説明

高分子ナノ複合材料

【課題】機械的な振動に対する高い減衰性能を有する高分子ナノ複合材料を提供する。
【解決手段】 高分子材料からなる母材と、母材に分散した複数のカーボンナノウォールとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノウォールを含む高分子ナノ複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機、輸送機、建造物、及び機械等の性能を向上させるために、機械的な振動や雑音を減衰させ、機械的な衝撃を緩和させる材料が必要となる。振動や雑音を減衰させ、衝撃を緩和させるためには、高い減衰性能が要求される。また、機械構造体の部材としては、高い剛性が要求される。
【0003】
一般に、高分子材料は、減衰性能は高いが、剛性や耐久性に劣る。特に高温では剛性や耐久性の劣化が問題となる。金属材料やセラミックス材料は、広い温度範囲で剛性は高いが、減衰効率は低い。そのため、減衰性能及び剛性等の機械特性に優れた材料として、高分子ナノ複合材料の開発が進められている。
【0004】
高分子ナノ複合材料は、高分子母材にサイズがナノメートルオーダーの微小物質を分散させた複合材料である。微小物質として、カーボンブラック(CB)、カーボンファイバ、フラーレン、カーボンナノチューブ(CNT)等のナノカーボン材料が用いられる。CNTを高分子に混合したCNT高分子ナノ複合材料が報告されている(特許文献1、2、及び非特許文献1参照。)。
【0005】
航空機のジェットエンジンのファンケースに使用される部材として、機械的強度や剛性が比較的高いファイバ強化プラスチックス(FRP)が開発されている。構造体の耐衝撃性を更に高め、且つジェットエンジンの軽量化のためには、更に優れた減衰性能を有する複合材料の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−506170号公報
【特許文献2】特開2008−290936号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】マリア・エル・アウアド他(Maria L. Auad et al.),"広い温度範囲で高い減衰性能を示す単層カーボンナノチューブ/エポキシエラストマ(Single-wall carbon nanotubes/epoxy elastomers exhibiting high damping capacity in an extended temperature range)",コンポジット・サイエンス・アンド・テクノロジ(Compos. Sci. Technol.), 2009年,第69巻,pp.1088−1092
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、機械的な振動に対する高い減衰性能を有する高分子ナノ複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様によれば、高分子材料からなる母材と、母材に分散したカーボンナノウォールとを含む高分子ナノ複合材料が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械的な振動に対する高い減衰性能を有する高分子ナノ複合材料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係るナノ複合材料の一部の平面図を一例として示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の応用例に係るジェットエンジンのファンケースの一例を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態の応用例に係る減衰シートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照して、本発明の形態について説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号が付してある。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
又、以下に示す本発明の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
本発明の実施の形態に係るナノ複合材料は、図1に示すように、高分子材料からなる母材10と、母材10に分散した複数のカーボンナノウォール(CNW)12i-1、12i、12i+1、12i+2・・・とを含む。母材10として、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリプロピレン(PP)、ビニールエステル、ポリエステル、アクリル、エポキシ、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、フッ素化樹脂等の高分子材料が用いられる。
【0015】
CNW12i-1、12i、12i+1、12i+2・・・は、例えば四フッ化メタン(CF4)、六フッ化エタン(C26)等のパーフルオロカーボン(PFC)ガス、あるいはメタン(CH4)、アセチレン(C22)等の炭化水素ガスを用いたプラズマCVD法等によりシリコン(Si)、サファイア等の基板上に形成される。CNW12i-1、12i、12i+1、12i+2・・・は、基板表面に配向した壁状あるいは板状のカーボンナノ構造体である。
【0016】
カーボンナノ構造体としては、CNW以外にも、円筒状のカーボンナノチューブ(CNT)が知られている。CNTは、機械特性、熱伝導特性、及び電気伝導特性が高く、金属に代わる配線や電極等の材料として注目されている。また、CNTを高分子材料に分散させて形成したナノ複合材料においては、機械強度、減衰性能、及び耐熱性が向上することが知られている。
【0017】
CNWが板状(面状)のグラフェンシートであるのに対し、CNTはグラフェンシートを円筒状に丸めたものである。即ち、円筒を1次元の線と看做せば、CNTは1次元、及びCNWは2次元のナノ構造体と見做すことができる。母材に接触する面は、CNWではグラフェンシートの表面及び裏面の2面に対して、CNTでは円筒状のグラフェンシートの外面だけである。したがって、CNTがCNWと同様の面サイズのグラフェンシートを円筒状に丸めたものとすると、分散させた複数のカーボンナノ構造体全体の体積に対する表面積の比は、CNWの方がCNTより大きい。このように、実施の形態に係る高分子ナノ複合材料では複数のCNW12i-1、12i、12i+1、12i+2・・・を分散物質として用いているので、CNTを分散物質として用いたナノ複合材料に比べて更に機械的な振動に対する減衰性能を向上させることができる。
【0018】
(応用例)
実施の形態に係る高分子ナノ複合材料は、航空機、衛星、宇宙船等の部品に応用することができる。例えば、図1に示した高分子ナノ複合材料をジェットエンジンのファンケースに用いることにより。振動減衰及び衝撃緩和を効率よく行うことが可能である。
【0019】
図2に示すように、ジェットエンジンは、ファン部20とコアエンジン部30とを備える。ファン部20は、ファンディスク24に取り付けられたファンブレード22と、ファンブレード22の下流側に設けられた出口ベーン28と、ファンブレード22及び出口ベーン28を囲むように設けられたファンケース26とを備える。コアエンジン部30は、圧縮部、燃焼部、タービン部(図示省略)等を備える。
【0020】
通常、ファンケースには、積層した複数の繊維強化プラスティックス(FRP)が用いられる。FRPは、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維等の強化繊維を高分子材料に入れた複合材料である。耐衝撃性を向上させるために強化繊維の量を増やすと、FRPの厚さが増加し、ファンケースの重量が増加する。そのため、ジェットエンジンの小型軽量化が困難となる。
【0021】
ファンケース26では、図1に示した複数のCNWを分散させた高分子ナノ複合材料をFRPの高分子材料として用いる。高分子ナノ複合材料を用いることにより、強化繊維の量を低減することができる。その結果、ファンケース26の重量を低減することができ、ジェットエンジンの小型軽量化が可能となる。また、ファンケース26に用いるFRPの厚さを薄くできるので、ファンケース26の製作が容易となり、ジェットエンジンのコストを低減することが可能となる。
【0022】
また、実施の形態に係る高分子ナノ複合材料は、自動車、飛行機、電車、電子装置、建物、船舶等の防振や防音のための減衰シートとして使用することができる。例えば、図1に示した高分子ナノ複合材料を薄膜に成形し、減衰シートとして用いる。例えば、図3に示すように、自動車のドアパネル40の内側の表面に高分子ナノ複合材料からなる減衰シート42を貼付する。減衰シート42は、走行中のドアパネル40の振動を減衰させることができ、且つ振動によるドアパネル40の騒音を防止することができる。
【0023】
実施の形態に係る高分子ナノ複合材料は、振動の減衰性能が高いので、従来の減衰シートより薄くすることができる。したがって、自動車のドアパネル40のように凹凸がある表面にも、減衰シート42を容易に貼付することが可能である。
【0024】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者にはさまざまな代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係わる発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、機械構造体において、振動を減衰させる部材として用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
10 母材
12 カーボンナノウォール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からなる母材と、
前記母材に分散した複数のカーボンナノウォール
とを含むことを特徴とする高分子ナノ複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−52053(P2011−52053A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199821(P2009−199821)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】