説明

骨補填材充填器具

【課題】骨欠損部への挿入が容易であり、骨欠損部において所望の形状まで確実に膨張させる。
【解決手段】収縮させた状態で骨欠損部へ挿入可能であり、骨欠損部において膨張させられる膜状のバルーン本体3aと、該バルーン本体3a表面の少なくとも一部に網目形状に形成されて可撓性を有し、バルーン本体3aよりも延伸性が低い材料からなるメッシュ部材3bとを備える骨補填材充填器具1を提供する。本発明によれば、骨欠損部の形状や周辺組織からの圧迫等によりバルーン本体3aの一部に外圧がかかっても、その外圧に抗してバルーン本体3aを所望の形状まで膨張させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨補填材充填器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、椎体圧迫骨折などにより生じた骨欠損部を整復する治療方法として、バルーンを備える充填器具を用いて骨欠損部に骨補填材を移植する方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3参照。)。例えば、骨折した椎体の椎弓根に直径数mmの貫通孔を穿孔し、ここから椎体内へバルーンを挿入して膨張させる。そして、流動性の骨補填材をバルーン内に注入してからバルーン内で硬化させることにより骨欠損部を整復する。
【0003】
【特許文献1】特表2005−527295号公報
【特許文献2】特開2006−320442号公報
【特許文献3】特開2007−260359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧迫骨折した椎体の場合、骨欠損部は隣接する椎間板により圧迫されており、バルーンにより椎間板間を押し広げる必要がある。しかしながら、特許文献1、特許文献2および特許文献3の場合、バルーンが弾性材料などの延伸性の高い材料からなる。そのため、膨張させたときにバルーンの一部が周囲の組織など接触して外圧がかかるとその部位での膨張が抑制されて、外圧の小さな部位が膨張する。したがって、骨補填材を注入すべき部位においてバルーンを所望の大きさまで膨張させて、骨欠損部を所望の状態に整復することが困難であるという問題がある。
【0005】
また、特許文献1の場合、バルーンが2重構造であるため、収縮させた状態であってもの径方向の寸法が大きくなる。したがって、貫通孔から椎体内へバルーンを挿入する操作が困難であるという課題がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてみなされたものであって、骨欠損部への挿入が容易であり、骨欠損部において所望の形状まで確実に膨張させることができる骨補填材充填器具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、収縮させた状態で骨欠損部へ挿入可能であり、前記骨欠損部において膨張させられる膜状のバルーン本体と、該バルーン本体表面の少なくとも一部に網目形状に形成されて可撓性を有し、前記バルーン本体よりも延伸性が低い材料からなるメッシュ部材とを備える骨補填材充填器具を提供する。
【0008】
本発明によれば、バルーン本体を収縮させた状態で骨欠損部へ挿入してその内部に骨補填材を注入すると、骨欠損部に骨補填材が充填されて骨欠損部を整復することができる。
この場合に、メッシュ部材は、バルーン本体の膨張にしたがって延伸させられるが、バルーン本体よりも延伸性が低いため、メッシュ部材が延伸可能な形状まで膨張させられたところで、バルーン本体のメッシュ部材が施された部位は膨張が抑制される。そして、さらにバルーン本体内を加圧して膨張させると、メッシュ部材が施されていない部位は内部の膨張圧力が高くなり、骨欠損部の形状や周囲の組織などにより外圧を受けても、それに抗して膨張させられる。
【0009】
すなわち、メッシュ部材の施された部位はメッシュ部材の形状により、メッシュ部材が施されていない部位は所望の大きさになるまでバルーン本体内を加圧することにより、それぞれ膨張後の形状が制御される。これにより、骨欠損部において、その内部の形状や外部の組織からの圧迫等があっても、バルーン本体を所望の形状まで確実に膨張させることができる。
【0010】
また、バルーン本体は1重の膜構造であるので、収縮させたときの径方向の寸法を小さく抑えられ、バルーン本体を骨欠損部へ導入するための貫通孔が小さくても、容易に貫通孔内に挿入することができる。
【0011】
上記発明においては、前記メッシュ部材が、前記バルーン本体表面のほぼ全面に設けられ、前記バルーン本体が所定の圧力以上の圧力で膨張したときの前記メッシュ部材の形状が予め設定されていることとしてもよい。
このようにすることで、バルーン本体を十分に加圧して膨張させた場合には、外部の骨欠損部の状態にかかわらず予め設定された形状になるようにバルーン本体を膨張させることができ、骨欠損部を所望の状態に整復することができる。
【0012】
上記発明においては、前記バルーン本体が、生体吸収性材料からなることとしてもよい。
このようにすることで、骨補填材を注入後にバルーン本体をそのまま骨欠損部に留置させて、骨補填材に血液が混入することによる硬化不良や、骨補填材の骨欠損部からの漏洩を防止することができる。また、骨補填材の硬化後にバルーン本体が生体に吸収されて消滅すると、メッシュ部材の孔を介して骨補填材が周囲の骨や椎間板などの周辺組織に露出させられる。これにより、骨補填材の骨吸収および骨置換を図ることができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記メッシュ部材が、生体吸収性材料からなることとしてもよい。
このようにすることで、骨補填材が硬化した後、メッシュ部材も消滅して長期間体内に残留することないので、骨補填材充填器具による生体への影響を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、骨欠損部への挿入が容易であり、骨欠損部において所望の形状まで確実に膨張させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る骨補填材充填器具1について、図1を参照して以下に説明する。なお、本実施形態においては、骨欠損部として圧迫骨折した椎体を例に挙げて説明する。
本実施形態に係る骨補填材充填器具1は、図1(a)に示されるように、椎骨に穿孔された貫通孔に挿入される導入管2と、該導入管2の先端に着脱可能に設けられたバルーン3とを備えている。
【0016】
導入管2は、両端が開口した筒状であり、内部が先端に取り付けられたバルーン3内と連通している。導入管2を先端から貫通孔へ挿入するとバルーン3が椎体内へ導入され、この状態で導入管2の基端側から骨補填材を流動性のある状態で注入すると、バルーン3内に骨補填材が充填されて椎体内に骨補填材が補填されるようになっている。
骨補填材は、ペースト状のリン酸カルシウムセメント(CPC)が用いられる。CPCは、体内において周辺組織と接触することにより自家骨化させられる。
【0017】
バルーン3は、図1(b)に示されるように、伸縮性の高い材料からなる膜状のバルーン本体3aと、該バルーン本体3aの内面全体に設けられたメッシュ部材3bとを備えている。
バルーン本体3aは、収縮した状態では貫通孔に挿入可能な径寸法を有し、椎体よりも大きな寸法まで膨張可能である。
【0018】
メッシュ部材3bは、バルーン本体3aよりも延伸性が低く、バルーン本体3aの内表面に網目状に形成されている。また、メッシュ部材3bは、バルーン本体3aが所定の大きさ以上の圧力で膨張させられたときの形状が予め設定されている。
【0019】
バルーン本体3a内が加圧されてバルーン本体3aが膨張させられると、メッシュ部材3bも同時に膨張させられる。このときに、バルーン本体3aは、一部が外圧を受けて膨張が抑制されると、外圧のかかっていない他の部分が先に膨張してメッシュ部材3bが所定の形状まで膨張したところで膨張が制限される。
【0020】
そして、さらにバルーン本体3a内を加圧していくと、外圧により膨張が抑制されていた部位の膨張圧力が高くなり、外圧に抗してバルーン本体3aが再び膨張させられ、メッシュ部材3bが所定の形状まで膨張したところで膨張が制限される。これにより、バルーン本体3aは、内部が所定の大きさ以上の圧力まで加圧されると、周囲の状態にかかわらず所定の形状まで膨張させられるようになっている。
【0021】
また、バルーン本体3aおよびメッシュ部材3bはともに生体吸収性材料からなる。生体吸収性材料としては、例えば、天然高分子のコラーゲン、ゼラチン、フィブリン、キチン、キトサン、セルロースや、合成高分子のポリ乳酸、ポリグリコール酸等が挙げられる。
【0022】
また、バルーン本体3aおよびメッシュ部材3bを合わせた引張強度は、1〜80MPaであることが好ましい。引張強度が1MPaを下回ると、椎体内で膨張させたときに周辺組織を押し広げるのに必要な強度が得られず、引張強度が80MPaを超えると、バルーン3により周辺組織が損傷する恐れがある。
【0023】
このように構成された骨補填材充填器具1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る骨補填材充填器具1を用いて圧迫骨折した椎体を整復するには、椎体が骨折した椎骨の椎弓根に貫通孔を穿孔し、バルーン3を収縮させた状態で貫通孔から椎体内へ挿入する。そして、導入管2の基端側から、バルーン本体3a内が所定の大きさ以上の圧力になるまで加圧して椎体内でバルーン3を所定の形状に膨張させ、バルーン本体内3aにCPCを注入する。バルーン3を体内に留置したまま導入管2を取り外してバルーン3内でCPCが硬化すると、圧迫骨折した椎体が所望の状態に整復される。
【0024】
この場合において、本実施形態によれば、バルーン本体3aにメッシュ部材3bを設けてバルーン本体3aの膨張を制限することにより、バルーン3は椎体内の形状や圧迫などの状態に依らずに所定の形状まで確実に膨張させられる。これにより、椎体内に所定の形状の空隙を確保し、骨折した椎体を所望の状態に整復することができるという利点がある。また、バルーン3は1重の膜からなるため収縮させたときの径寸法が小さく抑えられ、微小な貫通孔であっても容易に挿入することができるという利点がある。
【0025】
また、術後にバルーン本体3aが経時的に生体に吸収されて消滅することにより内部のCPCが周辺組織に露出させられ、椎体内において自家骨化を図ることができる。
また、メッシュ部材3bをバルーン本体3aの内面に設けることにより、椎体内においてバルーン本体3aが直接周辺組織と接触させられ、また、その接触面積が広くなるので、より早くバルーン本体3aを生体に吸収させてCPCの自家骨化を早めることができる。
【0026】
また、椎体内に注入されたCPCは硬化するまでバルーン本体3aにより周辺組織から隔離されているので、CPC内への血液の混入による硬化不良および椎体内からのCPCの漏洩を防ぐことができるという利点がある。また、CPCは硬化するまでバルーン本体3a内で所定の形状に保持されるので、粘性の低い状態で注入されても椎体内から漏えいする恐れがない。したがって、導入管2が細径であっても、CPCを容易に導入管2内に通して注入することができる。
【0027】
また、メッシュ部材3bをバルーン本体3aの全面に設けることにより、もし椎体内でバルーン本体3aが破れても、メッシュ部材3bによりCPCが外部へ急激に漏洩するのを抑えることができる。
【0028】
上記実施形態においては、メッシュ部材3bがバルーン本体3aの内側の表面に設けられることとしたが、これに代えて、バルーン本体3aの外側の表面に設けられることとしてもよい。
このようにしても、バルーン本体3aおよびメッシュ部材3bをともに周辺組織に露出させて生体に吸収させることができる。
【0029】
また、上記実施形態においては、メッシュ部材3bが生体吸収性材料からなることとしたが、これに代えて、非生体吸収性材料からなることとしてもよい。
非吸収性材料としては、生体適合性が高くバルーン本体3aよりも低い延伸性を有する材料であればよい。具体的には、絹やデキストランなどの天然高分子、シリコン、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、ポリ四フッ化エチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、テフロン、ポリスルフォンなどの合成高分子、また、ステンレス、チタン、ニッケル、コバルト合金などの金属が挙げられる。
【0030】
これらの非生体吸収性材料からなるメッシュ部材3bと生体吸収性材料からなるバルーン本体3aとを組み合わせても、バルーン本体3aが椎間内で消滅した後にCPCがメッシュ部材3bの孔を介して周辺組織に露出させられ、CPCの骨吸収および骨置換を図ることができる。
また、メッシュ部材3bに非生体吸収性材料を用いても体内に残留する量は少量であるので、術後の生体への影響を低減することができる。
【0031】
また、上記実施形態においては、バルーン本体3aが生体吸収性の材料からなることとしたが、これに代えて、非生体吸収性の材料からなることとしてもよい。
非生体吸収性材料としては、例えば、上記の天然高分子や合成高分子が挙げられる。
また、上記実施形態においては、骨補填材としてCPCを用いることとしたが、骨補填材は導入管2により注入可能な流動性があればよく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)系骨セメントや、リン酸カルシウムを主成分とする多孔質顆粒等も用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態に係る骨補填材充填器具の(a)全体構成図、および(b)バルーンの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 骨補填材充填器具
2 導入管
3 バルーン
3a バルーン本体
3b メッシュ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収縮させた状態で骨欠損部へ挿入可能であり、前記骨欠損部において膨張させられる膜状のバルーン本体と、
該バルーン本体表面の少なくとも一部に網目形状に形成されて可撓性を有し、前記バルーン本体よりも延伸性が低い材料からなるメッシュ部材とを備える骨補填材充填器具。
【請求項2】
前記メッシュ部材が、前記バルーン本体表面のほぼ全面に設けられ、前記バルーン本体が所定の圧力以上の圧力で膨張したときの前記メッシュ部材の形状が予め設定されている請求項1に記載の骨補填材充填器具。
【請求項3】
前記バルーン本体が、生体吸収性材料からなる請求項1または請求項2に記載の骨補填材充填器具。
【請求項4】
前記メッシュ部材が、生体吸収性材料からなる請求項1から請求項3のいずれかに記載の骨補填材充填器具。

【図1】
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【公開番号】特開2010−136983(P2010−136983A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318110(P2008−318110)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(304050912)オリンパステルモバイオマテリアル株式会社 (99)
【Fターム(参考)】