説明

高いQファクタを得るために最適化されたNMR共鳴装置

【課題】ギャップと棒の寸法とを最適化することによりQ値を最大にするように設計されたバードケージ共鳴装置用コイルを提供する。
【解決手段】中心軸に沿って互いに間隔を開けて配置された一対の導電性リングと、前記リングの間にわたって延び前記中心軸のまわりに等間隔に配置され軸方向に配設された複数の導電性の棒を有するバードケージ共鳴装置。棒の各々は、厚みすなわち半径方向の寸法が、幅すなわち方位角方向の寸法と同程度かまたはそれよりも大きい断面形状を有する。棒の幅と厚みの大きさは、それらをパラメータとして、Qの最大値に対応するパラメータ値の範囲を求める解析的手順により求めることができる。フィリングファクタに対する形状計算により、適切な兼ね合いを実現するパラメータの値が得られる。半径方向に向けられた導電体の横断面により、サドルコイルでQ値に関する同様の改善を示すことが見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNMR共鳴装置に関する。より詳しくは、本発明は、バードケージおよびそれに関連する共鳴装置を最適化して高いQ値を得る方法、ならびにそのように最適化されたバードケージ共鳴装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波共鳴装置用コイルをバードケージ形状に構成して、非常に一様性の高い磁界を得ることが知られており、例えば1987年9月15日にC.Hayesに交付された特許に係る下記特許文献1および下記非特許文献1で述べられている。バードケージ共鳴装置は、長手方向に互いに離して配置されて共鳴装置の軸を規定する大略的に円形の一対の導電性要素(リング)と、リングの円周に沿って等間隔に配置されて2つのリング要素を結合する複数の導電性部材(棒(ラング))を有するという、その一般的な構造のために、このように呼ばれる。「棒」という言い方は、バードケージコイルを平面に展開するとラダー(はしご)型LC回路と見なされるという、その形状から来るものである。
【0003】
望ましい特徴に応じて、種々のタイプのバードケージ共鳴装置が製造されてきた。コンデンサ(キャパシタ)は、低域通過(ローパス)コイルでは棒の中に挿入され、高域通過(ハイパス)コイルではリング内に挿入される。本発明では、「コイル」および「共鳴装置」という言葉は、対象が典型的には一体のLC構造をなすことを反映して、互いに交換可能に使用される。
【0004】
バードケージコイルの方位角方向に等間隔に配置されたN本(N>1)の棒は、等しい増分で隔てられたRF相をサポートする。極端な例では、下記特許文献2で説明されているように、磁界の一様性を高めるために、棒の数を大幅に増やしていわゆるムカデコイルを形成する。
従来の多くのバードケージコイルは、表面を半径方向に垂直にした銅製のシートまたは箔からなる棒で構成されている。これは構成が容易にできるというだけでなく、高周波シールドの内径の観点で、試料に利用可能なスペースを最大にするためでもある。本発明では、バードケージコイルの棒の横断面の寸法が、コイルのQ値に影響を与えることが見出された。コイルのフィリングファクタ(試料のための空間的容積の割合)が直接に影響され、占有率が低いとNMR共鳴装置の実現可能な信号雑音比が低下する。
【0005】
ソレノイド構成の従来のNMR共鳴装置では、aとbとが同程度となるような横断面寸法a、bを有する導電体を使用した。意図的にそのように作られたソレノイド構成の共鳴装置のある種ものは、かなり改善されたQ値を示すことが見出された。下記特許文献3参照。
バードケージコイルの設計に関する従来の研究のほとんどは、無負荷状態でのコイルのQ値にはあまり注意を払わなかった。比較的大きな(数十cm)生物学的サンプルのイメージングにコイルを使用する場合は、1/Qtotal=1/Qsample+1/Qcoilであり(ここでQtotal、QsampleおよびQcoilはそれぞれ全体のQ値、試料のQ値およびコイルのQ値であり、そのような用途のほとんどにおいてQsample<<Qcoil)であるから、上で述べたような従来のやり方は妥当である。しかしコイルおよび試料の寸法が小さくなると、コイルのQ値が性能に強い影響を与え始める。これは、コイルおよび試料の長さがLの程度であるとして、QsampleおよびQcoilがそれぞれL-4およびLに比例して変化するからである。
【特許文献1】米国特許第4,694,255号明細書
【特許文献2】米国特許第6,285,189号明細書
【特許文献3】米国特許第6,087,832号明細書
【特許文献4】米国特許第4,641,098号明細書
【非特許文献1】「磁気共鳴画像形成のためのバードケージ共鳴装置の実験的設計および製作」(T.Vullo他、医療における磁気共鳴、24,243(1992))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の利点は、ギャップおよび棒の寸法を最適化することによりQ値を最大にするように設計されたバードケージ共鳴装置用コイルを提供することである。
本発明は棒の横断面形状を適切に設計することによりバードケージ共鳴装置用コイルを製造する方法を提供する。
本発明の別の利点は、前記の利点を関連する共鳴装置用コイルの構造に拡張することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記および他の目的を達成する本発明のバードケージ共鳴装置用コイルは、中心軸に沿って互いに間隔を開けて配置された一対の導電性リングと、前記リングの間にわたって延び前記中心軸のまわりで方位角方向に等間隔に配置された複数の直線的で細長い導電性の棒とを備え、前記棒の各々はその半径方向の寸法(厚み)が少なくともその方位角方向の寸法(幅)よりも大きくなるようにその横断面の寸法にされていることを特徴とする。Q値のいくつかの依存性のうち、棒(誘導性の要素)の抵抗が低いとQ値が高くなる。これらの誘導性の要素の断面積を大きくすれば抵抗が小さくなるが、大きくなった横断面の半径方向の成分が入り込むことによりフィリングファクタが低下する可能性がある。半径方向に外側に延びると、周囲のシールドに対して更にRF損失を増加させる。インダクタの横断面の方位角方向の成分が増加すると、棒の間の空間的な間隔が狭まり、コイルのB磁界に対する制約によりその磁界の局所的なひずみが生じる。更に重要なことは、局所的に高い磁界の領域は近接する導電体の表面電流密度が局所的に高くなることを意味し、その結果オーミック損失が増加することになる。従って、棒の間の間隔を小さくしたバードケージコイルのQ値は低下する。マクスウェル方程式の二次元での数値解法により磁界ベクトルのポテンシャルを求め、このポテンシャルからコイル内部の体積の横断面に対する磁界分布を導くことにより、フィリングファクタに大きな影響を与えずにQ値を改善できることが確認されている。Q値に影響を与える導電体の寸法の形状特性と磁界分布との兼ね合いを調整することにより、コイル設計に関して満足の行く妥協的な結果が得られるであろう。あるいは、バードケージ共鳴装置を最適化するためにここに述べる原理に基づいて、十分な幅と厚みとを有するようにつぶした形状のワイヤで構成される、いわゆるサドルコイルの形態に、NMR共鳴装置を構成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を、複数本(N=8)の棒を有するタイプのバードケージ共鳴装置用コイルの形状の典型的な例で説明する。図1はその外観を示し、z方向に互いに間隔を開けて配置された2つの導電性のリング15および15’の間に軸方向(z方向)に延設された8本の棒10を示す。この図における棒10の幅、厚みおよび大略的な横断面形状が、本発明の特徴を示す。図2は図1の共鳴装置のz方向における断面図であり、リング15の円周に沿って方位角方向に等間隔で配設された棒10を示す。実際には図1のコイルは、符号R2で示された内径を有する高周波シールド20(図1には図示せず)の中に配設されている。各棒10は内部に面する表面11と、外部に面する表面12と、2つの側面13および14とを有し、図1に示す横断面形状は、棒10の(半径方向の)厚みを表す長さtの2つの横の辺と、前記の内部に面する表面11を表す曲率半径R1を有する幅がwの短い円弧と、外部に面する表面12を表す長い円弧とで囲まれた幾何学形状である。
【0009】
コイルの寸法と比較して波長は長く、コイルの長さはR1と比較して大きく、また棒の金属材料の高周波に対する表皮厚さδは棒の横断面寸法と比較して小さいと仮定してある。これらの仮定を立てると、マクスウェル方程式を解くことは二次元のラプラス方程式を解いて磁界ベクトルのポテンシャルAzのz成分を求めることに帰する。図1に示したコイルの断面に適合する解の境界条件は、シールドの半径ではAz=0であり、n番目の棒の表面上ではAz=A0cos(2πn/N)であり、ここでn=1,2,…,NでありA0は任意の定数である。Azが求まれば、横方向の磁界B(r,θ)はB=∇×Azから計算できる。
【0010】
更に棒10の抵抗損失がコイルのQ値(Qcoil)に対して支配的な影響を有することも、前提とされている。するとQcoilの抵抗依存性は形状条件に基づいて以下のように求められることが示される。
【0011】
【数1】

【0012】
ここでA=2πR1/Nは図1に示した円弧長であり、関数fは以下のラプラス方程式の数値解から計算できる無次元関数である:
【0013】
【数2】

【0014】
記号∫dlは各々図1に示した金属の境界上で取った線積分であり、n0は境界(または微小線分dl)に垂直な局所的な単位ベクトルを示す。前記のラプラス方程式は特に長さの単位においてAzに対して解かれており、R1=1であると仮定されている。
図3はf(w/A,t/(R2−R1),8,3)の値を示す二次元の等高線図(コンタダイアグラム)である。すなわちN=8かつR2/R1=3のときに、w/Aとt/(R2−R1)とを2つのパラメータとする関数fの値を示す。コイルの両端での導電損失、輻射損失および誘電損失が全て無視されているので、数式(1)で得られるQファクタは過大な値となる。比較的長いバードケージコイルのその半径に関する最適な棒の形状は、より良い情報が得られない場合に実際の設計を行う上で好ましい出発点となり、かかる出発点としては、等高線関数の拡がりを持つ最大領域に対応してN=8かつR2/R1=3であればw/Aが約0.2でありt/(R2−R1)が約0.4となることが、図3によって示される。
【0015】
実際問題として、コイル設計者はR2/R1比が外部条件によって一定値に固定されていると見なし、棒の数Nは通常は実際の構成上の考慮からある範囲に制限される。本発明者が行った関数fの実際の試算によれば、R2/R1の値が十分に大きければNの値が小さくてもQ値は向上できるが、Nがあまり小さいとコイルの高周波での一様性が損なわれる。このことが、ここでN=8とした例だけを説明している理由であるが、これは本発明の範囲を限定するものではない。
【0016】
重要な問題は、コイルのフィリングファクタを好適にはコイルのQ値と同時に最大にするべきだということである。コイルのフィリングファクタは以下のように規定される無次元パラメータである:
【0017】
【数3】

【0018】
ここで分子の積分は試料体積、すなわちバードケージコイルの内部空間に対する体積積分であり、分母の積分は全空間にわたる体積積分である。フィリングファクタηは様々な棒の横断面形状に対して、上で述べたマクスウェル方程式の数値解を使用して、数式(3)で計算できる。図4はN=8かつR2/R1=3の場合について計算したフィリングファクタの値を示す。
【0019】
図3と図4とを比較することにより、ηとQ値とは同一の形状パラメータについてそれぞれ独立に最大にすることはできないので、パラメータNおよびt/(R2−R1)の最適な組み合わせを得るための兼ね合いが必要であることがわかる。その兼ね合いを実現する1つの方法は、積η×Qを最大にすることである。別の方法はηを選択された限界値よりも大きな値に維持しながらQを最大にすることである。
【0020】
これらの原理を試すために、高いQ値と大きなフィリングファクタの両方を同時に向上する実施形態が構成された。本発明者らは本発明の試作品として、R2/R1=3(w/tが1よりも大幅に小さく約0.65となるように)のときに使用されるコイルとしてN=8、w/A=0.25かつt/(R2−R1)=0.15の銅製のものを設計した。8本の銅箔製の棒を有する従来型の試作品と比較するために、R1は3.4mmに等しくし、窓の長さは14mmとし、静電容量は窓の底で石英製チューブを介して内部の銅箔製の円筒まで分布するようにし、コイルは窓の上部で短絡されるようにした。(「窓」は、棒の間の空間に対する標準的な呼び方である)。上記の寸法を有するバードケージ共鳴装置について通常の方法で測定した無負荷状態でのQ値は、RFシールドを取り付けた状態で、550MHzで562であった。比較のために、全体の寸法を同様として、N=12の箔製棒を有し、w/A=1/3、t/(R2−R1)=0.008かつR2/R1=3とした対照バードケージ共鳴装置を構成し、両方の共鳴装置の測定を行った。対照品に対する発明品の比Qinvention/Qreference=1.6が求められた。計算ではこの比は1.8と予想された。従って本発明を使用することにより実際のQ値の向上が60%以上となることが示された。
【0021】
本発明をその一例について説明してきたが、この例は本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の基礎となる考え方を説明するに過ぎない。本発明の範囲内で、様々な変形や変更が可能である。例えばバードケージ形状のままで、図3に示すような対応するQ値の等高線図がパラメータw/Aおよびt/(R2−R1)の適切な値に対応する最大値を示す限り、棒の本数Nは8である必要はない。互いに同心円の関係にある一対の円弧と半径方向の直線によって囲まれた形の横断面を有する棒を考えたが、これは上で述べたラプラス方程式(数式(2))を解くための便宜的なものである。一般に、電流が流れる導電体の鋭い縁は取り除くものである。図5および図6に示すような長円、楕円または角を丸めた長方形の横断面が好適である。図2に示すような横断面形状を有する棒の場合でも、鋭い縁は通常は研磨され(例えば化学研磨または#4仕上げにより)、加工の後で角を丸めるが、同図では角の丸めは示してない。
【0022】
上で説明したように、本発明の方法はQ値とフィリングファクタとの間の兼ね合いという要素を含んでおり、従ってこの方法は棒の断面形状を特徴付けるパラメータの最適な組を一意的に決定するものではない。しかし本発明の驚くべき結果は、従来技術のバードケージ共鳴装置では全く反対の関係であった厚みtと幅wとについて、tをwよりも大きく選択することが最も良いという事実である。換言すれば、本発明のバードケージ共鳴装置用コイルの棒は、半径方向の寸法(すなわち厚み)が方位角方向の寸法(すなわち幅)よりも大きいということで特徴付けられる。その様に寸法を選定することにより、Q値を改善する一方でフィリングファクタが多少犠牲にされるが(誘導性要素が半径方向に出っ張ってコイルの内部容積内に食い込むことにより)、しかしこの問題は設計の選択に関わることであり、容易に対処できるものである。かかる棒の形状は図2に示したものに限定されず、長方形や楕円形でもよい。この結果は、本発明により、Q値が従来技術による最良の結果と比べて、約50%向上することができるが、コイルのフィリングファクタは約20%低下することを示している。
【0023】
図5(図5A、図5Bおよび図5C)と図6(図6A、図6Bおよび図6C)は本発明の実施形態によるバードケージコイルの別の例であって、それぞれ低域通過(図5)および高域通過フィルター(図6)として機能し、横断面が円形をなす棒を有することを特徴とするものを示す。図5Dは棒の横断面の半径方向および方位角方向の寸法(tおよびw)を示す。これらの例は、棒のいずれかの端にある導電性リングが誘電性リングを備えており、この誘電性物質(ポリテトラフルオロエチレン等)が、互いに隣接して静電容量を構成する金属片の対(コンデンサバンク)の各々の間の隙間を充填して、それらの間の静電容量を増加していると共に構造の機械的な強度を向上させていることによって、さらに特徴付けられる。これらの隙間の形状は、本発明の範囲を限定するものではない。構成要素が鋭い縁を持たないことが一般に望ましいこと、また製造の容易さという観点からも、図6に示した設計が好適と考えられる。図5Cは下部リング15’が棒10の下端(またはコンデンサバンクの上端)よりも(プラスの距離dだけ)高い位置にあることを示す。下部リング15’と上部リング15とはそれらの間にRF窓を規定しており、下部リング15’は内部リング15’と下部コンデンサバンクの間の電界をシールドしている。
【0024】
本発明は上記特許文献4で説明されているような、いわゆるサドルコイルにも適用可能であることがわかっている。1つの例は、直列2巻きのサドルコイルを形成するようなパターンに従って曲げられた1本の導電性ワイヤで構成され、従ってコイルの軸方向に平行に延びる互いに平行なワイヤ部分の複数(図示の例では4本)の対を含むことを特徴とする。各対のワイヤ部分は方位角方向に一様でなく互いに近接するが間隔を開けて配置され、同じ方向に電流を流す。上記特許文献4で開示されているような従来技術によれば、通常の種類のワイヤまたは円形断面のワイヤを使用してサドルコイルが形成された。そのようなワイヤはコイルの寸法と比べると非常に小さな横断面寸法を有し、ワイヤの横断面の検討を通してQ値を改善することはない。箔形状の導電体でサドルコイルを構成することも一般に行われているが、この場合は上で説明した理由によりQ値を制限する可能性がある。図4に示したようなサドルコイルは、従来ヘルムホルツ対として知られており、電流を流すループが第一のグループを形成しており、この第一のグループは第二のグループと対向して直列に配設されている。NMRの用途では、これらのループは(普通は)曲面(有感体積の方位角方向の寸法)に制約されており、各ループの2つの部分が感度を有する体積の円筒形の軸と平行/逆平行となっている。ヘルムホルツ対はまた、電気的にも並列の関係となっている。これらのタイプのサドルコイルとバードケージコイルとは、全く異なる形状を有する。
【0025】
図7(図7A、図7Bおよび図7C)は、本発明の実施形態による2巻きの直列サドルコイルを示す。これは同一のパターンに従って曲げられたワイヤで形成されるが、ワイヤは円形に近い横断面を有する通常のタイプのものではなく、角度方向の幅wが半径方向の厚みよりもかなり小さい扁平な形状をしている点で異なる。図7Cは図7A〜図7Bのサドルコイルの断面を分かりやすく示すものである。このサドルコイルは、部分25によって結合された軸方向の部分20を有する導電体で構成された巻き線を備えている。1つの巻き線部分は次の巻き線部分に隣接する(図示の2巻きのサドルコイルの場合)か、またはコイルの軸に関して反対側に配設された巻き線部分と直列に接続される。軸方向の導電体20は通常、少なくとも一対の広い窓28、すなわち同じ1巻きを構成する隣接する導電体20の間の開口の角度方向の開きをなすように、間隔を開けて配置されている。従って、これらの導電体の間には広い間隔があいている一方で、異なる巻き線部分の隣接する導電体(20および20’)は比較的近接して配置されている。この典型的な間隔は明らかに方位角方向に一様ではない。相対的な横断面寸法tおよびwは上で述べた理由に一般的に従って選定され、寸法0.02”×0.07”の扁平な楕円形横断面を有する導電体からなる直列のサドルコイルが構成された。同じ形状と全体の寸法とを有する第二のサドルコイルを、0.025”の円形断面のワイヤを使用して構成した。扁平な楕円形横断面に対するQ値の測定により、従来の横断面の例における380という値に対して9.5%向上した420という値が得られた。これらの典型的な結果は、バードケージコイルに対するQ値の最適化と一致するものである。これらの結果を検討すると、直列サドルコイルの形状はバードケージ共鳴装置の周期的なラダー形状と全く異なるが、Q値の一般的な抵抗依存性は類似していることを想起させられる。この結果は、NMR共鳴装置のQ値を改善する有力な道を示すものである。NMR共鳴装置の誘導性要素の断面が内側に向かって延びることで、フィリングファクタを犠牲にしてQ値を改善する方法を提供する。実際問題として、後者の量は試料の寸法および/または実現可能な信号雑音比を制限するが、しかしこれらはそれぞれ独立にユーザーの判断にゆだねられるものである。誘導性要素の断面が外側に向かって延びることで周囲のRFシールドに関するRF損失と引き換えにQ値の同じ改善が得られるが、後者は通常は固定した寸法的制約を表すものである。
【0026】
本発明によるアプローチは、主に小さな試料のイメージング、またはコイルのQ値が重要となる分光目的に有用であると考えられるが、NMRの感度はQ値の平方根に比例する。
本発明を特定の実施形態について説明してきたが、当業者であれば上記の教示について他の変形や変更を思いつくであろう。本発明は、広範囲のタイプのNMR共鳴装置のQ値を向上するために有用に使用できる。添付の特許請求の範囲内において、本発明はここに説明した以外の仕方で実施可能であることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態によるバードケージ共鳴装置コイルの斜視図である。
【図2】図1のバードケージコイルとそれを取り囲む高周波シールドとを軸方向に見た断面図である。
【図3】2つの選択されたパラメータの関数としての図1および図2のコイルのQ値に関わる関数の値の二次元等高線図である。
【図4】図3と同じ2つのパラメータの関数としての図1および図2のコイルのフィリングファクタの二次元等高線図である。
【図5】低域通過フィルターとして機能する本発明の実施形態による別のバードケージ共鳴装置用コイルを示しており、図5Aは斜視図であり、図5Bは図5Cの5B−5B断面での断面図であり、図5Cはその側面図であり、図5Dは導電体の横断面を示す詳細図である。
【図6】高域通過フィルターとして機能する本発明の実施形態による更に別のバードケージ共鳴装置用コイルを示しており、図6Aは斜視図であり、図5Bは図5Cの6B−6B断面での断面図であり、図6Cはその側面図である。
【図7】図7Aおよび図7Bは本発明の実施形態によるサドルコイルの斜視図であり、7Cはこの構造の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルの中心軸のまわりに間隔を開けて配設された複数の細長い導電体であって、前記導電体の各々は前記軸のまわりに方位角方向に広がる幅wと前記軸から半径方向の厚みtとを有する断面形状を有し、前記厚みtを前記幅wよりも大きくして前記コイルのQ値を最適化した導電体を備えたNMR共鳴装置。
【請求項2】
前記軸上に互いに間隔を開けて対向する関係に配置され、前記細長い導電体によって互いに接続された一対の導電体リングを更に備え、バードケージコイルを構成している、請求項1記載のNMR共鳴装置。
【請求項3】
少なくとも1巻きのサドルコイルであって、各1巻きにより4本の前記細長い導電体が提供される、請求項1記載のNMR共鳴装置。
【請求項4】
Z軸を有するサドルコイルを備え、
前記サドルコイルが、横断面の概略の寸法がt×wであり、t>wである横断面形状を有する導電体で形成され、前記導電体が前記軸に関して半径方向に前記寸法tを示すような向きにされている、NMR共鳴装置。
【請求項5】
前記サドルコイルが直列のヘルムホルツ対を有する、請求項4記載のサドルコイル。
【請求項6】
前記サドルコイルが並列のヘルムホルツ対を有する、請求項4記載のサドルコイル。
【請求項7】
共鳴装置用バードケージコイルを製造する方法であって、前記コイルが中心軸に沿って互いに間隔を開けて配置された一対の導電性リングと、これらのリングの間にわたって延び前記中心軸のまわりに等間隔に配置された複数の直線状の細長い導電性の棒とを有し、前記棒の各々が前記中心軸のまわりの方位角方向の幅wと半径方向の厚みtとを有する断面形状を有しており、前記方法が、
tがwよりも大きくなるようにwとtとの値を決定するステップであって、前記バードケージ共鳴装置用コイルが、前記幅が前記厚みと等しいかそれよりも大きく、同等のバードケージ共鳴装置用コイルよりも高いQ値を有するようにするステップを含む方法。
【請求項8】
前記棒がその中に半径R1の円筒形の試料用空間を規定し、前記共鳴装置用コイルが半径R2の円筒形の内面を有する高周波シールドの内部に配置されており、wおよびtの値が少なくとも部分的にはR1とR2との関連で、
半径方向および方位角方向の座標系でのマクスウェル方程式を解いて磁界のベクトルポテンシャルAzを求めるステップと、
前記磁界のベクトルポテンシャルから横方向の磁界B(r,θ)を計算するステップと、
wとtとをパラメータとして前記コイルのQ値の抵抗成分を計算するステップと、
wとtとをパラメータとして前記コイルのフィリングファクタを計算するステップと、
対応するフィリングファクタを所定の限界を超えて低下させずに対応するQ値を最大にするようにwおよびtの値を選定するステップとによって決定される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記Q値を計算するステップが、∫Az∇Az・n0dl/∫(∇Az・n02dlを計算するステップであって、記号∫dlは各々前記棒の1つの周囲での線積分を示し、n0は前記1つの棒に垂直な局所的な単位ベクトルを示すステップを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
2個の銅の固体片を加工して、前記選定ステップで得られた寸法を有する前記コイルを形成するステップを更に含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記コイルの鋭い縁を滑らかにするステップを更に含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記棒を研磨して鋭い縁を丸めるステップを更に含む、請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記研磨するステップが化学研磨を利用して実行される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記研磨するステップが#4仕上げを利用して実行される、請求項13記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Z軸を有するサドルコイルを備え、
前記サドルコイルが、横断面の概略の寸法がt×wであり、t>wである横断面形状を有する導電体で形成され、前記導電体が前記軸に関して半径方向に前記寸法tを示すような向きにされている、NMR共鳴装置。
【請求項2】
前記サドルコイルが直列のヘルムホルツ対を有する、請求項記載のサドルコイル。
【請求項3】
前記サドルコイルが並列のヘルムホルツ対を有する、請求項記載のサドルコイル。
【請求項4】
共鳴装置用バードケージコイルを製造する方法であって、前記コイルが中心軸に沿って互いに間隔を開けて配置された一対の導電性リングと、これらのリングの間にわたって延び前記中心軸のまわりに等間隔に配置された複数の直線状の細長い電気的に抵抗のある導電性の棒とを有し、前記棒の各々が前記中心軸のまわりの方位角方向の幅wと半径方向の厚みtとを有する断面形状を有しており、前記棒がその中に半径R1の円筒形の試料用空間を規定し、前記共鳴装置用コイルが半径R2の円筒形の内面を有する高周波シールドの内部に配置されており、前記方法が、
tがwよりも大きくなるようにwとtとの値を決定するステップであって、前記バードケージ共鳴装置用コイルが、前記幅が前記厚みと等しいかそれよりも大きく、同等のバードケージ共鳴装置用コイルよりも高いQ値を有するようにするステップを含み、wおよびtの値が少なくとも部分的にはR1とR2との関連で、
半径方向および方位角方向の座標系でのマクスウェル方程式を解いて磁界のベクトルポテンシャルAzを求めるステップと、
前記磁界のベクトルポテンシャルから横方向の磁界B(r,θ)を計算するステップと、
wとtとをパラメータとして前記コイルのQ値の抵抗成分を計算するステップと、
wとtとをパラメータとして前記コイルのフィリングファクタを計算するステップと、
対応するフィリングファクタを所定の限界を超えて低下させずに対応するQ値を最大にするようにwおよびtの値を選定するステップとによって決定される方法。
【請求項5】
前記Q値を計算するステップが、∫Az∇Az・n0dl/∫(∇Az・n02dlを計算するステップであって、記号∫dlは各々前記棒の1つの周囲での線積分を示し、n0は前記1つの棒に垂直な局所的な単位ベクトルを示すステップを含む、請求項記載の方法。
【請求項6】
2個の銅の固体片を加工して、前記選定ステップで得られた寸法を有する前記コイルを形成するステップを更に含む、請求項記載の方法。
【請求項7】
前記コイルの鋭い縁を滑らかにするステップを更に含む、請求項記載の方法。
【請求項8】
前記棒を研磨して鋭い縁を丸めるステップを更に含む、請求項記載の方法。
【請求項9】
前記研磨するステップが化学研磨を利用して実行される、請求項記載の方法。
【請求項10】
前記研磨するステップが#4仕上げを利用して実行される、請求項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−500082(P2006−500082A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−584747(P2003−584747)
【出願日】平成15年3月19日(2003.3.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/008472
【国際公開番号】WO2003/087860
【国際公開日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【Fターム(参考)】