説明

高光学濃度インクジェットインク用添加剤

本発明は、ある一定のキレート剤添加剤を有する水性インクジェットインク、この水性インクジェットインクをベースにするインクジェットインクセット、および、これらのインクおよびインクセットで印刷する方法に関し、それによって、印刷画像の光学濃度(OD)が増加する。キレート剤添加剤は、自己分散型顔料着色剤、特にこのような着色剤と多価カチオン添加剤の組み合わせを有するインクのODを増加させるのに特に有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある一定の添加剤を有する水性インクジェットインク、および、このインクで印刷する方法に関し、それによって、印刷画像の光学濃度(OD)が増加する。添加剤は、自己分散型顔料着色剤を有するインクのODを増加させるのに特に有利である。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、非衝撃式印刷方法であり、インクの液滴が紙などの印刷媒体上に堆積し、所望の画像を形成する。液滴は、マイクロプロセッサによって発生される電気信号に応答してプリントヘッドから吐出される。
【0003】
インクジェットインク用の着色剤として染料と顔料の両方が使用されてきた。水性媒体中に分散された顔料を含むインクは、印刷画像が耐水性および耐光性となる傾向があるため、有利であると考えられる。
【0004】
水性インクジェットインクに好適な顔料は、一般に当該技術分野で周知である。ビヒクル中の顔料の安定な分散体を製造するため、従来、顔料はポリマー分散剤または界面活性剤などの分散剤によって安定化されてきた。しかし、更に最近では、いわゆる「自己分散性」または「自己分散型」顔料(以下、「SDP」)が開発されてきた。その名前が含意するように、SDPは分散剤なしに水中に分散することができる。
【0005】
SDPは、安定性がより大きく、同じ顔料添加量(pigment loading)で粘度がより低いという観点から、従来の分散剤で安定化された顔料より有利であることが多い。このため、最終インクにおける配合許容範囲がより大きくなり得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
依然として、改善された着色特性を有する顔料インクが必要とされている。高い光学濃度および彩度を提供する組成物および方法が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、水性ビヒクルおよびキレート剤を含むインクジェットインクに関し、ここで、キレート剤は、少なくとも2つの配位窒素原子を有し且つカルボキシル基を有していない非ポリマー分子を含む。インクジェットインクは、実質的に無色(好ましくは着色剤なし)であっても、または、水性ビヒクル中に安定に分散または溶解される着色剤を含有してもよい。着色剤を使用する場合、それは好ましくは顔料であり、更に好ましくは自己分散型顔料(SDP)である。
【0008】
キレート剤は、キレート剤なしの同じインクより、印刷された着色剤の光学濃度を増加させるのに有効なレベルで存在しなければならない。
【0009】
好ましい実施形態では、インクジェットインクは、多価カチオン性金属種を更に含む。この種は、好ましくは水性ビヒクル中に可溶である。
【0010】
本発明の別の態様では、前述のインクジェットインクを含むインクジェットインクセットを提供する。
【0011】
好ましい実施形態の1つでは、インクジェットインクセットは、第1のインクジェットインクおよび第2のインクジェットインクを含み、ここで第1のインクジェットインクは、前述の、および更に詳細に後述する実質的に無色のインクジェットインクであり、第2のインクジェットインクは水性ビヒクルおよび顔料着色剤を含む着色インクである。
【0012】
別の好ましい実施形態では、インクジェットインクセットは、水性ビヒクル中に安定に分散または溶解された着色剤を個々に含む少なくとも3つ(CMYなど)、更に好ましくは4つ(CMYKなど)の異なる色のインクジェットインクを含み、ここで、3つの異なる色のインクジェットインクの少なくとも1つは、前述の、および更に詳細に後述する着色インクジェットインクである。
【0013】
本発明は、また、
(a)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程、
(b)印刷される基材をプリンタに装填する工程、
(c)前述の、および更に詳細に後述するインクジェットインクまたはインクジェットインクセットをプリンタに装填する工程、および
(d)インクジェットインクセットを使用し、デジタルデータ信号に応答して基材に印刷する工程、
を含む、基材へのインクジェット印刷方法に関する。
【0014】
好ましい実施形態の1つでは、インクジェットインクセットを使用し、ここで、第1のインクジェットインクは、前述の、および更に詳細に後述する実質的に無色のインクジェットインクであり、第2のインクジェットインクは、水性ビヒクルおよび顔料着色剤(好ましくはSDP)を含む着色インクであり、ここで第2のインクジェットインクは第1のインクジェットインクでアンダープリントされる。この場合、第1のインクジェットインクは、好ましくは第2のインクジェットインク、および、任意に、インクセット中の他の着色インクジェットインクのための定着液の役割をする。
【0015】
定着液の使用により、着色インクの印刷特性、とりわけODおよび彩度が改善される。
【0016】
当業者は、以下の詳細な説明を読むことにより、本発明の上記および他の特徴および利点を更に容易に理解するであろう。明確にするために前述された、および別々の実施形態の文脈中に後述する本発明のある一定の特徴は、単一の実施形態で組み合わせて提供されてもよいことを理解すべきである。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈中に記載される本発明の様々な特徴は、別々にまたは任意の部分的組み合わせ(subcombination)で提供されてもよい。更に、単数での言及は、文脈に別途明記しない限り、複数を包含する場合もある(例えば、「1つ(a)」および「1つ(an)」は、1または1以上を指す場合がある)。更に、範囲で記載される値についての言及は、その範囲内にあるそれぞれの、どの値も包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ビヒクル
「水性ビヒクル」は、水、または、水と少なくとも1種類の水溶性有機溶剤(補助溶剤)との混合物を指す。好適な混合物の選択は、所望の表面張力および粘度、選択される着色剤、インクの乾燥時間、およびインクが印刷される基材の種類などの、特定の用途の必要性に依存する。選択され得る水溶性有機溶剤の代表例は、米国特許第5,085,698号明細書に開示されている(この特許の開示は、参照により完全に記載されているかのごとく、あらゆる目的のために本明細書に援用される)。
【0018】
水と水溶性溶剤との混合物を使用する場合、水性ビヒクルは、典型的には、水約30%〜約95%を含有し、残部(即ち、約70%〜約5%)は水溶性溶剤である。好ましい組成物は、水溶性ビヒクルの総重量を基準にして、水約60%〜約95%を含有する。
【0019】
インク中の水性ビヒクルの量は、インクの総重量を基準にして、典型的には約70%〜約99.8%、好ましくは約80%〜約99.8%の範囲内にある。
【0020】
水性ビヒクルは、グリコールエーテルおよび1,2−アルカンジオールなどの界面活性剤または浸透剤を含むことによって、速く浸透する(迅速に乾燥する)ようにされ得る。グリコールエーテルには、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、および、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテルが挙げられる。1,2−アルカンジオールは、好ましくは、1,2−C4〜6アルカンジオール、最も好ましくは、1,2−ヘキサンジオールである。好適な界面活性剤には、エトキシ化アセチレンジオール(例えば、Air Products製のSurfynols(登録商標)シリーズ)、エトキシ化一級(例えば、Shell製のNeodol(登録商標)シリーズ)アルコールおよび二級(例えば、Union Carbide製のTergitol(登録商標)シリーズ)アルコール、スルホサクシネート(例えば、Cytec製のAerosol(登録商標)シリーズ)、オルガノシリコーン(例えば、Witco製のSilwet(登録商標)シリーズ)およびフッ素系界面活性剤(例えば、DuPont製のZonyl(登録商標)シリーズ)が挙げられる。
【0021】
添加されるグリコールエーテルおよび1,2−アルカンジオールの量は、適切に決定されなければならないが、インクの総重量を基準にして、典型的には約1重量%〜約15重量%、更に典型的には約2重量%〜約10重量%の範囲内にある。界面活性剤は、インクの総重量を基準にして、典型的には約0.01%〜約5%、好ましくは約0.2%〜約2%の量で使用され得る。
【0022】
キレート剤
本明細書で規定されるキレート剤は、単一の金属原子との配位型錯体中の二座配位子の役割をすることができる2つの窒素原子を含む非ポリマー分子である。キレート剤が二座配位子の役割をするには、(a)窒素原子はそれぞれ、供与に使用可能な孤立電子対を1つ有していなければならない(ルイス塩基);および(b)2つの窒素原子は、孤立電子対が二座配位のために適切に配向(二座配向(bidentate orientation))し得るような相対的位置および立体配座を有することが分かる。キレート剤は、少なくとも2つの窒素が規定される条件を満足する限り、2つより多くの窒素原子を含んでもよい。
【0023】
二座配位子および配位構造についての論及は、Advanced Inorganic Chemistry, 6th Edition;F.Albert Cottonら著;John Wiley & Sons, Inc.出版社;347〜354頁などの標準的なテキストに見出すことができる(この関連開示は、参照により完全に記載されているかのごとく、あらゆる目的のために本明細書に援用される)。
【0024】
有効な二座配位のために、好ましくは、2つの配位窒素原子間に1〜4個の原子がある。
【0025】
キレート剤が2つより多くの配位窒素で構成される場合、分子間配位が金属間で起こり、それによって拡大された網目構造を形成する(および、沈殿する)可能性がある。好ましい実施形態の1つでは、キレート剤は、3つ以下の電子供与性窒素(前記の条件(a))を含有する。別の好ましい実施形態では、キレート剤は、3つより多くの電子供与性窒素を含有してもよいが、その過剰な(3つより多くの)電子供与性窒素は分子間配位が起こらないように妨げられる。
【0026】
キレート剤は、好ましくは分子であるが、三量体または四量体などの低分子量オリゴマーは有用な場合がある。明確にするため、本発明の文脈中のキレート剤は、鎖長がモノマー約10個より大きいポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、およびポリビニルピリジンなどを含まない。
【0027】
キレート剤は、好ましくは、カルボキシル基も含有しない。この文脈では、カルボキシル基は、プロトン化した形態(−COOH)とその塩の形態(−COO-)の両方を意味する。明確にするため、この限定の文脈のキレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびその塩を含まない。
【0028】
別の好ましい実施形態では、キレート剤は、窒素以外にいかなる種類のイオン性(ionizable)基も含有しない。他のイオン性基には、例えば、スルホン酸基が挙げられる。
【0029】
好ましくは、キレート剤は、実質的に無色である(着色されていないか、またはせいぜい僅かに着色されているに過ぎない)。従って、キレート剤は、インクジェット着色剤として使用されることが意図されていない。
【0030】
好ましくは、キレート剤は、使用される濃度で水性ビヒクル中に可溶であり、溶液中で安定である、即ち、通常の貯蔵条件または使用条件で沈殿物を容易に形成しない。
【0031】
キレート剤の好ましい例には、以下に限定されないが、フェナントロリン、2,2−ジピリジル、2,2−ジピリジルアミン、およびエチレンジアミン、およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0032】
多価カチオン
キレート剤は、好ましくは、1種類以上の多価カチオンと組み合わせて使用される。特定の状況で必要とされるキレート剤および多価カチオンの有効量は様々となり得、一般に、幾らかの調整が必要である。
【0033】
「多価」は、2以上の酸化状態を示し、元素「Z」では、典型的には、Z2+、Z3+、およびZ4+などと記載される。簡潔にするため、多価カチオンは、本明細書ではZXと称される場合がある。多価カチオンは、好ましくは水性ビヒクル中に可溶であり、好ましくは実質的にイオン化した状態で水性ビヒクル中に存在する。多価カチオンは、遊離しており且つインク構成成分、特にSDPとの相互作用に使用可能な形態でなければならない。使用可能でない形態の多価カチオン、例えば、耐火性酸化物として固く結合しているZXは、本発明の目的では多価カチオンと見なされない。
【0034】
Xには、以下に限定されないが、以下の元素の多価カチオンが挙げられる:Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ti、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Au、Zn、Al、Ga、In、Sb、Bi、Ge、Sn、Pb。好ましい実施形態の1つでは、多価カチオンは、Fe、Co、CuおよびZnの少なくとも1つを含む。
【0035】
塩の形態で添加することにより、またはアルカリの形態で添加することによりZXをインクに組み込み、塩基としてインクpHの調整に使用することができる。着色剤が存在するとき、とりわけイオン安定化された着色剤が存在するとき、多量のZXの存在によって不安定化し得る。本インクに有効なレベルのZXは、不安定性(または他の問題)を引き起こすレベルより低く、その量は、通常の実験で容易に決定することができる。
【0036】
Xの下限は特にないが、本発明により想到される最小限のレベルは、痕跡量または偶発的な量より大きいレベルである。概ねインク中に少なくとも約2ppm、通常は少なくとも約4ppm、更には約10ppm以上の多価カチオンが存在する。同様に、安定性または他のインク特性によって決まるもの以外、上限は特にない。しかし、あるレベルでは、ZXが増加してもODは更に増加しない。幾つかの場合、ZXが多過ぎるとODは再び減少することがある。概ね約200ppm未満のZXで、典型的には約100ppm未満でも有益な効果が達成される。
【0037】
重量%に関して前記のZXについての検討は、簡単で具体的な指標を目的として記載されているが、多価カチオンの適切なレベルは、より複雑に、モル当量、原子量、および価電子状態などの要因に関連し、並びに、インク中のSDPの量およびその処理量にも関連する。
【0038】
第1のインクなどのインク中に多価カチオンを使用することに関する更なる詳細は、例えば、共同所有の米国特許出願第10/447,932号明細書(2003年5月29日出願)に対応する国際公開第03/104340号パンフレットに見出すことができ、その開示は、参照により完全に記載されているかのごとく、あらゆる目的のために本明細書に援用される。
【0039】
着色インク
「着色インク」は、着色剤が意図的に添加されているインクであり、画像を作り出すのに好適である。着色剤は一般に、任意の好適な着色剤とすることができ、可溶性着色剤(染料)および不溶性着色剤(顔料、カプセル化染料)が挙げられる。着色剤は、最も有利には顔料着色剤であり、とりわけ自己分散型顔料(SDP)である。
【0040】
顔料は、従来、分散剤で安定化されて分散体になる。好ましくは、分散剤を使用するとき、分散剤は、ランダムまたは構造化ポリマー分散剤である。好ましいランダムポリマーにはアクリルポリマーおよびスチレン−アクリルポリマーが挙げられる。構造化分散剤が最も好ましく、それにはAB、BAB、およびABCブロックコポリマー、分岐鎖ポリマー、並びにグラフトポリマーが挙げられる。幾つかの有用な構造化ポリマーが、米国特許第5,085,698号明細書、EP−A−0556649号明細書および米国特許第5,231,131号明細書に開示されており、その開示は、参照により完全に記載されているかのごとく、あらゆる目的のために本明細書に援用される。
【0041】
SDPは、別々の分散剤なしに顔料の安定な分散を可能にする分散性付与基を有する、表面改質された顔料である。水性ビヒクル中における分散のため、表面改質は、親水性基、最も典型的にはイオン性親水基の添加を必要とする。例えば、米国特許第5,554,739号明細書、米国特許第5,571,311号明細書、米国特許第5,609,671号明細書、米国特許第5,672,198号明細書、米国特許第5,698,016号明細書、米国特許第5,707,432号明細書、米国特許第5,718,746号明細書、米国特許第5,747,562号明細書、米国特許第5,749,950号明細書、米国特許第5,803,959号明細書、米国特許第5,837,045号明細書、米国特許第5,846,307号明細書、米国特許第5,851,280号明細書、米国特許第5,861,447号明細書、米国特許第5,885,335号明細書、米国特許第5,895,522号明細書、米国特許第5,922,118号明細書、米国特許第5,928,419号明細書、米国特許第5,976,233号明細書、米国特許第6,057,384号明細書、米国特許第6,099,632号明細書、米国特許第6,123,759号明細書、米国特許第6,153,001号明細書、米国特許第6,221,141号明細書、米国特許第6,221,142号明細書、米国特許第6,221,143号明細書、米国特許第6,277,183号明細書、米国特許第6,281,267号明細書、米国特許第6,329,446号明細書、米国特許第6,332,919号明細書、米国特許第6,375,317号明細書、米国特許出願公開第2001/0035110号明細書、EP−A−1086997号明細書、EP−A−1114851号明細書、EP−A−1158030号明細書、EP−A−1167471号明細書、EP−A−1122286号明細書、国際公開第01/10963号パンフレット、国際公開第01/25340号パンフレット、および国際公開第01/94476号パンフレットを参照されたい(これらの開示は、参照により完全に記載されているかのごとく、あらゆる目的のために本明細書に援用される)。
【0042】
SDP着色剤を、そのイオン特性により更に定義することができる。アニオン性SDPは、水性媒体中で、アニオン性表面電荷を有する粒子を生成する。逆に、カチオン性SDPは、水性媒体中で、カチオン性表面電荷を有する粒子を生成する。例えば、粒子表面にアニオン性またはカチオン性部分を有する基を結合させることによって粒子表面電荷を付与することができる。本発明に使用されるSDPは、好ましくはアニオン性である。
【0043】
アニオン性SDP表面に結合するアニオン性部分は、任意の好適なアニオン性部分とすることができるが、好ましくは(I)または(II)であり:
−CO2Z (I) −SO3Z (II)
式中、Zは、好適なカチオン性対イオン、好ましくは有機塩基の共役酸;アルカリ金属イオン;アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、およびスルホニウムイオンなどの「オニウム」イオン;および、テトラアルキルアンモニウムイオン、テトラアルキルホスホニウムイオン、およびトリアルキルスルホニウムイオンなどの置換「オニウム」イオンからなる群から選択されるものである。また、有用なアニオン性部分には、ホスフェートおよびホスホネートが挙げられる。タイプI(「カルボキシレート」)アニオン性部分が最も好ましい。
【0044】
また、アニオン性基の密度が顔料表面一平方メートル当たり約3.5μモル(3.5μmol/m2)未満、更に好ましくは約3.0μmol/m2未満となる官能度が好ましい。約1.8μmol/m2未満、更には約1.5μmol/m2未満の官能度も好適であり、ある一定の特定の種類のSDPに対して好ましい場合がある。上記およびその他本明細書で使用される場合、「官能度」は、本明細書に後述する方法に従って測定される、単位表面積当たりのSDPの表面に存在する親水性基の量を指す。
【0045】
カルボキシル化アニオン性SDP種には、例えば、上記で援用された米国特許第5,571,311号明細書、米国特許第5,609,671号明細書、および国際公開第01/94476号パンフレットに記載のものが挙げられ;スルホン化(タイプII)SDPには、例えば、上記で援用された米国特許第5,571,331号明細書、米国特許第5,928,419号明細書およびEP−A−1146090号明細書に記載のものが挙げられる。
【0046】
最大の色の濃さと良好な噴出が得られるように、(SDPについて、および、その他顔料について)小さい着色剤粒子を使用することが望ましい。粒度は概ね約0.005ミクロン〜約15ミクロンの範囲内にあってもよく、典型的には約0.005ミクロン〜約1ミクロンの範囲内にあり、好ましくは約0.005ミクロン〜約0.5ミクロンであり、更に好ましくは約0.01ミクロン〜約0.3ミクロンの範囲内にある。
【0047】
本インクに使用されるSDPのレベルは、典型的には印刷画像に所望のODを付与するのに必要なレベルである。典型的には、SDPレベルはインクの約0.01重量%〜約10重量%の範囲内にある。
【0048】
SDPは、カーボンブラックをベースにするものなどのブラックであってもよく、または、PB15:3および15:4シアン、PR122および123マゼンタ、およびPY128および74イエローをベースにするものなどの着色顔料であってもよい。
【0049】
官能基または官能基を含有する分子を顔料の表面にグラフト化することにより、または物理的処理(真空プラズマなど)により、または、化学的処理(例えば、オゾンまたは次亜塩素酸などを用いた酸化)によりSDPを調製してもよい。1個の顔料粒子に単一の種類または複数の種類の親水性官能基を結合させてもよい。官能化の種類および官能度は、例えば、インク中での分散安定性、色濃度、およびインクジェットヘッドの前端における乾燥特性を考慮するによって適切に決定され得る。上記で援用された多数の刊行物を参照することにより更なる詳細を見出し得る。
【0050】
好ましい実施形態の1つでは、SDP上の親水性官能基は、主にカルボキシル基、または、カルボキシル基とヒドロキシル基の組み合わせであり;更により好ましくはSDP上の親水性官能基は直接結合しており、主にカルボキシル基、またはカルボキシルとヒドロキシルの組み合わせである。
【0051】
例えば、上記で援用された国際公開第01/94476号パンフレットに記載の方法で、親水性官能基が直接結合している好ましい顔料を製造してもよい。この刊行物に記載の方法で処理されたカーボンブラックは表面活性水素の含量が高く、これを塩基で中和すると水中で非常に安定な分散体が得られる。この方法を着色顔料に適用することも可能である。
【0052】
他の成分
水性ビヒクル、キレート剤添加剤、着色剤、および可溶性多価金属塩に加えて、本発明のインクは、機能および目的が当該技術分野で周知の他の成分を更に含むことができる。このような他の成分がインクの安定性および噴出能力に干渉しない程度、これらの他の成分をインクジェットインクに配合してもよく、その程度は通常の実験で容易に決定され得る。このような他の成分は、一般的な意味で当該技術分野で周知である。
【0053】
例えば、微生物の増殖を抑制するため、殺生物剤を使用してもよい。
【0054】
例えば、重金属不純物の有害な影響をなくすため、エチレンジアミン四作酸(EDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、エチレンジアミンジ(o−ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四作酸(CyDTA)、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”,N”−五酢酸(DTPA)、およびグリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸(GEDTA)、およびこれらの塩などの金属イオン封鎖剤を含むことが有利な場合がある。これらの添加剤は、また、総称してキレート化剤(chelating agent)と称されることもあるが、本発明の文脈では「キレート剤(chelator)」は特定の意味を有するため、ここではその用語を避ける。直前に記載した金属イオン封鎖剤は、本発明が明記するキレート剤の定義を満足しないが、本発明のインクにそれらを含むことは、他の何らかの目的に役立つ場合がある。
【0055】
ポリマー添加剤をバインダとして添加することができる。ポリマーは、可溶性であってもまたは分散されてもよく、任意の好適なポリマーとすることができ、例えば、可溶性ポリマーには、直鎖ホモポリマー、コポリマーまたはブロックポリマーを挙げてもよく、それらは、また、グラフトまたは分岐鎖ポリマー、星形ポリマー、樹状ポリマーなどを含む構造化ポリマーとすることもできる。分散されるポリマーには、ラテックス、ポリウレタン分散体などを挙げることができる。ポリマーは、以下に限定されないが、フリーラジカル重合、グループトランスファー重合、イオン重合、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合、縮重合および他の種類の重合を含む任意の既知のプロセスで製造されてもよい。
【0056】
存在する場合、可溶性ポリマーは、インクの最終重量を基準にして、少なくとも0.3%、好ましくは少なくとも約0.6%のレベルで有利に使用される。上限はインク粘度または他の物理的限定によって決まるが、インクの総重量を基準にして、典型的には可溶性ポリマー約3%以下、更に典型的には約2%以下である。
【0057】
インク特性
液滴速度、液滴の分離長さ、液滴サイズおよび流れの安定性は、インクの表面張力および粘度に大きく影響される。インクジェットインクは、典型的には、25℃で約20ダイン/cm〜約70ダイン/cmの範囲の表面張力を有する。粘度は、25℃で30cPの高さとすることができるが、典型的には幾分低く、更に典型的には約1〜約20cpsの範囲内にある。インクは、吐出条件およびプリントヘッド設計に合うように調整される物理的特性を有する。インクは、インクジェット装置内であまり目詰りしないように、長期間、優れた貯蔵安定性を有していなければならない。更に、インクは、インクが接触するインクジェット印刷装置の部品を腐食させてはならず、本質的に無臭で非毒性でなければならない。インクは、オンデマンド型インクジェットプリントヘッド、とりわけ感熱方式およびピエゾ方式のプリントヘッドに特に適している。
【0058】
成分の割合
概ね前述されているように、および、その他当業者に概ね認識されているように、本明細書に記載される構成成分を様々な割合と組み合わせで組み合わせて、所望のインク特性を有するインクを製造することができる。特定の最終用途のためにインクを最適化するため、何らかの実験が必要な場合があるが、このような最適化は、概ね当該技術分野の通常の技術の範囲内にある。
【0059】
インク中のビヒクルの量は、インクの総重量を基準にして、典型的には約70重量%〜約99.8重量%、好ましくは約80重量%〜約99.8重量%の範囲内にある。
【0060】
キレート剤は、総インク重量を基準にして、概ね約2重量%以下の量で存在し、更に典型的には約0.1重量%〜約1.0重量%の範囲内にある。
【0061】
着色インク中に着色剤は、総インク重量を基準にして、概ね最大約12重量%までの量で存在し、更に典型的には約0.1重量%〜約9重量%の範囲内にある。分散剤は、不溶性着色剤の安定化のために必要とされるとき、着色剤の量を基準にしたレベルで使用され、通常は重量比として表される。概ね、分散剤は、約1:3〜約4:1の範囲内の顔料対分散剤重量比で使用される。
【0062】
他の成分(添加剤)は、存在する場合、インクの総重量を基準にして、概ね約15重量%未満を構成する。界面活性剤は、添加されるとき、総インク重量を基準にして、概ね約0.2重量%〜約3重量%の範囲内にある。
【0063】
インクセット
別の態様では、本発明は、(少なくとも)第1のインクジェットインクおよび第2のインクジェットインクを含むインクセットに関し、ここで、第1のインクジェットインクは実質的に無色で、第1の水性ビヒクルおよびキレートを含み、第2のインクジェットインクは、第2の水性ビヒクル中に安定に分散または溶解された着色剤を含む着色インクである。着色剤は好ましくは顔料であり、更により好ましくは、第2の水性ビヒクル中に安定に分散されるSDPである。第1および第2のインクのどちらか1つまたは両方が、多価金属カチオンを更に含むことができる。この実施形態では、第1のインクジェットインクは、本発明の印刷方法に従って印刷されるとき、第2のインクジェットインクのための定着剤として使用される。
【0064】
好ましくは、本発明によるインクセットは、第1のインクジェットインク(実質的に無色)に加えて、少なくとも3つの異なる色のインク(CMYなど)、および、好ましくは少なくとも4つの異なる色のインク(CMYKなど)を含み、ここで、その着色インクはそれぞれ、水性ビヒクル中に安定に分散または溶解された適切な着色剤を個々に含む。その着色インクの1つ以上、特にブラック(K)インク中の着色剤は、好ましくは顔料、更に好ましくはSDPである。無色インクおよび着色インク(1つ以上)の1つ以上は、多価金属カチオンを更に含むことができる。
【0065】
本発明によるインクセットは、また、少なくとも3つの異なる色のインク(CMYなど)、好ましくは少なくとも4つの異なる色のインク(CMYKなど)を含んでもよく、ここでインクの少なくとも1つは、水性ビヒクル中に安定に分散または溶解された着色剤を含み、且つキレート剤添加剤を更に含むインクジェットインクである。好ましくは、着色剤は顔料であり、更に好ましくはSDPである。好ましくは、全インク中の着色剤は顔料である。SDPおよびキレート剤、および任意選択的に多価カチオンを含有するブラックインクを有するインクセットが特に好ましい。
【0066】
インクジェット印刷方法
本発明の別の好ましい態様は、インクジェット印刷方法に関し、ここで、実質的に無色のインク(例えば、上記で言及した第1のインクジェットインク)が着色インクのための定着液として使用され、着色インクの上または下に塗布される。
【0067】
基材にまず定着液が塗布され、次いで、塗布された定着液の上に着色インクが印刷される。後述のように、定着液(第1のインク)は、有効であるために、印刷される領域全体を塗りつぶす必要はない。実際、定着液で塗りつぶされる領域は、下記に更に詳細に検討されるように、インクで被覆される領域の一部とすることができる。
【0068】
定着液
定着液は、定着剤を有する「インク」であるが、必ずしも着色剤ではない。定着液は、必要に応じて、着色剤を含有することができるが、その塗布はブラックインクの定着だけに限定され得る。好ましくは、定着液は、実質的に着色剤を含有せず、実質的に無色(透明、無彩)である。また、好ましくは、定着液は基材に印刷されて、目に見える印を残さないことが可能である。
【0069】
定着液は、定着剤の存在なしのインクセットと比較してODおよび/または耐摩擦性の改善を達成するため、「有効量」の定着剤を含有する。定着液中の定着剤の濃度の上限は、概ね、当業者に理解されるような実際的な考慮、例えば、定着液が実質的に無色である、および/または、印刷される基材上に目に見える印を残さず、良好に噴出するという選択によって決まる。
【0070】
定着液は、好ましくは、高展延、および迅速な浸透および乾燥が得られるように配合される。これらの特性を達成するため、界面活性剤および/または浸透溶剤が典型的には使用される。表面張力は、好ましくは約40mN/m未満である。
【0071】
定着液は、典型的には、着色インクの前に基材上に堆積され(アンダープリントされ)、好ましくは実質的に、後で着色インクで印刷される領域だけに堆積される。しかし、定着液で被覆される領域(塗りつぶし領域(area fill))は、着色インクで印刷される領域を全部塗りつぶす必要はない。また、着色インクは、印刷された定着液の上(全部)に滴下する必要はない。アンダープリントされる定着液の塗りつぶし領域は、オーバープリントされる着色インクの塗りつぶし領域より実質的に小さくすることができ、好ましくは小さい。少量の定着剤塗りつぶし領域しか必要としないと、これによって基材の処理しなければならない液体量が減少するため、非常に有利である。液体量が多いと紙基材のしわまたはカールが生じる可能性がある。
【0072】
基材
本発明は、通常の電子写真式コピー用紙などの普通紙上に印刷するのに特に有利であるが、インクジェット印刷用途に使用するのに好適な全ての基材に適用することができる。
【実施例】
【0073】
分散体1
国際公開第01/94476号パンフレットに記載のプロセスに従って、カーボンブラック(Degussa製のNipex 180、表面積260m2/g)をオゾンで酸化させた。回収後、17重量%の自己分散型カーボンブラック顔料の水分散体が得られ、粘度は6.4cps(25℃)であった。平均粒度は90nmであり、酸価(官能度)は2.8μmol/m2未満であった。
【0074】
このSDP(および、国際公開第01/94476号パンフレットによるプロセスで製造されるこれらの実施例中の他のもの)の官能度(酸価)は、処理された顔料をpH7に中和するのに必要な塩基の当量モルにより決定した。表面親水性基は実質的に全て酸性であるため、酸価は官能度とも等しい。
【0075】
塩基の当量モルは、滴定により、または、アルカリ金属水酸化物などの無機塩基の場合、原子吸光(AA)または誘導結合プラズマ(ICP)分析により決定することができる。SDP1グラム当たりの塩基のモル数を得、顔料の表面積で除し、単位を適切に調整することによりμmol/m2に換算する。正確にするため、中和されたサンプルは、測定に干渉する遊離酸または塩などの汚染物質を含まないものでなければならない。
【0076】
分散体2
国際公開第01/94476号パンフレットに記載のプロセスに従って、カーボンブラック(Degussa製のS−160、表面積150m2/g)をオゾンで酸化させ、LiOHで中和した。回収後、16.6重量%の自己分散型カーボンブラック顔料の水分散体が得られ、粘度は3.5cps(25℃)であった。平均粒度は110nmであり、酸価(官能度)は3.3μmol/m2であった。官能度は、測定されたように、3.0μmol/m2未満の目標レベルを僅かに上回った。
【0077】
分散体3
Cabojet(登録商標)300(Cabot Corporation製のグラフト化カルボン酸基を有する自己分散型カーボンブラック顔料)を15重量%の濃度で水中に分散した状態で得、受け取った状態で使用した。
【0078】
分散体4
Bonjet(登録商標)CW−2(Orient Chemical Co.製の直接結合しているカルボン酸基を有する自己分散型カーボンブラック顔料)を18重量%の濃度で水中に分散した状態で得、受け取った状態で使用した。
【0079】
バインダ1
3リットルのフラスコに攪拌機、熱伝対、N2入口、冷却器、滴下漏斗、およびシリンジポンプを装備した。テトラヒドロフラン(950g)、1,1−ビス(トリメチルシロキシ)2−メチルプロペン(46.2g)およびテトラブチルアンモニウムm−クロロベンゾエート(2g)をポットに添加した。供給I(テトラヒドロフラン(5g)およびテトラブチルアンモニウムm−クロロベンゾエート(0.8g))および供給II(ベンジルメタクリレート(600g)、2−(トリメチルシロキシ)エチルメタクリレート(312g)、エチルトリエチレングリコールメタクリレート(100g)およびトリメチルシリルメタクリレート(152g))を時間0分に開始した。供給Iを200分にわたって添加した。供給IIを60分にわたって添加した。360分後、メタノール90gをポットに添加した。ポットを加熱還流して、500gを蒸留した。水(124g)およびジクロロ酢酸(0.2g)の溶液をポットに添加し、60分間還流した。還流後、725gを蒸留し、2−ピロリジノン(889g)を添加した。この合成によって、ベンジルメタクリレート60重量%、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20重量%、エチルトリエチレングリコールメタクリレート10重量%、およびメタクリル酸10重量%のランダムアクリルポリマー、Mn5300が生成した。最終溶液は、2−ピロリジノン中にポリマー固体52%を含有した。
【0080】
インクの調製
まずビヒクルと添加剤を一緒に混合し、次いで攪拌しながら分散体をゆっくりと添加することによってインクを調製した。成分の量は、別途記載しない限り、インクの総重量の重量%の単位である。インクを希釈するのに使用される水は脱イオン水である。成分Surfynol(登録商標)465はAir Products Corporation(Allentown, PA, USA)製の界面活性剤である。
【0081】
評価
インクは全てCanon i550プリンタで、清掃されたブラックカートリッジおよび「高画質」印刷モードを使用して印刷した。定着剤を同じプリンタで、しかしカラーカートリッジを使用して印刷された。Greytag−Macbeth SpectroEye(Greytag−Macbeth AG, Regensdorf, Switzerland)を使用して、印刷物の光学濃度を測定した。印刷パターンをCorelDraw(Corel Corporation)で作成し、ソフトウェアも使用して定着剤の塗りつぶし領域を制御した。定着剤を所望の塗りつぶし領域で印刷し、ページ全体を被覆した。次いで、そのページをプリンタに再供給し、次いで定着剤の上にインクを印刷した(100%塗りつぶし領域)。典型的には、定着剤の印刷とインクの印刷の間に3〜5秒の時間があった。この時間を24時間まで延長しても、得られるODの変化に顕著な差は生じなかった。
【0082】
実施例1
これは、分散体1のSDPに対する多価カチオン(酢酸銅)とフェナントロリンの効果を実証する。酢酸銅とフェナントロリンの両方を有するインク1dは、酢酸銅だけを有する比較のインク1bよりも光学濃度が高く、紙ごとのばらつきが小さい。多価カチオンなしのインクにキレート剤を使用したとき、それは定着剤として最も効果が高かった。
【0083】

【0084】

【0085】
実施例2
この実施例は、可能性のある他のキレート剤−シュウ酸、2,4−ペンタンジオンおよびEDTAの比較を示す。多価カチオン(酢酸銅)とキレート化剤の組み合わせは、フェナントロリン(1dに示す)などの本発明によるキレート剤の使用と比較して光学濃度の増加に無効であるかまたは効果が低い。
【0086】

【0087】

【0088】
実施例3
分散体1を使用し、硝酸カルシウムおよびフェナントロリンを用いて製造されたインクは、凝集し、0.5ミクロンのフィルタをきれいに通って濾過されることができなかった。
【0089】

【0090】
実施例4
分散体2を有する以下のインクを調製し、評価した。多価金属塩(硝酸銅)および本発明のキレート剤(フェナントロリン)を一緒に組み合わせたものは、対照のインクまたはキレート剤だけを有するインクより光学濃度が高く、紙ごとのばらつきが小さい。
【0091】

【0092】

【0093】
実施例5
分散体2を有する以下のインクを調製し、評価した。多価金属塩(酢酸銅)および本発明のキレート剤(フェナントロリン)を一緒に組み合わせたものは、多価金属塩だけを有する対照インクより光学濃度が高く、紙ごとのばらつきが小さい。また、多価金属塩として酢酸銅を用いた結果は、多価金属塩として硝酸銅を用いた実施例4と同等である。
【0094】

【0095】

【0096】
実施例6
分散体3を有する以下のインクを調製し、評価した。分散体は、前記実施例中の分散体1および2より全体的にODが低かった。他の分散体と異なり、インク6d中の金属塩とキレート剤の組み合わせは、インク6b中の金属塩単独よりODを向上させなかった。この実施例中の配合物は、最適化されていない可能性があるか、または、おそらく分散体3によって表される様々なSDPは、他の分散体のように本発明に関する用途に好適でない。
【0097】

【0098】

【0099】
実施例7
分散体4を有する以下のインクを調製し、評価した。
【0100】
前記実施例中の分散体3と同様に、分散体4を使用すると前記実施例中の分散体1および2より全体的にODが低かった。インク7c中の多価金属塩およびキレート剤の組み合わせは、対照インク6bより僅かにODを向上させるように思われるが、光学濃度は概して比較的低い。この実施例中の配合物は最適化されていない可能性があるが、分散体4のSDPは、分散体1および2のSDPほど、高い光学濃度を達成するのに有利ではないという見込みが最も高い。
【0101】

【0102】

【0103】
実施例8
この実施例は、キレート剤を含有する未着色インクの定着剤としての利点を実証する。以下の定着剤インクおよび分散体1を有する着色インクを調製し、評価した。着色インクは定着剤でアンダープリントされた。キレート剤だけを有する定着剤は、有効であり得るが、概して多価金属塩と組み合わせた方がODは更に向上する。
【0104】

【0105】

【0106】

【0107】

【0108】
実施例9
分散体2を有する以下のインクを調製し、評価した。この実施例は、本発明の追加のキレート剤、2,2−ジピリジルおよび2,2−ジピリジルアミンを実証する。非キレート化種4,7−フェナントロリンはODを増加させない。
【0109】

【0110】

【0111】
硝酸銅の存在なしにインクを製造するとき、インクはどれも光学濃度の顕著な変化を示さなかった。
【0112】

【0113】

【0114】
実施例10
分散体1を有する以下のインクを調製し、評価した。この実施例は、インク中のキレート剤(2,2−ジピリジルアミン)、対、多価金属(Cu2+)の比を増加させることの効果を実証する。2,2−ジピリジルアミンが約4のモル比まで増加するにつれ、光学濃度は増加し、約4のモル比で横ばいになるように見える。
【0115】

【0116】

【0117】
実施例11
分散体1を有する以下のインクを調製し、評価した。これらの実施例は、インク中の2,2−ジピリジルキレート剤、対、Cu2+多価金属の比を増加させることの効果を実証する。2,2−ジピリジルの比が高いほど、光学濃度は増加した。
【0118】

【0119】

【0120】
実施例12
分散体2を有する以下のインクを調製し、評価した。この実施例は、多価カチオンとしてのカルシウム、コバルトおよび鉄を実証する。配位錯体を形成することができる遷移金属、コバルト、鉄、および銅(前記実施例)は、アルカリ金属カチオン、カルシウムより、キレート剤との組み合わせが有効な傾向があった。
【0121】

【0122】
[上記表続き]

【0123】

【0124】
[上記表続き]

【0125】
実施例13
分散体1、エチレンジアミンキレート剤および様々な多価金属塩を有する以下のインクを調製し、評価した。光学濃度は、エチレンジアミンなしで製造されたインク(実施例12の対照インク)より高かった。
【0126】

【0127】

【0128】
実施例14
分散体1を有する以下のインクを調製し、評価した。この実施例は、4,7−フェナントロリン(非キレート化フェナントロリン異性体)を1,10−フェナントロリンキレート剤と比較した。4,7−異性体を用いて製造されたインクは、1,10−フェナントロリンと比較してほとんど効果がなかった。
【0129】

【0130】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ビヒクルおよびキレート剤を含むインクジェットインクであって、
前記キレート剤が、少なくとも2つの配位窒素原子を有し且つカルボキシル基を有していない非ポリマー分子を含むことを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
前記キレート剤が、キレート剤なしの同じインクより光学濃度を増加させるのに有効なレベルで存在することを特徴とする、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
25℃で約20ダイン/cm〜約70ダイン/cmの範囲の表面張力、および25℃で30cP程度の粘度を有する、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記キレート剤が、フェナントロリン、2,2−ジピリジル、2,2−ジピリジルアミン、およびエチレンジアミン、およびこれらの誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
多価カチオン性金属種を更に含む、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
前記インクが実質的に無色であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のまたはその組み合わせのインクジェットインク。
【請求項7】
着色剤を更に含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のまたはその組み合わせのインクジェットインク。
【請求項8】
前記着色剤が自己分散型顔料であることを特徴とする、請求項7に記載のインクジェットインク。
【請求項9】
第1のインクジェットインクと第2のインクジェットインクとを含むインクジェットインクセットであって、
前記第1のインクジェットインクが、請求項6に記載の実質的に無色のインクジェットインクであり、前記第2のインクジェットインクが、水性ビヒクルと顔料着色剤で構成される着色インクであることを特徴とするインクジェットインクセット。
【請求項10】
水性ビヒクル中に安定に分散または溶解された着色剤を個々に含む少なくとも3つの異なる色のインクジェットインクを含むインクジェットインクセットであって、
前記3つの異なる色のインクジェットインクの少なくとも1つが、請求項7に記載の着色インクジェットインクであることを特徴とする、インクジェットインクセット。
【請求項11】
前記3つの異なる色のインクジェットインクの少なくとも1つが、請求項8に記載の着色インクジェットインクであることを特徴とする、請求項10に記載のインクジェットインクセット。
【請求項12】
(a)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程、
(b)印刷される基材を前記プリンタに装填する工程、
(c)インクジェットインクを前記プリンタに装填する工程、および
(d)前記インクジェットインクを使用し、前記デジタルデータ信号に応答して前記基材に印刷する工程、
を含む、基材へのインクジェット印刷方法であって、
前記インクジェットインクが請求項1〜8のいずれか一項に記載のものであることを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記プリンタに、請求項9または請求項10に記載のインクジェットインクセットを装填することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記インクジェットインクセットが請求項9に記載のものであり、前記第2のインクジェットインクが、前記第1のインクジェットインクでアンダープリントされることを特徴とする、請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2008−502790(P2008−502790A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527761(P2007−527761)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/020450
【国際公開番号】WO2005/123855
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】