説明

高エネルギー粒子パルス束の発生方法とその動作用粒子供給装置

高エネルギー粒子パルス束を発生させる方法は下記工程を含む:真空チャンバ(110)内の第1の電極(111)でイオンプラズマを創成し、このプラズマを該真空チャンバ内の第2の電極(112)に向かって進展させ;前記イオンプラズマが前記第2の電極から離間してイオンまたは電子の空間分布を持った遷移状態にある時点において、この分布状態を持つイオンまたは電子を前記第2の電極の方向に加速させるように、前記両電極間に短い高電圧パルスを印加し、それにより従来の真空ダイオードの空間電荷電流制限を克服しながら荷電粒子の高エネルギー束を発生させ;そして前記第2電極(112)で前記高エネルギー粒子を発生させる。粒子供給装置も開示される。超短パルス中性子発生に特に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高エネルギー粒子束の生成方法とこの方法に従って動作される高エネルギー粒子の供給装置(粒子供給源)に関する。
高エネルギー粒子は例えば中性子、イオン、電子、X線、フォトン(光子)または他の種類の高エネルギー粒子でよい。
【背景技術】
【0002】
このような粒子の供給装置、例えば、中性子供給装置(中性子源)は、本技術分野では既知であり、特に知られている種類の中性子供給装置は「中性子管」と呼ばれている。
この種の供給装置では、イオン源を高エネルギーに加速してターゲットに衝突させる。典型的には、ペニングイオン源が使用される。ターゲットは、典型的にはモリブデンまたはタングステン製の金属基体中に化学的に埋め込まれた重水素Dまたはトリチウム(三重水素)Tである。発生したイオンを約100kVに加速してターゲットに衝突させると、D−DまたはD−T反応によって中性子が生成する。
【0003】
D−T反応は14.1MeVの中性子を生ずる。
D−D反応は2.45MeVの中性子を生ずるが、D−T反応で発生するものに比べて断面積が約100倍小さい。即ち、中性子束がずっと小さい。
【0004】
従って、大きな中性子束を得るにはトリチウム系ターゲットを使用することが一般に好ましい。
中性子収率は、加速イオンビームのエネルギーおよび電流、ターゲット内に埋め込まれた重水素またはトリチウムの量、ならびにターゲットの電力損(ワット損)により求められる。
【0005】
このような中性子管の制約は、中性子生成速度が10マイクロ秒パルスにおけるD−T反応からの場合で10E4〜10E5中性子に一般に制限されることである。
このような供給装置の重水素ビーム電流は一般に10mA未満程度である。
【0006】
その上、トリチウムへの接近は安全性の理由で非常に制限されており、これはもちろん、このような供給装置の商業使用にとっては問題となる。
さらに、このような供給装置に使用するトリチウム材料は放射性であり、従って非常に特殊な安全対策が必要となる。
【0007】
また、このような供給装置はそのパルスの持続時間に関しても制限がある。
実際、用途によっては超短パルス(即ち、数ナノ秒程度だけのオーダーのパルス)を得ることが望ましいが、上述したような供給装置ではこのような超短パルスの有意な粒子束を得ることは一般に不可能である。
【0008】
加速器を用いてこのような短パルスの中性子を発生させることは公知である。D−Be反応に基づくシステムがこれまでに提案されている。イオン源インジェクターからの重水素をサイクロトロンで9MeVまで加速した後、Beターゲットに向けると中性子が発生する。しかし、この種のシステムは低電流で大型かつ複雑である。
【0009】
従って、粒子のパルスビーム(またはより一般的には粒子束)を発生させるための既存の供給装置はある種の制約を伴うようである。
さらに、既存の供給装置は別の重要な制約にさらされている。
【0010】
実際、荷電粒子を二つの電極間で加速するために2つの電極間でのパルス電圧に基づいて動作する供給装置は、チャイルド−ラングミュアの法則により加えられるいくつかの制約を受ける。
【0011】
この法則により、電極間にこれらの荷電粒子が蓄積する結果として、電極間での荷電粒子束が制限される。
この現象は一般に「空間電荷」現象と呼ばれる。これは、既存の供給装置の動作を制限するバリアーとなる。
【発明の概要】
【0012】
本発明の1目的は、上述した制約を克服する、高エネルギー粒子(例、中性子、イオン、電子、X線、フォトンなど)のパルス束の発生方法、ならびにこの方法を実施するための供給装置を提供することである。
【0013】
より具体的には、本発明の1目的は、1つの超短パルス中に非常に高い電流密度を有する高エネルギー荷電粒子のフラックス(束)を発生させることである。
「非常に高い電流密度」とは1kA/cm2以上の大きさのオーダーでの電流密度を意味する。
【0014】
「超短パルス」の定義は、その持続時間が数ナノ秒程度のパルスである。
本発明の別の目的は、真空中でチャイルド−ラングミュアの法則により加えられる制限より高い電流密度をもつ粒子束を発生させることである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、特に適度にコンパクトで可搬型であることにより、配置が容易な、即ち多様な場所に配置することができる高エネルギー粒子供給装置を提供することである。
【0016】
よって、本発明は第1の側面において、下記工程を含む、高エネルギー粒子のパルス束を発生させる方法を提供する:
・真空チャンバ内の第1の電極でイオンプラズマを創成し、このプラズマを該真空チャンバ内の第2の電極に向かって進行させ、
・前記イオンプラズマが前記第2の電極から離間して(距離を置いて)イオンまたは電子の空間分布を持った遷移状態にある時点で、この分布状態にあるイオンまたは電子を前記第2の電極に向けて加速させるように、前記両電極間に短い高電圧パルスを印加し、それにより従来の真空ダイオードの空間電荷電流制限を克服しながら荷電粒子の高エネルギー束を発生させ、そして
・前記第2の電極で前記高エネルギー粒子を発生させる。
【0017】
別の側面によると、本発明は下記を含む高エネルギー粒子の供給装置を提供する:
・第1の電極および第2の電極を収容する真空チャンバ、該第1電極はイオンプラズマを発生させて該チャンバ内で該第2電極に向かって進展させることができるプラズマイオン源を形成する、
・前記第1電極に接続された、前記プラズマイオン源を付勢する(電圧を印加する)ためのイオン源ドライバ(駆動装置)、
・前記第1電極と第2電極との間に接続された高電圧発生機、および
・前記イオン源ドライバによる前記プラズマイオン源の活性化(作動)に応答して前記イオンプラズマが前記第2の電極から離間してイオンまたは電子の空間分布を持った遷移状態にある時点において、前記第1および第2の電極間に短い高電圧パルスの印加を生じさせることにより、この分布状態にあるイオンまたは電子を前記第2の電極に向けて加速させ、従来の真空ダイオードの空間電荷電流制限を克服しつつ荷電粒子の高エネルギー束を発生させるようにするための制御・監視ユニット。
【0018】
本発明の好ましいが、制限を意図しない側面は次の通りである:
・前記高エネルギー粒子を、前記加速されたイオンまたは電子と前記第2電極との間のビーム/ターゲット核または電磁反応により発生させる。
【0019】
・前記第2電極が半透明グリッド構造であり、前記高エネルギー粒子が前記第2電極を通って移動するプラズマイオンまたは電子それ自体により構成される。
・前記所定の時間がプラズマ発生の開始からの遅延時間であり、この遅延時間が、少なくともパルスの電圧レベル、両電極の幾何学形状およびそれらの相互距離およびチャンバ圧力から決まる。
【0020】
・前記第1電極がプラズマ放電イオン源を形成する一対の電極部材からなる。
本発明の他の側面、目的および利点は、添付図面を参照した、本発明の好ましいが制限を意図しない態様に関する以下の説明からより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る粒子供給装置の説明図。
【図2】図2aおよび2bは、本発明に係る粒子発生の基本原理を説明する。
【図3】図3a〜3cは、それぞれ3種類の粒子タイプの発生に対応する3種類の態様の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付図面を参照すると、図1は、本発明に係る粒子Pの供給装置10を模式的に示す。
このような粒子は種々の種類のものでよく、いくつかの具体例については図3a〜3cを参照した説明中で述べる。
【0023】
次に図1を参照しながら中性子の供給装置の具体例を説明する。
供給装置の一般説明
図1に示した供給装置10は、下記の主要要素を備える:
・低圧ガス(低圧とは、ここでは典型的には1〜10Paの範囲内の近真空雰囲気を意味する)が満たされた真空チャンバを備えた中性子管110、この中性子管は下記部材を収容している:
*プラズマを発生させ、プラズマイオン源を構成するための第1電極111;この第1電極111は「エミッタ電極」または「放出電極」とも呼ばれる、
*ターゲットを構成する第2電極112、このターゲットは第1電極111で発生したプラズマからの荷電粒子が衝突した時に、その衝撃から高エネルギー粒子Pを発生させる、
*この第1電極および第2電極は、本供給装置の用途に応じて、それぞれアノードおよびカソード、またはその逆に対応する。
【0024】
・ターゲット電極112により発生した高エネルギー粒子Pを、ウィンドウ121を通して受け取って、高エネルギー粒子束を平行化させて該粒子Pのビームにするための、中性子管の下流に配置された中性子コリメータ120、
・主に下記を構成要素とするパルスパワーユニット130:
*エミッタ電極111に接続され、この電極に電力を供給し、中性子管110のチャンバ内でのプラズマの創成を可能にするイオン源ドライバ131、
*電極111、112に接続され、これらの電極間にパルス高電圧(中性子供給装置の場合で典型的には500kV以上)を確立するための高電圧(HV)電気パルス発生機132、ここで、第1電極111または第2電極112の一方は一定電圧(典型的には接地)に保持され、他方の電極は高電位に印加され、この高電圧パルスはプラズマの創成と同期して発生される、
・本供給装置の各種パラメータ、特に下記パラメータを制御するために、パルスパワーユニット130および中性子管110に接続された制御・監視ユニット140:
*ガス制御(すなわち、中性子管チャンバ110内の雰囲気の組成および圧力の制御)、
*高電圧チャージ(すなわち、HVパルス発生機132により送給される電圧パルスの制御)、
*発生機132のHVパルス発射およびイオン源ドライバによる第1電極111の電圧印加の制御、
このユニット140は、「安全保護」を保証し、すなわち、第1電極111にイオン源により適当なプラズマが予め確立されていない場合には、HVパルスの発生を防止し、また動作を監視する。
【0025】
第1電極111は異なるいくつかの態様をとりうることを理解すべきである。第1のかかる態様では、該電極111はイオン源ドライバから受け取った電流により作動される2つの電極部材の組から構成される。第2の態様では、プラズマは、第1電極111上に向けられたレーザービームにより創成される。もちろん、他の態様も可能である。
【0026】
動作の原理
供給装置10の動作は、第1電極111でのイオンプラズマの創成直後の遷移期を利用する。
【0027】
図示の態様では、プラズマ(すなわち、正電荷と負電荷の貯槽)を第1電極の作動開始(電圧印加)により創成すると、プラズマは該第1電極111から発生して徐々に発達する。
【0028】
その後、プラズマは第1電極から膨張するが、プラズマ温度は1eV(1eV=11604K)未満であり、膨張速度は典型的には1cm/マイクロ秒未満である。
上記の「遷移期」は、プラズマが創成した後、このプラズマが上述したプラズマ創成および膨張に従ってチャンバ110内で拡散し、第2電極112に到達する時間までの間の時間に相当する。
【0029】
この時点では、これら2つの電極間の空間は、放出電極111の近傍では電荷(イオンおよび電子)の密度が高く、他方の電極112の近傍では電荷密度はずっと低い。このような分布状態が生ずるのは、放出電極111で創成されたプラズマの決まった膨張速度ならびにプラズマイオンおよび電子の速度分布のせいである。
【0030】
図2aに示すように、この遷移期の間に、プラズマ包絡線に対応するプラズマ縁部1101は放出電極111から発生して第2電極112の方に進む。プラズマ内に含まれる正電荷および負電荷の荷電粒子は、図2aには「+」または「−」の符号で表されている。
【0031】
プラズマの遷移期は、ターゲット電極112へのHVパルスの供給を同期させるために使用される。より具体的には、後述するように、この遷移期の間での所定の時点で、パルス高電圧を電極111および112の間に印加する。
【0032】
高電圧の始動時間は、プラズマの創成時間に基づいて、制御・監視ユニット140により監視される。
ここで、プラズマが遷移期にある間でのHVパルスの始動(トリガー)は、図2bに示すように、放出電極111からターゲット電極112に向かう初期電荷ビームの加速を生ずることは理解されよう。このため、HVパルスを、明細書の以下では「加速パルス」と呼ぶこともある。
【0033】
この初期ビームを形成するように加速される電荷は、「ターゲット電荷」、すなわち、ターゲット電極をHVパルスにより動力供給した時にターゲット電極の極性とは反対の極性を持つ初期プラズマの電荷である。
【0034】
これらの加速電荷が次いでターゲット電極112に衝突すると、この電極は高エネルギー粒子のビームPを生ずるようになる。
高エネルギー粒子の生成は、図3a〜3cに示すように、多様な方法により得ることができる。より具体的には次の方法である:
・図3aおよび3bに示すように、ビームターゲット核反応もしくは電磁気反応により、または
・図3cに示すような、グリッド構造物を通過するイオン束の抜き取りによって。
【0035】
プラズマ創成と加速パルス始動を同期させることは既に述べた。これは、プラズマ創成の後、加速パルスを所定時間だけ遅延させることにより達成される。その遅延時間の値は、とりわけ、第1電極111に印加される電圧レベル、電極111および112の幾何学形状(これらの電極はその挙動が幾何学形状に依存するダイオードを形成する)、電極111および112を横断して印加される電圧レベル、およびチャンバ内の圧力に依存する。
【0036】
この遅延は、ターゲット電荷加速を発生させるHVパルスの印加の前に、放出電極111とターゲット電極112との間の空間に適正な電荷密度の分布状態が得られるように設定される。
【0037】
この適正な分布状態は、ターゲット電極の極性とは反対の極性を持つ有意な電荷密度が既に発生しているが、前線1101はまだターゲット電極から距離をおいて離れている時点である。
【0038】
放出電極111とターゲット電極112との間で遷移期中に発生するプラズマは、本明細書の最初の方で述べた空間電荷制限、すなわち、空間電荷により電流が制限されることを規定するチャイルド−ラングミュアの法則、を克服するのに重要な役割を果たす。
【0039】
実際、空間電荷現象は、真空ダイオードの電流をダイオードの幾何学形状および電圧だけに依存する最大値に制限し、それによって今度は中位の電力で動作する真空管内を流れることができる最大電流を制限する。
【0040】
電流密度は、J ∝ V3/2/d2 で表される。ここで、Vはダイオードを横断する電圧であり、dは1D平面記述でのアノードとカソードとの間の距離である。
高パルス電力では、ダイオードにインパルス電圧を印加すると、電流は通常は、電圧パルス中では上昇するが、同時に、ダイオードを横断して測定された電圧Vは、常に低下する駆動回路のダイオードインピーダンス Z=V/I により記述されるように同時に降下する。十分に高い電流レベルでは、ダイオードを横断する電圧は実質的にゼロに降下し、ダイオードは事実上短絡(回路)となってしまう(すなわち、インピーダンスは崩壊してしまう)。
【0041】
このようなインピーダンス崩壊またはダイオードの閉鎖は、ダイオードのアノードとカソードを横断した完全に導電性のプラズマの発生により誘導され、そこに至るまでには、前述したように遷移期と定義される、ある時間を要する。
【0042】
遷移期の終了前にHVパルスを始動させることにより、ターゲット電荷を、発生プラズマを通して加速させることができ、インピーダンス崩壊による電圧降下の障害が避けられる。
【0043】
これに関して、プラズマは、それが含んでいる電荷の拡散に抗する保持バリアーの役割を果たす。
他方、ダイオード領域における希薄プラズマ(すなわち、まだ十分には導電性でない発達中のプラズマ)の存在は、加速ビームに対して電荷中和を付与して、荷電粒子のビームが真空領域を通して加速すべきであったなら起こってしまうような、空間電荷の生成を防止するのに十分である。この中和は、チャイルド−ラングミュアの法則により設定される限度をはるかに超えたビーム電流を得ることを可能にする。
【0044】
こうして、初期電極放電と加速パルスとの間の同期および遅延は、荷電粒子の加速ビームに電荷中和を付与するために十分なプラズマ密度をダイオード領域内に発達させるのを可能にする。
【0045】
加速パルスを始動させる時点は、最初のパルス放電により創成されたプラズマの始動の時間に関して決定されたことが判明した。
加速パルスの持続時間は、供給装置の動作における時間パラメータであり、ダイオード閉鎖時間により制限される。
【0046】
真空ダイオード型の従来の粒子供給装置では、供給装置の制御装置はインピーダンス崩壊につながるかもしれないすべての可能性を避けて、ダイオードは中ないし高真空(0.1Pa未満)で操作される。
【0047】
より具体的には、従来の中性子管では、重水素のビームがダイオードを横断して加速され、ターゲットに衝突して中性子を発生させるため、ダイオード内で引き出された電流は、空間電荷電流制限により、2cmのダイオードギャップを横断する100kVの加速電圧の重水素ビームについて典型的には0.3A/cm2に制限される。実際、使用されたビーム電流はこの値よりずっと低く、典型的には1mA未満である。これはかかる装置で生ずる中性子のフルエンスを制限する(Thermo Electron, Corp. P325型中性子発生器の例で、100kVの加速電圧で、最大ビーム電流0.1mA、中性子収率3×108n/sおよび最小パルス2.5μs)。
【0048】
本発明では、ダイオードは典型的には0.1〜10Paという低い動圧範囲で動作する。
ダイオードは放出電極で開始されたプラズマにより操作され、数kAの空間電荷中和ビームを、500kVの加速電圧および1cmのダイオードギャップで、ダイオードギャップを横断して加速させることができる。
【0049】
ビーム(すなわち、加速電圧)の持続時間は典型的には10ns前後である。
本発明の場合、単一のパルス内に実質的により高い等価フルエンス率(equivalent fluence rate)を得ることができる(10nsのパルス当たり108nが1016n/sの等価フルエンス率を生ずる)。ここで、イオンプラズマが遷移状態にある間に電極に超短高電圧パルスを直接印加することにより荷電粒子の高エネルギー束を生成させる本供給装置の動作原理によって、従来の真空ダイオードの空間電荷電流制限を克服することができることは認められよう。例えば、短パルス(<10ns)、高電流(>kA)、高エネルギー(>700keV)の荷電粒子ビームを発生させることができる。
【0050】
好適態様の追加説明
上述したように、本発明の特定の態様に係る供給装置は重水素の初期ビームを発生させるために使用され、この初期ビームが中性子ビームを生じさせるためにカソードターゲット112に衝突する。
【0051】
この場合、チャンバの低圧雰囲気は(少なくとも大半は)重水素で作られる。
公共環境で本供給装置を使用することができるようにするため、特にターゲット電極について放射性材料の使用を避けることが望ましい。
【0052】
その点を念頭に置いて、中性リチウムをターゲット材料として選択することができる。14MeVまでに達する最大エネルギーをもつ広いスペクトルの高エネルギー中性子が7Li(d,n)8Be反応によって生ずる。
【0053】
7Liをターゲット材料として使用すると、トリチウムターゲットを使用した場合は必要であったエネルギー(トリチウムは120keV前後のエネルギーしか必要としない)より著しく高いエネルギー(典型的には500keV以上)の重水素が必要となるので、このような態様ではより高い加速が必要となろう。
【0054】
また、純Liは低融点の金属であり、容易に酸化されうるため、7Liを含んでいる化合物を使用することが好ましいかもしれない。
ここに例示した具体的態様では、高エネルギーの重水素はプラズマイオンダイオードを横断する高電圧短パルスの直接印加により発生する。
【0055】
この手法は真空ダイオードの空間電荷電流制限を克服し、短パルス(<10ns)、高電流(>kA)、高エネルギー(>500keV)の重水素ビームの発生を可能にする。
このような高エネルギー重水素ビームをリチウム含有ターゲットに衝突させると、高強度かつ高エネルギーの中性子パルスが生成する。
【0056】
この中性子パルスは、コマンドトリガー(指令による始動)により「オンデマンド(要求あり次第)」で発生される。それ以外のすべての時間ではシステム全体が「オフ」状態にある。すなわち、偶発的な中性子発生は不可能である。
【0057】
HVパルス発生器132は好ましくは一連の電圧増倍およびパルス圧縮モジュールから好ましくは構成される。(例えば220Vの)出発電圧供給から、電圧を、慣用の電子インバータ装置を用いてまず30kVに増大させる。この電圧を用いて4段マルクス回路に給電する。
【0058】
ユニット140からのコマンドトリガーにより、マルクス回路は120kVのパルス電圧を立ち上げる。次にこの電圧を用いてパルス形成線路回路を充電して、120kVの5nsパルスを生じさせる。
【0059】
このパルス形成回路の出力を6×パルス変成器に連結すると、720kVの最大最終電圧パルスが得られる。この高電圧パルスを次いで特殊な絶縁高電圧カップリング段階を経て中性子ターゲットホルダーに給電する。
【0060】
この高電圧発生器は高電圧絶縁油中に浸漬されていて、それにより非常に小型の装置設計が可能となる。
重水素を発生するイオン源111は重水素中での別の放電により準備される。別の高電圧イオン源ドライバ131を用いて、高電圧パルス発生器をそれに同期させる制御信号に応答して、上記イオン源に電力供給する。
【0061】
前記イオン源をプラズマダイオードのアノード111として配置し、リチウム含有中性子ターゲットをカソード112とする。高電圧パルスを印加すると、次いで電流>1kAの重水素ビームを、該高電圧によりカソードターゲットに衝突するように加速することができ、それにより高エネルギー中性子が発生する。
【0062】
発生器全体の動作は、制御・監視ユニット140の一部である専用のコンソールの制御下にあり、このコンソールは中性子発生器のすべてのモジュールについての制御および現状(ステータス)情報を与える。ユニット140はまた、本中性子発生システムの安全防護および適正な動作を確保する1組の安全センサにも連結されている。
【0063】
中性子管チャンバ110は、小型ターボ分子ポンプによって通常は0.1Pa未満に排気されている。中性子パルス発生の指令により、重水素ガスがイオン源の放電電極を経て該チャンバに噴射され、チャンバ圧力を約10Paに高める。次いで、イオン源ドライバに電力が供給されて、最初の遷移期プラズマを生ずる。所定の遅延時間(これは遷移期プラズマの創成と該プラズマが電荷中和を行うのに十分に膨張するまでの時間差に相当する)の後、制御・監視ユニット140が、イオン源が正しく動作していることをチェックした後、高電圧パルス発生器を始動させる指令を発し、それにより、高エネルギー重水素ビームが発生して中性子ターゲットに衝突し、中性子の超短パルスが発生する。
【0064】
該パルスの最後に、チャンバは再び0.1Pa未満に排気され、次のパルスの準備ができる。
中性子は一般に等方性に放出される。ある物体の局所的解析または「問いかけ(インタロゲーション)」のための特異的ビームを生ずるために、水素リッチ物質、例えば、CH2に基づく中性子コリメータを用いて、進行(前方)方向にビーム開口(アパーチャ)を画成する。このコリメータは中性子を効果的に減速し、熱中性子化させる。生じた熱中性子は、当初のパルスよりずっと後で、問いかけ対象の物体に到達し、追加の情報チャネルを与える。
【0065】
3Dモンテカルロ符号MCNP4Bを用いた多くの数値モデル化によって、本発明に係るプロトタイプにおける良好な信号雑音比のために、104中性子/cm2のフルエンスが<1mの近距離場物体に対して確立されている。
【0066】
この手法は、進歩した信号処理アルゴリズムを用いた検出器性能の可能な改善を考慮していない。ターゲット表面が中性子供給装置から1m離れている場合、中性子の供給源強度は、等方性放出と仮定すれば、合計4π×108中性子となるはずである。
【0067】
この例示されたプロトタイプ(原型)は、7Li(d,n)8Be反応により109中性子の5nsパルスを生ずることができる。
7Li+d → 8Be+n+15.02MeV
この反応は発熱性であって、残留する核は、非常に高い重水素エネルギーではない場合でも、多くの異なる励起状態で残されうる。こうして生じた中性子は、14MeVまでに及ぶエネルギーを持つ、広いエネルギー範囲を有する。
【0068】
中性子エネルギースペクトルの再現性に対処するために、中性子供給源強度を次の両方により制御する:
・マルクス装置の動作電圧、従って、加速パルスの大きさ、および
・ドライバのインピーダンス。
これら2つのパラメータは一緒にイオンビーム電流を制御する。
【0069】
5nsパルスの109中性子の発生は、毎秒2×1017中性子という非常に高い中性子発生速度を意味する。しかし、本発生器は約1Hzの反復速度で動作するように設計されているので、デューティーサイクルは非常に低く、平均中性子供給速度は毎秒109中性子にすぎない。これは公共での動作に対する人的安全性の観点にとって重要である。
【0070】
具体的実施態様例
上述した供給装置を、異なる種類の高エネルギー粒子を発生させるために使用することができる。
【0071】
放出電極がアノード(加速パルスの極性符号により)と規定され、低圧ガスが例えば重水素である場合、カソードはターゲットとして作用し、本供給装置は中性子の供給装置として使用することができる(図3aを参照)。
【0072】
放出電極がカソードで、低圧ガスが例えばH2またはArであると、アノードがターゲットとして作用し、本供給装置はX線フォトンの供給装置として使用することができる(図3bを参照)。
【0073】
この供給装置はイオンビーム供給装置として使用することもでき、その場合は、例えば、放出電極はアノードとされ、カソードは、正電荷イオンの加速ビームがそれを通過して移動できる半透明グリッド構造物として配置される(図3cを参照)。
【0074】
イオン束は、このようなカソードを通過した後で抜き取られる。
また、本供給装置は電子ビームまたは負イオン供給装置として使用することもできる。その場合は、例えば、放出電極はカソードとされ、アノードは負電荷粒子のビームがそれを通過して移動できるグリッドとして配置される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む、高エネルギー粒子のパルス束を発生させる方法:
・真空チャンバ(110)内の第1の電極(111)でイオンプラズマを創成し、このプラズマを該真空チャンバ内の第2の電極(112)に向かって進展させ、
・前記イオンプラズマが前記第2の電極から離間してイオンまたは電子の空間分布を持った遷移状態にある時点において、この分布状態を持つイオンまたは電子を前記第2の電極の方向に加速するように、前記両電極間に短い高電圧パルスを印加し、それにより従来の真空ダイオードの空間電荷電流制限を克服しながら荷電粒子の高エネルギー束を発生させ、そして
・前記第2電極(112)で前記高エネルギー粒子を発生させる。
【請求項2】
前記高エネルギー粒子を、前記加速されたイオンまたは電子と前記第2電極(112)との間のビーム/ターゲット核または電磁反応により発生させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2電極が半透明グリッド構造であり、前記高エネルギー粒子が前記第2電極(112)を通って移動するプラズマイオンまたは電子それ自体により構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記所定の時間が少なくともパルスの電圧レベル、両電極(111, 112)の幾何学形状およびそれらの相互距離ならびにチャンバ圧力から決まる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1電極(111)がプラズマ放電イオン源を形成する一対の電極部材から構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
下記を備えた高エネルギー粒子供給装置:
・第1の電極(111)および第2の電極(112)を収容する真空チャンバ(110)、該第1電極はイオンプラズマを発生させて該チャンバ内で該第2電極に向かって進展させることができるプラズマイオン源を形成する、
・前記第1電極に接続された、前記プラズマイオン源を作動させるためのイオン源ドライバ(131)、
・前記第1電極と第2電極との間に接続された高電圧発生機(132)、および
・前記イオン源ドライバによる前記プラズマイオン源の作動に応答して前記イオンプラズマが前記第2の電極から離間してイオンまたは電子の空間分布を持った遷移状態にある時点において、前記第1および第2の電極間に短い高電圧パルスの印加を生じさせることにより、この分布状態を持つイオンまたは電子を前記第2の電極に向かって加速させ、従来の真空ダイオードの空間電荷電流制限を克服しつつ荷電粒子の高エネルギー束を発生させるようにするための制御・監視ユニット(140)。
【請求項7】
前記高エネルギー粒子が、前記加速されたイオンまたは電子と前記第2電極(112)との間のビーム/ターゲット核または電磁反応により発生される、請求項6に記載の供給装置。
【請求項8】
前記第2電極(112)が半透明グリッド構造であり、前記高エネルギー粒子が前記第2電極を通って移動するプラズマイオンまたは電子それ自体により構成される、請求項6に記載の供給装置。
【請求項9】
前記制御・監視ユニット(140)が、イオンプラズマ発生の開始から所定の遅延時間の後に前記高電圧パルスを発射することができる、請求項6〜8のいずれか1項に記載の供給装置。
【請求項10】
前記所定の遅延時間が、少なくともパルスの電圧レベル、両電極の幾何学形状とそれらの相互距離ならびにチャンバ圧力から決まる、請求項9に記載の供給装置。
【請求項11】
前記第1電極(111)がプラズマ放電イオン源を形成する一対の電極部材から構成される、請求項6〜10のいずれか1項に記載の供給装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−545112(P2009−545112A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521257(P2009−521257)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057688
【国際公開番号】WO2008/012335
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(509026079)セージ・イノベーションズ・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】SAGE INNOVATIONS INC.
【Fターム(参考)】