説明

高分子界面活性剤として連鎖末端官能化ポリオレフィンを用いた剥離したポリオレフィン/粘土ナノ複合材料

粘土/ポリオレフィン界面相溶化剤(又は高分子界面活性剤)として作用する特定の連鎖末端官能化ポリオレフィンを用いる方法により、剥離した構造を有するポリオレフィン/粘土ナノ複合材料を調製する。ポリオレフィンは、親水性末端官能基及び摂動しない疎水性高分子量ポリマー連鎖を有する。反応は、融液又は溶液方法で実施されうる。その方法により製造された物質も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、参考として本明細書に導入されている2003年7月18日に出願された“高分子界面活性剤として連鎖末端官能化ポリオレフィンを用いた剥離したポリオレフィン/粘土ナノ複合材料”という発明の名称の米国仮特許願第60/488,552号の優先権を主張する。
発明の分野
本発明は、特徴のないX線回折(XRD)パターンを示す剥離した(exfoliated)ポリオレフィン/粘土ナノ複合材料の調製に関する。方法は、末端親水性官能基及び高分子量疎水性ポリオレフィン連鎖を含む連鎖末端官能化ポリオレフィンである特定の高分子界面活性剤を用いて融液又は溶液ブレンドすることを含む。この連鎖末端官能化ポリオレフィン群は非常に高い界面活性を示すので、自然のままの(ニート)粘土材料(有機界面活性剤又は酸で予め処理されていない粘土を意味すると理解される)を用いても剥離した粘土層間構造となる。更に、この剥離した粘土構造は、連鎖末端官能化ポリオレフィンの主鎖と相溶性であるそのままの(官能化されていない)ポリオレフィンと更に混合した後でもその無秩序状態を保持する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ポリマーが適切に変性された粘土鉱物及び合成粘土と混合されうることは長年公知であるけれども、ポリマー/粘土ナノ複合材料の分野は近年大きな興味を引きつけるようになった。2つの大きな発見がこれらの物質における関心の先駆けとなった。第一は、Toyota research(Kojima et al. J. Mater. Res. 1993, 8, 1179 and J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 1993, 31, 983)からのナイロン-6/モンモリロナイト(mmt)物質の報告であり、非常に適切に無機物質を含むと熱的及び機械的性質が同時にかつ顕著に増大することが示された。第二は、有機溶剤を使用せずにポリマーを粘土と溶融混合しうることをGiannelisらが発見した(Cem. Mater. 1993, 5, 1694)。そのときから、これらの複合材料の産業上の利用に関する高い期待が活発な研究の動機付けとなった。この研究は、無機シリケート層のナノ分散によりポリマー物質の多くの性質が同時に劇的に増大しうることを示した。これらの改良は、一般的には、例えば性質の増大がナノ複合材料の構造に由来するような幅広い範囲のポリマーに適用しうる。従来の充填剤では実現しなかった性質の改良もこれらのナノスケールの物質において発見された。その例には、引張強さ、曲げ弾性率、衝撃靱性、一般的な難燃特性(Gilman et al. Chem. Mater. 2000, 12, 1866)、及びバリヤー性の劇的な改良(Manias et al. Macromolecules 2001, 34, 337)が含まれる。
ポリマー/粘土ナノ複合材料の調製に関する先行技術においては、(i)現場重合(Usuki et al. J. Mater. Res. 1993, 8, 1179及びLan et al. J. Chem. Mater. 1994, 6, 2216)、(ii)溶液ブレンド(Jeon et al. Polymer Bulletin 1998, 41, 107)、及び(iii)融液ブレンド(Giannelis, E. Adv. Mater. 1996, 8, 29)を含む3種の一般的な方法が知られている。高い表面積がポリマー/粘土ナノ複合材料における機能強化された性質と直接関連しているので、方法はすべてポリマーマトリクス中における層状シリケートの単一層分散を成就することを目的としている。現場重合方法においては、開始剤又は触媒を通常カチオン交換により粘土の層間内にあらかじめ固定し、層状シリケートをモノマー溶液により膨潤させる。重合が現場で起こり、層間にポリマーが形成されて内位添加及び/又は剥離構造を形成する。
【0003】
溶液ブレンドは、ポリマー溶液(又はポリイミドのような不溶性ポリマーの場合にはプレポリマー)の使用を含む。層状シリケート(有機界面活性剤で変性した)は適する溶剤中に容易に分散しうる。ポリマーもまた同一溶剤に溶解するであろう。溶剤が蒸発する(又は混合物が沈殿する)と、シートは動力学的にそれらの間にポリマーを捕捉してナノ複合材料を形成するように再び集成しようする。
融液ブレンド法においては、層状シリケートを溶融状態でポリマーマトリクスと混合する。層の表面が選択したポリマーと十分に相溶性であれば、ポリマーが層間の空間に入って内位添加又は剥離のいずれかのナノ複合材料が形成される。この技術には溶剤を必要としない。明らかにもっとも望ましい工業的方法である。
一般的には、非常に親水性の極性表面を有する自然のままの状態の粘土(すなわち、未変性粘土)は、ポリ(エチレンオキシド)及びポリ(ビニルアルコール)のような親水性ポリマーとしか混和しない。(Manias et al. Chem. Mater. 2000, 12, 2943; Vaia et al. Adv. Mater. 1995, 7, 154)。粘土を疎水性(非極性)ポリマーと混和させるためには、アルカリ対イオンをアルカリアンモニウムのようなカチオン-有機界面活性剤と交換することにより変性して親有機性粘土を形成しなければならない(Giannelis et al. Adv. Polym. Sci. 1998, 138, 107)。有機界面活性剤は、粘土層間でカチオン(Li+、Na+、Ca2+、等)を有機界面活性剤中のオニウムイオンとカチオン交換することにより粘土を親水性表面から疎水性表面に変化させるばかりではなく、層間の(001)d-間隔を増大させることにより粘土の堅固な層間構造を膨張させる。理論的なモデル化(いかなる実験結果もなく)に基づいて、Balazsらは、界面活性剤の長さを増大させること(例えば、2つの末端基を有する末端官能化連鎖)がポリマーマトリクス内における裸の粘土シートの分散を促進しうる利点の可能性を示唆した(Balazs et al. Macromolecules 1998, 31, 8370及びJ. Chem. Phys. 2000, 113, 2479)。
【0004】
実験的には、ポリマー/粘土ナノ複合材料においては、系中に内位添加構造及び剥離構造の両方が存在する混合ナノモルホロジーを有することは非常に一般的である。内位添加構造は、延在するポリマー連鎖が2〜3nm離隔して平行する個々のシリケート層間の坑道空間に挿入されている自己集成した、十分に秩序の整った多層構造である。逆に、剥離構造は、個々のシリケート層が相互に作用するのに十分には近接していないときに生ずる。剥離構造においては、層間距離はポリマーの回転半径程度であり、したがって、シリケート層は有機ポリマー中で十分に分散していると考えられる。多くの場合、剥離構造はシリケートの以前の平行の位置の形跡を保持しているけれども、剥離構造におけるシリケート層は、典型的には内位添加構造におけるそれほどには十分秩序が整っていない。
ポリマー/粘土及びポリマー/シリケートナノ複合材料物質における近年の進歩はまた研究者を鼓舞して、ポリオレフィンナノ複合材料を研究する気にさせた。主としてチーグラー・ナッタ及びメタロセンにより調製されたポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シンジオタクチックポリスチレン(s-PS)、エチレン/プロピレンコポリマー(EP)等を含むポリオレフィンが最も重要な市販のポリマー群であり、独特な組み合わせの性質を有する。これらの性質には、低価格、良好な加工性、再生利用可能性及び幅広い範囲の機械的性質が含まれる。多くの商業用途にもかかわらず、ポリオレフィンは大きな欠陥、つまり、極性官能基が不足しているために他の物質との相互作用が不十分であるという欠陥があり、このことはその最終用途、特に他の物質との接着性及び相溶性が最も重要である用途を有意に限定する(Chung“Functionalization of Polyolefins”, Academic Press, London, 2002)。
【0005】
予期されるように、疎水性ポリオレフィンにおける非常に親水性のシリケート粘土の分散は今日まで大きな科学的課題であった。多くの先行技術の方法は、性質及び低価格の魅力的な組み合わせを有する熱可塑性物質であるPP中におけるモンモリロナイトを基剤とする粘土の分散に集中した(Kato et al. J. Appl. Polym. Sci. 1997, 66, 1781; Hasegawa et al. J. Appl. Polym. Sci. 1998, 67, 87; Oya et al. J. Mater. Sci. 2000, 35, 1045; Reichert et al. Macromol. Mater. Eng. 2000, 275, 8; Maiti et al. Macromolecules 2000, 35, 2042; Svoboda et al. J. Appl. Polym. Sci. 2002, 85, 1562)。不相溶性ポリオレフィンのブレンド問題を改良する一般的な方法は、極性基を含む官能性ポリオレフィン及び親有機性粘土(有機界面活性剤で予備処理)の両方を使用することを含む。不幸なことに、官能性ポリオレフィンの入手可能性は、ポリオレフィンの官能化が化学的に困難であるために非常に限定される。大部分の研究は、多くの不純物及び、ラジカルグラフト過程中に起こる激しい連鎖分解を含む多くの副反応のために非常に複雑な分子構造を有する市販の無水マレイン酸をグラフトしたPP(PP-g-MAH)ポリマーを基剤とした(Ruggeri et al. Eur. Polymer J. 1983, 19, 863; Hinen et al. Macromolecules 1996, 29, 1151; Chung et al. Macromolecules 1998, 31, 5943 and 1999, 32, 2525)。典型的には、形成されたポリオレフィン/粘土ナノ複合材料は、系内に内位添加構造及び剥離構造の両方が存在する混合ナノモルホロジーを有する。親有機性粘土及び主鎖及び側鎖官能化ポリジエンゴムの組み合わせを用いた粘土/ゴムナノ複合材料の調製にも同様な方法が適用された(Usukiらによる米国特許第5,973,053号)。
全般的に、先行技術には、剥離したポリオレフィン/粘土ナノ複合材料を形成するため、又は連鎖末端官能化ポリオレフィンの主鎖と相溶性である自然のままのポリオレフィンとの更なる混合後でも、この無秩序粘土構造を保持するために、自然のままのシリケート粘土(有機界面活性剤で予備処理されていない)と直接混合しうるという連鎖末端官能化ポリオレフィンを用いることの利点を示す実験結果はなかった。
【0006】
一般的には、官能基末端ポリマーを調製する化学は非常に限られている。通常、この種のポリマー構造は、リビング重合及び適する試薬を用いたリビングポリマーの選択的停止反応の組み合わせにより調製される。このことは遷移金属配位重合においては非常にまれである。リビングチーグラー・ナッタ及びメタロセン媒介オレフィン重合のごくわずかな例が報告されているが、特定の触媒を用いる非常に不都合な反応条件下において成就された。(Doi et al. Macromolecules 1979, 12, 814及び1986, 19, 2896; Yasuda et al. Macromolecules 1992, 25, 5115; 及びBrookhart et al. Macromolecules 1995, 28, 5378)。リビング重合の性質のために、各開始剤は1種類のポリマーのみを生成するので、ポリマーの総収量は通常のチーグラー・ナッタ及びメタロセン重合のそれと比較して非常に低い。
官能基末端ポリオレフィンを調製するための報告されている別の方法は、メタロセン重合又は高分子量のポリプロピレン(PP)の熱分解により調製されうる連鎖末端不飽和PPの化学的修飾に基づく。(Chung et al. Polymer 1997, 38, 1495; Mulhaupt et al. Polymers for Advanced Technologies 1993, 4, 439; 及びShiono et al. Macromolecules 1992, 25, 3356及び1997, 30, 5997を参照されたい)。この連鎖末端官能化方法の有効性は、(a)ビニリデン末端基を有するポリマー連鎖の百分率及び(b)官能化反応の効率に強く依存する。官能化反応の効率は、ビニリデン濃度の低下のために、PP分子量の増大に伴って減少することが観察された。ある種の官能化反応は低分子量PPには非常に有効である。しかしながら、約10,000g/モルを超える分子量のPPポリマーには有効ではない。不幸なことに、多くの用途 (例えば、PPブレンド及び複合材料における界面相互作用の改良を含むそれ) においては高分子量のPP連鎖が必要不可欠である。さらに、連鎖末端不飽和ポリオレフィンの入手可能性は非常に限られており、ポリプロピレン以外の多くのポリオレフィンは、それらのポリマー連鎖における連鎖末端不飽和の割合が低い。
【0007】
官能基末端ポリオレフィンを調製する別の方法は、チーグラー・ナッタ重合中の共開始剤への現場連鎖移動反応による。数種のAl-アルキル共開始剤(Kiokaらによる米国特許第5,939,495号)及びZn-アルキル共開始剤(Shiono et al. Macromol. Chem. 1992, 193, 2751及びMacromol. Chem. Phys. 1994, 195, 3303)が、それぞれAl及びZn-末端ポリオレフィンを得る連鎖移動反応に携わることが見出された。Al及びZn-末端ポリオレフィンは、他の末端官能基を有するポリオレフィンを調製するためにさらに修飾される。しかしながら、β-水素化物除去及びモノマーへの連鎖移動のようなその他の連鎖移動反応も含む中途半端な触媒系であるため、生成物は種々の末端基を含むポリマーの複雑な混合物を含む。
近年、Chungは、末端官能基(OH、NH2、COOH、酸無水物等)、十分に制御されたポリマー分子量、及び狭い分子量及び組成分布を含む明確な連鎖末端官能化ポリオレフィン(PE、PP、s-PS、EP等)を調製する容易で一般的な方法を発見した(Chung Prog. Polym. Sci. 2002, 27, 39)。化学は、それぞれ反応性アルキルボラン及びスチレン系末端基を含むポリオレフィンを形成するための、ジアルキルボラン(R2B-H)(Chung, U. S. Patent 6,248,837; J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 6764; Macromolecules 2000, 32, 8689)及びスチレン系分子/H2(Chung, U. S. Patent 6,479,600; J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 4871; Macromolecules 2002, 35, 1622; Macromolecules 2002, 35, 9352)を含む2種の反応性連鎖移動(CT)剤を用いたメタロセン媒介α-オレフィン重合中の現場連鎖移動反応に集中する。適するメタロセン触媒を用いると、重合は高触媒活性を示し、形成されたポリマーは狭い分子量分布(Mw/Mn〜2)を示す。ポリマーの分子量は、[CT剤]/[α-オレフィン]のモル比に逆比例する。更に、両方の反応性末端基は、温和な反応条件下、又は重合直後の試料の作業終了工程中に定量的に種々の望ましい官能(極性)基に変換されうる。幅広い範囲の明確な連鎖末端官能化ポリオレフィンを入手しうることは、ポリオレフィン/粘土ナノ複合材料における適用の評価に利点を提供する。
発明の要約
【0008】
本発明は、特徴のないX線回折(XRD)パターンを示す剥離構造を有する新規ポリオレフィン/粘土ナノ複合材料群に関する。これらの物質は、粘土/ポリオレフィン界面相溶化剤(又は高分子界面活性剤)として作用する特定の連鎖末端官能化ポリオレフィンを用いて調製され、以下の構造式(A)で表しうる。
-(M)n-X-F (A)
式中、Mは2乃至15個の炭素原子を有するオレフィンモノマーである。一群の実施態様においては、好ましいモノマー単位は、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、シクロペンテン、ノルボルネン、フェニルノルボルネン、インダニルノルボルネン、スチレン、p-メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、ジビニルベンゼン、及びビニリデンノルボルネンから誘導される。これらのモノマーは、単独で又は2種以上の組み合わせとして使用しうる。数n(繰り返しモノマー単位を表す)は100乃至100,000であり、特定の範囲は200乃至50,000であり、更なる特定の範囲は300乃至10,000である。得られるポリオレフィンの立体構造は、使用する触媒により非常に制御される、アタクチック、シンジオタクチック、アイソタクチック、ヘミアイソタクチック及びアイソタクチックステレオブロックを含む、ポリオレフィンにおいて公知である5種類のタクチシチーのうちいずれかである。Fは、OH、NH2、COOH、酸無水物、アンモニウム、イミダゾリウム、スルホニウム、又はホスホニウムカチオン等のような末端親水性官能基である。Xは、連鎖移動剤又は停止反応剤の残基であり、0乃至15個の炭素原子を有するアルコキシル基、又は直鎖状、分岐状、環状、芳香族アルキル基である。場合によっては、連鎖移動剤又は停止反応剤は残基を残さないであろう。したがって、Xは任意成分である。
【0009】
本発明は、本発明者の研究室で調製された幅広い範囲の分子構造及び組成を有する官能性ポリオレフィンを使用すること、及び連鎖末端官能化ポリオレフィン(特に半結晶質PE及びPPポリマー)が、都合のよい剥離した粘土構造になりうる粘土界面において独特な分子構造をとりうること、及びこの安定な無秩序状態が、連鎖末端官能化ポリオレフィンの主鎖と相溶性である自然のままの(官能化されていない)ポリオレフィンとの更なる混合後も保持されうることに基づく。
図1Aに示されるように、連鎖末端官能化ポリオレフィン内の末端親水性官能基(10A)及び(10B)は、粘土層間の表面への強い相互作用(例えば、水素結合)又は粘土層間に位置するカチオン(Li+、Na+、Ca2+、H+等)とのイオン交換のいずれかにより粘土層間の表面(14A)、(14B)に結合して、ポリオレフィン連鎖(12A)及び(12B)を固定させる。逆に、親水性粘土表面を嫌う疎水性高分子量ポリオレフィン連鎖(12A)、(12B)(結晶領域を有してもよい)は、粘土層構造を剥離し、連鎖末端官能化ポリオレフィンの主鎖と相溶性である自然のままのポリオレフィンとの更なる混合後さえこの無秩序粘土構造を保持する。
比較のために、図1Bは、ポリマー連鎖に沿って均質に分布する複数の官能基(18)を含む側鎖官能化ポリオレフィン(16)(大部分の公知の官能性ポリオレフィン構造物)を用いて製造した先行技術の構造物を示す、完全に異なる図を示す。官能基は複数の粘土表面(14A)、(14B)との複数の接点を形成し、このことは粘土表面と平行なポリマー連鎖となるばかりでなく、粘土層間構造を架橋する。したがって、先行技術の物質を用いると、秩序の整った内位添加複合材料構造物の形成に好都合である。
【0010】
別の実施態様においては、本発明は、特徴のないX線回折(XRD)パターンを示す剥離したポリオレフィン/粘土ナノ複合材料を調製するための融液又は溶液方法を開示する。方法は、(a)1乃至98質量部の、式(A)で示される連鎖末端官能化ポリオレフィン、(b)0乃至98質量部の、連鎖末端官能化ポリオレフィンの主鎖と相溶性である対応する自然のままのポリオレフィン、及び(c)1乃至20質量部の粘土材料(有機界面活性剤で処理した又は処理しない粘土、及び酸性粘土)をブレンドする工程を含む。方法は、連鎖末端官能化ポリオレフィン及びシリケート粘土間の二成分ブレンド、並びに前述の剥離した二成分又は三成分ポリオレフィン/粘土ナノ複合材料と顔料、染料、充填剤、可塑剤、難燃剤、安定剤、ガラス繊維又はその他の強化物質、カーボンブラック等のような補助的な添加剤との融液又は溶液混合による多成分ブレンドを含む。方法はまた、溶液及び融液ブレンド工程の混合も含む。例えば、まず連鎖末端官能化オレフィン及びシリケート粘土間に溶液ブレンドを使用し、次いで形成された二成分ブレンドと対応する自然のままのポリオレフィンとを融液ブレンドする。
図2に示される例は、アンモニウムカチオン末端i-PP(PP-t-NH3+Cl-;Mn=58,900及びMw=135,000g/モル;Tm=158.2℃)及びNa+カチオンを有する自然のままのモンモリロナイト粘土(Na+-mmt)の融液二成分ブレンド(質量比90/10)前後のXRDパターンを比較する。Na+-mmt層間構造に関する2θ=7における(001)ピークは融液ブレンド後に完全に消失し、無秩序の剥離したPP-t-NH3+Cl-/Na+-mmtナノ複合材料の形成を示唆する。この二成分PP-t-NH3+Cl-/Na+-mmtナノ複合材料を、市販の自然のままのi-PP(Mn=110,000及びMw=25,000g/モル)と更に溶融混合(質量比50/50)した。図3は、剥離したPP-t-NH3+Cl-/Na+-mmtナノ複合材料と自然のままのi-PPとの(a)単純な混合及び(b)融液ブレンドのXRDパターンを示す。安定な剥離構造は、連鎖末端官能化ポリオレフィンの主鎖と相溶性である自然のままのポリオレフィン(未官能化)との更なる混合後も明らかに保持されている。
発明の詳細な説明
【0011】
本発明によれば、連鎖末端官能化ポリオレフィンの特定の基は、無秩序の剥離した構造を有するポリオレフィン/粘土ナノ複合材料の調製のための粘土/ポリオレフィン界面相溶化剤(又は高分子界面活性剤)として使用される。連鎖末端官能化ポリオレフィンは、以下の構造式(A)で表しうる。
-(M)n-X-F (A)
式中、Mは、典型的には2乃至15個の炭素原子を有するオレフィンモノマーである。特定のグループのモノマー単位は、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、シクロペンテン、ノルボルネン、フェニルノルボルネン、インダニルノルボルネン、スチレン、p-メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、ジビニルベンゼン、及びビニリデンノルボルネンを含む物質から誘導される。これらのモノマーは、単独で又は2種以上の組み合わせとして使用されうる。数n(繰り返しモノマー単位を表す)は100乃至100,000であり、特定の範囲は200乃至50,000であり、更なる特定の範囲は300乃至10,000である。得られるポリオレフィンの立体構造は、アタクチック、シンジオタクチック、アイソタクチック、ヘミアイソタクチック及びアイソタクチックステレオブロックを含む、ポリオレフィンにおいて公知である5種類のタクチシチーのうちいずれかである。立体構造は、当業者には公知であるように、重合に使用する触媒により制御されうる。Fは、OH、NH2、COOH、酸無水物、アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオン等のような末端親水性官能基である。Xは、連鎖移動剤又は停止反応剤の残基であり、0乃至15個の炭素原子を有するアルコキシル基、又は直鎖状、分岐状、環状、芳香族アルキル基である。場合によっては、連鎖移動剤又は停止反応剤は残基を残さない可能性がある。したがって、Xは任意である。
【0012】
連鎖末端官能化ポリオレフィン(A)を調製する好ましい方法は、それぞれ、その開示が参考として本明細書に導入されているChungらによる米国特許第6,248,837号及び同第6,479,600号に示されている、ジアルキルボラン(R2B-H)及びスチレン系分子/H2を含む2種の反応性連鎖移動(CT)剤を用いたメタロセン媒介オレフィン重合中の現場連鎖移動反応である。式1は、ジアルキルボラン(R2B-H)連鎖移動剤を用いたメタロセン媒介オレフィン重合中の一般的な重合機構を説明する。
【0013】
【化1】

【0014】
式中、R及びR'は、水素又は0乃至15個の炭素原子を有するアルキル(直鎖状、分岐状、環状又は芳香族)である。モノマーは単独で又は2種以上の組み合わせとして使用されうる。数n(繰り返しモノマー単位を表す)は100乃至100,000であり、好ましい範囲は200乃至50,000であり、最も好ましい範囲は300乃至10,000である。得られるポリオレフィンの立体構造は、使用する触媒により非常に制御される、アタクチック、シンジオタクチック、アイソタクチック、ヘミアイソタクチック及びアイソタクチックステレオブロックを含む、ポリオレフィンにおいて公知である5種類のタクチシチーのうちいずれかである。
B-H基を含むジアルキルボランの存在下においては、メタロセン媒介成長ポリオレフィン連鎖(II)が、カチオンの(M)金属中心及びアニオンの(H)水素化物間の好都合な酸-塩基相互作用のために、B-H及びC-M(M:遷移金属)結合間の容易な配位子交換反応(III)に関与する。この配位子交換反応の結果、ボラン末端ポリオレフィン(IV)及び重合を再び開始させる新規活性サイト(I)となる。理想的には、連鎖移動反応は総合的な触媒活性を変化させず、各ポリマーは末端ボラン基を含み、ポリマーの分子量は[CT剤]/[α-オレフィン]のモル比に逆比例する。末端ボラン基は(ボラン化学において公知である)温和な反応条件下での種々の官能基への変換が容易である。式1に示されるように、ボラン末端ポリオレフィン(IV)はNaOH/H2O2により酸化されて対応するヒドロキシル末端ポリオレフィン(V)を形成するか、酸無水物の存在下における酸素により酸化されて酸無水物末端ポリオレフィン(VI)を形成する。
【0015】
H-BR'2連鎖移動剤は、通常、重合温度におけるオレフィンモノマーとのハイドロボレーション反応(可能な副反応)の実施に不活性な純粋な炭化水素溶剤中で二量体構造を形成する。好ましい連鎖移動剤は、9-ボラビシクロノナン(9-BBN)及びジメシチルボランHB(Mes)2である。基本的には、重合反応は、従来のチーグラー・ナッタ及びメタロセン重合における条件と同様な条件下で実施しうる。ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、又はモノマー自体を含む炭化水素希釈剤が使用される溶液及び分散液重合方法においては、通常0乃至120℃、好ましくは25乃至90℃の重合温度で実施される。
メタロセン媒介オレフィン重合中のその他の好ましい連鎖移動反応は、スチレン系分子及びH2を含む混合連鎖移動剤を含む。反応機構は、ビス(トリメチルシラン)保護p-エチルアミノスチレン(St-NSi2)及び水素の存在下におけるrac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2/MAO触媒系を用いたプロピレンの重合により更に例示しうる。式2に示されるように、アミノスチレン末端ポリプロピレンがワンポット反応で形成される。プロピレンの1,2-挿入中に、成長M+-Cサイト(II')がSt-NSi2ユニットと反応して(k12)(2,1-挿入による)、金属カチオンと相互作用する隣接フェニル基を有するSt-NSi2でキャップした成長サイト(III')を形成する。新規成長サイト(III')は、立体妨害のためにSt-NSi2(k22)又はプロピレン(k21)の挿入を継続することができない。しかしながら、水素と反応して連鎖移動反応を完了しうる。このSt-NSi2及び水素との連続した反応の結果PP-t-St-NSi2ポリマー連鎖(IV')が得られ、再生したZr-H種(I')がプロピレンの重合を再び開始させて重合サイクルを継続する。重合が完了した後、PP-t-NH2(V')における望ましいNH2末端基は、HCl水溶液を用い試料の作業終了工程中に容易に回収しうる。PP-t-NH2の分子量は、[プロピレン]/[St-NSi2]のモル比に直線的に比例する。










【0016】
【化2】

式2
【0017】
オレフィン又はスチレンモノマーのいずれかを組み込んで更に連鎖を延長することなく、1個のスチレン(又はスチレン誘導体)分子と反応するだけの特定の架橋シクロペンタジエニル又は置換シクロペンタジエニル構造を有するメタロセン触媒を選択することは必要不可欠である。したがって、スチレン系ユニット末端成長ポリオレフィン連鎖は、水素と反応する機会を得て、連鎖移動反応を完了させる。高収率でスチレン系ユニット末端ポリオレフィンを得るためには、オレフィンの単独重合中に望ましくない水素、モノマー、共触媒への連鎖移動反応、及びβ-水素化物除去が非常に少ないことを示すメタロセン触媒を選択することも重要である。
本発明における使用が考えられるスチレン系連鎖移動剤は、スチレン及び、重合条件下で活性サイトに対して安定である置換基を含むスチレン誘導体を含む。スチレン系連鎖移動剤は、以下の構造式により表しうる。
【0018】
【化3】

【0019】
式中、nは、0乃至約6であり、最も好ましくは0乃至約3であり、X'は、H、Cl、Br、I、COOR、O-BR''2、O-SiR''3、N(SiR''3)2、BR''2、SiR''3(式中、R''はC1〜C10の直鎖状、分岐状又は環状脂肪族アルキル基又は芳香族基である)から選択される基である。
末端官能基を有するポリオレフィンの大きな利点の一は、自然のままの粘土材料(有機界面活性剤又は酸で処理していない)を用いても、それらが剥離させるシリケート粘土の表面上で非常に高い表面活性を示してそれらを粘土層間構造物に結合させるということである。そのような結合は、ファン・デル・ワールス結合、水素結合等、並びに化学結合を含みうると理解されるべきである。
図1Aは、連鎖末端ポリオレフィン(10)及び粘土中間層(14)表面間の相互作用パターンを説明する。粘土中間層表面への強い相互作用(たとえば、水素結合)、あるいは粘土中間層(14A)間に位置するカチオン(Li+、Na+、Ca2+、H+等)とのイオン交換のいずれかにより、末端親水性官能基(10A)がポリオレフィン(12A)連鎖を粘土層(14A)間の表面に固定する。逆に、親水性粘土表面(14A)を嫌う疎水性の長いポリオレフィン連鎖(12A)は、粘土層構造物を剥離してこの無秩序粘土構造を保持する。更に、この剥離した粘土構造は、連鎖末端官能化ポリオレフィンの主鎖と相溶性である自然のままの(未官能化)ポリオレフィンとの更なる混合後も無秩序状態を保持する。図1Bは、ポリマー連鎖(16)に沿って均質に分布する複数の官能(極性)基(18)を含む先行技術の側鎖官能化ポリオレフィンを用いた完全に異なる図を示す。複数の官能基(18)は、ポリオレフィン連鎖及び粘土表面の両側(14A)間に複数の接点を形成し、粘土表面と平行に配置されているばかりでなく、粘土中間層構造物を高度に架橋するポリマー連鎖となりうる。この結果、秩序の整った内位添加構造物が形成される。
【0020】
別の実施態様においては、本発明は、 (a)1乃至98質量部の連鎖末端官能化ポリオレフィン、(b)0乃至98質量部の対応する自然のままのポリオレフィン(未官能化)、及び(c)1乃至20質量部のシリケート粘土材料(有機界面活性剤で処理した又は処理していない、及び酸性粘土)を含む剥離したポリオレフィン/粘土ナノ複合材料を調製するための融液又は溶液方法を開示する。連鎖末端官能化ポリオレフィンは、前述のように以下の構造式(A)で表される。
-(M)n-X-F (A)
本発明の方法が、融液又は溶液における二成分及び三成分ブレンドを含みうることは理解されるべきである。方法はまた、第三成分を添加するまえの二成分の予備混合も含みうる。例えば、連鎖末端官能化ポリオレフィンをシリケート粘土(有機界面活性剤又は酸試薬の処理の有無にかかわらず)と予備混合して剥離した物質を形成する場合には、次いで予備混合物を連鎖末端官能化ポリオレフィンの主鎖と相溶性である自然のままのポリオレフィンとブレンドする。あるいは、方法はまた、溶液ブレンド工程及び融液ブレンド工程を混合して含みうる。例えば、まず連鎖末端官能化ポリオレフィン及びシリケート粘土間で溶液ブレンドを使用し、次いで形成された二成分ブレンドを対応する自然のままのポリオレフィンと融液ブレンドする。剥離した二成分又は三成分ポリオレフィン/粘土ナノ複合材料ブレンドは共に、顔料、安定剤、ガラス繊維等のような添加剤と更に混合しうる。
自然のままのポリオレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、シクロペンテン、ノルボルネン、フェニルノルボルネン、インダニルノルボルネン、スチレン、p-メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、ジビニルベンゼン、ビニリデンノルボルネン及びそれらの混合物のようなα-オレフィンのチーグラー・ナッタ又はメタロセン配位重合により調製されたもののような規則性(未官能化)ポリマーである。ポリオレフィンの分子量は10,000g/モルより大きく、好ましい範囲は20,000乃至1,000,000g/モルであり、最も好ましい範囲は40,000乃至200,000g/モルである。ポリオレフィンの立体構造は、使用する触媒により非常に制御される、アタクチック、シンジオタクチック、アイソタクチック、ヘミアイソタクチック及びアイソタクチックステレオブロックを含む、ポリオレフィンにおいて公知である5種類のタクチシチーのうちいずれかである。
【0021】
“粘土材料”という用語はナノ複合材料の分野において公知であり、フィロシリケート粘土、層状シリケート、及び層状繊維シリケートを含む。そのような物質の例は、モンモリロナイト、ノントロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バーミキュライト、レディカイト(ledikite)、マガダイト(magadiite)、ケニヤイト(kenyaite)、フルオロマイカ、フルオロヘクトライト、アタパルガイト、ベーマイト、イモゴライト(imogolite)、セピオライト、カオリナイト、カディナイト(kadinite)及びそれらの合成等価物のような粘土鉱物である。好ましい多層シリケート物質は、式の単位あたり負電荷中心が0.25〜1.5電荷中心の層上にあり、層間に相応の交換可能なカチオンを有する2:1型フィロシリケートである。最も好ましくは、タルク及びマイカと同様な層状及び結晶構造を有するが層の電荷が異なる、天然産の2:1型フィロシリケートであるモンモリロナイト(mmt)のようなスメクタイト粘土鉱物である。mmt結晶格子は、2つの外部シリカ四面体シート間に(八面体シートからの酸素原子がシリカ四面体にも属しているようにして)融合されているアルミナの中心八面体シートを有する1nmの薄層からなる。これらの層は平行に構成されて、層間又はギャラリーと呼ばれるそれらの間の規則的なファン・デル・ワールス隙間を有する積み重ねを形成する。それらの自然のままの形においては、過剰な負の電荷が層間において水和されて存在するカチオン(Na+、Li+、Ca2+)とバランスを保っている。カチオンは酸処理により容易にプロトン(H+)に交換されて酸性粘土を形成する。明らかに、自然のまま及び酸性状態においては、モンモリロナイトは、ポリ(エチレンオキシド)及びポリ(ビニルアルコール)のような親水性ポリマーとは混和性である。モンモリロナイトを疎水性(非極性)ポリマーと混和性にするためには、アルカリ対イオンをアルカリアンモニウムのようなカチオン-有機界面活性剤と交換して親有機性粘土を形成するのが一般的な方法である。通常市販されている粘土の一は、ジオクタデシルアンモニウム変性モンモリロナイト(2C18-mmt)である。
【0022】
X線回折(XRD)測定は、回折ピークが低角領域に観察される場合にはこれらのナノ構造を特性決定するのに使用しうる。そのようなピークは秩序の整った内位添加ナノ複合材料の(001)d間隔(基礎間隔)を示す。予期されるように、ナノ複合材料が完全に無秩序である(剥離されている)場合には、層の平行な記録がないために、XRDにはピークが観察されない。他方、剥離されている層がない場合には、ナノ複合材料における強い内位添加XRDピークの観察は約束されない。本発明の物質は内位添加領域も含みうる。しかしながら、それらの性質は剥離された成分に支配されているので、そのような物質は無秩序であると考えられる。これらのポリマー/粘土ナノ複合材料物質のモルホロジーの特性決定には、XRD及び透過電子顕微鏡(TEM)の組み合わせが一般的には使用される。
アンモニウムカチオン末端i-PP(PP-t-NH3+Cl-;Mn=58,900及びMw=135,000g/モル;Tm=158.2℃)及びNa+カチオンを有する自然のままのモンモリロナイト粘土(Na+-mmt)の融液ブレンド(質量比90/10)前後のXRDパターンを比較する一実施例を図2に示す。Na+-mmt層間構造に関する2θ=7°における(001)ピークは融液ブレンド後に完全に消失し、剥離したPP-t-NH3+Cl-/Na+-mmtナノ複合材料の形成を示唆する。この剥離したPP-t-NH3+Cl-/Na+-mmtナノ複合材料を、自然のままの市販のi-PPポリマー(Mn=110,000及びMw=25,000g/モル)と50/50の質量比で更にブレンドした。図3は、(a)単純な混合及び(b)融液ブレンドのXRDパターンを示す。基本的には、剥離した構造は、連鎖末端官能化ポリオレフィンの主鎖と相溶性である自然のままのポリオレフィン(未官能化)との更なる混合後も保持される。
【0023】
別の連鎖官能化ポリオレフィンの場合にも同様な結果が観察された。図4は、ヒドロキシ基末端ポリプロピレン(PP-t-OH;Tm=158.2℃;Mn=52,500及びMw=115,500g/モル)及び2C18-mmt粘土の単純な混合及び融液ブレンド(質量比95/5)のXRDパターンを比較する。融液ブレンド試料の特徴のないXRDパターンは明らかに剥離したPP-t-OH/2C18-mmtナノ複合材料構造を示し、PP-t-OHもまた粘土の層間を剥離する良好な界面活性剤であることを示唆する。比較のために、ポリマー連鎖に沿って複数の官能基がランダムに分布する側鎖官能化ポリオレフィンを含む別の官能性ポリマー系に同様なブレンド法を適用した。図5は、それぞれ、(a)1モル%のp-メチルスチレン、(b)0.5モル%の無水マレイン酸、及び(c)0.5モル%のヒドロキシ側基を含む3種の側鎖官能化PP、94質量%及び6質量%の2C18-mmt粘土から製造された3種のナノ複合材料、及び元の2C18-mmt粘土を含む数種のXRDパターンを示す。すべての官能化PPは、1モル%のp-メチルスチレン(p-MS)を含む、メタロセン触媒により合成された(Chungらによる米国特許第5,866,659号)同一のランダムPPコポリマーから誘導された。次いで、p-MSを、それぞれリチウム化及びラジカル反応によりヒドロキシ(OH)及び無水マレイン酸を含む官能基に相互変換した。
以下の実施例は、本発明を限定せずに、本発明の原理及び実施を解説する。
【0024】
〔実施例1〜7〕
[Cp*2ZrMe]+[MeB(C6F5)3]-触媒及び9-BBN連鎖移動剤の組み合わせによるヒドロキシ末端PE(PE-t-OH)の合成
機械的攪拌器を具備するparr(?)450mlのステンレス鋼製オートクレーブに、100mlの無水/嫌気トルエン及び表1に示す量の9-BBNをアルゴン流下で装填した。反応器をエチレンガス(〜1気圧)でパージし、溶液を飽和させた。次いで約0.3ミリモルの[Cp*2ZrMe]+[MeB(C6F5)3]-触媒(Cp*=ペンタメチルシクロペンタジエニル)のトルエン溶液をエチレン圧下で迅速に攪拌するエチレン/9-BBN溶液に注入し、周囲温度で重合を開始させた。追加のエチレンを連続的に反応器に供給し、重合の間中1気圧の一定圧力を保持した。物質移動を最少化して一定のコモノマー供給比を保持するために、反応は迅速な混合及び短い反応時間で実施した。3分間の反応時間後、ポリマー溶液を無水MeOHで停止させ、得られたボラン末端ポリエチレン(PE-t-B)をTHFで洗浄して過剰量の9-BBNを除去し、次いで高真空ライン中50℃で乾燥させた。
【0025】
【表1】

【0026】
実験1〜7を比較すると、ポリマーの分子量は[エチレン]/[9-BBN]のモル比とほぼ直線的に比例する。9-BBNへの連鎖移動反応(速度定数ktr)は、成長反応(速度定数kp)と競争する支配的な停止反応である。重合度(Xn)は、連鎖移動定数ktr/kp〜1/75を有する単純な比較式Xn=kp[オレフィン]/ ktr[9-BBN]に従う。
末端ボラン基のヒドロキシル基への変換においては、NaOH/H2O2(モル比3/1)酸化試薬を添加する前に、得られたPE-t-Bポリマー(粉末状)をTHF溶剤中に懸濁させた。酸化反応を40℃で3時間実施して対応するヒドロキシ末端ポリマー(PE-t-OH)を形成した。分散液を100mlのMeOHに注ぎ、濾過した。PE-t-OHの濾液を更にアセトンで洗浄し、次いで真空オーブン中40℃で乾燥させた。PE-t-OHポリマーを、1H及び13C NMR及びGPC技術により分析した。1H NMRスペクトルは、PE主鎖中のCH2に対応する1.30ppmにおける主要な化学シフト、及び0.97ppm(連鎖末端CH3)、1.58ppm(-CH2CH2-OH)、2.25ppm(-OH)、3.62ppm(-CH2-OH)における複数の弱いピークを示す。OH:CH2O:CH3=1:2:3(±2%)のピーク強度比は、ヒドロキシ末端ポリエチレンの独占的な生成を示唆する。従来の連鎖移動工程に伴うビニル基(β-H除去による)が検出されないことは注目される。-CH2-OH(δ62.99)及び連鎖末端CH3(δ13.85)基に対応する化学シフトを有する13C NMRにおいても同一の結果が観察された。これらの知見は、エチレンの触媒重合中における9-BBNへの現場連鎖移動を強く示唆する。
【0027】
〔実施例8〜14〕
[Cp*TiMe2]+[MeB(C6F5)3]-触媒及び9-BBN連鎖移動剤の組み合わせによるヒドロキシ末端s-PS(s-PS-t-OH)の合成
電磁攪拌器を具備する50mlのガラス製反応器に、10mlの無水/嫌気スチレン及び表2に示す量の9-BBNを超高精製アルゴン下で装填した。次いで約10μモルの[Cp*TiMe2]+[MeB(C6F5)3]-触媒のトルエン溶液を25℃において迅速に攪拌するスチレン/9-BBN混合物に注入した。3分後に、無水/嫌気MeOHで反応を停止し、反応生成物を濾過して無水/嫌気THFで洗浄し、過剰量の9-BBNで除去した。次いでポリマーを高真空ライン中50℃で2時間乾燥させ、ボラン末端シンジオタクチックポリスチレン(s-PS-t-B)を得た。表2に実験条件及び結果を要約する。
【0028】
【表2】

【0029】
実施例1〜7において記載したのと同様な酸化手順に従って、s-PS-t-BポリマーをNaOH/H2O2により酸化して対応するヒドロキシ末端ポリマー(s-PS-t-OH)を形成し、1H及び13C NMR、DSC及びGPC測定の組み合わせにより調べた。すべてのs-PS-t-OH試料は高いシンジオタクチシティ、及び高融点を示す。各試料の狭い分子量分布は、各重合反応中に単一の活性サイトが機能することを示す。ポリマーの分子量は[スチレン]/[9-BBN]のモル比とほぼ直線的に比例する。9-BBNへの連鎖移動反応(速度定数ktr)は、成長反応(速度定数kp)と競争する支配的な停止反応である。重合度(Xn)は、単純な比較式Xn=kp[スチレン]/ ktr[9-BBN]に従う。
【0030】
〔実施例15〜25〕
rac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2/MAO触媒及びp-MS/H2連鎖移動剤の組み合わせによるp-メチルスチレン末端PP(PP-t-p-MS)の合成
ドライボックス中で、機械的攪拌器を具備するparr450mlのステンレス鋼製オートクレーブに、50mlのトルエン及び1.5mlのMAO(30質量%トルエン溶液)を装填した。ドライボックスから除去した後、反応器を、表3に示したような各試料の圧力の水素でパージした後、0.2g(0.0305M)のp-メチルスチレンを反応器に注入した。次いで反応器に6900hPa(100psi)のプロピレンを装填して周囲温度で溶液を飽和させた。それから、約1.25×10-6モルのrac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2のトルエン溶液をプロピレン圧下で迅速に攪拌しながら溶液に注入して重合を開始させた。追加のプロピレンを連続的に反応器に供給し、重合の間中一定圧力を保持した。物質移動を最少化して一定の供給比を保持するために、反応は迅速な混合及び短い反応時間で実施した。30℃において15分間の反応時間後、ポリマー溶液をメタノールで停止させた。得られたp-メチルスチレン単位末端ポリプロピレン(PP-t-p-MS)をTHFで洗浄して過剰量のスチレンを除去し、次いで50℃で真空乾燥させた。各実施例において得られたPP-t-p-MSポリマーを、1H NMR、13C NMR及びGPC技術により分析した。実施例15〜25で得られた結果を、対照1は反応混合物中に水素もp-メチルスチレンも存在させずに実験したこと、及び対照2、3、及び4は反応混合物中に水素は用いないが種々の濃度のp-メチルスチレンを用いて実験したこと以外は、同一の反応手順及び条件下で実施した4種の対照実験で観察された結果とともに表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
対照1の結果を対照2のそれと比較すると、触媒活性の顕著な減少が観察される。明らかに、反応混合物中にp-メチルスチレンが存在すると、プロピレンの重合においてrac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2/MAO触媒が失活する。水素の存在(実施例15〜18)は触媒活性を元に戻し、重合中に連鎖移動を完了させた。水素圧が2410hPa(35psi)である実施例18においては、触媒活性はプロピレンの単独重合(対照1)のそれとほぼ同一であった。実施例19〜22及び23〜25の2系列においては、触媒活性及びポリマーの分子量に及ぼす水素及びp-メチルスチレン濃度の影響を更に評価するために系統的な研究を実施した。一般的には、水素濃度の変化は、PP-t-p-MSポリマーの分子量及び分子量分布に有意な影響を及ぼさない。高い触媒活性及びp-MS転化率を保持するためには、p-MS濃度の増大に伴って増大する十分な量の水素が必要である。ポリマーの分子量は、一般的には[プロピレン]/[p-MS]のモル比とほぼ直線関係がある。ほとんどの反応条件下では、p-MSへの連鎖移動反応(速度定数ktr)は、プロピレンの成長反応(速度定数kp)と競争する支配的な停止反応である。重合度(Xn)は、連鎖移動定数ktr/kp〜1/6.36を有する単純な比較式Xn=kp[プロピレン]/ ktr[スチレン]に従う。PP-t-p-MS(Mn=4600)の1H NMRスペクトルにおいては、PP連鎖中のプロトンに対応する0.9乃至1.7ppmにおけるピークのほかに、それぞれ、ポリマー連鎖末端における-CH2、-C6H5及びCH3に対応する2.7、7.1、及び2.35ppmにピークがある。
【0033】
〔実施例26〜29〕
rac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2/MAO触媒及びp-Cl-St/H2連鎖移動剤の組み合わせによるp-クロロ末端PP(PP-t-Cl)の合成
一連の実施例においては、p-クロロスチレン(p-Cl-St)及び水素連鎖移動剤の存在下においてrac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2/MAO触媒を用いることにより数種のp-クロロ末端PP(PP-t-Cl)ポリマーを調製した。触媒活性及びポリマーの分子量に及ぼす水素及びp-Cl-St濃度の影響を評価するために系統的な研究を実施した。実施例26〜29の各々については、p-クロロスチレンを装填すること以外は実施例15〜25の手順に従った。表4は実験結果を要約する。
【0034】
【表4】

【0035】
すべての反応は、プロピレンのrac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2/MAO媒介重合中のp-クロロスチレンへの連鎖移動反応を完了させるのに水素の存在が必要であることを示す。一般的には、水素濃度の変化は、得られるポリマーの分子量及び分子量分布に有意な影響を及ぼさない。しかしながら、高い触媒活性を得るためには、p-Cl-St濃度の増大に伴って増大する十分な量の水素が必要である。全般的に見れば、p-Cl-Stへの連鎖移動反応(速度定数ktr)は、プロピレンの成長反応(速度定数kp)と競争する。重合度(Xn)は、連鎖移動定数ktr/kp〜1/21.2を有する単純な比較式Xn=kp[プロピレン]/ ktr[p-Cl-St]に従う。
【0036】
〔実施例30〜34〕
rac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2/MAO触媒及びp-NSi2-St/H2連鎖移動剤の組み合わせによるp-アミノ末端PP(PP-t-NH2)の合成
(a)4-{2-[N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノ]エチル}スチレン(p-NSi2-St)の合成
シラン保護連鎖移動剤p-NSi2-Stは2工程で調製した。電磁的攪拌棒を具備する500mlのフラスコに、200mlのTHFに溶解させた100gのリチウムビス(トリメチルシリル)アミドを、50ml(0.658モル)のクロロメチルメチルエーテル及び50mlのTHFの混合物に窒素雰囲気下0℃においてゆっくり添加した。添加の完了後に、溶液を室温まで2時間暖め、その後過剰のクロロメチルメチルエーテル及びTHF溶剤を蒸発させた。蒸留によりN,N-ビス(トリメチルシリル)メトキシメチルアミン(収率80%)を単離した。第二工程においては、4-ビニルベンジルマグネシウムクロライドをN,N-ビス(トリメチルシリル)メトキシメチルアミンで処理することによりp-NSi2-Stを調製した。電磁攪拌棒及び冷却器を具備する500mlのフラスコにおいて、15.2gのマグネシウムを50mlの乾燥エーテル中に懸濁させ、次いで50mlの乾燥エーテルで希釈した80mlの4-ビニルベンジルクロライドを冷却器より滴下した。溶液を4時間還流した後、117gのN,N-ビス(トリメチルシリル)メトキシメチルアミンを2時間にわたって添加した。反応を室温においてさらに2時間進行させた後、100mlのNaOH水溶液(30%)を添加した。有機層を分離して乾燥させ、次いで残留物をCaH2上で蒸留させると70%の収率でp-NSi2-Stが得られた。
(b)重合及び連鎖移動反応
実施例15〜25において記載したのと同様な手順に従って、rac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2/MAO触媒及び連鎖移動剤としてのp-NSi2-St及びH2の組み合わせによりp-NSi2-St末端PPポリマー(PP-t-St-NSi2)を調製した。触媒活性及びポリマーの分子量に及ぼすp-NSi2-St及びH2の濃度の影響を評価するために系統的な研究を実施した。次いで、PP-t-St-NSi2ポリマーを塩化水素で処理することによりそれからPP-t-NH2ポリマーを調製した。それは試料の作業終了工程中に達成しうる。あるいは、単離したPP-t-St-NSi2(2g)を50℃において50mlのTHF中に懸濁させた後、塩化水素の2Nメタノール溶液を滴下した。混合物を50℃において4時間攪拌した後、NaOHの1Nメタノール溶液に注いだ。PP-t-NH2ポリマーを濾過により回収し、窒素雰囲気下でアンモニアの1M水溶液及び水で洗浄した。ポリマーを減圧下50℃で一晩乾燥させた。PP-t-NH2ポリマーの収率は定量的であった。表5は実験結果を要約する。
【0037】
【表5】

【0038】
全般的に見れば、PP-t-NH2の分子量は連鎖移動剤によって支配され、p-NSi2-Stの濃度が高いほど得られるポリマーの分子量は低下する。p-NSi2-Stへの連鎖移動反応(速度定数ktr)は支配的な停止反応であり、それは成長反応(速度定数kp)と競争する。重合度(Xn)は、ktr/kp=1/34の連鎖移動定数を有する単純な比較式Xn=kp[オレフィン]/ ktr[St-NSi2]に従う。PP-t-St-NSi2ポリマー及び対応するPP-t-St-NH21H NMRスペクトルは、0.24ppmにおけるシラン保護基が完全に消失して完全な脱保護反応を示す。
【0039】
〔実施例35〜40〕
rac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2/MAO触媒及びp-OSi-St/H2連鎖移動剤の組み合わせによるp-ヒドロキシスチレン末端PP(PP-t-OH)の合成
(a)4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)スチレン(p-OSi-St)の合成
p-OSi-St連鎖移動剤は2工程で合成した。電磁的攪拌棒を具備する500mlのフラスコにおいて、70.4gのイミダゾールを、52.4g(0.42モル)の4-ヒドロキシベンズアルデヒド及び77.4gのt-ブチルジメチルシリルクロライドのTHF溶液と混合した。混合物を周囲温度において4時間攪拌した後、冷水に注いだ。有機層を分離してエーテルで抽出し、次いで硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶剤を蒸発させると、濃い黄色の液体である4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)ベンズアルデヒドが94g得られた(収率90%)。第二の反応工程は窒素雰囲気下で実施した。電磁的攪拌棒を具備する500mlのフラスコにおいて、THF中に懸濁させた123.6gのメチルトリフェニルホスホニウムブロマイドを149.6mlのn-ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液)で処理した。1時間後に80.0gの4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)ベンズアルデヒドを赤色溶液に滴下した。混合物を室温において一晩攪拌した後冷水に注いだ。有機層をエーテル抽出により分離して硫酸マグネシウムで乾燥させた。更なる精製は、減圧下(0.013バール(10トル))高温(80℃)における蒸留により実施した。90%より高い収率で、65gのp-OSi-Stが得られた。その構造は1H NMRスペクトルにより確認した。
(b)重合及び連鎖移動反応
実施例15〜25における手順と同じ手順に従って、rac-Me2Si[2-Me-4-Ph(Ind)]2ZrCl2/MAO触媒及び連鎖移動剤としてのp-OSi-St及びH2の組み合わせによりp-OSi-St末端PPポリマー(PP-t-St-OSi)を調製した。触媒活性及びポリマーの分子量に及ぼすp-OSi-St及びH2の濃度の影響を評価するために系統的な研究を実施した。目的のPP-t-OHポリマーは、PP-t-St-OSiポリマーを塩化水素で処理することによりそれからを調製した。それは試料の作業終了工程中に、ポリマーを塩化水素の2Nメタノール溶液と混合することにより達成しうる。PP-t-OHポリマーを濾過により回収し、窒素雰囲気下でアンモニアの1M水溶液及び水で洗浄した。ポリマーを減圧下50℃で一晩乾燥させた。表6は実験結果を要約する。
【0040】
【表6】

【0041】
全般的に見れば、PP-t-OHの分子量は連鎖移動剤によって支配される。重合度(Xn)は、p-OSi-Stに関してktr/kp=1/48の連鎖移動定数を有する単純な式Xn=kp[オレフィン]/ ktr[St-OSi]に従う。PP-t-St-OSi及び対応するPP-t-OH間の相互変換反応は1H NMRスペクトルにより追跡した。PP主鎖におけるCH3、CH2、及びCH基に関する3つの主要なピーク(δ=0.95、1.35、及び1.65ppm)のほかに、それぞれ、-OSi(CH3)2(t-Bu)、-CH2-φ、及び-CH2-C6H4-OSiに対応する0.25、2.61、及び6.75〜7.18ppmにおける3つのより小さい化学シフト(強度比は6/2/4に近い)がある。HCl溶液を用いることにより試料の作業終了工程中に達成しうる脱保護反応後には、シラン保護基の化学シフトは完全に消失する。検出できない副生成物とフェニルプロトンに関する等しく分裂した化学シフトは、末端p-アルキルフェノール部分を更に示す。
【0042】
〔実施例41〕
PP-t-NH3+Cl-/Na+-モンモリロナイト粘土ナノ複合材料の調製
約90ミリ当量/100g(WM)のイオン交換能を有するNa+-モンモリロナイト粘土(Na+-mmt)は、Southern Clay Productから入手した。PP-t-NH3+Cl-(Tm=158.2℃; Mn=58,900及びMw=135,500g/モル)は、過剰のHCl試薬を用い実施例32において調製した。PP-t-NH3+Cl-/Na+-モンモリロナイト粘土ナノ複合材料の調製には、静的溶融内位添加を用いた。まず、質量比が90/10のPP-t-NH3+Cl-乾燥粉末及びNa+-mmtを、周囲温度において乳鉢と乳棒で混合して一緒に細かくした。この単純な混合物のXRDパターンは、2θ〜7において(001)ピークを示し、1.45nmのd-間隔を有するNa+-mmt層間構造に対応した。次いで混合粉末を窒素条件下で190℃に2時間加熱した。得られたPP-t-NH3+Cl-/Na+-mmtナノ複合材料は特徴のないXRDパターンを示し、剥離した粘土構造物の形成を示唆する。
【0043】
〔実施例42〕
PP/PP-t-NH3+Cl-/Na+-モンモリロナイト粘土ナノ複合材料の調製
実施例41で得られた二成分系PP-t-NH3+Cl-/Na+-mmt剥離ナノ複合材料を、市販の自然のままのi-PP(Mn=110,000及びMw=250,000g/モル)と更に溶融混合(質量比50/50)した。まず、質量比が50/50のPP-t-NH3+Cl-/Na+-mmt剥離ナノ複合材料及び自然のままのi-PPを、周囲温度において乳鉢と乳棒で一緒に細かくした。この単純な混合物は特徴のないXRDパターンを示す。次いで混合粉末を窒素条件下で190℃に2時間加熱した。得られた三成分系PP/PP-t-NH3+Cl-/Na+-mmtナノ複合材料もまた特徴のないXRDパターンを示し、二成分系PP-t-NH3+Cl-/Na+-mmt剥離ナノ複合材料における安定な剥離構造が、PP-t-NH3+Cl-の主鎖と相溶性であるPPとの更なる混合後も明らかに保持されていること示唆する。
【0044】
〔実施例43〕
PP-t-OH/2C18-モンモリロナイト粘土ナノ複合材料の調製
ジオクタデシルアンモニウム変性モンモリロナイト粘土(2C18-mmt)は、Southern Clay Productから入手した。PP-t-OH(Tm=158.2℃; Mn=52,500及びMw=115,500g/モル)は、実施例37において調製した。PP-t-OH/2C18-mmtナノ複合材料の調製には、静的溶融内位添加を用いた。まず、質量比が95/5のPP-t-OH乾燥粉末及び2C18-mmtを、周囲温度において乳鉢と乳棒で混合して一緒に細かくした。この単純な混合物のXRDパターンは、2θ〜3.85において(001)ピークを示し、1.98nmのd-間隔を有する2C18-mmt層間構造に対応した。次いで混合粉末を窒素条件下で190℃に2時間加熱した。得られたPP-t-OH/2C18-mmtナノ複合材料は特徴のないXRDパターンを示し、剥離した粘土構造物の形成を示唆する。
本発明は、特にその好ましい実施態様に関連して示し、記載したが、当業者には本発明の精神及び範囲から逸脱することなく方法及び内容に種々の変更をなしうることが理解されよう。そのような改良及び変化のすべては本発明の範囲内である。本発明の範囲を定義するのは特許請求の範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1A】無秩序の剥離した構造を有する本発明のナノ複合材料物質の分子構造の説明図である。
【図1B】秩序の整った内位添加構造を有する先行技術のポリマー/粘土複合材料の分子構造の説明図である。
【図2】(a)周囲温度における単純な混合及び(b)融液ブレンド時の、PP-t-NH3+Cl-/Na+-mmt粘土(質量比90/10)のX線回折パターンを示す。
【図3】アニール(a)前及び(b)後の、剥離したPP-t-NH3+Cl-/Na+-mmt(質量比90/10)ナノ複合材料及びニートPPの50/50混合物(質量比)のX線回折パターンを示す。
【図4】(a)周囲温度における単純な混合及び(b)融液ブレンド時の、PP-t-OH/2C18-mmt粘土(質量比95/5)のX線回折パターンを示す。
【図5】2C18-mmt粘土、及び2C18-mmt粘土と、(a)1モル%のp-メチルスチレン、(b)0.5モル%の無水マレイン酸、及び(c)0.5モル%のヒドロキシ側基を含む、3種の側鎖官能化PP(Mn=100,000及びMw=200,000g/モル)から6/94の質量比で製造された3種のナノ複合材料のX線回折パターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有する粘土と、一般式、
-(M)n-X-F
(式中、Mは、オレフィンモノマーであり、nは、100乃至100,000の整数であり、Fは、前記粘土と結合しうる親水性基であり、かつXは、任意であって連結基である。)
を有する官能化ポリオレフィン材料との反応生成物、
を含むことを特徴とする、剥離したポリオレフィン/粘土ナノ複合材料物質。
【請求項2】
前記Fが、OH、COOR、NR2、NR3+、酸無水物、イミダゾリニウム、スルホニウム、及びホスホニウム(式中、前記R基は、独立してH又はアルキルである。)からなる群から選択される請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項3】
前記Xが、連鎖移動剤又は停止反応剤の残基である請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項4】
前記Xが、アルコキシル基、アルキル基又はアルキル-アリール基である請求項3記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項5】
前記粘土が、シリケート粘土である請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項6】
前記層状シリケート粘土材料が、フィロシリケート粘土、層状シリケート、層状繊維シリケート、モンモリロナイト、ノントロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バーミキュライト、レディカイト、マガダイト、ケニヤイト、フルオロマイカ、フルオロヘクトライト、アタパルガイト、ベーマイト、イモゴライト、セピオライト、カオリナイト、カディナイト、合成等価物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項5記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項7】
前記層状シリケート粘土材料が、カチオン-有機界面活性剤で処理された親有機性粘土である請求項5記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項8】
前記カチオン-有機界面活性剤が、アルキルアンモニウム化合物である請求項7記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項9】
前記層状シリケート粘土材料が、酸で処理された酸性粘土である請求項5記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項10】
前記Mが、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、シクロペンテン、ノルボルネン、フェニルノルボルネン、インダニルノルボルネン、スチレン、p-メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、ジビニルベンゼン、ビニリデンノルボルネン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項11】
前記官能化ポリオレフィン材料が、OH、NH2、酸無水物、アンモニウム、イミダゾリウム、スルホニウム、ホスホニウムカチオンからなる群から選択される末端官能基を有する、分子量が10,000以上である官能化ポリプロピレンである請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項12】
前記官能化ポリオレフィン材料が、OH、NH2、酸無水物、アンモニウム、イミダゾリウム、スルホニウム、ホスホニウムカチオンからなる群から選択される末端官能基を有する、分子量が10,000以上である官能化ポリエチレンである請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項13】
前記官能化ポリオレフィン材料が、OH、NH2、酸無水物、アンモニウム、イミダゾリウム、スルホニウム、ホスホニウムカチオンからなる群から選択される末端官能基を含む、分子量が10,000以上である官能化シンジオタクチックポリスチレンである請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項14】
前記官能化ポリオレフィン材料が、10乃至40モル%のスチレン含量、及びOH、NH2、酸無水物、アンモニウム、イミダゾリウム、スルホニウム、ホスホニウムカチオンからなる群から選択される末端官能基を有し、分子量が10,000以上である官能化ポリ(エチレン-co-スチレン)ランダムコポリマーである請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項15】
前記官能化ポリオレフィン材料が、10モル%以下のイソプレン含量、及びOH、NH2、酸無水物、アンモニウム、イミダゾリウム、スルホニウム、ホスホニウムカチオンからなる群から選択される末端官能基を有し、分子量が10,000以上である官能化ポリ(イソブチレン-co-イソプレン)エラストマーである請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項16】
前記官能化ポリオレフィン材料が、10モル%以下のジエン含量、及びOH、NH2、酸無水物、アンモニウム、イミダゾリウム、スルホニウム、ホスホニウムカチオンからなる群から選択される末端官能基を有し、分子量が10,000以上である官能化エチレン/プロピレン/ジエンエラストマー(ジエン: 1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、ジビニルベンゼン、ビニリデンノルボルネン等)である請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項17】
顔料、充填剤、強化繊維、カーボン粒子、安定剤、染料、可塑剤、難燃剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された補助的な成分を更に含む請求項1記載のポリオレフィン/粘土ナノ複合材料。
【請求項18】
ポリオレフィン/粘土ナノ複合材料物質を製造する方法であって、以下の工程、
(1)層状構造を有する粘土を提供する工程、
(2)一般式、
-(M)n-X-F
(式中、Mは、オレフィンモノマーであり、nは、100乃至100,000であり、Fは、前記粘土と結合しうる親水性基であり、かつXは、任意であって連結基である。)
を有する官能化ポリオレフィンを提供する工程、及び
(3)前記粘土及び前記官能化ポリオレフィンを混合することにより前記官能化ポリオレフィンを前記F基により前記粘土に結合させ、かつ剥離させる工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
ポリオレフィンを前記粘土及び前記官能化ポリオレフィンと混合する更なる工程を含む請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記混合工程を溶剤の不在下で実施する請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記混合工程が、1乃至20質量部の前記粘土と、1乃至98質量部の前記官能化ポリオレフィンとの混合を含む請求項18記載の方法。
【請求項22】
前記ポリオレフィンの混合工程が、98質量部以下の前記ポリオレフィンと1乃至20質量部の前記粘土及び1乃至98質量部の前記官能化ポリオレフィンとの混合を含む請求項19記載の方法。
【請求項23】
前記ポリオレフィン、前記粘土、及び前記官能化ポリオレフィンを単一工程で一緒に混合する請求項19記載の方法。
【請求項24】
前記粘土及び前記官能化ポリオレフィンを第一混合工程で予備混合し、次いで得られた混合物を前記ポリオレフィンと第二混合工程で混合する請求項19記載の方法。
【請求項25】
前記ポリオレフィン及び前記官能化ポリオレフィンを第一混合工程で混合し、次いで得られた混合物を前記粘土と第二混合工程で混合して前記ポリオレフィン/粘土ナノ複合材料を製造する請求項19記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−516310(P2007−516310A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521166(P2006−521166)
【出願日】平成16年7月19日(2004.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/023179
【国際公開番号】WO2005/044904
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(501139858)
【Fターム(参考)】