説明

高い応答性を有するマスタ−スレーブ弁の位置決め

ネットワークを通じて、マスタ弁および少なくとも1つのスレーブ弁が接続されており、マスタ弁の位置設定点をブロードキャストして、少なくとも1つのスレーブ弁が、短縮した時間期間以内に、対応する位置に到達する。このようなネットワークは、専用ネットワーク、または位置設定点を優先する高速共有ネットワークである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の概念は、マスタおよびスレーブ・デバイスの集合間において制御信号を管理するシステムおよび方法の分野に関する。更に特定すれば、本発明は、非常に応答性高くマスタおよびスレーブ弁を制御するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々のシステムが、例えば、チェンバ内の圧力を制御するために、マスタおよびスレーブ(即ち、マスタ/スレーブ)弁を実装している。このようなシステムでは、スレーブ弁はマスタ弁の指示に従う。したがって、スレーブ弁は、マスタ弁の移動に応答するように意図されている。このようなシステムの目標は、マスタおよびスレーブ弁が協調して動作し、更にできるだけ同時に近く動作することである場合が多い。
【0003】
マスタ弁の移動とスレーブ弁の移動との間の時間差を、応答時間と呼ぶ。マスタおよびスレーブ弁の間においてほぼ同時の動作を達成するためには、応答時間を最小にしなければならない。マスタ弁とスレーブ弁との間の通信は通信経路を経由して行われ、スレーブ弁はマスタ弁位置信号(場合によっては設定点とも呼ぶ)を各々処理して応答する必要があるので、応答時間を最小にすることには、ある種の課題が存在する。
【0004】
典型的な弁システムでは、マスタ弁の位置は、アナログ信号(例えば、0〜10ボルト)で具体化され、銅線を通じてスレーブ弁に伝達されている。アナログ通信方法は高速であるが、ノイズの影響を受ける虞れがある。精度を得るためには、ノイズを根絶しないまでも、除去しなければならない。実際には、十分な能力を備えたロー・パス・フィルタを利用してノイズを低減しなければ、高い分解能を達成することは困難である。しかしながら、ロー・パス・フィルタを用いると、応答時間が長くなる。また、アナログ圧力設定点を、スレーブ弁においてアナログ/ディジタル(「A/D」)変換器によってディジタル信号に変換するので、ノイズのディジタル化(即ち、ワードの最下位ビット(LSB))によって、スレーブ弁の位置に望ましくないジッタが生ずる可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アナログの実施態様では、スレーブ弁のゲートまたはフラッパ位置における1LSBジッタであっても、大きな機械的振動を発生する可能性があり、多くの圧力制御用途では望ましくないことである。通例、圧力変換器を用いて圧力フィードバックを、弁を制御するために用いる圧力コントローラに供給する。圧力フィードバック信号を供給する圧力変換器が機械的な振動に応答すると、機械的フィードバックが発生する可能性がある。圧力コントローラは、圧力変換器からのこの信号に応答すると、圧力制御が不安定になる。多くのスレーブ弁がある場合、この望ましくない機械的運動は一層顕著になり、望ましくない圧力制御惑乱を発生する可能性が高くなる。このように、応答性が高いシステムにおいて高精度で安定した弁制御を達成するには、多数の相互に関係し合う課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の概念は、多数の弁を制御する方法に関する。この方法は、マスタ弁とスレーブ弁の集合とをディジタル・ネットワークを通じて結合するステップを備えている。マスタ弁は、所望の圧力を表す圧力設定点値と、実際の圧力を表すフィードバック圧力値とを受信し、次いでマスタ弁のマスタ弁ゲートを、圧力設定点値および圧力フィードバック値の関数として位置付ける。本方法は、更に、マスタ弁ゲート位置の範囲内でマスタ弁ゲートの相対的位置を表す位置設定点を発生するステップと、位置設定点をスレーブ弁の集合に、ディジタル・ネットワークを通じてブロードキャストするステップとを含む。最後に、本方法は、位置設定点を受信し、スレーブ弁の集合における各スレーブ弁のゲートを、マスタ弁ゲートの相対的位置に対応する位置に位置付けるステップを含む。「ゲート」という用語は、ここで用いる場合、ここで用いる場合、種々の形式の弁に対して広義の意味であることを意図しており、その意味は、例えば、振り子弁、バタフライ弁、およびゲート弁のような、種々の形式の弁のいずれにおける流量をも抑制するアクチュエータ(例えば、機械式アクチュエータ、電気機械式アクチュエータ等)を含む。
【0007】
本発明の別の態様によれば、弁制御システムは、マスタ弁およびスレーブ・弁の集合を結合するディジタル・ネットワークを含む。コントローラは、マスタ弁のマスタ弁ゲートを位置決めする命令を発生するように構成されており、チェンバ内の所望の圧力を表す圧力設定点値と、チェンバ内の実際の圧力を表す圧力フィードバック値との関数として、命令を発生する。マスタ弁は、マスタ弁ゲートの相対的位置を、マスタ弁ゲート位置の範囲内で表す位置設定点メッセージを発生するように構成されている。そして、位置設定点送信機は、位置設定点メッセージをスレーブ弁の集合に、ネットワークを通じてブロードキャストするように構成されており、スレーブ弁の集合における各スレーブ弁は、スレーブ弁ゲートを含み、マスタ弁ゲートの相対的位置に対応する位置に、スレーブ弁ゲートを位置付けるように構成されている。
【0008】
本発明の別の態様によれば、弁制御システムは、チェンバ内の圧力を制御する際に有用な多数の弁を含む。本システムは、ディジタル・ネットワークを通じて結合されているマスタ弁およびスレーブ弁の集合を備えている。コントローラは、マスタ弁に結合され、チェンバ内における所望の圧力を表す圧力設定点値とチェンバ内における実際の圧力を表す圧力フィードバック値との関数として、マスタ弁のマスタ弁ゲートを位置決めする命令を発生するように構成されている。そして、位置設定点送信機は、ネットワークを通じてスレーブ弁の集合にディジタル位置設定点をブロードキャストするように構成されており、位置設定点は、マスタ弁ゲート位置の範囲内においてマスタ弁ゲートの相対的位置を具体化し、スレーブ弁の集合における各スレーブ弁は、マスタ弁ゲートの相対的位置に対応する位置まで移動するスレーブ弁ゲートを含む。
【0009】
本発明の更に別の態様によれば、弁制御システムはチェンバ内の圧力を制御する際に有用な多数の弁を含む。マスタ弁とスレーブ弁の集合は、専用ディジタル・ネットワークを通じて結合されており、ネットワークは、当該ネットワーク上にある他のデバイスによる、マスタ弁およびスレーブ弁の集合に対する接続および通信を防止するように構成することができる。コントローラは、マスタ弁に結合され、チェンバ内における所望の圧力を表す圧力設定点値とチェンバ内における実際の圧力を表す圧力フィードバック値との関数として、マスタ弁のマスタ弁ゲートを位置決めする命令を発生するように構成することができる。そして、位置設定点送信機は、ネットワークを通じてスレーブ弁の集合にディジタル位置設定点をブロードキャストするように構成することができ、位置設定点は、マスタ弁ゲート位置の範囲内においてマスタ弁ゲートの相対的位置を具体化し、スレーブ弁の集合における各スレーブ弁は、位置設定点の受信に応答して、マスタ弁ゲートの相対的位置に対応する位置まで移動するスレーブ弁ゲートを含む。
【0010】
このような方法およびシステムは、例えば、各スレーブ弁の各ゲートの位置決めが、マスタ弁アクチュエータの位置決めよりも約20ms以上遅れないように実施し構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図面の図は、限定ではなく一例として、好適な実施形態を示す。図において、同様の参照番号は同一または同様の要素を示すこととする。
【0012】
開示する実施形態例によるシステムおよび方法は、対応するマスタ弁の位置設定点の伝達、取扱、または双方を改善することにより、スレーブ弁の応答時間を短縮することを可能にする。一例として、真空チェンバの圧力を制御するために多数の弁を必要とする状況では、少なくとも1つの弁をマスタ弁に指定し、その他をスレーブ弁に指定することができる。マスタ弁と連通するコントローラが、圧力変換器からのフィードバック信号を用いて、真空チェンバ内の圧力を制御する。マスタ弁は、弁設定点をスレーブ弁に伝達し、スレーブ弁は位置設定点を用いて、できるだけ小さい時間遅延で、それら自体の位置決めを行う。好ましくは、その結果、マスタ弁およびスレーブ弁が全て位置設定点に位置付けられるとよい。本実施形態例の圧力制御真空チェンバ・システムでは、応答時間は、好ましくは、約20ミリ秒(ms)以下であり、好ましくは約10ms以下である。一例として、状況によっては、約3ms以下の応答時間が達成されていることもある。他の実施形態では、異なる応答時間閾値が適している場合もあり、したがって、本発明は前述の例示的な応答時間には限定されるのではない。「ゲート」という用語は、ここで用いる場合、種々の形式の弁に対して広義の意味であることを意図しており、その意味は、例えば、振り子弁、バタフライ弁、およびゲート弁のような、種々の形式の弁のいずれにおける流量をも抑制するアクチュエータ(例えば、機械式アクチュエータ、電気機械式アクチュエータ等)を含む。
【0013】
応答時間短縮という問題以外にも、スレーブ弁毎に精度を高めノイズを最小に抑えるという問題がある。位置設定点の分解能が高い程、スレーブ弁配置の精度を高くすることができる。典型的な先行技術のシステムでは、位置設定点をアナログ信号として伝達する。このようなアナログ信号はノイズの影響を受けやすいので、これらにはロー・パス・フィルタの処理が必要となる。対照的に、ここに開示するようなディジタル通信システムは、マスタ弁およびスレーブ弁の間において位置設定点信号のロー・パス・フィルタ処理を必要とすることなく、できるだけ速い速度で実質的にノイズのない挙動を可能にする。したがって、好適な形態では、位置設定点は、好ましくは、16ビット以上の分解能を有するディジタル信号として伝達する。
【0014】
図1は、多重弁システム120を用いた圧力制御真空チェンバ・システム100の部分的ブロック図であり、真空チェンバ(図示せず)内部の圧力を弁集合によって制御する。弁システム120は、マスタ弁122と、複数のスレーブ弁122(1)〜122(N)によって表される、少なくとも1つのスレーブ弁とを備えている。この実施形態では、システム・ツール・コンピュータ110が、弁システム120を動作および管理する役割を果たす機能モジュールを表し、多重弁インターフェース150を通じてこれを行う。多重弁インターフェース150は、当技術分野において周知の多重弁インターフェースであればいずれでもよい。サービス・モニタ112は、主に、チェンバ内の圧力を監視する役割を果たし、ワークステーションまたはパーソナル・コンピュータのような計算機によって実行可能なコンピュータ・プログラムの形態をなすことができる。診断モジュール114は、典型的な診断ルーチンを走らせて、弁またはその他のシステム・コンポーネントの正常/異常(health)およびステータスを判定し、これも市販の計算機上で走るコンピュータ・プログラムの形態をなすことができる。これらのデバイスの1つ以上は、圧力チェンバにおいて到達または維持する要求圧力(圧力設定点)を決定ように構成することができ、圧力チェンバ内部の圧力を検知するように構成することもできる。前述のデバイス110、112、および114は、一般に当技術分野では周知であるので、ここでは詳細に論じない。
【0015】
この実施形態では、マルチ・ネットワーク手法を用いる。システム・ツール・コンピュータ110およびサービス・モニタ112は、典型的なRS232インターフェースを用いて多重弁インターフェース150と通信を行い、診断モジュール114は、典型的なアナログ・インターフェースを用いて多重弁インターフェース150と通信を行う。多重弁インターフェース150は、典型的なRS232インターフェースを用いて、弁120の集合と通信を行う。このような多重弁インターフェースは、一般に当技術分野では周知である。他の形式の実質的に同等なアナログまたはディジタル・インターフェースも用いることができる。
【0016】
圧力チェンバ内部の圧力を監視し調節する際に用いる通信経路およびデバイスを「圧力制御ループ」と呼ぶこともできる。典型的な圧力制御真空チェンバ・システムとは異なり、この実施形態では、位置設定点をネットワーク150を通じてスレーブ弁に伝達しない。逆に、弁システム120のスレーブ弁に位置決め情報を提供するために、専用ネットワーク160を用いる。この実施形態では、ネットワーク160は、専用制御エリア・ネットワーク(CAN)の形態をなす。ネットワーク160は、他のデバイスからのトラフィックを用いずに、弁システム120の弁間における位置設定点の伝達を専用に取り扱う。したがって、ネットワーク160を含む弁システム120は、圧力制御ループの肝要な、応答性の高い部分を形成する。システム・ツール110、サービス・モニタ112、および診断モジュール114は、独立して多数の弁インターフェース150を通じて、典型的な監督および維持管理(housekeeping)の目的で弁システム120と通信を行い、ネットワーク160を経由しない。つまり、維持管理よび監督機能および伝達は、位置設定点機能および伝達とは分離されている。
【0017】
異なる実施形態では、マスタ−スレーブ維持管理および監督機能ならびに通信、そして位置設定点機能および伝達は、同じワイヤ(またはネットワーク)上で行われるが、それでも他の通信からは分離されている。この実施形態では、位置設定点伝達の方が、維持管理および監督の通信よりも優先度が高い。その結果、維持管理および監督機能および通信は、実質的にマスタ−スレーブ弁応答時間を悪化させたり、妨害することはない。
【0018】
別の実施形態では、ネットワークに十分な速度があり、圧力制御真空チェンバ・システムの応答時間要件を満たしつつ、他のデバイスのメッセージ・トラフィックも取り扱えるのであれば、恐らくは、ネットワーク150および160の代わりに、1系統のネットワークを用いることができる。例えば、ネットワーク150およびネットワーク160のメッセージ・トラフィックは共存することができ、あるいは1系統のネットワークに融合し、そのネットワークが、例えば、標準的な100MB/秒以上のイーサネット(登録商標)・ネットワーク、または同様の性能のその他のネットワークであれば、この実施形態の応答時間要件(例えば、10ms)を満たすことができる。ネットワーク速度が1系統のネットワークを用いることができる程度に十分であるか否かは、応答時間要件や、このようなネットワークを共有するその他のトラフィックの関数であり、用いる通信プロトコルの関数である場合もある。ネットワークを共有して、位置設定点伝達以外の通信もそのネットワーク上で行う実施形態であればいずれも、位置設定点伝達を優先して、目標または要求応答時間を満たすことが好ましい。
【0019】
図1および図示の実施形態に戻って、マスタ弁122はその位置設定点をディジタル形態で専用ネットワーク160を通じてスレーブ弁122(1)〜122(n)にブロードキャストする。前述のように、この実施形態では、位置設定点メッセージを16ビット・ワードとしてブロードキャストし、アナログ信号において典型的なノイズを大幅に排除する。この実施形態では、スレーブ弁を個々にアドレスする必要はない。何故なら、マスタ弁122以外では、スレーブ弁だけがネットワーク160上に接続されているデバイスであり、これらは全てマスタ弁122からの同じ位置設定点メッセージを受信することを意図しているからである。ネットワーク160は専用ネットワークとして実施されているので、他のシステム・デバイスからのトラフィックはネットワーク160上には発生せず、そのため管理する必要はない。したがって、ネットワーク160のプロトコル方式は、アドレシングや優先度取扱を用いる必要がない。つまり、ブロードキャストする設定点位置メッセージは、各スレーブ弁122(1)〜122(N)によって効率的に受信および処理され、アドレス情報の処理、または関連するプロトコル優先順方式に応じたトラフィックの分析および取扱に伴うオーバーヘッドは発生しない。加えて、システム・ツール・コンピュータ110、サービス・モニタ112、および診断モジュール114は多重弁インターフェース150を通じて弁120と通信を行うのであり、ネットワーク160上で行うのではないので、スレーブ弁122(1)〜122(N)に対して、このようなデバイスからのユーザまたはプロセスによって発生する割り込みによって生ずる遅延の可能性はない。
【0020】
図2は、真空チェンバ250における圧力を制御するために、図1の圧力制御真空チェンバにおいて実施した場合の、弁システム120の更に詳細なブロック図を含む。そして、図3は、図2のシステム等によって、少なくとも約10msの応答時間を達成する方法を規定するフローチャート300である。図1におけると同様、弁システム120は、マスタ弁122およびスレーブ弁122(1)〜122(N)を含む。弁システム120は、例えば、約10ms以下程度の応答時間改善を達成するように構成されている。この実施形態では、マスタ弁122は圧力コントローラ122Aを含み、圧力コントローラ122Aが位置(または制御)命令を弁モータ駆動部122Bに供給する。弁モータ駆動部は、対応する弁ゲートまたはフラッパ(ここでは、各々「ゲート」と呼ぶ)122Cを位置設定点と呼ぶ位置に物理的に位置付ける。
【0021】
圧力コントローラ122Aは、2つのメッセージを入力として受信し、これらから弁位置メッセージ206を発生し、弁モータ駆動部122Bに伝達する。これを図3におけるステップ310として示す。2つの入力の一方は、圧力設定点202メッセージであり、チェンバ250に対する所望のまたは要求圧力を表す。即ち、圧力設定点202は、チェンバ250内において到達または維持しなければならない圧力を表す。他方の入力は、チェンバ250内における実際の圧力を示すフィードバック圧力信号204である。圧力信号204は、真空システム・ツール210によって供給され、真空システム・ツール210は、圧力変換器の形態をなすことができ、チェンバ250の圧力センサに結合されている。圧力センサは、例えば、弁システム120の弁に配置するか、またはこれと一体化する。真空システム・ツール210、圧力コントローラ122A、および弁122、122(1)〜122(N)は、圧力制御ループの一部をなす。圧力設定点メッセージ202および圧力信号204の関数として、圧力コントローラ122Aは、弁モータ駆動部122Bに、図3のステップ320によって示すように、所望の圧力設定点に達するための弁ゲート122Cの位置に命令する。弁ゲート122Cの物理的位置は、図3のステップ330によって示すように、弁位置メッセージ206によって表される。弁ゲート位置は、弁にあるセンサまたは弁と一体化したセンサによって決定することができる。
【0022】
チェンバ250内部の圧力は、弁122(C)、122(1)C〜122(N)Cの物理的位置の関数であり、弁は、例えば、圧力チェンバ250からの流体を選択的に放出することによって、圧力を制御するために用いられる。マスタ弁122と同様に、各スレーブ弁122(1)〜122(N)は、弁モータ駆動部122(1)B〜122(N)B、および弁ゲート122(1)C〜122(N)Cを含む。弁の各々は、その物理的位置の範囲が分かるように較正されている。位置設定点は、各弁ゲートを物理的に位置付ける(または開放する)範囲内における百分率または段階的増分刻みの数を示す。一例として、弁がその全開放および全閉鎖位置の間に1,500個の増分刻みの範囲を有する場合、80%の位置設定点は、弁を300増分刻みだけ開くことを示す。
【0023】
ここでは、弁システム120において、同じ設定点を各弁に適用する。この実施形態では、マスタ弁122の位置設定点を、ディジタル・ネットワーク160を通じて、全てのスレーブ弁122(1)〜122(N)にブロードキャストし、アドレシングまたは優先順方式のオーバーヘッドが発生せず、弁に関連する維持管理または監督用の通信とネットワークを共有しないことが好ましい。これを、図3のステップ340として示す。スレーブ弁122(1)〜122(N)の弁駆動モータ122(1)B〜122(N)Bは、ブロードキャストされた弁位置設定点メッセージ206を受信し、直ちに弁ゲート122(1)C〜122(N)Cを、それらの各範囲において、マスタ弁と協調して、ディジタル位置設定点に対応する位置に駆動する。この実施形態では、図3のステップ350に示すように、マスタ弁がその位置に達してから約10ms以内に、全てのスレーブ弁が位置設定点に達する。圧力制御ループは、圧力制御真空チェンバ・システムの動作の間維持され、図3の矢印360によって示すように、チェンバ250内部において所望の圧力に到達するまたはこれを維持するために、必要に応じて弁システム120の弁を継続的に監視し位置決めする。
【0024】
圧力制御真空チェンバ・システムのネットワーク実施態様の一実施形態では、各マスタ/スレーブを、CANのようなネットワーク160における「ノード」として構成することもできる。先に例示した実施形態では、各弁はアドレスされておらず、マスタ弁122および各スレーブ弁122(1)〜122(N)は個別に起動し、通常のMAC IDフィルタリングを行わず、通常の二重MAC IDチェックも行わない。実際のMAC ID値は、このプロトコルでは関連がない。何故なら、MAC IDフィルタリングがないからである。一実施形態では、ネットワーク上に他の非マスタ/スレーブ弁デバイスがあると仮定すると、これら非マスタ/スレーブ・デバイスへの偶然の接続を防止するために、プロトコルの中に手法を設ける場合もある。即ち、このようなデバイスとの通信およびこれらの間の通信は、圧力制御真空チェンバ・システムを起動しているときは、ネットワーク(例えば、ネットワーク160)上で防止することが好ましい。このようなデバイスへの偶然の接続を防止するために、マスタまたはその他の未設定デバイスを、いずれの二重MAC ID要求にも応答するように構成する。これは、起動中に他のデバイスとの接続を確立する潜在的可能性を事実上排除するので、動作を中断することはなく、ネットワーク上に関係のないデータ・トラフィックを許容することもなく、いずれの非マスタ/スレーブ・デバイスをも適切に(gracefully)締め出す。
【0025】
前述の実施形態におけるように、ネットワーク160は、通例デバイスネット・ネットワーキング(DeviceNet networking)に用いられるハードウェアを備えているCANとするとよく、マスタ/スレーブ・デバイスを利用する工業的用途において特に、当技術分野では周知である。デバイスネット・プロトコルを用いると、位置設定点をパケットの中に具体化することができる。全てのスレーブ弁122(1)〜122(N)は、ブロードキャスタされたメッセージを受信し、図2および図3に関して先に論じたように、パケットに収容されている位置設定点を適用するように構成されている。
【0026】
パケットは、CANグループ2メッセージ識別子を用いることができ、2データ・バイトのみで構成する。最初のバイトは、16ビット整数位置設定点の下位バイトである。2番目のバイトは、設定点の上位バイトである。この実施形態では、予期される2データ・バイト以外のいずれの長さのメッセージでもスレーブ・デバイスによって、このプロトコルの一部ではないと見なされ、破棄される。CANメッセージは、マスタや未設定ノード(例えば、未だマスタまたはスレーブと指定されていない)には受け入れられず、二重MAC IDチェック・メッセージが例外で、これらを構成するために用いられる。
【0027】
1つの弁をマスタ弁として構成し、他の弁をスレーブ弁として構成することができる。当技術分野では周知のように、例えば、しかるべきファームウェアを装填することによって、弁をスレーブ弁として構成することができる。しかしながら、このような弁がしかるべきマスタ・モード設定(SMM)コマンドを受信すると、このデバイスは、マスタ弁122のような、インテリジェント圧力制御弁として動作する。この実施形態では、マスタ弁122は、定期的な間隔で位置設定点メッセージ206を送出するように構成されている。一例として、図示の実施形態では、マスタ弁122は10ms毎に位置設定点を含むCANメッセージを送出する。
【0028】
同様に、スレーブ弁122(1)〜122(N)のように、シリアルSMMコマンドを用いて、弁をスレーブ弁として構成してもよい。一旦構成を設定すると、スレーブ弁は、マスタ弁122からブロードキャストされて受信するCAN位置設定点メッセージに応答して、位置制御モードで動作する。先に注記したように、この実施形態では、典型的なCAN MAC IDフィルタリングは不要かまたは用いないので、全てのスレーブが同じブロードキャスト・メッセージを「聴取」し、互いにミリ秒以内で同じ設定点を得る。メッセージの送信および受信は、RS−232の同等物よりも速く、各スレーブ・デバイスの個々のアドレシングを必要としない。ケーブルは、デバイスネット用の標準品でよく、典型的なRS−232ネットワークで可能なよりも長い信号伝達を可能にする。
【0029】
先行技術のシステムは、通例、RS−232ネットワーク設定を用いて監督機能および状態機能を取り扱っていた。位置制御情報を、監督機能に用いるのと同じネットワーク上で送信すると、位置制御メッセージが監督コマンドまたはユーザからのステータス問い合わせによって移される可能性があり、応答時間が増大する。最適制御のためには、この実施形態では、位置コマンドを規則的および定期的に伝達および受信することが重要である。他の通信トラフィック(ユーザまたはプロセスが発生する未計画のメッセージを含む)とは別個である位置情報を取り扱うために、専用の通信プロトコルおよびネットワークを有することは、このような実施形態における格別な利点である。
【0030】
前述のように、代替実施態様および実施形態では、イーサネット(登録商標)・ネットワークのような1系統の高速ネットワークを、監督機能および位置制御通信の双方に用いる。この実施態様では、ネットワークにはサービス品質(QOS)切換またはその他の同様の方法によって、位置制御情報を収容するパケットが最も高い優先度を有することを確保するように実施することが好ましい。位置制御パケットは、規則的、定期的な間隔で送信および受信に成功しなければならないが、監督および診断パケットは優先度が低い。
【0031】
別の実施態様では、この場合も高速化が可能なワイヤレス・ネットワークを用いて、位置設定点メッセージの電圧のためにネットワークを設けることができる。当業者には認められようが、種々の実施形態は種々の形態を取ることができ、これらの形態は、技術進歩および送信の高速化が種々の形式または形態のネットワークあるいはネットワーク・デバイスにおいて可能になるに連れて、ときと共に変化していくと考えられる。
【0032】
以上、最良の態様および/またはその他の好適な実施形態であると考えられるものについて説明したが、種々の変更もその中で行うこともでき、本発明は種々の形態および実施形態においても実施することができ、これらは多数の用途において適用することができるが、ここではその一部についてのみ説明したことは言うまでもない。ここで用いる場合、「含む」(include)および「含んでいる」(including)という用語は、限定がないことを意味する。以下の特許請求の範囲は、本発明の概念の真の範囲に該当するいずれのそしてあらゆる変更および変形をも特許請求することを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、圧力制御真空チェンバ・システムの部分的上位ブロック図である。
【図2】図2は、図1の圧力制御真空チェンバ・システムの一部を形成することができる弁システムのブロック図である。
【図3】図3は、図2の弁システムにおいて実装することができる弁集合を制御する方法を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の弁を制御する方法であって、
A.マスタ弁とスレーブ弁の集合とをディジタル・ネットワークを通じて結合するステップと、
B.前記マスタ弁が、所望の圧力を表す圧力設定点値と、実際の圧力を表すフィードバック圧力値とを受信するステップと、
C.前記マスタ弁のマスタ弁アクチュエータを、前記圧力設定点値および圧力フィードバック値の関数として位置付けるステップと、
D.マスタ弁アクチュエータ位置の範囲内で前記マスタ弁アクチュエータの相対的位置を表す位置設定点を発生するステップと、
E.前記位置設定点を前記スレーブ弁の集合に、前記ディジタル・ネットワークを通じてブロードキャストするステップと、
F.前記位置設定点を受信し、前記スレーブ弁の集合における各スレーブ弁のアクチュエータを、前記マスタ弁アクチュエータの相対的位置に対応する位置に位置付けるステップと、
を備えている、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、真空チェンバ内の圧力を、前記多数の弁によって制御するステップを備えている、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記ネットワークの少なくとも一部は、ワイヤレス送信路を備えている、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記ネットワークは、前記多数の弁に無関係のデータ・トラフィックがない、コントローラ・エリア・ネットワークである、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記ディジタル・ネットワークは、マスタ−スレーブ維持管理、監督、および位置設定点の伝達を行う役割を果たし、前記方法は、前記位置設定点の伝達を、前記維持管理および監督用通信よりも優先度を高く設定することを含む、方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記ネットワークは、約100MB/秒以上の送信速度に合わせて構成されている高速ネットワークである、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記ネットワークを非マスタ/スレーブ・デバイスと共有し、更に前記位置設定点の送信を優先するように構成されている、方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、各スレーブ弁の各アクチュエータの位置決めは、前記マスタ弁アクチュエータの位置決めよりも約20ms以上遅れない、方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、各スレーブ弁の各アクチュエータの位置決めは、前記マスタ弁アクチュエータの位置決めよりも約10ms以上遅れない、方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法において、前記位置設定点を16ビット・ワードで表す、方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法において、前記スレーブ弁の集合において1つ以上のスレーブ弁は、ネットワーク・デバイス・アドレスを必要としない、方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、前記位置設定点の発生およびブロードキャストは、実質的に周期的である、方法。
【請求項13】
請求項1記載の方法において、前記ネットワークは、当該ネットワーク上にある他のデバイスによる、前記マスタ弁およびスレーブ弁の集合に対する接続および通信を防止するように構成されている、方法。
【請求項14】
弁制御システムであって、
A.マスタ弁およびスレーブ・弁の集合を結合するディジタル・ネットワークと、
B.前記マスタ弁のマスタ弁アクチュエータを位置決めする命令を発生するように構成されているコントローラであって、チェンバ内の所望の圧力を表す圧力設定点値と、前記チェンバ内の実際の圧力を表す圧力フィードバック値との関数として、前記命令を発生する、コントローラと、
C.前記マスタ弁アクチュエータの相対的位置を、マスタ弁アクチュエータ位置の範囲内で表す位置設定点メッセージを発生するように構成されているマスタ弁位置センサと、
D.前記位置設定点メッセージを前記スレーブ弁の集合に、前記ネットワークを通じてブロードキャストするように構成されている位置設定点送信機であって、前記スレーブ弁の集合における各スレーブ弁は、スレーブ弁アクチュエータを含み、前記マスタ弁アクチュエータの相対的位置に対応する位置に、前記スレーブ弁アクチュエータを位置付けるように構成されており、各スレーブ弁の各アクチュエータの位置決めは、前記マスタ弁アクチュエータの位置決めよりも約20ms以上遅れない、位置設定点送信機と、
を備えている、システム。
【請求項15】
請求項14記載のシステムにおいて、前記多数の弁は、真空チェンバ内の圧力を制御するように構成されている、システム。
【請求項16】
請求項14記載のシステムにおいて、前記ネットワークの少なくとも一部は、ワイヤレス送信路である、システム。
【請求項17】
請求項14記載のシステムにおいて、前記ネットワークは、前記多数の弁に無関係のデータ・トラフィックがない、コントローラ・エリア・ネットワークである、システム。
【請求項18】
請求項14記載のシステムにおいて、前記ディジタル・ネットワークは、マスタ−スレーブ維持管理、監督、および位置設定点の伝達を行う役割を果たし、前記位置設定点の伝達を、前記維持管理および監督用通信よりも優先度を高く設定するように構成されている、システム。
【請求項19】
請求項14記載のシステムにおいて、前記ネットワークは、約100MB/秒以上の送信速度に合わせて構成されている高速ネットワークである、システム。
【請求項20】
請求項14記載のシステムにおいて、前記ネットワークを非マスタ/スレーブ・デバイスと共有し、各スレーブ弁アクチュエータの位置決めを20ms以内で達成するために、更に前記位置設定点の送信を優先するように構成されている、システム。
【請求項21】
請求項14記載のシステムにおいて、前記ネットワークを非マスタ/スレーブ・デバイスと共有し、各スレーブ弁アクチュエータの位置決めを10ms以内で達成するために、更に前記位置設定点の送信を優先するように構成されている、システム。
【請求項22】
請求項14記載のシステムにおいて、各スレーブ弁の各アクチュエータの位置決めは、前記マスタ弁アクチュエータの位置決めよりも約10ms以上遅れない、システム。
【請求項23】
請求項14記載のシステムにおいて、前記位置設定点を16ビット・ワードで表す、システム。
【請求項24】
請求項14記載のシステムにおいて、前記スレーブ弁の集合において1つ以上のスレーブ弁は、ネットワーク・デバイス・アドレスを必要としない、システム。
【請求項25】
請求項13記載のシステムにおいて、前記弁制御システムは、前記位置設定点を周期的に発生およびブロードキャストする、システム。
【請求項26】
請求項14記載のシステムにおいて、前記ネットワークは、当該ネットワーク上にある他のデバイスによる、前記マスタ弁およびスレーブ弁の集合に対する接続および通信を防止するように構成されている、システム。
【請求項27】
チェンバ内の圧力を制御する際に有用な多数の弁を含む弁制御システムであって、
A.ディジタル・ネットワークを通じて結合されているマスタ弁およびスレーブ弁の集合と、
B.前記マスタ弁に結合され、前記チェンバ内における所望の圧力を表す圧力設定点値と前記チェンバ内における実際の圧力を表す圧力フィードバック値との関数として、前記マスタ弁のマスタ弁アクチュエータを位置決めする命令を発生するように構成されているコントローラと、
C.前記ネットワークを通じて前記スレーブ弁の集合にディジタル位置設定点をブロードキャストするように構成されている位置設定点送信機であって、前記位置設定点は、マスタ弁アクチュエータ位置の範囲内において前記マスタ弁アクチュエータの相対的位置を具体化し、前記スレーブ弁の集合における各スレーブ弁は、前記マスタ弁アクチュエータの相対的位置に対応する位置まで移動するスレーブ弁アクチュエータを含み、各スレーブ弁の各アクチュエータの位置決めは、前記マスタ弁アクチュエータの位置決めよりも約20ms以上遅れない、位置設定点送信機と、
を備えている、システム。
【請求項28】
チェンバ内の圧力を制御する際に有用な多数の弁を含む弁制御システムであって、
A.専用ディジタル・ネットワークを通じて結合されているマスタ弁とスレーブ弁の集合であって、前記ネットワークは、当該ネットワーク上にある他のデバイスによる、前記マスタ弁およびスレーブ弁の集合に対する接続および通信を防止するように構成されている、マスタ弁とスレーブ弁の集合と、
B.前記マスタ弁に結合され、前記チェンバ内における所望の圧力を表す圧力設定点値と前記チェンバ内における実際の圧力を表す圧力フィードバック値との関数として、前記マスタ弁のマスタ弁アクチュエータを位置決めする命令を発生するように構成されているコントローラと、
C.前記ネットワークを通じて前記スレーブ弁の集合にディジタル位置設定点をブロードキャストするように構成されている位置設定点送信機であって、前記位置設定点は、マスタ弁アクチュエータ位置の範囲内において前記マスタ弁アクチュエータの相対的位置を具体化し、前記スレーブ弁の集合における各スレーブ弁は、前記位置設定点の受信に応答して、前記マスタ弁アクチュエータの相対的位置に対応する位置まで移動するスレーブ弁アクチュエータを含む、位置設定点送信機と、
を備えている、システム。
【請求項29】
請求項28記載のシステムにおいて、各スレーブ弁の各アクチュエータの位置決めは、前記マスタ弁アクチュエータの位置決めよりも約20ms以上遅れない、システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−532763(P2009−532763A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502812(P2009−502812)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/005663
【国際公開番号】WO2007/126543
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(592053963)エム ケー エス インストルメンツ インコーポレーテッド (114)
【氏名又は名称原語表記】MKS INSTRUMENTS,INCORPORATED
【Fターム(参考)】