高分子膜の寿命予測試験方法、試験装置および試験プログラム
【課題】高分子膜の寿命評価を、短時間で行うことができる高分子膜の寿命予測試験方法、試験装置および試験プログラムを提供する。
【解決手段】固体高分子形燃料電池の単電池に対して、開回路放置試験とクロスオーバー量測定とを交互に繰り返す。クロスオーバー量が所定値に達するまでに、燃料電池から排出されたフッ素の積算量を求める。発電試験において排出されるフッ素の排出速度を求める。前記フッ素の積算量と前記フッ素の排出速度とに基づいて、高分子膜の寿命を算出する。
【解決手段】固体高分子形燃料電池の単電池に対して、開回路放置試験とクロスオーバー量測定とを交互に繰り返す。クロスオーバー量が所定値に達するまでに、燃料電池から排出されたフッ素の積算量を求める。発電試験において排出されるフッ素の排出速度を求める。前記フッ素の積算量と前記フッ素の排出速度とに基づいて、高分子膜の寿命を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、固体高分子形燃料電池における高分子膜の寿命予測試験方法、試験装置および試験プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電解質膜としてプロトン伝導性を有する固体高分子膜を用いた燃料電池は、コンパクトながらも高出力密度が得られる上に、簡略なシステムで運転可能である。かかる燃料電池は、固体高分子形燃料電池と呼ばれ、定置用分散電源、車両用などの電源として注目されている。
【0003】
このような固体高分子形燃料電池の一例を、図8および図9を参照して、以下に説明する。なお、図8および図9は、単電池の構成例を示す断面図である。まず、固体高分子膜1としては、パーフルオロカーボンスルホン酸などが用いられている。この固体高分子膜1の両側には、それぞれ白金などの触媒が担持されることにより、触媒層2,3が形成されている。
【0004】
また、それぞれの触媒層2,3に対面するように、ガス拡散性の多孔質層4,5が配置されている。さらに、多孔質層4,5に対面するように、それぞれの面には、セパレータ6,7が配置されている。このセパレータ6,7には、燃料ガスまたは酸化剤ガスを供給するための凹溝が形成されている。なお、以下の説明では、供給する燃料ガスまたは酸化剤ガスについて、特に区別を要しない場合は、「反応ガス」と称する。
【0005】
燃料極には、上記のセパレータ6を介して燃料ガスが供給される。この燃料ガスに含まれる水素は、燃料極の触媒層2において、電気化学反応によりプロトンと電子に分離される。一方、酸化剤極には、上記のセパレータ7を介して酸化剤ガスが供給される。この酸化剤ガスに含まれる酸素は、燃料極から生成されたプロトンと電子との結合により、水の生成反応として消費される。
【0006】
さらに、単電池では以下の現象が起こっている。すなわち、図9に示すように、燃料極に供給された燃料ガス中の水素は、電解質中を拡散して酸化剤極に到達する。酸化剤ガス中の酸素も、同様に燃料極に拡散する。このように拡散した酸素によって、燃料極では、過酸化水素の生成過程が起こる。一方、酸化剤極においても、水の生成反応の過程で、その反応の一部として、過酸化水素の生成が起こる。
【0007】
ところで、高分子膜は、徐々に劣化することが一般的に知られている。実際、高分子膜が分解した証拠として、燃料極および酸化剤極の排ガスのドレン水から、フッ化物イオンが検出される。この劣化の速度は、高分子膜が置かれた雰囲気、つまり酸素濃度、水蒸気濃度、温度、電位等により異なり、一般に高酸素濃度、低水蒸気分圧、高温、低電位ほど、過酸化水素の生成量が多くなると考えられる。
【0008】
これらの現象から、燃料極で生成される過酸化水素がOHラジカルを生成し、生成したOHラジカルが、最終的に高分子膜を化学的に分解すると考えられる。また、酸化剤極における過酸化水素生成によっても、同様の現象が生じているものと考えられる。このように、ガスが燃料極から酸化剤極へ透過、または反対側へ透過する現象のことは、「クロスオーバー」と呼ばれ、クロスオーバーするガスの透過速度は、「クロスオーバー量」と呼ばれる。
【0009】
例えば、燃料極から酸化剤極への水素の透過速度(以下、水素クロスオーバー量と称する)の経時変化を測定すると、図10に示すような変化を示す。この例では、水素クロスオーバー量は、1を超えると急激に増加し、電池電圧が急激に低下するため、短時間で発電の継続が困難となる。この時点で、高分子膜は、その材料劣化により、水素クロスオーバーを抑制する機能が不十分な状態に至っている。
【0010】
クロスオーバーする反応ガスの量が多くなると、対極の反応ガスとの直接反応により発熱を起こす。この反応熱により、加速度的に直接反応が進み、高分子膜の劣化が急激に進むと考えられる。このように、高分子膜が反応ガスの透過を十分には抑制できない状態に達すると、クロスオーバー量は、時間と共に指数関数的に上昇する傾向にある。
【0011】
このため、高分子膜の急激な劣化が発生すると、電池は短時間のうちに発電不可能な状態に至る。従って、水素クロスオーバー量または酸素クロスオーバー量の上限値をあらかじめ設定し、検出されるクロスオーバー量が上限値に到達した時点を、実質的な高分子膜の寿命と見なすことができる。
【0012】
そこで、高分子膜の製造者は、高分子膜の化学的な耐久性を向上させた膜の開発を行っており、年々その耐久性は向上している。かかる開発において、高分子膜の化学的耐久性を評価するためには、上述のように、ドレン水から検出されるフッ化物イオンが高分子膜の分解を示すことから、膜単体の加速劣化試験を行い、膜から溶解、排出されるフッ素の排出速度を測定している。
【0013】
例えば、非特許文献1に示されているように、既に商品化されている固体高分子膜のフッ素の排出速度を100とした場合に、開発品TypeA,TypeBは、夫々10倍、25倍の耐久性がある。このように、要素試験における加速劣化試験は、膜の耐久性の相対比較を示すものが一般的である。
【0014】
一方、上述の図10に示す水素クロスオーバー量は、電池として組み込まれた膜のガス透過防止機能の評価を表している。高分子膜の耐久性が向上し、また、電池の開発期間の短縮の要求から、上記の例で示した膜単体の加速劣化試験と同じように、電池の構成で膜の加速劣化試験が要求される。つまり、発電試験においても、高分子膜の化学的劣化を加速する条件で試験が行われている。
【0015】
図11は、高分子膜の化学的劣化を加速させる条件で発電試験を実施した試験結果である。加速条件として、実機の電池の状態よりも高温度、低加湿、燃料極に微量空気を混合した条件で発電試験を行ったものである。条件Aは、基準とする試験条件であり、この条件における高分子膜が寿命に至るまでの試験時間は、19,000時間である。
【0016】
試験条件を強くした(高温で行った)条件Bによる試験では、試験時間は15,000時間であった。さらに、試験条件を強くした条件Cによる試験では、5,000時間であった。このように、試験条件を強くすることで、膜の耐久性試験時間が短縮された。この試験方法では、条件Aによる高分子膜の寿命を求めること、および試験条件を強くした条件Bおよび条件Cの条件Aに対する加速係数を求めることができる。
【0017】
また、高分子膜の耐久性を評価する方法として、開回路放置試験が実施されている。非特許文献2では、開回路放置試験に伴う水素クロスオーバー量の変化が示されている。ここでは、水素クロスオーバー量の増加速度を基に相対的に膜の耐久性を評価している。このような開回路放置試験による高分子膜の耐久性評価は、上記例で示した膜単体の試験と同様に、相対比較によって膜の耐久性の優劣、あるいは耐久性の比率を求めるものである。
【0018】
【非特許文献1】エルゼヴィア(ELSEVIER)発行 サイエンス ダイレクト ジャーナル(SCIENCE DIRECT JOURNAL) 「Journal of Power Sources」 第131号 2004年 p.41−48 図4(p.44)
【非特許文献2】第12回 燃料電池シンポジウム講演予稿集 72頁 図5
【非特許文献3】第12回 燃料電池シンポジウム講演予稿集 92頁 図8
【特許文献1】特開2005−174922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、図11に示すように、高分子膜の寿命を評価するための発電試験では、試験条件を強くして時間の短縮を図った条件Cにおいてさえも、試験時間が5,000時間かかっており、必要となる試験時間が長すぎる。これに対処するため、さらに試験条件を強くして、より高い温度で試験を行うことが考えられる。しかし、条件Cの温度は100℃近傍であり、これ以上の温度にすると、高分子膜中の水分が蒸気となってしまう。このため、条件C以上の温度で試験を行おうとしても、膜抵抗が増加し、発電ができなくなってしまう。
【0020】
また、加湿温度も室温近傍であり、これよりも低い温度で加湿を行うためには、加湿器を冷却するとともに、温度制御をする必要が発生する。加湿温度と膜の劣化速度の関係から、条件Cよりもさらに10℃程度下げても、劣化の加速度は1割にもならない。従って、加湿温度を下げても、時間短縮効果は少ない。
【0021】
以上のことから、発電試験によって膜を加速劣化させる試験方法では、現在の仕様の膜であっても、試験時間を5,000時間よりも大幅に短縮することは困難である。しかも、上記例で説明したように、最近の開発品は、現在の仕様よりも、さらに数倍から10倍以上の耐久性があることが予想される。従って、今後開発される膜の耐久性を評価するのに、計算上は数万時間かかってしまうという問題がある。
【0022】
一方、膜の劣化速度の速い開回路放置試験では、膜の耐久性が相対値で得られる。つまり、開回路放置試験は、上記のような発電試験のように高分子膜の寿命を直接評価するのではない。このため、例えば、基準となる高分子膜を用いて、開回路放置試験による試験時間と発電試験による高分子膜の寿命を求め、これを基準に、他の仕様の膜の寿命を予測することが可能である。
【0023】
ただし、基準とする高分子膜の耐久性が、評価しようとしている新しい膜の耐久性よりも極めて短い場合には、非特許文献1に示されているように、耐久性の比率が10倍、20倍というように大きな値となる。このような場合、膜の寿命試験のばらつきや開回路放置試験によって求めた比率のばらつきが、直接新しい膜の寿命の予測値に影響し、凡そこの比率に比例して大きくなる。
【0024】
従って、基準となる膜と新しい膜の耐久性の差はあまり大きくない方が好ましい。少なくとも10倍以下になるように基準の膜を選定することが望ましい。このことは、結果として高分子膜の耐久性が向上すればするほど、基準となる膜の選定に当たって、寿命の長いものを選定せざるを得ない。よって、結局は、基準となる膜の耐久性の評価に数万時間以上掛かってしまうという問題が生じる。
【0025】
以上の通り、加速劣化試験においても、開回路放置試験においても、発電試験による膜の耐久性試験を行う必要がある。そして、これらの耐久性試験の実施に、数万時間以上を要する場合が生じうる。つまり、従来技術では、高分子膜の寿命を評価するためには、非常に長い時間を必要とするという問題がある。
【0026】
一方、高分子膜が化学的に劣化すると、高分子膜を構成するフッ素が排ガス等と一緒に排出されることは、上述の通りである。そして、非特許文献3に記載されているように、発電試験を実施した電池の高分子膜の状態を観察すると、高分子膜の厚さが初期に比べて減少している。
【0027】
これらの知見から、高分子膜のガス透過防止機能の指標であるクロスオーバー量は、高分子膜の化学的な劣化状態と関連付けられることが予想される。特に、高分子膜の劣化状態を定量的に把握するために、試験後の膜の状態ではなく、試験中に膜から分解して排出されたフッ素の積算量によって、定量的に把握できることが期待される。
【0028】
例えば、特許文献1においては、実際に、上記のように電池から排出されたフッ素の積算量と、膜を構成しているフッ素の量とを比較することによって、膜の余寿命を求めることが提案されている。かかる従来技術においては、膜の寿命は、膜に含まれる全てのフッ素が排出された時点ではなく、約30%のフッ素が排出された時点としている。
【0029】
ところが、この30%の数値は、実際に発電試験を行い、電池電圧が急激に低下する時点までに排出されたフッ素の測定値である。従って、特許文献1の技術によっても、膜寿命に至るまでに排出されるフッ素の積算量を求めるため、結局、長時間の発電試験を行う必要がある。
【0030】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、高分子膜の寿命評価を、短時間で行うことができる寿命予測試験方法、試験装置および試験プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記のような目的を達するため、本発明の燃料電池の高分子膜の寿命予測試験方法は、開回路放置試験とクロスオーバー量測定とを交互に繰り返す工程と、クロスオーバー量が所定値に達するまでに、燃料電池から排出されたフッ素の積算量を求める工程と、発電試験において排出されるフッ素の排出速度を求める工程と、前記フッ素の積算量と排出速度とに基づいて、高分子膜の寿命を算出する工程と、を含むことを特徴とする。
【0032】
以上のような本発明では、開回路放置試験により高分子膜の寿命までに排出されるフッ素量を短時間で求めることができる。従って、高分子膜の寿命予測に要する時間が大幅に短縮され、電池の開発期間が非常に短くなる。
【発明の効果】
【0033】
以上のような本発明によれば、高分子膜の寿命評価を、短時間で行うことができる高分子膜の寿命予測試験方法、試験装置および試験プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
[本発明の概要]
本発明は、膜の寿命に至るまでに排出されるフッ素の積算量を寿命の指標にする点で、特許文献1の発明と共通している。しかし、本発明では、膜の寿命の定義をクロスオーバー量の上限とし、特許文献1では電池電圧で規定している。これにより、本発明では、膜の寿命に至るまでに排出されるフッ素の積算量を、より膜の化学的、物理的状態を反映した特性で規定しているのである。
【0035】
より具体的には、開回路放置試験により、以下の式(1)に基づいて、フッ素の積算値を求める。
A = ∫Rdt t = 0〜T … 式(1)
T:高分子膜の寿命予測値
A:開回路放置試験により求められる高分子膜が寿命に到るまでに当該燃料電池から排出されるフッ素の積算値
R:実運転条件におけるフッ素の排出速度
【0036】
従来、開回路放置試験は高分子膜の耐久性を相対的に評価する手法として用いられてきた。図12は、このような開回路放置試験において、膜寿命に至るまでに排出されるフッ素の積算量と、発電試験における同様のフッ素量を比較したものである。
【0037】
この図12から、開回路放置試験によって求めた膜寿命に至るまでに排出されるフッ素量は、発電試験における膜寿命までに排出されるフッ素量と同程度であることがわかる。従って、発電試験によって膜寿命に至るまでに排出されるフッ素量を求める代わりに、開回路放置試験によってフッ素量を求め、それに基づいて膜の寿命を予測することが可能となる。本発明はこのような新たな知見に基づいてなされたものである。
【0038】
[実施形態の構成]
まず、本実施形態の高分子膜の寿命予測試験装置の構成を、図1を参照して説明する。なお、本発明は、かかる試験装置としても、また、後述する手順で試験を行う試験方法としても把握できるとともに、かかる手順でコンピュータを動作させるコンピュータプログラムおよびこれを記録した記録媒体として把握することもできる。
【0039】
[全体構成]
本実施形態は、試験装置10、水素検出部20、フッ素検出部30、出力部40、入力部50、制御装置60を有している。試験装置10は、コンピュータをプログラムで制御することにより実現されるものであり、演算処理部100、測定値記憶部11、設定記憶部12を有している。水素検出部20は、燃料極から酸化剤極への水素の透過量を検出する手段である。例えば、ガスクロマトグラフ等により水素濃度を検出する装置を用いることができる。フッ素検出部30は、フッ素の排出量を検出する手段である。例えば、イオンクロマトグラフ等により、排ガスの凝縮水中のフッ素濃度を測定する装置を用いることができる。
【0040】
出力部40は、試験装置10による処理結果等を、オペレータに対して表示・出力するディスプレイ、プリンタ等の出力装置である。入力部50は、ユーザの操作に応じた信号を、コンピュータに入力するマウスやキーボード等の入力装置である。制御装置60は、燃料電池の運転を制御する装置である。試験の対象となる燃料電池は、上記の従来技術で示したものと同様である。
【0041】
[試験装置の構成]
試験装置10を構成する演算処理部100は、クロスオーバー量算出部101、フッ素量算出部102、排出速度算出部103、膜寿命算出部104として機能する。クロスオーバー量算出部101は、水素検出部20による検出値に基づいて、水素クロスオーバー量を算出する手段である。フッ素量算出部102は、フッ素検出部30による検出値に基づいて、排出されたフッ素の積算値を算出する手段である。
【0042】
排出速度算出部103は、所定時間におけるフッ素排出量の積算値に基づいて、フッ素の排出速度を算出する手段である。膜寿命算出部104は、フッ素の積算量とフッ素の排出速度とに基づいて、上記の式(1)により、膜寿命を算出する手段である。
【0043】
測定値記憶部11は、上記のように算出された水素クロスオーバー量、フッ素排出量の積算値、フッ素排出速度等を記憶する手段である。測定値記憶部11は、演算処理部100における演算条件(式(1)等を含む)、試験時に制御装置60を作動させるための試験条件等を記憶する手段である。なお、これらの試験条件および演算条件は、次の作用において詳述する。
【0044】
[実施形態の作用]
以上のような装置による試験方法について、図2〜7を参照して説明する。なお、図2は、本試験の全体の流れを示すフローチャートである。まず、評価対象である高分子膜を用いて、従来技術で説明したような構成で、単電池を作製する。そして、作製した単電池(サンプル)を用いて、制御装置60により発電試験と開回路放置試験を行う。
【0045】
なお、以下では、開回路放置試験を先に説明するが、実際の試験は、それぞれの試験に対応して作成したサンプルを用いて行うので、どちらを先に行うかは限定されない。同一のサンプルで両試験を行う場合には、発電試験を行い、その後、開回路放置試験を行うことが推奨されるが、本発明はこの手順には限定されない。つまり、請求項に記載の開回路放置試験と発電試験は、その順序を限定するものではなく、どちらが先に行われてもよいし、並行的に行われてもよく、いずれも本発明の範囲である。
【0046】
[開回路放置試験]
制御装置60により開回路放置試験を開始する(ステップ201)。試験時間は、50時間以下とする。この開回路放置試験の間に、排出される排ガスの凝縮水を回収する。次に、酸化剤極への空気供給を停止し、開回路放置試験における空気流量と同流量の不活性ガス(例えば、窒素)を供給することにより、一旦試験を停止する(ステップ202)。そして、水素検出部20の検出値に基づいて、クロスオーバー量算出部101が、燃料極から酸化剤極への水素クロスオーバー量を求める(ステップ203)。
【0047】
他方、フッ素検出部30により、凝縮水中のフッ化物イオン濃度と回収した凝縮水の重量とを測定し、これに基づいて、フッ素量算出部102がフッ素量を算出する(ステップ204)。フッ化物イオン濃度は、例えば、イオンクロマトグラフで定量する。上記の反応ガス供給による開回路放置試験と、不活性ガス供給による運転停止と水素クロスオーバー量測定、凝縮水中のフッ素量測定を繰り返し実施する(ステップ201〜204)。
【0048】
そして、水素クロスオーバー量があらかじめ定めた上限値(あらかじめ設定された試験条件に含まれる)に達した時点で(ステップ205)、開回路放置試験を終了する(ステップ206)。積算されたフッ素の排出量は、測定値記憶部11に記憶される。
【0049】
以下に、開回路放置試験の試験結果の一例について説明する。図3は、試験時間とフッ素の排出速度の関係を示している。フッ素の排出速度は、サンプル1の一番初めの値を基準1として表している。図3に基づいて、フッ素の積算量の時間変化を図4に示す。図3では、サンプル2のフッ素排出速度が時間とともに変化しており、排出速度を時間の関数として近似するのは容易ではない。しかし、図4に示すように、積算値を縦軸にとれば、サンプル2の積算量は時間に対してほぼ直線状に増加しており、この方法によればフッ素の積算量の時間関数を容易に見積もることができる。
【0050】
次に、図5は、これら2サンプルの水素クロスオーバー量の変化を示している。前述したように、水素クロスオーバー量の上限値は、電池の設計により異なる。ここでは、上限値を1として表している。水素クロスオーバー量が上限値に到達するまでに排出されたフッ素の積算値は、図4および図5から、サンプル1では約12.5、サンプル2では約9.2である。図3では、フッ素の排出速度が2倍程度異なるが、積算値ではそのばらつきは3割に減少している。これら積算値をAとする。ここではAは、上記の範囲の幅を持つ。
【0051】
[発電試験]
次に、発電試験におけるフッ素の排出速度の測定手順を説明する。サンプルとしては、上記の回路放置試験と同一仕様の高分子膜を用いた電池を使用する。発電試験条件(あらかじめ設定された試験条件に含まれる)として考慮するのは、高分子膜の寿命に影響する要因である。例えば、温度、湿度、反応ガス流量、反応ガス組成等である。
【0052】
まず、これらの試験条件に関して、運転初期の電池内の分布も含め代表的な値を選択する。ここでは、説明のために、図3の温度、湿度条件と同一とする。また、発電試験に使用される電池の構成は、実機と同じ仕様のものが望ましいが、説明のためにここでは開回路放置試験と同様の小型電池で行っている。
【0053】
発電試験におけるフッ素の排出速度を求める手順は、概ね図1の開回路放置試験と同じ手順で行えばよい。すなわち、開回路放置試験の代わりに、上記で定めた試験条件で発電を開始した後(ステップ207)、一旦発電を停止して(ステップ208)、水素クロスオーバー量の測定(ステップ209)、排ガスの凝縮水中のフッ素量の測定を行う(ステップ210)。
【0054】
上記繰り返し試験の時間は100時間とし、500〜1000時間まで行う(ステップ211,212)。上記の測定結果に基づいて、排出速度算出部103によって各100時間毎のフッ素の排出速度が算出され(ステップ213)、測定値記憶部11に記憶される。排出速度の算出は、ステップ210で行ってもよい。
【0055】
フッ素の排出速度がほぼ一定と見なせる場合は、その一定値を排出速度とする。一定値とは見なせない場合には、さらに試験を行い、排出速度を見極めることが必要となる。フッ素の排出速度のばらつきが大きくその傾向を見極めることが容易ではない場合、例えば、図3のサンプル2で見られるように、排出速度の時間に対する変化の傾向が不明瞭な場合には、排出速度を時間の関数として近似式を立てるよりも、図4に示したように、試験時間に対するフッ素の積算排出量の近時式を求める方が、信頼性のある外挿曲線を得ることができる。
【0056】
本試験の場合についても、積算の排出量を試験時間についてプロットすると、図6となる。試験時間2000時間以下と2000時間以降で、排出量の増加速度が異なるが、2000時間以降は、ほぼ直線的に増加しており、精度の良い外挿直線が得られている。
【0057】
[膜寿命算出]
上記のように求めたフッ素の積算量Aと、フッ素の排出速度Rを用いて、膜寿命算出部104が、上記の式(1)により、高分子膜の予測寿命を計算することができる(ステップ214)。計算結果は、出力部40に出力され、オペレータが確認できる(ステップ215)。なお、本実施形態では、Rの時間関数を求めるのではなく、積算量の経時変化を求めた。これらを用いて発電試験によるフッ素の積算値がAに到達するまでの予測時間Tは、図6から、約14,000から19,000時間の範囲内と見積もられる。
【0058】
発電試験の結果を図7に示す。図7から、水素クロスオーバー量が上限値に到達した時間は19,000時間であり、19,000時間までに排出したフッ素量は11.4であった。求めた予想値Tは、ばらつきの範囲内で実際の発電試験の結果と一致しており、本寿命予測方法が適用できることがわかる。
【0059】
[実施形態の効果]
従来技術では、高分子膜の寿命を予測するためには、基準となる膜を用いて加速試験条件等により高分子膜の寿命を測定する必要があり、その試験時間に数千、数万時間の長時間を要していた。本実施形態によれば、開回路放置試験により高分子膜の寿命に至るまでに排出されるフッ素量を、数100時間の短時間で求めることができる。
【0060】
また、発電試験におけるフッ素の排出速度についても、発電初期の条件、および燃料電池システムの各運転時間における電流、電圧、ガス流量を模擬した条件でフッ素の排出速度を求めることにより短期間に求めることができる。従って、高分子膜の寿命予測に要する時間が大幅に短縮され、電池の開発期間を短くすることが可能となる。
【0061】
[他の実施形態]
本発明は、上記のような実施形態には限定されない。例えば、製作する単電池は、製品と同じサイズであっても、それよりも小さい小型のサイズであってもよい。ただし、通常は、小型の単電池で実施することにより、試験設備のコスト低減が可能となる。
【0062】
また、上記のような開回路放置試験として、燃料極に水素、水素を含む混合ガスのいずれかを供給してもよく、酸化剤極に空気、酸素、酸素を含む混合ガスのいずれかを供給してもよい。クロスオーバー量やフッ素量の検出及び算出方法については、現在又は将来において利用可能なあらゆるものが適用可能である。
【0063】
さらに、試験の対象となる電池の材質や構成についても、上記の例には限定されない。具体的な試験時間、温度、湿度等の試験条件についても、対象となる電池に応じて適宜変更可能であり、上記例には限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の高分子膜の寿命予測試験装置の一例を示す機能ブロック図。
【図2】図1の実施形態における試験の手順を示すフローチャート。
【図3】図1の実施形態における開回路放置試験におけるフッ素排出速度を示す説明図。
【図4】図1の実施形態における開回路放置試験におけるフッ素の積算排出量を示す説明図。
【図5】図1の実施形態における開回路放置試験における水素クロスオーバー量を示す説明図。
【図6】図1の実施形態における発電試験におけるフッ素の積算排出量の経時変化を示す説明図。
【図7】図1の実施形態における発電試験による膜の耐久性試験結果を示す説明図。
【図8】一般的な固体高分子形燃料電池における単電池の構成を示す概略図。
【図9】図8の固体高分子形燃料電池における電極の過酸化水素生成反応を示す概略図。
【図10】従来の固体高分子形燃料電池における水素クロスオーバー量の時間変化を示す説明図。
【図11】従来の固体高分子形燃料電池における異なる条件での水素クロスオーバー量の経時変化を示す説明図。
【図12】従来の固体高分子形燃料電池におけるフッ素の積算排出量の比較を示す説明図。
【符号の説明】
【0065】
1…固体高分子膜
2,3…触媒層
4,5…多孔質層
6,7…セパレータ
10…試験装置
11…測定値記憶部
20…水素検出部
30…フッ素検出部
40…出力部
50…入力部
60…制御装置
100…演算処理部
101…クロスオーバー量算出部
102…フッ素量算出部
103…排出速度算出部
104…膜寿命算出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、固体高分子形燃料電池における高分子膜の寿命予測試験方法、試験装置および試験プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電解質膜としてプロトン伝導性を有する固体高分子膜を用いた燃料電池は、コンパクトながらも高出力密度が得られる上に、簡略なシステムで運転可能である。かかる燃料電池は、固体高分子形燃料電池と呼ばれ、定置用分散電源、車両用などの電源として注目されている。
【0003】
このような固体高分子形燃料電池の一例を、図8および図9を参照して、以下に説明する。なお、図8および図9は、単電池の構成例を示す断面図である。まず、固体高分子膜1としては、パーフルオロカーボンスルホン酸などが用いられている。この固体高分子膜1の両側には、それぞれ白金などの触媒が担持されることにより、触媒層2,3が形成されている。
【0004】
また、それぞれの触媒層2,3に対面するように、ガス拡散性の多孔質層4,5が配置されている。さらに、多孔質層4,5に対面するように、それぞれの面には、セパレータ6,7が配置されている。このセパレータ6,7には、燃料ガスまたは酸化剤ガスを供給するための凹溝が形成されている。なお、以下の説明では、供給する燃料ガスまたは酸化剤ガスについて、特に区別を要しない場合は、「反応ガス」と称する。
【0005】
燃料極には、上記のセパレータ6を介して燃料ガスが供給される。この燃料ガスに含まれる水素は、燃料極の触媒層2において、電気化学反応によりプロトンと電子に分離される。一方、酸化剤極には、上記のセパレータ7を介して酸化剤ガスが供給される。この酸化剤ガスに含まれる酸素は、燃料極から生成されたプロトンと電子との結合により、水の生成反応として消費される。
【0006】
さらに、単電池では以下の現象が起こっている。すなわち、図9に示すように、燃料極に供給された燃料ガス中の水素は、電解質中を拡散して酸化剤極に到達する。酸化剤ガス中の酸素も、同様に燃料極に拡散する。このように拡散した酸素によって、燃料極では、過酸化水素の生成過程が起こる。一方、酸化剤極においても、水の生成反応の過程で、その反応の一部として、過酸化水素の生成が起こる。
【0007】
ところで、高分子膜は、徐々に劣化することが一般的に知られている。実際、高分子膜が分解した証拠として、燃料極および酸化剤極の排ガスのドレン水から、フッ化物イオンが検出される。この劣化の速度は、高分子膜が置かれた雰囲気、つまり酸素濃度、水蒸気濃度、温度、電位等により異なり、一般に高酸素濃度、低水蒸気分圧、高温、低電位ほど、過酸化水素の生成量が多くなると考えられる。
【0008】
これらの現象から、燃料極で生成される過酸化水素がOHラジカルを生成し、生成したOHラジカルが、最終的に高分子膜を化学的に分解すると考えられる。また、酸化剤極における過酸化水素生成によっても、同様の現象が生じているものと考えられる。このように、ガスが燃料極から酸化剤極へ透過、または反対側へ透過する現象のことは、「クロスオーバー」と呼ばれ、クロスオーバーするガスの透過速度は、「クロスオーバー量」と呼ばれる。
【0009】
例えば、燃料極から酸化剤極への水素の透過速度(以下、水素クロスオーバー量と称する)の経時変化を測定すると、図10に示すような変化を示す。この例では、水素クロスオーバー量は、1を超えると急激に増加し、電池電圧が急激に低下するため、短時間で発電の継続が困難となる。この時点で、高分子膜は、その材料劣化により、水素クロスオーバーを抑制する機能が不十分な状態に至っている。
【0010】
クロスオーバーする反応ガスの量が多くなると、対極の反応ガスとの直接反応により発熱を起こす。この反応熱により、加速度的に直接反応が進み、高分子膜の劣化が急激に進むと考えられる。このように、高分子膜が反応ガスの透過を十分には抑制できない状態に達すると、クロスオーバー量は、時間と共に指数関数的に上昇する傾向にある。
【0011】
このため、高分子膜の急激な劣化が発生すると、電池は短時間のうちに発電不可能な状態に至る。従って、水素クロスオーバー量または酸素クロスオーバー量の上限値をあらかじめ設定し、検出されるクロスオーバー量が上限値に到達した時点を、実質的な高分子膜の寿命と見なすことができる。
【0012】
そこで、高分子膜の製造者は、高分子膜の化学的な耐久性を向上させた膜の開発を行っており、年々その耐久性は向上している。かかる開発において、高分子膜の化学的耐久性を評価するためには、上述のように、ドレン水から検出されるフッ化物イオンが高分子膜の分解を示すことから、膜単体の加速劣化試験を行い、膜から溶解、排出されるフッ素の排出速度を測定している。
【0013】
例えば、非特許文献1に示されているように、既に商品化されている固体高分子膜のフッ素の排出速度を100とした場合に、開発品TypeA,TypeBは、夫々10倍、25倍の耐久性がある。このように、要素試験における加速劣化試験は、膜の耐久性の相対比較を示すものが一般的である。
【0014】
一方、上述の図10に示す水素クロスオーバー量は、電池として組み込まれた膜のガス透過防止機能の評価を表している。高分子膜の耐久性が向上し、また、電池の開発期間の短縮の要求から、上記の例で示した膜単体の加速劣化試験と同じように、電池の構成で膜の加速劣化試験が要求される。つまり、発電試験においても、高分子膜の化学的劣化を加速する条件で試験が行われている。
【0015】
図11は、高分子膜の化学的劣化を加速させる条件で発電試験を実施した試験結果である。加速条件として、実機の電池の状態よりも高温度、低加湿、燃料極に微量空気を混合した条件で発電試験を行ったものである。条件Aは、基準とする試験条件であり、この条件における高分子膜が寿命に至るまでの試験時間は、19,000時間である。
【0016】
試験条件を強くした(高温で行った)条件Bによる試験では、試験時間は15,000時間であった。さらに、試験条件を強くした条件Cによる試験では、5,000時間であった。このように、試験条件を強くすることで、膜の耐久性試験時間が短縮された。この試験方法では、条件Aによる高分子膜の寿命を求めること、および試験条件を強くした条件Bおよび条件Cの条件Aに対する加速係数を求めることができる。
【0017】
また、高分子膜の耐久性を評価する方法として、開回路放置試験が実施されている。非特許文献2では、開回路放置試験に伴う水素クロスオーバー量の変化が示されている。ここでは、水素クロスオーバー量の増加速度を基に相対的に膜の耐久性を評価している。このような開回路放置試験による高分子膜の耐久性評価は、上記例で示した膜単体の試験と同様に、相対比較によって膜の耐久性の優劣、あるいは耐久性の比率を求めるものである。
【0018】
【非特許文献1】エルゼヴィア(ELSEVIER)発行 サイエンス ダイレクト ジャーナル(SCIENCE DIRECT JOURNAL) 「Journal of Power Sources」 第131号 2004年 p.41−48 図4(p.44)
【非特許文献2】第12回 燃料電池シンポジウム講演予稿集 72頁 図5
【非特許文献3】第12回 燃料電池シンポジウム講演予稿集 92頁 図8
【特許文献1】特開2005−174922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、図11に示すように、高分子膜の寿命を評価するための発電試験では、試験条件を強くして時間の短縮を図った条件Cにおいてさえも、試験時間が5,000時間かかっており、必要となる試験時間が長すぎる。これに対処するため、さらに試験条件を強くして、より高い温度で試験を行うことが考えられる。しかし、条件Cの温度は100℃近傍であり、これ以上の温度にすると、高分子膜中の水分が蒸気となってしまう。このため、条件C以上の温度で試験を行おうとしても、膜抵抗が増加し、発電ができなくなってしまう。
【0020】
また、加湿温度も室温近傍であり、これよりも低い温度で加湿を行うためには、加湿器を冷却するとともに、温度制御をする必要が発生する。加湿温度と膜の劣化速度の関係から、条件Cよりもさらに10℃程度下げても、劣化の加速度は1割にもならない。従って、加湿温度を下げても、時間短縮効果は少ない。
【0021】
以上のことから、発電試験によって膜を加速劣化させる試験方法では、現在の仕様の膜であっても、試験時間を5,000時間よりも大幅に短縮することは困難である。しかも、上記例で説明したように、最近の開発品は、現在の仕様よりも、さらに数倍から10倍以上の耐久性があることが予想される。従って、今後開発される膜の耐久性を評価するのに、計算上は数万時間かかってしまうという問題がある。
【0022】
一方、膜の劣化速度の速い開回路放置試験では、膜の耐久性が相対値で得られる。つまり、開回路放置試験は、上記のような発電試験のように高分子膜の寿命を直接評価するのではない。このため、例えば、基準となる高分子膜を用いて、開回路放置試験による試験時間と発電試験による高分子膜の寿命を求め、これを基準に、他の仕様の膜の寿命を予測することが可能である。
【0023】
ただし、基準とする高分子膜の耐久性が、評価しようとしている新しい膜の耐久性よりも極めて短い場合には、非特許文献1に示されているように、耐久性の比率が10倍、20倍というように大きな値となる。このような場合、膜の寿命試験のばらつきや開回路放置試験によって求めた比率のばらつきが、直接新しい膜の寿命の予測値に影響し、凡そこの比率に比例して大きくなる。
【0024】
従って、基準となる膜と新しい膜の耐久性の差はあまり大きくない方が好ましい。少なくとも10倍以下になるように基準の膜を選定することが望ましい。このことは、結果として高分子膜の耐久性が向上すればするほど、基準となる膜の選定に当たって、寿命の長いものを選定せざるを得ない。よって、結局は、基準となる膜の耐久性の評価に数万時間以上掛かってしまうという問題が生じる。
【0025】
以上の通り、加速劣化試験においても、開回路放置試験においても、発電試験による膜の耐久性試験を行う必要がある。そして、これらの耐久性試験の実施に、数万時間以上を要する場合が生じうる。つまり、従来技術では、高分子膜の寿命を評価するためには、非常に長い時間を必要とするという問題がある。
【0026】
一方、高分子膜が化学的に劣化すると、高分子膜を構成するフッ素が排ガス等と一緒に排出されることは、上述の通りである。そして、非特許文献3に記載されているように、発電試験を実施した電池の高分子膜の状態を観察すると、高分子膜の厚さが初期に比べて減少している。
【0027】
これらの知見から、高分子膜のガス透過防止機能の指標であるクロスオーバー量は、高分子膜の化学的な劣化状態と関連付けられることが予想される。特に、高分子膜の劣化状態を定量的に把握するために、試験後の膜の状態ではなく、試験中に膜から分解して排出されたフッ素の積算量によって、定量的に把握できることが期待される。
【0028】
例えば、特許文献1においては、実際に、上記のように電池から排出されたフッ素の積算量と、膜を構成しているフッ素の量とを比較することによって、膜の余寿命を求めることが提案されている。かかる従来技術においては、膜の寿命は、膜に含まれる全てのフッ素が排出された時点ではなく、約30%のフッ素が排出された時点としている。
【0029】
ところが、この30%の数値は、実際に発電試験を行い、電池電圧が急激に低下する時点までに排出されたフッ素の測定値である。従って、特許文献1の技術によっても、膜寿命に至るまでに排出されるフッ素の積算量を求めるため、結局、長時間の発電試験を行う必要がある。
【0030】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、高分子膜の寿命評価を、短時間で行うことができる寿命予測試験方法、試験装置および試験プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記のような目的を達するため、本発明の燃料電池の高分子膜の寿命予測試験方法は、開回路放置試験とクロスオーバー量測定とを交互に繰り返す工程と、クロスオーバー量が所定値に達するまでに、燃料電池から排出されたフッ素の積算量を求める工程と、発電試験において排出されるフッ素の排出速度を求める工程と、前記フッ素の積算量と排出速度とに基づいて、高分子膜の寿命を算出する工程と、を含むことを特徴とする。
【0032】
以上のような本発明では、開回路放置試験により高分子膜の寿命までに排出されるフッ素量を短時間で求めることができる。従って、高分子膜の寿命予測に要する時間が大幅に短縮され、電池の開発期間が非常に短くなる。
【発明の効果】
【0033】
以上のような本発明によれば、高分子膜の寿命評価を、短時間で行うことができる高分子膜の寿命予測試験方法、試験装置および試験プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
[本発明の概要]
本発明は、膜の寿命に至るまでに排出されるフッ素の積算量を寿命の指標にする点で、特許文献1の発明と共通している。しかし、本発明では、膜の寿命の定義をクロスオーバー量の上限とし、特許文献1では電池電圧で規定している。これにより、本発明では、膜の寿命に至るまでに排出されるフッ素の積算量を、より膜の化学的、物理的状態を反映した特性で規定しているのである。
【0035】
より具体的には、開回路放置試験により、以下の式(1)に基づいて、フッ素の積算値を求める。
A = ∫Rdt t = 0〜T … 式(1)
T:高分子膜の寿命予測値
A:開回路放置試験により求められる高分子膜が寿命に到るまでに当該燃料電池から排出されるフッ素の積算値
R:実運転条件におけるフッ素の排出速度
【0036】
従来、開回路放置試験は高分子膜の耐久性を相対的に評価する手法として用いられてきた。図12は、このような開回路放置試験において、膜寿命に至るまでに排出されるフッ素の積算量と、発電試験における同様のフッ素量を比較したものである。
【0037】
この図12から、開回路放置試験によって求めた膜寿命に至るまでに排出されるフッ素量は、発電試験における膜寿命までに排出されるフッ素量と同程度であることがわかる。従って、発電試験によって膜寿命に至るまでに排出されるフッ素量を求める代わりに、開回路放置試験によってフッ素量を求め、それに基づいて膜の寿命を予測することが可能となる。本発明はこのような新たな知見に基づいてなされたものである。
【0038】
[実施形態の構成]
まず、本実施形態の高分子膜の寿命予測試験装置の構成を、図1を参照して説明する。なお、本発明は、かかる試験装置としても、また、後述する手順で試験を行う試験方法としても把握できるとともに、かかる手順でコンピュータを動作させるコンピュータプログラムおよびこれを記録した記録媒体として把握することもできる。
【0039】
[全体構成]
本実施形態は、試験装置10、水素検出部20、フッ素検出部30、出力部40、入力部50、制御装置60を有している。試験装置10は、コンピュータをプログラムで制御することにより実現されるものであり、演算処理部100、測定値記憶部11、設定記憶部12を有している。水素検出部20は、燃料極から酸化剤極への水素の透過量を検出する手段である。例えば、ガスクロマトグラフ等により水素濃度を検出する装置を用いることができる。フッ素検出部30は、フッ素の排出量を検出する手段である。例えば、イオンクロマトグラフ等により、排ガスの凝縮水中のフッ素濃度を測定する装置を用いることができる。
【0040】
出力部40は、試験装置10による処理結果等を、オペレータに対して表示・出力するディスプレイ、プリンタ等の出力装置である。入力部50は、ユーザの操作に応じた信号を、コンピュータに入力するマウスやキーボード等の入力装置である。制御装置60は、燃料電池の運転を制御する装置である。試験の対象となる燃料電池は、上記の従来技術で示したものと同様である。
【0041】
[試験装置の構成]
試験装置10を構成する演算処理部100は、クロスオーバー量算出部101、フッ素量算出部102、排出速度算出部103、膜寿命算出部104として機能する。クロスオーバー量算出部101は、水素検出部20による検出値に基づいて、水素クロスオーバー量を算出する手段である。フッ素量算出部102は、フッ素検出部30による検出値に基づいて、排出されたフッ素の積算値を算出する手段である。
【0042】
排出速度算出部103は、所定時間におけるフッ素排出量の積算値に基づいて、フッ素の排出速度を算出する手段である。膜寿命算出部104は、フッ素の積算量とフッ素の排出速度とに基づいて、上記の式(1)により、膜寿命を算出する手段である。
【0043】
測定値記憶部11は、上記のように算出された水素クロスオーバー量、フッ素排出量の積算値、フッ素排出速度等を記憶する手段である。測定値記憶部11は、演算処理部100における演算条件(式(1)等を含む)、試験時に制御装置60を作動させるための試験条件等を記憶する手段である。なお、これらの試験条件および演算条件は、次の作用において詳述する。
【0044】
[実施形態の作用]
以上のような装置による試験方法について、図2〜7を参照して説明する。なお、図2は、本試験の全体の流れを示すフローチャートである。まず、評価対象である高分子膜を用いて、従来技術で説明したような構成で、単電池を作製する。そして、作製した単電池(サンプル)を用いて、制御装置60により発電試験と開回路放置試験を行う。
【0045】
なお、以下では、開回路放置試験を先に説明するが、実際の試験は、それぞれの試験に対応して作成したサンプルを用いて行うので、どちらを先に行うかは限定されない。同一のサンプルで両試験を行う場合には、発電試験を行い、その後、開回路放置試験を行うことが推奨されるが、本発明はこの手順には限定されない。つまり、請求項に記載の開回路放置試験と発電試験は、その順序を限定するものではなく、どちらが先に行われてもよいし、並行的に行われてもよく、いずれも本発明の範囲である。
【0046】
[開回路放置試験]
制御装置60により開回路放置試験を開始する(ステップ201)。試験時間は、50時間以下とする。この開回路放置試験の間に、排出される排ガスの凝縮水を回収する。次に、酸化剤極への空気供給を停止し、開回路放置試験における空気流量と同流量の不活性ガス(例えば、窒素)を供給することにより、一旦試験を停止する(ステップ202)。そして、水素検出部20の検出値に基づいて、クロスオーバー量算出部101が、燃料極から酸化剤極への水素クロスオーバー量を求める(ステップ203)。
【0047】
他方、フッ素検出部30により、凝縮水中のフッ化物イオン濃度と回収した凝縮水の重量とを測定し、これに基づいて、フッ素量算出部102がフッ素量を算出する(ステップ204)。フッ化物イオン濃度は、例えば、イオンクロマトグラフで定量する。上記の反応ガス供給による開回路放置試験と、不活性ガス供給による運転停止と水素クロスオーバー量測定、凝縮水中のフッ素量測定を繰り返し実施する(ステップ201〜204)。
【0048】
そして、水素クロスオーバー量があらかじめ定めた上限値(あらかじめ設定された試験条件に含まれる)に達した時点で(ステップ205)、開回路放置試験を終了する(ステップ206)。積算されたフッ素の排出量は、測定値記憶部11に記憶される。
【0049】
以下に、開回路放置試験の試験結果の一例について説明する。図3は、試験時間とフッ素の排出速度の関係を示している。フッ素の排出速度は、サンプル1の一番初めの値を基準1として表している。図3に基づいて、フッ素の積算量の時間変化を図4に示す。図3では、サンプル2のフッ素排出速度が時間とともに変化しており、排出速度を時間の関数として近似するのは容易ではない。しかし、図4に示すように、積算値を縦軸にとれば、サンプル2の積算量は時間に対してほぼ直線状に増加しており、この方法によればフッ素の積算量の時間関数を容易に見積もることができる。
【0050】
次に、図5は、これら2サンプルの水素クロスオーバー量の変化を示している。前述したように、水素クロスオーバー量の上限値は、電池の設計により異なる。ここでは、上限値を1として表している。水素クロスオーバー量が上限値に到達するまでに排出されたフッ素の積算値は、図4および図5から、サンプル1では約12.5、サンプル2では約9.2である。図3では、フッ素の排出速度が2倍程度異なるが、積算値ではそのばらつきは3割に減少している。これら積算値をAとする。ここではAは、上記の範囲の幅を持つ。
【0051】
[発電試験]
次に、発電試験におけるフッ素の排出速度の測定手順を説明する。サンプルとしては、上記の回路放置試験と同一仕様の高分子膜を用いた電池を使用する。発電試験条件(あらかじめ設定された試験条件に含まれる)として考慮するのは、高分子膜の寿命に影響する要因である。例えば、温度、湿度、反応ガス流量、反応ガス組成等である。
【0052】
まず、これらの試験条件に関して、運転初期の電池内の分布も含め代表的な値を選択する。ここでは、説明のために、図3の温度、湿度条件と同一とする。また、発電試験に使用される電池の構成は、実機と同じ仕様のものが望ましいが、説明のためにここでは開回路放置試験と同様の小型電池で行っている。
【0053】
発電試験におけるフッ素の排出速度を求める手順は、概ね図1の開回路放置試験と同じ手順で行えばよい。すなわち、開回路放置試験の代わりに、上記で定めた試験条件で発電を開始した後(ステップ207)、一旦発電を停止して(ステップ208)、水素クロスオーバー量の測定(ステップ209)、排ガスの凝縮水中のフッ素量の測定を行う(ステップ210)。
【0054】
上記繰り返し試験の時間は100時間とし、500〜1000時間まで行う(ステップ211,212)。上記の測定結果に基づいて、排出速度算出部103によって各100時間毎のフッ素の排出速度が算出され(ステップ213)、測定値記憶部11に記憶される。排出速度の算出は、ステップ210で行ってもよい。
【0055】
フッ素の排出速度がほぼ一定と見なせる場合は、その一定値を排出速度とする。一定値とは見なせない場合には、さらに試験を行い、排出速度を見極めることが必要となる。フッ素の排出速度のばらつきが大きくその傾向を見極めることが容易ではない場合、例えば、図3のサンプル2で見られるように、排出速度の時間に対する変化の傾向が不明瞭な場合には、排出速度を時間の関数として近似式を立てるよりも、図4に示したように、試験時間に対するフッ素の積算排出量の近時式を求める方が、信頼性のある外挿曲線を得ることができる。
【0056】
本試験の場合についても、積算の排出量を試験時間についてプロットすると、図6となる。試験時間2000時間以下と2000時間以降で、排出量の増加速度が異なるが、2000時間以降は、ほぼ直線的に増加しており、精度の良い外挿直線が得られている。
【0057】
[膜寿命算出]
上記のように求めたフッ素の積算量Aと、フッ素の排出速度Rを用いて、膜寿命算出部104が、上記の式(1)により、高分子膜の予測寿命を計算することができる(ステップ214)。計算結果は、出力部40に出力され、オペレータが確認できる(ステップ215)。なお、本実施形態では、Rの時間関数を求めるのではなく、積算量の経時変化を求めた。これらを用いて発電試験によるフッ素の積算値がAに到達するまでの予測時間Tは、図6から、約14,000から19,000時間の範囲内と見積もられる。
【0058】
発電試験の結果を図7に示す。図7から、水素クロスオーバー量が上限値に到達した時間は19,000時間であり、19,000時間までに排出したフッ素量は11.4であった。求めた予想値Tは、ばらつきの範囲内で実際の発電試験の結果と一致しており、本寿命予測方法が適用できることがわかる。
【0059】
[実施形態の効果]
従来技術では、高分子膜の寿命を予測するためには、基準となる膜を用いて加速試験条件等により高分子膜の寿命を測定する必要があり、その試験時間に数千、数万時間の長時間を要していた。本実施形態によれば、開回路放置試験により高分子膜の寿命に至るまでに排出されるフッ素量を、数100時間の短時間で求めることができる。
【0060】
また、発電試験におけるフッ素の排出速度についても、発電初期の条件、および燃料電池システムの各運転時間における電流、電圧、ガス流量を模擬した条件でフッ素の排出速度を求めることにより短期間に求めることができる。従って、高分子膜の寿命予測に要する時間が大幅に短縮され、電池の開発期間を短くすることが可能となる。
【0061】
[他の実施形態]
本発明は、上記のような実施形態には限定されない。例えば、製作する単電池は、製品と同じサイズであっても、それよりも小さい小型のサイズであってもよい。ただし、通常は、小型の単電池で実施することにより、試験設備のコスト低減が可能となる。
【0062】
また、上記のような開回路放置試験として、燃料極に水素、水素を含む混合ガスのいずれかを供給してもよく、酸化剤極に空気、酸素、酸素を含む混合ガスのいずれかを供給してもよい。クロスオーバー量やフッ素量の検出及び算出方法については、現在又は将来において利用可能なあらゆるものが適用可能である。
【0063】
さらに、試験の対象となる電池の材質や構成についても、上記の例には限定されない。具体的な試験時間、温度、湿度等の試験条件についても、対象となる電池に応じて適宜変更可能であり、上記例には限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の高分子膜の寿命予測試験装置の一例を示す機能ブロック図。
【図2】図1の実施形態における試験の手順を示すフローチャート。
【図3】図1の実施形態における開回路放置試験におけるフッ素排出速度を示す説明図。
【図4】図1の実施形態における開回路放置試験におけるフッ素の積算排出量を示す説明図。
【図5】図1の実施形態における開回路放置試験における水素クロスオーバー量を示す説明図。
【図6】図1の実施形態における発電試験におけるフッ素の積算排出量の経時変化を示す説明図。
【図7】図1の実施形態における発電試験による膜の耐久性試験結果を示す説明図。
【図8】一般的な固体高分子形燃料電池における単電池の構成を示す概略図。
【図9】図8の固体高分子形燃料電池における電極の過酸化水素生成反応を示す概略図。
【図10】従来の固体高分子形燃料電池における水素クロスオーバー量の時間変化を示す説明図。
【図11】従来の固体高分子形燃料電池における異なる条件での水素クロスオーバー量の経時変化を示す説明図。
【図12】従来の固体高分子形燃料電池におけるフッ素の積算排出量の比較を示す説明図。
【符号の説明】
【0065】
1…固体高分子膜
2,3…触媒層
4,5…多孔質層
6,7…セパレータ
10…試験装置
11…測定値記憶部
20…水素検出部
30…フッ素検出部
40…出力部
50…入力部
60…制御装置
100…演算処理部
101…クロスオーバー量算出部
102…フッ素量算出部
103…排出速度算出部
104…膜寿命算出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の高分子膜の寿命予測試験方法において、
開回路放置試験とクロスオーバー量測定とを交互に繰り返す工程と、
クロスオーバー量が所定値に達するまでに、燃料電池から排出されたフッ素の積算量を求める工程と、
発電試験において排出されるフッ素の排出速度を求める工程と、
前記フッ素の積算量と排出速度とに基づいて、高分子膜の寿命を算出する工程と、
を含むことを特徴とする高分子膜の寿命予測試験方法。
【請求項2】
前記開回路放置試験においては、燃料極に水素、水素を含む混合ガスのいずれかを供給し、酸化剤極に空気、酸素、酸素を含む混合ガスのいずれかを供給することを特徴とする請求項1記載の高分子膜の寿命予測試験方法。
【請求項3】
前記開回路放置試験の時間は、50時間以下とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高分子膜の寿命予測試験方法。
【請求項4】
前記発電試験における試験条件は、燃料電池の寿命までの運転計画に基づいて、各運転時間について求めた電流、電圧、燃料流量、酸化剤流量であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子膜の寿命予測試験方法。
【請求項5】
燃料電池の高分子膜の寿命予測試験装置において、
燃料電池に開回路放置試験、発電試験を実施させるための試験条件を記憶する試験条件記憶部と、
開回路放置試験において、クロスオーバーする水素または酸素を検出するガス検出部と、
前記ガス検出部により検出される水素または酸素のクロスオーバー量を算出するクロスオーバー量算出部と、
燃料電池から排出されるフッ素を検出するフッ素検出部と、
クロスオーバー量の所定値を設定する設定記憶部と、
前記フッ素検出部により検出された値に基づいて、クロスオーバー量が前記設定記憶部に設定された量に達するまでに、排出されたフッ素の積算量を算出するフッ素量算出部と、
発電試験において、燃料電池から排出されるフッ素の排出速度を算出する排出速度算出部と、
前記フッ素の積算量および排出速度に基づいて、高分子膜の寿命を算出する膜寿命算出部と、
を有することを特徴とする高分子膜の寿命予測試験装置。
【請求項6】
コンピュータに、燃料電池の高分子膜の寿命予測試験を実行させるプログラムにおいて、
前記コンピュータに、
燃料電池に開回路放置試験、発電試験を実施させる試験条件を記憶させる処理と、
開回路放置試験において、クロスオーバーする水素または酸素を検出させる処理と、
検出される水素または酸素のクロスオーバー量を算出させる処理と、
燃料電池から排出されるフッ素を検出させる処理と、
クロスオーバー量の所定値を設定させる処理と、
算出されるクロスオーバー量が設定された量に達するまでに、排出されたフッ素の積算量を算出させる処理と、
発電試験において、燃料電池から排出されるフッ素の排出速度を算出させる処理と、
前記フッ素の積算量および排出速度に基づいて、高分子膜の寿命を算出させる処理と、
を実行させることを特徴とする高分子膜の寿命予測試験プログラム。
【請求項1】
燃料電池の高分子膜の寿命予測試験方法において、
開回路放置試験とクロスオーバー量測定とを交互に繰り返す工程と、
クロスオーバー量が所定値に達するまでに、燃料電池から排出されたフッ素の積算量を求める工程と、
発電試験において排出されるフッ素の排出速度を求める工程と、
前記フッ素の積算量と排出速度とに基づいて、高分子膜の寿命を算出する工程と、
を含むことを特徴とする高分子膜の寿命予測試験方法。
【請求項2】
前記開回路放置試験においては、燃料極に水素、水素を含む混合ガスのいずれかを供給し、酸化剤極に空気、酸素、酸素を含む混合ガスのいずれかを供給することを特徴とする請求項1記載の高分子膜の寿命予測試験方法。
【請求項3】
前記開回路放置試験の時間は、50時間以下とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高分子膜の寿命予測試験方法。
【請求項4】
前記発電試験における試験条件は、燃料電池の寿命までの運転計画に基づいて、各運転時間について求めた電流、電圧、燃料流量、酸化剤流量であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子膜の寿命予測試験方法。
【請求項5】
燃料電池の高分子膜の寿命予測試験装置において、
燃料電池に開回路放置試験、発電試験を実施させるための試験条件を記憶する試験条件記憶部と、
開回路放置試験において、クロスオーバーする水素または酸素を検出するガス検出部と、
前記ガス検出部により検出される水素または酸素のクロスオーバー量を算出するクロスオーバー量算出部と、
燃料電池から排出されるフッ素を検出するフッ素検出部と、
クロスオーバー量の所定値を設定する設定記憶部と、
前記フッ素検出部により検出された値に基づいて、クロスオーバー量が前記設定記憶部に設定された量に達するまでに、排出されたフッ素の積算量を算出するフッ素量算出部と、
発電試験において、燃料電池から排出されるフッ素の排出速度を算出する排出速度算出部と、
前記フッ素の積算量および排出速度に基づいて、高分子膜の寿命を算出する膜寿命算出部と、
を有することを特徴とする高分子膜の寿命予測試験装置。
【請求項6】
コンピュータに、燃料電池の高分子膜の寿命予測試験を実行させるプログラムにおいて、
前記コンピュータに、
燃料電池に開回路放置試験、発電試験を実施させる試験条件を記憶させる処理と、
開回路放置試験において、クロスオーバーする水素または酸素を検出させる処理と、
検出される水素または酸素のクロスオーバー量を算出させる処理と、
燃料電池から排出されるフッ素を検出させる処理と、
クロスオーバー量の所定値を設定させる処理と、
算出されるクロスオーバー量が設定された量に達するまでに、排出されたフッ素の積算量を算出させる処理と、
発電試験において、燃料電池から排出されるフッ素の排出速度を算出させる処理と、
前記フッ素の積算量および排出速度に基づいて、高分子膜の寿命を算出させる処理と、
を実行させることを特徴とする高分子膜の寿命予測試験プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−311027(P2007−311027A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135880(P2006−135880)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月16日 社団法人電気化学会電池技術委員会発行の「第46回電池討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月16日 社団法人電気化学会電池技術委員会発行の「第46回電池討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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