説明

骨塩量測定装置

【課題】骨塩量測定装置について、放射線発生器で発生させる放射線の特性自体を変化させることなく、放射線検出器における検出値の飽和を回避することを目的とする。
【解決手段】骨塩量測定装置10は、本体部筐体24に収容された放射線発生器26と、アーム部筐体28に収容された放射線検出器30とを備える。放射線発生器26は、水平方向に搬送され、放射線検出器30は水平方向に対し斜めに搬送される。放射線発生器26には、末広がりのビーム形状を有する放射線を発生するものが用いられる。骨塩量測定装置10は、放射線発生器26と放射線検出器30との間に被検体22を介在させない状態において基準データを取得し、放射線発生器26と放射線検出器30との間に被検体22を介在させて放射線発生器26および放射線検出器30を搬送する状態において被検体診断データを取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨塩量測定装置に関し、特に、放射線発生器と放射線検出器との間に測定空間が介在する骨塩量測定装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症等の診断を行うための評価値として骨塩量があり、放射線や超音波によってその測定を行う骨塩量測定装置が広く用いられている。放射線を用いる骨塩量測定装置は、放射線発生器から発せられ被検体を透過した放射線を放射線検出器によって検出し、その検出結果に基づいて被検体の骨塩量を測定する。骨塩量測定装置が骨塩量を測定する方法には2重エネルギー放射線吸収測定法(DXA:Dual X−ray Absoptiometry)がある。この測定法は、エネルギーが異なる2種類の放射線のそれぞれについて被検体に対する吸収率を求め、それらの吸収率から骨塩量を測定するものである。
【0003】
放射線の吸収率は、放射線発生器から発せられ被検体を透過せずに放射線検出器に到達した放射線の検出値と、放射線発生器から発せられ被検体を透過して放射線検出器に到達した放射線の検出値とから求められる。そこで、骨塩量測定装置は、一般に、先に放射線発生器と放射線検出器との間に被検体を介在させない状態で発生器に放射線を発生させ、放射線検出器で検出された放射線の検出値を基準データとして取得する。
【0004】
その後、骨塩量測定装置は、放射線発生器と放射線検出器との間に被検体を介在させた状態で放射線発生器に放射線を発生させ、被検体を透過して放射線検出器で検出された放射線の検出値を診断データとして取得する。骨塩量測定装置は、その診断データと上記の基準データとに基づき吸収率を求める。
【0005】
このような測定を行う従来の骨塩量測定装置には、放射線発生器および放射線検出器をこれらを対向させながら搬送するものがある。この骨塩量測定装置は、基準データを取得するときは、放射線発生器と放射線検出器との間に被検体が介在しない位置に放射線発生器および放射線検出器を搬送し、吸収率を求め骨塩量を測定するときは、放射線発生器と放射線検出器との間に被検体が介在する位置に放射線発生器および放射線検出器を搬送する。
【0006】
なお、特許文献1には、X線を発生するX線管装置と被写体表面との間の距離を測定するものが記載されている。また、特許文献2には、ディジタル放射線画像イメージング・システムにおけるX線源とX線検出器との間の距離を測定する装置が記載されている。しかし、これらの特許文献に記載の装置は、測定された距離に応じて撮像条件を定めるものに過ぎない。特許文献3には、被検者の前腕に対し放射線診断を行う骨密度測定装置が記載されている。この装置では、前腕を載置する載置台と、載置台上方に覆い被さるように、また並行して位置するアーム部とを有する。載置台およびアーム部には、それぞれ、X線発生器および検出部が設けられる。載置台とアーム部には、被検者に対向する側が高くなるように傾斜が付けられているが、載置台とアーム部との間隔は前腕の入り口から深奥部にかけてほぼ一定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−224545号公報
【特許文献2】特開2002−315743号公報
【特許文献3】特開2008−22960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
被検体の骨塩量について所定の測定精度を得るため、放射線発生器は、ある程度の強度の放射線を発生する必要がある。しかし、放射線発生器が発生する放射線の強度を大きくすると、基準データを取得する際に放射線検出器における検出値が飽和し、骨塩量の測定が困難となる。そこで、基準データを取得するときに放射線発生器が発生する放射線の強度を低下させることが考えられるが、放射線の強度を変化させることは放射線発生器が備える放射線管の特性から困難であることが多い。また、基準データを取得するときに放射線発生器と放射線検出器との間に放射線減衰用のフィルタを設けることが考えられる。しかし、基準データを取得する際には、放射線検出器に照射される放射線の特性をフィルタ等によって変化させないほうが好ましい。
【0009】
本発明は、骨塩量測定装置について、放射線発生器で発生させる放射線の特性自体を変化させることなく、放射線検出器における検出値の飽和を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、被検体が配置される測定空間の一方側に設けられ、末広がりのビーム形状を有する放射線を発生する放射線発生器と、前記測定空間の他方側に設けられ、前記放射線を検出する放射線検出器と、前記放射線発生器および前記放射線検出器を搬送する搬送部と、前記搬送部を制御する制御部であって、基準データ取得時においては前記放射線発生器と前記放射線検出器との間に被検体が介在しない基準状態を形成し、診断データ取得時においては前記放射線発生器と放射線検出器との間に被検体が介在する診断状態を形成する制御部と、前記放射線検出器の検出結果である基準データおよび診断データに基づいて前記被検体の骨塩量を測定する骨塩量測定部と、を備え、前記基準状態における前記放射線発生器と前記放射線検出器との間の基準状態距離が、前記診断状態における前記放射線発生器と前記放射線検出器との間の診断状態距離よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明において、放射線発生器が発生する放射線は放射線発生器から離れるほど放射範囲が広がる末広がりのビーム形状を有する。このようなビーム形状には、ファンビーム形状、コーンビーム形状等がある。これによって、放射線発生器と放射線検出器との間の距離が大きくなる程、放射線検出器に照射される放射線の強度が小さくなる。よって、基準状態距離が診断状態距離よりも大きければ、基準状態において放射線検出器に照射される放射線の強度が小さくなり、放射線検出器での検出値の飽和が回避される。
【0012】
前記骨塩量測定装置においては、望ましくは、前記搬送部が前記放射線発生器の搬送路と前記放射線検出器の搬送路とを非平行とする。
【0013】
この構成においては、放射線発生器の搬送路と放射線検出器の搬送路とが非平行とされ、基準状態距離が診断状態距離よりも大きい。放射線発生器の搬送路と放射線検出器の搬送路とが非平行である状態は、当該2つの搬送路の形状が異なり、2つの搬送路上の各点間の距離が一定とならない状態を含む。この状態は、例えば、放射線発生器の搬送路を直線状の搬送路とし放射線検出器の搬送路を非直線状の搬送路とした場合や、放射線発生器の搬送路を非直線状の搬送路とし放射線検出器の搬送路を直線状の搬送路とした場合を含む。
【0014】
前記骨塩量測定装置においては、望ましくは、前記搬送部は、前記放射線発生器の搬送路を水平とし、前記放射線検出器の搬送路を前記放射線発生器の搬送路に対し斜めとして、前記放射線検出器を前記放射線発生器の上方で搬送する。
【0015】
この構成によれば、放射線発生器の搬送路を水平とすることで放射線発生器を搬送するのに要される駆動力が小さくなり、搬送部の機械的負担が軽減される。また、一般に放射線検出器は放射線発生器よりも軽く、放射線検出器を放射線発生器の上方で搬送することで搬送部の機械的負担が軽減される。
【0016】
前記骨塩量測定装置においては、望ましくは、前記測定空間は、前記被検体が定置される被検体診断空間と、前記被検体が存在しない基準測定空間とを含み、前記基準測定空間は前記被検体診断空間の被検体を受け入れ側に設けられる。
【0017】
上記のように、前記骨塩量測定装置においては、基準状態距離は診断状態距離よりも大きい。したがって、被検体診断空間の被検体受け入れ側に基準測定空間を設けることで、被検者は容易に被検体診断空間に入ることができる。また、被検者に与える心理的圧迫感が軽減される、被検体診断空間の視認性が軽減される等の効果が得られる。
【0018】
前記骨塩量測定装置においては、望ましくは、前記骨塩量測定部は、前記基準状態距離と前記診断状態距離との比に基づいて、前記基準データおよび前記診断データの差異を補償する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、骨塩量測定装置について、放射線発生器で発生させる放射線の特性自体を変化させることなく、放射線検出器における検出値の飽和を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る骨塩量測定装置およびそれと共に用いられるブッキーテーブルの斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る骨塩量測定装置の側面図である。
【図3】変形例に係る骨塩量測定装置の構成を示す。
【図4】第2実施形態に係る骨塩量測定装置の構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に本発明の実施形態に係る骨塩量測定装置10およびそれと共に用いられるブッキーテーブル18の斜視図を示す。骨塩量測定装置10は、放射線20を発生する本体部12、放射線20を検出するアーム部14、およびアーム部14を本体部12の上方で支持する支柱16を備える。本体部12、支柱16およびアーム部14によって囲まれる空間は被検体が配置される測定空間をなす。測定空間には、支柱16が存在しない側からy軸正方向に向かって被検体が受け入れられる。アーム部14はその長手方向が水平方向に対し斜めとなっており、測定空間は被検体を受け入れる側が広げられている。
【0022】
骨塩量測定装置10は、本体部12がブッキーテーブル18のテーブル台の下に入り込むよう配置される。測定空間内におけるブッキーテーブル18の上には、被検体を受け入れる側に余裕を残して被検体が横たえられる。骨塩量測定装置10は、本体部12から発せられ被検体を透過してアーム部14で検出された放射線20の検出値に基づいて骨塩量を測定する。
【0023】
この骨塩量測定装置10では、測定空間の被検体を受け入れる側が広くなっている。そのため、被検者は骨塩量測定装置10と接触することなく容易にブッキーテーブル18の上に横たわることができる。ここでは、骨塩量測定装置10とブッキーテーブル18とを別体とした実施形態について取り上げているが、骨塩量測定装置10の本体部12の上面を被検者が横たわるブッキー台とし、骨塩量測定装置10とブッキーテーブル18とを一体化した構成としてもよい。
【0024】
図1のxy平面を側面としたときの骨塩量測定装置10の側面図を図2に示す。この側面図においては本体部12およびアーム部14について内部構成が示されている。骨塩量測定装置10は、本体部筐体24に収容された放射線発生器26と、アーム部筐体28に収容された放射線検出器30とを備える。放射線発生器26は、本体部12の内部において水平方向に搬送され、放射線検出器30はアーム部14の内部において水平方向に対し斜めに搬送される。放射線発生器26には、末広がりのビーム形状を有する放射線を発生するものが用いられる。これによって、搬送に伴って放射線発生器26と放射線検出器30との間の距離が大きくなる程、放射線発生器26から発せられ放射線検出器30に照射される放射線20の強度が小さくなる。
【0025】
骨塩量の測定には2重エネルギー放射線吸収測定法が用いられる。骨塩量測定装置10の測定空間46には、被検体22が定置される被検体診断空間50と、被検体22の存在を許容しない基準測定空間48とが定められている。骨塩量測定装置10は、先に放射線発生器26および放射線検出器30をこれらの間に基準測定空間48が介在する基準位置P1およびP2にそれぞれ配置し、放射線発生器26から発せられ被検体22を透過せずに放射線検出器30で検出された放射線の検出値を基準データとして取得する。
【0026】
その後、骨塩量測定装置10は、放射線発生器26および放射線検出器30をそれぞれ図2の搬送範囲R1およびR2で対向させながら搬送する。この搬送範囲R1およびR2は、左端をそれぞれ基準位置P1およびP2とし、左端が基準測定空間48を挟むと共に、基準位置P1およびP2から右側へと伸びる範囲が被検体診断空間50を挟む。放射線発生器26および放射線検出器30は、それぞれ基準位置P1およびP2を始点として図2の右方向に搬送され、放射線発生器26と放射線検出器30との間に被検体22を介在させない基準状態から、放射線発生器26と放射線検出器30との間に被検体22を介在させて放射線発生器26および放射線検出器30を搬送する診断状態へと遷移する。
【0027】
骨塩量測定装置10は、放射線発生器26および放射線検出器30を搬送しつつ、放射線発生器26による放射線の発生および放射線検出器30による放射線の検出を行う。これによって骨塩量測定装置10は、被検体22を透過した放射線の検出値を搬送範囲に亘って取得する。骨塩量測定装置10は、搬送範囲に亘って取得された一連の検出値および上記の基準データに基づいて、被検体22に対する吸収率の分布を求める。ここで、吸収率の分布とは、被検体22を上方向に透過する放射線に対する吸収率の水平面内での分布をいう。骨塩量測定装置10は、エネルギーが異なる2種類の放射線についてこのような吸収率の分布を求め、それぞれの吸収率の分布から骨塩量を測定する。
【0028】
図2に示されるように、基準位置P1およびP2は搬送範囲R1およびR2の被検体22を受け入れる側にあり、基準位置P1と基準位置P2との間の距離は、搬送範囲R1上の位置と搬送範囲R2上の位置との間の距離よりも大きい。これによって、基準データ取得時に放射線検出器30に照射される放射線の強度が小さくなり、放射線検出器30における検出値の飽和が回避される。
【0029】
本体部12およびアーム部14の具体的な構成について説明する。本体部筐体24は、放射線発生器26の他、発生器搬送レール32、発生器駆動機構34、および測定制御部36を収容する。発生器搬送レール32は、その長手方向が水平となるよう本体部筐体24に固定されている。放射線発生器26は、放射線の放射方向を上方に向けて発生器搬送レール32に取り付けられている。発生器駆動機構34は、測定制御部36の制御に基づいて放射線発生器26に駆動力を与える。放射線発生器26は、発生器駆動機構34から与えられた駆動力によって発生器搬送レール32に沿って搬送される。発生器搬送レール32の長手方向は水平方向であるため、放射線発生器26は水平方向に搬送される。発生器駆動機構34には、放射線発生器26に取り付けられたベルトまたはチェーンをモータによって搬送する機構を用いてもよい。
【0030】
放射線発生器26には、X線を発生するX線管等の放射線管を用いる。測定制御部36は、放射線管の管電圧または管電流を制御して、発生する放射線のエネルギー等を変化させる。本体部筐体24の天板38は放射線が透過する材料によって形成されており、放射線発生器26からは天板38を介して上方に放射線が発せられる。
【0031】
アーム部筐体28は、放射線検出器30の他、検出器搬送レール40および検出器駆動機構42を収容する。検出器搬送レール40は、その長手方向が水平方向に対し斜めとなるようアーム部筐体28に固定されている。放射線検出器30は、放射線検出方向を下方に向けて検出器搬送レール40に取り付けられている。検出器駆動機構42は、測定制御部36の制御に基づいて放射線検出器30に駆動力を与える。放射線検出器30は、検出器駆動機構42から与えられた駆動力によって検出器搬送レール40に沿って搬送される。検出器搬送レール40の長手方向は水平方向に対し斜めの方向であるため、放射線発生器26は水平方向に対し斜めに搬送される。検出器駆動機構42には、発生器駆動機構34と同様、放射線検出器30に取り付けられたベルトまたはチェーンをモータによって搬送する機構を採用してもよい。アーム部筐体28の底板44は、放射線を透過する材料によって形成されており、本体部12からアーム部14に向けて発せられた放射線は、底板44を介して放射線検出器30で検出される。
【0032】
放射線検出器30には、X線を電気エネルギーに変換する電子管、放射線領域で動作可能なホトダイオード等の変換デバイスが用いられる。放射線検出器30は、搬送方向に垂直な水平方向に並ぶ方向(z軸正方向)に複数の変換デバイスを配列し、その複数の変換デバイスによって検出値列を出力する構成であってもよい。また、放射線検出器30は、1つの変換デバイスをz軸方向にリニア走査することで、各検出点における検出値を検出値列として出力する構成であってもよい。
【0033】
この構成では、放射線検出器30が骨塩量測定装置10の上方で搬送される。放射線検出器30は放射線発生器26よりも軽いため、放射線検出器30を骨塩量測定装置10の上方に配置することで放射線検出器30を搬送する機構の機械的負担が軽減される。また、この構成では、放射線発生器26が骨塩量測定装置10の下方で水平に搬送される。そのため放射線発生器26を搬送するのに要される駆動力が小さくなり、放射線発生器26を搬送する機構の機械的負担が軽減される。
【0034】
測定制御部36が実行する具体的な処理について説明する。この処理は、放射線発生器26および放射線検出器30を所定の搬送範囲で搬送すると共に、放射線発生器26による放射線の発生および放射線検出器30による放射線の検出を行い、2重エネルギー放射線吸収測定法に基づいて骨塩量を測定するものである。初めに放射線発生器26および放射線検出器30は、それぞれ、発生器搬送レール32および検出器搬送レール40上の所定の初期位置にあるものとする。
【0035】
測定制御部36は、発生器駆動機構34を制御し、放射線発生器26を初期位置から基準位置P1に搬送する。また、測定制御部36は、検出器駆動機構42を制御し、放射線検出器30を初期位置から基準位置P2に搬送する。これによって、放射線発生器26と放射線検出器30との間に被検体22が介在しない状態が形成される。
【0036】
この状態において測定制御部36は、放射線発生器26にエネルギーE1の放射線を発生させ、放射線検出器30の検出値列を基準データS1として取得する。さらに、測定制御部36は、放射線発生器26にエネルギーE2の放射線を発生させ、放射線検出器30の検出値列を基準データS2として取得する。これによって、エネルギーが異なる2種類の放射線についての基準データS1およびS2が取得される。
【0037】
測定制御部36は、発生器駆動機構34および検出器駆動機構42を制御し、放射線発生器26および放射線検出器30を対向させながら、放射線発生器26および放射線検出器30をそれぞれ搬送範囲R1およびR2において搬送する。
【0038】
測定制御部36は、放射線発生器26および放射線検出器30が所定の距離だけ搬送されるごとに、放射線発生器26にエネルギーE1の放射線およびエネルギーE2の放射線を発生させ、エネルギーE1の放射線およびエネルギーE2の放射線のそれぞれについて、放射線検出器30の検出値列を取得する。この際、測定制御部36は、放射線発生器26にエネルギーE1の放射線およびエネルギーE2の放射線を同時に発生させてもよいし、時分割で交互に発生させてもよい。
【0039】
測定制御部36は、搬送範囲に亘ってエネルギーE1の放射線について取得された一連の検出値を被検体診断データD1として取得し、搬送範囲に亘ってエネルギーE2の放射線について取得された一連の検出値を被検体診断データD2として取得する。
【0040】
測定制御部36は、被検体診断データD1および基準データS1に基づいて、エネルギーE1の放射線に対する吸収率の分布を示す吸収率分布データA1を求める。ここで、基準データS1が取得されたときの放射線発生器26と放射線検出器30との間の距離と、被検体診断データD1が取得されたときの放射線発生器26と放射線検出器30との間の距離とは異なる。そのため、吸収率分布データA1を求めるに際しては、これらの距離の差異に基づく放射線の検出値の差異が補償される必要がある。
【0041】
そこで、測定制御部36は、被検体診断データD1に含まれる各検出値に補償係数を乗じたデータを補償後の被検体診断データD1’とし、補償後の被検体診断データD1’を用いて吸収率分布データA1を求める。吸収率分布データA1は、被検体診断データD1’に含まれる検出値と、その検出値に対応する基準データD1に含まれる検出値との比に基づいて求められる。
【0042】
補償係数は、基準位置P1と基準位置P2との間の距離X0と、補償対象の検出値が取得された時の放射線発生器26と放射線検出器30との間の距離Xとの比に基づいて求められる。放射線発生器26が発生する放射線の強度が放射線発生器26からの距離に反比例する場合には、この補償係数は(X0/X)2となる。このように、被検体診断データD1に対して補償係数を用いた補償処理を施す代わりに、測定制御部36は、基準データS1または吸収率分布データA1のいずれかに対し、補償係数に基づく補償処理を施してもよい。
【0043】
なお、距離X0およびXは、放射線発生器26および放射線検出器30の位置と、放射線発生器26と放射線検出器30との間の距離との間に認められる幾何学的関係に基づいて求められる。すなわち、測定制御部36は、放射線発生器26および放射線検出器30に対して設けられた位置センサからこれらの位置情報を取得することで、この幾何学的関係に基づき距離X0およびXを求めることができる。
【0044】
測定制御部36は、同様の処理によって、被検体診断データD2および基準データS2に基づいて、放射線エネルギーE2に対する吸収率分布データA2を求める。測定制御部36は、吸収率分布データA1およびA2に基づいて骨塩量を求める。
【0045】
このような構成および処理によれば、基準データ取得時に放射線検出器30に照射される放射線の強度を小さくすることができ、放射線検出器30における検出値の飽和が回避されると共に、基準データが取得されたときの放射線発生器26と放射線検出器30との間の距離と、被検体診断データが取得されたときの放射線発生器26と放射線検出器30との間の距離の差異に基づく放射線の検出値の差異が補償される。これによって適切な骨塩量が求められる。
【0046】
ここでは、先に放射線発生器26および放射線検出器30をそれぞれ基準位置R1およびR2に位置させて基準データを取得した後、放射線発生器26および放射線検出器30をそれぞれ搬送範囲R1およびR2で搬送させて被検体診断データを取得する処理について説明した。このような処理の他、先に放射線発生器26および放射線検出器30をそれぞれ搬送範囲R1およびR2で搬送させて被検体診断データを取得した後、放射線発生器26および放射線検出器30をそれぞれ基準位置R1およびR2に位置させて基準データを取得する処理を実行してもよい。
【0047】
上記では、発生器搬送レール32を水平に配置し、検出器搬送レール40を水平方向に対し斜めに配置した構成について説明した。このような構成の他、検出器搬送レール40を水平に配置し、発生器搬送レール32を水平方向に対し斜めに配置した構成としてもよい。また、図3に示すように、基準位置P2が搬送範囲R2上の位置よりも高い位置となるよう、搬送範囲R2の終端から基準位置P2にかけて検出器搬送レール40の搬送方向を上下方向に向けた構成としてもよい。さらに、検出器搬送レール40の形状は図2に示す形状と同一とし、搬送範囲R1の終端から基準位置P1にかけて発生器搬送レール32の搬送方向を上下方向に向けた構成としてもよい。
【0048】
図4に第2実施形態に係る骨塩量測定装置の構成を示す。この骨塩量測定装置は、被検体22の厚みに応じてアーム部14の高さを調整することを可能にしたものである。図2に示す構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0049】
支柱52は固定部54と可動部56とからなる。固定部54は柱状に形成された部材であり、その下端が本体部12に固定されている。可動部56は筒形状をなす部材であり、その筒孔に下側から固定部54の上端が挿入されている。可動部56は、固定部54に対して上下にスライド可能となっており、支柱駆動機構58によって上下に駆動される。可動部56の上端にはアーム部14が固定されている。支柱駆動機構58は、例えば、可動部56の筒孔の内壁に取り付けられ上下方向を長手方向とするラックギアと、そのラックギアに噛み合うピニオンギアにトルクを与え固定部54に固定される駆動源とから構成されるものであってもよい。このような構成によれば、可動部56を上下に運動させることにより支柱52の長さを変化させ、アーム部14の高さを調整することができる。
【0050】
本応用例に係る骨塩量測定装置がアーム部14の位置を自動設定する動作について説明する。測定制御部36は、ユーザによって初期の操作が行われると、支柱駆動機構58を制御し可動部56を最上部に位置させアーム部14の位置を最も高い位置に設定する。この状態で被検者は、ブッキーテーブル18の上に横たわる。
【0051】
測定制御部36は、ユーザによってアーム部14の高さ設定のための操作が行われると、支柱駆動機構58を制御して可動部56を下方向に移動させる。これによって、アーム部14は下方向に移動して被検体22に近づく。
【0052】
アーム部14には、放射線の検出の妨げにならない位置に被検体検出センサ60が取り付けられている。この被検体検出センサ60は、赤外線の送受信により障害物を検出するセンサであり、被検体検出センサ60に所定の距離だけ障害物が近付いたときに検出情報を出力する。被検体検出センサ60は、アーム部14と被検体22との間の距離が所定の距離となると検出情報を測定制御部36に出力する。測定制御部36は、被検体検出センサ60から検出情報が出力されると、支柱駆動機構58を制御して可動部56を停止させる。可動部56が停止した後、骨塩量測定装置10は上述の処理により被検体22の骨塩量を測定する。
【0053】
このような構成によれば、骨塩量の測定前においては、アーム部14の位置が最も高い位置に設定される。これによって、被検者は骨塩量測定装置10に接触することなく容易にブッキーテーブル18の上に横たわることができる。さらに、被検体検出センサ60による支柱駆動機構58の制御により、アーム部14の高さを容易に設定することができる。
【0054】
なお、測定制御部36は、アーム部14の高さに応じた強度の放射線を放射線発生器26に発生させる処理を行ってもよい。この場合、支柱駆動機構58には、アーム部14の高さを示す情報を測定制御部36に出力するセンサが備えられる。測定制御部36は、アーム部14の高さが高いほど強度の大きい放射線を放射線発生器26から出力させる。放射線の強度は、放射線発生器26が備える放射線管の管電圧または管電流を変化させることで調整される。
【0055】
例えば、アーム部14の高さについては標準の高さが定められ、管電流についてはアーム部14の高さが標準の高さに設定されたときの値が標準電流として定められる。管電流は、アーム部14の高さが標準の高さの1.2倍に設定されたときは標準電流の3倍とされ、アーム部14の高さが標準の高さの0.8倍に設定されたときは標準電流の0.5倍とされる等、アーム部14の高さに応じて調整される。
【0056】
このような構成によれば、被検体22に厚みがなく、アーム部14の位置が低く設定された場合には、放射線発生器26が発生する放射線の強度が小さくなる。これによって、基準データを取得する際に、放射線検出器30における検出値が飽和することが回避される。また、被検体22に厚みがあり、アーム部14の位置が高く設定された場合には、放射線発生器26が発生する放射線の強度が大きくなる。これによって、適切な強度の放射線が被検体22に照射され被検体診断データに含まれる誤差が低減される。
【符号の説明】
【0057】
10 骨塩量測定装置、12 本体部、14 アーム部、16,52 支柱、18 ブッキーテーブル、20 放射線、22 被検体、24 本体部筐体、26 放射線発生器、28 アーム部筐体、30 放射線検出器、32 発生器搬送レール、34 発生器駆動機構、36 測定制御部、38 天板、40 検出器搬送レール、42 検出器駆動機構、44 底板、46 測定空間、48 基準測定空間、50 被検体診断空間、54 固定部、56 可動部、58 支柱駆動機構、60 被検体検出センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体が配置される測定空間の一方側に設けられ、末広がりのビーム形状を有する放射線を発生する放射線発生器と、
前記測定空間の他方側に設けられ、前記放射線を検出する放射線検出器と、
前記放射線発生器および前記放射線検出器を搬送する搬送部と、
前記搬送部を制御する制御部であって、基準データ取得時においては前記放射線発生器と前記放射線検出器との間に被検体が介在しない基準状態を形成し、診断データ取得時においては前記放射線発生器と放射線検出器との間に被検体が介在する診断状態を形成する制御部と、
前記放射線検出器の検出結果である基準データおよび診断データに基づいて前記被検体の骨塩量を測定する骨塩量測定部と、
を備え、
前記基準状態における前記放射線発生器と前記放射線検出器との間の基準状態距離が、前記診断状態における前記放射線発生器と前記放射線検出器との間の診断状態距離よりも大きいことを特徴とする骨塩量測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の骨塩量測定装置において、
前記搬送部は、前記放射線発生器の搬送路と前記放射線検出器の搬送路とを非平行とすることを特徴とする骨塩量測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の骨塩量測定装置において、
前記搬送部は、
前記放射線発生器の搬送路を水平とし、前記放射線検出器の搬送路を前記放射線発生器の搬送路に対し斜めとして、前記放射線検出器を前記放射線発生器の上方で搬送することを特徴とする骨塩量測定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の骨塩量測定装置において、
前記測定空間は、前記被検体が定置される被検体診断空間と、前記被検体が存在しない基準測定空間とを含み、前記基準測定空間は前記被検体診断空間の被検体受け入れ側に設けられることを特徴とする骨塩量測定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の骨塩量測定装置において、
前記骨塩量測定部は、
前記基準状態距離と前記診断状態距離との比に基づいて、前記基準データおよび前記診断データの差異を補償することを特徴とする骨塩量測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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