説明

高分子繊維及びその製造方法、製造装置

【課題】繊維集合体とした場合の平均繊維径が1μmを超え100μm以下の範囲内となる繊維を、高分子樹脂溶液から簡単且つ安定的に製造することができる高分子繊維の製造方法を実現する。
【解決手段】本発明の高分子繊維の製造方法は、高分子樹脂を有機溶剤に溶解した高分子樹脂溶液3を吐出する吐出工程と、気体による外力により、吐出した上記高分子樹脂溶液を当該外力の方向に飛行させ、高分子樹脂溶液3に含まれる有機溶剤を蒸発させながら高分子樹脂を紡糸して繊維状に成形する成形工程と、を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子繊維の製造方法、及び当該製造方法により得られる高分子繊維、並びに当該製造方法に用いる製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子樹脂溶液から高分子繊維を紡糸する方法には、(i)湿式紡糸法(例えば、特許文献1〜3参照)、(ii)乾式紡糸法(例えば、特許文献4〜6参照)、(iii)フラッシュ紡糸法(例えば、特許文献7〜9参照)、(iv)エレクトロスピニング法(例えば、特許文献10参照)、等の種々の方法が提案されている。
【0003】
湿式紡糸法とは、高分子樹脂を有機溶剤に溶解した紡糸用原液を紡糸用ドープに紡糸し表面の溶剤を抽出することで高分子樹脂を繊維状に成形し、該高分子樹脂繊維を加熱して乾燥することで繊維を得る方法である。この方法は、高分子の長繊維を得る方法として一般的に用いられている方法である。
【0004】
乾式紡糸法とは、高分子樹脂の紡糸用原液を紡糸口金より高温の乾燥炉内に紡糸することで表面の溶剤を乾燥除去して繊維状に紡糸する方法である。乾式紡糸方法は、紡糸口金より紡糸された繊維を、紡糸塔の下部に設置された巻取り機により巻取りながら延伸することにより紡糸する。この方法では、紡糸塔内を加熱するために気体流の温度や温度ステップ、更には、加熱気体流の吹き付け方向の制御等が行われるが、高分子樹脂溶液が飛散するほどの気流を吹き付けることは無く、紡糸塔の下部から引き出されることが一般的である。
【0005】
フラッシュ紡糸法とは、溶剤の揮発に伴う体積増加により樹脂を高速で吐出して紡糸する方法である。紡糸されて得られる繊維はフィブリル状の短繊維となる。フラッシュ紡糸法は、高分子繊維からなる紙や不織布の製造方法として一般的に使用されている。
【0006】
また、エレクトロスピニング法とは、近年になって報告された方法であり、静電気力により高分子樹脂溶液を紡糸する方法である。エレクトロスピニング法は、高分子繊維を極細化することができ、1μm以下の繊維径を持つナノサイズの繊維を安定して作製できる方法として研究が行われている。また、エレクトロスピニング法は、ナノサイズの繊維からなる不織布等を作製することができる方法である。
【特許文献1】特開2001−181926号公報(2001年7月3日公開)
【特許文献2】特開平1−118613号公報(1989年5月11日公開)
【特許文献3】特公平7−42611号公報(1995年5月10日公開)
【特許文献4】特公昭63−27444号公報(1988年6月3日公開)
【特許文献5】特公昭61−6881号公報(1986年3月1日公開)
【特許文献6】特開平6−57517号公報(1994年3月1日公開)
【特許文献7】特開平1−139812号公報(1989年6月1日公開)
【特許文献8】特開平5−263310号公報(1993年10月12日公開)
【特許文献9】特開平6−207308号公報(1994年7月26日公開)
【特許文献10】特開2004−308031号公報(2004年11月4日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記方法では、繊維集合体とした場合の平均繊維径が1μmを超え100μm以下の範囲内となる繊維を、高分子樹脂溶液から簡単且つ安定的に製造することが困難であるという問題を生じる。
【0008】
具体的には、上記湿式紡糸法では、紡糸原液中の溶剤種及び紡糸用ドープの選択が難しく、特に、ポリイミド樹脂の場合では、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸溶液を貧溶媒である水中に紡糸すると分子量が低下する現象が起きてしまう。また、得られるポリアミド酸の紡糸繊維を加熱イミド化すると、分子量の低下に起因する繊維の脆弱化や、黒く着色する等の問題が起こる場合があった。
【0009】
乾式紡糸方法では、高分子樹脂溶液を高温の気流中で安定して紡糸するには高温の紡糸塔の中でゆっくりと紡糸する必要があり、装置が大掛かりになるという問題があった。
【0010】
また、フラッシュ紡糸法では、高分子樹脂溶液を高温に加熱して溶剤を蒸発させることにより紡糸する方法であるため、溶剤の選定が難しく、更には、得られる繊維がフィブリル状であって不織布等に成形する際に繊維の短さが問題になることがあった。また、高分子樹脂溶液として、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液を用いて実施した場合には、ポリアミド酸の熱劣化が生じて分子量が低下するので、湿式紡糸と同様に繊維の脆弱化が生じる問題があった。
【0011】
更には、エレクトロスピニング法では、高分子繊維を1μm以下の極細繊維にすることができるため、非常に注目は浴びているものの、紡糸の際に高電圧をかけて紡糸するので溶剤の静電気爆発の問題があった。また、1μmを超える繊維径の製造には適しておらず、細くて腰の無い繊維になってしまうという問題があった。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、繊維集合体とした場合の平均繊維径が1μmを超え100μm以下の範囲内となる繊維を、高分子樹脂溶液から簡単且つ安定的に製造することができる高分子繊維の製造方法、及び当該製造方法により得られる高分子繊維、並びに当該製造方法に用いる製造装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る高分子繊維の製造方法は、上記課題を解決するために、高分子樹脂を有機溶剤に溶解した高分子樹脂溶液を吐出する吐出工程と、気体による外力により、吐出した上記高分子樹脂溶液を当該外力の方向に飛行させ、高分子樹脂溶液に含まれる有機溶剤を蒸発させながら高分子樹脂を紡糸して繊維状に成形する成形工程と、を含むことを特徴としている。
【0014】
上記方法によれば、吐出した高分子樹脂溶液を、気体による外力により当該外力の方向に飛行させるため、高分子樹脂溶液は、含んでいる有機溶剤を蒸発させながら紡糸される。上記方法では、高温で紡糸する必要が無いため、高分子樹脂の熱劣化による分子量低下等を抑制することができる。更には、上記紡糸は瞬時に行われ、上記飛行距離は数メートル程度でも行うことができるため、上記方法で用いる装置は乾式紡糸法で用いる装置と比較して小さくすることができる。更には、吐出速度、気流の風速等を調整することにより、幅広い長さ及び太さの繊維を製造することができる。
【0015】
従って、上記方法によれば、繊維集合体とした場合の平均繊維径が1μmを超え100μm以下の範囲内となる繊維を、高分子樹脂溶液から簡単且つ安定的に製造することができるという効果を奏する。
【0016】
本発明に係る高分子繊維の製造方法は、上記吐出工程では、上記高分子樹脂溶液を紡糸口金のオリフィスから吐出し、上記成形工程における上記気体による外力は、吐出した上記高分子樹脂溶液に、上記吐出方向と交差する方向から気体を吹き付けることにより加えることが好ましい。
【0017】
上記方法によれば、気体による外力を容易に高分子樹脂溶液に加えることができるため、高分子樹脂溶液から繊維をより簡単に製造することができるという更なる効果を奏する。
【0018】
また、高分子樹脂溶液の吐出方向と交差する方向から気体を吹き付けるため、高分子樹脂溶液の飛行時間を長くすることができ、高分子樹脂溶液の繊維状物表面から効率良く有機溶剤を除去することができる。このため、安定して高分子樹脂を繊維状に成形することができる。よって、高分子樹脂溶液から繊維を、より安定的に製造することができるという更なる効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る高分子繊維の製造方法では、上記飛行速度が1m/秒以上400m/秒以下の範囲内であることが好ましい。
【0020】
上記方法によれば、高分子樹脂溶液を安定的に飛行させることができる。
【0021】
また、本発明に係る高分子繊維の製造方法では、吐出前の上記高分子樹脂溶液のチキソ指数が1.0以上1.5以下の範囲内であることが好ましい。
【0022】
上記方法によれば、成形工程において高分子樹脂溶液が気体による外力で引き伸ばされた際に、形状を繊維状とし易くすることができるため、高分子樹脂溶液から繊維をより安定的に製造することができるという更なる効果を奏する。
【0023】
また、本発明に係る高分子繊維の製造方法では、B型粘度計でローターNo.7を用いて、23℃、2回転/分の条件で測定した、吐出前の上記高分子樹脂溶液の粘度が、500P以上10,000P以下の範囲内であることが好ましい。
【0024】
上記方法によれば、高分子樹脂溶液から繊維をより安定的に製造することができる。
【0025】
また、本発明に係る高分子繊維の製造方法では、高分子樹脂溶液の吐出方向と上記外力の方向との交差角度が、30°以上150°以下の範囲内であることが好ましい。
【0026】
上記方法によれば、高分子樹脂溶液の飛行時間を長くすることができ、高分子樹脂溶液の繊維状物表面から効率良く有機溶剤を除去することができる。このため、安定して高分子樹脂を繊維状に成形することができる。よって、高分子樹脂溶液から繊維を、より安定的に製造することができるという更なる効果を奏する。
【0027】
また、本発明に係る高分子繊維の製造方法では、上記高分子樹脂が、ポリアミド酸、及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1つの高分子化合物を含むことが好ましい。
【0028】
上記方法によれば、難燃性に優れ、各種吸音材料、各種断熱材料、難燃マット、濾布、耐熱服、不織布、航空機用途断熱吸音材、耐熱性バグフィルターへの適応が可能な高分子繊維を製造することができるという更なる効果を奏する。
【0029】
本発明に係る高分子繊維の製造方法では、上記成形工程後の上記高分子樹脂における有機溶剤の濃度が、固形分に対して20質量%以上200質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0030】
上記方法によれば、成形工程後の工程により、繊維状物同士を結合させることも、繊維状物同士を結合させないようにすることも自在に行うことができるという更なる効果を奏する。
【0031】
また、本発明に係る高分子繊維の製造方法では、上記成形工程後、繊維状の上記高分子樹脂を加熱する加熱工程を更に含むことが好ましい。
【0032】
上記方法によれば、上記捕集工程後の高分子樹脂に残存する有機溶剤の量をより減少させることができるという更なる効果を奏する。
【0033】
また、本発明に係る高分子繊維の製造方法では、上記加熱工程における上記高分子樹脂を加熱する温度が、50℃以上700℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0034】
上記方法によれば、高分子樹脂の熱劣化を抑制しながら効率良く有機溶剤を除去することができる。
【0035】
更には、本発明に係る高分子繊維の製造方法では、上記成形工程により得られる高分子樹脂を捕集する捕集工程を更に含むことが好ましい。
【0036】
上記方法によれば、飛行する繊維状の高分子樹脂を捕集するため、高分子樹脂溶液から高分子樹脂繊維をより効率良く製造することができるという更なる効果を奏する。
【0037】
本発明に係る高分子繊維は、上記課題を解決するために、上記本発明に係る製造方法により作製されたことを特徴としている。
【0038】
上記構成によれば、集合体とした場合に嵩比重が非常に低い高分子繊維を提供することができるという効果を奏する。
【0039】
本発明に係る高分子繊維の製造装置は、上記課題を解決するために、高分子樹脂を有機溶剤に溶解した高分子樹脂溶液を吐出する吐出手段と、吐出した上記高分子樹脂溶液に気体を吹き付けることにより、当該気流の方向に上記高分子樹脂溶液を飛行させる気流発生手段と、を含むことを特徴としている。
【0040】
上記構成によれば、吐出した高分子樹脂溶液を、吐出した方向と交差する方向からの気流により当該気流の方向に飛行させるため、高分子樹脂溶液に含んでいる有機溶剤を蒸発させながら高分子樹脂を紡糸することができる。
【0041】
従って、上記構成によれば、高分子樹脂溶液から繊維を簡単且つ安定的に製造することができるという効果を奏する。
【0042】
本発明に係る高分子繊維の製造装置では、上記気流発生手段は、吐出した上記高分子樹脂溶液に、上記吐出方向と交差する方向から気体を吹き付けることが好ましい。
【0043】
上記構成によれば、高分子樹脂溶液の飛行時間を長くすることができ、高分子樹脂溶液の繊維状物表面から効率良く有機溶剤を除去することができる。このため、安定して高分子樹脂を繊維状に成形することができる。よって、高分子樹脂溶液から繊維を、より安定的に製造することができるという更なる効果を奏する。
【0044】
また、本発明に係る高分子繊維の製造装置では、上記高分子樹脂溶液の飛行により得られる繊維状の高分子樹脂を加熱する加熱手段を更に含むことが好ましい。
【0045】
上記構成によれば、捕集後の繊維状の上記高分子樹脂に残存する有機溶剤の量をより減少させることができるという更なる効果を奏する。
【0046】
また、本発明に係る高分子繊維の製造装置では、高分子樹脂溶液の吐出方向と上記気流の方向との交差角度が、30°以上150°以下の範囲内であることが好ましい。
【0047】
上記構成によれば、高分子樹脂溶液の飛行時間をより長くすることができ、高分子樹脂溶液の繊維状物表面からより効率良く有機溶剤を除去することができる。このため、より安定して高分子樹脂を繊維状に成形することができる。よって、高分子樹脂溶液から繊維を、より安定的に製造することができるという更なる効果を奏する。
【0048】
また、本発明に係る高分子繊維の製造装置では、上記高分子樹脂溶液の飛行により得られる繊維状の高分子樹脂を捕集する捕集手段を更に含むことが好ましい。
【0049】
上記構成によれば、飛行する繊維状の高分子樹脂を捕集することができるため、高分子樹脂溶液から高分子樹脂繊維をより効率良く製造することができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明に係る高分子繊維の製造方法は、以上のように、高分子樹脂を有機溶剤に溶解した高分子樹脂溶液を吐出する吐出工程と、気体による外力により、吐出した上記高分子樹脂溶液を当該外力の方向に飛行させ、高分子樹脂溶液に含まれる有機溶剤を蒸発させながら高分子樹脂を紡糸して繊維状に成形する成形工程と、を含むことを特徴としている。
【0051】
このため、高分子樹脂溶液から繊維を簡単且つ安定的に製造することができるという効果を奏する。
【0052】
本発明に係る高分子繊維は、以上のように、上記本発明に係る製造方法により作製されたことを特徴としている。
【0053】
このため、嵩比重が非常に低い高分子繊維を提供することができるという効果を奏する。
【0054】
本発明に係る高分子繊維の製造装置は、以上のように、高分子樹脂を有機溶剤に溶解した高分子樹脂溶液を吐出する吐出手段と、上記吐出方向と交差する方向から、吐出した上記高分子樹脂溶液に気体を吹き付けることにより、当該気流の方向に上記高分子樹脂溶液を飛行させる気流発生手段と、を含むことを特徴としている。
【0055】
このため、高分子樹脂溶液から繊維を簡単且つ安定的に製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、本発明について詳しく説明する。尚、本明細書では、「重量」は「質量」と同義語として扱い、「重量%」は「質量%」と同義語として扱う。また、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示し、粘度の単位を示す「P」はポアズを意味する。
【0057】
図1〜図3により、本実施の形態に係る高分子繊維の製造方法を説明する。
【0058】
図1は、本実施の形態に係る高分子繊維の製造方法で用いる装置の概略構成を示す模式図である。
【0059】
図1に示すように、本実施の形態に係る高分子繊維の製造方法で用いる装置は、高分子樹脂を有機溶剤に溶解した高分子樹脂溶液3を吐出する紡糸口金(吐出手段)1と、吐出した上記高分子樹脂溶液3に気体を吹き付けることにより、当該気流の方向に上記高分子樹脂溶液3を飛行させる気流発生手段4と、上記高分子樹脂を捕集する捕集手段5と、を含む。上記装置は、更には、上記高分子樹脂溶液3を収容するための高分子樹脂溶液タンク6を含む。
【0060】
また、本実施の形態に係る高分子繊維の製造方法は、高分子樹脂を有機溶剤に溶解した高分子樹脂溶液3を吐出する吐出工程と、気体による外力により、吐出した上記高分子樹脂溶液3を当該外力の方向に飛行させ、高分子樹脂溶液3に含まれる有機溶剤を蒸発させながら高分子樹脂を紡糸して繊維状に成形する成形工程と、を含む方法である。
【0061】
(I)吐出工程
上記吐出工程は、高分子樹脂溶液3を吐出する工程であり、具体的には、上記高分子樹脂溶液3を紡糸口金1のオリフィス2から吐出することにより行うことができる。
【0062】
上記紡糸口金1に設けられるオリフィス2の形状、数及び大きさは、製造する繊維の種類、直径、長さ等により適宜設定すればよい。例えば、直径が0.1〜1.5mmの範囲内である円形のオリフィスを1つ設けた上記紡糸口金1を使用することができる。
【0063】
上記吐出速度は、後述する成形工程において、吐出した高分子樹脂溶液3を外力の方向に飛行させることができれば特に限定されず、例えば0.001〜10.000g/分/孔の範囲内に設定することができる。
【0064】
また、吐出方向についても、吐出した高分子樹脂溶液3を外力の方向に飛行させることができれば特に限定されず、図1に示すように重力方向であってもよいし、重力方向と異なる方向であってもよい。
【0065】
B型粘度計を用い、ローターNo.7を用いて2回転/分の条件で、溶液温度を23℃にして測定した、吐出前の上記高分子樹脂溶液3の粘度は、500P以上10,000P以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1,000P以上10,000P以下の範囲内であり、更に好ましくは1,000P以上6,000P以下の範囲内であり、特に好ましくは1,500P以上4,000P以下の範囲内である。尚、本明細書では、上記粘度は後述する実施例に記載されている方法により測定した値を意味する。上記高分子樹脂溶液の粘度を上記範囲内に調整することで、吐出された高分子樹脂溶液3を直線状に引き伸ばすことができる。
【0066】
更に、上記高分子樹脂溶液3は、高分子樹脂溶液3が後述する成形工程において外力により引き伸ばされた場合に、形状を繊維状とし易くする観点から、後述する実施例に記載の方法で測定したチキソ指数が1.0以上1.5以下の範囲内であることが好ましい。
【0067】
本実施の形態で使用する高分子樹脂溶液の固形分濃度は、0.1〜50質量%の範囲内が好ましく、1〜40質量%の範囲内であることがより好ましく、高分子樹脂溶液のチキソトロピー性を制御する観点から、上記固形分濃度は10〜30質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0068】
尚、固形分濃度は、下記式
固形分濃度(質量%)=溶質質量/(溶剤質量+溶質質量)×100
により求めることができる。
【0069】
(II)成形工程
上記成形工程は、気体による外力により、吐出した上記高分子樹脂溶液3を当該外力の方向に飛行させ、高分子樹脂溶液3に含まれる有機溶剤を蒸発させながら高分子樹脂を紡糸して繊維状に成形する工程である。本実施の形態では、上記吐出方向と交差する方向から気体を吹き付けることにより、吐出した上記高分子樹脂溶液3を当該気流(吹き付ける気体)の方向に飛行させ、高分子樹脂溶液3に含まれる有機溶剤を蒸発させながら高分子樹脂を紡糸して繊維状に成形する。
【0070】
ここで、上記「飛行」とは、空中を通り離れた場所(つまり、外力が無い場合に位置する場所とは異なる場所)に移動することを意味し、例えば、乾式紡糸法における、高分子樹脂溶液に対して気流を吹き付けて溶剤を蒸発させる工程は、高分子樹脂溶液が離れた場所に移動していないため、本明細書における「飛行」には該当しない。
【0071】
また、上記「飛行」においては、高分子樹脂溶液3は気流によりその液流が切断してもよく、切断することなく1本の連続した液流として高分子樹脂溶液3が空中を通り、離れた場所に移動してもよく、どちらの構成も上記「飛行」に含まれる。
【0072】
更には、本明細書における「外力の方向に飛行させる」とは、高分子樹脂溶液3を、吐出方向とは異なる方向に飛行させることを意味し、吐出方向と同じ方向に飛行させることは本明細書では除外される。言い換えれば、「外力の方向に飛行させる」とは、当該外力が無ければ飛行しない方向に高分子樹脂溶液3を飛行させることを意味する。
【0073】
つまり、例えば、乾式紡糸法における、高分子樹脂溶液に対して、吐出方向と同じ方向から気流を吹き付けて溶剤を蒸発させる工程は、当該外力が無ければ飛行しない方向には飛行しないため、本明細書における「外力の方向に飛行させる」には該当しない。
【0074】
図1に示すように、本実施の形態に係る成形工程では、オリフィス2の下方向に垂れ下がる、オリフィス2から吐出された高分子樹脂溶液3に対して、当該高分子樹脂溶液3の流れに交差するように気流発生手段4から気体を高分子樹脂溶液3に吹き付け、高分子樹脂溶液3を気体の流れ方向に飛行させる。これにより、高分子樹脂溶液3に含まれる有機溶剤を高分子樹脂溶液3の表面から蒸発させながら高分子樹脂を紡糸して繊維状に成形する。
【0075】
気流発生手段4としては、気体を吹き付け、高分子樹脂溶液3を気体の流れ方向に飛行させることができる手段であれば特に限定されず、例えば、エアーノズル、スリットノズル、ブロアノズル等を使用することができる。
【0076】
また、上記気流発生手段4が吹き付ける気体の種類は、特には限定されないが、好ましくは空気、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウムである。これらの気体は1種のみを用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。また、これらの気体は各種溶剤や水を含んでいてもよい。
【0077】
また、気流発生手段4から吐出される気体の流速は1m/秒以上400m/秒以下の範囲内であることが好ましく、繊維径を細くすることができるため、10m/秒以上300m/秒以下の範囲内であることがより好ましい。つまり、上記高分子樹脂溶液3の飛行速度は、1m/秒以上400以下の範囲内とすることが好ましく、10m/秒以上300m/秒以下の範囲内とすることがより好ましい。
【0078】
また、気流発生手段4のオリフィス2からの距離は、高分子樹脂溶液3の飛行状態や紡糸繊維径等から適宜選定することが好ましく、少なくとも1cm以上であることが好ましく、高分子樹脂溶液3が安定して紡糸され易くなるため、10cm以上とすることがより好ましい。また、距離が1cmより近い場合には、紡糸が安定しなくなるため好ましくない。
【0079】
尚、本明細書における「吐出方向と交差する方向」とは、高分子樹脂溶液3の吐出方向と交わることができる方向を意味し、その交わる角度(交差角度)は90°には限定されず、0°若しくは180°以外であれば特に限定されない。
【0080】
また、上記「交差角度」とは、図2に示すように、高分子樹脂溶液3の吐出方向dと、気流発生手段4からの気流方向dとが成す角度θを意味する。
【0081】
上記交差角度θは、30°以上150°以下の範囲内が好ましい。交差角度θを上記範囲内に制御することにより、高分子樹脂溶液3の飛行時間が長くなり、高分子樹脂溶液3の表面から効率良く有機溶剤が除去される。
【0082】
また、上記交差角度θは、40°以上140°以下の範囲内がより好ましく、60°以上135°以下の範囲内が最も好ましい。交差角度θを当該範囲内に制御することにより、高分子樹脂溶液3の飛行により得られる繊維状高分子樹脂の繊維長が長くなり、それに伴って最終的に得られる高分子繊維を繊維集合体とした場合の平均繊維径を、1μmを超え100μm以下の範囲内に安定的に制御して紡糸することができる。
【0083】
尚、吐出方向dと交差する方向から気体を吹き付けられた上記高分子樹脂溶液3は、上記交差する気流の方向dに飛行することになる。つまり、上記高分子樹脂溶液の飛行方向は、成形工程前の高分子樹脂溶液の吐出方向dに対して、30°以上150°以下の範囲内の方向で飛行することが好ましい。
【0084】
また、繊維状の高分子樹脂3’をより細くするためには、高分子樹脂溶液3が飛行している間に、高分子樹脂溶液3に対して、更に気体を吹付けることも可能である。高分子樹脂溶液3の飛行ラインに沿って再度気体を吹付けて延伸することにより、より細い繊維形状にすることができる。
【0085】
成形工程で使用する気流の温度は、−100℃〜300℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、−50℃〜200℃の範囲内、特に好ましくは0℃〜100℃の範囲内である。上記気流の温度が上記範囲内であれば、高分子樹脂溶液3を安定的に飛行させることができる。また、飛行中に効率良く高分子樹脂溶液3に含まれる有機溶剤が飛散するため、高分子樹脂3’を繊維状に成形し易くなる。
【0086】
また、本実施の形態に係る高分子繊維の製造方法では、成形工程後における繊維状の高分子樹脂3’中の固形分に対する有機溶剤の濃度が20質量%以上200質量%以下の範囲内であることが好ましい。このため、上記高分子樹脂溶液3を飛行させて繊維状の高分子樹脂3’とするときに吹き付ける気体の流速、流量、温度、飛行距離等の諸条件は、成形工程後における繊維状の高分子樹脂3’中の溶剤濃度が上記範囲内となるように適宜選定することが好ましい。
【0087】
成形工程後の高分子樹脂3’中の固形分に対する有機溶剤濃度を上記範囲に調整することで、繊維状物同士を結合させることも、繊維状物同士を結合させないようにすることも自在に行うことができるので好ましい。
【0088】
尚、固形分に対する溶剤濃度は次のようにして求めることができる。予め、収集した繊維状の高分子樹脂の質量を測定し、このときの質量をAとする。この繊維状物を、溶剤が完全に飛散する温度及び時間で加熱して樹脂中の溶剤を完全に除去する。このときの質量をBとして、下記式
固形分に対する溶剤濃度=(A−B)÷B×100
により、固形分に対する溶剤濃度(質量%)を求めることができる。
【0089】
(III)捕集工程
本実施の形態に係る高分子繊維の製造方法では、更に、上記繊維状の高分子樹脂3’を捕集する捕集工程を含む。尚、本明細書における「捕集」とは、上記繊維状の高分子樹脂3’を飛行中に捕らえて集めることを意味する。
【0090】
本実施の形態の捕集工程では、図1に示すように、成形工程により得られる繊維状の高分子樹脂3’を、捕集手段5により捕集する。捕集手段5としては、例えば、網状の開口部を有する平板や容器等が挙げられる。また、捕集手段5としては、捕集面が静止している装置には限定されず、例えば、ベルトコンベアのように、捕集面が移動している装置であってもよい。
【0091】
静止した捕集手段5上で捕集する場合には、高分子樹脂3’を繊維の集合体の状態で捕集することができる。また、捕集位置が移動する捕集手段5上で捕集する場合では、一定の厚みを有する不織布として捕集することができる。
【0092】
また、高分子樹脂溶液3を飛行させている途中で、当該高分子樹脂溶液3とは異なる樹脂溶液を塗布することもできる。例えば、フッ素系樹脂等を塗布することで紡糸繊維表面の接着性等を制御することができる。
【0093】
また、飛行している繊維状の高分子樹脂3’を巻取り装置により巻き取ることにより、モノフィラメント状の高分子繊維を得ることもできる。
【0094】
(IV)加熱工程
本実施の形態に係る高分子繊維の製造方法では、更に、上記捕集した繊維状の高分子樹脂3’を加熱する加熱工程を含む。
【0095】
上記加熱する温度は、高分子樹脂3’の種類及び含まれる有機溶剤の種類により適宜選定すればよい。特に、高分子樹脂溶液3として、ポリアミド酸溶液若しくはポリイミド樹脂溶液を用いる場合には、繊維状の高分子樹脂3’の加熱温度を50℃以上700℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、加熱温度は一定であってもよく、上記範囲内で変化させてもよい。特に、低温から高温になるように焼成することが好ましく、焼成後は急激に冷却してもよいし、除々に冷却してもよい。また、加熱の際の加熱時間は適宜選定することが好ましい。
【0096】
また、上記ポリアミド酸溶液が、ピロメリット酸二無水物と4,4−ジアミノジフェニルエーテルとを重合して得られるポリアミド酸を少なくとも含む溶液である場合には、最終焼成温度を400℃以上にすることが、ポリアミド酸のイミド化反応率をほぼ100%近くまで高めることができるため好ましい。
【0097】
尚、上述の説明では、高分子繊維をバッチ式で製造する方法について説明したが、これに限るものではない。例えば、図3に示すように、紡糸口金1から吐出した高分子樹脂溶液3を気流発生手段4により飛行させられることにより得られる繊維状の高分子樹脂3’を、表面が網状となっているベルトから構成され、ゆっくりと回転するベルトコンベア10上で連続的に捕集し、捕集された繊維状の高分子樹脂3’をベルトコンベア10から引き剥がし、乾燥・焼成炉12へと搬送し、当該乾燥・焼成炉12中で加熱・乾燥・焼成し、巻取り装置13により巻き取ることにより、ロール状の高分子繊維を連続的に製造する方法であってもよい。
【0098】
また、上述の説明では、捕集工程を含み、捕集手段5を備えた製造装置を用いる方法について説明したが、本発明の範囲はこれには限定されない。上記製造装置は捕集手段5を備えていなくてもよく、上記製造方法は捕集工程を含んでいなくてもかまわない。
【0099】
この場合、例えば、飛行後の落下した繊維状の高分子樹脂3’を回収することにより本実施形態とほぼ同様の効果が得られる。但し、本実施の形態のように捕集工程若しくは捕集手段を含む場合では、効率良く繊維状の高分子樹脂を回収することができる。
【0100】
更には、上述の説明では、加熱工程を含む製造方法について説明したが、本発明の範囲はこれには限定されない。上記製造方法は加熱工程を含んでいなくてもかまわない。上記成形工程における飛行中に十分有機溶剤が除去されている場合では、別途加熱工程を設ける必要は無く、製造装置に加熱手段を設ける必要は無い。
【0101】
(V)高分子樹脂溶液
上記高分子樹脂としては、有機溶剤に溶解させることのできる高分子樹脂であればどのような樹脂でも用いることができる。例えば、アクリル樹脂、アセテート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が好ましく用いられる。また、それぞれの樹脂の前駆体等も好ましく用いられる。本実施の形態では、電気絶縁信頼性や耐熱性の観点から、上記高分子樹脂が、ポリアミド酸、及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含むことが好ましい。粘度及びチキソ指数が上述した範囲内である高分子樹脂溶液を作製易いため、上記高分子樹脂がポリアミド酸を含むことがより好ましい。
【0102】
上記高分子樹脂溶液を構成する有機溶剤として、高分子樹脂がポリアミド酸及び/又はポリイミド樹脂である場合には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン等の有機極性アミド系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等の水溶性エーテル化合物;プロピレングリコール、エチレングリコール等の水溶性アルコール系化合物;アセトン、メチルエチルケトン等の水溶性ケトン系化合物;アセトニトリル、プロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶媒として使用してもよい。
【0103】
上記有機溶剤の中でも、ポリアミド酸及び/又はポリイミドを上記高分子樹脂として用いる場合には、溶解性の観点から、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンを用いることが好ましい。
【0104】
<ポリアミド酸及び/又はポリイミド>
上記ポリアミド酸及び/又はポリイミドは、その構造等については特に限定されない。例えば、ポリアミド酸及び/又はポリイミドの原料となる酸二無水物としては、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ヘキサフルオロプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラカルボキシブタン二無水物が好適に用いられる。これらの原料を用いることでポリイミド繊維の耐熱性を向上させることができる。
【0105】
これらの中でもポリイミド繊維の耐熱性、耐薬品性を向上させる上で、芳香族系の酸二無水物である、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましい。
【0106】
また、ポリアミド酸及び/又はポリイミドの原料となるジアミン類としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、(4−アミノフェノキシフェニル)(3−アミノフェノキシフェニル)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、3,3’−ジアミノベンズアニリド、3,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]エタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)] −1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−P−アミノベンゾエート、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)、トリメチレン−ビス(4−アミノベンゾエート)、p−フェニレン−ビス(4−アミノベンゾエート)、m−フェニレン−ビス(4−アミノベンゾエート)、ビスフェノールA−ビス(4−アミノベンゾエート)が挙げられる。
【0107】
上記ジアミン類を適宜併用することで、最終的に得られるポリイミド樹脂の耐熱温度が向上すると共に、耐薬品性等も向上する。
【0108】
最終的に得られるポリイミド樹脂の耐熱性や耐薬品性をより向上させるためには、芳香族系のジアミンである、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを使用することが特に好ましい。
【0109】
更には、上記ジアミン類として、側鎖にカルボキシル基若しくは水酸基を有するジアミノ化合物も使用することができる。側鎖にカルボキシル基若しくは水酸基を有するジアミノ化合物としては、2,4−ジアミノ安息香酸、2,5−ジアミノ安息香酸、3,5−ジアミノ安息香酸、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジカルボキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジカルボキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジカルボキシビフェニル、[ビス(4−アミノ−2−カルボキシ)フェニル]メタン、[ビス(4−アミノ−3−カルボキシ)フェニル]メタン、[ビス(3−アミノ−4−カルボキシ)フェニル]メタン、[ビス(3−アミノ−5−カルボキシ)フェニル]メタン、2,2−ビス[3−アミノ−4−カルボキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−アミノ−3−カルボキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−カルボキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−アミノ−3−カルボキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジカルボキシジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジカルボキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジカルボキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジカルボキシジフェニルスルフォン、2,3−ジアミノフェノール、2,4−ジアミノフェノール、2,5−ジアミノフェノール、3,5−ジアミノフェノール、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス[3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドキシフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]スルフォン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジハイドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジハイドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス[3−アミノ−4−カルボキシフェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドキシフェノキシ)ビフェニルが挙げられる。これら側鎖にカルボキシル基若しくは水酸基を有するジアミノ化合物を、上述したジアミン類と併用することにより、耐熱性をより向上させることができる。
【0110】
また、側鎖にカルボキシル基若しくは水酸基を有するジアミノ化合物を併用することで、得られるポリイミド繊維を他の反応性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)で硬化させる際に、硬化し易くなるので好ましい。更には、上記ジアミノ化合物はエポキシ樹脂等に対する反応活性点を有するため、繊維同士の結合ができ、繊維同士の絡み合いが増え、嵩比重の低い繊維が得られる。上記ポリイミド繊維をエポキシ樹脂等の反応性樹脂と反応させる方法としては、得られたポリイミド繊維を反応性樹脂溶液に浸漬した後、加熱乾燥することで架橋したポリイミド繊維を得る方法や、反応性樹脂溶液を噴霧しながら紡糸する方法等が挙げられる。
【0111】
高分子樹脂がポリアミド酸である高分子樹脂溶液は、上記有機溶剤中で、上記ジアミンに対する上記酸二無水物のモル比が0.9〜1.1の範囲内となるように制御して上記ジアミンと上記酸二無水物とを重合することにより製造することができる。上記ジアミンに対する上記酸二無水物の上記モル比は、より好ましくは0.95〜1.05の範囲内である。
【0112】
このような反応比率で反応させることで、ポリアミド酸からポリイミドへのイミド化の際に分子量の低下が起きず、耐熱性、耐薬品性に優れるポリイミド樹脂を製造することができる。
【0113】
また、ポリアミド酸溶液の製造では、得られるポリアミド酸の分子量を高くする観点から、純度の高い酸二無水物を用いることが好ましい。純度の高い酸二無水物とは、具体的には、閉環構造を有する酸二無水物が98質量%以上含有されている酸二無水物が好ましい。
【0114】
本実施の形態で使用するポリアミド酸溶液の固形分濃度は、0.1〜50質量%の範囲内が好ましく、1〜40質量%の範囲内であることがより好ましく、ポリアミド酸溶液のチキソトロピー性を制御する観点から、上記固形分濃度は10〜30質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0115】
上記ポリアミド酸は、不活性ガス雰囲気下で−20〜60℃の範囲内、より好ましくは50℃以下で上記ジアミンと酸無水物とを攪拌することにより、得ることができる。尚、上記ポリアミド酸溶液には、適宜、フィラー、潤滑材、硬化触媒、脱水剤、着色剤等を混合することも可能である。
【0116】
本実施の形態では、上記ポリアミド酸溶液を用いて紡糸し、その後加熱してイミド化させることにより、ポリイミド樹脂繊維を製造することができる。これにより、従来、紡糸が困難であった非熱可塑性ポリイミド樹脂を紡糸することも可能となる。非熱可塑性ポリイミド樹脂であることで耐熱性が向上するので好ましい。
【0117】
尚、ここで言う「非熱可塑性ポリイミド樹脂」とは、ポリイミド繊維の動的粘弾性挙動を測定した場合に、300℃以下でtanδ値のピークを持たないポリイミド繊維を意味する。
【0118】
本実施の形態で好適に用いることのできる非熱可塑性ポリイミド樹脂は、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとからなるポリイミド樹脂、ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとからなるポリイミド樹脂、ピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミンとからなるポリイミド樹脂、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとからなるポリイミド樹脂、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとからなるポリイミド樹脂が挙げられる。このような非熱可塑性ポリイミド樹脂を用いることで、耐熱性の高い高分子繊維を得ることができる。
【0119】
また、本実施の形態では、ポリイミド樹脂溶液を用いて紡糸することも可能である。ポリイミド樹脂溶液を作製するには、ポリアミド酸を経由する方法、イソシアネート化合物を用いる方法等が挙げられる。
【0120】
<ポリアミド酸を経由するポリイミド樹脂の製造方法>
ポリアミド酸を経由する上記方法としては、上述のポリアミド酸溶液の製造方法によりポリアミド酸溶液を作製した後に、ポリアミド酸を、脱水剤と反応させてイミド化する化学イミド化方法や、加熱しながら脱水する熱イミド化方法が用いられる。
【0121】
化学イミド化反応の場合、ポリアミド酸溶液にイミド化触媒として3級アミン(例えば、ピリジン、トリメチルアミン、ピコリン、キノリン等が好適に用いられる)と脱水剤(例えば、無水酢酸等が好適に用いられる)とを添加した後に、加熱し還流させることでポリイミド樹脂溶液を得ることができる。
【0122】
このときの加熱温度は、200℃以下で適宜選定することが好ましい。また、イミド化率を高くする観点から、50℃以上200℃以下の範囲内で加熱することがより好ましく、80℃以上160℃以下の範囲内で加熱することが特に好ましい。上記温度範囲で加熱することで、ポリアミド酸溶液の分子量を大幅に低下させることなく、高分子量のポリイミド樹脂溶液が得られるため好ましい。
【0123】
尚、化学イミド化方法では、得られたポリイミド樹脂溶液をポリイミド樹脂の貧溶媒で抽出することでポリイミド樹脂を得ることができる。具体的には、ポリイミド樹脂溶液を貧溶媒中に分散させる、又は貧溶媒をポリイミド樹脂溶液に添加することで固形分として分離することができる。このようにして得られるポリイミド樹脂を再度有機溶剤に溶解させることで、ポリイミド樹脂溶液を作製することができる。
【0124】
尚、上記貧溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の溶剤が好適に用いられる。
【0125】
熱イミド化方法の場合、(i)ポリアミド酸溶液をポリイミド樹脂のガラス転移点以上の温度に加熱した真空容器中で真空加熱することで、ポリイミド樹脂として直接に取り出す真空熱イミド化方法や、(ii)ポリアミド酸溶液を直接に加熱及び還流することでイミド化する方法、更には、(iii)発生する水と共沸するトルエンやヘキサンを併用しながら加熱脱水する方法、によりイミド化することができる。このときの加熱温度は、100℃以上が好ましく、特に150℃以上に加熱することがイミド化を効率良く行うことができるため好ましい。
【0126】
ポリイミド樹脂を紡糸できるように、有機溶剤可溶性とするためには、上述した酸二無水物及びジアミンの中から適宜使用する原料を選択すればよい。例えば、酸二無水物として、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ヘキサフルオロプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラカルボキシブタン二無水物が好適に用いられる。尚、これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0127】
また、ジアミンとしては特には限定されず、上述したジアミンを用いればよい。
【0128】
<イソシアネート化合物を用いるポリイミド樹脂の製造方法>
イソシアネート化合物を用いる上記方法では、有機溶剤中に、酸二無水物に対するイソシアネート化合物のモル比が0.90〜1.10の範囲内となるように、酸二無水物及びイソシアネート化合物を混合して加熱及び還流することでポリイミド樹脂溶液を得ることができる。
【0129】
このときの反応温度は、50〜250℃の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは60〜200℃の範囲内であり、特に好ましくは70℃〜180℃の範囲内である。
【0130】
反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件等により適宜選択することができる。反応においては必要に応じて、三級アミン類、アルカリ金属、アルカリ土類金属、錫、亜鉛、チタニウム、コバルト等の金属又は半金属化合物等の触媒存在下で反応を行い、反応温度の制御と反応時間の制御とを行うことが好ましい。
【0131】
上記反応に用いられる酸二無水物としては、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ヘキサフルオロプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラカルボキシブタン二無水物が挙げられる。尚、これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0132】
上記反応に用いられるイソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3,2’−又は3,3’−又は4,2’−又は4,3’−又は5,2’−又は5,3’−又は6,2’−又は6,3’−ジメチルジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3,2’−又は3,3’−又は4,2’−又は4,3’−又は5,2’−又は5,3’−又は6,2’−又は6,3’−ジエチルジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3,2’−又は3,3’−又は4,2’−又は4,3’−又は5,2’−又は5,3’−又は6,2’−又は6,3’−ジメトキシジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート、4,4’−[2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン]ジイソシアネートを用いることが好ましい。特に好ましくは、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートやトリレン−2,6−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートが挙げられる。尚、これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0133】
本実施の形態で使用するポリイミド樹脂溶液の固形分濃度は、5〜40質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0134】
(VI)高分子繊維
本実施の形態に係る高分子繊維は、上述した製造方法により作製することができる。得られる高分子繊維は、複数の繊維を集めて集合体とした場合における空隙率が高く、吸音性や保温性に優れることから、吸音及び断熱材料として用いることができる。特に、航空機用途の吸音及び断熱材や建築部材としての断熱材として使用することができる。
【0135】
本実施の形態に係る製造方法では、嵩比重が1kg/m〜30kg/mの範囲内、更には1kg/m〜15kg/mの範囲内である上記高分子繊維の集合体を得ることができる。上記嵩比重に制御することで、航空機用途の断熱吸音材料として好適に用いることができる。
【0136】
また、本実施の形態に係る高分子繊維は、繊維集合体とした場合の平均繊維径を1μmを超え100μm以下の範囲内とすることができる。平均繊維径を上記範囲内とすることで、各種断熱材料、難燃マット、耐熱服に用いた場合に熱伝導度が小さくなるので好ましい。また、濾布や耐熱性バグフィルターに用いた場合に、靭性があり強度が強いため破れにくい特徴を有することになる。また、本実施の形態に係る高分子繊維は、繊維集合体とした場合の平均繊維径が1μmを超え50μm以下の範囲内であることがより好ましい。このようなより細い繊維とすることで、吸音特性が向上して、航空機用途の断熱吸音材として好適に用いることが可能となる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0138】
<平均繊維径>
平均繊維径は、電子顕微鏡(日本電子データム株式会社製、JSM−6380LA)により繊維径を30本測定し、その平均値を平均繊維径とした。尚、異形断面を有する繊維に関しては、最大長さを直径として算出した。
【0139】
<粘度>
高分子樹脂溶液の粘度は、B型粘度計でローターNo.7を用いて、23℃、2回転/分の条件で測定した。
【0140】
<チキソ指数>
チキソ指数は、B型粘度計でローターNo.7を用いて、10回転/分、及び2回転/分の2つの回転数における23℃での粘度を測定し、
チキソ指数=(2回転/分での粘度)/(10回転/分での粘度)
の式より求めた。
【0141】
尚、粘度が4,000Pを超える場合には、10回転/分では測定限界を超えるため、10回転/分で測定した値の替わりに5回転/分で測定した値を用いる。
【0142】
<固形分濃度>
固形分濃度は、下記式
固形分濃度(質量%)=溶質質量/(溶剤質量+溶質質量)×100
により求めた。
【0143】
尚、溶質質量は、反応に用いた高分子樹脂原料(ポリアミド酸の場合、酸二無水物及びジアミン)と、樹脂中に残る溶剤以外の原料との総質量である。
【0144】
また、溶剤質量とは、上記高分子樹脂原料及び樹脂中に残る溶剤以外の原料を、溶解或いは分散させるための溶剤の総質量である。
【0145】
<高分子樹脂の固形分に対する溶剤濃度>
加熱乾燥前の捕集した繊維状の高分子樹脂を10cm×10cm×2cmに切り出して質量を測定した。このときの質量をAとする。この高分子樹脂を実施例中の加熱・乾燥・焼成温度及び時間で完全に溶剤を揮発させた。このときの質量をBとして、下記式
固形分に対する溶剤濃度(質量%)=(A−B)/B×100
により、固形分に対する溶剤濃度(質量%)を求めた。
【0146】
<嵩比重>
常温状圧下で、1時間静置させた、紡糸した高分子繊維集合体から厚み2.5cm×長さ10cm×幅10cmのサンプル片を切り出し重量A(g)を測定する。この結果から下記式
嵩比重(kg/m)=A(g)/(250cm)×(10cm/1m)÷(1000g/1kg)
により高分子繊維の集合体の嵩比重を算出した。
【0147】
(合成例1)
窒素置換を行った2Lのガラス製セパラブルフラスコ中に、溶液を攪拌するための攪拌翼を取りつけた反応装置内で反応を行った。まず、4,4−ジアミノジフェニルエーテル(以下、「4,4’−ODA」と略す)91.8g(0.458mol)をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略す)779gに溶解し、40℃に保温した。この溶液中に、ピロメリット酸二無水物(以下、「PMDA」と略す)95.0g(0.436mol)を投入して完全に溶解した。この溶液に、5.0gのPMDAを66.5gのDMFに溶解した溶液を少量づつ添加して、溶液の粘度が23℃で3,100Pになった時点で添加を止めて、紡糸用の高分子樹脂溶液(A−1)とした。
【0148】
尚、上記溶液のチキソ指数は1.01であり、固形分濃度は18.5質量%であった。
【0149】
(合成例2)
窒素置換を行った2Lのガラス製セパラブルフラスコ中に、溶液を攪拌するための攪拌翼を取りつけた反応装置内で反応を行った。まず、4,4’−ODAを91.8g(0.458mol)をDMF779gに溶解し、40℃に保温した。この溶液中に、PMDAを95.0g(0.436mol)投入して完全に溶解した。この溶液に5.0gのPMDAを66.5gのDMFに溶解した溶液を少量づつ添加して、溶液の粘度が23℃で1500Pになった時点で添加を止めて紡糸用の高分子樹脂溶液(A−2)とした。
【0150】
尚、上記溶液のチキソ指数は1.03であり、固形分濃度は18.5質量%であった。
【0151】
(合成例3)
窒素置換を行った2Lのガラス製セパラブルフラスコ中に、溶液を攪拌するための攪拌翼を取りつけた反応装置内で反応を行った。4,4’−ODA36.7g(0.183mol)と、p−フェニレンジアミン29.8g(0.275mol)とをDMF667gに溶解し、40℃に保温した。この溶液中に、PMDAを95.0g(0.436mol)投入して完全に溶解した。この溶液に5.0gのPMDAを66.5gのDMFに溶解した溶液を少量づつ添加して、溶液の粘度が23℃で4,000Pになった時点で添加を止めて紡糸用の高分子樹脂溶液(A−3)とした。
【0152】
尚、上記溶液のチキソ指数は1.15であり、固形分濃度は18.5質量%であった。
【0153】
(合成例4)
窒素置換を行った2Lのガラス製セパラブルフラスコ中に、溶液を攪拌するための攪拌翼を取りつけた反応装置内で反応を行った。まず、4,4’−ODA91.8g(0.458mol)をDMF1873gに溶解し、40℃に保温した。この溶液中に、ピロメリット酸二無水物(以下、「PMDA」と略す)95.0g(0.436mol)を投入して完全に溶解した。この溶液に5.0gのPMDAを66.5gのDMFに溶解した溶液を少量づつ添加して、溶液の粘度が23℃で3,000Pになった時点で添加を止めて紡糸用の高分子樹脂溶液(A−4)とした。
【0154】
尚、上記溶液のチキソ指数は1.61であり、固形分濃度は9.0質量%であった。
【0155】
(実施例1)
合成例1で得られた高分子樹脂溶液(A−1)を用いて、図1の装置を用いて下記条件
オリフィス :直径0.7mm、円形で孔数は1
高分子樹脂溶液の吐出量 :0.2g/分/孔
オリフィスと気流発生装置との距離:20cm
吹き付ける気体の種類 :空気
気流の交差角度 :95°
気流の温度 :25℃
気流発生装置からの風速 :9m/秒
高分子樹脂溶液の飛行距離 :2m
で紡糸を行い、捕集ネット上で高分子樹脂を5時間捕集することにより、ポリアミド酸からなる繊維状の高分子樹脂を得た。このときの高分子樹脂の固形分に対する溶剤濃度は80質量%であった。
【0156】
上記繊維状物を集めて100℃のオーブンに投入して、1時間かけて420℃まで温度を上げた。420℃の状態で5分間焼成を行い、ポリイミド繊維を得た。ポリイミド繊維の電子顕微鏡写真を図4に示す。得られた繊維状物は、絡み合っているものの互いに独立した繊維が得られた。得られた繊維状物の平均径は4.0μmであり、これら繊維の集合体の嵩比重は7.0kg/mであった。
【0157】
(実施例2)
気流の交差角度を30°としたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、繊維状の高分子樹脂を作製した。尚、この場合、飛行距離が2mになるように紡糸口金の高さをより高くして紡糸を行った。その結果、図4に示す繊維と同様の繊維が得られた。
【0158】
(実施例3)
気流の交差角度を150°としたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、繊維状の高分子樹脂を作製した。その結果、図4に示す繊維と同様の繊維が得られた。
【0159】
(実施例4)
高分子樹脂溶液(A−1)の替わりに、合成例2で得られた高分子樹脂溶液(A−2)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、繊維状の高分子樹脂を作製した。
【0160】
尚、乾燥前の繊維状の高分子樹脂の固形分に対する溶剤濃度は100質量%であった。得られたポリイミド繊維の電子顕微鏡写真を図5に示す。得られた繊維状物は、絡み合っているものの互いに独立した繊維が得られた。得られた繊維状物の平均径は3.4μmであり、これら繊維の集合体の嵩比重は5.0kg/mであった。
【0161】
(実施例5)
高分子樹脂溶液(A−1)の替わりに、合成例3で得られた高分子樹脂溶液(A−3)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、繊維状の高分子樹脂を作製した。
【0162】
尚、乾燥前の繊維状の高分子樹脂の固形分に対する溶剤濃度は75質量%であった。得られたポリイミド繊維の電子顕微鏡写真を図6に示す。得られた繊維状物は、絡み合っているものの互いに独立した繊維が得られた。得られた繊維状物の平均径は2.1μmであり、これら繊維の集合体の嵩比重は4.5kg/mであった。
【0163】
(実施例6)
合成例3で得られた高分子樹脂溶液(A−3)を用いて、図1の装置により下記条件
オリフィス :直径0.7mm、円形で孔数は1
高分子樹脂溶液の吐出量 :0.6g/分/孔
オリフィスと気流発生装置との距離:40cm
吹き付ける気体の種類 :空気
気流の交差角度 :100°
気流の温度 :25℃
気流発生装置からの風速 :12m/秒
高分子樹脂溶液の飛行距離 :2m
で紡糸を行い、捕集ネット上で高分子樹脂を5時間捕集することにより、ポリアミド酸からなる繊維状の高分子樹脂を得た。このときの高分子樹脂の固形分に対する溶剤濃度は90質量%であった。
【0164】
上記繊維状物を集めて100℃のオーブンに投入して、1時間かけて420℃まで温度を上げた。420℃の状態で5分間焼成を行い、ポリイミド繊維を得た。ポリイミド繊維の電子顕微鏡写真を図7に示す。得られた繊維状物は、絡み合っているものの互いに独立した繊維が得られた。得られた繊維状物の平均径は8.8μmであり、これら繊維の集合体の嵩比重は12.0kg/mであった。
【0165】
(比較例1)
合成例4で得られた高分子樹脂溶液(A−4)を用いて、図1の装置により下記条件
オリフィス :直径0.7mm、円形で孔数は1
高分子樹脂溶液の吐出量 :0.2g/分/孔
オリフィスと気流発生装置との距離:0cm(高分子樹脂溶液をオリフィスの真横から噴出させた。)
吹き付ける気体の種類 :空気
気流の交差角度 :0°
気流の温度 :25℃
気流発生装置からの風速 :0.5m/秒
高分子樹脂溶液のオリフィスから捕集ネットまでの距離:2m
で紡糸を行った。紡糸の際の気流は吐出方向と同じ重力方向に吹き付けた。その結果、捕集ネットに捕集されるまでに繊維は切れてしまい、短い繊維の集合体となった。また、溶剤の揮発量が少なく、数分後には紡糸繊維は溶液状態に戻ってしまった。
【0166】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の高分子繊維の製造方は、上述した吐出工程及び成形工程を含む。よって、繊維集合体とした場合の平均繊維径が1μmを超え100μm以下の範囲内となる繊維を、高分子樹脂溶液から簡単且つ安定的に製造することができる。このため、低密度の高分子繊維の集合体や、高分子繊維のフィラメント、更には、高分子繊維を用いた不織布を得ることができる。このような高分子繊維(集合体)は、吸音材料、断熱材料、各種フィルター、電解電池用隔膜、蓄電池用セパレーター、燃料電池成分透析膜、医療用人工器官のライニング材料、細胞培養若しくはバイオリアクター用の固定化用担体として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】本実施の形態に係る高分子繊維の製造方法に用いられる製造装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1における高分子樹脂溶液の吐出方向と上記気流の方向との交差角度を説明するための平面図である。
【図3】本実施の形態に係る高分子繊維の製造方法に用いられる別の製造装置の概略構成を示す模式図である。
【図4】実施例1で得られた高分子繊維の電子顕微鏡写真を示す図面である。
【図5】実施例4で得られた高分子繊維の電子顕微鏡写真を示す図面である。
【図6】実施例5で得られた高分子繊維の電子顕微鏡写真を示す図面である。
【図7】実施例6で得られた高分子繊維の電子顕微鏡写真を示す図面である。
【符号の説明】
【0169】
1 紡糸口金(吐出手段)
2 オリフィス
3 高分子樹脂溶液
3’ 繊維状の高分子樹脂
4 気流発生手段
5 捕集手段
6 高分子樹脂溶液タンク
10 ベルトコンベア(捕集手段)
12 乾燥・焼成炉(加熱手段)
13 巻取り装置
吐出方向
気流方向
θ 交差角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子樹脂を有機溶剤に溶解した高分子樹脂溶液を吐出する吐出工程と、
気体による外力により、吐出した上記高分子樹脂溶液を当該外力の方向に飛行させ、高分子樹脂溶液に含まれる有機溶剤を蒸発させながら高分子樹脂を紡糸して繊維状に成形する成形工程と、
を含むことを特徴とする高分子繊維の製造方法。
【請求項2】
上記吐出工程では、上記高分子樹脂溶液を紡糸口金のオリフィスから吐出し、
上記成形工程における上記気体による外力は、吐出した上記高分子樹脂溶液に、上記吐出方向と交差する方向から気体を吹き付けることにより加えることを特徴とする請求項1に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項3】
上記飛行速度が1m/秒以上400m/秒以下の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項4】
吐出前の上記高分子樹脂溶液のチキソ指数が1.0以上1.5以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項5】
B型粘度計でローターNo.7を用いて、23℃、2回転/分の条件で測定した、吐出前の上記高分子樹脂溶液の粘度が、500P以上10,000P以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項6】
高分子樹脂溶液の吐出方向と上記外力の方向との交差角度が、30°以上150°以下の範囲内であることを特徴とする請求項2〜5の何れか1項に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項7】
上記高分子樹脂が、ポリアミド酸、及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも1つの高分子化合物を含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項8】
上記成形工程後の上記高分子樹脂における有機溶剤の濃度が、固形分に対して20質量%以上200質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項9】
上記成形工程後、繊維状の上記高分子樹脂を加熱する加熱工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項10】
上記加熱工程における上記高分子樹脂を加熱する温度が、50℃以上700℃以下の範囲内であることを特徴とする請求項9に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項11】
上記成形工程により得られる高分子樹脂を捕集する捕集工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか1項に記載の製造方法により作製されたことを特徴とする高分子繊維。
【請求項13】
高分子樹脂を有機溶剤に溶解した高分子樹脂溶液を吐出する吐出手段と、
吐出した上記高分子樹脂溶液に気体を吹き付けることにより、当該気流の方向に上記高分子樹脂溶液を飛行させる気流発生手段と、
を含むことを特徴とする高分子繊維の製造装置。
【請求項14】
上記気流発生手段は、吐出した上記高分子樹脂溶液に、上記吐出方向と交差する方向から気体を吹き付けることを特徴とする請求項13に記載の高分子繊維の製造装置。
【請求項15】
上記高分子樹脂溶液の飛行により得られる繊維状の高分子樹脂を加熱する加熱手段を更に含むことを特徴とする請求項13又は14に記載の高分子繊維の製造装置。
【請求項16】
高分子樹脂溶液の吐出方向と上記気流の方向との交差角度が、30°以上150°以下の範囲内であることを特徴とする請求項13〜15の何れか1項に記載の高分子繊維の製造装置。
【請求項17】
上記高分子樹脂溶液の飛行により得られる繊維状の高分子樹脂を捕集する捕集手段を更に含むことを特徴とする請求項13〜16の何れか1項に記載の高分子繊維の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−97123(P2009−97123A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271140(P2007−271140)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】