説明

高分子フィルム、その製造方法、および配線基板用積層体

【課題】表面に凹凸を有する配線基板用高分子フィルム、前記高分子フィルム表面に導電性金属を形成した配線基板用積層体、および前記積層体の製造方法を提供する
【解決手段】表面に凹凸を有する高分子フィルムであって、前記凹凸の形状をJIS B0631(2000年)に規定された、粗さモチーフの深さと粗さモチーフの長さからなるモチーフパラメータで評価する場合、前記凹凸のモチーフパラメータは(1)粗さモチーフの平均深さの範囲が0.4〜3.0μmであり、(2)X=粗さモチーフの平均深さ(μm)/粗さモチーフの平均長さ(mm)としたとき、Xの範囲が13〜60である。
前記高分子フィルムは、少なくともサンドブラスト法により前記高分子フィルムの表面を粗化処理する工程を有し、前記粗化処理は、前記高分子フィルムの粗化される面の裏面を支持体に密着させた状態で行うことにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に所定の凹凸形状を有する高分子フィルム、その製造方法、および前記高分子フィルムの表面に導電性金属膜を形成した配線基板用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器などには、電子部品を電気接続するために、基材上に回路パターンを形成したプリント配線基板が用いられている。特に、曲げを要する部分には可とう性をもった基材フィルム(ポリイミド樹脂フィルムなど)上に銅箔を加熱圧着または接着した積層体からなるフレキシブル配線基板が多く用いられている。
【0003】
前記積層体の製造方法としては、銅箔にポリイミド前駆体であるポリイミック酸を塗布して加熱するキャスティング法、ポリイミド樹脂フィルム上にスパッタ法などで金属を蒸着する方法、ポリイミド樹脂フィルムと銅箔を熱可塑性ポリイミドで接着するラミネート法などが代表的である。
【0004】
電気的特性の優れる液晶ポリマーを使用したラミネート法として、銅箔表面を粗化させて凹凸を形成し、そこに基材フィルムを加熱圧着させる積層体の製造技術が特許文献1に開示されている。
【0005】
近年、ファインパターンの形成には、銅箔を用いない、基材フィルムに金属堆積膜を形成する方法が注目されている。この方法は金属膜を薄くできるため、ファイン回路パターンの形成に有利である。フレキシブル配線基板用途では、ポリイミド樹脂フィルムにスパッタ法で金属堆積膜を形成する方法が実用化されている。しかし、この方法はフィルムと金属堆積膜との密着強度が低いという問題があった。
【0006】
スパッタ法を用いない金属膜堆積方法として、基材フィルム表面を粗化し、そこに無電解メッキを施す方法が検討されている。基材フィルム表面の粗化法としては、エッチング液によりフィルム表面に微細な孔を多数形成するエッチング法(特許文献2)、フィルム表面に凹凸形状を機械的に形成するブラスト法(特許文献3、4)などが知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−345387号公報
【特許文献2】特開2004−307980号公報
【特許文献3】特開平11−320753号公報
【特許文献4】特開2000−124583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記エッチング法は、フィルム表面が化学変化を起こし、表面脆弱層(Weak Boundary Layer)が生成しやすいという問題がある。特に、ポリイミド樹脂フィルムでは、製膜中に発生した低分子重合体や分解物に由来するオリゴマーなどが表面に移動し、表面脆弱層が生成することから、実用化の障害となっていた。
【0009】
一方、表面に脆弱層が生成しないブラスト法には、ドライブラスト法とウェットブラスト法が知られている。前記ドライブラスト法では、基材フィルムに研削材を高速で衝突させ、凹凸形状を機械的に形成するサンドブラスト法が代表的であるが、サンドブラスト法には、リジッドなプリント配線基板の基材フィルムの粗化にエッチング法と併用して用いられることはあるが、フレキシブルプリント基板では、基材フィルムが薄いため均一な粗化が得られず、また少しでも粗化を大きくしようとすると、研削材がフィルムを貫通してピンホールが発生するという問題があった。
【0010】
前記ウェットブラスト法は、研削材を水などの液体に混合させ、圧縮空気によって高分子フィルム表面に衝突させる方法で、このウェットブラスト法はドライブラスト法と比較してピンホールが発生し難く安定して粗化できるが、ドライブラスト法と同様に、高分子フィルムが薄いと、均一な粗化が得られないという問題があった。
【0011】
これら従来法では、フィルムを両端に張力をかけた状態で中空に浮かし、圧縮空気と一緒に研削材を衝突させるか、研削材を含む加圧水を噴射していた。そのため、研削材の噴射によって、フィルムは研削材の噴射方向に対し、微少な振幅運動を繰り返し、その結果、噴射圧力、噴射量などを一定にしても、研削材のフィルムに対する衝突速度がばらついて所定の凹凸形状が得難くかった。さらに、研削材がフィルムを貫通してしまう不具合が生じやすく、これはフィルムが薄いほど顕著であった。
このようなことから、本発明者等は鋭意研究を行い、高分子フィルムの粗化される面の裏面を支持台に密着させた状態でサンドブラストを行うことで、極めて均一な凹凸形状が得られることを見いだした。
【0012】
一方、ブラスト法により粗化されたフィルム表面の凹凸形状は、一般に従来JIS B0601(1994年)に規定される算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(RyまたはRmax)、十点平均粗さ(Rz)により評価されることが多いが、これらの値は粗化処理後のばらつきが大きく、得られた高分子フィルム表面の凹凸形状を適切に評価できなかった。
本発明のフィルム表面の凹凸形状は、JIS B0631(2000年)に規定されたモチーフパラメータを用いると、実用レベルの配線基板用積層体を形成するのに適した高分子フィルムの表面凹凸形状を適切に評価できる。
【0013】
本発明は、表面に所定の凹凸形状を有する高分子フィルム、前記高分子フィルム表面に導電性金属膜を形成した配線基板用積層体、および前記高分子フィルムの製造を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、表面に所定の凹凸形状を有する高分子フィルムであって、前記凹凸形状をJIS B0631(2000年)に規定された、粗さモチーフの深さと粗さモチーフの長さからなるモチーフパラメータで評価する場合、前記モチーフパラメータは下記(1)と(2)の条件を満足することを特徴とする高分子フィルムである。
(1)粗さモチーフの平均深さの範囲が0.4μm〜3.0μmである。
(2)X=粗さモチーフの平均深さ(μm)/粗さモチーフの平均長さ(mm)としたとき、Xの範囲が13〜60である。
【0015】
請求項2記載の発明は、前記高分子フィルムは、溶融時に光学的異方性(液晶性)を示すことを特徴とする請求項1に記載の高分子フィルムである。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の高分子フィルムの表面に導電性金属膜が形成されていることを特徴とする配線基板用積層体である。
【0017】
請求項4記載の発明は、前記導電性金属膜がCu、Cu合金、Ni、Ni合金、Co、Co合金、のいずれかにより形成されていることを特徴とする請求項3に記載の配線基板用積層体である。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1または2に記載の高分子フィルムの製造方法において、少なくともサンドブラスト法により前記高分子フィルムの表面を粗化処理する工程を有し、前記粗化処理は、前記高分子フィルムの粗化される面の裏面を支持体に密着させた状態で行うことを特徴とする高分子フィルムの製造方法である。
【0019】
請求項6記載の発明は、前記支持体は前記高分子フィルムと同調して進行または回転することを特徴とする請求項5に記載の高分子フィルムの製造方法である。
【0020】
請求項7記載の発明は、前記サンドブラストによる粗化処理において、空気またはガスをイオン化してフィルム表面に研削材と共に吹き付けることを特徴とする請求項5または6に記載の高分子フィルムの製造方法である。
【0021】
請求項8記載発明は、前記サンドブラスト法がウェットブラスト法であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の高分子フィルムの製造方法である。
【0022】
請求項9記載発明は、噴射ノズルの開口幅が高分子フィルム幅より広いことを特徴とする請求項8に記載の高分子フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の高分子フィルムは、その表面に下記の凹凸形状が形成されたものなので、導電性金属膜を強固に密着させることができる。
JIS B0631(2000年)に規定された、粗さモチーフの深さと粗さモチーフの長さからなるモチーフパラメータで評価する場合、前記モチーフパラメータは下記(1)と(2)の条件を満足することを特徴とする高分子フィルム。
(1)粗さモチーフの平均深さの範囲が0.4μm〜3.0μmである。
(2)X=粗さモチーフの平均深さ(μm)/粗さモチーフの平均長さ(mm)としたとき、Xの範囲が13〜60である。
【0024】
高分子フィルムに、光学的異方性の溶融相を形成しうる高分子フィルムを用いると、高分子フィルムと金属膜との密着強度がより向上する。
上記した凹凸形状の条件は、光学的異方性の溶融相を形成しうる高分子フィルム、即ち、液晶ポリマーフィルムの表面に適用すると、フィルムとフィルム上に形成された金属膜との間に高い密着性が得られる。
【0025】
本発明の配線基板用積層体は、所定の凹凸形状が形成された高分子フィルム表面に導電性金属を膜状に堆積したものなので、高分子フィルムと導電性金属膜との密着強度が高く、前記積層体を用いた配線基板は信頼性に優れる。
【0026】
前記高分子フィルムの製造方法は、少なくともサンドブラスト法により高分子フィルムの表面を粗化処理する工程を有し、前記粗化処理は、前記高分子フィルムの粗化される面の裏面が支持体に密着して支持された状態で行うので、ピンホールが生じず、表面の凹凸形状が適切に形成される。
【0027】
前記支持体を前記高分子フィルムと同調して進行または回転させることにより、前記高分子フィルム表面には凹凸形状がより鋭利に形成され、高分子フィルムと導電性金属膜との密着強度が更に向上すると共に、粗化処理が効率よく行われる。
なお、サンドブラスト法は、研削材を圧縮空気によって衝突させるドライブラスト法或いは研削材を液体と混合させて圧縮空気で衝突させるウェットブラスト法のどちらを用いても構わない。ウェットブラスト法では装置が大掛かりとなるが、ドライブラスト法によって発生する静電気が問題となる場合などには有効である。またウェットブラスト法では噴射ノズルの噴射口幅を高分子フィルム幅より広くすることで、噴射ノズルと高分子フィルムの相対移動による処理ムラを少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の高分子フィルムは、その表面の凹凸形状を、JIS B0631(2000年)に規定される粗さモチーフの深さと粗さモチーフの長さからなるモチーフパラメータで評価する場合、前記粗さモチーフの平均深さ範囲が0.4〜3.0μmであり、前記粗さモチーフの平均深さR(μm)と粗さモチーフの平均長さAR(mm)の比(X=R/AR)が13〜60であり、この条件を満たす高分子フィルムは、ピンホールが生じず、導電性金属膜との密着強度が高い。従って、本発明の高分子フィルム積層体は最適な配線パターンの加工精度が得られる。
本発明高分子フィルムの表面の好ましいX値は15〜50、さらに好ましいX値は18〜40である。これらの値は本発明者等が実験により明らかにしたものである。
【0029】
従来、高分子フィルム表面の凹凸形状は、表面粗さの基本パラメータである算術平均粗さ(Ra)、最大粗さ(RyまたはRmax)、十点平均粗さ(Rz)で評価していたが、この方法では、粗化処理で形成された凹凸が非常に微細な場合、フィルム表面自体が小さなうねりを有するため粗化前後で明確な差が認められなかった。JIS B0601(1994年)に規定されるカットオフ値λcを設定しフィルターをかけて前記Ra、Ry、Rzを求めても、粗化処理で生じた微細な凹凸は、前記フィルム表面自体の小さなうねりに埋もれてしまって検出できなかった。
【0030】
本発明において、高分子フィルムには、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、芳香族ポリエステルなどからなる、厚さが5〜200μmのフィルムが用いられる。
【0031】
本発明において、高分子フィルムは、溶融時に光学的異方性を示す高分子フィルム、つまり、加熱装置を備えた偏光顕微鏡直交ニコル下にて、偏光を透過する性質を有する溶融状態をもつ液晶高分子フィルムが導電性金属膜との密着性に優れ望ましい。
中でも、下記[化1]に示す分子構造の全芳香族ポリエステル、および一部に脂肪族ポリエステルを含む熱可塑性液晶ポリマーフィルムが推奨される。
【0032】
【化1】

【0033】
本発明の高分子フィルムは、例えば、図1に示すようにして製造する。
即ち、高分子フィルム1の裏面1a側を回転する金属ロール(支持体)2に同調させて添わせ、フィルム裏面1aとロール表面2aが密着した状態で高分子フィルム表面1bにブラスト装置3を用いて研削材4を圧縮空気と一緒に噴射ノズル3aから噴射して衝突させる。その後、洗浄装置5で付着した研削材4などを除去する。図1で、6はコンプレッサー(圧縮空気発生器)、7はフィルムの張力制御用ロール、8はガイドロールである。
【0034】
この方法では、高分子フィルムがロール表面2aに密着しているため、高分子フィルムは振動せず、高分子フィルムに対する研削材の衝突速度が一定になり、高分子フィルム表面には微細で均一な凹凸形状が形成される。さらにフィルム裏面に密着するロール表面が研削材の衝突力の一部を吸収するため、研削材が貫通しにくく、高分子フィルムが薄くてもピンホールが発生しない。
【0035】
また、ドライブラストでは、研削材が高分子フィルムに衝突すると、電荷がフィルム表面に蓄積し、静電気によるスパークが発生し、高分子フィルムに陥没痕が発生する場合がある。その場合、イオナイザーを用いながらサンドブラストを行なった。サンドブラストの噴射ノズルの両端にイオナイザーを設置し、フィルム表面に正の電解が蓄積する場合、空気を負にイオン化して研削材と一緒にフィルムに衝突させて帯電をおさえ、静電気スパークの発生を防止した。一方、ウェットブラストでは、研削材を液体に混合させるため静電気は発生しない。高分子フィルムが静電気を帯び易い場合は、ウェットブラストの方が有効である。
【0036】
本発明の高分子フィルム積層体は、例えば、粗化処理した高分子フィルムの表面上に前処理などを施し、次いでメッキ触媒を付与し、さらに下地を無電解メッキし、その上に導電性金属膜を電気メッキして製造される。前記無電解メッキ液には、ローム・アンド・ハース社製、或いはメルテックス社製の市販品が使用できる。
無電解メッキの典型例は、パラジウム錫系またはパラジウムコロイド系の触媒液を用いて触媒を付与した後、銅、ニッケル、コバルトなどを無電解メッキするものである。
【0037】
本発明において、電気メッキには市販の電気メッキ液が使用できる。銅の電気メッキには硫酸銅浴やほうフッ化銅浴を用いることができる。ニッケルの電気メッキにはワット浴やスルファミン酸浴を用いることができる。
【0038】
本発明において、高分子フィルム表面上に導電性金属膜を形成した後、加熱処理を行って高分子フィルムと導電性金属膜との密着性を高めるのが望ましい。
前記加熱処理は、50℃以上、フィルムの溶融温度以下または熱変形温度以下の温度で、適当な時間保持して行う。前記加熱処理は導電性金属膜の酸化を防ぐため、不活性ガス雰囲気中で行うのが望ましい。
【実施例1】
【0039】
高分子フィルムの表面を、図1に示した方法により連続的にサンドブラスト処理して粗化し、水洗した後、コンディショナー処理(前処理)、プリディップ処理、キャタリスト処理、アクセラレーター処理、無電解メッキ処理、導電性金属膜の電気メッキ処理をこの順に施して積層体を製造した。サンドブラスト処理条件を表1に示した。
【0040】
前記高分子フィルムには、ジャパンゴアテックス社製の液晶ポリマーフィルム(商品名:BIAC)、およびクラレ社製の液晶ポリマーフィルム(商品名:Vecstar(CT−50N))を用いた。前記フィルムの厚みは50μm、幅は530mmである。
【0041】
前記サンドブラスト処理では、等間隔に5本並列に配列した噴射ノズルを備えたサクション式サンドブラスト装置3(図2参照)を用いた。前記ブラスト装置3のエアノズル径は3mmφ、噴射ノズル径は7mmφである。研削材にはWA#600〜#1500の白色アルミナを用いた。高分子フィルムを支持するロールには表面がステンレスで覆われた直径500mmのロールを用いた。
【0042】
高分子フィルムの送り速度は0.1m〜0.5m/分とし、噴射ノズルの使用本数は高分子フィルムの送り速度に合わせて増減した。即ち、0.1mm/分のときは1本、0.2mm/分のときは2本などである。
前記ロールの回転速度と高分子フィルムの送り速度は一致(同調)させた。噴射ノズルはフィルム送り方向に対し垂直方向に往復するようにプログラムして噴射量を調節した。研削材、噴射量、噴射距離、噴射圧力は種々に変化させた。ブラスト条件を表1に示す。
【0043】
サンドブラスト処理後の、高分子フィルム表面は、噴水流をあてて水洗し付着した研削材(アルミナ粉)を除去した。
【0044】
水洗後乾燥して、高分子フィルムのピンホール数を、光源に透かし顕微鏡を用いて計測した。ピンホール数は10cm四方あたりの個数で示した。
【0045】
次に、高分子フィルムの表面粗さを、接触式表面粗さ計(ミツトヨ製SV−300S4)を用いて測定した。表面粗さは、JIS B0601(1994年)に基づいて、算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Ry)、十点平均粗さ(Rz)を求めた。検出器は4mNを用い、Raが0.1μm〜2.0μmであることから、基準長さおよびカットオフ値λcは0.8mmとし、評価長さは4mm、測定速度は0.5mm/秒とした。
【0046】
また、モチーフパラメータを、上記表面粗さ計を用い、JIS B0631(2000年)に基づいて測定した。測定条件は、粗さモチーフ上限長さ0.1mm、評価長さ3.2mm、粗測定速度0.5mm/秒とした。粗さモチーフの平均深さ(R)、粗さモチーフの平均長さ(AR)を計測し、X=R/ARを求めた。単位は、R値がμm、AR値がmmである。
各表面粗さの測定は、フィルム製膜の延伸方向(一般にMD方向という)と、延伸と垂直方向(一般にTD方向という)との2方向を各5回測定し、その平均値を記録した。
【0047】
前記コンディショナー処理は、ローム・アンド・ハース社製のクリーナーC/N3320に浸漬(50℃、5分間)して施し、フィルム表面を正に帯電させた。
【0048】
前記キャタリスト処理は、ローム・アンド・ハース社製のCP404を用いてプリディップ(25℃、1分間)し、次いでローム・アンド・ハース社製のCAT44に浸漬(42℃、3分間)して施した。この処理により、パラジウム、スズコロイド触媒をフィルム表面に付与した。
【0049】
前記アクセラレーター処理は、ローム・アンド・ハース社製のACC5410に浸漬(30℃、7分)して施し、触媒中のスズを除去してパラジウムを活性化させた。
【0050】
前記無電解メッキは、ローム・アンド・ハース社製のサーキュポジット880浴に浸漬(32℃、15分)して施し、銅をフィルム上に析出させた。前記浴は、銅を2g/L含み、EDTA(キレート剤)、ホルムアルデヒド(還元剤)、水酸化ナトリウム(pH調整用)をそれぞれ適量含むものである。
【0051】
前記電気メッキ処理は、硫酸銅メッキ液を用いて施し、高分子フィルム表面上に銅を18μmの厚みに膜状に電気メッキして配線基板用積層体とした。
【0052】
前記積層体を250℃で1時間、窒素雰囲気中で加熱したのち、前記積層体のフィルムと金属膜の密着強度をJIS C5016に規定された90°方向引きはがし試験(ピール試験)により測定した。結果を表2(BIAC)と表3(Vecstar)に示した。
表2、3には粗化後の高分子フィルムの表面粗さなど(Ra、Ry、Rz、R、AR、R/AR)およびピンホール数を併記した。
【0053】
[比較例1]
サンドブラスト処理を表4に示す条件で施した他は、実施例1と同じ方法により、銅を18μm厚みに形成した配線基板用積層体を製造し、実施例1と同じ方法によりピール強度を測定した。研削材としてWA#300、#600、#3000の白色アルミナを用いた。実施例1および比較例1の結果を表2、3、5、6に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
表2、3から明らかなように、本発明例の積層体はR/ARが13以上のためピール強度が0.5kN/m以上と大きく、またR/ARが60以下のためピンホールの発生が無く、いずれも実用に耐え得るものであった。
なお、ピール強度とR/ARの関係を図4(BIAC)と図5(Vecstar)に示したが、ピール強度は、いずれも、R/ARが13以上で急激に上昇している。
【0061】
一方、比較例品は、表5、6から明らかなように、R/ARが13未満のものはピール強度が小さく、R/ARが60を超えたものはサンドブラスト時にピンホールが発生して、いずれも実用に適さないものであった。
【0062】
一方、表面粗さが小さい場合、Ra、Ry、Rzの測定値は、ピール強度との相関が不明瞭であり、表面の凹凸を正確に評価するに至っていない。モチーフパラメータを用いた測定では、粗さモチーフの平均深さと粗さモチーフの平均長さの関係から、適切な表面状態を評価することができた。
【実施例2】
【0063】
高分子フィルム(ジャパンゴアテックス製BIAC)の表面を図3に示すバッチ式方法によりサンドブラスト処理して粗化した。即ち、周囲を治具10で挟み込んだA4サイズの高分子フィルム11をステンレス台12上に密着させ、この高分子フィルム11の表面に研削材を噴射ノズル3aから噴射して凹凸形状を形成した。前記噴射ノズル3aはXYステージにより平面位置を制御し、上下移動させて噴射距離を調節した。研削材4の噴射圧力などのブラスト条件は種々に変化させた。
アクセラレーター処理は、自己アクセラレータタイプのローム・アンド・ハース社製のサーキュポジット4500浴に浸漬(浴温52℃、5分間)して行った。それ以外は実施例1と同じ方法で積層体を製造した。
表7にブラスト条件、表8に表面粗さとピール強度、ピンホール数を示す。
【0064】
【表7】

【0065】
【表8】

【0066】
表8から明らかなように、本発明例の積層体は、R/ARが13以上のためピール強度が0.67kN/m以上と大きく、またR/ARが60以下のためピンホールの発生が無く、いずれも実用に耐え得るものであった。
【実施例3】
【0067】
高分子フィルム(Vecstar)上に、ローム・アンド・ハース社製1580浴を用いて、ニッケルを0.3μm厚みに無電解メッキした他は、実施例1と同じ方法により高分子フィルム上に銅を18μm厚みに形成した配線基板用積層体を製造し、実施例1と同じ方法によりピール強度を測定した。
【実施例4】
【0068】
高分子フィルム(Vecstar)上に、下記組成のアンモニアアルカリ性浴(浴温50℃)を用いて、コバルトを0.3μm厚みに無電解メッキした他は、実施例1と同じ方法により高分子フィルム上に銅を18μm厚みに形成した配線基板用積層体を製造し、実施例1と同じ方法によりピール強度を測定した。結果を表9に示す。
[アンモニアアルカリ性浴組成]
硫酸コバルト 0.07mol/L
次亜りん酸ナトリウム 0.16
クエン酸ナトリウム 0.15
pH 9〜10
【0069】
【表9】

【0070】
表9から明らかなように、密着強度は、下地メッキ金属がコバルトのとき最も高く、次いでニッケル、銅の順序であった。なお、ニッケルと銅はコバルトよりも低コストで実用的である。
【0071】
なお、表2、表3、表9に、サンドブラスト処理を施さずに導電性金属膜を電気メッキしたもの(ブラスト条件が“ブラスト前”のもの)を併記したが、いずれも高分子フィルムから導電性金属膜が剥離してしまいピール強度を測定することができなかった。そのためピール強度を0とした。
【実施例5】
【0072】
ブラスト装置にウェットブラスト装置を用いた他は、実施例1と同じ方法により積層体を製造し、実施例1と同じ方法によりR/ARなどを求めた。図6に示すように、前記ウェットブラスト装置13の構造は図1とほぼ同様であるが、ここでは研削材4は水41と混合した状態(研削材の濃度15質量%)で噴射した。噴射ノズル13aには、噴射口の幅H(350mm)が高分子フィルムの幅h(300mm)より大きいものを用いた。研削材は#800、#1200、#2000の白色アルミナを用いた。研削材4の噴射量は100g/minとした。噴射圧力は0.15MPa、0.2MPa、0.25MPaの3とおりに変化させた。噴射ノズルと高分子フィルム間の間隔は50mmとした。高分子フィルムの走行速度は1.2m/分とした。噴射口の長さ(フィルム走行方向の長さ)は1mm、高分子フィルム1の厚みは50μmである。高分子フィルムは張力をかけてロール表面に密着させた。ウェットブラスト処理条件を表10に、表面状態、ピール強度、ピンホール個数を表11に示す。
【0073】
【表10】

【0074】
【表11】

【0075】
表11から明らかなように、本発明例(実施例5)の積層体はR/ARが15〜52で均一な粗化状態が得られた。ピール強度は0.81kN/m以上となり良好な密着性が得られた。またピンホールも存在しなかった。噴射口の幅Hを高分子フィルムの幅hより大きくしたので高分子フィルムの端部がブラスト処理されないなどの処理ムラが発生するようなこともなかった。
【0076】
[比較例2]
高分子フィルムを空中に浮かしてブラスト粗化を行った他は、実施例5と同じ方法により積層体を製造し、実施例5と同じ方法によりR/ARなどを求めた。結果を表12に示す。
【0077】
【表12】

【0078】
表12から明らかなように、比較例2では高分子フィルムを空中に浮かしてブラスト粗化を行ったため噴射圧力が0.2MPa以上になるとブラスト粗化中に高分子フィルムが破れてしまう不具合が生じた。噴射圧力が0.15MPaではフィルムの破損はなかったが、フィルムが傷つきシワが多数発生してしまい、実用に耐えない状態のものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の高分子フィルムの連続式粗化方法の実施形態を示す全体説明図である。
【図2】本発明の高分子フィルムの連続式粗化方法の部分説明図である。
【図3】本発明の高分子フィルムのバッチ式粗化方法の説明図である。
【図4】ピール強度とR/ARの関係図(高分子フィルム:BIAC)
【図5】ピール強度とR/ARの関係図(高分子フィルム:Vecstar)
【図6】本発明の高分子フィルムの連続式粗化方法の他の実施形態を示す、(イ)は正面説明図、(ロ)は(イ)のA−A断面説明図である。
【符号の説明】
【0080】
1 高分子フィルム
1a 高分子フィルムの裏面
1b 高分子フィルムの表面
2 金属ロール(支持体)
2a 金属ロール表面
3 ドライブラスト装置
3a ドライブラスト装置の噴射ノズル
4 研削材
5 洗浄装置
6 コンプレッサー
7 高分子フィルムの張力制御用ロール
8 ガイドロール
10 高分子フィルムを挟み込む治具
11 高分子フィルム
12 ステンレス台
13 ウェットブラスト装置
13aウェットブラスト装置の噴射ノズル
41 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に所定の凹凸形状を有する高分子フィルムであって、前記凹凸形状をJIS B0631(2000年)に規定された、粗さモチーフの深さと粗さモチーフの長さからなるモチーフパラメータで評価する場合、前記モチーフパラメータは下記(1)と(2)の条件を満足することを特徴とする高分子フィルム。
(1)粗さモチーフの平均深さの範囲が0.4μm〜3.0μmである。
(2)X=粗さモチーフの平均深さ(μm)/粗さモチーフの平均長さ(mm)としたとき、Xの範囲が13〜60である。
【請求項2】
前記高分子フィルムは、溶融状態において光学的異方性を示すことを特徴とする請求項1に記載の高分子フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高分子フィルムの表面に導電性金属膜が形成されていることを特徴とする配線基板用積層体。
【請求項4】
前記導電性金属膜がCu、Cu合金、Ni、Ni合金、Co、Co合金、のいずれかにより形成されていることを特徴とする請求項3に記載の配線基板用積層体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の高分子フィルムの製造方法において、少なくともサンドブラスト法により前記高分子フィルムの表面に粗化処理を施した後、前記高分子フィルムを洗浄する工程を有し、前記粗化処理は、前記高分子フィルムの粗化される面の裏面を支持体に密着させた状態で行うことを特徴とする高分子フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記支持体は前記高分子フィルムと同調して進行または回転することを特徴とする請求項5に記載の高分子フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記サンドブラストによる粗化処理において、空気またはガスをイオン化してフィルム表面に研削材と共に吹き付けることを特徴とする請求項5または6に記載の高分子フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記サンドブラスト法がウェットブラスト法であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の高分子フィルムの製造方法。
【請求項9】
噴射ノズルの開口幅が高分子フィルム幅より広いことを特徴とする請求項8に記載の高分子フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−92036(P2007−92036A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226100(P2006−226100)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】