説明

骨移植マトリックス

【課題】生分解性の多孔性三次元骨移植用マトリックスを供給する。
【解決手段】本マトリックスは好ましくは無機化コラーゲンから形成され、その無機質はマトリックスに固定化された、5ミクロン以下の粒子サイズを有するリン酸カルシウム微粒子を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨の修復に有用な物質に関する。
【背景技術】
【0002】
特異的部位での骨形成を刺激するという問題に取り組むため、骨の修復を開始させる、及び/または失われた骨を復活させまたは置き換えるために多くの物質が研究されてきた。
この問題と取り組むために使われた研究方法の中に、移植物質、通常は欠失した骨の形に似せて作られた形態の金属セラミックまたは他の無機物質で作られるが、これを骨置換が要求される部位に挿入する形成法がある。宿主がこの物資を拒絶する危険性や正常な骨組織と移植片とが整合しないことがある。リン酸三カルシウムセラミックのようなある種のセラミック物質は、移植片として用いられた場合に宿主と骨と許容できる程度に生体内共存可能であるものの、一般的用途には骨としての機械的特性が充分でないように思われ、かつ、骨は移植片の中へ一様には成長せず移植片に取り込まれない。
【0003】
他の取組方法には、欠失した骨組織を、新しい骨の成長がその中で起こる支持体として機能するマトリックスで置き換えることが含まれる。このマトリックスは骨形成経路に関与する細胞を誘引し、骨伝導(osteoconduction)と呼ばれる過程によってマトリックス中およびその中を通り新たに骨が成長する、というのがこの理論である。他家性の骨(非宿主の骨)移植片がこの方法で用いられるが、かなり失敗率が高い。宿主によって他家性の骨が受け入れられた場合でも、強固となる治癒期間および機械的ストレスに対する能力の回復期間は自家性の骨(宿主の骨)に比較してかなり長く遅延する。他家性の骨を用いることはまた伝達性ウイルス媒介物の問題を引き起こす。
【0004】
三番目の方法は、ある物質が、通常一時的なマトリックス周辺で宿主の未分化の細胞または組織から新しい骨の成長を誘導するときに起こる、骨誘導(osteoinduction)として知られる過程を含む。たくさんの化合物がこのような能力を持つとして示されている。例えば、Glowackiの米国特許第4,440,750号、Uristの同4,294,753号及び4,455,256号およびSeyedinらの同4,434,094および4,627,982号を参照せよ。これらのもっとも効果的な化合物は骨新生を刺激するタンパク質であるように思える。しかしながら、天然の材料から合成するときわめて低い濃度でしか存在せず、実験のための微小量を得るのにさせ大量の出発物質が必要となる。組換え法によるこうしたタンパク質の入手の可能性は最終的にそうしたタンパク質自体の利用をもっと実用的価値のあるものとするかもしれない。しかしながら、それでもそのようなタンパク質はおそらく適切なマトリックス中に入れて望みの部位にデリバリーされる必要があるであろう。
【0005】
コラーゲンと種々の形態のリン酸カルシウムとを含む、骨の治癒と成長に関する組成物が開示されている。
Bauerらの特許第5,338,772号はリン酸カルシウムセラミック粒子と体内吸収性ポリマーを含み、リン酸カルシウムセラミックが50質量%であり粒子がポリマー架橋によって結合している組成物を開示する。前記のリン酸カルシウムセラミック粒子は約20ミクロンから約5mmのサイズを有するものとして開示されている。
Piezらの特許第4,795,467号はアテロペプチド(atelopeptide)再構成コラーゲン原繊維と混合されたリン酸カルシウム無機質粒子を含む組成物を開示する。そのリン酸カルシウム無機質粒子は100-2,000ミクロンの大きさをもつとして開示されている。
Saukらの特許第4,780,450号は、多結晶リン酸カルシウム微粒子、ホスホホリンカルシウム塩およびタイプIコラーゲンを質量比で775-15:3-0.1:1.で含む骨修復用の組成物を開示する。このセラミック微粒子は直径約1から10ミクロンの高密度ヒドロキシアパタイトセラミック粒子または直径約100ミクロンよりも大きな高密度ヒドロキシアパタイトセラミック粒子として開示されている。
【0006】
Ammann らのPCT出願 WO 94/15653は、リン酸三カルシウム(TCP)、TGF-βおよび、所望によりコラーゲンを含む製剤を開示する。TCPは5ミクロンより大きい好ましくは約75ミクロンよりも大きいサイズの粒子であるような、TGF-βのデリバリー手段として開示されている 。最も好ましいTCP粒子の大きさの範囲は125-250ミクロンである開示されている。
PCT出願WO 95/08304は不溶性コラーゲンと混合されたヒドロキシアパタイトの重合無機質前駆体粒子(polymineralic precursor partricles)を開示する。このポリミネラル前駆体粒子は0.5ミクロンから5ミクロンの範囲である。無機質前駆体は加水分解によってヒドロキシアパタイトに変換され、この過程は無機質を融合させ一体構造のヒドロキシアパタイトを形成すると考えられている。
FMCコーポレーションの英国特許明細書1,271,763はリン酸カルシウムとコラーゲンの複合体を開示する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、多孔性で、移植後の骨置換過程を増強するのに充分な期間、構造上の形状保持性(integrity)と多孔性を維持する骨移植マトリックスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本マトリックスはバインダーに結合した無機化された不溶性原繊維コラーゲン、コラーゲン誘導体または変性ゼラチンを含む。これらの無機質はマトリックス中に固定化され約5ミクロンよりも小さい粒子サイズを有するリン酸カルシウム微粒子を含む。生じた生成物は凍結乾燥され、架橋され、乾燥され、滅菌されて多孔質マトリックスを形成する。このマトリックスは移植用物質として、および/または骨形成成長因子のデリバリー手段として用いても良い。このマトリックスは自己の骨髄と混合され、骨再生のために移植され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
骨移植マトリックスは水不溶性の生分解性コラーゲン、コラーゲン誘導体または変性ゼラチンを用いて作られる。このゼラチンは水性環境で不溶であるように変性されるであろう。コラーゲンは無機化されたコラーゲン供与源でも無機化されないコラーゲン供与源に由来してもよく、通常は無機化されないコラーゲン供与源に由来する。従って、コラーゲンは、骨、腱、皮膚その他、2本のα2と1本のα1コラーゲン鎖の組み合わせを含むタイプIコラーゲンに由来するのが好ましい。コラーゲンは若い供与源、例えば子ウシに由来してもよく、成熟した供与源、例えば2才またはそれ以上のウシに由来しても良い。コラーゲンの供与源は、都合のよいどの動物供与源、ホ乳動物または鳥類であってもよく、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、七面鳥、または他の家畜のコラーゲン供与源が含まれる。用いられる不溶性の膠原組織は、通常、上昇したpH、少なくとも約pH8、より普通には約pH11-12の培地中に懸濁されるであろう。一般には、水酸化ナトリウムを用いるが、他のアルカリ金属水酸化物または水酸化アンモニウムのような他の水酸化物を用いても良い。
【0010】
本発明により天然のコラーゲンも利用することができる。天然のコラーゲンは両末端にグリシントリプレット配列を含まない領域を含む。これらの領域(テロペプチド)は、大部分のコラーゲン標品に関連した免疫原性の原因であると考えられている。免疫原性は、トリプシンおよびペプシンのようなタンパク質分解酵素での消化によってこれらの領域を除去してアテロペプチド-コラーゲンを生成することによって弱められる。
無機化のためのコラーゲン濃度は一般に約0.1から10質量%の間であり、より普通には約1から5質量%である。コラーゲン培地は通常その塩基濃度が約0.0001から0.1Nである。pHは一般に反応過程の間、約10-13、好ましくは約12に維持される。
不溶性の原繊維コラーゲンを用いるのが好ましく、通常の方法で調製される。典型的には、これは先ず、イソプロパノール(IPA)、ジエチルエーテル、ヘキサン、エチルアセテートまたは他の適切な溶媒と混合し、コラーゲンを分離することによって達成される。pHは典型的には約3まで下げ、次に約4℃に冷却し、膨潤させる。生じたスラリーは所望の粘度が得られるまでホモジェナイズする。
【0011】
ホモジェナイズされたスラリーを溶媒と混合し、撹拌し、pHを約7まで上昇させる。原繊維コラーゲンを分離し、脱イオン水ですすぎ、凍結乾燥する。無機化した原繊維コラーゲンを作るために、精製された不溶性コラーゲン繊維をホモジェナイズしてもよく、反応器に入れ塩化カルシウム(典型的には0.05M)およびリン酸三ナトリウム(0.03M)を撹拌しながらゆっくりと加える。pHを11.0±0.5に調製するために、この過程で必要に応じて水酸化ナトリウムを用いる。無機化の後、コラーゲンは脱イオン水またはリン酸緩衝液ですすぎ、バインダーと結合させ、pHを7.5±1.5の範囲内に調製する。リン酸イオンおよびカルシウムイオンを加える方法は米国特許5,231,169号に記載されている。
リン酸カルシウムは、炭酸イオン、塩素イオン、フッ素イオン、ナトリウムイオンまたはアンモニウムイオンのような他のイオンを含んでもよい。炭酸塩の存在はダーライト(炭酸ヒドロキシアパタイト)の性質を有する生成物を生じ、一方、フッ化物はフッ化アパタイトの性質を有する生成物を提供する。炭酸塩の質量%は通常10%を越えず、フッ化物の質量%は通常2%を越えず、好ましくは0〜1である。これらのイオンは、共存可能で試薬溶液中で沈殿を生じない限り、カルシウムおよび/またはリン酸源と共に存在してもよい。カルシウムイオンおよびリン酸イオンの添加速度は一般には約1時間であり、5ミクロンまたはこれより小さなサイズの粒子にするには72時間以下である。一般に、添加の時間は約2から18時間であり、より一般には約4から16時間である。温和な温度が用いられ、通常は約40℃以下、好ましくは約15℃から30℃である。コラーゲンのリン酸カルシウム無機質に対する質量比は8:2から1:1、典型的には約7:3であろう。
BMP's、TGF-β、カルシトニンその他のような他の非コラーゲンタンパク質または因子を、カルシウムおよびリン酸の添加前または後でコラーゲンスラリーに加えることにより前記マトリックスに含まれていてもよい。これらの添加物の量はマトリックスとして使用されるコラーゲンのようなバイオポリマーを基準として一般に0.0001から2質量%であろう。添加したタンパク質がコラーゲンに結合し、コラーゲン上に形成するように添加されるタンパク質を無機物と一緒に用いてもよい。
【0012】
無機化生成物中に存在するコラーゲンの量は一般に約80%から30%であろう。
また、固定化されたリン酸カルシウム粒子は、コラーゲン繊維を結合させるのに用いられるバインダーと粒子を混合することにより、マトリックスに含まれてもよい。
多孔性の、三次元的な骨移植マトリックスを形成させるため、無機化コラーゲン繊維はバインダーと混合される。
好ましくは、精製された可溶性コラーゲンは、まず可溶性コラーゲンとイソプロパノール(IPA)のような溶媒とを混合し、コラーゲンを単離することにより、バインダーとして用いる。次にpHを約3.0まで下げ、コラーゲンが溶解したならば、pHを5.0まで上昇させ、溶媒で2回洗浄し、脱イオン水ですすぎ、凍結乾燥する。
利用しうる他のバインダーには、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸のコポリマー、ポリカプロラクトン、カルボキシメチルセルロース、セルロースエステル(例えばメチルエステルおよびエチルエステルのような)、セルロースアセテート、デキストロース、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、フィコール、コンドロイチン硫酸、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、水溶性メタクリレートポリマアーまたはアクリレートポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0013】
多孔性マトリックスを調製するため、選択された可溶性コラーゲンバインダーが無機化されたコラーゲンスラリーに添加され配合される。好ましくは、不溶性コラーゲンに対して約10%(質量:質量)の割合の可溶性コラーゲンが用いられる。pHは必要により7.5±0.5に調製される。所望の配合レベルが達成されたならば、その分散液は-20℃から-80℃で凍結される。
凍結したスラリーは凍結乾燥される。多孔性のマトリックスは、物理的安定性を増強し、マトリックスの吸収時間を増加させ、最終産物の取扱いを容易にするため、架橋されてもよい。凍結乾燥されたマトリックスは、グルタルアルデヒドの溶液(典型的には0.01%)または蒸気を用いて架橋されるのが好ましい。溶液が用いられる場合は、過剰の試薬を除去した後、前記マトリックスは凍結乾燥により脱水される。この多孔性マトリックスはまた、無機化されたコラーゲン繊維のスラリーとバインダーを濾過することによりウエブ(web)を形成するように成形されてもよい。乾燥したウエブは次に架橋されても良い。
【0014】
多孔性の構造は、無機化コラーゲン繊維、バインダーおよび浸出可能な粒子(塩化ナトリウムのような可溶性の塩)および/または高い蒸気圧を持ち後に昇華によって除去可能な固体を混合することによっても達成することができる。スラリーは乾燥することができ、次に浸出可能または昇華可能な粒子を除去し、多孔性構造を形成させることができる。この多孔性マトリックスは架橋されていても良い。
架橋されたマトリックスの他の利益には、移植片の滞留時間が長いことおよび形態が長く維持されること(移植片が断片化しないこと)が含まれる。
ホルムアルデヒド、クロム塩、ジイソシアネート、カルボジイミド、二官能酸クロリド、二官能酸無水物、二官能スクシンイミド、ジブロモイソプロパノール、エピクロロヒドリン、ジエポキシド、脱水熱架橋(dehydrothermal corss-linking)、乾燥時のUV照射、または水溶液における電子線(E-beam)またはγ線照射などのような他の架橋法および薬剤が用いられても良い。
最終産物の滅菌は、γ線照射、電子線照射、乾熱またはエチレンオキシドを用いても良い。
本発明の有利な点は、コラーゲン繊維と固定化リン酸カルシウム無機質とが骨置換および骨の増強について特別に有利なマトリックスを形成することである。このマトリックスは、骨置換が起こる生理的環境へ移植された後、物理的形状保持性(physical integrity)を少なくとも移植後約3日の間維持し、その多孔性を7日から14日の間維持する。「物理的形状保持性」とは、移植されたマトリックスの形態および大きさが本質的に維持されることを意味する。これは、移植後直ちにまたは短い期間で非多孔性アモルファス塊に崩壊する組成物と正反対のものである。このマトリックスが、骨置換または骨増強過程に重要である多孔性を維持することもまた有利な点である。
本発明によるマトリックスは、最終的には生分解され又は吸収されるものであるから、その多孔性と物理的形状保持性はその限られた期間を越えて維持されることはできない。この過程は通常平均2から12週間かかり、勿論移植されるマトリックスの大きさに依存する。しかしながら、骨置換または増強に先だってマトリックスの完全な吸収又は生分解が起こらなくても、生分解の速度は充分であろう。
【0015】
本発明の1つの特徴は、典型的にはヒドロキシアパタイトとして存在するリン酸カルシウム無機質がマトリックスに固定化されており、これはマトリックス全体に可動であるのと対照的である。本発明によるリン酸カルシウム無機質はマトリックス中に固定化され平均直径サイズが約5ミクロンより小さい粒子を含むことが見いだされている。材料物質の粒子の大きさは移植されたときに生物的相互作用を変えることができ、その物質に対する組織の応答性に影響を与えるかもしれない。巨細胞およびマクロファージのような食細胞が微小粒子物質の回りに顕著であり、しばしば肉芽腫を形成するという点で細胞応答性は変化し得る。約3から5ミクロン又はより小さなサイズの、食作用を受けるに十分なほど小さな粒子は食細胞に取り込まれ、食細胞はさらに局所的な組織の応答を刺激する。例えば、骨が治癒する間、人工接合部に関連する粒子を纏った残骸が隣接組織のマクロファージ中に見られ、それが動物モデルで投与量依存的に骨再吸収の増大と関連していることが観察される(“Macrophage/particle interactions: effect of size, composition, and surface area”, Shanbhag AS et al., J.Biomed. Mater. Res. 28(1),81-90 (1994))。従って、固定化されたリン酸カルシウム無機質が長期にわたって5ミクロンまたはより小さい、食細胞に取り込まれるために理想的な大きさの粒子として放出されることは本発明の有利な点である。このリン酸カルシウム無機質粒子のいかなる放出も調節されていることは本発明の更なる利点であり、これは無機質がマトリックス中に固定化されている結果である。粒子サイズと固定化の利点は以下の実施例3に示される。
【0016】
骨移植用物質は、脊椎固定、骨欠失の補填、骨折修復、歯周欠損移植(grafting periodontal defects)、のための骨伝導性の骨移植物質としての適用性がある。主題の組成物を、例えば自家骨または吸引自家骨髄、または骨誘導性骨成長因子、BMP's、カルシトニンまたは他の成長因子などの骨形成物質と組み合わせることにより、骨誘導と成長は更に増強される。このマトリックスはまた成長因子が結合しうる基質を提供しうるもので、宿主によって生産された又は外部から導入された因子がマトリックスに集中しうる。主題の組成物は、骨折の修復、上顎顔面再構成、脊椎固定、関節再構成、および他の成形外科的利用に応用しうるものである。
以下の実施例は説明のために提供されるものであり、本発明を決して限定する意図ではない。
【実施例1】
【0017】
本発明による無機化されたコラーゲンマトリックスを8週齡のラットの頭頂骨に生じさせた欠損部に移植した。組織学的な評価を14日と28日後に行った。14日後、欠損部の切り口からコラーゲンマトリックスへの骨の成長が観察された。新しく形成した網状骨が、残っているマトリックスの断片、および血管新生が明白である疎性結合組織領域を取り囲む。28日までには骨細胞が新しい骨全体に存在し、有意な再構築が生じた。骨の成長が続くにつれて、14日で見られた結合組織の空洞は大きさが小さくなった。
【実施例2】
【0018】
実施例1のリン酸カルシウム無機化コラーゲンマトリックスを骨髄とともにオスの成熟ニュージーランドホワイトラビット(3.7から4.1kg)に移植した。右前肢の中央部を前側から内側表面にわたって切開し、橈骨を露出させた。空気式ドリルを用いて1.5センチメートルの橈骨断片を除去することにより重大な欠損を生じさせた。骨切断の間、過熱と骨に対する損傷を最小限にするため、洗浄を続けた。この損傷部を骨髄または自家移植片と混合した無機化コラーゲンマトリックスで補填した。この骨髄は同じ動物の脛骨から吸引した。自家移植片は本発明の骨増強または移植過程と類似の、腸骨稜から集めた海綿状の骨とした。外科的処置後、その動物を毎日観察し、最初の8週間は2週ごとに、12週で解剖するまでは1か月ごとに処置した橈骨のX線写真を撮った。ウサギは手術後12週および24週間生存すべく計画した。
解剖の際には、右及び左橈骨を取り出し、手術した橈骨を全体的な治癒の徴候(カルス形成と癒合)について評価した。この検査には、癒合を示す骨の存在または軟骨の存在、可能性のある不安的な癒合を示す軟組織または欠損部の亀裂(cracks)が含まれる。
次に上記の橈骨を10%中性緩衝ホルマリンで固定し、組織学的および形態計測的評価を行った。
【0019】
0週、2週、4週、6週、8週、および12週で撮影したX線写真により、早くも2週間で強い治癒応答が示され、欠損部が橈骨の自然な皮質の再構成へ向けて成長と再構成を開始していることが示された。観察した漸進性治癒はリン酸カルシウムコラーゲンマトリックス処理群と自家移植対照群との間で一致した。X線撮影で見られる癒合に関して、2つのクロスリンク群でほとんど差はなかった。
以前の研究において、空洞または未処理のままの(ネガティブコントロール)欠損部はほとんど又は全く新生骨を含んでいなかった。このテストにおいて自家移植(ポジティブコントロール)は安定した骨癒合を形成した。リン酸カルシウムコラーゲン処理され骨髄を含む欠損も、自家移植で見られたものに匹敵する程度の、新生骨との安定な架橋を示した。
【実施例3】
【0020】
(比較例)
コラーゲンを添加せずにリン酸カルシウム無機質の1バッチを調製した。この無機質を収集し洗浄し、凍結乾燥して乾燥粉末とした。赤外分光法により、これはその性質においてヒトロキシアパタイトであることが示された。
混合マトリックスを、不溶性の原繊維コラーゲン繊維と可溶性コラーゲンを、全固体にして4質量%で質量比9/1で混合することによって作製した。このスラリーを手で撹拌し遊離の無機質を全固体の25質量%となるように加えた。このスラリーを2インチ角のテフロン(登録商標)型に約5mmの深さに流し込み、−80℃で凍結し、凍結乾燥した。乾燥したマトリックスを30分間グルタルアルデヒドを用いて架橋し、洗浄し、再凍結乾燥した。生じたマトリックスは約4mmの厚さであり、移植のためにこのマトリックスから直径8mmの打ち抜きサンプルを作った。比較のため、28質量%の灰分を含む新しく作製した無機化コラーゲン(固定化無機質)のバッチを8mm直径の打ち抜き移植片の代わりとして用いた。
同じタイプの2つの移植片を4体のラットに左右対称に、それぞれ3日、7日および14日の移植期間となるように胸部筋膜中に皮下的に置いた。剖検して、組織の反応について移植片を評価し、組織学検査のために組織塊を採取した。組織の反応と組込みの特徴を明らかにするために、各動物について各時点で移植片と周辺組織のH&E染色切片を調べた。
【0021】
剖検における所見

【0022】
剖検における臨床的所見は、ラットの皮下移植モデルにおいては固定化無機質コラーゲンと比較した混合物製剤形態における、より大きな炎症性応答と分解性効果を示す。これらの所見は3日めでの粥状の移植片を記述している。7日と14日目では、厚くなった移植片が観察され、これは組織学的に見たところおそらく混合製剤の急激な繊維性被膜化応答(capsule response)によるものである。これと比較して、固定化無機質を含む製剤は3つの全ての時点で清澄な周辺組織と正常な移植片外観を示した。
解剖学的検査により、後期(14日)PMN活性および初期(3日)巨細胞活性から明らかなように、混合製剤は急性および慢性双方の重度の炎症を引き起こすことが示された。巨細胞は、食作用活性がおそらく無機質と関連して放出される粒子に応答して引き起こされることを示すものである。線維芽細胞の侵出がさらに観察され、組織の壊死は見られなかった。
これに対して、コラーゲン繊維に固定化された無機質粒子を含む製剤は、より典型的な移植片−組織応答を示した。3日の時点で、急性炎症が観察され、7日にはただちに、より慢性的な移植片応答へとおさまり、線維芽細胞の侵出と血管新生が移植片周囲で起こっている間、中程度の炎症が見られるのみである。14日目では、炎症の増加の徴候が明白であり、おそらくコラーゲンの分解によるコラーゲン繊維からの無機質の更なる放出を示すものである。
コラーゲンとヒドロキシアパタイト無機質成分の混合製剤はラットの皮下移植において大きな急性の炎症性応答を示す。無機化コラーゲン組成物中の無機質成分の固定化は、その無機質のバイオアベイラビリティを減じ、傷が治癒する間、組織の組込みを支持しつつ炎症を弱めるように見える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨置換が起こる生理的環境下に移植された場合に移植後少なくとも3日の間物理的形状保持性を維持し、7日から14日の間その多孔性を維持する、骨置換のための、多孔性、生体内分解性の三次元的に固定されたマトリックスであって、水溶性バインダーを無機化バイオポリマーに結合させ、前記水溶性バインダーが結合した無機化バイオポリマーを架橋することによって形成される前記無機化バイオポリマー繊維の不溶性ネットワークを含み、前記無機化バイオポリマー繊維が前記ネットワーク内部に固定化されたリン酸カルシウム無機質を含む前記マトリックス。
【請求項2】
バインダーが、可溶性コラーゲン、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸のコポリマー、ポリカプロラクトン、カルボキシメチルセルロース、セルロースエステル、デキストロース、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、フィコール、コンドロイチン硫酸、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、水溶性ポリアクリレートおよび水溶性ポリメタクリレートからなる群より選ばれる、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項3】
バイオポリマーが原繊維コラーゲンを含む、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項4】
無機質がヒドロキシアパタイトを含む、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項5】
無機質が直径約5ミクロン以下の粒子からなる、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項6】
無機質が、骨によって置換される間、前記の生理的環境へ粒子として持続的に放出され、前記の物理的形状保持性と多孔性を、それぞれについて前記の期間維持する、請求項1に記載のマトリックス。
【請求項7】
コラーゲン及び固定化リン酸カルシウムが、コラーゲンを30−80質量%含む無機化コラーゲンの形態である、請求項3に記載のマトリックス。
【請求項8】
更に骨髄細胞を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のマトリックス。
【請求項9】
自家性骨を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のマトリックス。
【請求項10】
1以上の骨成長因子を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のマトリックス。
【請求項11】
生分解性で多孔性の骨移植用マトリックスの作成方法であって、
(a)生分解性の水不溶性バイオポリマー、水溶性バインダーおよび前記バインダーまたはバイオポリマーによって固定化されているリン酸カルシウム無機質微粒子を含む分散物を形成させる工程と、
(b)前記の分散物を多孔性マトリックスに形作る工程と、
(c)前記の多孔性マトリックスを架橋する工程とを含む方法。
【請求項12】
工程(b)が前記の分散物の凍結及び凍結乾燥を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
分散物が更に滲出可能な粒子を含み、前記の工程(b)が前記の分散物を乾燥すること及び前記の粒子を滲出して前記のマトリックスを形成させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
分散物がさらに昇華可能な粒子を含み、前記の工程(b)が前記の分散物を乾燥することおよび前記の粒子を昇華させて前記のマトリックスを形成させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
生分解性の水不溶性バイオポリマーが、約30−80質量%のコラーゲンを含有する無機化コラーゲン繊維を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
バインダーが可溶性コラーゲンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
無機質がヒドロキシアパタイトを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
無機質が直径約5ミクロン以下の粒子からなる、請求項11に記載の方法。

【公開番号】特開2007−7452(P2007−7452A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272877(P2006−272877)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【分割の表示】特願平9−515932の分割
【原出願日】平成8年10月15日(1996.10.15)
【出願人】(506299021)ディピュイ アクロメッド インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】