第1のフィルタ〜第3のフィルタの何れかが配置され、スピーカ12に第1グループ〜第3グループの何れかに含まれる周波数帯域の信号が入力される。
【0034】
例えば、中心のスピーカ12から、250Hzの波長の1/2である0.66m隔てた位置に存在するスピーカ12に対応するバンドパスフィルタ32として、最小中心周波数が250Hzとなる第1グループの周波数帯域の信号を通過させるフィルタが配置される。また、中心のスピーカ12から、125Hzの波長の1/2である1.32m隔てた位置に存在するスピーカ12に対応するバンドパスフィルタ32として、最小中心周波数が125Hzとなる第2グループの周波数帯域の信号を通過させるフィルタが配置される。また、中心のスピーカ12から、63Hzの波長の1/2である2.64m隔てた位置に存在するスピーカ12に対応するバンドパスフィルタ32として、最小中心周波数が63Hzとなる第3グループの周波数帯域の信号を通過させるフィルタが配置される。
【0035】
ここで、中心周波数について説明する。周波数分析器として一定比周波数分析器があり、一定比(Δf/f)の周波数分析器は、Δfの幅によって狭帯域1/3オクターブ、1/1オクターブ分析器などがある。騒音、振動などの分析に用いられるのは、1/3オクターブ、あるいは1/1オクターブ分析器であり、国際規格が決められている(IEC Publication 225、Octave、half−octave and third octave filters、1996)。その中心周波数は、図5のように決められており、最小の中心周波数をfとすると、全ての中心周波数は、2n−1f(nは自然数)である。
【0036】
1/1オクターブ分析器では、周波数帯域の上限周波数をf1、下限周波数をf2、中心周波数をf0とすると、以下の式によって表される。
f0=(f1×f2)1/2
f1=2−1/2×f0
f2=21/2×f0
また、帯域幅が以下のように表される。
f2/f1=(21/2×f0)/(2−1/2×f0)=21/1
なお、1/3オクターブ分析器の場合には、以下のように表される。
f0=(f1×f2)1/2
f1=2−1/6×f0
f2=21/6×f0
f2/f1=(21/6×f0)/(2−1/6×f0)=21/3
また、1/nオクターブ分析器の場合には、以下のように表される。
f0=(f1×f2)1/2
f1=2−1/2n×f0
f2=21/2n×f0
f2/f1=(21/2n×f0)/(2−1/2n×f0)=21/n
また、信号処理部40は、逆フィルタ28のフィルタ係数W(t)を、例えば陽解法によって、以下のように決定する。
【0037】
まず、騒音源近傍に設置したセンサーマイク18に入る騒音源からの騒音x(t)と騒音源から制御点に到達する騒音ys(t)との相互相関関数hs(t)を測定し、また、センサーマイク18に入る騒音源からの騒音x(t)と逆フィルタをW(t)=δ(t)としてスピーカ12から放音される騒音yc(t)との間の相互相関関数hc(t)を測定する(相互相関法によるインパルスh(t)の測定)。
【0038】
そして、hs(t)、hc(t)の伝達関数をHs(ω)、Hc(ω)として、逆フィルタW(t)を、以下の式によって決定する。
【0039】
【数1】


ここで、F−1は逆フーリエ変換を示す。
【0040】
次に、フレネル輪帯について説明する。図6に示すように、1次波形上の全ての点は、球面状の2次小波の連続的な放射源と考えられ、2次放射の方向性を記述するために、傾斜因子(inclination factor)K(θ)を導入すると、K(θ)は以下の式で与えられる。
【0041】
【数2】


ここで、θは、音源Sから観測点Pへのベクトルと1次波面に垂直なベクトルkとのなす角度である。また、音源SからPへの直接波は、以下の式で表される。
【0042】
【数3】


一方、2次小波から合成される波動は、各フレネル輪帯からの寄与の合計であるため、以下の式で表される。
【0043】
【数4】


ここで、上記(5)式と(6)式とは完全に等価でなければならない。また、輪帯Kに対してθ=0となるため、K=1となる。従って、以下の式が与えられる。
【0044】
【数5】


ここで、εは、半径ρの1次波面上における単位面積あたりの2次小波の強度であり、また、ε/ρは1次波面上における単位面積あたりの1次波の強度である。従って、2次小波の発生源の強度は、1次波の強度の1/λとなる。
【0045】
次に、第1の実施の形態に係る騒音低減システム10の動作について説明する。まず、騒音源から放射された騒音は、センサーマイク18で集音され、マイクアンプ20で音響信号が増幅されて、逆フィルタDSP22に入力される。そして、逆フィルタDSP22の逆フィルタ28は、A/D変換器26から入力されたデジタル信号と、設定されたフィルタ係数とを用いて、デジタルフィルタリング処理を行う。
【0046】
このとき、逆フィルタ28を通すことで、信号の波形が整形されると共に時間移動され、入力信号を逆相にした低減信号が生成されるため、低減信号に基づいてスピーカ12から放音された制御音により、減音効果を得ることができる。
【0047】
逆フィルタ28でフィルタリング処理された低減信号は、各遅延回路30に入力され、各遅延回路30では、対応するスピーカ12の配列順序に応じて各々設定された遅延時間だけ信号を遅延させる。遅延した信号は、バンドパスフィルタ32に入力され、所定の周波数帯域の信号のみが通過し、通過した信号は、D/A変換器34に入力され、D/A変換されて、パワーアンプ36を介して、スピーカユニット14に出力される。そして、フィルタリング処理された信号に対応する音波、即ち、騒音の逆相波であり、かつ、所定の周波数帯域の音波が、制御音としてスピーカユニット14の各スピーカ12から制御点に向けて放音される。
【0048】
このとき、制御音は、騒音源を中心とする円弧上に配列された仮想音源から放音されるため、騒音源から円状に拡散する騒音に対応した円弧状に制御音を放音し、各スピーカ12から放音された制御音が合成され、合成された音波が球面音波となる。この波面の包絡面は騒音源からの騒音の波面に相当し、また、制御音が、騒音の逆相となっている。
【0049】
また、本実施の形態では、63Hzの制御音を放音するスピーカ12が3個、125Hzの制御音を放音するスピーカ12が5個、250Hzの制御音を放音するスピーカ12が9個であり、円弧上に配置された各仮想音源の強さがほぼ1/λとなるため、フレネル輪帯における2次音源の理論を応用することができる。
【0050】
従って、制御点を含む広い範囲で、騒音源からの騒音が、スピーカ12からの制御音により打ち消される。
【0051】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る騒音低減システムによれば、逆フィルタリング処理された信号に基づいて複数のスピーカから放音された制御音の波面の包絡面が騒音の波面に相当するように、各スピーカに入力するための逆フィルタリング処理された信号を遅延させると共に、中心周波数の周波数帯域を組み合わせたグループの各々に含まれる周波数帯域の制御音を各スピーカから放音させることにより、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。
【0052】
また、フレネル輪帯の原理を応用して、騒音源からの球面波伝播する音波に対して、球面音波として制御音を複数のスピーカから放音するため、近距離音場(Near field)の音場制御を行って、騒音を低減することができる。
【0053】
また、自由音場用、すなわち防音壁がない場合でも能動制御を行い、騒音を低減することができる。
【0054】
また、本実施の形態によれば、従来の直線配置の線音源からの正面方向制御及び斜め方向に比べて、5dB以上の騒音低下に効果が得られる領域が大幅に広くなる。
【0055】
また、所定の中心周波数グループの周波数帯域の制御音を、所定間隔に配置したスピーカから放音させればよいため、スピーカの数を削減することができる。
【0056】
なお、上記の実施の形態では、スピーカを等間隔で配置する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、周波数毎に異なるλに比例する間隔でスピーカ2n+1個を配列してもよい。この場合には、従来の等間隔直線配置の線音源のスピーカ個数よりも大幅にスピーカ数を削減することができる。
【0057】
また、制御ブロックにおいて、遅延回路で遅延させた信号をバンドパスフィルタに入力する場合を例に説明したが、バンドパスフィルタでフィルタをかけた信号を遅延回路に入力するようにしてもよい。
【0058】
また、複数のスピーカを直線状に配列する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、円弧状に配列してもよい。この場合にも、各スピーカに対して、騒音源とスピーカとの距離に基づいて、遅延時間を決定して遅延回路に設定し、騒音源に対する円弧上にスピーカの仮想音源が配置されるようにすればよい。
【0059】
次に、第2の実施の形態に係る騒音低減システムについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して、説明を省略する。
【0060】
第2の実施の形態では、音波情報に基づいて、騒音源の位置を特定している点が第1の実施の形態と異なっている。
【0061】
図7に示すように、第2の実施の形態に係る騒音低減システム210では、スピーカユニット14の複数のスピーカ12の配列方向に沿って、ワイヤ240を設け、ワイヤにスピーカ近接マイク238を吊るすことによって、スピーカ近接マイクを移動可能としている。
【0062】
騒音源の位置を特定する場合には、スピーカ近接マイク238を複数のスピーカ12の各々に近接した所定位置に移動させながら、騒音源からの騒音を集音し、集音した騒音に対応する音響信号を信号処理部40に出力する。
【0063】
次に、信号処理部40において、騒音源の位置を特定する処理について説明する。まず、音波情報に基づいて、センサーマイク18と各スピーカ12に近接した位置(Miとする)におけるスピーカ近接マイク238とに入射する騒音源からの2つ音波x(t)及びy(t)のクロススペクトルΦxy(ω)の逆フーリエ変換である相互相関関数φxy(τ)を求める。
【0064】
相互相関関数φxy(τ)は以下のように表される。時間の関数x(t)、y(t)について自己相関関数は
【0065】
【数6】


と表され、相互相関関数は
【0066】
【数7】


と表される。ここで、φxx(τ)、φxy(τ)をフーリエ変換すると、パワースペクトルは、
【0067】
【数8】


と表され、クロススペクトルは、
【0068】
【数9】


と表される。また、系のインパルス応答をh(t)とし、その伝達関数をH(ω)とすると、
【0069】
【数10】

【0070】
【数11】


となる。また、周波数領域では以下のように表される。
【0071】
【数12】

【0072】
【数13】


上記の相互相関関数φxy(τ)は、センサーマイク18を時間軸ゼロ(基点)として、騒音がセンサーマイク18からスピーカ近接マイク38(Miとする)に到達するまでに要する時間Tiである。ここで、スピーカ近接マイク38からセンサーマイク18までの間の距離をdiとし、cを音速とすると、以下の式で表される。
Ti=di/c
従って、センサーマイク18からスピーカ近接マイク38までの間の距離diは、di=Ti×cとなるため、スピーカ近接マイク38の各々を円の中心として、半径diの円弧を描いて、円弧が交わる点を騒音源の位置として特定する。
【0073】
なお、Tiの最小時間Tminとなるときのスピーカ近接マイク38の位置が、騒音源に最も近い位置であり、センサーマイク18から最も近いスピーカ近接マイク38までの距離をRとすると、距離Rは、以下の式で表される。
R=Tmin・c
そして、第1の実施の形態と同様に、中心スピーカを基準としたときの遅延時間を算出して、遅延回路30に設定すればよい。
【0074】
なお、上記の実施の形態では、スピーカ近接マイクを一つだけ設けた場合を例に説明したが、複数のスピーカ近接マイクを設けてもよい。この場合には、複数のスピーカの各々に対応して、対応するスピーカに対する近接位置にスピーカ近接マイクを固定的に設置し、各スピーカ近接マイクによって、騒音源からの騒音を集音し、集音した騒音に対応する音響信号を信号処理部に出力するようにすればよい。
【0075】
次に、第3の実施の形態に係る騒音低減システムについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して、説明を省略する。
【0076】
第3の実施の形態では、制御ブロックにおいて、遅延回路及びバンドパスフィルタが、スピーカ毎ではなく、遅延時間及び通過させる周波数帯域の種類の組み合わせ毎に設けられている点が第1の実施の形態と異なっている。
【0077】
図8に示すように、第3の実施の形態に係る騒音低減システム310では、スピーカユニット14の二等分線上付近に騒音源が位置し、スピーカユニット14の中心にあるスピーカ12が、騒音源に一番近い場所に位置している。
【0078】
制御ブロック316の遅延回路30では、中心にあるスピーカ12でスピーカユニット14を分割した場合の一方に位置するスピーカ12の各々について、第1の実施の形態で説明した方法と同様に、中心にあるスピーカ12を基準として、遅延時間Δを算出し、各スピーカ12に対応する遅延回路30に遅延時間Δを設定する。
【0079】
また、フィルタ群333の各バンドパスフィルタ32は、入力される信号から全周波数の信号を通過させるフィルタ、最大の中心周波数4fの周波数帯域のみが含まれる第1グループの周波数帯域の信号を通過させるフィルタ、最大の中心周波数4fの周波数帯域及び2番目に大きい中心周波数2fの周波数帯域が含まれる第2グループの周波数帯域の信号を通過させるフィルタ、及び最大の中心周波数4fの周波数帯域、2番目に大きい中心周波数2fの周波数帯域、及び3番目に大きい中心周波数fの周波数帯域が含まれる第3グループの周波数帯域の信号を通過させる第3のフィルタの何れかから構成されている。
【0080】
中心のスピーカ12に対するバンドパスフィルタ32は、全周波数の信号を通過させるフィルタから構成され、その他のスピーカ12に対するバンドパスフィルタ32は、中心のスピーカ12に対して左右対称に2つのスピーカ12に接続されるように配線され、これらのバンドパスフィルタ32は、各フィルタが通過させる周波数帯域の信号が、周波数帯域に含まれる最小中心周波数に対応する波長の1/2に相当する長さ以下の間隔となる位置に存在するスピーカ12の各々に入力されるように、第1のフィルタ〜第3のフィルタが配置されている。
【0081】
例えば、中心のスピーカ12の隣のスピーカ12に対応するバンドパスフィルタ32は、最大中心周波数4fの周波数帯域の信号を通過させる第1のフィルタで構成され、更に隣のスピーカ12に対応するバンドパスフィルタ32は、中心周波数4fの周波数帯域及び中心周波数2fの周波数帯域の信号を通過させる第2のフィルタで構成され、更に隣のスピーカ12に対応するバンドパスフィルタ32は、中心周波数4fの周波数帯域の信号を通過させる第1のフィルタで構成され、更に隣にスピーカ12に対応するバンドパスフィルタ32は、中心周波数4f、2f、fの周波数帯域の信号を通過させる第3のフィルタで構成されている。
【0082】
なお、騒音低減システム310の動作については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0083】
このように、遅延時間及びバンドパスフィルタの周波数帯域のグループの組み合わせ毎に、左右対称となるようにスピーカに対応させて遅延回路及びバンドパスフィルタを接続することにより、遅延回路及びバンドパスフィルタの数を削減することができるため、低コスト化を図ることができる。
【0084】
次に、第4の実施の形態に係る騒音低減システムについて説明する。なお、第1の実施の形態及び第3の実施の形態と同様の構成となっている部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0085】
第4の実施の形態では、スピーカユニットのスピーカが、直線ではなく、円弧状に配列されている点と、スピーカに入力する低減信号を遅延させていない点とが第3の実施の形態と異なっている。
【0086】
図9に示すように、第4の実施の形態に係る騒音低減システム410は、複数のスピーカ12が円弧状に配列されたスピーカユニット414と、スピーカ12から放音させる制御音を制御するための制御ブロック416、複数のパワーアンプ36、センサーマイク18と、マイクアンプ20と、逆フィルタDSP22とを備えている。
【0087】
スピーカユニット414の複数のスピーカ12は、最大中心周波数2n−1fに対応する波長の1/2に相当する間隔で、等間隔に配置され、また、騒音源の位置を曲率中心とする円弧状に配置されている。なお、騒音源は、スピーカユニット414の曲率中心の位置に限定されるものではなく、曲率中心近傍の所定範囲内の領域に位置していればよい。
【0088】
制御ブロック416には、n個のスピーカ12の各々に対して、D/A変換器34が複数設けられ、また、逆フィルタ28から出力された信号に対して、所定の周波数帯域の信号を通過させるようにフィルタリングを行うバンドパスフィルタ32を複数備えたフィルタ群433が設けられている。
【0089】
フィルタ群433には、中心のスピーカ12に対応するバンドパスフィルタ32として、入力される信号から全周波数の信号を通過させるフィルタが設けられ、また、その他のバンドパスフィルタ32として、中心のスピーカ12に対して左右対称に2つのスピーカ12に接続される複数のフィルタが設けられている。
【0090】
左右対称に2つのスピーカ12に接続されるバンドパスフィルタ32は、最大の中心周波数4fの周波数帯域のみが含まれる第1グループの周波数帯域の信号を通過させるフィルタ、最大の中心周波数4fの周波数帯域及び2番目に大きい中心周波数2fの周波数帯域が含まれる第2グループの周波数帯域の信号を通過させるフィルタ、及び最大の中心周波数4fの周波数帯域、2番目に大きい中心周波数2fの周波数帯域、及び3番目に大きい中心周波数fの周波数帯域が含まれる第3グループの周波数帯域の信号を通過させる第3のフィルタの何れかから構成されている。また、左右対称にスピーカ12に接続されるバンドパスフィルタ32として、各フィルタが通過させる周波数帯域の信号が、周波数帯域に含まれる最小中心周波数に対応する波長の1/2に相当する長さ以下の間隔となる位置に存在するスピーカ12の各々に入力されるように、第1のフィルタ〜第3のフィルタが配置されている。
【0091】
次に第4の実施の形態に係る騒音低減システム410の動作について説明する。騒音源から放射された騒音は、センサーマイク18で集音され、マイクアンプ20で増幅されて、逆フィルタDSP22に入力される。逆フィルタDSP22の逆フィルタ28は、A/D変換器26から入力されたデジタル信号と、設定されたフィルタ係数とを用いて、デジタルフィルタリング処理を行う。
【0092】
そして、逆フィルタ28でフィルタリング処理された信号は、フィルタ群433の各バンドパスフィルタ32に入力され、所定の周波数帯域の信号のみが通過し、通過した信号の各々は、接続されている1つ又は2つのD/A変換器34に入力され、D/A変換されて、パワーアンプ36を介して、スピーカユニット314に出力される。そして、フィルタリング処理された信号に対応する音波、即ち、騒音の逆相波が、制御音としてスピーカユニット314の各スピーカ12から制御点に向けて放音される。
【0093】
このとき、制御音は、騒音源を曲率中心とする円弧状に配列されたスピーカ12から放音されるため、騒音源から円状に拡散する騒音に対応した円弧状に制御音を放音し、各スピーカ12から放音された制御音が合成され、合成された音波が球面音波となる。この波面の包絡面は騒音源からの騒音の波面に相当し、また、制御音が、騒音の逆相となっている。
【0094】
また、本実施の形態では、63Hzの制御音を放音するスピーカ12が3個、125Hzの制御音を放音するスピーカ12が5個、250Hzの制御音を放音するスピーカ12が9個であり、円弧状に配置された各スピーカ12の強さがほぼ1/λとなるため、フレネル輪帯における2次音源の理論を応用することができる。
【0095】
従って、制御点を含む広い範囲で、騒音源からの騒音が、スピーカユニット414のスピーカ12からの制御音により打ち消される
以上説明したように、第4の実施の形態に係る騒音低減システムによれば、逆フィルタリング処理された信号に基づいて中心周波数の周波数帯域を組み合わせたグループの各々に含まれる周波数帯域の制御音を、騒音源を中心とする円弧状に配列された各スピーカに放音させることにより、逆フィルタリング処理された信号に基づいて放音された制御音の波面の包絡面が騒音の波面に相当するため、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。
【0096】
次に、第5の実施の形態に係る騒音低減システムについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となっている部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0097】
第5の実施の形態では、騒音源が複数となっている点が第1の実施の形態と異なっている。
【0098】
第5の実施の形態に係る騒音低減システムでは、センサーマイク18、マイクアンプ20、逆フィルタDSP22、遅延回路30、及びフィルタ群33が、騒音源毎に設けられている。
【0099】
また、複数の騒音源の各々に対するフィルタ群33のバンドパスフィルタ32の各々からの出力が、デジタル加算器(図示省略)で加算されて、各D/A変換器34に出力される。
【0100】
そして、各D/A変換器34及び各パワーアンプ36を介して、スピーカユニット14のスピーカ12から制御音が放音される。このとき、スピーカ12の仮想音源が、騒音源毎に円弧状に仮想配置されるため、各スピーカ12から放音された制御音が合成されて、合成された音波が、騒音源毎の球面音波となる。この波面の包絡面は、各騒音源からの騒音の波面に相当し、また、制御音が、各騒音の逆相となっているため、制御点を含む広い範囲で、複数の騒音源からの騒音が、制御音により打ち消される。
【0101】
このように、騒音源が複数の場合であっても、騒音源毎に、逆フィルタリングされた信号を遅延させると共に、バンドパスフィルタをかけて所定の周波数帯域の信号に処理することにより、複数のスピーカから放音される制御音によって、複数の騒音源からの騒音を低減することができる。
【0102】
次に、第6の実施の形態に係る騒音低減システムについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して、説明を省略する。
【0103】
図10に示すように、第6の実施の形態に係る騒音低減システムには、防音壁650が設けられており、スピーカユニット14の複数のスピーカ12が、防音壁650上に設置されている。
【0104】
このように、防音壁を有する場合でも、防音壁上にスピーカを配置し、スピーカに入力する低減信号を遅延させると共に、所定の周波数帯域の制御音を放音させることにより、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。
【0105】
次に、第7の実施の形態に係る騒音低減システムについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して、説明を省略する。
【0106】
図11に示すように、第7の実施の形態に係る騒音低減システムには、角度θで折れ曲がっている防音壁750が設けられており、スピーカユニット14の複数のスピーカ12が、防音壁750上に設置されている。
【0107】
このように、折れ曲がっている防音壁の上にスピーカを配置した場合でも、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。
【0108】
次に、第8の実施の形態に係る騒音低減システムについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して、説明を省略する。
【0109】
図12に示すように、第8の実施の形態に係る騒音低減システムには、2段の直線になって延びている防音壁850が設けられており、スピーカユニット14の複数のスピーカ12が、防音壁850上に設置されている。
【0110】
このように、2段の直線となっている防音壁の上にスピーカを配置した場合でも、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。
【0111】
なお、スピーカが壁上に配置されている防音壁が騒音源と反対側を中心とする曲線状であってもよい。この場合にも、低減信号を遅延させることにより、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。
【0112】
また、防音壁を設けた場合を例に説明したが、防音壁を有しない自由音場であっても、上記のように、直線状に配置していない複数のスピーカに対して、低減信号を遅延させることにより、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。例えば、敷地境界線が直線状ではない場合に、敷地境界線に沿ってスピーカを配置したような場合であっても、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。
【0113】
なお、上記では、低減対象となる騒音の周波数帯域を3つの周波数帯域に分割して騒音を制御する例について説明したが、低減対象となる騒音の周波数帯域は、一般的に表わすと、最小中心周波数をfとして、fの2n−1倍(nは自然数)のf、2f、4f、・・・、2n−1fを中心周波数とするn個の周波数帯域に分割することができる。
【0114】
この場合、中心周波数を大きい順に1つずつ個数を増加させて中心周波数の周波数帯域を組合わせたグループは以下のようになる。
【0115】
第1グループに含まれる周波数帯域の中心周波数:2n−1
第2グループに含まれる周波数帯域の中心周波数:2n−1f、2n−2
第3グループに含まれる周波数帯域の中心周波数:2n−1f、2n−2f、2n−3
第4グループに含まれる周波数帯域の中心周波数:2n−1f、2n−2f、・・・、2n−4
・・・
第nグループに含まれる周波数帯域の中心周波数:2n−1f、2n−2f、・・・f
また、バンドパスフィルタは、スピーカユニットに対応させてバンドパスフィルタを配列したとき、スピーカユニットの左端に対応するバンドパスフィルタまたは右端に対応するバンドパスフィルタ(端部)からスピーカユニットの中心部に向かって、通過帯域が以下の配列となるように配列することができる。
「2n−1f、2n−2f、・・・、f」(端部)、「2n−1f」、「2n−1f、2n−2f、・・・、2f」、「2n−1f」、「2n−1f、2n−2f、・・・、4f」、「2n−1f」、「2n−1f、2n−2f、・・・、8f」、「2n−1f」、・・・、「2n−1f」、「2n−1f、2n−2f、・・・、f」(中心部)。なお、中心部は、全周波数帯域の信号を通過させるバンドバスフィルタを用いてもよい。
【0116】
次に、第9の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となっている部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0117】
第9の実施の形態では、各スピーカから1つの中心周波数の周波数帯域の制御音を放音している点と、スピーカが不等間隔に配置されている点が第1の実施の形態と異なっている。
【0118】
低音域の音波の波長λは長い。例えば100Hzのλは3.4mである。制御すべき周波数帯域の最高周波数が500Hzの場合、制御音を放音するスピーカは500Hzの波長λの半分、すなわちd=λ/2=0.34mの長さ以下の間隔で、等間隔に配置するのが従来技術であった。63Hzの音波の波長λは5.4mであるから、100Hzを低減するためには制御音を放音するスピーカの長さはλの2倍以上、すなわち図14のように最低17個以上のスピーカを設置する必要があった。
【0119】
第9の実施の形態では、最小の個数のスピーカによって低音域の音波を効率的に低減するスピーカユニットを提示する。すなわち、図13に示すように、Huygens−Fresnel理論に基づいて、制御対象とする騒音の周波数バンド(中心周波数63、125、250、500Hzなど)の中心周波数fに対応する波長λ(λ=c(音速)/f)の半分の長さd(d=λ/2)以下の間隔で、不等間隔にスピーカ12を配置する。
【0120】
このように配置することによって、9個のスピーカ12で周波数63Hzの騒音を低減することが可能になっている。これは、以下に説明する付随効果によって実現するものである。
【0121】
ここで、第9の実施の形態におけるスピーカユニット712と、図14に示すような17個のスピーカを等間隔に配置したスピーカユニットの周波数特性について図15に示す。
【0122】
図15の細線は、図13と図14とのスピーカユニットを構成しているスピーカ1個の周波数特性である。また、図14に示す17個の等間隔スピーカによるスピーカユニットの周波数特性は、図15の太線になる。音圧レベルはスピーカの個数(17個)分(10log10(17)=12.3dB)上昇するが、周波数特性は1個の場合と同じである。
【0123】
しかし、図13の本実施の形態に係る不等間隔スピーカによるスピーカユニット712の場合、周波数特性は図15の鎖線のようになる。中心周波数63、125、250、500Hzの各バンドともスピーカ12は2個ずつであり、パワーは3dB(=10log10(2))上昇するが、周波数特性は低音が上昇して1個の周波数特性に比べると、より平坦になっている。
【0124】
この理由は、波長λの1/2間隔で低周波数ほど間隔を大きくして配置されているため、図13に示すスピーカユニットを1つのスピーカと見なした場合、低周波数ほど大きな放射面積を確保していることになり、低音域の相互放射インピーダンスが大きくなって、低音で能率が向上するためである。
【0125】
また、図16を用いて、2つの点音源による指向性について説明する。2つの点音源の間隔dが波長λの1/2の場合、音波は前方方向に強く放出されて、図16に示すような指向性を有する。したがって、上記の図13のようにスピーカユニット712を構成することによって、63、125、250、500Hzの各中心周波数バンドとも制御点方向に効率よく音波が放出される。
【0126】
なお、後ろ方向への指向性は、スピーカBOXの後ろ側のため、実際のスピーカBOXではかなり小さくなっている。また、実際のスピーカBOXに入っているスピーカの指向性は制御点方向のみと考えてよい。
【0127】
次に、第10の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となっている部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0128】
第10の実施の形態では、バンドパスフィルタを設けずに、各スピーカから全周波数帯域の制御音を放音している点が第1の実施の形態と異なっている。
【0129】
図17に示すように、第10の実施の形態に係る騒音低減システム910では、制御ブロック316を、遅延回路30とD/A変換器34とで構成し、全周波数の信号をパワーアンプ36に出力し、スピーカ12に入力している。
【0130】
なお、騒音低減システム910の他の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0131】
次に、第10の実施の形態に係る騒音低減システム910の動作について説明する。まず、騒音源から放射された騒音は、センサーマイク18で集音され、マイクアンプ20で音響信号が増幅されて、逆フィルタDSP22に入力される。そして、逆フィルタDSP22の逆フィルタ28は、A/D変換器26から入力されたデジタル信号と、設定されたフィルタ係数とを用いて、デジタルフィルタリング処理を行う。
【0132】
逆フィルタ28でフィルタリング処理された低減信号は、各遅延回路30に入力され、各遅延回路30では、対応するスピーカ12と騒音源との距離の各々に応じて各々設定された遅延時間だけ信号を遅延させる。遅延した信号は、D/A変換器34に入力され、D/A変換されて、パワーアンプ36を介して、スピーカユニット14に出力される。そして、逆フィルタリング処理された信号に対応する音波、即ち、騒音の逆相波である全周波数帯域の音波が、制御音としてスピーカユニット14の各スピーカ12から制御点に向けて放音される。
【0133】
このとき、制御音は、騒音源を中心とする円弧上に配列された仮想音源から放音されるため、騒音源から円状に拡散する騒音に対応した円弧状に制御音を放音し、各スピーカ12から放音された制御音が合成され、合成された音波が球面音波となる。この波面の包絡面は騒音源からの騒音の波面に相当し、また、制御音が、騒音の逆相となっている。
【0134】
従って、制御点を含む広い範囲で、騒音源からの騒音が、スピーカ12からの制御音により打ち消される。
【0135】
以上説明したように、第10の実施の形態に係る騒音低減システムによれば、逆フィルタリング処理された信号に基づいて複数のスピーカから放音された制御音の波面の包絡面が騒音の波面に相当するように、各スピーカに入力するための逆フィルタリング処理された信号を遅延させて、制御音を各スピーカから放音させることにより、騒音源から拡散する騒音を広い範囲で低減することができる。
【0136】
なお、上記の第1の実施の形態〜第10の実施の形態では、センサーマイクを用いて、騒音源からの騒音を集音し、集音した騒音に対応する音響信号を、マイクアンプを介して逆フィルタDSPに出力する場合を例に説明したが、騒音源の振動を検出する振動検出器を用いてもよい。この場合には、振動検出器を用いて、騒音源の振動を検出し、検出した振動に対応する振動信号を、マイクアンプを介して逆フィルタDSPに出力し、逆フィルタDSPにおいて、振動信号に逆フィルタリングをかけて低減信号を生成するようにすればよい。
【符号の説明】
【0137】
10、210、310、410、910 騒音低減システム
12 スピーカ
14、414、712 スピーカユニット
16、316、416、916 制御ブロック
18 センサーマイク
20 マイクアンプ
22 逆フィルタDSP
26 A/D変換器
28 逆フィルタ
30 遅延回路
32 バンドパスフィルタ
33、333、433 フィルタ群
34 D/A変換器
36 パワーアンプ
40、240 信号処理部
650、750、850 防音壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低減対象となる騒音に対して制御音を放出すると共に、低減対象となる騒音の周波数帯域に対応する波長の1/2に相当する長さ以下の間隔で配列された複数のスピーカを備えたスピーカユニットと、
騒音源からの騒音を集音し、集音した騒音に対応する音響信号を出力するマイクロホンと、
前記音響信号に基づいて、前記スピーカユニットから前記騒音源と反対側における騒音を低減するための低減信号を生成する生成手段と、
前記スピーカから放音された制御音の波面の包絡面が前記騒音の波面に相当するように、前記低減信号を、前記騒音源と遅延させた低減信号に基づいた制御音を放音する前記複数のスピーカとの距離の各々に応じて算出された遅延時間だけ各々遅延させる処理を行うと共に、前記スピーカの各々について前記遅延時間が大きいほど前記スピーカから放音される前記制御音の大きさが小さくなるように補正する処理手段と、
前記処理手段で処理された信号を前記複数のスピーカの各々に入力する入力手段と、
を含む騒音低減装置。
【請求項2】
低減対象となる騒音に対して制御音を放出すると共に、低減対象となる騒音の周波数帯域に対応する波長の1/2に相当する長さ以下の間隔で配列された複数のスピーカを備えたスピーカユニットと、
騒音源の振動を検出し、検出した振動に対応する振動信号を出力する振動検出手段と、
前記振動信号に基づいて、前記スピーカユニットから前記騒音源と反対側における騒音を低減するための低減信号を生成する生成手段と、
前記スピーカから放音された制御音の波面の包絡面が前記騒音の波面に相当するように、前記低減信号を、前記騒音源と遅延させた低減信号に基づいた制御音を放音する前記複数のスピーカとの距離の各々に応じて算出された遅延時間だけ各々遅延させる処理を行うと共に、前記スピーカの各々について前記遅延時間が大きいほど前記スピーカから放音される前記制御音の大きさが小さくなるように補正する処理手段と、
前記処理手段で処理された信号を前記複数のスピーカの各々に入力する入力手段と、
を含む騒音低減装置。
【請求項3】
前記スピーカユニットの複数のスピーカを、壁上に設けた請求項1又は2記載の騒音低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−88734(P2012−88734A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−283903(P2011−283903)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2006−348530(P2006−348530)の分割
【原出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】