説明

高い引張強度と高い引張破断エネルギーとを有するポリエチレンフィルム

本発明は、引張強度が2.0GPa以上であり、引張破断エネルギーが30J/g以上であり、Mwが500,000グラム/モル以上であり、そしてMw/Mnが6以下であるUHMWPEフィルムに関する。
上記フィルムは、重量平均分子量が500,000グラム/モル以上であり、160℃で融解した直後に測定したせん断弾性率が0.9MPa以下であり、そしてMw/Mn比が6以下である出発UHMWPEを、ポリマー加工のいかなる時点においてもポリマー温度がその融点を超えて上昇しないような条件下で圧縮工程および延伸工程に供することを含む方法を経由して製造することができる。
上記フィルムは、高い引張強度および高い破断エネルギーが重要である任意の用途における出発材料として使用することができる。適当な用途としては、例えば防弾用途、ロープ、ケーブル、網、織物および防護用途などである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い引張強度と高い引張破断エネルギーとを有するポリエチレンフィルムならびに特定の超高分子量ポリエチレンからかかるフィルムを製造する方法に関する。本明細書中において、以下、超高分子量ポリエチレンをUHMWPEという。
【背景技術】
【0002】
高強度、高弾性率のUHMWPEフィルムを製造する方法は当業界で知られている。
US 5,756,660には、特定の触媒上でUHMWPEを重合し、次いで圧縮成形、ロール処理および延伸してポリマーフィルムとすることが記載されている。実施例1では、弾性率160GPaおよび強度2.8GPaの材料が得られている。
US 5,106,555には、UHMWPEを圧縮成形/延伸する方法が記載されている。
US 5,503,791には、ポリオレフィンの溶液を第一の溶媒中に押し出し、次いで冷却し、溶媒を除去し、そしてフィルムを延伸することにより製造されたポリエチレンフィルムが記載されている。このようにして得られたフィルムの欠点は、フィルム特性に不利益に影響するであろう残留溶媒の一定量を常に含有することである。ゲル−キャストフィルムの溶液中に存在する溶媒の量は、一般に100ppm以上である。さらに、溶媒の回収が高度に非経済的である。
EP 292 074には、分子量が4,000,000g/モル、Mw/Mn比が4、引張強度2.3GPaおよび引張弾性率92GPaのUHMWPEフィルムが記載されている。推定密度は0.97g/mL、引張破断エネルギーは29.6J/gと計算することができる。
EP 269 151には、引張強度が2.0GPaを越え、弾性率が70GPaを越え、そしてクリープが3×10−7sec−1未満である材料が記載されている。本文献には、最終製品のMw/Mn比に関する情報はない。
【0003】
US 5,106,558には、デカリン中135℃における極限粘度が5〜50dL/gである超高分子量ポリエチレン粉末100重量部を、ポリエチレンの融点よりも高い沸点を有する液体有機化合物2〜50部と混合し、得られた混合物を一対のロール間にフィードし、そしてその後に前記混合物を圧縮成形して延伸する工程群からなる、高強度および高弾性率を有するポリエチレンの連続合成方法が記載されている。本文献には、最終製品のMw/Mn比に関する情報はない。
US 6,017,480には、UHMWポリオレフィンの成形品を調製し、該成形品を30倍を越えて延伸し、前記成形品を圧縮し、そして前記成形品を再延伸する工程群からなるポリオレフィン材料を製造するプロセスが記載されている。本文献には、最終製品のMw/Mn比に関する情報はない。
高い引張強度のUHMWPEフィルムの分野では、未だに改良の余地があることが分かっている。さらに詳しくは、防弾用途、ロープ、ケーブルおよび網、織物、そして高い引張破断エネルギー、高い引張強度および他の好ましい特性を有するPEフィルムが用途を見い出すであろう防護用途などの多数の用途が存在する。本発明は、かかるUHMWPEフィルムに関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のUHMWPEフィルムは、引張強度が2.0GPa以上であり、引張破断エネルギーが30J/g以上であり、Mwが500,000グラム/モル以上であり、そしてMw/Mnが6以下である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
6以下のMw/Mn比と500,000以上のMwとを組み合わせて有する材料を選択することが、最終のフィルムが後述のようなさらなる好ましい特性とともに上記の如き高い引張強度と高い破断エネルギーとを具有することを可能とするのに重要であることが分かった。US 5、756、660、US 5,106,555およびUS 5,503,791に記載された材料は、上記の基準のすべてを満たすものではない。
上に指摘したように、本発明のUHMWPEフィルムは、ASTM D882−00に準拠して測定した引張強度が2.0GPa以上である。延伸比および延伸温度に応じて2.5GPa以上、特に3.0GPa以上、さらに3.5GPa以上の引張強度を得ることができる。4GPa以上の引張強度を得ることも可能である。
【0006】
本発明のUHMWPEフィルムの引張破断エネルギーは、30J/g以上である。この引張破断エネルギーは、ASTM D882−00に準拠して50%/分のひずみ速度にて測定される。この値は、応力−歪み曲線の下領域の単位重量あたりのエネルギーを積分することによって計算される。
【0007】
引張破断エネルギーは、以下の方法によって概算することができる。上述のように、ASTM D882−00に準拠して測定した値は、引張破断エネルギーのよい近似を与える。
引張破断エネルギーの概算値は、吸収エネルギーの合計を積分し、これを試料の初期ゲージ間部分の質量で除することによって得ることができる。特に、強度が2.0GPaを越えるUHMWPE試料の応力−歪み曲線はほぼ直線状であるから、引張破断エネルギーは下記数式によって計算することができる。
【0008】
【数1】

【0009】
ここで、σはASTM D882−00に準拠したGPa単位の引張強度であり、ρはg/cm単位の密度であり、EABはASTM D882−00に準拠して百分率で表される破断伸びであり、そしてTEBはJ/g単位の引張破断エネルギーである。
【0010】
引張破断エネルギーTEBの他の概算は、引張弾性率および引張強度から下記数式によって得ることができる;
【0011】
【数2】

【0012】
延伸比に依存して、35J/g以上、特に40J/g以上、とりわけ50J/g以上の引張破断エネルギーを持つ本発明のフィルムを得ることができる。
【0013】
本発明のUHMWPEフィルム中のポリマーの重量平均分子量(Mw)は、500,000g/モル以上、特には1×10g/モル〜1×10g/モルである。ポリマーの分子量分布および平均分子量(Mw、Mn、Mz)は、ASTM D 6474−99に準拠して、溶媒として1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)を用いて160℃において測定することができる。高温試料調製器(PL−SP260)を包含する適当なクロマトグラフィー装置(Polymer Laboratories社製、PL−GPC220)を使用することができる。このシステムは、5×10〜8×10g/モルの分子量範囲の16個のポリスチレン標準試料(Mw/Mn<1.1)を使用して校正される。
本発明のフィルム中のUHMWPEの分子量分布は、比較的狭い。このことは、Mw(重量平均分子量)をMn(数平均分子量)で除した比が6以下であることによって説明される。Mw/Mn比は、さらには4以下であり、特に3以下であり、とりわけ2以下である。
本発明のUHMWPEフィルムの弾性率は、一般に80GPa以上である。この弾性率は、ASTM D822−00に準拠して測定される。延伸比に応じて100以上、さらには120GPa以上の弾性率を得ることができる。140GPa以上、または150GPa以上の弾性率を得ることも可能である。
【0014】
本発明のある実施態様では、本発明のフィルムは面内配向パラメータΦで特徴付けられる。面内配向パラメータΦは、フィルム試料の反射配置における測定の際のX線回折(XRD)パターンの200ピークと110ピークとの面積比として定義される。
広角X線散乱(WAXS)は、物質の結晶構造に関する情報を与える技術である。この技術は、特に広角におけるBraggの散乱ピーク分析と呼ばれる。Braggピークは長距離にわたる構造的規則性の結果である。WAXS測定は、回折パターン、すなわち回折強度を回折角2θ(これは、回折ビームと初期ビームとがなす角度である。)の関数として与える。
面内配向パラメータは、フィルム表面の200結晶面および110結晶面の配向の広がりに関する情報を与える。高度に面内配向したフィルム試料は、200結晶面がフィルム表面に対して平行に、高度に配向している。本発明のフィルムにおける高い引張強度および高い引張破断エネルギーは、一般に高度の面内配向を伴うことが見い出された。微結晶がランダムに配向した試料の200ピーク面積と110ピーク面積との比は約0.4である。しかし本発明のフィルムの表面と平行に、指数200の微結晶が優先的に配向しており、その結果、200/110のピーク面積比が大きくなり、そのため、面内配向パラメータが大きな値になる。
【0015】
面内配向パラメータは、X線回折装置を用いて測定することができる。Cu−Κα線(Κ波長=1.5418Å)を生成する集光多層X線光学系(ゲーベルミラー)を備えたBrucker−AXS D8回折装置が好適である。測定条件:2mmの散乱線除去スリット、0.2mmの検出スリットおよび発生機の設定は40kV、35mA。フィルム試料はサンプルホルダーに、例えばいくらかの両面装着テープによって装着される。フィルム試料の好ましい大きさは、15mm×15mm(l×w)である。試料を完全に平面に維持し、サンプルホルダーと一直線にそろえるよう、注意すべきである。フィルム試料を装着したサンプルホルダーは、次いで反射配置中のD8回折装置中に置かれる(フィルムの法線が、ゴニオメータに直角且つサンプルホルダーに直角)。回折パターンの走査範囲は5°〜40°(2θ)、ステップ幅0.02°(2θ)、カウント時間は各ステップ2秒間である。測定中、さらなる配向を不要とするべく、サンプルホルダーをフィルム法線周りに1分間あたり15回転で回転させる。次いで、回折角2θの関数として強度を測定する。標準プロフィールフィッティングソフトウエア、例えばBrucker−AXS社製のTopasを用いて、200反射および110反射のピーク面積を決定する。200反射および110反射がそれぞれシングルピークのときには最適化プロセスは容易であり、適切な最適化手順を選択して実施することは当業者の能力の範囲内である。200ピークの面積と110ピークの面積との比として面内配向パラメータを定義する。このパラメータは、面内配向の定量的な尺度である。
高い面内配向パラメータは、Mw/Mn比とも関連する。本発明において特定された範囲内のMw/Mn比を有するポリマーは、面内配向パラメータの所望値を有するフィルムへ変換することができる。上述のように、ある実施態様では、本発明のフィルムは3以上の面内配向パラメータを有する。この値は好ましくは4以上であり、さらには5以上、または7以上である。10以上または15以上ものより高い値をも得ることができる。このパラメータの理論的最大値は、110ピークの面積が0であれば無限大となろう。大きな面内配向パラメータ値は、多くの場合高い強度および破断エネルギー値を伴う。
【0016】
本発明のUHMWPEフィルムは、重量平均分子量が500,000g/モル以上であり、160℃における融解直後に測定されたせん断弾性率Gが0.9MPa以下であり、そしてMw/Mn比が6以下である出発UHMWPEを、
ポリマー加工のいかなる時点においてもポリマー温度がその融点を超えて上昇しないような条件下で圧縮工程および延伸工程に供することを含むプロセスによって製造することができる。
【0017】
本発明の方法における出発材料は、絡まりのない程度が高度な(highly disentangled)UHMWPEである。このことは、重量平均分子量、Mw/Mn比およびせん断弾性率の組み合わせから理解することができる。
【0018】
さらなる説明ならびに出発UHMWPEの分子量およびMw/Mn比に関する好ましい実施態様のため、本発明のフィルムに関して上述したことについて論及する。
上述のように、160℃における融解直後に測定された出発UHMWPEはせん断弾性率Gが0.9MPa以下であり、特には0.8MPa以下であり、さらには0.7以下である。「融解直後に」という表現は、せん断弾性率がポリマーが融解して直ちに、特にポリマー融解後15秒以内に測定されることを意味する。このポリマー融解Gは、通常は数時間のうちに0.6から2.0MPaまで増大する。160℃における融解直後のせん断弾性率は、本発明において使用される、絡まりのない程度が大きいUHMWPEの特徴的な特性のひとつである。
【0019】
は、ゴム状安定領域(rubbery plateau region)におけるせん断弾性率である。この値は、絡まり点間の平均分子量Meと関連する。Meの逆数は、絡まり密度と逆比例する。均一な絡まり分布を有する熱力学的に安定な融解状態において、MeはGから数式G=gρRT/Me、ここでgは1と定められる数因子であり、ρはg/cm単位の密度であり、Rは気体定数であり、そしてTはK単位の絶対温度である、を経由して計算することができる。
従って、せん断弾性率が低いということは、絡まり点間のポリマーの長さが長く、従って絡まりの程度が低いことを意味する。
【0020】
本発明の方法に使用されるUHMWPEは、74%以上、さらには特に80%以上のDSC結晶化度を有することが好ましい。フィルムのモルフォロジーは、示差走査熱量計(DSC)、例えばPerkin Elmer DSC7を用いて見積もることができる。要するに、既知重量(2mg)の試料を30から80℃まで1分あたり10℃で加熱し、180℃において5分間保持し、その後1分あたり10℃で冷却する。DSC走査の結果は、温度(x軸)に対する熱流(mWまたはmJ/s;y軸)のグラフとしてプロットすることができる。結晶化度は、走査の加熱部分のデータを用いて測定される。結晶が融解転移するときの融解エンタルピーH(J/g単位)は、主融解転移(吸熱)の開始点から直ぐ下の温度から融解の完了が観測された点の直ぐ上の温度までのグラフの下領域の面積を定量することによって計算される。次いで計算されたHを、結晶化度100%のPEについて約140℃の融解温度で定量された融解エンタルピーの理論値(Hc、293J/g)と比較する。DSC結晶化度は、100(H/Hc)の百分率として表現される。
本発明のフィルムおよび本発明の製造方法の中間製品は、上述のような結晶化度を有する。
【0021】
本発明で使用されるUHMWPEは、従来のUWMWPEに比べて顕著に低いかさ密度を有する。より詳しくは、本発明の方法に使用されるUHMWPEは、0.25g/cm未満、特に0.18g/cm未満、さらには0.13g/cm未満のかさ密度を有する。このかさ密度は、以下のように測定される。UHMWPE粉末の試料を、正確に100mLの測定ビーカーに入れる。余剰の材料をこそいで除去した後、ビーカーの内容物の重量を測定し、かさ密度を計算する。
【0022】
本発明の方法に使用されるUHMWPEは、エチレンのホモポリマーまたはエチレンと他のα−オレフィンもしくは環状オレフィン、これらはともに一般に炭素原子数3〜20である、であるコモノマーとのコポリマーであることができる。その例として、例えばプロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、シクロヘキセンなどを挙げることができる。炭素原子数20以下のジエン、例えばブタジエンまたは1,4−ヘキサジエンの使用も可能である。本発明の方法に使用されるエチレンのホモポリマーまたはコポリマーにおける(エチレンでない)α−オレフィンの量は、10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下である。(エチレンでない)α−オレフィンを使用する場合、一般に0.001モル%以上、特に0.01モル%以上、さらに特に0.1モル%以上の量で存在する。出発材料についての上記の範囲は、最終のポリマーフィルムにも適用されることは明白である。
【0023】
本発明において使用するための出発ポリマーは、エチレンを、任意的に上述の如き他のモノマーの存在下に、シングルサイト重合触媒の存在下、ポリマーの結晶化温度未満の温度で重合し、ポリマーが生成する際直ちに結晶化する重合プロセスによって製造することができる。特に、重合速度が結晶化速度よりも遅くなるように反応条件が選択される。これらの合成条件は、分子鎖が生成するやいなや結晶化を促進し、溶液または溶融状態から得られるポリマーとは実質的に異なる相当ユニークなモルフォロジーを結果する。触媒表面に生成した結晶モルフォロジーは、ポリマーの結晶化速度と生成速度との比に高度に依存するであろう。さらに、この特別な場合においては結晶化温度でもある合成温度は得られるUHMW−PE粉末のモルフォロジーに強く影響するであろう。ある実施態様では、反応温度は−50℃〜+50℃の間、特には−15〜+30℃の間である。どのような触媒タイプ、ポリマー濃度および反応に影響する他のパラメータと組み合わせていかなる反応温度が適切かにつき、ルーチン的な試行錯誤を経由して決定することは、当業者の能力の範囲内である。
【0024】
絡まりのない程度が高度なUHMWPEを得るには、合成中にポリマー鎖が絡み合わないよう、重合サイトが実質的に互いに遠くに離隔していることが重要である。このことは、結晶化媒体中に低濃度で均一に分散したシングルサイト触媒を使用することによって実現することができる。さらに詳しくは、反応媒体のリットルあたり1×10−4モル触媒未満、特にはリットルあたり1×10−5モル触媒未満が好適であろう。担持型シングルサイト触媒も、生成中にポリマーが実質的に絡み合うことを避けるために活性点が実質的に互いに遠くに離隔しているとの注意がなされる限り、使用することができる。
本発明で使用される出発UHMWPEの好適な製造方法は当業界で公知である。例えばWO01/21668およびUS20060142521を参照することができる。
【0025】
ポリマーは、微粒子形状、例えば粉末または他の任意の適当な微粒子形状で得られる。適当な粒子は、5,000ミクロン以下、特には2,000ミクロン以下、さらには1,000ミクロン以下の粒子サイズを有する。好ましい粒子は、1ミクロン以上、さらには10ミクロン以上の粒子サイズを有する。
粒子サイズ分布はレーザー回折(PSD、Sympatec Quixel社製)によって以下のように測定することができる。界面活性剤を含有する水中に試料を分散し、30秒間超音波処理して凝集/絡まりを除去する。試料をポンプで汲み出してレーザービームを通過させ、散乱光を測定する。回折光の量が粒子サイズの測定値である。
【0026】
ポリマー粒子をひとつの物体、例えばマザーシート形状に統合するために圧縮工程を行う。配向を得るためにポリマー延伸工程を行い、最終製品を製造する。これら2つの工程は、互いに垂直の方向に行われる。これらの要素を一工程にまとめること、または別個の工程のプロセスとして行い、各工程をひとつもしくはそれ以上の圧縮および延伸要素として実施することは、本発明の範囲内であることが特筆されるベきである。例えば本発明のプロセスのある実施態様では、該プロセスは、ポリマー粉末を圧縮してマザーシートを形成する工程、このプレートをロール処理してロール処理されたマザーシートを形成する工程および次いでこのロール処理されたマザーシートを延伸してポリマーフィルムを形成する工程を含む。
【0027】
本発明のプロセスにおいて加えられる圧縮力は、一般に10〜10,000N/cm、特には50〜5,000N/cm、さらには100〜2,000N/cmである。圧縮後の材料の密度は、一般に0.8〜1kg/dmの間、特には0.9〜1kg/dmの間である。
本発明のプロセスにおいて、圧縮およびロール処理工程は、一般にポリマーの無拘束融点(unconstrained melting point)より少なくとも1℃低い温度、特にはポリマーの無拘束融点より少なくとも3℃低い温度、さらにはポリマーの無拘束融点より少なくとも5℃低い温度において実施される。圧縮工程は、一般にポリマーの無拘束融点より最大でも40℃しか低くない温度、特にはポリマーの無拘束融点より最大でも30℃、さらには最大でも10℃しか低くない温度において実施される。
本発明のプロセスにおいて、延伸工程は、一般にプロセス条件下におけるポリマーの融点よりも少なくとも1℃低い温度、特にはプロセス条件下におけるポリマーの融点よりも少なくとも3℃低い温度、さらにはプロセス条件下におけるポリマーの融点よりも少なくとも5℃低い温度において実施される。当業者は、ポリマーの融点が加えられる拘束条件(constraint)に依存することを知っているであろう。このことは、プロセス条件下の融点が場合によって異なることを意味する。プロセス中の応力伸長時の融点が急激に低下することは容易に測定することができる。延伸工程は、一般にプロセス条件下におけるポリマーの融点より最大でも30℃しか低くない温度、特にはプロセス条件下におけるポリマーの融点より最大でも20℃、さらには最大でも15℃しか低くない温度において実施される。
【0028】
出発ポリマーの無拘束融解温度は、138〜142℃の間であり、当業者は容易に測定することができる。上述の値から、適切な処理温度を算出することができる。無拘束融点は、DSC(示差走査熱量計)により、窒素中、+30〜+180℃の温度範囲、10℃/分の昇温速度で測定することができる。最大吸熱ピークの最大値温度は80〜170℃であり、ここに融点として評価される。
【0029】
従来のUHMWPEの加工においては、ポリマーの融解温度に非常に近い温度、例えば融解温度から1〜3℃以内の温度においてプロセスを実施することが必要であった。本発明のプロセスに使用される特定の出発UHMWPEを選択することにより、ポリマーの融解温度から、従来技術において許容されていた温度と比べてさらに低い温度における操作が可能となることが分かった。このことは、操作可能温度範囲をより広くすることに寄与し、より広い操作可能温度範囲はより良好なプロセス制御を可能とする。
【0030】
圧縮工程の実施には従来の装置を使用することができる。好適な装置は、熱ロール、エンドレスベルトなどである。
本発明のプロセスにおける延伸工程を実施してポリマーフィルムを製造する。この延伸工程は、従来技術の方法により、ひとつまたはそれ以上の工程として実施することができる。好適な方法は、双方のロールがプロセス方向に回転し、第二のロールが第一のロールよりも早く回転する一組のロール中に、ひとつまたはそれ以上の工程としてフィルムを導くことなどである。延伸は、ホットプレート上または熱風順環式オーブン中で行うことができる。一般に、このタイプの装置の温度を1度以内に制御することは困難である。この事実により、当業者は本発明のプロセスによって拡大された操作可能範囲の意義を認めるであろう。
【0031】
フィルムの合計延伸比が全くもって非常に大きいことは、本発明の特徴のひとつである。合計延伸比は、例えば120以上、特に140以上、さらには160以上とすることができる。合計延伸比は、圧縮マザーシートの断面積を、該マザーシートから製造された延伸フィルムの断面積で除した値として定義される。
本発明のプロセスは固相で実施される。最終のポリマーフィルムはポリマー溶媒の含量が、0.05重量%未満、特に0.025重量%未満、とりわけ0.01重量%未満である。
本発明のフィルムは、その次元のうちの2つの長さが第三の長さよりも実質的に長い三次元物体である。より詳しくは、2番目に短い長さ、すなわちフィルムの幅と、最も短い長さ、すなわちフィルムの厚さとの比が10以上、特には50以上である。
本発明のポリマーフィルムまたはこれを変形した製品は、数多くの用途、例えば防弾用途、ロープ、ケーブル、網、織物および防護用途などのための出発材料として使用することができる。
本発明のUHMWPEに由来する防弾用物質、ロープ、ケーブル、網、織物および防護器具も本発明の一部をなす。
以下の実施例の方式により本発明を説明する。本発明は、以下の実施例のみに、または以下の実施例によって制限されるものではないことを理解すべきである。
【実施例】
【0032】
サイズ610×30mmのモールド中で圧縮を行った。モールドをポリマーで充填した後、数分間の熱プレスでポリマーを圧縮した。温度<40℃に冷却した後、シートをモールドから取り出した。続いてこのシートを、上側および下側の組からなる加熱ロールに供給した。ロール間距離は150ミクロンである。ロール処理の直後、上側ロールの表面上でフィルムを延伸した。さらに、正確に設定速度で運転する2組のロール間に設置された油熱式ホットプレート上で、ロール処理したフィルムの延伸を行った。
【0033】
実施例1
重合
すべての空気および/または水反応性の操作は、シュレンク技術を用いてアルゴン雰囲気下で行うか、あるいは従来からの窒素充填グローブボックス(Braun社製 MB−150 GI)中で行った。メチルアルモキサンはWITCO GmbHから10重量%トルエン溶液として購入した。エチレンはAir Liquide社から得た。重合溶媒として乾燥トルエンを用いた。触媒である[3−tBu−2−O−CCH=N(C)]TiClは、Mitaniら(M. Mitani, T. Nakano, T. Fujita, Chem. Eur. J. 2003, 9, 2396−2403)およびEP0874005に準拠して合成した。分子量および分子量分布は溶媒として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;GPC220、Polymer Labs社製)によって135℃において測定した。重合は、熱電対およびメカニカルスターラーを備えた2,000mL丸底フラスコを用いて大気圧下で行った。アルゴンでパージした反応器にトルエン(1,000mL)を導入した後、溶液中に+10℃で30分間エチレンをバブリングして飽和した。メチルアルモキサンのトルエン溶液(20mL)を添加した後、激しく撹拌しつつ反応器に触媒(1μmol)のトルエン溶液を導入することによって、重合を開始した。30分後、エチレンの供給を止め、イソブチルアルコールを加えて重合を停止した。得られた混合物にHClおよび水を加えた。固体状のUHMWPEをろ取して回収し、水およびアセトンで洗浄し、そして乾燥(真空オーブン、60℃、終夜)した。収量は75グラムであった。その重量平均分子量および数平均分子量は、それぞれ、3,600,000および2,300,000であった。Mw/Mn比は1.56であった。かさ密度は0.11g/cmであった。このポリマーの無拘束融解温度は141℃であった。160℃におけるせん断弾性率は0.65MPaであった。
【0034】
(上記のように合成された)絡まりのない超高分子量ポリエチレン16gを平均圧力160バール、最高温度115℃にて6分間圧縮した。得られたシートは厚さ0.9mm、長さ610mmおよび幅30mmであった。そのかさ密度は0.95g/cmであった。このシートを125℃で予備加熱して直ちにロール処理し、上述の方法によってフィルムに延伸した。サイズの変化を基準として、ロール比は4.5と計算され、ロール処理/延伸工程の合計の延伸比は20であった。ロールセットの表面温度は125℃であった。延伸工程を1工程、2工程または3工程で、異なる温度および延伸比で行い、多くの実験を行った。延伸速度は、上記の温度および延伸比が得られるように調整した。延伸工程の数、延伸工程の温度およびロール工程を含む合計延伸比を第1表に示す。得られたフィルムの機械的特性、面内配向パラメータおよびDSCの結果を第1表に示す。
第1表から理解されるように、本発明の方法は高強度とともに高い引張破断エネルギーを有するフィルムの製造を可能とする。これらのフィルムは、高い引張弾性率をも示す。
フィルムの物理特性とDSC結晶化度との間には正の相関があり、より高い結晶化度のフィルムは多くの場合より高い強度およびTEBを有する。
面内配向パラメータは、フィルム中のポリマーの配向の指標であり、合計延伸比と関係する。本発明では、80程度の延伸比ですでに3を超える面内配向パラメータを得ることができる。後述の比較例で示されるように、出発物質として従来のポリマーを用いると、非常に高い延伸比のときのみ3程度の面内配向パラメータを得ることができ、本発明の一部である高強度および高いTEB値を伴うものではない。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
比較例1
出発材料として、Mw約2,600,000、Mn約360,000、Mw/Mn比約7.22、かさ密度0.25g/cmおよび160℃で融解した直後に測定したせん断弾性率1.65MPaの従来のチーグラー−ナッタ超高分子量ポリエチレン(Ticona社製、GURシリーズUHMWPE)粉末20gを使用した。出発ポリマーを平均圧力160バール、最高温度134℃にて6分間圧縮した。得られたシートは厚さ1.15mm、長さ610mmおよび幅30mmであった。そのかさ密度は0.95g/cmであった。このシートを135℃で予備加熱して直ちにロール処理し、上述の方法によってフィルムに延伸した。サイズの変化を基準として、ロール比は4と計算され、ロール処理/延伸工程の合計の延伸比は約20であった。ロールセットの表面温度は、138℃であった。延伸工程を1工程、2工程または3工程で、異なる温度および延伸比で行い、多くの実験を行った。延伸速度は、上記の温度および延伸比が得られるように調整した。延伸工程の数、延伸工程の温度およびロール工程を含む合計延伸比を第2表に示す。得られたフィルムの機械的特性、面内配向パラメータおよびDSCの結果を第2表に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
第2表から理解されるように、Mw/Mn比が6を超え、160℃で融解した直後に測定したせん断弾性率が0.9MPaを超えるポリマーを使用すると、引張強度およびTEBが本発明の範囲外である材料が得られる。これらの実験において、フィルムはそれらの限界まで延伸されたことが特筆される。より大きな延伸比を得ることは不可能であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度が2.0GPa以上であり、引張破断エネルギーが30J/g以上であり、Mwが500,000グラム/モル以上であり、そしてMw/Mnが6以下であるUHMWPEフィルム。
【請求項2】
引張強度が2.5GPa以上、特に3.0GPa以上、とりわけ3.5GPa以上、あるいはさらに4.0GPa以上である、請求項1のUHMWPEフィルム。
【請求項3】
引張破断エネルギーが35J/g以上、特に40J/g GPa以上、とりわけ50J/g GPa以上である、請求項1または2のUHMWPEフィルム。
【請求項4】
Mw/Mn比が4以下、特に3以下、あるいはとりわけ2以下である、請求項1〜3のいずれか一項のUHMWPEフィルム。
【請求項5】
結晶化配向パラメータが3以上、特に4以上、とりわけ5以上、さらに7以上、就中10以上、または15以上である、請求項1〜4のいずれか一項のUHMWPEフィルム。
【請求項6】
有機溶媒含量が100ppm未満である、請求項1〜5のいずれか一項のUHMWPEフィルム。
【請求項7】
重量平均分子量が500,000グラム/モル以上であり、160℃で融解した直後に測定したせん断弾性率が0.9MPa以下であり、そしてMw/Mn比が6以下である出発UHMWPEを、ポリマー加工のいかなる時点においてもポリマー温度がその融点を超えて上昇しないような条件下で圧縮工程および延伸工程に供することを含む、請求項1〜6のいずれか一項のUHMWPEフィルムを製造する方法。
【請求項8】
出発UHMWPEの、160℃で融解した直後に測定したせん断弾性率が0.8MPa以下、特に0.7MPa以下である、請求項7の方法。
【請求項9】
圧縮工程がポリマーの無拘束融点より少なくとも1℃低い温度、特には少なくとも3℃低い温度、とりわけ少なくとも5℃低い温度において行われ、そして延伸工程がプロセス条件下におけるポリマーの融点より少なくとも1℃低い温度、特には少なくとも3℃低い温度、とりわけ少なくとも5℃低い温度において行われる、請求項7または8の方法。
【請求項10】
得られた合計延伸比が120以上、特に140以上、さらには160以上である、請求項7〜9のいずれか一項の方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項のUHMWPEフィルムまたはこれを変形した製品の、防弾用途、ロープ、ケーブル、網、織物および防護用途における出発材料としての使用。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項のUHMWPEフィルムを用いて製造された防弾用物質、ロープ、ケーブル、網、織物および防護器具。

【公表番号】特表2010−532800(P2010−532800A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515388(P2010−515388)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005385
【国際公開番号】WO2009/007045
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(501469803)テイジン・アラミド・ビー.ブイ. (48)
【Fターム(参考)】