説明

高エネルギー留出燃料の製造方法

高芳香族炭化水素供給流を高品質化する方法が、(a)大部分の沸点範囲が約300°F〜約800°Fである高芳香族炭化水素供給流を、触媒条件下、触媒システムと接触させる工程であって、前記触媒システムは水素化処理触媒及び水素化/水素化分解触媒を単一段階反応器システムに含み、前記水素化/水素化分解触媒中の活性金属は、約5重量%〜30重量%のニッケル及び約5重量%〜30重量%のタングステンを含む、工程、並びに(b)前記高芳香族炭化水素供給流の少なくとも一部を、沸点範囲がジェット又はディーゼル沸点範囲内にある生成物流に転化する工程、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒組成物及びその水素化転化プロセスにおける使用に関するものであり、そのプロセスでは触媒組成物存在下で芳香族化合物を含む炭化水素油を水素と接触させる。具体的には、本発明は、単一反応器、二段階触媒システムを用いて、及び、単一反応器、単一段階触媒システムを用いて、重質炭化水素供給流をジェット及びディーゼル生成物に転化するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
FCC軽質循環油(「LCO」)、中間循環油(「MCO」)及び重質循環油(「HCO」)等の重質炭化水素流は、比較的低価値である。典型的には、このような炭化水素流は水素化転化を通して高品質化される。典型的には、このような炭化水素流は水素化転化を通して高品質化される。
【0003】
当該技術分野においては、水素化処理触媒が良く知られている。従来の水素化処理触媒には、耐熱性の酸化物担体上に担持させた少なくとも1つのVIII族の金属成分及び/又は少なくとも1つのVIB族の金属成分が含まれる。VIII族の金属成分は、ニッケル(Ni)及び/又はコバルト(Co)等の非貴金属に基づく場合もあるし、白金(pt)及び/又はパラジウム(Pd)等の貴金属に基づく場合もある。VIB族の金属成分には、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)に基づくものが含まれる。最も一般的に適用される耐熱性の酸化物担体材料は、シリカ、アルミナ、及びシリカ・アルミナ等の無機酸化物、並びに改質ゼオライトY等のアルミノケイ酸塩である。従来の水素化処理触媒の例は、NiMo/アルミナ、CoMo/アルミナ、NiW/シリカ・アルミナ、Pt/シリカ・アルミナ、PtPd/シリカ・アルミナ、Pt/改質ゼオライトY、及びPtPd/改質ゼオライトYである。
【0004】
普通、水素化処理触媒を用いるのは、炭化水素油供給物を水素に接触させて、その芳香族化合物、硫黄化合物、及び/又は窒素化合物の含有量を減らすプロセスにおいてである。典型的には、芳香族含有量を減らすことが主な目的である水素化処理プロセスは水素化プロセスと言われ、一方で、主に硫黄及び/又は窒素含有量を減らすことを中心とするプロセスは、それぞれ水素化脱硫及び水素化脱窒素と言われる。
【0005】
マルモ(Marmo)の米国特許第4,162,961号では、循環油の水素化を、水素化プロセスの生成物を分留できるような条件の下で行なうことについて開示している。
【0006】
マイアズ(Myers)らの米国特許第4,619,759号では、残油及び軽質循環油を含む混合物の接触水素化処理を複数の触媒床において行なうことについて開示している。複数の触媒床では、供給原料を最初に接触させる触媒床部分に、アルミナ、コバルト、及びモリブデンを含む触媒が含まれ、供給原料が第1部分を通った後に送られる触媒床の第2部分に、モリブデンとニッケルとが付加されたアルミナを含む触媒が含まれる。
【0007】
キルカー(Kirker)らの米国特許第5,219,814号では、高芳香族の実質的に脱アルキル化された供給原料を処理して、ハイ・オクタン・ガソリンと低硫黄蒸留物とにする中圧水素化分解プロセスについて開示している。この処理は、好ましくは超安定YとVIII族の金属及びVI族の金属を含む触媒上で水素化分解することによって行ない、VIII族の金属含有量を、超安定Y成分の骨格アルミニウム含有量に特定の割合で取り入れている。
【0008】
カルネス(Kalnes)の米国特許第7,005,057号では、超低硫黄ディーゼルを生成するための接触水素化分解プロセスについて開示している。接触水素化分解プロセスでは、炭化水素供給原料を高温高圧で水素化分解してディーゼル沸点範囲の炭化水素へ転化することを得る。
【0009】
バレ(Barre)らの米国特許第6,444,865号では、触媒として、白金、パラジウム、及びイリジウムの1又は複数から選択される0.1〜15重量%の貴金属、並びに、2〜40重量%のマンガン及び/又はレニウムを、酸性担体上に担持させたものを含む触媒について開示している。この触媒は、芳香族化合物を含む炭化水素供給原料を水素の存在下で高温で触媒に接触させるプロセスで用いられる。
【0010】
バレらの米国特許第5,868,921号では、蒸留留分を下流方向に2種の水素化処理触媒からなる積層床上に送ることによって、単一段階で水素化処理される炭化水素蒸留留分について開示している。
【0011】
フジカワ(Fujukawa)らの米国特許第6,821,412号では、規定量の白金、パラジウムを含むガス油の水素化処理を行なうための触媒であって、結晶子径が20〜40Åの結晶アルミナを含む無機酸化物に担持される触媒について開示している。また、芳香族化合物を含むガス油を、前述の触媒が存在する状態で規定の条件で水素化処理するための方法についても開示している。
【0012】
キルカーらの米国特許第4,968,402号では、高芳香族炭化水素の供給原料からハイ・オクタン・ガソリンを生成するための一段階プロセスについて開示している。
【0013】
ブラウン(Brown)らの米国特許第5,520,799号では、蒸留物供給物を高品質化するためのプロセスについて開示している。水素化処理触媒を、通常は反応条件下の固定床反応器である反応領域内に配置して、低芳香族ディーゼル及びジェット燃料を生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ガス油供給原料を触媒を用いて水素の存在下で単一段階反応器において水素化処理する方法に関する。具体的には、本発明の方法は、ガス油供給原料を高品質化してジェット及び/又はディーゼル生成物にする方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一実施形態においては、本発明は、高芳香族炭化水素供給流を高品質化する方法に関するものであって、(a)大部分の沸点範囲が約300°F〜約800°Fである高芳香族炭化水素供給流を、触媒条件下、触媒システムと接触させる工程であって、前記触媒システムは単一段階反応器システムに水素化処理触媒及び水素化/水素化分解触媒を含み、前記水素化/水素化分解触媒中の活性金属は、約5重量%〜30重量%のニッケル及び約5重量%〜30重量%のタングステンを含む、工程、並びに(b)前記高芳香族炭化水素供給流の少なくとも一部を、沸点範囲がジェット又はディーゼル沸点範囲内にある生成物流に転化する工程、を含む方法に関する。
【0016】
別の実施形態においては、本発明は下記方法によって調製される炭化水素系生成物に関するものであって、その方法は(a)大部分の沸点範囲が約300°F〜約800°Fである高芳香族炭化水素供給流を、触媒条件下、触媒システムと接触させる工程であって、前記触媒システムは単一段階反応器システムに水素化処理触媒及び水素化/水素化分解触媒を含み、前記水素化/水素化分解触媒中の活性金属は約5重量%〜30重量%のニッケル及び約5重量%〜30重量%のタングステンを含む、工程、並びに(b)前記高芳香族炭化水素供給流の少なくとも一部を、沸点範囲がジェット又はディーゼル沸点範囲内にある生成物流に転化する工程、を含む方法である、炭化水素系生成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ナフサ、ジェット、及びディーゼルを生成するための従来の2段階プロセスを開示する図である。
【0018】
【図2】高エネルギー密度のナフサ、ジェット及び、ディーゼルを生成するための単一段階階プロセスを開示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は種々の変更及び代替的な形態が可能であるが、本明細書ではその特定の実施形態について詳細に説明する。しかし次のことを理解されたい。すなわち、本明細書における特定の実施形態についての説明は、本発明を開示した特定の形態に限定することを意図するものではなく、それどころか、意図していることは、添付の請求項によって規定される本発明の趣旨及び範囲に含まれるすべての変更、均等物、及び代替案に及ぶということである。
【0020】
[定義]
FCCは、流動接触分解器(fluid catalytic cracker)、流動接触分解すること(−ing)、又は流動接触分解された・されること(−ed)を指す。
HDTは、「水素化処理器(hydrotreater)」を指す。
HDCは、「水素化分解器(hydrocracker)」を指す。
MUH2は、「補給水素(makeup hydrogen)」を指す。
【0021】
水素化/水素化分解触媒は、「水素化触媒(hydrogenation catalyst)」又は「水素化分解触媒(hydrocracking catalyst)」と言っても良い。
【0022】
用語「供給物(feed)」、「供給原料(feedstock)」、又は「供給流(feedstream)」は交換可能に用いても良い。
A.概略
【0023】
図1を参照して、ナフサ、ジェット、及びディーゼルを生成する既知の方法について一般的に説明する。図1に示す実施形態においては、炭化水素ガス油110を水素化処理器10に供給して硫黄/窒素除去を図る。水素化処理された生成物120を高圧セパレータ20に供給して、そこで反応器流出物をガス130及び液体流150に分離する。生成物ガス130を再循環ガス圧縮機30によって再圧縮して、流れ140を生成する。流れ140を次に、反応器入口内に再循環して、そこで流れ140を補給水素100及び炭化水素ガス油供給物110と混合する。液体流150を液面制御バルブ25において減圧し、低圧セパレータ40において生成物をガス流160及び液体流170に分離する。
【0024】
第2段補給水素200及び第2段再循環ガス240と共に第1段液体生成物170を第2段反応器60内に供給する。第2段反応器から出た流出物220を第2段高圧セパレータ70内に供給して、そこで反応器流出物をガス230及び液体流250に分離する。生成物ガス230を再循環ガス圧縮機80によって再圧縮して流れ240を生成する。次に流れ240を反応器入口内に再循環して、そこで補給水素200及び炭化水素ガス油供給物210と混合する。液体流250を液面制御バルブ75において減圧し、低圧セパレータ90において生成物をガス流260及び液体流270に分離する。生成物流270を蒸留システム50に供給し、そこで生成物270を分離し、ガス流310、ナフサ生成物90、並びに高体積エネルギー・ジェット燃料100及びディーゼル110を生成する。任意に、ディーゼル300の一部を第2段反応器60に再循環して、ジェット/ディーゼル生成物スレートを平衡させることができる。
【0025】
図2に、本発明の実施形態を記載する。図2に示す実施形態においては、炭化水素ガス油410を水素化処理器反応器510に供給して硫黄/窒素除去を図り、次に水素化/水素化分解反応器560に直接送る。水素化/水素化分解生成物420を高圧セパレータ520に供給して、そこで反応器流出物をガス430及び液体流450に分離する。生成物ガス430を再循環ガス圧縮機530によって再圧縮して、流れ440を生成する。次に流れ440を反応器入口内に再循環して、そこで流れ440を補給水素400及び炭化水素ガス油供給物410と混合する。液体流450を液面制御バルブ525において減圧し、低圧セパレータ540において生成物をガス流460及び液体流570に分離する。
【0026】
生成物流470を蒸留システム550に供給し、そこで生成物470を分離して、ガス流410、ナフサ生成物490、並びに高体積エネルギー・ジェット燃料600及びディーゼル610を生成する。任意に、ディーゼル流600の一部を第2段反応器460に再循環して、ジェット/ディーゼル生成物スレートを平衡させることができる。
B.供給物
【0027】
炭化水素ガス油を高品質化してジェット又はディーゼルにしても良い。炭化水素ガス油供給原料は、FCC軽質循環油を含むFCC流出物、ジェット燃料の留分、コーカー(coker)生成物、石炭液化油、重質油熱分解プロセスからの生成油、重質油水素化分解からの生成油、原油設備から取り除いた直留、及びこれらの混合物から選択され、供給原料の大部分は、沸点範囲が約250°F〜約800°F、好ましくは約300°F〜約600°Fである。用語「大部分」は、本明細書及び添付の請求項で用いる場合、少なくとも50重量%を意味するものとする。
【0028】
典型的には、供給原料は、高芳香族であり、約80重量%までの芳香族、3重量%までの硫黄、及び1重量%までの窒素を有する。好ましくは、供給原料は、少なくとも40重量%の芳香族の芳香族炭素含有量を有する。典型的には、セタン価は約25単位である。
C.触媒
【0029】
本発明で用いる触媒システムは、水素化処理触媒及び水素化/水素化分解触媒からなる少なくとも2つの触媒層を備えている。任意に、触媒システムは、少なくとも1つの脱金属触媒層及び少なくとも1つの第2水素化処理触媒層を備えていても良い。水素化処理触媒は、VIB族からの金属及びVIII族からの金属、それらの酸化物、それらの硫化物、並びにこれらの混合物等の水素化成分を含んでおり、並びに、フッ素、少量の結晶性ゼオライト又はアモルファスシリカ・アルミナ等の酸性成分を含んでいても良い。
【0030】
水素化分解触媒は、VIB族からの金属及びVIII族からの金属、それらの酸化物、それらの硫化物、並びにこれらの混合物等の水素化成分を含んでおり、並びに、結晶性ゼオライト又はアモルファスシリカ・アルミナ等の酸性成分を含んでいる。
【0031】
水素化分解触媒の製造に対する良好な出発物質と考えられるゼオライトの1つは、良く知られた合成ゼオライトYであり、1964年4月21日に発行された米国特許第3,130,007号に記載されている通りである。この材料に対する多くの改質が報告されている。その1つは超安定Yゼオライトであり、1970年10月27日に発行された米国特許第3,536,605号に記載されている通りである。合成Yゼオライトの有用性をさらに高めるために、追加成分を添加することができる。例えば、1974年9月10日に発行されたワード(Ward)らの米国特許第3,835,027号には、水素化分解触媒として、少なくとも1種のアモルファス耐熱性酸化物と、結晶性ゼオライト系アルミノ珪酸塩と、VI族及びVIII族の金属並びにそれらの硫化物及びそれらの酸化物から選択される水素化成分と、を含むものが記載されている。
【0032】
水素化分解触媒として、約17重量パーセントのアルミナ結合剤、約12重量パーセントのモリブデン、約4重量パーセントのニッケル、約30重量パーセントのYゼオライト、及び約30重量パーセントのアモルファスシリカ/アルミナを含む、共磨砕されたゼオライト系触媒であるもの。この水素化分解触媒は、米国特許出願第870,011号に概略的に説明されている。この出願は、M.M.ハビブ(Habib)らによって1992年4月15日になされ、今は放棄されているが、その完全な開示が本明細書において参照により取り入れられている。このより一般的な水素化分解触媒は、単位格子サイズが約24.55オングストロームよりも大きく結晶サイズが約2.8ミクロンよりも小さいYゼオライトと共に、アモルファス分解成分と、結合剤と、VI族の金属及び/又はVIII族の金属並びにこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの水素化成分とを含む。
【0033】
本明細書の本発明により用いるYゼオライトを調製する際、米国特許第3,808,326号に開示されるプロセスに従って、結晶サイズが約2.8ミクロンよりも小さいYゼオライトを生成すべきである。
【0034】
より具体的には、水素化分解触媒は、好適には、約30重量%〜90重量%のYゼオライト及びアモルファス分解成分、並びに約70重量%〜10重量%の結合剤を含んでいる。好ましくは、触媒は、やや多い量のYゼオライト及びアモルファス分解成分を含む。すなわち、約60重量%〜90重量%のYゼオライト及びアモルファス分解成分、並びに約40重量%〜10重量%の結合剤であり、特に好ましくは、約80重量%〜85重量%のYゼオライト及びアモルファス分解成分、並びに約20重量%〜15重量%の結合剤である。好ましくは、アモルファス分解成分としてシリカ・アルミナを用いる。
【0035】
触媒中のYゼオライトの量は、ゼオライト及び分解成分の総量の約5重量%〜70重量%の範囲である。好ましくは、触媒組成物中のYゼオライトの量は、ゼオライト及び分解成分の総量の約10重量%〜60重量%の範囲であり、最も好ましくは、触媒組成物中のYゼオライトの量は、ゼオライト及び分解成分の総量の約15重量%〜40重量%の範囲である。
【0036】
所望の単位格子サイズに応じて、YゼオライトのSiO/Alモル比を調整する必要がある場合がある。単位格子サイズを相応に調整することに適用可能な多くの技術が当該技術分野において記述されている。Yゼオライトとして、SiO/Alモル比が約3〜約30のものが、本発明による触媒組成物のゼオライト成分として好適に適用可能であることが分かっている。好ましくは、Yゼオライトとして、SiO/Alモル比が約4〜約12であるもの、最も好ましくはSiO/Alモル比が約5〜約8であるものである。
【0037】
水素化分解触媒中の、シリカ・アルミナ等の分解成分の量は、約10重量%〜50重量%、好ましくは約25重量%〜35重量%の範囲である。シリカ・アルミナ中のシリカの量は、約10重量%〜70重量%の範囲である。好ましくは、シリカ・アルミナ中のシリカの量は約20重量%〜60重量%であり、最も好ましくは、シリカ・アルミナ中のシリカの量は約25重量%〜50重量%の範囲である。また、いわゆるX線アモルファスゼオライト(すなわち、結晶子サイズが小さすぎて標準的なX線技術では検出されないゼオライト)を、本発明のプロセス実施形態による分解成分として好適に適用することができる。また触媒には、フッ素が約0.0重量%〜約2.0重量%のレベルで含まれていても良い。
【0038】
水素化分解触媒中に存在する結合剤には好適に、無機酸化物が含まれる。アモルファス及び結晶性結合剤の両方を適用することができる。好適な結合剤の例としては、シリカ、アルミナ、クレイ、及びジルコニアが挙げられる。好ましくは、アルミナを結合剤として用いる。
【0039】
触媒中の水素化成分の量は、好適には、VIII族の金属成分の約0.5重量%〜約30重量%の範囲であり、VI族の金属成分の約0.5重量%〜約30重量%の範囲である。これらは、全触媒100重量部当たりの金属として計算される。触媒中の水素化成分は、酸化物及び/又は硫化物の形態であっても良い。少なくともVI族とVIII族の金属成分の組み合わせが(混合)酸化物として存在する場合、水素化分解で適切に用いる前に、硫化処理を施す。
【0040】
好適には、触媒は、ニッケル及び/若しくはコバルトのうちの1若しくは複数の成分、並びにモリブデン及び/若しくはタングステンのうちの1若しくは複数の成分、又は、白金及び/若しくはパラジウムのうちの1若しくは複数の成分を含む。
【0041】
水素化処理触媒は、約2重量%〜20重量%のニッケル及び約5重量%〜20重量%のモリブデンを含む。好ましくは、触媒は3%〜10%のニッケル及び約5%〜20%のモリブデンを含む。より好ましくは、触媒は、約5重量%〜10重量%のニッケル及び約10重量%〜15重量%のモリブデンを含む。これらは、全触媒100重量部当たりの金属として計算される。さらにより好ましくは、触媒は、約5%〜8%のニッケル及び約8%〜約15%のニッケルを含む。水素化処理触媒中で用いる金属の全重量パーセントは、少なくとも15重量%である。
【0042】
一実施形態においては、ニッケル触媒対モリブデン触媒の比率は約1:1以下である。
【0043】
水素化/水素化分解触媒中の活性金属は、ニッケル及び少なくとも1種又は複数種のVIB金属を含む。好ましくは、水素化/水素化分解触媒は、ニッケル及びタングステン、又は、ニッケル及びモリブデン、を含む。典型的には、水素化/水素化分解触媒中の活性金属は、約3重量%〜30重量%のニッケル及び約2重量%〜30重量%のタングステンを含む。これらは、全触媒100重量部当たりの金属として計算される。好ましくは、水素化/水素化分解触媒中の活性金属は、約5重量%〜20重量%のニッケル及び約5重量%〜20重量%のタングステンを含む。より好ましくは、水素化/水素化分解触媒中の活性金属は、約7重量%〜5重量%のニッケル及び約8重量%〜15重量%のタングステンを含む。最も好ましくは、水素化/水素化分解触媒中の活性金属は、約9重量%〜15重量%のニッケル及び約8重量%〜13重量%のタングステンを含む。金属の全重量パーセントは約25重量%〜約40重量%である。
【0044】
任意に、水素化/水素化分解触媒の酸性度を、少なくとも1重量%のフッ化物、好ましくは約1〜2重量%のフッ化物を添加することによって高めても良い。
【0045】
別の実施形態においては、水素化/水素化分解触媒の代わりに、同様に高活性の卑金属触媒を用いても良い。この場合、支持体はアモルファスアルミナもしくはシリカ又は両方であり、約0.5重量%〜約15重量%の濃度であるH−Y等のゼオライトによって酸性度が高められる。
【0046】
水素化処理触媒粒子の有効径は約0.1インチであり、水素化分解触媒粒子の有効径も約0.1インチであった。2つの触媒を、約1.5:1の水素化処理触媒対水素化分解触媒の重量比で混合する。
【0047】
任意に、脱金属触媒を触媒システムにおいて用いても良い。典型的には、脱金属触媒は、大孔性アルミナ支持体上に配置されたVIB族及びVIII族の金属を含む。金属は、大孔性アルミナ支持体上に配置されたニッケル、モリブデンなどを含んでいても良い。好ましくは、少なくとも約2重量%のニッケルを使用し、少なくとも約6重量%のモリブデンを使用する。少なくとも約1重量%のリンで脱金属触媒を促進しても良い。
【0048】
任意に、第2水素化処理触媒を触媒システムにおいて用いても良い。第2水素化処理触媒は、本明細書で説明したものと同様の水素化処理触媒を含んでいる。
D.生成物
【0049】
本発明で用いる方法によって、重質炭化水素供給流が高品質化されてジェット及び/又はディーゼル生成物になる。本プロセスの生成物には、高エネルギー密度のジェット及びディーゼル燃料が含まれる。典型的には、生成物流は、芳香族飽和度(すなわち、低芳香族含有量)が70重量%以上である。また生成物は、エネルギー密度が、120,000Btu/galよりも大きく、好ましくは125,000Btu/galよりも大きい。ジェット燃料生成物は、煙点が20mmよりも大きい。またジェット燃料生成物は、凝固点が−40℃よりも低い。好ましくは、凝固点は−50℃よりも低い。ディーゼル生成物は、セタン指数が少なくとも40である。
E.プロセス条件
【0050】
本発明の一実施形態は、高エネルギー留出燃料であって、好ましくは沸点範囲がジェット及び/又はディーゼル沸点範囲内にある留出燃料の製造方法である。この方法は、本明細書で説明したように、重質高芳香族炭化水素供給物を、水素化処理触媒及び水素化分解触媒からなる触媒システムと接触させることを含む。反応システムは、本質的に同じ圧力及び再循環ガス流量の下で単一段階反応プロセスとして動作する。反応システムには2つのセクションがある。水素化処理セクション及び水素化分解セクションであり、これらは直列に配置されている。水素化処理セクションと水素化分解セクションとの間には、触媒を通る流れに起因する圧力低下によって生じる圧力差が存在する。圧力差は約200psi以下である。より好ましくは、圧力差は100psi以下である。最も好ましくは、圧力差は50psi以下である。
【0051】
代表的な供給原料としては、流動接触分解循環油、熱分解蒸留物、及び直留蒸留物等の高芳香族製油所流が挙げられ、これらは原油設備に由来する。これらの供給原料は、一般的に沸点範囲が約200°Fを超えており、一般的に沸点範囲が350°F〜約750°Fである。
【0052】
炭化水素供給原料を水素に、触媒システムの存在下で高品質化条件下で接触させる。高品質化条件は一般的に、以下のものを含む。温度の範囲が約550°F〜約775°F、好ましくは約650°F〜約750°F、最も好ましくは約700°F〜約725°Fであり、圧力が約750ポンド/平方インチ絶対圧力(psia)〜約3,500psia、好ましくは約1,000psia〜約2,500psia、最も好ましくは約1250psia〜約2000psiaであり、液空間速度(LHSV)が約0.2〜約5.0、好ましくは約0.5〜約2.0、最も好ましくは約0.8〜約1.5であり、油対ガス比が約1,000標準立方フィート/バレル(scf/bbl)〜約15,000scf/bbl、好ましくは約4,000scf/bbl〜約12,000scf/bbl、最も好ましくは約6,000scf/bbl〜約10,000scf/bblである。
【0053】
F.プロセス機器
本発明の触媒システムは種々の構成で用いることができる。しかし本発明では、触媒を単一段階反応システムにおいて用いる。好ましくは、反応システムは、水素化処理器及び水素化分解器の反応器を備え、これらは同じ再循環ガス・ループ及び本質的に同じ圧力で動作する。例えば、高芳香族供給物を、水素化処理及び水素化分解触媒を含む高圧反応システムに導入する。供給物を、再循環させた水素と組み合わせて、水素化処理触媒を含む第1セクション及び水素化分解触媒を含む第2セクションを備える反応システムに導入する。第1セクションは、水素化処理触媒を含む少なくとも1つの反応床を備える。第2セクションは、水素化分解触媒を含む少なくとも1つの反応床を備える。両方のセクションは同じ圧力で動作する。反応条件下では、その中で高芳香族供給物は極めて高いレベルまで飽和して、高飽和生成物が生成される。反応システムからの流出物は、沸点範囲がジェット及びディーゼル範囲内にある高飽和生成物である。反応が起きた後に、反応生成物を分離装置(すなわち、蒸溜塔など)に供給して、高エネルギー密度ジェット、高エネルギー密度ディーゼル、ナフサ、及び他の生成物を分離する。未反応生成物を反応システムに再循環させて、ジェット又はディーゼル生成を最大にするためのさらなる処理を図っても良い。
【0054】
他の実施形態が当業者には明らかである。
【0055】
以下の例は、本発明の特定の実施形態を例示するために示すものであり、決して本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0056】
【表1】

【0057】
(例1)
沸点範囲が約300°F〜775°Fの沸点範囲及びnDM法で測定したときに73%の芳香族炭素含有量を有する軽質及び中間循環油のブレンド(すなわち、例Aからの供給物A)を、触媒システムを備えて液空間速度(LHSV)が1.01/Hrの単一段階反応器に供給した。触媒システムを用いて生成物を生成した。この触媒システムは、脱金属触媒、水素化処理触媒、及び水素化/水素化分解触媒の層を備えていた。脱金属触媒は、大孔性支持体上に配置されたVI族及びVIII族の金属、具体的には2重量%のニッケル及び6重量%のモリブデンを含んでいた。リンで触媒を促進した。水素化処理触媒は、大表面積のアルミナの非酸性支持体に配置されたVI族及びVIII族の金属触媒からなっていて、それはリンで促進されたものであった。全金属は20重量%であった。水素化/水素化分解触媒は、大面積のアモルファスシリカ・アルミナ上に配置された20重量%ニッケル/20重量%タングステンからなる高活性卑金属触媒であり、2重量%のフッ化物をフッ酸として添加することによって酸性度を高めた。反応器の温度は650°Fであった。圧力が2130p.s.i.gの水素を反応器に、8000scf/bblのレートで供給した。圧力差は0psiである。表1に、反応生成物収率を示す。
【表2】


【表3】

【0058】
(例2)
280°Fの初留点及び570°Fの終留点並びにnDM法で測定したときに62%の芳香族炭素含有量を有する軽質循環油供給物を、触媒システムを備えて液空間速度(LHSV)が1.01/Hrである反応器に供給した。触媒システムを用いて生成物を生成した。この触媒システムは、脱金属触媒、水素化処理触媒、及び水素化/水素化分解触媒の層を備えていた。脱金属触媒は、大孔性支持体上に配置されたVI族及びVIII族の金属、具体的には2重量%のニッケル及び6重量%のモリブデンを含んでいた。リンで触媒を促進した。水素化処理触媒は、大表面積のアルミナの非酸性支持体上に配置されたVI族及びVIII族の金属触媒からなっていて、それはリンで促進されたものであった。全金属は20重量%であった。水素化/水素化分解触媒は、大面積のアモルファスシリカ・アルミナ上に配置された20重量%ニッケル/20重量%タングステンからなる高活性卑金属触媒であり、2重量%のフッ化物をフッ酸として添加することによって酸性度を高めた。圧力が2250psigの水素を反応器に、8000scf/bblのレートで供給した。反応器の温度は700°Fであった。圧力差は0psiである。表4に、反応生成物収率を示す。
【表4】

【0059】
反応器生成物を蒸留して、体積エネルギーが125BTU/ガロンよりも高い高正味体積エネルギー・ジェット生成物のみを生成した。表5に、生成物品質を示す。
【表5】

【0060】
例1の場合と同様に、ジェット燃料の正味体積エネルギーは129BTU/Galであり、市販の燃料の場合に典型的な125BTU/ガロンよりも実質的に高い。
【0061】
(例3)
例3で用いる供給物は軽質循環油であって、283°Fの初留点及び572°Fの終留点並びにnDMで測定したときに60%の芳香族炭素含有量を有しており、これを、触媒システムを備えて液空間速度(LHSV)が1.01/Hrである反応器に供給した。触媒システムを用いて生成物を生成した。この触媒システムは、脱金属触媒、水素化処理触媒、水素化/水素化分解触媒、及び第2水素化処理触媒の層を備えていた。脱金属触媒は、大孔性支持体上に配置されたVI族及びVIII族の金属、具体的には2重量%のニッケル及び6重量%のモリブデンを含んでいた。リンで触媒を促進した。水素化処理触媒は、大表面積のアルミナの非酸性支持体上に配置されたVI族及びVIII族の金属触媒からなっていて、それはリンで促進されたものであった。全金属は20重量%であった。水素化/水素化分解触媒は、シリカ/アルミナ支持体上に担持された20重量%ニッケル/20重量%モリブデン触媒からなる高活性卑金属触媒であり、最大で20%のゼオライトを添加した。全金属は20重量%であった。さらに、同じ水素化処理触媒(すなわち、大表面積のアルミナ上に担持されたニッケル/モリブデン/リン)のポスト層を、触媒システムに加えた。ポスト層中の全金属は約20重量%であった。圧力が2250psigの水素を反応器に、6000scf/bblのレートで供給した。反応器の温度は680°Fであった。圧力差は0psiである。表6に、反応生成物収率を示す。
【表6】

【0062】
反応器生成物を蒸留して、体積エネルギーが125BTU/ガロンよりも高い高正味体積エネルギー・ジェット生成物のみを生成した。表7に、生成物品質を示す。
【表7】

【0063】
例1の場合と同様に、ジェット燃料の正味体積エネルギーは130BTU/Galであり、市販の燃料の場合に典型的な125BTU/ガロンよりも実質的に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高芳香族炭化水素供給流を高品質化する方法であって、
(a)大部分の沸点範囲が約300°F〜約800°Fであり少なくとも40重量%の芳香族炭素含有量を有する高芳香族炭化水素供給流を、触媒条件下、触媒システムと接触させる工程であって、前記触媒システムは単一段階反応器システムに水素化処理触媒及び水素化/水素化分解触媒を含み、前記水素化/水素化分解触媒中の活性金属は約5重量%〜30重量%のニッケル及び約5重量%〜30重量%のタングステンを含む、工程、並びに
(b)前記高芳香族炭化水素供給流の少なくとも一部を、沸点範囲がジェット又はディーゼル沸点範囲内にある生成物流に転化する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記水素化/水素化分解触媒中の活性金属は、本質的に約5重量%〜30重量%のニッケル及び約5重量%〜30重量%のタングステンからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記単一段階反応器システムは水素化処理セクション及び水素化分解セクションを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水素化処理セクションは少なくとも1つの反応器床を備える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記水素化分解セクションは少なくとも1つの反応器床を備える、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記単一段階反応器システムは単一の圧力及び水素流量において動作する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記水素化処理セクションと前記水素化分解セクションとの間に圧力差が存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記圧力差は200psi以下である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記生成物流を、ディーゼル生成物、ジェット燃料生成物、ナフサ生成物、及びより高沸点の留分に分離する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記生成物流は125,000Btu/galよりも大きい真発熱量を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
下記方法によって調製される炭化水素系生成物であって、その方法は
(a)大部分の沸点範囲が約300°F〜約800°Fであり少なくとも40重量%の芳香族炭素含有量を有する高芳香族炭化水素供給流を、触媒条件下、触媒システムと接触させる工程であって、前記触媒システムは単一段階反応器システムに水素化処理触媒及び水素化/水素化分解触媒を含み、前記水素化/水素化分解触媒中の活性金属は約5重量%〜30重量%のニッケル及び約5重量%〜30重量%のタングステンを含む、工程、並びに
(b)前記高芳香族炭化水素供給流の少なくとも一部を、沸点範囲がジェット又はディーゼル沸点範囲内にある生成物流に転化する工程、
を含む方法である、
炭化水素系生成物。
【請求項12】
前記水素化/水素化分解触媒中の活性金属は、本質的に約5重量%〜30重量%のニッケル及び約5重量%〜30重量%のタングステンからなる、請求項12に記載の炭化水素系生成物。
【請求項13】
前記単一段階反応器システムは、水素化処理セクション及び水素化分解セクションを備える、請求項12に記載の炭化水素系生成物。
【請求項14】
前記水素化処理セクションは少なくとも1つの反応器床を備える、請求項14に記載の炭化水素系生成物。
【請求項15】
前記水素化分解セクションは少なくとも1つの反応器床を備える、請求項14に記載の炭化水素系生成物。
【請求項16】
前記水素化処理セクションと前記水素化分解セクションとの間に圧力差が存在する、請求項14に記載の炭化水素系生成物。
【請求項17】
前記圧力差は200psi以下である、請求項17に記載の炭化水素系生成物。
【請求項18】
前記生成物流を、ディーゼル生成物、ジェット燃料生成物、ナフサ生成物、及びより高沸点の留分に分離する、請求項12に記載の炭化水素系生成物。
【請求項19】
前記生成物流は125,000Btu/galよりも大きい真発熱量を有する、請求項19に記載の炭化水素系生成物。
【請求項20】
前記生成物流は70重量%よりも大きい芳香族飽和度を有する、請求項12に記載の炭化水素系生成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−500941(P2011−500941A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531102(P2010−531102)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/076891
【国際公開番号】WO2009/055169
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】