説明

高分子材料の分解処理方法と再生樹脂

【課題】 高分子材料を分解及び/又は可溶化処理して再生樹脂を得る際に、塩基性物質に由来するイオン濃度が低い再生樹脂を得ることができる高分子材料の分解処理方法。
【解決手段】 高分子材料の分解処理方法であって、
(a)フェノール類化合物を含有する反応溶媒中で、分解及び/又は可溶化処理によりフェノール性水酸基を有する樹脂を生ずる高分子材料を、塩基性物質の存在下で分解及び/又は可溶化処理して処理混合物を得る工程と、
(b)上記処理混合物に、フェノール性水酸基よりも強い酸性度を有する酸性物質を添加して、上記塩基性物質と上記酸性物質とから形成され、処理混合物中の反応溶媒に対する常圧下20℃での溶解度が5重量%以下である塩を生成させる工程と、
(c)上記処理混合物中から上記塩の非溶解物を分離して、上記フェノール性水酸基を有する樹脂を再生樹脂として得る工程と、
を有することを特徴とする、高分子材料の分解処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料の分解処理方法と再生樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの中でも熱硬化性樹脂は、優れた電気絶縁性、耐熱性、機械的強度を有するため、電気・電子部品、自動車部品などをはじめ広範な用途に材料として用いられている。
熱硬化性樹脂は一旦硬化すると熱により軟化、融解せず、溶媒にも不溶なため、その硬化物から有価な化学原料を再生することは、技術的に困難であった。しかし、環境保全と資源循環型社会構築の必要性が検討されている昨今、熱硬化性樹脂のリサイクルに関しても様々な研究が行われている。
その一例として、超臨界流体又は亜臨界流体を用いて熱硬化性樹脂を可溶化処理して、化学原料を回収する方法に関する検討がなされている。例えば、超臨界又は亜臨界状態の、単核フェノール化合物溶媒、又は、水/単核フェノール化合物の混合溶媒中で塩基性物質の存在下、熱硬化性樹脂を可溶化処理して、オリゴマーを回収する方法である(例えば、特許文献1参照。)。
この方法によると、熱硬化性樹脂は可溶化処理できるが、処理の際に添加した塩基性物質の影響やその回収方法については検討がなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−126667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、分解及び/又は可溶化処理によりフェノール性水酸基を有する樹脂を生ずる高分子材料を、分解及び/又は可溶化処理して再生樹脂を得る際に、塩基性物質に由来するイオン濃度が低い再生樹脂を得ることができる高分子材料の分解処理方法と、この分解処理方法により得られた再生樹脂を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、以下の本発明[1]〜[13]により達成される。
[1]高分子材料の分解処理方法であって、
(a)フェノール類化合物を含有する反応溶媒中で、分解及び/又は可溶化処理によりフェノール性水酸基を有する樹脂を生ずる高分子材料を、塩基性物質の存在下で分解及び/又は可溶化処理して処理混合物を得る工程と、
(b)上記処理混合物に、フェノール性水酸基よりも強い酸性度を有する酸性物質を添加して、上記塩基性物質と上記酸性物質とから形成され、処理混合物中の反応溶媒に対する常圧下20℃での溶解度が5重量%以下である塩を生成させる工程と、
(c)上記処理混合物中から上記塩の非溶解物を分離して、上記フェノール性水酸基を有する樹脂を再生樹脂として得る工程と、
を有することを特徴とする、高分子材料の分解処理方法。
[2]上記(a)工程の分解及び/又は可溶化処理において、上記フェノール類化合物を含有する溶媒を超臨界または亜臨界状態とする、上記[1]に記載の高分子材料の分解処理方法。
[3]上記フェノール性水酸基を有する樹脂は、フェノール性水酸基を有する高分子材料を分解及び/又は可溶化処理することにより得られるものである、上記[1]又は[2]
に記載の高分子材料の分解処理方法。
[4]上記フェノール性水酸基を有する樹脂は、高分子材料を分解及び/又は可溶化処理することでフェノール性水酸基が生成することにより得られるものである、上記[1]又は[2]に記載の高分子材料の分解処理方法。
[5]上記塩基性物質が、アルカリ金属を含むものである、上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
[6]上記塩基性物質が、アルカリ土類金属を含むものである、上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
[7]上記塩基性物質は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、及び、水酸化バリウムから選ばれるものである、上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
[8]上記(b)工程において、フェノール性水酸基よりも強い酸性度を有する酸性物質は、シュウ酸及び/又は炭酸を含むものである、上記[1]ないし[7]のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
[9]上記(b)工程において、上記塩基性物質と上記酸性物質とから形成され、処理混合物中の反応溶媒に対する常圧下20℃での溶解度が1重量%以下である塩を生成させる、上記[1]ないし[8]のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
[10]上記(b)工程において、上記フェノール性水酸基を有する樹脂を溶解し、かつ、上記塩基性物質と上記酸性物質とから形成される塩の溶解度を調節する溶媒を添加する、上記[1]ないし[9]のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
[11]上記溶媒は、メタノール、エタノール、アセトン、及び、テトラヒドロフランから選ばれるものである、上記[10]に記載の高分子材料の分解処理方法。
[12]上記[1]ないし[11]のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法により得られるものであることを特徴とする、再生樹脂。
[13]上記塩基性物質に由来するイオン濃度が2000ppm以下である、上記[12]に記載の再生樹脂。
【発明の効果】
【0006】
本発明の高分子材料の分解処理方法により、塩基性物質に由来するイオン濃度が低い再生樹脂を得ることができる。
本発明の再生樹脂は、通常の化学原料と同様に、この樹脂を用いた樹脂組成物材料などに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明について詳細に説明する。
最初に、本発明の高分子材料の分解処理方法(以下、単に「分解処理方法」ということがある)について説明する。
本発明の分解処理方法は、
高分子材料の分解処理方法であって、
(a)フェノール類化合物を含有する反応溶媒中で、分解及び/又は可溶化処理によりフェノール性水酸基を有する樹脂を生ずる高分子材料を、塩基性物質の存在下で分解及び/又は可溶化処理して処理混合物を得る工程と、
(b)上記処理混合物に、フェノール性水酸基よりも強い酸性度を有する酸性物質を添加して、上記塩基性物質と上記酸性物質とから形成され、処理混合物中の反応溶媒に対する常圧下20℃での溶解度が5重量%以下である塩を生成させる工程と、
(c)上記処理混合物中から上記塩の非溶解物を分離して、上記フェノール性水酸基を有する樹脂を再生樹脂として得る工程と、
を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の分解処理方法は、まず、
(a)フェノール類化合物を含有する反応溶媒中で、分解及び/又は可溶化処理によりフェノール性水酸基を有する樹脂を生ずる高分子材料を、塩基性物質の存在下で分解及び/又は可溶化処理して処理混合物を得る工程、
を有する。
【0009】
本発明の分解処理方法に用いるフェノール類化合物は、芳香環の炭素に結合する水素の少なくとも一つが水酸基に置換しており、単独または他の溶媒との混合物として、高分子材料を分解及び/又は可溶化する際に反応溶媒として機能し得るものであれば特に限定されない。
例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、アルキル置換フェノールなどの単環式のフェノール化合物、1−ナフトール及び2−ナフトールなどの多環式のフェノール化合物が挙げられ、これらの1種以上を単独であるいは併せて用いることができる。
これらの中でも、高分子材料を分解及び/又は可溶化する効果、コスト等を考慮すると、フェノールが好ましい。
【0010】
本発明の分解処理方法において用いる反応溶媒としては、上記フェノール類化合物と併せて、他の溶媒を用いることができる。
このような溶媒としては例えば、水、メタノール、エタノール等のモノアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、有機酸類、酸無水物類など、通常の化学反応において溶媒として用いられるものは、いずれを用いても良く、また、複数の溶媒を併用しても良い。
これらの溶媒のうち、高分子材料を分解及び/又は可溶化する効果、コスト等を考慮すると、水が好ましい。
【0011】
本発明の分解処理方法において、上記フェノール類化合物と併せて他の溶媒を用いる場合、フェノール類化合物に対する他の溶媒の混合割合としては特に限定されないが、フェノール類化合物100重量部に対して、他の溶媒1〜500重量部の割合が好ましく、さらに好ましくは、フェノール類化合物100重量部に対して他の溶媒5〜50重量部である。
【0012】
本発明の分解処理方法において、フェノール類化合物を含有する反応溶媒の使用量としては特に限定されないが、高分子材料100重量部に対して、50〜1000重量部であることが好ましく、さらに好ましくは100〜400重量部である。
反応溶媒を上記範囲内とすることにより、高分子材料の分解処理を円滑に進行させることができるとともに、分解処理に必要な熱量を少なく抑えることができる。
【0013】
本発明の分解処理方法において、分解及び/又は可溶化処理によりフェノール性水酸基を有する樹脂を生ずる高分子材料としては、例えば、フェノール性水酸基を有する高分子材料を分解及び/又は可溶化処理することにより得られるもの、あるいは、高分子材料を分解及び/又は可溶化処理することでフェノール性水酸基が生成することにより得られるもの、などを挙げることができる。
【0014】
ここで、フェノール性水酸基を有する高分子材料を分解及び/又は可溶化処理することにより得られるものである場合、フェノール性水酸基を有する高分子材料としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂を例示することができる。
また、高分子材料を分解及び/又は可溶化処理することでフェノール性水酸基が生成することにより得られるものである場合、高分子材料としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂のほか、ポリカーボネート等を例示
することができる。
そして、これらの分解及び/又は可溶化処理により得られるフェノール性水酸基を有する樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂を例示することができる。
【0015】
上記高分子材料としては、硬化した上記樹脂のほか、半硬化もしくは未硬化の上記樹脂、これらの樹脂を含有するワニスなどを含むことができる。
【0016】
なお、本発明の分解処理方法において用いられる高分子材料は、上記樹脂類のほか、粉末状無機充填材、繊維状無機充填材などの無機充填材、粉末状有機充填材、繊維状有機充填材などの有機充填材などを併せて含有することができる。
【0017】
本発明の分解処理方法において用いられる高分子材料の大きさとしては特に限定されないが、通常は、粒子径が1000μm以下であり、好ましくは500μm以下、さらに好ましくは250μm以下である。これにより、分解及び/又は可溶化速度を効率的とすることができるとともに、粉砕に必要なコストを抑えることができる。
【0018】
本発明の分解処理方法において用いられる塩基性物質としては、塩基性無機触媒を挙げることができる。
塩基性無機触媒としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属を含む水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ土類金属を含む水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどを例示することができる。
これらの中でも、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、及び、水酸化バリウムから選ばれるものを用いると、分解及び/又は可溶化を効率的に進行させることができるとともに、後述する再生樹脂中のイオン濃度を低く抑えることができる。
特に、後述する酸性物質としてシュウ酸を選択したときは、塩基性物質として水酸化カルシウムを用いることが最も好ましい。これにより、生成する塩の溶解度を非常に小さくすることができるので、再生樹脂中のイオン性不純物濃度を極めて低くすることができる。
本発明の分解処理方法で用いる塩基性無機触媒の大きさとしては特に限定されず、数十mmの粗粒子から、数nm程度の超微粒子まで任意に用いることができる。
【0019】
本発明の分解処理方法では、フェノール類化合物を含有する反応溶媒中で、分解及び/又は可溶化処理によりフェノール性水酸基を有する樹脂を生ずる高分子材料を、塩基性物質の存在下で分解及び/又は可溶化処理して処理混合物を得る。
ここで、分解及び/又は可溶化処理を実施する方法としては、フェノール類化合物を含有する反応溶媒を超臨界または亜臨界状態として、高分子材料を処理する方法が好ましい。これにより、高分子材料を効率的に分解及び/又は可溶化処理することができる。
【0020】
フェノール類化合物を含有する反応溶媒を超臨界または亜臨界状態として、高分子材料を処理する場合、反応溶媒の温度及び圧力を調整することにより実施することができる。
上記温度としては、通常、100〜500℃が好ましく、より好ましくは200〜450℃である。温度を上記範囲内とすることにより、高分子材料の分解及び/又は可溶化を効率的に進めることができるとともに、熱分解や脱水反応などの副反応を抑制することができる。
また、上記圧力としては、通常、1〜60MPaが好ましく、より好ましくは2〜40MPaである。圧力を上記範囲内とすることにより、フェノール類化合物を含有する反応溶媒を超臨界または亜臨界状態に維持して高分子材料の分解及び/又は可溶化を効率的に
進めることができる。圧力が上記上限値よりも高くなると、より過酷な条件で運転可能な装置が必要となり、高圧を維持するために必要なエネルギーも増加する反面、分解及び/又は可溶化速度はあまり向上せず、格段な効果が得られない場合がある。
なお、高分子材料を処理する時間は1〜180分間の範囲で調節できるが、通常は5〜150分間程度で処理を完了させることができる。
【0021】
次に、本発明の分解処理方法においては、
(b)上記処理混合物に、フェノール性水酸基よりも強い酸性度を有する酸性物質を添加して、上記塩基性物質と上記酸性物質とから形成され、処理混合物中の反応溶媒に対する常圧下20℃での溶解度が5重量%以下である塩を生成させる工程、
を有する。
【0022】
上記(b)工程においては、(a)工程で得られた処理混合物に、フェノール性水酸基よりも強い酸性度を有する酸性物質を添加する。
本発明の分解処理方法では、(a)工程においては、高分子材料の分解及び/又は可溶化処理によりフェノール性水酸基を有する樹脂を得ることを目的とするが、分解及び/又は可溶化処理により生じたフェノール性水酸基は、通常、ここで用いた塩基性物質と塩を形成するので、フェノール性水酸基よりも強い酸性度を有する酸性物質を添加することにより、上記の塩を中和処理し、フェノール性水酸基を有する樹脂を生成させることができる。
【0023】
ここで用いられるフェノール性水酸基よりも強い酸性度を有する酸性物質としては、シュウ酸に代表されるカルボン酸、ベンゼンスルホン酸に代表されるスルホン酸などを含む有機酸や、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、燐酸、炭酸等の無機酸が挙げられる。
上記酸性物質としては、シュウ酸及び/又は炭酸を含むものを好ましく適用することができる。これにより、塩基性物質と反応することにより生成する塩の溶解度を低くすることができ、生成した塩の多くを析出させて除去することができる。
上記酸性物質の添加量としては、(a)工程で用いた塩基性物質と反応しうる理論量のモル数に対して、0.5〜5.0倍添加することが好ましい。さらには、0.7〜1.3倍添加することが好ましい。これにより、再生樹脂中の塩基性物質の量を少なくするとともに、再生樹脂中の酸性物質の量を少なくすることができる。
【0024】
上記(b)工程においては、上記酸性物質を添加して、上記塩基性物質と上記酸性物質とから形成される塩を生成させる。
ここで生成する塩は、処理混合物中の反応溶媒に対して、常圧下20℃での溶解度が5重量%以下である。
このような塩としては、例えば、反応溶媒としてフェノールと水を、フェノール:水=70〜100:0〜30(重量比)の比率で用いた場合は、塩基性物質として水酸化カルシウム、酸性物質としてシュウ酸を用いて生成されるシュウ酸カルシウム、塩基性物質として水酸化マグネシウム、酸性物質としてシュウ酸を用いて生成されるシュウ酸マグネシウム、塩基性物質として水酸化ストロンチウム、酸性物質としてシュウ酸を用いて生成されるシュウ酸ストロンチウム、塩基性物質として水酸化バリウム、酸性物質としてシュウ酸を用いて生成されるシュウ酸バリウム、塩基性物質として水酸化カルシウム、酸性物質として炭酸を用いて生成される炭酸カルシウム、などを挙げることができる。
【0025】
また、ここで生成する塩は、処理混合物中の反応溶媒に対する常圧下20℃での溶解度が1重量%以下とすることができる。これにより、さらにイオン濃度が低い再生樹脂を得ることができる。
このような塩としては、例えば、反応溶媒としてフェノールと水を、フェノール:水=70〜100:0〜30(重量比)の比率で用いた場合は、塩基性物質として水酸化カル
シウム、酸性物質としてシュウ酸を用いて生成されるシュウ酸カルシウムを挙げることができる。
【0026】
なお、上記溶解度は、用いる反応溶媒(20℃)100gに塩を飽和溶解させたものを、ろ過して未溶塩を除去し、その後溶媒を乾燥除去して、析出した塩の重量から算出することができる。
【0027】
また、(b)工程においては、上記フェノール性水酸基を有する樹脂を溶解し、かつ、上記塩基性物質と上記酸性物質とから形成される塩の溶解度を調節する溶媒(以下、「調整溶媒」ということがある)を添加することができる。
この調整溶媒は、分解及び/又は可溶化処理に用いた反応溶媒に対して、上記塩基性物質と上記酸性物質とから形成される塩に対しては貧溶媒であり、かつ、上記フェノール性水酸基を有する樹脂に対しては良溶媒であるものを好適に用いることができる。
【0028】
このような調整溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、及び、テトラヒドロフランから選ばれるものを用いることができる。
特に、反応溶媒に対する上記塩基性物質と上記酸性物質とから形成される塩の溶解度が大きい場合、このような調整溶媒を用いることにより、処理混合物中の反応溶媒に対する常圧下20℃での溶解度を5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下とすることができ、イオン性不純物の含有量が少ない再生樹脂を得ることができる。
【0029】
上記(b)工程においてはこのように、酸性物質を添加して、塩基性物質との塩を析出させるが、塩を充分に析出させるために、必要に応じて酸性物質を添加後、処理混合物を長時間静置、冷却してもよい。
【0030】
次に、本発明の分解処理方法においては、
(c)上記処理混合物中から上記塩の非溶解物を分離して、上記フェノール性水酸基を有する樹脂を再生樹脂として得る工程、
を有する。
【0031】
上記(c)工程においては、処理混合物から、塩基性物質と酸性物質とから形成される塩の非溶解物を分離除去する。これにより、再生樹脂を得ることができる。
また、本発明の分解処理方法において用いられる高分子材料として、粉末状無機充填材、繊維状無機充填材などの無機充填材、粉末状有機充填材、繊維状有機充填材などの有機充填材などを併せて含有したものを用いた場合は、これらの充填材も併せて分離除去することができる。
【0032】
上記(c)工程における上記分離の方法としては特に限定されず、通常の固液分離方法を用いることができ、例えば、サイクロンのような遠心分離手段、遠心ろ過、吸引ろ過、加圧ろ過などのろ過手段、重力沈降、遠心沈降などの沈降手段などの手法を適用することができる。
【0033】
上記(c)工程において上記の固液分離処理を行うことにより、反応溶媒、あるいは、反応溶媒と上記(b)工程で添加した調整溶媒との混合溶媒に溶解した再生樹脂が得られる。
この再生樹脂は、反応溶媒または混合溶媒に溶解した状態でそのまま用いることもできるし、例えば、フラッシュ蒸留、減圧蒸留などの蒸留手段、溶媒抽出などの抽出手段を適用することにより溶媒を除去し、液状あるいは固形状の再生樹脂とすることもできる。
【0034】
次に、本発明の再生樹脂について説明する。
本発明の再生樹脂は、上記本発明の分解処理方法により得られたものであることを特徴とする。
【0035】
本発明の再生樹脂は、フェノール性水酸基を有する樹脂であり、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂が例示できる。
【0036】
本発明の再生樹脂は、上記塩基性物質に由来する樹脂中のイオン濃度が3000ppm以下であることが好ましい。さらに好ましくは2000ppm以下である。これにより、不純物濃度が低く、化学原料として樹脂組成物に再利用する際に、特性上の問題が少なく、通常の化学原料と実質同じように使用することができる。
このような再生樹脂は、上記本発明の分解処理方法により得ることができる。
【0037】
本発明の再生樹脂の分子量としては特に限定されないが、重量平均分子量が200〜10000程度のものが主体であることが好ましい。このような分子量は、フェノール性水酸基を有する樹脂を含有する樹脂組成物から構成される高分子材料を製造する際に用いられるプレポリマーの分子量と同程度であるので、本発明の再生樹脂をこのような樹脂組成物の化学原料として再利用することができる。
【0038】
以上に説明したように、本発明の高分子材料の分解処理方法によれば、高分子材料を分解及び/又は可溶化処理して、フェノール性水酸基を有する再生樹脂を得ることができる。
そして、得られた再生樹脂は、分解及び/又は可溶化処理時に用いた塩基性物質に由来するイオン濃度が低いため、化学原料として樹脂組成物に再利用する際に、特性上の問題が少なく、通常の化学原料と実質同様に使用することができるものである。
本発明の高分子材料の分解処理方法は、このように、熱硬化性樹脂の硬化物のリサイクル方法のひとつとして極めて有用なものである。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
ここに記載されている「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を示す。
【0040】
<実施例1>
高分子材料として、フェノール樹脂成形材料の硬化物(住友ベークライト社製、「PM−9640」を、175℃、10MPaで3分間成形したもの)を粉砕し、これを篩分することで粒子径を250μm以下に調整した粉砕物を用いた。
上記粉砕物100部、反応溶媒としてフェノール156部と水27部、塩基性物質として水酸化カルシウム2部を用い、これらを混合した。
上記混合物をオートクレーブに仕込み、260℃、4MPaで150分間加熱処理した。その後、空冷を行うことで常温常圧に戻し、処理混合物を得た。
【0041】
上記処理混合物100部に対し、調整溶媒としてメタノール60部を添加し、酸性物質としてシュウ酸二水和物を1部(水酸化カルシウムに対して反応しうる理論量のモル数に対して0.8倍)添加し、十分攪拌した。攪拌後、遠心ろ過を行い、混合物に含まれる液状成分と、析出塩を含む固形分とに分離した。
上記液状成分を常圧および減圧条件下で加熱し、反応溶媒(フェノール、水)と調整溶媒(メタノール)を除去して、高分子材料に由来する再生樹脂を得た。
【0042】
<実施例2>
実施例1において塩基性物質として水酸化カルシウム2部の代わりに水酸化ナトリウム2部を用いた以外は同様にして処理混合物を得た。
上記処理混合物100部に対し、調整溶媒としてメタノール60部を添加し、酸性物質としてシュウ酸二水和物1.8部(水酸化ナトリウムに対して反応しうる理論量のモル数に対して0.8倍)を添加し、十分攪拌した。攪拌後、遠心ろ過を行い、混合物に含まれる液状成分と、析出塩を含む固形分とに分離した。
上記液状成分を常圧および減圧条件下で加熱し、反応溶媒(フェノール、水)と調整溶媒(メタノール)を除去して、高分子材料に由来する再生樹脂を得た。
【0043】
<実施例3>
実施例1において塩基性物質として水酸化カルシウム2部の代わりに水酸化ストロンチウム2部を用いた以外は同様にして処理混合物を得た。
上記処理混合物100部に対し、調整溶媒としてメタノール60部を添加し、酸性物質としてシュウ酸二水和物0.6部(水酸化ストロンチウムに対して反応しうる理論量のモル数に対して0.8倍)を添加し、十分攪拌した。攪拌後、遠心ろ過を行い、混合物に含まれる液状成分と、析出塩を含む固形分とに分離した。
上記液状成分を常圧および減圧条件下で加熱し、反応溶媒(フェノール、水)と調整溶媒(メタノール)を除去して、高分子材料に由来する再生樹脂を得た。
【0044】
<実施例4>
実施例1と同様にして処理混合物を得た。
この後、調整溶媒のメタノールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして再生樹脂を得た。
【0045】
<実施例5>
実施例1において、酸性物質としてシュウ酸二水和物1部の代わりに、硫酸0.7部(水酸化カルシウムに対して反応しうる理論量のモル数に対して0.8倍)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして処理混合物及び再生樹脂を得た。
【0046】
<実施例6>
実施例1において高分子材料としてフェノール樹脂成形材料の硬化物(住友ベークライト社製、「PM−9640」を、175℃、10MPaで3分間成形したもの)の代わりに、エポキシ樹脂成形材料(住友ベークライト社製「EME−6300H」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして処理混合物及び再生樹脂を得た。
【0047】
<比較例1>
実施例1において、酸性物質としてシュウ酸を添加しない以外は、実施例1と同様に行い、処理混合物及び樹脂を得た。
【0048】
<比較例2>
実施例1において、酸性物質としてシュウ酸1部のかわりに塩酸1部を用いた以外は、実施例1と同様に行い、処理混合物及び樹脂を得た。
【0049】
<評価>
1.再生樹脂の評価
(1)樹脂の確認
得られた樹脂がフェノール樹脂であることは、H−NMRを用いて確認を行った。
実施例で得られた再生樹脂をDMSOに溶解させ、日本電子社製JNM−ECXを用い、積算回数64回で測定を行った。測定の結果、2ppm付近〜4ppm付近に芳香核間メチレンのピーク、7ppm付近に芳香環のピーク、9ppm付近に水酸基のピークをそれぞれ確認し、得られた樹脂がノボラック型フェノール樹脂であることを確認した。
(2)樹脂中のイオン濃度
実施例で得られた再生樹脂、比較例で得られた樹脂を試料とした。
清浄なポリテトラフルオロエチレン製抽出容器に試料粉末1.0g及び超純水40.0mlを入れ、容器を密閉後、振とうすることで、内容物を超純水と馴染ませた後、125℃の恒温器に入れ連続20時間の熱水抽出を行い、室温まで放冷後、抽出液を遠心分離し上澄み液を検液とした。
その後、日本ダイオネクス社製・ダイオネクスICS−2000型、DX−320型イオンクロマトグラフ装置を用い、検量線法により樹脂分に含まれている塩基性物質のイオン量の定量を行った。
【0050】
2.その他
(1)塩基性物質と酸性物質とから形成される塩の溶解度
各実施例及び比較例2において用いた塩基性物質と酸性物質とから形成される塩10gを、各実施例において用いた反応溶媒100gに添加し、20℃で1時間攪拌後、一昼夜放置し、塩を十分に溶解させた。これを減圧ろ過したものを乾燥させ、得られた塩の量から溶解度を算出した。
【0051】
上記の測定結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜6の本発明の分解処理方法により得られた再生樹脂は、フェノール性水酸基を有し、分解及び/又は可溶化処理時に用いた塩基性物質に由来するイオン濃度が低いものであった。
比較例1は、酸性物質を添加しなかったため、塩基性物質との塩を析出させることができず、樹脂中のイオン濃度は高いものであった。
比較例2は、塩基性物質である水酸化カルシウムと酸性物質である塩酸との塩(塩化カルシウム)の溶解度が大きかったため、実施例と比較して樹脂中のイオン濃度は高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の高分子材料の分解処理方法によれば、高分子材料を分解及び/又は可溶化処理して、フェノール性水酸基を有する再生樹脂を得ることができる。そして、本発明の分解処理方法により得られた再生樹脂は、分解及び/又は可溶化処理時に用いた塩基性物質に由来するイオン濃度が低いので、化学原料として樹脂組成物に再利用する際に、特性上の問題が少なく、通常の化学原料と実質同じように使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料の分解処理方法であって、
(a)フェノール類化合物を含有する反応溶媒中で、分解及び/又は可溶化処理によりフェノール性水酸基を有する樹脂を生ずる高分子材料を、塩基性物質の存在下で分解及び/又は可溶化処理して処理混合物を得る工程と、
(b)前記処理混合物に、フェノール性水酸基よりも強い酸性度を有する酸性物質を添加して、前記塩基性物質と前記酸性物質とから形成され、処理混合物中の反応溶媒に対する常圧下20℃での溶解度が5重量%以下である塩を生成させる工程と、
(c)前記処理混合物中から前記塩の非溶解物を分離して、前記フェノール性水酸基を有する樹脂を再生樹脂として得る工程と、
を有することを特徴とする、高分子材料の分解処理方法。
【請求項2】
前記(a)工程の分解及び/又は可溶化処理において、前記フェノール類化合物を含有する溶媒を超臨界または亜臨界状態とする、請求項1に記載の高分子材料の分解処理方法。
【請求項3】
前記フェノール性水酸基を有する樹脂は、フェノール性水酸基を有する高分子材料を分解及び/又は可溶化処理することにより得られるものである、請求項1又は2に記載の高分子材料の分解処理方法。
【請求項4】
前記フェノール性水酸基を有する樹脂は、高分子材料を分解及び/又は可溶化処理することでフェノール性水酸基が生成することにより得られるものである、請求項1又は2に記載の高分子材料の分解処理方法。
【請求項5】
前記塩基性物質が、アルカリ金属を含むものである、請求項1ないし4のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
【請求項6】
前記塩基性物質が、アルカリ土類金属を含むものである、請求項1ないし4のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
【請求項7】
前記塩基性物質は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、及び、水酸化バリウムから選ばれるものである、請求項1ないし4のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
【請求項8】
前記(b)工程において、フェノール性水酸基よりも強い酸性度を有する酸性物質は、シュウ酸及び/又は炭酸を含むものである、請求項1ないし7のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
【請求項9】
前記(b)工程において、前記塩基性物質と前記酸性物質とから形成され、処理混合物中の反応溶媒に対する常圧下20℃での溶解度が1重量%以下である塩を生成させる、請求項1ないし8のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
【請求項10】
前記(b)工程において、前記フェノール性水酸基を有する樹脂を溶解し、かつ、前記塩基性物質と前記酸性物質とから形成される塩の溶解度を調節する溶媒を添加する、請求項1ないし9のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法。
【請求項11】
前記溶媒は、メタノール、エタノール、アセトン、及び、テトラヒドロフランから選ばれるものである、請求項10に記載の高分子材料の分解処理方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の高分子材料の分解処理方法により得られるものであることを特徴とする、再生樹脂。
【請求項13】
前記塩基性物質に由来するイオン濃度が2000ppm以下である、請求項12に記載の再生樹脂。

【公開番号】特開2011−184607(P2011−184607A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52764(P2010−52764)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】