説明

骨壊死予防及び/又は治療剤

【課題】骨壊死の予防及び/又は治療、あるいは骨壊死の進展抑制に有効性を有する医薬を提供する。
【解決手段】式(I)(R1は水素原子又は水酸基を表す)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む骨壊死の予防及び/又は治療、あるいは骨壊死の進展抑制のための医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソキノリン化合物を有効成分として含む骨壊死予防及び/又は治療剤、並びに骨壊死の進展抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨壊死とは、骨を構成する細胞の死滅した状態で、骨髄細胞の消失と骨小腔の空胞化を特徴とする骨疾患である。代表的な疾患の一つとして大腿骨頭壊死症が挙げられる。治療法としては、骨切り術、人工骨頭置換術、股関節置換術といった手術療法が用いられているが、薬物療法として満足のいく医薬は現在のところ無い。従って、安全性の高い骨壊死予防及び/又は治療剤、或いは骨壊死の進展抑制剤の開発が望まれている。
【0003】
一方、一般式(I)で示される化合物は、Rhoキナーゼ、ミオシン軽鎖リン酸化酵素、プロテインキナーゼCといったキナーゼ阻害活性を有し、血管平滑筋弛緩作用、血流増加作用、血圧低下作用、脳、心臓保護作用等を示し、血管拡張剤(特に、狭心症治療剤)、高血圧治療剤、脳、心臓保護剤、動脈硬化症治療剤等において有効な物質であることは、既に公知である(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、又は非特許文献4参照)。しかしながら、一般式(I)で示される化合物が骨壊死の治療に有用であることは知られておらず、またそのことを示唆する記載も知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−152658号公報
【特許文献2】特開昭61−227581号公報
【特許文献3】特開平2−256617号公報
【特許文献4】特開平4−264030号公報
【特許文献5】特開平6−056668号公報
【特許文献6】特開平6−080569号公報
【特許文献7】特開平7−80854号公報
【特許文献8】国際公開WO98/06433
【特許文献9】国際公開WO00/03746
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Br. J. Pharmacol., 98, 1091 (1989)
【非特許文献2】J. Pharmacol. Exp. Ther., 259, 738 (1991)
【非特許文献3】Circulation, 96, 4357 (1997)
【非特許文献4】Cardiovasc. Res., 43, 1029 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、骨壊死を予防及び/又は治療するための医薬、並びに骨壊死の進展を抑制するための医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、一般式(I)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物が、ステロイド性家兎骨壊死モデルにおける骨壊死に対して顕著な効果を有することを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は水酸基を表す)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む骨壊死の予防及び/又は治療のための医薬。
【0009】
(2)当該骨壊死が大腿骨頭壊死症である上記(1)記載の医薬。
(3)当該大腿骨壊死症が特発性大腿骨壊死症である上記(1)記載の医薬。
(4)骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、及び人工股関節置換術からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の外科的治療を施す前の患者に用いるための上記(1)〜(3)のいずれかに記載の医薬。
(5)骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、及び人工股関節置換術からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の外科的治療の治療中、又は上記治療を施した後の患者に用いるための、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の予防及び/又は治療剤。
【0010】
(6)上記一般式(I)(式中、R1は水素原子又は水酸基を表す)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む骨壊死の進展抑制のための医薬。
(7)当該骨壊死が大腿骨頭壊死症である上記(6)記載の医薬。
(8)当該大腿骨壊死症が特発性大腿骨壊死症である上記(7)記載の医薬。
(9)骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、及び人工股関節置換術からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の外科的治療を施す前の患者に用いるための上記(6)〜(8)のいずれかに記載の医薬。
(10)骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、及び人工股関節置換術からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の外科的治療の治療中、又は上記治療を施した後の患者に用いるための上記(6)〜(8)のいずれかに記載の医薬。
【0011】
(13)骨壊死予防のために用いる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の医薬。
(14)骨壊死治療のために用いる上記(1)〜(5)のいずれかに記載の医薬。
(15)骨壊死の発生抑制のために用いる上記(6)〜(8)のいずれかに記載の医薬。
(16)骨壊死の予防及び/又は治療方法であって、上記一般式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法。
(17)骨壊死の進展を抑制する方法であって、上記一般式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法。
(18)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の医薬、上記(6)〜(8)のいずれかに記載の医薬の製造のための上記一般式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用。
【0012】
(19)少なくとも下記の(a)に記載の化合物の投与、及び(b)に記載の治療との組み合わせを含む骨壊死の治療又は進展抑制方法;
(a)一般式(I)(式中、R1は水素原子、又は水酸基を表す)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物、
(b)骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、及び人工股関節置換術からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の外科的治療法。
(20)治療方法である上記(19)に記載の方法。
(21)進展抑制方法である上記(19)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の医薬は骨壊死を抑制する効果を有しており、有効性の高い骨壊死の予防及び/又は治療のための医薬、あるいは骨壊死の進展抑制を可能にする医薬として利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般式(I)(式中、R1は水素原子又は水酸基を表す)で示される化合物は、公知の方法、例えば、特開昭61−152658号公報、又はChem.Pharam.Bull. 40,(3)p770−773(1992)等に記載されている方法に従って合成することができる。一般式(I)で示される化合物の塩の形態は特に限定されないが、例えば酸付加塩としては薬学上許容される非毒性の塩が好ましく、例えば塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸等の無機酸、及び酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸等の有機酸の塩を挙げることができる。また、一般式(I)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物としては、例えば1/2水和物又は溶媒和物、1水和物又は溶媒和物、3水和物又は溶媒和物を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0015】
本明細書において「骨壊死」の用語は骨を構成する細胞が死滅した状態を意味しており、骨髄細胞の消失と骨小腔の空胞化を含む全ての骨疾患を包含する。
本発明における骨壊死の例としては、大腿骨頭壊死症、骨端症、又は膝関節特発性骨壊死等が挙げられ、大腿骨頭壊死症が好ましい例として挙げられる。
本発明における大腿骨頭壊死症の例としては、特発性大腿骨壊死症、又は症候性大腿壊死症が挙げられ、特発性大腿骨壊死症が好ましい例として挙げられる。
また、本発明における骨壊死をその成因から分類を考えた場合、ステロイドの服用によるステロイド性骨壊死が好適な例として挙げられる。
【0016】
本発明における骨壊死の外科的治療法としては、骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、又は人工股関節置換術が挙げられる。また、骨切り術の好適な例としては内反骨切り術や回転骨切り術が挙げられ、骨頭回転骨切り術が好適な例として挙げられる。
【0017】
本発明の医薬を投与する目的としては、骨壊死の予防目的、骨壊死の治療目的、又は骨壊死の進展抑制を目的とする投与が挙げられ、これらのうち予防を目的とする投与が好ましい。治療目的のための投与が大変に好ましい態様もある。また、進展抑制目的としての投与が好ましい別の態様もある。なお、本発明において用いられる「進展抑制」という用語は、既に形成された骨壊死の進展を抑制することのほか、骨壊死の発生を抑制することを含む概念である。
【0018】
本発明の医薬は、例えば、骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、及び人工股関節置換術からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の外科的治療を施す前の患者に投与することが好ましい。また、別の態様としては、本発明の医薬は、骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、及び人工股関節置換術からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の外科的治療を施した以後の患者に投与することが好ましい。上記外科的治療中に投与することが好ましい場合もある。さらに別の態様としては、外科的治療を施す予定のない患者に投与することが挙げられる。これらの投与時期を適宜組み合わせて複数の時期に投与してもよい。
【0019】
また、少なくとも下記の(a)に記載の化合物の投与と(b)に記載の治療法とを組み合わせてなる骨壊死の治療的又は進展抑制的な組み合わせによる骨壊死の治療方法又は骨壊死の進展抑制方法も本発明の一態様である。
(a)一般式(I)(式中、R1は水素原子又は水酸基を表す)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物、
(b)骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、及び人工股関節置換術からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の外科的治療法。
【0020】
本発明の医薬の形態としては、上述の一般式(I)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物と、公知の医薬上許容される担体とを混合すればよい。この担体としては、例えば、ゼラチン;乳糖、グルコース等の糖類;小麦、米、とうもろこし澱粉等の澱粉類;ステアリン酸等の脂肪酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸塩;タルク;植物油;ステアリンアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール;ガム;ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0021】
液状担体としては、一般に水、生理食塩液、デキストロースまたは類似の糖溶液、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレンルリコール等のグルコール類が挙げられる。カプセル剤となす場合には、通常ゼラチンを用いてカプセルを調整することが好ましい。
【0022】
本発明の医薬の投与方法は特に限定されず、経口投与又は非経口投与のいずれの投与方法で投与してもよい。通常0.01重量%以上、また80重量%以下、好ましくは60重量%以下の一般式(I)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む例が挙げられる。経口投与に適した剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤、液剤、又はエリキシル剤等が挙げられ、非経口投与に適した剤形としては、例えば注射剤又は点滴剤などの溶液剤が挙げられる。非経口的に、例えば筋肉内注射、静脈内注射、若しくは皮下注射、又は点滴により投与する場合、一般式(I)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を等張にするために、食塩又はグルコース等の他の溶質を添加した無菌溶液として投与することができる。
【0023】
注射により投与する場合の溶解液としては、例えば、滅菌水、塩酸リドカイン溶液(筋肉内注射用)、生理食塩液、ブドウ糖、静脈内注射用溶液、電解質溶液(静脈内注射用)等が例示される。このようにして溶解した場合の一般式(I)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の下限は、好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、上限は好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、程度である。経口投与の液剤の場合、0.01−20重量%の有効成分を含む懸濁液又はシロップが好ましい例として挙げられる。この場合における担体としては、香料、シロップ、製剤的ミセル体等の水様賦形剤が挙げられる。
【0024】
本発明の医薬の投与量は、被投与者の年齢、健康状態、体重、症状の程度、同時処置があるならばその種類、処置頻度、所望の効果の性質、あるいは投与経路や投与計画などによって異なるが、非経口投与の場合に一般式(I)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の投与量が0.01−20mg/kg・日、好ましくは0.05−10mg/kg・日、より好ましくは0.1−10mg/kg・日となるように、経口投与の場合に一般式(I)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の投与量が0.02−100mg/kg・日、好ましくは0.05−20mg/kg・日、より好ましくは0.1−10mg/kg・日となるように選択することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の例に限定されることはない。
[実施例1]ステロイド性家兎骨壊死モデルにおける骨壊死発生に対する作用
ステロイド性家兎骨壊死モデルは、Arthritis. Rheum. 40, 2055-2064, 1997. に準じて作成した。雄性日本白色家兎にメチルプレドニゾロン(20 mg/kg) を筋注した。メチルプレドニゾロン投与直前より、一般式(I)(式中R1は水素原子)で示される化合物の塩酸塩・1/2水和物を 15 mg/kgで1日朝・夕2回7日間各30分かけて点滴静注した。メチルプレドニゾロン投与14日後に大腿骨および上腕骨を摘出し、骨壊死を病理組織学的に検討した。
【0026】
一般式(I)(式中R1は水素原子)で示される化合物は、骨壊死の発生を有意に抑制した。その結果を以下に示す。
生理食塩液投与群:
20例中15例(75%)で骨壊死発生
一般式(I)(式中R1は水素原子)で示される化合物投与群:
25例中8例(32%)で骨壊死発生
【0027】
[参考例1]急性毒性試験
本発明の化合物の急性毒性試験を、ラット(Jcl:Wistar,5週齢)およびマウス(Slc:ddY,5週齢)を用いて実施した結果、低毒性であることが確認された。その結果を以下に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
[参考例2]製剤例(無菌注射剤)
下記の成分を注射用蒸留水に溶解し、その後、注射用蒸留水を添加し、必要な最終重量とし、この溶液2mlをアンプルに密封し、加熱滅菌した。
【0030】
【表2】

【0031】
[参考例3]製剤例(錠剤)
下記の成分を含む錠剤を常法により調整した。
【0032】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の医薬は、骨壊死モデル動物において顕著な効果を有することから、骨壊死の予防及び/又は治療、並びに骨壊死の進展予防に対して極めて有効な医薬として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、R1は水素原子又は水酸基を表す)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む骨壊死の予防及び/又は治療のための医薬。
【請求項2】
該骨壊死が大腿骨頭壊死症である請求項1記載の医薬。
【請求項3】
該大腿骨壊死症が特発性大腿骨壊死症である請求項2記載の医薬。
【請求項4】
骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、及び人工股関節置換術からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の外科的治療を施す前の患者に用いるための請求項1〜3のいずれかに記載の医薬。
【請求項5】
骨移植、骨切り術、人工骨頭置換術、及び人工股関節置換術からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の外科的治療の治療中、又は該治療を施した後の患者に用いるための請求項1〜3のいずれかに記載の医薬。
【請求項6】
請求項1に記載の一般式(I)(式中、R1は水素原子又は水酸基を表す)で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む骨壊死の進展抑制のための医薬。

【公開番号】特開2012−136478(P2012−136478A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290604(P2010−290604)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】